花陽「無我夢中」back

花陽「無我夢中」


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花陽「・・・」
凛「ねぇ、寝てるの?」
花陽「・・・」
凛「夢、見てるの?」
花陽「・・・」
凛「私は見たよ。素敵な夢。かよちんと一緒にラーメン屋に行く夢。とっても楽しかった」
花陽「・・・」
凛「かよちんもいい夢見てるといいな。おやすみなさい」
4:
キーンコーンカーンコーン。
授業終了のチャイムが頭の中で何度もリピートし、私はようやく授業中に居眠りをしていた事に気付いてうつぶせていた顔を上げる。
机には吐息の跡が残り少し湿っており、袖でそれを拭うと前の席にいる凛ちゃんの視線に気付いた。
凛「やっぱり寝てたんだー」
花陽「うん。えへへ。なんだかちょっと眠くて」
凛「そんなんじゃ今日のダンスの内容覚えられないよー」
頬をぷっくりと膨らませてある凛ちゃんを見て夢見心地の私は怒られるのも悪くはないかなと思う。
5:
凛「でもかよちんが授業中に寝るだなんて珍しいね。お腹いっぱい?お昼食べ過ぎた?」
花陽「ううん。この前体重測ってみたら二キロ増えてて・・・だから今日お昼おにぎり二個しか食べてない」
凛「確かに、かよちんにしたら量が少ないなぁって思った!もぉちゃんと食べなきゃダメだよー」
花陽「でも二キロだよ?私、ショックでダイエットしなきゃ!って思ったの!」
凛「いっぱい食べるかよちん見るの好きなんだけどなぁー」
花陽「ふふっ。ありがとう。それじゃあそろそろ屋上に行こっか」
凛「そだね!」
7:
私達は昨日のテレビの話をしながら屋上へと向かった。
扉を開けると爽やかな空気が肺に流れもうすぐ春が近いんだなぁと感じる。
空は晴れやかに雲はミルクのように白くゆったりと流れて行き。
心地いい時間の流れを感じさせてくれる。
凛「気持ちいいねー」
花陽「本当だね。ぽかぽかとして暖かいし絶好の練習日和だね」
屋上を見渡し、まだみんなが到着していない事を確認するとフェンスに腰掛けて昨日のテレビの話の続きを話そうと決める。
8:
フェンスの網に体が少し食い込むのを感じ、やっぱり二キロ太ったら体に出るんだと落ち込む。
凛「でさー。今年の夏は何しよっか!」
テレビの話は凛ちゃんの中でもう終わっていたらしく、まだ先の夏の予定の話に切り替わる。
私は少し考えて考えて考えて、やっぱりずっと練習なんじゃないかなぁと思ったけど口には出さない。
凛「きっと真姫ちゃんの別荘にまた行けるよ!海で遊べる!山はもういいやー」
花陽「そうかなぁ?私、山は好きだよ。綺麗な景色を見ながらおにぎり食べるの好きだもん」
凛「そうだよねー。でも山登りきついよぉー」
花陽「でも達成感があったよね!」
凛「かよちん海未ちゃんみたいになってるよ!」
花陽「え??そうかな?」
凛「山登り好き星人!」
9:
花陽「山登り好き星人?」
凛「海未ちゃんの事!」
花陽「確かに海未ちゃん山登り大好きだよねー。あーあの別荘にまた行きたいなぁ・・・」
まるで昼下がりの日曜の公園みたいに時間はただ過ぎて行く。
止まっていると錯覚さえする。
みんなは珍しくここに来るのが遅く、今日の集合場所は部室だったんじゃないかと思ってしまう。
だけど、やっぱりここで合ってるみたいで穂乃果ちゃん海未ちゃんことりちゃんが三人仲良く屋上へ現れた。
穂乃果「あっ、二人共もう来てたんだー」
ことり「ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった」
海未「待ちましたか?」
10:
凛「遅いよー!」
海未「やっぱり・・・穂乃果が授業中クラスの子とお喋りしてて先生に怒られてたんですよ」
穂乃果「ちょっと海未ちゃん。しーっ!だよ!」
花陽「あれ?絵里ちゃんと希ちゃんとにこちゃんは?」
ことり「あれ?まだ来てないの?」
海未「真姫もいませんね」
凛「真姫ちゃんはちょっと遅れるってー」
海未「そうですか」
穂乃果「みんなが来るまで待ってる?ストレッチしとく?」
海未「いえ、今日はみんなダンスを覚えないといけませんから歩調を揃えた方がいいでしょうから待ってましょう」
11:
ことり「うん、そっちの方がいいかもねっ」
凛「こんないい天気なのになんか持ったいないなぁー」
穂乃果「いいじゃん!みんなでお喋りしてようよ!」
ことり「そうだね。でも、急に暖かくなっちゃったね」
花陽「きっと春が近いんですよ」
海未「本当、すぐ隣にいるみたいですね。過ごし安い季節です」
凛「凛はどの季節も好きだよ!」
ことり「私は夏は嫌かなぁ」
穂乃果「夏と言えばみんな夏は何して遊ぼっか?」
12:
海未「はぁ・・・夏は練習に集中しなきゃダメですよ!」
穂乃果「でもみんなで海に行きたいよ!海に!」
花陽「山も行きたいなぁ」
海未「遊ぶ事ばかり考えたらラブライブで失敗してしまうかも知れませんよ!今から気を引き締めないと!」
凛「海未ちゃんまじめー。それにこの話さっきかよちんと話してたばっかり」
ことり「え、そうなの?やっぱり春になったらみんな夏の事を考えるんだねっ」
穂乃果「それあるかも!やっぱり暖かくなったら考えちゃうよね!夏!」
海未「と言うより、次の季節の事をずっと考えてるような気がします」
13:
穂乃果「それにしてもみんな遅いよー」
花陽「何かあったのかなぁ?」
ことり「うーん。私、絵里ちゃんに電話してみる!」
花陽「あっ、じゃあ私は真姫ちゃんに電話するね」
海未「すぐ来てくれるといいのですが・・・」
携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んでみるが、慣れてる感触がない。
ポケットの中には糸くずしか入っておらず、他のポケットも弄るけど携帯は何処にも無く、そう言えば鞄が何処にもないような・・・。
凛「かよちんどうしたの?」
花陽「うーん。鞄、教室に忘れたみたい」
14:
穂乃果「取り行ったら?」
花陽「うん。携帯も中に入ってると思うし取り行ってくるね!」
凛「うん!真姫ちゃんには凛から連絡しておくよ!」
花陽「ありがとう!じゃあ行くね!」
立ち上がり、背中を適当に叩く。
屋上を後にし、教室の扉を開ける。
見慣れた姿の人が一人、私の机があった場所に立っていた。
花陽「真姫ちゃん?」
16:
真姫ちゃんは振り向かない。
顔を手で覆っている。
それに私の机がやっぱり何処にも無い。
本当なら真姫ちゃんが立っている場所にあるはずなんだけど、無い。
もちろん、机に鞄をおいていたので鞄も見当たらない。
真姫「花陽・・・」
耳にかろうじて届く声で私の名前を呼ぶ真姫ちゃんはどこか悲しげで、鼻をすすったので泣いているんじゃないかと思った。
花陽「ど、どうしたの?」
真姫「花陽・・・」
やっぱり真姫ちゃんは顔を手で覆ったままで私の声はまるで届いていない。
指と指の間から涙がポタリポタリと流れ落ち、泣いていると確信する。
17:
花陽「なんで泣いてるの?」
真姫「花陽・・・花陽・・・」
不意に錯覚を感じる。
太陽光がガラス越しに教室に降り注ぎ。
この世界には私と真姫ちゃんの二人だけ。
そんな錯覚。
実際には教室の外からは生徒が話す声が聞こえるが、気にも留めない。
きっと真姫ちゃんが泣いているから。
理由は分からないけど、真姫ちゃんが泣いているから、意識は全部真姫ちゃんに集中してしまって他の事なんてどうでもよくなってしまっているんだろう。
だから私はその意識に従い、真姫ちゃんの肩にそっと手を置く。
真姫「花陽・・・花陽・・・ごめんなさい」
18:
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムだ。
ちょっとおかしいなと思った。
このメロディは何時も決まった時間に鳴る。
さっき聞いてからまだ1時間も経ってないのに鳴るのはおかしいと思った。
何かの間違いか私の勘違いかのどちらかだ。
うつ伏せた顔を上げると凛ちゃんと目が合う。
凛「やっぱり寝てたんだー」
花陽「えっ!わ、私寝てた?」
凛「うん!授業中に寝るだなんて珍しいね!」
19:
花陽「えっ?授業中?えっえっ?」
凛「もぉー寝ぼけてるのー?」
花陽「ね、寝ぼけてるのかも・・・」
私は夢を見ていたのか。
でも、さっきの出来事が到底夢だとは思えない。
背中に食い込むフェンスの感触やポケットの中の糸くず。
それに、触れた真姫ちゃんの肩。
一瞬だったけど小さく震えていてとても悲しそうだった。
でも、クラスメイトの声や目の前で不思議そうな顔して覗き込む凛ちゃんのリアルな息遣いを感じてやっぱり夢だったと思えざる負えない。
凛「やっぱり寝ぼけてるー!」
花陽「う、うん。ごめんね。ちょっと不思議な夢を見たから・・・」
20:
凛「不思議な夢ー?」
花陽「う、うん。真姫ちゃんが泣いてる夢。とっても悲しそうだった」
凛「えー!何で泣いてたの?」
花陽「分かんない。でも私に謝ってたごめんなさいって」
凛「何か悪い事したのかなぁ?おにぎり盗んだとか」
花陽「真姫ちゃんはそんな事しないよー」
凛「じゃあ・・・現実を受け入れられなかったとか」
花陽「えっ?」
凛「何でもないよ。さぁ練習に行こっ?」
花陽「う、う?」
21:
ジェリービーンズが宙に浮かびそれを適当に食べながら屋上へと向かう。
私が食べたジェリービーンズは青でブルーベリー味で。
凛ちゃんのはアップル味。
お菓子で出来た屋上の扉はあんまり好きじゃない。
ノブを捻ると生クリームが手に着いてベタベタするからだ。
だからポケットからティシュを取り出して生クリームが手につかないようにして開ける。
凛「今日もいいお天気!」
空は青と白しか無くて。
ミルクで出来た雲が横へ横へと流れているから地球は丸い事を実感させる。
22:
凛「明日は雨が降るみたいだよ。コーヒー持って来なきゃねー」
花陽「カフェオレ飲みたいもんね」
ふと気付くと扉には誰がかじった跡がある。
きっとお腹が減った誰かが食べたのであろう。
希「あれー?二人とも早くやん」
凛「あっ希ちゃん!」
希ちゃんのほっぺにはビスケットの食べカスがついている。
この扉は希ちゃんが食べちゃったのかと思った。
23:
花陽「希ちゃんビスケットついてるよ」
希「あっ、うふふ。ばれた?」
凛「あーっ!扉食べたのー?」
希「お腹減ったなぁと思って食べちゃった」
凛「屋上にはゼリービーンズ浮いてないもんねー風にさらわれてしまうからだってこの前の授業で習った!」
花陽「テストに出るって言ってたね」
希「二人共よう勉強しとるなぁ。うちも見習わんとな!」
ほっぺに付いたビスケットをハンカチでゴシゴシと落としてにっこりと笑う。
24:
凛「所でみんなは?」
希「あぁ、今日はうちら三人だけや。みんな用事があるんやて」
花陽「そっかぁ」
凛「練習は?」
希「無しや!二つ年上のウチの命令や!ストレッチも無し!」
凛「じゃあ今日は何もない日?」
希「やんな!どっか行く?」
花陽「あっ!じゃあ牛丼食べにいこ!」
希「ええなそれ!」
25:
凛「あっそう言えば希ちゃん夢の事とか詳しい?」
希「夢?うーん夢占いはちょっと専門外やなぁ」
花陽「そっかぁ。今日、不思議な夢を見たんだぁ」
希「不思議な夢?」
花陽「うん、真姫ちゃんが泣いてる夢。覚める前に私にごめんなさいって謝ってた」
希「真姫ちゃんが泣いてるとこ想像でけへんなぁ。でも、夢って言うのはみたいと思った無意識の映像やから本当に泣いてたりするかも」
花陽「見たいと思った無意識の映像?」
希「うん!真姫ちゃんが泣いてるとこ。いや、真姫ちゃんを見たかたんとちゃう?」
26:
花陽「真姫ちゃんを・・・何だか余計分からなくなっちゃった」
希「まぁまぁそのうち分かるようになるんやない?ウチだって柄にも無くこうして空を見上げてたんやし」
凛「そうかなぁ?希ちゃんよく空を見上げてるような・・・」
花陽「でも何で空を見上げてたりなんかしてたの?」
希「んー?秘密。あ、夢の話に戻るけど夢って言うのはタチが悪い部分もあるなぁ」
花陽「秘密・・・気になるけど、タチの悪い部分ってなに?」
希「今見てる夢が夢だと思えないことや。みんな見てる間は現実だって思ってしまう。だからこうして話してるのも実は夢だったりして。ふふふ」
27:
凛「でも凄く現実だよーそれはないよぉー」
花陽「でも、真姫ちゃんが泣いてた夢も凄くリアルだったよ」
希「どっかが夢でどっかが現実?無我夢中になって考えれば分かるかもね」
花陽「無我夢中に・・・」
希「そうや。カードがそう告げてる」
希ちゃんの言葉を聴き終えた途端。
私の視界は何かに遮られた。
明るい世界は暗い世界へ。
見渡す限り同じ黒。
薄い、濃いも無く一定して同じ黒だ。
花陽「だ、誰?」
後ろに人の気配はしないが目を遮ってる人に向かって話かける。
凛「かよちん?」
28:
花陽「り、凛ちゃんなの?」
凛「何が?」
花陽「希ちゃん?」
希「どうしたん?」
目を開けてる感触はある。
むしろ普段より大きく見開いてる。
瞬きをしている感触もある。
誰かが目を塞いでる感触はない。
大きく見開いてるのに景色は黒。
雲も空も希ちゃんも凛ちゃんも何も見えない。
何も見えない。
29:
私の目が突然見えなくなったのを理解し、必死に原因を探す。
頭は今日の朝起きた事を思いだし、現在に至るが何も原因が分からない。
花陽「目が・・・見えない。見えないよ!」
凛「か、かよちん!?どうしたの?」
花陽「目が見えないよ凛ちゃん希ちゃんねぇ・・・ねぇ」
二人が何処にいるのか分からない。
花陽「何処にいるの?怖いよ。目が見えない・・・見えないよ!」
希「花陽ちゃん」
花陽「の、希ちゃん?ど、何処にいるの?な、なんか目が・・・眼科行かなきゃ」
希「花陽ちゃん・・・ごめんなさい。ごめんなさい」
30:
ま。ま。ま。ま。ま。まーまーまー。
ま。ま。ま。ま。ま。まーまーまー。
不思議なチャイムだ。
いつの間にか学校のチャイムはこのヘンテコな音色に変わってしまっていた。
顔を上げてみると、凛ちゃんが私の顔をじっと見つめていた。
凛「寝てたの?」
花陽「・・・」
三回目だ。
よく分からないこの現象。
それに、目が見えるようになっている。
凛ちゃんが不思議そうな顔で私を見てるのは確かに視認した。
花陽「・・・これ、なんなの」 ?
31:
凛「どうしたの?顔真っ青だよ?大丈夫?」
花陽「よく分からない・・・」
凛「保健室行く?」
花陽「ううん。気分悪いとかじゃないから大丈夫だよ。でも、ずっと夢を見てるような気分」
何で突然目が見えなくなったのか。
何で真姫ちゃんと希ちゃんは私にごめんなさいしたのか。
何も分からない。
そして、多分これも夢だ。
私は不思議な夢を繰り返し見てる。
凛「本当に大丈夫?」
凛ちゃんが立ち上がると鍵盤の地面がポロンポロンと音を立てた。
32:
花陽「う、うん。ありがとう」
凛ちゃんに手を惹かれ。
鍵盤の地面を音を鳴らしながら歩く。
天井からぶら下がった音符に体が何度かぶつかれば、まままままままーまーまーと不思議なメロディが学校に響く。
でも本当にこの鍵盤の地面は歩きにくい。
体重でキーは沈みまた次のキーを踏む。
凛ちゃんが先を進んでるので段差が次々とでき普通に歩くよりも疲れる。
33:
凛「着いたよ!さぁ入ろう!」
扉を開けるとドレミファソラシドと音がした。
保健室の床は太鼓のようで歩く度にドンドンと音がする。
絵里「あら、どうしたの?」
凛「あ、絵里ちゃん!保健室の先生は?」
絵里「いないわよ。代わりに私が先生をやってるの。ふふ。白衣似合う?」
花陽「う、うん・・・」
絵里「どうしたの花陽、元気ないわよ?」
34:
花陽「絵里ちゃんお菓子が扉になる事ってある?ゼリービーンズが宙に浮かぶ事は?午後のチャイムが変になることも地面が鍵盤になる事も無いよね?何で謝るの。何で・・・」
絵里「花陽・・・音階不認識症じゃないそれ」
花陽「これは夢。これは夢。夢、夢、夢・・・早く覚めて」
絵里「やっぱり音階不認識症だわ。聞こえてる?ねぇ?」
絵里ちゃんが口をパクパクと開いて何かを伝えたがってる。
凛ちゃんも心配なのか私の手を握り何かも伝えたがってる。
でも何も聞こえない。
目の次は耳だ。
大きく跳ねて、太鼓を鳴らすが伝わるのは確かな心臓に響く空気の振動。
35:
私の身に何が起こってるのか想像も付かない。
ただ、とても怖い。
目が見えなくなった。
耳も聞こえない。
単なる狂気でただこの夢にに繋がっているだけなのか。
それとも、何か理由があってこの夢を見ているのか。
ふと、希ちゃんの言葉を思い出した。
夢は私がみたいと思った無意識の映像。
これは。
この夢は私が望んだものなのか。
本当に?
私には何を理解するのか何を考えればいいのかもう何も分からない。
36:
絵里ちゃんは紙にペンを走らせている。
凛ちゃんは私の手を握ったままだ。
頭がぐわんぐわんと揺れる。
立っていられない。
その場に座り込み必死で頭を抱えて込む。
もう何でもいい。
お化けでも、怖い人でも何でもいい。
誰かの声が聴きたい。
聴いて泣いて安堵して。
今のこの状況から早く抜け出したい。
紙が私の目の前に。
この手は絵里ちゃんだ。
そして、ごめんなさいと紙にはそう書かれていた。
37:
キーンコーンカーンコーン。
花陽「い、嫌だよ」
凛「かよちん?」
花陽「もう、いいよ!もう怖いよ・・・もうやめてよ」
うつ伏せたままでいいもう顔を上げたくない。
また教室に戻って来た。
凛「かよちん大丈夫?ねぇ?」
花陽「凛ちゃん助けて・・・助けて」
凛「大丈夫だよ」
石鹸のいい香りと背中に柔らかな感触。
お腹をギュッと抱きしめられた私は思わず顔を上げる。
凛「大丈夫だよ。助けるよ。よくわかんないけどかよちんが困ってるなら助ける」
38:
花陽「凛ちゃん・・・ありがとう」
そして、これまでに起こった事を凛ちゃんに話した。
私がずっと夢を繰り返し見てる事。
真姫ちゃんの事。
お菓子の夢の事。
音の世界の事。
みんな謝る事。
目が見えなくなる事。
耳が聞こえなくなる事。
凛ちゃんは自分の事のように聴いてくれた。
それだけで何だか良い方向に向かってる気がする。
39:
凛「うーん。かよちんごめんなさい。凛、よくわかんないよ・・・」
花陽「そっか・・・」
凛「でも、この世界が夢なら頬っぺたをつまんでみれば目が覚めるかも!」
花陽「えっ?」
凛「試しにやってみようよ!ね?」
花陽「う、うん」
凛「行くよ?えいっ!」
凛ちゃんは私の頬っぺたをつまんでグルグルと回し始める。
40:
・・・・・・・・・・・・
花陽ちゃん・・・。
この人、花陽ちゃんじゃないよ。
そんな。こんな事って。
嫌です。嫌です!
これって本当に現実なの?
なんで・・・こんな事に。
嘘よ。嘘よ!嘘よ!嘘よ!!!
・・・・・・・・・・・・
41:
暗闇の中で聞こえてる来たのはみんなの声。
私はみんなの姿が見たくて、どうしても見たくて。
目を開こうとしたけれど、目も開かなくて何も出来無くて。
いつの間にか閉じてた目を開けると、凛ちゃんの姿は見当たらない。
ただ、マネキンがまるで生きてる人間のように喋り笑い歩く。
その光景がとても気持ち悪くて私は教室を飛び出した。
42:
廊下にもマネキン。
私にライブ楽しみにしてるよと話しかけて来たけど、気味が悪くて走り抜けた。
にこ「ちょっと!」
花陽「凛ちゃん!凛ちゃん!!」
にこ「ちょっと待ちなさいよ!」
聞き覚えがある声がして立ち止まる。
にこ「ど、どうしたの?廊下は走ると危ないわよ!」
花陽「に、にこちゃん・・・ううっ。にこちゃん・・・」
にこちゃんの姿を見た途端、思わず抱き付いて泣いてしまった。
にこちゃんはそんな私を否定せずに抱きしめ頭を撫でてくれる。
にこ「落ち着いて。落ち着いて。何があったの?」
43:
花陽「みんな。みんなマネキンになって・・・凛ちゃんもいなくなってて私怖くてどうしたらいいか分からなくて。にこちゃん・・・」
にこ「分かったから。ほら、落ち着いてほら水でも飲みなさい」
にこちゃんはバッグから水を取り出すとそれを宙に浮かべた。
重力がまるで仕事をしていなく、水は球体になりふわふわと漂う。
花陽「もう分かったよ・・・」
にこ「えっ?」
花陽「早く覚めてよ夢から・・・」
にこ「・・・花陽。ごめんなさい」
44:
キーンコーンカーンコーン。
今度はうつ伏せにもなってないし寝てもいない。
ただ蝶が私の回りをヒラヒラと舞い、それを目で追う。
助けて。
近くから声が聞こえた。
何かが焼ける匂いと黒煙が空へ昇って行くのを見た。
蝶はその黒煙の方へ飛び、導かれているような気がしたので着いて行く。
凛「助けて!助けてー!」
燃え盛る私の家。
二回の窓から必死に助けを求める凛ちゃん。
花陽「凛ちゃん!」
45:
凛「・・・助けて!助けよ!」
花陽「助けなきゃ。凛ちゃんを助けなきゃ!」
私は夢の中にいる。
だから熱いのも痛いのも何も感じない。
感じたとしても夢だから起きたら元通りになる。
凛ちゃんを助けなきゃ。
燃え盛る私の家へと入り、二階へと行くが凛ちゃんの姿は何処にも見当たらない。
凛「助けて!」
また凛ちゃんの声だ。
でも今度は家の中からでは無く外から聞こえた。
46:
窓から身を乗り出して外を見る。
凛「誰か助けてよ!」
花陽「凛ちゃん!」
凛「誰か助けてよ!誰か・・・誰か・・・かよちんを助けてよ!!!」
炎が私を襲う。
焼ける体。
煙を大きく吸い込んでしまう。
動かなくなる体。
凛「誰か・・・かよちんがかよちんが死んじゃうよ!助けてよ誰かかよちんを助けてよ!お願いだから!誰か・・・誰か・・・」
47:
キーンコーンカーンコーン。
「私を知りたい?何も感じ無くなった私。ずっと夢の中の私を知りたい?」
花陽「知りたくない」
「でもね。無意識にあなたは思ってしまったの。自分の事を。火事で焼かれ目も耳も失い。煙を吸ってお人形のようになってしまったあなたを」
花陽「お人形?」
「知らないままだったら幸せだったのかもね。でもね。凛ちゃんだけは毎日お見舞いに来てくれたんだ」
花陽「凛ちゃんに会いたい・・・」
「わざわざ音ノ木坂に近い病院に運んで貰ったんだよ。ほら、聞こえるでしょチャイムの音。この最後のチャイムの後に凛ちゃんはいつも来るんだよ」
花陽「凛ちゃんはどこ?」
「もうすぐ来るよ。でも夢の中。私は夢の中。ねぇ、病室に蝶々が迷い混んでるの。助けてあげて」
48:
凛「かよちん!ただいま!今日もお見舞いに来たよ」
花陽「・・・」
凛「みんなもお見舞いに誘ったんだけどやっぱり来てくれなくて・・・きっと今のかよちんを見るのが嫌なんだよ。現実を受け入れ無いでいるみたい」
花陽「・・・」
凛「でもそれって凄く残酷。本当に現実なんてなくなっちゃえばいいのに。ずっと楽しい夢の中で楽しく過ごせたらって思うよ」
花陽「・・・」
49:
凛「私も夢を見るよかよちんの夢ばかりなんだよ。例えばかよちんと手を繋ぐ夢。抱き締める夢。キスをする夢とか幸せな夢ばかり見るよ」
花陽「・・・」
凛「でもね。夢から覚めた時思うの。夢かって。夢は儚いよ。自分が見たいと思う無意識の映像だって言うし、見たくないものだけ見せてくれたらいいのに」
花陽「・・・」
凛「かよちん・・・一緒に死のう?」
50:
かよちんの首はかさぶただらけでカサカサしていた。
首を絞めると何か緑色の液体がドロリと出て来たけど気にはしなかった。
私はかよちんをこのままには出来ない。
かよちんとデートしたいし手を繋ぎたいしキスをしたいし抱きたい。
でも、もうそんな事も出来ない。
かよちんもずっと寝たきりの状態で何も考えずただ生きて行くそれなら死んだ方が何倍もマシだ。
心中すればまた二人一緒に天国へ行けると誰かが言った。
本当かどうかは分からないけど私はそれを信じる。
神様。
こんな私をどうか許して下さい。
52:
キーンコーンカーンコーン。
蝶々が外へ出ようと何度も窓に体当たりを繰り返している。
凛「ねぇかよちん。キスしたいなぁ」
誰もいない教室で凛ちゃんがふと言った。
花陽「でも、蝶々が」
凛「えっ・・・蝶々?本当だ」
何度目かの体当たりの後、とうとう蝶々の羽は片方千切れてしまって片方の羽をバタバタと動かして地面に落ちてしまった。
花陽「可哀相・・・」
凛「そうだね・・・ねぇかよちん」
花陽「蝶々助けてあげなきゃ」
凛「もう、無理だよ。弱ってるし・・・」
花陽「で、でも・・・」
凛「かよちん。キスしよう?悲惨的なこの状況を少しでも素敵な状況にしようよ」
花陽「う、うん・・・」
53:
唇と唇が重なり合う前に蝶々を見た。
蝶々はバタバタと飛ぼうとしていたけど、飛べなくてもがいてもがいたけれど。
花陽「蝶々、結局助けられなかった・・・」
目を瞑って待ってる凛ちゃんを見ながら何だか息苦しくなって来た。
蝶々はもう動かない。
蝶々の綺麗な赤と黒の模様は地面に溶けて沈んで。
唇を重ね合わせようとした瞬間に。
私は夢から解放された。
END
54:
乙乙
凄く引き込まれる文章だった
59:
感動した
60:

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