阿良々木「僕でいいのなら何度でも死んでやる」part3back

阿良々木「僕でいいのなら何度でも死んでやる」part3


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6:
やっぱりね。
暦くんはぼくと正反対の性格。
何事も全力を出して常に他人を優先させる。
そしてなにより優しすぎる。
つまり善い人。
暦くんは羽川さんを善人と言ったがぼくから言わせれば暦くんも立派な善人だ。
「さて、暦っちも行ったことだし、そろそろ始めようぜ」
「なんや本気でやる気かい。悪いことは言わんで降参しときな、健闘したって言ったるから」
「はん、そりゃてめぇの方だ。まあいいや時間の無駄だからさっさと掛かって来やがれ」
人差し指で余弦さんを挑発する哀川さん。
ぼくがまだ二人の間にいるのに挑発するのは止めて欲しいな。
ということで大人しく壁際にもたれかかって座り込む。
ちなみに余接ちゃんはぼくの隣で体育座りをしている。
197:
と、最初に余弦さんが動いた。
ヒビが入るほどの凄まじい力で床を蹴ると哀川さんに目掛けて突進する。
しかし吹っ飛ばされたのは余弦さんの方だった。
哀川さんは少し体をずらすだけで攻撃というほどの動きを見せていない。
それなのに余弦さんの体は壁に吸い込まれるようにぶつかった。
隣の余接ちゃんは思わずといったように無表情ながら立ち上がる。
余弦さんは然程ダメージが無かったのかすぐに立ち上がったが、その顔に張り付いていたのは驚き。
「おどれ何をした」
「別に。姉ちゃんが勝手に転んだんじゃねぇの」
いや、絶対に何かしただろ。
多分一瞬の隙を突いて足を引っ掛けたのかな。
まあ、ぼくは余弦さんの動きを追うのに必死だってのに凄いな。
今度は余弦さんは跳んだ。
腕を思いっきり引いて哀川さんに打ち放つ。
――これが暦くんの言うコンクリートを突き破る攻撃か。
しかしそんな事はお構いなしに哀川さんは右腕を捻って真っ向から受け止める。
「いいか、いーたん。攻撃を馬鹿正直に真正面から受け止めると骨折とかするから後藤さんの言った
ように必ず角度で受け流すんだぞ」
……あの後藤さんは人間じゃありませんよ、哀川さん。
というよりぼくには角度とか関係無しに受けたように見えたのだが。
199:
「なんやおどれはっ!」
そう叫んで哀川さんの脇腹に蹴りを入れる。
至極最もな意見だな。
でも哀川さんはそれを鼻で笑って左手で掴み取る。
そして片手ジャイアントスイング。
軽々と余弦さんを回す哀川さんを見るとやっぱり人間かどうか疑いたくなるな。
十分な加が付いたところで哀川さんは手を離す。
弧を描いて余弦さんが飛ぶ。
なんとか受身を取ったみたいだけど今回は流石にダメージがあったのか膝を着く。
すると哀川さんに向かって跳ぶ影。
いつの間にか余接ちゃんが動いていた。
一瞬で余接ちゃんの腕は質量を増やし巨大な鎚へと変化する。
――そういや暦くんが言ってたっけ。
「『例外のほうが多い規則』――僕はキメ顔でそう言った」
鎚は勢いを増して哀川さんを襲う。
けれど哀川さんはにこりと微笑んでそれに向かい合う。
「よっと」
たったそれだけ言って足を横に薙ぐ。
哀川さんの爪先が鎚の側面に突き刺さり力の方向が変わった。
その動きに引っ張られて余接ちゃんも縦に風車のように回転する。
どんな力を込めればそんな物理法則を無視した事が出来るんだ……。
200:
「こどもはいーたんとお話してろ」
足を入れ替え、まだ宙を回る余接ちゃんを蹴った。
見事にぼくの所に吹っ飛ばされてきた。
なんとか余接ちゃんのクッションになるように受け止める。
――しかしあれだけの質量なら相当重たいと覚悟したが実際は子供相応の体重しかないらしい。
というより哀川さんは蹴った感触からそれが分かったからぼくの方に飛ばしたのかな。
でも体重が見た目通りってことは余接ちゃんのどこから力を持ってきているのだろうか。
……ほんと怪異ってのは不思議だな。
「止める方を間違ったね。余弦さんを止めるべきだった」
「……あの人間、は本当に、人間なの? ――僕は、キメ顔で……そう言った」
「いやー、正直ぼくも人間じゃないと思うよ。……戯言だけどね」
戯言じゃないのかなこの状況を見るに。
しかし余接ちゃんが息絶え絶えなのは疲労やダメージよりもいとも容易く哀川さんにあしらわれた
ショックの方が大きいのかな。
「死神の、お兄ちゃんは一体なんなの――僕はキメ、顔でそう、言った」
「え? いや、ぼくはただの平凡な戯言遣いだよ。人類最弱って言われるほど何も出来ない」
《死神のお兄ちゃん》か。
思い返してみると確かに死神だな、ぼくは。
そういや余弦さんが言ってたな、死神は夜に活動する。
死体が見つかるのはいつもぼくが起きてからか深夜だったけ。
と、部屋全体を揺らす衝撃音。
ぼくが哀川さんの言い付け通り余接ちゃんと会話している間に戦闘が再開されたようだ。
201:
余弦さんの拳を平手で受け止める哀川さん。
……角度で受け流すんじゃなかったのか。
一度余弦さんは距離を取って、瓦礫を哀川さんに向けて蹴飛ばしながら攻める。
哀川さんはショットガンの弾丸の如く飛来するコンクリートの塊をノックするかのように蹴り返す。
当然余弦さんは反射されるとは思ってもいなかったのかノーガードで全て受けてしまう。
余弦さんは所々出血し、最初の余裕が嘘のように消えている。
それに対して哀川さんは相変わらずの態度で笑う。
余弦さんも強いはずなのに哀川さんは桁が違う強さだ。
なんだか改めて思い知らされるな。
「ええ加減おどれも攻撃してこんかい」
「うん? そろそろ終わりにするか」
「馬鹿言うなや、今度はうちが返り討ちにしたるわ」
「はっ、そんなの嫌いじゃないぜ」
言うと哀川さんは消えたと錯覚するような動きで余弦さんの前まで行くと、腰を入れた一撃を流れる
ように顎へと決め、余弦さんの身体が崩れ落ちる。
――決着の瞬間だった。
203:
★★A★★
……もう既に足の感覚は無い。
何度も心臓を破壊されては再生を繰り返し、蘇る。
朦朧とした僕の目に映るのは瞬きする度に変わる死神の喜びと怒りの顔だけ……
そして再び振り下ろされる白い拳――
★★B★★
「余弦さん大丈夫ですか?」
ぼくは倒れた余弦さんの頬を軽く叩きながら呼びかける。
すると余弦さんは顔を苦しそうに歪めた後飛び上がるように体を起こした。
おお、流石に常人より回復が早いな。
「ああーうち負けたんかー、完敗や」
再び体を倒して伸びる余弦さん。
205:
「不死身相手やから手加減せずにやれるなんて鬼畜なお兄やんに言ったんが恥ずかしいわ」
「はんっあたしもいーたんも不死身みたいなもんだ。一度死んでる人間だからな」
「あははっなんやそれ、おどれらも怪異なんか?」
「いや、ぼくら人間ですよ。ただの比喩です」
「ま、いいや、さっさと札渡せ」
「なんや急かすなや。ちょっと待っとれよ」
余弦さんは胸元を漁り一枚の紙切れを取り出す。
紛れも無く暦くんに見せていたお札だ。
哀川さんはそれを受け取って懐へ仕舞う。
そうしてお札と入れ替えるように何かを取り出しぼくの方へ投げてきた。
ぼくはそれを見送ったおかげで、床へと落ちてカツンと乾いた音を鳴らす。
「おい、いーたんてめぇなに華麗にスルーしやがるんだ! 」
「あ、いえ受け取ったほうが良かったですか?」
「当たり前だ!」
ぼくの腹に蹴りを入れて吼える哀川さん。
足元のそれを拾い上げる。
哀川さんが投げて寄越してきたのはこれでもかというほど真っ赤に彩色された携帯電話だった。
でもこれ哀川さんの携帯だよね、色からして。
「携帯電話なんて投げたら壊れますよ? それに自分の携帯電話持ってますから」
「てめえが受け止めないからだろうが、ちっ、まあいいや。その携帯には暦っちの携帯のGPSを登
録してるから今の居場所が分かるようになってる」
また勝手に他人の物を弄って……。
206:
「いーたんは暦っちの所に行ってやれ。あたしは神社に行くから」
「え、別行動ですか?」
「おう、神社に行くならあたし一人のほうが早い。直線距離にして七分ってとこか」
「……じゃあ携帯電話お借りします」
「よし、行くか。おっとそうだ姉ちゃん、暦っちとの約束守れよ」
「ははっ、うちはもう鬼畜のお兄やんの妹のことなんざどうでもよくなったんや。なんせうちが指も
触れることの出来ん化け物の存在を知ったからなー」
「はっ失礼なヤツだな。私は人間だ。ちょいっと最強なだけで」
「ふん、よく言うわ。おどれが怪異ならうちはどんなことをしてでも殺してやるのになー」
「やれるもんならやってみろよ。んなの気にせずに歓迎してやるぜ」
そうして二人して笑い合う声が廃墟に響く。
……なんだか青春真盛りって感じだな。
ふたりとも二十代中盤ってとこなんだけどね。
余弦さんと余接ちゃんを残してぼくらは廃墟を後にした。
外に出ると既に日は落ちて変わりに長細い月が浮かんでいる。
「大分暗いですね。ちょっと先が見えない」
「そうか? それ程でもねぇだろ、月も出てるし」
「いや、二分月ぐらいだからあんまり明るくないですよ」
「よっしゃ、暦っちを頼んだぞ。あたしも出来るだけ急ぐからさ。えーと神社は確かこっちの方角だな」
そう言って哀川さんは一足で正面の塀に飛び移り、そのまま体のバネを使って民家の屋根に登った。
そして一気に駆け出して次の屋根へと跳ぶと姿が見えなくなる。
……直線って言葉の通りだったんだね。
207:
ということでぼくも哀川さんのGPS機能を使って暦くんの居場所を割り出す。
携帯電話の画面に映し出されたところは結構距離のあるところだった。
「あー、遠いな。これが無かったら確実に迷ってるなぼく」
なんて誰も聞いてないのに独り言を呟く。
さて、暦くんのところに早めに行くとするか。
暗い路地を足早に歩いていくとぼくの居場所を示す印が暦くんの印に近づいていく。
五分くらい歩いただろうか、そろそろ目的地に着こうとした時にぼくの背後から女の子の声がした。
「いーさん」
「羽川さんのお知り合い?」
振り向くとそこには翼ちゃんと見覚えの無い綺麗な女の子が立っていた。
……関係無いけどなんだか今日背後を取られまくってるな。
どうも翼ちゃんは今まで走っていたかのように肩を揺らして息を切らしている。
もうひとりは涼しそうな顔だけど。
「どうかした? 翼ちゃん」
「あの、阿良々木くん見ませんでしたか? 私たちさっきから探してるんですけど何処にもいなくて」
「ぼくも今から暦くんのところに行くから翼ちゃん達も来る? 多分暦くんお取り込み中だけど」
「……あなた、阿良々木くんのこと知ってるの?」
「えと、ま、一応ね。きみとは初めましてだったかな」
「まあそうね。私はあなたなんて見たこと無いですもの」
「ぼくは請負人見習いで、」
「自己紹介はいいわ。興味ありませんから」
208:
……。
まさかバッサリと切られるとは思ってもいなかった。
もしかして初対面で嫌われちゃったのかな。
ま、いいさ嫌われるなんてなんとも思っちゃいない。
戯言……だけど、ね。
泣いてなんかいないよ。
「あなたの名前はどうでもいいけど阿良々木くんの居場所は知りたいからさっさと教えて」
「……はい」
「こら、そんな態度駄目でしょ。いーさんに謝りなさい」
「うっ……ごめん、なさい」
これは一体どんな力関係なんだろう。
それにしても、とっても嫌そうな顔だな。
こんなことがあってぼくは可愛い女の子をふたり引き連れて再び歩き出す。
しばらく歩くとブルーシートの破れた建設現場に行き着いた。
ふむ、GPSの反応からこの中で間違いなさそうだな。
「んん? おかしいな、さっきもこのあたり探したのにここ、見覚えが無いよ」
「そうね、ここは見てないわ」
なるほどね、嘘から出た真か。
とりあえずぼくはブルーシートを潜って中に入ってみる。
ぼくは後ろからついてくる二人を止めた。
そこでぼくの目に飛び込んできた光景は――
210:
――地面に転がる暦くんの身体。
その身体の上には漆黒の体躯に浮かび上がるような白い指と顔、昼間見た死神が乗りかかっていた。
死神は腕を高く上げ、暦くんに振り下ろす。
水を跳ね返すような音がぼくの耳に届く。
地面は血液を染み込ませて泥に変化している。
暦くんの身体をよく見ると上半身と下半身が別れていた。
胴体に当たる部分は果肉入りの苺ジャムのようになって原型を留めていない。
誰が見てもそれは死体であり、生きているとは言わないだろう。
なのに――なのに、暦くんは頭を起こし、焦点の合っていない目をぼくに向けてきた。
214:
★★A★★
朦朧とした意識の中で僕はいーさんの顔を捉えた。
驚きも見せずにいーさんは至って冷静な顔で僕の方を見ている。
カラカラに乾いた喉からやっとのことで声を絞り出す。
「な……んで、こ、こに……」
「うーん、成り行きかな?」
駄目だ、誰もここにいてはいけない。
死神が標的を変えてしまう。
「ここ、か……らはな、れて……ください」
――死神が僕に夢中になっている間に。
そう言葉を継ごうとしたとき、何かが飛んできた。
それは死神の胴体に突き刺さり、鈍く光を反射させていた。
……これは――ハサミか?
――っ! ハサミだって!?
215:
「あら、阿良々木くんお休みの日にこんな所で寝て何がしたいのかしら?」
「ガハラッ、さん!?」
「なに? 阿良々木くん。最近私が優しくし過ぎたから物足りなかったのかしら。やっぱりMなのね
阿良々木くんは。わけの分からないのにそんなことさせて」
「何故、?」
「何故ですって? 羽川さんと買い物してその帰りに阿良々木くんが奇声を発しながら飛び出してき
たんじゃない。もう忘れたの? ニワトリだってもっと物覚えがいいわよ。あら、阿良々木くんと比
べたらニワトリに失礼かしら」
――羽川の言った友達とは戦場ヶ原のことだったのか。
ああ、戦場ヶ原、相当怒ってるな。
懐かしいほど言葉がトゲトゲしている。
「どうかしたの? 戦場ヶ原さん」
「いえ、別に。阿良々木くんが変なのと浮気してるだけよ」
「ん、浮気って? あっ、阿良々木くん大変なことになってるじゃない」
「はね、かわっ!?」
何故、なんで羽川までいるんだ!?
僕がわざわざ遠退けたのに。
……っ!
やばい、死神が僕から目を離し始めた。
216:
「みん、な、逃げ、」
僕が言い切るよりも早く死神は僕の上からいなくなる。
宙に浮かぶ死神の後姿が目に入った。
その進行方向にはガハラさんたちが……。
僕は力の限り手を伸ばすが下半身が無いこともあって当然届かない。
するといーさんは二人の手を掴み横へ跳んだ。
なんとかギリギリで直撃を避けて全員直接的な怪我は無い。
「こりゃまずいね。ぼくは哀川さんみたいに戦闘は向いてないんだ」
膝を着いたまま緊張感の無い声でいーさんが洩らす。
死神は次の行動に移るために身構えて――
――崩れ落ちた。
……え?
219:
「ふう、哀川さん間に合ったみたいだな」
そう言っていーさんは立ち上がるとおもむろに死神へと歩を進める。
「駄目、です、いーさん。忍にトドメを頼まないと……」
「いいんだ、暦くん。これは殺す必要がないよ」
「でも、それは、死神です」
「だからいいんだって。ぼくはこれと共に生きると決めたんだ。そう、一年前にね」
僕からはいーさんの後姿しか見えない。
けれど何故か僕にはいーさんが笑ったように感じた。
いーさんは死神に手を差し出し、触れる。
するといーさんの手に吸い込まれるかのように死神の姿は消え去った。
「ぼくが請負人になって最初の仕事は自分の運命を受け入れること。自慢じゃないけどぼくの周りで
は不思議なほどに何か起こるからね。だからぼくはこの死神も請け負う。――他人の運命を請け負う。
それがぼくの役目じゃないかと思うんです。どうですか――狐さん」
いーさんは僕に向けて言ったのではない、何も無い闇の方だ。
するといーさんが視線を向ける闇の中から声が返ってきた。
「『どうですか、狐さん』。ふん、知ったことか俺の敵――」
220:
★★B★★
暗闇の中から浮かび上がるシルエット。
和服に身を包み、精悍な顔をした男。
――人類最悪、狐さん、西東天、ぼくの敵。
「で、今回の世界の終わりは怪異ですか」
「そういうことだ。化物に終わらされる世界、面白いだろ」
「全然、ですね。今回も走り回されましたから」
「ふん、『走り回されましたから』。お前はつくづく俺の計画を狂わさせるな、俺の敵」
「ぼくは何もしてませんよ。ほとんど暦くんと哀川さんのお手柄です」
「ふん、まずお前がそのガキと接触した時点で狂ったのさ」
「……暦くんとですか」
ぼくは後方でふたりに介抱されている暦くんを一瞥する。
221:
「あのガキが今回の俺の敵になる予定だった。なのに俺の娘がお前を連れてよりにもよってそいつと
出会った。ふん、それはバックノズルだったか」
「遅かれ早かれぼくは暦くんと出会っていた、そういうことですね」
「『そういうことですね』。ふん、そんなことはどちらでも同じことだ。そもそもお前が存在するこ
と自体が俺の障害になってるんだろう」
「つまり今回の世界の終わりは失敗することが決まっていた」
「違うな、あの時点ではまだ未定だった。お前は物語の最良の答えを選んだだけだ」
「ぼくがあの神社に行くことになったこともですか」
「ふん、死神か。お前にお似合いの存在だな」
「それはあなたにも当てはまりますよ、狐さん」
「ふん、確かにな。ふん……ところでお前はいつ俺の存在に気付いた」
「ああ、それはですね、暦くんと出会ったときも妙に感じてはいたんですが、確信したのは翼ちゃん
と会ってからですね」
「あの女か」
狐さんは翼ちゃんに目を向けて鼻を鳴らす。
225:
「都合が良すぎるんです。普通ならあんなことは無い。そこでぼくにはおかげさまで経験がありまし
たから。『物語は加する』、あなたの十八番ですよね、狐さん」
「ふん、なら木の実の存在も知っていたってことか」
「いえ、木の実さんについてはついさっきです。翼ちゃん達がここに近寄れなかったみたいので」
ぼくが言い終わると狐さんの背後から文学少女のような女性、木の実さんが姿を現した。
「やはりわたくしの空間製作は機械には弱いのですわ。天敵とおっしゃってもよろしいくらいに」
「すみませんね、邪魔しちゃって」
「いえいえ、どうせあなたが係わっているのならこれは必然のことですわ」
然程気にしていない口ぶりで木の実さんはにっこりと微笑む。
と、ぼくの横を何かが通り過ぎた。
それは真っ直ぐに狐さんへと向かい、狐さんの顔を掠めて一筋の傷を作る。
見ると戦場ヶ原ちゃんが指に何本ものペンを装備して立っていた。
「あなた達の口振りからして黒幕ということでいいのかしら」
「ふん、『黒幕ということでいいのかしら』。それがどうした、下らんことだ」
「私の真似をしないでくれる? 実に不愉快だわ、汚らわしい」
露骨に顔をしかめて吐き捨てるように言う。
――狐さんに魅了されない女の子は珍しいな。
ま、第一印象がこれじゃ仕方ないか。
226:
「お前は確か戦場ヶ原といったな、これはお前に関係ない物語だ。脇役がしゃしゃり出るな」
「関係ないですって? 私の愛する阿良々木くんを巻き込んだ時点で関係してるじゃない」
「ふん、お前らの関係なんか知ったことか。俺にとってはどうでもいい事柄だ」
「ならいいわ、分からせてあげる。死んで詫びなさい」
そうして投擲される文房具。
直線的な動線を描くそれを避けると、狐さんと木の実さんは闇の中に溶け込むように消えた。
そして声だけが聞こえてくる。
「今回はこの辺りで幕引きだ。無駄に出費した割には成果が見られなかったな。ふん、俺の敵――またな」
「それでは御機嫌よう、戯言遣いさん」
言い終わると同時にプツリと気配は掻き消えて、この場に残るのは四人だけとなった。
しかし見事だな、木の実さんの空間製作は。
……さて、これで一件落着か。
ぼくは踵を返して暦くんに近寄る。
ふむ、出血は既に止まっており、傷痕からは新しい肉が盛り上がり始めている。
なるほどね、これが『不死身』か。
「……驚かないんですね」
「うん? いやぼくにも死なない知り合いがいたからね。殺されちゃったけど」
「死なないのに死んじゃったんですか?」
ちょっと目を丸めてすぐに笑う暦くん。
どうやら冗談だと思われたようだ。
ま、いいけどね。
「回復にもう少し時間が掛かりそうですけどいいですか」
「別に構わないよ、哀川さんもまだ来てないし」
228:
「上の名前で呼ぶな下で呼べ。苗字を呼ぶのは敵だけだ」
背後から聞き慣れた台詞と共に後頭部への衝撃が訪れた。
振り返らなくても分かる――哀川さんだ。
「どうしてここが分かったんですか……あ、潤さん」
「いや、血の匂いがしたから辿って来た」
……犬みたいな嗅覚だな。
戦場ヶ原ちゃんと翼ちゃんは突然登場した哀川さんに訝しむような視線を浴びせる。
――そういや翼ちゃんも直接は哀川さんのことを知らないんだっけ。
「翼ちゃん、この人が哀川潤さんだよ」
「あ、なるほど。女性だったんですね」
「よろしくな翼ちん」
「えーと、それでこっちが、」
「戦場ヶ原です」
素っ気無く答える戦場ヶ原ちゃん。
名乗られもしなかったぼくよりはましかな。
「で、暦っちはなんでこんな面白いことになってんだ?」
「ちょっと、やられちゃいました」
「ふうん」
そうして哀川さんは暦くんに歩み寄り――
230:
★★A★★
「ふうん」
潤さんはそう感慨なさげそう漏らすと僕に近づいてきた。
そして真っ赤なジャケットを脱ぐと僕の体にかぶせる。
「ええと?」
「いや、そのままだとちょっとヤバイだろ、露出的に。暦っちが恥ずかしくないなら別にいいけど」
「……あ」
そう、僕の下半身は既に無いわけだからこのまま行くと丸出しになってしまう。
思いっきり失念していた。
「……すいません、お借りします」
「いいんだよ。かわりにちょいっと対価もらうけどな」
そう言うと僕の体をひょいと起こして――
――キスをされた。
それも結構濃厚に。
まずい、不味い、マズイッ!
慌てて戦場ヶ原の方に目を向ける。
……僕を養豚場の豚を見るかのように冷たい瞳で見下ろしていた。
戦場ヶ原は何も言わない。
しかしそれがかえって恐ろしい。
236:
なぜ忍に戦わせなかったのか
237:
「じゅ、ジュンさんッななナニヲ」
「うん、いや喧嘩の請負料とジャケット代だけど」
僕の裏返った声にしれっと答える潤さん。
僕をそっとおろして二歩下がると戦場ヶ原に笑いかけて言う。
「ご馳走さん」
戦場ヶ原が僕の彼女だと分かっててキスしたのかよ!
それを聞くと戦場ヶ原は爽やかににっこりと微笑み、右袖の中からカッターナイフを滑り出した。
そして一線。
潤さんは軽く体を反らしカッターの刃を紙一重でかわす。
戦場ヶ原は舌打ちすると、今度は左袖からコンパスを取り出しフェンシングのように突き出した。
それに対して潤さんはバク転で道化師のように避けて距離を取る。
「よっしゃ、いーたん先に車戻っとくぞ! わははは」
獣のようなさで潤さんは走り去り、なんとも言えない沈黙が建設現場に流れる。
するといーさんは溜息をついて僕の前で屈む。
「なんか哀川さんが迷惑かけてゴメンね」
「あ、いえ別に、」
「別に何かしら、阿良々木くん。彼女の前で美人とキスできたのが良かったってことかしら」
「違う! 誤解だガハラさん!!」
「ねえ、どう思う羽川さん?」
うわっ羽川に話題振りやがった!?
239:
「んん、無理矢理ってのはあるけど抵抗しなかったのはどうかと思うね」
……ばれてる。
確かにあんな美人にキスされたのは嬉しかったさ。
でも――でもそれは男として当たり前のことだよね!?
「なに鼻の下伸ばしてるの。猿のモノマネ? 似てるけど猿に失礼よ」
「酷い!? 彼氏を猿と比べた!」
「誰が彼氏だっけ? 私にそんなのいたかしら?」
「……すみませんでした。それだけは勘弁してください」
「行きましょう、羽川さん」
「え、あっうん」
そうして戦場ヶ原と羽川が去り、僕といーさんだけとなった。
戦場ヶ原に許してもらえるだろうか……。
なんだか僕の気分はどん底まで沈んだ。
240:
「暦くん」
「あっ、はい。いいですよ僕を置いて行っても何とかなりますから」
「いや、そうじゃなくてね。これを渡しておこうと思って」
そう言うといーさんはポケットから長方形の紙を一枚取り出して僕に差し出してきた。
受け取って見てみるとそれには住所と職業が印刷されており、綺麗に加工されている。
「……えと、名刺ですかこれ?」
「うん、名刺だよ。でもそれは特別製でね、それをぼくに見せると一回だけ無料で何でも請け負って
あげるよ。暦くんが必要ないなら誰かにあげてもいいから」
「サービス券みたいなものですか?」
「そう思ってくれてもいいよ。じゃあぼくも哀川さんを待たせてるから行くね。お大事に」
「はい、ありがとうございました」
「こちらこそ」
いーさんもいなくなり、とうとう建設現場には僕だけが残った。
体もまだ三分の一グチャグチャのままだ。
今日は色々ありすぎた。
まだ夜は長い、僕は疲労のせいか鉛のように重たい瞼をそっと下ろした。
241:
★★B★★
ぼくが神社まで戻ると哀川さんは車にもたれかかるように立っていた。
そしてニッと口の端を持ち上げるとぼくに言う。
「さて、今回の残りもんを解決するか」
「……? 全部終わったじゃないですか」
「まだ残ってるじゃねぇか。誰があのクソ親父にいらねぇ情報を与えたのか」
「あ……」
「クソ親父が怪異なんて物を知ってて、神社の札を剥がすと狂うなんて思いつくと思ってたのか」
確かにそうだ。
ぼくや哀川さんが知らないことを狐さんが思いつくとは思えない。
「……つまり、協力者がいる」
「そ、正解」
「でも誰が……」
「あのクソ親父は去り際にこう言ってたよな、『無駄に出費した割には成果が見られなかったな』」
――聞いていたのか。
いつから哀川さんはあそこにいたんだ?
「戦場ちゅんがクソ親父にペン投げつけた辺りからだ」
「当然のように読まないで下さい。で、誰が協力者か分かるんですか」
「だからここで待ってるんだろ」
「え?」
243:
そこで誰かの足音が聞こえてきた。
ぼくがそこに目を向けるとサングラスをかけた黒ずくめの男がいる。
壮年の男で、その服装はどこか喪服を彷彿させ、不吉な雰囲気を放っていた。
「……誰かと思えば俺の情報を買ったやつを邪魔したお嬢さんと青年じゃないか」
「てめぇが協力者だな、おっさん」
「ふむ、協力者か、少し違うな。俺は金をもらって教えただけだ。で、どうして俺がここに来ると分かった」
「はんっ、てめぇみたいなのは大体自分の仕事を確認するために現場に現れるんだ」
少し思考するかのように顎に手を寄せる男。
サングラス越しから覗く目は冷たく、感情が無いようにも見える。
「……それで俺をどうするつもりかな、お嬢さん」
「少しお仕置きしてやろうと思ってるかな。謝るなら今のうちだぜ」
「そうか、なら謝ろう。悪かったな、誓ってもうしない」
「はん?」 「あれ?」
「どうした、お嬢さん。許してもらえるかな」
なんだこの人は――
いままで見たことの無いタイプ、理解できない。
プライドが一片たりとも無いのか?
244:
「てめぇプライドが無いのか?」
「プライドなんてあっても損するだけだ。金にならないものは持たない主義でな」
「チッ、あたしが一番嫌いなタイプだぜ、あんた」
「……それなら俺はお嬢さんの目に映らないところに消えるとしよう。これでお互い得だ」
そうして本当にその男は去って行った。
「なんなんでしょうか、あの人」
「あたしが知るか。分かるのはあいつが人間の屑って事だな。あーくだらねぇ、帰ろうぜいーたん。
『動物園、ただし全部剥製みたいなっ』ってやつだ」
哀川さんはさっさと車に乗り込み、ぼくも助手席へと這入る。
哀川さんが車を発進させてぼくらはこの町を後にした。
――こうして今回の依頼は全て解決を迎えた。
 
    Boku side 《Monster Lyric》is the END.
245:
★★A★★
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつものように二人の妹、火憐ちゃんと月火ちゃんに叩き起こされた。
結局あれから身体が治るまで工事現場で仮眠を取り、深夜にこっそりと家へ戻ったのだ。
しかし下半身を真っ赤なジャケットで隠した姿は正に変質者だったんじゃないのか。
なんとか誰にも見つからずに帰ることは出来たけど、多分僕はこのことを忘れることが無いと思う。
妹たちを追っ払って僕はベッドから疲労から重たくなった体を起こす。
カーテンを透過する朝日がいつもより眩しく、まだ体質を引きずっているようだった。
そして僕は嘆息する。
まだ僕の頭を痛ますことが残っているのだ。
それは勿論、戦場ヶ原との事。
僕としては戦場ヶ原とは絶対に別れたくないのだ。
意識せずとも勝手に溜息が漏れる。
そうして僕は服を着替えて朝食も摂らずに玄関を出た。
秋の太陽なのに僕の肌は夏のように日差しを感じる。
憂鬱の月曜日は更に青味を増して気分的には黒に近い。
いつも通り慣れた道なのに何故か倍ほどの距離に感じる。
身体が学校に行くのを拒否しているのだろうか。
246:
と僕の進行方向に見覚えのある姿がこちらに歩いてくる。
馬鹿みたいにでかいリュックを背負ったツインテールの女の子。
――デジャブ?
僕の顔を確認するといい笑顔で元気に声を張り上げた。
「おはようございますっ! アロハ着さん!」
「……それは忍野だ」
「噛みましたっ! おや、どうしました阿良々木さん元気ないですね」
「お前はいつもより二割増しで元気いいな……」
「そりゃもう、こんないい天気ですから!」
そう言って大袈裟に空を仰ぐ八九寺。
僕はもうお前が眩しいよ。
「どうしたんですか? 本当に暗いですよ。さてはあなた偽者ですね!?」
「いやいや、本物ですよ、八九寺さん……」
「いえ、偽者です! 本物はわたしの体をしゃぶりつく様な目で見つめていつも呼吸が荒いですから。
それにいつも涎を垂らしていました!」
「八九寺の目には僕がそんな風に映ってたの!?」
「おお、少し元気が出てきましたね」
「あ……」
なんだ、八九寺に心配かけてたみたいだな。
確かに少し元気が出てきた。
248:
「ところで何があったんですか?」
「ああ、それがな――」
僕は昨日八九寺と別れてからのことを要点だけを捉えて話した。
ただし戦場ヶ原とのことは意見を貰いたかったから細かく教えたのだけど。
そして聞き終わった後に一言。
「それを小学生に訊くのはどうなんでしょうか、阿良々木さん」
「バッサリ切り落としたな!?」
「ふふん、当たり前です。そんなのは本人に聞くのが一番でしょう、ほら」
八九寺は僕の後ろをあごで示す。
僕が振り返り見た先には、噂の戦場ヶ原が立っていた。
「ガハラ、さん……」
「おはよう、阿良々木くん。早いのね」
いつも通りな様子の戦場ヶ原。
反対に僕は汗を浮かべて挙動不審なことだろう。
一気に喉が渇く。
「ガハラさん、昨日は、」
「私は少し考えてきたんだけど――」
僕の言葉を遮り、そして続ける。
249:
「やっぱり急に優しくなったのがいけなかったんだと思うんだけど、違う?」
「えっ? いや、」
「ということで今日から以前みたいな関係に戻そうと思うの」
「えっえ、どういう、」
「さっさと学校に行くわよ。阿良々木くんは亀よりも遅いんだから、遅刻しちゃうじゃない」
「え、ああ、」
「阿良々木くんが遅れるのは別に構わないけど、私が遅れるのは許しがたいのよ」
歩き出す戦場ヶ原に混乱する僕が後に続く。
後ろを見ると八九寺は満面の笑みで手を振る。
「いってらっしゃい! 阿良々木さんっ」
ありがとう、お前はやっぱり僕の親友だ、八九寺。
250:
そうして二人並んで歩いていると急に戦場ヶ原は立ち止まる。
なんなのかと僕が思っているとうっすらと微笑み言う。
「やっぱり私は阿良々木くんを手放せないようね」
「えと、ガハラさん?」
「愛してるわよ、阿良々木くん」
そう言うと再び歩き出す戦場ヶ原。
僕は稲妻が走ったように呆然と立ち尽くし、阿呆の子のようになった。
これで僕は戦場ヶ原の所有物になったのだ。
何をされても文句を言えない人形なのだ。
……なんてね。
こんな時いーさんはこう言うのだろうか。
「戯言だけどね」
僕は駆け足で戦場ヶ原の隣まで行き、並んで歩く。
先ほど僕の胸に巣食っていた黒い雲は嘘のように散って、見上げた秋の空が美しかった。
      
        Araragi side 《戯物語》 了
251:
乙。面白かった
261:
よく出来たSSだった
悪くない
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