勇者「死神のご加護がありますように」【後編】back

勇者「死神のご加護がありますように」【後編】


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9:
勇者「おう、お前ら買い物は終わったか?」
戦士「あぁ。ちゃんと勇者用の装備も買っておいたぞ。流石に防具無しで魔王に挑むのはマズイと思ってな」
勇者「それはお優しいこった」
僧侶「そうですよ。むしろ今まで防具無しでよくここまで来れましたね」
勇者「いや、一回買ったんだけどな。重くて売ったんだよ」
僧侶「そ、そうなんですか…」
戦士「全く、君は…」
勇者「ほら、買い物終わったんだったらさっさと宿屋で寝んぞ。明日ははええからな」
僧侶「そうですね。そうしましょう」
戦士「そうだな」
勇者「おい、行くぞお前ら。ガキ、行くぞ」
魔法使い「………はい」
戦士「……魔法使いちゃん?」
※一部根拠のないコメントを削除しました
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400:
勇者「おい、親父。部屋は空いてっか?」
宿屋「はい。全部屋空いておりますよ」
勇者「それはありがてえな。そっちはどうか知らんがな」
宿屋「ははは、全くです」
勇者「だったら一人一部屋貸してくれ」
宿屋「ありがとうございます」
戦士「おい、勇者。こっちはもうほとんど金を使い切ってしまったぞ。そんな余裕…」
勇者「心配すんな。俺が持ってる」ジャラッ
戦士「なっ。珍しいな、お前が金を残すなんて…」
勇者「まっ、あと1日だけだからな。一箱ありゃ十分だと思ってな」
戦士「…そうか」
勇者「そういうこと。今日はゆっくり寝て疲れでもとんな。ちゃんと風呂入れよ。歯磨けよ。じゃあな」
戦士「…じゃっ、勇者の好意に甘えて今日はゆっくり寝るか」
僧侶「そうですね。それがいいと思います」
魔法使い「…………」
401:
勇者「……うっし、準備完了。あとは寝るだけだな」
勇者「煙草は……まあいいか。あいつも寝てんだろ」
コンコンッ
勇者「…あん? 誰だ?」
ガチャッ
魔法使い「……失礼します」
勇者「ナイスタイミング!!」
魔法使い「……え?」
勇者「いやぁ、丁度お前を呼びに行こうと思ってたんだよ」
魔法使い「え、えっ、そ、それって////」
勇者「いやぁ、煙草吸いたくて仕方なかったんだよ。何、お前、エスパー?」
魔法使い「……ですよね。そんなことだろうと思ってましたよー」
勇者「何いじけてんだよ、お前」
魔法使い「…別に期待なんかしてませんでしたよ。はぁ」
402:
勇者「とりあえず火つけてくれよ。ほらっ」
魔法使い「…はいはい、わかりましたよー。火術」ボッ
勇者「ん。サンキュー。はぁ……旨えな」スパー
魔法使い「……そんなに美味しいんですか?」
勇者「あぁ。酒はこの世から無くなってもいいが煙草はダメだな」
魔法使い「……一口ください」
勇者「は?」
魔法使い「一口吸わせてください」
勇者「お前未成ね…いや、いいか。ほらよっ」
魔法使い「ありがとうございます」
勇者「間接キスだな」
魔法使い「なっ/// ど、どうでもいいじゃないですか、そんなことっ////」
勇者「いいからさっさと吸って返せよ」
魔法使い「うぅ、わかりましたよ。すぅ……っ!? ゴホッゴホッ!!」
勇者「まあ最初はそうなるわな」
403:
魔法使い「ゲホッゲホッ!! なんですかこれ!!」
勇者「煙草だよ。平和の象徴だ。ちなみにタールは21な」
魔法使い「知ってますよ!! うぅ…まずい。よくこんなもの吸えますね」
勇者「ガキにはわかんねえよ。ほら、返せ」
魔法使い「言われなくても返しますよ…。うぅ…喉がイガイガする…」
勇者「まあ煙草なんか吸ってもイイ事ねえからな。百害あって一利なしだ。吸わないに越したことはないね」
魔法使い「だったらなんで吸うんですか……」
勇者「……まあいいじゃねえか。紳士の嗜みだ」スパー
魔法使い「……よくわかんないです」
勇者「良いんだよ、ガキにはわからなくて」
魔法使い「またそうやって……」
勇者「それより何しに来たんだよ。まさか煙草に火をつけに来たわけじゃねえだろ」
魔法使い「……それは」
勇者「まさか一人で寝るのが怖いのか。怖い夢でも見たのか」
魔法使い「そ、そうじゃ…ないとも言えませんけど」
404:
勇者「だったら戦士か僧侶と一緒に寝ろよ。俺は一人で寝たいんだよ」
魔法使い「……そう……ですけど」
勇者「じゃっ、そういうことだ。さっさと寝ろよ」
魔法使い「…………」
勇者「……はぁ。わかったわかった。一緒に寝てやる」
魔法使い「……え?」
勇者「二度は言わねえよ。嫌ならさっさと出てきな」
魔法使い「い、いえ、そんなことはないです!! ありがとうございます!!」
勇者「大人しく寝ろよ。…ふぅ、ご馳走さん。ほら、さっさと寝るぞ」
魔法使い「…はいっ」
勇者「ちゃんと寝る前にトイレ行っとけよ。漏らすんじゃねえぞ」
魔法使い「そ、そんなことしませんよっ!!」
勇者「だったら明かり消すぞ」
魔法使い「あ、はいっ」
405:
魔法使い「……おやすみなさい、勇者様」
勇者「あぁ」
魔法使い「…………」
勇者「…………」
魔法使い「……寝ちゃいました? 勇者様」
勇者「お前は10秒も黙ってらんねえのかよ」
魔法使い「……勇者様私思ったんです」
勇者「黙って寝ろよ。何語りだしてんだよ」
魔法使い「私こんなに長い間勇者様と一緒に居るのに勇者様のことなにも知らないな…って」
勇者「話聞けよ。いいだろ、そんなこと。どうせ明日までの付き合いだ。気にすんな」
魔法使い「……だからこそですよ」
勇者「あん?」
魔法使い「だからこそ聞くなら今しかないかなって思ったんです…。このままだともう聞く機会も無い様な気がして…」
勇者「はぁ……」
406:
勇者「何お前? ヤケにテンション低いと思ったらそんなこと考えてたのかよ」
魔法使い「そ、そんなことってなんですか!!」
勇者「あのなぁ、忘れてるかもしれないけど俺は犯罪人なの。人沢山殺してんの。そんなやつの話聞いてどうすんの? 人殺しにでもなりたいのかよ?」
魔法使い「私は勇者様がそんな人には思えないんです!!」
勇者「お前が思おうが思うまいが事実は変わらねえんだよ。俺は人を殺した。大量にな。だから捕まった。これは変わらねえだろうが」
魔法使い「で、でも理由が!!」
勇者「ムカついたから殺した。以上。おやすみ」
魔法使い「勇者様!!」
勇者「ちっ。うるせえな。そんなに騒ぐんなら自分の部屋で寝ろや。俺は眠たいの。わかる?」
魔法使い「……お願いです。勇者様。本当のことを話してください」
勇者「……うるせえガキだな。何でそんなどうでもイイ事を知りたがるかな」
魔法使い「勇者様にとってはどうでもいいかもしれないですが、私にとっては大事なことなんです!!」
勇者「……はぁ。わかったわかった」
魔法使い「じゃ、じゃあ!!」
407:
勇者「俺も甘くなっちまったもんだな。こんなガキの言うこと聞くなんて」
魔法使い「勇者様…!!」
勇者「……いや」
魔法使い「…? どうしました勇者様?」
勇者「……なんでもねえ。長くなるぞ、それでもいいのか」
魔法使い「はい!!」
勇者「眠くなったら寝ろよ。明日に支障出るようだったら止めるからな」
魔法使い「はいっ!!」
勇者「はぁ…。面倒くせえな。んで、なんで俺があんなに殺したかか」
勇者「あぁ…どこから話せばいいんだろうな……」
勇者「……まぁいいか。全部話しちまうか。どうせ明日で縁も切れんだ」
魔法使い「…………」
勇者「そうだな。これはずっとずっと昔の話だ」
勇者「俺がお前よりもまだちいせえ頃の話だ」
416:
______
___
_
八百屋「居たぞ!! 捕まえろ!!」
果物屋「待てコラ!! いい加減にしやがれ!!」
男「……」
ヒュンッ
八百屋「…ちっ!! また消えやがった!!」
果物屋「くっそいい加減にしろよあのガキ!! 何個盗めば気が済むんだ!!」
八百屋「畜生!! 次こそとっ捕まえてやる!!」
果物屋「……何回言っただろうな、そのセリフ」
八百屋「……本当にな」
果物屋「ちっ。覚えとけよ」
八百屋「はぁ。また仕入れ直さなくちゃな」
男「……」
417:
男「……」モグモグ
男「……酸っぱい」
「よぉ。随分美味そうなもん食ってんじゃねえか」
男「……っ」クルッ
「おっと。悪い悪い。別に驚かせるつもりは無かったんだがな」
副隊長「隊長。何してるんですか」
女隊長「いやぁ、なんかガキが一丁前に美味そうなもん食ってからたかれねえかと思ってよ」
副隊長「何してるんですかあなたは…。って、あれ、この子」
女隊長「あん? なんだよ、知ってんのかこいつ?」
副隊長「この子ですよ! 最近この辺の物が盗まれてる事件の犯人は!」
女隊長「おいおい、まじかよ。こんなガキに盗まれてんのかよ。そりゃ盗まれる方が悪いだろ」
副隊長「……一応国の兵士なんですからそんな身も蓋もないこと言わんといてくださいよ」
男「……なに、おばさん。何か用?」
女隊長「おばっ…!?」
副隊長(あ、やばい)
418:
女隊長「ほう・・・クソガキ。どうやら死にたいらしいな…」ピクピク
男「……」
女隊長「私はなぁ……ピッチピチのハタチだっつうの!!」ガバッ
男「……」ヒュン
女隊長「……あん?」
副隊長「えっ!? 隊長を避けた!?」
男「……」ダッ
女隊長「おい!! クソガキ待てコラ!!」ダッ
副隊長「うわあ…子供相手にムキになってるよこの人…」
男「……」タッタッタ
女隊長「よ〜し、追いついたっ!!」ガバッ
男「……」ヒュン
女隊長「なにぃ!?」スカッ
副隊長「き、消えた!?」
男「……」タッタッタ
419:
女隊長「……」
副隊長「あーあ。逃げられちゃいましたね」
女隊長「……」
副隊長「まっ、逃げられたものは仕方ないですよ。さっ、城へ戻りましょう」
女隊長「……おもしれえ」
副隊長「……え?」
女隊長「あのクソガキ…。次会った時ぜってえとっちめてやる」ゴゴゴゴ
副隊長(うわぁ、なんか変なスイッチ入っちゃったよ)
女隊長「ふっふっふ。ブチ殺す……。この私におばさんって言った罪はデカいぜ…」ゴゴゴゴ
副隊長「どっちが悪者ですか。人には見せれない顔になってますよ」
女隊長「うるせえ!! やられっぱなしは主義じゃねえんだ!! もうギッタギタのボッコボコにしてやる!!」
副隊長「国の兵士の言うことじゃありませんよね、それ」
女隊長「おい!! 明日もこの時間来るぞ!!」
副隊長「……どうせ止めても無駄なんですよね」ハァ
女隊長「ったりめえだ!! あいつを捕まえるまでは毎日だ!!」
420:
-翌日-
男「……」モグモグ
女隊長「よぉ。テメエまたここに居たのか」
男「……なに、おばさん」
女隊長「い、いや、なに、ちょっと、お話に、来ただけ、だ」ギリギリギリ
副隊長(うわぁ、めっちゃ青筋浮いてるよ)
男「…別に僕が話すことはないよ」
女隊長「お前には無くてもな……こっちには大アリなんだよ!!」ガバッ
男「……」ヒュン
女隊長「男ならちょこまかと逃げてんじゃねえよクソガキ!!」ダッ
男「……」ダッ
女隊長「待てこらあああああ!! 人の話を聞きやがれええええええ!!」ダッダッダ
副隊長「うっわぁ、全力ダッシュだよ。…って、あ。また逃げられた」
421:
女隊長「……」
副隊長「……」
女隊長「なんだよ?」ギラッ
副隊長「え、あ、いや」
女隊長「滑稽か」
副隊長「え?」
女隊長「逃げられたのが滑稽か!!」
副隊長「い、いや、そんなことは」
女隊長「そうだよな、この国の兵をまとめる隊長なのに子供一人に逃げられるだもんな。そりゃ滑稽だよな」
副隊長「そ、そこまでは」
女隊長「笑えよ。笑いなさい。哀れな私を笑うがいいわ。ほれ。オーホッホッホ!!」
副隊長「あ、あはははは」
女隊長「………明日もやんぞ」
副隊長「……はい」
422:
-翌日-
男「……」モグモグ
女隊長「よぉ」
男「……また来たの。おばさん」
女隊長「だから…おばさんじゃねえっつってんだろ…っ」ピクピク
副隊長(めっちゃ我慢してる…)
男「……で、なんの用? 追いかけっこはもう嫌なんだけど」
女隊長「だったら逃げるんじゃねえよ…っ」ピクピク
男「だったら追ってこないでよ」
女隊長「うるせえな…。お前の口が悪いのがいけねえんだよ。お前の目上の人に対する口の聞き方親に習わなかったのかよ」
副隊長(隊長が言うんですか、それ…)
男「…いないし」
副隊長「…え?」
男「親、いないし」
女隊長「………」
423:
「「居たぞ!! 捕まえろ!!」」
男「……」ヒュンッ
女隊長「あ、おい!!」
副隊長「…行っちゃいましたね」
八百屋「……くっそ、またかよ!!」
女隊長「……おい、お前ら」
八百屋「あん? 誰……って隊長様!!」
果物屋「こ、これはこれは!! お疲れ様です!!」
女隊長「んなこたぁどうでもいい。おい、あいつはなんだ」
八百屋「あいつですか? あいつはいっつも俺らの店から物を盗んでいく悪ガキさ」
女隊長「それは知っている。名前はなんていうんだよ」
八百屋「……そういえば知らないな。もう3年くらいになるのに」
果物屋「そういえばそうだな」
副隊長「3年ですか!?」
女隊長「…………」
424:
八百屋「あぁ、そんくらいだろ。一度も捕まえれたことはねえがな」
果物屋「被害総額は相当なことになってるよ、全く」
女隊長「ちょっと待て。その頃からあいつはずっと一人で盗んでたのか?」
八百屋「あ、あぁ、そうだな」
女隊長「親とかの姿は?」
果物屋「そういや見たことねえな…」
副隊長「じゃぁ本当に……」
女隊長「…そうか。協力感謝するよ」
八百屋「頼むぜ、隊長様」
果物屋「なんとかしてくださいよ。お願いします」
女隊長「……あぁ。なんとかしてやりてえよ」
副隊長「………」
425:
-城-
女隊長「……ふぅ」ギシッ
コンコン
女隊長「開いてるよ」
ガチャ
副隊長「失礼します」バタン
女隊長「おー。まあ適当にどっか座れや」シュボッ
副隊長「疲れきってますね。あと煙草やめたほうがいいですよ」ギシッ
女隊長「うるせえよ、吸ってないとやってられっか。ったく、上のお偉いさん達はなんで私に書類を回すかね。明らかにタイプじゃねえだろ」
副隊長「それだけあなたが頼りにされてるんですよ」
女隊長「いーや、違うね。奴らは私に仕事を押し付けて楽したいだけさ。ふざけやがって。前だってよ」
副隊長「はいはい。何度も聞きましたよ、その話は」
女隊長「……なあ」
副隊長「はい? なんですか?」
女隊長「何歳に見えた」
426:
副隊長「それは子供の方ですか? それとも隊長の方ですか?」
女隊長「ガキの方に決まってんだろ。しばくぞ」
副隊長「冗談ですよ。そうですね……8歳くらいですかね」
女隊長「そうだよな……。そんなもんにしか見えねえよな……」
副隊長「…気になるんですか」
女隊長「……まあな」
副隊長「珍しいですね。隊長がそんなにナイーブなの」
女隊長「るっせえな。いいだろ、たまには。私だって女なんだよ。重い日くらいあるっての」
副隊長「…そういうところが女らしくないんですよ」
女隊長「テメエは女に幻想を抱きすぎなんだよ。女同士の話なんて下ネタのオンパレードだっつうの」
副隊長「……聞きたくなかったです」
女隊長「お前に見えてるもん、聞いたもんが全てじゃねえんだよ。そうやって世の中は嘘と偽りでできてんだよ」
副隊長「…嫌な世の中ですね」
女隊長「全くだ」
427:
副隊長「そんな世の中だからこそ、あんな子が出てきちゃうんですかね……」
女隊長「……かもな」
副隊長「どうするつもりですか、あの子を」
女隊長「どうするのが正しいと思う?」
副隊長「私にはわかりません…」
女隊長「だよなぁ。何が一番正しい選択だったのかなんてわかりやしねえもんな」
副隊長「そうですね…。でもその時一番正しいと思ったことを選びこの国を導いてきたのは隊長じゃないですか。隊長には正しいことを選ぶ能力があると思うんです」
女隊長「つったってそれは戦場の話だろ? 今回のガキの件とは……まてよ」
副隊長「どうしたんですか? 隊長?」
女隊長「なんだ、そうかよ!! 一緒にしちまえばいいんじゃねえか!!」
副隊長「え、あの、一体…」
女隊長「よし!! そうと決まりゃ早行動開始だ!!」
副隊長「あの説明を……」
女隊長「お前のおかげだ、ありがとな。だが私はやる事ができた。さっさと出て行きな」
副隊長「……はい。失礼します」
428:
バタンッ
副隊長「……はぁ」
副隊長(どうしてあの人は大事な部分を説明しないかな…。それに人の話を聞かないし)
元帥「やれやれ、またあの女に振り回されておるのか」
副隊長「こ、これは元帥!! お見苦しいところを!!」
元帥「あぁ、よいよい、そんなに畏まらんくて良い」
副隊長「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて」
元帥「うむ。それがよかろう。あまり固くなっても仕方ないぞ。まぁ、いざ、というときに固くならないのも困りものだがな」
副隊長「……なんの話ですか、それは」
元帥「分かっておるくせに、このむっつりスケベが」
副隊長「……お言葉ですが、そんな真顔で言われてもジョークかどうかわかりませんよ」
元帥「そうか。もっと表情筋の鍛錬をする必要があるようだな」
副隊長「そんな大げさなものじゃないですけどね…」
429:
元帥「それで? 今回あの問題児は何をしようとしてるのだ?」
副隊長「問題児ですか…。一応あれでもハタチなんですけどね」
元帥「儂からすればまだまだ子供じゃ。あやつがふた桁もいかぬ頃から知っておるが何も変わっておらんからな」
副隊長「え、隊長ってそんなに小さい頃からここに居るんですか?」
元帥「なんじゃお主、知らんかったのか。下僕がそれで良いのか」
副隊長「いえ、下僕じゃないです。私の評価ってそういう感じなんですか」
元帥「別によかろう。あながち間違っておらんだろ」
副隊長「えー」
元帥「まああやつは父の影響で入ったらしいからの」
副隊長「え、そうなんですか? 一体誰が隊長の父なんですか?」
元帥「いや、残念ながらすでに死んでしまったよ」
副隊長「あ。…そうなんですか」
元帥「残念ながらな。だがあやつは最後まで国の為に尽くしてくれた。やつは国の誇りじゃよ」
副隊長「……そうですか」
430:
元帥「まあそんな奴じゃがお主がなんとか支えてやってくれ。決して悪い奴ではないからの」
副隊長「…えぇ。それはわかっておりますよ」
元帥「では頼んだぞ。今回も何かやらかしてくれるようじゃが後始末は頼んだぞ」
副隊長「任してください…とは言えないですがなんとかやってみますよ」
元帥「うむ。素直なことは良きことだ。それでは儂はやることがあるでな。さらばじゃ」
副隊長「はい。お疲れ様です」
スタスタスタ
副隊長(元帥もなかなか変わった人だよな…)
副隊長(しかし隊長は本当に何をするつもりなんだろう…)
副隊長(はぁ…また仕事が増えそうな気がする…)
副隊長(でもまぁそれで救われる子がいるならいいか)
副隊長(まっ、明日になればわかるか)
副隊長(どうせ明日忙しいなら今日はさっさと寝よう)
431:
-翌日-
男「……」モグモグ
女隊長「よぉ」
男「……どうも」
女隊長「なんだ、随分素直じゃねえか」
男「もう何言っても無駄な気がしたからね」
女隊長「随分と諦めが早いな。早い男は嫌われんぞ」
男「……」
女隊長「ちっ、だんまりかよ」
副隊長「むしろなんでわかると思ったんですか」
女隊長「うるせえな。まあいい。ここに来るのも今日が最後だ」
男「……そう」
副隊長「隊長……いいんですか、それで」
女隊長「あぁ……いいんだよ」
432:
女隊長「だってこいつ城に連れてくし」
副隊長「…………は?」
男「……」
女隊長「いや、だから」
副隊長「いや、意味はわかりましたよ」
女隊長「だったらなんの問題もねえじゃん」
副隊長「大アリですよ!! なんて言ってこの子を城に居させるつもりですか!! それに誰がこの子を育てるんですか!! お金はどうするんですか!!」
女隊長「おお、一気に喋るね。呼吸困難になるぞ」
副隊長「大きなお世話です!! その辺しっかり考えてるんですか!?」
女隊長「当たり前だろ」
副隊長「本当ですかー」ジー
女隊長「お前は私に対して不信感を抱きすぎなんだよ。私がお前に何をしたって言うんだよ」
副隊長「胸に手を当てて考えてください」
女隊長「嫌だよ、いやらしい気分になるし」
副隊長「ど、どこを触るつもりですか///」
433:
女隊長「照れんなっての。ったくウブだね、お前は」
副隊長「うるさいですよっ!! 兎に角どうするつもりか説明してください!!」
女隊長「んなもん簡単だろうが。まず城に居させる方法だが、んなもん兵士にしちまえばいいじゃねえか」
副隊長「…なっ!!」
男「……」
副隊長「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! この子はまだ子供ですよ!?」
女隊長「知るかよ。むしろこんだけちいせえガキが移動魔法使えんだ。育てたらかなりの戦力になんだろ」
副隊長「そうですが…」
女隊長「ここで悪事働くよりは城でまともに働く方がましだろ」
副隊長「た、確かに…。で、ですがお金の問題と育てる人はどうするんですか?」
女隊長「そんなもん全部私がやるに決まってんだろ。私が母親だ」
副隊長「…またあなたはそうやって大変なこと背負い込んで」
女隊長「ちなみに父親はお前な」
副隊長「はあっ!?」
434:
女隊長「何? お前私にシングルマザーさせるつもりだったのかよ。それは余りにも酷ってもんじゃねえか?」
副隊長「い、いやいや!! え、だって、その…えぇ!?」
女隊長「ちなみにお前に拒否権はないからな」
副隊長「ですよねー」
女隊長「まあお前が結婚したら私一人で育てるから安心しな。その時はお役御免だ。嫌だったらさっさと結婚しな」
副隊長「……はぁ。いいですよ、わかりましたよ。当分結婚する予定もありませんしね」
女隊長「寂しいやつだな」
副隊長「あなたのせいですよ…全く」
女隊長「よし、決定。ということだ、ガキ。ほら、城に行くぞ。今日から私がお前の母親だ」
男「……いらない」
女隊長「あん?」
男「……親なんていらない」
副隊長「………」
女隊長「あん? なんでだよ? 照れなくていいんだぞ」
435:
男「……別に今まで困らなかったし」
女隊長「お前は困らなかいかもしれないが店の人は困ってんだよ」
男「……僕には関係ないし」
女隊長「あのなぁ…」
男「……それにまたどうせ捨てられるし」
女隊長「…………」
男「……だったら最初から一人の方が」
女隊長「このバカタレ!!」
男「……っ」ビクッ
女隊長「お前には私がそんなやつに見えんのかよ!!」
男「……だって他人じゃん。優しくする意味ないじゃん」
女隊長「良いか!! よく聞けクソガキ!! ガキはガキらしく素直に生きてろ!! 馬鹿が難しいこと考えてるんじゃねえよ!!」
男「……でも」
女隊長「だああああああもうっ!!」
436:
ギュッ
男「……え?」
女隊長「……寂しかったんだろうが。ガキが強がってんじゃねえよ」
男「……」
女隊長「私が最後までお前を責任もって育てる。だから安心しろ」
男「……本当に?」
女隊長「あぁ」
男「……どこにもいかない?」
女隊長「あぁ、約束する」
男「……絶対に絶対?」
女隊長「絶対に絶対だ」
男「……信じていいの?」
女隊長「当たり前、このバカッ」
男「うっ、うっ……うわああああああああん!!」ギュッ
女隊長「バカ…。男がそんなことで泣いてんじゃねえよ」ギュッ
437:
副隊長「……良かったですね、隊長」
女隊長「あぁ…」
男「グスッ…」
女隊長「ほら、そろそろ泣きやめよ。そういやお前名前何て言うんだよ」
男「……忘れた」グスッ
女隊長「……何?」
副隊長「……3年も名前呼ばれかなかったそうなるかもしれませんね」
女隊長「……男だ」
副隊長「…はい?」
女隊長「コイツの名前は男だ!! 私が決めた!! 異論は認めねえ!!」
副隊長「え、えー。そ、それでいいんですか…」
女隊長「良いんだよ。私が決めたんだから間違いねえ。なっ、良いだろ、男?」
男「……うんっ」コクッ
副隊長「……いいんだ」
女隊長「素直でよろしい」ウンッ
438:
女隊長「それじゃあやることやって城に行くぞ。お前の新しい家だ」
男「……うん」コクッ
副隊長「ところでやることってなんですか?」
女隊長「あぁ。まあ服買ったりなんだりすることは色々あるがまずこの街でやらなきゃいけないな」
副隊長「なんですか、それ?」
女隊長「あぁ…。おい、男」
男「……何?」
女隊長「お前、物を盗むことはいいことだと思うか?」
男「……ダメなこと」フルフル
女隊長「悪いことをしたら人はどうしなきゃいけない?」
男「……わかんない」
女隊長「……そうか。いいか、男。悪いことした時にはな、『ごめんなさい』しなくちゃいけないんだ」
男「……ごめんなさい?」
女隊長「あぁ。そうだ。お前はこれから今まで盗んできた人のところに『ごめんなさい』しなくちゃ駄目だ。できるな?」
男「……うん」コクッ
439:
_____
___
_
女隊長「おい、いるかー?」
八百屋「どちらさんだい…って隊長さん!! どうしたんですか?」
女隊長「果物屋はどこにいる?」
八百屋「あ、はい、呼んできましょうか?」
女隊長「……そうだな。そっちの方がいいかもな。頼めるか?」
八百屋「はい、行ってきやす!!」
ダッ
女隊長「……いいか、お前は怒られるだろう。もしかしたら殴られるかもしれない」
男「……」
女隊長「でもお前は悪いことをした。だから逃げちゃいけねえ。わかるか?」
男「……うん」
女隊長「だったら腹括れ」
男「……うん」
440:
八百屋「連れてきましたよ。隊長さん」
果物屋「どうしたんですか、隊長さん?」
女隊長「あぁ。この前のガキの件だ」
八百屋「おぉ!! 遂に捕まえたんですか!?」
女隊長「いや、私が育てることにした」
果物屋「……はい?」
女隊長「流石に子供を捕まえるわえにもいかなかったからな。だから私が責任を持って育てることにした」
八百屋「正気ですか!?」
女隊長「あぁ。そこでご本人から挨拶がある。おい、男、出てこい」
男「……」ヒュン
果物屋「なっ!? …お前というやつはっ!!」
八百屋「今まで散々やってくれたな!! どうしてくれんだ!!」
男「……ごめんなさい」ペコッ
447:
八百屋「なっ…」
果物屋「い、今更謝ったておせえんだよ!! お前のせいでうちがどんだけ損したと思ってんだ!!」
男「……ごめんなさい」ペコッ
果物屋「謝って許される問題じゃねえだろうが!!」
男「……ごめんなさい」
果物屋「こっ、この…!!」
八百屋「……まぁ待て」
果物屋「なんだよ!? あんたは許すっていうのかよ!? あんだけ盗られて!?」
八百屋「……」スタスタ
男「……」
八百屋「……おい、ボウズ」
男「……はい」
八百屋「なんであんなことをした?」
男「……生きるため」
八百屋「……そうか」
448:
果物屋「生きるためだ? どういうことだよ?」
女隊長「……こいつには親が居ないんだよ」
果物屋「……な、何!? あ、あんなに前からずっと一人だったって言うのかよ…」
八百屋「……おい、小僧」
男「……はい」
八百屋「俺はお前を絶対許さねえ。金も全部払ってもらう」
果物屋「お、おいっ!! 今の話聞いてなかったのかよ!? 俺も事情知らなかったからあんなにキレたがそれを聞くと流石に可哀想じゃ…」
八百屋「……ツケだ」
果物屋「……え?」
男「……」
八百屋「お前、城で働くんだろ? だったらその金でたまにここに買いに来い。それで許してやる」
男「……ごめんなさい」
八百屋「バーカ。そういう時は『ありがとう』って言うんだよ小僧。覚えとけ」
男「……ありがとう」
八百屋「おう」
450:
女隊長「……済まないな」
副隊長「……優しいんですね。皆さん」
八百屋「何。いつもお世話になってんだ。こんくらい屁でもねえさ」
女隊長「…そうか、それは助かる。まっ、今後は贔屓にさせてもらうよ」
八百屋「ははっ、むしろこっちが助かるよ。…それにガキのイタズラくらい許してやれないで何が大人だってな」
女隊長「…あぁ、そうだな。子供の間違いを正してやるのが大人の努めだよな」
副隊長「…そうですね。それができない親が子供を捨てちゃうんでしょうね」
八百屋「あんたらはそんな親になるんじゃねえぞ。あの子を頼むぞ」
女隊長「あぁ。世界で一番素敵な男に育ててやるよ。なんたって私の子供だからな」
八百屋「それは心強い」
女隊長「あとこいつのな」
副隊長「私はついでですか…」
八百屋「ハハッ、早尻に敷かれてんな、親父さんよ」
副隊長「えぇ…。困ったものですよ」
451:
女隊長「それじゃあ私達は行くよ。本当に済まないな」
八百屋「いいってことよ」
果物屋「その代わりこの国のこと、お願いしますよ」
女隊長「あぁ、任せろ。じゃっ、行くか」
副隊長「そうですね、買い物もしなくちゃいけませんしね」
男「……」コクッ
女隊長「じゃあな。またな」
副隊長「それではさようなら」
男「……じゃあね」フリフリ
果物屋「…おう」
八百屋「……おい、小僧!!」
男「……なに?」
八百屋「……たまには顔見せに来いよ」
男「……ありがとう」
452:
_____
___
_
女隊長「ただいまー!! よーしよし、いっぱい買ったな!!」
副隊長「……買いすぎじゃないですか。いくらなんでも」ドッサリ
女隊長「いいんだよ。備えあれば患いなしっていうだろ?」
副隊長「はぁ…。なんだかんだやっぱり女の子なんですね」
女隊長「んだよ。文句あんのかよ」
副隊長「いえ、全くもってないです。重かったなーとか給料大分なくなったな、なんて思ってません」
男「……おじゃまします」
女隊長「…おいおい、男。お前は何を聞いてたんだよ」
男「……?」
女隊長「いいか、ここはもうお前の家だ。私、あいつ、お前の家だ。だから遠慮なんかいらねえ」
男「……」
女隊長「帰ってきたらただいま…だろ?」ニカッ
453:
副隊長「そうですね。その通りです」
女隊長「あと、お前もだ」
副隊長「はい? 何がですか?」
女隊長「今後一切私に敬語禁止」
副隊長「で、ですが立場というものが…」
女隊長「いいか、私達は家族なんだよ、か・ぞ・く。わかるか? 家族で敬語なんか使うんじゃねえ」
副隊長「うっ…。わ、わかり…わかったよ、隊長」
女隊長「…まぁいい。そのうち慣れるだろ。男もだ。私のことは母さん、あいつのことは父さんって呼べ。わかったな」
男「……うん」コクッ
女隊長「返事は『レンジャー!』だ!!」
男「れ、レンジャー!」
副隊長「何やらせてるんで…だか…」
女隊長「よーし!! じゃあ帰ってきたとこからやり直し!!」
男「れ、レンジャー!」
副隊長「はぁ…」
454:
女隊長「ただいまー!! よーしよし、いっぱい買ったな!!」
副隊長「はいはい、ただいま」
女隊長「じゃぁ、副隊長。おかえりのちゅーして?」
副隊長「ば、馬鹿言うんじゃありませんっ///」
女隊長「やれやれ、冗談だっての。顔真っ赤にしやがって」
副隊長「う、うるさい!! いい加減にしなさい!!」
男「……」
女隊長「ほら、男。入ってこいよ」
男「……れ、レンジャー!」
副隊長「いや、もうそれはいいから」
455:
男「……お父さん、お母さん」
副隊長「なんだい」
女隊長「おう、なんだ」
男「…えっと、ただいま」
副隊長「…」クスッ
女隊長「…まっ、最初はそんなもんか」クスッ
副・女「「あぁ、おかえり。男」」
462:
_____
___
_
魔法使い「……誰ですか、男って」
勇者「俺だよ」
魔法使い「どうしてこうなっちゃったんですか!?」
勇者「ハッ倒すぞ」
魔法使い「だ、だってあんなに大人しかった男君がこんな荒んだ大人に!!」
勇者「あんな師匠だったんだ。仕方ねえだろ」
魔法使い「…師匠?」
勇者「ん? あぁ、これから説明していく。眠いならいいが」
魔法使い「いやいや、何言ってるんですか。最後まで聞かせてくださいよ」
勇者「…そうだな、そんじゃ次は俺が国の兵士になった時の話だ」
魔法使い「えぇ!? 本当に兵士になったんですか!?」
勇者「うるせえ。黙って聞け。そうだな、あれは……」
463:
_____
___
_
コンコンッ
元帥「入れ」
女隊長「失礼するでござる」ガチャ
元帥「……お前はまともな敬語も使えんのか」
女隊長「許してくれよ、私は剣しか習ってこなかったんだ。長い付き合いだ、わかってくれ」
元帥「…まぁよい。お前の親父に免じて許してやろう」
女隊長「恩に切るぜ」
元帥「それでなんの用じゃ。まさか遊びに来たわけでもあるまい」
女隊長「わかってるくせによく言うぜ」
元帥「儂の思い違いの可能性もあるからの。一応確認じゃ」
女隊長「だったら要件だけ言うぞ。軍に一人入団させたい」
元帥「うむ。わかった」
女隊長「はええな」
464:
元帥「だから確認じゃと言ったろうに。それともなんじゃ? 断って欲しかったのか?」
女隊長「いや、それは面倒だからやめてくれ」
元帥「だったら良かろうに。はい、入団決定。明日のヒトフタマルマルにロビーで入団式を行う」
女隊長「ったく、適当だなあんたも。いいのかよ、それで」
元帥「いいんじゃよ。それにどうせ書類を提出しろと言ったところで、文面なぞ名前以外書けんじゃろ」
女隊長「それもそうだな」
元帥「だが興味はある。どんなやつなんじゃ?」
女隊長「そうだな。名前は男。これは私がつけたがな。生年月日不明、住所不明だ」
元帥「本当に参考にならん書類になるところじゃったな」
女隊長「本当にな。危うく資源の無駄使いをするところだったよ」
元帥「うむ、紙は大事じゃからな」
女隊長「あんたも髪を大事にしな」
元帥「まだそんな歳じゃなかろうに」
女隊長「以外と老いるのは早いもんだぜ? 気づかぬうちに抜け落ちてるかもしれねえぞ?」
元帥「そうじゃな。だが安心せい。儂の母方の祖父はフサフサじゃったから儂も大丈夫じゃ」
465:
女隊長「それは良かった。親に感謝するんだな」
元帥「感謝しても感謝しきれんくらい感謝しておるよ」
女隊長「そうかい、そりゃいいことだ」
元帥「さて、では儂はもう寝るかの。お前もさっさと寝るんじゃな。肌が荒れるぞ」
女隊長「今更心配されてもおせえよ。どんだけ徹夜させられてると思ってやがんだ」
元帥「文句は曹長に言うんじゃな」
女隊長「全くだ。クッソ、あの野郎、マジで気に食わねえ」
元帥「…気をつけるんじゃぞ。やつは何を考えておるかわからんからの」
女隊長「あぁ。気をつけとくよ。んじゃ私は美容の為に寝るとするよ」
元帥「そうじゃ、女隊長よ」
女隊長「あん? なんだよ?」
元帥「名前は一生物だからな。大切にしてやるんじゃぞ」
女隊長「言われるまでもねえよ」
466:
ガチャ
副隊長「お疲れ様です、隊長」
女隊長「あのなぁ、だから言ってんだろ? 敬語禁止だ」
副隊長「で、ですが今は仕事中…」
女隊長「返事」
副隊長「……わかったよ。それで、認められたの?」
女隊長「あぁ。二つ返事だよ。明日のヒトフタマルマルにロビーだってよ」
副隊長「随分とお早い決定で」
女隊長「あいつは本当に適当だからな」
副隊長「隊長は言えないよ。それにあの人あれでかなりやり手だからね」
女隊長「信じらんねえけどな。人を見抜く才能はかなりのもんだからな」
副隊長「だからこそ元帥なんていう立場に立ててるんでしょうけどね」
女隊長「人には何かしら長所があるもんなんだな」
467:
副隊長「じゃあ早く男に伝えようか」
女隊長「そうだな。あいつまだ起きてんのか?」
副隊長「うん。お母さんが戻ってくるまでは起きてる、って言ってたよ」
女隊長「そうかい。そりゃ嬉しいな」
副隊長「随分懐かれたね」
女隊長「そりゃなんたってお母さんだからな。息子ってのはなんだかんだ言ってマザコンなんだよ」
副隊長「いや、それはどうだろう…」
女隊長「まあいい。さっさと戻ろうぜ。あいつも一人で寂しがってるだろ」
副隊長「そうだね。戻ろうか」
女隊長「手でもつないでいくか?」
副隊長「魅力的な提案だけど遠慮しとくよ」
女隊長「ちぇっ、つれねえな」
468:
ガチャ
女隊長「おい、男。戻ったぞ」
男「……」ボー
女隊長「どこ見てんだよ、あいつ。おい、男。帰ったぞ」
副隊長「ただいま、男」
男「……うん? あ、僕か。おかえり、お母さん、お父さん」
女隊長「おいおい、お前自分の名前まだ覚えてねえのかよ。ていうか今まで何してたんだよ」
男「別に。ボーッとしてた」
女隊長「よく飽きなかったな」
男「慣れてるからね」
女隊長「…そうかい。それよりお前の入団が決まったぞ」
男「……本当?」
女隊長「嘘ついてどうすんだよ。明日の12時にロビー集合な」
男「レンジャー!」
副隊長「まだ言ってるの、それ」
469:
女隊長「んじゃさっさと寝るぞ。歯磨けよ。トイレ行ったか? 漏らすんじゃねえぞ」
男「……うん」コクッ
女隊長「よーし、じゃあ明かり消すぞ。おい、副隊長。お前も早く布団に入れや」
副隊長「え? いやいや、僕の布団は違う部屋にあるんだけど」
女隊長「いいか、家族ってのは皆で寝るもんだ。だからお前も来い」
副隊長「い、いやいや、そこまでは流石に…」
女隊長「お前はこいつに悲しい思いをさせるつもりか? あ?」
男「……」
副隊長「うっ…。わ、わかったよ…」
女隊長「それでいいんだよ。よし、じゃあ男は真ん中な!!」
男「……うん」コクッ
女隊長「そんじゃおやすみー。いい夢見ろよ」
副隊長「落ち着け…素数を数えろ…」
女隊長「テメエは何ブツクサ言ってやがんだ」
470:
女隊長「………」
副隊長「………」
男「………」モゾモゾ
女隊長「なんだ男。寝れねえのか」
男「……うん。こんなフカフカなの初めてだから」
副隊長「………」
女隊長「……そうか。まあ直に慣れる。だから心配すんな」
男「……うん」
女隊長「……」ギュッ
男「……何? 手握って」
女隊長「大丈夫だ。私は居なくならねえ。だから安心して寝な」
男「……うん。おやすみ」
副隊長「………」ギュッ
女隊長「……おやすみ。男」
471:
_____
___
_
チュンチュン
女隊長「お前ら新しい朝だー!! 希望の朝だ!! 喜びに胸を開け!! 大空仰げ!!」バサッ
副隊長「う、う〜ん。もう朝ぁ…」
男「……おはよう」
女隊長「おっ、随分男は目覚めが良いな。それに比べてお前は何だ副隊長。シャキっとしろシャキっと」
副隊長「朝は弱いんだよ…。おはよう」フワァ
女隊長「なんだよ、お前。枕が変わると寝れないタイプかよ」
副隊長「そういうことにしといて」
副隊長(素数数えすぎたとは言えないし)
女隊長「んじゃ、さっさと朝飯にすんぞ。私は腹が減った。朝飯をご所望だ」
副隊長「…まさか僕に作れと?」
女隊長「そういうこと」
副隊長「…はぁ。まあいいけどね」
472:
副隊長「だけど料理できないようじゃ苦労するよ」
女隊長「うるせえな。いいだろ、お前が作れるんだからよ」
副隊長「…はぁ、やれやれ。君の夫は大変だね」
女隊長「うるせえな。その分私が稼いでくるから許してくれ」
副隊長「…妻より稼ぎの少ない夫って」
女隊長「別にいいだろ。そのうち女の方が強くなる時代が来るっての」
副隊長「はぁ…。面目丸つぶれだよ」
女隊長「愛さえあれば問題ないだろ」
副隊長「あればね」
女隊長「…ないのかよ」ショボン
副隊長「え? あ、いや、そういうわけじゃ!!」
女隊長「だったらさっさと飯を作れ!!」
副隊長「……ちょっとグッと来た僕がバカだったよ」
473:
______
___
_
女隊長「そんじゃ両手を合わせて〜」
「「いただきます!!」」
男「……いただきます」
女隊長「ん〜!! 美味い!! おかわり!!」
副隊長「食べるの早すぎだよ。ちゃんと噛んで。あと朝から食べ過ぎじゃない?」
女隊長「良いんだよ、朝飯は力の源だ。ちゃんと食わねえと一日元気に過ごせねえよ」
副隊長「まぁそうだけど限度があるよ。太るよ?」
女隊長「その分動いてっからいいんだよ」
男「……ご馳走様」
女隊長「…はあ? お前全然食ってねえじゃねえか」
副隊長「あ、あれ? 口に合わなかった?」オロオロ
男「……お腹いっぱい」
女隊長「……まぁ今まで果物一個とか過ごしてきたらそんなもんか。でもちゃんと食わねえと大きくなれねえぞ? ただでさえそんなほっせえ体してんだからよ」
474:
男「……夜食べる」
女隊長「……仕方ねえか。少しずつ食う量増やしていけよ。今日からお前も国の兵士だ。体力もたねえぞ」
男「…うん」コクッ
副隊長「でも時間まで大分あるけどどうするの?」
女隊長「とりあえずゆっくりしてようぜ。珍しく私も暇だしな」
副隊長「そうだね。じゃあ僕は食器を片付けるよ」
女隊長「すまんな」
副隊長「そう思うなら少しは家事覚えてよ」
女隊長「まっ、そのうちな」
副隊長「やれやれ」ハァ
女隊長「男ー。遊ぼうぜー」
男「…うん」コクッ
女隊長「とりあえずこれが花札な。いいかー、ルール教えるから覚えろよ」
男「…うん」コクッ
副隊長「あなたは何を教えてるんですか!!」
475:
______
___
_
女隊長「そんじゃそろそろ行くか」
男「…うん」コクッ
副隊長「うわー、めっちゃ花束上手くなってるよ」
女隊長「将来ギャンブラーになりそうで怖いな」
副隊長「だったら教えるなよ!!」
女隊長「男、とりあえずこれに着替えろ」
男「…うん」コクッ
副隊長「随分立派な軍服だね。僕なんて最初お下がりだったのに」
女隊長「まあこいつに合うサイズなんてなかったからな」
副隊長「隊長のは?」
女隊長「あん? なんだ、私の過去知ってんのかよ。ストーカーかよお前」
副隊長「違うよ!! 元帥から聞いたんだよ!!」
476:
女隊長「何だよ、だったら最初から言えよ」
副隊長「言う暇もくれなかったくせによく言うよ」
女隊長「まああれだ。私がそんな物持ちいい訳ねえだろ」
副隊長「…まぁ確かに」
男「……着替えた」
女隊長「ん? おー、よく似合ってるじゃねえか」
副隊長「本当だね。うん、いいと思う」
女隊長「よし、男良いか? お前は今から軍人だ。軍人たるもの弱い姿は見せてはいけない。わかったか」
男「……うん」コクッ
女隊長「返事が小さい!! 蚊みてえな音出してるんじゃねえ!! テメエの口は何のためについてやがる!! もっと声を張れ!! それと返事はレンジャーだ!!」
男「れ、レンジャー!」ビシッ
女隊長「よーし!! では作戦に移る!! 今回の任務は『ロビーへの集合』だ!! 遅れるんじゃねえぞ!! ついてこい!!」
男「レンジャー!」ビシッ
副隊長「何やってんのさ、二人共…」
477:
_____
___
_
元帥「皆の者集合したか」
「「「「「はっ!!」」」」」
元帥「それでは本日より新しく入団した者を紹介する。男、参れ」
男「レンジャー!」ビシッ
元帥「れ、レンジャー?」
女隊長「あいつマジでやりやがった」クスクス
副隊長「あなたは……」
男「……えっと、本日より入団させて頂くことになった男です。よろしくお願いします」
パチパチパチ
元帥「う、うむ。では貴様は暫くの間女隊長の指導のもと訓練に励め。良いな?」
男「レンジャー!」
元帥「げ、元気があってよろしい」
女隊長「ぶふっ!!」
副隊長「あなたは何仕込んでるんですか…」
478:
元帥「それではこれで解散とする!! 各自所定の場所へ戻れ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
女隊長「おう、男お疲れさん」
男「……完璧?」
女隊長「ああ、最高だったよ」
副隊長「違う意味でですけどね…」
男「……?」
元帥「おい…女隊長。貴様は何をしておるのだ…」
女隊長「おぉ、これはこれは元帥。お疲れ様でございました」
副隊長「本当にお疲れ様です…」
元帥「お疲れ様ではないはドアホ。貴様はいたいけな子供に何を教えておるのだ」
女隊長「完璧だったろ?」
元帥「笑いこらえるのに必死じゃったわ」
副隊長「あーあなたもそっち側でしたか」
男「……?」
479:
元帥「とりあえずそいつのことは頼むぞ。生かすも殺すも貴様次第じゃ」
女隊長「おう、任せろ。世界に名を轟かす男にしてやるよ」
副隊長「……変なふうに轟かせそうで怖いですけどね」
元帥「一応訓練所の申請はしておる。今後も使うようであれば随時申請しといてくれ」
女隊長「おう、何から何まですまんな」
元帥「そう思うんじゃったら問題を起こすでない。処理するこっちの身にもなれ」
女隊長「あぁ、善処しとくよ」
副隊長「本当に申し訳ありません…」
元帥「うむ、それでは副隊長。男と女隊長を頼むぞ」
副隊長「はい」
女隊長「は? 私も頼まれるの? どゆこと?」
副隊長「わかってください、20歳児」
480:
女隊長「なるほど、わからん。おい、男行くぞ」
男「……うん」
副隊長「早訓練するの?」
女隊長「そりゃな。私だけサボるわけにもいかねえだろ」
副隊長「そっか。じゃあ男、頑張ってね」
男「……うん」コクッ
女隊長「よし、じゃあ行くぞ!! 着いてこい!! 男二等兵!!」タッタッタ
男「レンジャー!」タッタッタ
副隊長「やれやれ…。いつ直すんだか」
481:
-訓練所-
女隊長「よし、では今から訓練を行う!!」
男「レンジャー!」
女隊長「それと訓練中は私のことを師匠と呼べ!! わかったか!!」
男「レンジャー!」
女隊長「よーし!! では貴様、志望する武器はあるか!!」
男「…レンジャー」スッ
女隊長「あん? 何だ、お前。一丁前に長剣がいいのか?」
男「レンジャー」コクッ
女隊長「自惚れるな馬鹿者!!」
男「れ、レンジャー!」ビクッ
女隊長「貴様に長剣など10年早いわ!! 貴様の様な貧弱な体で長剣が扱えるものか、馬鹿者!!」
男「れ、レンジャー!」
482:
女隊長「おい、貴様!! 何故長剣がいいと思ったんだ?」
男「…師匠が使ってるから」
女隊長「……そうか。それは素晴らしい理由だ。だがしかーし!! 貴様には早い!!」
男「れ、レンジャー!」
女隊長「戦場とは生き物だ!! いつどう戦況が変わるかもわからん!! そんな中扱いづらい武器など使って何になる!! かっこよさなど二の次だ!! 恥を知れ!!」
男「レンジャー!」
女隊長「そんなもやしの様な見窄らしい体をした貴様にはこれで十分だ!!」
男「……ナイフ? これで勝てるの?」
女隊長「誰が口答えしていいと言った!! 返事は全てレンジャーだ!!」
男「れ、レンジャー!」
女隊長「いいか!! 殺すのに武器などさほど重要ではない!! 其の辺の石でも充分凶器になる!! 使えるものは全て使うのだ!! 貴様にはそれを学んでもらう!! わかったか!!」
男「レンジャー!」
女隊長「よーし!! では早訓練に入る!! 準備は良いか!!」
男「レンジャー!!」
484:
女隊長「貴様にはまずこの『処刑君一号』を相手にしてもらう!! こいつは動かないただの木偶の坊だが同じ木偶の坊のお前にはこれで十分だ!!」
男「レンジャー!」
女隊長「良いか、まず基本的な戦い方だが一番最初に足を狙う!! 何故だかわかるか!!」
男「レンジャー!」
女隊長「そうだ!! 敵の機動力を奪うためだ!! 機動力さえ奪ってしまえば木偶の坊となんら変わりない!! その後ゆっくり敵を倒せばいいのだ!! わかったか!!」
男「レンジャー!」
女隊長「では行けっ!! まず足を斬るのだ!! その後背後に周り首を狙え!!」
男「レンジャー!」ヒュン
スパッ
ヒュン
スパッ
女隊長「…あ」
男「レンジャー!」ヒュン
女隊長「あぁ…。そうだ、こいつ移動魔法使えるんだ…。懐に入るための方法とか教える必要ないじゃん…」
487:
-城-
女隊長「……ふぅ」ギシッ
コンコンッ
女隊長「入れー」
ガチャ
副隊長「お邪魔するよ」
女隊長「おう。なんだ。何の用だ」シュボッ
副隊長「また煙草かい。体に悪いよ」
女隊長「あいつの前じゃなかなか吸いづれえだろ。許してくれよ」フゥー
副隊長「だったらこれを機にやめればいいじゃないか」
女隊長「そんな簡単にやめれるんだったらとっくにやめてるよ」
副隊長「今年からじゃないか吸い始めたの…」
女隊長「うるせえな。で、何の用だよ」
副隊長「いや、対した用じゃないんだけどね」
489:
女隊長「だったら家で話せよ。私もこれ終わらせたら帰るからよ」
副隊長「いや、流石に本人の前で聞くのはどうかなって思ったからさ」
女隊長「男の話か?」
副隊長「そうそう。どうだったの、訓練は?」
女隊長「はぁ…。どうもこうもねえよ」
副隊長「そんなにダメだったの?」
女隊長「いや、逆だ。あいつは100年に1人の実力だ」フゥー
副隊長「……え?」
女隊長「あいつは強すぎる。あとひと月も訓練すれば実践で使えるレベルだ」
副隊長「そ、そんなに強いの!?」
女隊長「あぁ。移動魔法があそこまで強いと思わなかったよ」
副隊長「そうか…。それがあれば基本動作はほとんど必要ないもんね…」
女隊長「そういうことだ。あと1月で人体の構造や隊形を教えて移動魔法の精度上げて応用法を教えりゃ並みの上等兵よりいい仕事をするだろ」
副隊長「そ、そこまで…」
女隊長「あぁ…。恐ろしい逸材だ」
491:
副隊長「……その割には嬉しくなさそうだね」
女隊長「……そうだな」
副隊長「…やっぱり実践に送り出すのは嫌なの?」
女隊長「…あぁ。いくら使えるからってあまりにも若すぎる」
副隊長「でも隊長もこのくらいの歳には入団してたんじゃないの?」
女隊長「バカタレ。私は普通の人間だ。訓練やら研修やら含めてやっていたら実践に出る頃には12にはなってたよ」
副隊長「…そう考えると異例すぎるね」
女隊長「ああ。だから私はまだ時期尚早だとは思う。だが実力は申し分がなさすぎる」
副隊長「…悩み所だね」
女隊長「本当にな。…流石にこんな若さから血を見せたくはないからな」フゥー
副隊長「そうだね。でもまぁ、何も事件が起きなければ問題ないんでしょ」
女隊長「…そうだな。何もないことを祈るしかねえな」
副隊長「フフッ。優しいね、隊長は」
女隊長「…あぁ。これが母になるってことなのかもしれねえな」
492:
-1ヶ月後-
男「…移動魔法」ヒュン グサッ!
女隊長「…完璧だ。移動魔法の使い方もバリエーションが増えたしな。…合格だ。もう私に教えることは何もない」
男「……師匠」
女隊長「おめでとう!! 貴様は無事長きに渡る訓練を終えた!! 今日をもってここを卒業だ!!」
男「……師匠!!」
女隊長「もう私はお前の弟子などではない!! 立派な兵士だ!! 胸を張って国の為に尽くすがいい!!」
男「……いえ、師匠はいつまで経っても師匠です! 自分は師匠の弟子であることを誇りに思います!」
女隊長「くっ…。泣かせることを言うでない!! さあ!! とっとと荷物をまとめて出て行け!!」
男「師匠!」
女隊長「…返事はどうした。いつものあの返事はどうした!!」
男「うっ……ですが…」
女隊長「…頼む。最後の師匠命令だ」
男「うっぐ…、れ、レンジャー!!」
副隊長「台本持たせて何やってるんですか」
493:
女隊長「おい、馬鹿。良いところだっただろうが」
副隊長「いやいや、何してんの」
女隊長「何って見りゃわかんだろ。今から部屋に戻るところだよ」
副隊長「少しもそんな雰囲気なかったよ!!」
女隊長「で、なんだよ。大事なとこ邪魔したんだからそれなりの用事なんだろ?」
副隊長「あ、あぁ、うん。元帥が呼んでたよ」
女隊長「あ? なんでだよ?」
副隊長「僕も知らないよ。また何かしたんじゃないの?」
女隊長「なんでお前は真っ先に私が悪いと思うんだよ」
副隊長「今までのことを思い出してみなよ」
女隊長「馬鹿野郎!! 人間の目はな、未来を見るために前についてんだよ!!」
副隊長「いい台詞が台無しだよ!!」
女隊長「ちっ、仕方ねえ。訓練が終わった報告も兼ねて元帥のところ行ってくるか」
副隊長「そうしてよ。僕は男を連れて部屋に戻ってるから。行くよ、男」
男「……」コクッ
494:
コンコン
元帥「入れ」
ガチャ
女隊長「おい、なんだよ。折角いいところだったのに邪魔しやがって」
元帥「いや、貴様らに何があったかなぞ知るわけもなかろう。兎に角座れ」
女隊長「…なんだよ、大事な話かよ」
元帥「あぁ。それもとびっきりな」
女隊長「…じゃあ座らせてもらうよ。それでなんだよ」ギシッ
元帥「実はな、地下牢から数名盗賊が脱獄したらしい」
女隊長「……なんだと?」
元帥「詳しい時間などはまだわかっておらん。先ほど見張りが交代を告げに行った時に牢が開いてるのを発見したそうじゃ」
女隊長「…ということは長くて3時間か」
元帥「そのようじゃな。そこで貴様らの小隊にそいつらを捕まえて欲しいとの要請が来た」
女隊長「なるほどな。よし、わかった」
元帥「それとな……」
495:
女隊長「なんだよ。他にも何かあるのかよ?」
元帥「…男の訓練は終わったのか?」
女隊長「ああ。それがどうした」
元帥「…今回の任務には男も加わって欲しいとのことだ」
女隊長「…なんだと?」
元帥「今回の任務は貴様らの小隊に男を加え任務に望んで欲しいとのことだ」
女隊長「なっ!? ふざけんな!! なんであいつもなんだよ!!」
元帥「落ち着け、隊長。貴様の気持ちもわからんでもない」
女隊長「だったら何故!!」
元帥「まず今の軍の現状じゃ。先の争いによって多くの人を失った。だから一刻も早く即戦力が欲しいというのが現状じゃ」
女隊長「だがいくらなんでも!!」
元帥「…そして男の育った環境じゃ。それに不信感を持っているやつらも多い。本当に信用にたる人材なのか、とな」
女隊長「……」
496:
元帥「これが会議で出た意見じゃ。儂も反対したんじゃが…力及ばずに済まない」
女隊長「……いや、私も熱くなりすぎた。悪い」
元帥「ということだ。申し訳ないが頼む。引き受けてはくれないか?」
女隊長「……あぁ。わかったよ」
元帥「…大きな声じゃ言えんがこの件、曹長が大きく関わっているという噂がある」
女隊長「……何?」
元帥「気をつけるんじゃぞ。なんじゃったら男はその場に居させるだけでもいいと儂は思っておる」
女隊長「…そうさせてもらうよ」
元帥「くれぐれも気をつけるんじゃぞ」
女隊長「ご忠告感謝するよ」
498:
男「……」
女隊長「どうした、男? 緊張してんのか?」
男「……」フルフル
女隊長「そうか、そりゃ心臓に毛が生えてるこった」
副隊長「…しかし、曹長は何を考えてるんだ。こんな子供に任務を与えるなんて」
女隊長「…私にもわからん。だが男には指一本触れさせねえ!!」ギリッ
副隊長「…そうだね。さっさと片をつけよう」
女隊長「行くぞ男!! 私に着いてこい!!」
男「レンジャー!」
499:
盗賊1「おーい、誰もいねえのかよ。こっちから出てきてやったんだ。出てこいよ」
盗賊2「おいおい、国の兵士が怖気づいてんのか? あぁん?」
兵1「居たぞ!!」
盗賊3「お、やっとこお出ましか。待ちくたびれたぜ?」
女隊長「総員かかれ!!」
「「「「はっ!!」」」」
男「レン…え?」グイッ
女隊長「お前はもうちょいここで待ってな」
男「……」コクッ
女隊長「そいつのことは頼むぞ、副隊長さんよ!!」
副隊長「うん、任せて」
盗賊4「おら、来いよ!! ぶっ潰してやるぜ!!」
兵2「それはこっちのセリフだ!!」ダッ
盗賊5「今までの鬱憤ここで晴らすぜー!!」
500:
兵3「はああああ!!」
盗賊4「おらよっ!!」ブンッ
兵3「がはっ!!」ズバッ
盗賊6「ハハハハ!! 弱えんだよお前ら!!」ブンッ
兵4「くっ…。こいつら強い…」キンッ
盗賊2「違えよ!! お前らが弱すぎるんだよ!!」ブンッ
兵5「だああああっ!!」ズバッ
盗賊1「何が国の兵士だ!! 聞いて呆れるぜ!!」ブンッ
兵7「くっ!!」ズバッ
副隊長「そ、そんな…。まるで歯が立たない…」
男「……」
盗賊3「よええ!! 弱すぎるぜ!! もっと骨のあるやつは居ねえのかよ!!」
女隊長「…おい、お前ら。私が相手してやるよ」
501:
兵1「た、隊長…。すみません…」
盗賊2「ほう…。なかなかいい女じゃねえか」
女隊長「そりゃどうも。あんた見る目あんじゃん」
盗賊3「カッカッカ!! 強気だね!! 気に入った!!」
盗賊5「ちゃんと俺にも回せよ!! 溜りに溜まってんだ!!」
女隊長「やれやれ、品のねえ男共だな。安心しな。すぐにまた豚小屋に叩き込んでやるからよ」
盗賊4「言うねえ。できるもんだったらやってみな!!」ダッ
盗賊1「いくぜ、お前ら!!」ダッ
「「「「「おうっ!!」」」」」
女隊長「ふん、自ら私の懐に入ってきてくれるなんてありがたい限りだね」
盗賊3「カッカッカ!! 今すぐ身包み剥がしてやるよ!!」ダッダッダ
女隊長「そんなに死に急いでどうすんだよ。まっ、そんなに死にたきゃ願ってやるよ」
女隊長「死神のご加護がありますようにってな!!」
505:
盗賊1「馬鹿が!! 死ぬのはそっちだよ!!」ブンッ
女隊長「バーカ。誰がそんな攻撃当たるかよ」ヒョイ
盗賊1「なっ!?」
女隊長「攻撃ってのはな、こうやってやるんだよ!!」ブンッ
盗賊1「ぎゃああああああああああ!!」ズバッ
盗賊2「何やられてんだよ、馬鹿が!!」
女隊長「馬鹿はお前だよ。どこ見てんだ」ブンッ
盗賊2「い、いつの間…ぐわああああああああああ!!」ズバッ
盗賊3「おいおい、マジかよ…」
盗賊4「な、なんだこいつ、やべえぞ!!」
女隊長「そいつに喧嘩売ったのはお前らだよ!!」ズバッ
盗賊3「かあああああああああああああ!! 足があああああああああああ!!」
盗賊4「があああああああああああ!!」
盗賊5「ま、待て!! やめ、ああああああああああああああああああ!!」ズバッ
女隊長「待てって言われて待つ馬鹿がどこにいんだよ」
506:
盗賊6「お、俺らが悪かった!! だから待ってくれ!!」
女隊長「武器を向けたろ?」
盗賊6「…え?」
女隊長「人に武器を向けてたってことはよ、殺す覚悟と死ぬ覚悟があったってことだろ?」
盗賊6「そ、それは…」
女隊長「そんな覚悟のない奴が武器を人に向けてんじゃねえよ!!」
盗賊6「す、すいま…があああああああああああああああああ!!」ズバッ
女隊長「ったく、私もとんだ甘ちゃんだね」
女隊長「……峰打ちだ、馬鹿共」
副隊長「さ、流石隊長…」
男「……すごい」
兵2「た、隊長!! 流石です!!」
女隊長「お前らお疲れさん。そいつらを連れてってさっさと休みな」
兵3「はっ…すみません」
女隊長「誰かが誰かをカバーする。それがチームだろうが」
507:
兵4「隊長…」
女隊長「おら、さっさとそいつらを連れて行きな」
兵5「はっ!」
兵6「よし、お前ら運ぶぞ!!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
女隊長「うむうむ。良きかな良きかな」ウンウンッ
「甘えんだよ、バーカ」
女隊長「なっ!! が…っ!!」ズバッ
副隊長「隊長!!」
男「…っ!!」
盗賊7「だーれが6人って言った? あん?」グイッ
女隊長「くっ…。しまった…」
508:
兵7「き、貴様!! 隊長を離せ!!」
盗賊7「誰が離すか。仲間を散々やってくれたようじゃねえか」
女隊長「ぐっ…。お前らはさっさとそいつらを牢にぶち込め!!」
盗賊7「誰が喋っていいって言ったよ!!」ザクッ
女隊長「が……っ!?」
兵3「隊長!!」
女隊長「いいから早く行け!!」
盗賊7「黙れって言ってんだろ!!」ザクッ
女隊長「あああああああああああああ!!」
兵4「…くっ!! 隊長に従え!! 行くぞお前ら!!」
「「「「「「…はっ!!」」」」」」ダッ
盗賊7「おいおい、行っちまったぞ。随分薄情だな、おい」
女隊長「…ばーか。…上官の言うことを聞くのは当たり前だろうが」ボタボタ
盗賊7「…そうかよ。だったら残念だったな。誰にも看取られず死にな!!」
509:
男「やめろ!!」
盗賊7「……あん?」
副隊長「お、男!!」
女隊長「ば、バカ!!」
男「師匠に酷い事するな!!」
盗賊7「おいおい、どうしたんでちゅか〜僕? 迷子でちゅか〜?」
女隊長「や、やめろ!! お前は隠れてろ!!」
盗賊7「あん? テメエは喋んじゃねえよ!!」グイッ
女隊長「ぐっ…っ!!」
男「やめろ!!」
盗賊7「おいおい、誰に舐めた口聞いてんだよ? ぶっ殺すぞ、ガキが?」
女隊長「男!! やめろ!! 逃げろ!!」
男「……」キッ
510:
盗賊7「…気に入らねえガキだ。潰す」
副隊長「男!! やめなさい!!」
女隊長「男やめろ!! 頼む!!」
男「……」
盗賊7「かかってこいよ、クソガキがっ!!」
男「……レンジャー」
ヒュン
盗賊7「…あん?」
ヒュン
男「……死ね」
盗賊7「なっ!?」
女隊長「やめろおおおおおおお!! 男おおおおおおおおおおおお!!」
スパッ
ゴロンッ…
ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
511:
男「……」ポタポタポタ
女隊長「あっ……あっ……!!」
副隊長「………くっ」
女隊長「男!! どうして!!」
男「……大丈夫、師匠?」
女隊長「なんで!! なんで殺しちまったんだよ!!」
男「……訓練の成果出た?」
女隊長「男っ!!」
男「……僕悪いことしたの?」
女隊長「そうだよ!! 殺しちゃ駄目だろ!!」
男「……そっか」
トコトコ
女隊長「…男?」
男「……ごめんなさい」ペコッ
女隊長「━━━━━━━━っ!!」
512:
男「……許された?」
副隊長「……」
女隊長「…………」
男「……師匠?」
女隊長「……帰ろう、男」
男「……レンジャー」ビシッ
女隊長「………うっ」ダキッ
男「……どうしたの、師匠?」
女隊長「………ううっ」ギュッ
男「……血、付いちゃうよ?」
副隊長「……隊長、戻りましょう」
女隊長「……あぁ」
男「……?」
513:
-城-
女隊長「………」
コンコンッ
女隊長「……どうぞ」
ガチャ
副隊長「……失礼するよ」
女隊長「……悪いな、報告頼んじまって」
副隊長「いや、大丈夫だよ。そっちこそ怪我は大丈夫?」
女隊長「……あぁ、なんともないよ」
副隊長「…そっか」
女隊長「…あぁ」
副隊長「……男は寝たよ」
女隊長「……そうか」
副隊長「……うん」
515:
女隊長「……なぁ、副隊長」
副隊長「…何?」
女隊長「…私は母親失格だ」
副隊長「そ、そんなこと!!」
女隊長「慰めはやめてくれ」
副隊長「……」
女隊長「…私は息子に人殺しをさせちまった。私のせいでな」
副隊長「……」
女隊長「それに聞いたか? 死体に向かって『ごめんなさい』だってよ。ははっ、なんだよ、それ…っ」
副隊長「……隊長」
女隊長「…私はあいつに何も教えれなかった。戦いしか教えれなかった。大事な事を何一つ教えてやれなかったんだ。1ヶ月何してたんだってな」
女隊長「なあ…。私は何すればいいのかわかんねえ…。私はどうすればいいんだよ…。私は何を教えりゃいいんだよ…」
副隊長「………」
女隊長「結局私は剣しかねえのかよ…。子供一人育てられねえのかよ!!」
517:
ギュッ
女隊長「……」
副隊長「……ごめん、僕も悪いんだ。僕も何もしてあげれなかった」
女隊長「……」
副隊長「ご飯作って、一緒に寝るだけ。他のことは全部隊長に任せきり。何が父親だよ」
女隊長「……」
副隊長「…だから隊長だけが背負い込むことじゃない。僕にも責任がある」
副隊長「犯してしまった罪は消えない。だからこれからその罪を償っていくしかないよ」
副隊長「人の目は未来を見るために前についてるんでしょ?」
女隊長「……」
パンパンッ!!
副隊長「た、隊長!?」
女隊長「…って〜、染みるな。でも目が覚めた。そうだよな、母親が凹んでる場合じゃねえよな」
副隊長「…うん。しっかり男を育てていこうよ」
女隊長「あぁ。どこに出しても恥ずかしくねえ男にしてやるよ!!」
518:
-翌日-
ガチャッ
女隊長「…失礼します」
副隊長「失礼します」
男「…します」
元帥「…来たか。まあ座るがいい」
ギシッ
元帥「…それで今回貴様らを呼んだのは他でもない。昨日の件だ」
副隊長「……はい」
元帥「……男。貴様があやつを殺したのか」
男「……」コクッ
元帥「……そうか」
519:
元帥「…何故じゃ。何故殺したのだ?」
男「……師匠が危なかったから」
元帥「…師匠?」
女隊長「私のことです」
元帥「むっ、そうか…。隊長が危なかったから殺した、そういうわけじゃな?」
男「……」コクッ
元帥「…そうか。よかろう。だったら正当防衛じゃ。今回はお咎めなしじゃ」
副隊長「元帥…」
女隊長「…ありがとうございます」
元帥「うむ。ではもう良い。下がれ」
「ちょっと待ってくれませんかねぇ?」
元帥「……」
男「……?」
520:
「そいつはどうですかねぇ? 私にはそうは思えませんねぇ?」
元帥「ノックをせずに入ってくるとは些か非常識ではないか? 曹長よ」
曹長「あぁ、これは失敬」
元帥「それで…どういう意味じゃ。曹長。説明せよ」
曹長「いや、ですからそのままの意味ですよぉ。私には彼が明確な意思を持って殺したのではないか…そう言ってるんですよぉ」
元帥「何故そう思うのじゃ?」
曹長「簡単ですよぉ。そんなどこから来たかもわからない子供ですよぉ? そんな子の言うことを信用するんですかぁ?」
女隊長「貴様…っ!!」
副隊長「落ち着いて、隊長!!」
女隊長「…くっ!!」
曹長「それに育ててるのが隊長ですよぉ? 敬語もまともに使えない奴が育てた子なんて人格が歪むに決まってるじゃないですかぁ」
男「……師匠の悪口、許さない」
曹長「…はいぃ?」
男「……斬る」チャキ
女隊長「男!! やめろ!!」
521:
曹長「ほらぁ、見てくださいよ元帥。このようにすぐ暴力で解決したがるぅ。そんな子がまともなはずないじゃないですかぁ」
元帥「…貴様も口が過ぎるぞ、曹長」
曹長「おやおやこれは失敬。ですがこれでわかっていただけたでしょうぅ? どれほどこの子が危険かぁ?」
元帥「……貴様は男をどうするつもりじゃ?」
曹長「何、私も鬼じゃないですぅ。私が責任持って育てますよぉ」
女隊長「…何?」
元帥「…どういうつもりじゃ、曹長」
曹長「いえ、実力は今回の件で充分わかりましたぁ。ですから私がしっかり教育すればぁ、国にとってかなり有益になるじゃないですかぁ?」
元帥「だったら隊長でも変わりないではないか」
曹長「その結果があれですよぉ? 信用できるんですかぁ? 今後何人も殺すようでは国の名誉も下げることになるんですよぉ?」
女隊長「させません…」
曹長「はいぃ?」
女隊長「そのような事決してさせません!! 私がしっかり指導します!! 今後同じようなことは絶対にさせません!!」
曹長「おやおやぁ、今後同じようなことがあればあなたの首もかかってくるんですよぉ? お父様から受け継いだ大事な大事な役職を手放すことになるんですよぉ?」
男「……」
522:
曹長「もしたかが子供のせいで職を失ったとなればぁ、お父様もさぞ悲しむことでしょぉ。いいんですかぁ? お父様を裏切ることになってもぉ? ハイリスクノーリターンですよぉ?」
女隊長「…それでも」
曹長「はいぃ?」
女隊長「それでも!! 私はこの子を育てます!! 大事な息子なんです!! 家族なんです!! 息子の間違いを正してやるのが親の使命なんです!!」
曹長「…ほぉ」
副隊長「…責任でしたら私も取ります」
曹長「おやおやぁ、副隊長。あなたはもっと利口な人だと思っていたんですがねぇ」
副隊長「…私も彼の父親です。確かに血は繋がっていないかも知れません。ですが、私にとっては大事な息子なんです!!」
男「……」
曹長「…やれやれ、そんな子供の何が大切なのか私にはわかりませんがねぇ」
元帥「曹長」
曹長「はいはい、わかりましたよぉ。まぁ、精々今後問題を起こさないようにしてくださいねぇ? 次起こしたら…わかってますねぇ?」
女隊長「…はい」
副隊長「…畏まりました」
523:
曹長「まっ、今回はこれでよしとしましょぉ。ではぁ、私は失礼しますぅ」
ガチャッ
元帥「…ったく、何しに来たんじゃか、あの男は」
男「……ごめんなさい」
副隊長「……」
女隊長「男、お前は今何に対して謝ってんだ?」
男「……僕が悪いことしたから」
女隊長「何が悪いことだったんだ?」
男「……わかんない」
女隊長「馬鹿野郎!!」
パンッ
男「……っ」
副隊長「隊長!!」
元帥「……」
524:
女隊長「…私がなんで叩いたかわかるか?」
男「……僕を嫌いになったから」
女隊長「馬鹿野郎!! ちげえだろうが!!」
ギュッ
男「……師匠?」
女隊長「クソッ…。私は何してたんだよ…」
男「……泣いてるの?」
女隊長「…何で泣いてると思う?」
男「…悲しいから」
女隊長「何で悲しいんだ?」
男「……わかんない」
女隊長「……っ!!」
副隊長「隊長…」
元帥「……」
525:
女隊長「…男。人を殺すことはイイ事か? ダメなことか?」
男「……ダメなこと?」
女隊長「…そうだ。なんでダメだと思う?」
男「……わかんない」
女隊長「……それは死んだら生き返らないからだ」
男「……死んだらダメなの?」
女隊長「……あぁ、駄目だ」
男「……なんで?」
女隊長「…悲しむ人が居るからだ」
男「……どうして?」
女隊長「…お前は私が死んだらどう思う?」
男「……死んじゃうの?」
女隊長「仮の話だ、バカッ」
男「……悲しい」
526:
女隊長「じゃぁお前が死んだら私がどう思うと思う?」
男「……わかんない」
女隊長「…悲しいに決まってんだろうが」ギュッ
男「……どうして?」
女隊長「…好きだからに決まってんだろうが」
男「……好きって何?」
女隊長「…居なくなったら嫌だってことだ」
男「……じゃぁ僕師匠好き」
女隊長「…そうか、ありがとうな」
男「……うん」
女隊長「…じゃぁその好きな人が人を殺したらどう思う?」
男「……悲しい」
女隊長「……どうしてだ?」
男「…好きな人が悪いことした。だから悲しい」
女隊長「…そうだ。じゃぁ私はなんで怒った?」
527:
男「……僕が人を殺したから」
女隊長「…そうだ。じゃあ私はなんで叩いた?」
男「…僕が悪いことをしたから怒ったから」
女隊長「…どういう気持ちで叩いた?」
男「……もうしちゃダメって思いで叩いた」
女隊長「……あぁ、そうだよ…。そうなんだよ」ギュッ
男「……ごめんなさい」
女隊長「…それはどういう意味のごめんなさいだ」
男「……人を殺してごめんなさい。悲しませて、怒らせてごめんなさい」
女隊長「……もうしないか?」
男「…うっぐ、しません。…もうしません、ごめんなさい」
女隊長「……もうするんじゃねえぞ、バカッ」グスッ
男「……うっぐ、うわああああああああああああああああああん!!」
女隊長「……よしよし。わかればいいんだよ」ナデナデ
528:
元帥「……流石だな」
副隊長「……えぇ。私はまた何も出来ませんでした」
元帥「…お前は隊長を支えてやってくれ。育児に不安になることも多いはずじゃ。お前はその悩みを聞いてやるんじゃ。それが夫の努めというもんじゃ」
副隊長「……はい、わかりました」
元帥「今後も大変なこともあるはずじゃ。何度も何度も挫けそうになることもあるじゃろう。だが、貴様らなら乗り越えられる。そうじゃろう?」
副隊長「……はいっ」
元帥「うむ。それでは引き続き男を頼んだぞ」
副隊長「…はい」
男「うわああああああああああああん!! ああああああああああ!!」
女隊長「もう泣くんじゃねえよ…。こっちまで釣られるだろうが…バカッ」グスッ
531:
人を殺す技術教えといて殺しちゃ駄目って…
女隊長も死神のご加護とか言ってるくせに殺しはできないと
540:
沢山のコメントありがとうございました!
>>531
自衛隊のように殺す訓練をしても殺しをしないところもあります。
軍対軍の戦争の場合、殺さずに捕虜として生かしておくことができます。
このように殺す訓練をしても殺さないでおくことができるはずなんです。
むしろ殺す訓練をしているからこそ、殺さずに相手の動きを奪うことだってできるはずです。
女隊長はそんな風に育てたかった…んだと思います!
設定甘いところとかあるかもしれませんが許してください!
では今日は短めに投下して行きます!
541:
_____
___
_
勇者「その後もまぁ、色々問題はあったが俺は師匠のおかげでなんとか乗り越えてきた」
魔法使い「……感情って難しいんですね」
勇者「あぁ。形に見えねえからな。それが良いところでもあり悪いところでもあるんだろうけどな」
魔法使い「師匠さん相当苦労したんでしょうね…」
勇者「本来人と関わることで自然と身につくものだろうからな。それを一からとなるとなかなか大変だったろうな」
魔法使い「師匠さんに感謝ですね」
勇者「全くだ」
魔法使い「それ以降勇者様は人をその…殺しはしなかったんですか?」
勇者「そうだな」
魔法使い「……そうですか」ホッ
勇者「…あぁ、あの日まではな」
542:
_____
___
_
男「たっだいまーっと」
師匠「男おおおおおおお!! おかえりいいいいいいい!!」ダッ
男「……」ヒュン
ドンッ
師匠「うげっ!?」
男「…なんちゅー声出してんだよ」
師匠「おいコラ!! テメエ何避けてやがんだ!! 折角私がおかえりのハグしてやろうと思ったのによ!!」
男「アホ。何歳だと思ってやがる。もう18だぞ、俺も」
師匠「馬鹿野郎!! 何歳になってもお前は私の息子だ!! だから私には抱きつく権利がある!!」
男「ねえよ」
543:
中佐「おかえり、男。久しぶりだね」
男「おぉ、元気か親父? 師匠がまた何かやらかさなかったか?」
師匠「なんで私がやらかす前提なんだよ、テメエはよ」
男「いや、大佐になってやりたい放題やってんのかなって」
師匠「やるかアホ。ちゃんと大人しくしてたわ」
中佐「いや、それはどうだろう…」
男「ほれみろ」
師匠「うるせえよ。それよりお前はちゃんと伍長になれたのかよ」
男「ったりめえだ。俺を誰だと思ってやがる」
師匠「私の息子だ」
男「いや、そうだが釈然としねえ」
師匠「っていうかお前はいつになったら私をまたお母さんって呼んでくれるんだよ!!」
男「師匠はいつまで経っても師匠だっつったろ」
師匠「それはお芝居の中だろうが!!」
男「俺は有言実行の男だからな」
544:
師匠「あぁ…これが反抗期なのか…。母、挫けそう」
男「むしろ今までよく挫けなかったな。師匠、あんたやっぱすげえよ」
師匠「だーかーら!!」
中佐「ま、まあまあ。兎に角おかえり、男。1年ぶりくらいかな」
男「そうだな。10ヶ月くらいだとは思うけどな」
師匠「だというのにこいつは…。親の気持ちも知らないで…」
男「だからっていきなり息子に抱きつきに来るか、普通」
師匠「他所は他所、家は家だ」
男「そうかよ」
師匠「それにしても背も伸びたな。ガキの頃はあんなに小さかったのに。今じゃ私よりでかいもんな」
中佐「僕もいつの間にか越されちゃってたもんな」
男「育ち盛りだからな」
師匠「それに比べて私は歳を取ったもんだよ。気づけば三十路だ。最初にあんたに言われた通りおばさんになっちまったよ」
545:
男「そうか? あんまり変わったようには見えねえけどな」
師匠「おっ。嬉しいこと言ってくれるね。今日はご馳走にしてやるよ」
中佐「作るのは僕なんだけどね…」
男「なんだよ、師匠。お前未だに親父に飯作らせてんのかよ。いい加減作れるようになれよ」
師匠「るっせえな、人には向き不向きがあるんだよ」
男「お前には不向きが多すぎんだろ」
師匠「お前っつた!! こいつ親に向かってお前って言った!!」
男「…はぁ。元気でなによりだよ」
中佐「ははは、これでも男が帰ってくるまでそわそわしてたんだよ」
男「何?」
師匠「馬鹿言うんじゃねえよ、中佐!! 私が親バカみてえじゃねえか!!」
中佐「いや、実際そうでしょ」
師匠「確かに」ウンッ
男「認めんな、アホ」
546:
師匠「はぁ…。いつからこんなに口が悪くなっちまったんだか…」
男「口が悪くなったのは明らかにお前のせいだろ」
師匠「昔は『レンジャー!』って私の後ろ着いて来てたのによ」
男「まだ言うか。ていうか師匠のせいで俺がどんだけ恥かいたと思ってやがる」
師匠「んなもんいつまでも気づかねえお前が悪いだろ」
男「わかるか、アホ。おかげで未だに『レンジャー』って呼ばれるんだよ」
中佐「あはは、それは可哀想に」
男「微塵も思ってねえだろ」
師匠「まあまあいいじゃねえか。愛称で呼ばれるのはいいことだろ」
男「ちなみに俺らの中であんたの愛称は『アラサー』だけどな」
師匠「あいつらシバく!!」
男「愛称で呼ばれるのはいいことなんだろ」
中佐「なんでまたそんな愛称に…」
男「由来は『今日も荒ぶってるな、大佐』略して『荒佐』から来てんだ」
中佐「それはまた…」
547:
師匠「それじゃあ久々に花札でもやろうぜ!!」
男「嫌だよ、師匠弱いし」
師匠「うるせえ。あんなもんただの運だろ」
男「そう思ってるから弱いんだよ。それに俺眠いし」
師匠「だったら一緒に寝よう!! そうしよう!! 久々に川の字で!!」
男「だから俺はもう18だっつうの。それに師匠寝相悪いし」
師匠「んなわけあるか。寝てる時一度も手を離したことねえだろ」
男「だから俺がラリアット食らう羽目になるんだろうが」
師匠「細かい男だな。そんくらい許せよ」
男「ふざけんな。いい加減子離れしやがれ」
中佐「そうだよ、大佐。君ももういい大人なんだから」
師匠「我慢することが大人だって言うなら私は大人になんかならなくていい!!」
男「いい加減にしやがれ」
548:
男「俺は明日の朝、元帥に報告しに行かなくちゃならねえんだ。寝坊するわけにはいかないの。だからゆっくり寝させろ」
師匠「ちっ、あの野郎邪魔しやがって」
男「俺は元帥さまさまだけどな」
師匠「わーったよ。今日は見逃してやる」
男「今後も是非そうして欲しいものだ」
中佐「じゃ、とりあえず今ご飯作るからそれまでゆっくりしてなよ。積もる話もあるだろうし」
男「悪いな親父。恩に切るよ」
中佐「ご馳走作るから楽しみにしててよ」
男「ありがとよ」
中佐「その感謝を半分でも大佐に言ってあげればいいのに」クスッ
師匠「そうだそうだ!!」
男「やなこった。つけあがるだけだろ、こいつは」
中佐「…まぁ確かに」
師匠「酷い言われようだな、おい」
男「今までの師匠の行動が招いた評価だよ」
549:
_____
___
_
男「ふぅ…。ご馳走様。流石だな親父。美味かったよ」
中佐「お粗末さま。そう言って貰えると作った甲斐があったってものだよ」
師匠「いやぁ、しかし本当に上手いな。いい夫を捕まえたぜ」
中佐「ははは、形だけだけどね…」
男「……」
師匠「うっし、ご馳走さん」シュボッ
中佐「もう…。男が大きくなったのをいい事にここでも吸って…」
男「……煙草ってそんなうめえのかよ?」
師匠「ん? 吸ってみっか?」
中佐「大佐!!」
男「んじゃ遠慮なく」スゥー
中佐「あぁ!?」
550:
男「っ!? ゲホッゲホッ!! なんじゃこりゃ!?」
師匠「これが煙草だよ」
男「まっず!! よくこんなの吸ってられんな…。水…」
中佐「全く…。もう吸うんじゃないよ」
男「もう二度と吸いてえとは思わねえよ」
師匠「まっ、最初はそんなもんだよな。やれやれお前もまだガキだな」
男「煙草がうまいと感じることが大人だって言うなら俺は大人になんかならなくていい」
師匠「まあ煙草なんか吸ってもイイ事ねえからな。百害あって一利なしだ。吸わないに越したことはないね」フー
男「吸わねえよ。つかだったら師匠はなんで吸ってんだよ」
師匠「…そうだな。一番最初に吸ったときは嫌なことを忘れるためだったかな。煙草吸うと頭クラッとすんだろ。その時は辛いこと考えなくて済んだからな」
中佐「……それって」
男「そうかい」
師匠「詳しく聞かないんだね。優しいこった」
男「…別に。興味がねえだけだよ」
師匠「…そうかい」
551:
男「んじゃ俺は寝るぞ。おやすみーっと」
中佐「じゃあ僕も皿洗い終わったし寝るかな」
師匠「おぉ、そうか。ありがとな。んじゃおやすみー」
中佐「うん。じゃあまた明日ね」
男「……おい、待てよ。なんで親父は部屋の外に出ようとしてるんだ?」
中佐「ん? だって寝るんでしょ?」
男「この部屋で寝ないのかよ」
中佐「そうだね。僕の部屋もあるしね」
男「おい、師匠いいのかよ。さっき散々一緒に寝ようって言ってたじゃねえか」
師匠「でも中佐と二人で寝るってのはな」
男「……あんたら家族じゃねえのかよ」
中佐「そ、それは…」
師匠「まあ婚姻関係にはないからな」
中佐「…そうだね」
552:
男「……そうかい」
中佐「…男?」
男「俺がいない間もあんたらは別々に寝てたのか?」
師匠「そうなるな」
男「……何が家族だ」
中佐「…え?」
師匠「……」
男「アホらし。寝るわ。じゃあな。おやすみ、中佐、大佐」
中佐「ちょ、ちょっと男!」
ヒュン
中佐「…どうしたんだ、男」
師匠「……」
559:
-翌日-
コンコン
ガチャ
男「失礼するぞ」
元帥「返事を待ってから入らんかい」
男「それは申し訳ない。以後気をつけるよ」
元帥「そう言って待ってた試しがないがの」
男「3歩歩いたら忘れちまうんだよ」
元帥「随分と鳥頭じゃの」
男「それで俺はなんできたんだっけ?」
元帥「もう良いわ。どうじゃ、伍長になった気分は?」
男「別になんら変わりはねえよ。ただ小隊をまとめるのは面倒くせえな。俺は自分で戦ってたいぜ」
元帥「お前らしいのお」
男「個人行動の方が楽なんだよ」
560:
元帥「追々慣れるじゃろ。それより訓練中なにか面白いことはなかったのか?」
男「そういえば最後の試練中山賊に襲われたわ」
元帥「随分と運のないやつらじゃな」
男「どっちがだ?」
元帥「相手じゃよ。それでどうしたのじゃ?」
男「ふん縛って洞窟に置いてきた」
元帥「何故連行しなかったんじゃ」
男「いや、なんかすっげえ反省してたみたいだし」
元帥「貴様何をしたのじゃ」
男「別にいつも通りだよ」
元帥「それは不憫じゃな」
男「それにピッキングの方法も教えてもらったしな。道具もくれたし」
元帥「何を教えてもらっておるじゃ…。どうせ道具は奪ったんじゃろうが」
男「くれたら豚箱入りは勘弁してやるっつたら快くくれたぞ。等価交換だろ?」
元帥「ホントやりたい放題じゃな、お主は」
562:
男「まあいいじゃねえか。次やったら知らねえぞって釘刺しといたから」
元帥「それは比喩か? それとも事実か?」
男「とりあえず報告終わったから俺は戻るぜ」
元帥「シカトか。儂寂しい」
男「あ、そうそう。そういやもうすぐ国王になるんだって? おめでとさん」
元帥「なんじゃ知っとたのか。就任してから驚かしてやろうと思ってたんじゃがな」
男「かなり有名だぜ、その話。まさか軍から国王が出るとはな。びっくらこいたよ」
元帥「残念ながら准将も大臣になる予定じゃがな」
男「何? 准将ってあれだろ、元曹長だろ? マジかよ…」
元帥「間違っても殺すんじゃないぞ?」
男「師匠の悪口を言われたらわからんな」
元帥「笑えない冗談はよせ。あの時は本気で殺すかと思ったわい」
男「多分本気で殺す気だったと思うぞ? 覚えてないが」
元帥「…じゃろうな」
563:
男「いいじゃねえか、過ぎた話だろ。それ以降誰も殺してないんだ。許してくれ」
元帥「それはお主の母のおかげじゃろ。しっかりと感謝するんじゃな」
男「……そうだな」
元帥「なんじゃ、何かあったのか?」
男「…いや、ちょっとな」
元帥「言うてみ。話すだけでも意外と違うもんじゃぞ」
男「…随分優しいこった」
元帥「儂は個人的にお前を好いておるからな」
男「げっ、マジかよ。今度からケツ向けないようにしよ」
元帥「そういう意味ではないは馬鹿者。どうして素直に人の好意を受け取れないのじゃ」
男「行為を受け取りたくないからかな」
元帥「本当にアホじゃな、貴様は」
男「師匠に似たんだろうよ」
564:
元帥「で、何があったんじゃ?」
男「…あのよ、あいつらってなんで結婚してないと思う?」
元帥「……そうじゃな。貴様はどう思っておるのじゃ?」
男「…俺は俺のせいなのかなって思ってる」
元帥「…そうか」
男「だってよ、もうあれから10年経ってんだ。ずっと一緒にいるってことはそういう事だろ? なのに婚約もしてない。おかしくないか?」
元帥「…ふむ」
男「ずっと俺を育ててくれたからな。そんな暇無かったんだろうよ。俺のせいでタイミングを失ったんだと思ってる。違うか?」
元帥「…そうじゃな。10年も一緒に居ればな。今更結婚という気持ちもあるかもしれんな」
男「だろ? だからなんとかしてあいつらをくっつけてやりたいんだが…」
元帥「…だが貴様はそれでいいのか?」
男「…どういうことだ?」
565:
元帥「そのままの意味じゃ。二人が結婚しても貴様は心から祝福できるのか?」
男「そりゃぁ…」
元帥「貴様何故大佐のことを師匠と呼んでおるのだ。中佐は親父なのにじゃ」
男「……」
元帥「貴様は自分がやつの息子だということを認めたくなかったのではないか? それじゃと…」
男「んなわけあるかよ。何歳離れてると思ってんだ。ずっと師匠って呼んでんのは昔からの癖だよ」
元帥「……それが貴様の選択か?」
男「…おう。俺は親孝行者だからな」
元帥「…そうか。それが貴様の選んだ道だというなら儂は何も言わん」
男「そうかい。相談に乗ってくれてありがとよ。んじゃな」
元帥「おい、男」
男「…なんだよ?」
元帥「後悔だけはするのではないぞ」
男「……あぁ。大丈夫だよ」
566:
チャ
男「……ふぅ」
准将「おやおやぁ、どうしたんですかぁ? 浮かない顔してますねぇ?」
男「……これはこれは准将。大臣になるそうで。おめでとうございます」
准将「おやおやぁ、ありがとうございますぅ。そちらこそ伍長おめでとうございますぅ」
男「…ありがとうございます」
准将「しかしぃ、まさか君が伍長になるとはねぇ。よく今まで人を殺さないでこれたねぇ」
男「えぇ、大佐と中佐の教えが良かったんじゃないですか?」
准将「ふぅ〜ん、それはどうですかねぇ? 山賊を取り逃すような男に育ったのにですかぁ?」
男「…よくご存知で」
准将「残念ですねぇ。私が教育していればぁ、そんな子に育つことは無かったんですがねぇ」
男「……」
准将「まぁいいですぅ。今からでも遅くはないでしょぅ」
男「…何がですか?」
567:
准将「現在ぃ、私は戦争や魔物に対抗するためにぃ、特殊部隊を作ってるのですよぉ」
男「…左様ですか」
准将「そ・こ・でぇ、是非君にもその部隊に入っていただきたいのですよぉ」
男「…申し訳ないですが遠慮しておきます」
准将「おやおやぁ、何故ですかぁ? 給料だっていい値段お支払いしますよぉ?」
男「おれ…自分はその様な器ではありません」
准将「謙遜なさる必要はありませんよぉ? 現状軍で一番強いのは君だと専ら噂ですよぉ?」
男「それは根も葉もない噂ですよ」
准将「そんなことないですよぉ? 移動魔法を駆使しぃ、様々な状況も打破してきた君が弱いなんてことは有り得ないんですよぉ」
男「…それに自分は過去、あなたを殺そうとしましたからね」
准将「そんなこと水に流しましょぅ。気にすることありませんよぉ」
男「…申し訳ありません。やはり無理です」
568:
准将「そうですかぁ…。それは非常に残念ですねぇ」
男「申し訳ありません」
准将「まぁ、今回は良しとしましょぅ。で・す・がぁ? 私は諦めるつもりはありませんよぉ?」
男「お誘いは嬉しいのですが、今後も断り続けることになるでしょう。申し訳ありません」
准将「おやおやぁ? 随分嫌われていますねぇ?」
男「……」
准将「否定も無しですかぁ。まぁ、良いですぅ。ではぁ、今回はここでぇ」
男「…お疲れ様です」
准将「あぁ、そうそぅ。山賊の件はぁ、今回不問としますがぁ、今後は知りませんよぉ?」
男「…肝に命じておきます」
准将「そ・れ・とぉ。私は君を諦めるつもりは更々ないですからねぇ?」
男「…そうですか」
准将「えぇ」
准将「…どんな手を使ってでもねぇ」
570:
なるほど今この状態で冒頭を見直すと色々見えてくるな
576:
_____
___
_
ガチャ
男「今帰ったぞー」
師匠「おい、男!! お前明日は暇か?」
男「あん? まあ訓練終わったし暇だけど」
師匠「よしっ!! 中佐、どうせお前は暇だろ?」
中佐「え、酷くない? そのいい方」
師匠「じゃあ仕事あんのかよ?」
中佐「……ナイデス」
師匠「うっし!! んじゃ決まりだ!!」
男「
は? 何がだよ?」
中佐「本当だよ。何がだい?」
師匠「決まってんだろ」
師匠「家族旅行だ!!」
577:
男「え、いや、いいよ」
師匠「馬鹿野郎!! 仕事にも一区切り付いた!! 明日は休み!! そうなるとやることは一つ!!」
男「家でゆっくりだな。おやすみ」
師匠「ふーざーけーるーなー!! 行くっつたら行くんだよ!!」
男「嫌だよ。明後日小隊の顔合わせがあんだよ。疲れた顔で行きたくねえよ」
師匠「つっても全員顔見知りだろうが。今更取り繕っても無駄だろ」
男「うるせえ。俺はインドア派なんだよ」
師匠「だったら尚更だ!! 少しは太陽に顔出して来い!!」
男「いいよ、充分研修で顔出したよ。もう顔見知りだ」
師匠「それでも!!」
男「…はぁ。あのなぁ、そもそも俺らは家族じゃねえだろ。血もつながってねえ、結婚もしてねえ。それで何が家族なんだよ」
師匠「…ッ!!」
中佐「男っ!! 何てことを!!」
男「育ててくれたことは心の底から感謝してる。だが俺がいない時は別々に暮らしてたんだろ? それで何が家族だ」
師匠「……」
578:
男「俺が愛だと感じてたものは違ったんだな。結局は軍の強化の為に育てたんだろ? 移動魔法なんて珍しいからな」
師匠「そ、そんな…」
男「だったらもういいだろ。もうこんな家族ごっこ」
パチーン
男「……」
中佐「…大佐に謝れ」
男「は? なんでだよ?」
中佐「大佐がどんな気持ちでお前を育てたと思ってるんだ!!」
男「知らねえよ、人の気持ちなんかわかんねえよ。大佐の気持ちもあんたの気持ちもな」
中佐「男!!」
男「だってそうだろうが。俺がいなきゃ別々で暮らすようなやつらの気持ちなんかわかるかよ」
中佐「…」
男「だから言ってんだろ。育ててもらったのは感謝してるってよ。だが俺ももう18だ。一人で生きていける。だからもうごっこ遊びは終わりだ」
中佐「お前は何をそんなに怒ってるんだ!!」
男「わかんねえだろ? 人の気持ちなんて? そういうことだ」
579:
中佐「なんでそんなことを言うんだ!!」
男「一々うるせえな。もうあんたらとは家族じゃねえっつってんだよ」
中佐「…何?」
男「今まで育ててくれてありがとよ。心配すんな、今まで俺にかかった金は全部払う」
中佐「男!!」
師匠「……」
ドサッ
男「こんだけありゃ足りんだろ? 今までの給料全額だ」
中佐「おい、待て!!」
男「…それでは失礼します、中佐、大佐」
ヒュン
中佐「男…」
師匠「……」
580:
-街-
ヒュン
男「……はぁ」
八百屋「ん? おぉ、男じゃねえか。久しぶりだな、おい」
男「あん? あぁ、八百屋の親父か。ご無沙汰だな」
八百屋「なんだ? また盗みに来たのか?」ニヤッ
男「それは本当に悪かったって」
八百屋「ちょっとしたジョークだろうが。どうした? 元気ないが?」
男「あー、ちょっとな」
八百屋「どうしたんだよ? 親子喧嘩か?」
男「まあそんなところだ」
八百屋「一体何が原因なんだ?」
男「あぁ、えっとだな―――」
581:
八百屋「なるほどな」
男「今回の件に関して全面的に俺が悪いんだがな」
八百屋「そうだな。ずっと育ててきてくれたのに酷い言い草だな」
男「あぁ。大人気なかったよ」
八百屋「バーカ。18なんてまだまだガキだよ」
男「そんなもんか?」
八百屋「そんなもんだ」
男「でもよ、このままなあなあな関係が続くのは良くねえと思ったんだよ」
八百屋「どうしてだ?」
男「あいつらまだ婚約すらしてねえんだよ」
八百屋「何? そうだったのか?」
男「そうなるだろ? ぶっちゃけ俺も知らんかった」
八百屋「既にお前を引き取った時には婚約してるもんだと思ってたよ」
男「俺もだ」
582:
男「まあきっとその原因が俺だからさ。あいつらももういい歳だろ? このままずるずる行ったら自分の子供も作らずに一生終えそうだろ?」
八百屋「…まぁ確かにな」
男「だから俺が居なくなれば結婚もするだろうし自分の子供を作る暇も出来んだろ」
八百屋「それにしたってやり方が不器用過ぎんだろ」
男「…それは本当にな」
八百屋「しかし本当にそれでいいのか?」
男「どういう意味だ?」
八百屋「それでお前も、大佐達も幸せなのかって話だよ」
男「…そりゃ幸せだろ。どこの誰かわからんガキ育てるよりも自分らの子供の方が可愛いに決まってんだろ」
八百屋「……本気で言ってんのか?」
男「あぁ」
八百屋「だとしたらお前はとんだ親不孝者だよ」
男「…何でだよ?」
583:
八百屋「お前、今年で育ててもらって何年目だ?」
男「10年目だな」
八百屋「そうだな。10年っつたら相当だよな? そんだけ育てた息子が可愛くないってか? ふざけんな、クソガキ」
男「……」
八百屋「途中、元曹長…今の准将か? そいつが代わりに育てるつってたんだろ? 嫌いだったらさっさとそいつに預けてんだろ」
男「……まぁ」
八百屋「だろ? なのにずっと育ててくれたんだ。お前は既にあいつらの立派な息子なんだよ」
男「でも」
八百屋「デモもストもねえんだよ。いいか、わざわざお前が家族でなくなる理由はねえんだよ」
男「……」
八百屋「血の繋がりがない? 関係ないね。血の繋がりがあったお前の両親はお前を見捨てただろうが」
男「…そうだな。その通りだ」
八百屋「気を悪くしたなら謝る。言葉が悪かったな」
男「いや、気にしてねえよ。何年前の話だと思ってやがる」
八百屋「…そうかい」
584:
八百屋「まっ、なんだ? まだ婚約してねえのは中佐が意気地なしだってことだな」
男「ははっ、ちげえねえ」
八百屋「だがお前はそこに居ていいと思うぜ。わざわざ消える必要はねえよ」
男「…そうかい。ありがとな」
八百屋「あとは中佐がちゃんと結婚を申し込めば万々歳か、お前からすれば」
男「…あぁ、そうだな」
八百屋「なんだ? まだ問題でもあるのか?」
男「…いや、なんもねえよ。さぁ、俺は親父の説得にでも行くか」
八百屋「その前にちゃんと謝れよ」
男「……はい」
八百屋「ったく」
男「ありがとうな。わざわざ相談に乗ってくれてよ」
八百屋「気にすんな。そのかわり親泣かせんじゃねえぞ」
男「…あぁ。わかったよ」
585:
-城-
男「……」コソッ
シーン
男「…はぁ。誰もいねえか」
中佐「何が誰も居ないって?」
男「っ!?」クルッ
中佐「やあ、おかえり」
男「……ただいま」
中佐「さっ、ご飯できてるよ」
男「……」
中佐「…どうしたの? 食べないの?」
男「……何で何も言わねえんだよ」
中佐「……僕も頬を叩いてしまったからね。悪いのはお互い様さ。だからこの件は水に長そう」
男「……あんたはそれでいいのかよ」
中佐「…え?」
586:
男「なんで親父は師匠と婚約しねえんだよ!! 何年間待たせてやがんだ!!」
中佐「なっ!! そ、それは…」
男「俺のせいか?」
中佐「そ、それは違う!!」
男「…だったら何でだよ」
中佐「……自信がないんだ」
男「何?」
中佐「僕は大佐よりも出世も出来てないし彼女を守るだけの力もない。そんな彼女と結婚して本当に幸せに出来るのかなって。僕なんかで釣り合うのかなって」
男「…だったらなんでずっと俺の親父やってたんだよ」
中佐「…嬉しかったんだ。仮とはいえ僕を夫として選んでくれて。チャンスなんか有りっこないと思ってたからね」
中佐「それでずっと二人で君を育ててきて…幸せだったんだ、僕は。大佐も楽しそうだし、君も成長して、本当に毎日が幸せだったんだよ」
中佐「…でももちろんこれ良いのかという思いもあったよ。君の言う通りこれじゃ家族ごっこだ」
男「…」
中佐「だけどもしこれで断られたら…今までの生活は終わってしまうんじゃないか。そう思うとなかなか言い出せなくてね」
中佐「ずるずる引張ていたら…気づけば10年だ。もうどのタイミングで言えばいいのかも分かんなくなっちゃったよ」
587:
男「…何弱気なこと言ってんだよ。馬鹿か、お前は」
中佐「……本当にね」
男「ごちゃごちゃ難しいこと考えてんじゃねえよ!! 好きなら好きって素直に言えよ!!」
中佐「男…」
男「失敗なんか恐れてるんじゃねえよ!! 前だけ見て生きてろよ!!」
中佐「……そうだね。男の言う通りだ」
男「…今言わなかったら一生後悔するぞ」
中佐「…うん。そうだね。僕…今から告白してくるよ」
男「…あぁ、そうしろ。あんたの思いをハッキリ伝えてきな」
中佐「うん!! ありがとう、男!! 行ってくる!!」
男「…行ってこい、馬鹿親父」
バタンッ
588:
男「……」
男「何が失敗なんか恐れてるんじゃねえよ…だ」
男「一番失敗を恐れて何もできなかったのはどこの誰だってな」
男「今言わなかったら一生後悔するぞ…か」
男「……ん?」
男「これは…師匠の煙草か」
男「…嫌なことを忘れるため…か」
男「……」
シュボッ
男「……」スパー
男「ハハハ、確かにこりゃ旨えや」
男「こりゃやめらんなくなるのも無理はねえな」
男「……はぁ」
男「煙が目にしみるな」
589:
ガチャッ
中佐「大佐!!」
師匠「…どうしたんだよ、中佐。ノックくらいしろよ」
中佐「あ、あぁ、それはごめん」
師匠「…んで、なんの用だ?」
中佐「…大事な話があるんだ」
師匠「まさか男が帰ってきたのか!?」
中佐「…帰ってくるかもしれないね」
師匠「…どういう意味だ?」
中佐「大佐。聞いて欲しいことがあるんだ」
師匠「…なんだよ、珍しく真剣な顔して」
中佐「あぁ。とっても大事な話だ」
師匠「…なんだ。言ってみ」
中佐「うん…。聞いてくれ」
590:
中佐「僕はずっと…この10年間楽しかった」
中佐「男の成長はもちろん、君と過ごした日々もとっても楽しかった」
中佐「…でもね、僕の心はずっとモヤモヤしてたんだ」
中佐「婚約もしてない、即席で出来た家族。そんな関係でずっと男を育てていいのか」
中佐「…男の言う通りだよ。これじゃただの家族ごっこだ」
中佐「最初はそれでも良いかなって思ってた。こんな日々が毎日続くなら」
中佐「…でもやっぱりそれじゃダメだったんだよ」
中佐「男もずっとそれを感じてたんだろうね」
中佐「そんなモヤモヤした状態で過ごしたくなんかない」
中佐「…僕はもうこんな中途半端な関係は嫌だ!!」
中佐「だからお願いだ、大佐!!」
中佐「僕と本当の家族になってくれ!!」
591:
師匠「……」
中佐「…返事を聞かせてもらってもいいかな?」
師匠「…それはお前の本当の気持ちか?」
中佐「あぁ。そうだよ」
師匠「…私は料理も出来ねえぞ?」
中佐「その分僕が作るよ」
師匠「…全然女らしいところなんてねえぞ?」
中佐「そんなことない。とっても魅力的だよ」
師匠「…すぐに凹むような女だぞ」
中佐「その時は僕が支えるよ」
師匠「…本当に私で良いんだな?」
中佐「君じゃなきゃ嫌だ」
師匠「…そうか」
ギュッ
師匠「………何年待たせんだよ、ばかっ」
592:
中佐「…ごめんね、ずっと自信が持てなかったんだ」
師匠「…馬鹿。最初にお前を選んだ時に気づけよ。この鈍チン」
中佐「ごめん」
師匠「嫌われてんのかと不安になったんだぞ、馬鹿」
中佐「…ごめん」
師匠「…今まで待たせた分、取り戻させろよ」
中佐「…あぁ。幸せにするよ」
師匠「……だったら行動で証明してくれ」
中佐「…うん。わかったよ。大佐」
師匠「…なんだ」
中佐「…目、瞑って」
師匠「…あぁ。初めてだからな。大事にしてくれよ」
中佐「…うん」
______
___
_
595:
-翌日-
師匠「というわけで家族旅行に行こう!!」
男「……は?」
師匠「だから家族旅行だ!!」
男「…昨日断っただろうが」
師匠「昨日断られた理由は本当の家族じゃなかったからだ。だろ?」
男「…まぁそうだな。だったら」
師匠「だがしかし!! なんと!! 私達は昨日籍を入れてきた!!」
中佐「あはは、心配かけたね」
男「……お早いこった」
師匠「善は急げというだろ? ほら、もう断る理由はねえ。行くぞ」
男「だったら二人で行ってこいよ。夫婦水いらずでよ」
師匠「馬鹿者!! 家族旅行だと言ってるだろうが!! 新婚旅行なんて後回しだ!!」
男「…親父可哀想に」
596:
中佐「いや、今回は僕も大佐に賛成だよ。折角本当の家族になったんだ。男にも一緒に来て欲しいんだ」
男「…はぁ、そうかよ。わかったわかった降参だ。行けばいいんだろ」ヒラヒラ
師匠「よーし!! では早出発だ!! 各自準備に取り掛かれ!!」
男「…待て、どこに行くんだよ」
師匠「返事はレンジャーだ!!」
男「いや、良いから。なんだよそのテンション。高すぎだろ」
師匠「だって、お前、折角の旅行だぞ!! 上げてかなくてどうするんだよ!!」
男「…だからどこに行くんだよ」
師匠「…私の親父の別荘だ」
男「……そうか」
師匠「あぁ。ずっと親父に顔見せてねえからな。そろそろ見せに行かなきゃな。枕元で立たれても嫌だしな」
男「…もう大丈夫なんだな?」
師匠「バーカ。もう10年以上も前だっての。今更気にするかよ。それにな…」
男「…なんだよ」
師匠「こんなに大事な家族が出来たんだ。孫の顔くらい見せてやらなきゃ嘘だろ?」
597:
_____
___
_
師匠「よっし、到着!! うわ〜、久々だなぁ」
中佐「うわぁ。いい景色。湖までついてるし」
男「随分と良い所に建てたな、おい。家も立派なこった」
師匠「でも10年以上空けてるからな。中は大変なことになってそうだけどな」
中佐「あはは、これは大掃除から始めなきゃいけなさそうだね」
男「うっし。じゃあアウトドア派の俺は外の散歩でもしてくるぜ!!」
ガシッ
師匠「…テメエも掃除すんだよ」
男「はーなーせー!! 自然が俺を呼んでるんだよ!!」
師匠「うるせえ!! 黙って掃除しろ!!」
男「助けてくれええええええええ!!」
師匠「この辺りにゃ誰も住んでねえ!! 大人しく諦めな!!」
中佐「…今日も平和だなぁ」
598:
_____
___
_
師匠「うっし。こんなもんだろ」
中佐「ふぅ。大分綺麗になったね」
男「もうやだ…。何もしたくない…」
中佐「あ、あははは。お疲れ、男」
師匠「なんだよ。もうくたばってんのかよ。体力のないやつだな。そんなのが伍長なんて世も末だな」
男「うるせえ体力オバケ。お袋とはタイプがちげえんだよ」
師匠「……あ」
男「あん? なんだよ?」
師匠「中佐!! 聞いたか!! 男が!! 男がお袋って!!」
中佐「うん、言ったね」ニコッ
男「…ちっ。なんだよ。良いだろ、なんて呼んだって」
599:
師匠「馬鹿!! 嬉しいんだよ!! やっとあんたのお袋って認めてもらえたと思うと!!」
男「…そうかい」
師匠「何でまた急に呼んでくれたんだよ?」
男「…いい加減ケジメつけなきゃいけないからな」
師匠「あん?」
男「…なんでもねえよ、馬鹿」
師匠「馬鹿って言うな!! そこは馬鹿お袋って言ってくれ!!」
中佐「…馬鹿はいいんだ」
師匠「だって念願のお袋って言ってくれたんだ…。やっと…やっとこれで本当の家族なんだな…」
中佐「……うん、そうだね」
男「…ちっ。そんなことで泣くんじゃねえよ」
師匠「馬鹿…泣いてねえよ。煙草の煙が目にしみたんだよ」
男「…そうかい。そういうことにしといてやるよ」
600:
師匠「…ここが親父の墓だ」
中佐「……」
男「……」
師匠「おい、親父。聞こえてるか? 悪いな、散々待たせちまって」
師匠「まあ許してくれよ。時間にルーズだったのは親父もだろ? あんたは私の気持ちがわかるだろ?」
師匠「まっ、それでだ。今回は大事な報告がある。耳の穴かっぽじってよく聞けよ?」
師匠「なんと!! 私に家族が出来たんだ!! どうだ!! 見たか!!」
師匠「あんたは散々私に女らしくねえ、お前なんか結婚出来んのかって言ってくれたが見やがれ!! ちゃんと出来たわ、ボケ!!」
師匠「私には勿体ないってか? うるせえ。いい男だろ? こんないい男と結婚出来た私は幸せ者だよ」
師匠「そして息子も出来た。まあ口は悪いがいい子に育ったよ。私の自慢の息子だ」
師匠「親父。私は今とても幸せだ。こんな良い夫、息子を持てて私は幸せだ」
師匠「あんたは私の自慢の親父だよ」
師匠「ありがとな、私を育ててくれてよ」
師匠「…さて、残念だが明日からまた仕事があるんだ。だからもう帰らなくちゃいけない。悪いがここでお別れだ。でもなんだ。心配すんな」
師匠「また来るよ。親父」
601:
師匠「…うっし。んじゃ帰るか」
中佐「…そうだね。帰ろうか」
男「……そうだな」
師匠「んじゃ帰りは移動魔法で帰ろうぜ。腹も減ったことだし」
中佐「そうだね。なにか美味しいもの作るよ」
師匠「…私が作ろうか?」
中佐「…え゛っ!?」
師匠「…なんだよ」
中佐「ほ、ほら男!! 早く帰ろう!!」
師匠「誤魔化しやがって…」
中佐「行こうよ、ね!」
師匠「…まあいい。帰ろうぜ」
男「…あぁ」ヒュン
男(…また来るよ、爺さん)
602:
_____
___
_
師匠「ふぅ、ご馳走さん。やっぱ中佐の飯は旨えな」
男「全くだ」
中佐「お粗末さまです」
男「どっかの誰かが作るとか言い出したときは冷や汗かいたけどな」
師匠「……んだよ? 今まで散々作れって言ってたくせに」
男「練習してから作りやがれ」
師匠「へいへい。中佐、今度暇な時でも教えてくれよ」
中佐「あぁ、もちろんだよ」
師匠「うっし。期待してろよ、お前ら!!」
男「とりあえず薬草は買っておくよ」
師匠「んだと!!」
中佐「まあまあ…。とりあえず大佐はお風呂入っておいでよ」
師匠「ん? あぁ、済まんな」
603:
男「何? 風呂も炊けないの?」
師匠「うるせえ!! これから花嫁修業すんだよ!!」
男「夫に教わる花嫁がどこにいんだよ…」
中佐「ま、まぁまぁいいじゃないか。意欲があるだけ嬉しいよ」
師匠「おぉ、中佐!! 流石は私の夫だ!!」
男「いいからさっさと入ってこいよ。あとがつかえるだろうが」
師匠「はぁ…。本当に効率厨だな、お前は。もっと人生楽しめよ。冷めてんな、お前は」
男「その前に風呂が冷めるだろうが。はよ入れ」
師匠「わかったわかった。入りますよーだ」
ガララッ
男「ったく…」
中佐「ハハハ、仲が良くていいじゃないか」
男「親と話してる感じはしねえがな」
中佐「それはそうだね」クスッ
604:
中佐「…それにしても、ありがとね、男」
男「あん? 何がだ?」
中佐「昨日のことだよ。男のおかげで今日という日を迎えれたんだ。本当に感謝してるよ」
男「何言ってんだ。むしろ親父のおかげだろうが。こっちこそ感謝してるよ」
中佐「…そうかい。そう言ってもらえると嬉しいよ」
男「…大切にしろよ」
中佐「言われるまでもないさ」
男「…そうかよ。あーあー、お熱いこった。俺だけ水風呂にしてもらえば良かったぜ」
中佐「じゃあ僕が先に入って冷ましといてあげるよ」
男「あぁ、そうしてくれ。とびっきり冷たくしといてくれよな」
中佐「わかったよ」クスッ
師匠「おーい、上がったぞー」
中佐「あぁ、わかった…って、ブーーーーー!!」
男「あん? 一体どうしたんだ…って、なっ!?」
師匠「あん? なんだよ?」
605:
男「なんだよじゃねえよ!! テメエなんつう格好で出てきてやがんだ!!」
師匠「あん? 真っ裸だけど? なんか問題あるか?」
男「そこが問題なんだよ!!」
師匠「おいおい、家族だろうが。このくらい慣れろよ。ったく、これだから童貞は」
男「そういう問題じゃねえだろうが!! 早く着やがれ!!」
師匠「なんだよ、男? 私に興奮してんのか? おいおい、お袋の裸見て興奮するとかやばいぞ、おい」
男「いいからさっさと着ろ!!」
師匠「ったく、しょうがねえな。ほら、これでいいんだろ?」
男「全く…」
師匠「なかなかナイスバディーだっただろ?」
男「何が悲しくてお袋の裸なんか見なくちゃいけないんだよ…」
師匠「慣れろ。というか中佐。さっさと風呂入れよ。冷めるぞ」
中佐「は、はい///」ヒョコヒョコ
師匠「? 何前傾姿勢になってんだよ。変な歩き方だな」
男「お前のせいだ、馬鹿者」
606:
_____
___
_
師匠「というわけで一緒に寝よう!!」
男「…お袋。接続詞って知ってるか?」
師匠「うるせえな。いいから寝ようぜ!! 家族記念に!!」
中佐「…ま、まぁ僕はいいけど///」
男「そして親父はいつまで照れてやがんだ」
師匠「ほら寝ようぜ!! な、な!!」
男「…はぁ、今日だけだかんな」
師匠「おっ? やけに素直じゃねえか? どうした? やっぱ私のナイスバディーのおかげか?」
男「…やっぱりやめた」
師匠「嘘嘘!! さっ、寝ようぜ!!」
男「はぁ…。何でこの歳で一緒に寝なきゃならんのだか」
607:
師匠「よしっ!! じゃあ明かり消すぞ!!」
男「うーい」
中佐「…うん///」
フッ
師匠「……今日はありがとな」
男「…なんだよ急に」
師匠「旅行も全然旅行らしくなかったし、一緒に寝るのも私の我侭だし…本当は嫌なんだろうけど私のために…何から何までありがとな」
中佐「……」
男「……別に。本当に嫌だったら移動魔法で消えてるっての」
師匠「…そうか」
男「それに…まぁ、なんだかんだ楽しかったよ」
中佐「…うん、僕もだよ」
師匠「そうか…それは良かった…」
608:
男「…いいからさっさと寝るぞ。明日も朝はええんだろうが」
中佐「…うん、そうだね」ギュッ
師匠「…そうだな」ギュッ
男「…はぁ。まぁいいや。今日だけな」
師匠「…あぁ、わかってるよ」クスッ
男「…じゃぁ寝るぞ。おやすみ…親父、お袋」
中佐「……あぁ、おやすみ、男」
師匠「……おやすみ」
男「……」
中佐「……」
師匠「……はぁ、幸せな一日だったよ」
師匠「ありがとな、中佐、男」
師匠「……また皆であそこに行きたいな」
617:
-数日後-
師匠「ということで新婚旅行に行ってくる」
男「唐突だな、おい。家族旅行行ったばっかりだろ」
師匠「バカ、こういうのは早めに行くべきだろうが。日付が経つにつれて行きづらくなるだろうが」
男「そういうもんか?」
師匠「そういうもんだ」
中佐「まっ、そんなわけだから留守番頼むよ、男」
男「あぁ、わかったよ。可愛い妹作ってきてくれよ」
中佐「ちょ、ちょっと男!!///」
師匠「あぁ、任せろ」
中佐「な、何言ってるのさ!!///」
男「期待してんぞ」
師匠「将来はお前と結婚させてやるよ」
男「その頃には俺ももう40だろうが」
師匠「愛さえあれば関係ないだろ」
618:
男「わかったから早く行ってこいよ」
師匠「おう。んじゃ行ってくるぜー」
中佐「もう…。じゃ、行ってくるね。ご飯は自分で作れる?」
男「お袋とは違うからな」
師匠「子供が作れるからいいだろ」
男「代わりにならねえよ。少なくとも俺は」
中佐「ほ、ほら早く行くよ!!///」
師匠「ったく、照れ屋なんだから本当に。はいはい、じゃ行ってくるよ」
男「おう…って、おい。煙草忘れてんぞ」
師匠「ん? あぁ、もう必要ねえよ。捨てていいぞ」
男「何? 子供作るから体気にしてんのか?」
師匠「それもあるが…まぁ、その、なんだ?」
師匠「…今が幸せだからかな」
師匠「そういうことだ。じゃあ行ってくるよ」バタンッ
619:
男「…………」
男「…はぁ、久々に一人か」
男「一人だとこの部屋も随分広く感じるもんだな」
男「しかし遂に親父とお袋の子供が出来んのか」
男「…………」
男「…うん、これで良かったんだよな。俺は何も間違ってねえ」
男「…………」
男「……煙草か」
男「…………」シュボッ
男「……ふぅ」
男「……あぁ、こりゃ心が落ち着くな」
男「………」
男「……うっし、買い物行くか」ヒュン
620:
-街-
男「おう、八百屋の親父。また来たぜ」
八百屋「ん? おう、丁度いい!! 聞いたぜ。婚約したんだってな、あいつら」
男「あん? なんだ、もう知ってんのかよ」
八百屋「そりゃな。もう話題はそれで持ちきりだ」
男「そうか…」
八百屋「まっ、なんにせよよかったじゃねえか。これでお前も安心だろ?」
男「…そうだな」
八百屋「それで、お前は何しに来たんだ?」
男「いや、買い物以外に何があるんだよ」
八百屋「ハッハ、確かにな。だが珍しいな、お前が買い物に来るなんてよ」
男「あぁ、あいつらは新婚旅行に出かけたからよ。飯自分で作んなきゃならねえんだよ」
八百屋「何? お前、飯作れるのか?」
男「お袋と同じレベルだ」
八百屋「……ちょっと待ってろ。何か作ってやるから」
621:
八百屋「ほらよ」
男「おぉ、済まねえな。このご恩は忘れねえよ」
八百屋「しっかし今後どうするつもりだ? 暫く帰ってこないんだろ?」
男「果物でも食ってりゃどうにかなんだろ」
八百屋「体に悪いぞ」
男「ダイエットだよ」
八百屋「ただでさえもやしみたいな体してんのにこれ以上痩せてどうするんだよ」
男「果物を食べるのにもやしとはこれは如何に」
八百屋「燃やすぞ」
男「まあどうにかなるだろ」
八百屋「…はぁ。今後もここに寄れ。何か作ってやるよ」
男「いいのか?」
八百屋「あぁ、構わねえよ」
男「じゃぁもやし炒めで」
八百屋「共食いかよ」
622:
-城-
男「ふぅ…。食った食った。八百屋の親父に感謝だな」
准将「おやおやぁ? これは男ではありませんかぁ」
男「…これは准将。お疲れ様です」
准将「えぇ、お疲れ様ぁ。珍しいですねぇ、こんな時間に会うなんてぇ」
男「…そうですね。現在、両親共出払っているので外食をしてきた帰りなのです」
准将「…ほぅ。そうなんですかぁ。なるほどなるほどぉ…」
男「はい。それでは失礼します」
准将「おっとぉ、ちょっと待ってくださいぃ」
男「……なんですか?」
准将「特別部隊に入る気にはなりましたかぁ?」
男「…申し訳ありませんがその気はありません」
准将「…そうですかぁ、それは残念ですねぇ」
623:
男「えぇ。そういうことです。では失礼します」
准将「……えぇ、わかりましたぁ。それではぁ」
ヒュン
准将「そうですかぁ…。今は大佐も中佐も居ないんですかぁ…」
准将「ふむぅ…」
准将「残念ですねぇ…。素直に特別部隊に入れば良かったものぉ…」
准将「ですが仕方ないですねぇ…」
准将「本人にその気がないというならぁ…」
准将「…少々手荒になっても仕方ないですよねぇ」
准将「……仕掛けるなら今しかないですねぇ」
624:
-翌日-
ヒュン
男「はぁ、美味かった。やるな八百屋め。あんな美味い飯作れるなんて思ってもみなかったぜ」
男「しかしもう夜か…。はええな」
男「………しかし暇だ」
男「…とりあえず食後の一服でもするか」
男「…良いよな? 18はお袋が勝手に決めた誕生日だもんな、うん」
男「本当はもう20かもしれねえもんな。大丈夫大丈夫」
男「……」シュボッ
男「ふぅ…。食後はやっぱり旨えなぁ…」
男「何がもう吸わないだってな。無理だろ、こりゃ」
コンコンッ
男「やべっ!! あいつらもう帰ってきたのか!? 消さねえと」ジュッ
コンコンッ
男「匂いは…、仕方ねえか。待ってろ今開ける」
625:
ガチャッ
男「おいおい、随分早かった…」
ブンッ
男「うわっと」ヒュン
兵1「ちっ!! 外したか!!」
男「…誰だお前。随分過激な挨拶だな」
兵1「名乗る必要などない!! 貴様は黙って捕まればいい!!」
男「なんで捕まらなきゃならねえんだよ。俺が何したって言うんだよ」
兵1「黙れ!! 大人しく着いてこい!!」
男「嫌だよ。なんで理由もわからねえのに着いていかなきゃならねえんだよ」
兵1「そうか…。だったら…実力行使するしかないようだな!!」チャキ
男「随分血の気の多いこった。何のために人間は口がついてるんだよ」
兵1「お前ら!! 入ってこい!!」
「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
男「…おいおい、まじかよ」
627:
兵1「大人しく降伏するなら今だぞ」
男「悪いな、あいつらが帰ってきた時に俺が居ないと心配するだろうからそういう訳にはいかねえんだ」
兵1「そうか、交渉決裂か」
男「交渉なんて高尚なもんじゃねえだろ。脅しだろ、ただの」
兵1「総員かかれ!!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」」
男「はぁ…。何だって言うんだよ」
兵1「喰らえ!!」ブンッ
男「どこ振ってんだよ?」ヒュン
兵1「なっ!?」
男「はい、一人目」サクッ
兵1「が……ッ!!」バタッ
男「はい、次ー」
兵2「なるほど…。一筋縄ではいかなそうだな」
男「たりめーだ。大佐の息子だぞ?」
628:
兵2「はあああぁぁああぁ!!」
ヒュン
男「そっちじゃねえっての」サクッ
兵2「かは……っ!!」バタッ
兵3「やああああぁあああぁぁ!!」ブンッ
ヒュン
男「はい、残念でしたー」サクッ
兵3「うっ……!!」バタッ
兵4「こっちだああああぁぁああぁあ!!」ブンッ
ヒュン
男「わかってるっつうのっ」サクッ
兵4「があああぁぁああぁぁああぁ!!」バタッ
兵5「くっ!!」ブンッ
男「…はぁ、キリがねえな」ヒュン
兵5「ちっ!! どこに……があああぁぁあぁ!!」バタッ
629:
兵6「まだまだあああぁぁぁ!!」
男「流石にしんどいな…」
「たああああぁぁぁあああぁぁぁ!!」ブンッ
兵6「かは………ッ」バタッ
男「あん?」
師匠「大丈夫か!! 男!!」
男「いつの間に帰ってきてたんだよ。気づかなかったぜ」
師匠「今さっきだよ!!」
男「親父はどうしたんだよ?」
師匠「今応援を呼んでる!!」チャキッ
男「そりゃありがたいな…っと」サクッ
兵7「うぐ……っ!!」バタッ
師匠「…誰も殺してないのか」
男「お仲間だからな。殺すわけにもいかんだろ」
師匠「……立派なもんだ。こんだけ相手に」
630:
男「まあさっさと終わらせようぜ。俺もゆっくりしたいんでな」
師匠「……あぁそうだな。おい、お前ら!!」
「「「「「………」」」」」
師匠「テメェら人の息子に何してやがる!! 訳を言え!!」
「「「「「………」」」」」
師匠「シカトか…。いい度胸じゃねえか!! テメェら全員覚悟しとけよ!!」
「「「「「………」」」」」
兵8「ひ、怯むな!! 掛かれ!!」
「「「「「は、はっ!!」」」」」
男「おぉ、怖い怖い」
師匠「言ってる場合か」
男「やれやれ…。こりゃ長引きそうだな」
師匠「あぁ…。だが、男には指一本触れさせねえッ!!」チャキ
男「嬉しいこと言ってくれるね」
兵1「…………」
631:
男「よっ」サクッ
師匠「たあああぁぁぁああぁ!!」ザクッ
男「ほっ」サクッ
師匠「らあああああぁぁぁああぁ!!」ザクッ
男「あーらよっと」サクッ
師匠「はああああぁぁぁあああぁあぁっ!!」ザクッ
「「「「「「………」」」」」」バタッ
男「……ふぅ。やっと終わったか」
師匠「…のようだな」
男「ったく、一体何だって言うんだよ。俺が何したっていうんだよ」
師匠「心当たりは?」
男「………ないぞ」
師匠「なんだい、今の間わ」
男「……まぁ、なんだ? とりあえずこいつらどうする?」
632:
師匠「話逸らしやがって…。あぁ…、とりあえず元帥にでも突き出しとくか?」
男「そうだな。んじゃ元帥のとこにでも行くか」クルッ
師匠「だな」クルッ
兵1「………貰ったあああああぁぁああああぁぁあああああああ!!」ダッ
男「なっ!?」
兵1「油断したなああああぁああぁ!! 馬鹿がああああぁぁああぁぁ!!」
男「まずいっ!!」
兵1「命令とかもう関係ねえええぇえぇ!! 殺してやるうううううぅぅぅう!!」
男「やばい、間に合わな…」
兵1「死ねええええええええええぇぇぇええええぇぇええ!!」
師匠「男おおおおおぉぉぉぉおおおぉぉ!!」
ブシャッ!!
633:
ポタポタ…
兵1「キャハハハハハハハハハァアアアア!!」
兵1「やったああああぁああぁ!! 俺はやったんだああああぁぁああ!!」
兵1「これで昇格間違いなしだあああぁあ!! ざまあみやがれええええぇぇえ!!」
ポタポタ…
兵1「おい、なんか言ってみろよ? どんな気分だ、おい?」
男「……おい、なんでだよ」
兵1「あぁん?」
男「なん……で……、こんなことしたんだよ……」
兵1「どうでもいいんだろうが!!」
男「ふざけん……なっ!!」
兵1「キャハハハハアアアアァァ!!」
男「おい!! 返事しろよ!!」
男「お袋おおおおおぉぉぉぉおおおぉおぉ!!」
師匠「……………」ポタポタ…
634:
男「師匠!! なんで!!」
師匠「静かにしやがれ……、傷に染みるだろうが……」
男「なんで俺なんかを庇ったんだよ!!」
師匠「アホ……大切な息子だからに……決まってんだろ…」
男「何言ってやがる!! 自分が一番大切だろうが!!」
師匠「わかってねえな……自分より…大切な…物なって…山ほどあるわ……」
男「いい加減にしろ!! もういい、喋るな!!」
師匠「世界の終わり…みたいな…顔してんじゃねえよ……バカっ。でもな…」
男「でもじゃねえよ!! 良いから黙ってろ!!」
師匠「黙ってろ……。いいか……男……、聞いてくれ……。これが最後の言葉になるだろうから……」
男「く……っ!! ふざけんなよ……やめてくれ…っ!!」
師匠「辛いことも……そりゃあかった……。でもな……お前が……ちゃんと成長してくれて……私は……本当に……嬉しかった……」
男「礼ならちゃんとする!! だから……だから…っ!!」
師匠「大切な……大切な……息子だよ……お前は」
師匠「良かったよ…お前が……息子で……」
635:
男「っ……!!」
師匠「あぁ……私は……胸を張って…言える……よ。お前は……世界一の……男…だ」
男「………」
師匠「理解して…もらえるかわからないが……死神に……願ってくれ」
男「死神に……?」
師匠「ガハッ……!!」ベチャッ
男「抜かしたこと言ってる場合じゃねえ!! 早く医務室に!!」
師匠「兎に角聞け…。いいか……この世に……神なんて…いねえんだ……」
男「何言って…」
師匠「うるせえ…黙って聞け…。神ってのは……人を幸せにしてくれねえんだよ……」
師匠「あいつらは……見なきゃいけない人が多いからな……全員…見れねえんだ…」
男「………」
師匠「馬鹿…そんな悲しい…顔すんじゃねえよ…。死神に…願えば……死んだあと……幸せに…してくれんだ……」
師匠「良くも悪くも……死神は……信仰しているやつが…少ねぇ…だから……全員……見てくれるはずだ……うぐっ!!」
636:
男「師匠!!」
師匠「幸せ……だったよ」
男「死なないでくれ!!」
師匠「あり…が……とう」
男「死ぬな!!」
師匠「……あばよ」
男「待てよ!! まだ言ってないことがたくさん…っ!!」
師匠「……死神の……ご加護が…あります……よう……に」
男「………」
637:
男「……おい、師匠?」
師匠「………」
男「……何寝てんだよ。風邪ひくぞ?」
師匠「………」
男「……おい、まだ寝るにははええぞ」
師匠「………」
男「親父と結婚して…煙草もやめて…自分の子供作って…」
師匠「………」
男「これからだったんじゃねえのかよ…。なぁ?」
師匠「………」
男「今幸せだったんじゃねえのかよ? おい?」
師匠「………」
男「…返事しろよ!! 師匠!!」
638:
師匠「………」
男「………」
兵1「キャハハハハハ!! バーカ!! もう死んでんだろうが!!」
男「……許さねえ」
兵1「あ〜ん?」
男「お前は絶対許さねえ…」
兵1「だったらなんだ?」
男「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
兵1「」ゾクッ
男「コロス」
ヒュン
兵1「まっ」ズシャツ
バタッ
ブシャアアアアアア!!
639:
中佐「大佐!! 男!!」
男「………」
中佐「……こ、これは…一体」
男「………」
中佐「っ!? 大佐っ!!」ダッ
男「………」
中佐「おい!! 男!! どういうことだ!!」
男「……うるせえ」
中佐「…え?」
男「テメエはどこ行ってたんだよ!! お袋の大事な時によッ!!」ガッ
中佐「男……苦し……」ギリギリ
男「お袋は…お袋は……っ!!」ギリギリ
中佐「かっ……はっ…」
男「……っ!!」バッ
中佐「ゴホッ…ゴホッ…!!」
640:
男「……誰だよ」
中佐「………え?」
男「誰がこんなことしたんだよ!!」
中佐「…噂だと…准将が…」
男「…あいつ!!」ダッ
中佐「ちょ、ちょっと男!!」
男「うるせえ!! あいつは許せねえ!!」
中佐「男!! 落ち着いて!!」
男「むしろテメエはなんでそんなに落ち着いてられるんだよ!! ふざけんな!!」
中佐「……」
男「この腰抜けがっ!!」ダッ
バタンッ
中佐「……男」
641:
兵9「居たぞ!! やれ!!」
兵10「大丈夫だ!! 死にはしない!!」
「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
男「どけ、テメエらあああああああああああああああああああああああ!!」
兵11「怯むな!! いけっ!!」
男「邪魔すんじゃねええええええええええええええええええ!!」
ヒュン
ザクッ
兵9「が…っ」
ブシャアアアアアアア
兵10「なっ…!!」
兵11「て、撤退だ!!」
男「逃がすかよおおおおおおおおおおお!!」
642:
_____
___
_
中佐「こ…これは……死体の山…」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」グチャ
男「………」ピチャッ…ピチャッ…
中佐「男!! どうして!!」
男「テメエは許せるのかよ!! お袋を殺したやつらをよ!!」
中佐「…許せないよ…そんなの許せるわけないじゃないか!!」
男「だったら良いだろうが!! 何人殺したってよ!!」
中佐「君は!! 大佐の教えを覚えてないのか!!」
男「何が…っ!!」
『……人を殺してごめんなさい。悲しませて、怒らせてごめんなさい』
男「あっ……あっ……」
中佐「……思い出したかい」
男「俺は……また……」
643:
中佐「あぁ……。だからもう……」
男「……俺はもうあいつの息子じゃねえ」
中佐「……え?」
男「あは、あははははは、ギャハハハハハハ!!」
中佐「男……?」
男「そうか…結局……俺はただのガキだったんだ!! やっぱり捨てられたガキだもんなぁ!!」
中佐「何を言って…」
男「師匠…ありがとよ…、俺に…人の殺し方を教えてくれてよぉ!!」
中佐「待て!! 男!!」
男「邪魔だああああ!!」グサッ
中佐「ガハ…ッ!! ……お、男……」
男「ギャハハハハハハハ!! 楽しいなァ!! 人を斬るのはよォ!!」ダッ
中佐「……ま、ま…て」バタッ
男「殺すぜ!! 皆殺しだァ!!」
644:
兵101「き、来たぞ!! 退けええ!!」
男「ギャハハハハハ!! 死ね死ね死ね!!」
『…男。人を殺すことはイイ事か? ダメなことか?』
男「……っ!!」
『……ダメなこと?』
男「違うっ!!」
『……それは死んだら生き返らないからだ』
男「黙れ黙れ黙れ!!」
『……死んだらダメなの?』
『……あぁ、駄目だ』
男「……だったら何で」
『…悲しむ人が居るからだ』
男「なんで死んじまったんだよおおおおぉぉぉぉおおおぉぉお!!」
645:
『……ごめんなさい』
男「……ごめん、師匠」
『…それはどういう意味のごめんなさいだ』
男「……人を殺してごめんなさい。悲しませて、怒らせてごめんなさい」
『……もうしないか?』
男「…うっぐ、しません。…もうしません、ごめんなさい」
『……もうするんじゃねえぞ、バカッ』
男「……ごめん…ごめん」
男「……うっぐ、うわああああああああああああああああああん!!」
『……よしよし。わかればいいんだよ』
男「畜生…畜生おおおおおおおおぉぉぉぉぉおお!!」スパッ
646:
_____
___
_
准将「……まだかぁ…まだ男は捕まらんのかぁ…」
ガチャッ
准将「おぉ、遂に捕ま……」
男「……残念だったなぁ……直接来てやったぜ…」
准将「なっ!! まさかぁ…選りすぐりの兵士達がぁ……っ!!」
男「何が……特殊…部隊だ…。束になろうが…大したことなかったぜ……」
准将「ばっ、馬鹿なぁ……」
男「さぁ……お前で…最後だ……覚悟…しな…」チャキッ
准将「まっ、待つんだぁ!! 悪かったぁ!! 私が悪かったからぁ!!」
男「死にな……クソが……」
准将「待ってくれぇ!! 待ってくれぇ!!」
647:
男「さぁ……今……か……ら…」
バタッ
准将「……何ぃ?」
男「………」
准将「……気絶…してるのかぁ?」
男「………」
准将「フハハッ、フハハハハハハァ!!」
准将「残念だったなぁ、男ぉ? あと少しだったのになぁ?」
准将「これも全てぇ、貴様が悪いのだぁ!!」
准将「最初からぁ、私の誘いに乗っていればぁ、誰も死ななくて済んだものぉ…」
准将「お前のせいでぇ、全員死んだのだぁ!!」
准将「フハハハハハハハハァ!!」
男「………」
准将「さてぇ…だが私に武器を向けた罪は重いぃ……。私はご立腹だぁ…。実に気に食わぬぅ。なのでぇ、貴様にはここでぇ、死んで貰うぅ!!」
元帥「……待つのじゃ、准将よ」
648:
准将「おぉ、これはこれは元帥殿ぉ…。良い所に来ましたねぇ…」
元帥「…何を言っておる。むしろ貴様の首が危ういのではないか?」
准将「そちらこそ何を言っているんですかぁ? 私はぁ、命を狙われていたんですよぉ?」
元帥「……先に仕掛けたのはどっちだ」
准将「おやぁ、聞き捨てなりませんなぁ? 誰かが私に命令されたとでもぉ、言ったのですかなぁ?」
元帥「………」
准将「無言は否定と受け取りますよぉ? 噂じゃ人は裁けないのですよぉ…」
元帥「貴様…よくぬけぬけとそんなことが言えたなあ!!」
准将「怒らないでくださいよぉ、全くぅ…。裁きたけれればしっかり証拠を集めるんですなぁ…」
元帥「貴様は……っ!!」
准将「とぉ、いうわけでぇ。さっそく男を死罪にしましょうかぁ…」
元帥「……何?」
准将「当たり前じゃないですかぁ…。これだけの人数を殺しぃ、尚且ぅ、この私に牙を向いたのだぁ。これはぁ、死罪に値するぅ」
649:
元帥「……ならんっ!!」
准将「おやぁ、何故ですかぁ? 元帥殿ぉ? どうしてそこまで擁護するのですかぁ?」
元帥「…やつはそんな人間ではない。何か理由があったはずだ」
准将「なぁにを馬鹿なことぉ!! それにぃ…いくらあなたが擁護したところでぇ…死罪は免れないと思いますがねぇ…」
元帥「……准将よ。今日は何日だ?」
准将「何をいきなりぃ? 今日はぁ……っ!! まっ、まさかぁ!!」
元帥「…その通りだ。明日から儂はこの国の王となるのだ」
准将「そんなことが許されるはずがないぃ!! 職権乱用ではないかぁ!!」
元帥「貴様にだけは言われたくないのぉ、大臣よぉ?」
准将「……くぅっ!!」
元帥「…というわけじゃ。男は無期懲役とする!! これならば問題なかろう!!」
准将「…後悔しても知りませんよぉ?」
元帥「馬鹿者。儂は人を見る目はあるのだ。安心せい」
准将「…こんな大きな事件を起こしてもですかぁ?」
元帥「それは儂の目に留まらなかったものが起こした事件じゃからな」
651:
准将「…ふむぅ。まぁいいでしょうぅ。精々その男を死罪にしなかった事ぉ、後悔するがいいぃ!!」
元帥「儂からすれば貴様が大臣だということが一番の後悔じゃよ」
准将「……数年後ぉ、生きていられるといいですねぇ?」
元帥「まだまだ儂の寿命は先じゃよ」
准将「…だといいですねぇ。さぁ、用が住んだならさっさと出て行ってくださいぃ」
元帥「言われなくともそうするつもりじゃ。男はこちらに任せて貰うぞ」
准将「…えぇ、どうぞお好きにぃ」
元帥「あぁ、それではな」
バタンッ
准将「………」
准将「糞がぁ!! ふざけおってぇ!!」ダンッ
准将「ちぃ…」
准将「……まぁ、良いぃ。これからは大臣になるのだぁ」
准将「これで理想の軍が作れるというのだぁ!!」
准将「フーハッハッハッハ!!」
652:
__________
_______
_____
___
_
見張り「ここで大人しくしてるんだなっ!!」
ガチャン
男「………」
見張り「ちっ…!!」
スタスタスタ
男「………」
コツコツコツ
王「……よぉ、男。元気にしておるか?」
男「………」
王「…だんまりか。まるで昔に戻ったようじゃの」
男「………」
653:
王「…まぁよい。今回の騒動じゃが、死者101名、負傷者400名ということになっておる」
男「………」
王「…安心せい。中佐は生きておる。まだ意識は取り戻さないがな」
男「………」
王「そして知っておるとは思うが貴様は無期懲役ということになった。よほどのことがない限りここから出ることはできないのぉ」
男「………」
王「…そういうことじゃ。ではな、男よ」
男「……頼みがある」
王「……なんじゃ? 言うてみい」
男「………師匠を」
王「………」
男「師匠を、師匠の親父と同じ墓に入れてくれ」
王「……うむ。わかった。他にはなにかないか?」
男「………」
王「…そうか。では儂はもう行くぞ」
654:
コツコツコツ
男「………」
男「……なんで死罪じゃねえんだよ」
男「……俺は師匠の元に行けねえのかよ」
男「……ハハッ、そうか、元々行けねえや」
男「……これだけ殺して天国に行こうなんざ虫が良すぎるよな」
男「……あぁ…もう嫌だ…」
男「……こんなことになるなら」
男「……最初から、助けて貰わなけりゃ良かった」
655:
_____
___
_
コツコツコツ
男「………」
王「……男。残念な知らせじゃ」
男「………」
王「……中佐が、息を引き取った」
男「………っ!!」
王「……自殺じゃ。医務室のベットで血まみれなところを発見された」
男「………」
王「そして……これが遺書じゃ」ガサッ
男「………」
王「……読むのじゃ。貴様にはこれを読む義務がある」
男「………」ガサッ
656:
今までありがとう。そしてごめんなさい。
毎日が本当に楽しかった。嘘偽りなく最高の生活だった。
そりゃ大変なことだってたくさんあったし、苦労することもたくさんあった。
辛いことだってたくさんあったし、喧嘩することだってあった。だけどなんていうのかな。
ちっともあの生活が嫌だなんて思ったことはなかった。男の成長を見るだけでとても嬉しかった。
苦手な料理や洗濯だって君は頑張ってやろうとしてくれた。僕は嬉しかったよ。
いいお父さんとは間違いなく言えなかった。ずっと君に頼りきりだった。
位だって君の方が上だった。それでもこんな僕と結婚してくれてありがとう。
弱い僕は生きるのを諦めてしまった。だけど男はこれからも強く生きて欲しい。世界一の男になるまで。
中佐
657:
男「………」
王「………」
男「……なぁ、もう一つ頼みがある」
王「……なんじゃ?」
男「……中佐も師匠と同じ墓に入れてやってくれ」
王「……あぁ、わかった」
男「………」
王「……それではな」
男「………」
王「……強く生きるのじゃぞ」
コツコツコツ
男「………」
658:
男「……は、ははは、なんだよ、それ」
男「……あの時のこと謝れてもいねえのになんで死んじまったんだよ」
男「……なんで生きるのを諦めちまったんだよ」
男「……なのに俺には自分で死ぬなってか」
男「……クソ…ふざけんじゃねえよ」
男「………」
男「……俺のせいだ」
男「……俺が、あいつらを殺したんだ」
男「……あは、あははは、ギャハハハハ!!」
男「あぁ、当分死ねないな!! どんな顔して会いに行けっつうんだってな!!」
男「いいぜ!! わかったよ!! 生き抜いてやるよ!! どんなことをしてでもなぁ!!」
男「人殺しの罪を背負って、死神の名を背負って生きてやるよ!!」
男「とりあえずその前にあんたら二人のために祈ってやるよ!!」
男「死神のご加護がありますようにってなぁ!!」
男「ギャハハハハハハハ!!」
659:
_____
___
_
勇者「…こうして今の俺に至るわけだ」
魔法使い「………」
勇者「わかったろ。俺はこんな最低な人間なんだよ。わかったらさっさと寝な」
魔法使い「……でも、勇者様は私たちを助けてくれたじゃないですか」
勇者「あん?」
魔法使い「……身を挺してまで私たちを助けてくれたじゃないですか」
勇者「……勘違いするな。俺は死ぬわけにはいかねえんだよ。何があってもな」
魔法使い「ですが…」
勇者「前に言ったろ? お前らは結局捨て駒だ。魔王戦の為に取っておいてるだけだ」
魔法使い「………」
勇者「魔王と戦うことになればお前らなんて簡単に切り捨てる。そう言ったろ」
魔法使い「……いえ、それは違います」
勇者「……あん?」
660:
魔法使い「だったらわざわざ最後まで私を連れて行くわけがないんです。こんな足で纏い壁にもならないじゃないですか」
勇者「だからずっと帰れって…」
魔法使い「ですが結局一度も帰すことはありませんでした。おかしくないですか?」
勇者「だったら今すぐにでも…」
魔法使い「…結局…師匠さんとの…勇者様のお母さんの教えを守ってるじゃないですか」
勇者「………」
魔法使い「どんなことをしてでもとは言いながら人は殺さない。勇者様のお母さんのように、困っている人が居れば助ける」
勇者「………」
魔法使い「しっかり守ってるじゃないですか…」
勇者「……これは罰なんだ」
魔法使い「……え?」
661:
勇者「もちろんこんなことで許されるわけがねえってのはわかってる。中佐と師匠は相当を俺を恨んでるだろうからな」
魔法使い「そ、そんなこと!!」
勇者「違わねえんだよ。俺のせいで二人共死んだんだ。恨まねえはずがねえ。俺が奴らの幸せをぶち壊したんだ」
魔法使い「………」
勇者「だから俺はもうあいつらみたいな奴を出すわけにはいかねえ。守られてばかりじゃなく、守らなくちゃいけねえんだ」
魔法使い「…勇者様」
勇者「…そのためにはどんなことでもする。俺が仕留めそこねたから師匠は死んだんだ」
魔法使い「……」
勇者「だから俺は目的の為には手段を選ばねえ。相手を殺してでも大切な物は守る。もうあんな後悔はしたくねえ」
魔法使い「……」
勇者「だから俺は助けなきゃならねえ。殺した102人分の命を取り戻さなくちゃいけねえ。辻褄を合わせなきゃならねえんだ」
魔法使い「え? 102人?」
勇者「……あぁ。中佐も師匠も俺が殺したからな」
魔法使い「……」
662:
勇者「辻褄を合わせ。ただそれだけだ。魔王を倒せば本来死ぬはずだった大勢の命が救われる。お前らが死んだところでお釣りが来るくらいだろ」
魔法使い「勇者様…」
勇者「だから俺はどんな手を使ってでも魔王を倒す。例えお前らが死んだとしてもな」
魔法使い「……」
勇者「わかったか。だったらさっさと寝な」
魔法使い「……ですが」
勇者「お前がどんだけ喋ろうと俺はもう寝る。おやすみ」
魔法使い「……おやすみなさい」
勇者「………」
魔法使い「………」
魔法使い(……魔王の為に取っておいてる…か)
魔法使い(……ですが、勇者様…悲しい目をしてました)
魔法使い(それは本心ではないような…無理して言っているような…そんな…目でした)
663:
チュンチュン
勇者「おい、ガキ。起きろ」ゲシッ
魔法使い「うぐっ…。痛い…」
勇者「おら、さっさと行くぞ。いよいよ魔王討伐の日だ」
魔法使い「……勇者様」
勇者「…さっさと準備しやがれ。俺は先に外行ってるぞ」
魔法使い「……あっ」
バタンッ
魔法使い「………」
魔法使い「……勇者様の目…。真っ赤だった…」
魔法使い「きっと…勇者様にも思うところがあったんでしょうね…」
魔法使い「………」
魔法使い「……うん。とりあえず準備しよう」
魔法使い「…勇者様のためにも…魔王を倒さなきゃですよね」
664:
_____
___
_
魔法使い「す、すみません!! 遅くなりました!!」
戦士「やあ、おはよう。魔法使いちゃん」
僧侶「おはようございます」
勇者「ったく、おせえんだよ、クソガキが」
魔法使い「…申し訳ありません」
勇者「魔王が怖くて寝れなかったのか? あん?」
魔法使い「……えぇ、そうですね」
勇者「……」
戦士「まあそりゃそうだろうね。私も昨日はあまり寝付けなかったからな」
僧侶「えぇ、私もです」
勇者「あぁ…そうかい」
665:
魔法使い「えぇ…。ですが頑張りましょう!! 魔王を倒して、皆で帰りましょう!! ね!!」
勇者「………」
戦士「…あぁ、そうだな!! 皆で帰ろう!!」
僧侶「えぇ!! そうですね!!」
勇者「…まっ、精々頑張んな」
戦士「全く…。君はそうやって…」
僧侶「まあまあ。兎に角行きましょう。魔王城はもうすぐですよ!!」
魔法使い「はい!! 皆さん頑張りましょう!!」
戦士「おう!!」
僧侶「はい!!」
勇者「……あぁ、そうだな」
魔法使い「じゃ、張り切って行きましょう!!」
「「おー!!」」
勇者「お前がしきってんじゃねえよ」ゲシッ
魔法使い「いてっ!!」
667:
魔法使い「ちょ、ちょっと何するんですか!!」
勇者「朝っぱらから騒々しいんだよ」
魔法使い「なんですとー!!」
勇者「……ありがとな」ボソッ
魔法使い「え?」
勇者「…うるせえなっつたんだよ、バカッ」
魔法使い「な、なんですか!! もう!!」
勇者「おら、さっさと行くぞ。クソガキ。置いてくぞ」
魔法使い「…まったく」
魔法使い(…本当はちゃんと聞こえてましたよ)
魔法使い(本当に素直じゃないですね…)
魔法使い(…魔王…絶対に倒しましょうね。勇者様)
勇者「本当に置いてくぞ」
魔法使い「ま、待ってくださいよー!!」
684:
僧侶「……ここが魔王城ですか」
戦士「…如何にもという感じだな」
魔法使い「なんかこう…オーラが出てますね」
勇者「どうでもいいがさっさと入ろうぜ。もう疲れたぜ、俺わ」
魔法使い「人に散々体力ないっていう割にだらしないですねぇ」
勇者「俺は頭脳派だからな」
魔法使い「何を言ってるんですか」
勇者「日本語講座開いてやろうか?」
魔法使い「そういう意味じゃないです」
戦士「だがそうだな。ここで立ち往生していても仕方あるまい」
勇者「だろ? ほら、行くぞ」
僧侶「…えぇ、そうですね」
魔法使い「ちょ、ちょっと待ってください!! 心の準備が!!」
勇者「そんなもの昨日のうちにしとけ。おら、行くぞ」ズルズル
魔法使い「あぁ!! 引っ張らないでください!!」
685:
ギィ
魔法使い「いーやー!!」
勇者「うるせえ。反響して余計にうるせえ」
戦士「……しかし随分と閑散としているな」
僧侶「そうですね…。もっと沢山魔物がいるものだと思っていましたが…」
勇者「…確かに妙だな。静かすぎるな」
戦士「…罠か?」
魔法使い「うぇ!? だったらやばいじゃないですか!! ここは一時作戦を練って!!」
勇者「んなもん考えるだけ無駄だろうが。とりあえず進むぞ」
魔法使い「ゆ、勇気と無謀は違うと思います!!」
勇者「だったらお前作戦思いつくのかよ」
魔法使い「……」
勇者「そういうことだ。ほら、行くぞ」
魔法使い「あぁ!! そんな殺生な!!」
686:
_____
___
_
コツコツ
戦士「…しかし本当に一匹も居ないな。まさか場所を間違えたか?」
僧侶「…いえ、それはないと思います。奥の方に強い魔力を感じます」
勇者「あぁ、そういえばそんな能力あったな。忘れてたわ」
戦士「だが何故こんなにも静かなのだ。今のところトラップも何もないし…」
勇者「さあな」
魔法使い「やっぱり私たちに恐れをなして」ガクガク
勇者「足震えてんぞ」
戦士「しかし魔王城だというのにこんな手薄でいいのか?」
勇者「知るかよ。俺にはお偉いさんの考える事はさっぱりわかんねえよ」
687:
戦士「うーむ…。だが…」
勇者「そんなに悩んでたら白髪まみれになっちまうぞ」
戦士「なるか、馬鹿」
僧侶「でも妙ですね…。奥の方からは強い魔力を感じるんですが…。それも複数…」
勇者「…何? それはどのくらいだ?」
僧侶「…数えきれないくらいです」
戦士「なんだと!? だったら何故各地に配置しないのだ!?」
魔法使い「や、やっぱり恐れをなして」ガクガク
勇者「…待てよ」
戦士「なんだ!? 何かわかったのか!?」
魔法使い「やはり私の言う通りというわけですか!?」ガクガク
勇者「んなわけあるか。いや、まだ憶測でしかねえが…」
僧侶「っ!? 勇者様!! 魔力が一斉に消えました!!」
魔法使い「に、逃げ出したんですか!!」キラキラ
勇者「ちげえよ馬鹿!! くっそ!! 遅かったか!!」
688:
戦士「勇者!! 説明を…」
ヒュン
「グルルルル…ッ!!」
戦士「なっ!?」
魔法使い「ま、魔物が沢山!!」
勇者「…こういうこった」
僧侶「し、しかし何故急にこんな大勢が!?」
勇者「説明はあとだ。このマザーファッカー共を潰すのが先だ」
戦士「…そうだな」ジャキッ
僧侶「…わかりました。援護は任せてください」
魔法使い「た、タンマ!! こ、心の準備が!!」
「ガウッ!!」ダッ
魔法使い「きゃああああ!! きたあああ!!」
ヒュン
勇者「待ってくれるわけねえだろ、タコスケ!!」スパッ
689:
魔法使い「うっ…。ありがとうございます…」
勇者「足引っ張るんじゃねえよ…っと!!」スパッ
戦士「魔法使いちゃん!! 戦うしかないよ!!」ブンッ
魔法使い「は、はいっ!!」
戦士「たあああああああ!!」ブンッ
勇者「あーらよっと」スパッ
魔法使い「ひ、火術!!」ゴウッ
「ガウガウ!!」ガブッ
戦士「く…っ!! これしき…はああああぁあ!!」ブンッ
「キャインッ!!」
僧侶「回復魔法!!」キュイン
戦士「…ふう。ありがとう、僧侶ちゃん」
僧侶「いえいえ」
勇者「喋ってる場合じゃねえぞ!! さっさと潰すぞ!!」
「「「はいっ!!」」」
690:
_____
___
_
「ガウガウッ!!」
勇者「…ちっ。キリがねえぞ、こいつら」
魔法使い「はぁ…はぁ…。何体居るんですか…」
僧侶「……うぅ」
戦士「……」
「ガウッ!!」ダッ
勇者「だああああ煩わしい!!」スパッ
魔法使い「これじゃあ魔王の所になんて着きませんよ!」
勇者「くっそ! 今日中にたどり着くのか?」
戦士「…勇者。先に行け」
勇者「……あん?」
691:
戦士「こんなの所で時間を使っている暇はない…。ここは私に任せて先に行くんだ!!」
魔法使い「戦士さん!! ですが!!」
勇者「…そうだな、行くぞ」
魔法使い「勇者様!! 一人で残す何て危険すぎます!!」
勇者「アホ、誰が戦士一人置いてくっつった」
魔法使い「え?」
勇者「おい、僧侶。お前も残ってやれ」
僧侶「えっ? 私もですか?」
魔法使い「ちょ、ちょっと!! 私と勇者様で魔王倒すんですか!?」
勇者「ん? そのつもりだけど?」
魔法使い「正気ですかっ!?」
勇者「正気で勝機あると思うぜ」
692:
戦士「ゆ、勇者、それはいくらなんでも…」
僧侶「流石に二人では厳しいかと…」
勇者「なんだ、お前ら? 俺らのこと信じてねえのかよ?」
魔法使い「はいっ!! 心もとないです!!」
勇者「お前に発言権はねえよ」
魔法使い「酷くないですか!?」
戦士「し、しかし…」
勇者「いいからお前らはちゃっちゃとこいつら倒して俺に追いついてくれよ。待ってんぞ」
僧侶「…まぁ勇者様がそういうなら」
戦士「…わかった。ま、それまでに倒していてくれるとありがたいんだがな」
魔法使い「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」
勇者「やだ。じゃあ頼んだぞ、お前ら」ヒュン
魔法使い「ちょっ」ヒュン
693:
ヒュン
勇者「よっしゃ、走れ、魔法使い」ダッ
魔法使い「うぇっ!? な、なんでほんのちょっとしか移動しないんですかぁ!!」ダッ
勇者「魔力が勿体ないだろうが。ほら、急がねえと追いつかれんぞ」
「ガウッ!!」
魔法使い「いーやぁー!!」
戦士「行かせやしない!!」
ズバッ
魔法使い「戦士さん!!」
戦士「早く行けええええぇ!!」
魔法使い「…はいっ!!」
ダッ
勇者「ほんじゃま、頼むぜー」ヒラヒラ
694:
戦士「…さて」
「ガウッ!!」
「グルルルルル!!」
戦士「…倒し終わるかね、この量?」
僧侶「私たちに選択肢なんてありませんよね?」
戦士「…そうだな。倒すしかないんだな!!」チャキッ
僧侶「…えぇ。早く倒して追いつきましょう」
戦士「…あぁ。そうだな」
「ガウガウッ!!」バッ
戦士「はああああぁぁぁ!!」
ズバッ
僧侶「お見事です」パチパチ
戦士「まだまだああああぁ!!」
戦士(…無事を祈るぞ勇者。魔法使いちゃん)
710:
_____
___
_
勇者「ここだな…」
魔法使い「如何にもって感じの扉ですね…」
勇者「引き返すなら今だぞ?」
魔法使い「な、何言ってるんですか…。今更帰れるわけないじゃないですか」ガクガク
勇者「だから膝」
魔法使い「む、武者震いです!!」
勇者「お前魔法使いだろ」
魔法使い「そういうことじゃないですよ!!」
勇者「今から帰ってジョブチェンジするか?」
魔法使い「しないですよ!!」
勇者「なんでだよ、帰れよ」
魔法使い「どんだけ帰したいんですか!!」
711:
勇者「いや、だって邪魔だし」
魔法使い「何言ってるんですか!! 今まで超役に立ってたじゃないですか!!」
勇者「どの口が言うんだよ」
魔法使い「この口です!!」イー
勇者「何だ、口突き出して。キスしてやろうか?」
魔法使い「な、な、何言ってるんですか/// そ、そういうのは帰ってからに…///」
勇者「バーカ、嘘に決まってんだろ」
魔法使い「だあああああああああああああ!!」
勇者「本当にアホだな、お前は」
魔法使い「なんなんですか、最後の最後まで!!」
勇者「それに全部終わったらもう会うこともねえだろうが」
魔法使い「……本当にもう会えないんですか?」
勇者「当たり前だろうが。会う理由もねえだろうが」
魔法使い「………」
712:
勇者「それにお前らを王の所に連れて行ったら俺の報酬が減るだろうが」
魔法使い「………」
勇者「まっ、そういうこった。だからキスするならこれが最後のチャンスだぜ?」
魔法使い「……じゃぁしましょうか?」
勇者「……あん?」
魔法使い「キス…しましょうよ」
勇者「……冗談に決まってんだろ」
魔法使い「……私は冗談じゃないですよ」
勇者「……」
魔法使い「……勇者様」
勇者「…………」
713:
勇者「……バカたれ」ビシッ
魔法使い「いたっ」
勇者「ドアホ。大人をからかうんじゃねえよ」
魔法使い「……馬鹿」ボソッ
勇者「うるせえよ。それにお前みたいなガキにするわけないだろうが」
魔法使い「…むぅ」
勇者「ほら、さっさと行くぞ」
魔法使い「……まだ、師匠さんのことを忘れられないんですか?」
勇者「……あん?」
魔法使い「…師匠さんの事…まだ好きなんですか?」
勇者「………」
714:
魔法使い「どうなんですか…勇者様」
勇者「……んなわけないだろうが」
魔法使い「……勇者様」
勇者「そもそも師匠は俺を恨んでんだ。そんなことが許されるわけないだろうが」
魔法使い「……そんなことないと思います。師匠さんは勇者様を恨んでいないと思いますよ」
勇者「……お前に何がわかるんだよ」
魔法使い「……いえ、確かになにもわかりません」
勇者「だったら!!」
魔法使い「でも最後に”ありがとう”って言ってたじゃないですか。師匠さんの言葉を信じれないんですか?」
勇者「……それが本音かどうかわかんねえだろうが」
魔法使い「…どうして!? どうして信じられないんですか!?」
勇者「…形がねえからかな」
魔法使い「……」
勇者「どうにもな、ガキの頃の経験のせいかな。食べ物や金っていう形のあるものしか信じれなかったせいかな」
魔法使い「でも師匠さんにそれより大事なことを教わったんじゃないですか!?」
716:
ギュッ
勇者「………」
魔法使い「…もういいじゃないですか」
勇者「………」
魔法使い「…もう素直になってもいいじゃないですか」
勇者「………」
魔法使い「…もう無理しなくてもいいじゃないですか」
勇者「……俺は……いいのか?」
魔法使い「……はい」
勇者「……俺は…誰かと一緒にいてもいいのか……」
魔法使い「えぇ。神や死神が許さなくても私が許します」
勇者「……そうか」
魔法使い「えぇ。ですから私には全てさらけ出してください」
勇者「……そうか」ギュッ
715:
魔法使い「…それだと勇者様が不幸です」
勇者「…何言ってんだ。金も時間も自由ある。何一つ不自由しねえだろ。これのどこが不幸なんだよ」
魔法使い「…いいえ、それだと足りないものがあります」
勇者「…なんだよ」
魔法使い「それは仲間です」
勇者「……」
魔法使い「だから…」
勇者「…くふっ!」
魔法使い「……え?」
勇者「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
魔法使い「ゆ、勇者様?」
勇者「あぁ、なんて愚かなんだ、お前は!! 俺に仲間が必要? 俺が不幸? 最ッ高のジョークだよ!!」
魔法使い「……」
勇者「んなわけねえだろうが!! 俺は一人でなんでもできる!! 何一つ困ることなんてねえ!!」
717:
魔法使い「だから今は私の胸を貸しますよ」
勇者「……バカ。そんな胸ねえだろうが」
魔法使い「もー!! まだ発展途上なんです!!」
勇者「…ははっ。そうかい。期待してるよ」
魔法使い「そうです!! だから期待して待っててください!!」
勇者「…あぁ、楽しみにしてるよ」
魔法使い「…えっ、それって」
勇者「…うっし。こんなとこでくすぶってても仕方ねえな。最終決戦と行こうか」
魔法使い「ちょ、ちょっと勇者様!! 今のって!!」
勇者「…うっせえよ。続きは終わってからだ」
魔法使い「……期待していいんですよね?」
勇者「…あぁ。期待して待ってろ」
魔法使い「…えぇ、楽しみにしてます」
勇者「…じゃぁ行くぞ、魔法使い」
魔法使い「…はいっ!! 勇者様!!」
719:
勇者「……」
魔法使い「どうして素直になれないんですか!? もっと自分に優しくしてもいいじゃないですか!!」
勇者「…俺は幸せになっちゃいけねえんだよ」
魔法使い「どうしてですか!!」
勇者「俺は沢山の人を殺した。沢山の人の幸せを奪った。人を不幸にする死神だからさ」
魔法使い「でもそれは…」
勇者「仕方なくなんかねえんだよ」
魔法使い「で、でもやり直せるはずです!!」
勇者「無理なんだよ。人の犯した罪は消えない。死んだ人は生き返らねえんだよ」
魔法使い「……」
勇者「だから俺は魔王を倒して表面上の罪は消す。そして莫大な富を貰って適当な所で好きなように過ごす。そうすればこれ以上不幸になる人はいねえだろ」
魔法使い「……いいえ、それは違いますよ」
勇者「…何が違うっていうんだよ」
733:
ギィ
魔王「…ふははは!! 遂に来たか人間共!!」
魔法使い「っ!?」ゾクッ
勇者「……」
魔王「よくぞここまで辿り着いた!! 褒めてつかわす!!」
魔法使い(な、なんて禍々しい妖気…。これが…魔王っ!?)
勇者「…だったら何か記念品でも贈呈してくれるのか?」
魔王「物よりもよっぽど素晴らしいものだ!! この我と話すことができたのだ!! 一生誇ってよいぞ!!」
勇者「そりゃどうも」
魔王「だが残念だったな…。誇れるのもあと数分だ…」
勇者「あぁ、だろうな。もうすぐお前が死ぬ。そうすれば何の価値もなくなるもんな」
魔王「……ふはははは!!」
勇者「ん? 何がおかしいんだ?」
魔王「…戯言を!! 力の差もわからぬとはな!!」
勇者「おいおい、そりゃこっちのセリフだ」
734:
魔王「身の程を知れ!! 貴様らなど我からすればスライムと変わらぬ!!」
勇者「まじか。最近のスライムは随分とお強いこった」
魔王「ほう…。我に喧嘩を売っておるのだな?」
勇者「当たり前だろうが。なんの為にはるばるここまで来たんだよ」
魔王「…良かろう!! ならばさっさと地獄へ送ってやる!!」
勇者「…やれやれ、気の短いこった。肉ばっか食わねえで魚食え、魚」
魔王「ここまで来たことを悔やむがいい!!」
勇者「…来るぞ、魔法使い」
魔法使い「っ!! はいっ!!」
魔王「ふははははははははははははは!!」
勇者「…さて。あんたが地獄に行った後、幸せに過ごせるよう願ってやるよ」
勇者「死神のご加護がありますようにってな!!」ダッ
735:
魔王「来るがいい!! 勇者よ!!」
勇者「…言われなくもそのつもりだよ!!」
ヒュン
魔王「…なに!? どこだ!?」
ヒュン
勇者「どっち向いていやがる!!」
魔王「なっ!?」
魔法使い「う、後ろをとった!!」
勇者「先手必勝…ってな!!」
スンッ!!
魔王「…なんてな」ニヤリ
ヒュン
魔法使い「…えっ?」
勇者「…っ!? あぶねえ!! 避けろ!!」
魔法使い「ひ、ひぃっ!!」スンッ!!
736:
勇者「大丈夫か、クソガキ!?」
魔法使い「は、はい、なんとか…。で、でもなんで勇者様が急に私の目の前に…」
魔王「くくく…」
勇者「…ちぃ!! やっぱりそうだったか!!」
魔法使い「え、え? 何がですか?」
勇者「…あいつも移動魔法を使えるんだよ」
魔法使い「…えっ!?」
魔王「ふははは!! その通りだ!! まぁ気付かれたところでなんてことはないがな!!」
魔法使い「えっ!? で、でも魔王は勇者様に触れていませんでしたよ!?」
勇者「あぁ。あいつは物に触れなくても発動できるんだろうよ」
魔法使い「そんなのってありですか!?」
勇者「実際そうなんだから仕方ねえだろうが」
魔法使い「そ、そんな…。は、反則すぎます…」
魔王「ふははははは!! だから言ったであろう!! 貴様らなどスライムと変わらんとな!!」
魔法使い「そんな…」
737:
勇者「…さぁて。こいつは参ったな。ガキの火術も意味ねえんだろうな」
魔王「無論だ。我に貴様らの攻撃が届くことは未来永劫ないのだ!!」
魔法使い「ゆ、勇者様!! どうすれば!?」
勇者「落ち着けクソガキ。慌てたって良い考えなんざ生まれやしねえ」
魔法使い「うっ…」
勇者「考えろ。何か方法があるはずだ」
魔法使い「で、ですが…」
勇者「それとも白旗でもあげるか?」
魔法使い「…そういうわけにもいきませんよね」
勇者「そういうこった。こいつを倒して王から金巻き上げようぜ」
魔法使い「…もう少し勇者らしいことは言えないんですか」
勇者「俺は欲望に忠実だからな」
魔法使い「…多分歴代最低の勇者なんでしょうね」
勇者「あぁ。金輪際、俺を超える勇者は現れねえだろうな」
魔法使い「でしょうね…」
738:
勇者「…だからさっさと記録に名を残して帰ろうぜ」
魔法使い「…えぇ、そうですね!!」
魔王「ふむ、辞世の句は詠み終わったか?」
勇者「バーカ。そんなもん詠むくらいなら呪文を詠むっつうの」
魔王「やれやれ、まだ実力の差がわからぬのか? 我はずっと貴様らを見ていたのだ。奇襲も通用しない今、貴様らに勝ち目など億分の一も残っておらぬ」
勇者「おいおい、ストーカーかよ。国の兵士に被害届出すぞ?」
魔王「国の犬が何匹かかってこようと我の敵ではないわ」
勇者「おっしゃる通りで」
魔法使い「…でも勇者様。本当にどうするんですか?」
勇者「そうだな。とりあえず何個か思いついたから、試さなくちゃいけないことがあるな」
魔法使い「え!? ほ、本当ですか、勇者様!?」
勇者「あぁ。まぁ見てなって」
魔王「ほう…。面白い…。やってみるがよい!!」
739:
勇者「まず一つ目っと」サッ
魔法使い「ナイフを取り出してどうするつもりですか?」
勇者「…飛んでけ!!」ヒュン
魔法使い「えぇ!? いつも通りじゃないですか!?」
魔王「…くだらん」ヒュン
グサッ!!
勇者「がっ…!!」
魔法使い「ゆ、勇者様!! と、とりあえず薬草です!!」キュイン
勇者「ハァ…ハァ…。あぁ…死ぬかと思った…」
魔法使い「何やってるんですか!! 通用しないって言ったばっかりじゃないですか!!」
勇者「うるせえな…。試してみただけだよ」
魔王「くだらん…。実にくだらん!! 我を馬鹿にしているのか!!」
勇者「んなわけあるかよ。こっちは死に物狂いで頭働かせてんだよ」
魔王「…だったら興ざめだ。さっさと死ね」
740:
バッ
魔法使い「これは…爆薬!?」
勇者「ばっ、あぶねえ!!」
ヒュン
勇者「掴まれ、魔法使い!!」
魔法使い「は、はいっ!!」ガシッ
魔王「砕け散れぇ!!」
バンッバンッバンッ!!
魔王「……ほう、これを避けるか」
ヒュン
勇者「当たり前だろうが!! こんなん食らったら死ぬわ!!」
魔法使い「壁もこんだけボロボロですからね…」
741:
魔王「だが、これで終わらんぞ」
ヒュン
勇者「ガアッ!!」
魔法使い「ゆ、勇者様!!」キュイン
勇者「はぁはぁ…。壁の破片を飛ばしてくるとはな…。良いコンボじゃねえか…」
魔王「貴様に褒められたところで嬉しくはないわ。さっさとくたばれ」
勇者「どアホ。最終決戦がそんな短く終わったら興ざめだろうが」
魔王「最終決戦にしては役不足すぎるな」
勇者「大根役者で許してくれ」スッ
魔法使い「…あっ、煙草。ということは…」
勇者「いんや。普通に点けてくれ」
魔法使い「…え?」
勇者「そろそろ我慢の限界だ」
魔法使い「ちょっと!! そのくらい我慢してくださいよ!!」
勇者「こんなときだからだよ。早くつけてくれ」
742:
魔法使い「っ!! もうっ!!」ボッ
勇者「…ふぅ。やっぱ生き返るわ」
魔王「…随分と余裕だな。これだけ追い込まれておるのに」
勇者「こんなのピンチのうちに入らねえよ。おい、魔王」
魔王「…なんだ?」
勇者「見ろ」
魔王「…なに?」
勇者「この煙草を良く見てみ」
魔王「それがどうしたと…」
ヒュン
魔王「…ガッ!?」ザクッ
魔法使い「…えっ!?」
勇者「ふ〜ん。やっぱりな」
743:
魔法使い「ど、どうして魔王にナイフが刺さってるんですか!?」
魔王「貴様…。小癪な…」
勇者「おいおい、魔王さんよぉ。何が未来永劫届かないってぇ? えぇ?」
魔王「…つくづく癪に障る男だな」
勇者「俺の上司がむかつくやつだったからなぁ。いいのかぁ、ナイフを引っこ抜かなくてよぉ?」
魔王「ふんっ。この程度の攻撃効かぬわ!! 引き抜くまでもない!!」
勇者「ほう…。そうかいそうかい」
魔王「これで終わりか? ならば…」
勇者「そうはいくかよ!! 魔法使い!! 業火術だ!!」
魔法使い「は、はいっ!! 行きます!!」
魔王「効かぬと言っておるだろうが!!」
魔法使い「っ!! ごうかじゅ」
勇者「ひざかっくん」ガクッ
魔法使い「つ……って、えええええええぇぇぇ!?」ゴウッ!!
魔王「……何?」
744:
魔法使い「ちょ、ちょっと勇者様!! 何してるんですか!! 狙いずれちゃったじゃないですか!!」
勇者「うるせえな。いいんだよ、これで」
魔法使い「何がですか!! 全然違う天井の方に…って、まさか!?」
勇者「御名答」ニヤリ
バンッ!!
ガラッ
魔法使い「天井の瓦礫が!!」
勇者「そのまま砕け散れぇ!!」
魔王「チィッ!!」
ヒュン
魔法使い「あぁ!! 結局避けられちゃいました!!」
魔王「無駄だと言っておろうが!!」
勇者「…ここだ」
ヒュン
745:
グサッグサッ!!
魔王「…グッ!!」
魔法使い「魔王が串刺しにっ!!」
勇者「どうだ? ありったけのナイフをねじ込んでやったぜ?」
魔法使い「さ、流石勇者様です!! で、でもどうやって…」
魔王「…ふんっ。甘い。甘すぎるぞ!!」
勇者「…何?」
魔王「我は魔王であるぞ!! この程度の攻撃など微塵も効かんわ!!」
魔法使い「そ、そんな…。あれだけの本数が刺さってるのに…」
勇者「おいおい、まじかよ…。なんちゅう体力してんだよ。少しはへばれよ」
魔法使い「ゆ、勇者様!! ですがチャンスです!! このまま一気に攻め込みましょう!!
勇者「…残念なお知らせだ。もうナイフがねえ」
魔法使い「そ、そんなっ!!」
魔王「ふはははは!! もう万策尽きたか!! 我は少しも傷ついてはおらぬぞ!!」
746:
魔法使い「で、でもこれくらいのピンチ何度もあったはずです!! 勇者様なら他の手があるはずです!! ね、ねぇ、勇者様?」
勇者「………」
魔法使い「ゆ、勇者様…?」
勇者「…悪いな、魔法使い」
魔法使い「そ、そんな……嘘ですよね? また相手を油断させるための嘘ですよね…?」
勇者「せめて魔王が自分に刺さったナイフを使って攻撃してくれりゃな…」
魔王「…誰がそんなことをするか!! 貴様に渡すくらいならずっと体に残したままにするわ!!」
勇者「……くっ!!」
魔法使い「……でも…でも…あ、ほら、まだ瓦礫とか!!」
勇者「無駄だ。俺が触れる個数なんて限界がある」
魔法使い「そ、そんなのやってみなくちゃ!!」
勇者「魔法使い…。もう無駄なんだよ…」
魔法使い「………そんな……そんなのって……」
魔王「ふははははは!! チェックメイトのようだな!!」
747:
勇者「……仕方ねえか」
魔法使い「……え?」
勇者「……おい、魔法使い」
魔法使い「は、はいっ!! 何ですか!? 良い策でも思いついたんですか!?」
勇者「…あぁ、とっておきのな」
魔法使い「本当ですか!?」
勇者「…あぁ。必殺技を思いついたぜ」
魔王「……何?」
魔法使い「や、やったじゃないですか!! これで勝てますね!!」
勇者「……あぁ」
魔法使い「……勇者様?」
勇者「おい、魔法使い」ワシャワシャ
魔法使い「ど、どうしたんですか、勇者様? 急に頭を撫でたりして? く、くすぐったいですよ///」
748:
勇者「…お前は俺を信じられるか?」
魔法使い「当たり前ですよ。今更何言ってるんですか?」
勇者「…お前は今まで楽しかったか?」
魔法使い「まぁ辛いこともたくさんありましたが…そうですね、楽しかったです!」
勇者「…お前はこれからも楽しく生きていけるか?」
魔法使い「当たり前ですよ! 戦士さんに、僧侶さん。他にもマスターに村人さんとも楽しくやっていきたいです! もちろん、勇者様ともです!」
勇者「……そうか。良い仲間が沢山できたな」
魔法使い「はいっ!!」ニコッ
勇者「それじゃぁ…」
勇者「俺が居なくても大丈夫だな?」
魔法使い「……え?」
749:
勇者「…ま、そんだけ仲間が居りゃ大丈夫だろ」
魔法使い「この手って……まさか!? 離してください!! 勇者様!!」
勇者「達者で暮らせよ」
魔法使い「やめてください!! 勇者様!! 離して!!」ブンブンッ
勇者「俺はお前のこと……いや、いいか」
魔法使い「勇者様!!」ブンブンッ
750:
勇者「あばよ。魔法使い」
魔法使い「勇者様ああああああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!」
ヒュン
759:
_____
___
_
戦士「はあああああああああああ!!」
ズバッ
戦士「はぁはぁ…」
「グルルルル!!」
戦士「ちっ!! まだ居るのか!!」
僧侶「…うぅ、このままじゃ全然進めないですよ」
戦士「くそっ!! 早く行かないと間に合わないぞ!!」
僧侶「こ、このままでは…」
ヒュン
魔法使い「うっ…」ドサッ
僧侶「…って、魔法使いちゃん!?」
戦士「何!? もう魔王を倒し終えたのか!?」
760:
魔法使い「っ!! 戦士さん、僧侶さん、急いでください!!」
僧侶「え…?」
戦士「何故だ? 魔王を倒し終えたから戻ってきたんじゃないのか?」
魔法使い「違うんです!! このままでは勇者様が危険です!!」
戦士「落ち着け、魔法使いちゃん!! 何があったんだ!!」
魔法使い「今、勇者様は一人で魔王と戦っているんです!!」
僧侶「えっ!? 一体何故!?」
魔法使い「勇者様は一人で死ぬ気です!!」
戦士「何っ!? それは本当か、魔法使いちゃん!!」
魔法使い「はい!! そのようなことを言ってました!!」
戦士「くっ!! 急ぐぞ、僧侶ちゃん!! 魔法使いちゃん!!」
僧侶「は、はいっ!!」
魔法使い「はいっ!!」
魔法使い(無事でいてください、勇者様!!)
761:
_____
___
_
勇者「………」
魔王「ほう…。勝ち目がないと踏んで小娘一人逃がしたか」
勇者「…あぁ、そうだよ。俺はこのまま戦い続けるほど馬鹿じゃないんでな」
魔王「賢明な判断だな。だがいいのか? 貴様は逃げなくて」
勇者「自分を飛ばせるほど魔力も残ってないからな」
魔王「ふんっ、馬鹿な男だ。自分の身より大事なものなど存在するわけがなかろう」
勇者「…俺もそう思ってたんだけどな。どこで間違えたんだろうな」
魔王「ふんっ、愚かだな。あんな小娘一人の為に自らの命を犠牲にするとはな!!」
勇者「全くだ」
魔王「だがその勇気に称えて楽に殺してやる。光栄に思え!!」
勇者「あぁ、その前に一つ答え合わせをしようぜ。どうせ死ぬんだ。もう少しくらいお喋りしようぜ」
魔王「…ふむ、よかろう。何についてだ?」
勇者「お前の能力についてだよ」
762:
魔王「…面白い。付き合ってやろう」
勇者「心の広い魔王で助かったよ。じゃあまずお前が魔法を使える範囲についてだ」
魔王「ほう…。言ってみるがいい」
勇者「何、簡単な話だ。俺の発動条件は『手に触れている物』だ。だが、お前の発動条件は俺と反対の『手に触れていない物』ってだけだ」
魔王「なるほど。何故そう思ったのだ」
勇者「簡単な話だ。さっき攻撃をするとき爆薬をわざわざ投げてから呪文を使ったんだ。そんな面倒な真似普通ならしねえだろ」
勇者「他にもある。お前の体に刺さっている無数のナイフがそれを証明してんだよ」
魔王「それは先にも説明したであろうが。貴様の手に渡らぬようにあえてそのままにしておるのだよ」
勇者「だったらどっか別の場所にでも飛ばせばいいじゃねえか。わざわざ俺に向けて使う必要もねえだろ? それに刺しっぱにする必要もな」
魔王「…ふははははは!! その通りだ、勇者よ!! 気付いたのは貴様が初めてだ、褒めてつかわす!!」
勇者「そりゃどうも。お前も初体験できてよかったな」
魔王「だがそれだけ気付いたところで…」
勇者「ったく、せっかちな奴だな。他にもちゃんとあるっての」
魔王「…何?」
勇者「お前、自分の見える範囲でしか物を移動できないんだろ?」
763:
魔王「…何故そう思った」
勇者「俺が普通に攻撃した時、お前は俺に反撃ができた。だが、煙草に視線を移させた時。それと天井に視線を移した時。お前は俺から攻撃を喰らったんだ」
魔王「…なるほど。だがそれはないな」
勇者「…何でだ?」
魔王「その意見には大きな矛盾があるからだ」
勇者「…いいぜ、言ってみろよ」
魔王「我は貴様らのもとへ魔物を送り込んだ。だがそれは目で見える範囲ではない。目で見える範囲だけというのならそのようなことをできるわけがなかろう」
勇者「…なるほどな」
魔王「残念だったな、勇者よ。面白い意見だったがそれまでだ」
勇者「…はぁ。あのなぁ、俺が気付いてないとでも思ってんのかよ?」
魔王「…ほう、何をだ?」
勇者「自分の目で見えないなら見えるようにすりゃいいんだろうが」
魔王「…なるほど。しかし、どうやってだ?」
勇者「ずっと俺らのことを見ていた水晶に決まってんだろうが。言わせんな恥ずかしい」
魔王「…ふははははは!! その通りだ、勇者!! 流石にここまで辿り着いただけのことはある!!」
764:
魔王「だが、しかし!! 今更気付いたところでどうした!! 今の貴様に何ができる!!」
勇者「……あぁ、全くだ」
魔王「…しかし、貴様をみすみす殺すのは勿体ない。どうだ!! 我と共に世界を我がものをしないか!!」
勇者「ほぉ…。魅力的な提案だな」
魔王「そうだろう!! だったら!!」
勇者「…だが悪いな」
魔王「何…?」
勇者「俺は『死神』だ。腐っても『神』なんだよ。たかだか『魔王』の下につくなんてまっぴらごめんだね」
魔王「…バカな男よ!! 自分の置かれている状況が理解できていないとはな!!」
勇者「…あぁ、自分でもそう思うよ。何言ってるんだろうな、俺は」
魔王「前言撤回だ。貴様のような馬鹿などいらん!!」
勇者「賢明な判断だな」
765:
魔王「交渉決裂のようだな」
勇者「どうやらそのようだな」
魔王「もうよい。ではさっさと死ぬがいい!!」
勇者「どうやらお別れの時間の様だな」
魔王「あぁ。地獄で会える日を楽しみにしておるぞ」
勇者「…やれやれ、こんなときは雰囲気的に雨が降るべきなのに随分と快晴だこった」
魔王「残念だったな!! 悲劇のヒーローになれなくてな!!」
勇者「本当にな。…あぁ、綺麗な太陽だこった」
魔王「最後に見る景色がこのように綺麗なもので良かったな」チラッ
勇者「…あぁ」
勇者「本当にな!!」ヒュン
766:
魔王「何っ!? まだ魔力が残っていたというのか!?」
ヒュン
勇者「簡単に人を信じてるんじゃねえよ、馬鹿が!!」
魔王「チィッ!! 小癪な!!」バッ
ヒュン
勇者「…振り返っても無駄だ。そっちじゃねえよ」
魔王「くっ!! しかし無駄だ!! 貴様にもう武器はない!!」バッ
勇者「…あぁ。そうだな」
ヒュン
魔王「それにもう我の傷は癒えておる!! 我にダメージを与えても無駄だ!!」バッ
ヒュン
勇者「…あぁ。その通りだ」
魔王「だったら何をしようと無駄であろう!!」バッ
ヒュン
勇者「…いや。それは違うな」
767:
ガシャン
魔王「…なんの音だ」
勇者「自分の手を良く見てみろよ」
魔王「…これは」
勇者「さぁ、ここで登場。勇者7つ道具、最後の1つ」
勇者「手錠だ」
768:
魔王「…それがどうしたというのだ。両手を使えなくなったところで我は痛くも痒くもないぞ」
勇者「まぁ、見てろって。お前の手錠の鎖部分にもう一つ手錠をつける」
ガシャン
勇者「んでもってもう片方の輪の部分にもう一つ手錠の鎖をつける」
ガシャン
勇者「ほんで最後にその手錠を俺につける」
ガシャン
勇者「はーい、これで完成でーす」
魔王「…貴様は一体何がしたいのだ」
勇者「やれやれ、馬鹿はどっちだよ」
魔王「何?」
勇者「俺とお前の呪文の発動条件を思い出してみろ」
魔王「…まさか」
769:
勇者「そう。お前は『手に触れてない物』しか移動できない。逆に俺は『手に触れている物』しか移動できない。そして俺は今、お前の目に映らない背後に居る」
魔王「…くっ!!」
勇者「これでお前は俺に、もう何もできやしねえんだよ」
魔王「だがそれがどうした!! いくら我の体に刺さっているナイフを何度突き刺そうと我は死にやしないぞ!!」
勇者「…あぁ、そうだろうな」
魔王「それに貴様の仲間が来るのを待ったって無駄だ。その時点で貴様の仲間は我の目で捉える事が出来る」
勇者「じゃぁ今お前の目にナイフを突き刺してやろうか?」
魔王「それも無駄だ。我の治癒能力をもってすればすぐに癒えることだろう」
勇者「…ですよねー」
魔王「だったら結局無駄なことよ!!」
勇者「…なぁ」
魔王「…なんだ?」
勇者「太陽って知ってるか?」
770:
魔王「…何を藪から棒に」
勇者「良いから答えろよ」
魔王「当たり前だ。今丁度見えているだろうが」
勇者「なんで太陽が出ている時ってあんなに暑いんだろうな」
魔王「そんなもの太陽が熱を持っておるからであろう。詳しくは知らんがな」
勇者「ってことはよ。ここまで熱が届くってことは本体は相当熱いんだろうな」
魔王「それがどうした…ってまさか!!」
勇者「あぁ、そのまさかだよ」
魔王「馬鹿か貴様!! それでは貴様も死ぬぞ!!」
勇者「…あぁ。だろうな」
魔王「ふざけるな!! 考え直せ!!」
勇者「…まぁいいじゃねえか」
勇者「一緒に宇宙旅行にでも行こうぜ」
魔王「やめろおおおおおおお!!」
ヒュン
771:
パリーン
魔法使い「あっ!!」
戦士「どうした!! 魔法使いちゃん!!」
魔法使い「す、すいません!! 魔法瓶を落としちゃいまして…」
僧侶「なんだ、そんなことですか。それなら良かったです」
魔法使い「すみません!! 驚かせてしまって…」
戦士「何、気にするな。それより魔物もあと少しだ」
「グルルルルル…」
僧侶「…そうですね。早く倒して勇者様のもとへ向かいましょう」
魔法使い「…はい」
魔法使い(勇者様…。どうかご無事で…)
772:
ヒュン
勇者(…っ。息ができねえ)
ヒュン
勇者(くそっ、まるで海に潜ってる居る様だ…)
ヒュン
勇者(…考えるな。他のことを考えろ)
ヒュン
勇者(…あぁ、月ってこんな形をしてたんだな)
ヒュン
勇者(…地球ってあんな色だったのか)
ヒュン
勇者(…遠すぎる。全然近づけねえ)
ヒュン
魔王「やめろ!! 考え直せ!!」
773:
ヒュン
勇者(ちっ…。なんであいつは普通に喋れるんだよ…)
ヒュン
勇者(くそ…意識が遠くなってきた…)
ヒュン
勇者(もう魔力も残りすくねえ…太陽まで着くのか…?)
ヒュン
勇者(…でももう少しだ)
ヒュン
勇者(…大分熱くなってきた)
ヒュン
勇者(…もうすぐ…もうすぐだ…)
ヒュン
勇者(…あと少しだ)
774:
ヒュン
魔王「ちぃっ!! こうなったら太陽ごと移動させてやる!!」
勇者(っ!! ちぃっ!!)
ヒュン
グサッ
魔王「ぐあああああああああ!! 見えぬ!! 何も見えぬ!!」
ヒュン
勇者(…あぁ……もう…力が…出ねえ…)
魔王「熱い!! 熱い!!」
勇者(…だが…放っておいても…勝手に…近づいていくし…いいか)
魔王「暗い!! 熱い!!」
勇者(……あばよ…僧侶…戦士………魔法使い)
魔王「やめろ!! やめろおおおおおおぉおおおぉおおおおぉおぉぉぉぉ!!」
勇者(……今そっちにいくぜ……親父……お袋)
775:
勇者「死神のご加護がありますように」
780:
______
___
_
戦士「はああああああああ!!」
ズバッ
魔法使い「や、やっと倒し終わりました!!」
僧侶「戦士さん、回復術です!!」
キュイン
戦士「あぁ、ありがとう、僧侶ちゃん」
魔法使い「戦士さん、僧侶さん!! 行きましょう!!」
戦士「そうだな!! 先を急ごう!!」ダッ
僧侶「はいっ!!」ダッ
魔法使い「っ!!」ダッ
781:
_____
___
_
魔法使い「戦士さん、僧侶さん!! ここです!!」
僧侶「……あれ?」
戦士「どうしたんだ? 僧侶ちゃん?」
僧侶「……魔力を感じません」
魔法使い「えっ!? ということは魔王はっ!!」
僧侶「もしかしたら、勇者様が…!!」
戦士「本当か!? よしっ、行くぞ!!」
魔法使い「はいっ!!」
782:
ギィ
魔法使い「勇者さ……ま?」
戦士「……誰もいないだと?」
僧侶「…え?」
魔法使い「ゆ、勇者様ー!! 隠れてないで出てきてくださいよー!!」
戦士「…二人ともどこに行ったというのだ?」
僧侶「わかりません…。ですがこの近辺に居ないのは確かです」
魔法使い「勇者様ー!! 勇者様ー!!」
戦士「…まさか勇者と魔王が同時に」
僧侶「……その可能性は高いと思います」
魔法使い「勇者様ー!! どこですかー!!」
戦士「……魔法使いちゃん」
魔法使い「勇者さ…ってあれ、これは…」ヒョイ
戦士「それは……」
僧侶「……勇者様の紋章」
783:
魔法使い「………」
戦士「……こんなにボロボロになるまで戦っていたのだな、彼は」
僧侶「……うっ」
魔法使い「な、何泣いてるんですか、僧侶さん!! 勇者様が勝ったんですよね? ね?」
戦士「……魔法使いちゃん。だが彼は…」
魔法使い「あ、あれですよ!! きっと先に帰っちゃったんですよね? 全く、薄情な人ですね!!」
僧侶「……魔法使いちゃん」
魔法使い「私との約束も放ったらかして先に帰るなんて…許せません!!」
戦士「魔法使い!!」
魔法使い「……っ」
戦士「…彼は、きっと」
魔法使い「そんなはずないです!! 勇者様は…勇者様は…!!」
戦士「……魔法使いちゃん。帰ろう?」
魔法使い「うぅ…勇者様……勇者様ああああああああぁぁぁあぁああぁぁああ!!」
784:
魔法使い(…私たちは魔王城をあとにしました)
魔法使い(4人で来た道のりを3人で帰りました)
魔法使い(とてもとても長い道のりでした)
魔法使い(途中、戦士さんが)
戦士「勇者が居ればな…」
魔法使い(と、呟いたのを私は聞いてしまいました)
785:
魔法使い(…私たちはそれでも歩き続けました)
魔法使い(砂漠の街に着いた時、僧侶さんのお姉さんが)
僧侶姉「…ありがとうございます、皆さん」
魔法使い(と、笑顔で言ってくれました)
魔法使い(一か所だけ地面が黒くなりました)
魔法使い(僧侶さんはこのまま王様の所まで着いてきてくれるそうです)
僧侶「私たちは王様に伝える事くらいしかできませんから…」
魔法使い(そう寂しそうに言いました)
786:
魔法使い(…それからも私たちは歩きました)
魔法使い(後ろを振り返ったりしながらゆっくりと歩きました)
魔法使い(村に着いた時、村人さんが)
村人「…私は彼に感謝を伝える事すらできないのか」
魔法使い(そう呟きました)
魔法使い(村娘さんは)
村娘「…彼は素晴らしい勇者様でしたね」
魔法使い(それだけ言うと走り去ってしまいました)
魔法使い(村の至る所から)
「ありがとうございました、勇者様!!」
魔法使い(そう聞こえました)
魔法使い(村には沢山の家が並んでいました)
787:
魔法使い(…私たちは歩き続けました)
魔法使い(魔王城をあとにしてから大分時間が経ちましたが歩き続けました)
魔法使い(そして私の居た街に着きました)
魔法使い(私たちはマスターの居る居酒屋へ向かいました)
魔法使い(マスターは温かく迎えてくれました)
マスター「…あいつはどうしたんだ?」
魔法使い(戦士さんや僧侶さんが事情を説明すると)
マスター「………そうか」
魔法使い(そう一言だけ呟きました)
魔法使い(そして棚に置いてあった大量のビールを飲み始めました)
魔法使い(その後皆にもお酒を出してくれました)
マスター「…あの馬鹿が」
魔法使い(そう小さく呟きました)
788:
魔法使い(…次の日、私は自分の家へ向かいました)
魔法使い(旅へ出た時と少しも変わっていませんでした)
魔法使い(ほんの少しだけ、埃をかぶっていたくらいでした)
魔法使い(私はお花屋さんへ行き何本かお花を買いました)
魔法使い(それを花瓶へ差し込み水を入れました)
魔法使い「…ただいま、お父さん、お母さん」
魔法使い(それだけ言うと皆のもとへ戻りました)
魔法使い(そしてまた歩き始めました)
789:
魔法使い(…私たちは歩き終えました)
魔法使い(とうとう目的の街に着きました)
魔法使い(何度も振り返りながらゆっくり歩いたのに後ろからは誰も来ませんでした)
魔法使い(私たちはお城へ向かいました)
魔法使い(とても立派なお城でした)
魔法使い(私たちは門番の人に事情を説明し、中に入れて貰いました)
魔法使い(私は一縷の望みにかける事にしました…)
790:
魔法使い(……ですがそこに勇者様の姿はありませんでした)
魔法使い(戦士さんと僧侶さんが王様にこれまでのことを報告しました)
魔法使い(私の街で起こった事、八岐大蛇の出た村の事、砂漠の街で起こったこと)
魔法使い(……そして魔王城での事)
魔法使い(王様は話を聞き終えた後)
王「そうか。よくぞ無事帰還した」
魔法使い(淡々とそう言いました)
魔法使い(そして、)
王「何。奴のことだ。そのうちひょっこり顔を出すであろう。…儂はいつまでも待っておるよ」
魔法使い(そう自信満々に言い切りました)
魔法使い(…うじうじ考えていた私が馬鹿みたいに思えました)
王「お主らもそう信じているじゃろう?」
魔法使い(さも当然かのようにいうその言葉に私たちは…)
「「「…はいっ!!」」」
魔法使い(自信満々でそう答えました)
791:
_____
___
_
魔法使い(あれから数カ月が経ちました)
魔法使い(ですが勇者様はまだ帰ってきていません)
魔法使い(あの後、王様は私たちに、)
王「何でも望むものを与えよう。なんでも言うがいい」
魔法使い(そう言いました)
魔法使い(僧侶さんは、)
僧侶「孤児だった私は運よく姉に助けられました。ですがそうもいかない子達も居ると思います。そんな子の為に大きな孤児院を作ってください」
魔法使い(と言いました)
魔法使い(その言葉通り現在はとても立派な孤児院を製作中とのことです)
魔法使い(僧侶さんはそこで孤児の面倒を見ながら教会のお仕事もするそうです)
僧侶「これから毎日忙しくなりますね!!」
魔法使い(とても楽しそうにそう言ってました)
792:
魔法使い(戦士さんは、)
戦士「勇者が平和にしてくれたこの世界を維持するためにも是非この国の軍に入隊させて欲しい」
魔法使い(そう言いました)
魔法使い(入隊してすぐに元帥の称号を与えられたそうです)
魔法使い(戦士さんは、『そんな恐れ多い!!』と最初は拒否していたらしいですが立派に仕事をこなしているそうです)
魔法使い(それと勇者様が言っていた『特殊部隊』を解隊するよう命じたらしいです)
魔法使い(大臣は猛反発したそうですが、魔王の居ない今、必要ないと判断され無事解隊されたそうです)
魔法使い(…ざまあみろです)
魔法使い(それでも必死に兵を集めようとする大臣を見張りつつ街の警備も頑張っているそうです)
戦士「勇者が帰ってきた時がっかりさせないよう、しっかり国の平和を守るよ」
魔法使い(頬笑みながらそう言っていました)
793:
魔法使い(私はと言うと、)
魔法使い「一人で旅に出て困っている人を救いながら魔法のお勉強をしたいです」
魔法使い(そう言いました)
魔法使い(そして現在絶賛旅の途中です)
魔法使い(戦士さんや僧侶さんには危ないからやめろと言われましたが)
王「よかろう。ではお主にこれを与えよう」
魔法使い(そう言い、500Gと銅の剣をくれました)
魔法使い「…私魔法使いなのですが」
王「キングジョークじゃ」
魔法使い(その後倍以上のお金と、)
王「お主が持っている方が、奴も喜ぶであろう」
魔法使い(そういい勇者の紋章を私にくれました)
魔法使い(そして私は旅に出ました)
794:
魔法使い(私はその後色んな街を回り、困っている人を助けました)
魔法使い(どんなことをしたかは割愛しますが私もやればできるんです!!)
魔法使い(もう守られるだけの役立たずなんかじゃないです!!)
魔法使い(…ですから安心してください、勇者様)
魔法使い(いつ戻ってきても大丈夫ですよ)
魔法使い(あっ、ただ約束を破ったことについては怒ります!! 許しません!!)
魔法使い(でも戻ってこない方がもっと怒ります!!)
魔法使い(ですから早く戻ってきてくださいね、勇者様)
魔法使い(…私はいつまでも待っていますから)
魔法使い(…勇者様が無事であることを願っていますよ)
魔法使い「死神のご加護がありますように」
802:
_____
___
_
803:
チャポン
「……はぁ、釣れねえな」
ゴロン
「…どうしたもんかねぇ。このままじゃ3日連続野菜生活だ。ベジタリアンかっつうの」
ザッ
「…やっと見つけました」
「………」
「……ここに居たんですね」
魔法使い「勇者様」
804:
「……あん? 誰だ? 俺はあんたみたいな若いねえちゃん知らねえぞ?」
魔法使い「そりゃそうですよ。もうあれから5年も経っているんです。少しは成長しますよ」
「はて、なんのことだ? というか人違いじゃねえか?」
魔法使い「そんなはずはありません。私が見間違えるはずなんてありませんから」
「おいおい、こんな全身火傷まみれの奴とお前の探している奴を間違えるなんて、そいつに可哀想だぜ?」
魔法使い「気付いてもらえない私の方が可哀想ですよ」
「…やれやれ、話の聞かないお嬢さんだこった」
魔法使い「……どうしてずっと顔を見せてくれなかったんですか?」
「……こんな火傷まみれの奴の顔を誰が見たいって言うんだよ」
魔法使い「…私はずっと見たかったです」
「…そりゃ変った趣味をお持ちで」
魔法使い「……私…ずっと待ってたんですよ…」
「………悪かったな」
魔法使い「……本当に…本当に…馬鹿っ!!」ダッ
805:
ギュッ
「……なんだ、殴らねえのか?」
魔法使い「…本当なら会って最初はビンタの1つでもしてやろうと思ってたんですけど…なんかもうどうでもよくなりました」
「……悪かったな、心配掛けて」
ギュッ
魔法使い「……勇者様。私、もう結婚出来る歳になりましたよ」
「………そうか」
魔法使い「……この続きまで言わせる気ですか?」ジトー
「……いいのか? こんな火傷まみれの30過ぎのおっさんとでよ」
魔法使い「…えぇ。他に貰い手も居なさそうなので優しい私が貰ってあげますよ」
「……バーカ。俺が妥協してやってんだよ」
魔法使い「…それに私が居ればライターいらずですよ?」
「……もう炎は懲り懲りだよ」
チュッ
806:
_____
___
_
魔法使い「……というように、私も色んな人を救ってきたんです!! もう役立たずなんかじゃないですよ!!」
「……そうかい。逆に俺が役立たずになっちまったようだな」
魔法使い「いいんですよ、心配しなくて。今までの分、私がしっかり守ってあげますよ!!」
「…そりゃ頼もしいこった」クスッ
魔法使い「もー!! 馬鹿にして!! …というか勇者様。魔王城で一体何があったんですか?」
「あぁ。ちょっと太陽までデートしてきた」
魔法使い「えぇっ!?」
「おう、聞けよ。なんと地球は青かったんだぜ」
魔法使い「そんなことはどうでもいいです!! だからそんなことに…」
「名誉ある負傷ってな」
魔法使い「…というか良くそれで無事でしたね。何で助かったんですか…」
「…まぁ、そうだな」
「死神のご加護でもあったんじゃねえの?」
807:
これにてくぅ疲です!!
設定の甘いところや、ミス、誤字脱字、長期間開いたりと至らないところも多々ありましたが、2か月以上もの間お付き合いありがとうございました!
808:
乙!
809:
死神様の加護があったなら仕方ない

811:
携帯に移動しました!
皆さん本当にありがとうございます!
何か質問やわからないことがありましたらどうぞ!
813:
どうやって帰ってきたのか気になるが……、
炎はこりごりって笑った。
乙っ!
814:
俺も↑だな
とにかく乙でした(`・ω・)b
面白かったよ
815:
>>814
一応私の中では
勇者(もう魔力も残りすくねえ…太陽まで着くのか…?)
とは言っていますが、切れたとは言っていない。
太陽まで行く時は何度も移動魔法を使いましたが、
帰るときは、記憶を使い移動する場所を設定したため
少ない魔力でも一発で目的の場所まで辿り着けた。
…という構想で書いてました。
ちなみに設定場所は、師匠の別荘のつもりだったのですが…書き忘れてました。
申し訳ないです…
816:
あと本当にどうでもいいことですが、
一応勇者の父の手紙は縦読みできるようにしてました。
それじゃぁ質問もないようなのでこれで終わります!
本当に皆さんありがとうございました!
656:
いままでありがとう。そしてごめんなさい。
まい日が本当に楽しかった。嘘偽りなく最高の生活だった。
そりゃ大変なことだってたくさんあったし、苦労することもたくさんあった。
つらいことだってたくさんあったし、喧嘩することだってあった。だけどなんていうのかな。
ちっともあの生活が嫌だなんて思ったことはなかった。男の成長を見るだけでとても嬉しかった。
にが手な料理や洗濯だって君は頑張ってやろうとしてくれた。僕は嬉しかったよ。
いいお父さんとは間違いなく言えなかった。ずっと君に頼りきりだった。
くらいだって君の方が上だった。それでもこんな僕と結婚してくれてありがとう。
よわい僕は生きるのを諦めてしまった。だけど男はこれからも強く生きて欲しい。世界一の男になるまで。
中佐
818:
縦読み自然すぎて気づかなかったわ
次回作の予定はありまつか
819:
>>818
一応考えているものはありますが書くかは未定ですw
書くとしてもかなり時間あくかと...。
それと勇者物ではないと思いますw
82

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