ほむら「まどかと身体が入れ替わってしまった」back

ほむら「まどかと身体が入れ替わってしまった」


続き・詳細・画像をみる

3:
朝か。
目が覚めると、なにか違和感を感じた。
ほむら「ん…ん…?」
枕の感じもそうだけど、パジャマから毛布に至るまで質感が違う。
それに、何かいつもより気だるい感じがはっきりしていて…
まるで……
――まるで別のどこかで寝ているようで。
ほむら「はっ!?」
私はベッドから飛び起きた。
日が差し込んでいたので、朝日が家の間取りをわずかに照らし出していた。
この部屋には見覚えがある。
わたしのたった一人の友達、『鹿目まどか』の部屋に間違いない。
4:
どうしてこんなところで…
昨日はまどかがうちに来て…
『すべての秘密』を打ち明けた。
私が未来から来たこと。
何度も同じ時間を繰り返してきたこと。
まどかにどう思われたかわからない。
信じてもらうどころか、あるいはもっと私との距離が開いてしまった気さえする。
その後は、まどかの悄げた背中を唇を噛み締めながら見送って……
それから――記憶がない。
5:
ベッドの辺りを見渡してみる。
まどかの姿を探そうと、隣、それから毛布の中に視線を移しても見当たらない。
どうやら、私一人のようだけど……まどかはもう起きて、下へ行ってしまったのだろうか?
ほむら「あ…れ?」
私が着ている寝間着は、わたしのものではない。
とすると、まどかの家で借りたということになることになるのか?
いつの間に?
7:
とにかくベッドから出て、その足で立とうとする。
が…何故か足にうまく力が入らずよろけて……
ドスンッ!!!
ほむら「っっつ!?」
膝をついて、転んでしまう…。
何をやっているんだろう。
まるで、昔の私みたい…まだわたしが私だった頃。
いや、かつてのわたしでさえベッドから第一歩目で転ぶなどという経験はなかった。
何故か笑みがこぼれた。
8:
足や身体の感覚、声の調子、ものの見え方がいつもと違う気がする。
次第に転んだことよりも、違和感に対する疑問が濃厚になって…。
いつもの癖で後ろに伸びる長い髪を掻こうすると…
ほむら「っ!?」
その時とやっとわかった。
この身体が自分のものでないということに。
そしてこの身体の持ち主が誰なのかということも。
私のつめ先にある印の色が、紫色から桃色へと変化していた。
9:
つまり、この身体は…この身体の主は……
コンコンコン、とドアの音が聞こえる。
知久「おはよう、まどか。すごい音がしたけど大丈夫かい?」
まどかのお父さん…。
私は戸惑いながらも、とっさに返事を返す。
ほむら「大丈夫…」
力なく声を出したとき、私ははっきりと自分の声ではないということがわかったのだ。
まどかのお父さんは部屋までは入ってこなかった。
寝起きに誰かに話しかけられるという経験も久々なこともあって、私は胸に手を当てて落ち着つく…。
が、そこであることに気がついた。
ほむら「わたしより大きい…」
11:
背は私のほうが大きいのに…。
そこで深呼吸して気持ちを落ち着かせると
ピンポーン!というインターフォンの音が聞こえてくる。
気になって窓から外を眺めてみた。
するとその外にいた人物がこちらに顔を向けてきた。
ほむら「っ!?」
玄関の先に私がいる!! 
12:
いや、私の顔をした誰かが。
私はあんな顔で笑わない…
なのに満面の笑みを浮かべて、こちらに向けて手を振っているのだ。
わたしは、嫌な予感を禁じ得なかった。
バタン、と勢い良くドアを開けて部屋を飛び出ると、
まどかのお父さんが驚きながらこちらを見つめていた。
知久「まどか?」
それには構わず、階段を駆け下り、玄関へと駆け出した。
13:
勢い良くその扉を押し開ける。
そこには当然"わたし"が立っていた。
先ほどと変わらず、その笑顔は輝きを失っていない。
自分の顔がそこにあるというのは気持ちのいいものではないが…
でも今はそんなことどうでもいい。
ほむら「まどか、あなた一体何をしたのっ!?」
私が怒りを露わにして、肩を掴むと…
まどかは一歩踏み出して私の背中に両手を伸ばしてきたのだ。
わたしは、『わたし』に抱きしめられるという奇妙な経験をすることになった。
ほむら「なっ…」
まどか「おはよう。ほむらちゃん」
16:
まどかの両親と弟。そしてわたしとまどかの5人で朝食を囲むことになった。
まどか「いただきます」
ほむら<<何がどうなっているの?>>
まどかの家族には聞こえないように、テレパシーでまどかに問いかける。
ほむら<<どうして、わたしの身体とあなたの身体が入れ替わってるの?>>
まどか<<ほむらちゃんなら聞かなくてもわかっているんじゃないかな?>>
まどかは悪びれもなく、返事をする。
やはり悪い予感は当たっていた。
昨日まどかが帰った後、わたしが知らないところでキュゥべぇと契約を交わしたのだろう。
18:
ほむら<<だからって、わたしと入れ替わるなんて!?>>
まどか<<ほむらちゃんを止めるにはそれしかないと思ったからだよ>>
なんて馬鹿なことを考えたのだろう。
いや、それがまどかの良さであるのは承知しているけれど、今回の行動は度が過ぎていた。
私は頭を抱えた。
詢子「まどか? どっか具合が悪いのか?」
ほむら「えっ? あ……」
まどかのお母さんがこちらを覗きこんでいる。
ほむら「なんでも…ない…」
詢子「そうか?それならいいけど、無理するなよ?」
19:
隣にいる私…つまりまどかは、わたしがしゅんとなっているのを見て、にっこりと笑っていた。
そんなものだから無性に腹が立つのだった。
詢子「暁美さんだっけ?新しくできたまどかのお友達で、たしか転校してきたって」
まどか「はい。鹿目さんとはいつも仲良くさせてもらっています」
まどかは意外にも冷静に返事をしていた。
ほむら<<どうするつもりなの?>>
まどか<<どうするつもりって?>>
ほむら<<望みどおり願いを叶えて、わたしと入れ替わったはいいけど。あなた元に戻れる方法を考えているの?>>
まどか<<いつか元に戻るんじゃないかな?>>
20:
自然にまどかの願いの効力が解除されるなんてことはありえないだろう。
魔法少女の契約でこうなったのならなおさら――。
それこそ第三者が、わたしとまどかを入れ替えるような願いをしない限り元に戻ることはないはずだ。
要するに新たな魔法少女が、私たちの身体と魂を元に戻すことを望まない限り、永遠に戻ることはない。
自分を犠牲にしてまで、私達を元に戻す人がいるだろうか。
22:
まどか「このお味噌汁美味しいです!お父さんが作られたんですか?」
知久「そうだよ。たくさん食べていってね」
まどか「はい。ありがとうございます。」
まどかが私の身体で家族とのやりとりを楽しんでいるのだからますます頭が痛くなってきた。
バカバカしくなってきたので、私もまどかのお父さんが作ってくれたという手料理をいただくことにした。
ほむら「――おいしい」
素直な感想が漏れると、隣で「うぇひひ」と笑う声に苛立ちを覚えながら
私は妙な居心地の悪さを感じていた。
みんないつもこんな食事をしているんだ。
まどかだけじゃない――。
もうこの世界では死んでしまった、美樹さやかも家族とこんな時間を過ごして…。
味噌汁を飲み干して、私は遠い記憶を探ってみることにした。
すると胸が苦しくなるだけで、
隣で美味しそうに食事をしているまどかの顔さえまともに見れなくなった。
23:
 朝食を終えて、私たちは学校へと向かう。
まどかの家族の手前ということで、怒ることができなかったが――。
ほむら「あなた自分が何をしたかわかっているの?」
家から十分離れたところで立ち止まり、まどかを見上げる。
まどか「ふふ、そんな凄んだってダメだよ。 ほむらちゃんが怒っても、もう恐くないんだから」
そこには余裕で私を見下ろすまどかがいた。
いくらまどかの姿で怒ろうが、迫力もなにもないのは私にもわかる。
だからってまどかの暴挙を黙って許せるはずがない。
ほむら「とにかく、まずそんな笑い方をするのをやめなさい。話はそれからよ」
まどか「わたしがほむらちゃんなんだもんね。わかってるって。大丈夫だよ、皆の前ではちゃんとするからっ!」
悪びれもなく返事をする。
いつもより、数段明るくなっているのは気のせいではないだろう。
とんでもない契約をしたという自覚があるのか、その反動で気分が高まっているのかもしれない。
24:
厄介だ…。
ほむら「まどか! あなたは事の重大さがわかってないわ」
まどか「わかってるよ」
まどかは真っ直ぐ私を見つめて言う。
まどか「大丈夫だよ。二人で頑張れば、きっといつか元に戻れる」
――まどか。
あなたがどんな決意でこんなことをしたのか知らないけれど、
それでもダメなものはダメなの。
なぜなら、身体を戻す前にわたしたちには超えなければいけない壁がある。
『ワルプルギスの夜』
25:
ヤツを倒さなければ、身体を元に戻すなんて夢のまた夢。
しかも身体を交換したせいで、私は戦い慣れた戦闘スタイルを事実上手放したことになる。
それをまどかが使いこなすことが出来るだろうか?
あの力を使いこなすまでに、どれだけ時間がかかったか。
あと数日で訪れる災厄に立ち向かうには時間が少なすぎる。
私もまどかの力を使いこなすことが出来るものか?
否。すでに彼女の魔力の強さは、この私には身に余るほどのものだということがわかる。
確かにこの力を使えばあの魔女を倒すことが出来るかも知れない。
その代わり、わたしは力を使い果たすことになるだろう。
それは事実上、私の『死』と『鹿目まどか』という人間の死を意味する。
26:
あれ??
――それでもまどかは生き続けるなら。
…まどかが生きているならそれでも
――いいえ、ダメっ!
それがどんなに無慈悲で、酷な事か。
まどかが私になるということ。
それはつまり家族や友人との関係をなかったことにすることだ。
生きてきた時間を全て否定し、全く別の人間としての人生を歩むこと。
今朝の食卓を見てしまっただけに、家族との関係を無にするなどありえない。
お父さんも、お母さんも弟も、まどかの影を追い続けて沈んでいくだろう。
何よりもまどか自身が、他人として振る舞う生き方を強いられることになるのだと思うと…。
私は何のために魔法少女になったのか?
 まどかとの出会いをやり直し、彼女の幸せを守るためだ。
なんとしても、『暁美ほむらに戻る』しか選択肢はない。
27:
まどか「ほむらちゃん、そろそろ機嫌直してよ」
まどかは私の後ろを手を伸ばしながら歩いてくる。
ほむら「別に怒っていないわ。ただ、考え事をしてるだけ。しばらく放っておいて」
もうワルプルギスの夜の襲来まで時間がない。
一刻も早くそれに対抗する手段を考えなければ。
仁美「おはようございます、鹿目さん」
通学路を二人で歩いていると、後ろから上品な声が聞こえてその前を振り返る。
木漏れ日の隙間から、波打つように光が葉に揺られてスカートまで伸びる髪を照らしていた。
ほむら「お、おはよう…」
28:
ほむら「お、おはよう…」
仁美「あら、今日は暁美さんもご一緒ですの?」
まどか「ええ。たまたまそこで会ったから」
まどかは当然と言わんばかりに私になりきっていた。
その姿を見て息をついた。
まどか<<どう、ほむらちゃん?>>
ほむら<<その調子で頼むわよ。出来れば私といる時もそうしてもらえるとありがたいのだけど>>
まどか<<えへへ。考えておくよ>>
全く…。
いいようにまどかに振り回されっぱなしだ。
29:
仁美「なんだかお二人は、元気そうですわね。…たしかに、いつまでも落ち込んではいられませんものね」
志筑仁美はどこか寂しそうに微笑んだ。
たしか美樹さやかの葬式にはまどかだけでなく、彼女も参列していたはずだ。
上条恭介の件もありのうちはさぞや複雑なものだろうが、
私にはそんなことを考えている余裕は毛頭なかった。
なんとか彼女の協力を得られないだろうか。
30:
そこへ、偶然上条恭介が通りかかる。
仁美「あっ、上条くん。おはようございます」
少し上目遣いで、上条恭介を見上げる志筑仁美。
恭しいカップルというよりも、何か気まずさが見て取れるようで、朝から重たい空気が漂っているのだった。
恭介「おはよう……今日はみんな一緒なんだね。――ぼくはお邪魔しちゃ悪いから先にいくよ」
仁美「え…あっ――」
その先の言葉は出てこず、手を伸ばしながら俯いてしまった。
それを隣のまどか(わたし)は心配そうに見守っている。
31:
そうだ。
彼女は、美樹さやかとの関係、上条恭介との関係を元に戻すことを望んでいるのではないか。
もしわたしが元の姿に戻ることができるのであれば、彼女はこれまで一件を帳消しにすることができる。
魔法少女になる素養がないわけではなさそうだし…。
まずは彼女に私の姿を元に戻してもらう。
契約者である志筑仁美本人が時間を戻すのではなく、
私が代行すれば彼女の契約を無効に出来るのだから、
時間をやり直しても不利な契約に縛られることはない。
私とは違い、志筑仁美には実質ノーリスクで、
時間をやり直すことが出来ることを伝えればいい。
失意に沈む人間の気持ちを利用する手口が、
どこぞの詐欺師と類似することに心が傷まないでもない。
33:
しかしわたしには手段を選んでいる暇はなかった。
<<ほむらちゃん、どうかしたの? >>
<<別に。なんでもないわ>>
悪いけれど、あなたの茶番はすぐに終わらせてあげる。
こんなふざけた願い、認めるわけにはいかない。
34:
一時間目の授業が終わった後のこと…。
まどか「鹿目さん。ちょっといいかしら? この前貸したアニメのDVDどうだった?」
ほむら「……なんのことかな?」
やっぱり自分に話しかけられるっていうのは慣れないわね。
というか、アニメのDVDって…。
まどか「動物たちがカフェでのんびり過ごす話よ。店主のダジャレがなかなかシャレてていい感じだったわよね」
ほむら「ごめんなさい。ちょっと何を言ってるかわからないんだけど」
ほむら<< どういうつもり? DVDなんてわたし借りた覚えなんてないわよ >>
まどか<< これは作戦だよ。 ほむらちゃんが元に戻った時にみんなと仲良くなれるように、硬いイメージをなくせたらなって>>
大きなお世話だ。
35:
モブ「暁美さんも、あのアニメ見てるの!?」
クラスメイトの一人がこちらに話しかけてきた。
まどか「ええ。あなたも?」
モブ「いいわよね。また放送再開しないかなぁ」
まどかはほらねと、勝ち誇ったようにわたしを見下ろした。
教室に溶け込めずにいるわたしを思いやってくれているのだろうが、そんなものわたしの望むところではない。
わたしはまどかのおせっかいに付き合いきれなくなり、席を立った。
とにかく志筑仁美の勧誘を成功させなくては。
一刻も早く元の姿に……。
36:
志筑仁美が体育倉庫にやってきたのは、3時間目の体育が始まる前。
予め呼び出しておいてはいたが、どうやって話を切り出したものか。
仁美「まどかさん。話って、もしかしてさやかさんのことですか?」
さすが志筑仁美といったところか。話が早くて助かる。
ほむら「それもあるけれど。あなたには知っておいてもらわなければならないことがある」
仁美「まどかさん…? いったいどうしましたの?」
いつもと違う口調に、戸惑っているのが見て取れた。
37:
ほむら「わけあって、今まどかと中身が入れ替わっているけれど、わたし、本当は暁美ほむらなの」
仁美「……え? ちょっと、よく聞こえませんでした。申し訳ありませんがもう一度言ってくださいませんか?」
ほむら「まどかと身体が入れ替わってしまったの。そこであなたに相談があるの志筑さん……」
眼の焦点が会わず、朧げに前を見つめている。
無理もない……。だがそれでは困るのだ。
ほむら「ちゃんと聞いているの?」
仁美「……ええ。聞いてはいますけれど」
ほむら「あなたの力が必要なの。お願い、真面目に聞いて」
仁美「――えっ…え? 本当に暁美さんなんですか?」
ほむら「ええ」
仁美は頬に手を当てて、驚いていた。
仁美「そういえば、1時間目の休みは珍しく暁美さんがみんなとお話してましたわね。
 あのアニメ、わたしがまどかさんに薦めたはずなんですが」
ほむら「あなたアニメなんて見ていたの?」
少し意外だった。
38:
仁美「ええ。わたしのお気に入りですから」
ほむら「とにかく時間がない。わたしがまどかかどうかはおいといて、話だけでも聞いて!」
仁美「え、ええ…」
不安げにわたしを見つめる志筑仁美。
まどかではないと思い始めているせいか、あまり話したことのないわたしと二人で緊張しているようだ。
あるいは、冗談だと思い呆れているだけかかもしれないが
ほむら「志筑さん。あなたはもう一度美樹さやかを生き返らせることが出来る」
仁美「どういう……ことですの?」
目つきが変わった…。
39:
背をぴんと伸ばして、彼女から距離を取る。
ほむら「わたしは…本当の暁美ほむらは未来から来たの。そして何度も同じ時間をやり直している。この一ヶ月を何度も」
この時間軸で、この話をするのは二度目だ。
一度目はまどかに。そして二度目は彼女。
まさか志筑仁美相手にするとは思わなかった。
ほむら「だけど今は、時間を戻すことが出来ない。だからあなたにまどかと私の身体を元に戻してもらいたい。
 
 あなたにはその力がある。わたしとまどかを元に戻す力が」
40:
仁美「え…ええっ?」
ほむら「あなたは魔法少女になる契約を結ぶことで、一つだけ願いを叶えることが出来る。
 本来わたしたちは魔法少女となって魂を失い魔女と戦うことを義務付けられるけれど
 あなたは何のリスクもなしに、願いを叶えられるの」
 
仁美「魂? 魔法少女? 願い? 何を言ってるんですの?」
仁美は右目に手を当てて考え込んでいる。
話が急すぎたか。
42:
ほむら「深く理解しなくてもいい。とにかくあなたは時間をやり直すことが出来る。そういうことよ」
仁美「…本当ですの? 本当にさやかさんを元に戻すことが出来るんですの?」
ほむら「――ええ。もちろん」
頭が良いであろう彼女が話しに乗ってくれるか心配だったが、目を見ればわかる。
こんなに胡散臭い話であっても、奇跡にすがりたいということが。
しかし何一つ嘘はついていない。
一時的に彼女の魂はソウルジェムへ変化するが、わたしの魔法でどうにでもなる。
44:
仁美「少し考えさせていただけませんか?」
ほむら「でも今日中に決めてもらわなくては」
仁美「ご期待に添えるかわかりませんが、善処いたしますわ」
ワルプルギスの夜がここにくるまであと24時間もない。
もし彼女から期待通りの返事がもらえなかったら、わたしは別の手段を考えなくてはいけなくなってしまう。
なんとしても彼女に協力してもらわなくては。
45:
 午前の授業が終わり、昼休みになった。
体育の後で休憩に入るのが遅れたが、まどかのお父さんに持たされたお弁当をそれぞれ抱えて屋上へ向かう。
空いているベンチに腰を落ち着け、他の生徒から距離をとって弁当箱の箱を開けた。
まどか「ほむらちゃんはもう慣れた? わたしはもう慣れたよ!」
全く悪意が感じられない笑顔が逆に頭に来る。
それが自分自身だから余計に気持ち悪くて、思わずほっぺをつねってやった。
まどか「い、いひゃいってばぁあああ」
46:
まどかの無計画な願いのせいで、こっちがどれだけ大変な想いをしていることか。
ほむら「あなたがどうしてそんなに落ち着いていられるかが分からないわ!
 言っておくけど、元に戻る手段がないのよ? それをあなたもわかっているでしょう?」
相変わらず自分に説教をしているようで気持ちが悪い。
だがここはきちんとまどかに重大さを説明しなくては。
47:
ほむら「この町にはもう私とあなた以外の魔法少女はいない。
 巴マミも佐倉杏子も……美樹さやかさえ」
まどか「うん……」
まどかは俯いて、そのときのことを思い出したかのような、悲しい顔をしていた。
ほむら「あなたにも話した通り、最悪の魔女『ワルプルギスの夜』がもうすぐやって来る
 その魔女を私たちの手で撃退しない限り、この町に未来はない」
まどか「ほむらちゃんと、わたしの二人で倒すんだよね?」
48:
顔をあげずにまどかは返事をする。
ほむら「その通りだけど、あなたが思っているほど上手くいかないの。
 ワルプルギスの夜が強力な魔女だからというのもある。
 けれど、わたしの時間制御と武器を利用した攻撃を使いこなすにはかなりの時間がかかったわ。
 おそらく、ヤツが来るまでにあなたが使いこなすのは不可能」
まどか「……」
ほむら「そしてあなたの身体に入れ替わってしまったわたしもあなたの力を使いこなすことができない。
 なぜなら、すでに何度もあなたが自分の力を制御出来ずに、死んでしまうところを見てきた。
 ワルプルギスの夜を倒すのと引き換えに……あなたは」
49:
まどか「大丈夫だよ。 きっとわたしがなんとかしてみせるから」
まどか?
まどか「必ずわたしがほむらちゃんのこと、守ってみせる」
わからない。
何故こんな状況で……どこからそんな自信が生まれてくるというのだろう?
彼女には秘策があるというのだろうか?
50:
夕刻になると、予め待ち合わせていた場所に志筑仁美を呼び出した。
学校の近くににある公園で、噴水が夕日を受けて朱色に染まっている。
彼女の心に訴える話しができたかは定かではないが、逃げずに来てくれたということは期待をしても良いかもしれない。
ほむら「どう、良い結論はだせたかしら?」
仁美「……暁美さん」
わたし(鹿目まどか)が威風堂々とした態度で彼女を見上げているのに慣れないのか、あるいは決心を伝えるのを躊躇っているのか……それともわたしが苦手なのかは知らないが、緊張が伝わってきた。
ほむら「楽にしてくれていいわよ。わたしをまどかと思ってくれてもいいし」
仁美「さすがにそれは無理がありますわね」
ほむら「そう。じゃあ話を進めていいかしら?」
躊躇いながら彼女は首を縦に振った。
51:
ほむら「率直に聞くけど。どうするか聞かせて欲しい。
 
 あなたは美樹さやかを生きている時間に戻すことができる。
 
 でもその場合、上条恭介との関係を一度元に戻さなくてはならない。
 
 恋敵である美樹さやかを生き返らせれば、再びあなたが恋人になれる保証はできない」
 
仁美「承知しております」
良い目だ……と思った。
覚悟と決心が彼女から伝わってきた。
52:
ほむら「そう。なら話は早いわね」
彼女と特別交友関係があったわけではないし、ほとんど話したこともなかったが、友人になるなら……あるいは恋人にするならこんな女性がいいかもしれないと思った。
賢明な判断ができたとしても、それを決断する勇気がなければ意味が無い。
そして彼女には恐らくそれがある。友人を決して見捨てない思いやりも。
だから……お願い。
わたしにもう一度。もう一度まどかを守らせて!
54:
ほむら「あなたの命、わたしに一度預けてもらえるかしら?」
仁美「……」
長い沈黙が続いた。
そしてようやく、強い眼差しでわたしを見下ろしながら……。
仁美「それはできませんわ。暁美さん」
わたしは言葉を失った。
55:
わたしの話が信じられなかったのか……。
それとも彼女にはそもそも友情を選ぶほどの度量がなかったというのか……。
仁美「わたしはさやかさんが戻って下さるのであれば、どんなことだってします。
 たとえこの命を差し出すことになったとしても……いえ。そうするべきなのです」
ならどうして……。
わたしの力を使えば元に戻せるのに…。
56:
仁美「だってそうではありませんか?
 わたしのために上条君に何も言えず死んでいったさやかさんのお気持ちを想えば……わたしは……わたしは……」
志筑仁美は天を仰いで、消えてしまった何かに想いを馳せるように言葉を投げる。
仁美「わたしはこうしてまだ生きて……幸せで……恵まれすぎていて……
 なのにさやかさんは……」
まるで生きていることを恥じるようにその顔を両手で覆い、嗚咽を漏らした。
57:
ちょっと待って……。
ほむら「なぜあなたが美樹さやかの最期を知っているの!?」
わたしは彼女に魔法少女の話はしたが、魔法少女最後の秘密は明かしていない。
ソウルジェムはグリーフシードへと変化し、魔女へと変わり、全てを呪い命を終えること。
そんなことを話せば契約を渋るかもしれない。
余計な不安を与えないようにと黙っておいたのに!
ほむら「それは」
58:
まどか「それはわたしが説明するよ。ほむらちゃん」
朱の噴水が止まり、空中には虹の橋が出来ていた。
その下には凛とした光を瞳に湛える一人の少女がいた。
わたしだ。
ほむら「まどか……あなた……」
まどか「ほむらちゃん。ごめんね……。それから仁美ちゃんも……」
まどか……まさか、あなたなの?
わたしの考えを読んで……わたしが志筑仁美に期待していることを見抜いて……。
59:
まどか「駄目だよ……」
まどかは切なげにつぶやいた。
駄目って…何が駄目なのよ!!
わたしの苛立ちは今日一日で最高潮に達しようとしていた。
ほむら「まどかぁあああああっ!!」
それがいくらまどかであっても、許せない。許せるわけがない。
あなたはどうしてわたしの想いを裏切るの!?
60:
自分がどんな状況に置かれているか考えられないほど、愚かな人間ではないことを知っている。
なのにことごとくわたしの気持ちを無視して……。
どうしてあなたをわたしに守らせてくれないのっ!?
わたしはわたしに詰め寄り……それがまどかだということを忘れたかのように、その頬をおもいっきりひっぱたいた。
まどか「ほむらちゃん。落ち着いて聞いてね」
ほむら「……」
夕日を背に受け、背景と同じ色にそまった頬に手を当てながらわたしを真っ直ぐ見つめる。
まどか「仁美ちゃんに秘密を話したのはわたし。全部わたしが悪いの。
 でもねほむらちゃん……ほむらちゃんがやろうとしていることはもう出来ないんだ」
出来ない?
61:
ほむら「どういうことよ?」
まどか「わたしたちが魔法少女なる条件は覚えてる?」
条件?
ほむら「それは…わたしたちにある程度の素質があるかどうかで……」
志筑仁美にはその素質が見える。
わたしたち魔法少女にはそれがわかる。
ほむら「彼女には十分その才能がある。なのにどうして魔法少女になることが出来ないというの!?」
その時だ。
どこからともなく視線を感じた。
背後を振り返ると赤い瞳がわたしたちをまっすぐにとらえているのがわかった。
62:
ほむら「インキュベーター!」
QB「まどかの言うとおりだよ。契約というのは双方の了承があって初めて交わされるものだ。
 だから志筑仁美がきみたちを元に戻したいと願ってもボクたちがそれを良しとしなければ願いを叶えることはできない。
 ボクたちには二人を元に戻すという願いを叶える必然性もメリットもない。
 いや、むしろデメリットしかない。
 鹿目まどかが契約した今となっては、君が魔力を使い果たしてくれるのを待つだけだからね。
 そこに第三者である志筑仁美を介入させて時間を元に戻されでもしたら、今までの苦労が水の泡だ。」
唇を噛み締めて膝を折った。
つまり……最初から破綻していたということ。
まどかがわたしになってしまった時から、元に戻る手段などなかったんだ……。
ああ……そうだったんだ。
わたしはまどかを守ることもできず、このまま……。
64:
結局志筑仁美は契約をすることが出来なかった。
魔法少女を増やしてこれから訪れる災厄へ立ち向かう術を与えないことがインキュベーターの方針である以上少しでも早く、まどかと
なったわたしが魔女へ変わることが望ましいのだ。結局彼女の心をいたずらに傷つけて終わる結果となった。
帰り道。
わたしは、まどかに手を引かれて、鹿目の家へと向かった。
放心状態のわたしを慰めるでもなく、淡々と影が後ろに伸びていくだけ。
どうしてこうなってしまった。何がいけなかったのだろう。
65:
まどか「ほむらちゃんは何度も私が死ぬところを見てきたんだよね? そのたびに同じ時間を繰り返してきたって教えてくれた」
ほむら「……」
まどか「わたしなりに考えたんだよ。どうすれば、ほむらちゃんのことを助けられるか。
 どうすれば、ほむらちゃんの気持ちがわかってあげられるか。怒られるって分かってても……
 
 これぐらいしか思いつかなかった」
その方法が身体を入れ替えることだったというの……。
ほむら「そう……」
66:
やはり考えても原因などひとつしか思いつかなかった。
まどかが優しすぎること。
誰かを助けたいと思った時に、真っ先に行動してしまう……決断をしてしまう彼女が……。
ほむら「ねえまどか。わたしはあなたの優しさは尊いものだと思っている。
 そうやってわたしを思いやってくれることだって本当は嬉しい。
 
 だけどね。まどか」
67:
ほむら「どうにもならないことは、やっぱりどうにもならないのかもしれない。
 
 これまであなたを守ると誓って、何度も時間を繰り返してきて……。それでも駄目だった。
 
 だから。だから……」
まどか「ほむらちゃん……」
私はまどかに最後の選択を繰り出した。
まどか「選んでまどか。わたしと一緒にこの町を見捨てて逃げるか。
 それともあなたがこのさき、暁美ほむらとして生きていくかを」
わたしの願いはただひとつ。
まどかに生きていて欲しいということ。
69:
この町に現れるはずのワルプルギスの夜を迎え撃つ必然性はどこにもない。
まどかを助けられるのであれば、意地でも連れて行く。
それが一つ目にまどかが生き残る方法。
しかし今の私にはワルプルギスの夜を撃退するだけの力がある。
このまどかの力を開放すれば、おそらくはヤツを倒すことができる。
でもそれは同時にまどかの死を意味する。
まどかのソウルジェムはグリーフシードへと変化するだろう。
魔女になれば、この宇宙の誰にも止めることができない。
まどかの肉体は滅ぶことになるが、彼女自身は生き残ることになる。
71:
まどか「わたし……みんなを見捨てることだけはしたくない」
ほむら「そうよね……」
やはり家族や友だちを見捨てて逃げることは出来ないか…。
まどからしい。
まどか「でも、わたしはほむらちゃんにも生きてて欲しい。これまで頑張ってくれたほむらちゃんの努力をこんな形で終わらせたくない」
ほむら「まどか…」
74:
それは出来ない。この町を見捨てずに二人とも生き残る方法があるなら何も苦労しない。
まどか「大丈夫だよ。ほむらちゃん。わたしが必ずみんなを守ってみせる」
背後の夕日が沈みかけてほとんど消えてしまいそうになる中、まどかの目が力強く光っているのはわかった。
一体どんな方法があるというのか。
わたしはその言葉を鵜呑みにすることはとてもできなかった。
75:
その日は、まどかと一緒にまどかの家に泊まろうという話になった。
わたしがまどかの家族と過ごすときに、うまくフォローしてくれるという理由だ…が。
インターホンを鳴らすと、にこにこしたおじさんが出迎えてくれた。
ほむら「お帰りなさい、まどか」
知久「ただいま……えっと、パパ」
もぞもぞと足を動かしていると背後から視線を感じる。
後ろにいるまどかがニヤニヤしながら見守っていた……
いや、笑いをこらえている。
もはやため息すら出て来ない。
76:
知久「あ、暁美さん。こんにちは」
わたしになったまどかを認めると、遊びに来てくれたことを歓迎するように微笑んだ。
まどか「またお邪魔しますね」
知久「よかったらご飯を食べていきなよ。それまでまどかの部屋で遊んでて」
まどか「ありがとうございます 」
辞儀をしてまどかはおじさんの横を通り過ぎていった。
77:
わたしはその後ろを追いかけていく。
知久「まどか?」
突然背後から声が聞こえた。
知久「あ、ごめん、なんでもないよ……」
手をのばすおじさんに呼び止められられる。
何故か言葉を投げかけたおじさん本人が驚いていたのだ。
ほむら「……」
わたしは再び階段に足を踏み出した。
何かに気づいたのだろうか?
79:
まどかの部屋に入ると、彼女は椅子に腰をおろしていた。
まどか「ほむらちゃんも楽にしてていいよ」
部屋の主がくつろいでいいというのがこれほど違和感ある状況はないだろう、と思った。
まどかに言われた通り、わたしはベッドの上に座り、膝の上に手をおく。
ほむら「あなたのお父さんに呼び止められたんだけど、何かに気づいたんじゃない?」
「パパが? 多分気のせいだよ。それにほむらちゃんも少しずつ慣れてきたんじゃない?」
80:
ほむら「あなたのふりをする演技? そんなことないでしょ。あなたさっき玄関でわたしをみてクスクス笑ってたじゃない」
まどか「一生懸命なほむらちゃんを見てると、なんだか嬉しくなっちゃって」
ほむら「嬉しいの…?」
まどか「うん。そうだね。嬉しいんだよ」
おかしくて笑ってたわけじゃないのかしら?
ほむら「でもその顔であなたに笑われると……やっぱり恥ずかしいわ」
81:
今さらわたしが周囲からどう思われるようと気にしない……たぶん。
でも中身がまどかであることが問題だった。
自分の中にまどかが入っているというのが、本当は嫌な気はしない。
むしろ今まで以上に繋がりが生まれたようだった……。
思えばまどかは私のことを思って行動してくれたんだ。
自分がこれまで大切にしていたものを捨てる覚悟をしてまで…。
82:
まどか「こんなふうに笑ってるほむらちゃん見たことなかったから。きっとみんなびっくりしちゃうね」
まどかはまた笑った。
わたしはそんな笑い方をしない。
それが心地いいようで、腹立たしくって……本当どうしていいかわからない。
まどか「ごめんね、わたしが変な願いごとしちゃったせいで……」
ほむら「いいわよ…。もう怒っても仕方ないみたいだから」
85:
まどかの家で夕飯を食べることになった。
当然そこにはまどかも同席していたが、
夕食の準備を手伝うときにテレパシーで食器がどこにあるか、
いつもまどかがどんなことをしているかなどをこっそり教えてくれたのだ。
知久「へえ、暁美さんは一人暮らしをしてるんだ」
まどか「そうなんですよ」
生き生きと返事をする彼女にツッコミをいれる気力はなくなっていた。
87:
するとまどかのお母さんが親指を立ててこちらを見る。
詢子「まどかもほむらちゃんみたいにしっかりした子になってほしいね」
ほむら「わ、わたしは……」
元々わたしが一人暮らしをしていたのだが…。
会話に上手く乗っかっていくだけの気概がないので、曖昧な返事ばかりになってしまう。
まどかっぽくないだろうという気はしたけれど、
まどかの前で、まどかのフリをするのは気が引けた…というか恥ずかしかった。
88:
まどかの部屋にもどった時にはすでに9時を回っていた。
ほむら「本当に泊まるのね、あなた」
まどか「だってここがわたしの家だもん! パパもママも『いつでも泊まりに来ていいよ』って言ってくれたから大丈夫だよ」
ほむら「それよりまどか。ワルプルギスの夜は明日やって来る。
 あなたはみんなを守ると言ったけれど、何か勝機はあるのかしら?」
まどか「そうだね……五分五分ってところじゃないかな?」
ほむら「……一応聞くけど、まさか正面から相手をするつもりじゃないわよね?」
89:
まどか「もちろんそのつもりだよ」
目眩がした。
五分五分とは何を基準に考えているのか
「……もういいわ。下でお茶でももらってくるから、待ってて」
「うん」
まどかには悪いけれど、こんな勝ち目のない戦いに身を投じるわけにはいかない。
90:
何度も時間を繰り返してきて、あるとき学校の職員の中にエスタゾラムを服用している者がいることを偶然発見した。
眠れない時には彼の鞄からこっそり抜いて世話になっていたのだが、うなされることの多い私でさえ朝までぐっすり眠れる。
まさかこんな形で使うことなるとは思わなかったが、志筑仁美に断られたときの保険に持ちだしておいてよかった。
これをまどかに飲ませ起きなくなったところを車に乗せて、この町から連れ出す。
再び二階に戻ると、まどかが笑顔で迎えてくれる。
ほむら「待たせたわね。はい」
まどか「うぇひひ。ありがとう」
93:
そしてまどかに睡眠薬の入ったグラスを手渡してその行方を見守った。
が、中々口にしない。
麦茶の上をぼぉっと見つめているだけで…。
もしかしてクスリをいれたことに気づかれた?
いや…よくみたら手が震えている
ほむら「まどか?」
まどか「ご、ごめんね。なんでもないよ…」
ほむら「なんでもないって…だってあなた…」
まどか「本当、大丈夫だから……」
94:
だが彼女の瞳からぽたぽたと零れ落ちるものを見てはとても無視出来そうになかった。
まどか「ダメだな…。ほむらちゃんに心配させないようにって思ってたのに…でももう時間がないんだなって思ったらつい…」
そして涙が伝染したように、私の目頭が熱くなった。私は全てを理解した。
本当はずっと恐かったんだ。
まどか「ほむらちゃん?」
明日自分が迎える運命をはっきりと自覚しているのだろう。
魔女などという得体の知れない魔物と戦い命を落とすこと。
95:
ほむら「ごめんね、まどかっ! わたしが弱いせいであなたにまでこんな辛い思いをさせてしまって…」
朝から気丈に振る舞っていたまどか。
その精一杯の強がりに、私は全くきづかなかった。
気づいてあげられなかった。
初めから勝てる見込みなんてない戦いだったんだ。
それでも、わたしをこれ以上何度も同じ時間を繰り返すのを止めたくて。
ほむら「大丈夫。 必ずわたしがあなたを守ってみせるから」
まどかの手を握りしめるとまどかは笑っていう。
97:
まどか「うん。でも、今度は私も一緒だから…ほむらちゃんはもう一人じゃないよ」
ほむら「そうね……」
明日が最後になるかもしれないというのに…怖くてたまらないはずなのに……
でも大丈夫よ。あなたを死なせたりしない。
ほむら「少し麦茶でも飲んで落ち着きましょう…」
まどか「そうだね」
それぞれのグラスを持って、わたしたちはそれを飲み干した。
これでまどかは朝まで起きることはないだろう。
わたしは彼女に一生罵られることになる予感がした。
二度と口をきいてもらえなくなるかもしれない。
それでも構わない。
98:
まどか「ねえ、ほむらちゃん隣で寝てもらっていいかな?」
ほむら「ええ。ずっと手を握っててあげるから…今日はもう寝ましょう」
ごめんね、まどか。
わたしはそれでも…あなたに……。
100:
目が覚めると――そこは見慣れた見滝原町の一角だった。
ほむら「え?」
暗雲が街中に立ち込めてこれから何が起こるのか。
何度もその光景を見てきた私にはわかり過ぎて……。
吐き気がする……。
ほむら「どうしてわたしこんなところに?」
101:
だって昨夜ゆうべまどかの部屋で彼女が眠るのを待ってから町を出ようと…。
隣でうっかり眠ってしまったというの?
そんな……いや、それなら何故こんなところにわたしは。
ほむら「まさか……」
睡眠薬を入れたコップを間違えて飲んだ?
いや、わたしは間違えてはいけないと思い、位置だけは確認していた。
手前にあったのがまどかのもので……
誰かにすり替えられでもしない限り、間違えることなんて――。
すり替える?
でも――そんなことができるのはただ一人しか。
102:
まどか「おはよう、ほむらちゃん」
魔法少女が強風に揺れる長髪を掻きながらわたしの横にやってきた。
何も迷いもない凛とした声は、かつての私のそれと限りなく近い。
この状況に何の違和感もない口調に、やはりまどかがすり替えたのだと確信に至る。
ほむら「あなたどうしてっ!?」
まどか「それは周りを見れば分かると思うよ」
辺りには銃器があちらこちらにセットしてあり、私が見たことのない武器までもが散らばっていた。
103:
まどか「ほむらちゃん。ごめんね。わたし……ほむらちゃんと同じことをしてきたんだよ」
ほむら「同じことって……あなた…」
まどか「ほむらちゃんの力を使って、この2日をずっと繰り返して来たの――ほむらちゃんと同じように何度も何度も」
まどか「始めから一度でこの日を超えられるなんて思ってなかったよ。ほむらちゃんが何度も勝てなかった相手だもんね。
初めて挑んだ時なんて、何も出来ないままやられちゃった。
それからこの力の使い方や、武器の使い方をほむらちゃんに教えてもらって、私はワルプルギスの夜に勝つために頑張ってきたんだよ」
ほむら「だから知っていたの? わたしが志筑仁美を頼ることも。あなたに薬を飲ませようとすることもっ!」
まどか「ほむらちゃんのことならわかるよ。もう何度もみてきたから」
わたしは膝を折ってその場に崩れ落ちた。
104:
まどかはどれほどの時間を繰り返してきたのか。
これほどの武器を集めて、わたしのふりができるようになるまで、どれだけの時間を費やしてきたのか。
それと同じだけ、わたしと同じ挫折を――あの無力感を味わってきたとしたら。
まどか「そんな顔しないで。これでもわたし嬉しいんだよ。やっとほむらちゃんの気持ちがわかった」
屈んでわたしの顔を真っ直ぐ見つめてきた。
まどか「今までわたしのために戦ってくれてありがとう。
 ほむらちゃんが頑張ってくれたから、今わたしがいるんだよ。
 大丈夫。今度でちゃんと終わらせるから。
 そしたら、頑張ったねって褒めて欲しいな」
113:
すでに聞き及んでいたとはいえ、私にとっては目を疑いたくなるような光景であった。
魔法少女暁美ほむらとして完成された戦い方をする、一人の少女。
私の親友であり、わたし自身である。
吹き付ける暴風に怯むことなく、地面を蹴って見たことのある銃器を空中の魔女にむかって放つ姿に目を奪われた。
あの盾のなかにしまってあるのは武器はまどかがわたしと入れ替わるまでに私が集めた武器だ。
弾薬の量が足りていないのが目に見えた。
いくら昨晩で駆けまわったとしても、絶対的に時間の制約がある以上、武器の収集には限りがある。
その代わりにまどかは魔女との距離を詰めて、集弾性と攻撃力を高めていた。
当然その分だけ危険度が増すため、迂闊に近寄ると手痛い反撃を食らう羽目になる。
戦っている自分の姿を客観的にみたことがないからよくわからないがかつてのわたし……いや、それ以上の動きをしているのではないかとさえ思えた。
あんな距離にいて、何故被弾しないのかが不思議でならない。
114:
それほどまでにまどかは、わたしの魔法少女としての能力を極限まで引き出しているのか……。
いや違う。 魔法少女としての力の限界は確実に存在する。
それでもあんな距離を詰めて戦っているのは、まどかが何度もワルプルギスの夜に挑んだ結果、あの位置取りで戦うしか勝利する道がないと悟ったからだろう。
だからこそ攻撃の軌道が読めるのだ。
『大丈夫だよ。ほむらちゃん。わたしが必ずみんなを守ってみせる』
そういうことだったんだ……。
117:
『わたしなりに考えたんだよ。どうすれば、ほむらちゃんのことを助けられるか。どうすれば、ほむらちゃんの気持ちがわかってあげられるか。怒られるって分かってても……これぐらいしか思いつかなかった』
口の中に鉄の味が広がるが、痛みさえ私は認識できなくなっていた。
心が壊れそうになるのを必死にこらえながら、空中にいるまどかを見守る。
善戦していたはずのまどかは、いつの間にか動きが鈍くなっていた。
魔力の限界なのか、弾薬の残量が残り少ないせいで攻めあぐねているのか。
何度も見てきたわたしにはわかる。
まどかは勝てない。
119:
いくら私より動きが良くなっているとはいえ、
一人でやりあえるような相手ではないこと。
私の力では限界があることも。
手元のソウルジェムを見つめると、それはあまりに綺麗に澄んでいた。
まどかがあの魔女に勝てなかったとしたら、わたしは最終的にこれを使ってまどかを助けることになる。
わたしが倒れても、まどかは死ななければ……。
120:
でも、そんな結末をまどか自身が認めないはずだ。
もし私がこの力でワルプルギスの夜を倒したところで、時間遡行することができてしまう。
だからこそ、何度も時間を繰り返してきたのだ。
この町の全ての人間を護ることを目指して、真っ直ぐ歩んできたのだ。
わたしと同じように…何度も…何度も…。
わたしは……まどかを守るために何度も時間を繰り返して来たんじゃなかったの?
なのに……。
同じものを……同じ苦しみをまどかに味あわせてしまった。
だけどわたしにはもうまどかを止めることは出来ない。
永遠のループからまどかを解放することは出来ない……。
まどかがワルプルギスの夜に打ち勝つか、あるいは……。
まどか自身が諦めて、希望を失うまで。
122:
だけど……それでも……。
まどかが傷つく姿をこれ以上見ていられない。
ほむら「まどか!今 助けにいくからっ!」
私の声を聞いたまどかは、こころなしか笑っているように見えた。
133:
気がついた時にはボロボロになっていた。
町は半壊し、魔女の姿はどこにもない。
わたしはやり遂げたのだ……。
胸元のソウルジェムを確認すると、今にもグリーフシードへと変化しそうなほどに濁りきっていて……。
そしてわたしは異変に気づいた。
なんともない…?
魔女に変化するとき、まどかは悲痛な叫びをあげていたはずだが…痛みも何もない。
まるで夢でも見ているのかと遠くを眺めた。
まどか「ぐっぅううううううああああああああああああ」
まどかっ!
134:
声のする方へ走っていくと、胸に手を当てながらもだえ苦しむまどかの姿があった
ほむら「まどか!これはどういうことっ!?」
キュゥべえ「それについては、ぼくが代わりに答えるよ」
ほむら「インキュベーター!」
キュゥべえ「君は鹿目まどかと身体そのものが入れ替わったと思っているようだね
 無論それは間違いじゃない。
 けれど、君たちにとって肉体は単なる入れ物に過ぎないということを
 忘れたわけじゃないだろう?」
135:
ほむら「まさか。まどかとは身体が入れ替わっただけで、ソウルジェムは……」
キュウべえ「そう。キミの本体はまどかが持っているソウルジェムだよ」
そんなはずはない。
ほむら「それだとわからないことがある。
 まどかはわたしのソウルジェムをかかえていた。
 
 それにも関わらず、何の支障もなく生活出来たのよ。
 
 お互い違う持ち主にあってどうして平気でいられたの!?」
138:
キュウべえ「キミたちはソウルジェムを所持していなくても、
 一定範囲であれば肉体を動かすことができるじゃないか。
 だから鹿目まどかはキミとずっと離れなかった。
 
 キミの家に泊まったり、ずっと二人でいたのはそういう理由からだろうね」
ほむら「けどそうだとしたら、なぜ私はまどかの力を使うことが出来たの?」
キュウべえ「それはボクにもわからない。
 ただ、魔法少女同士の身体が入れ替わるなんて事例がない。何が起こるか全くわからなかった。
 
 お互いの身体でお互いの能力が発揮できたとしても不思議じゃないんじゃないかな」
139:
まどか「うううっ」
ほむら「まどかっ!?」
まどか「ほむら……ちゃん?」
よかった!まだ意識がある。
まだ、間に合う!
ほむら「まどか、早く!魔女に変わる前に、早く時間を戻して!」
まどかは盾にむかって右手を伸ばす
そして、中から一丁の銃を取り出して、微笑んだ
まどか…?何を…。
141:
「ほむらちゃん言ってたよね。どうにもならないことは、どうにもならないのかもしれないって。
 わたしね、今でもそんなことないって思ってるんだ。
 どんなときでも諦めなければ、願いは叶うんだって」
「なら。なら諦めないで! 諦めないで自分自身を救うためにまたっ!」
わたしと同じように何度時間を繰り返すことになっても。
だがまどかは首を横にふった。
「わたしの叶えた願いはほむらちゃんとは違うから……」
遠い空の向こうにいる誰かを見るようにまどかは笑った。
143:
まどか「何度も、何度も時間を繰り返して…やっとほむらちゃんの隣に立てた気がするの。
 同じものを見て――守りたい人を守れない苦しみが、想いがすれ違っていくことが、こんなに辛くて寂しいことだと思わなかった。
 こんなに悲しいことを何度も繰り返してきたんだって思うと、涙が止まらなくなって…
 
 でも、ようやくほむらちゃんの気持ちを受け止めることが出来たんだって――よかったって……」
ほむら「いや、やめて! わたしの気持ちがわかるなら、戻して、早くっ!
 だってわたしはあなたにただ生きていて欲しいだけなのっ」
144:
まどか「ほむらちゃん……。
 言ったでしょ。わたしの願いはほむらちゃんとは違うって。
 わたしだけが生きてたって、ダメだよ。だから祈ったんだよ。
 もうほむらちゃんを一人にしたくないって。
 どんなことがあっても、この先ほむらちゃんが一人にならないことを」
 
 
ほむら「言っていることとあなたがやろうとしてることが違うっ!
 あなたが死んで、そうしたらわたしはまた一人にっ!」
まどか「大丈夫だよ。
 仁美ちゃんも、クラスのみんなも、それにパパもママも……みんなわたしの自慢の大切な人だから。
 きっとほむらちゃんを……」
ほむら「嫌……嫌よっ。わたしは、わたしは何のためにここまで……」
147:
まどか「忘れたくなかった。
 忘れてほしくもなかった。
 この先何度でもほむらちゃんはわたしと出会って……。
 そのたびに気持ちがどんどん離れていく。
 頑張れば頑張るほど、ほむらちゃんが遠くにいっちゃうんだって思ったらね、
 もう、その手を取るしかなかったんだよ
 でも大切な人を守れないって……自分だけしか何も覚えてないって……こんなに辛いことだったんだね。
 こうやってお話したことも、次会えば全部忘れちゃってて。
 またほむらちゃんに怒られて……。何やってるんだって叱られたけど。
 それでもまた……私のことを考えてくれる。
 たった1日だけれど、やり直せることが…またお友達になれることが…嬉しかったんだよ」
148:
そういってまどかはわたしの左手を取った。
まどか「ねえ、ほむらちゃん。
 わたし……パパもママも悲しませたくない」
 
わたし一人生きろっていうの?
わたしだってまどかの家族を悲しませることはしたくない。
だけど、だけどっ…できない。
ほむら「あなたが死ぬならわたしだって死ぬ。
 それが嫌なら、早く時間をっ!!」
149:
かつて私はまどかに憧れていた。
まだ未熟で、ろくに前を向いて歩けなかったころのわたし。
まどかのようになれたら、自分もこんなふうに笑えたら…と。
まどか役『自分がかっこ良くなっちゃえばいいんだよ』
皮肉にもわたしはあの時夢にみていた理想の自分――まどかになろうとしているのだった。
「無理よっ! だってわたしはあなたみたいに笑えないっ!」
「いいよ。それで……いいんだよ」
「まどか?」
「何度もお友達になってわかったよ。
 わたしはほむらちゃんとはやっぱり違うんだって。
 同じように時間を繰り返してきたけど、ほむらちゃんはほむらちゃんなんだって。
 一生懸命で、友だち想いで、夢中になると周りが見えなくなっちゃって…
 そんなほむらちゃんがいてくれれば……わたしは…きっとまた」
151:
禍々しく濁ったまどかのソウルジェム。
それをめがけ、彼女は引き金を引いた。
「まどかぁああああああああああ!!」
銃弾は胸元の宝玉を貫き、私の胸元をすり抜け空へ伸びていく。
禍々しい塊は音を立てて壊れるとともに、一人の少女を人形のように変えてしまった。
わたしだったものは、その場に倒れ……瞳にはもう光が映っていない。
152:
まどかの魂は散り、元に戻す手段を失ってしまった。
まどかに預けていたわたし自身を――ソウルジェムを手に取る……。
だがそれを今までのように、身近に感じられない。
魔法を使ったり、変身することが出来そうになかった。
その代わり魔法を使わないでも消耗していた、以前のソウルジェムとは違いまるで汚れることがない。
ただの命の核がそこにあった。
「っっっっっぅうううううううううううう」
何故、私が生きているのっ。
この身体はあなたのものでしょう?
わたしが動かしていいものじゃない。
あなたはあなたでいるから価値があるから意味があるの。
153:
こんなに胸が苦しい!
もう戻せないことが、あなたがいない未来に生きていくことに何の希望も感じないっ!!
あなたはあなたでいるから価値があるから意味があるの。
なのにっ!!
どうして、このソウルジェムは濁りも汚れもしないのよっ!!
「まどかぁああああああああああああ」
155:
結局わたしは、まどかの意志を継ぐことにした。
まどかが望んでいたように、家族を悲しませるのは本意ではなかった。
あの子の最後の望みだ。
私にどこまで出来るのかわからなかったが、私なりにまどかを演じることにしたのだ。
始めはどうにも居心地が悪かった食卓も、今ではすっかり慣れた。
まどかがどんな環境で育ってきたのか、どうしてわたしにも優しくしてくれたのかがよくわかる――それぐらい素敵な家族に囲まれていたから。
不思議と罪悪感は湧かなかった。
騙しているという感覚はなく、自分がそこに溶け込んでいるのが自然だと思うようになって……。
まどかが生きろと言ったのだから、何か文句があるのならまどかに言えというぐらいに開き直れるほどになり…。
157:
相変わらず、ソウルジェムは穢れを知らない。
インキュベーターの暗躍によって不毛な連鎖が繰り返されている。
そして今日も私のもとにやってきた。
「もうは用がないはずでしょう? いい加減付きまとわれるのは迷惑なのだけど」
キュウべえ「とんでもないね。魔法少女になったはずの君はどうして魔女と戦う運命から逃れることができたのか、
 そしてその後どんな人生を歩んでいくのか。
 これほど興味深い研究対象はないよ」
「どうしていつもまどかにこだわるのよ……」
「あいにくこだわりなんて理屈にあわないものをぼくたちは持っていないんだ。」
「でもそうだね。強いて言うなら、鹿目まどかが魔女になって生まれるはずだったエネルギーの対価は得たいところではあるよ」
「まるで釣り合いがとれないけれど、今となってはどうすることもできないからそれは仕方ない」
ため息を禁じ得ない。
178:
こいつに監視されてすでに、3年が経つ。
わたしの正体を知っているものは、こいつともう一人。
朝の緑道公園を歩いていると、後ろから聞き慣れた声がした。
仁美「お早うございます。ほむらさん」
ほむら「ええ、おはよう」
振り返ると上品に頭を下げてにっこり笑う志筑仁美の姿。
その声を聞くと、いつの間にかインキュベーターはどこかへ消えていた。
179:
今わたしは彼女と同じ日常を過ごしていた。
仁美「今日もお変わりなくてなによりですわ」
ほむら「あなたこそ」
結局上条恭介とは別れてしまったようだ。
仁美「ふふ…」
ほむら「何がおかしいの?」
仁美「いえ。学校でのあなたとのギャップに慣れなくて……」
ほむら「そんなに変かしら?」
仁美「ええ。いつまで経っても退屈いたしませんわ」
むっとした顔で彼女を見上げた。
180:
仁美「それと。教室で笑いを噛み殺して震えるのはやめてくれないかしら? そうも笑われるとさすがに気分が悪いわ」
ほむら「あら、気づいてらっしゃったんですの?」
当たり前だ。
ほむら「やっぱりわたしではまどかみたいに上手く笑えていないってこと?」
仁美「まどかさんとあなたではそれほど差がありますので」
そうはっきり言われると、さすがに傷つく。
仁美「でも、昔からのお付き合いのある方が何も気づいてないところをみると、案外悪くないのかも知れませんわね。
 わたしが全てを知っているから、おかしいだけなのかもしれませんわ」
ほむら「……そう」
181:
仁美「でもご家族の目は誤魔化せるとは思えないのですが」
ほむら「騙すも何も、初めからあの人たちは気づいているような気がする」
仁美「…どういうことですの?」
ほむら「もしかしたら、まどかが生きているうちに何か家族に話をしていたのかも知れない。
 今はともかく、当初はわたしがまどかとして振る舞うには相当無理があったもの……
 …今となっては本人たちに直接聞く以外に確かめる手段がなくなってしまったわけだけど」
仁美「……思ったより複雑ですのね」
それでもまどかの両親はわたしを受け入れてくれた。
もしわたしの予想が正しくて、まどかが私のことを話していたのであれば、まどかはこの時間で全てを終わらせるつもりだったという
ことになる…何もかもあの子の思惑通り。
だけどわたしにはどうすることも出来ない。
あの人達が何を思って、わたしに黙っているか…
気づかないふりをしてくれているのかは分からないが、
わたしはあの子の意志を守ることだけが、彼女に応える唯一の術だ。
182:
ほむら「家族といえば、わたしにもう一人姉弟ができるのよ」
仁美「それはおめでとうございます。けど不思議なものですわね。わたしはあなたたちの世界に踏み入れてないので詳しいことはわかりませんが、まどかさんが『あなたと離れたくないと願ったこと』が、二人の身体を入れ替えるという結果に繋がるなんて」
ほむら「そうね。でも結果的には同じこと。ソウルジェムがあれば嫌でもそういう状況になるのよ。あの子はわたしとは離れることができなかった」
仁美「でも、現にあなたは今まどかさんとは離れ離れになってしまったではありませんか。そういう意味ではまどかさんの願いが叶っているとは思えないのですが」
ほむら「…それはどうかしら?」
183:
仁美「え?」
まどか「うぇひひ。なんでもないよ、仁美ちゃん」
仁美「ちょっと、暁美さん! ごまかさないでください。何かあるんですの?」
ほむら「さあ、なんだろうね?」
仁美「やっぱり あなたはまどかさんとは全く違いますわよ! そんなまどかさんはそんな意地悪はされませんでしたもの」
そう。わたしとまどかは違う。それはまどかも言っていたことだ。
『ほむらちゃん言ってたよね。どうにもならないことは、どうにもならないのかもしれないって。
 わたしね、今でもそんなことないって思ってるんだ。
 どんなときでも諦めなければ、願いは叶うんだって』
あの言葉の意味をずっと考えていた。
まどかは死を覚悟していたはずなのに、別れるとは思っていない、まるでいつか再会できることを信じているような目をしていた。
もしあの子が本当に離れ離れにならないことを望んだとしたなら……。
いつかは……あるいはもうすぐ……。
184:
?数年後?
ほむら「ただいま」
家に帰ると勢い良く台所から玄関に向かってくる足音が響いた。
今日もわたしの帰りを出迎えてくれるようだ。
『おかえり、ほむらちゃん!』
3歳になったばかりの、私の妹。勢いよく私を抱きしめる。
18

続き・詳細・画像をみる


iOS 8とOS X 10.10に新たな脆弱性、最新版で修正済 ―早急なアップデートを

整形して完璧な美貌になった少女がネットで「お化け」や「妖怪」などとコメントされ激怒

NHKの大河ドラマっておかしくね?

まだ17のガキだけど旧車に乗りたい

凛「プロデューサーがバツイチって本当?」モバP「・・・・・・ええ、まぁ」

【画像あり】底辺のカツ丼wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

菅官房長官「名前は出せないが、Apple級の企業が日本に拠点を作る準備中。名前は出せないが」

【悲報】インテル公式、「IEブラウザ」をゴミ扱い

青森のハロワの求人wwwwwwwwwwww

「高学歴であればあるほど損をする」女性の雇用環境

「可哀想な子なのよ」と近所の放置子を招き入れる義両親。どうしたものか…

【動画あり】このCMの女性wwwwwwwwwwww

back 過去ログ 削除依頼&連絡先