藤原肇「遠く遠く」back

藤原肇「遠く遠く」


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2:
春霞とスモッグで煙った空
行き交う電車の音
そして手には、レンタルの釣竿
市ヶ谷駅を降りてすぐの釣り堀には、たくさんの人
向かいに座っている小さな男の子は、釣り糸を垂らしたままお昼寝中
その隣りではお父さんらしき人が、何匹目かの魚を釣り上げました
なんだか、いい気分
3:
「近くに釣り堀はありますか?」
私にそう聞かれたプロデューサーは、なんだか不思議そうな顔をしていました
「…魚釣りが趣味なので……変ですか?」
「あ、いや、ちっとも変じゃないよ。なかなか渋い趣味だな」
「…ふふ。田舎者なので」
「それはあんまり関係ないような…」
そのとき教えてもらったこの釣り堀
初めて来てみたけど……
まだ一尾も釣れません……
4:
上京してからもうすぐ二ヶ月
転入した東京の高校は人数が多くて、最初は戸惑いました
だって、
だって、前の高校は300人もいなかったから…
おじいちゃんは三日に一度のペースで電話をかけてくるけど、内容はいつも同じ
『いじめられとらんか?』
『東京には変なやつがぎょうさんおるけぇ、気をつけぇよ』
『いけんかったら帰ってくりゃあエエけぇの』
5:
私の返事もいつも同じ
『心配せんでええよ。みんなエエ人じゃけぇ』
それは本当のこと
だけど少しだけ寂しかったりもします
だってここには、土の匂いがしないから…
そんなことを考えていると、隣りで糸を垂らしていたおじいさんが一尾目を釣り上げました
私と目が合うと照れくさそうに笑いながら、
「なんだ、小さいなあ…」
って呟きました
風はほとんど吹いていません
6:
窯と土、レンガで造られた煙突
たまに備前陶芸センター
それが私の原風景
おじいちゃんは有名な陶芸家で、備前陶芸美術館にも作品が展示されていたりします
まだ小さかった私に魚釣りを教えてくれたのもおじいちゃん
「土をこねるのと似とるから」
そんな理由だったけど、お父さんは、
「肇と一緒に遊びたいだけじゃろ」
って言ってました
たぶん、お父さんが正解
8:
「お嬢ちゃん?」
「…え?…あ、はい!」
初めて作務衣を着たときのことを思い出していたから、おじいさんに声をかけられたことに気付きませんでした
「いい天気だねえ」
「そうですね。釣り日和です」
私がおじいちゃん子だってこと、他のおじいさん達にも雰囲気で分かってしまうみたいです
お母さんからは、
「アンタはほんまに爺様キラーじゃなぁ」
って言われました
正解…なのかなぁ?
10:
「女の子一人で釣り堀なんて珍しいねえ」
「ふふ。田舎者ですから」
プロデューサーに言ったのと同じセリフを返しながら、エサを付け替えました
「東京なんて田舎者の集まりさ」
おじいさんも同じようにエサを替えながら、また照れくさそうに笑っています
「どちらのご出身ですか?」
「鳥取。田舎も田舎だよ」
「じゃあお隣さんですね。私は岡山です」
糸を垂らすと水面に小さな波紋が拡がりました
向かいの男の子はお昼寝から覚めたみたいです
11:
「岡山か。桃太郎とばら寿司と…他に何があったっけな」
「……備前焼」
「ああそうだ!瀬戸大橋!」
私の呟き、聞こえなかったみたいです……
「お嬢ちゃんは鳥取っていうと何が思い付くかな?」
「うーん…やっぱり砂丘かな。あ、あと大山。中学二年生のときに登山にいきました」
『大山』を『だいせん』と読む人はたいてい中国地方、それも岡山か鳥取の出身らしいです
12:
「大山か。懐かしいねえ」
「里帰りしたりするんですか?」
「前は先祖の墓参りに帰ってたけどね。年寄りに長旅は堪えるんだ」
「ふふ。まだお若いですよ」
「はは。ありがとさん」
竿の先がピクリと動いたけど、放っておきました
なんとなく、そんな気分だったから
15:
「やれ。そろそろ帰るかねえ」
そう言って帰り支度を始めたおじいさん
バケツの中の魚も釣り堀に返しました
「持って帰らないんですか?」
「ん?うーん…なんとなくそんな気分だったのさ」
「…ふふ。分かります。なんとなく」
外堀の反対側では、何艘ものボートが小さく揺れています
日差しは少し和らぎました
17:
「それじゃあお先に。釣れるといいね」
「ありがとうございます。お気をつけて」
出口に向かって歩くおじいさんの背中を見ながら、今日は私の方から電話をかけてみようと思いました
『心配なんぞしとらんわ!』
って言いそうですけどね、おじいちゃん
19:
「私は大丈夫だよ、おじいちゃん」
水面に向かって小さく呟くと、それに反応したみたいに一尾の魚が釣り糸の側で跳ねました
「ふふ。そんなところにおったら釣り上げちゃうよ?」
方言と標準語が混ざった言葉を投げかけると、魚はもう一度跳ねてくれました
「大丈夫。田舎者じゃけぇ」
柔らかな五月の風が、私の頬を撫でてくれました
20:
『遠く遠く 離れていても 僕のことが分かるように』
上京する新幹線の中で聴いていた曲を口ずさんでみました
『力いっぱい輝ける日を この街で向かえたい』
なんだか鼻の奥がツンとしてきたから、慌てて淡い空を見上げました
その空の真ん中には一筋の飛行機雲が西に向かって伸びていて、今度は瞳が濡れてくるのが分かりました
24:
『どんなに高いタワーからも 見えない僕のふるさと』
頭のなかでひとりでに続いていく歌
『無くしちゃダメなことをいつでも 胸に抱きしめているけど』
土の匂い
ろくろが回る音
ちょっと荒っぽい、岡山弁の響き
私が無くしてはいけない、いくつもの思いや景色
25:
腕時計に目をやると、いつの間にか16時を過ぎていました
「今度はみんなと来たいな」
瑛梨華ちゃんや早苗さん、それに薫ちゃんも

……
………早苗さん、ここでお酒飲んだりしないよね?
27:
お花見のときの早苗さんを思い出していると、携帯電話が鳴りました
「はい、藤原です。お疲れ様ですプロデューサー」
『お疲れ。明日の仕事の件で電話したんだけど、いま大丈夫か?』
「大丈夫です。一人で釣り堀に来てるんですよ。プロデューサーに教えてもらった」
とっくにエサを取られている釣り糸を見ながら、私は小さく笑いました
28:
『お、けっこう釣れてるのか?』
「ふふ。まだ一尾も」
『え?それにしちゃ楽しそうだな』
「はい。土をこねるのと似ていますから」
『なんだそりゃ……』
暖かな西日を背中に受けながら、私はまた、小さく笑いました
3

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