【ジョジョ】小林玉美「罪と罰と罪の影?」 大嶺醍哉「……」【箱マリ】back

【ジョジョ】小林玉美「罪と罰と罪の影?」 大嶺醍哉「……」【箱マリ】


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1:
「ジョジョの奇妙な冒険」と「空ろの箱と零のマリア」のクロスSSです。
2:
==================================
「犬人間?」
俺は目の前にいる、高校生の発言を繰り返した。
「うん、最近杜王町でも発生しているらしいんだ。『犬人間』が」
高校生――広瀬 康一(ひろせ こういち)どのは真剣な表情で話を切り出した。
俺の名は小林 玉美(こばやし たまみ)。ここ杜王町で金融関係の仕事をしている。
だが少し前までの俺は、どうしようもないクズだった。
俺や康一どの、ひいてはこの杜王町にいる何人かの人間は『スタンド』と呼ばれる超能力を持っている。
そう、とある理由でこの町には『スタンド使い』が多く生活している。もちろん、『スタンド』の存在は公にはされていないので、能力は隠している。
尤も、一般人には『スタンド』は見えないのでそこまで隠すのに苦労はしていないが。
そして俺は、その『スタンド』を使ってユスリ屋をしていた時期があった。
3:
俺の『スタンド』――『錠前(ザ・ロック)』。
その名の通り錠前の形をしたその『スタンド』は、俺に罪悪感を抱いた人物に対し自動的に取りつき、心身に重圧を与える。
相手の俺に対する罪悪感が大きいほど、それに比例して錠前は大きくなり、さらに重圧も大きくなる。
錠前が巨大になれば動くことさえままならなくなるが、精神に対する重圧はさらに大きく、最終的には自殺さえ図るようになる。
そして、この能力の真骨頂は罪悪感につけこんである程度相手を操れることだ。
錠前を掛けられた相手は罪悪感による心身の重圧から逃れるために、俺に許しを乞うようになる。
それを利用すれば、相手から大金を巻き上げることも出来るし、場合によっては身体の提供を求めることも出来る。
俺は……かつてこの能力を使って他人から金を巻き上げていた。
だが、ある日康一どのに出会ったことで俺は変わった。
5:
あの時、俺はいつものようにカモとして康一どのに目をつけ、罪悪感を抱かせることで金を巻き上げようとした。
だが彼も持っていたのだ、『スタンド』を。
俺は康一どのの『スタンド』によって徹底的に叩きのめされた。
それだけじゃない、康一どのの覚悟、そして勇気に感服してしまった。
だから俺は彼の舎弟になることに決めた。
6:
正直、俺の『スタンド』では彼に協力できる機会はほとんど無かったが。
ともかく、俺はそれ以来『スタンド』を悪用することはせずに、真面目に仕事をしている。
『錠前』を使うのはまあ、相手の嘘を見抜くとかそういう時くらいだ。
そして康一どのが言っている『犬人間』とは。
その名の通り、犬の様に這いつくばってワンワンと鳴くことしか出来なくなった人間。
知性を無くし、会話はもちろん不可能。こちらの呼びかけにも応じない。
世間では、この『犬人間』が増え続けていることが話題になっている。
そして世間の注目を浴びる最大の要因。
それは『犬人間』になる人間が全て凶悪な犯罪を起こしているということ。
7:
それも、前科があったとか、過去に大きな犯罪を起こしたというわけではない。
『犬人間』になった後に、その人物の犯罪が明るみになっているのだ。
もちろん、警察も『犬人間』が犯罪者であれば動かざるを得ない。
『犬人間』に責任能力があるかはわからないが、それでも動かなければならなかった。
だが、肝心の『犬人間』になる要因は全く解明されていない。
精神鑑定などもされているが、全くこれといった結論が出ないそうだ。
だがら、俺たちは一つの可能性を考える。
8:
「康一どのは……『犬人間』は『スタンド』の仕業だと考えているんですかい?」
「正直言って、その可能性は高いと思う。ここまで原因がわからない以上ね」
そしてその『犬人間』現象は、俺たちの住む杜王町にまで発生した。
そうなると……
「僕は仗助くんたち一緒に、この件を調べてみようと思う。承太郎さんがいない今、僕たちが動くしかない」
かつて杜王町を訪れていた最強の『スタンド使い』、空条 承太郎(くうじょう じょうたろう)は既にこの町にはいない。
さらに連絡も取れないので、町にいる『スタンド使い』たちが動くしかないのだ。
「康一どの、気を付けて下せえ」
「うん、わかってる。今日、僕が来たのは君も気を付けてくれって言いに来たんだ」
「俺なんかのことを気にかけてくれるとは……ありがとうございます」
俺は仗助と合流しに行く康一どのの背中を見送って、仕事に戻った。
13:
========================
……俺は今、ニュースを見ている。
「ええ、まさか私の近所でも、『犬人間』になる人がいるとは思いませんでした」
顔にボカシを入れられた中年の女性が、路上でインタビューに応えている。
インタビューの内容は、彼女が言った『犬人間』についてだ。
14:
犬人間。
その名の通り、犬の様に這いつくばってワンワンと鳴くことしか出来なくなった人間。
知性を無くし、会話はもちろん不可能。こちらの呼びかけにも応じない。
世間では、この『犬人間』が増え続けていることが話題になっている。
だが、世間は『犬人間』になる原因には決してたどり着かない。
この俺、大嶺 醍哉(おおみね だいや)の仕業だということにはたどり着かない。
ついに俺は手に入れたのだ。俺の願いを叶える力……『箱』を。
『箱』さえあれば、俺は目的を達成することが出来る。
想像力の無い愚者を全て駆逐し、世界を変えることが出来る。
15:
『箱』とは、どんな願いも叶えるアイテムだ。
俺はある時、この『箱』を手に入れた。
創作ではこの手のアイテムは、大抵願いを叶えるためになんらかのリスクを負ったり、
アイテムを手に入れること自体が困難だったりする。
だが、『箱』にはそれらがない。
『箱』を頒布する存在、“O”が気に入った存在に『箱』を渡すだけだ。
16:
“O”とは『箱』を気に入った人間に渡す、いわば超常的な存在だ。
彼(あるいは彼女)は、どんな人間にも姿を変えられ、好きな場所に瞬時に移動できる。
だから、“O”の目的についてあれこれ探るのは意味がない。
俺はただ、渡された『箱』で目的を達成することに集中すればいい。
17:
『箱』はどんな願いも正確に叶える。
そう、「正確に」。
それはつまり使用者の願いに含まれている、「そんな願いなど叶うはずがない」という諦観まで叶えてしまうのだ。
たとえば、「世界を壊したい」という願い。
その願いを叶えるには、「どういうプロセスで世界を壊すか」という具体案が含まれていなければならない。
そうでないと、願いが歪んだ形で叶ってしまうのだ。
さらに、その具体案は自分が達成できると信じきれるものではなくてはならない。なぜなら、信じきれないことは諦観に繋がるからだ。
この例で言えば、世界を壊すために核兵器などが必要だと考えたとする。
しかし、ただの一般人が核兵器を手にすることは当然無理だ。この場合、無理だと考えた時点で「核兵器を手に入れたい」という願いは叶えられない。
そう、願いを叶えるためにはその願いが叶うというある種の確信、あるいは夢想が必要となる。
18:
その一方でこの俺、大嶺 醍哉はどちらかというとリアリストだ。
自分の能力の限界をよく理解しているし、この世にある現象や定義に自分なりの解釈や考えを入り込ませてしまう。
だから俺は、『箱』の力を信じきれなかった。
リアリズムとは、一種の諦観だ。
よく「現実を見ろ」と言う人がいるが、それは主に途方もない夢を諦めさせるために使われる言葉だ。
だからこそ、俺は「願いは叶わない」という一種の諦観を抱えている。
つまり、そのままでは俺の願いは叶えられないのだ。
俺は『箱』を手にしたのは良かったが、自分の本質をわかっていたので、しばらくは使わなかった。
だが、そんな俺に好機が訪れた。
俺の近くで、『箱』を使った人間がいたのだ。
19:
その人物は『箱』を使用し、一種の異空間で行われるデスゲームを開催した。
そして俺は、そのゲームに巻き込まれる形で『箱』の力を目の当たりにした。
『箱』がもたらす数々の異能を目撃したことで、俺は『箱』の力を信じることが出来た。
結局、そのゲームは俺が開催者を殺害したという形で幕を閉じたが、俺にとっては大きな収穫だった。
『箱』を使いこなすステップを一つクリアしたのともう一つ、殺人を犯すということで、俺が後戻りできないようにした。
そう、俺はもう後戻りは出来ない。
後悔はしていない、そのはずだ。やっと俺の願いが叶えられるのだから。
21:
そして、そういった事情を経て、ついに俺は『箱』に願いをこめた。
俺が『箱』にこめた願いは、「他人を操作したい」というものだ。
その願いによって、俺は他人を操作し『犬人間』にしている。
俺は『箱』で直接自分の願いを叶えようとはせずに、その願いを叶えるための手段を願った。
他人を操作することで、なぜ俺の目的が叶えられるのか。
それは、俺が現在『犬人間』にしている人間は全て凶悪な犯罪者だからだ。
22:
俺は『箱』によって身に着けた能力によって、他人の罪を見ることが出来る。
そして、現在警察が捕まえられていない犯罪者を見つけ出し、そいつらを優先的に『犬人間』にしていた。
『犬人間』が出現し始めた時は、世間は突然の現象に驚いたが、『犬人間』の規則性が明るみになるにつれて次第に興味を持ち始める。
そう、『犬人間』イコール犯罪者という規則性が明らかになったからだ。
例え凶悪犯罪を犯したとしても、死刑か無期懲役にでもならない限り、ほとんどの犯罪者は釈放される。
そしてまた、犯罪を犯す者は決して少なくない。
その中でも他人への迷惑を想像しないクズは、また自分が犯罪を犯したところですぐに釈放されると高をくくり、また犯罪に走る。
だが、犯罪を犯したら『犬人間』になってしまうとしたら?
23:
四つん這いになり、知性を失い、ワンワンと鳴くことしか出来ない存在。
言うまでもなく、そんな存在になりたい者などいない。むしろどうあってもそうなるのは避けたいはずだ。
だが、『犬人間』になる原因はわからない。
その代わり、規則性はわかる。『犬人間』になる者は全て犯罪者。
そうなればどうするか? 決まっている。『犬人間』にならないよう、自分の行いを省みるしかない。
世間の一人一人がそう考えていけば、倫理観は高まり、想像力の無いクズによる悲劇は減る。
それが俺の計画。
24:
俺はテレビを消し、ホテルの一室から出て外に向かう。
この杜王町に来て既に一週間。その間にも何人かの人間を『犬人間』にしている。
もちろん、全て何らかの凶悪犯罪を犯している者だ。
だが、なぜ俺が警察が突き止めていない犯罪者を見極めることが出来るのか?
それは俺の『箱』、『罪と罰と罪の影』によるものだ。
外に出た俺は大通りに向かい、何人かの人間とすれ違う。
そして、彼らは俺の影を踏む。
そうすることで、俺の『箱』は発動する。
そして、彼らの罪が俺に流れ込んでくる。
正確には、彼らが犯した罪の記憶が流れ込んでくる。
25:
俺の『罪と罰と罪の影』は、俺が相手の影を踏むか、相手が俺の影を踏むことで発動する。
発動すると、俺の中に相手の罪が流れ込み、俺はその罪を目の当たりにすることになる。
そして、俺はその罪を持った人間を支配下に置き、操ることが出来る。
具体的にどう操るかというと、まず俺の中に流れ込んだ『罪の影』を飲み込む。
すると相手は、自分が最も罪悪感を感じた出来事を思い出し、苦しむこととなる。
俺に罪悪感を思い出させられた相手は、俺の支配下となり、さまざまな命令を下すことが出来る。
相手はその命令に逆らうことはできない。完全に強制できる。
つまり、俺はこの能力で大きな罪を犯した者を見つけ出して支配下に置き、『犬人間』にしている。
しかし――
「……くっ」
26:
罪が流れ込むというのは言葉で言うのはたやすいが、実際にはとんでもない苦痛が伴う。
これは実際に俺の体に苦痛が走っているのではない。精神的なものだ。
なぜか? 他人の罪を直視するというのは、その人間の最も醜い部分を見ることになるからだ。
他人の罪は罪悪感という形で持ち主自身を攻撃する。そしてその罪を直視した俺も攻撃する。
だがこれは、俺が願いをこめるのに失敗したというわけではない。自ら能力に制約を課したのだ。
ガチガチに制約を課すことで、願いをより強固なものにするためだ。
これでいい。これでこそ、俺の目的は達成される。
俺は世の中を変えることで英雄になろうとしているわけではない。
むしろ、俺の最期は誰もが目を背けたくなるような見るに堪えないものになるだろう。
電車に轢かれて、体がバラバラになって拾い集めるのにも苦労し、掃除する者が吐き気を催す。そんな感じに近いと思う。
だが、それでいい。
俺は最終的に他人の罪に押しつぶされて死ぬことになる。
一つの罪を飲み込むだけでとんでもない苦痛を伴うのに、俺はもういくつもの罪を飲み込んでいる。
そして、その全ての罪は絶えず俺を攻撃している。
そんな俺を待っているのは、破滅しかない。だが、そんなことは承知でやっている。
やらなければならないのだ。
27:
そんなことを考えながら、俺は一人の人間に影を踏まれた。
「……!?」
なんだこいつの罪は? 
別にこいつのやったことに驚いているわけではない。こいつより大きな罪を犯した人間は何人も見てきた。
だが、こいつの罪に関係しているこれは――?
この能力は一体?
――『スタンド』?
33:
=============================
「康一どのが行方不明だと!?」
康一どのから『犬人間』について警告を受けた翌日。
俺はその知らせを、彼の仲間である、東方 仗助(ひがしかた じょうすけ)に聞かされた。
「ああ、どうやら康一は昨日から家に帰ってねえらしい。おふくろさんから何か知らないか聞かれたよ」
仗助は見るからに柄の悪そうな高校生といった見た目をしているが、実際は心優しく仲間や家族に手を出す者には容赦をしない。
……まあ、こいつのヘアスタイルをバカにしたらもっと容赦ないことになるらしいが。
「それでだ。玉美よぉ、お前昨日康一と話したんだろ? 何か知らねえか?」
34:
なるほど、それでこいつは俺のところに来たのか。
しかし……
「いや、『犬人間』のことをお前と一緒に調べるって話を聞いただけだ。お前と合流するものかと思ってたよ」
「そうか……だが俺も康一とは合流出来てねえ。『犬人間』についても調べられなかった」
つまり、康一どのが行方不明になったのは、俺と話をした直後ということか?
「おい仗助。この事と、『犬人間』の一件は……」
「ああ、おそらく無関係じゃねえ」
『犬人間』について調べようとした康一どのが行方をくらました。
偶然にしては出来過ぎている。
「そして、康一をどうにか出来るってことは、『犬人間』の犯人は……」
「『スタンド使い』ってことか……まずいことになったな」
35:
俺も話に聞いただけだが、康一どのの『スタンド』――『エコーズ』は、俺と戦った時よりも成長しているらしい。
『スタンド』は精神力で動かすものだ。『スタンド』が成長するということは、本体である康一どの自身も精神的な成長を遂げたということ。
そして康一どのは幾多の戦いを経て成長している。『スタンド使い』ではない一般人に、そう負けることがあるとは思えない。
つまり、『犬人間』の犯人は『スタンド使い』である可能性が高い。
そう、この杜王町に新たな『スタンド使い』が現れたのだ。
「吉良がいなくなっても、まだこの町に平和は訪れねぇみたいだな」
仗助は、因縁の敵の名前を言う。
36:
吉良 吉影(きら よしかげ)。
表向きはサラリーマンだが、その裏では『スタンド』を使い、多くの人間を殺害した殺人鬼だった男。
その吉良が、仗助の仲間――矢安宮とかいったかな――を殺したことで、彼は康一どのや仗助たちに追跡されることとなった。
最終的に、仗助との戦いに敗れた末に事故死したと聞いている。
そう、『スタンド』を利用した犯罪では警察は動けないし法では裁けない。
だから、『スタンド使い』が動くしかないのだ。
康一どののような、正義の心を持った『スタンド使い』が。
そして、相手が『スタンド使い』となれば、俺も無関係ではない。
『スタンド使い』と『スタンド使い』は引かれあう。
お互いにどんな感情を抱いていても、『スタンド使い』同士は自然と関わってしまう運命にあるそうだ。
だから俺も無関係ではない。むしろ、戦闘向きの能力ではない俺の方が危ない。
危険が及ぶ前に、調査する必要がある。
「……わかった。仗助、俺も町の情報網を使って、康一どのの行方を探ってみる」
「ありがとよ、玉美。何かわかったら連絡してくれ」
そしてその場は、仗助と別れた。
37:
二時間後。
「なにッ!? もう見つかったのか!?」
俺は仗助に対し、康一どのが見つかったことを伝えた。
「ああ……ほんの十分前に杜王駅前にいるのを目撃したヤツがいる。一人でベンチに座っていたそうだ」
だが、それを聞いた仗助は少し考え込んだ後に真剣な表情になる。
なぜこいつがこんな顔になるのかはわかる。俺と同じ考えだろう。
「……行方不明になっていたヤツが、こんなにあっさり見つかる。これってよぉー」
「ああ、『罠』だろうな」
仗助は機転は利くが、実際はそこまで頭のいいヤツ
ではない。
それでも、ここまであっさり康一どのが見つかることに不信感を抱かないほどではなかった。
「どうする? これは明らかに『罠』だぜ?」
「しかしよぉー、康一を探す手がかりは今のところ他にはねえ。今は億泰や露伴を呼ぶわけにもいかねえしな。俺たちだけで行くしかねえ!」
虹村 億泰(にじむら おくやす)と岸辺 露伴(きしべ ろはん)。
二人ともこの町に住むスタンド使いで、康一どのの仲間である。
しかし、億泰は父親の体調がおかしいとかで離れられず、露伴先生は漫画の取材とかで遠くに行っているらしい。
つまり、今動けるのは俺たちしかいない。
そういうわけで、俺たちは杜王駅に向かった。
38:
「確かに……あれは康一だぜ……」
駅前広場で俺たちが見たものは、目撃情報通り一人でベンチに座る康一どのの姿だった。
特に何かをしているわけではない。普通にベンチに座っている。
「……康一は一人、しかしこれだけ人通りが多ければ、『スタンド使い』が潜むのは簡単だな」
「やっぱりこれは『罠』だ。正直言って、俺はうかつに近づかないほうがいいと思うぜ」
近づいた瞬間、敵の『スタンド使い』の攻撃を受けるかもしれない。
だが、仗助はベンチに座る康一どのに向かっていった。
「おい、仗助!?」
「玉美、お前はここにいろ。俺が確かめてくる。『クレイジー・ダイヤモンド』なら十分に迎撃できる」
そう言った仗助の体から、筋骨隆々な人型をしたヴィジョンが浮き出てくる。
あれが仗助の『スタンド』、『クレイジー・ダイヤモンド』だ。
39:
『クレイジー・ダイヤモンド』。
人型の『スタンド
』で、人のケガを治したり、壊れた物を直す能力を持つ。
それでいて高いパワーとスピードを併せ持ち、接近戦での格闘では承太郎の『スター・プラチナ』くらいしか敵わないとされている。
弱点は射程距離が2m程度の短いものであるということだが、たとえ射程距離外から攻撃を受けたとしても銃弾程度なら叩き落とすことが出来るという。
だが、本体である仗助自身のケガは治せない。
仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』を出した状態で、康一どのに近づく。
「康一……」
「あ、仗助くん。どうしたの?」
「どうしたのじゃねえだろ。おめー、家に帰ってないらしいな」
「ああ、ちょっと用事があって外に泊まっていたんだ」
耳をすまして、二人の会話を聞く。
康一どのの発言は明らかにおかしかった。あの人は家族思いで家族に心配をかけるような人じゃない筈だ。
40:
「おい康一、ちょっと『エコーズ』出してみろ」
「え?」
「いいから出してみろ。『Act1』でいいからよ」
そうか。本物の康一どのなら『スタンド』を出せるはず。
それが出来なければ、あの康一どのは偽物というわけだ。
「……えーと」
「できねえのか? そうか、やっぱりなぁ!」
その直後、『クレイジー・ダイヤモンド』の拳が康一どのの顔面にめり込んだ。
「じょ、仗助! お前……」
「来るな!」
思わず駆け寄ろうとした俺を、仗助が制止する。
すると、殴られた康一どのの姿が徐々に変わっていき……
絵のデッサンに使われるような木製の人形になった。
41:
「なッ!? こ、これは!?」
「こいつは……『サーフィス』だ!」
「『サーフィス』!? 間田の『スタンド』か!?」
間田 敏和(はざまだ としかず)。
康一どのと同じ学校に通う三年生で、『スタンド使い』。
俺はかつて間田に重傷を負わされたことがあるが、その後間田は康一どのと仗助によって俺以上にコテンパンにされたらしい。
だから、その後に間田が康一どのとつるむようになってもそこまで恨んではいないが、正直あまりいい印象は持っていない。
そして、ヤツの能力は人形にスタンドを取りつかせてその人形に触った人間そっくりに人形を化けさせることができるらしいが……
「『サーフィス』が康一どのに化けていたってことは、康一どのを攫ったのは間田か!?」
「いや、康一は間田の能力を知っている。『エコーズAct3』を持っている康一がヤツに負けるとは思えねえ。康一がヤツと組んで悪戯をするわけもねえ」
「じゃ、じゃあ間田の他に『スタンド使い』が!?」
「そうだ。そしてそいつが『犬人間』の野郎だとしたら、その能力も大体予想つくぜ」
「え!?」
「おそらく、野郎の『スタンド』は『人を操る』タイプのものだ。そうだとしたら、『犬人間』もこの状況も納得がいく」
「そ、そうか! 間田を操って能力を使わせたのか! だ、だが、だとしたらこの状況は……」
そう、つまりこの状況は、まんまと『罠』にかかったということだ。
だからこそ、仗助は俺に近づくなと言った。
この近くにいる。間田も、そして『敵スタンド使い』も。
「ご名答」
だが、既に敵は仗助の後ろに立っていた。
42:
そこにいたのは、銀髪で両耳に六つのピアスを開けてロックスタイルのファッションをしている若い男だった。
歳は俺と仗助の間くらいだろうか、だが高校生にしては妙に達観しているというか不遜な感じがする。
当然ながら、仗助はそいつに対して攻撃を仕掛ける。
「ドラァッ!」
『クレイジー・ダイヤモンド』は瞬時にそいつにパンチを繰り出していたが、その動きが突如して止まる。
「ぐうっ!?」
『クレイジー・ダイヤモンド』がその場に膝をつく。
『スタンド
』のダメージは本体にも及ぶので、当然仗助も膝をつく。
仗助はなにか重りでもつけられたかのように、その場から動けなくなっていた。
「くぅっ……これはまさか……」
仗助の言いたいことはわかる。
『物を重くする』。その能力を持っている人間を俺も仗助も知っている。
他ならぬ、俺たちが探していた人物。
「康一……!」
銀髪の男の後ろから、申し訳なさそうな表情をした康一どのが姿を現した。
46:
==========================
俺は昨日のことを思い返していた。
「おい、大丈夫かよ?」
思いもよらない事実――『スタンド』という能力の存在――を知って動揺する俺に、長髪の男が声を掛ける。
この男は、『スタンド』とやらを利用して友人の目をえぐったり、チンピラを殴り倒したりしていたクズのようだ。
だから……躊躇わずに『被支配者』にしてやった。
「うああああああああああッ!」
罪を思い出させてやると、そいつは直ぐに苦しみ始めた。
どうやら『罪』の大きさにしては結構な小心者のようで、俺に従順になるのも早かった。
そしてその男、間田 敏和から『スタンド』について聞き出した後、広瀬 康一を呼び出させて『被支配者』にした。
そして、現在に至る。
「大嶺 醍哉だ」
俺の前には、広瀬 康一の能力で動きを封じられた東方 仗助ともう一人、小柄なチンピラのような男がいた。
47:
「……ああ? てめー何言ってやがんだ?」
「俺の名前だ。能力の名は、『罪と罰と罪の影』」
「『罪と罰と罪の影』? それが、お前の『スタンド』か?」
「……」
小柄な男が俺に質問する。そういえばこいつは間田 敏和の罪の記憶にいた。小林 玉美といったか。
「どういうつもりだ? 他人を操って襲わせるクソ野郎のくせに、姿を現して名前も名乗るって何考えてやがんだ?」
「俺はお前たちと敵対するつもりはない。だから名乗った」
「ふざけてんじゃねえぞ! 康一、それに間田を操ってる以上、てめーはもう俺たちと敵対してんだよ!」
東方 仗助が俺を睨む。こいつはやはり仲間意識が強いようだ。だが、うまくすればこいつもこちらに引き込める。
俺はヤツの『スタンド』とやらの攻撃を受けないように、ヤツの背中に回って影を踏んだ。
「……っ!」
……なるほど。
やはり、東方 仗助も広瀬 康一と同じ罪を抱えているようだ。
「東方 仗助」
「ああ?」
「吉良 吉影を殺したそうだな」
「……!?」
48:
吉良 吉影。かつてこの町で殺人を繰り返していた殺人鬼。
東方 仗助は、激闘の末吉良を倒し……彼は事故死した。
東方自身はそれを仕方のないことだとは思っている。
しかし、その行動が果たして正義だったのか?
どんな理由があるにせよ、吉良を死に追いやった自分は罪人なのではないか?
東方の心の奥底にはそういった考えがあるようだ。
「仗助くん! そいつの言葉に耳を貸しちゃ……」
「黙れ」
「……!」
俺が『命令』すると、広瀬 康一は口を閉ざした。
「何で知ってんだ!? 吉良のことを!」
「俺の能力で知った」
「なに!?」
「まず前提を話してやろう。俺の能力は、お前たちが『スタンド』と呼ぶものとは違う」
「え!?」
東方と小林の両方が驚く。やはり、『箱』のことは知らないようだ。
49:
「だが俺には、お前たちの能力が『見える』。つまり、お前たちに対して対策が取れるということだ」
「フカシてんじゃねえぞ! 『スタンド使い』じゃねえヤツに『スタンド』が見えるはずが……」
「どう考えるかはお前の勝手だが、事実、俺は『スタンド使い』ではない。俺が持っているのは『箱』だけだ」
そう、俺には東方の横にいる人型の『スタンド』が見える。
『スタンド使い』ではない俺に『スタンド』が見えるのは、広瀬や間田から聞いた『スタンド』のルールから外れているが、
『箱』の『所有者』なら『スタンド』は見えるのかもしれない。
「仗助、こいつは多分、マジで『スタンド使い』じゃあねえぜ」
「……なんでわかるんだよ!?」
「こいつの態度は、明らかに『スタンド』が見えているそれだ。それを隠す様子もねえ。
 にもかかわらず、『スタンド使い』であることを隠す理由が思い当たらねえ」
「つまり、ブッたまげたことだが、こいつは……」
「ああ、『スタンド』じゃあない別の能力……こいつが言う、『箱』とやらを持っている」
ふん、どうやらこの小林という男は幾分頭が回るらしい。
50:
「その通り、俺は『スタンド使い』ではなく、『箱』の『所有者』だ」
「てめーの正体なんざどうでもいいんだよ! 康一と間田を解放しろ!」
「さっきも言ったが、俺はお前たちと敵対する気はない。お前たちを仲間に引き入れに来た」
「ナメてんじゃねーぞコラ! てめーみたいなクソ野郎に従うわけが……」
……このままでは話にならないな。仕方がない。
「まずは罪を思い出してもらおうか」
「なに!? ぐううううううううッ!?」
「じょ、仗助!?」
俺が東方の『罪の影』を飲み込むと、ヤツはうめき声を上げて苦しみ始める。
51:
「て、てめー何を……」
「罪を思い出させただけだ」
「なん、だと?」
「今から俺の『罪と罰と罪の影』について説明してやる。黙って聞け」
既に俺は東方を『被支配者』にしたので、ヤツは俺の命令には逆らえない。
まあ、そうでなくても、この苦痛の中では碌に動くこともできないだろう。
「『罪と罰と罪の影』は、簡単に言うと罪悪感を利用して他人を操る能力だ」
俺が能力の解説を始めると、なぜか小林が一瞬動揺するが、それを気にせず続けることにした。
「やはり、てめーの能力は『他人を操る』ことか。ゲスな性格がよく出ている能力だぜ」
「話は最後まで聞け。他人を操るのは、この能力の一端に過ぎない。こいつの胆は他人の罪悪感を共有することだ」
「罪悪感を……共有?」
「俺がこの『箱』を使って他人を操るには、その相手の罪を背負わなくてはならない。だが、それは俺だけではなく、この『箱』使う全員がその条件をクリアしなければならない」
「何言ってやがる。まるでてめー以外にも、その能力を使えるみたいに言いやがって」
「その通りだ」
「……なに?」
「『罪と罰と罪の影』は、罪を取り込まれた者全員の共有物だ。つまり俺が許可すれば、今俺に罪を取り込まれたお前もこの能力を使えるということだ」
この説明に、東方が目を見開く。
52:
「……そうか。やはり『スタンド』とは違う能力みてーだな。他人に能力を分け与えることが出来るとはな」
「続けるぞ。まず俺が他人を『被支配者』にするプロセスだが、俺が相手の影を踏むか、相手が俺の影を踏むことでこの『箱』は発動する。
 発動したら、俺の中に相手の罪が流れ込む。そして、俺がその『罪の影』を飲み込めば、その相手は自分が最も罪悪感を抱いた出来事を思い出す。
 お前の場合は、吉良を死に追いやったことだな」
「俺は……ヤツを殺してはいねえ! 罪悪感も感じてねえ!」
「いや、お前は心の奥底では罪悪感を感じていた。だからこそ、今、吉良を殺したことへの罪悪感で苦しんでいる。
 そして、俺が『被支配者』にした相手は自由に操作出来る。お前が今感じている罪悪感をいつでも掘り起こすことも出来る。これがどういうことかわかるか?」
「わからねえな。てめーがゲロ以下のゲス野郎ということ以外はな」
俺はわざとため息を吐いた後に、東方の罪悪感を掘り起こす。
「ぐ、ううううッ!」
「この『箱』があれば、支配された相手は強く自分の罪を意識するようになる。今のお前のようにな。そして、俺と同じ『支配者』の権利をお前に与えるとだ」
俺は数多の『罪の影』から、なるべく普通に近い人間のものを選び、東方にねじ込む。
「ぐおおおおおおおおッ!?」
予想通り、東方は今まで以上の苦しみを見せた。
53:
「な、なんだこいつはあああああッ!? ク、クズが! ゲス野郎が! ぐうううううううううッ!」
「て、てめえ! 今度は仗助に何をした!?」
「東方にはさっき通りがかった一般人の『罪の影』をねじ込んだ。今、東方はその一般人の『罪』を直視している。そして、わかるか東方?
 どこにでもいる一般人の『罪』を見るだけでもこれほどの嫌悪感を持つんだ。『支配者』になれば、より自分と他人の行動の何が『罪』になるかを意識するようになる。
 つまり、『支配者』を増やしていけば、想像力の無いクズは減り、そいつらによる悲劇も減る。それが俺の目的だ」
「く、う、ぐううう……」
東方は呼吸を荒くしながらも、再度俺を睨み付けた。
「……くだらねぇ」
「なに?」
「いかにもマジメくんな目的を掲げちゃいるがよ、結局てめーのやっていることは苦痛や罪悪感につけこんで、無理やり他人に言うことを聞かせているだけじゃねーか。
 要はあれだろ? 自分が気に喰わないヤツを排除したいだけだろ? 何が悲劇は減るだ。くだらねぇ」
「……言ってくれるな」
「大体、『罪』を直視するだぁ? てめーは何人の『罪』を直視して、その目的に至ったんだよ? どうせ、十人ぐれーの『罪』を見ただけで『この世は腐っている』とか思い込んだんだろ?」
「千人弱だ」
「せっ……!?」
「それに勘違いしているが、俺がこの目的を抱いたのは『箱』を手にする前だ。だからこそ、俺が『箱』でこの能力を手に入れられるようにした」
「……手に入れられるようにしただと?」
その言葉に、なぜか小林が反応した。
54:
「そうだ。そもそも『箱』は、能力を手に入れるためのものではない。願いを叶えるためのものだ。俺がこの能力を手にしたのは、『箱』にそう願ったからだ」
「……そうか、なるほどな」
そして、東方も何かを納得したような反応をする。
「玉美!」
「えっ!?」
「逃げろ」
「じょ、仗助!?」
「いいから逃げろ! 今は分がわりぃ。体制を立て直せ!」
「わ、わかった!」
東方の言うとおり、小林はこの場から走り去っていった。
「……追わねえんだな」
「お前が危機に陥っても、ヤツは俺に攻撃をしなかった。しかし、ヤツの能力がわからない以上、うかつに追うのは危険だ」
「俺からあいつの能力を聞き出さないのかよ?」
「……」
俺はなぜか、小林の能力を聞き出す気にはならなかった。
正直言って、察していたからかもしれない。
ヤツの能力が、俺と似たものであるということを。
55:
=========================
「はあっ、はあっ、はあっ……」
駅前広場から逃げてきた俺は、住宅街に逃げ込んだ。
「こ、ここまで逃げれば追ってこれねえだろ……」
正直言って、相手が悪すぎる。仗助の言うとおり、あの場は逃げて正解だった。
しかも、ヤツの能力は『スタンド』じゃあない未知のものだ。俺の『スタンド』が通用するのか……
だが、思った。思ってしまった。
「『罪と罰と罪の影』は、簡単に言うと罪悪感を利用して他人を操る能力だ」
 
ヤツのあの言葉、あれが本当だとしたら。
似ている、あまりにも似すぎている。俺の『錠前』に。
「……」
ヤツの能力と目的。そして、ヤツはあの能力を自分で決めたと言った。
自分で、あの最低な能力を手に入れたと言った。
それなのに、『想像力の無いクズによる悲劇を減らしたい』だと?
56:
「くだらねぇ」
俺もヤツの目的に対して、仗助と同じ感想を抱いた。
罪悪感を掘り起こして、罪を自覚させるだと? そんなものは、俺がかつてやっていたことと同じだ。
罪悪感につけこんで、金を巻き上げていたのと同じだ。
俺とヤツが違うとすれば、巻き上げるものが金かそいつの意志かの違いってだけだ。
そもそも、他人を支配して自分に従わせるってのは、そいつの想像力を奪う行為じゃあないのか?
なにせ、自分を支配しているものが絶対的に正しいって思わせるわけだからな。
……そう考えると、急に腹が立ってきた。
そんなくだらねぇ目的に、仗助を、そして康一どのを巻き込んだというのか。
気に入らねえ。
57:
しかし、正直勝算は無い。
俺の能力は戦闘向きではないし、向こうには康一どのと仗助がいる。
ヤツがあの二人を自由に操れるとしたら、状況は圧倒的に不利だ。
ここは、強引に億泰を呼んで……
いやダメだ。億泰はおそらく、俺に親父の面倒を見させて一人で突っ込んでいくだろう。
正直言って、億泰は頭が悪い。それに康一どのや仗助を盾にされたら手の出しようがない。
最悪の場合、あいつも操られるかもしれない。
なら、露伴先生を待つか? いや、その間にも状況は悪化するだろう。
そうなると……
「俺が動くしかねえのかよ……」
そう、今動けるのは俺しかいない。
どうする? 俺の能力でヤツに太刀打ちできるのか?
58:
…………
いや、むしろ俺の能力の方がヤツに有効なんじゃないか?
ヤツの能力は『罪悪感』に深く関係している。これを上手く利用すれば……
それに、ヤツが本当に自分であの能力にしたとすれば、それ故の隙をつけるかもしれない。
いや、だけどもし俺の能力を発動するとなると……
……しかたねえ、やるしかねえか!
俺が意を決して、杜王駅に戻ろうとすると……
「うおっ!?」
振り向いた瞬間、大嶺がそこにいた。
59:
=============================
杜王駅から離れた俺は、とりあえず東方から他の『スタンド使い』に関する情報を手に入れて住宅街に向かった。
だが、偶然にも小林に遭遇する。
「まさか、こんな近くにいたとはな」
広瀬から聞いたが、『スタンド使い』と『スタンド使い』は引かれあうらしい。
『スタンド使い』たちと行動を共にしている俺も、自然と引かれあってしまうのだろう。
「お前とはあまり関わりたくなかったが、仕方がない」
俺は小林に近づく。
「おっと、影は踏ませねえぜ!」
小林は俺から飛び退く形で離れる。
現在、時刻は午後六時を回ったくらい。日は暮れてしまった。
そして……
「へへへ、これで俺の影は踏めねえぜ」
小林は街灯の光が届かない暗闇に移動した。当然、これでは影は生じない。
60:
「……ふん、お前が関わりたくないのであれば、仕方がない。先に別の『スタンド使い』を支配するか」
俺は小林から離れようとする。
「お、おい、待てよ!」
「なんだ、こっちに来るのか? 別にいいぞ、来た瞬間にお前の影を踏む」
俺は今、街灯の下にいる。
小林がこっちにくれば、ヤツの影が生じる。
後はそれを踏めばいい。
「くっ……」
それを聞いた小林は、足を止める。
正直言えば、今小林を支配出来ようと出来まいとどっちでもよかった。
おそらくヤツの能力は戦闘向きではない。後で支配しても脅威にはならないだろう。
それに……俺はなぜか、ヤツには関わりたくなかった。
「逃げんのかよ?」
「なに?」
「お前は、俺から逃げるんだな? いや、それだけじゃねえ。お前が受け入れなきゃいけないものからも逃げるんだな?」
「……」
なんだこいつ。まさか知っているのか? 俺に何があったのかを。
いや、知っているはずがない。こんな町に俺を知っている者などいるはずがない。
それに、もう終わりだ。
61:
「『殴れ』、東方」
「……なにッ!?」
小林の後ろに回り込んだ東方が、『スタンド』で小林を殴り飛ばす。
「うぐえっ!」
小林はその一発で、街灯の近くまで吹き飛んだ。
「『動きを封じろ』、広瀬」
さらに、俺の後ろにいた広瀬の能力で小林を重くして動きを封じる。
「ふん、これでお前は動けない。後はお前の影を踏むだけだな」
倒れているために影は非常に短いが、それでもそれを踏めば支配できる。
そう、これで終わりだ。
「俺の目的をお前などに邪魔はさせない。残念だったな」
小林に近づき、影を踏もうとする。
だが、
「……へっへっへっ」
小林は静かに笑い始めた。
62:
「何がおかしい?」
「康一どの、それに仗助よぉ。あんたら、意識はあるんだよな?」
「……ああ」
「うん、僕たちは命令には逆らえないけど、意識はあるよ」
なんだ? 何を確認している?
「それで? 今どんな気分ですかい?」
「……最悪だね」
「ああ、クソッタレな気分だぜ。こんなゲス野郎に操られて、おめーを殴っちまったんだからよ」
「そうですかい、つまり感じているわけですね?」
……なんだ? まずい! なにかまずいぞ!
「俺に対する、『罪悪感』を」
その言葉の直後、
「ぐうううううううっ!?」
巨大な『錠前』が、俺の体に取り付けられた。
63:
「な、なんだこれは!? 東方! これを外せ!」
「ああーそいつはムリッスねえー大嶺センパイ」
「そうそう、だって僕たちもこんな状態だからね」
見ると、東方と広瀬にも巨大な『錠前』が取り付けられていた。
くそっ! お、重い! それにこれは、これは……
「残念だったな大嶺。俺の『錠前』は俺に対して『罪悪感』を抱いた相手に自動的に発動する。これは俺が外そうと思わない限り、どんなに離れても外れないぜ」
「なんだと……!?」
「それにだ、お前に『錠前』が取り付けられたってことは、お前も『罪悪感』を感じているってことだよなあ?」
「……それがどうした!?」
『罪悪感』を抱いた相手に、重圧を与えるだと!?
まるでこれは、これは『罪と罰と罪の影』と……
「お前は自分の行動に『罪悪感』を感じている。つまり、お前自身も自分の行動に疑問を持っていることに他ならねえんだよ!」
「……!!」
……何がわかる? こいつに何がわかる!?
64:
「それに言ったよなあ? おめー、その能力を自分で決めたって」
「だから何だ!?」
「なら聞くぜ。なぜお前は、他人を操るとき、自分も苦しむように制約を掛けた?」
「なに……?」
「それはお前が、皆に自分の行動を許して欲しいからじゃねえのか?」
……!
違う、違う! これは俺の願いをより強固にするためのものだ!
「お前はあえて自分を苦しめることで、『自分も苦しんでいる。だから俺の行動を許してくれ』って主張しているんだ。
 全くもってくだらねぇ。こんな大層なことをしでかした本人が、迷いまくっているんだからなあ!」
「黙れ! お前に何がわかる!」
「わかるんだよ! 俺とお前の能力は似ている、だからわかる! 俺はお前と似たことをしていた。この能力を悪用して金を巻き上げていた」
「お前の行動と、俺の行動が同じだというのか!?」
「同じだよ! だが、一つだけ違うところがある」
そして小林は言い放つ、
「お前は自分に苦痛を与えることで、自分の行動が悪だということから目を逸らそうとしている、ドス黒い悪だぜ!」
俺の核心を突く言葉を。
65:
「お前は怖かったんだ、自分が悪だと言われることが。だから自分の能力に制約をつけた。だがそのことが逆に、お前の行動が間違っていることを自分自身で認めちまってるんだよ!」
小林が言葉を発するたびに、俺に取り付けられた『錠前』がどんどん大きくなる。
まさか、俺の『罪悪感』が増大しているというのか!? くそっ! まずい、これだと……
俺は、自分の中にある『罪の影』に食い破られる。
なぜだ、なぜこうなった?
俺はどうして、世界を変えたかった? どうして、これほどまでの人間を巻き込んでまで世界を変えたかった?
決まっている。全ては、全ては……
心音。全てはお前のために――
間違っていたのか? 『僕』は間違っていたのか?
『僕』はどうすれなよかった?
どうすれば、『僕』は――
君と、一緒に……
66:
================================
「玉美、本当に悪かった」
あれから一週間後、俺は康一どのと仗助と共に霊園の前に来ていた。
仗助は俺を殴ったことを、素直に謝った。こいつにしては珍しい。
「いいよ。お前に治してもらったわけだしな」
「それで、『箱』については何かわかったの?」
康一どのが質問する。
あの時。
大嶺は突如叫び声を上げたと思うと、突然、ヤツの体から『箱』のような物が飛び出て、コナゴナに砕け散って消えた。
それと同時に、康一どのと仗助は自由を取り戻し、その直後に仗助は俺の怪我を治した。
大嶺はいつの間にかいなくなっていた。
さらに、『犬人間』にされていた人間も元に戻ったらしい。
67:
「『箱』についてはわかりません。しかし、大嶺についてはわかりましたぜ」
「あの人について?」
「ええ、ヤツは遠くの町の高校に通う二年生でしてね、中学のころに付き合っていた彼女、桐野 心音(きりの ここね)をひどい目に合わされてから人が変わったそうです」
「彼女?」
「ええ、なんでも大嶺の幼馴染の女が、彼氏にひどい目に合わされた後に大嶺に救いを求めたそうです。だけど、大嶺は既に桐野と付き合っていたから、その女を振ったようですね」
「要するに、あいつは恋愛沙汰でここまでの騒動を起こしたってことか?」
「それがここからなんですよ。その幼馴染の女が桐野を逆恨みして、背中に火傷を負わせたそうです。大嶺は激怒してその女に暴力を振るったが、それでも収まらなかった。
 おそらくその事が、ヤツの『想像力のないクズを駆逐する』という目的に繋がったんだと思います」
「なるほどね。それにしても話を聞くだけだと、その幼馴染の彼氏ってヤツに復讐すればいい話だと思うけどなあ」
「それが……その彼氏は数か月前に死亡しているらしいです」
「なに?」
「それが大嶺と『箱』に関係しているかはわかりませんが」
「だけど、ヤツはどうやって、『箱』を手にしたんだ?」
「それはわかんねえよ、仗助。『箱』については未知の部分が多すぎる」
「まあいい、また『箱』の騒動が起きたら考えるしかねえか」
仗助はそう結論づける。
「しかし、玉美が一人で大嶺に向かっていくとはね」
「確かにな、おめー根性あんじゃねーか」
「へへへ、玉美の『玉』は肝っ玉の『玉』ですからね!」
……だが、本当にそれだけの理由だったのだろうか。
大嶺 醍哉。ヤツの行動は、あまりにも俺に似ていた。
だから俺は……ほうっておけなかったのかもしれない。
いや、そんなわけはないか。
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