【モバマス】加蓮「2:00AM」back

【モバマス】加蓮「2:00AM」


続き・詳細・画像をみる


・モバマス、北条加蓮のSS
・昨年エタったやつの再掲
・書き溜めあり
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423732829
2: 以下、
クルー「お持ち帰りでお待ちのお客様ー」
加蓮「あ。はーい」
クルー「お待たせいたしました。ありがとうございましたー」
 ベーコンオムレツバーガーとスパムバーガー、フレッシュレモネードが、ふたつ。
加蓮「うん、よし」
 袋を手に、事務所へ。
 あったかいなー。
加蓮「あ」
 夜の闇に雪、はらはらと。ちょっとロマンチック。
 Pさんと一緒ならなあ、なーんて。
加蓮「ぜいたく、かなあ」
 Pさんが待ってるし。早く戻らなきゃ。
3: 以下、
 深夜2時。
 ほんとなら、もうすっかりおやすみ、の時間。
 今日はちょっとだけ、いけないわたし。
 夜遅くっても、どこかお店は営業してるし。コンビニだってあるし。
 でも、今日の気分は『愛 LIKE ハンバーガー』。
加蓮「わたしは恋を夢見るアメリカンガール」
加蓮「大好きな食べ物はハンバーガー」
加蓮「あ? 愛しのダーリンどこにいるの……」
 事務所にいるけどね。
 ふと、口ずさんでみる。
 さあ、冷めないうちに。お届けお届け。
 がちゃり。
加蓮「Pさーん、買ってきたよー」
4: 以下、
P「おう、加蓮……ありがとな」
 Pさんは、絶賛残業中。
 って言うか。
 いっつも遅くまで仕事してない?
加蓮「スパムバーガーと、レモネード、っと。はい」
P「ありがと。……なあ、加蓮」
加蓮「ん? なに?」
P「やっぱり家に帰った方がよくないか? 俺が送るし」
 えー。
 乙女に帰れって言うの? こんな時間に。
加蓮「もう家に電話しちゃったし。それに」
加蓮「わたしがPさんの仕事、手伝いたいって言ったんだもん」
 帰らないよ。だって。
 Pさんが心配だもん。
5: 以下、
 このところPさんががんばってくれたおかげで。凛や奈緒と離れ、ソロの仕事も増えた。
 今日も、ソロでテレビの収録。押しまくって遅くなったけど。
 なんかね。ぴんと来たの。
 Pさんの力になれないかなあって。そう思って。
 なーんてね。ただのわがまま。
 なんだかんだ理由つけて、一緒にいたいだけ。
 気づくはず、ないよね。
加蓮「さ。冷めないうちに召し上がれ!」
P「お、おう。そうだな」
加蓮「早く届けたくて、走って戻ってきたんだから」
P「加蓮……あんまり無理、するなよ?」
 Pさん、ありがと。心配してくれるんだ。
 でも。
 あんまり、心配かけたくない、かな。
6: 以下、
 来たばかりのころの、身体の弱いわたしじゃないって思ってるけど。
 相変わらず、Pさんは心配性。
加蓮「大丈夫大丈夫。もう昔のわたしじゃないもん」
P「そうは言ってもなあ」
加蓮「ねえ、食べよ食べよ。ほら」
 Pさんとわたし。ふたりがさがさと、包み紙を開けた。
 Pさんにスカウトされて今まで、二人三脚で歩んできた。
 体も弱くて根性なしだったわたしを、Pさんは。
 あきれもせず、怒りもせず。導いてくれた。
 暑苦しい熱血もないし、ただ優しいだけの甘やかしもない。
 でも、わたしのことを最初からサポートしてくれた。
 大人の、ひと。
 好きになっちゃったんだなあ。いつの間にか。
 決して、凛が彼女のプロデューサーといい関係に影響されてとか、そういうことはない……って思う。
 うん。
 たぶん。
7: 以下、
P「ん。いつものスパム味だな」
加蓮「スパム味って?」
P「ん? そうだなあ。ちょっと説明は難しいけど」
P「けっこうしょっぱいソーセージ、つか、ハムっつか」
加蓮「えー? わかんないよ、そんなんじゃ」
加蓮「じゃあ、さ。ほ・ら」
 わたしはPさんに向かって、口を開けて。
加蓮「あーん」
P「おい加蓮」
加蓮「あーん!」
8: 以下、
 わたしはおなかがすいた雛鳥なの。Pさんがくれないと死んじゃうの。
 ほら。はやく。
P「仕方ないな、ほれ」
 Pさんが差し出すそれを、わたしはかじる。
 Pさんが口つけたところを。
加蓮「あむ!」
P「あ! おい」
加蓮「ん。んー……これもおいしいね」
 Pさんはちょっとあきれてる、けど。
 わたしは満足。
9: 以下、
加蓮「じゃあ、お礼に。わたしのもどーぞ」
P「いや、まあ」
加蓮「いいから遠慮しないで?」
 自分でもとびっきりの笑顔じゃないかな、今。
加蓮「はい、あーん」
P「……」
加蓮「あーん」
P「……」
 Pさん、しぶといなあ。
加蓮「こ、こ!」
 わたしは、自分が口を付けたところを指さす。
 さあ。
 さあ。
10: 以下、
 Pさんは観念して、わたしの指さしたとこをがぶり、と。
P「……ん。うまいな」
加蓮「でしょ?」
 Pさんのほころぶ顔を見るだけで、幸せな気持ちになれる。
 うれしい。
加蓮「なんか、オムレツのまろやかなのもいいよね」
P「そうだなあ。でも、あれだな」
加蓮「ん?」
P「加蓮はほんと、うまそうに食うよな」
加蓮「……そりゃ、好きだもん。ハンバーガー」
 ジャンクなものを、イレギュラーな時間に食べるなんて。
 ちょっと気持ちがいい。
 Pさんと一緒だから、もっといい。
11: 以下、
P「デビュー前のころなんか、すぐねだってきたけどな」
加蓮「あはは。そんなこともあったね」
加蓮「でも、ちゃんと自分のからだのこと、考えてるから」
P「いいことだ。それだけプロらしくなったってことさ」
加蓮「でも、たまーに欲しくなるよね?」
P「いいんじゃないか? それに」
P「たまにありつけるから、うれしいもんさ」
P「しょっちゅう食ってたら、感慨も何もないさ。むしろむなしい」
加蓮「……説得力あるね。Pさん」
P「男の独り暮らしなんて、コンビニとファストフードで支えられてるようなもんさ」
P「いかんなーとは、思うけどなあ」
 なら。
12: 以下、
加蓮「じゃあ」
 お約束のことを言ってみたり。
加蓮「わたしがPさんのご飯、作りに行ってあげる!」
P「ん? 加蓮が?」
 Pさんの目が、優しげに映る。
加蓮「うん」
P「……ありがとうな。でも、やめとけ」
加蓮「え? どうして?」
P「……わかるだろ?」
 わかるよ、Pさんの言う意味は。
 女子が、男の一人暮らしのとこに行くこと。
加蓮「わたしは、気にしないよ?」
 わかってて、言ってるんだけどな。
 だって、Pさんなら。
P「……とにかく、明日もあるから。仮眠室で寝ておけよ」
加蓮「あー、話そらしたー」
P「まあ、そのうちな。そのうち」
 右手をひらひらとさせて、Pさんが話を打ち切った。
 ざんねん。
 子どもと思われてるのかなあ。
 それとも、世間知らずとか。
 もぐもぐと。深夜の食事。
13: 以下、
P「ん。ごちそうさん。加蓮、ありがとな」
加蓮「ううん。わたしこそ付き合ってくれてありがと」
加蓮「あ、Pさん。お茶かなんか入れる?」
P「そうだなあ。コーヒーもらうか。もう少しがんばりたいから」
加蓮「インスタントでいい?」
P「いいぞー。ブラックで頼む」
加蓮「はーい」
 Pさんの机からマグカップを持って。
 給湯室の棚をごそごそ。うん、あった。
 わたしもなんか飲もうかな。
加蓮「あ、ハイビスカス」
 鮮やかな赤もいいかな。これにしよっと。
14: 以下、
加蓮「Pさん、お待たせー。はい、これ」
 ことり。
P「さんきゅ」
 Pさんはパソコンに向かってる。かたかたとキーボードの音。
加蓮「Pさん、なにか手伝えることない?」
P「ん? ああ、この文書作って終わりだから、特にないな」
加蓮「そっか。ざんねん」
P「いや、加蓮が手伝ってくれるって言ってくれるのが、ありがたいさ。それだけでがんばれる」
加蓮「そう?」
P「ああ」
 ならよかった。
 Pさんは饒舌じゃない。でも欲しい気持ちを、くれる。
 ふふっ。
 わたしはPさんの隣に座る。
加蓮「ねえ。なに作ってるの?」
15: 以下、
P「ん? これか?」
 わたしは画面をのぞきこむ。それは、企画書。
加蓮「わたしの、ソロライブ……」
 営業先のミニライブとかじゃなく、ホールでのペイライブ、って。
 しかもツアー。
加蓮「え? ちょっと」
P「そろそろいい頃合いだと思ってな」
加蓮「むりむり! わたしにはまだ無理だって!」
P「そうか?」
 Pさんはこともなげに言うけど。
 だってまだソロデビューして間もないし、曲だってひとつしかないよ?
 なのに、ツアーって。
16: 以下、
P「勢いのあるうちに、さ。こういう企画を出さないとな」
加蓮「んー、でもさー」
P「まあ不安なのはわかる。持ち曲も少ない。経験もない」
加蓮「……うん」
 Pさんがわたしのために、って。
 わたしを一番に考えて、こうしていろんな仕事を企画してくれてる。
 わかってるけど、やっぱり不安。はじめてのことは。
 そういえば、初めてPさんにスカウトされた時もそうだった。
 うれしいけど、不安ばかりがつのって。
 ついつい、ネガティブなこと言っちゃって。
17: 以下、
P「でもな。こういう企画はできたからすぐやる、ってもんじゃない」
P「企画を通しても準備に時間がかかるし。ヘタすれば1年後ってのもある」
加蓮「え? そうなんだ……」
P「今のこれも、ステージに加蓮が立つのは、半年先だ」
 半年先。
 Pさんはわたしの半年先、一年先……それ以上。
 そんなずっと先のことを考えてるんだ。
加蓮「ねえPさん」
P「ん?」
加蓮「わたしが今、こうしてソロデビューしたのも」
加蓮「前から、決まっていたことなの?」
18: 以下、
P「そりゃそうさ。加蓮のようにユニットからはじめることはあっても」
P「俺たちは、ソロでアイドルさせるためにスカウトしてる」
 Pさんはわたしを見て。
 そして、ふわっと笑って。
P「プロデューサーとして当然じゃないか?」
 そっか。そうだよね。
 凛はソロからスタートしてる。
 奈緒も、わたしと同じタイミングでソロデビューした。
 みんなにそれぞれプロデューサーがついてるんだから、ソロで活動することが前提なんだよね。
 たぶん。
 凛や奈緒と一緒に過ごすことが気持ちよくて、それが当たり前のことのように感じて。
 そんな関係が続くもんだって。思ってた。
加蓮「ねえPさん」
加蓮「どうして、わたしだったの?」
19: 以下、
P「どうして、って?」
 出会った時から、疑問に思ってたんだ。
加蓮「ほら。わたしなんかよりずっとかわいくて、ずっとアイドルに向いてる子、いっぱいいるじゃない」
加蓮「なんでわたし、なのかなって」
P「ん?」
 だって……、って。
 そう言いたくなるのをこらえる。
 体は弱いし、面倒くさがりだったし。
 それに、一丁前のこと言って反抗してたし。
 こんなに手がかかる女じゃ、Pさんも嫌な思いしたんじゃないかなって。
P「んー、そうだな……」
 Pさんはキーボードの手を止める。
20: 以下、
 次に出てくる言葉が怖い。
 わたし、余計なこと言っちゃったんじゃないかな。
 スカウトされたばかりの頃の、自信のなさが首をもたげる。
P「まあ、なんだ。よく社長が言うだろ? ティンときた、って」
加蓮「う、うん……」
P「よくさ、この子はこういうところが魅力的でうんぬん、なんて。知ったようなこと言ったりするプロデューサーがいるけどさ」
P「でも、結局は勘なんだよ、カン。売れるとかそういうの抜きにして、『これだ!』って」
加蓮「……」
P「明確な理由なんかないのさ。こうして一緒に仕事を始めて、やっと方向が見つかることなんて、ざらにある」
加蓮「じゃあ、Pさんは、わたしに……」
加蓮「ティン、ときた、の?」
21: 以下、
P「ま、そういうことだな。そして、それ正しいって」
P「今の加蓮が証明してくれてる。ありがたいことさ」
 そう言ってPさんはふわりと笑った。
加蓮「そっか……そっかあ」
加蓮「じゃあさ。あのね? 仮に……仮によ? わたしがトップアイドルになったら、さ」
加蓮「そのあとも……わたし、Pさんと一緒にアイドルしていけるの、かなあ……」
 気がかり。そのことが、とても。
 ううん、気がかりっていうんじゃなくって、不安。
 トップっていうのがゴールなんだとしたら、わたし、Pさんと一緒にいられなくなるのかなって。
 Pさんの目を、見つめる。
 ねえ、Pさん。
加蓮「教えて?」
22: 以下、
 Pさんは目を細める。
 そして、ゆっくりと。
P「……どこまでも、一緒だよ」
 ああ。そうなんだあ。
 Pさんのその言葉だけで、わたしの顔は、ポーカーフェイス気取れなくなっちゃう。
 Pさんはわたしの表情を察して、ぽんぽんって、頭をなでてくれた。
P「心配すんな。加蓮とはずっと一緒にいてやる」
加蓮「うん……うん」
 うん、よかった。なんか安心。
 Pさんは頭をなでながら、片手にマグカップを持って、コーヒーをすする。
 わたしは、Pさんのぬくもりを感じながら、うつむく。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「ん?」
23: 以下、
 わたしは上目づかいに、おねだりをした。
加蓮「これからもずっと、わたしに」
 それは、わたしがずっと思い描いている、願い。
加蓮「魔法を、かけてね?」
 Pさんは、机にことりとマグカップを置いた。
P「……そうだな」
 この日この時。
 わたしの全部が、ここにあった。
 お願い。覚めないで。
 ―――――
 ―――
 ―
28: 以下、
スタッフ「北条さーん! 次こっちお願い!」
加蓮「はーい!」
 きらびやかなライブステージの裏。わたしは、忙しく走っている。
 登場を待つ、ファンの歓声。そして熱気。
 自然とわたしも、熱を帯びる。
 でも、そこは。
凛「ねえ、加蓮」
加蓮「ん? 準備できた?」
凛「どう、かな」
 凛が衣装替えを終えて、袖に戻ってきた。
加蓮「うん、似合ってる。ばっちり」
凛「そっか。よかった」
 うん、すっごくきれいだよ。
 シンデレラガールの座を射止めて、凛はますますきれいになったね。
 それとも。プロデューサーのおかげ、かな?
29: 以下、
スタッフ「渋谷さーん、時間でーす! 準備お願いしまーす!」
凛「ねえ! 加蓮」
 凛が、わたしを呼ぶ。
加蓮「ん?」
凛「あのさ、加蓮」
 凛はわたしの左手を取って、こう言った。
凛「できれば、また……また加蓮と一緒に……」
加蓮「……ありがと」
 ほんとにありがとう、凛。わたし、うれしいよ。
 でもその言葉に、わたしは首を振る。
加蓮「そのつもりはないんだ。ごめんね」
凛「……加蓮」
 悲しげな顔をする彼女に、わたしはこう言った。
加蓮「わたしはもう、魔法使いだから……」
30: 以下、
 ソロデビューして、わたしのアイドル人生は順調そのもので。
 不安を超えて、楽しさしかなくて。
 Pさんとどこまでも行ける、そう信じて疑いもしなかった。
 好事魔多し。
 ソロになって3年目。わたしはステージ後に倒れる。
 激痛。
 痛い。息ができない。動けない。
 Pさん……助けて…… Pさん!
P「加蓮! どうした! 加蓮!」
 心の叫びが伝わったみたい。誰よりも早くPさんが抱えてくれる。
 わたしを気にかけてくれる声に、返事すらできない。
 そのまま救急車に乗せられ、わたしは病院へと運ばれる。
 そして。
31: 以下、
加蓮「……」
 昔、いつか見たような、白い部屋。
 病室のベッドで、わたしはぼんやりと壁を見つめている。
P「……大丈夫さ、加蓮。ちょっと休めって、神様のおぼしめしさ」
加蓮「……」
 わたしは、入院することに。
 気胸。肺に穴が開いたんだって。
P「ゆっくり休んで、英気を養っておこうな。ファンのみんなが、待っててくれる」
 うん、Pさん。知ってるよ。
 気胸を患っても、アイドルを続けている人たちは、いっぱいいるって。
 無理しなければ、あのきらびやかな世界で、やっていけるって。
加蓮「……」
 ほほを、温かいものが伝う。
 こらえていたのに。涙が、あふれてくる。
加蓮「……ううっ」
 もう、止められない。涙が止まらない。
 ごめんね、Pさん。わたし、気付いちゃった。
P「……加蓮」
加蓮「……魔法、解けちゃった……解けちゃったよぉ」
32: 以下、
 12時は、もう過ぎた。シンデレラの時間、終わっちゃった。
加蓮「……Pさん」
 涙が止まらないわたしを、Pさんがやさしく、抱きしめてくれる。
加蓮「……ごめんね……Pさん、ごめんね」
 誰のせいでもない。きっとPさんなら、そう言うよね。
 でもわたしは、謝るしかできないの。
加蓮「……魔法かけてくれたのに……Pさん、ごめんね」
 Pさんの顔を見ることができない。
 魔法が解けて、ただの女の子になったわたし。シンデレラじゃないから。
 Pさんに顔向けが、できないよ。
P「……加蓮、いいんだ……いいんだ」
 もうなにも言えないわたしを、Pさんはなでてくれる。
 あのときと同じ、ぬくもり。
 ねえ、Pさん。
 わたし、Pさんと一緒に、歩けない……
33: 以下、
 何日か経って。わたしはPさんに打ち明ける。
加蓮「……アイドル、やめる」
 Pさんは驚いて、わたしをずっと説得してくれる。けど。
 これしか、ないの。
加蓮「……魔法が解けちゃったから……アイドルになる気持ちも、なんか解けちゃったみたい」
 正直な気持ち。わたしはPさんに、魔法をかけてもらえる資格なんて、ないの。
 だから。
P「……」
 Pさんの顔が、ゆがむ。ねえ、そんな顔しないで。
 わたしが言ったせいだけど、Pさんのつらい顔を見るのは、つらいよ。
P「……わかった。加蓮」
 Pさんは絞り出すように、つぶやいた。
 うん、ごめんね。だから、諦めて。
加蓮「……うん……だから」
P「……なら、加蓮。俺と一緒に、魔法使いにならないか?」
34: 以下、
加蓮「え?」
 わたしの瞳を、Pさんの視線が貫いた。
 それは厳しくて、とてもやさしい。そんな感じ。
P「加蓮が、アイドルたちに、魔法をかけてあげないか?」
加蓮「……なんで?」
P「いつか約束しただろ? ずっと一緒にいてやる、って」
加蓮「あ」
 そうだ。
 あのときの、あの風景がよみがえる。
 Pさんとふたりきりで、ハンバーガー。
P「お前に魔法をかけられないかもしれないけど、一緒に歩くことは、できるだろ?」
 覚えていて、くれたんだ。
 あのときの約束、守ってくれるんだ。
35: 以下、
加蓮「どうして?」
P「どうしてって?」
加蓮「どうして、あたしなの?」
 あのときと同じ。わたしは同じ言葉を、Pさんに投げかける。
 Pさんは頭をかいて、言葉をつなぐ。
P「……そりゃあ、ティンときたからさ。それに」
 Pさんの表情が、真剣になる。
P「加蓮が、好きだから」
36: 以下、
加蓮「……」
 え?
 どういうこと?
 え?
P「好きだよ」
 うそ。どうして。
加蓮「……P、さん」
 どうして、今なの? その言葉。
 あの日から、ううん。そのずっと前から。
 願っていたの。その言葉をずっと、願っていたの。
加蓮「……叶った」
P「……」
加蓮「……わたしの願い、叶った」
 わたしはPさんの手を取る。そして、わたしの言葉で、告げる。
加蓮「……好き」
37: 以下、
P「……」
加蓮「……Pさんが、好き」
 もう我慢しなくて、いいんだ。シンデレラじゃなくても、いいんだ。
加蓮「……一緒にいたい……いさせて、Pさん」
 Pさんに抱きしめられる。わたしは、もう我慢しない。
加蓮「……好きなの……好き。ずっと一緒に、いて?」
P「……ずっと一緒、な」
 あの日から焦がれていたぬくもりが、全身で感じられる。
 Pさんが、そう言ってくれるなら。
加蓮「……魔法使いに、して?」
P「うん」
加蓮「……わたしに魔法を、教えて?」
P「うん」
 Pさんのぬくもりを、鼓動を、感じながら。
 わたしは魔法使いへと変わっていく。
38: 以下、
 引退して2年。事務所スタッフになった、わたし。
 事務所専属のスタイリストになって、がむしゃらに走っている。
 わたしが引退の発表をしたとき、凛も奈緒も、事務所のアイドルみんな、わたしを惜しんでくれた。
 ううん、今でもこうして、惜しんでくれてる。
加蓮「さあ、凛。ファンのみんな待ってるよ」
凛「加蓮……」
加蓮「わたしのコーデした衣装、みんなに見せつけてよ! 頼むね!」
 わたしはそう言って、凛をステージへ送る。
 わああ、と。歓声が沸きあがる。
 あのきらびやかな場所にもう、わたしはいない。でも。
 わたしの想いを乗せた衣装で、アイドルが輝いている。
 Pさん。わたし、Pさんの気持ちが、わかるよ。
 凛や奈緒や、彼女たちの輝きを観るのは、こんなにうれしいことなんだね。
加蓮「……凛……がんばって」
 わたしは確かに、幸せだよ。
 ―――――
 ―――
 ―
46: 以下、
加蓮「……ん……んん」
 夢を、見た。
 よく覚えていないけど、なんだかあったかくて幸せな、夢。
加蓮「うとうと、しちゃった」
 外を見ると、雪、はらはらと。
 ああ、なんか、思い出しちゃうな。
加蓮「大丈夫かな」
 Pさんは「今日は夕飯作らないで」って言ってたけど。
 今日も帰りが遅いのかな。ちょっと心配。
加蓮「早く帰ってくると、いいね?」
 そんなことをつぶやいていたら、気配が。
 がちゃり。
P「ただいま、加蓮」
47: 以下、
加蓮「あ! お帰りなさい、Pさん」
 Pさんとわたし、ふたりの部屋で。
 今日もまた、日常が帰ってくる。
加蓮「今日はちょっと、早かった?」
P「ん、まあ。急いで帰ってきたよ」
加蓮「ふふ、よかった」
 Pさんの手に、なにかが。
P「ほれ。今日の夕飯」
加蓮「……ありがと?」
 袋を受け取って、中を見る。それは。
 ベーコンオムレツバーガーとスパムバーガー。
加蓮「……これ」
P「今日は、なんの日だ?」
加蓮「……あ」
48: 以下、
 そうだ、あの日。
 時間は違うけど、Pさんとわたしの、ふたりだけの日。
加蓮「ふふっ。ふふふっ」
P「……どうした? なんかおかしいこと」
加蓮「ねえ、これじゃあ」
 わたしは、袋を持ち上げてこう言うの。
加蓮「夕飯にはちょっと、足りなくない?」
 Pさんは頭をかいて、気まずそうにしてる。
 でもね、Pさん。
加蓮「……覚えててくれて、うれしい」
 そう答えて、Pさんに。
 キスをした。
49: 以下、
加蓮「足りなかったらさ。外に食べに、いこ?」
P「でも、さ」
加蓮「大丈夫大丈夫。あったかくしてさ、ゆっくり行けばへーき」
P「……そうだな」
 Pさんに抱かれていたわたしは、手を解いてキッチンへ。
加蓮「コーヒー、入れるよ」
P「加蓮は?」
加蓮「わたしは、ハイビスカスティー」
 あの時と、同じ。でも。
 あの時と違うのは。
加蓮「カフェイン摂取は、気をつけてるから、ね」
 そう言ってわたしは、自分のおなかを撫でた。
50: 以下、
 Pさんとわたしの間に授かった、新しい命。
 結婚して1年半で、今24週。ちょっとだけ、目立ってきたかも。
 Pさんと一緒に仕事をして、いつのまにかPさんとふたりで暮らし始めて。
 わたしの全部を、受け取ってもらって。
 とても自然に、息をするように、わたしたちは結婚した。
 そしてわたしたちのもとへ、コウノトリが愛を運んでくれた。
 ねえ、チビPちゃん。あなたのパパはカッコつけだね。
 でもそんなパパが、わたしは大好き。
 おなかの内側をぽこん、って。キックされる。
加蓮「あ! 今蹴った」
P「え! どれどれ」
 Pさんはわたしのおなかをさするけど、ざーんねん。
 パパにはまだ、おあずけなのかもね。
加蓮「ふふふっ。Pさんタイミングわるーい!」
P「ちぇ、今日も返事してくれなかったか」
51: 以下、
 電気ポットのお湯が、もうすぐ沸く。
 わたしはPさんのために、ドリッパーをセットする。
 粉を入れたら、ちょうどいいタイミングでお湯が沸く。
 わたしはティーポットにハイビスカスを。
 そして、ドリッパーにはお湯をゆっくりと注いで。
加蓮「ん。いい香り」
 ポットにもお湯を注いで、と。ガラスのティーポットに鮮やかな赤が広がる。
加蓮「はーい、お待たせ」
P「おう、ありがとな」
 Pさんはにこにこと、マグカップを受け取った。
 がさがさと、袋を開けて。ハンバーガーを取り出して。
 はい。Pさんはスパムバーガー。わたしは、ベーコンオムレツバーガー。
P「じゃ、いただきます」
加蓮「いただきます」
52: 以下、
 こんな記念の日だから、ジャンクもいいね。
加蓮「わたしは恋を夢見るアメリカンガール」
加蓮「大好きな食べ物はハンバーガー」
加蓮・P「「あ? 愛しのダーリンどこにいるの……」」
 あ! ちょっと。
 Pさん、急に割り込んじゃダメじゃない。
加蓮「ぷっ……くくっ」
P「ははは……はははっ」
加蓮「ふふっ……んふふふっ」
 ほら、笑っちゃって食事にならないよ。
 でも。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「ん?」
加蓮「どうして、わたしだったの?」
53: 以下、
P「……まだそれ、訊くか?」
加蓮「うん」
 しょうがないなあという顔をする、Pさん。でも、にやけてるぞ。
P「……ティンときたから」
加蓮「うん……知ってる」
 わたしはでれでれ顔で、そう応えたんじゃないかな。
 鏡を見なくてもわかる。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「……おう」
加蓮「……ありがと……大好き」
 わたしとPさんはまた、どちらともなく近づいて、キスをする。
 うれしい。しあわせ。
 でもね。
加蓮「やっぱり1個だけじゃ、足りないね」
P「そうだな」
 お互いにハンバーガー1個じゃ、あっという間にごちそうさま。
 それなら、お外へ出かけましょう。
54: 以下、
加蓮「わたし、牛丼もラーメンもいいなー」
P「こらこら。あんまりジャンク続きってものあれだろ?」
加蓮「だっていつもなら、わたしの手料理でしょ? 少しはねぎらってほしいかなー」
P「はい、感謝しております。いつも健康的な食事、ありがとう」
 Pさんはぺこりとお辞儀する。
加蓮「うん、よろしい! ならサイゼにしよっか。サラダとかもあるし」
P「家計のことも気にかけてくれて、ありがとう」
加蓮「いやいや、くるしうない! Pさんが稼いでくれるお金だもん。大事に使わなきゃね」
 わたしたちふたりは立ち上がって、出かける準備を始めた。
P「加蓮さー。あったかい格好しておけよー」
加蓮「わかってるー」
P「外はちらちらって雪だし、少し冷えるから」
加蓮「はいはい、まったく心配性なんだから」
 わたしが着替えてる間、Pさんは戸締りのチェックをする。
 よし、準備オッケー。
55: 以下、
 玄関で待ってるPさんに、わたしは言った。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「なんだ?」
加蓮「わたしにまた、魔法をかけてくれて、ありがと」
 そして、ちゅっと。軽いキス。
P「いや、俺は」
加蓮「ううん。ずっとずっとすごい、魔法だよ」
 このせいいっぱいの感謝を、Pさんに。
加蓮「Pさんのお嫁さんって、魔法」
 わたしは、Pさんに微笑む。Pさんもわたしに、笑みを返す。
 アイドルじゃないけど、もっと大きな、Pさんだけのアイドル。
 そんなわたしに、なれたの。
56: 以下、
P「もうすぐ、パパとママだけどな」
加蓮「うん、だからね」
 Pさんの手を握る。
加蓮「ふたりでこの子に、魔法をかけてあげようね」
加蓮「わたしたちは、魔法使いだから」
 近い未来の話。
 わたしたち3人はたぶん、魔法使い一家として、みんなから注目されるの。
 みんなって誰か?
 それはたぶん、凛や奈緒や、事務所のみんなや。
 お父さんやお母さんや。
 ひょっとしたら、まだ見ない、誰か。
P「楽しみだな」
加蓮「うん」
 さあ、なに食べよっかなあ。
 でもPさんとふたりなら、なんでもおいしいはず。
 そして、3人になったら。
 がちゃり。ドアの鍵閉めオッケー。
 Pさんが左腕を出してくれる。
加蓮「エスコートお願いしますね。王子様?」
P「承りました。お姫様」
 Pさんの左腕に手を通して、エスコート。
 わたしはまた、シンデレラに、なった。
 そして、この先も。
(おわり)
58: 以下、
以上です。おつかれさまでした
昨年ネタったことを惜しんでくれた方がいらしたので、再投下と相成りました
読んでくださった皆さんの琴線に少しでも触れたら、うれしいです
でも最後の最後で、誤爆しちゃったよorz
では ノシ
59: 以下、
煌めくかけがえのない時を、ずっと…
乙!
60: 以下、

続き・詳細・画像をみる


【悲報】20代の平均セクロス経験人数wwwwwwww

香山リカ氏が「乗っ取られた」と主張するツイートの”癖”が本人にそっくりだと話題に

勇者「魔王使い?」 少女「はい」

【サッカー】なでしこジャパン 女子W杯最終メンバー発表!澤、宮間、大儀見らが選出

木村拓哉<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<堺雅人

【お得情報】ハゲにウォッカを振りかけると生えてくる

フジテレビの印象操作が酷すぎる!!若者を悪者にして何が狙いだ?報道番組でよくもこんな姑息な真似が出来るな!!!!!!

このゲームがガールフレンド(仮)にめちゃくちゃ似過てるんだけど

香山リカ氏が「乗っ取られた」と主張するツイートの”癖”が本人にそっくりだと話題に

佐々木希の話題になった時の渡部の顔wwwwwwwwwwwww (※画像あり)

【速報】ひでの新作、発掘される

上の子6歳が言うこと聞かない。私も叩かれて育ったから叩いてるけど、いいのだろうか。

back 過去ログ 削除依頼&連絡先