朝倉「禁則事項なの」part1back

朝倉「禁則事項なの」part1


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1:
古泉 「お二人共早いですね」
長門 「……」
みくる「そんな事無いですよ。いつも通りです」
古泉 「それでも十分早いですよ。僕も家を一時間前には出たんですが」
みくる「私もそれくらいに出ましたよ。きっと私の家の方が近い所為です」
古泉 「そうですかね?…っと、どうやら涼宮さんも来たみたいですね」
2:
ハルヒ「おまたせ?。ってあれ、キョンは?」
長門 「……まだ」
ハルヒ「またぁ?あいつ、SOS団としての自覚がまるで足りてないわね!」
みくる「きっともうすぐ来ますよ」
ハルヒ「むーーーー」
古泉 「おや噂をすれば」
キョン「よう。相変わらずお前ら早いな」
4:
ハルヒ「なーにが『よう』よ!遅い!罰金!!!」
キョン「なっ?さすがにそれはあんまりだ。集合の三十分前に着いてるってのに」
ハルヒ「駄目よ!これはルールなんだからね!」
キョン「やれやれ…なぁ古泉。お前からも…」
古泉 「(……無理です)」フルフル
キョン「はぁ」
ハルヒ「何項垂れてんの?さっ、行くわよ」
5:
………
…………
………
キョン「……で、現在虫捕りに来ている訳だが…」
みくる「……」
古泉 「大丈夫ですか?朝比奈さん」
みくる「………虫は苦手です」
キョン「だと思います」
古泉 「まぁ、笑顔で虫を捕まえている朝比奈さんもあまり想像できませんしね」
キョン「ハルヒは笑顔でバシバシ捕ってるけどな」
古泉 「長門さんは……無表情で的確に捕らえていますね」
7:
キョン「あいつ……凄い手慣れてるな」
古泉 「いつぞやの夏休みでとった杵柄なのでしょう」
キョン「そういえばそんな事もあったな」
古泉 「僕はあの夏を体験してからというもの、夏が怖くて仕方ありませんよ」
キョン「安心しろ古泉、俺もだ」
ハルヒ「ちょっとあんた達!何くつろいでんの?」
キョン「っと。見つかったか。それじゃあ、まぁ再開するか」
古泉 「そうですね」
8:
………
…………
………
?数時間後?
ハルヒ「ふぅ…結構捕まえたわね!」
キョン「団員全員で捕まえたの合わせたら15超えてんじゃないか?」
古泉 「僕とあなたが3匹と5匹で、朝比奈さんが1涼宮さんと長門さんが
 それぞれ8匹ですから余裕ですね」
キョン「まさかこんなに捕まるとはクワガタ達も思わなかっただろうな」
古泉 「そうだと思います。実際こんなにいっぺんに捕まるとは僕も予想外ですよ」
10:
キョン「そうなのか?ハルヒが願ったんならこんなもんかなと俺は思ったんだが…」
古泉 「いくら涼宮さんが願ったからといって、そんなに簡単に実現されませんよ。
 彼女はまだコントロールがそこまで出来ていない筈ですから。……まぁ、
 もしかしたら他の誰かさんが上手くお膳立てしてくれた可能性も無きにしも非ず
 ですが、ね」
みくる「そうなんですか、長門さん?」
長門 「………さぁ」
11:
古泉 「そうですか。……ならば、これは僕の独り言ですので、聞き流しておいて
 ください」
古泉 「有難うございました」
長門 「…………特別な情報操作は行っていない。そんな事をするとこの山の生態系
 が乱れてしまう。単に私が何処に一番クワガタが居るのかを知っていただけ
 で涼宮ハルヒにその情報を提供しただけ」
長門 「褒められるものではない」
古泉 「いえいえ、……それで充分ですよ」
12:
ハルヒ「ちょっと古泉君に有希!二人して何語ってんのよ」
キョン「ま、たまには良いじゃないか。それよりハルヒ、そろそろ逃がしてやろうぜ」
ハルヒ「うー、分かったわよ」カパッ
ハルヒ「さ、何処へなりとも行っちゃいなさい!」
    ブーン
キョン「………全部、山に戻って行ったみたいだな」
ハルヒ「うん!クワガタも逃がした事だし今日の活動はこれにて終了!現地解散って
 事で良いかしら?」
13:
キョン「良いんじゃないか?」
古泉 「構いませんよ」
みくる「私も大丈夫です」
長門 「……異論は無い」
ハルヒ「うんっ!じゃ、そういう事で。明日の活動は無いから、各自英気を養っておくように!
 明後日は駅前集合だからね!キョン、今度こそ遅れずに来るのよ?」
キョン「へいへい…」
ハルヒ「返事は一回!」
キョン「はいよ」
ハルヒ「よろしい!では、解散!!!」
14:
………
…………
………
?帰宅路?
鶴屋 「おや?キョン君、キョン君じゃないか!」
キョン「あれ、もしかして鶴屋さん?」
鶴屋 「こんな所で会うなんて奇遇っさ」
キョン「そうですね。学校の外じゃあんまり会わないですし」
鶴屋 「!そーだ、キョン君。これから時間あるかな?」
キョン「大丈夫ですよ。用事も終わって帰るとこですし」
鶴屋 「じゃあこれから一緒にお祭に行かないかい?」
15:
キョン「えっ?近くで祭りなんてありましたっけ?」
鶴屋 「ちょーっち離れてるけど、やってるんだなぁ」
キョン「へぇ、知らなかった。……よし!行きますか」
鶴屋 「ふふっ、流石男の子!良い返事にょろ」
キョン「ま、これでも祭りは結構好きですし」
鶴屋 「うんうん。それじゃ、しゅっぱーつ」
17:
………
…………
………
キョン「そんな訳で、電車に乗って祭りの会場に現在向かってる訳ですが…」
鶴屋 「うん」
キョン「何で行き先が京都なんですか!!!」
鶴屋 「ちっちっ、甘いなぁキョン君」
キョン「?」
鶴屋 「祭りといえば京都だと決まってるじゃないか!!!」
キョン「……そうなんですか?」
鶴屋 「……多分」
18:
キョン「そんな若干首をかしげながら答えないで下さいよ」
鶴屋 「…ゴメンさ」
キョン「それで、本当の所はなんで京都なんですか?」
鶴屋 「………」
キョン「『よし!京都に行こう』みたいな軽いノリで出掛けてるんじゃないですよね?」
鶴屋 「………………」
キョン「本当に祭りやってるんですよね?」
鶴屋 「…………………………てへっ」
キョン「あなたって人は……」
20:
鶴屋 「まぁまぁ良いじゃないか。過ぎたるは及ばざるが如しってね」
キョン「…鶴屋さん。それ、使い方間違ってます」
鶴屋 「にょろ?そうだっけ?」
キョン「はい。……あの、ずっとそのとぼけた感じで行くつもりですか?
 そろそろ疲れたんですが」
鶴屋 「ま、そんなの気にせず気楽に行こう。ほい、八つ橋あげるから」
キョン「……どうも」
鶴屋 「おいしーねー」
キョン「って、何故京都に着いていないのに八つ橋が?」
鶴屋 「さぁ?」
22:
キョン「(いかん。何かペースに嵌められて、京都に行く事への疑念が鎮静化されていく)」
鶴屋 「どうしたのー?八つ橋まだ食べるー?」
キョン「あっ、どうも」モグモグ
鶴屋 「おいしーね」
キョン「はい」モグモグ
鶴屋 「…」モグモグ
キョン「(…………………ま、たまには良いか)」モグモグ
23:
?京都?
鶴屋 「着いたー」
キョン「意外に近かったですね」
鶴屋 「そうだね。おや?キョン君キョン君!」
キョン「どうしたんですか、鶴屋さん」
鶴屋 「これ見て!」
キョン「……これって、祭りのイベント案内」
鶴屋 「しかも、これって丁度今からだよ!どうだい?ちゃんと祭り
 あったじゃないか」
キョン「……行き当りばったり感満載ですが、折角京都まで来た事ですし
 満喫して帰りますか」
鶴屋 「うんうん!それが良いっさ」
25:
………
…………
………
?祭・イベント会場?
キョン「……へぇ」
鶴屋 「うわぁ、人がいっぱいだね」
キョン「そうですね」
鶴屋 「出店もいっぱい」
キョン「そうですね」
鶴屋 「キョン君?」
キョン「…………」
27:
鶴屋 「おーい」
キョン「…………」
鶴屋 「もしもーし」
キョン「…………」
鶴屋 「頭が留守ですかー?」
キョン「…………んな訳無いって」
鶴屋 「おおう!?」
キョン「そんなに慌てなくっても…」
鶴屋 「いや、驚いただけであって、別に慌てた訳じゃ」
キョン「どっちも大差ありませんよ、それ」
30:
鶴屋 「むぅ」
キョン「そんな、むくれられても」
鶴屋 「だって、折角お祭りに来たのに、キョン君つまんなさそうに見てたから」
キョン「そんな事無いですって。人が多くて素直に感心してただけです」
鶴屋 「本当?」
キョン「ええ」
鶴屋 「そっか。わたしの勘違いなら良いんだ!さっ、行こ?」
キョン「はい!」
31:
鶴屋 「フランクフルト二本お願い?」
おっちゃん「へい!フランクフルト二本」
鶴屋 「トウモロコシ二本?」
おっちゃん「へい!もろこし二本ね」
鶴屋 「あっ、焼き鳥も二本ね」
おっちゃん「へい!」
キョン「……鶴屋さん?何もそんなにいっぺんに買わなくても」
鶴屋 「ふも?ふぁんか言っは?」
キョン「いえ、何も。一本貰いますよ?」
鶴屋 「ひいほー」ムシャムシャ
33:
………
…………
………
鶴屋 「けふぅ、流石に食べ過ぎたねぇ」
キョン「げふっ、最早自棄食いの勢いじゃないですか」
鶴屋 「ははっ、そこまでかい?」
キョン「まったく…」
鶴屋 「おろ?あそこでやってるのは…」
キョン「?青いビニールテント?」
鶴屋 「きっとお化け屋敷さ!いざ、出陣?」
キョン「ちょ、ちょっと。引っ張らないで」
35:
?お化け屋敷??
鶴屋 「ふむふむ。中々、楽しい造りになっているね。怖い怖い」
キョン「……そうですか。俺には手作り感MAXの仮装大賞用に作ったけど予選に
 通らなくて祭りに使っちゃいました感が否めないんですが」
鶴屋 「……キョン君、それは言っちゃ駄目さ。例え、『恐怖!旋律のお化け屋敷』
 の立て札の裏に『目指せ、満点!』の手書きを見つけたとしても」
キョン「……はい、すみません」
鶴屋 「……ま、良いさ」
36:
キョン「で?入ってみたものの、これは一体どうすればいいんだ?」
鶴屋 「うん。中には、井戸、しかないし。ここで一体何をすれば…」
キョン「というより、鶴屋さん。もしかしてこの井戸って…」
鶴屋 「……うん。本物さね」
キョン「ビニールシートとか立て札とかは手作りっぽいのに、どうして井戸だけ…」
鶴屋 「流石京都…」
キョン「多分、京都関係無いですよ」
鶴屋 「やっぱり?」
38:
キョン「ちょろっとだけ、不気味ですね」
鶴屋 「怖い?キョン君」
キョン「まさか。鶴屋さんこそ怖がってませんか?」
鶴屋 「何言ってるんだい、キョン君?そんな訳無いじゃないか」
キョン「声裏返ってますよ」
鶴屋 「きょ、キョン君こそ」
キョン「……」
鶴屋 「……」
39:
鶴屋 「でもまぁもし、これが手作りなら見事な作りっさね」
キョン「本物で間違いないと思いますけどね」
鶴屋 「ふむ」
キョン「それよか、早く出ません?井戸しかないですし」
鶴屋 「そうだね。ここに居ても仕方ないし」
    ドーン
キョン・鶴屋「!!!」ビクッ
キョン「………何だ、花火か」
鶴屋 「そうみたいさね」
41:
キョン「行きますか?」
鶴屋 「勿論!っとその前に…」スッ
キョン「?」
鶴屋 「鈍いね、君は。女の子が手を出してるんだから、男の子は何も言わず
 ギュッと手をとるもんさ」
キョン「す、すみません」キュ
鶴屋 「よーし、いざ花火観賞へ!!!」
42:
………
…………
………
   ドーン
鶴屋 「はわー。凄いねぇ」
キョン「でっかいすねぇ」
   ドーン
鶴屋 「かーぎやー」
キョン「鍵屋?玉屋じゃなくて?」
鶴屋 「うん。今日は鍵屋な気分さ」
キョン「ふぅん、そうすか」
45:
   ドーン
鶴屋 「ねぇキョン君」
キョン「はい」
鶴屋 「キョン君はどうしてそんなに面白くなさそうな顔をしてるんだい?」
キョン「………俺、そんな顔してます?」
鶴屋 「うん」
キョン「……本当に?」
鶴屋 「うん」
キョン「……そうですか」
鶴屋 「うん」
   ドーン
46:
キョン「別に鶴屋さんと居るのが楽しくないって訳じゃないんです」
鶴屋 「うん」
キョン「ただ、京都に来て、祭りに来て、凄い沢山の人を見て、少し、
 ほんの少しだけ思い出しちゃったんです」
鶴屋 「………」
キョン「ハルヒの事…」
鶴屋 「………そか」
キョン「はい。………あいつ、前に俺に話してくれたんですけど、家族で
 野球見に行った事があるって。それで、その時、凄い人数が観戦し
 に来てて、自分がどんなにちっぽけな存在だったかって、世界から
 見たら、地球から見たら、宇宙から見たら、どんなに小さな存在なのか
 思い知ったって」
鶴屋 「………」
48:
キョン「さっき、祭りに来た時、俺、それを思い出してました。あぁ、あいつ、
 こんな感じを味わったのかなって。自分だけが特別だと思っていた世界が、
 急に色あせて見える感覚ってこんなのかなって」
鶴屋 「………」
キョン「ねぇ鶴屋さん?俺、SOS団に入っていろんな事してきたつもりです。いろんな
 出来事を体験してきたつもりです。でも、もしかしたらこれも…世界中の皆
 とは言わないまでも他の誰かも既に経験してしまっている、体験してしまっている、
 そんな出来事だったんじゃないかと思えてならないんです」
鶴屋 「…そんな事無いよ」
キョン「……本当にそうでしょうか?」
鶴屋 「うん。……君は忘れてるだけさ。君は世界中の人間が一生を生きたって体験できない
 事を沢山体験してきてる筈だよ」
51:
キョン「そんなの、無いですよ」
鶴屋 「ううん。君は覚えていないだけで、忘れているだけで、確かにあったよ。体験してる。
 宇宙人も未来人も超能力者も、果てにはこの世界の神様にだって君は会ってる。一緒
 に行動を共にしてたし、君は彼女達の仲間で、彼女達は君の仲間だった」
キョン「まさか。そんなのある訳無いじゃないですか」
鶴屋 「君は覚えていなくても、私が覚えてる。君が忘れていても、私が忘れない」
キョン「………」
鶴屋 「だから君は、キョン君が死んだ事に責任を感じなくても良いんだよ?」
キョン「?????」
鶴屋 「あれは事故だった。誰のせいでもない。だから君が無理して忘れようとしなくたって、
 無理に全部無かった事にしようとしなくたって良いの」
鶴屋 「私も、一緒に覚えてるから、だから。そろそろ思い出したって良いんだよ」
53:
鶴屋さんはそう言うと、俺の腰に手を回し、唇をそっと合わせてきた。
俺は何が何だか分からなくなって、鶴屋さんが唇を離した後もそのままの体勢で、
しばらく固まっていた。
遠くの方でドーン、という花火が打ちあがる音だけがやけに、はっきりと聞こえる。
しかし、そんな一人身の男なら誰もが羨みそうな状況に身を置きながら、鶴屋さん
は何故、こうも俺の事を心配してくれているのかと思いつつ、ハルヒの事を考えて
しまう俺は最低だなとか、そんな考察ばかりが頭を駆け巡り、いつしか僕の思考は
あやふやなまま意味消失していった。
55:
………………
…………
……
   「痛っ」
……どうやらベッドから落ちてしまったらしい。頭を強打した。
   「うい、うい」
二、三回頭を振りながら、呼吸を整える。……うん、正常正常。
  「さてと、……って夜中か」
そんな独り言をつぶやいて、先程まで見ていた夢を思い出す。
変な夢だった。最近疲れが溜まっているのだろうか?まさか鶴屋さん
とキスする夢なんて。
   ……しかも、友人の目線で。
57:
そもそも、夢の始まりからして意味不明だった。しかも何で突然京都なんだよ?
別に大阪や奈良でも良かった筈だ。
それに何故彼の目線で夢を見てるんだ、僕は?彼になりたいとでも言うのか?
最終的に、更に意味の分かんない結末になってるし。
後、涼宮さんと共に虫捕りに言った筈なのに、彼の言い方ではまるで祭りの最中に
いつの間にか死んでる事になっていた。
  まぁ、それは鶴屋さんに違うと諭された訳だが……
 ……なんて、夢にあらかたの突っ込みを入れて、鏡で自分の顔を確認する。
  うん。自分だ。彼じゃない。古泉一樹だ。
59:
けど、まったく脈絡の無かったように見受けられた夢だったけど、
それでも所々で現実と関連していた点を拾っていくと、確かに僕の夢
であることは間違いなかった。
  僕はきっと、何処か遠くに逃げたかった。
   そして、忘れたかったんだ。
  これまでの事、これからの事を全部…。
花火みたいに。お祭りみたいに。楽しい思い出は直に消えてしまうように。
   忘れたかった。
60:
でも、夢の中でさえ、僕は逃げ切れなかった。あの『井戸』を見た瞬間に一瞬僕は
夢の中では彼である筈なのに、自分と錯覚してしまっていた。
「あぁ、逃げられないのだ」と分かってしまった。
だとしたら、鶴屋さんのあの言葉は、『忘れないで』という言葉は僕に対しての戒め
の言葉なのだろう。
自分の罪を忘れるな!という警告なのだろう。
きっと、この手で、彼を殺したという……
70:
そんな今となっては、既に何日も経過している事象に耽りながら、自分の足が
自分の意志とはまるで関係の無い方向に歩きだす事に気付いた。
やれやれ、夜中だってのに、元気な事だ。
こんな時間に徘徊しようなんて、よほど急ぎの用でもあるのか。
玄関を出ると、待ってましたとばかりに足は走り出す。
もう、下半身は自分の意志とは全く無関係に彷徨い、何かを求めているみたいだ。
71:
走っている内にだんだんと上半身の感覚も遠のいていく。
あぁまたこの感覚か。もう慣れた。
彼を殺した時もこうだった。自分が自分じゃなくなる感覚。
自分の中に、もう一人、別の人間が居て、自分の体を操られる感覚。
足から股、股から腰、腰から腹筋、腹筋から胸、胸から二の腕、二の腕から腕を伝い指先に。
そして、もう、自分の意志で動かせるのは眼球のみ。
呼吸すら自分の思い通りにならなくて、酷く息苦しい。
72:
十分少々走った所で、足を止めた。
視線の先には何処かで見た事のある後姿。誰だったっけ?
まぁ良い。どちらにせよ、殺すんだろうし。
……今日の標的は彼女か、程度にしか、もう思えないし思わない。
身体の主導権は僕ではない、別のナニかが握っているのだ。
と、僕は彼女に声をかける。
「おや?あなたは……」
もっともらしい台詞だ。笑える。
「誰?」
そして、僕のそんなもっともらしい台詞に振り返ったのは、佐々木
と呼ばれる、機関の敵だった。
73:
「どうも。SOS団副団長の古泉です。あなたには『機関』の人間である、
とこう表現した方が良いのかもしれませんが」
僕は尚も、もっともらしく自己紹介を続けた。
「あなたが……」
そんな自己紹介を受けて、彼女も俯いていた顔を上げる。
……涙?
「それよりもどうしたんですか?そんなに目を真っ赤にして。いくら機関が
敵対している別の神候補であっても、女性のそんな顔は見ていて嬉しいもの
ではありません。どうでしょう?僕でよければ相談に乗りますが?」
いつもの僕と大差ない台詞が口から零れる。
どうしたんだろう?会話したりなんかして。
彼女を殺すために来たのではないのか?
78:
「…………それは、その」
彼女は何か言いかけて、黙ってしまう。
「……ふむ。言いたくなさそうですね。それとも言いたいけれど言いにくい
類の話でしょうか?」
「いえ、その……」
彼女はまたもや俯く。
「そうですね。立話もなんですからベンチにでも移動しませんか?」
おや、本当にどうしたというのだ。人の悩みを聞いてやるような心がこの殺人鬼
にもあるのか?……それとも人気のない所へ誘導してから殺すのか?
そんな風に考えながら、僕は佐々木さんを公園へ誘導する。
76:
十分少々走った所で、足を止めた。
視線の先には何処かで見た事のある後姿。誰だったっけ?
まぁ良い。どちらにせよ、殺すんだろうし。
……今日の標的は彼女か、程度にしか、もう思えないし思わない。
身体の主導権は僕ではない、別のナニかが握っているのだ。
と、僕は彼女に声をかける。
「おや?あなたは……」
もっともらしい台詞だ。笑える。
「誰?」
そして、僕のそんなもっともらしい台詞に振り返ったのは、佐々木
と呼ばれる、機関の敵だった。
77:
走っている内にだんだんと上半身の感覚も遠のいていく。
あぁまたこの感覚か。もう慣れた。
彼を殺した時もこうだった。自分が自分じゃなくなる感覚。
自分の中に、もう一人、別の人間が居て、自分の体を操られる感覚。
足から股、股から腰、腰から腹筋、腹筋から胸、胸から二の腕、二の腕から腕を伝い指先に。
そして、もう、自分の意志で動かせるのは眼球のみ。
呼吸すら自分の思い通りにならなくて、酷く息苦しい。
80:
「………………」
「先程から押し黙ったままですが、まだ何があったのか話して貰えませんか」
「………………」
公園のベンチに佇んで、既に二十分は経過しているだろうに、彼女は相変わらず
押し黙ったままだ。
流石の殺人鬼も業を煮やしたのか、
「やれやれ、仕方ありませんね。では、こちらの勝手な憶測ですが、今から僕は独り言
を言います。聞きたくなければ、どうぞ、耳を閉じるなどの意思表示をしてください。
直に話を止めますので」
そう言って、殺人鬼は独り、話し始めた。
81:
殺人鬼の独り言は以下の通り。途中から佐々木さんも聞き役から会話に参加したが、
特にこれと言って支障はない。
・”彼”友人からは”キョン”の愛称で知られる彼が死亡したとの報道がなされた。
・しかし、これは機関による嘘の報道で”彼”は生きている。
・機関は”敵”と闘っており、彼の身の安全を考えて、嘘の報道を流した。
・また”彼”だけでなく、”彼”の家族についても嘘の報道がなされている。
・”彼”と”彼”の家族、そして一部の友人は機関が匿っている。
83:
……まったく。出鱈目もここまで来たら大したものだ。
しかし、こんな嘘がよほど嬉しかったのか
「…良かった。本当に」
彼女は屈託のない笑顔を見せる。
「んっふ。漸くあなたの顔に覇気が戻りましたね」
そんな彼女の顔を見てかどうかは分からないが、殺人鬼も頬を釣り上げる。
「あの……ちょっと良いですか?もう一つお聞きしたい事があるんですが」
「どうぞ。僕に答えられる範囲であれば、お答えしましょう」
「有難う」
そして、次の瞬間
「いえいえ。それで?僕に聞きたい事というのは?」
僕は眼球も自分の意志では動かせなくなったのに気が付いた。
86:
「キョンの事なんですが」
「ふむ」
やはり”彼”の事か。
「わた……僕はキョンが殺されたという報道があってから、ずっとキョンが
殺されたとされる直前に何があったのかを調べてきました」
「ほぅ」
殺人鬼はわざとらしく、にやけた表情を造る。
「その、僕が調べた結果では、キョンは死ぬ五日ほど前に、あなたの部屋で
『リング』を見たという事になっているんです」
    『リング』
久し振りに自分以外の人間から聞いたこのフレーズが、僕の記憶を揺さぶる。
91:
?約三週間前?
古泉 「(ふぅ。今日も疲れた)」
古泉 「(学校での授業、SOS団の活動、閉鎖空間での戦闘。涼宮さんへの配慮。
  他勢力との牽制……どれも疲れる)」
古泉 「愚痴っても仕方ないんですけど……ね」
古泉 「たまには、羽伸ばしても何処か一人でのんびり旅行に行っても罰はあたら
 ……いや、止めよう」
古泉 「(精々借りてきたDVDで映画鑑賞でもして、気を紛らわせよう)」
    カチッ
TV 「ザー」
古泉 「あれ?」
94:
古泉 「(なんで何も映らないんだ?)」
TV 「ザー」
古泉 「再生ボタン押したよな?」
    カチッ
古泉 「DVDプレーヤーにはセットしてあるし……って、TVに接続されてない」
古泉 「あれ?じゃあこの線どこから……ビデオデッキ?ビデオデッキなんて
 随分前に処分した筈じゃ」
古泉 「中身は……入ってる」
古泉 「……」
95:
………
…………
………
古泉 「さて、見ないという選択肢もありますが……一応、確認しておきますか」
    ザザザザーーー
古泉 「ふむ。あれは……井戸」
古泉 「もしや、これは!駄目だ。見ては」
古泉 「……」(身体が…動かない?)
古泉 「……」(火山、海、病院、老婆、井戸、やっぱり)
古泉 「……」(動け動け動け。動いてくれ)
古泉 「…………」
古泉 「……終わった」
9

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