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男「夜の校舎に閉じ込められた……?」
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4:
男「昇降口、どこも開かないぞ……」
ビビリ「おいおいふざけんなよ……夜の学校とかいって笑えねーよ……」
眼鏡「とりあえず非常口全部当たるぞ」
女「……」
5:
偶然遅くまで残っていたオレ達高2のクラスメイト四人は、気が付けば校舎内に取り残されていた。
最初に気づいた違和感は、ケータイが圏外になっていたことだった。
日頃余裕で三本立っていたはずなのに、全員のケータイが一様に沈黙。
それを皮切りに。
無人の校舎内。廊下も教室も死んだようにもぬけの空。
さらに耳が痛い程の沈黙。唯一の物音も、自分達の発する衣擦れ上履きの音だけ。
窓外は漆黒のとばりが下りており、視界の把握は等間隔に設置された非常灯を頼る以外にない。
そんな中での昇降口の封鎖。
ぞっとした。
8:
眼鏡「非常口も裏口も全部ダメみたいだ」
ビビリ「マジかよ。もういいから窓割ろうぜ」
眼鏡「さっきガムテ貼って試したが無理だった。異常に硬くなってる」
男「どういうことだよ」
眼鏡「あの衝撃の反動はもはやガラスじゃない。鉄鉱の壁だ」
眼鏡は無残にへし折られたホウキの柄を放り投げた。
床に張り付くような短い音が廊下の遠くまで響いた。
女「そんな……じゃあ私達……」
眼鏡「ああ。閉じ込められた」
ビビリ「おいおい、どうなってんだクソ」
男「…………職員室は?」
眼鏡「これから行こうと思ってたトコだ」
男「よし、皆離れないように……」
女「うんっ…………」
10:
ガララッ ……パチッ
眼鏡「……やはり誰もいないな」
ビビリ「静まり返って気味が悪いぜ」
男「すぐに電話をチェック」
眼鏡「もうやってる――これも――これもか。どれも通話音すらしない」
女「どうなってるの……」
ビ「は――はは、誰だよこんな大掛かりなイタズラ考えたの」
トゥルルルル
ビ「ひっ!?」
男&女&眼鏡「!?」
……トゥルルルル ……トゥルルルル
11:
眼鏡「教頭の机上の受話器だ……どうする?」
男「……電話取るだけで死にゃしないだろ……」
女「お、男君……」
ビビリ「お、おい」
トゥルルルル…… トゥルルルル……
男「……」
トゥルガチャ
男「もしもし」
◆『……』
男「……もしもし?」
◆『……聞こえるのね?』
男「うわっ!」
眼鏡「スピーカーの設定か」
ビビリ「オ、オレらにも聞こえる」
女「女の人の声……」
◆『お願いっ。私のお願い。よく聞いて』
男「な……なんだ急に……」
13:
◆『貴方たちはここから絶対に出られないの』
◆『出したくないの。出口なんてないのよ』
◆『貴方たちがここから脱出してしまうのが怖いの』
◆『私本気よ……本気なの……』
男「な――」
女「……」ゾクッ
眼鏡「――お前は誰だ。僕達をどうしたいんだ」
◆『私は貴方達を――』
14:
ダンッ
ビ「もう付き合ってられっかカスが!!」
男「ビビリ」
ビ「オイいい加減にしろつまんねーだよマジうぜー、オレもう帰っから」
眼鏡「おいビビリ待て」
ビ「待つかよ大人しくホラーごっこやってろじゃあな」
ガラッ――バタン
男「ビビリ!」ダッ
女「お、男君!」
男「すぐ連れ戻すから!」
眼鏡「待て、男――」
ガラッ――――バタン
18:
「ビビリ! おいビビリ!!」
ほの暗い廊下に自分の声だけが大袈裟に反響している。
闇の中にゆらめく人影は――あった。
ちょうど階段を降りて視界から消えたところだ。
「……あいつさっき昇降口開かなかったの見てないのか」
世話が焼ける。
足取り軽くその方向へ駆け出す。
「ビビリ!」
飽きもせず、上履きの音響が周囲にこだましていった。
階段を駆け降りると、すぐにビビリは見つかった。
案の定、昇降口の前でガチャガチャ手こずっている。
「ビビリ……」
その中肉低身長の背中は、しきりに、乱暴に揺れていた。
開くはずのない戸口を、やたら滅多に引っ掻き回している。
みてとれる異常な焦燥感――。
「おい……ビビリ?」
19:
はっと振り向いた顔は、情けないほど真っ青だった。
「……男かよ。脅かすなって……」
「自分でやってみて分かったろ。そんなことやっても無駄だから、一緒に職員室に戻るぞ」
「……くっ、くそ……」
未練がましそうに戸をたたき付けたビビリだったが、結局しぶしぶ俺についてきた。
恐らくこいつの立場だと、自分が周囲ぐるみで担がれていると思い込んだんだろう。
こんな訳の分からない状況だ。一縷でも脱せられる望みがあるなら縋りたくもなる。
「さ……3階に戻るぞ」
「うるせぇ分かってんだよ!」
……ボンボンボン……
「一体何をそんなにビビってんだよ」
「な、何にもビビってねーから殺すぞカス」
……ボンボンボンボンボンボンボンボン……
「……」
「……」
21:
「……やめてくれよ……」
震えはじめたビビリの反応で、嫌でもこの音が幻聴ではないことを悟った。
……ボンボンボンボンボンボン……
足音だ。
とても人のものではない、微かな地鳴りを伴う規格の。
「何の……」
「し、知るかよぉ……」
職員室のある2Fに到達したとき。
俺達二人はついに足を止めた。
いま立っている階段の昇降点の角を曲がった先。
何かいる。
こちらに近付いている。
地鳴りが足裏に伝わる。
もうすぐそこだ。
ボンボンボンボンボンボンボンボン
ボンボンボンボンボンボンボンボン
「ビビリ、いったん引き返」
ボン
22:
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2F・職員室――。
「男君たち……大丈夫かな……?」
心底不安げな女の呟きは眼鏡の耳にも届いた。
「なーにすぐ帰ってくるよ。ビビリは自分で昇降口確かめに行っただけだ」
「そうなの?」
「心配しなくても、ものの4、5分で――っ!?」
……ボンボンボンボン……
「……今……何か廊下通り過ぎなかった……?」
「暗くてよく見えなかったが……いや待て、足音が」
刹那、人の悲鳴。
誰の。男とビビリの。
眼鏡は弾かれたように腰掛けていたイスから立ち上がり、女は思わず口元を押さえた。
「今のは……!」
「眼鏡君っ……」
23:
「……眼鏡く」
「落ち着け」
眼鏡は言い聞かせるように声を重くした。
「パニックに酔うのは逃げ道にもならない。まずは安全確保」
職員室には出入口が、離れた間隔で二つある。廊下側と階段側。
その二カ所を線で結んだとして、中央に位置する壁際まで移動。
そうして廊下窓ごしに安易に姿を見せないように屈む。
「これならいきなり誰かに入ってこられても、相手が一人であれば逃げられる」
「室内の奥に追い詰められることもないね」
「そう。――しばらくここで待機だ」
「うん……」
「ここで……うん? ココ……」
「……? どうしたの眼鏡君……」
眼鏡は自分でも信じられないような面持ちで。
「――ここ、どこだったっけ?」
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