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【スクライド】 君島「ロクデナシのブルース」


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2:
*************************
「お?い、カズマぁ?!」
今日の俺の気分はハイ!
なぜかって?報酬のワリには簡単な仕事が入ってきたんだよ!
こんな不景気の中、めったにないんだぜ?こういうこと
ルンルン気分で、俺はいつもみたいにあいつの家のドアを開ける。
3:
「お、おはようございます...」
「おはよう、かなみちゃん。カズマいるかな?」
おずおずと出てきて、俺を迎えてくれたかなみちゃん
相変わらずいじらしいね、うん。
きっと、大人になったら凄い別嬪さんになると思うんだよね。
「あの、カズくんはまだ寝てて...」
「った?、あのダメ人間が。いつも大変だね、かなみちゃん」
「もう慣れっこです」
そう言うかなみちゃんの呆れたような顔の中には、ちょっぴり喜びの表情も混じっていた
...こんなイイ娘が面倒みてくれるなんて、カズマくんは幸せ者ですね、ホント。
ちょっぴりムカついたから、叩き起こしてやろっと。
4:
「カ・ズ・マ・くぅ?ん、朝ですよ?」
古びた手術台の上で、グースカとイビキをかいて寝てたカズマの毛布をひっぺがすが、このバカは意にも介しやがらねえ
「むにゃ...なんだよ、かなみ...もう少し寝かせろよ...」
夢の中までかなみちゃんづくしですか、お前は。
しかたない。愛しのかなみちゃんに代わって、ここは一発ビシッと決めてやろう。
「オラァ!さっさと起きやがれ、このロリコn」
5:
――――――――――――――――――――
「んじゃ、ちょっくら行ってくるぜかなみ」
「早く帰ってきてね、カズくん!」
ニコッ、と満面の笑顔でカズマと俺を送りだしてくれたかなみちゃん
俺に向けられてるわけじゃないにしても、ヤロウ二人の空間の中では癒しとなってくれる
「それで、今日の依頼はなんなんだ?」
頭にできたタンコブをさすりながら、俺はカズマの問いに答える
「護衛だよ、護衛。今日はどこぞのお偉いさんを市街までお守りするのが依頼だ」
「...また、つまんねえ仕事だなおい」
カズマがいかにも不満そうに口を尖らせる
6:
「そう言うなって。そんなつまんねえ仕事でも、報酬はすげえんだからさ」
「いくらだ?」
「なんと二千だよ、二千!」
「...高いのか、それ?」
あいつの言葉を聞いて、俺は開いた口が塞がらなかった
こいつには金銭感覚というものがないのだろうか
...ほんと、俺と会うまでどうやって生きてきたんだろうな、コイツ
「かなみちゃんも、こんなボンクラのどこがいいんだか...」
「なんか言ったか?」
「なんでもありませんよ、っと。もうすぐ依頼主のとこに着くぜ」
車を止め、俺達は依頼主の待つ廃墟へ向かう
さぁて、さっさと終わらせて、あやせさんへのプレゼントでも買いにいくとしようかね
7:
―――――――――――――――――
夕焼けが映える荒野。
俺とカズマはボロボロになった車を、汗水垂らしながら押していた
「君島。お前たしか、楽な仕事だって言ってたよな」
「...言いましたね、確かに」
「だったらよ、なんで俺たちはこんなことしてんだ?」
「仕方ねーだろ!まさか、あんなにわんさかアルター使いがいるなんて思わなかったんだからよ!」
簡潔に述べると、だ。
俺たちは騙された。それはもう清々しいくらいに騙された。
俺たちが仕事で恨みを買った奴らが集まって、俺たちをボコるために、依頼して呼びつけたってわけだ。
8:
「金もこれっぽっちしか手に入らなかったしよぉ。無駄骨だったぜ」
カズマの手に握られている金額は百。2千と百じゃ、これっぽちと感じても仕方ない。
「...ま、金はあんま手に入らなかったけど、お前は楽しめたんじゃねえの?」
「まあな。久々のアルター戦だったから、スッキリしたぜ」
文句を垂れるワリには、カズマの顔は緩んでいる。
何年もツルんでりゃ分かる。基本的にコイツはスリルを楽しむケンカ馬鹿だってことは。
「...それより、どう言い訳する?」
「どうって...どうすりゃいいんだろうな」
車だけでなく、服も全身もボロボロ。
帰れば、カズマはかなみちゃんに大目玉をくらうだろう。
「こりゃ、牧場の手伝い増やされるだろうな...」
「がんばってね、カズマくん」
「他人ごとかよ!」
9:
――――――――――――
そんでもって、カズマの家。
「カズくん、これはどういうことなの?」
「いや、階段からズリゴケしてさ...」
「そんな嘘信じると思う?」
「思わないよなぁ...」
金はほとんど手に入らず、ボロボロになって帰ってきたとなれば、こうなるのは当たり前。
「ケンカしてくるくらいなら牧場を手伝ってよ。じゃないとご飯抜きだよ」
「わ、わかったから、それは勘弁!」
それにしても、いつ見ても信じられねえよなぁ。
荒野にその名が聞こえる"シェルブリットのカズマ"が、こんな幼い子に頭が上がらないなんてさ。
10:
「君島さんも!」
「へっ?」
「いつもカズくんを連れまわしてるんだから、明日はこっちを手伝ってください」
かなみちゃんが、こうも強く主張するなんて珍しいな。
...ちょっと、心配かけ過ぎちゃったかな?
「ハハハッ、お前も怒られてやんの!」
「...カズくん、反省してるの?」
「...すんません」
縮こまるカズマを見て
「...ぷっ」
俺が吹き出し、それにつられてかなみちゃんもクスクスと笑い始める。
「な、なんだよ!?なにがおかしいんだよ!?」
「だ、だってさ...あははっ」
カズマがとまどう顔を見せて。
俺たちの笑い声が夕陽に溶け込んで。
そんな、珍しくもないなんでもなくてくだらない光景。
けど、それでも俺は充分だった。
―――充分に幸せだったんだ。
11:
***********************
「うぅ...」
全身が痛い。特に、胸のあたりは今にも泣きだしそうなくらい痛い。
その痛みが、俺に現実を突き付けてくる。
俺がカズマを連れだして、かなみちゃんがちょっと心配しながら見送ってくれて、また二人でやらかして、怒られて...
「そうだよな...かなみちゃんが、俺たちの仕事のこと知ってるわけねえもんなぁ...」
そんな、馬鹿みたいななんでもない日常が夢だったことに気付かされた。
「どうしてこうなったんだっけ...」
口にして、思い出す。
かなみちゃんを連れて逃げて、カズマを連れて帰ると約束してあの子を置いてきた。
そしたら、HOLYの奴らに追っかけられて、撃たれて、それで...
「急がねえと...」
そうだ。あんな都合のいい夢を見ている暇なんざねえ。俺、カズマを迎えに行かなくちゃ...!
12:
アクセルを踏み込み、車を発進させようとする。が
「あれっ?」
足に力が入らない。いや、足だけじゃねえ。全身だ。
腕も、腰も、頭すら動かせない。目蓋も重くなってきやがった。
...なんだよ、おい。俺は、ここで終わっちまうのかよ!?
あやせさんだってまだ助けてねえんだぞ!クズは所詮クズだってか?ふざけんな!
いくら頭で思っても、身体がついてこない。
ああ、ここで死ぬんだなと、なんとなく納得しかけてしまう。
ちくしょう...すまねえ、かなみちゃん。すまねえ、カズマ。
...ちっぽけな人生だったなぁ、俺。
13:
―――違う。そうじゃねえ
『こんなところで愚痴ってなんになる!?決めつけんな、やるんだよ!』
そうじゃねえよなあ、カズマ。
『一度こうと決めたら、自分が選んだんなら決して迷うな。迷えばそれが他者に伝染する。選んだら進め。進み続けろ』
確かに俺たちはクズだ。最底辺の人間だ。けどよ...
『さあ、てめえの意地を見せてみろ!』
そんな俺にだって、譲れねえものがあるんだよ!
14:
あの日常を取り戻せるなら、俺はなんだってやってやる。
死なんてものが邪魔するなら、そいつだって蹴っ飛ばしてみせる。
そんな想いを込めて、俺はアクセルを踏む足に力を込めた。
見てろよ、HOLY共。俺たちを見下してる奴ら。
見ててくれ、カズマ。かなみちゃん。あやせさん。
ちっぽけかもしれねえが...こいつが俺の反逆だ!
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