宮森(矢野さんって好きな人いるのかな……)back ▼
宮森(矢野さんって好きな人いるのかな……)
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宮森(誰にも言えないことなのだけど)
宮森(最近、わたしは矢野さんのことばかり見ている)
宮森(斜め向かいの席を盗み見たり)
宮森(トイレに立つ背中を目で追って)
宮森(ようかんを食べる姿を見て)
宮森(あのようかんになれたらいいのになんて思ったりする)
宮森(自分でももう末期だと思う)
----------------------------------------------------------------------------
2: 以下、
矢野「宮森、久々にお昼行かない?」
宮森「あ、はい、行きます」
宮森(矢野さんは素敵な先輩で)
宮森(わたしはただの後輩の一人)
宮森(会社では話したりもするけれど)
宮森(休みの日に一緒に出かけたりはしない)
矢野「見たい映画あるんだけどさ。なかなか行く時間がないんだよね」
宮森「そうなんですか」
宮森「……あの、矢野さん」
矢野「ん? なに?」
宮森「…………」
宮森「なんでもないです」
宮森(近づきたいと思ってるのに)
宮森(その勇気のない臆病なわたしだ)
3: 以下、
宮森(それに、どうせ報われないのなら)
宮森(近づいたってしょうがないじゃないかなんて)
宮森(消極的なことを考えてしまう)
宮森(だってそうじゃないか)
宮森(わたしは女なんだから)
宮森(こんな気持ち、矢野さんにしてみたら)
宮森(気持ち悪いに違いなくて)
宮森(知られたら、きっと後輩の一人でもいられなくなるから)
宮森(絶対に知られるわけにはいかないのだ)
宮森(だから、この恋は決して報われることはない)
4: 以下、
宮森(そう、ちゃんとわかってるのに)
平岡「この前偶然磯川に会ったんだよ」
矢野「へえ、珍しいね。磯川くんの家ってたしか調布の方だったでしょ」
平岡「それが最近引っ越したらしくて」
宮森「…………」
宮森(胸がざわざわする)
宮森(何を話してるんだろう)
宮森(気になって気になって仕方ない)
5: 以下、
宮森(決して報われないならば)
宮森(せめて誰のものにもならないで欲しい)
宮森(そんな最低なことを思っている)
6: 以下、
タロー「あれ、だいちゃん。もう帰んの?」
平岡「ああ。やることは全部やったからな」
タロー「じゃあ、俺の仕事の手伝いを」
平岡「自分でやれ」
タロー「だいちゃんのけちー」
平岡「言ってろよ」
平岡「なぁ、矢野。明日のことなんだけど」
宮森「!?」
7: 以下、
宮森(明日? 明日って)
宮森(休みの日だよね……)
平岡「待ち合わせはいつものとこでいいか?」
矢野「うん。いいよ、それで」
平岡「了解。詳細はまたLINE送る。じゃあな」
矢野「うん、お疲れ」
宮森「…………」
宮森(もしかして)
宮森(デートだったりするのだろうか)
8: 以下、
矢野「じゃ、わたし帰るね」
宮森「あの、ややや矢野さん」
矢野「どうしたの? そんなにテンパって」
宮森「わ、わたしも仕事終わったんですけど」
矢野「じゃあ一緒に帰ろうか」
宮森「!?」
宮森「はい! お願いします!」
9: 以下、
矢野「そしたら池谷さんがさ」
矢野「雨樋つたって逃げようとしてるの」
矢野「三階の窓からだよ?」
矢野「あれはさすがにびっくりしたよ」
宮森(矢野さんの隣を歩く)
宮森(ひらひらと揺れる左手を)
宮森(つかまえられたらな、なんて)
宮森(絶対できないのに思っている)
宮森「あ、あの、矢野さん!」
10: 以下、
宮森「明日、平岡さんとどこか行くんですか?」
矢野「そうだけど」
矢野「それがどうかした?」
宮森「…………」
宮森(ほとんどわかってはいたけれど)
宮森(それでも、実際に言われるとなかなかきついものがある)
宮森「あ、あの!」
宮森「あのですね!」
矢野「ん?」
宮森「わ、わわわわわわわわわわわ」
矢野「わ?」
宮森「わたしも行っていいですか?」
11: 以下、
平岡「……なんでこいつがいるんだよ」
矢野「来たいって言うからさ」
平岡「だからって連れてくるか、普通」
平岡「磯川だってくるんだぞ?」
宮森「え?」
12: 以下、
宮森(デートというのはわたしの勘違いで)
宮森(専門学校で同期だった三人で飲もうという話だったらしい)
磯川「なんで宮森さんがいんの?」
平岡「矢野が連れてきたんだよ」
矢野「いいじゃない。花は多いに越したことないでしょ」
宮森「…………」
宮森(磯川さんもいることだし)
宮森(節度を持って飲んで矢野さんに迷惑をかけないようにしないと)
二時間後
宮森「矢野さぁん。わたし、矢野さんのこと大好きですぅ」
13: 以下、
矢野「宮森! わたし、お手洗い行くから離れて」
宮森「やーです! 離しません!」
平岡「完全に酔ってんな……」
平岡「タクシー代は磯川が出すから矢野が連れて帰れよ」
磯川「なぜ俺よ。まあ、いいけど」
矢野「と言っても、わたし宮森の家知らないし」
矢野「うちで泊める、か」
14: 以下、
矢野宅
矢野「とりあえず、ベッドに寝かせて、と」
矢野「水飲む?」
宮森「飲みます……」
矢野「りょうかい」
矢野「ほら、宮森。水」
矢野「って寝ゲロしてるし……」
矢野「もう、しょうがないなぁ」
15: 以下、
宮森「……ん?」
宮森「あれ、ここはどこ?」
宮森(ワンルームの部屋)
宮森(ソファーで矢野さんが寝てる)
宮森(多分矢野さんの部屋、だよね)
16: 以下、
宮森(そうだ。わたし、ついつい飲み過ぎちゃって……)
宮森(や、矢野さんにご迷惑を!)
宮森(変なこととかしてないよね……)
宮森(全然まったく何一つとして覚えてないけど)
宮森「…………」
宮森(矢野さん、わたしにベッドつかわせてくれたんだ)
宮森「やっぱり、矢野さんのこと好きだなぁ」
17: 以下、
矢野「あれ? 宮森、起きたんだ」
宮森「や、ややややや矢野さん!」
宮森「……もしかして、聞いてました?」
矢野「何を?」
宮森「いや、なんでもないです」
宮森(ほっとしたような、がっかりしたような)
18: 以下、
矢野「しかし昨日は大変だったんだよ」
矢野「宮森、寝ゲロしちゃうしさ」
宮森「え……」
宮森「それ、ほんとですか?」
矢野「うん」
宮森「すいません! 本当にすいません!」
19: 以下、
矢野「いやいや、そんな気にしなくていいから」
宮森「でも、矢野さんにご迷惑を」
矢野「先輩なんだから連れてった以上、これくらいは当たり前でしょ」
宮森「クリーニング代払いますから」
矢野「だからいいって」
宮森「何かお詫びをさせてください。じゃないと、わたしの気が済まないです」
矢野「お詫び、か。じゃあさ」
矢野「今日これから時間ある?」
20: 以下、
宮森「花咲くいろはの劇場版ですか」
矢野「うん。ずっと見たかったんだよね」
矢野「けど宮森がいろは見ててよかったよ」
矢野「さすがに見てない人とは行けないからさ」
宮森(見ててよかったぁ)
宮森(ありがとう、花咲くいろは!)
宮森(ありがとう、P.A.WORKS!)
宮森(矢野さんと二人で映画なんて)
宮森(なんだか、デートしてるみたい!)
21: 以下、
矢野「いい映画だったね」
宮森「作画すごく綺麗でしたね」
矢野「うん。冒頭のプールのシーンとかほんと綺麗だった」
宮森「それ思いました! 髪の濡れてる感じとかすごいなぁって」
矢野「わたしもあんな絵描けたらな」
宮森「矢野さんって同人活動されてるんですよね」
矢野「うん、専門学校時代の友達とね」
宮森「すごいです」
矢野「いやいや、へたくそだから」
22: 以下、
矢野「そうだ、画材屋寄っていい?」
矢野「ちょっと買っときたいものあってさ」
宮森「いいですよ」
矢野「宮森もどこか行きたいとこあるなら言ってよ」
矢野「わたしでよかったら付き合うから」
宮森「いいんですか?」
矢野「うん。どこでも行くけど」
宮森「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
23: 以下、
矢野「それで来るのが原画展って」
矢野「宮森は本当にアニメ好きだね」
矢野「原画なんて毎日いやになるくらいに見てるだろうに」
宮森「……いやでした?」
矢野「ううん。わたしもアニメ好きだから」
矢野「この原画、構図のバランスすごいなぁ」
宮森(矢野さんと二人……)
宮森(ほんとにデートみたいだ)
宮森(ずっとこのときが続けばいいのに)
矢野「そうだ。もう一カ所だけ行っていい?」
24: 以下、
宮森「バッティングセンター、ですか」
矢野「うん。時々くるんだよね。ストレス解消になるというか」
宮森「ここ、小笠原さんと来たことあります」
矢野「あれ、来たことあるんだ」
矢野「小笠原さん、すごいよね」
矢野「フォームめちゃくちゃ綺麗だし」
宮森「わたし、全然打てませんでした」
矢野「まあまあ、やってみなって」
矢野「わたしが教えてあげるからさ」
25: 以下、
宮森「当たりません……」
矢野「ボールちゃんと見て」
矢野「身体がぶれてる。しっかり両足で立つ」
矢野「バットを離さない。両手でちゃんと握って」
宮森「はい……」
宮森(そんなこと言われても、こんなの当たるわけ……)
かきん!
宮森「…………」
宮森「矢野さん、当たりました! 当たりましたよ!」
26: 以下、
矢野「バカ、何よそ見してんの!」
矢野「次来るって!」
宮森「え?」
矢野「あぶな――」
宮森「ひっ」
宮森(ボールが身体に向けてとんでくる)
宮森(当たりたくない一心で)
宮森(目を瞑ってバットを振った)
かきいいいいいいいいいいいいいん!!!!
宮森「へ?」
「大きい、大きい、大きい。入ったああああ! 入りました! ホームランです!」
27: 以下、
矢野「すごい! ホームランだよ宮森!」
宮森「や、矢野さん! やりました!」
矢野「いいスイングだったよ。2004年のイチローを彷彿とさせるというか」
宮森「ほ、ほんとですか」
宮森(矢野さんに褒められてる)
宮森(わたし、もう死んでもいいかも)
矢野「み、宮森! なにぼうっとしてんの!」
矢野「次くるって!」
宮森「へ?」
ドゴォ!
28: 以下、
宮森「痛かったです……」
矢野「大丈夫?」
宮森「はい。なんとか」
宮森(すごく痛いけど)
店員「あの、ホームランなのでこれ、無料券です」
矢野「十回まで無料だって。やったね」
宮森「…………」
宮森「これ、矢野さんにあげます」
矢野「え? いいの?」
宮森「はい。わたし、あんまり来ないですし」
宮森「それに、昨日のお詫びと言うことで」
29: 以下、
矢野「だからさ。昨日のことはいいんだって」
矢野「今度言ったら怒るよ」
宮森「す、すいません」
矢野「だからこれはお詫びとしては受け取れない」
宮森「はい」
宮森(怒らせちゃった)
矢野「でも、プレゼントしてくれるのならよろこんでもらうけど」
宮森「!」
宮森「はい! 矢野さんどうぞ!」
矢野「うん。ありがと、宮森」
30: 以下、
矢野「今日は楽しかったね」
宮森「はい、幸せでした!」
矢野「宮森は大げさだね」
宮森(本心なんだけど)
矢野「それにしても、びっくりしたなぁ」
矢野「宮森がまさか」
矢野「平岡くんのこと好きだったなんて」
32: 以下、
宮森「え?」
宮森「なんのことですか?」
矢野「照れちゃって。ちゃんとわかってるんだから」
矢野「平岡くんが気になるから、昨日の飲み会来たいって言ったんでしょ?」
宮森「いやいや、違いますって」
宮森「平岡さんのことは別に」
矢野「じゃあ、磯川くん?」
矢野「もしかしてわたしとか?」
宮森「…………」
33: 以下、
矢野「なんてね、冗談冗談」
矢野「ほら、正直なとこ言ってみ?」
矢野「わたし、応援するからさ」
宮森「いや、でも、本当に違うんです」
矢野「でも、それじゃあさ」
矢野「昨日どうして来たかったの?」
宮森「それは……」
宮森「仕事の関係上、磯川さんと交流を深めたかったというか」
矢野「嘘だね」
矢野「だって、宮森は磯川くん来るの知らなかったでしょ」
34: 以下、
矢野「ほらほら、悪いようにはしないからさ」
宮森(……このままじゃ矢野さんが好きだってことがばれてしまうかも)
宮森「…………」
宮森「実は、平岡さんのことが少し気になってて」
矢野「やっぱり! だと思った」
矢野「宮森見る目あるよ」
矢野「平岡くんいいやつだよ。ぶっきらぼうで不器用で誤解されやすいけどさ」
矢野「実は猫好きで猫カフェ行ったりするんだから」
宮森「そうなんですか」
矢野「わたし、応援するからさ!」
宮森(矢野さんがにっこり笑って言うものだから)
宮森(わたしは泣きそうになってしまった)
35: 以下、
宮森(矢野さんは平岡さんのことをいろいろ教えてくれた)
宮森(好きなアニメ、好きな食べ物、好きな音楽、好きな本)
宮森(わたしの家まで来て、平岡さんが好きそうな服を見繕ってくれたりもした)
宮森(LINEでやりとりをすることも増えて)
宮森(休みの日に電話したりもするようになって)
宮森(それ自体はすごくうれしかった)
36: 以下、
宮森(けれど)
宮森(どうしても、後ろ向きなことを考えずにはいられなかった)
宮森(この人はわたしを恋愛の対象とは見てないんだな、と)
宮森(ふとしたときに思い知って、突然泣きだしてしまったりもした)
宮森(矢野さんはわたしをそっと抱き寄せて)
宮森(そうだよね、不安だよね、と言ってくれた)
宮森(わたしはもっとかなしくなって)
宮森(矢野さんの鎖骨に頬を押しつけて泣いた)
37: 以下、
宮森(矢野さんに呼び出されたのはそんなある日のことだった)
宮森(その日は休日で)
宮森(わたしは夜眠れなかった分、たっぷり朝寝坊して待ち合わせ場所に行った)
宮森(二十分前に待ち合わせ場所に着くと)
宮森(平岡さんが不景気そうな顔をして立っていた)
38: 以下、
宮森「平岡さん」
平岡「…………」
平岡「もしかして、矢野に呼び出されたのか」
宮森「はい」
平岡「ったく。あいつはほんと余計なことを」
平岡「呼んでやる。ちょっと待ってろ」
平岡「電話でねえし」
宮森「…………」
宮森(がんばってね! とLINEが届いていた)
宮森(わたしはため息をつく)
平岡「…………」
平岡「とりあえず、どっか入るか」
39: 以下、
平岡「昼飯まだだろ?」
宮森「はい」
平岡「適当に、入るぞ」
宮森(平岡さんはわたしをパスタのお店に連れて行ってくれた)
宮森(料理を待つ間、わたしたちはほとんど話さなかった)
宮森(きっとわたしが話す気になれなくて、スマホをいじっていたからだと思う)
宮森(わたしが食べ終わるのを待って、平岡さんは言った)
平岡「お前、俺のこと好きじゃねえだろ」
40: 以下、
宮森「え?」
宮森「い、いや、そんなことは」
平岡「嘘つけ。つまんなそうな顔しやがって」
平岡「どう見たって好きなやつといるときの態度じゃねえだろうが」
平岡「好きなやつといるときはな」
平岡「お前が矢野といるときみたいな顔するもんなんだよ」
41: 以下、
宮森「気づいてたんですか?」
平岡「まあ、薄々な」
宮森「もしかしてみんな気づいてたりします?」
平岡「いや、それはないんじゃないか」
平岡「俺は前の飲み会でお前が矢野さん好きーって抱きついてるの見てたから」
平岡「そうかなって思っただけで」
宮森「……わたし、そんなことしてたんですか」
平岡「めちゃくちゃ幸せそうだった」
43: 以下、
平岡「俺が口を挟むことじゃないと思うが」
平岡「好きなら好きで言ってしまってもいいんじゃないか?」
宮森「それは……」
宮森「できないです」
平岡「ダメならダメで玉砕した方がまだマシだと思うけどな」
平岡「この先矢野は誰かを好きになるだろうし、付き合うだろうし、結婚だってするだろう」
平岡「それでも、お前はずっと矢野のことを思い続けるのか」
宮森「ほっといてください!」
宮森「平岡さんにはわからないです!」
平岡「それはそうかもしれないが」
宮森「これ、わたしの分のお金です」
宮森「また会社で」
平岡「…………」
44: 以下、
「この先矢野は誰かを好きになるだろうし、付き合うだろうし、結婚だってするだろう」
「それでも、お前はずっと矢野のことを思い続けるのか」
平岡さんに言われたことが頭の中をぐるぐる回っていた。
わたしは未来のことを想像した。
別の誰かに微笑みかける矢野さんを、近くで見ている自分を想像した。
それはすごく簡単なことだった。
ほとんど必然と言っていい未来であるように思えた。
同時に、すごく悲しい未来だった。
考えただけで胸が張り裂けそうになった。
わたしは……。
わたしは、どうすればいいのだろう。
不意に、大好きな声がした。
矢野「宮森? こんなところでなにしてるの?」
45: 以下、
矢野「平岡くんは?」
矢野「まさか、何かされたとか?」
宮森「矢野さん……」
涙が溢れて止まらなくなった。
矢野さんはわたしを抱きしめてくれた。
矢野「ごめん。ごめんね、宮森」
矢野「これはわたしの責任だ」
矢野「平岡くんはわたしが責任を持ってボコボコにするから」
矢野「ごめん。ほんとにごめんね」
宮森「ちがうんです、そうじゃないんです」
わたしは言った。
宮森「わたしが好きなのは平岡さんじゃなくて――」
宮森「矢野さん、なんです」
46: 以下、
矢野「えっと……」
矢野「ごめん、宮森」
矢野「ちょっと事情が呑みこめないんだけど」
宮森「どうしてわからないんですか」
宮森「わたしは、矢野さんのことが好きで」
宮森「好きで好きで仕方なくて」
宮森「だから――」
そこまで言って、ようやく自分がとんでもないことを口走ってることに気づいた。
矢野「ちょっと! 宮森!」
わたしは矢野さんを振りはらって人の行き交う街の中を走った。
駅のトイレに逃げ込んだ。
狭い個室の中で鍵をかけて、
声を上げずにバカみたいに泣いた。
すべて終わってしまったんだ、と思った。
47: 以下、
どのくらい泣いていたのかはわからない。
わからないけれど、わからなくなるくらい長い間泣いていたのは確かだった。
シャツの袖で涙をぬぐって個室から出ると、
矢野さんが腕を組んで、洗面台の脇に立っていた。
「ひどい顔」
鏡に映ったわたしの顔はたしかにひどくて、
見ないでください、とわたしは顔を覆った。
48: 以下、
矢野「ダメ。ちゃんと見せて」
矢野「それで――」
矢野「ちゃんと言って」
宮森「言ってって」
何をですか、と続けようとしたわたしを制して、
矢野さんは言う。
矢野「さっき言ってくれたこと」
矢野「ちゃんと、最後まで聞きたい」
49: 以下、
逃げようとしたけれど、
矢野さんの手はわたしの腕をしっかり掴んでいた。
わたしは観念した。
半ばやけになって言った。
50: 以下、
「本当は、矢野さんのことが好きでした」
「いつも気づいたら目で追っていて」
「仲良くなれたらなぁって思ってて」
「だから仲良くなれてすごくうれしくて」
「一緒にいられたらもうそれだけでよかったんです」
51: 以下、
「でも、知られたらきっと嫌われてしまう」
「今みたいに近くにいることもできなくなってしまう」
「こわくて」
「だから、嘘をつきました」
52: 以下、
「すいません、気持ち悪いですよね。ひきますよね」
早口で言ったわたしに、矢野さんはやさしい声で、
大丈夫だからちゃんと聞かせて、
と言ってくれた。
「何度もあきらめようとしました」
「忘れようとしました」
「でも――」
わたしは言った。
「矢野さんのことが」
「もうどうしようもなく好きなんです」
53: 以下、
「ありがとう」
「ちゃんと言ってくれて」
「気持ち悪くなんかないよ」
「うれしかった」
「でも、わたしは宮森のことをそういう風には見えないんだ」
54: 以下、
「だからさ。少し時間をちょうだい」
「今はまだ突然のことで心の整理ができてないけど」
「宮森のことを好きになれるか、ちょっと試してみるからさ」
「だから、少しだけ待ってて」
55: 以下、
何を言われたのかわからなかった。
わかっていたけれど、信じられなかった。
矢野さんがそんなこと言うわけないと思った。
きっと自分に都合のいい妄想を聞こえたみたいに錯覚したのだ。
でも、気づいたらわたしは矢野さんに抱きしめられていた。
柚子の香りがした。
背中に回された両腕はどこまでもどこまでもやさしくて、
それで、たしかに矢野さんの言葉だったんだってわかった。
わたしはまた涙が止まらなくなってしまって。
何も言葉にできなくなってしまって。
そんなわたしを矢野さんは、
ずっと抱きしめていてくれた。
いつまでも、いつまでも、抱きしめていてくれた。
56: 以下、
三週間後――
矢野「宮森。仕事、終わりそう?」
宮森「あとちょっとですね」
矢野「ちょっとなら待ってるよ。一緒に帰ろう」
平岡「…………」
平岡「お先っす」
宮森「お疲れ様です」
矢野「お疲れ」
宮森(平岡さん、気を使ってくれたのかな)
57: 以下、
矢野「そしたら池谷さんがさ」
矢野「スプーンで壁に穴空けて逃げようとしてたの」
矢野「ポスター貼って穴を隠してたんだね」
矢野「あれはさすがにびっくりしたよ」
宮森(矢野さんと並んで夜の道を歩いた)
宮森(矢野さんの左手がひらひらと、視界の端で揺れている)
宮森(つかまえたいな、と思うけれど)
宮森(やっぱりそんな勇気なんてないわたしだ)
58: 以下、
宮森(わたしの気持ちはばれたけれど)
宮森(矢野さんとの関係はほとんど変わらなかった)
宮森(少し電話の頻度が増えたくらいだ)
宮森(休日に遊びに出かけることはあっても)
宮森(互いの家に遊びに行くことはない)
宮森(そこに矢野さんはまちがいなく一線を引いていて)
宮森(だから、ふられるかもしれないな、と思っている)
宮森(今度は取り乱さないように)
宮森(ちゃんと大人の対応ができるように、と思っているけれど)
宮森(きっと矢野さんにふられたら)
宮森(また子供みたいに泣いちゃうんだろうな、と思う)
59: 以下、
矢野「ねえ、宮森」
宮森(矢野さんが数歩前に出て)
宮森(わたしに向き合って立ち止まる)
宮森「なんですか、矢野さん」
宮森(足を止めたわたしに、矢野さんは言った)
矢野「キスしていい?」
60: 以下、
「え?」
わたしはきっと間抜けな顔をしていたと思う。
気づいたら、矢野さんがすぐ近くにいて、
唇に何かが触れていた。
柚子の香りがした。
大好きな、大好きな匂い。
鼓膜に触れてるんじゃないかってくらい近くで、
矢野さんは言った。
「好きだよ、宮森」
わたしはわけがわからなくなって、
やっぱり、やっぱり、泣いてしまった。
おわり
61: 以下、
以上。
感想もらえたらうれしい。
62: 以下、
エンダァァァァァァァ
63: 以下、
すばらしい
今度は同棲の話からだな
69: 以下、
ありがとう最高です
左手の上下運動が止まらない
70: 以下、
乙
まともな白箱SSって初めて見た
71: 以下、
あ、あ…しゅごぃぃ…
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ボーボボ「黒の騎士団入団希望のボーボボでぇす!!」ゼロ「ほう?」死ねやぁ!!!!!
桐乃「そうです!私はブラコンの変態ヤローです!」きゃわわ!!!!!!!
岡部「紅莉栖をひたすら愛で続けたらどうなるか」うわぁぁああぁ!!(AA略
クリリン「やっぱりオレも、サイヤ人の子供欲しいな・・・」スレタイのインパクトェ……
ゆうしゃ「くらえー!まおー!!」魔王「くはははは!!」ゆうしゃちゃん!!!!
俺「グヘヘヘ……」 女騎士「早くこの手錠を外せ!」お○んぽなんかには絶対負けない!
鍛冶師「今日中に仕上げるぞ」弟子「はい」雰囲気が良いSS
「ついに地球はウリ達の物ニダー」ニダニダ
みんなのいちおし!SS
よく耳にするとか、印象的なSS集ダンテ「学園都市か」"楽しすぎて狂っちまいそうだ!"
一方通行「なンでも屋さンでェす」可愛い一方通行をたくさん見よう
インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」"一方禁書"凄まじいクオリティ
フレンダ「麦野は今、恋をしているんだね」通称"麦恋"、有名なSS
キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」珍しい魔術側メイン、見るといーの!
垣根「初春飾利…かぁ…」新ジャンル定温物質ウヒョオオ!!
美琴「……レベル5になった時の話ねえ………どうだったかしら」御坂美琴のレベル5に至る努力の経緯
上条「食蜂って可愛いよな」御坂「え?」ストレートに上食。読めて良かった
一方通行「もっと面白い事してモリモリ盛り上がろォぜ」こんなキャラが強い作者は初めて見た
美琴「週末は アイツの部屋で しっぽりと」超かみことを見てみんなで悶えましょう
ミサカ「たまにはMNWを使って親孝行しようぜ」御坂美琴のDNAは究極に可愛くて凄い
番外個体「 」番外通行SSの原点かな?
佐天「対象のアナルを敏感にする能力か……」ス、スタイリッシュアクションだった!
麦野「どうにかして浜面と付き合いたい」レベル5で楽しくやっていく
ミサカ「俺らのこと見分けつく奴なんていんの?」蒼の伝道師によるドタバタラブコメディ
一方通行「あァ!? 意味分からねェことほざいてンじゃねェ!!」黄泉川ァアアアアアアアアアア!!
さやか「さやかちゃんイージーモード」オナ禁中のリビドーで書かれた傑作
まどかパパ「百合少女はいいものだ……」君の心は百合ントロピーを凌駕した!
澪「徘徊後ティータイム」静かな夜の雰囲気が癖になるよね
とある暗部の軽音少女(バンドガールズ)【禁書×けいおん!】舞台は禁書、主役は放課後ティータイム
ルカ子「きょ、凶真さん……白いおしっこが出たんです」岡部「」これは無理だろ(抗う事が)
岡部「フゥーハッハッハッハ!」 しんのすけ「わっはっはっはっは!」ゲェーッハッハッハッハ!
紅莉栖「とある助手の1日ヽ(*゚д゚)ノ 」全編AAで構成。か、可愛い……
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
遊星「またD-ホイールでオナニーしてしまった」……サティスファクション!!
遊星「どんなカードにも使い方はあるんだ」龍亞「本当に?」パワーカードだけがデュエルじゃないさ
ヲタ「初音ミクを嫁にしてみた」ただでさえ天使のミクが感情という翼を
アカギ「ククク・・・残念、きあいパンチだ」小僧・・・!
クラウド「……臭かったんだ」ライトニングさんのことかああああ!!
ハーマイオニー「大理石で柔道はマジやばい」ビターンビターン!wwwww
僧侶「ひのきのぼう……?」話題作
勇者「旅の間の性欲処理ってどうしたらいいんだろ……」いつまでも 使える 読めるSS
肛門「あの子だけずるい・・・・・・・・・・」まさにVIPの天才って感じだった
男「男同士の語らいでもしようじゃないか」女「何故私とするのだ」壁ドンが木霊するSS
ゾンビ「おおおおお・・・お?あれ?アレ?人間いなくね?」読み返したくなるほどの良作
犬「やべえwwwwwwなにあいつwwww」ライオン「……」面白いしかっこいいし可愛いし!
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