宮森(矢野さんって好きな人いるのかな……)back

宮森(矢野さんって好きな人いるのかな……)


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 宮森(誰にも言えないことなのだけど)
 宮森(最近、わたしは矢野さんのことばかり見ている)
 宮森(斜め向かいの席を盗み見たり)
 宮森(トイレに立つ背中を目で追って)
 宮森(ようかんを食べる姿を見て)
 宮森(あのようかんになれたらいいのになんて思ったりする)
 宮森(自分でももう末期だと思う)
----------------------------------------------------------------------------
2: 以下、
 矢野「宮森、久々にお昼行かない?」
 宮森「あ、はい、行きます」
 宮森(矢野さんは素敵な先輩で)
 宮森(わたしはただの後輩の一人)
 宮森(会社では話したりもするけれど)
 宮森(休みの日に一緒に出かけたりはしない)
 矢野「見たい映画あるんだけどさ。なかなか行く時間がないんだよね」
 宮森「そうなんですか」
 宮森「……あの、矢野さん」
 矢野「ん? なに?」
 宮森「…………」
 宮森「なんでもないです」
 宮森(近づきたいと思ってるのに)
 宮森(その勇気のない臆病なわたしだ)
3: 以下、
 宮森(それに、どうせ報われないのなら)
 宮森(近づいたってしょうがないじゃないかなんて)
 宮森(消極的なことを考えてしまう)
 宮森(だってそうじゃないか)
 宮森(わたしは女なんだから)
 宮森(こんな気持ち、矢野さんにしてみたら)
 宮森(気持ち悪いに違いなくて)
 宮森(知られたら、きっと後輩の一人でもいられなくなるから)
 宮森(絶対に知られるわけにはいかないのだ)
 宮森(だから、この恋は決して報われることはない)
4: 以下、
 宮森(そう、ちゃんとわかってるのに)
 平岡「この前偶然磯川に会ったんだよ」
 矢野「へえ、珍しいね。磯川くんの家ってたしか調布の方だったでしょ」
 平岡「それが最近引っ越したらしくて」
 宮森「…………」
 宮森(胸がざわざわする)
 宮森(何を話してるんだろう)
 宮森(気になって気になって仕方ない)
5: 以下、
 宮森(決して報われないならば)
 宮森(せめて誰のものにもならないで欲しい)
 宮森(そんな最低なことを思っている)
6: 以下、
 タロー「あれ、だいちゃん。もう帰んの?」
 平岡「ああ。やることは全部やったからな」
 タロー「じゃあ、俺の仕事の手伝いを」
 平岡「自分でやれ」
 タロー「だいちゃんのけちー」
 平岡「言ってろよ」
 平岡「なぁ、矢野。明日のことなんだけど」
 宮森「!?」
7: 以下、
 宮森(明日? 明日って)
 宮森(休みの日だよね……)
 平岡「待ち合わせはいつものとこでいいか?」
 矢野「うん。いいよ、それで」
 平岡「了解。詳細はまたLINE送る。じゃあな」
 矢野「うん、お疲れ」
 宮森「…………」
 宮森(もしかして)
 宮森(デートだったりするのだろうか)
8: 以下、
 矢野「じゃ、わたし帰るね」
 宮森「あの、ややや矢野さん」
 矢野「どうしたの? そんなにテンパって」
 宮森「わ、わたしも仕事終わったんですけど」
 矢野「じゃあ一緒に帰ろうか」
 宮森「!?」
 宮森「はい! お願いします!」
9: 以下、
 矢野「そしたら池谷さんがさ」
 矢野「雨樋つたって逃げようとしてるの」
 矢野「三階の窓からだよ?」
 矢野「あれはさすがにびっくりしたよ」
 宮森(矢野さんの隣を歩く)
 宮森(ひらひらと揺れる左手を)
 宮森(つかまえられたらな、なんて)
 宮森(絶対できないのに思っている)
 宮森「あ、あの、矢野さん!」
10: 以下、
 宮森「明日、平岡さんとどこか行くんですか?」
 矢野「そうだけど」
 矢野「それがどうかした?」
 宮森「…………」
 宮森(ほとんどわかってはいたけれど)
 宮森(それでも、実際に言われるとなかなかきついものがある)
 宮森「あ、あの!」
 宮森「あのですね!」
 矢野「ん?」
 宮森「わ、わわわわわわわわわわわ」
 矢野「わ?」
 宮森「わたしも行っていいですか?」
11: 以下、
 平岡「……なんでこいつがいるんだよ」
 矢野「来たいって言うからさ」
 平岡「だからって連れてくるか、普通」
 平岡「磯川だってくるんだぞ?」
 宮森「え?」
12: 以下、
 宮森(デートというのはわたしの勘違いで)
 宮森(専門学校で同期だった三人で飲もうという話だったらしい)
 磯川「なんで宮森さんがいんの?」
 平岡「矢野が連れてきたんだよ」
 矢野「いいじゃない。花は多いに越したことないでしょ」
 宮森「…………」
 宮森(磯川さんもいることだし)
 宮森(節度を持って飲んで矢野さんに迷惑をかけないようにしないと)
 二時間後
 宮森「矢野さぁん。わたし、矢野さんのこと大好きですぅ」
13: 以下、
 矢野「宮森! わたし、お手洗い行くから離れて」
 宮森「やーです! 離しません!」
 平岡「完全に酔ってんな……」
 平岡「タクシー代は磯川が出すから矢野が連れて帰れよ」
 磯川「なぜ俺よ。まあ、いいけど」
 矢野「と言っても、わたし宮森の家知らないし」
 矢野「うちで泊める、か」
14: 以下、
 矢野宅
 矢野「とりあえず、ベッドに寝かせて、と」
 矢野「水飲む?」
 宮森「飲みます……」
 矢野「りょうかい」
 矢野「ほら、宮森。水」
 矢野「って寝ゲロしてるし……」
 矢野「もう、しょうがないなぁ」
15: 以下、
 宮森「……ん?」
 宮森「あれ、ここはどこ?」
 宮森(ワンルームの部屋)
 宮森(ソファーで矢野さんが寝てる)
 宮森(多分矢野さんの部屋、だよね)
16: 以下、
 宮森(そうだ。わたし、ついつい飲み過ぎちゃって……)
 宮森(や、矢野さんにご迷惑を!)
 宮森(変なこととかしてないよね……)
 宮森(全然まったく何一つとして覚えてないけど)
 宮森「…………」
 宮森(矢野さん、わたしにベッドつかわせてくれたんだ)
 宮森「やっぱり、矢野さんのこと好きだなぁ」
17: 以下、
 矢野「あれ? 宮森、起きたんだ」
 宮森「や、ややややや矢野さん!」
 宮森「……もしかして、聞いてました?」
 矢野「何を?」
 宮森「いや、なんでもないです」
 宮森(ほっとしたような、がっかりしたような)
18: 以下、
 矢野「しかし昨日は大変だったんだよ」
 矢野「宮森、寝ゲロしちゃうしさ」
 宮森「え……」
 宮森「それ、ほんとですか?」
 矢野「うん」
 宮森「すいません! 本当にすいません!」
19: 以下、
 矢野「いやいや、そんな気にしなくていいから」
 宮森「でも、矢野さんにご迷惑を」
 矢野「先輩なんだから連れてった以上、これくらいは当たり前でしょ」
 宮森「クリーニング代払いますから」
 矢野「だからいいって」
 宮森「何かお詫びをさせてください。じゃないと、わたしの気が済まないです」
 矢野「お詫び、か。じゃあさ」
 矢野「今日これから時間ある?」
20: 以下、
 宮森「花咲くいろはの劇場版ですか」
 矢野「うん。ずっと見たかったんだよね」
 矢野「けど宮森がいろは見ててよかったよ」
 矢野「さすがに見てない人とは行けないからさ」
 宮森(見ててよかったぁ)
 宮森(ありがとう、花咲くいろは!)
 宮森(ありがとう、P.A.WORKS!)
 宮森(矢野さんと二人で映画なんて)
 宮森(なんだか、デートしてるみたい!)
21: 以下、
 矢野「いい映画だったね」
 宮森「作画すごく綺麗でしたね」
 矢野「うん。冒頭のプールのシーンとかほんと綺麗だった」
 宮森「それ思いました! 髪の濡れてる感じとかすごいなぁって」
 矢野「わたしもあんな絵描けたらな」
 宮森「矢野さんって同人活動されてるんですよね」
 矢野「うん、専門学校時代の友達とね」
 宮森「すごいです」
 矢野「いやいや、へたくそだから」
22: 以下、
 矢野「そうだ、画材屋寄っていい?」
 矢野「ちょっと買っときたいものあってさ」
 宮森「いいですよ」
 矢野「宮森もどこか行きたいとこあるなら言ってよ」
 矢野「わたしでよかったら付き合うから」
 宮森「いいんですか?」
 矢野「うん。どこでも行くけど」
 宮森「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
23: 以下、
 矢野「それで来るのが原画展って」
 矢野「宮森は本当にアニメ好きだね」
 矢野「原画なんて毎日いやになるくらいに見てるだろうに」
 宮森「……いやでした?」
 矢野「ううん。わたしもアニメ好きだから」
 矢野「この原画、構図のバランスすごいなぁ」
 宮森(矢野さんと二人……)
 宮森(ほんとにデートみたいだ)
 宮森(ずっとこのときが続けばいいのに)
 矢野「そうだ。もう一カ所だけ行っていい?」
24: 以下、
 宮森「バッティングセンター、ですか」
 矢野「うん。時々くるんだよね。ストレス解消になるというか」
 宮森「ここ、小笠原さんと来たことあります」
 矢野「あれ、来たことあるんだ」
 矢野「小笠原さん、すごいよね」
 矢野「フォームめちゃくちゃ綺麗だし」
 宮森「わたし、全然打てませんでした」
 矢野「まあまあ、やってみなって」
 矢野「わたしが教えてあげるからさ」
25: 以下、
 宮森「当たりません……」
 矢野「ボールちゃんと見て」
 矢野「身体がぶれてる。しっかり両足で立つ」
 矢野「バットを離さない。両手でちゃんと握って」
 宮森「はい……」
 宮森(そんなこと言われても、こんなの当たるわけ……)
 かきん!
 宮森「…………」
 宮森「矢野さん、当たりました! 当たりましたよ!」
26: 以下、
 矢野「バカ、何よそ見してんの!」
 矢野「次来るって!」
 宮森「え?」
 矢野「あぶな――」
 宮森「ひっ」
 宮森(ボールが身体に向けてとんでくる)
 宮森(当たりたくない一心で)
 宮森(目を瞑ってバットを振った)
 かきいいいいいいいいいいいいいん!!!!
 宮森「へ?」
 「大きい、大きい、大きい。入ったああああ! 入りました! ホームランです!」
27: 以下、
 矢野「すごい! ホームランだよ宮森!」
 宮森「や、矢野さん! やりました!」
 矢野「いいスイングだったよ。2004年のイチローを彷彿とさせるというか」
 宮森「ほ、ほんとですか」
 宮森(矢野さんに褒められてる)
 宮森(わたし、もう死んでもいいかも)
 矢野「み、宮森! なにぼうっとしてんの!」
 矢野「次くるって!」
 宮森「へ?」
 ドゴォ!
28: 以下、
 宮森「痛かったです……」
 矢野「大丈夫?」
 宮森「はい。なんとか」
 宮森(すごく痛いけど)
 店員「あの、ホームランなのでこれ、無料券です」
 矢野「十回まで無料だって。やったね」
 宮森「…………」
 宮森「これ、矢野さんにあげます」
 矢野「え? いいの?」
 宮森「はい。わたし、あんまり来ないですし」
 宮森「それに、昨日のお詫びと言うことで」
29: 以下、
 矢野「だからさ。昨日のことはいいんだって」
 矢野「今度言ったら怒るよ」
 宮森「す、すいません」
 矢野「だからこれはお詫びとしては受け取れない」
 宮森「はい」
 宮森(怒らせちゃった)
 矢野「でも、プレゼントしてくれるのならよろこんでもらうけど」
 宮森「!」
 宮森「はい! 矢野さんどうぞ!」
 矢野「うん。ありがと、宮森」
30: 以下、
 矢野「今日は楽しかったね」
 宮森「はい、幸せでした!」
 矢野「宮森は大げさだね」
 宮森(本心なんだけど)
 矢野「それにしても、びっくりしたなぁ」
 矢野「宮森がまさか」
 矢野「平岡くんのこと好きだったなんて」
32: 以下、
 宮森「え?」
 宮森「なんのことですか?」
 矢野「照れちゃって。ちゃんとわかってるんだから」
 矢野「平岡くんが気になるから、昨日の飲み会来たいって言ったんでしょ?」
 宮森「いやいや、違いますって」
 宮森「平岡さんのことは別に」
 矢野「じゃあ、磯川くん?」
 矢野「もしかしてわたしとか?」
 宮森「…………」
33: 以下、
 矢野「なんてね、冗談冗談」
 矢野「ほら、正直なとこ言ってみ?」
 矢野「わたし、応援するからさ」
 宮森「いや、でも、本当に違うんです」
 矢野「でも、それじゃあさ」
 矢野「昨日どうして来たかったの?」
 宮森「それは……」
 宮森「仕事の関係上、磯川さんと交流を深めたかったというか」
 矢野「嘘だね」
 矢野「だって、宮森は磯川くん来るの知らなかったでしょ」
34: 以下、
 矢野「ほらほら、悪いようにはしないからさ」
 宮森(……このままじゃ矢野さんが好きだってことがばれてしまうかも)
 宮森「…………」
 宮森「実は、平岡さんのことが少し気になってて」
 矢野「やっぱり! だと思った」
 矢野「宮森見る目あるよ」
 矢野「平岡くんいいやつだよ。ぶっきらぼうで不器用で誤解されやすいけどさ」
 矢野「実は猫好きで猫カフェ行ったりするんだから」
 宮森「そうなんですか」
 矢野「わたし、応援するからさ!」
 宮森(矢野さんがにっこり笑って言うものだから)
 宮森(わたしは泣きそうになってしまった)
35: 以下、
 宮森(矢野さんは平岡さんのことをいろいろ教えてくれた)
 宮森(好きなアニメ、好きな食べ物、好きな音楽、好きな本)
 宮森(わたしの家まで来て、平岡さんが好きそうな服を見繕ってくれたりもした)
 宮森(LINEでやりとりをすることも増えて)
 宮森(休みの日に電話したりもするようになって)
 宮森(それ自体はすごくうれしかった)
36: 以下、
 宮森(けれど)
 宮森(どうしても、後ろ向きなことを考えずにはいられなかった)
 宮森(この人はわたしを恋愛の対象とは見てないんだな、と)
 宮森(ふとしたときに思い知って、突然泣きだしてしまったりもした)
 宮森(矢野さんはわたしをそっと抱き寄せて)
 宮森(そうだよね、不安だよね、と言ってくれた)
 宮森(わたしはもっとかなしくなって)
 宮森(矢野さんの鎖骨に頬を押しつけて泣いた)
37: 以下、
 宮森(矢野さんに呼び出されたのはそんなある日のことだった)
 宮森(その日は休日で)
 宮森(わたしは夜眠れなかった分、たっぷり朝寝坊して待ち合わせ場所に行った)
 宮森(二十分前に待ち合わせ場所に着くと)
 宮森(平岡さんが不景気そうな顔をして立っていた)
38: 以下、
 宮森「平岡さん」
 平岡「…………」
 平岡「もしかして、矢野に呼び出されたのか」
 宮森「はい」
 平岡「ったく。あいつはほんと余計なことを」
 平岡「呼んでやる。ちょっと待ってろ」
 平岡「電話でねえし」
 宮森「…………」
 宮森(がんばってね! とLINEが届いていた)
 宮森(わたしはため息をつく)
 平岡「…………」
 平岡「とりあえず、どっか入るか」
39: 以下、
 平岡「昼飯まだだろ?」
 宮森「はい」
 平岡「適当に、入るぞ」
 宮森(平岡さんはわたしをパスタのお店に連れて行ってくれた)
 宮森(料理を待つ間、わたしたちはほとんど話さなかった)
 宮森(きっとわたしが話す気になれなくて、スマホをいじっていたからだと思う)
 宮森(わたしが食べ終わるのを待って、平岡さんは言った)
 平岡「お前、俺のこと好きじゃねえだろ」
40: 以下、
 宮森「え?」
 宮森「い、いや、そんなことは」
 平岡「嘘つけ。つまんなそうな顔しやがって」
 平岡「どう見たって好きなやつといるときの態度じゃねえだろうが」
 平岡「好きなやつといるときはな」
 平岡「お前が矢野といるときみたいな顔するもんなんだよ」
41: 以下、
 宮森「気づいてたんですか?」
 平岡「まあ、薄々な」
 宮森「もしかしてみんな気づいてたりします?」
 平岡「いや、それはないんじゃないか」
 平岡「俺は前の飲み会でお前が矢野さん好きーって抱きついてるの見てたから」
 平岡「そうかなって思っただけで」
 宮森「……わたし、そんなことしてたんですか」
 平岡「めちゃくちゃ幸せそうだった」
43: 以下、
 平岡「俺が口を挟むことじゃないと思うが」
 平岡「好きなら好きで言ってしまってもいいんじゃないか?」
 宮森「それは……」
 宮森「できないです」
 平岡「ダメならダメで玉砕した方がまだマシだと思うけどな」
 平岡「この先矢野は誰かを好きになるだろうし、付き合うだろうし、結婚だってするだろう」
 平岡「それでも、お前はずっと矢野のことを思い続けるのか」
 宮森「ほっといてください!」
 宮森「平岡さんにはわからないです!」
 平岡「それはそうかもしれないが」
 宮森「これ、わたしの分のお金です」
 宮森「また会社で」
 平岡「…………」
44: 以下、
「この先矢野は誰かを好きになるだろうし、付き合うだろうし、結婚だってするだろう」
「それでも、お前はずっと矢野のことを思い続けるのか」
 平岡さんに言われたことが頭の中をぐるぐる回っていた。
 わたしは未来のことを想像した。
 別の誰かに微笑みかける矢野さんを、近くで見ている自分を想像した。
 それはすごく簡単なことだった。
 ほとんど必然と言っていい未来であるように思えた。
 同時に、すごく悲しい未来だった。
 考えただけで胸が張り裂けそうになった。
 わたしは……。
 わたしは、どうすればいいのだろう。
 不意に、大好きな声がした。
 矢野「宮森? こんなところでなにしてるの?」
45: 以下、
 矢野「平岡くんは?」
 矢野「まさか、何かされたとか?」
 宮森「矢野さん……」
 涙が溢れて止まらなくなった。
 矢野さんはわたしを抱きしめてくれた。
 矢野「ごめん。ごめんね、宮森」
 矢野「これはわたしの責任だ」
 矢野「平岡くんはわたしが責任を持ってボコボコにするから」
 矢野「ごめん。ほんとにごめんね」
 宮森「ちがうんです、そうじゃないんです」
 わたしは言った。
 宮森「わたしが好きなのは平岡さんじゃなくて――」
 宮森「矢野さん、なんです」
46: 以下、
 矢野「えっと……」
 矢野「ごめん、宮森」
 矢野「ちょっと事情が呑みこめないんだけど」
 宮森「どうしてわからないんですか」
 宮森「わたしは、矢野さんのことが好きで」
 宮森「好きで好きで仕方なくて」
 宮森「だから――」
 そこまで言って、ようやく自分がとんでもないことを口走ってることに気づいた。
 矢野「ちょっと! 宮森!」
 わたしは矢野さんを振りはらって人の行き交う街の中を走った。
 駅のトイレに逃げ込んだ。
 狭い個室の中で鍵をかけて、
 声を上げずにバカみたいに泣いた。
 すべて終わってしまったんだ、と思った。
47: 以下、
 どのくらい泣いていたのかはわからない。
 わからないけれど、わからなくなるくらい長い間泣いていたのは確かだった。
 シャツの袖で涙をぬぐって個室から出ると、
 矢野さんが腕を組んで、洗面台の脇に立っていた。
「ひどい顔」
 鏡に映ったわたしの顔はたしかにひどくて、
 見ないでください、とわたしは顔を覆った。
48: 以下、
 矢野「ダメ。ちゃんと見せて」
 矢野「それで――」
 
 矢野「ちゃんと言って」
 宮森「言ってって」
 何をですか、と続けようとしたわたしを制して、
 矢野さんは言う。
 矢野「さっき言ってくれたこと」
 矢野「ちゃんと、最後まで聞きたい」
49: 以下、
 逃げようとしたけれど、
 矢野さんの手はわたしの腕をしっかり掴んでいた。
 わたしは観念した。
 半ばやけになって言った。
50: 以下、
「本当は、矢野さんのことが好きでした」
「いつも気づいたら目で追っていて」
「仲良くなれたらなぁって思ってて」
「だから仲良くなれてすごくうれしくて」
「一緒にいられたらもうそれだけでよかったんです」
51: 以下、
「でも、知られたらきっと嫌われてしまう」
「今みたいに近くにいることもできなくなってしまう」
「こわくて」
「だから、嘘をつきました」
52: 以下、
「すいません、気持ち悪いですよね。ひきますよね」
 早口で言ったわたしに、矢野さんはやさしい声で、
 大丈夫だからちゃんと聞かせて、
 と言ってくれた。
「何度もあきらめようとしました」
「忘れようとしました」
「でも――」
 わたしは言った。
「矢野さんのことが」
「もうどうしようもなく好きなんです」
53: 以下、
「ありがとう」
「ちゃんと言ってくれて」
「気持ち悪くなんかないよ」
「うれしかった」
「でも、わたしは宮森のことをそういう風には見えないんだ」
54: 以下、
「だからさ。少し時間をちょうだい」
「今はまだ突然のことで心の整理ができてないけど」
「宮森のことを好きになれるか、ちょっと試してみるからさ」
「だから、少しだけ待ってて」
55: 以下、
 何を言われたのかわからなかった。
 わかっていたけれど、信じられなかった。
 矢野さんがそんなこと言うわけないと思った。
 きっと自分に都合のいい妄想を聞こえたみたいに錯覚したのだ。
 でも、気づいたらわたしは矢野さんに抱きしめられていた。
 柚子の香りがした。
 背中に回された両腕はどこまでもどこまでもやさしくて、
 それで、たしかに矢野さんの言葉だったんだってわかった。
 わたしはまた涙が止まらなくなってしまって。
 何も言葉にできなくなってしまって。
 そんなわたしを矢野さんは、
 ずっと抱きしめていてくれた。
 いつまでも、いつまでも、抱きしめていてくれた。
56: 以下、
 三週間後――
 矢野「宮森。仕事、終わりそう?」
 宮森「あとちょっとですね」
 矢野「ちょっとなら待ってるよ。一緒に帰ろう」
 平岡「…………」
 平岡「お先っす」
 宮森「お疲れ様です」
 矢野「お疲れ」
 宮森(平岡さん、気を使ってくれたのかな)
57: 以下、
 矢野「そしたら池谷さんがさ」
 矢野「スプーンで壁に穴空けて逃げようとしてたの」
 矢野「ポスター貼って穴を隠してたんだね」
 矢野「あれはさすがにびっくりしたよ」
 宮森(矢野さんと並んで夜の道を歩いた)
 宮森(矢野さんの左手がひらひらと、視界の端で揺れている)
 宮森(つかまえたいな、と思うけれど)
 宮森(やっぱりそんな勇気なんてないわたしだ)
58: 以下、
 宮森(わたしの気持ちはばれたけれど)
 宮森(矢野さんとの関係はほとんど変わらなかった)
 宮森(少し電話の頻度が増えたくらいだ)
 宮森(休日に遊びに出かけることはあっても)
 宮森(互いの家に遊びに行くことはない)
 宮森(そこに矢野さんはまちがいなく一線を引いていて)
 宮森(だから、ふられるかもしれないな、と思っている)
 宮森(今度は取り乱さないように)
 宮森(ちゃんと大人の対応ができるように、と思っているけれど)
 宮森(きっと矢野さんにふられたら)
 宮森(また子供みたいに泣いちゃうんだろうな、と思う)
59: 以下、
 矢野「ねえ、宮森」
 宮森(矢野さんが数歩前に出て)
 宮森(わたしに向き合って立ち止まる)
 宮森「なんですか、矢野さん」
 宮森(足を止めたわたしに、矢野さんは言った)
 矢野「キスしていい?」
60: 以下、
「え?」
 わたしはきっと間抜けな顔をしていたと思う。
 気づいたら、矢野さんがすぐ近くにいて、
 唇に何かが触れていた。
 柚子の香りがした。
 大好きな、大好きな匂い。
 鼓膜に触れてるんじゃないかってくらい近くで、
 矢野さんは言った。
「好きだよ、宮森」
 わたしはわけがわからなくなって、
 やっぱり、やっぱり、泣いてしまった。
 おわり
61: 以下、
以上。
感想もらえたらうれしい。
62: 以下、
エンダァァァァァァァ
63: 以下、
すばらしい
今度は同棲の話からだな
69: 以下、
ありがとう最高です
左手の上下運動が止まらない
70: 以下、

まともな白箱SSって初めて見た
71: 以下、
あ、あ…しゅごぃぃ…
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ボーボボ「黒の騎士団入団希望のボーボボでぇす!!」ゼロ「ほう?」死ねやぁ!!!!!
桐乃「そうです!私はブラコンの変態ヤローです!」きゃわわ!!!!!!!
岡部「紅莉栖をひたすら愛で続けたらどうなるか」うわぁぁああぁ!!(AA略
クリリン「やっぱりオレも、サイヤ人の子供欲しいな・・・」スレタイのインパクトェ……
ゆうしゃ「くらえー!まおー!!」魔王「くはははは!!」ゆうしゃちゃん!!!!
俺「グヘヘヘ……」 女騎士「早くこの手錠を外せ!」お○んぽなんかには絶対負けない!
鍛冶師「今日中に仕上げるぞ」弟子「はい」雰囲気が良いSS
「ついに地球はウリ達の物ニダー」ニダニダ
みんなのいちおし!SS
よく耳にするとか、印象的なSS集ダンテ「学園都市か」"楽しすぎて狂っちまいそうだ!"
一方通行「なンでも屋さンでェす」可愛い一方通行をたくさん見よう
インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」"一方禁書"凄まじいクオリティ
フレンダ「麦野は今、恋をしているんだね」通称"麦恋"、有名なSS
キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」珍しい魔術側メイン、見るといーの!
垣根「初春飾利…かぁ…」新ジャンル定温物質ウヒョオオ!!
美琴「……レベル5になった時の話ねえ………どうだったかしら」御坂美琴のレベル5に至る努力の経緯
上条「食蜂って可愛いよな」御坂「え?」ストレートに上食。読めて良かった
一方通行「もっと面白い事してモリモリ盛り上がろォぜ」こんなキャラが強い作者は初めて見た
美琴「週末は アイツの部屋で しっぽりと」超かみことを見てみんなで悶えましょう
ミサカ「たまにはMNWを使って親孝行しようぜ」御坂美琴のDNAは究極に可愛くて凄い
番外個体「  」番外通行SSの原点かな?
佐天「対象のアナルを敏感にする能力か……」ス、スタイリッシュアクションだった!
麦野「どうにかして浜面と付き合いたい」レベル5で楽しくやっていく
ミサカ「俺らのこと見分けつく奴なんていんの?」蒼の伝道師によるドタバタラブコメディ
一方通行「あァ!? 意味分からねェことほざいてンじゃねェ!!」黄泉川ァアアアアアアアアアア!!
さやか「さやかちゃんイージーモード」オナ禁中のリビドーで書かれた傑作
まどかパパ「百合少女はいいものだ……」君の心は百合ントロピーを凌駕した!
澪「徘徊後ティータイム」静かな夜の雰囲気が癖になるよね
とある暗部の軽音少女(バンドガールズ)【禁書×けいおん!】舞台は禁書、主役は放課後ティータイム
ルカ子「きょ、凶真さん……白いおしっこが出たんです」岡部「」これは無理だろ(抗う事が)
岡部「フゥーハッハッハッハ!」 しんのすけ「わっはっはっはっは!」ゲェーッハッハッハッハ!
紅莉栖「とある助手の1日ヽ(*゚д゚)ノ 」全編AAで構成。か、可愛い……
岡部「まゆりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
遊星「またD-ホイールでオナニーしてしまった」……サティスファクション!!
遊星「どんなカードにも使い方はあるんだ」龍亞「本当に?」パワーカードだけがデュエルじゃないさ
ヲタ「初音ミクを嫁にしてみた」ただでさえ天使のミクが感情という翼を
アカギ「ククク・・・残念、きあいパンチだ」小僧・・・!
クラウド「……臭かったんだ」ライトニングさんのことかああああ!!
ハーマイオニー「大理石で柔道はマジやばい」ビターンビターン!wwwww
僧侶「ひのきのぼう……?」話題作
勇者「旅の間の性欲処理ってどうしたらいいんだろ……」いつまでも 使える 読めるSS
肛門「あの子だけずるい・・・・・・・・・・」まさにVIPの天才って感じだった
男「男同士の語らいでもしようじゃないか」女「何故私とするのだ」壁ドンが木霊するSS
ゾンビ「おおおおお・・・お?あれ?アレ?人間いなくね?」読み返したくなるほどの良作
犬「やべえwwwwwwなにあいつwwww」ライオン「……」面白いしかっこいいし可愛いし!
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ポ:ジン「ウオッカ、花見をするぞ」ウオッカ「へい、兄貴!」 (04/18)
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