ペガサス「当麻の勝ちデース!」back

ペガサス「当麻の勝ちデース!」


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1:
七月十九日
上条(明日から夏休みだ)
上条(充実した休日……は不幸な上条さんには無縁かもしれないけど、せめて平穏無事に過ごしたいなー)
上条(夕飯は……今日くらいはファミレスでいいか)
上条(さて、どこで食べようか……。ん?)
上条(なんだあの人……)
長髪の男「」キョロキョロ
上条(外国人?)
2:
長髪の外国人「!」
上条(うわっ、こっち見た!)
長髪の外国人「」スタスタ
上条(こっちに来る!)
長髪の外国人「」ニコニコ
上条(ど、どうしよう……。上条さんに異国の方と会話できる語学力はないんですが……)
長髪の外国人「すみまセーン。道をお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか?」
上条「え? 日本語?」
3:
長髪の外国人「第三学区という所を探しているのですが、見つからなくて困っているのデース」
上条(第三学区ってことは、外から来たお客さんか)
上条「ここは第七学区で、第三学区とはだいぶ離れた場所ですけど……」
長髪の外国人「オー、ミステイク! うっかりデース」
上条「第三学区でしたら、あっちを右に行って、大通りをまっすぐ進んで――」
長髪の外国人「――ふむふむ。なるほど。アンダスタン! 理解しました」
上条「それじゃ、俺はこれで……」
長髪の外国人「ちょっと待ってくだサーイ。ぜひユーの名前を聞かせてくだサーイ」
長髪の外国人「カミジョー……下の名前はなんというのですか?」
上条「え? ……ああ、『とうま』と読みます。上条当麻です」
上条(あれ? 俺『上条』っていつ名乗ったんだ?)
長髪の外国人「当麻……トーマ……オー、トム!」
上条「へ?」
長髪の外国人「トムの勝ちデース!」
4:
上条「いや、トムじゃなくて当麻ですって」
長髪の外国人「ソーリー、当麻ボーイ。ナイス・トゥー・ミー・チュー」
長髪の外国人「私の名前はペガサス。ペガサス・J・クロフォードデース!」ドーン
上条「はぁ」
ペガサス「……」
上条「……?」
ペガサス「……ユーは私の名前、ご存知ないのですか?」ショボーン
上条「えーっと……はい」
ペガサス「ユーはM&W(マジック&ウィザーズ)をプレイしないのですか?
  ユーくらいのボーイなら、みんなプレイしてると思っていたのですが……」
上条「M&W? ……ああ、デュエルモンスターズのことですか?」
ペガサス「ザッツライト! 何を隠そう、私がそのカードゲームを生み出したデザイナーなのデース!」ドーン
6:
上条「へー、それはすごいですね」
ペガサス「……なんだか反応が薄いですネ……」
上条「あ、いや、俺貧乏なんで、カードゲームとかやらないんですよ。金かかるから」
ペガサス「オー、それは由々しき事態ですネー」
ペガサス「カメラが回ってるならデッキの一つでもプレゼントするんですけどネ。ユーはバッドラックなボーイですネー」
上条(意外とケチ?)
ペガサス「せめて値段を下げるように、後で会社に頼んでおきましょう」
上条(たとえ安くなったとしても買わないだろうけど……黙っておこう)
ペガサス「そんなこと言わずに買ってくだサーイ! 最高に面白いゲームですよ!」
上条「え!? あ、はい」
上条(やべ、声に出ちゃってたか……)
7:
ペガサス「ところで当麻ボーイ。このシティ、学園都市には超能力者がいると聞いたのですが、本当ですか?
  ユーも超能力者だったりします?」
上条「えっと、厳密には能力者、ですね。
 それがだいたい70万人くらいいて、そのトップの7人が超能力者って呼ばれてます」
上条「学生の数はもっと多いんですけど、半分以上が能力を持たない無能力者です」
上条「俺も無能力者って認定されてます。……ただ、俺の場合は右手がちょっと変なんですけど」
ペガサス「ワッツ? どういうことですか?」
上条「この右手、異能の力ならなんでも打ち消せるんです。
 でも、どういうものなのか、詳しいことは学者さんにもわからないらしくて……」
ペガサス「異能を打ち消す……。ふむ」
40:
ペガサス「当麻ボーイ」スッ
上条「?」
ペガサス「握手デース。私の国では当たり前の挨拶デース」
上条「あ、はい」ガシッ
ペガサス「……」
ペガサス「……!」
上条「?」
ペガサス「……フ」
ペガサス「フフフ……ハハハハハ、アーッハッハッハ!」
上条「ペ、ペガサスさん?」
ペガサス「ソーリー。なんでもありまセーン」
41:
ペガサス「それでは私は行きマース……と、その前に……」
上条「?」
ペガサス「道を教えてくれたお礼に、カードを1枚ユーにプレゼントしましょう。ケチだと思われるのは心外ですからネ」
ペガサス「ラッキー・カードデース。ユーに幸運が訪れるように」スッ
上条「は、はぁ。ありがとうございます」
ペガサス「シー・ユー・アゲイン、親切なボーイ。また会いましょう」スタスタ…
上条「……」
上条「変な外人さんだったな……」
上条「……上条さんにラッキー、ね……」
10:
ペガサス「……」
ペガサス(あの時……)
ペガサス(当麻ボーイに右手で触れられてる間、マインド・スキャンを使うことができなかった……)
ペガサス「どうやら噂どおり、このシティにはアンビリーバブルな力がたくさんあるみたいですネ」
ペガサス「フフフ……ここに観光に来て正解でした。楽しい休暇になりそうデース」
27:
キラキラした期待のまなざしが心に痛いのでぶっちゃけますよ?
誰かと誰かがデュエルモンスターズで闘うことはないです
時系列が後のカードが登場する予定もありません
それともう一つ
GXのペガサスは高い実力を見せてくれましたが、
千年眼を持ってた頃のペガサスは卑怯…いや、リスクの低い闘い方を好みます
決闘者の王国編を観るようなノリで読んでいただければ幸いです
28:
七月二十日 第七学区
ペガサス(能力を持ってるのは学生たちと聞いて、結局また第七学区まで来てしまいました)
ペガサス(明日はエリートが集まると聞く第一八学区に行ってみましょう)
ペガサス(しかし、なかなか能力を見る機会が訪れませんネー)
ペガサス(……む?)
ペガサス「オー! 当麻ボーイ!」
上条「!? ゲッ。ペガサスさん……」
29:
ペガサス「こんな所で会うとは奇遇ですネー」
上条「そ、そうですね、ははは……」
ペガサス「なんだか疲れてるみたいですネ。どうされたんですか?」
上条「昨日ペガサスさんと別れた後、色々ありましてね……」
上条「不良に追いかけられるわ、電撃ぶっ放されるわ、電化製品と冷蔵庫の中身が全滅するわ……」
上条「朝になったら変なシスターに出会うわ、補習だわ、また電撃ぶっ放されそうになるわで……」
ペガサス「オー、ユーは本当にバッドラックなボーイなんですネー」
上条(おまけに会話するのが疲れるペガサスさんと会っちゃうし……。不幸だ)
ペガサス「……そんな風に思われてたんですネ。ちょっとショックデース」ショボーン
上条「え?」
30:
上条「……」スタスタ
ペガサス「……」スタスタ
上条「あのー、何故ペガサスさんは上条さんの後をつけているのでせうか」
ペガサス「ホワイ? 当麻ボーイの家に招待してくれるのではないのですか?」
上条「なんでそうなるんですか……」
ペガサス「友人を家に招待するのは自然なことだと思いますが……」
上条(友人? 誰と誰がだよ……)
ペガサス「私と当麻ボーイがデース」
上条「はぁ……。わかりました。水くらいしか出せませんけど、それでいいなら……」
ペガサス「サンキュー、当麻ボーイ」
36:
とある学生寮
ペガサス「オー! ここが当麻ボーイの家ですか。大きいですネー」
上条「その内の一部屋だけですよ……。結構上の階ですから、エレベーター使いますよ」
ペガサス「ストップ! 当麻ボーイ!」
上条「!?」ビクッ
ペガサス「……」
上条「ど、どうしたんですか? 大きな声出して……」
ペガサス「あれを見てくだサーイ」スッ
上条「……紙?」
ペガサス「私の眼はどんな小細工も見逃しまセーン」キラッ
上条(? 今、目が光った……?)
32:
上条(すごい数の紙が貼りつけてある……。ん? なんか変な文字が書かれてるな……)
ペガサス「ルーン文字、というやつですネ。私はあまり詳しくありませんが、魔術に関わりがあると聞きます……」
上条「魔術……!?」
ペガサス「当麻ボーイ?」
上条(インデックスは魔術結社に追われていると言っていた……。まさか……)
ペガサス「なるほど……そういうことですか。魔術結社……不穏な響きデース」
上条「ペガサスさん?」
ペガサス「昔の私なら『そんなオカルトありえまセーン』と言うところでしょうが、今の私がそれを言うのは滑稽でしょうネ」
33:
ペガサス「どうします? 当麻ボーイ。勝負の基本は相手の土俵に乗らないこと……。
  先へ進むのはデンジャラスだと思いますが……」
上条(……もしかしたら、インデックスが……)
ペガサス「……ユーは行くつもりなのですネ」
上条「……」
ペガサス「オーケー! 私もつきあいましょう!」
上条「え!?」
ペガサス「もし魔術師なんてものが本当にいるなら、私はきっとお役にたてると思いマース」
ペガサス(本当はただの好奇心なんですけどネー。フフフ)
34:
ウイーン…
上条「部屋の前に清掃ロボ?」
上条「!」
上条「インデックス!」
ペガサス「背中に大きな傷が……。これはひどい……」
上条「一体誰がこんなことを……!」
「僕たち、魔術師だけど?」
43:
上条「!?」
ペガサス「……」
赤い長髪の男「どいてくれ。それ、回収するから」
赤い長髪の男「正確には、頭の中の10万3000冊の魔道書を、だけどね」
ペガサス(シスター・ガールの頭の中の……魔道書?)
上条「テメェ……! 何様だ!」
赤い長髪の男「ステイル=マグヌス。……いや、Fortis931と名乗らせてもらおう。
   これは魔法名……相手を殺すときに名乗る名前さ」ボッ
上条・ペガサス「!?」
上条(炎が……! なんて大きさだ!)
ペガサス「……!」
ステイル「炎よ……巨人に苦痛の贈り物を!」ゴォッ
44:
シュウウウウ…
ステイル「やりすぎたかな?」
ステイル「……!?」
上条「……っ」
ペガサス「……」
ステイル「無傷だと……!?」
ステイル「……そうか。歩く教会を破壊したのは君か……!」
ペガサス「……」
ステイル「……どうやら、そっちの彼は戦意喪失みたいだね」
ステイル「無理もない。あれだけの炎を前にすれば――」
ペガサス「フ、フフ……ハハハハハハハハハハ!」
45:
上条「ペ、ペガサスさん?」
ステイル「……気が狂ったか」
ペガサス「ノー、狂ってなんかいまセーン。私は嬉しいのデース」
ペガサス「本物の魔術! 本物の魔術師! とてもスリリングでエキサイティングデース!」
ペガサス「……マジシャン・ボーイ、殺し合いなんて物騒デース。そんなことより、楽しいゲームでもしませんか?」
ステイル「ゲーム……?」
ペガサス「そう……闇のゲームの始まりデース!」
46:
ゴゴゴゴゴ…
ステイル(なんだ!? 周囲が暗く……?)
上条「な、何が起こってるんだ……!?」
ペガサス「M&Wはプレイヤーが魔術師となって魔術を使うカードゲーム……」
ペガサス「それは単なる設定ですが、バット、この空間においてはカードの内容は現実のものとなりマース」
ステイル「何を言っている……。ふざけてるのか?」
ペガサス「ふざけてまセーン。私はカードで、そしてユーは得意の魔術で闘うのデース」
ペガサス「ああ、そうそう。先に言っておきますが……」
ペガサス「闇のゲームの敗者には恐ろしい罰ゲームが待っていマース。……覚悟はしておいた方がいいですよ?」
ステイル「訳のわからないことをごちゃごちゃと……!」
ペガサス「ソーリー。では始めましょうか」
ペガサス「決闘(デュエル)!」
47:
ペガサス「フフフ、まさか本物の魔術師と決闘することになるとはネ……」
ペガサス「このシティへ来たのは超能力者の見物が目的でしたが、
  こんなワンダフルな体験ができるとは思わぬ収穫デース」
ペガサス「――いきますよ、マジシャン・ボーイ」
ステイル「!」
ペガサス「マインド・スキャン!」ピカー
ステイル「う!?」
上条(髪がなびいて、隠れてた左目が……)
上条(……金の義眼?)
48:
ペガサス「……」
ペガサス「……ユーの心は読ませてもらいました。ユーの戦術もネ」
ペガサス「ユーに勝ち目はありまセーン」
ステイル「……はったりかい? その手には乗らないよ」
ステイル(この男、得体が知れなさすぎる。……加えて魔術を打ち消すあの右手……)
ステイル(……『魔女狩りの王』でいっきに勝負をつける!)
ペガサス「その『魔女狩りの王』とやらを早く召喚してくだサーイ」ワクワク
ステイル「!?」
49:
ステイル(な、何故『魔女狩りの王』のことを……。まさか本当に心を……?)
ステイル「くっ……『魔女狩りの王』!」ゴォッ
ゴオオオオ!
上条「ほ、炎の巨人!?」
ペガサス「オー! とてもかっこいいモンスターですネー!」
ステイル「終わりだ……。たとえその右手でも、『魔女狩りの王』を消すことはできない!」
ペガサス「そうでしょうか? そのモンスターを攻略するには……」
ペガサス「この1枚で充分デース」ドン☆
50:
サアアアア…
ステイル「これは……」
上条「霧……。いや、雨……?」
ペガサス「『魔霧雨』のカードを発動しました。このフィールド……建物一帯に霧と雨を起こしマース」
ステイル(この男、魔術師……いや、能力者か?)
ペガサス「ノー。決闘者(デュエリスト)デース」
51:
ステイル「……ふん。この程度の雨で『魔女狩りの王』を止められるとでも――」
ペガサス「思ってまセーン。『魔女狩りの王』はルーンがある限り何度でも再生するモンスター……」
ペガサス「逆に言えば、ルーンが破壊されれば『魔女狩りの王』は場に維持できない」
ステイル「!」
ペガサス「ここへ来る途中、ルーンが書かれた紙がいたる所に貼られているのを見ました」
ペガサス「カード製作に携わる者として一言言わせてもらいマース」
ペガサス「水性のインクを使うのはやめた方がいいですよ?」
52:
ステイル「ま、まさか雨でインクを……」
シュウウウウ…
上条「巨人が消えた……」
ステイル「……イ、『魔女狩りの王』! 『魔女狩りの王』ッ!」
シーン…
ペガサス「無駄デース」
ステイル「『魔女狩りの王』……」
ペガサス「ユーのマインド、闘いの炎が消えていくのがわかりマース」
ペガサス「切り札を失ったユーの負けデース」
53:
ペガサス「ところで、私は体を動かすのが苦手なのです。ケンカのやり方も知りまセーン」
ペガサス「後はおねがいします、当麻ボーイ」
上条「ああ!」ダッ
ステイル「!」
ステイル「は、灰は灰にっ。塵は塵に。吸血殺しの――」
上条「オラァ!」バキッ
ステイル「ぐっ、は……!」ドサッ
ペガサス「グレート! トムの勝ちデース!」
上条「だから当麻だってば……」
54:
ステイル「」
ペガサス「さて、敗者には罰を受けてもらいましょう」
ペガサス「罰ゲーム! マインド・カード!」
ペガサス「……は、やめておいてあげマース。二対一でアンフェアでしたしネ」
ペガサス「代わりに額に『肉』の字を書いておきましょう。水性インクのせいで負けた戒めに、油性で」キュッキュッ
ステイル(肉)「」
ペガサス「ワオ! へのつっぱりはいらない人にそっくりデース!」
ペガサス(……一瞬だけ視えたマジシャン・ボーイの心の奥……。
  シスター・ガールに向けていた感情は敵意ではなく親愛、そして悲哀……。一体どういうことなのでしょうか)
フッ…
上条「景色が元に……」
上条(とにかく、インデックスを外へ運ぼう)
59:
学生寮の外
上条「インデックス! しっかりしろ!」
インデックス「う……」
ペガサス「早く病院に連れていった方がいいでしょう」
上条「でも、病院に行っても情報が漏れて、結局魔術師に……」
上条「インデックス、おまえの持ってる魔道書の中に、傷を治す魔術はないのか?」
インデックス「あるけど……この街の学生には、魔術は使えないんだよ……」
上条「くそ、じゃあどうすれば……」
ペガサス「オー、よくわかりませんが大変ですネー」
上条「……」
ペガサス「……」
上条「ペガサスさん!」
ペガサス「?」
60:
ペガサス「私が魔術でシスター・ガールの傷を治すんですか……」
ペガサス「なんだかわくわくしますネー」
インデックス「……倒れてたとき、途切れ途切れだけど意識はあったの……。あなたも普通の人じゃないんだよね」
ペガサス「……」
インデックス「でも、大丈夫。あなたの力は魔術寄りだから、きっと――」
インデックス「」ピカー
上条「インデックス!?」
ペガサス(シスター・ガールの体から光が……!?)
インデックス?「警告。――強制的に自動書記で目覚めます」
61:
自動書記「貴方はこの場から離れてください」
上条「くっ……。ペガサスさん、インデックスを頼みます」タッ
ペガサス「ノープロブレムデース」
自動書記「……」ブツブツ…
ペガサス(自分の血で魔法陣を……?)
ペガサス(……よく伸びる血デース)
自動書記「何か小物をお持ちですか?」
ペガサス「カードくらいしか持ってませんが……」
自動書記「構いません。それと、人形のような物があると助かります」
ペガサス「人形……オー! 御伽ボーイからもらったD・D・Mのサンプルがありました。使ってくだサーイ」
62:
自動書記「天使を下ろして神殿を作ります」
自動書記「――リンクしました」
自動書記「思い浮かべなさい。金色の天使。2枚の羽を持つ、美しい天使の姿」
ペガサス(天使……)
ペガサス(私にとっての天使のイメージは、ただ一つだけ)
ペガサス(……)
ペガサス「!」
ペガサス(光が……人の形に……)
ペガサス「……」
ペガサス「……シ」
ペガサス「シンディア」
64:
ペガサス「シンディア」
ペガサス「シンディアッ……シンディア!」
ペガサス「シンディア……?」
ペガサス「行かないでくれ、シンディア……」
ペガサス「私を一人にしないでくれ……!」
ペガサス「シンディア! シンディア――!」
ペガサス「……」
ペガサス「……シンディア……」
65:
ペガサス「……」
自動書記「――自動書記を休眠します」
インデックス「ふぅ……」
インデックス「ありがとう、あなたのおかげで――」
ペガサス「もう一度やってくれ!」グイッ
インデックス「う……っ!?」
66:
ペガサス「頼む! 今の魔術、もう一度……もう一度!」ギリ…
インデックス「やめ、て……苦し……」
上条「どうした!? 何があった!」
上条「ペ、ペガサスさん? あんた、何を――」
ペガサス「うるさいっ! 邪魔をするな!」
インデックス「駄目、なんだよ……」
インデックス「魔術は、有毒なんだよ。また、使おうなんてしたら、あなたの、精神が……」
ペガサス「……!」
ペガサス「……」フッ…
インデックス「けほっ……ごほっ」
上条「大丈夫か?」
インデックス「うん、平気……」
ペガサス「……ソーリー、シスター・ガール。ソーリー……」
67:
インデックス「……下りてきた天使は、あなたの大切な人?」
ペガサス「……」
インデックス「あれは、そんなものじゃないんだよ。あなたのイメージを形にしただけ……」
ペガサス「……」
インデックス「……死者の蘇生なんて、諦めた方がいいと思う」
ペガサス「……!」
ペガサス「……ユーは……ユーなら、死者を蘇らせる魔術を知っているのではないですか?」
68:
インデックス「し、知らない」
ペガサス「私に隠し事は通用しません」
ペガサス「ユーの頭の中には10万3000冊もの魔道書があると聞きました。その中には死者蘇生の魔術もあるはずです」
ペガサス「……おねがいします。どうか私に魔術を教えてください」
インデックス「……駄目なんだよ。魔術師じゃない人間には……ううん、たとえ魔術師でも危険かも」
インデックス「使うのが難しいとかそれ以前の問題なんだよ。そんな魔術、知っただけで精神が壊れちゃう……」
ペガサス「……」
ペガサス「では、ユーの心に直接訊くことにしましょう」
ペガサス「マインド・スキャン!」
上条・インデックス「!?」
70:
ペガサス「……っ」
ペガサス(な、なんだこれは……! これが、魔術……?)
ペガサス(あ、頭が……心が浸食されていく……!)
インデックス「な、何してるの!? まさか――」
自動書記「――警告。書庫内への侵入者を確認。書庫の保護のため、侵入者を迎撃します」
上条「イ、インデックス!?」
73:
ペガサス「ぐ……ぅ……」
ペガサス(死者の……蘇生……)
上条「ペガサスさん!」
ペガサス(もう一度……もう一度シンディアに……っ!)
ペガサス「ウオオオォオォオォォォオォオォォォオォオォ……!!」
ペガサス「……あ、ぁ……」
ペガサス「」ガクッ
上条「ペガサスさん!? ペガサスさん!」
自動書記「……魔道書の汚染による侵入者の沈黙を確認。
  閲覧された魔道書を特定。汚染の程度は高く、再起は不能であると推測。
  現状、危機は回避したとみなし、肉体の安静を優先。自動書記を休眠します」
インデックス「……う……」ドサッ
上条「インデックス! ペガサスさん!」
75:
とある学生寮
刀を携えた女「ステイル! 無事ですか!?」
ステイル(肉)「う……。神裂、か……」
神裂「!? ぶほぉっ」
ステイル(肉)「? どうした神裂」
神裂「ぶふぅ……! うぐっ」
ステイル(肉)「神裂?」
神裂「こっちを……向かないでください……っ」プルプル
ステイル(肉)「??」
79:
「わわわ、どうしたです? 外国人さん二人もおんぶして……。罰ゲームか何かです?」
「すみま、せん、先生。どうか、何も言わずに、匿ってください」
「え? え?」
ペガサス(シンディア……)
「シスターちゃんが目を覚ましたですよ!」
「私は、大丈夫……。あの人は……?」
「まだ……」
ペガサス(ずっと一緒だと誓ったのに……どうして……)
「……明るくてひょうきんなだけの人だと思ってたけど……」
「抱えてる深い闇を隠すために、わざとそう振る舞ってたのかも……」
81:
ペガサス「……」パチ
ペガサス「……」
ペガサス「……ここは……?」
幼女「あ、お目覚めですね」
上条「ペガサスさん!」
インデックス「嘘……。いくらなんでも早すぎるんだよ……」
ペガサス「当麻ボーイ……。シスター・ガール……」
インデックス「……でも、よかった……。おはよう、ペガサス」
ペガサス「……グッドモーニング」
82:
ペガサス「私は……あれから……?」
上条「えーっと……何から話せばいいのか……」
上条「……ペガサスさんが気を失った後インデックスも倒れて、それでペガサスさんだけでも病院に、
 と思ったんですけど……」
上条「魔術的なダメージだったら、インデックスが近くにいた方が助かるし、だけどそのインデックスは倒れてて……」
上条「……だから、担任の月詠小萌先生を頼ることにしたんです。二人を匿ってくれるように」
幼女「です」
ペガサス「……では、ここは当麻ボーイのティーチャーの家という訳ですか……」
幼女「です」
ペガサス「すぐにでもお礼を言いたいのですが、今はいらっしゃらないみたいですネ。
  ……こちらのかわいらしいお嬢さんはお子さんですか?」
幼女「です!?」
上条「あー……その人が月詠小萌先生です」
小萌「です!」
ペガサス「……当麻ボーイ。ユーはジョークが下手ですネー」
83:
ペガサス「このシティに来て、色々目にしました。高性能な機械、能力者、魔術師……。
  その度に驚いてきた訳ですが……」チラ
小萌「?」
ペガサス「正直、今が一番びっくりしてマース」
小萌「どういう意味ですか! 失礼です!」
ペガサス「ソーリー、小萌ガール……いや、ミス月詠」
ペガサス「寝る場所を貸してくれたこと、ベリー感謝してマース」
ペガサス「運んでくれた当麻ボーイもサンキューデース。持つべきものは友ですネー」
ペガサス「……ところで、今日は何日なんでしょう? ずいぶんと眠ってた気がしマース」
上条「七月の二十三日です」
ペガサス「オー、3日近く眠ってた訳ですか。少し寝すぎましたかネ」
インデックス「ううん、そんなことないんだよ。むしろ早すぎるくらいなんだよ……」
84:
ペガサス「シスター・ガール? どういうことですか?」
インデックス「それは……」
インデックス「……」
小萌「!」
小萌「せ、先生、買い物行く予定だったの忘れてたです。急いで行ってくるですよ」タッタッタ
上条「小萌先生……すみません」
小萌「なんで上条ちゃんが謝るのか、先生全然わかんないですー」ガチャ
バタン
85:
インデックス「……ペガサスは、人の心が読めるんだよね」
上条(そういえば魔術師と闘ったときそんなことを言ってた気が……。あの後息つく暇もなくて忘れてたけど)
ペガサス「……」
ペガサス「イエス。そのとおりです。ただ、今みたいに疲れているときは、力は使わないようにしていますが」
インデックス「あなたは私の記憶から、死者蘇生の魔術を知ろうとした……。
  死者蘇生に関する記憶、全てに目を通そうとしたんでしょ」
インデックス「古今東西、禁忌とされている魔術……死者蘇生が載っているような魔道書は、
   魔道書の中でも特に危険なものばかりなんだよ。少し目を通しただけで廃人になってしまうくらい……」
インデックス「それなのにあなたは回復した。それもたった3日で。そんなの、実力のある魔術師でも難しいんだよ」
ペガサス「……」
86:
ペガサス「……何故私が魔道書に汚染されなかったのか。
  それはおそらく、この千年眼(ミレニアム・アイ)があったからでしょう」スッ
上条(左の義眼……)
インデックス「ウジャト眼……ホルスの眼だね。エジプトの様々なものに使われるシンボルなんだよ」
ペガサス「イエース。これはエジプトで手に入れた物デース」
ペガサス「……ユーたちには本当に感謝しています。それに、ベリー迷惑をかけてしまいました」
ペガサス「私だけがサイレンス、なんて訳にはいきまセーン」
上条「ペガサスさん……」
ペガサス「全てをお話ししましょう。この千年眼のことを。私のことを。そして、シンディアという少女のことも」
112:
ペガサス「」スッ
上条「カード……」
インデックス「きれいな女の人……」
ペガサス「彼女がシンディア……。7年前、わずか十七歳にしてこの世を去った、私の恋人です」
ペガサス「出会いは14年前……。社交場で、父の友人の娘である彼女と出会いました」
ペガサス「いつしか私たちは互いに魅かれ合っていきました……」
ペガサス「二人はよく夢の話をしました。絵を描くのが好きな私は画家として成功すること……。
  体が丈夫でないシンディアは見知らぬ異国を旅すること……」
ペガサス「私たちは生涯を誓い合い……」
ペガサス「……私が十七になってまもなく、シンディアは病でこの世を去りました……」
上条「……」
インデックス「……」
113:
ペガサス「シンディアの死から数ヶ月、私は絵を描き続けました。……彼女の絵も、何枚も描きました……」
ペガサス「それでも、私の心のカンバスはずっと真っ白なままでした……」
ペガサス「……気づけば私はエジプトを訪れていました」
ペガサス「古代エジプトの、魂は永遠のものとされる死生観に興味を持ったためです」
ペガサス「エジプトの遺跡や砂漠は素晴らしいものでしたが、私の心の空白を埋めてくれる景色はなかった……」
ペガサス「……私はとある村を訪れました。そこで一人の少年に出会ったのです」
ペガサス「少年と会話したのは少しの間だけですが……そのとき聞いた言葉が気になり、
  こっそりと後を追うことにしました」
ペガサス「……思えば、あのとき少年を追わなければ……」
ペガサス「……いえ、全ては運命だったのかもしれませんネ。私がエジプトを訪れたのも、何もかも……」フッ
上条・インデックス「?」
114:
ペガサス「……辿り着いたのは隠された地下神殿でした。そこで私は男たちに取り押さえられてしまったのです」
ペガサス「少年は私に言いました。ここを立ち去るには千年アイテムの所持者に選ばれるしかないと」
ペガサス「そして少年が手に取ったのが――」
ペガサス「――この、千年眼です」
115:
ペガサス「千年アイテムは所有する人間の魂を試す……。
  所持者として相応しくなければ全身を焼かれ、殺されてしまうのです」
ペガサス「しかし、もし認められたなら、千年眼は所持者の願いを叶えてくれる……」
ペガサス「冥界の扉を開け、シンディアと会うことを願い、私は千年眼の試練を受けたのです」
ペガサス「……左目を抉り取り、そこに千年眼を埋め込みました……」
上条「う……」
ペガサス「激痛に私はのたうち回り、血の涙を流しました……」
ペガサス「そして、奇跡は起きたのです」
ペガサス「光が私を包み……そこには私の求める景色があった」
ペガサス「シンディア」
ペガサス「それは、ほんの一瞬の再会でした……」
ペガサス「そして千年眼は私を受け入れたのです……」
116:
上条「……」
インデックス「……」
ペガサス「この千年眼によって、私は他人の思考、すなわち心を視ることができるようになりました」
ペガサス「それと同時に『闇の番人』の資格も得たのです」
上条「闇の、番人……?」
ペガサス「千年アイテムに選ばれた者は、人知を超えた『闇のゲーム』を仕掛け、敗者に罰を与えることができるのです」
ペガサス「マジシャン・ボーイとの決闘で見せたあれデース」
上条「じゃあ心が読めるのも、カードの内容を現実に起こしたのも、能力や魔術じゃなくて……」
ペガサス「イエース。この千年眼の力デース」
117:
ペガサス「この千年眼は呪われたアイテム……。闇の力を持っています」
ペガサス「それが魔道書の毒を防ぐ形となったのかもしれません。
  あるいは、私が『闇の番人』だから汚染を免れたのか……」
ペガサス「シスター・ガール。ユーの10万3000冊の魔道書の中にエジプトの魔道書は……」
インデックス「うん、もちろんあるんだよ。エジプトは神秘と魔術の国だから」
インデックス「有名なものだと『死者の書』や『カーナックの書』。ヘルメス文書にエメラルド・タブレット……」
インデックス「出展はエジプトじゃなくても関係のある魔道書は多いんだよ。
   あのアレイスター=クローリーの『トートの書』も、エジプトの魔術について書かれてるんだよ」
ペガサス「オー! 『トートの書』! 私にも馴染み深い名前デース」
ペガサス「三千年前のエジプトでは魔術師が魔物を操り、闘っていたという言い伝えがあるのデース」
ペガサス「それが形を変えたのがタロットとも、またタロットがカードゲームの原点ともいわれていマース」
ペガサス「私がM&Wを生み出したのも、エジプトでの体験をもとにしているのデース」
118:
ペガサス「おっと、つい話を遮ってしまいました。ソーリー、シスター・ガール」
インデックス「う、うん。とにかく、私の中にはエジプトの魔術の知識もたくさんあるんだよ」
インデックス「……だけど千年アイテムなんて今初めて知ったんだよ。魔道書にそれらしい記述は……」
ペガサス「そうですか……。何かわかるかもと思ったのですが、残念デース」
インデックス「ごめんね……」
ペガサス「ノー! ユーが謝ることなんてありまセーン!」
ペガサス「……謝るべきなのは、むしろ私の方です」
インデックス「え?」
119:
ペガサス「ユーの傷を治した後、私はユーに手荒な真似をしてしまった……。衰弱していたユーをです」
ペガサス「それなのに、あのときのユーは――」
――魔術は、有毒なんだよ。また、使おうなんてしたら、あなたの、精神が……――
ペガサス「自分の身よりも私を、こんな私を心配してくれた……」
ペガサス「それだけではありません。そのユーに対して私はマインド・スキャンを……。
  ユーの優しさを踏みにじるような愚かな真似を……」
インデックス「ペガサス……」
ペガサス「すみません」
ペガサス「すみません……。すみません……」
120:
インデックス「……訊いておかなければいけないことがあるんだよ」
インデックス「ペガサスは死者蘇生の魔術を理解してしまったの? それとも……」
ペガサス「……正直に言いますと、ほとんど理解できませんでした」
ペガサス「内容が難解だとか複雑だとかいう以前に、もっと根源的なところで……本能が理解を拒むように感じました」
ペガサス「ただ、直感ですが……」
ペガサス「私が目にした死者蘇生に関する数々の魔術、その全てが――」
ペガサス「不完全で、しかも大きな代償を必要とする……そんなものだったと思います」
インデックス「……死者蘇生なんてそんなものなんだよ。
   できたとしても、せいぜい用意した器に魂を無理矢理縛りつけておくことくらい……」
インデックス「それでも、ペガサスは魔術を使いたい? シンディアを無理矢理連れ戻したい?」
ペガサス「……ノー。そんな形でシンディアと一緒にいたいのではありません。
  なにより、彼女を苦しめるようなことはできません」
ペガサス「誓います、シスター・ガール」
ペガサス「もう死者蘇生の魔術を使おうとは思いません。
  ユーの記憶を覗いて魔術を知ろうとすることも、二度としないと誓います」
121:
インデックス「……それなら、ペガサスが謝る必要はないんだよ」
インデックス「ほんの少し間違えちゃっただけで、ただシンディアに会いたかっただけなんだから……」
ペガサス「……こんな私を、ユーは許すというのですか……? 何故……」
インデックス「だって、私はシスターさんなんだよ! 迷える子羊を救うのも大切なお仕事なんだよ!」
ペガサス「シスター・ガール……」
ペガサス「……懺悔って、シスターさんが聞いていいんでしたっけ?」
インデックス「あ」
ペガサス「そもそも私は旧教の信徒ではないのですが。たしか未信者は赦してはいけない決まりがあったはずじゃ……」
インデックス「あ、あ、大丈夫なんだよ。何が大丈夫かはわからないけど、絶対大丈夫なんだよ、たぶん」
ペガサス「……」
ペガサス「……プ」
ペガサス「アハハ、ハハ、ハハハハハ……」
インデックス「ペガサス?」
ペガサス「ありがとう、シスター・ガール。サンキュー・ベリーマッチ」
インデックス「……うん! どういたしまして!」
122:
ペガサス「しかしこの部屋は散らかってますネー。ん? これはデリバリーのチラシですか……」ペラ…
ペガサス「オー! アイ・ハヴ・ア・グッド・アイディア!」
上条「?」
「は、入っても大丈夫ですー?」
上条「小萌先生だ。……ええ、大丈夫ですよー」
ガチャ
インデックス「おかえり、こもえ」
小萌「ただいまですー。……ペガサスさん、何してるんです?」
ペガサス「テレフォンをお借りしますよ、ミス月詠」
ペガサス「みなさんへのお礼と、シスター・ガールと私の快復祝いデース!」
123:
上条「う」
小萌「わ」
インデックス「あー!」キラキラ
ペガサス「どうぞ遠慮せず食べてくだサーイ!」ドン☆
上条「特上の寿司や刺身がこんなに……」
小萌「公務員の薄給ではとても頼めないようなのがいっぱいです……」
インデックス「いただきますなんだよー!」
上条「こんな高級な物、貧乏に慣れた上条さんの胃袋が受けつけるんでせうか……」
小萌「こ、これ本当にいただいちゃっていいんです?」
ペガサス「気にしないでくだサーイ。私はお金持ちなのデース」
インデックス「おいしいんだよ! すっごくおいしいんだよ!
   とうまに食べさせられた酸っぱいパンと野菜の何百倍もおいしいんだよ!」バクバク
上条「貧乏学生の食事情と比べんなよ……。というか、おまえあれおいしいって言ってたじゃねえか!?」
インデックス「お世辞に決まってるんだよ! 実はずっと根に持ってたかも!」バクバク
上条「ああ、それはいいけどそんな雑に喰うなよな。滅多に食べられるもんじゃないのに……」ハラハラ
124:
ペガサス「私もいただきましょう。この白いのは……ノー、イカですか。シスター・ガールにあげマース」ポイ
インデックス「ありがとうなんだよペガサス!」バクバク
ペガサス「何かドリンクは……」ガチャ
ペガサス「ノー。ビールしかありまセーン」
ペガサス「ミス月詠。贅沢を言う訳ではありませんが、最高級のワインは置いてないんですか?
  あとゴルゴンゾーラ・チーズも」
小萌「世間一般ではそれはめちゃくちゃ贅沢言ってるですよ……。
 私はビールしか飲みませんし、チーズは……おつまみのチーかまくらいしかないのです」
ペガサス「オー、バッドニュースデース。ビールなんて口にできまセーン……」
125:
ペガサス「――アッハッハッハッハ! ビールもなかなかいけますネー! アッハッハッハッハ!」
小萌「でしょー?。ひっく。ドイツのビールとも違う、日本の誇る文化ですー。ひっく」
ペガサス「この『チーかま』とかいうのも悪くありまセーン! アッハッハッハッハ!」
上条「あーあー、二人ともすっかりできあがっちまって……」
インデックス「とうまー、それ食べないなら私にちょうだい」バクバク
上条「ダメだ! こんな高いもん、もう一生喰えないかもしれねえ。今喰えるだけ喰っとかないと……」
126:
ペガサス「一番、ペガサス・J・クロフォード! 腹踊りやりマース!」
小萌「やんややんやですー。ひっく」
インデックス「」モグモグ
ペガサス「当麻ボーイ! あなたも一緒にやりなサーイ!」
上条「ペガサスさん、酒癖悪かったんですね……ってくさっ! 酒くさっ!」
小萌「上条ちゃんの、ちょっといいとこ見てみたいー! です。ひっく。う……」
上条「ああ、小萌先生、そのへんでやめとかないと……」
インデックス「いただきますなんだよ」バクバク
上条「ああっ!? 俺のフグゥゥゥゥゥ!」
ペガサス「アッハッハッハッハ! アーッハッハッハ! イーッヒッヒッヒ! ウフフフフ……」
小萌「ひっく。うぷ。ちょっと、トイレ……。ひっく。おえ」
インデックス「」モグモグガツガツバクバクゴックンモグモグ…
上条「ふ、不幸だああああああああああ!」
※集合住宅で騒ぐのはやめましょう。他の部屋の住民にとって迷惑です。すごく迷惑です。
127:
インデックス「すー……。すー……」
小萌「くー……」
ペガサス「がーっ。ごーっ。ぴゅるるるるるる……」
上条「だー、もう。みんな世話の焼ける……」
上条「片づけたのも、布団を敷いてみんなを運んだのも、ついでに小萌先生の背中さすり続けたのも全部俺……」
上条「不幸だ……」ハァ
上条「……」チラ
ペガサス「ぐがーっ」
上条「……恋人や千年眼のことを話してたときはすごくシリアスだったのに……。ほんとに同一人物かぁ?」
上条「ふわ……。……俺ももう寝よ……」
上条「……ぐー……」
ペガサス「……」
128:
ペガサス(シンディア……)
ペガサス(たとえ魔術を使ったとしても、君を取り戻すことができないなんて……)
ペガサス(願いを叶えるという千年眼をもってしても、君に会えたのは一瞬だけだった)
ペガサス(君に会えるかもしれないと希望を抱き、それが叶わないと知り、絶望することの繰り返し……)
ペガサス(……悲しいよ。苦しいよ、シンディア……)
ペガサス(君を諦めれば、この苦しみから解放されるのだろうか……?)
ペガサス(それとも、たとえ諦めたとしても、苦しみは続くのだろうか……)
ペガサス(……自ら命を断とうとは思わない。そんなことをすれば君と同じ所には行けない気がする)
ペガサス(自殺はしない。……しないけれど……)
ペガサス(……こんなに辛いのなら……いっそのこと……)
140:
七月二十四日
インデックス「おっふろ。おっふろ」フンフン
ペガサス「ノー……。頭がまだガンガンしマース……」
上条「そりゃあれだけ飲めば二日酔いにもなりますって……。ただでさえ病み上がりなんですから。
 寝てた方がよかったんじゃないですか?」
ペガサス「そんな訳にはいきまセーン。ジャパニーズ・セントーには以前から興味があったのデース」
インデックス「コーヒー牛乳って何? カプチーノみたいなもの?」
上条「そんなエレガントなものはねえよ」
ペガサス「ワインは置いてありますかネ」
上条「だからねーって……いや、あんたまだ飲む気なのか!?」
142:
インデックス「とうま、とうま」
上条「なんだよ?」
インデックス「なんでもない。用が無いのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも」
ペガサス「……」
ペガサス「うう……。やっぱりちょっぴりきついデース……」
ペガサス「……少し休んでから追いかけますので、先に行っててくだサーイ」
インデックス「大丈夫? 傍についてようか?」
ペガサス「ドント・ウォーリーデース」
上条「無理はしないでくださいよ」
ペガサス「イエース。気をつけマース」
143:
ペガサス「やれやれ。気を遣うのも一苦労デース。恋のキューピッドも疲れますネー」
ペガサス「……」
シンディア『ペガサスッ』
ペガサス『なんだい、シンディア』
シンディア『ふふ、なんでもない。呼んでみただけ』
ペガサス『もう。からかわないでくれよ』
ペガサス「……」
144:
ペガサス「……そろそろ、行きましょうか」
ペガサス「……?」
ペガサス(なんだ……? 人の流れがどこか不自然なような……)
ペガサス「!」
ペガサス「あれは、『闇のゲーム』のフィールド……!?」
ペガサス「……いや、似ているけれど違う。では、あれは魔術――」
ペガサス「当麻ボーイ……。シスター・ガール!」ダッ
145:
ペガサス「……通行人はこの空間に近づかない……。異常にも気づかない。なるほど、そういう魔術ですか……」
ズズ……
ペガサス「気づいてさえいれば、入るのはイージーなようですネ……」
ペガサス「……周囲に貼られているのはマジシャン・ボーイのカード……」
ペガサス「シット! 水対策に加工してますネ。
  そもそも、これだけ広範囲にばら撒かれては全て破壊することはできませんが……」
「うるっせえんだよ、ド素人が!」
ペガサス「女の声……?」
146:
上条「――なんでそんなに、無能なんだよ……」ズル…
ペガサス「! 当麻ボーイ!」
刀を携えた女「……分断したはずですが……。まぁ、こちらとしては手間が省けて好都合です」
ペガサス「……! 『闇の――」
ヒュンッ ズガガガガ!
ペガサス(う!? 地面に無数の亀裂が……!)
刀を携えた女「神裂火織と申します。できれば魔法名は名乗らせないでください」
神裂「あなたの話はステイルから聞いています。心を読めることも、不可思議な技を使うことも……」
神裂「そのどちらも、瞬時に使えるものではないようですね。……一瞬あれば、私はあなたを七度殺せます」
キラッ
ペガサス「ワイヤー……!?」
神裂「……ここへ辿り着いたことといい、即座に七閃の正体に気づいたことといい……」
神裂「私も視力には自信がありますが、あなたも優れた眼力をお持ちのようです」
147:
ペガサス「……」
神裂「そう構えないでください。あなたと闘うつもりはありません」
神裂「目的はほぼ達しましたから」チラ
ペガサス(目的……。当麻ボーイが……?)
神裂「できれば、話だけで終わらせたいと思っています。あなたは大人で、この少年とは違うでしょうから」
神裂「敵の言葉を信じろと言う気はありません。向かってくるのもご自由に。ただしその場合は――」チャッ
ペガサス(……)
ペガサス(ワイヤーの使い手……。私のトゥーン・モンスターの苦手とする相手ですネ……)
ペガサス(それ以前に、彼女には隙がない。……何をするにしても彼女のワイヤーの方が早いでしょう)
ペガサス(……これだけの攻撃力があって当麻ボーイが原型を留めているということは、
  彼を殺すつもりはないようですネ……)
ペガサス「……オーケー、サムライ・ガール。サレンダー(降伏)しマース」
148:
ペガサス「ところでマジシャン・ボーイ。私が妙な動きをしたら背後から攻撃するつもりでしょうが……」
「!」
ペガサス「やめておきなサーイ……。そんなことをしたら死にますよ?」ゴゴゴゴゴ…
ペガサス「私が」
「……」
ステイル「喰えない男だ……」
149:
ペガサス「オー、額の『肉』の字は消えてしまったのですか……」
ステイル「……よくも油性でしっかりと書いてくれたね。完全に消えるまで、同僚は顔も見てくれなかったよ」
ペガサス「怒っているのですか? 心外デース。
  ガリガリなユーが筋肉モリモリマッチョマンになれるようにと、願いを込めて書いたのに……」
神裂「ぶふっ」
ステイル「」ジロリ
神裂「……」
150:
ステイル「この前は忠告をどーも。おかげで対策は万全だ。同じ手は通用しないよ」
ペガサス「どうでしょう? そっちのサムライ・ガールと違ってユーは隙だらけですからネー」
ステイル「……」
ステイル「……君はやたらと僕には辛口なような気がするけど、気のせいかな……」
ステイル「会うのはこれで二度目のはずだけど……何か気に障ることでもしたかい?」
ペガサス「……私はユーが許せまセーン」
ペガサス「そのヘアースタイル。そしてカード使いであること……」
ペガサス「私とキャラが被ってマース!」
ステイル「……は?」
151:
ステイル「待て。そのキャラがどうとかいうくだらない理由で、僕はあんな目に遭わされた訳か?」
ペガサス「くだらないとはなんですか! ギョーカイでは死活問題デース!」
ステイル「……何を言っているかわかるかい?」
神裂「いえ、まったく」
ペガサス「個性は大事という話デース!」
ステイル「……ん? じゃあ君のその変な喋り方も……」
ペガサス「芸風デース。こんな喋り方の外国人なんて普通はいまセーン」
ステイル「……僕はてっきりアレの同類かと思ってたんだが……」
ステイル「……まぁ、どっちもしょうもない理由であることに変わりはないな」
神裂「そろそろ大事な話をしたいのですが。よろしいですか」
231:
ペガサス「――ユーたちとシスター・ガールは同じ組織。完全記憶能力。15%だけの容量。一年周期で記憶の消去。
  ……消去しなければ、死……。そして三日後、ですか……」
神裂「疑うのでしたら、私の心を覗いてもらっても構いません」
ペガサス「……たしかに、嘘は言ってないようですネ」
神裂「あなた方が魔術師でないことも、背後に魔術組織がないことも、既に調べがついています」
神裂「三日後のリミットまで、インデックスをあなた方に預けても問題はないと判断します」
神裂「……いえ、むしろ好都合と言えるでしょう」
神裂「インデックスに『足枷』を嵌めることができたのですから」
ペガサス「!」
ペガサス(それで当麻ボーイを死なない程度に痛めつけたのですか……)
ペガサス(シスター・ガールは動けない当麻ボーイを置いて逃げることはしない。
  そんなことをすれば当麻ボーイに危害が及ぶかもしれないから……)
ペガサス(そして手負いの当麻ボーイはシスター・ガールを連れて逃げることができない。
  無理に逃げたところでシスター・ガールを守ることもできない……)
ペガサス(……監禁するよりもずっと効果的な、巧みな戦術デース)
155:
神裂「それでは……」
ステイル「……」
ペガサス「……私がユーたちの邪魔をするとは考えないのですか? 私がシスター・ガールを連れて逃げるとは?
  逆に私が当麻ボーイの傍にいることで、シスター・ガールを一人で逃がすこともできるのですが……」
神裂「言ったでしょう。あなたは大人で、この少年とは違うと……」
神裂「私たちにしかインデックスを救えないことは説明しました。
 ……若い正義感でリスクを負うような人間でないなら、どうすればいいかわかりきっているはずです」
ペガサス「……」
156:
フッ…
ペガサス(漂う違和感が消えた……。魔術を解いたのですネ……)
上条「」
ペガサス「……トムの負けデース……」
ペガサス「よいしょ」ガシッ
上条「……ぅ」
ペガサス「……よくがんばりましたネ。ゆっくり眠ってくだサーイ」
ペガサス「もう、何もかも終わってしまったのですから……」
ペガサス「……いえ、出会いも思い出も、全てがゼロに還るというなら……」
ペガサス「始まってすら、いなかったのかもしれませんネ……」
157:
ペガサス「ぜー……はー……ぜー……はー……」ズルズル…
上条「」ズルズル…
ペガサス「当麻、ボーイは、意外に、重いですネー……」
ペガサス「……昔は、カンバスを背負って、砂漠を歩いたりも、したんですけどネー……」
ペガサス「今はカードと……絵筆と……ナイフとフォークぐらいしか、持ちませんから、ネ……」
ペガサス「ふー……」
上条「」
ペガサス「……私が倒れたとき、当麻ボーイは私とシスター・ガールの二人を運んだ訳ですよネ……」
ペガサス「ユーのバカみたいな体力には開いた口がふさがりまセーン」
上条「」
ペガサス「……さて、もうひとふんばり、行きますか……」
158:
ペガサス「はぁ……はぁ……」
小萌「ペガサスさん? 何背負って……上条ちゃん!?」
ペガサス「オー、ミス月詠。地獄にゴッデスとはこのことデース。手伝ってくだサーイ」
小萌「な、何がなんだかわからないけど、わかったです」ガシッ
ペガサス「オー。ユーは見かけによらずパワフルですネー」
159:
小萌先生の部屋
ガチャ
インデックス「とうま? おかえ――」
小萌「そーっと、そーっとですよ」
ペガサス「わかってマース」
上条「」
インデックス「り……」
小萌「包帯……いえ、先におふとんを……」ドタバタ
ペガサス「ふぅー……」
インデックス「とうま……」
小萌「シスターちゃん、包帯巻くの手伝ってほしいですよ」
インデックス「わ、わかったんだよ」
160:
上条「」
小萌「……こんなもんで大丈夫ですかね? 本当なら病院に運んだ方がいい怪我だと思うんですけど……」
インデックス「……」
ペガサス「……」
小萌「……で、一体何があったんです……? やっぱり言えないようなことです?」
ペガサス「……三角関係のもつれデース」
小萌「ええー!? でもありえないと言い切れないのが、上条ちゃんの恐ろしいところです……」
161:
インデックス「……」
ペガサス「……自分を責めるのはやめなさい、シスター・ガール」
インデックス「……私は……とうまを助けられなかった……」
ペガサス「ユーの責任ではありません……。分断を狙われたということは、ユーも魔術師に襲われていたのでしょう?」
ペガサス「責められるとすれば私です。ユーたちが魔術師と闘っていたというのに、私は……」
ペガサス「私が動くのがもう少し早ければ、当麻ボーイがここまで傷つくこともなかった……」
インデックス「そんな! ペガサスはとうまを助けてくれたんだよ! 小萌と一緒にここまで運んで――」
ペガサス「ユーも当麻ボーイを助けました。包帯を巻いて、ずっと傍にいてあげてマース」
162:
インデックス「……」
ペガサス「オー、それでもユーが自身を責めると言うなら、私も私を罰ゲームするしかありまセーン。
  紙とペンないですか? 遺産のこととか書いておかないと……」
インデックス「わ! わ! 早まっちゃダメなんだよ! そんなことしてもとうまは喜ばないんだよ!」
ペガサス「……では、お互い自分を責めるのはここまでにしておきましょう」
インデックス「う……」
ペガサス「そんなに気を落としていてはユーも倒れてしまいマース。そうしたら誰が当麻ボーイを介抱するんですか?
  私はごめんデース。ベリーめんどくさいデース」
インデックス「うん、そうだね……」クスッ
インデックス(……とうま……)
ペガサス「……」
163:
ペガサス(……見たものを全て覚え、決して忘れない完全記憶能力……)
ペガサス(思い出は風化せず、いつまでも色褪せない……)
ペガサス(だが、思い出は時として人を苦しめる。それが鮮明であればあるほど……)
神裂『記憶の消去は、一年周期で行います』
ペガサス「……」
178:
七月二十五日
上条「」
インデックス「……」
ペガサス(当麻ボーイは目を覚まさない)
179:
七月二十六日
上条「」
インデックス「……」
ペガサス(当麻ボーイはまだ目覚めない……)
インデックス「……っ」
ペガサス「シスター・ガール……?」
インデックス「な、なんでもないんだよ」
ペガサス「……頭痛、ですか?」
インデックス「……」
ペガサス「無理をしてはいけません。ユーも少し休んで――」
インデックス「平気」
インデックス「……平気だよ」
ペガサス「……」
180:
七月二十七日
上条「ぅ……」
インデックス「!」
上条「……」
インデックス「とうま……?」
上条「……インデックス……」
181:
ペガサス「気分はいかがですか? 当麻ボーイ」
上条「ペガサスさん……。俺……」
ペガサス「頭は働きますか? あれから三日経ちましたが……」
上条「三日……!?」
上条(リミット……)
インデックス「どうしたの? とうま」
ペガサス「『まだ』、行われてはいません」
上条「……」
インデックス「? ?」
182:
コンコン
インデックス「こもえかな?」
ガチャ
小萌「上条ちゃん……それともペガサスさん? お客さんみたいですー」
ステイル「……」
神裂「……」
インデックス「……!」
上条「!」
ペガサス「……」
183:
インデックス「帰って」
インデックス「私ならなんでもするから、もうとうまを傷つけないで……っ!」
ステイル「……リミットは、今夜午前零時だ」
上条「……」
184:
インデックス「あ……」フラ…
上条「インデックス!」
小萌「は、早く寝かせてあげるですよ」
ペガサス「……無理もありません」
185:
上条「……」
上条「……なんで三日も寝ちまってたんだ、俺……」
ペガサス「あのサムライ・ガールがそう計算してダメージを与えたからでしょう」
ペガサス「……いえ、細かい計算なんてしてたかどうかはわかりまセーン。
  ユーが明日まで寝ていてくれた方が、彼らにとって都合がよかったでしょうし」
ペガサス「一つ言えることは彼らの実力、戦術……その総合力が、我々の上を行ったということデース」
上条「……なんでそんな他人事みたいに言えるんだよ……」
ペガサス「……」
186:
上条「そうだよ、あんただったら……。無傷で、『力』だって持ってるあんただったら!
 インデックスを連れて逃げることもできたじゃないか! なんだってまだこんな所にいるんだよ!?」
上条(……やつあたりだ)
上条(逃げたって意味がない。あいつらにインデックスを渡すしか、今は方法がないんだ)
上条(そんなことはわかりきってる。だけど……)
上条(だけど、こんなのあんまりじゃないか。
 神様の奇跡だって打ち消せる右手があって、反則的な力を使える人が味方で……)
上条(なんだってできそうなのに。不可能なんてないって思えるのに)
上条(……女の子一人救えず、待ってることしかできないなんて……)
小萌「上条ちゃん、言ってることはよくわかりませんが、ペガサスさんは上条ちゃんをずっと看てて――」
ペガサス「違います」
187:
小萌「ペガサスさん?」
ペガサス「ミス月詠。当麻ボーイと二人だけにしていただけますか」
小萌「え、でも……」
ペガサス「おねがいします」
小萌「……ケ、ケンカはダメですよ?」
小萌「先生、ちょっと時間潰してから銭湯に行ってきますから、帰りは遅くなるです」
ガチャ
バタン
上条「……」
ペガサス「……」
188:
ペガサス「……当麻ボーイ。私が動かなかったのはユーの看病のためではありません。
  ……動けないユーを守るためでもありません」
上条「じゃあ、何が目的で――」
ペガサス「目的はありません」
上条「……え?」
ペガサス「当麻ボーイ。今回の件、私は……」
ペガサス「私は、何もしないことに決めたのです」
189:
上条「何もしないって……」
ペガサス「シスター・ガールを救う別の方法を探すことも、試すこともしない」
ペガサス「全てを諦めて、魔術師にシスター・ガールを引き渡す……そう言っているのデース」
上条「な、なんで……」
ペガサス「ホワイ? それが一番確実じゃないですか。シスター・ガールの命は確実に助かりマース。
  それの何が悪いんですか。どこが気に喰わないんですか?」
上条「……だって、その方法は記憶を消さなくちゃならなくて、それをずっと繰り返して……」
上条「別の方法さえあれば……」
上条「……そうだ。あんたなら、あんたのカードの力があれば! 別の方法でインデックスを救えるんじゃないか!?」
ペガサス「……」
191:
上条「カードの内容を現実にする力……。あの力なら、できないことなんてないんだろ?」
上条「あいつの頭の中の魔道書を消すなり、完全記憶能力を奪うなり……。なんだよ、ずいぶんと簡単そうじゃねえか」
上条「カードはたくさんあるんだろ? 俺は詳しくないけど、カードを集めて闘うなら何百種類は下らないんじゃないか。
 それとも何千、何万か? とにかく、それだけあればインデックスなんて楽勝で救えるはずだ」
上条「そうだ、あんたそのカードゲームの生みの親じゃねえか。言わば神様、創造主だ!
 もし今あるカードじゃダメだったとしても、新しいカードを作ればいい! インデックス用の新しいカードをさ」
上条「そんな反則級の力が、万能の力があれば、女の子一人くらい簡単に――」
ペガサス「あれはお前が思うような万能の力なんかじゃないっ!」
192:
上条「……」
上条「ペガサスさ――」
ペガサス「このカードを見てください」スッ
上条「……輪付きの十字架……?」
ペガサス「『死者蘇生』のカードです」
上条「……」
ペガサス「あの力が本当に万能なら、私はとうの昔にシンディアを取り戻しています」
上条「……」
193:
ペガサス「当麻ボーイ。『闇のゲーム』によってカードを実体化させる力は……ユーが奇跡のように思ってる力は……」
ペガサス「あんなものは、ただのまやかしです」
上条「……」
ペガサス「ゲーム中はあたかも現実のように力を及ぼしますが、ゲームが終われば全ては元通り」
ペガサス「マジシャン・ボーイのルーンも、あの後元に戻っていたことでしょう」
194:
ペガサス「私にできることなんてネ、当麻ボーイ」
ペガサス「相手の心の闇を引きずり出し、罰を与えて精神を傷つける……たったそれだけなんですよ」
上条「……」
ペガサス「それが私の力の本質です」
ペガサス「女の子を助けるなんて、優しい力じゃないんです」
上条「……」
ペガサス「私に彼女は救えません」
上条「……」
195:
ペガサス「それに、たとえこの力が何かの役に立つとしても、やはり私は動かないでしょう」
上条「……どうしてですか」
ペガサス「魔術で記憶……思い出を奪う」
ペガサス「それが最良の方法だと思っているからです」
上条「……」
上条「何、言って……」
ペガサス「私は魔術の一端に触れ、魔術ではシンディアを取り戻せないことを理解しました」
ペガサス「そして、こう思ったのです」
196:
ペガサス「シンディアを諦めない限り、いつまでも苦しみは続く」
ペガサス「しかし、諦めたところで悲しみが癒される訳ではない」
ペガサス「そもそも諦めきれるものではないのかもしれない」
ペガサス「それならば、いっそのこと――」
――……こんなに辛いのなら……いっそのこと……――
ペガサス「シンディアのことを、忘れてしまいたいと……」
197:
ペガサス「……シンディアとの思い出の全てを、葬ってしまいたいと」
上条「……」
ペガサス「フフフ……。当麻ボーイ、私はネ……記憶を消去する話を聞いたとき……」
ペガサス「シスター・ガールが、羨ましかったんです」
上条「……」
ペガサス「魔法の力で、記憶をきれいさっぱり失くしてしまえるシスター・ガールのことが……」
ペガサス「どうしようもなく……羨ましかったんですよ……」
198:
ペガサス「いつか大切な人を失ったとき、思い出は人を苦しめます」
ペガサス「それなら、思い出なんて失くしてしまった方がいい」
ペガサス「だから私は魔術師の邪魔はしません。記憶消去の妨害は一切しません」
上条「……」
ペガサス「しかし、ユーは私の恩人です」
ペガサス「ユーが別の方法でシスター・ガールを救おうというなら、私にユーを邪魔する気はありません」
ペガサス「魔術師の邪魔はしない。ユーの邪魔もしない」
ペガサス「私は『何もしない』」
199:
上条「……」
上条「そうかよ」
上条「あんたは、全部投げ出して高みの見物を決めこむって言うんだな」
ペガサス「……」
上条「……俺は諦めない。絶対に別の方法を見つけ出して、インデックスを助けてみせる」
上条「さっきはあんたに全部押しつけようとして悪かった。もう二度とあんたを頼らない」
ペガサス「……」
上条「俺の邪魔をする気はないって言ったよな」
上条「じゃあここから出ていってくれ」
上条「邪魔だ」
200:
アパートの前
ペガサス「……」
ペガサス「まだミス月詠にお別れを言ってませんからネ」
ペガサス「せめてそれまではここで待たせてもらいマース」
ペガサス「……」
ペガサス(私は敵から憎悪を向けられるのが大好きなんですけどネー)
ペガサス(友人にそれをされると、かなりへこむものデース)
ペガサス(……いえ、よく考えたら友人でもなんでもありませんでしたかネ。私が勝手にそう言ってただけで……)
201:
ペガサス「日が沈みましたネ……」
ガチャ
上条「……」
ペガサス「当麻ボ――」
上条「……」ダッ
ペガサス「……行っちゃいました」
ペガサス(シスター・ガールを救える能力者を探しに行ったのか……。それとも研究機関でしょうか?)
ペガサス(どちらにしろ、あの顔ではなんのあてもないのでしょうけど……)
ペガサス(……走らずには、いられませんか)
203:
ペガサス「……」
ペガサス「!」
上条「はぁ……はぁ……っ」
ペガサス「当麻ボーイ……」
上条「……」
ガチャ
バタン
ペガサス(……心を読まずともわかります)
ペガサス(なんの成果もなかったんですネ……)
204:
ペガサス「……」
ペガサス「あれから結構経ちましたが……」
ペガサス「時刻は……オー、もうこんな時間ですか」
ペガサス「そういえば、ミス月詠の部屋には時計がありませんでしたネー」
ペガサス(……残り時間がこれだけでは、今から何をやっても……)
ペガサス「……GAME OVER、ですネ」
205:
小萌先生の部屋
ガチャ
ペガサス「……」
インデックス「」
上条「ちくしょう……。ちくしょうっ」
ペガサス「……」
上条「いや、まだだ。まだ……」
ペガサス「もうおやめなさい、当麻ボーイ」
上条「……」
206:
ペガサス「ユーはよくやりました。力の限りを尽くしました。ユーを責めることは誰にもできないでしょう」
上条「……」
ペガサス「ユーがこれ以上苦しむ必要はありません。シスター・ガールのことは、もう忘れなさい」
上条「……」
ペガサス「たしかユーたちは出会ってまだ一週間でしょう? それならきっとすぐに忘れられますよ」
上条「……」
ペガサス「……そもそも、出会ったことが間違いだったのかもしれません。
  科学と魔術……M&Wならともかく、普通、この二つは交わることはないのですから」
上条「……」
ペガサス「お互いに全てを忘れて、別の世界で生きていく……」
ペガサス「それが、ユーたちにとって一番幸せな生き方です」
上条「……っ」
ペガサス「? 当麻ボー――」
バキッ
207:
ペガサス「つ……」ツー
上条「……」
ペガサス「当麻、ボーイ……?」
上条「うるせえよ」
上条「うるせえんだよ! このオカマ野郎っ!」
210:
上条「何が『忘れた方が幸せデース』だ! 勝手なこと言ってんじゃねえ!」
上条「テメェが辛いからって勝手に自分を投影して、何が幸せで何が不幸かなんてテメェ一人で決めつけて、
 上からもの言ってんじゃねえよ!」
上条「誰がそんなもん望んだんだ? 昔のインデックスも、魔術師も、こんな方法採りたくなかったに決まってんだろ!」
上条「あいつらがどんな気持ちで……! あいつらが……っ」
上条「……違う」
上条「……俺は……あいつらのことを考えてる訳じゃない」
上条「俺は……。俺が……」
上条「俺が、インデックスに忘れてほしくねえんだ……」
上条「俺のことを忘れられるのが嫌なんだ……っ」
ペガサス「……」
214:
上条「俺だって、俺だって忘れたくねえんだ!」
上条「一週間でも、一日でも! 忘れられる訳ねえんだよ……!」
上条「……」
上条「もし、魔術や能力で記憶を消せるとしても……」
上条「あいつのことを全部忘れて、ヘラヘラ笑って楽しく生きられたとしても」
上条「……俺は、そんなものが『幸せ』だなんて思わない」
ペガサス「!」
上条「そんなものを『幸せ』なんて呼ぶんなら」
上条「俺は一生『不幸』なままでいい……」
上条「……あいつのことを忘れたくない……」
上条「このままさよならなんてしたくない……」
上条「したくないよ……」
215:
上条「……」
ペガサス「……」
ペガサス「……涙を」
ペガサス「涙を、拭いてください。当麻ボーイ」
上条「……」
ペガサス「ユーの言うとおりです。……私に、ユーたちの幸せを定義する資格はありません」
上条「ペガサスさん……?」
ペガサス「私は、私とシンディアをユーたちに重ねていました」
ペガサス「シスター・ガールに同じ悲しみを味わわせたくない……。
  記憶消去を邪魔しないのは、シスター・ガールのためのつもりでした」
ペガサス「でも本当は、ユーたちを見ているのが辛くて、自分が傷つくことが怖くて、
  逃げ出しただけだったのかもしれませんね」
ペガサス「……それと、ユーのおかげで一つ思い出しました。とても大切なことを」
上条「……?」
216:
ペガサス「シンディアを失って、私は悲しかった。苦しかった……」
ペガサス「それは今も変わりません」
ペガサス「そして、これからも私は彼女を思い、嘆くのでしょう」
ペガサス「永遠に彼女の幻影を追い続けるのかもしれません」
ペガサス「……でも、私は……」
ペガサス「それでも、私は……!」
ペガサス「シンディアと出会ったことを、不幸だなどと思ったことはない! ただの一度もです!」
ペガサス「……そして、この先も思うことは決してないでしょう」
ペガサス「思う訳、ないじゃないですか……」
上条「……」
217:
ペガサス「シンディア」
ペガサス「君に会えて幸せでした」
ペガサス「本当に幸せでした」
ペガサス「君がくれた大切なものを……思い出を、捨てたいなんて言ってすみません」
ペガサス「すみません……」
ペガサス「ごめん」
ペガサス「ごめんよ……」
218:
上条「……」
ペガサス「」グイッ
ペガサス「当麻ボーイ」
ペガサス「リミットまでの時間、別の方法を探してみましょう」
ペガサス「抗いましょう。今度は私も闘いマース」
上条「ペガサスさん!」
ペガサス「マジシャン・ボーイのときは、私が一人で楽しんでただけでした。
  サムライ・ガールのとき闘っていたのは、ユー一人だけでした」
ペガサス「今度は……今度こそ、一緒に」
ペガサス「ユーと私の最後の悪あがき……」
ペガサス「ファイナル・ターンです!」
236:
ペガサス「……」
上条「……」
ペガサス「とは言ったものの、どうすればいいんでしょうね。私は医学に詳しくはありませんし……」
上条「だよな……」
上条「……そういえば……」
上条「ペガサスさん、一度インデックスの記憶を覗いてたよな。どんな感じだった?
 やっぱり、大量の記憶ですし詰め状態だったとか……」
ペガサス「……マインド・スキャンではそこまでのことはわかりませんネー……。
  シスター・ガールの1年間の記憶がどれほどの量かもわかりませんし……」
237:
上条「……?」
上条「ペガサスさんは記憶も読めるんだよな?」
ペガサス「イエス。正確には心を、ですが」
上条「じゃあ、この1年間の記憶も……」
ペガサス「ああ、私は思い出は読めないんですよ」
上条「? どういう……?」
ペガサス「M&Wの話になりますが……決闘者はデッキを組むとき、
  カードの一枚一枚を無意識に記憶してしまうものなのデース」
ペガサス「そういう種類の記憶……知識と言った方がいいですネ。知識を読むことはできマース」
ペガサス「バット、レアカードが手に入った時の喜び。決闘で負けたときの悔しさ。
  そういった思い出を読むことはできまセーン」
ペガサス「ビコーズ、10万3000冊を読むことはできても、1年間の思い出を読むことはできないのデース」
238:
上条「読める記憶と読めない記憶……? なんでそんな区分が……」
ペガサス「さあ……今まで考えたこともありませんでしたが……」
ペガサス「収まっている場所が違うんじゃないですか?」
ペガサス「そんなことよりシスター・ガールを救う方法を考えましょう」
上条「……」
ペガサス「能力者は……当麻ボーイが散々探してダメでしたネ。研究所は……」
上条「……違う、場所……?」
ペガサス「当麻ボーイ?」
上条「10万3000冊が85%で、1年分の記憶が15%……合わせて100%……あれ?
 記憶が収まる場所に種類があるなら、その計算はおかしくねえか?」
239:
ペガサス「おかしくはないでしょう。一つの大きい箱だろうと、二つの小さい箱だろうと、
  合わせた中身の量は同じなのですから」
上条「いや、おかしい……。おかしいんだ……」
上条「インデックスは1年以上前のことは覚えてないって言ってた。でも生後1年の赤ん坊って訳じゃない。
 つまり、魔術で消すのは『思い出』だけで、『知識』はそのままのはずなんだ」
上条「10万3000冊は『知識』で85%。でも、この1年でインデックスが新しい『知識』を手に入れたら――」
――コーヒー牛乳って何? カプチーノみたいなもの?――
――そんなエレガントなものはねえよ――
上条「『銭湯にはコーヒー牛乳がある』。これは『知識』だ。『コーヒー牛乳はカプチーノではない』。……これも『知識』だ」
上条「こうやって積み重ねていったら、『知識』の容量は86%……90%って増えていくことになる」
ペガサス「その場合は、残りの容量が14%、10%と減っていくだけでは……」
上条「でも、あの女魔術師は……」
上条「記憶は『 き っ か り 一 年 周 期 』で消すと言った。
 『 早 す ぎ て も 遅 す ぎ て も 駄 目 』だとも。
 容量が変動するのに、なんでそんなことが言えるんだ……?」
240:
上条「15%だとか一年周期だとか、一体どうやって計算を……」
ペガサス「……!?」
ペガサス「1年分で容量の15%を埋めるということは……」
上条「?」
ペガサス「たとえフルに使えたとしても、完全記憶能力者の脳は、7年分の記憶でパンクする計算になりますネ」
上条「あ……」
241:
ペガサス「当麻ボーイ。私の父はラスベガスでカジノを経営しているのですが……」
ペガサス「父が一度ぼやいていたことがありました。サヴァン症候群患者が客として来たと」
上条「? サヴァ……?」
ペガサス「サヴァン症候群。……障害についての説明は省いて一例だけを挙げますが、
  膨大な量の本の一字一句まで記憶してしまう症状のことデース」
上条「それって……!」
ペガサス「イエス。同じとは言えませんが、シスター・ガールの完全記憶能力と近いものでしょう」
242:
ペガサス「多くのカジノゲームの勝敗は運と……またはカジノ側の操作で決まるのですが、
  ブラックジャックというゲームは、記憶力によっては勝率を上げることができるのデース」
ペガサス「もちろん、『記憶力に自信がある』程度の人間では、
  出てくるカードの全てを覚えて確率を計算する、なんてことは不可能ですが」
ペガサス「……そのサヴァンと同伴の男の二人組は、ブラックジャックで勝ちまくったようデース。
  カジノ側にとってはたまったものではないので、出入り禁止を命じたと話していました」
上条「そのサヴァンの人は……」
ペガサス「もちろん大人デース。カジノは未成年のギャンブルを許可していませんからネ」
243:
上条「……」
ペガサス「……」
上条「記憶の容量の話はでたらめ」
ペガサス「7年しか記憶できないなんてことはない」
上条「あの女は嘘を言っているようには……」
ペガサス「言ってませんでした」
上条「じゃあ、一体誰が……」
ペガサス「それに、現にシスター・ガールは苦しんで……」
上条「……」
ペガサス「……」
上条・ペガサス「「やられた」」
244:
上条「そうだよ。教会が……上司があいつらに嘘を言ってるとしたら……」
ペガサス「ノープロブレムなはずのシスター・ガールの脳に、細工をしたなら……」
上条「全部辻褄が合うじゃねえか」
ペガサス「教会にとってはその方が好都合ですからネ」
上条「人の心を計算に入れた悪魔のプログラム……」
ペガサス「実に狡猾。こんなときでもなければ賞賛したいほどデース」
上条「魔術による小細工なら――」
ペガサス「当麻ボーイの右手でキャンセルできマース!」
245:
ジリリリリリリン
上条「!」
ジリリリリリリン ジリリリリリリ――ガチャ
神裂『私です……と言って、伝わり――』
上条「遅すぎるんだよ! このノロマ魔術師!」
神裂『?』
上条「近くにいるならさっさと来い! テメェらの見せ場、全部横取りしちまうぞ!」
神裂『? ? 何を――』
上条「記憶なんて消さなくても、別の方法でインデックスを助けられるって言ってんだよ!」
神裂『』
神裂『ま、待ちなさい。何をするつもりか知りませんが、ヒーロー気取りで早まった真似は――』
ガチャン!
上条「……ヒーロー気取り、じゃねえ」シュル…
上条「ヒーローに、なるんだ!」
246:
インデックス「」
上条「……」ペタ
シーン…
上条「……あれ?」
ペガサス「……そう簡単に触れるような所に細工をするはずもありませんか」
上条「じゃあ、まだ触れてない所……」
インデックス「」
上条「……」
ペガサス「……当麻ボーイ。エッチなこと考えてますネ?」
上条「なっ!?」
ペガサス「こんな非常時にユーというボーイは……。むっつりスケベですネー」
上条「ちが、違うぞ。そんなつもりは――」
ペガサス「喉の奥」
ペガサス「文字が刻まれています。おそらくそれでしょう」
247:
インデックス「」
上条「……」ヌル…
ペガサス「……」
バキン!
上条「がっ……!?」
ペガサス「当麻ボーイ!」
上条「大丈夫……。傷が開いただけ――」
上条「あ……」
インデックス?「……」ユラ…
ペガサス「……シスター・ガー――」
ドゴン
248:
上条(すごい衝撃で……吹っ飛ばされた……)
ペガサス「……っ」
上条「ペガサス、さん……」ググッ…
ペガサス「ノー、プロブレム、デース……」フラフラ
自動書記「警告。『首輪』の全結界の貫通を確認。再生準備。……失敗。
  『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」
ペガサス「シスター・ガール……? いや、これは……」
ペガサス「もう一つの心(アナザーマインド)……!?」
304:
自動書記「――これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊します」
バキン!
ペガサス(空間に黒い亀裂が……)
神裂「――そこまでです!」
ステイル「あの子の体をいじらせはしな――」
神裂「……」
ステイル「……」
ステイル「なんだ。これは」
250:
自動書記「……」
ペガサス「! 当麻ボーイ! 何か来ます!」
ゴォッ!
上条「!? ぐっ……!」バチチチチチ…
上条(なんだ、この光の柱……)
上条(右手でも完全に消えない……?)
上条(それどころか、押されてる……!)
ペガサス「バ、バースト・ストリーム!?」
251:
神裂「『竜王の殺息』……!? なんで、あの子が魔術を……」
上条「く……。そんなの、見りゃわかるだろうが!」
上条「教会がおまえらに嘘ついてたんだよっ!」
上条「記憶を消さなきゃインデックスが助からないってのも大嘘だ!」
上条「こいつの脳を圧迫してる教会の魔術を消しちまえば、記憶を消す必要なんてねえんだよ!」
ペガサス「……あんなどす黒いものを10万3000も、ガールの小さな頭にぶち込むような組織です。
  シスター・ガールに保険をかけ、ユーたちを騙すくらい、平然とやってのけるとは思いませんか?」
神裂「……!」
ステイル「……っ」
252:
ペガサス「……シスター・ガール――いえ、マシーン・ガール」
自動書記「……」
ペガサス「ユーには感謝していマース。本物でないとはいえ、シンディアに会わせてくれたのですから」
ペガサス「バット」
ペガサス「私はユーと敵対しマース。……当麻ボーイとシスター・ガールには、幸せになってほしいのです」
ペガサス「……この私の目の前で……」
ペガサス「愛する二人が引き裂かれるなんて、バッドエンドは許しまセーン!」
ペガサス「『闇の決闘(ゲーム)』の始まりデース!」
253:
ゴゴゴゴゴ…
自動書記「……」
ペガサス「場にカードを1枚伏せ、『トゥーン・アリゲーター』を守備表示で召喚しマース!」ドン☆
神裂「トカゲ……いや、ワニ……?」
自動書記「……『書庫』内の10万3000冊により、戦場に展開された魔術の術式を逆算。……失敗。
  該当する魔術は発見できず」
自動書記「続いて、ワニと思しき生物を召喚した魔術の術式を逆算。……。
  エジプトの精霊使役魔術と推測しますが、特定できず」
ペガサス「当たらずとも遠からず、ですネ。いい線いってマース」
ペガサス「……かわいい外見に油断してると、痛い目を見ますよー?」
自動書記「……」
255:
自動書記「……攻撃目標を『上条当麻』から、不確定要素が大きい敵兵、『ペガサス・J・クロフォード』へと変更します」
上条「な……」
ペガサス「ワッツ!? わ、私ですか!?」
自動書記「」ブン
ゴォッ!
上条「ペガサスさん!」
ペガサス「――かかりましたネ」
ペガサス「リバース・カード、オープン! 『魔法解除』!」ドン☆
256:
ペガサス「このカードでユーの魔術を打ち消――」
ジュッ…!
ペガサス「!?」
ペガサス(『魔法解除』が燃え尽きた……?)
トゥーン・アリゲーター「――!」パキーン
ゴォッ!
ペガサス(光が、守備表示の『トゥーン・アリゲーター』を 貫 い て 、そのまま私に……!)
上条(間に合え……!)
ビキッ…!
上条「ぐ、あ……っ!」
ペガサス「と、当麻ボーイ……」
ペガサス(当麻ボーイから注意を逸らすつもりが、逆に余計なダメージを……)
257:
ペガサス「……」
ペガサス(どうして相手の魔法を打ち消す『魔法解除』が、一瞬で灰に……)
ペガサス(……そうか。所詮M&Wのカードは、魔術を参考にして作ったただの模造品……)
ペガサス(『闇』の力を借りたところで、本物の魔術と正面からぶつかり合えば……)
ペガサス(偽物が敗れるのは自明の理、ということですか)
ペガサス(……やはり、私の力では――)
ステイル「Fortis931!」
ペガサス「!」
ペガサス(マジシャン・ボーイのカードが部屋一面に……)
ステイル「なんだその様は」
ステイル「それが僕を散々コケにした男の顔かっ」
ペガサス「……」
258:
ステイル「……曖昧な可能性なんて、いらない」
ペガサス「?」
ステイル「あの子の記憶を消せば、とりあえず命だけは助けられる。僕はそのためなら誰でも殺す。いくらでも壊す!」
ステイル「そう決めたんだ……。ずっと、前に……」
ステイル「……ずっと」
ステイル「ずっと、探していた。あの子の記憶を奪わなくて済む……あの子の笑顔を消さなくて済む!
  ……そんな『魔法』みたいな方法を、僕は、ずっと探していたんだ」
ステイル「あの子を助けたい」
ステイル「――力を貸せ、決闘者!」
259:
ペガサス「マジシャン・ボーイ……」
神裂「Salvare000!」
ヒュンッ ズババッ!
自動書記「」グラッ
ゴォッ…
上条(ワイヤーで畳を剥がしてバランスを崩した……。光の柱が空に逸れた!)
フワッ…
上条「羽……?」
神裂「その一枚一枚が殺傷力を秘めています! 決して触れないように!」
ペガサス「サムライ・ガール……」
260:
ペガサス(……そうだ。1枚でダメだったら2枚で……)
ペガサス(2枚で足りないなら3枚で、4枚で……!)
ペガサス(それでもダメならデッキのカードを総動員して!)
ペガサス(弱い所を補い、長所を活かす!)
ペガサス(それがコンボ)
ペガサス(それがM&W!)
ペガサス「……私の、生み出した、カードゲームは……っ」
自動書記「」グリンッ
上条(光がまた来る……!)
ペガサス「世界最高のゲームですっ!」
261:
ペガサス「『光の護封剣』!」ドン☆
バキッ バキバキッ!
ペガサス(相手の攻撃を3ターン封じる『光の護封剣』が、数秒も持たない……!?)
ペガサス(……いや、それでもいい)
ペガサス(1秒でも時間を稼げるなら、それでいい!)
ペガサス「当麻ボーイ! ユーのターンです!」
上条「おうっ!」ダッ
262:
上条(もう一度インデックスに触れれば、あいつを救える……!)
上条(!?)
上条「ぎっ……!」ガクッ
ペガサス「当麻ボーイ!?」
上条(……体に、力が入らない……っ)
ペガサス(! 私を庇ったときのダメージ……!)
バキン!
ペガサス「『光の護封剣』が……っ」
ゴォッ!
ステイル「『魔女狩りの王』!」
263:
ペガサス(光を受けとめた……。これでしばらくは――)
自動書記「――炎の魔術の術式の逆算に成功しました」
ステイル「!?」
自動書記「――『神よ、何故私を見捨てたのですか』」
シュウウウウ…
ステイル「く……!」
ペガサス(『魔女狩りの王』が、どんどん小さく……)
264:
上条「はぁ……っ。はぁ……!」ガクガク
上条(もう少しなのに……! あと少しで届くのに!)
シュウウ…
ステイル「『魔女狩りの王』! 『魔女狩りの王』ッ! くそぉっ!」
自動書記「炎の魔術の破壊に成功」
自動書記「現状、最も接近している敵兵――」
自動書記「『上条当麻』を破壊します」
上条「……っ」
ペガサス「幻想モンスター、『幻想師(イリュージョニスト)・ノー・フェイス』ッ!」ドン☆
305:
上条(俺とインデックスの間に……)
ステイル「人形……!? 盾にするつもりか!」
神裂「でもっ、さっきのワニは簡単に貫かれて――」
ペガサス「 さ ら に ! 」
ペガサス「幻想カード! 『幻惑の眼』を加え!」バン☆
ペガサス「マシーン・ガールにコンボ 攻 撃 をしかけマース!」
ペガサス「バトル! 幻想術――『幻惑の眼』!」
キィィィィン…
神裂「インデックスに眼のマークが……」
ペガサス「『幻惑の眼』は幻想モンスターと組み合わせて使うカード。その効果は……」
ペガサス「相手のコントロールを1ターン奪う!」
自動書記「……っ」
ペガサス「……所詮偽物の魔術。コントロールまでは奪えないようですが……」
ペガサス「一瞬混乱させる……それぐらいの効果はあったみたいですネ」
266:
自動書記「干渉してきた魔術の術式を逆算……いえ、戦場の確認を優先します……」
自動書記「……戦場を確認……。……『上条当麻』をロスト。戦場の検索を開始。……失敗」
幻想師・ノー・フェイス「」
上条(目の前にモンスター……。背中に遮られて向こう側が見えないけど……)
自動書記「戦場を検索……。……失敗。……『上条当麻』を確認できません」
ペガサス「当麻ボーイ」
ペガサス「『見えないけど見える』……。そうですネ?」
上条(『こいつ』の向こうに、インデックスがいる!)
上条(足は動く。……動くっ!)グッ
ペガサス「行きなさい、当麻ボーイ」
ペガサス「まっすぐ。『最短距離』です」
267:
上条(神様)
上条(この世界が、あんたの作ったシステムの通りに動いてるってんなら……)
上条(まずは、その幻想を……!)
ペガサス「目の前の『幻想』ごと!」
上条「ぶち殺す!」
幻想師・ノー・フェイス「」パキーン
自動書記(目前の人形の腹部を突き破って……。右手。『上条当麻』。死角。迎撃。間に合いませ――)
パシッ…
自動書記「」
上条「……」
自動書記「……警、告。『首、輪』。致命的な、破壊。……再生……。……不……可……――」
インデックス「」
268:
上条「……」
インデックス「」
上条(……届いた)
上条(これで……)
ステイル「――!」
神裂「――!」
上条(? 何を叫んで――)
神裂「上――!」
上条「あ」
フワッ…
上条(羽、が)
上条(あんなに、たくさん……)
――その一枚一枚が殺傷力を秘めています! 決して触れないように!――
269:
上条「……」
上条(右手は……ダメだ)
インデックス「」
上条(インデックスを、守らなきゃ)
上条「……」
上条(……自由に使えるのは左手だけ……)
上条(なんの力もない左手だけ)
上条(異能の力を打ち消せない、左手だけ)
上条「……」
270:
ステイル「……」
神裂「……」
上条「……死ぬかと思った……」
ステイル「空間に渦が現れて、羽が、消えた……」
神裂「左手に……カード」
ペガサス「『攻撃の無力化』」
ペガサス「本流じゃなくて余波ぐらいなら、なんとか消せたみたいですネー」
上条「……ペガサスさん」
ペガサス「言ったでしょ?」
ペガサス「ラッキー・カードだって」
271:
上条「……」
ペガサス「おや? ここは勝利の雄叫びの一つでも上げる場面なんですけどネー」
上条「えっと……」
ペガサス「……実感が湧きませんか。無理もありまセーン」
ペガサス「戦利品のプリンセスが、まだ目覚めてくれないんですから」
インデックス「」
上条「……」
ペガサス「……では、こうしましょう」
ペガサス「敗者が受ける罰ゲーム。マシーン・ガールは当麻ボーイがやっつけちゃいましたから、
  代わりにシスター・ガールに受けてもらいマース」
ペガサス「オー、ドント・ウォーリー! 危険でないように、ベリー・ベリー・レベルを下げますから」
ペガサス「そう。心にちょっと声をかける……それくらいのレベルです」
ペガサス「……罰ゲーム……」
272:
インデックス「」
インデックス「……ん……」
上条「!」
インデックス「……」
インデックス「とう、ま……」
上条「……」
上条「インデックス」
上条「俺のこと、わかるんだな」
インデックス「? 当たり前なんだよ。とうまはとうまだもの」
上条「……」
インデックス「……とうま、どうして泣いてるの?」
上条「……っ」
273:
インデックス「とう――」
ギュッ
インデックス「……」
上条「インデックス」
インデックス「……うん」
上条「インデックス。インデックス……インデックス、インデックス……ッ」
インデックス「うん。……うん」
274:
ギュウウウウ…!
インデックス「……とうま。ちょっと痛いかも」
上条「俺の方がっ、俺の方が痛いわ! 全身の骨がバラバラになりそうなんだぞっ」グスッ
インデックス「むー。そういうの逆ギレっていうんだよ。泣いたり怒ったり、とうまって情緒不安定。……思春期ちゃん?」
上条「幼児体型が言わせておけば……!」
ペガサス「オー、締まりませんネー」
インデックス「ペガサス」
ペガサス「グッドモーニング、シスター・ガール。……モーニングって時間じゃないですけどネー」
275:
ペガサス「さて、プリンセス……シスター・ガールは目覚め」
ペガサス「当麻ボーイも無事」
上条「だから、無事じゃねえ……」
ペガサス「細かいことは気にしないでおきましょう」
ペガサス「なんにせよ、この決闘――」
ペガサス「当麻の勝ちデース!」
上条「当麻だよっ!」
ペガサス「合ってるでしょう?」
276:
上条「……ったく」
インデックス「とうま、とうま」
上条「あん?」
インデックス「おなかへった」グキュルルル…
上条「……」
インデックス「ごはんを食べさせてくれると、うれしいな」
上条「……なんだ、このデジャヴは……」
277:
インデックス「頭痛がなくなったら急に食欲が湧いてきたんだよ」
上条「こんなボロボロの俺にたかるつもりか、おまえは!」
インデックス「それだけ叫べるなら全然平気なんだよ」
上条「じゃあ、それだけ喋れるなら空腹だって平気だろと言ってやる!」
神裂「……終わった……のでしょうか?」
ステイル「……僕に訊くな」
ペガサス「……」
278:
ペガサス(……終わりでは、ないんでしょうね……)
ペガサス(若い二人はこれから色々なことを経験するのでしょう。
  ……魔術という危うい世界に関わっているなら、なおさらのことです)
ペガサス(出会っていなければ起こらなかった……そんな悲しみや苦しみも降りかかるのかもしれません)
ペガサス(そして、どんな形であれ、別れはいつか必ず訪れる……)
ペガサス(……ですが……)
ペガサス「……」スッ
神裂「?」
神裂(女性が描かれたカード……)
ペガサス「これでよかったんだよね、シンディア」
七月二十七日終了
現在時刻――七月二十八日午前零時
307:
上条「――飯の話は置いとくとして……」
インデックス「置いとかないでほしいかも」
上条「置いとくとして」
上条「……」
上条「今日どこで寝よう……。それ以前に小萌先生になんて説明すれば……」
ボロッ…
上条(家具が散乱。畳は粉々。天井に大穴……ああ、夜空が見えてロマンチック)
ペガサス「現実逃避してる場合ではありまセーン」
ペガサス「……そうですネ。もうこそこそ隠れる必要はない訳ですから……」チラ
ステイル「……」
神裂「……」
ペガサス「当麻ボーイの部屋に、帰ることにしましょうか」
308:
上条「でも小萌先生が……」
ペガサス「ノープロブレム。書き置きしておきマース」カキカキ
ペガサス「えーと……ここに置いとけば気づいてくれますよネ?」ポン
上条(? 紙が2枚?)
ペガサス「それでは行きましょうか」
上条「ああ――あ?」ガクッ
インデックス「とうま!?」
上条「あ、あれ……? 足が……」
ペガサス「……あれだけのことをした後なら当然……いや、ようやくと言うべきでしょう」
ペガサス「しかし困りましたネー。私一人で当麻ボーイを運ぶとなると骨デース」
ペガサス「……」チラッ
ステイル「?」
ペガサス「……」チラッ チラッ
ステイル「……」
309:
ステイル「どうして僕がこんなことを……」ガシッ
上条「はは、悪いな」
ステイル「勘違いするなよ。君をここに置いていては、あの子もここから動かないだろうから、しかたなく、だ」
ステイル「ほら決闘者。君だけ楽をするんじゃない」
ペガサス「わかってマース」ガシッ
インデックス「? ? どうして魔術師と仲良しなの?」
ステイル「……仲良しなんかじゃない」ボソッ
神裂「……そうですね。歩きながら話しましょうか」
神裂「話さなくてはならないことが、たくさんありますから」
310:
神裂「――」
インデックス「――!? ――!」
神裂「――」
神裂「――」
インデックス「――」
神裂「――」
インデックス「――?」
神裂「――」
ステイル「……」
ペガサス(……事務的な口調ですけど、口もとが柔らかくなってますネー)
311:
とある学生寮
ステイル「……ほら、着いたぞ。ここまで来れば助けはいらないな?」スルッ
上条「ああ。……ありがとうな」
ステイル「よしてくれ。気色悪い」
インデックス「――実は同じ『必要悪の教会』所属だとか、一年周期で記憶を消してきたとか、
   とうまやペガサスが助けてくれたとか……。そんなこと言われても困るんだよ……」
神裂「……無理もありませんね。少し前まで敵だったんですから」
神裂「今さら遅いでしょうけど……あなたの背中を斬ってしまったことを、謝らせてください」ペコ
インデックス「い、いいんだよ。もう気にしてないから……」
ステイル「……少し、調べさせてもらうよ」
インデックス「……?」
ステイル「そう身構えなくてもいい。君の体が本当に問題ないか、簡単な確認をするだけさ」
312:
ステイル「――問題はなさそうだね」
インデックス「……」
ステイル「じゃあ僕たちは失礼させてもらうよ。確かめなくちゃならないことが山積みだからね」
神裂「……」
インデックス「……あ、あのっ」
ステイル「……」
神裂「……なんでしょうか」
インデックス「……」
インデックス「私たちは……友達、だったりしたのかな……」
ステイル「……」
神裂「……」
313:
銀髪の少女『私の名前はね、インデックスっていうんだよ』
ステイル「……」
インデックス『スーテーイールー?』
ステイル『謝る! 謝るから、噛みつくのはやめ――いでででで!』
ステイル「……」
314:
インデックス『思い出、いっぱい作ろうね。私と、かおりとステイルの三人で、いっぱい』
インデックス『日記も書いてるし、写真もいっぱい撮ったんだよ。……もしかしたら、覚えていられるかも……』
神裂「……」
神裂『覚えていますか? これは降誕祭のときの……。こっちは復活祭……』
インデックス『……ごめんなさい……』
神裂『……そう、ですか……』
インデックス『ごめんなさい……』
神裂「……」
315:
ステイル『たとえ君は全て忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに――』
ステイル「……」
ステイル『君のために生きて死ぬ』
ステイル「いや」
ステイル「同じ組織に所属してるから、何度か顔を合わせたことがある……それぐらいだったかな?」
神裂「……ええ。その通りです」
上条「……」
ペガサス「……」
インデックス「……そっか」
316:
上条の部屋
上条「……なんだか、もう何年も帰ってなかったみたいに感じるよ」
ペガサス「それはもう色々ありましたからネー」
上条「……」
ペガサス「? 当麻ボーイ?」
上条「ぐー……」
ペガサス「……本当におつかれさまデース」
317:
ペガサス「よい、しょ……」
上条「ぐー……」
ペガサス「シスター・ガール。ユーはどこで寝ます?」
インデックス「すー……」
ペガサス「オー、既にスリーピングでしたか」
ペガサス「……」
上条「ぐー……」
インデックス「すー……」
ペガサス「フフフ、微笑ましいですネー」
318:
ペガサス「さて、私は……」
ペガサス「……」ゴソゴソ
ペガサス「……」ゴソゴソ
ペガサス「オーノー! いくら探してもふとんがありまセーン!」
ペガサス「わ、私もベッドで――」
上条「ぐー……」
インデックス「すー……」
ペガサス「……」
ペガサス「……床で寝ますか。はぁ……。大人は辛いデース」
ペガサス「よっこらせ」ゴロン
ペガサス「私だってベリー疲れてるんですよー?」
ペガサス「『闇のゲーム』って……すっごく、精神力使うんですから……」
ペガサス「……ぐがーっ」
319:
小萌先生の部屋
小萌「……」
小萌「……銭湯からいい気分で帰ってきたら……」
小萌「なんですかこれー!」
ボローン
小萌「なんで色々散らばってるんですか!? 畳までボロボロじゃないですか!
 天井に穴まで開いて……ああ、夜空が見えてロマンチック」
小萌「……って現実逃避してる場合じゃないですよ……」
小萌「うぅ……。これ修理代は自費でとか言われないですよねぇ……?」
小萌「……ん?」
小萌「なんです? ……手紙?」ピラッ
320:
『ディア・月詠小萌。ペガサス・J・クロフォードより』
『ミス月詠が出かけた後、急に花火がやりたくなったんデース。夏の風物詩と聞いてますからネー。
ところが、うっかり部屋の中で火が付いてしまいこんなことになってしまいました……。アイム・ソーリー』
小萌「は、花火でこの惨状はちょっと無理があるですよ……」
『部屋の修理代と、1週間も泊めてくださったことへの謝礼デース。正当な金額ですので、受け取ってくだサーイ』
小萌「……これ、小切手ですよね」
小萌「……」
小萌「」
小萌「ゼ、ゼロがこんなにたくさん……たくさん……あわわわわ」
『P.S. ユーと飲むビールはベリー美味しかったデース。また飲みましょう。今度は私が美味しいワインを持参しマース』
321:

ピンポーン
上条「……ん……」
ピンポーン
上条「チャイ、ム……?」
インデックス「すー……」
上条「」
322:
上条(何故。何故目の前にインデックスの顔が……)
上条(一つのベッドに向かい合わせで……。なんで。どうして)
上条(……ペガサスさんたちの肩を借りて部屋まで帰って……その後の記憶がない)
上条(何? 俺インデックスに何しちゃったの? ねえ)
ピンポーン
上条「……はっ。固まってる場合じゃねえ」
ペガサス「……んー……なんですか? うるさいですネー……」ムニャムニャ
上条「止めてくるよ」
323:
上条「はいはいはい今出ますよ……」ガチャ
「おっはよう、カミやーん!」
上条「なんだおまえか……」
「せっかく届け物持ってきたのに、その態度は失礼なんじゃないかにゃー?」
上条「届け物?」
「手紙だにゃー。落ちてたのを拾ってみたらカミやん宛だったから、わざわざ届けに来てやったんだぜい」
「見たところ、郵便受けまで行って帰ってくるのも辛そうな大怪我してるみたいだし? 礼の一つぐらいくれても――」
上条「そうか。ありがとな。それじゃ」
バタン
「……」
「カ、カミやーん!? あんまりだにゃー!」
324:
インデックス「おはよう、とうま」
上条「ああ、起きちまったか」
インデックス「う、うん。話し声が大きくてね。今、今起きたばっかりなんだよ」モジモジ
上条「?」
ペガサス「どちらさまでした?」
上条「隣人だよ。手紙拾ったってさ」
インデックス「手紙?」
上条「ああ、差出人は……」
上条「スティ……。スタイ? ……えっと……」
インデックス「貸して」
インデックス「……ステイル=マグヌス」
325:
ペガサス「……」
上条「ステイルから?」
インデックス「……なーんか怪しいかも。私も一緒に読むんだよ」
上条「……まぁ、別にいいけどな。えー――」
『挨拶は無駄なので省かせてもらうよ――』
326:
『――P.S. この手紙は読み終わると同時に爆発するようにしておいた』
パンッ
上条「うわっ!?」
インデックス「きゃっ!」
上条「あっぶねえなぁ……」
インデックス「びっくりしたー……」
上条「ペガサスさんは平気か?」
上条「……あれ?」
インデックス「ペガサス……?」キョロキョロ
327:
とある学生寮前
ステイル「……そろそろ、行こうか」
神裂「ええ……」
ペガサス「オー! 犯人は現場に戻るというのは本当のことだったんですネー!」
ステイル「……」
ペガサス「そ、そんなあからさまに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないですか。へこみマース……」
328:
ペガサス「シスター・ガールには会っていかないんですか? ユーたちは仲間だったんでしょう?」
ステイル「……会いに行ったところで何になる」
ステイル「あの子にとって僕たちは、『1年間自分を追いまわした魔術師AとB』だ。
  敵でないことは説明したが、だからといってあの子を傷つけた事実が消える訳じゃない」
神裂「……私たちの関係を話したところで、あの子は自分を責めるだけです。『覚えていなくてごめんなさい』、と。
 ……あの子は何一つ悪くないのに……」
神裂「それは も う 経 験 し ま し た 。……二度はごめんです」
ペガサス「……」
329:
ペガサス「……本当に、何も覚えてないんでしょうか」
ステイル「?」
ペガサス「人格は思い出によって育てられるものデース。
  ……彼女の優しさが聖書の知識だけで作られたものだとは、私には思えないのです」
ペガサス「思い出を全て忘れてしまったら、性格も変わってしまうと思いますが……」
ペガサス「彼女はどうですか? ユーたちの知らないシスター・ガールでしょうか。それとも……」
ステイル「……」
神裂「……」
330:
ステイル「……あの子の記憶は消した。 他 の 誰 で も な い 僕 た ち が 殺 し 尽 く し た 」
ステイル「それなのに、一体どこに思い出が残ってるって?」
ペガサス「オフコース。それはもちろん……」
ペガサス「心(マインド)に、じゃないですか?」
331:
ステイル「……」
神裂「……」
ペガサス「シスター・ガールはきっと覚えていますよ」
ペガサス「思い出は脳にではなく、心に刻まれるものだと……そう私は信じていマース」
ステイル「……」
ステイル「……ふん。言いたいことはもう終わりかい? それなら、僕たちは帰らせてもらうよ」
ペガサス「オー、せっかちはいけまセーン」
スッ
ステイル「……なんだ、その手は」
ペガサス「握手ですよ。ハンドシェイク。イギリス紳士なら当然の嗜みでしょう?」
ペガサス「……誰かと肩を並べて闘うのは、得難い良い経験でした。
  力を結束するというのも、なかなか気持ちのいいものですネ」
332:
ステイル「……」
ペガサス「」ニコニコ
ステイル「……今回限りだ……」スッ
パシッ
グニッ
ステイル「?」
モゾモゾ
ステイル「うわっ!? けむっ、毛虫!?」ドテッ
ステイル「……」
ステイル「おもちゃ……」
ペガサス「ハハハハハ! ジョーク! イッツァジョークネ! ハハハハハ!」
ステイル「こ、の、や、ろ、ぉ……っ」
ペガサス「そういう顔の方が、ボーイらしいと思いますよ。哀しそうな顔をしてるより、ずっといい」
333:
ステイル「……っ!」
ペガサス「サムライ・ガールも」スッ
神裂「ええ」パシッ
ステイル「話を進めるんじゃないっ!」
ペガサス「オー、まだしりもちついてたんですか。手を貸しましょうか?」
ステイル「一人で立てる!」スック
ペガサス「ええ、そうでしょうとも。ユーは私が知る誰よりも強いボーイですから」
ステイル「くっ……」
ステイル「行くぞ神裂っ」スタスタ
神裂「……」
神裂「……」クルッ
ペガサス「?」
神裂(ありがとう)ペコッ
ペガサス「……ユア・ウェルカム」
334:
ペガサス「オー、マジシャン・ボーイ! 一つ言い忘れてました! とっても大事なことデース!」
ステイル「?」ピタッ
ペガサス「心機一転、イメチェンしてみてはどうですかー? ヘアースタイル変えてみるとかー!」
ステイル「それは君の個人的な願望だろうがっ!」
335:
ペガサス「……行っちゃいましたネー……」
「ペガサスー!」
ペガサス「?」
インデックス「ペガサス!」タッタッタッ
ペガサス「オー、シスター・ガール。どうし――」
ドカッ
ペガサス「どぅふっ!?」ドサァ
インデックス「ひどいんだよ! 何も言わずに帰ろうとしちゃうなんて!」ポカポカ
ペガサス「ち、ちが。マジシャン・ボーイと、サムライ・ガール、を、みおく。げふっ」
インデックス「? どうしたの?」
ペガサス「ガールの、タックルが、ダイレクトアタック……」
上条「ペガサスさーん! いて、いてて……」ヨロヨロ
336:
ペガサス「オー、当麻ボーイまで……」
上条「……出ていくなら一声ぐらいかけてくれてもいいじゃねえか」
ペガサス「ちょっと外の空気を吸いに来ただけですよ」
インデックス「なんだ、よかった」ホッ
ペガサス「……」
ペガサス「ちょうどいいかもしれませんネ。このまま帰るのも」
337:
インデックス「どうして!? どうして帰っちゃうの!?」
ペガサス「実はこの旅行、誰にも行き先を告げずに始めたことなのデース」
ペガサス「『一週間ほど休みマース』って書き置きだけしか残してませんからネー……」
ペガサス「今ごろMr.クロケッツなんかは半狂乱かもしれまセーン。子どもたちも心配してるかもしれませんし……」
上条「え!? ペガサスさん子どもいるの?」
ペガサス「たくさんいマース。当麻ボーイと同じぐらいの子たちデース」
上条「えっと……ペガサスさんって、歳いくつ?」
ペガサス「24歳デース」
上条(24 - 16 = 8 ……8? はち!?)
ペガサス「みんなが私の帰りを待っていることでしょう」
338:
インデックス「……そっか。じゃあ、しかたないよね……」
インデックス「今度はいつ遊びに来るの?」
ペガサス「……それは……」
ペガサス「……名誉会長、なんて役職ですけど、意外と忙しいものなのデース。
  新しいカードのデザインの仕事もありますし……」
インデックス「……」
ペガサス「本社もアメリカですしネー」
インデックス「……」
ペガサス「オー、そんな悲しそうな顔しないでくだサーイ……」
インデックス「……だって、もう会えないみたいに言うから……」
ペガサス「……」
339:
ペガサス「……シスター・ガール。人と人との間には見えない力……宿命というものがありマース」シュル…
上条(首のリボン……)
ペガサス「それはこの『タイ』のように、手繰り寄せれば引き合う力……」
ペガサス「そして一点で交わり、再び結ばれることも……」キュッ
インデックス「……」
ペガサス「きっとまた会えマース。……会いに行きますよ」
インデックス「……うん」
340:
ギュッ
ペガサス「インデックス」
インデックス「!」
ペガサス「ユーに会えてよかった……そんな言葉しか出てきません」
ペガサス「本当に、ユーに会えてよかった」
インデックス「……うんっ。私もっ」グスッ
インデックス「私も、ペガサスに会えてよかった!」ギュッ
ペガサス「ありがとう」
341:
ペガサス「……」
インデックス「……」
ギュー…
上条「……」
ペガサス「オー、当麻ボーイがやきもち焼いてマース」
上条「だ、誰が……!」
インデックス「こんなの欧米じゃ挨拶なのにねー?」
ペガサス「ネー?」
上条「……へいへい、どうせ上条さんは非ぃ国際的な人間ですよー……」
342:
ペガサス「さて、当麻ボーイには……」
上条「?」
ゴンッ
上条「いっ……!?」
ペガサス「『あのとき』思いっきりぶん殴ってくれたお返しデース。これでチャラにしてあげマース」
上条「……根に持ってたのかよ……」
ペガサス「ノー。根に持ってなんかいまセーン。日本ではこうやって仲直りするものだと、小説で勉強したのデース」
ペガサス「タイトルはたしか……『走れヘルモス』?」
上条「メロスな」
ペガサス「オー、それデース。……たしか殴り合った後に、熱烈なハグをするんですよネ?」
上条「上条さんに男と抱きあう趣味はありませんのことよ……」
ペガサス「私もできれば女性との方がうれしいデース。『オカマ野郎』じゃありませんからネー」
上条「……やっぱり根に持ってるじゃねえか」
ペガサス「持ってまセーン」
343:
ペガサス「……では、やっぱり『これ』でさよならしましょう」
スッ
上条「……」
ペガサス「初めて会ったときの『あれ』は、実はユーの右手の『力』を確かめるためでした」
ペガサス「でも、これは友達として……」
ペガサス「……私とユーは、その……友達とは言えないかも――」
ガシッ
上条「つまらないことは言わんでよろしい」
ペガサス「……」
ペガサス「ありがとう」
344:
ペガサス「……」
上条「……」
ペガサス(やっぱり、右手に触れていては当麻ボーイの心を読むことはできませんネー)
ペガサス(でも、心なんか読めなくても……)
ペガサス(伝わる思いも、あるんですネ)
上条「そうだな」
ペガサス「!」
ペガサス「……フフフ。そうですネ。まったくその通りデース!」
345:
ペガサス「……」
上条「……」
ペガサス「……人物画……」
上条「?」
ペガサス「モンスターカード以外では、私は人物画はあまり描かないのデース」
ペガサス「ここ数年で描いたのはシンディアと……エジプトで会った少年ぐらいでしょうか……」
ペガサス「……帰ったら久々に描いてみますか」
ペガサス「当麻。インデックス。……ユーたち二人の絵を」
346:
ペガサス「グッバイ、当麻、インデックス。グッバーイ!」
上条「……」
インデックス「……」
上条「……行っちまったな」
インデックス「……うん」
上条「帰るか」
インデックス「うんっ」
347:
上条(――こうして)
上条(変な喋り方の外国人、ペガサス・J・クロフォードは……俺たちの前から姿を消した)
上条(夏休み前日に出会ってからの九日間)
上条(不思議なことが起こりすぎて、全部夢だったんじゃないかと思うときもある)
上条(現実に起きたことだと証明するのは、俺の部屋で暮らし始めた大喰らいのシスターと……)
上条(それから――)
348:
上条「――……」
「カミやん、何見てるん?」
上条「ああ、お守り」
「お守り? ……カードが?」
上条「ラッキー・カードだからな。身につけてんだ」
350:
「ふぅん? ってそれ、デュエルモンスターズと違います?」
上条「ん? おまえプレイヤー?」
「少し前に引退しちゃったんやけどな。懐かしいなー。まさかカミやんがプレイヤーとは……」
上条「あ、いや。俺、これ一枚しか持ってないんだよ」
「そやの? ならボクのカードあげよか? 少し前のカードで良ければやけど……」
上条「いや、別に集めては――」
――最高に面白いゲームですよ!――
上条「……そうだな。少しやってみるか」
「?」
上条「本当にもらっていいのか?」
「ええよええよ。今日ボクの部屋きーひん? カード渡すさかい」
上条「ついでにルールも教えていただけるとうれしいのですが……」
「じゃあ実際にプレイしながら教えたる。……なんや、カミやんが始めるならボクも復帰してみよかなぁ。
最近かわいい女の子モンスターがぎょうさんゆう話も聞くし……」
35

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