海未「ふう、ゲームでもしましょうか。」 前編back

海未「ふう、ゲームでもしましょうか。」 前編


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1:
午後9時15分。明日の予習を済ませ一息つきます。
机の引き出しを開けると可愛らしいシールのたくさん貼られた青い携帯ゲーム機があります。
小学生の頃に買ってもらった私の宝物。世間では新しいゲーム機が出ているようですが私にとっては宝物です。
海未「…あれ、もう電池がありませんね…」
電源コードをつなぎます。
海未「古くなったのでしょうか。この前充電したばかりなのに…」
赤いランプが点灯したのを確認して、電源を入れます。
―― ようこそ どうぶつさんの村 ――
  ボタンをおしてね!
4:
見慣れた画面が出てきます。戸惑うこともなくボタンを押して始めます。
海未「…ああ、草がしげっていますね。このところ少し忙しかったから…」
自分そっくりに作られた女の子を操作して、一本一本草を抜いて回ります。
海未「ふう、大分綺麗になりました。…花壇のお花も枯れかけていますね。」
『みんなのかだん』のお花に水をあげます。
私はこの、架空の村で生活するこのソフト以外のゲームは持っていません。
それでも、たまにこうして何年も前のゲームで息抜きをしています。
6:
海未「あっ、また…ほのくまは仕方ないですね。」
ゲームの村には動物を模したキャラクターが住んでいます。
この怠け者の熊の名前はほのくま。…本当は別の名前があったのですが、私がアダ名をつけてから忘れてしまいました。
海未「ふう、そろそろ現実の穂乃果の部屋も掃除しないといけませんね。」
ほのくまが散らかした部屋を片付けます。
海未「…ふふ。お礼のどんぐりはもういらないんですよ。」
もう欲しいアイテムはほとんど揃えてしまいました。
…ふと我に返って思います。μ'sのメンバーがこんな私の姿を見たらどう思うか。
ゲームなんて興味のなかった私がどうしてこんなものを持っているのか。
少しだけ長い、昔話になります。
9:
穂乃果「―――それでね!きのうはかっこいいワシさんが『ほむら』にひっこしてきたの!」
ことり「へえ?!」
穂乃果「ことりちゃん、ってなまえをつけてあげたの!これでうさぎさんの『うみちゃん』と3にんそろったね!」
ことり「え…?ことり、ワシさんなの?」
穂乃果「うん!きょううちにきたときにみせてあげるね!」
ことり「うん!『どうむら』もっていくね!」
海未「…あの、さっきからなんのおはなしをしているのですか?」
穂乃果「えっ?うみちゃんはもっていないの?『どうむら』!」
海未「はい、どう、むら…?」
ことり「そっか、うみちゃんゲームきもってないから…」
穂乃果「あっ、そうだったっけ!じゃあべつのおはなしね!きのうのよるゆきほがね…」
――その時は特に気にしてませんでした。うちが他と比べて少し古めかしい家だというのもなんとなくわかっていましたし。
そのことについて不満もありませんでしたから。
10:
海未「こんにちは。おじゃまします。」
ほのママ「あら?!海未ちゃんいらっしゃい!穂乃果達二階にいるからあがってちょうだい。あとでお饅頭持って行くわね。」
海未「いえ、おきづかいなく。」
そう言って穂乃果の家の階段をのぼると引き戸の向こうから楽しそうな声が聞こえました。
ことり「――ほら!みてみて!やっと『きのこのタンス』かったんだ?!」
穂乃果「ああ!いいないいなあ?!ほのかもかわいいのほしいよぉ?。」
どうしてでしょうか。少し、入るのをためらってしまいました。
「あら?海未ちゃんどうしたの?」
海未「あ、いえ…」
お饅頭を運んできてくださったおばさまに促されて中に入ります。
穂乃果「あっ!うみちゃんだ!」
穂乃果が顔をあげて笑いかけてくれました。
12:
ほのママ「穂乃果、ゲームは一日一時間まででしょ?」
穂乃果「うっ…いまはじめたばっかりだもん!」
ほのママ「はいはい…海未ちゃんが来たからお茶にしなさい。」
ことり「ありがとうございます!」
ほのママ「いいのよ?。」
穂乃果「げっ!またおまんじゅう?みんながきてるときはチョコレートにしてっていったじゃん!」
ほのママ「あらそう?じゃあ穂乃果の分はみんなで食べてね?」
穂乃果「おかーさん!」
それでも、3人で仲良くお饅頭を食べるといつもより何倍もおいしくて―
結局穂乃果もおかわりするのがいつものことでした。
穂乃果「ふう、ごちそうさま!じゃあ、なにしてあそぼっか?」
ことり「おにんぎょうさんごっこにする?さんにんでかぞくのやく!」
穂乃果「え??ほのかあきちゃったよ?」
海未「あ、あの…」
穂乃果「?」
海未「…さ、さっきのゲームを、みせてくれませんか…?」
16:
どうしてそんなことを言い出したのか、よくわかりません。
ただ、さっき部屋の前で感じたモヤモヤした気もち。
穂乃果とことりが二人だけで楽しく遊んでいたこと。
それがひっかかっていたのかもしれません。
穂乃果「――でね?これがうさぎの『うみちゃん』なの。」
海未「…」
穂乃果の説明を聞きながら、私は食い入るように画面を見つめていました。
画面の中をこちゃこちゃと動きまわる、かわいいキャラクター達。
ことりからプレゼントしてもらったという奇妙な家具。
虫取り網をもって走り回ったり、魚釣りに興じるゲームの中の「ほのか」
もちろん、ゲームを見たのが初めてというわけではありません。
テレビでも目にしますし、穂乃果達のやっているのを横目で見ていたこともあります。
(私がつまらなそうにするのですぐにやめてくれるのですが。)
穂乃果「――うみちゃん、やってみる?」
17:
海未「えっ?そんな…わたしはいいです…」
なぜか、こういうものをするのはすごくいけない事のような気がして、私は触ったことすら、あまりありませんでした。
穂乃果「かんたんだよ?うみちゃんがきらいなたたかったりするやつじゃないし!」
ことり「あっ、じゃあことりといっしょにやろうよ!ほのかちゃんのむらにいくね?♪」
なかば押し付けられるようにして、穂乃果からシールがたっぷりと貼られたゲーム機を受け取ります。
海未「…けっこう、おもいんですね。」
穂乃果「えっとね、ここをこうもって…うん、そう。これではしるから、そしたらこれで…」
ドキドキしながら穂乃果の指示に従います。
ああ、どうしよう。おばさんが来ませんように。なぜかそんなことを考えてしまいます。
> ことり ちゃんがあそびにきたよ!
海未「えっ?」
穂乃果「あっ、うえのほうにいってみて!」
20:
穂乃果の指示通り画面の上を目指すと、そこにはことりそっくりの女の子が立っていました。
ことり >こんにちは うみちゃん
海未「えっ?どうしてわたしのなまえを?」
ことり「びっくりした?つうしんであそびにいってるんだよ!」
海未「??」
ことり「ふふ、それ、わたしがうごかしてるの。」
画面の中の女の子がクルクルとまわりました。まるで踊っているみたいです。
海未「…はあ、よくわかりませんが、すごいのですね…」
――それから、3人で夢中になって遊びました。
鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、魚釣り競争をしたり――
ゲームの中の話ですが。
23:
――夕暮れ、穂乃果の家から帰る途中、私はまだ夢を見ているみたいでした。
初めてあんなに夢中になってゲームで遊んだこと。
その中の村で穂乃果とことりは毎日遊んでいること。
なんでもインターネットを使って家にいてもお互いに遊びに行ったり来たりできるらしい、ということ。
海未「…ただいまもどりました。」
海未ママ「お帰りなさい海未さん。」
海未「っ!」
海未ママ「?どうかしたのですか?」
海未「あ…いえ、なんでも。」
何を恥じることがあるのでしょうか。しかし、今日のことは絶対に隠さないといけないような気がしてしまいます。
海未ママ「もうすぐごはんですよ。手を洗ってらっしゃい。」
25:
海未「はい、お父様。」
夕餉の前にお酒を召し上がるお父様に冷奴をお出しします。
海未パパ「ああ、ありがとう。」
お父様が大きな手で私の頭をなでてくれます。
――…動物さんとすごす 楽しい毎日 ようこそどうぶつさんの村 好評発売中
海未「あ…」
テレビから流れたCMに一瞬見入ってしまいました。
海未パパ「?」
海未ママ「あなた、そろそろ夕飯ですからテレビを消してください。」
海未「ん?…ああ、うん。」
プツン、と音をたててテレビの電源が落ちました。
2

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