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戒斗「赤と青の?」一夏「ヒッサーツ!マキシマムドライブ!」


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1:
IS<インフィニット・ストラトス>と仮面ライダー鎧武のクロスSS。今回はお祭りMOVIE大戦になります。
 舞台は『IS学園と沢芽市』と『風都』。元ネタは……えーっと。
 『平成対昭和』と『バトライド・ウォー2』……?
 IS原作1巻(アニメ1?4話)の話は↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」
 IS原作2巻(アニメ5?8話)の話は↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」
 IS原作3巻(アニメ8?12話)の話にして本編完結編は↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スパーキング!」
3:
■序幕「不屈の男達」
<沢芽市・ユグドラシルタワー跡地・隠された地下室>
「プロジェクト・アークは戦極ドライバーを生みだした」
「なら、戦極ドライバーとは何だったのか?」
「それは――人類がヘルヘイムと共生するための手段だった」
「しかし」
「ヘイヘイムと共生するための手段は、戦極ドライバーだけではない」
「例えば――メガヘクス」
「五十年前の侵略者の姿もまた、人類の可能性の一つだった」
「人類は研究していた」
「動植物を侵食するヘルヘイムと共生すべく、機械になるための研究をしていた」
「具体的に言えば……」
「全人類のデータ化だ」
「人類の『意識』をデータにして、電子上にアップロードする。身体が必要になった時には、機械の身体を用意して『意識』をダウンロードする」
「……」
「そう」
「この五十年の『私』の姿だ」
「……」
「プロジェクト・アークは人類が生き残るためのあらゆる手段を研究していた」
「だから」
「プロジェクト・アークの遺産を得ている『私』は、生き残るためのあらゆる手段を得ている」
4:
「さて」
「機械になることでヘルヘイムと共生する」
「この手段は、人間のデータ化以外にもう一つのアプローチが研究されていた」
「そのアプローチはコストの問題でプロジェクト・アークには本採用されなかったが、基本理論は別のプロジェクトに転用された」
「それは――人間をアンドロイドにする研究」
「最終テストを『私』に託したのは、基本理論の構築に関わっていたからだろうねえ。フフッ」
「……」
「そう」
「ARKプロジェクトは、人間の脳を機械に移植する研究を完成させていたんだ」
「それが、今の『私』だ」
「ハッ! ハハッ! ハハハハハハハハハハッ!」
「『私』が何をするのか?」
「破壊だ」
「そう言いたいところだが……」
「……」
「『強くてニューゲーム』だ」
5:
<風都・とある男が“風になった”場所>
 ――『男』は、黄昏の風を感じていた。
「風都……。やっぱり、いい風が吹くなぁ……」
「仮面ライダーが守ってくれた風だ……」
 ――『その場所』に、『怪人』が現れた。
「君は仮面ライダーを知っているのかい?」
「ああ。よく知っているよ。仮面ライダーは……」
 ――『男』は、口元に微笑をにじませていた。
「一輪の花を守る者、さ」
 ――『怪人』は、『男』の返答に頷いた。
「なるほど。君は本当に仮面ライダーをよく知っているようだ」
「すまないが、私はそろそろ行くよ。仮面ライダーに伝えることがあるんだ」
 ――『男』はその場所を後にした。
「……ふむ」
 ――『怪人』は、両腕を振り上げて喜びを表現する。
「良き出会いだった! 幸先の良さを感じさせる!」
「きっと、良い映画が作れるだろう」
 ――『怪人』もまた、その場所を後にした。
 ―― 戒斗「IS学園?」MOVIE大戦! ――
 ―― 戒斗「赤と青の?」一夏「ヒッサーツ!マキシマムドライブ!」!! ――
27:
■《仮面ライダーバロン》編-本当の強者はなにをするのか?-■
■序幕「駆紋戒斗の後継者」
<某所>
 ――『弱さや痛みしか与えない世界! 強くなるしか他になかった世界を、俺は憎んだ!』
 ――『俺は力を手に入れた。この力を使って、古い世界を破壊する』
 ――『今の人間では決して実現できない世界を、俺が、この手で造り上げる』
 ――『誰かを虐げるためだけの力を求めない。そんな新しい命で、この星を満たす!』
「駆紋戒斗は、優しすぎたから大魔王になった。『私』は、そう解釈している」
「駆紋戒斗は、強者に踏みにじられる弱者の痛みを知っていた……」
「誰も、その痛みを味わうことのない世界を作る方法を探していた」
「…………」
「駆紋戒斗の主張に、『私』は共感を覚える」
「今の世界では『弱者が踏みにじられない世界』を実現できない! だから、全て『破壊』して、『夢』を実現できる『新しい世界』を作る!!」
「……」
「破壊的な、素晴らしい発想だ」
「『私』も、見習いたい」
28:
<夏休み初日・学生寮・1025室>
一夏(強くなりたかった)
一夏(強くなりたいって、ずっと、思ってた)
一夏(……)
一夏(小学校五年生の、あの日。……銃を押し付けられて、車に押し込まれた)
一夏(誘拐されたんだ)
一夏(怖かった……)
一夏(弱者は、強者に一方的に踏みにじられる)
一夏(あの事件が、俺にその残酷な事実を刻んだ)
一夏(……)
一夏(だから……)
一夏(強くなって、守ろうと思ったんだ)
一夏(もう、誰もあんな怖い目にはあわせない)
一夏(心ない強者に、弱者を踏みにじらせやしない)
一夏(俺がみんなを守るんだ、って)
一夏(……)
一夏(俺は……)
一夏(俺は、仮面ライダーになった)
一夏(俺には、みんなを守るために戦うための力がある)
一夏(でも)
一夏(…………)
一夏(俺の戦いは終わりが無い)
一夏(世界にはどれだけの人間がいる?)
一夏(世界にはどれだけの、心無い強者がいる?)
一夏(誰を倒せばいい? 何人倒せばいい?)
一夏(俺の戦いは……)
一夏(世界を壊しでもしなければ、終わらない)
 ――バナナロックシードと、ドライブロックシード。
 ――託された二人のヒーローの『魂』を、すがるように握り締める。
一夏「……」
一夏「俺に力があるうちは、俺が戦えばいい」
一夏「けど……」
一夏「俺は、この世界の最後の仮面ライダーだ」
一夏「俺が戦う力をなくしたら、誰がみんなを守るんだ……」
29:
■第一幕「嵐を控えた世界」
<太平洋・海上>
 ――海中を突き進む《ブルー・ティアーズ》の姿があった。
セシリア(必ず見つけ出してみせますわ)
セシリア(……)
セシリア(諦めませんとも、ええ)
セシリア(あの方を“戒斗さん”とお呼びした日から、覚悟を決めていましたから)
30:
<沢芽市・ショッピングモール>
箒「みんな笑っているな」
 ――駅前の活気に、さみしげな呟きが落とされた。
箒(戒斗がいなくなってから、二週間)
箒(あれほど大きな事件があったというのに、日本は相変わらずのんびりとしている)
箒(その不変は……)
箒(まるで、私達の友達の死なんてなかったかのようで……)
箒(少し、やり切れなくなる)
箒(……)
箒「――うわ!?」
 ――箒の背中が、バシン! と勢いよく叩かれていた。
鈴「たそがれるには早いわよ、まだお昼前じゃない。ほら、クレープ」
箒「あ、ありがとう……」
 ――二人はクレープを頬張った。
鈴「誇らしいわよね」
箒「何がだ……?」
鈴「街のみんなの笑顔よ。これは、あたし達が勝ちとった未来なんだから」
箒「あ……」
鈴「ふふん!」
 ――鈴は、街頭の広告を指さした。
 ――化粧品のポスターだ。
 ――モデルは英国の代表候補生、セシリア・オルコット。
 ――鈴は、さらに別の広告を指し示す。
 ――サーフボードのポスターには、鈴が写っていた。
鈴「たぶん、ああいうのは無くなっていくわ」
31:
鈴「ISの価値も、IS操縦者の価値も、変わったもの」
鈴「たぶん……。もう少ししたら、世界は大きく変わると思う」
鈴「でも。そんなの、どうでもいいじゃない」
 ――鈴は大きく腕を広げる。
鈴「大事なのは、こっちよ」
 ――鈴の後ろには、街の人々がいた。
鈴「ね?」
箒「ああ、そうだな」
鈴「ふふっ」
鈴「それじゃ、行きましょ。今日はめいっぱい遊んで、明日から思いっきり戦うんだから!」
箒「ああ!」
箒「この夏の間に、一夏の笑顔を取り戻すんだ」
鈴「そのためには、まずはあたし達が笑わないとね!」
 ――鈴はクレープの残りを飲み込んだ。
鈴「で! まずはどこに行く?」
箒「実は……」
鈴「うん?」
箒「その、ブラのサイズが合わなくなってきていて……」
鈴「……」
 ――鈴は視線を落とした。
 ――変えようのない現実が、そこにあった。
鈴「……」
鈴「あたし、もう笑えないよ……」
箒「鈴!?」
32:
<沢芽市・海岸>
 ――花畑が広がっていた。
千冬「来たか」
一夏「どうしたんだよ、千冬姉。こんなところに呼び出して」
千冬「……」
 ――千冬は、花畑に視線を送った。
千冬「ここには、夢がある」
一夏「夢……?」
千冬「ああ。この花畑こそ、最初の仮面ライダーが見た夢だ」
一夏「?」
千冬「じいさんから聞いた話だ」
一夏「じいちゃんから……?」
千冬「五十年前。この海岸には、花畑なんてなかった」
千冬「一輪の花が、ひっそりと咲いているだけだった」
一夏「一輪の花……」
 ――海岸の花畑は、美しく咲き乱れていた。
 ――その始まりが一輪の花であったなどと、誰が想像できるだろうか。
千冬「かつて、大きな戦いがあった」
千冬「その戦いの最中、とある男が我が身を盾にして一輪の花を守った」
千冬「最初の仮面ライダーは、その一輪の花を守った男を仮面ライダーと認めた」
一夏「……」
千冬「何故だか分かるか?」
 ――千冬は、その強い眼差しを一夏に向ける。
一夏「……分からない」
33:
千冬「そうだろう。それが分かるのは、大人だけだ」
 ――千冬は、一夏の頭に手を乗せる。
千冬「一夏。お前もまた、泊進ノ介という仮面ライダーに守られた一輪の花だ」
一夏「へ……?」
千冬「一夏。お前は、仮面ライダーになったな?」
一夏(な、何か話がどんどん飛んでいく……)
一夏「お、おう」
千冬「五十年前までの世界では、仮面ライダーは怪人と戦っていた」
千冬「徒党を組んだ怪人達の組織を、一つ一つ潰していった」
千冬「お前も……」
千冬「仮面ライダーとして電子の怪人と戦った」
千冬「だが……」
千冬「もう。この世界に、怪人はいない」
千冬「一夏。よく考えて欲しいんだ」
千冬「この、怪人が全滅した世界において……」
千冬「『仮面ライダーバロンの敵』は、何だ?」
一夏「……」
一夏「それは……」
 ――口ごもってしまう。
 ――『敵』を言い表す確かな言葉が思い浮かばない。
千冬「悩め」
千冬「お前の『敵』とは何なのか」
千冬「その敵を倒すには、どうすればいいのか」
千冬「その答えが見つかった時……」
千冬「お前は、『夢』を見つけるだろう」
 ――千冬は花畑を一瞥すると、立ち去った。
 ――後には、海岸の花畑を見つめる一夏だけが残された。
35:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
 ――千冬の部屋の半分を、『研究機材』が占領していた。
束「うあああああああああああああああああああっ!!」
束「何なの!? 何なんなの!? 天才なの? それともバカなの? 奇跡なの? ミラクルなの? 魔法の呪文はリリカルなの!?」
ルパン「意外と余裕あるのかい?」
束「ぽんぽこたぬきさん!」
ルパン「……」
ルパン「ああ、壊れたのか……」
ルパン「ISの方から先に取り掛かったらどうだ?」
束「《紅椿》はコアがなくなっちゃったし、《白式》はこの前の無茶がたたって修復中!」
束「箒ちゃんにどうしても先にって頼まれた《ブルー・ティアーズ》は一週間前に終わらせたし、ちーちゃんに頼まれた学園の訓練機と1年の子達の専用機はついさっき終わらせた!」
ルパン「ふむ」
束「だから、あとはこれだけなの!」
ルパン「ふむ」
ルパン「こういう言い方をしては何だが……。諦めてもいいのではないか?」
束「だめだよ!」
ルパン「何故だい?」
束「だってお父様だよ!? 絶対にスタンドアローンのバックアップを残してるよ! ……そのお父様はきっと、どうして自分が自壊の道を選んだか知らないお父様だよ」
束「きっと、恐ろしい敵になる……」
束「その時に、いっくんには絶対にこの力が必要になるはずだよ!」
束「来るべき日のために、仮面ライダーが守りたいものを守り抜くための手段を用意する!」
束「これは……。私ができる、贖罪だもん……」
ルパン「なるほど」
ルパン「それは――いずれ誇りに通じる、よき考えだ」
ルパン(……)
ルパン(くくく)
ルパン(そうだ。諦めず、挑戦してくれたまえ)
ルパン(このルパンの計画を成就させるために!)
36:
<花畑の海岸>
 ――突如、空間が歪んだ。
一夏「な、何だ!?」
 ――空間の“歪み”から、映画のフィルムが伸びていた。
 ――フィルムは寄り集まり、“人間”の姿を形成する。
 ――“人間”の下半身は、地面に置かれたフィルムの束から蛇のように伸びる、一本のフィルムだった。
 ――“人間”の上半身は、シルクハットを被った『紳士』だった。
 ――“人間”は手にしたステッキで地面を叩くと、恭しく頭を垂れる。
シネマ「始めまして、仮面ライダーバロン。私はシネマ。映画館の怪人だ」
一夏「か、怪人……?」
 ――『五十年前までの世界では、仮面ライダーは怪人と戦っていた。』
一夏「怪人……!」
 ――バナナ!
一夏「変身!」
 ――ロック・オン
 ――カモン! バナナアームズ!
 ――Knight・of・spear!
シネマ「ふむ」
シネマ「……」
シネマ「いいだろう。では、楽しい映画を作ろうか!」
37:
<IS学園・1年1組>
 ――教室には『一夏、ラウラ、シャルロット』を除く1年1組の面々が勢ぞろいしていた。
クラスメイト1「俺達は、本当の強者にならなきゃいけねえ!」
クラスメイト1「それが、駆紋の大将のためにできる弔いだからだ!」
 ――気合いを入れるように、黒板を叩いた。
クラスメイト1「これより、学級会を始める!」
クラスメイト3「議題は、この二週間我々が悩み続けてきたことだ」
クラスメイト2「今日こそこの難問と決着をつけなければ、私達はク・モーンの友人たる資格を失ってしまうだろう!」
 ――黒板には、『議題』が書かれていた。
クラスメイト1「それじゃあみんな! どんどん意見を出してくれ!」
 議題は――『本当の強者はなにをするのか?』
38:
<沢芽市・花畑の海岸>
シネマ「そこのレフ板! 角度が、こう、もっとこうだ!」
戦闘員「イーッ!」
シネマ「ちがぁああああああぅっ! こう! だ!」
戦闘員「イ、イーッ!!」
 ――シネマが『出した』戦闘員は、撮影スタッフの悲哀を醸し出していた。
一夏(……)
一夏(ほ……)
一夏(本当に映画作ってるー!?)
シネマ「仮面ライダーバロン!」
一夏「お、おう!?」
シネマ「これが君の台本だ」
一夏「お、おう……?」
一夏(あ。なんか、ちゃんと台本っぽいぞこれ……)
一夏「……」
一夏「え。えっ。え。えっ。え?」
シネマ「さあ、スタッフ諸君! 気合いを入れたまえ!!」
シネマ「子供達が楽しめる、良い映画を作るぞ!」
戦闘員達「「「イーッ!!」」」
一夏(なんだこれ)
一夏(……)
一夏(なんだこれ!?)
39:
■第二幕「本当の強者はなにをするのか?-前編-」
<IS学園・1年1組>
 ――黒板が叩かれた。
クラスメイト1「それじゃあ、最初に考えるべきはこれだな!」
 ――黒板に、でかでかと議題が記される。
クラスメイト1「誰が本当の強者なのか、だ!」
<沢芽市・花畑の海岸>
一夏「……なあ」
シネマ「何だね?」
一夏「もしかしてこれ。俺、変身してからはアフレコだけなのか……?」
シネマ「そうだ。アクションシーンは、スーツに入ったスーツアクターが行う。君自身がアクションをして怪我でもしたら、悲しいからな」
一夏(め、めっちゃ気遣われてるー!?)
一夏「わざわざバロンのスーツなんて作らなくたって、俺自身が変身しちゃえば手間もかからないじゃないか」
シネマ「ダメだ!」
一夏「力強い否定!?」
シネマ「君が傷つくことはあってはならない!」
シネマ「……」
シネマ「ん?」
 ――シネマは、撮影スタッフに厳しい視線を送った。
シネマ「その設置、ちょっと待て! そこじゃあダメだ。移動だ移動!」
シネマ「その位置取りで爆発させたんじゃあ、花畑を傷つけてしまうだろうが!!!」
戦闘員「イ、イーッ!」
シネマ「どうしても設置が難しいなら、CGでなんとかする!」
一夏「あ……」
 ――スタッフが作業していた場所は、花畑の風上だった。
シネマ「まったく。子供達のための映画を作る者が花畑を傷つけるなど、あってはならんことだ」
一夏「…………」
一夏(怪人って、俺、そんなに知らないけど……)
一夏(断言できる)
一夏(このシネマって怪人は、間違いなく『変』な怪人だ)
40:
<IS学園・1年1組>
クラスメイト2「うむ。なるべくしてなった結論だな」
クラスメイト3「素晴らしい! やはり、そういうことなのだろう」
クラスメイト1「じゃあ、みんなの意見をまとめるぞ!」
クラスメイト3「書記の後藤君。ちゃんと、記しておいてくれよ」
クラスメイト5103「はい」
クラスメイト1「本当の強者とは!」
 ――黒板が叩かれる。
クラスメイト1「駆紋の大将が育て上げた、織斑一夏のことだ!」
<太平洋・海中>
 ――セシリアは水底で、『それ』を発見した。
セシリア(ああ……)
 ――『それ』は眩い輝きに包まれていた。
 ――まるで、彼女が迎えに来ると確信していたかのように。
セシリア(戒斗さん……)
 ――セシリアは『それ』を、愛しげに抱きしめた。
41:
<IS学園・1年1組>
 ――学級会は紛糾していた。
「無理だよ!」
「できっこないよ!」
「男の子はみんな女の子になれるけど、女の子は男の子にはなれないんだよ!」
「いや、その理屈はおかしい」
クラスメイト1「…………ああ。やっぱ、難しいよなあ」
 ――黒板には、新たな議題が書かれていた。
 ――『自分達は“織斑一夏”になれるのか?』である。
クラスメイト3「そうだね」
クラスメイト3「我々のような普通の人間が、織斑君のように……」
クラスメイト3「仮面ライダーという本当の強者になることは、とても難しい」
クラスメイト3「だが……」
クラスメイト3「それでも私達には、『本当の強者になりたい』という欲望がある!」
クラスメイト3「考えよう」
クラスメイト3「我々はどうすれば仮面ライダーになれるのか、と!」
 ――その、言葉に。
「鴻上さん、ちょっといい?」
 ――という疑問の声が上がった。
「仮面ライダーって、何?」
42:
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――ロケ弁をかっ込むと、一夏は顔を上げた。
一夏「そもそも」
シネマ「何だね?」
一夏「何で映画なんて作るんだよ?」
シネマ「ふむ」
シネマ「それはね、仮面ライダーバロン」
シネマ「この世界が、仮面ライダーを奪われたままだからだよ」
一夏「……」
一夏「え?」
一夏「な、何言ってんだよ。半月前のあの戦い、世界中に配信されてただろ! あの戦いで俺は仮面ライダーになった! その姿は、みんなが見たはずだ!」
シネマ「仮面ライダーバロン。……君は、あの戦いの映像を確認したかね?」
一夏「い、いいや……」
 ――シネマは、『腕』を解きフィルムに変える。
 ――フィルムの中に、半月前の『《斬月・極》との戦い』が映っていた。
『凌馬「間違ってる、ねぇ」』
『凌馬「《斬月・極》を頂点とする完璧な社会だよ? 怪人はいない、――……ザザッ……――はいらない。完全なる『平和』な世界を約束するよ」』
『凌馬「それのどこが間違いなのかい?」』
『一夏「それを……」』
『一夏「どうやって実現する。どうやって維持する」』
『凌馬「……フフッ」』
『凌馬「この五十年、実践したように」』
『凌馬「二十四時間三百六十五日、世界中を監視し続ける」』
『凌馬「悪の組織を生み出すそぶりを見せたものは、殺す」』
『凌馬「《斬月・極》による支配体制を脅かす可能性のある存在も、殺す」』
『一夏「殺される者は、誰が選ぶ」』
『凌馬「私だ」』
『一夏「……」』
『一夏「やっぱり、あんたの語る『平和』は間違ってるよ」』
『凌馬「何をもって、そう断じる」』
『一夏「それは――」』
『一夏「――……ザザッ……――の正義だ」』
43:
一夏「な、なんだよこれ……」
一夏(『仮面ライダー』。その言葉が口にされたはずの場所に、ノイズが走っていた)
一夏(映像を進めて確認してみれば……。『仮面ライダー』という言葉は、全て消されていた)
一夏「ッ!?」
一夏「お、音声認識! ウェブサーフィン! 検索ワード、仮面ライダー!」
 ――通信端末が立ち上がり、検索結果が表示される。
 ――検索ワード『仮面ライダー』。ヒット数……0件。
シネマ「この五十年間、戦極凌馬は大規模な『検閲』を行っていた」
シネマ「世界から仮面ライダーという存在を消し、仮面ライダーという言葉も消した」
シネマ「世界は仮面ライダーを奪われてしまった」
シネマ「子供達は仮面ライダーを奪われてしまった」
シネマ「もう誰も、仮面ライダーに助けを呼べない」
シネマ「何せ、その名を知らないのだから」
一夏「な、何で……」
一夏「だって、戦極凌馬は消えちまったじゃないか!?」
「フフッ。答えは簡単だよ」
一夏「!?」
44:
<沢芽市・ショッピングモール>
鈴「やっぱり一夏に揉んでもらうしか……」
箒「り、鈴!」
鈴「何よ、おっぱい剣士!」
箒「お、おぱ……!? それより、あれ!」
鈴「え……? ……!」
鈴「い、行ってみましょう!」
箒「行くのか!?」
鈴「一夏が危ない目に遭ってるかもしれないでしょ!」
箒「た、確かに……ッ!」
 ――箒と鈴が目にしたもの。
 ――それは、立ち昇る爆炎だった。
<IS学園・1年1組>
クラスメイト3「……――仮面ライダーとは、そういう存在だ」
「そうだね。それは、織斑君だね」
「でも。私達じゃなれないよ」
「だって……」
「あんな怖い戦いに飛び込む勇気なんて、私達にはないよ……」
クラスメイト1「…………」
クラスメイト2「…………」
クラスメイト3「…………」
「駆紋君が死んじゃった日から、ずっと考えてたんだ……」
「もしも……。“あの映像”が配信された時に、待機命令を破ってデュノア君達を助けに行っていれば……」
「もしかしたら、駆紋君は死ななかったのかもしれない……。って」
「でも。現実の私達は何も行動しなくて……」
「駆紋君は死んじゃって……」
「ねえ……。本当の強者になろうったって……」
「勇気の無い私達に、何ができるの?」
 ――教室は沈黙に包まれた。
45:
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――その男は『機械的』だった。
 力強さを感じさせる、漆黒のボディ。
 頭部はクリアパーツで、内部には『脳』が飾られている。
 ――その名を『ハカイダー』。
ハカイダー「まだ『私』が生きているから、『検閲』が続いている。それだけのことだよ」
ハカイダー「つまり……」
ハカイダー「『私』は戦極凌馬だ」
一夏「戦極凌馬!? お前、生きてたのか……!」
ハカイダー「死んださ。だから『私』がここにいる」
一夏「わ、わけわかんねぇこと言いやがって……!」
ハカイダー「分からなくていいさ」
 ――ハカイダーは、ホルスターから『ハカイダーショット』を引き抜く。
ハカイダー「君を破壊するよ、仮面ライダー」
一夏「はいそうですか、ってやられるかよ!」
 ――バナナ!
ハカイダー「ふむ」
46:
ハカイダー(仮面ライダーは奇跡を起こす。……ただの殴り合いじゃあ勝てない)
ハカイダー(仮面ライダーと戦うなら、その『意思』を破壊すべきだ)
ハカイダー(『私』に蓄積されたデータが、そう告げている)
ハカイダー(そして……。彼を殺しても、『意思』を破壊してあれば後々の計画に支障はなくなる)
 ――ハカイダーは、ハカイダーショットをホルスターに納める。
一夏「な、何で武器を……」
ハカイダー「少年君」
ハカイダー「仮面ライダーの戦いは、いつ終わる?」
一夏「そ、それは……」
一夏(終わらない)
一夏(大丈夫。終わらない戦いに身を投じる覚悟は、できている……っ)
ハカイダー「ふむ」
 ――ハカイダーは、顎に手を当てて考える仕草を見せた。
ハカイダー「戦い続ける覚悟、君にはあるかい?」
一夏「ある」
ハカイダー「なるほど」
ハカイダー「君は君の力で世界中の人々を守り続けるという意思があるんだね?」
一夏「そうだ!」
 ――手の中のロックシードを、固く握る。
一夏「俺は諦めない! 不屈のヒーローが、力を貸してくれているんだ!」
ハカイダー「……」
 ――ハカイダーは、すがるように握られたロックシードを見つめていた。
47:
ハカイダー(ははあ。なるほど)
ハカイダー(織斑一夏)
ハカイダー(終わらない戦いに身を投じる意思を支えているのは……。『英雄』から託された『力』というわけ、か)
ハカイダー「フフッ」
 ――ハカイダーは、『ベルト』のバックルを取り出した。
 ――バックルを腰に装着する。
 ――空中から飛来した“バイク”を手に取った。
ハカイダー「君を破壊するルートは見えた」
 ――シグナルバイク!
 ――ライダー!!
一夏「え……」
ハカイダー「レッツ・変身!」
 ――マッハ!!
ハカイダー「…………」
ハカイダー「ハハ! ハハハハハハハハッ!」
 ――“白いスーツ”に包まれたハカイダーが、ポーズを決める。
ハカイダー「追跡! 撲滅! いずれも――マッハ!」
 ――ハカイダーは、ゼンリンシューターを持った腕をぐるぐると回した。
ハカイダー「仮面ライダー……――マッハ!」
 ――ハカイダーは。
 ――“仮面ライダー”に変身した『怪人』は、ばっちりとポーズを決めていた。
一夏(な、なんだよその姿……)
一夏(まるで、泊さんが変身した時みたいな……)
一夏(それにあいつ、今、仮面ライダーって……!?)
ハカイダー「ハハハハハハハハハハハッ!」
ハカイダー「驚いてくれたかい? じゃあ、次は絶望してくれ」
 ――ゼンリンシューターから吐き出された銃弾が、バナナロックシードを撃ち抜いた。
48:
一夏「え…………」
 ――砕けたバナナロックシードが、海岸に散らばる。
ハカイダー「そのロックシードは、駆紋戒斗の『魂』が刻まれていたね?」
 ――ハカイダーは砕けたロックシードに銃弾を撃ち込み、丁寧に破壊していく。
ハカイダー「『不屈のヒーローが、力を貸してくれているんだ!』だったっけ」
ハカイダー「フフッ」
 ――ハカイダーが、砕けたバナナロックシードの破片を踏みつけた。
ハカイダー「君は『力』を失った」
ハカイダー「君の『意思』を支えていた『英雄』の『魂』は、砕かれた」
ハカイダー「戦う力を失った君が、何を守れる?」
ハカイダー「君が力を失えば……誰が世界を守るんだろうねえ?」
一夏「あ、ああ……」
一夏(…………)
一夏(戦いに、終わりはない……)
一夏(それでも、俺が戦えるうちは、俺が戦えばいい……)
一夏(俺がみんなを守ればいい)
一夏(そう……思ってた)
一夏(でも……)
ハカイダー「君だって、気づいていたんだろう」
ハカイダー「世界が壊れない限り、戦いは終わらない。……って、ね」
一夏「ち、違……」
 ――後ずさった拍子に、ロックシードを破片を踏んでしまう。
49:
一夏「あ、ああ……あああ……」
ハカイダー「うまくいったようだ。嬉しいね」
 ――ハカイダーは、拍手喝采を上げる。
ハカイダー「絶望に支配されたいい顔だ」
 ――ハカイダーは、シネマに振り向いた。
ハカイダー「どうだい。いい画だろう?」
シネマ「確かに、映画にヒーローの絶望は必要だ……。その絶望は、クライマックスを盛り上げる」
シネマ「だが!」
 ――シネマはステッキを振り上げると、ハカイダーに突きつけた。
シネマ「私の目の前で子供の心を傷つけることは、許さん!」
ハカイダー「ふうん」
 ――ハカイダーが、呆然とした一夏にゼンリンシューターを向ける。
シネマ「……!?」
 ――シネマが一夏を突き飛ばす。
 ――ほんの少しだけ遅れて、銃弾が浜辺の砂利を巻き上げた。
ハカイダー「映画か……。いいね、『私』も協力しよう」
 ――ハカイダーは右手にゼンリンシューターを、左手にハカイダーショットを構える。
ハカイダー「観客が興奮する、最高に破壊的な画を撮ろうじゃないか!」
 ――二丁の銃が、破壊的な弾丸を撒き散らす。
 ――土砂がひっくり返り、爆炎が立ち昇った!
ハカイダー「ハハハハハ! この『私』を、ハカイダー・スタローンと呼んでもいいんだよ!」
ハカイダー「……」
ハカイダー「……む」
 ――爆炎が晴れると、そこには一夏もシネマもいなかった。
ハカイダー「テトラ座の怪人。……五十年前に流行した都市伝説、か」
ハカイダー「なら」
ハカイダー「『私』が破壊してあげよう」
 ――ハカイダーもまた、その場から消えた。
50:
■幕間「怪人ぶっちゃけとーく」
<光の中>
凌馬「駆紋戒斗。“あの時”……。何故、蘇らなかったんだい?」
戒斗「ふん」
凌馬「なるほどなるほど。そういうことか」
凌馬「君って、考えていることが顔に出るよねえ」
戒斗「やかましい」
凌馬「ハハハハハ!」
凌馬「ダークナイト・オブ・ザ・ソウル!」
凌馬「暗闇の中に降りてくる一条の光を掴もうとしている少年少女達の前には、姿を現さない」
凌馬「君の強すぎる光が、儚い光を隠してしまうから……」
凌馬「いや、君。ほんとあの子達のこと好きだよねぇ。ハハハハハ!」
戒斗「どうやら、まだ殴られ足りないらしいな……!」
凌馬「おお、怖い怖い」
戒斗「……」
凌馬「いいじゃないか。子供達に『夢』を見てほしい」
凌馬「大人らしい、滑稽な姿だ」
戒斗「ふん」
戒斗「貴様が『夢』を語るか、戦極凌馬」
凌馬「ああ、語るさ。だって、『僕』は今、『夢』を見ているんだ」
凌馬「かつて友と見た、『僕達の夢』を……ね」
51:
■第三幕「本当の強者はなにをするのか?-後編-」
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――箒と鈴は、呆然と立ち尽くしていた。
 ――彼女達の視線は、海岸に散らばる、砕けたロックシードに注がれている。
鈴「…………ッ」
 ――やがて歩き出した鈴が、ロックシードの欠片を拾い集めた。
鈴「学園に戻りましょ! 束さんなら、直せるかもしれない!」
箒「あ……」
鈴「それに……」
鈴「きっと、ISが必要になるから……」
52:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
束「あ! ちーちゃんおかえりー!」
 ――千冬は、抱きついてきた束を投げとばした。
束「いやあ。相変わらずちーちゃんの愛は過激だねっ。束さん目覚めちゃいそうだよ!」
千冬「……はあ」
千冬「それで。進捗はどうだ?」
束「だめです!」
千冬「胸を張って言うことか!」
束「だってだって! いくら天才の束さんでも、専門外の分野はちょっと勉強ができすぎる優秀な学生レベルだよ!」
千冬「……」
束「正直、さっぱりだよ」
束「『これ』はデータ人間が制御する機械」
束「お父様が残した技術を使って、私の疑似人格をインストールしてみたけど……だめ! 全然動かないの!」
千冬「うー……む」
ルパン「……」
ルパン(そろそろ分岐点だな)
ルパン「ハハハハハハハッ!」
束「な、何で笑うのさ!?」
ルパン「簡単な話だよ、レディ」
ルパン「その機械を動かすには、『魂』が必要なのさ」
ルパン「もちろん、ただの魂ではだめだ」
ルパン「必要なのは――『怪人』の『魂』だ」
53:
<沢芽市・映画館『テトラ座』>
 ――がらんどうの映画館に、孤独な一夏の姿があった。
一夏「…………」
 ――拳を固く握る。
 ――バナナロックシードを握っていたはずの手は、血が滲んでいた。
シネマ「仮面ライダー……いや、少年よ。消毒をしよう、手を開いておくれ」
 ――シネマは消毒液とティッシュを手にしていた。
一夏「……ッ」
 ――優しい手を振り払う音が響く。
一夏「あ……。ご、ごめん……」
シネマ「いいんだ、少年よ。君の心は傷ついているのだから、仕方のないことだ」
 ――シネマは再び一夏の手を取る。
一夏「あんた、なんで……」
一夏(そんなに、俺を気遣うんだ……)
シネマ「それはね」
シネマ「私が、『怪人』だからだよ」
54:
<IS学園・1年1組>
 ――窓越しに、学園に駆け込んで来る箒と鈴の姿が見えた。
クラスメイト1「血相変えてどうしたんだ、あいつら……」
クラスメイト3「……! みんな、これを見てくれたまえ!」
 ――空中にスクリーンが投影される。
 ――沢芽市の海岸に上がった、爆炎の映像だった。
クラスメイト3「沢芽市という隣街のトラブルと、鳳君達の様子。無関係ではあるまい」
クラスメイト1「…………」
「けど……」
「私達は……」
 ――クラスは、再び沈黙に包まれる。
クラスメイト2「……ッ」
 ――バン! と黒板が叩かれた。
クラスメイト2「ノブレス・オブリージュ!」
クラスメイト2「わ、私は……。私は、行く!」
 ――そう宣言しながらも、足が震えていた。
「…………」
「…………」
「…………」
クラスメイト1「……その映像、もっとよく見せてくれないか」
クラスメイト3「あ、ああ……」
 ――爆炎の映像が、大写しになる。
クラスメイト1「何使ったらこんなのが噴き上がるんだろうな……」
55:
クラスメイト3「強力な破壊兵器だろう……。生身で浴びれば、とうてい助かりようはない……」
クラスメイト1「そんなのほっといたら、どうなる?」
クラスメイト3「……大変なことになる」
クラスメイト1「…………」
クラスメイト1「……」
クラスメイト1「……一夏の奴は」
クラスメイト1「あいつはきっと、戦いに行くだろうな……」
クラスメイト3「……彼には、『勇気』がある」
クラスメイト3「駆紋君から受け継いだ……私達の、憧れだ」
クラスメイト1「……」
 ――爆炎を見つめる。
 ――生徒達みんなが、噴き上がる破壊の力を見つめていた。
クラスメイト1「ああ、だめだ。泣けてきた……」
クラスメイト1「一夏一人に任せて、それでまた友達を見殺しにしたら後悔する」
クラスメイト1「分かってるのに動けない自分に、泣けてきた……」
クラスメイト5103「……」
クラスメイト5103「泣きながら……」
クラスメイト3「後藤君……?」
クラスメイト5103「泣きながら進むのが、本当の強者だ。……あいつは、そう言っていた」
 ――黒板を叩く!
 ――そこには『本当の強者はなにをするのか?』と書かれていた。
クラスメイト5103「……進もう」
56:
<沢芽市・映画館『テトラ座』>
シネマ「少年よ。君は『怪人』とは何だと思う?」
一夏「……それは」
一夏(俺がよく知っている怪人は、二人)
一夏(不屈の神様、駆紋戒斗)
一夏(電子の怪人、戦極凌馬)
一夏(二人とも…………)
一夏(強靭な意思の持ち主だった。その意思の下に、自分の戦いをしていた)
一夏「強い『意思』を持つ人……。だと、思う」
シネマ「おお! その通りだよ、少年!」
 ――シネマは、一夏を讃えるように拍手を送った。
シネマ「『怪人』とは、『意思』を『力』に変えた人格のことだ」
シネマ「この私、シネマも怪人だ。当然ながら、己の意思がある」
一夏「意思……?」
シネマ「ああ」
シネマ「私はね……」
シネマ「子供達に映画を楽しんでもらいたい! その意思を力に変える人格なんだよ」
シネマ「私はシネマ! “映画館の怪人”だ!」
 ――ステッキが、床を叩いた。
 ――映画の幕上げを期待させるような、軽快な音が響き渡る。
シネマ「織斑一夏君。君は仮面ライダーだが、まだ少年だ。私が楽しませるべき、子供だよ」
シネマ「このシネマという怪人が今すべき戦いは、君を笑わせることだ」
 ――シネマはステッキを回す。
 ――彼の両手が光に包まれた。
 ――光が晴れると……。
 ――右手にポップコーンを、左手にジュースを握っていた。
シネマ「このポップコーンとジュースはサービスだ。受け取ってくれたまえ」
一夏「……」
一夏「……ありがとう」
シネマ「フフッ」
57:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
ルパン「『泊進ノ介』は、市民を守るという『意思』を『力』に変えた『怪人』だった」
ルパン「『クリム・スタインベルト』は、泊進ノ介を信じ抜くという『意思』を『力』に変えた『怪人』だった」
ルパン「――つまり。泊進ノ介と、クリム・スタインベルト」
ルパン「二人の『怪人』が融合した姿こそが、『仮面ライダードライブ』だったというわけだ」
ルパン「……ふむ」
ルパン「何を驚いた顔をしている」
ルパン「そもそも、仮面ライダーは『怪人』だろう?」
千冬「それは……」
 ――千冬の部屋の扉が、けたたましい音を立てて開かれた。
箒「姉さん!」
束「箒ちゃん!? どうしたの……!」
箒「これ! 直せますか、姉さん……!」
 ――箒は束に、砕けたバナナロックシードを差し出した。
束「これは……」
 ――束はロックシードを受け取ると、
 ――力なく、首を振った。
束「核まで砕けてる。これは、もう誰にも直せないよ」
 ――束はバナナロックシードの裏のスイッチを押す。
 ――だが、反応は無かった。
束「このロックシードに刻まれていた魂は、消えちゃったんだよ……」
箒「…………」
 ――千冬の部屋の外で、大きな物音が立った。
千冬「誰だ!」
 ――千冬が、部屋の外を確認する。
千冬「お前達……」
 ――そこには、1年1組の生徒達が鎮痛な面持ちで立ちつくしていた。
58:
<沢芽市・映画館『テトラ座』>
 ――静かな映画館に、一夏の述懐だけが響いていた。
一夏「仮面ライダーは絶対に負けない。負けられない」
一夏「……」
一夏「仮面ライダーが負けたら、みんなの未来を守る人がいなくなっちまう」
一夏「仮面ライダーが『力』を失ったら、もう、誰もみんなを守れない……」
 ――ドライブロックシードを握りしめる。
一夏「あの戦極凌馬を野放しにはしておけない。あいつは、みんなの自由を踏みにじる……」
一夏「でも……」
一夏「勝てるのか……?」
一夏「あいつと戦えば……。また、戦う力を奪われるんじゃないか?」
一夏「戦いは永遠に終わらないのに……。力を奪われたら、俺はどうすればいいんだ……?」
一夏「守るための力を奪われたら……」
一夏「……」
一夏「俺は、『仮面ライダー』を奪われる……」
一夏「……」
一夏「何か……。胸に泥が詰まったみたいに苦しいよ……」
一夏「泊さんは……」
一夏「何度止まっても再び走り出す仮面ライダー魂を受け継いでくれって言ってたけど……」
一夏「俺……。もう一度走り出せるか、分からないよ……」
 ――乾いた笑い声が、がらんどうの映画館に木霊した。
59:
一夏「格好悪いよな。俺はもう仮面ライダーなのに……」
一夏「今でも、子供のままなんだ」
一夏「こんな悩み。泊さんや戒斗なら何でもないはずなのに……」
一夏「……」
一夏「俺は、本当に仮面ライダーなのかな……」
一夏「それとも……仮面ライダーに憧れただけの、子供なのかな……」
 ――述懐の切れ目を悟ったシネマが、立ち上がった。
 ――“映画館の怪人”の手が、苦悩する少年の頭を優しく撫でる。
シネマ「君は子供だ」
一夏「そうか……」
シネマ「ああ」
 ――だが、と言葉を続ける。
シネマ「君は仮面ライダーでもある」
一夏「……?」
シネマ「いいじゃないか、子供で仮面ライダー! 『夢』がある! 無限の可能性を感じさせる希望があるよ!」
 ――シネマはステッキを振るう。
 ――映画館のスクリーンに、映像が映った。
 ――仮面ライダーの映画だ。
シネマ「『怪人』の話をしよう」
60:
シネマ「怪人とは意思を力に変える人格、と言ったね?」
シネマ「『意思』ある者には、『夢』がある」
シネマ「当然。私という怪人にも夢があり、その夢を叶えるために活動している」
シネマ「君と映画を作ろうとしたのも、そのためだ」
シネマ「…………」
 ――仮面ライダーの映画に、ノイズが走っていた。
 ――仮面ライダーの映画の、仮面ライダーがいるであろう部分だけが、黒く塗りつぶされていた。
シネマ「この世界は『仮面ライダー』を盗まれてしまった」
シネマ「子供達は知らないんだよ」
シネマ「仮面ライダーという、彼らの味方を知らないんだ……」
シネマ「仮面ライダーは子供達が助けを呼ぶだけで奇跡を起こしてくれるのに」
シネマ「子供達は、その英雄の名を呼ぶことすらできないんだ。知らないから……」
一夏「……」
シネマ「この世界には、仮面ライダーがいる」
シネマ「君達が安心して映画を楽しめる世界を守ってくれる、英雄がいる」
シネマ「君と作った映画を使って……子供達に、それを伝えたかったんだ」
シネマ「それが私の夢だ」
シネマ「それが私の意思だ」
一夏「……」
一夏「子供達に伝える……」
一夏「それがシネマの夢と、意思……?」
シネマ「ああ」
シネマ「そして、ここからが一番大切な話だ」
シネマ「君が奪われたものは『力』ではない」
一夏「え……?」
シネマ「そもそも、仮面ライダーとは――」
 ――シネマの言葉を遮るように、
ハカイダー「やはりここだったね」
 ――爆発音が、響き渡った。
61:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
 ――千冬は、1年1組の生徒達の前で言葉を探していた。
千冬「その……。今の話、聞いていたのか……?」
 ――生徒達が頷くと、いよいよ千冬は参ってしまう。
千冬(……お前達が、今でも駆紋のことを大切に思っていることは分かっている)
千冬(駆紋のメッセージが刻まれたバナナロックシードを心の拠り所にしていたことも)
千冬(どうしたものか……)
62:
<沢芽市・映画館『テトラ座』>
 ――ドライブ!
 ――ロック・オン!
一夏「変身!」
 ――カモン! ドライブアームズ!!
 ――ひとっ走り・いざ・Together!
ハカイダー「素早い変身だね。フフッ。『私』が怖いのかい?」
一夏「う、うるせぇっ!」
 ――ハンドル剣を振り被り、ハカイダーに突撃する。
ハカイダー「変身すれば対抗できる! それは幻想だよ」
 ――ハカイダーのゼンリンシューターが、ハンドル剣を打ち払った。
ハカイダー「儚い夢を見ていたねぇ!」
 ――ハカイダーは一夏を殴り倒すと、踏みつけた。
シネマ「バロン!」
ハカイダー「おっと。君に邪魔はさせないよ!」
 ――助けに入ろうとしたシネマは、ゼンリンシューターに殴り飛ばされてしまった。
ハカイダー「これが欲しかったんだ」
 ――ロック・オフ
ハカイダー「フフッ。ハハハハハハハハハハッ!」
 ――ロックシードを奪われ、一夏の変身が解けてしまう。
 ――ハカイダーは『ドライブロックシード』を手に、高笑いを上げていた。
一夏「か、返せ! それは泊さんの……!」
ハカイダー「魂が入っているのだろう? だから必要だったんだよ」
63:
ハカイダー「そして。君の『力』を奪うことは、君の『意思』の破壊にも繋がる。ハハハハハ!」
ハカイダー「……さて」
 ――ハカイダーはゼンリンシューターを戦極ドライバーに押し付けると、引き金を引いた。
 ――火花散り、戦極ドライバーが弾け飛ぶ。
ハカイダー「ドライバーは破壊した。君はもう変身できないが……」
 ――銃口を、一夏の額に押し付ける。
一夏(あ……)
一夏(覚えてる……。この感覚。この恐怖……)
一夏(小学校五年生の……。誘拐された時の……っ)
一夏(強者に、一方的に踏みにじられた時の…………!)
 ――幼い頃の恐怖が、目の前の存在と重なった。
一夏「あ、あ……ああ……」
ハカイダー「破壊する」
 ――引き金が引かれる、その直前。
 ――映画のフィルムが一夏に巻き付き、その身を何処かへ転移させていた。
ハカイダー「…………」
 ――ハカイダーは劇場を見渡す。
 ――シネマの姿も消えていた。
ハカイダー「まあいい。その力もそろそろ打ち止めだろう」
ハカイダー「次は、破壊する」
64:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
「「「織斑先生」」」
 ――生徒達が、千冬を見上げていた。
千冬「何だ……?」
 ――代表として、三人の生徒が前に出る。
クラスメイト3「織斑先生。学園が所持している、訓練用の第二世代IS三十機。我々に貸していただきたい」
クラスメイト2「私達は進まなければならない! ……泣きながらでも、前へ!」
クラスメイト1「……お願いします」
 ――生徒達が、一斉に頭を下げる。
 ――みんな足を震わせ、ぼろぼろと涙を流していた。
千冬「…………っ」
千冬「いいだろう。責任は私が取ってやる!」
65:
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――呆然と海を眺める一夏の姿があった。
一夏「戒斗……。泊さん……。俺は……」
シネマ「……」
 ――シネマは、縮こまった少年にかける言葉を探して頭を悩ませていた。
一夏「怖いよ……」
一夏「何もできないんだ」
一夏「奪われるんだ」
一夏「踏みにじられるんだ」
一夏「強くなれば」
一夏「強くなれば、変わると思ってた……」
一夏「変わらなかった」
一夏「何もできなかった」
一夏「みんなを守るための『力』すら奪われた……」
一夏「俺は……」
一夏「『仮面ライダー』を奪われた……」
 ――すがる者を失った一夏の手は、空を切る。
 ――『勇気』を与えてくれる『英雄』の『魂』は失われてしまった。
 ――残されたのは、『意思』を見失った少年だけである。
シネマ「……よし」
 ――意を決したシネマが、一夏に寄り添った。
シネマ「少年よ。君が失ったのは『力』ではない」
一夏「シネマ……?」
シネマ「君が失ったのは。いや、見失ったのは――」
 ――銃撃音が、言葉を引き取る。
ハカイダー「見つけたよ。逃げるなら、もっと工夫をすべきだったねぇ」
一夏「あ……。ああ……っ」
 ――破壊の化身が、銃口を向けていた。
66:
<IS学園・正面ゲート>
 ――千冬と束が空を見上げていた。
千冬「……。駆紋は本当に私よりもずっと教師に向いていたようだ」
束「七十歳のおじいちゃんと比べちゃ流石のちーちゃんも、ね」
千冬「……ふふっ。その通りだよ」
ルパン「二人とも」
千冬「ん?」
ルパン「あれを」
 ――ルパンが指した方角に、一機のISがいた。
 ――ISは千冬と束を見つけると、正面ゲートの前に降り立つ。
 ――ISは《ブルー・ティアーズ》。操縦者は、セシリア・オルコット。
セシリア「篠ノ之博士。《ブルー・ティアーズ》の整備、ありがとうございました。おかげで大切な約束を見つけられました」
 ――セシリアは、『黄色のふうとくん』を手にしていた。
67:
<沢芽市・花畑の海岸>
ハカイダー「……君は運がいいね」
 ――ハカイダーはゼンリンシューターを納めると、天を仰いだ。
一夏(あれは……)
一夏(み、みんな……? どうしてここに……)
 ――空に、《甲龍》と三十機の第二世代ISからなる部隊が展開していた。
ハカイダー「君達。そんな玩具を引っ張り出してきて、何をするつもりだい?」
 ――ハカイダーの問いかけに、IS部隊を代表して三人の生徒が前に出た。
クラスメイト3「我々の欲望を実現しに来たんだよ!」
クラスメイト2「我らは、今こそ友が望んだ者になる!」
クラスメイト1「泣きながらでも、前に進む!」
クラスメイト1「俺達は……」
 ――友達を守るために『勇気』を振り絞って、
「「「本当の強者になる!!」」」
 ――1年1組の生徒達は、一斉に武器を構えた。
<花畑の海岸>
 ――クラスメイト達の勇姿を、一夏はぼんやりと見上げていた。
一夏(……)
一夏(IS《インフィニット・ストラトス》)
一夏(戦う『力』)
一夏(今のみんなには『力』がある)
一夏(『仮面ライダー』を奪われた俺なんかよりも、ずっと)
一夏(……)
一夏(もう、みんなに任せちゃえばいいのかな……)
68:
<花畑の海岸>
ハカイダー「本当の強者になる、か」
ハカイダー「ハハッ。ハハハハハハハハハハッ!」
ハカイダー「その意思、破壊してやる」
ハカイダー「『キルプロセス』!』
 ――ハカイダーはISに停止コードを送る。
 ――だが、反応は無かった。
鈴「そんなのはとっくに対処済みよ! そのために束さんにISを預けてたんだから!」
ハカイダー「……」
ハカイダー「ふむ」
69:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
セシリア「あの。わたくしもみなさんの加勢に……」
ルパン「いや。君はまだここにいるべきだ」
セシリア「……?」
ルパン「フフッ」
 ――黄金のミニカーは、尊大に起立する。
 ――その隣には『黄色のふうとくん』があった。
ルパン「今こそ!」
ルパン「諸君らに、このルパンの目的を明かそう!」
ルパン「半月前!」
ルパン「このルパンが仮面ライダーバロンに加勢したのは……」
ルパン「仮面ライダーを盗むためだったのだ!」
 ――黄金のミニカーが、ぴょん、と跳ねた。
ルパン「分かるかね?」
ルパン「その機械……」
ルパン「『ドライブドライバー』の復活には、『怪人』の『魂』が必要だ!」
ルパン「だが! この仮面ライダーが失われた世界では、怪人もまた失われてしまった!」
70:
ルパン「が!」
ルパン「例外は常に存在する……」
 ――黄金のミニカーが、くるくると回転する。
ルパン「そう!」
ルパン「このルパンこそ、五十年前から生き延び続けた怪人だ!」
ルパン「仮面ライダーを盗むという意思を力に変えて、今日まで存在し続けた!!」
ルパン「戦極凌馬の粛清から逃げきった!!」
ルパン「ハハ! ハハハハハハハハハッ!」
ルパン「泊進ノ介が仮面ライダーバロンにドライブドライバーを託した瞬間から、このルパンの計画はスタートしていた!」
ルパン「ドライブドライバーを復活させるためには怪人という強靭な魂が必要だ!」
ルパン「いずれバロンがドライブになる時には……このルパンの『魂』を『ドライブドライバー』にインストールするよう提案するつもりだった」
ルパン「恩人の提案なら断るまい。特に、あの仮面ライダーバロンなら、な」
ルパン「そのために恩を売っておいたのだよ」
 ――黄金のミニカーは、バク宙を決める。
ルパン「織斑一夏という『怪人』と、ゾルーク東条という『怪人』が『融合』することで『仮面ライダードライブ』が再誕し……」
ルパン「このルパンは、仮面ライダーになる」
ルパン「芸術的な盗みが完成する……」
ルパン「それがこのルパンの計画だ!」
ルパン「いや。だった……」
ルパン「フフッ」
 ――ルパンは、『黄色のふうとくん』を前に押し出す。
ルパン「仮面ライダーバロンには、よりふさわしい『相棒』がいるようだ」
 ――束と千冬とセシリアの視線が、淡く輝く『黄色のふうとくん』に注がれていた。
束「ちょっと待って」
ルパン「何だね?」
束「もう試したよ」
ルパン「は……?」
71:
束「一週間前……。バナナロックシードに刻まれた魂をドライブドライバーに移せないか、実験したんだよ」
束「けど……できなかった」
束「バナナロックシードに刻まれた魂が……」
束「駆紋戒斗の魂が、蘇ることを拒んだんだよ」
 ――束は淡く輝くふうとくんを手に取った。
束「この中に駆紋戒斗の魂があったとしても、無理なんだよ」
束「駆紋戒斗は、復活を望んでいないんだ」
ルパン「むう……」
セシリア「……」
セシリア「もしも」
セシリア「もしも。一週間前に戒斗さんが帰ってこられていたら、どうなっていたでしょうか?」
千冬「…………」
千冬「一夏も、生徒達も、喜んだろう」
千冬「そして……。何も変わらない、元通りの日々が始まっただろう」
セシリア「だから」
セシリア「だから、戒斗さんは戻ろうとしなかったのでは?」
72:
束「どういうこと……?」
セシリア「それは……」
「いや。まったくその通りだよ!」
束「お、お父様……!?」
 ――窓の外に、夏スタイルの戦極凌馬がいた。
凌馬「ウェーイ!」
 ――凌馬は、テンション高めに壁を擦り抜けて室内に入ってくる。
凌馬「オペを始める! が、見ての通り、『僕』は幽霊だ。執刀は君が行うんだ、束」
束「ちょ、ちょ、ちょちょちょちょちょ!? え、ええええええええーーー!?」
千冬「何をするつもりだ」
凌馬「分からないのかい? ドライブドライバーに駆紋戒斗の魂をインストールするんだよ」
セシリア「け、けれど! 戒斗さんは一度それを拒んでいます!」
凌馬「だが、次は受け入れる。……かもしれない」
 ――スクリーンが立ち上がる。
 ――海岸の戦いを所在無さげに見上げる一夏が映っていた。
凌馬「織斑一夏が『夢』を自覚すれば、ツンデレ大魔王は帰ってくるだろう」
凌馬「何故ならば……」
凌馬「その夢は、駆紋戒斗の夢でもあるからだ」
73:
<沢芽市・花畑の海岸>
一夏(やめろ…)
 ――空中から急降下してきた《打鉄》の斬撃を、ハカイダーはひらりと避けてみせた。
ハカイダー「なるほど」
ハカイダー「ISは、この世界における絶対的な力だ。それを手にした君達が気を大きくするのも不思議じゃない」
ハカイダー「だが」
ハカイダー「『私』が起動する状況ではIS操縦者との戦闘もありうると――想定済みだよ」
 ――ハカイダーショットの引き金を引く。
 ――吐き出された弾丸は、ISの《絶対防御》を貫き、飛行ユニットを破壊した。
 ――姿勢制御能力を失ったISが、海岸の砂利に墜落する。
一夏(やめてくれ……)
 ――1機、また1機とISが無力化されていく。
 ――やがて、全てのISが戦闘能力を失った。
ハカイダー「勇気を振り絞ったってねぇ……。無駄なんだよ」
ハカイダー「君達みたいな子供の意思なんて、大人の手にかかれば簡単に折られてしまうのさ」
 ――ハカイダーは、撃ち落としたISを踏みつけた。
 ――生徒の悲鳴が上がる。
 ――すると。ハカイダーは、嬉しそうに、もう一度ISを踏みつけた。
ハカイダー「君達は無力だね」
クラスメイト1「こ、こんにゃろ……っ」
 ――ゼンリンシューターの銃口が、生徒に突きつけられる。
74:
一夏(あ、ああ……)
一夏(だめだ……)
一夏(奪われる)
一夏(強者に踏みにじられる……!)
一夏(強者は、弱者を一方的に踏みにじる。世界は弱さや痛みばかり与える……)
一夏(俺を助けに来てくれたみんなの『優しさ』が……)
一夏(『怪人』の『悪意』に、踏みにじられている……!)
一夏(……っ)
一夏(う、動けよ、俺!)
一夏(俺は、世界がそうだから強くなりたかったんだろう!)
一夏(誰よりも強くなって、みんなを守りたかったんだろう……!)
一夏(でも……)
一夏(今の俺には何の力もない……っ)
一夏(戒斗の魂は壊された……)
一夏(泊さんの魂は奪われた……)
一夏(俺にはもう、守ることなんてできない……)
一夏(俺は『仮面ライダー』じゃない……っ)
ハカイダー「……」
ハカイダー「破壊する」
 ――ゼンリンシューターの引き金を引こうとしたハカイダーの、
 ――頭部に、長剣が打ち込まれていた。
75:
ハカイダー「何のつもりだい? そんな、どこにでもあるような剣では『私』は倒せないよ?」
クラスメイト2「これは聖剣ディスカリバー……。ただの剣ではない!」
 ――ISを脱ぎ棄てた生徒が、長剣一本でハカイダーに挑んでいた。
ハカイダー「ならばその剣で自分の身を守ってみるがいい!」
 ――ゼンリンシューターの矛先が変わる。
クラスメイト2「フッ」
 ――標的になった生徒は転がるように飛び退る。
 ――それに合わせて、激しい銃撃がハカイダーを撃った。
ハカイダー「そ、それは……バースバスター!? 現存していたのか!」
クラスメイト3「これでセルメダルを使い切ってしまったから、ただの鈍器になってしまったがね」
クラスメイト3「後藤君、やれるかい?」
クラスメイト5103「はい!」
 ――バースバスターを、バットのように構える。
ハカイダー「ハ、ハハ……。ハハハハハッ!」
ハカイダー「それらの兵器は、ISが過去にしたものだ」
ハカイダー「ISを用いて『私』を破壊できなかったのに、そんな『力』で――」
クラスメイト1「みなまで言うなって!」
 ――生徒の拳が、ハカイダーの顎に叩きこまれていた。
ハカイダー「…………」
ハカイダー「君に俳句を読む時間を与えよう」
クラスメイト1「ディナータイムだ!!」
76:
ハカイダー「それが君の遺言――」
 ――聖剣ディスカリバーが、ハカイダーに打ち込まれた。
ハカイダー「…………」
ハカイダー「…………ッ」
クラスメイト1「やべっ」
 ――ハカイダーの怒気が膨れ上がるのを察した生徒達は、一斉に退避する。
一夏(みんな……)
一夏(みんなだって、もう力は無いだろう!)
一夏(IS使って負けたんだぞ!?)
一夏(もう、踏みにじられるしかないじゃないか!?)
一夏(なのに、どうして戦うんだ……!)
ハカイダー「君達は馬鹿なのか!? そんなことをしても意味は無いと言っているだろう!」
ハカイダー「君達に『私』を倒す術は無い!」
ハカイダー「既に『私』は勝利しているんだよ!」
 ――ハカイダーの主張に、
「「「違う!」」」
 ――という、1年1組の生徒達の声が重なった。
クラスメイト3「駆紋君は、多くを語る者ではなかった……」
クラスメイト2「だが……。友は、強さを見せつけることで私達に教えてくれた!!」
クラスメイト1「そう!」
「「「私達が屈しない限り、貴様が勝ったわけではない!!」」」
77:
クラスメイト3「駆紋君の戦績は、正直、芳しくなかった」
クラスメイト1「模擬戦なんかじゃ、ここにいる全員に一度は負けてる」
クラスメイト2「しかし! それでも友は誇り高かった! ――何故ならば、諦めなかったからだ!」
 ――そうだろう! と。生徒達が、一夏に振り向いた。
一夏(え……)
クラスメイト3「誰よりも駆紋君の近くにいた君こそが、一番よく知っているだろう?」
クラスメイト2「我らの友の強さとは、諦めないこと……。我らが憧れたのは、負け続けているはずなのに『強い』と思わされてしまう『魂』」
クラスメイト1「一夏! お前だって大好きだったんだろう! だからそれを、駆紋の大将から受け継いだんだろう!」
一夏(俺が、戒斗から受け継いだ……)
一夏(戒斗の、好きだったところ……?)
一夏(……)
 ――『戒斗、お前は強い。俺が知っている、誰よりも』
 ――『だから、俺はお前になりたい』
 ――『何度負けても、どんなに辛くても、必ず立ち上がるお前に。駆紋戒斗に、俺はなりたい』
 ――『不屈の魂で何度でも立ち上がり、最後には勝利する――』
 ――『戒斗。俺は、お前になりたい』
一夏(そうだ……)
78:
一夏(俺は、憧れたんだ……)
一夏(……)
一夏(負け続けた……。『相手をねじ伏せる力』なんて、なかった男に……)
一夏(……っ)
クラスメイト3「不屈の『魂』!」
クラスメイト2「不断の『意思』!」
クラスメイト1「そして――諦めない『勇気』!」
一夏(それは……ッ)
 ――大きく息を吸いこんでいた。
一夏「それが!」
 ――腹の底から、大きく叫ぶ!
一夏「『未来を、己の手で勝ちとるための力』!」
 ――固く、拳を握りしめる。
一夏「武力が足りなくたって、戦うんだ!」
一夏「気力を振り絞って、何度だって立ち上がればいいんだ!」
一夏「俺は戒斗の、その姿が好きだったんだ……ッ!」
 ――走り出す!
 ――拳を振り上げて、ハカイダーに叩きつけた!
一夏「俺は……」
一夏「俺は守りたい……ッ!」
 ――ハカイダーに拳を叩きつける。
 ――何度も。
 ――何度も何度も。
 ――何度も何度も何度も。
79:
一夏「友達を! 千冬姉を! ……俺を助けてくれたみんなの『意思』を!」
一夏「『優しさ』を!」
一夏「お前みたいな『悪意』から、守りたいんだ!」
一夏「優しい人達の未来を、この手で勝ちとりたいんだ!!」
 ――殴る拳の肉が裂けた。
 ――拳の“中身”が好ましくない状態になっていることを感じた。
 ――それでも、一夏は殴り続けた。
一夏「『戦う力』を失くしたって!」
一夏「俺は、俺の『意思』を『力』に変えて、戦う!」
一夏「だって俺は――」
一夏「『意思を力に変える男』に憧れた……!」
一夏「――――ッ」
一夏「『仮面ライダー』なんだ!!」
 ――飛び散った鮮血が、ハカイダーの白いボディを染めていた。
一夏「……ッ!」
一夏「うぁああああああああああああ!!!」
 ――拳を振り上げた一夏を、ハカイダーが掴む。
ハカイダー「うるさい」
 ――ハカイダーにぶん投げられた一夏を、仲間達がキャッチした。
ハカイダー「君達を見ていると戦闘回路が疼く! 破壊したくてたまらなくなる!!」
 ――子供達に、ハカイダーショットが放たれた!
 ――爆炎が、みんなを包む。
80:
ハカイダー「ハハ……」
ハカイダー「ハハハハハ!」
ハカイダー「ハハハハハ! これが現実だよ! 君達は圧倒的な『破壊力』にねじ伏せられた!」
ハカイダー「『意思』なんて『力』になら――」
シネマ「なる!」
 ――子供達は眩い光に守られて、すす埃一つ被っていなかった。
 ――子供達の前に、盾のように立つシネマがステッキを構える。
シネマ「『怪人』とは!」
シネマ「『意思』を『力』に変えた人格!」
シネマ「そして……!」
 ――シネマは、真打ちを知らしめるように一夏の背を押した。
シネマ「ここに、一人の『怪人』がいる」
シネマ「『みんなを守るという意思』を『諦めない力』に変える『怪人』だ」
シネマ「そう……」
 ――シネマは観客に語りかけるナレーターのように、流暢に語る。
シネマ「仮面ライダー織斑一夏は怪人である!」
シネマ「彼の敵は、弱者を一方的に踏みにじる強者である!」
シネマ「仮面ライダーは、人間の自由のために――」
シネマ「優しさを踏みにじる、悪意と戦うのだ!」
 ――そのナレーションに、一夏はしっかりと頷いていた。
81:
ハカイダー「……ッ」
ハカイダー「どれだけ体裁を取り繕うとも、変えられない絶望があるだろう!」
ハカイダー「意思は力になるかもしれない!」
ハカイダー「織斑一夏は、まだ、戦う力を失ってしないのかもしれない!」
ハカイダー「だが!」
ハカイダー「そこまでだ!」
ハカイダー「織斑一夏! 君は最後の仮面ライダーだ! 君が死ねば、世界は守護者を失う!」
ハカイダー「君の敵である悪意が、世界を蹂躙するだろう……」
ハカイダー「君は何年生きる? 何年戦える? 人類の歴史はいつまで続く!」
ハカイダー「不老不死になって世界を守り続けるかい? それとも、神になって管理システムを完成させるかい? ……どちらも君が叩き潰した『私』の手段だ」
ハカイダー「織斑一夏!」
ハカイダー「この世界は絶望的だ! 破壊しなければ、戦いが終わらない!!」
ハカイダー「そんな世界で! 守るために戦うなんて、虚しくならないのか!」
ハカイダー「いっそ――全て破壊して、戦いを終わらせようとは思わないのか!」
一夏「……」
 ――その言葉に、一夏は頷いた。
一夏「思う」
ハカイダー「は……。は……? こ、肯定するのかい……?」
一夏「ああ」
一夏「俺は、俺の『敵』を見定めた」
一夏「だから」
一夏「この世界を、破壊する」
 ――力強く宣言した一夏。
 ――彼の背後には、友情のために勇気を振り絞った友達が立ち並び。
 ――その後ろには、花畑が広がっていた。
82:
■第四幕「True Blue Traveler」
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――誰もが織斑一夏の一挙一動に注目していた。
一夏「俺の敵は、優しさを踏みにじる悪意だ」
一夏「俺は悪意を倒すために、この世界を破壊する」
ハカイダー「……!」
ハカイダー「……は、はは、はは」
ハカイダー「なるほど、そういうことか! 君は確かに駆紋戒斗の後継者だ!」
ハカイダー「君も優しすぎる人間なんだね」
ハカイダー「君は、強者に踏みにじられる弱者の痛みを知っている」
ハカイダー「君は、誰もその痛みを味わうことのない世界を作ろうとしている!」
ハカイダー「今の世界では『弱者が踏みにじられない世界』を実現できない! だから、全て『破壊』して、『夢』を実現できる『新しい世界』を作る!!」
ハカイダー「そういうことだね!」
ハカイダー「君も、駆紋戒斗のように大魔王になるんだね!」
ハカイダー「ハハハハハハッ!」
ハカイダー「すばらしい! すばらしいよ! 破壊的なすばらしい発想だ! 『私』も見習いたいよ!」
一夏「……へっ」
一夏「よく分かったな。あんたすごいよ。さすが天才だ」
一夏「この世界には酷い人間がいる。悪意を持って弱者を踏みにじる、悪い怪人がいるんだ」
一夏「俺だって、悪意に踏みにじられたことがあるんだ。痛いほどに、分かっているよ……」
一夏「俺は、悪意を全滅させるために世界を壊す」
一夏「そう……」
 ――大きく、両腕を広げた。
一夏「この世界を、花畑にするんだ……!」
ハカイダー「……」
ハカイダー「…………」
ハカイダー「……は?」
83:
<花畑の海岸>
 ――1年1組の生徒達の中にしれっと混ざっていた1年2組の二人が、顔を見合わせていた。
鈴「箒、これって……」
箒「ああ……。これは始まるぞ……」
鈴・箒「いつもの、病気《バカ》が」
84:
<花畑の海岸>
一夏「千冬姉は言っていた!」
一夏「俺は、仮面ライダーに守られた一輪の花だ!」
一夏「千冬姉はこうも言ってた!」
一夏「花畑の始まりは一輪の花だ! そして……」
 ――海岸の花畑を一瞥した。
一夏「この花畑こそ、最初の仮面ライダーの『夢』だ……!」
 ――そう! と叫ぶ。
一夏「俺は一輪の花!」
一夏「仮面ライダーに守られた……」
一夏「仮面ライダーになった、一輪の花」
一夏「だったら…………」
一夏「俺から始まる花畑は、『仮面ライダーの花畑』だ!」
ハカイダー「き、君は何を言っているんだ……?」
一夏「破壊だ! 破壊! 破壊! 破壊だー!!」
一夏「俺は今の世界をぶっ壊ーーーーーーす!!!」
 ――その言葉の勢いに、ハカイダーはたじろいだ。
一夏「俺は守る!」
一夏「優しさを守る!」
一夏「そして――」
 ――ちらりと、シネマを見た。
一夏「伝えていくんだ!」
85:
一夏「駆紋戒斗!」
一夏「泊進ノ介!」
一夏「俺を『仮面ライダー』にした『英雄』達の姿を伝えていくんだ!」
一夏「そうすれば……」
一夏「優しい人は、『仮面ライダー』になる!」
 ――ぶち上げられた主張に、
 ――ハカイダーは異を唱える。
ハカイダー「き、君は馬鹿だ!」
ハカイダー「そんなことありえないだろう!」
ハカイダー「君は、ただの人間が仮面ライダーになれると言っているんだぞ!?」
ハカイダー「どうしてそんな夢物語が信じられる!」
 ――ハカイダーの反論に、一夏は悪戯っ子の笑みを見せた。
一夏「お前自身が見せつけられただろう?」
一夏「みんな、なれるよ、『仮面ライダー』に」
一夏「……」
一夏「誰だって!」
一夏「本当の強者になれるんだ!」
 ――楽しげなその言葉に、
 ――1年1組のクラスメイト達が頷いていた。
一夏「みんなが、そう信じさせてくれた」
一夏「だから、俺も信じる」
一夏「この世界を仮面ライダーという花で埋め尽くせるんだ、って」
86:
<花畑の海岸>
シネマ(そうだ)
シネマ(子供とは一輪の花)
シネマ(小さく、儚く、悪意にたやすく踏みにじられてしまう命だ……)
シネマ(だが。一輪の花がやがて花畑を作るように、子供の『夢』は世界に広がっていく)
シネマ(それこそが、大人が愛しく思う未来だよ)
シネマ(……花は)
シネマ(花は、古い世界に根付いて……。その景色を、変えてしまう)
シネマ(荒涼としていた海岸が、花畑に変えられたように)
シネマ(いいんだよ)
シネマ(子供の『夢』は、世界を変えていいんだ)
シネマ(少年仮面ライダーよ……。君はその『夢』で、存分に世界を破壊するがいい!)
シネマ(世界の変革を望む君の夢! 子供達に映画という夢を見せる、“映画館の怪人”が肯定しよう!!)
87:
<花畑の海岸>
一夏「俺は世界を破壊する!」
一夏「優しさを守ることで!」
一夏「英雄の姿を伝えることで!」
一夏「みんなを! 優しさという意思を力に変えられる、怪人にする!!」
一夏「みんなを! 仮面ライダーに……本当の強者にするんだ!」
 ――突き抜けるような青空に向かって、想いよ羽ばたけと、高らかに叫ぶ。
一夏「誰かを虐げるためだけの力を求めない。そんな優しい命で、この星を満たす!」
一夏「それが破壊だ!」
一夏「それが……ッ」
一夏「俺の夢だ!」
<車中>
 ――誰も手を触れていないハンドルが、明かに一つの意思の下に操作されていた。
「人間は変われない」
「生前の俺は、そう思い込んでいた弱者だった」
「最初から世界という敵に屈していた、と。気づいてすらいなかった」
「笑っていいぞ」
「……」
「今なら信じられる」
「葛葉紘汰や――俺の仲間達が示してくれた」
「人間は、変身できる」
88:
<花畑の海岸>
 ――ハカイダーは、銃を握った手をだらりと下げていた。
ハカイダー「は、ははは…………」
ハカイダー「……」
ハカイダー「破壊……?」
ハカイダー「人々を仮面ライダーにすることが破壊だと……?」
ハカイダー「そんな……」
ハカイダー「そんなものは、破壊ではない!」
 ――右手にゼンリンシューター、左手にハカイダーショットを構え、銃口を子供達に向ける。
ハカイダー「いいだろう、仮面ライダー。その夢ごと破壊してやる!」
シネマ「させん!」
 ――シネマがステッキを振るう。
 ――黒いもやの中から戦闘員が現れ、子供達の盾となる。
戦闘員「「「イーッ!」」」
ハカイダー「無駄だ!」
 ――ハカイダーはゼンリンシューターの柄で、『マッハドライバー』を叩いた。
ハカイダー「重加……発動!」
 ――重加粒子が散布される。
 ――ハカイダーを除く、全ての時間が凍りついた。
一夏(しまった……!?)
89:
ハカイダー「このマッハドライバーこそが、『私』に重加を操る技術をもたらしたものだ」
ハカイダー「その性能は完全に掌握している」
ハカイダー「ハハハ!」
ハカイダー「重加を操る怪人と戦う戦士、ドライブは死んだ」
ハカイダー「泊進ノ介が重加対策に残したドライブロックシードは『私』の手の中にある」
ハカイダー「終わりだよ……」
一夏(く、くそ……っ。動け! 動けよ……!)
 ――凍りついた時間の中、みんなが抗おうとするが、
 ――無意味。
 ――ハカイダーだけが悠然と立ち、銃口の狙いを一夏に定めていた。
ハカイダー「ばいばい。最後の仮面ライダー君」
 ――ゼンリンシューターとハカイダーショットから、破壊的な弾丸がばら撒かれる。
 ――その、絶望を。
 ――滑り込んできた、バナナカラーのスーパーカーが受けとめた!
90:
<花畑の海岸>
 ――スーパーカー『トライドロン』から、セシリアが降り立った。
 ――セシリアは重加の中だというのに、優雅な立ち振る舞いを見せる。
セシリア「あなたに伝言を預かっていますわ。ハカイダー」
ハカイダー「何だと……?」
セシリア「『どうやら、バカは伝染するらしい。興味深い研究テーマだよ』と」
ハカイダー「……だ、誰だその伝言の主は!」
セシリア「ふふっ」
 ――セシリアはしたたかな笑みをにじませると、『友達』に向き直った。
 ――すり傷やきり傷をたくさん作りながらも、みんな笑っていた。
セシリア「……」
 ――セシリアは、一夏、1年1組の生徒達、花畑、と視線を移してもう一度笑う。
セシリア「織斑さん。後はよろしくお願いします」
 ――セシリアは一夏の腰に『ベルト』を巻いた。
 ――さらに、腕に『シフトブレス』を巻く。
 ――そして、その手に『黄金のミニカー』を握らせた。
セシリア「あなた“達”の敵を、打ち倒してくださいませ」
 ――セシリアの時間が凍り付き、一夏の時間が解けた。
一夏「え、え……?」
一夏「えっと……」
一夏「え、えっと。な、何なんだこの状況!? セシリア、この車は何だ!? あと、このベルトって泊さんのだよな……!?」
 ――戸惑う一夏の声を、
「相変わらずやかましい奴だ」
 ――という、尊大な声が遮った。
91:
一夏「え……」
 ――その偉そうな声は、一夏の腰に巻かれた『ベルト』から上がったものだった。
一夏「その声、戒斗!?」
戒斗「ふん」
 ――ベルト……『ドライブドライバー』の中央ディスプレイ『セントラルフェイス』に、尊大な表情が映る。
戒斗「貴様らがあまりにも不甲斐無いからな。地獄から舞い戻ってきてやった。まったく、本当に世話の焼ける連中だ」
戒斗「だが……」
 ――『戒斗』は、海岸に集まった『友達』を見渡していた。
戒斗「それでいい。……そのまま、もっと強くなれ!」
一夏「……」
一夏「何かお前、ちょっと柔らかくなったか?」
戒斗「いや、鋼の身体になった」
一夏「えっ」
一夏「え? ええ……!?」
一夏「か、戒斗がジョークを!? お前、本当にあの駆紋戒斗か!?」
戒斗「ふん」
戒斗「……混ざったんだろう。このベルトの、先代と」
一夏「先代……?」
ルパン「クリム・スタインベルトだよ!」
一夏「喋った!? ……お前、ルパン!?」
 ――黄金の『シフトカー』が、一夏の手の中で声を上げていた。
ルパン「最新の仮面ライダーよ! 君は夢を見つけた」
ルパン「その夢を果たすという意思は、君に変身する力をくれるだろう!」
一夏「変身……」
戒斗「ふん」
 ――セントラルフェイスに、挑発的な表情が映る。
戒斗「怖気づいたなら下りればいい。未来を勝ち取るためのドライブは、生半可な覚悟では走り切れんぞ」
一夏「……」
92:
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
凌馬「束! あれの出番だよ!」
束「あらほらえっさー!」
千冬「お前達、何をしている!?」
<花畑の海岸>
 ――トライドロンからスピーカーがせり上がった。
 ――『SURPRISE-DRIVE』が、大音量で流される!
一夏「え、ちょ、ええっ!?」
一夏「なんだこれ!?」
<IS学園・職員寮・千冬の部屋>
凌馬・束「「私達の……趣味だーーー!!!」」
千冬「いつの間にあんな改造をしたー!?」
94:
<花畑の海岸>
戒斗「歌は気にするな」
一夏「お、おう」
一夏「……」
一夏「……ッ」
 ――『SURPRISE-DRIVE』をバックに、一夏は決意を新たにする。
一夏「俺はみんなを守る」
一夏「俺は、優しさを踏みにじる悪意を倒す」
一夏「この世界を、仮面ライダーという花で満たす」
一夏「そうして……。仮面ライダーの戦いを、終わらせる!」
戒斗「いいだろう」
戒斗(それこそが……)
戒斗(俺が本当の強者となって目指すさなければならなかった、夢なのだから)
戒斗「そのドライブ、俺も付き合ってやる!」
ルパン「このルパンもお供しよう! 光栄に思いたまえ」
 ――Start・『Our』・Engine!
一夏「変身!」
 ――ドラーイブ!
 ――ターイプ! ……ァルパーン!!
一夏「ハカイダー……」
一夏「ひとっ走り付き合えよ!」
95:
<花畑の海岸>
 ――黄金の仮面ライダーと、白い仮面ライダーが戦っていた。
ハカイダー「どうして君を破壊できない! どうしてこうも邪魔が入る!!」
一夏「その答えは、あんた自身が言ってたじゃないか!」
 ――ドライブドライバーのキーを回して、レバーを操作する。
戒斗&ルパン「ァルパーン!」
 ――『ブラストカウル』に装着した『ルパンタイヤ』から、“映画のフィルム”が伸びる!
 ――フィルムは、ハカイダーの四肢に突き刺った!
一夏「自分は仮面ライダーには勝てない、ってよ!」
 ――《仮面ライダーバロン》は、ハカイダーを殴り飛ばした。
ハカイダー「くっ……!」
 ――砂利にまみれたハカイダーは、転がり起きるとゼンリンシューターの引き金を引く。
戒斗「トライドロン、来い!」
 ――滑り込んできたトライドロンが、バロンの盾となって銃弾を防いだ。
ルパン「暇は盗んだ。仮面ライダーバロン……。フィナーレといこうじゃないか!」
一夏「おう!」
 ――ドライブドライバーのキーを回す。
 ――シフトブレスのボタンを押し込み、レバーを操作した。
戒斗&ルパン「ヒッサーツ! フルスロットル!」
 ――『SURPRISE-DRIVE』を掻き鳴らすトライドロンが走り出す!
ハカイダー「な!? な、な、なななな!?」
 ――トライドロンはハカイダーに激突すると、空中に弾き飛ばした!
戒斗&ルパン「アルティメット・ルパンストライクッ!」
 ――トライドロンがライトを照射する。
 ――ライトはハカイダーを“捕らえる”。
 ――ハカイダーが、映画のフィルムの中に取り込まれていた。
一夏「掛け声は……ッ」
 ――バロンは飛び上がり、空中でしっかりと蹴り足を引きつけた。
 ――“狙い”定め、叫ぶ!
一夏「ライダーァアアァアアアッ……キーッック!!!」
96:
<花畑の海岸>
 ――爆炎が晴れると、バロンは変身を解除した。
戒斗&ルパン「ナイス・ドライブ」
 ――そこにはもう、ハカイダーという『悪意』の怪人はいない。
一夏「……」
 ――視線を落とす。
一夏「なあ戒斗」
戒斗「何だ」
一夏「お前が死んで、すげぇ悲しかった」
戒斗「……」
一夏「……」
戒斗「……」
一夏「俺の涙返せよ、このオトメン!」
戒斗「やかましい、シスコンバカ!」
ルパン「ははははは! 君達は良い『相棒』だ!」
一夏&戒斗「「どこがだ!」」
一夏&戒斗「「あ……」」
ルパン「くくく」
戒斗「ふん」
ルパン「ははははは! ずいぶんと嬉しそうだね、ベルトくん」
ルパン「いや……。これからは、カイトくんと呼ぼうか?」
戒斗「やかましい!」
<花畑の海岸>
 ――鈴が、苦笑していた。
鈴「なーんか、ちょっと悔しいわねぇ……」
 ――鈴の瞳には、クラスメイト達の手当てをする一夏の姿が映っていた。
箒「そうだな。だが……。おかげで、楽しい夏休みになりそうだ」
鈴「……」
鈴「そうね!」
 ――二人の少女は、笑顔を取り戻した少年を微笑ましげに見つめていた。
97:
■終幕「セットアップMOVIE大戦!『仮面ライダーを取り戻せ!』」
<沢芽市・ユグドラシルタワー跡地・隠された地下室>
ハカイダー「ハハ……。ハハハハハハハハッ!」
 ――ハカイダーは、千切れた右腕を放り投げると『手術台』に倒れ伏した。
 ――『機械』が『処置』を始める。
 ――『脳』を外し、『新しい身体』に移植した。
ハカイダー「仮面ライダーには勝てない……か」
 ――ハカイダーは新しい身体の動作を確認すると、古い身体に手を伸ばした。
 ――マッハドライバーを回収する。
 ――そして、『ドライブロックシード』を手に取った。
ハカイダー「そんなことは分かっている」
ハカイダー「だから『私』は……」
ハカイダー「仮面ライダーと戦わずに勝つんだ」
98:
<花畑の海岸>
 ――地面が揺れていた。
一夏「な、何だ!?」
 ――視線を彷徨わせると、『それ』を見つけた。
 ――巨大なタワーがそそり立っていた。
 ――方角は、沢芽市の中心。
戒斗「あれは……」
一夏「知っているのか!?」
戒斗「メガリバースマシン。生きている者の世界と死んでいる者の世界を反転させる機械だ」
ルパン「なるほど。つまり、今生きている人間を皆殺しにするシステムというわけか」
戒斗「ああ」
一夏「そんな!?」
シネマ「少年よ!」
 ――シネマが、1年1組の生徒達の手当てをしながら叫んでいた。
シネマ「傷ついた子供達は私に任せるがいい。君は、あの機械を止めに!」
一夏「わ、分かった!」
 ――頷き、駆け出す。
戒斗「待て。車に乗れ、一夏」
一夏「え? でも俺、免許無い……」
戒斗「運転は俺がする。いいから早く乗れ」
一夏「お、おう!」
 ――トライドロンは、沢芽市の中心を目指して走り出した。
シネマ「……」
シネマ「ふむ」
 ――“映画館の怪人”は、したたかな笑みを浮かべていた。
シネマ「良い映画が撮れた」
《仮面ライダーバロン》編-本当の強者はなにをするのか?- 了
116:
■《仮面ライダーW編》-Wを継ぐ者/二人のダブル-■
■序幕「食べられないメロディ」
<夏休み前日・黄昏時・沢芽市・埠頭>
 ――形だけのメロディが爪弾かれていた。
シャル(どうしてだろう)
シャル(何が違うんだろう……?)
シャル(ジローのメロディはあんなに悲しかったのに)
シャル(僕のメロディは、まるで心に響かない)
「お悩みのようですね、お嬢さん」
シャル「だ、誰!?」
 ――紳士がいた。
 ――傘をステッキのように突いた、痩身の中年。
井坂「井坂深紅郎。人に先生と呼ばれる仕事をしている者です」
シャル(先生……? それにしては、何だか……。目付きが鋭すぎるような気がする)
シャル(まるで猛禽類みたいだ)
井坂「音楽を嗜む立場から助言を送りましょう。君の音楽は食べられないのです」
シャル「食べられない……?」
井坂「君のメロディは、ただ楽譜を追いかけただけのもの。そこに味わいはありません」
井坂「だから、心に響かないのです」
シャル「……!」
井坂「おや、その驚いた顔。核心を見抜き過ぎたようですね」
シャル「あ、あの……」
117:
シャル「い、井坂先生!」
井坂「何でしょう?」
シャル「どうすれば僕のメロディは心に響くようになるのでしょうか!」
井坂「……」
シャル(うう……。やっぱりこの人の目、ちょっと怖い)
井坂「……フッ」
シャル(あ、れ……? 笑った……?)
井坂「探偵になるのですよ」
シャル「た、探偵……?」
井坂「ええ。誰でも一度は探偵になります」
井坂「本当の自分を探すためです」
井坂「本当の自分の心の声こそが、君のメロディを本物の音楽にするでしょう」
シャル「本当の自分の、心の声……」
井坂「一つ予言をしましょう。私達が再会した時、あなたは本当の自分を知るでしょう」
 ――井坂は踵を返し、歩き始める。
シャル「あ……」
井坂「さようなら、シャルロット君。またお会いしましょう」
 ――シャルロットは井坂の背中をぼんやりと眺めていたが、やがて、
シャル「本当の自分……」
 ――と、呟いた。
シャル「知りたい」
シャル「本当の自分を知ることができれば……」
シャル「ジローが好きだって、胸を張って言えるようになるかもしれない」
118:
■第一幕「はじめての探偵」
<夢の中>
 ――僕は、継母に殴られる僕を見つめていた。
 ――僕は、父に無視される僕を見つめていた。
 ――僕は、戦極凌馬に弄ばれる僕を見つめていた。
 ――やがて。
 ――継母の顔が僕になる。
 ――父の顔が僕になる。
 ――戦極凌馬の顔が僕になる。
 ――。
119:
<夏休み初日・風都・風都タワー前>
 ――子供達がはしゃいでいた。
 ――祭りの出店がところ狭しと並んでいる。
 ――風都のあちこちに『風都こども祭』の看板がかけられていた。
「あっ」
 ――よそ見をしていた子供が、誰かとぶつかってしまった。
 ――子供のソフトクリームが、“その人”にべったりと付いてしまう。
 ――“その人”は、
シャル「君、大丈夫? 怪我はない?」
 ――と、子供に微笑みかけた。
「だ、大丈夫……。あの、お姉ちゃん。よそ見してて、ごめんなさい……」
シャル「こんなのは拭きとればいいんだよ」
 ――“その人”シャルロット・デュノアは、子供の頭を優しく撫でた。
「……」
 ――子供は、不思議そうな目でシャルロットを見上げていた。
「怒らないの……?」
シャル「人間はみんな不完全だ」
シャル「だから間違えてしまうけど……。間違えたって分かって謝れた君を、怒りはしないよ」
シャル「ほら、もうお行き。あんまり一人でいるとお母さんに心配かけちゃうよ」
「う、うん。ばいばい、優しいお姉ちゃん!」
 ――シャルロットは、走り去る子供が見えなくなるまで手を振っていた。
120:
ラウラ「シャルロット、水道は向こうだ」
 ――ハンカチが差しだされる。
シャル「ありがとう、ラウラ」
 ――二人は水道に移動する。服についたソフトクリームを洗い流した。
ラウラ「お前は優しい女だ」
シャル「と、突然どうしたの?」
ラウラ「いや……何となく、な」
シャル「? ……ところでラウラ。その格好は、何?」
ラウラ「ハードボイルドだろう?」
 ――ラウラは、黒のスーツに黒のソフト帽を合わせていた。
ラウラ「それに、シャルロットだって私の“相棒”にふさわしい奇抜な格好じゃないか」
 ――シャルはギターを担ぎ、青のズボンに赤いジャケットを合わせていた。
シャル「…………うっ」
シャル(ぼ、僕だってちょっとアレかなーってのは分かってる! 分かってるけど! ……これは、ジローと同じ格好だから)
ラウラ「百面相してどうしたんだ? ……まあいいか」
ラウラ「今日はよろしく頼むよ、“相棒”」
 ――ラウラはからからと笑うと、腰に下げた赤色の『ふうとくん』を弾いた。
 ――シャルのギターにも、紫色の『ふうとくん』が下げられている。
121:
<風都タワー前>
ラウラ(かつて、シャルロットは誰でもなかった)
ラウラ(だが……。今は、シャルロット・デュノアだ。優しくて、気配り上手で、笑顔の素敵な女だ)
ラウラ(シャルロットは、本当の強さの持ち主だと思う)
ラウラ(私は彼女の友であることを誇りに思う!)
ラウラ(そして……。友である私は、察知した)
ラウラ(シャルロットは、何か思い悩んでいる)
ラウラ(その事実に気づいた時、この街を思い出した)
ラウラ(風都)
ラウラ(いい風が吹くこの街は、きっと、シャルロットに変化のきっかけを運んでくれるだろう)
ラウラ(だって……)
ラウラ(この街には、仮面ライダーがいたのだから)
122:
<鳴海探偵事務所跡地>
 ――更地の前にラウラとシャルロットの姿があった。
シャル「ここに用があったの?」
ラウラ「ああ。とある依頼の報告をしなくてはならなかったからな」
シャル「依頼?」
ラウラ「妖怪・猫又から受けた依頼だ」
シャル「えっ」
ラウラ「一ヶ月ほど前の話だ。風都タワーを訪れた私と嫁は、妖怪・猫又に導かれてこの場所にやってきた」
シャル「よ、妖怪……?」
ラウラ「日本は妖怪の国だろう?」
シャル「それはクレイジーな認識だと思うよ……」
ラウラ「ははは! で。その猫殿に依頼されたわけだ。『仮面ライダーを取り戻して欲しい』、とな」
シャル「仮面ライダー……」
ラウラ「ああ」
ラウラ「ここからは推測混じりになるが……」
 ――ラウラは“探偵事務所があったはずの空間”を見上げる。
ラウラ「かつて、ここには仮面ライダーの拠点があったのだろう。猫殿はそこに出入りしていたのだろうな」
ラウラ「さて、報告だ。猫殿。私達は世界に仮面ライダーを取り戻し――」
 ――猫がいた。
 ――ブリティッシュ・ショートヘアーの、ちょっと生意気そうな顔つきをした猫だ。
 ――猫の尻尾は、二つに割れていた。
123:
ラウラ「……おお! 猫殿!」
シャル(尻尾が割れてるー!? ほ、本当に妖怪……!? に、日本はクレイジーだ……!)
ラウラ「猫殿、依頼は果たしたぞ! 嫁が仮面ライダーになり、その姿を世界中に見せつけた。世界は仮面ライダーを取り戻したんだ!」
 ――猫はラウラの足元に寄ると、顔を上げる。
 ――その口に、木彫りの熊を咥えていた。
ラウラ「むう?」
シャル「あ。中に紙が入ってるみたいだよ」
ラウラ「おお!」
 ――紙片を取り出し、文字を読み上げる。
 ――『nobody's perfect』
シャル「!?」
ラウラ「どうした、“相棒”?」
シャル「い、いや、ちょっと……」
シャル(nobody's perfect。誰にも過ちはあるもの……)
シャル(人間はみんな不完全っていうジローの言葉と、同じ意味のフレーズ……)
ラウラ「……」
ラウラ「ふむ」
「ニャア」
 ――猫はラウラ達に背を向けると、走り去る。
ラウラ「……音声認識、ウェブサーフィン」
124:
ラウラ「検索ワード『仮面ライダー』」
 ――端末が立ち上がり、検索結果が表示される。
 ――『仮面ライダー』……ヒット数0件。
ラウラ「どうやら、依頼を果たせてはいなかったようだ」
ラウラ「……」
ラウラ「どういうことだ?」
シャル「半月前の“あの戦い”は、世界中に配信されていた。戦いの中で一夏は、仮面ライダーという言葉を何度も叫んだ」
シャル「でも……。ネット上には『仮面ライダー』は存在していない」
ラウラ「私達は夢でも見ているのだろうか? それとも、“あの戦い”が夢だったのだろうか?」
シャル「……」
 ――シャルは、背中のギターに手を触れた。
シャル(……うん)
シャル「探偵になろう!」
ラウラ「な、何だと……?」
シャル「探すんだよ。この街で、『仮面ライダー』を」
シャル「調べてみよう。“あの戦い”は本当にあったのか、みんなは仮面ライダーを知っているのか」
 ――シャルはラウラの格好を、爪先から帽子のてっぺんまで見ていく。
シャル「レイモンド・チャンドラーなんでしょ?」
ラウラ「……フッ。ああ、ハードボイルドだ!」
ラウラ「よろしく頼むぞ、“相棒”」
125:
■第二幕「仮面ライダーを探せ!」
<風都・鳴海探偵事務所跡地>
 ――更地の前に男がいた。
 ――糊の効いたスーツを着こなした、洒脱な青年である。
 ――首に巻いたスカーフには、血のように赤いワンポイントが入っていた。
 ――彼の名は、園崎霧彦。
霧彦「仮面ライダーを見つけなければならない」
霧彦「仮面ライダーに、伝えなきゃならないことがあるんだ」
霧彦「メガリバースマシン」
霧彦「風都の風の未来を奪うあの機械を、稼働させてはならない……!」
<風都>
ラウラ(私達は二手に別れて調査を開始した)
ラウラ(風都の住民に『仮面ライダーを知っているか?』と尋ねて回っているが……)
ラウラ(結果は、芳しくない)
ラウラ(どうやら“あの戦い”の映像は『検閲』されていたらしい)
ラウラ(誰も嫁が変身した姿を『仮面ライダー』と呼ぶとは知らなかった)
ラウラ(……)
ラウラ(今年の一月。世界に、『唯一の男性IS操縦者』が現れた。嫁だ)
ラウラ(戒斗の存在が公になった三月までに、嫁の情報は世界中を駆け廻った。世界中のみんなが『織斑一夏はIS操縦者である』と知っている)
ラウラ(だから、と言うか)
ラウラ(“あの戦い”も、単なるIS戦だと認識されていた)
ラウラ(仮面ライダーの戦いだとは思われていなかった)
ラウラ(恐らく、世界中で“そう”なのだろう)
ラウラ(本当に、誰も『仮面ライダー』を知らないのだ)
126:
<風都タワー>
 ――『こども祭り』のイベントでごった返す風都タワーに、調査を続けるラウラの姿があった。
 ――ラウラは、ふうとくんが描かれた帽子を被った男の子に聞き込みをしていた。
ラウラ「……そうか。君も知らないか」
少年「うん」
ラウラ「協力感謝する」
少年「待って!」
ラウラ「何だ?」
少年「仮面ライダーって、何?」
ラウラ「……ふむ」
ラウラ(改めて問われると難しい問題だ)
ラウラ「それは――」
「君達の味方だよ」
ラウラ「む?」
ラウラ(……爽やかな青年だ)
霧彦「坊や。仮面ライダーは君達の……子供達の味方だ。仮面ライダーは必ず君達を守ってくれる。君達の声援があれば、奇跡だって起こしてくれるんだ」
少年「ぼく達の味方……」
霧彦「そうだよ。もちろん、頼りきりではいけないけどね。でも、自分の力ではどうにもならない時には、仮面ライダーを呼ぶんだ」
霧彦「仮面ライダーは絶対に君達に涙を流させない」
霧彦「だって……。君達こそが、風都の風なのだから」
少年「そうなんだ……。ありがとう、お兄さん!」
霧彦「ああ。ばいばい」
 ――霧彦は、ふうとくんの帽子を被った少年を、微笑みながら見送っていた。
ラウラ「……」
霧彦「余計な口出しだったかな」
ラウラ「いや、助かった」
霧彦「それはよかった」
霧彦「I Love ふうとくん! ふうとくんを愛してくれている子の手助けができてよかったよ」
 ――霧彦の目は、ラウラの腰に下げられた『ふうとくん』を見つめていた。
ラウラ「ふむ」
ラウラ(悪人ではないようだな。むしろ、天然のようだ)
ラウラ「質問がある。あなたはどうして仮面ライダーを知っているんだ? それはもう、みんなに忘れられてしまった英雄だ」
霧彦「…………」
霧彦「情報交換をしよう」
127:
<朽ちかけた診療所前>
シャル(人気の無いところに出ちゃったな……)
シャル「…………」
シャル(一人になると、どうしても思い出してしまう)
シャル(最近……。ずっと、同じ夢を見る)
シャル(父、父の正妻、あの人……。僕に酷いことをした人達が、僕に酷いことをするのを眺めている夢)
シャル(そして……)
シャル(やがて、僕は父になる)
シャル(父の正妻になる)
シャル(戦極凌馬になる)
シャル(そして、僕はそれを……)
シャル(……)
シャル(嫌な夢だ)
 ――シャルロットはジローのギターを開き、収納スペースから『ジローの心』を取り出した。
 ――スイッチを押すと、『ARK!/DARK!』という音声が鳴る。
シャル「ジロー……。君は僕に心を預けてくれたけど……」
シャル「僕は君の心を持っていていいのかな……?」
シャル「僕は君の友達でいていいのかな……」
シャル「本当の僕は……」
シャル「君を好きでいる資格はあるのかな、ジロー……」
 ――述懐の終わりを待っていたかのように、コンクリートを叩く音が響き渡った。
 ――音の源は、紳士のステッキ。
井坂「また会いましたね、シャルロット君」
シャル「井坂先生……!」
井坂「予言は当たったようですよ、シャルロット君。あなたは本当の自分を理解するための鍵を見つけたようだ」
シャル「え……?」
 ――井坂の猛禽類のような瞳は、『ジローの心』を見つめていた。
128:
<風麺>
霧彦「本当に食べないのかい? もういい時間だよ」
ラウラ「昼食を取るなら“相棒”も一緒でなければならないからな」
霧彦「なるほど。ならば覚えておくといい。風都通がオススメする風都の名物料理と言えば、この風麺だ。風都タワーの風車のように巨大なナルトがイチオシポイントだよ」
ラウラ「ありがとう霧彦。覚えておこう」
 ――ラウラは破顔した。
ラウラ「さて。情報を整理しようか」
霧彦「君達は仮面ライダーの痕跡を探している」
ラウラ「そして、霧彦は仮面ライダーを探している」
霧彦「お互いに収穫はゼロ」
ラウラ「……と、いうことだ」
霧彦(……)
霧彦(まさか、私が死んでから五十年以上の年月が経過していたとは……)
霧彦(そして、彼女の話によれば)
霧彦(この街の仮面ライダーは、既に死んでいる)
霧彦(殺されてしまっている……)
霧彦(…………)
霧彦(仮面ライダー君。君が殺されたなんて信じたくないよ……)
霧彦(君が……。仮面ライダーがいなくなってしまったら、誰がこの街を守るんだい?)
霧彦(誰が風都の風を守るんだい……?)
霧彦(君こそが風都の守護者だと信じたから、『大切な宝物』を預けたんだぞ……)
129:
<朽ちかけた診療所・診察所>
井坂「ガイアメモリ、というものがあります」
シャル「ガイアメモリ……?」
井坂「ええ。『地球の記憶』が刻まれた生体感応端末です」
シャル(『地球の記憶』……?)
井坂「難しく考えることはありません。あなたが知らなくてはならないことは、一つだけ」
井坂「人とメモリは運命で結ばれている、ということです」
シャル「運命……?」
井坂「ええ、運命です」
井坂「あなたとそのメモリの出会いもまた、運命なのですよ」
シャル「……」
 ――シャルロットは、手の中の『ジローの心』を見つめた。
シャル「僕は何をすればいいんですか……?」
井坂「メモリと一つになるのです。ガイアメモリが本当のあなたを具現化してくれます」
シャル「メモリと一つに……?」
シャル(それは、ジローの心と一つになれるってこと……?)
シャル(……)
シャル(ジロー……)
シャル(君と一つになれるなら、僕は……)
シャル「井坂先生」
井坂「何でしょう?」
シャル「どうすればメモリと一つになれるんですか?」
130:
<朽ちかけた診療所前>
ラウラ(集合時間になっても連絡が取れないシャルロットを探して、こんなところまで来てしまった)
ラウラ(気味の悪い建物だ……)
ラウラ「この建物の中にシャルロットがいるはずだ」
霧彦「どうやって調べたんだい?」
ラウラ「通信端末を使ったGPSだ。合流しやすいように、お互いにIDを交換していた」
霧彦「なるほど。世の中便利になったものだ」
霧彦(しかし。この建物……)
霧彦(朽ちかけていて分かり辛いが――井坂内科医院だ)
霧彦(井坂内科医院は、裏ではドーパントを診ていたはず。胸騒ぎがする……)
131:
<朽ちかけた診療所・診察室>
 ――『ジローの心』は、かつて仮面ライダー達が使っていたガイアメモリに酷似していた。
 ――相違点は一つ。
 ――『A』と『D』いう二つの文字が刻まれていることである。
井坂「コネクタ処理は終わりました。これで、あなたは本当の自分を知ることができますよ」
シャル「ありがとうございます……!」
 ――シャルロットは、メモリのスイッチを押す。
 ――『ARK!/DARK!』というガイド音声が鳴る。
シャル「……」
シャル「…………ッ」
 ――胸のコネクタに『ジローの心』を刺すと、
 ――『ハカイダー!』という音声が鳴り響いた。
 ――シャルロットは『闇』に包まれる。
 ――『闇』が霧散すると……。
シャル「え……」
 ――鏡に、『ハカイダー・ドーパント』に変貌したシャルロットが映っていた。
132:
<朽ちかけた診療所・廊下>
ラウラ「今のは……?」
霧彦「ガイアメモリの……!」
 ――診察室に駆け込んだ二人は、見た。
 ――鏡を前に、自らの姿を恐れるように後ずさる『ハカイダー・ドーパント』の姿を。
ラウラ(あの怪人……。あの背中のギター! まさか、シャルロット……!?)
ラウラ「シャルロット! どうした! 何があったんだ!」
 ――シャルロットは、ラウラの声なんて聞こえていないように、頭を振っている。
シャル「嘘だ……。そんな、僕が、僕は……」
井坂「嘘ではありませんよ」
井坂「その姿こそが、本当のあなたなのです」
 ――シャルロットの姿は、あまりにも『醜かった』。
 ――誰かを傷つけるための力に満ちあふれた、破壊的なボディ。
 ――世の中への絶望を塗り固めたような、真っ赤な瞳。
 ――クリアパーツの中に『脳』を飾った、グロテスクな頭部。
 ――年頃の少女が許容できる姿ではなかった。
井坂「それが、本当のあなたが具現化した姿なのです」
シャル「そんな……ッ」
 ――シャルロットはよろめき……震える手で、ジローのギターをベッドに横たえた。
 ――まるで、別れを告げるように。
シャル「僕が……」
シャル「本当の僕がこんなに醜いなら、ジローを好きでいる資格なんてないよ…………ッ!」
 ――シャルは駆け出した。診療所の壁を破壊し、何処かに去ってしまう。
133:
ラウラ「シャルロット!」
 ――ラウラの声は、届くはずもなかった。
霧彦「……っ」
井坂「……」
井坂「ずいぶんと怖い目をしていますねえ」
霧彦「井坂深紅郎……!」
井坂「私を知っているということは、あなたも過去の亡霊というわけですか。名前を尋ねても?」
霧彦「園崎霧彦!」
井坂(園崎……? ……そうか、冴子君の……)
井坂「くく。くくくくくく」
ラウラ「何がおかしい!」
 ――ラウラの隻眼が、井坂を睨み上げていた。
ラウラ「シャルロットを……私の友を傷つけておきながら、どうして笑える!」
井坂「勘違いしないでもらいたいですねぇ……。決断をしたのは彼女ですよ。私は、ほんの少し助言をしたに過ぎません」
井坂「シャルロット君は知りたがっていたんですよ、『本当の自分』を、ね」
ラウラ「……ッ」
ラウラ(シャルロット……)
ラウラ(そうか。お前は、そうだったのか……)
 ――ラウラの前に、霧彦が歩み出る。
霧彦「井坂深紅郎。……ガイアメモリ『ウェザー』の所持者!」
井坂「よくご存じのようで」
 ――『ウェザー!』
霧彦「お前はあの子をガイアメモリの実験台にしたな!」
井坂「正確にはガイアメモリではありませんが……。そうですよ。あのメモリの力に興味があるのです」
霧彦「許さん!!」
 ――霧彦は『ガイアドライバー』をセットする。
ラウラ(ドライバー!? 霧彦は仮面ライダーなのか!?)
 ――『ナスカ!』
井坂「ふふっ。ドライバーなどに頼っていては、私には勝てませんよ」
霧彦「フッ……。それはどうかな!」
134:
<朽ちかけた診療所前>
 ――ナスカ・ドーパントとウェザー・ドーパントが激突していた。
ラウラ(有利なのは、井坂深紅郎が変身した怪人だ)
ラウラ(嵐、雷雨、吹雪……。天候を操る能力を有しているのだろう。多彩な戦術を用いて霧彦を追いつめている)
ラウラ(霧彦は……。長剣を主武器にしたファイターなのだろう。井坂深紅郎の絡め手に対抗できず、一方的にやられている)
井坂「霧彦君。ナスカには固有能力の《超高》があるはずですね。使わないんですか?」
霧彦「くっ……」
井坂「分かっていますよ、ふふ。使わないのではなく、使えないのでしょう? ……そのメモリ、あなたに適合していませんね。身体に激痛が走っているのでしょう?」
 ――雷雲が霧彦を拘束する。
 ――幾条もの雷撃が霧彦を打った。
 ――霧彦は悲鳴を上げて倒れ伏す。
井坂「ふむ」
井坂「ナスカメモリの神秘の力には興味があります、見逃してあげましょう。もしもあなたにその気があるのなら、今度はドライバーを使わずにメモリの直刺しをしなさい」
井坂「そうすれば、勝負になるかもしれませんよ?」
 ――井坂は『生体コネクタ設置手術器』を霧彦の目の前に置くと、悠々と姿を消した。
135:
■間章「風都こども祭」
<風都タワー>
 ――子供達がはしゃいでいた。
 ――催し物が、風都タワーに街中の子供達を集めていた。
 ――ある時に。
 ――子供達の中から、声が上がる。
「ねえ。仮面ライダーって知ってる?」
「仮面ライダー?」
「何それ?」
「仮面ライダーはね」
「僕達の味方、だよ」
136:
■第三幕「本当の自分」
<夢の中>
 ――僕は、継母に殴られる僕を見つめていた。
 ――僕は、父に無視される僕を見つめていた。
 ――僕は、戦極凌馬に弄ばれる僕を見つめていた。
 ――やがて。
 ――継母の顔が僕になる。
 ――父の顔が僕になる。
 ――戦極凌馬の顔が僕になる。
 ――。
 ――僕の手は、銃を握っていた。
 ――引き金を引く。
 ――僕の顔をした戦極凌馬を破壊した。
 ――僕の顔をした継母を破壊した。
 ――僕の顔をした父を破壊した。
 ――僕の顔をした――を破壊した。
 ――夢はそこで途切れた。
137:
<裏通り>
 ――気を失った霧彦を担ぐ、ラウラの姿があった。
 ――背中には霧彦を背負い、首からはジローのギターを下げている。
 ――小さな唇は、考えをまとめるように独り言を呟いていた。
ラウラ「シャルロットが何を悩んでいたのか……。分かったよ」
ラウラ「シャルロットは恋を自覚したんだ」
ラウラ「……」
ラウラ「恋をすると鏡を見る」
ラウラ「本当の自分を知りたくなる」
ラウラ「本当の自分は“その人”に好きになってもらえるだろうか? “その人”を好きでいていいのだろうか?」
ラウラ「……“その人”を好きでいるための資格を求めてしまう」
ラウラ「嫁を好きになった私も同じ葛藤と対峙した」
ラウラ「恋を自覚してしまえば、もう後戻りはできない」
ラウラ「本当の自分との、戦いが始まる」
ラウラ「……ああ」
ラウラ「nobody's perfect」
ラウラ「本当の自分は、強敵だ」
ラウラ「……」
ラウラ「シャルロットは後悔しない生き方を選択できるだろうか……」
ラウラ「……」
「ニャア」
ラウラ「猫殿?」
「ニャア」
ラウラ「ついて来いと言っているのか? ……いいだろう。霧彦を休ませなければならない」
ラウラ「猫殿。霧彦が一番安らげる場所に案内してくれ」
「ニャア」
138:
<旧園崎邸・庭園>
 ――『ハカイダー・ドーパント』は、荒れ果てた庭園にいた。
 ――彼女は、湖に映る自分の姿に怯えていた。
シャル「破壊だ……」
シャル「破壊、破壊、破壊だ……」
シャル「僕の心がそう叫ぶんだ……」
シャル「嫌だよ……。そんな醜い感情、持ちたくないよ……!」
 ――シャルロットは頭を振った。
 ――水面に映る『醜い』怪人が、シャルロットの動きを忠実に再現する。
 ――そこに、逃れようのない事実があった。
シャル「……ッ」
シャル「この姿こそが、本当の僕……。井坂先生はそう言っていた……」
シャル「僕は壊したかったの……?」
シャル「……」
 ――“夢”が蘇る。
 ――“夢”の中のシャルロットは、人を殺していた。
 ――自分と縁の深い“四人の人物”を殺害していた。
シャル「……」
シャル「ジロー……」
 ――シャルロットは胸に、『ジローの心』を刺した場所に手を当てる。
シャル「君と一つになったはずなのに、僕は君から遠ざかってしまった」
シャル「僕は……」
シャル「僕みたいな醜い人間が、ジローみたいに優しい人を好きになっちゃいけなかったんだね……」
シャル「ジロー……。ジロー……!」
 ――シャルロットは涙を隠すように顔を伏せる。
 ――けれど、『ハカイダー・ドーパント』となったシャルロットは、涙を流すことすらできなかった。
139:
<喫茶店>
 ――井坂は“資料”を眺めていた。
 ――“資料”にはシャルロット・デュノアの詳細なプロフィールが記載されている。
井坂(シャルロット・デュノア。“スポンサー”が破壊を依頼してきた『ARK/DARK』メモリの、所持者)
井坂(父の愛を知らずに育った少女)
井坂(……誰かを、思い出しそうになります)
井坂(……)
井坂(くく。くくくくくくくくくく……)
井坂(彼女をメモリの実験台にしておきながら、ねぇ……。はは、はははははははははは!)
井坂(……)
井坂(私は、本当の自分の心の声に従います)
井坂(“スポンサー”からは“前金”もいただいていますが、知ったことではありません)
井坂(私は――『ARK/DARK』メモリの力を手に入れる)
井坂(究極の力で満たされたい! それこそが、私の願いなのですから……)
 ――井坂は喫茶店のウェイトレスに声をかける。
 ――注文は『おかわり』。
 ――しばらくすると……。
 ――井坂の前に、十八枚目となるパスタの皿が運び込まれた。
140:
<風車の孤児院・保健室>
 ――霧彦は清潔なベッドの上で目を覚ました。
霧彦「ここは……?」
ラウラ「孤児院だ。猫殿が導いてくれた。そして、院長の好意でベッドを借りている」
霧彦「……」
 ――霧彦は身体を起こすと、壁に貼られた一枚の絵に目をとめた。
 ――その絵には、“兄妹”の姿が描かれていた。
霧彦(ここには、私の“昨日”があるようだ……)
霧彦(……)
霧彦「君のお友達は……?」
ラウラ「居場所は分かる。GPSが生きている。だが……正直なところ、困っている」
ラウラ「シャルロットが抱えている問題は繊細だ。私には何をどうしていいかが分からない」
霧彦「……」
霧彦「そうか……」
141:
<旧園崎邸・庭園>
井坂「ここにいましたか」
シャル「井坂先生……? どうしてここに」
井坂「縁のある場所だから、でしょうか」
 ――井坂は、かつての栄光を失った園崎邸をぐるりと見回した。
井坂(思えば……。ここには精神的な病人ばかりがいました)
井坂(心に歪みを抱える者が集まる場所。なのかもしれません)
井坂「シャルロット君。本当の自分を知った気分は、どうですか?」
シャル「……」
シャル「……ッ」
井坂「最高、ではなさそうですね」
井坂「……」
井坂「それは、あなたが本当の自分から目を逸らしているからですよ」
シャル「でも……」
 ――シャルロットは、井坂深紅郎という紳士を見上げる。
 ――猛禽類のような眼光は鋭く、少女の心を抉るようである。
 ――けれど。シャルロットは、その眼差しから目を逸らすことができなかった。
井坂「恐れなくてよいのですよ」
井坂「耳を澄ませて、本当の自分の心の声を聞くのです」
井坂「やがて、気づくはずですよ」
シャル「気づく……?」
井坂「ええ」
井坂「本当の自分の心の声に従うことで人間は満たされるのだ。……とね」
井坂(そう)
井坂(究極の力で満たされるために。人を騙し、人を操り、人を殺した私が……)
井坂(充実していたように、ね)
142:
<風車の孤児院・保健室>
霧彦「どうすればいいか分からなくなった時は……」
ラウラ「ん?」
霧彦「心に聞いてみるんだ。本当の自分に」
ラウラ「本当の自分……」
霧彦「何も成せないかもしれない」
霧彦「何かを失ってしまうかもしれない」
霧彦「けれど、後悔はしないはずだ」
霧彦「……そうだね」
霧彦「とある――風都を愛した男の話をしよう」
143:
<旧園崎邸・庭園>
井坂「シャルロット君。本当の自分は何と言っていますか?」
シャル「それは……」
 ――シャルロットは深く、深く、自分の心に沈んでいく。
 ――聞こえる声は。
 ――見えるものは。
 ――“夢”だった。
 ――人を殺す“夢”。
 ――破壊の“夢”。
シャル「……」
井坂「心の声を聞くことができたようですね」
シャル「はい……」
井坂「恥じることはありません。本当の自分を理解したあなたは、生まれ変わるのですよ」
シャル「生まれ変わる……?」
井坂「ええ。別の存在に変身するのです。もう一度、湖を覗いてごらんなさい」
シャル「……」
 ――シャルロットは湖に映る自分を見た。
 ――『ハカイダー・ドーパント』
 ――シャルロットの心が具現化した姿。
井坂「シャルロット君。君は破壊したいと思っていますね? ……その姿は素晴らしい。どんなものでも破壊できるでしょう」
144:
シャル「破壊なんて……僕には、そんなこと……」
井坂「大丈夫」
 ――井坂の手が、シャルロットの肩にそっと置かれる。
井坂「一度破壊すれば理解できるでしょう。破壊こそがあなたを満たすのだ。破壊こそが、本当の自分の願いなのだ、と」
シャル「……」
井坂「苦しいのでしょう?」
シャル「…………はい」
井坂「楽になりたいのでしょう?」
シャル「……はい」
井坂「その苦しみから解放される方法は、たった一つだけ」
井坂「――破壊です」
シャル「……」
シャル「破壊……」
シャル「それが、本当の自分の……願い……」
シャル「僕を満たすもの……」
 ――シャルロットは、湖を見やる。
シャル(……あは)
シャル(ははは……)
シャル(さよなら、ジロー)
シャル(僕はもう、君を好きでいる資格を失くしちゃったよ……)
145:
<風車の孤児院・保健室>
霧彦「その男は間違えていた」
霧彦「その男は“悪の組織”に所属していた」
霧彦「だが……。悪の組織の研究がいずれ風都の人々の利益になると信じていた。組織の仕事に誇りすら感じていた」
霧彦「組織の仕事を忠実にこなすことで風都への愛を証明できると思っていた」
霧彦「――それが間違いだ」
霧彦「組織は、やはり“悪の組織”だった」
霧彦「組織は風都の子供達を研究の犠牲にした」
霧彦「男には、それが許せなかった」
霧彦「だが……。分からなくなった」
霧彦「ずっと組織を信じていた。信じていたものに裏切られてしまった。……どうすればいいのか、自分が何をしたいのか、分からなくなった」
ラウラ「……」
ラウラ「その男は、どうなったんだ?」
霧彦「死んだよ」
ラウラ「……そうか」
霧彦「悲観することはない。男は満たされていた」
ラウラ「死んでしまったのに、か?」
霧彦「ああ。男は死の直前まで“生きて”いたからね」
ラウラ「……よく、分からない」
霧彦「心臓が動いている! 生きているとは、ただ、それだけだろうか?」
ラウラ「……」
146:
霧彦「“その男”は声を聞いたんだ」
霧彦「心の声だ。本当の自分の……」
ラウラ「本当の自分の、心の声……」
 ――霧彦は静かに頷いた。
霧彦「『言ったよな、お前もこの町を愛しているって。もし本当にそうなら、もう子供達にあんな涙を流させるな』」
霧彦「心の声は、そう言っていた」
霧彦「男は……」
霧彦「男は、自分の罪を数えた」
霧彦「そして……罪を抱えながら、立ち上がった」
霧彦「子供達を守るために」
ラウラ「…………」
ラウラ「自らの罪を認めて、子供達のために立ち上がった者、か」
ラウラ「“その男”は、仮面ライダーだったのか?」
霧彦「……」
 ――保健室に、一人の老女が現れた。
ラウラ「院長!」
院長「あら。お話の途中だったかしら?」
霧彦「……!?」
 ――霧彦は、院長の顔をじっと見つめていた。
 ――やがて、何度か壁の絵と院長を見比べてから、紳士的なお辞儀をしてみせた。
147:
霧彦「ベッドを貸していただき、ありがとうございます」
院長「……」
院長「……ぷっ」
霧彦「……ははっ」
ラウラ(な、何だこの空気は……!?)
 ――院長は居住いを正すと、問いかける。
院長「これからどうするのですか?」
霧彦「本当の自分の、心の声のままに」
 ――霧彦は窓に視線を移す。
 ――孤児院の広場で遊ぶ、子供達の姿が見えた。
霧彦「子供は風の子、風都の子」
霧彦「風都の風は、子供達の声。子供達が笑う時、風都にはいい風が吹く……」
 ――霧彦は院長に向き直った。
霧彦「倒さなければならない男がいる。そいつは、街を泣かせるんだ」
霧彦「I Love 風都。……だから、その男を野放しにはしておけない」
院長「なら……」
 ――院長は、古びたウォールペーパーに包まれた箱を差し出した。
霧彦「これは……?」
院長「ある人から預かったものです」
 ――箱の中には二つの品物が納められていた。
 ――1つは『ロストドライバー』。
148:
院長「その人はこう言っていました」
院長「『誰よりも風都を愛してくれる人に』……と」
霧彦「……」
 ――霧彦は、箱に納められていたもう一つの品――『大切な宝物』を半世紀ぶりに手に取る。
 ――それは、古ぼけたふうとくんだった。
霧彦(仮面ライダー君)
霧彦(本当に君は死んでしまったんだね)
霧彦(だが……)
霧彦(仮面ライダーは死なない)
霧彦(そういう、ことだね……)
 ――霧彦は振り返ると、ラウラに目線を合わせた。
ラウラ「……?」
霧彦「話が飛んでしまったけれど……」
霧彦「“その男”は仮面ライダーではなかった」
霧彦「そして――仮面ライダーになると、決意した」
 ――その声が呼び寄せたかのように、
「ニャア」
 ――と、猫の鳴き声。
ラウラ「猫殿……!?」
霧彦(ミ、ミック……!?)
 ――猫のミックは霧彦の足元にあるものを置くと、現れたのと同じように唐突に去っていった。
ラウラ「それは……」
霧彦「……」
 ――霧彦はそれを拾い上げながら、ミックが去った方向を見つめていた。
霧彦「あいつ、私には懐いていないと思っていたんだけどなあ……。ははっ」
149:
■幕間「街が泣こうとしている」
 ――“雷雲”が風都タワーを封鎖していた。
 ――タワーの外へ出ようとすれば、雷が落ち、脱出を阻む。
「怖いよ……」
「誰か! 誰か助けて……!」
「でも……」
「誰が助けてくれるの……?」
 ――風都タワーにて『風都こども祭』のメインイベントが開催されていたこの日、
 ――街のほとんどの子供達が、風都タワーに閉じ込められていた。
150:
■第四幕「nobody's perfect/人間はみんな不完全」
<風都タワー前>
 ――“封鎖”された風都タワーを見上げる、ラウラと霧彦の姿があった。
霧彦「愚問を投げかけよう」
ラウラ「何だ?」
霧彦「君はこれからどうするんだい?」
ラウラ「フッ……」
 ――ラウラは不敵に笑いながら、帽子に手を添える。
 ――その背には、ジローのギターを背負っていた。
ラウラ「本当の自分の心の声のままに、だ」
霧彦「ああ……」
霧彦「やっぱり愚問だったね」
151:
<風都タワー・屋上>
 ――風都タワーの風車の前に、ウェザー・ドーパントに変身した井坂と、ハカイダー・ドーパントがいた。
井坂(『ARK/DARK』メモリは、正確にはガイアメモリではありません)
井坂(いえ……。ガイアメモリでは“なかった”)
井坂(“善”と“悪”。相反する二つの“心”を一つにまとめたこのメモリをガイアメモリ――『地球の記憶』に昇華させたのは、本来の持ち主の五十年間の生き様)
井坂(……だと、聞いています)
井坂(……)
井坂(シャルロット君は、メモリの“悪”の部分と適合してしまった。だからハカイダー・ドーパントになった)
井坂(彼女の不幸な半生を思えば、“悪”と適合してしまうのも頷けます。彼女はもしかしたら、“彼女”よりも不幸な人間かもしれません)
井坂(子供達であふれかえった風都タワーを破壊すれば、シャルロット君は“悪”の心に飲み込まれるでしょう。……そして、メモリに魂を蝕まれて)
井坂(死に到るでしょう)
井坂(『ARK/DARK』メモリがシャルロット君の命を奪った時、このメモリは私が使える力に変わります)
井坂(力を手に入れて、私は満たされるでしょう)
井坂(究極の力で満たされたい! それこそが、本当の私が心から叫ぶ願いなのですから)
井坂(ですが……)
井坂(…………)
井坂(いけませんね)
井坂(もう後戻りはできません)
152:
井坂(シャルロット君に誰の面影を重ねようとも、何の意味も無いのです)
 ――井坂はシャルロットを見つめる。
 ――『本当の自分の心の声』を聞いたシャルロットは、その心までもハカイダーになろうとしていた。
シャル「破壊する……」
シャル「破壊……。破壊……! 破壊! 破壊! 破壊だ……ッ!」
 ――シャルロットは、固く握った拳を振りかざした。
 ――風都の風が、その凶行を押しとどめるように拳に絡みつく。
シャル「僕は……! 僕は破壊するんだ……!」
シャル「僕は……!」
 ――拳を振り下そうとするシャルロット。
 ――その破壊に、
「待て!」
 ――と声を上げる者が、二人いた。
井坂「ほう。霧彦君に、シャルロット君のお友達ですか。タワーは私の力で封鎖していたはずですが、よくここまで来れましたねえ」
霧彦「君の力に対抗する手段がある。そういうことだよ」
ラウラ「行くぞ霧彦!」
霧彦「ああ!」
 ――霧彦は井坂に。
 ――ラウラはシャルロットに。
 ――それぞれ、戦うべき者と対峙する。
153:
<風都タワー屋上・北側>
井坂「あなたがここに現れたということは、ナスカメモリを直刺しする決意を固めた、ということでしょうか?」
霧彦「まさか」
 ――霧彦は不敵な笑みを浮かべると、『ロストドライバー』をセットする。
井坂「一度負けておきながら、まだドライバーに頼るのですか」
霧彦「このベルトを付けて戦うことには、大いなる意味がある!」
井坂「ほう?」
霧彦「仮面ライダーは死なない!」
 ――『サイクロン!』
霧彦「I Love 風都。私が、Wを継ぐ者だ……!」
154:
<風都タワー屋上・南側>
 ――シャルロットは、絶望を塗り固めたハカイダー・ドーパントの瞳でラウラを睨みつけていた。
シャル「僕の邪魔をするなら、君から破壊する……!」
ラウラ「……」
 ――ラウラの隻眼は、シャルの険しい視線を真っ直ぐに受け止めていた。
ラウラ(本当の自分の……。心の声を信じるんだ)
ラウラ(私は……ッ)
ラウラ「シャルロット! 私はお前を救う!」
 ――ラウラの宣言に、シャルロットは苛立ちを露わにした。
シャル「僕を救いたいなら邪魔をしないで! 僕が救われるためには破壊をしないといけないんだ! 破壊することで僕は救われるんだ……!」
シャル「破壊! 破壊、破壊、破壊だ! それが、本当の僕の心の声なんだ……!」
 ――シャルロットは、ホルスターからハカイダーショットを抜いた。
 ――銃口をラウラに向けて、引き金に指をかける。
ラウラ「ふむ」
ラウラ「武器を相手にするには、こちらも武器が必要だな」
シャル「……ISは束さんのところでしょ。武器なんて、どこにあるのさ」
ラウラ「とびっきりの武器がある。肌身離さず持っている、最高の武器だ」
 ――ラウラは“武器”を引き抜くと、銃のように構える。
シャル「……ッ!?」
 ――“武器”は、シャルロットをたじろがせた。
ラウラ「どうだ、これが私の武器だ。最強だろう?」
 ――ラウラはその手に、『赤色のふうとくん』を握っていた。
155:
<風都タワー屋上・北側>
 ――風が吹いていた。
井坂「Wを継ぐ者……」
霧彦「ああ。人呼んで――」
 ――風が止む。
霧彦「仮面ライダーサイクロン」
 ――首の一本のマフラーが、ふわりと垂れ下がった。
霧彦「子供を泣かせた貴様を、風都の仮面ライダーは許さない」
井坂「今さら許されようとも思いませんよ。この手は人を殺めすぎているのですから」
霧彦「医者の風上にもおけない奴……!」
井坂「くくく。まったくです」
 ――井坂は『ウェザーメモリ』の力で暴風を起こす。
 ――しかし霧彦は、颯爽と暴風に突っ込んだ!
井坂「あなたは馬鹿ですか! そんなことをしては……ッ!」
霧彦「フッ。言っただろう! 私は仮面ライダーサイクロンだ!」
 ――霧彦は、暴風をものともせずに突っ走る! それどころか、風の中で勢いを得ていた!
 ――ついには暴風を走り抜け、その拳を井坂に叩きつける!
 ――殴り飛ばされた井坂は、驚愕の声を上げた。
井坂「メモリ一本でこれほどまでの力が……!?」
霧彦「フッ……」
 ――霧彦は、キザったらしくロストドライバーを叩いた。
156:
霧彦「サイクロンの力だ。このメモリは、風をエネルギーに変えてくれる」
 ――マフラーが風になびいていた。
霧彦「風都の風が私に力を貸してくれているんだ……!」
井坂「なるほど……。サイクロンメモリこそがあなたの運命のガイアメモリだった、というわけですか……」
井坂「……くく」
井坂「くくくくく」
霧彦「何がおかしい」
井坂「いえ、ね」
井坂「本当の自分の心の声を聞いたら、おかしくなってしまいましてね」
霧彦「何だと……?」
井坂「霧彦君。私はあなたに負けたくありません」
 ――井坂は『ロックシード』を取り出した。
井坂「“スポンサー”からの“前金”……。使わせてもらいますよ」
 ――ドラゴンフルーツエナジー!
井坂「くく。くくくくく」
井坂(あなたのガウン。私には少々大きかった……)
井坂(負けられない理由が“それ”だなんて、口が裂けても言えません)
157:
<風都タワー屋上・南側>
 ――ラウラの“武器”に気圧されたシャルロットは、じりじりと後ずさっていた。
シャル「……ッ」
ラウラ「どうして逃げるんだ、シャルロット。私を破壊するのだろう?」
シャル「そ、そうだよ!」
 ――シャルロットはハカイダーショットを構える。
 ――だが、ラウラは怯まず、歩を進めた。
ラウラ「フッ」
ラウラ「撃つがいい。だが、断言しよう! ……その弾丸は何も破壊しない」
シャル「う、うるさい!」
 ――シャルロットはハカイダーショットの引き金を引く。
 ――弾丸はあらぬ方向へ飛んでいった。
シャル「何で……」
ラウラ「それは」
ラウラ「お前が――間違えているからだ」
シャル「何で……。何を、何を間違えているって言うんだ! 破壊したい! その気持ちは間違いじゃない! 本当の僕は壊したいって……壊したいって叫んでいるんだ!」
シャル「だから僕はこんな姿になった! こんな醜い……。こんな……」
ラウラ「……」
 ――ラウラは、ゆっくりとシャルロットとの距離を詰めていく。
ラウラ「破壊したい」
ラウラ「確かにお前はそう願っているのだろう」
ラウラ「けれど間違えているんだ、シャルロット」
シャル「何を……」
ラウラ「何を! だろうな」
ラウラ「愚問を投げかけよう。本当の自分の心の声を聞けば簡単に答えられる、魂への問いかけだ」
ラウラ「いいか、行くぞ?」
シャル「……」
ラウラ「――シャルロットは、何を壊したいんだ?」
シャル「……ッ」
158:
<風都タワー屋上・北側>
 ――井坂の勝利は揺るがぬものとなっていた。
井坂「素晴らしいですねぇ……。IS《インフィニット・ストラトス》の力は圧倒的です」
井坂「ああ……。満たされていく。やはり私は力を渇望している……!」
霧彦「ずいぶんと余裕じゃあないか……!」
井坂「この状況では、ね」
 ――ISを展開した井坂の足元に、変身が解けてしまった霧彦が這いつくばっていた。
159:
<風都タワー屋上・南側>
ラウラ「織斑一夏が好きだ」
ラウラ「そう自覚した瞬間に、私の変化は始まった」
ラウラ「鏡を見た。本当の自分を理解しようとした」
ラウラ「本当の自分は――罪深かった」
ラウラ「私は見比べた! 鏡に映った自分と、好きな人を見比べた」
ラウラ「私では釣り合わないと思った。悲しくなった」
ラウラ「そして……。決意した」
 ――ラウラは一歩、前に進む。
ラウラ「破壊しようと、決意した」
シャル「……」
ラウラ「壊したかったのは、自分だ。私は好きな人にふさわしい自分に変身したかったんだ!」
ラウラ「……シャルロット」
ラウラ「お前も、そうなんじゃないか」
 ――1歩、また1歩と。ラウラはシャルロットとの距離を詰める。
ラウラ「お前も恋をして……。自分を破壊したくなったんじゃないのか?」
シャル「……ッ」
 ――シャルロットはハカイダーショットを構える。
シャル「来ないで!」
ラウラ「……分かった」
 ――ラウラの足が止まる。
160:
シャル「……」
シャル「好きだよ」
シャル「ジローが好きだよ……!」
シャル「でも、それが恋かどうかなんて分からない! ジローは僕を認めてくれた、僕を僕にしてくれた、特別な友達なんだ……!」
シャル「ジローと過ごした一日にも満たない時間が宝物なんだ……。ジローのことを思い出すと……」
シャル「胸が苦しくて、熱くなって、幸せになって、辛くなるんだ」
シャル「僕は……」
シャル「僕は…………」
シャル「僕はただ、ジローが好きだって胸を張って言えるようになりたかっただけなんだ……」
ラウラ「……そう、か」
シャル「……」
シャル「ジローはね……。変な人だった。機械なのに、人間の僕よりもずっと人間らしかった。……優しかった。あたたかかった」
シャル「誰よりも優しかったジローが『優しいのは君だ』って言ってくれたから……。僕は、優しい人になろうと思った」
シャル「でも……」
シャル「……」
ラウラ「……」
 ――ラウラは待った。
 ――シャルロットの心が、その想いを言葉という形にできるまで、じっと待った。
 ――そして……あふれた言葉が零れ始める。
161:
シャル「夢を見るんだ」
シャル「ひどい夢だよ……」
シャル「夢の中の僕は、僕を見ているんだ」
シャル「父に無視されている僕を見ているんだ」
シャル「父の正妻に殴られている僕を見ているんだ」
シャル「戦極凌馬に弄ばれている僕を見ているんだ」
シャル「……」
シャル「いつしか……」
シャル「父の顔が僕の顔になるんだ」
シャル「父の正妻の顔が僕の顔になるんだ」
シャル「戦極凌馬の顔が僕になるんだ」
シャル「夢の中の僕は、銃を持っていて……」
シャル「僕の顔をした戦極凌馬を破壊するんだ」
シャル「僕の顔をした父の正妻を破壊するんだ」
シャル「僕の顔をした父を破壊するんだ」
シャル「そして……」
シャル「……いや」
ラウラ(……なるほど。そういうことか)
シャル「……」
シャル「ひどい夢を見るんだよ。……人を殺す夢を見るんだよ」
シャル「何を破壊したいのか? だったよね」
162:
シャル「僕は人を破壊したいんだよ……」
 ――シャルロットは、ハカイダーショットを構え直した。
シャル「君を破壊する。本当の僕の心の声に従って……」
シャル「そうすれば、僕は救われる」
シャル「ジローを好きだって胸を張れる自分にはなれなかったけど……」
シャル「もう、苦しくなくなるんだ」
シャル「だから……!」
ラウラ「……」
 ――ラウラはシャルロットの瞳を見つめると、
 ――不敵な笑みを浮かべた。
ラウラ「一人足りないだろう?」
シャル「な、何のことかな……」
ラウラ「お前の夢の話だ」
ラウラ「夢の中のお前は、引き金を四度引いているはずだ。……それは、そういう破壊の夢のはずだ。私も似たような夢を見たことがあるよ、シャルロット」
ラウラ「私は夢の中で二人の人間を破壊した。一人は教官で、もう一人は……。フフッ」
シャル「……ッ」
ラウラ「戦極凌馬。父の正妻。父。そして……お前は、もう一人、破壊しているはずだ」
シャル「そ、それは……!」
ラウラ「口にできないなら、私が当ててやる!」
 ――ハカイダーショットの銃口を恐れず、ラウラは大きな一歩を踏み出す。
シャル「こ、来ないで……!」
 ――引き金が引かれる。
 ――弾丸は、ラウラの頬を掠めはしたが、やはり何も破壊しなかった。
163:
ラウラ「夢の中のお前が破壊したもの! お前が口にしなかった最後の一人! それは……」
ラウラ「それは、シャルロットの顔をしたシャルロットだ!」
シャル「……ッ」
 ――その言葉は“電撃”だった。
 ――瞬く間に駆け廻った“電撃”に痺れたシャルロットは、ハカイダーショットを取り落としてしまう。
ラウラ「シャルロット! 夢の中のお前は――探偵だったんだ」
ラウラ「お前は探し物をしていたんだよ」
ラウラ「父ではダメだ。だから、『父の顔をした自分』を破壊した」
ラウラ「父の正妻ではダメだ。だから、『父の正妻の顔をした自分』を破壊した」
ラウラ「戦極凌馬ではダメだ。だから、『戦極凌馬の顔をした自分』を破壊した」
ラウラ「今の自分ではダメだ。だから、『自分の顔をした自分』を破壊した」
ラウラ「お前は――好きな人にふさわしい、新しい自分の姿を探していたんだ!」
シャル「そ、そんなこと……」
ラウラ「シャルロット!」
シャル「!?」
ラウラ「……答えはもう出ている」
 ――ラウラはシャルロットの傍まで歩み寄ると、ハカイダー・ドーパントと化した手を取った。
164:
ラウラ「破壊しよう」
ラウラ「古い自分を破壊しよう」
ラウラ「新しい自分に変身しよう」
ラウラ「そして」
ラウラ「好き、と。胸を張って言える自分になろう」
 ――ハカイダー・ドーパントとなったシャルロットの赤い瞳が、ラウラをじっと見つめる。
シャル「……なれる、かな」
シャル「壊して壊して壊して。……でも。まだ、何も見つけてない」
シャル「僕は……。ジローを好きでいていい僕に、なれるかな……?」
ラウラ「分からない」
シャル「そっか……」
ラウラ「ああ。nobody's perfectだからな。また間違えてしまうかもしれない」
シャル「……」
シャル「そっか。……そうだよね。人間はみんな不完全だから……間違えてしまうよね……」
ラウラ「フッ。心配するな」
 ――ラウラは、シャルロットの背中を力強く叩いた。
ラウラ「間違えたら指摘してやる。過ちに気づけばやり直せるだろう」
ラウラ「だから安心して“探偵”を続けるがいいさ――“相棒”」
シャル「……」
シャル「……ふふっ」
 ――『ARK/DARK』メモリが排出される。
 ――人間の姿を取り戻したシャルロットは、微笑をにじませていた。
シャル「ごめんね、ラウラ。迷惑かけちゃった」
ラウラ「いいんだよ、“相棒”。私が間違えた時は頼むぞ? ……くくっ」
シャル「ふふっ」
シャル「ラウラ。ギター、いいかな?」
ラウラ「ああ。これはお前のものだ」
 ――ラウラからギターを渡されると。
 ――シャルロットは、ギターに下げていた『紫色のふうとくん』を撫でた。
165:
<風都タワー屋上・北側>
 ――IS《インフィニット・ストラトス》をまとったウェザー・ドーパントが、倒れ伏した霧彦を見下ろしていた。
ラウラ「霧彦!」
 ――地べたに這いつくばった霧彦は、シャルロットを連れたラウラを見ると、伊達男の維持で微笑みを浮かべた。
霧彦「おめでとう……!」
ラウラ「霧彦……。ありがとう。“風都を愛した男”の話が、私に勇気をくれたおかげだ」
霧彦「それは何よりだ……」
霧彦「なら……。私も、もう一踏ん張りしないとな……!」
 ――その言葉通り、霧彦は立ち上がった。
 ――満身創痍の身体は、今にも崩れ落ちそうではある、が。
 ――確かに、二本の足で立っている。
井坂「……」
 ――井坂は、その姿を無感動に眺めていた。
 ――そして。井坂の視線がシャルロットに移る。
シャル「……井坂先生」
井坂「何でしょう?」
シャル「僕は破壊します。でもそれは、誰かを破壊することではありません。……僕は、自分を壊します」
井坂「そうですか」
井坂「……」
166:
井坂「自分を壊して。それで、あなたは何になるのですか?」
シャル「それは……。まだ、見つかっていません」
 ――戸惑うシャルロットに、井坂は小さく頷いた。
井坂「……なるほど」
 ――そして井坂は、風都タワーの風車を見上げる。
霧彦「貴様、何をするつもりだ……!」
井坂「ちょっとした余興ですよ。ここまでお膳立てをしたのです。せめて人々の悲鳴でも食べなければ、割りに合わないでしょう?」
霧彦「まさか、風都タワーを破壊するつもりか……!」
ラウラ「そんなことをしたら、中にいる子供達が……!」
井坂「だからですよ」
シャル(……井坂、先生?)
 ――井坂はシャルロットを一瞥すると、手をかざした。雷雲が、その腕に取り巻いていた。
霧彦「井坂深紅郎!」
 ――『ナスカ!』
井坂「ほう?」
 ――霧彦は生体コネクタ設置手術器を取り出していた。
霧彦「私がもっと面白い催し物を用意しよう。見たかったんだろう? 直刺ししたナスカメモリの力を……!」
井坂「ほう。確かに、それは興味をそそられます」
井坂「しかし、いいのですか? ナスカメモリの毒は、力と引き換えにあなたの命を奪いますよ?」
霧彦「フッ」
霧彦「I Love ふうとくん」
 ――生体コネクタ設置手術器を打ち込み、コネクタを生成する。
霧彦「この街は、私が守る……!」
167:
■第五幕「Wを継ぐ者/二人のダブル」
<風都タワー・北側>
 ――ナスカ・ドーパントは、闘気を漲らせていた。
霧彦「井坂深紅郎! お前にこの街は泣かせない!」
井坂「完全に仮面ライダーになりきっていますねぇ!」
霧彦「なりきりではない! 今は、私が風都の仮面ライダーだ!」
 ――ウェザーは雨雲を操り、ナスカに雷を落とす。
 ――しかし、
霧彦「超高……!」
 ――霧彦はナスカ・ドーパントの固有能力《超高》を発動。青い疾風となって、雷の雨をすり抜けた。
井坂「青い身体に高移動……。嫌な記憶を思い出しますねえ」
 ――ナスカの剣がウェザーに叩きつけられる。
 ――だが、ナスカの剣はISの《絶対防御》に弾かれた。
井坂「ふむ。ISという力、やはり素晴らしいですねえ……」
霧彦「こ、このっ!」
 ――ナスカはウェザーに剣を叩き込む。
 ――だが、全てISの《絶対防御》に弾かれた。
井坂「くくく。さて、霧彦君。あなたはあと何分“毒”に抗えますかねえ?」
井坂「本当は、既に限界を越えているのではありませんか?」
霧彦「……ッ」
 ――井坂の言葉が真実であったように、霧彦は膝から崩れ落ちた。
井坂「ふふ。I Love ふうとくん、でしたか。脆い愛ですねえ」
 ――井坂は霧彦の首を掴むと、その身体を持ち上げる。
 ――ISで飛翔しながら、“外”に出た。
井坂「さようなら。冴子君の前の旦那君」
 ――井坂が手を離す。
 ――霧彦は、指先一つ動かすことすら出来ずに落下していった。
168:
<風都タワー内部>
 ――風都タワーを取り囲んだ雷雲が、子供達の恐怖を煽っていた。
「助けて……」
「誰か助けて……」
「でも、誰が助けてくれるの……?」
「…………」
 ――不安に怯える子供達の中から、一つの声が上がる。
「仮面ライダーだよ!」
「仮面ライダー……?」
「うん。仮面ライダーは僕達の味方なんだ! きっと、今も僕達のために戦ってくれている。だから応援しよう! がんばれ、仮面ライダー……って!」
「仮面ライダー……」
<風都タワー>
 ――……れ……。
霧彦(声が聞こえる……)
 ――……ばれ……。
霧彦(これは、子供達の声……?)
霧彦(そうだ……)
霧彦(私は本当の自分の心の声を聞いたはずじゃないか……)
霧彦(もう、子供達にあんな涙は流させない……!)
 ――がんばれ!
霧彦(……子供達が)
 ――がんばれ、仮面ライダー!
霧彦(子供達が声援を送ってくれている……!)
霧彦(子供は風の子、風都の子。風都の風は、子供達の声……!)
霧彦(風が……。風都の風が、私を応援してくれているんだ!)
霧彦「応えたい……」
霧彦「子供達の声に応えたい……!」
霧彦「う、動け……」
霧彦「私の身体よ、動いてくれ……!」
霧彦「子供達を……風都の風を守らせてくれ……!」
 ――霧彦は、最後の力を振り絞った。
 ――ロストドライバーをセットする。
霧彦「私は――仮面ライダー……」
 ――『サイクロン!』
169:
<風都タワー屋上・北側>
井坂「む……」
 ――風が、逆巻いていた。
 ――地上から伸びた風の柱が、天に向かってぐんぐんと伸びていく。
井坂「まさか……」
 ――風を起こしていたのは、一人の戦士だった。
 ――全身はメタリックな緑。
 ――巨大な瞳は複眼状、頭部の触覚はV字型。
 ――首に一本のマフラーを巻き……。
 ――背中から、ナスカ・ドーパントの羽根を生やしている。
 ――それが、《風都の仮面ライダー》だった。
霧彦「脆くなんかないさ。私の風都への愛は――最強だ!」
 ――風を受けて宙を舞う霧彦が、ビシリとポーズを決めていた。
井坂「ならばその愛、もう一度試してあげましょう!」
 ――井坂はISを操り、銃弾をばらまく。
 ――霧彦は、さらに高く飛翔することでその攻撃を回避した。
井坂「指一本すら動かせなかったはずのあなたが、どうしてそこまで動けるのです!」
霧彦「それは、私が風都の仮面ライダーだからだ!」
井坂「意味が分かりません!」
霧彦「言っただろう!」
 ――霧彦は着地すると、風に身を投じるかのように両腕を広げた。
170:
霧彦「サイクロンは、風をエネルギーに変える仮面ライダー……」
霧彦「そして、風都の風とは子供達の声!」
霧彦「そう!」
霧彦「子供達の声援こそがサイクロンのエネルギー!」
霧彦「子供達が信じてくれる限り、サイクロンのエネルギーは――無限だッ!」
井坂「そんな馬鹿げた話がありますか!」
霧彦「ある!」
 ――霧彦はサイクロンメモリをマキシマムスロットに挿入する。
 ――『サイクロン! マキシマムドライブ!』ガイド音声が鳴り響き、霧彦は風をまとう。
 ――風を味方につけ、風に支えられ、《風都の仮面ライダー》は飛ぶ!
霧彦「私の風都愛は、最強だ!」
 ――ライダーキックが、井坂に突き刺さった!
井坂「……あなたに強固な意思があることは認めましょう。ですが、それだけでは勝てませんよ」
霧彦「いいや! 必ず最後に愛は勝つ!」
 ――ライダーキックが、風都の風が、ISの《絶対防御》に喰らいついていた。
 ――《仮面ライダー》は推進力を失うことなく、じりじりと、《絶対防御》を押し込んでいく。
井坂「な、何だこれは……!?」
霧彦「これが風都の力だ……!」
 ――ガラスがひび割れるような音が立った。
 ――ISの《絶対防御》の、軋む音だった。
霧彦「I Love 風都! それが――私が信じた、本当の自分!」
 ――ついに《風都の仮面ライダー》は《絶対防御》を貫き、ISを破壊した……!
 ――。
シャル(…………)
 ――風都への愛のために戦った《風都の仮面ライダー》の勇姿を。
 ――シャルロットは、瞬き一つせずに見つめていた。
171:
<風都タワー屋上>
 ――井坂は、高笑いを上げていた。
井坂「無限のエネルギー……ですか。その無限も、ISを破壊するので精いっぱいだったようですね」
 ――怪人体を維持したままの井坂は、ISの残骸を払いながら立ち上がった。
 ――紳士然とした立ち振る舞いだが……どこか“お前にだけは負けない”という意地のようなものを感じさせた。
霧彦「……」
 ――対する霧彦は、変身が解け人間体に戻っている。
霧彦「フッ……」
 ――霧彦は井坂に背を向けると、歩いていった。
 ――ラウラの前で立ち止まる。
霧彦「君に頼みがある」
ラウラ「……ああ」
 ――霧彦は、『ロストドライバー』と『古ぼけたふうとくん』をラウラに手渡した。
霧彦「誰よりも風都を愛してくれる人に」
 ――それだけを告げると、霧彦の身体が“灰”になっていく。
 ――風は“灰”を、そしてナスカメモリをさらっていった……。
ラウラ「……」
 ――ラウラは、託されたものをじっと見つめていた。
172:
<風都タワー屋上>
ラウラ「シャルロット、頼みがある」
シャル「……」
シャル「何かな?」
ラウラ「仮面ライダーになってくれないか?」
シャル「……」
シャル「僕はこの街の人間じゃないよ。風都のことなんて、何も知らないんだ」
ラウラ「だが、『誰よりも風都を愛してくれる人に』……だ。ならば、やはりシャルロットがふさわしいと思う」
シャル「どうしてかな?」
ラウラ「この言葉が未来に向かっているからだ。……お前の優しさは、未来には大きな愛になるはずだ」
ラウラ「シャルロットはいずれ、『誰よりも風都を愛してくれる』」
シャル「……」
 ――シャルロットは『ジローの心』を握る。
シャル「霧彦さん」
ラウラ「ん……?」
シャル「風都を愛していて、子供達を守るために戦って……死んじゃったね」
ラウラ「悲しいか?」
シャル「うん」
ラウラ「最も悲しいことは何だ? ……シャルロットの心の声は、何と言っている?」
シャル「……」
 ――シャルロットは、風都タワーの風車の前にたたずむ井坂を見た。
173:
シャル「井坂先生。あなたは風都タワーを破壊して、子供達の命を奪いますか?」
井坂「ええ。シャルロット君、私は悪人です。悪人には悪人にふさわしい立ち振る舞い、というものがあるのですよ」
井坂「止めたければ止めなさい」
井坂「本当の自分の心の声を聞けば、何をすべきかは自ずと理解できるでしょう。……今のあなたは“名探偵”なのですから」
シャル「……先生」
 ――シャルロットは、ラウラに向き直る。
シャル「僕は悲しい」
シャル「何かを守ろうとした人が志半ばで散ってしまった現実が、悲しい……!」
シャル「守ろうとする心! ……愛という心……。好きだ、っていう心」
シャル「優しい心が踏みにじられる結末は、嫌だ!」
 ――シャルロットは『ロストドライバー』を掴んだ。
 ――井坂に向き直る。
 ――ドライバーをセットした。
 ――そして、背後のラウラに語りかける。
シャル「……ラウラ、ふうとくんは」
ラウラ「分かっている。これは、未来のシャルロットの宿題だ。その日が来るまで、私が預かろう」
シャル「ありがとう。――“相棒”」
 ――『ARK!』
 ――『DARK!』
 ――ガイド音声を鳴らし、ドライバーのスロットにメモリをセットする。
井坂「シャルロット君。またあの醜い姿になりますよ?」
シャル「そうですね」
井坂「ほう」
シャル「僕は間違えているのかもしれません」
 ――スロットを倒す。
 ――『ハカイダー!』
 ――ガイド音声が流れると、シャルロットは『ハカイダー』になった。
174:
シャル「人間はみんな不完全だ。誰だって過ちを犯します」
シャル「でも」
シャル「完全でいることが不完全で、案外、不完全でいることが完全かもしれない」
シャル「不完全でいいんです」
シャル「間違っていてもいいんです」
シャル「間違ったら……。過ちを認めましょう」
シャル「罪を数えて――変身しましょう」
井坂「……変身、ですか?」
 ――シャルロットは力強く頷いた。
シャル「不完全なら……。不完全だからこそ、変わることができます」
シャル「人間は変身できるんです。間違っていた古い自分を壊して、新しい自分に……」
シャル「だから……」
 ――シャルロットは、『ハカイダー』の指を『ウェザー・ドーパント』である井坂に突きつけた。
シャル「僕の罪は、風都タワーを破壊しようとしたこと。そして、あなたを止めるために、これからあなたを殴ること」
シャル「僕は自分の罪を数えました。変身、するために!」
シャル「井坂先生――」
シャル「さあ、お前の罪を数えろ! ……です」
井坂「……」
 ――その時だった。
 ――風が。
 ――風が吹き抜けた。
 ――風は、シャルロットが背負うジローのギターを爪弾いた。
 ――そしてメモリが……『ジローの心』が叫ぶ!!
 ――『スイッチ・オン!』
シャル「え……?」
 ――メモリはスパークを放ち、再びガイド音声を響かせる。
 ――『REBOOT!』
ラウラ「これは……!」
井坂「……」
 ――シャルロットは『ハカイダー』ではなくなった。
 ――そしてシャルロットは、新たな姿に『変身』する!
 ――『ARK!』
 ――『DARK!』
 ――『キカイダー!』
175:
<風都タワー屋上>
 ――二色の戦士が立っていた。
 ――左半身は、烈火のように激しい赤。
 ――右半身は、穏やかな海のように優しい青。
 ――そして右目から伸びるラインは、涙の跡のよう……。
 ――『キカイダー』という、地球に刻まれた『英雄の記憶』が具現化していた。
井坂「……」
井坂「なるほど。君は罪を数えることで、本当に変身したようだ」
シャル「はい……。だから先生、あなたも!」
井坂「……ふむ」
 ――井坂は顎に手を当てた。
井坂「分からないのですよ」
シャル「え……?」
井坂「私には、自分の罪の数が分かりません。一つ一つ数え上げるには罪を犯し過ぎた」
井坂「変身はできません」
 ――井坂は雷雲を呼ぶ。シャルロットの周りで、落雷が弾けた。
井坂「かつて、私は“探偵”でした」
井坂「『自分が何者であるのか?』その疑問を解明するために医者になり、生命の研究に没頭していました。……疑問の答えを見い出せずに、自棄になっていました」
井坂「私は“迷探偵”だったのでしょう」
井坂「ですが……ある時、私は本当の自分の心の声を聞くことができました」
井坂「『究極の力で満たされたい』……それが、私が見つけた、私の意思です」
井坂「その意思を自覚した瞬間こそが、私の最後の変身だった……。のでしょう」
 ――井坂は腕を振るい、暴風を起こす。
176:
井坂「シャルロット君。私は君を殺して、そのメモリを奪います。メモリの力の実験のために、風都タワーを破壊します。……止めたければ、止めてみなさい!」
シャル「……ッ」
 ――シャルロットは、暴風の中、走り出した!
シャル「井坂先生……ッ!」
 ――『キカイダー』のボディは風に負けず、力強く、前進していた。
井坂「サイクロンのように風を取り込む力……? いや、違う……」
 ――風を走り抜けたシャルロットは、拳を振りかざしていた。
 ――拳が井坂に突き刺さる。その衝撃は、ドーパント化した井坂の硬い表皮を粉砕していた。
 ――砕けた皮膚から鮮血が飛び散り、井坂はたまらず悲鳴を上げる。
井坂「こ、このパワー……!? 規格外のパワーがそのメモリの力……!」
シャル「うわあああああああっ!!」
 ――シャルロットは殴った。
 ――井坂を殴り続けた。
 ――井坂は全身から血を噴き出し、鮮血に染まる。
井坂「……くっ」
 ――風を操り間合いを切った井坂は、既に満身創痍だった。
シャル「井坂……先生……っ」
井坂「……」
 ――井坂は、シャルロットをじっと見つめる。
井坂「もしやあなたは泣いているのですか? ……傷一つ負っていないでしょう。どこが痛むのですか?」
177:
シャル「……心が、痛いです。戦いは好きじゃありません」
井坂「ならば戦わなければいいでしょう」
 ――シャルロットは、悲しげに首を振った。
シャル「……井坂先生。あなたを放っておけば、あなたはこの街を泣かせるでしょう……?」
井坂「でしょうね」
シャル「……僕は、守るべき心を守ります。それが僕の意思です」
シャル「守れる力があるのに、それを使わなくて後悔するのは……嫌なんです!」
 ――シャルロットは、返り血に染まった拳を握りしめた。
井坂「……シャルロット君」
シャル「何でしょうか、井坂先生」
井坂「私が悪人だと理解しているのに、どうしてその悪人と戦いながら心が痛むのです? ……私はあなたを惑わせたのですよ。力を得るために利用したのですよ」
シャル「……僕は」
シャル「あなたが悪人だとしても、憎んではいませんよ」
シャル「僕の主張は最初に言った通りです。井坂先生……。どんなに時間がかかってもいいから、罪を数えて変身してください」
井坂「……」
井坂「…………なるほど」
 ――井坂は、屋上の隅に退避したラウラに視線を向けた。
井坂「あなたの隻眼は素晴らしい視力をお持ちのようだ」
ラウラ「フッ……。もっと褒めてもいいんだぞ!」
井坂「いやはや、恐れ入ります」
 ――井坂は雷雲を呼ぶ。
 ――雷雲は、急に勢力を拡大していく。
178:
井坂「シャルロット君! ……私は変身しません」
シャル「……」
井坂「『ARK/DARK』メモリは諦めましょう。……風都タワーごと、君を破壊します」
シャル「……ッ」
シャル「させません!」
 ――シャルロットが駆けだした!
井坂「止められるものなら止めてみなさい!!」
 ――雷雲から雷が放たれる!
 ――雷はシャルロットを撃ち、その動きを止めた!
シャル「しま……っ」
 ――足を止めたシャルロットに、無数の雷が降り注ぐ!
井坂「『ARK/DARK』メモリ……。そのパワーは脅威ですが、正面切っての戦いを避ければいいだけです。シャルロット君。ウェザーメモリの多彩な能力に打ち勝ちたければ、全てを振り切るさを得ることですよ」
 ――井坂は風都タワーの風車を見上げる。
井坂「もちろん。新しい力を得る暇なんて与える気はありません」
 ――井坂の手が風車に向けられた。
 ――その時、
「ニャア」
 ――と、猫が鳴いた。
179:
シャル「猫さん……!?」
 ――猫は雷雲の下に滑り込み、口に咥えていたガイアメモリをぶん投げた!
 ――シャルロットはガイアメモリをキャッチする。スイッチを押すと、
 ――『ナスカ!』ガイド音声が流れた。
井坂「そのメモリは……ッ」
シャル「ありがとう猫さん!」
シャル「霧彦さん。――あなたの風都への愛は、僕が守ります」
 ――ナスカメモリをマキシマムスロットに挿入する。
 ――『ナスカ! マキシマムドライブ!!』
 ――シャルロットの背中に、ナスカの羽根が生えた!
シャル「《超高》……!」
井坂「雷よ!」
 ――雷雲は雷を吐き出す。
 ――だが、《超高》によって風になった《風都の仮面ライダー》を捉えることはできなかった。
 ――雷を振り切り、《風都の仮面ライダー》は跳ぶ!
シャル「井坂先生……ッ!」
井坂「……ッ!」
 ――ライダーキックが、ウェザー・ドーパントに突き刺さった……!
180:
<黄昏時・風都タワー屋上>
 ――役目を終えたナスカメモリは砕け散り、風になった……。
ラウラ(さようなら、霧彦)
ラウラ(お前の愛は、確かにこの街を守った)
ラウラ(見事だ……)
ラウラ(後のことは……任せてくれ)
181:
<黄昏時・風都タワー屋上>
 ――排出されたウェザーメモリが砕け散る。
 ――メモリブレイクによって人間体に戻された井坂が、屋上に横たわっていた。
 ――死相を浮かべる井坂に、雲の切れ目から射した赤光がかかっている。
井坂「ふ、ふふ、ふふふふ……」
 ――井坂の身体は崩壊しようとしていた。
 ――全身にコネクタが現れ、その身を蝕んでいる。
井坂「シャルロット君、お願いがあります。君のメロディ……聞かせてくれませんか?」
ラウラ「お前、何を……!」
シャル「……分かりました」
ラウラ「シャルロット!?」
 ――シャルロットは変身を解き、ギターに指をかける。
 ――爪弾くは、あのメロディ。
 ――ジローが演奏した、悲しい曲。
井坂「ああ……」
井坂(シャルロット君……。君にはもう“彼女”の面影が重なりません)
井坂(もうDARKに飲まれることは無いでしょう……)
井坂「おめでとう……」
シャル「……」
井坂「素晴らしいメロディでした。……ごちそうさま」
シャル「……井坂先生、ありがとうございました」
182:
井坂「……フフッ」
井坂「おいしい音楽で満たしてくれた君に。先生と呼んでくれた君に。……一つ教えてあげましょう」
井坂「風都の英雄、仮面ライダーW……。人間で、探偵で、二人で一人の仮面ライダー……」
井坂「“あなた達”にはお似合いですよ……」
 ――井坂はシャルロットとラウラ、シャルロットとジローの心、と視線を移すと。
 ――ついには崩壊して、風になった。
シャル「……」
ラウラ「ただの悪人だと思っていたが、そうではなかったのか?」
シャル「……悪い人だよ。すっごく」
シャル「でも」
シャル「……」
 ――シャルロットは、ギターを爪弾く自分の手を見た。
 ――その手には、ウェザー・ドーパントになった井坂を殴りつけた感触が、まだ残っている。
シャル(ジロー……。僕はね、ようやく分かったよ)
シャル(どうして君のメロディはあんたに悲しかったのか)
シャル(……)
シャル(あれは、機械の君が流した涙だったんだね……)
183:
■終幕「次の物語へ」
<風都タワー・屋上>
 ――シャルロットの端末が、勝手に起動した。
凌馬『やあ』
シャル「あ、あなたは……!」
千冬『私もいる』
シャル「え、えっ!? な、何で……!?」
千冬『説明は後だ。今は、急いで沢芽市へ向かうんだ』
凌馬『そこに――園崎霧彦が仮面ライダーに伝えようとしていた、世界の危機がある』
ラウラ「……。“相棒”!」
シャル「うん。行こう! 守るべき心を守るために!」
ミック「ニャア!」
 ――ミックが、“携帯電話”を叩いていた。
 ――ややあって、風都タワーの足元に高移送装甲車『リボルギャリー』が走り込んで来る。
ラウラ「乗れ、と言っているようだな」
ミック「ニャア!!」
シャル「…………」
シャル「日本の猫はクレイジーだね……」
 ――二人と一匹は、リボルギャリーに乗り込んだ。
201:
■MOVIE大戦編! 仮面ライダーを取り戻せ!■
■序幕「奪われた“仮面ライダー”」
<映画館>
 ――『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』が上映されていた。
 平成ライダーと昭和ライダーが手を取り合い、地下帝国バダンに立ち向かうシーンが流れている。
 けれど。映像の中の仮面ライダーは『黒い人影』だった。
 誰も“それ”が『仮面ライダー』だとは分からない。
 ――スクリーンの足元に。
 ――平成十五ライダーロックシードと、昭和十五ライダーロックシードが落ちていた。
<メガリバースマシン>
 ――メガリバースマシンに、三つのロックシードが封印されていた。
 平成十五ライダーロックシード
 昭和十五ライダーロックシード
 ドライブロックシード
 ――三つのロックシードの前で、ハカイダーが高笑いを上げていた。
202:
■第一幕「仮面ライダーを取り戻せ!」
<トライドロン・車内/リボルギャリー・車内>
 ――戦極凌馬の状況説明が流れていた。
凌馬『――1800秒だ』
凌馬『怪人が蘇ってから1800秒後に、世界が反転する』
凌馬『生者と死者の世界が完全に入れ替わる』
凌馬『阻止したければ、1800秒以内にマシンを止めることだ』
凌馬『マシンを止めるには、二つの動力部を破壊すればいい。一つは最上層、一つは最下層にある』
凌馬『ん? どうして『僕』が君達に協力するのか、だって?』
凌馬『フフッ。それは“夢”を見ているからだよ』
凌馬『それよりも、覚悟した方がいいよ』
凌馬『君達の敵は――鏡の中にいる』
<トライドロン・車内>
一夏「……鏡?」
 ――きょろきょろと車内を見渡すと、鏡を覗きこんだ。
 ――仮面ライダードライブに変身した自分の姿が映っている。
一夏「……?」
戒斗「一夏。そろそろ着くぞ。怪人達の群れを突破することになる。やれるか?」
一夏「そんなこと聞かれるまでもないぜ、戒斗!」
戒斗「ほう。ずいぶんとやる気じゃないか」
一夏「だって、俺は泊さんから受け継いだんだ……」
一夏「何度立ち止まっても再び走り出す、熱い仮面ライダー魂を!」
<リボルギャリー・車内>
 ――シャルロットは、『ジローの心』を抱きしめていた。
シャル「ジロー……。僕、がんばるよ」
シャル(君に好きだって胸を張って言える自分になるために……!)
シャル「よし!」
 ――ARK!
 ――DARK!
シャル「変身!」
 ――キカイダー!
203:
<ユグドラシルタワー跡地>
 ――“現場”に到着した一夏とシャルロットは、見た。
 ――天を衝かんばかりにそそり立つメガリバースマシンが、スパークを放っている。
 ――マシンから『闇』が噴き上がった。
 ――『闇』はみるみる広がっていく。
 ――やがて『闇』が地上に降りると。
 ――地上は、怪人達で埋め尽くされていた。
一夏「……シャル」
シャル「うん、分かってる。1800秒以内に、あのマシンを破壊するんだ……!」
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――IS学園の生徒達は噴き上がった『闇』を呆然と眺めていた。
 ――やがて、『闇』が彼女達の前にも下りてくる。
 ――怪人に変貌した『闇』は、生徒達に襲いかかった……!
<沢芽市・市街>
 ――怪人達が街で暴れていた。
 ――人々は逃げ惑いながら助けを呼ぶ。
 ――だが。
 ――誰も『仮面ライダー』に助けを求めなかった。
 ――その名を、知らないから。
204:
<ユグドラシルタワー跡地>
 ――“新世代ライダー”達は、怪人達に叩きのめされていた。
 ――爆発の衝撃で変身が解けてしまう。
ハカイダー「やあ」
一夏「お前……倒したはずじゃあ……!」
ハカイダー「仮面ライダーと五十年も戦い続けた『私』だよ? しつこさには自信があるんだ」
 ――ハカイダーは一夏を踏みつけた。
ハカイダー「もうじき世界が反転する。生きている者が死に、死んでいる者が蘇る」
一夏「そんなことに何の意味が……ッ」
ハカイダー「やり直すんだよ!」
 ――ハカイダーは、一夏を蹴り飛ばした。
シャル「……ッ」
ハカイダー「おやおや。ずいぶんと反抗的な目だねぇ、“可愛いシャルロット”」
シャル「あ、あなたは……!」
シャル(……だめだ。今は冷静になるんだ)
シャル(大丈夫。僕はジローの心と一緒なんだ。やれる!)
シャル「……聞きたいことがあります」
ハカイダー「『私』が答えるとでも?」
シャル「答えますよ。あなたは研究者ですから」
205:
ハカイダー「……フッ。いいだろう、何でも聞きたまえ」
シャル「なら……」
 ――シャルロットは、地表を埋め尽くさんばかりの怪人達を見渡してから、
シャル「これだけ怪人が復活したのに、どうして仮面ライダーは復活しないんですか?」
 ――と、尋ねた。
ハカイダー「ふむ」
ハカイダー「君は目の付けどころが良い。実はそれ、語りたくてたまらなかったんだ。それこそが今回の“計画”の仕掛け。――『私』が一番がんばったところだ!」
シャル(よし、乗ってくれた……!)
ハカイダー「そもそも『私』の“計画”とは――」
「――『僕』が復活するためのものだったのさ」
ハカイダー「やあ。無事に蘇ったみたいだね、『私』」
 ――戦場に、夏スタイルの戦極凌馬が現れた。
 ――既に“幽霊”ではなく、足があり、実体がある。
凌馬「やあ。おかげさまで」
 ――凌馬は軽く手を上げた。
凌馬「“計画”の全貌を話そう。いいね、《戦極凌馬》よ?」
ハカイダー「もちろんだ、『私』よ」
 ――二人の“戦極凌馬”は、“計画”を語る。
206:
<ユグドラシルタワー跡地>
凌馬「そもそも、この世界に《戦極凌馬》は二人いた」
凌馬「一人は、呉島貴虎を神にすべく暗躍していたデータ人間の『僕』」
ハカイダー「一人は、データ人間のバックアップたる『私』」
凌馬「『僕』が“死んだ”ら、『私』が起動する」
ハカイダー「『私』はメガリバースマシンを起動することで、“死んだ”『私』を蘇らせる」
凌馬「――つまり」
凌馬・ハカイダー「全てをやり直すんだ」
ハカイダー「ただし」
ハカイダー「再び仮面ライダーとの戦いを始めるのは、不毛だ」
ハカイダー「だから、仮面ライダーの復活にはロックをかけた」
ハカイダー「そんなことをどうやって可能にしたかって?」
ハカイダー「……フフッ」
ハカイダー「ロックシードだよ」
ハカイダー「ロックシードが故人のメッセージを再生できるのは、魂を記憶するからだ」
ハカイダー「そのロックシードをマシンに封印することで、仮面ライダーの復活にロックをかけているのさ」
ハカイダー「ロックを破る方法? そんな方法は」
凌馬「――ある」
ハカイダー「……!? な、何もそこまで語ってやる必要は無いだろう、『私』!」
 ――戸惑うハカイダーを無視して。戦極凌馬は解説を続ける。
凌馬「簡単な話だよ」
凌馬「君達だって、その目で見てきただろう?」
凌馬「子供達が呼べばいい。そうすれば、仮面ライダーは必ず子供達を助けに来てくれる」
凌馬「子供達のためなら、仮面ライダーは奇跡を起こしてくれるんだ」
ハカイダー「『私』! 喋りすぎだ……!」
 ――ハカイダーの剣幕に、凌馬は肩を竦めた。
ハカイダー「……ま、まあいい! それが分かったところでどうしようもないだろう。だって、この世界の子供達は仮面ライダーを知らないんだ。『私』の『検閲』が、彼らから仮面ライダーを奪っている」
ハカイダー「知らないものに助けを呼ぶことなんて――」
「ほう。ならばこの、映画館の怪人の出番だな」
207:
<ユグドラシルタワー跡地>
 ――紳士のような怪人が、一夏とシャルロットを守るように立っていた。
 ――“映画館の怪人”、シネマである。
シネマ「実にタイミングが良い! 私の手元には、子供達に仮面ライダーを知らしめるための映画がある……!」
一夏「シネマ、どうしてここに……?」
シネマ「君の仲間達に、君の力になってくれと頼まれてね。……どうやら、とびっきりの助力ができそうだ」
ハカイダー「テトラ座の怪人! 何をするつもりかは知らないが“計画”の邪魔はさせない。行け、怪人達よ!」
 ――ハカイダーの号令がかかり、怪人達は一斉にシネマに襲いかかる!
シネマ「……フッ」
シネマ「映画には、こういうシーンがある」
シネマ「絶対絶命の危機!」
シネマ「そこに現れる――かつての、ライバル!」
 ――天から降り注いだ雷が、怪人達を撃った。
 ――雷の主は、白い怪人だった。その立ち姿は、白騎士と呼ぶにふさわしい誇り高さがある。
シャル「あ……」
シャル「井坂先生……!」
 ――怪人・井坂深紅郎はシャルロットに振り返ると、紳士的なお辞儀をした。
シャル「どうして……」
井坂「ガイアメモリですよ」
シャル「え……?」
208:
井坂「私の運命のガイアメモリは、ウェザーメモリ。『気象の記憶』を宿すもの」
 ――井坂は、シャルロットを眩しそうに見つめていた。
井坂「晴れもまた天気ですから」
 ――井坂は怪人達に向き直り、雷雲を操る。
井坂「しかし、天気は変わるもの。私も気まぐれですよ」
シネマ「ならば、雨が降る前に事を成すとしようか!」
 ――シネマのステッキが大地を叩く!
 ――映画の幕開けを予感させる、軽快な音が響き渡った!
シネマ「少年よ」
一夏「シネマ……?」
シネマ「君と映画が作れて、よかった!」
 ――シネマの身体が解ける。その身体は映画のフィルムになり、空に“溶けて”いった。
 ――“空になった”シネマは、世界中の子供達に“映画”の開演を知らせる。
シネマ「子供達よ! 楽しい映画の始まりだ!」
シネマ「タイトルは『仮面ライダーバロン/仮面ライダーW』! この映画を通じて、知ってくれ!」
シネマ「君達には、仮面ライダーがいる!」
シネマ「仮面ライダーは君達を助けてくれる!」
シネマ「だから……!」
シネマ「だから、呼んでくれ! 君達のための英雄の名を!」
 ――空の色が変わる。
 ――空は“映画のスクリーン”になっていた。
 ――スクリーンに、“仮面ライダー”の映画が流れる。
 ――この星は。
 ――この小さな星は、“映画館”になった。
209:
<メガリバースマシン>
 ――仮面ライダー!
 ――幼い声が、その英雄の名を叫んでいた。
 ――声は世界中で上がり、“その場所”に届く。
 ――震えていた。
 ――メガリバースマシンに封印された、三つのロックシードが震えていた。
 ――そして。
 ――“その時”が、来る。
 ――ロック・オープン!
 ――平成十五ライダー!!
 ――昭和十五ライダー!!
 ――ドライブ!!
<ユグドラシルタワー跡地>
 ――メガリバースマシンから『光』が飛び出した。
 ――いくつもの『光』が、子供達の声に導かれて世界中に広がっていく。
 ――そして、一夏とシャルロットの前にも『光』が降り注いだ。
 ――新世代ライダー達の前に、『ヒーロー』達が並ぶ……!
「ありがとう」
 『仮面ライダー』が、一夏に手を差し伸べていた。
「ずっと君の戦いを見ていたよ。俺達の魂を受け継いでくれて、ありがとう」
一夏「あ……っ」
 ――目元を拭ってから、一夏はその手を取った。
 ――大きくてあたたかい、偉大な戦士の手だった。
進ノ介「一緒に戦おう!」
一夏「……はい!」
 ――Start・Your・Engine!
一夏「変身!」
 ――ドラーイブ! ターイプ・ァルパーン!
210:
■第二幕「メガリバースマシンを破壊せよ!」
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――生徒達は追い詰められていた。
クラスメイト3「動ける者は前へ! 負傷者を守るんだ……!」
クラスメイト2「大丈夫。オリムラはきっとやってくれる! それまで耐えるんだ!」
 ――生徒達の奮戦を、怪人達は嗤った。
 ――怪人達はじゃんけんを始める。誰が生徒達を殺すかを決めるためのものだ。
クラスメイト1「……くそっ」
クラスメイト1「ピンチはチャンスなんだ。諦めてたまるか……!」
 ――その言葉は、怪人達の嘲笑を誘う。
 ――だが。
 ――天から舞い降りた『光』が、
「その通ーり!」
 ――と、その言葉を肯定した。
「ピンチはチャンス! これからどうなるんだろう!? って考えると、わくわくしてくるよな」
クラスメイト1「あ、あんたは……」
 ――『光』の中から現れた青年は、生徒の言葉を手でさえぎった。
「おっと、みなまで言うな。お前達を最高にわくわくさせてやるぜ!」
 ――ドライバーオン
「変ッッッ身!」
 ――セット! オープン!!
 ――L・I・O・N・!
 ――ライオーン!!
「さあ、ランチタイムだ!」
211:
<メガリバースマシン>
 ――リボルギャリーが、メガリバースマシンの外壁に突っ込んだ!
 ――マシンの壁をぶち破ったリボルギャリーの中から、“四人の戦士”が現れる。
ラウラ「ここは死守する! お前達は!」
シャル「うん! マシンを壊してくる!」
 ――“四人の戦士”は二手に別れてマシンの最上層と最下層を目指す。
ラウラ「さて、と……」
 ――ラウラはリボルギャリーを、外壁に開けた穴の前に立たせる。
 ――怪人達の“津波”が押し寄せていた。
ラウラ「やるぞ、猫殿!」
ミック「ニャア!」
<メガリバースマシンの攻防・南部戦線>
 ――ハカイダーは戦極凌馬と対峙していた。
ハカイダー「どういうつもりだ、『私』! 君は仮面ライダー達に助言を与え、仮面ライダーを復活させた。何を考えている!」
凌馬「……“夢”を見ている」
ハカイダー「夢、だと? ハハ! ハハハハハ! 『私』はその言葉が大嫌いだったはずじゃないか! 貴虎が“人類を救う”などという下らない“夢”を口にした日から、ずっと!」
ハカイダー「君は気が狂ったのか!」
凌馬「変わったんだ」
 ――ウォーターメロン
 ――凌馬は戦極ドライバーを装着すると、ロックシードを天高く放り投げる。
凌馬「『僕』は《戦極凌馬》じゃない」
 ――ロック・オン
凌馬「仮面ライダーデュークだ!」
 ――ソイヤ!
 ――ウォーターメロンアームズ!
 ――乱れ玉! ババババン!!
212:
<メガリバースマシンの攻防・外壁>
 ――雷が怪人を撃った。
ラウラ「あなたに助けられると妙な気分になるな……」
井坂「いつ天気が変わるかもしれませんからね。傘の準備をお忘れなく」
ラウラ「そうさせてもらおう……」
ミック「ニャア!」
<メガリバースマシン最下層に続く道>
 ――シャルロットは、熱を持った頬を押さえていた。
シャル(どどどどうしよ???!? ほっぺたが、ほっぺたが緩むよ???!? 仮面付けてなかったらやばかったよこれ……!)
 ――シャルロットは、隣を走る青年を見上げる。
 ――そこに、彼女の“憧れのヒーロー”がいた。
シャル「ジロー……。えへへ」
ジロー「シャルロット。どうかしたのかい?」
シャル「! ……な、なんでもないよ!!」
ジロー「そうか」
 ――シャルロットはジローから顔を背けた。
シャル(う、うぁあああああああっ!? な、何今のやりとり!? 少女漫画? ……は、恥ずかしいよ???!?)
213:
<メガリバースマシン最上層に続く道>
戒斗「ァルパーン!!」
ベルトさん「スピード!!」
 ――“二人のドライブ”が、怪人達を蹴散らした。
進ノ介「絶好調だね!」
一夏「はい! 泊さんと一緒ですから!」
戒斗「……浮かれすぎだ、このバカ」
一夏「い、いいだろ!? お前と、泊さんと。俺の憧れのヒーローと一緒に戦ってるんだからさ!」
戒斗「……」
 ――“二人のドライブ”の行く手を塞ぐべく、怪人が現れる!
戒斗「気を引き締めろ」
一夏「分かってる!」
進ノ介「……」
 ――進ノ介は、一夏の戦う姿をじっと見つめていた。
 ――まるで、新しい仮面ライダーが戦う姿をその目に焼き付けているかのように。
ベルトさん「辛い役目を引き受けてしまったね、進ノ介」
進ノ介「ああ。……でも、誇らしくもあるよ」
ベルトさん「そうだね。……未来への希望がある」
<メガリバースマシン最下層に続く道>
 ――二人のキカイダーは、順調に進んでいた。
ジロー「シャルロット」
シャル「! な、ななな、何かなジロー!」
ジロー「君に伝えておきたいことがある」
シャル「ふぇっ!?」
シャル(え、え、えええ!? な、何!? どうしたのさジロー……!!)
シャル(まま、まま、まさか――告白!?)
ジロー「いずれ……」
シャル(あ、あわわわわわわわ!? ちょっと待ってジロー! 心の準備が……!!)
ジロー「いずれ君は何かを守るために何かを捨てなければならない時が来るだろう。でも、それはとても人間的なことなんだよ」
シャル「……」
シャル「……えっ」
シャル「そ、それは何……?」
ジロー「君にどうしても伝えておきたかったことだ。……僕の心を作ってくれた、前野究治郎の言葉だ」
シャル「……」
ジロー「どうした、シャルロット?」
シャル「あ、あはは……。やっぱり君って変な人だね、ジロー」
ジロー「? 僕は機械だ」
シャル「……ううん。僕にとっては君は人間だよ、ジロー」
ジロー「そうか」
ジロー「……そうか」
214:
<メガリバースマシン最上層>
 ――二人のドライブは、ついに動力部に到達した。
一夏「あれが動力だな! あいつをぶっ壊せば……!」
 ――ドライブドライバーのキーを回す。
「待ちたまえ」
一夏「お前は……!?」
<メガリバースマシン最下層>
シャル「戦極……凌馬……?」
 ――動力装置を守るように、ハカイダーが立っていた。
ハカイダー「『私』はアンドロイドだ。数はいくらでも用意できる」
シャル「……邪魔をするなら、倒す!」
ハカイダー「させるか!」
 ――ハカイダーは、ハカイダーショットの引き金を引く。
 ――だが、ジローが盾となって、ばら捲かれた銃弾を防いだ!
ジロー「シャルロット!」
シャル「うん!」
 ――キカイダー! マキシマムドライブ!!
 ――シャルロットは、ハカイダーを打ち倒した。
ハカイダー「……」
 ――胴体を失ったハカイダーの頭部パーツが、ごろん、と床に転がる。
ハカイダー「……驚いた。こんなにあっさり倒されるなんて思わなかったよ。良ければ聞かせてもらえないかい? 君はどうしてそんなに強いんだい?」
シャル「……ふふっ」
 ――シャルロットは、誇らしげに胸を張る。
シャル「だって、ジローと一緒なんだ!」
215:
■幕間「二人のヒーロー」
<沢芽市・市街>
 ――メロン・スパーキング!
「ずいぶん倒したと思っていたが……。まだまだ先は長そうだな」
 ――ブドウ・スパーキング!
「倒してもまた復活しているみたいだ。元を叩かなきゃ……。ここは僕達に任せて、兄さんはマシンを!」
「しかし……」
「子供扱いしないでよ。もう、子供も孫もいるんだよ?」
「フッ……。そうだったな。ここは任せる」
<とある星>
「聞こえる……」
「どうしたの?」
「子供達の声が聞こえるんだ! 俺、ちょっと行ってくる!」
「あ、ちょ!? ……晩御飯までには帰ってきてねー!」
216:
■第三幕「瞳の中の英雄」
<沢芽市・花畑の海岸>
ビースト「こりゃ、そうとうやべぇな……」
 ――怪人達の圧倒的な物量が仮面ライダービーストを押しつぶそうとしていた。
ビースト「いいや、ピンチはチャンス! まだだ! 諦めてたまるかってんだ!」
 ――仮面ライダービーストは勇ましく武器を振り上げる。
 ――だが、その勇ましい声に隠せぬ疲労の色が滲んでいた。
<メガリバースマシンの攻防・外壁>
 ――怪人にぶん殴られたリボルギャリーが、ひっくり返った。
ラウラ「うわ……っ!?」
ミック「ニャーーー!?」
井坂「くっ……」
 ――井坂がリカバリーに入ろうとするが、怪人達の大群がそれを阻む。
<メガリバースマシンの攻防・南部戦線>
 ――ハカイダーショットが、仮面ライダーデュークを吹き飛ばした。
 ――地べたに転がったデュークが、ハカイダーに踏みつけられる。
ハカイダー「試作品のロックシードではここまでだろうね」
凌馬「くっ……」
ハカイダー「自分殺しなんてやめてデータ人間に戻りたまえよ、『私』。間に合わなくなるよ?」
 ――ハカイダーはメガリバースマシンに視線を送った。
 ――メガリバースマシンが、後から後から『闇』を噴き出し、倒された怪人達を復活させていた。
ハカイダー「仮面ライダーの勝利はありえない。1800秒の間、怪人は何度倒されても復活し続ける。……そういうシステムを作ったのは『私』じゃないか」
ハカイダー「この1800秒で、怪人達が地上の人間を根絶やしにする」
ハカイダー「1800秒が経てば、世界は反転する」
ハカイダー「地上を埋め尽くしていた怪人達は死者の国に落ち、死者の国にいた人類は地上に戻る」
ハカイダー「怪人のいない世界が完成する」
ハカイダー「唯一の例外は、データ人間に戻って“電子の世界”に退避する『私』だけだ」
ハカイダー「“強くてニューゲーム”。『私』の案だろう?」
217:
<メガリバースマシン最上層>
ハカイダー「くくく……」
一夏「何がおかしい……!」
ハカイダー「なるほど。君は憧れのヒーローと共に戦っているから強かったんだねぇ」
<メガリバースマシン最下層>
シャル「そうだよ! 隣にジローがいてくれると、何だってできるって思えるんだ……!」
ハカイダー「ならば――君に、メガリバースマシンは破壊できない」
シャル「え……?」
ハカイダー「メガリバースマシンを破壊する。その意味が分からないのかい?」
ハカイダー「君の憧れのヒーローの命を繋いでいるのは、メガリバースマシンだ。マシンが破壊されれば、当然ながら、命を失う」
ハカイダー「マシンを破壊することは、憧れのヒーローを君自身の手で殺すことだ」
ハカイダー「できるのかい? 君のヒーローを、君の手で殺すことが……」
シャル「僕が……」
 ――シャルロットは、隣に立つ青年を見上げた。
 ――ジロー。シャルロットの、憧れのヒーロー。
シャル「僕が、ジローを殺す……?」
ジロー「…………」
218:
<メガリバースマシンの攻防・外壁>
 ――破壊されたリボルギャリーの中から、ラウラとミックが引きずり出された。
ラウラ「やめっ……。この……!」
 ――短い手足を振り乱して必至に抵抗するが、怪人の力に敵うものではなかった。
 ――虚しい打撃の音だけが鳴り響く。
井坂「雷よ……!」
 ――井坂が雷雲を操る。
 ――だが。
 ――怪人の剣が、井坂の腕をぶった斬った。
 ――ウェザー・ドーパントの白い腕が宙を舞う。雷雲は霧散してしまう。
ミック「ニ゛ャアァッ!」
 ――勇ましく吠えたミックが、蹴り飛ばされた。
219:
<メガリバースマシンの攻防・南部戦線>
ハカイダー「もう一度言う。自分殺しなんてやめるんだ」
凌馬「……フッ」
 ――仮面ライダーデュークは、自身を踏みつけるハカイダーを見つめていた。
凌馬「五十年……」
ハカイダー「ん?」
凌馬「この五十年。『僕』は仮面ライダーと戦い続けてきた……」
ハカイダー「そうだね。たぶん、『私』達は誰よりも仮面ライダーに詳しいだろう」
凌馬「ならば君は答えられるかい? ――どうして、仮面ライダーはヒーローなのか、って問題にね」
ハカイダー「簡単な問題だ」
ハカイダー「仮面ライダーが、タブーに立ち向かえる戦士だからだ」
凌馬「分かっているじゃないか」
凌馬「じゃあ……。こう答えれば、全てに納得してくれるだろう」
ハカイダー「ん?」
凌馬「『僕』は、仮面ライダーデュークだ……!」
 ――その宣言が、ハカイダーショットの引き金に指をかけさせる。
ハカイダー「君はエラーを吐いているようだ。オリジナルの『私』を失うのは痛手だが、仕方が無い。別の『私』をデータ人間にすることにしよう」
ハカイダー「君は――破壊する!」
 ――銃声が鳴り響いた。
貴虎「凌馬!」
 ――無双セイバーの銃弾がハカイダーを撃つ!
 ――メロン・スパーキング!
 ――エネルギーをまといながら飛来したメロン・ディフェンダーが、ハカイダーを弾き飛ばした!
貴虎「大丈夫か、凌馬!」
凌馬「やあ。久しぶりだねぇ、友よ」
貴虎「お互いに生きて会うのはな」
 ――仮面ライダー斬月が、仮面ライダーデュークを助け起こす。
貴虎「行くぞ、凌馬」
凌馬「ああ。“僕達の夢”を叶えよう!」
貴虎「俺達が人類を救うんだ!」
220:
<メガリバースマシン最上層>
一夏「俺は……」
 ――織斑一夏は、仮面ライダードライブを見上げていた。
<メガリバースマシン最下層>
シャル「僕は……」
 ――シャルロット・デュノアは、ジローを見上げていた。
シャル「できないよ……。ジロー、君を殺すなんて……」
シャル「だって……。だってジロー、僕は君が……」
 ――ジローは、シャルロットの頭にそっと手を置いた。
ジロー「大丈夫だよシャルロット。僕は死なない」
シャル「……」
ジロー「鏡を見てくれ。そこに証拠がある」
221:
<メガリバースマシン最上層>
一夏「鏡なんてどこに……」
 ――戸惑う一夏に、仮面ライダードライブは自分の目を指した。
進ノ介「鏡ならここにあるよ」
一夏「え……」
 ――織斑一夏は、仮面ライダードライブの瞳を覗きこむ。
 ――そこには“憧れのヒーロー”の姿が映っていた。
進ノ介「一夏君。……君がいるから、俺は死なないんだ」
進ノ介「だって……。君が受け継いでくれたんじゃないか。何度止まっても再び走り出す、熱い仮面ライダー魂を!」
<メガリバースマシン最下層>
ジロー「シャルロット。そのメモリの中から、ずっと君を見ていた」
ジロー「僕は確信した」
ジロー「あの日の約束の通りだった」
シャル「約束……?」
 ――シャルロットは、ロストドライバーにセットした『ジローの心』に触れる。
 ――ふいに、別れの記憶が蘇った。
 ――『これは、僕の心だ。君がこれを持っていてくれる限り、僕は死なない』
シャル「ジロー……」
ジロー「シャルロット。僕は死なない。……ずっと、君と生き続けるよ」
<メガリバースマシン最上層>
進ノ介「仮面ライダーは死なない」
進ノ介「その魂を受け継いでくれる人がいる限り、仮面ライダーは誰にも殺せない」
進ノ介「一夏君。君がいるから、仮面ライダーは生き続けるんだ……!」
一夏「……」
一夏「俺がいる限り、仮面ライダーは生き続ける……」
223:
■第四幕「The people with no name」
<メガリバースマシンの攻防>
 ――宇宙から降ってきた光が、『闇』を切り裂いた。
 ――その光は、夜明けを告げる暁の曙光のように眩しかった。
「待たせたな!」
 ――光の中から、青年が現れた。
 ――ロック・オープン!
 ――極アームズ!
 ――大! 大・大・大・大将軍!
紘汰「ここからは……」
 ――仮面ライダー鎧武は、空に無数のクラックを生む!
 ――クラックから大量のインベスが召喚された。
 ――仮面ライダー鎧武はアームズウェポンを召喚すると、インベス達に装備させる。
紘汰「俺達のステージだ!!」
 ――仮面ライダー鎧武は、マントをはためかせる。
紘汰「あと。こいつはこっちに来る途中で見つけた!」
 ――仮面ライダー鎧武の後ろから、仮面ライダーブレイドが現れた!
224:
<沢芽市・花畑の海岸>
 ――インベス軍団が怪人達に襲いかかった!
ビースト「お、お、おお……? なんだかよく分かんねぇけど、チャンスだ!」
 ――攻勢に転じようとしたビーストの足元に、一体の上級インベスが跪いた。
 ――上級インベスは『指示を下さい』というプラカードを手にしていた。
ビースト「え? 俺に?」
 ――上級インベスは頷いた。
ビースト「えーっと……」
ビースト「か、かかれー!」
 ――上級インベスは『御意』と書かれたプラカードを掲げると、怪人達に突撃していった……!
ビースト「……」
ビースト「準備いいなぁ、あいつ」
<メガリバースマシンの攻防・外壁>
 ――風が吹き抜けた。
 ――風は怪人達を蹴散らし、ラウラを、ミックを、井坂を救い出す。
霧彦「すまない、遅くなった」
 ――“風”は、仮面ライダーサイクロンだった……!
ラウラ「霧彦……!」
井坂「……」
霧彦「ずいぶんと不満そうな顔をしているね」
井坂「あなたに助けられるくらいなら消滅した方がマシですから」
霧彦「な、何だと……!?」
井坂「あなたとは因縁があるのですよ。……冴子君のことで」
霧彦「冴子君!? さ、冴子君だと! お、お前、人の妻を気安く呼び過ぎじゃないか!!」
井坂「くっくっく。……それだけ気安い関係だった、とだけ言っておきましょうか」
霧彦「なんだと!? ――地獄に戻ったら洗いざらい吐かせてやるからな! 霧彦の部屋で!」
 ――宣言して、仮面ライダーサイクロンは怪人達の群れに突撃する!
 ――サイクロン! マキシマムドライブ!!
225:
<メガリバースマシンの攻防・南部戦線>
凌馬「どうして『僕』が自壊の道を選んだのか。それを君に十全に伝える手段が無いことこそが、最大の不幸だろう……!」
 ――仮面ライダーデュークと仮面ライダー斬月は、ハカイダーを追いつめていた。
ハカイダー「そんなことは知らなくていい。『私』は破壊する。君も、今の世界も……!」
凌馬「させない」
ハカイダー「タブーを犯してもか!」
凌馬「そうだ!」
貴虎「凌馬!」
 ――ハカイダーショットの銃撃を、仮面ライダー斬月のメロン・ディフェンダーが防ぐ。
凌馬「ありがとう、友よ」
 ――仮面ライダーデュークは、戦極ドライバーのカッティングブレードに手をかける。
凌馬「どうして仮面ライダーはヒーローなのか?」
凌馬「それは、彼らがタブーに立ち向かう戦士だからだ」
凌馬「……フッ」
凌馬「みんなのために同族《じぶん》を殺す。その悲劇に立ち向かえるから、仮面ライダーはヒーローなんだ!」
貴虎「凌馬!」
凌馬「ああ!」
 ――ウォーターメロン・スカッシュ!
 ――メロン・スカッシュ!
226:
<メガリバースマシン最下層>
 ――シャルロットは、ジローを見上げていた。
シャル「いずれ君は何かを守るために何かを捨てなければならない時が来るだろう。でも、それはとても人間的なことなんだよ。……だったね、ジロー」
ジロー「ああ」
シャル「それは、この選択のことだったの……?」
ジロー「ああ」
シャル「そっか……」
シャル「ねえ、ジロー。……僕ね、あのマシンを壊すの、嫌だよ」
ジロー「……」
<メガリバースマシン最上層>
進ノ介「一夏君、これを」
一夏「……!」
ベルトさん「きっと、君の役に立つはずだ。新しいドライブよ」
一夏「ありがとうございます!」
戒斗「一夏」
一夏「分かってる! ……変身!」
 ――シフトスピードを使って、フォームチェンジする。
戒斗「ドラーイブ! ターイプ・スピード!」
戒斗「……おい。これは毎回言わなければならないのか」
ベルトさん「そうだ。君もドライブの相棒になったのだから、パートナーを盛り上げてくれたまえよ!」
戒斗「……ふん」
ベルトさん「鋼の身体にホットなユーモアを! が、合言葉だ!!」
戒斗「やかましい!!」
227:
<メガリバースマシン最下層>
シャル「僕は君とずっと一緒にいたい」
ジロー「……シャルロット。僕は」
シャル「大丈夫。分かってるよ」
 ――シャルロットは仮面の下に悲しみを隠していた。
シャル「お願いがあるんだ」
ジロー「……言ってくれ。僕にできることなら、何でも叶える」
シャル「だったら、がんばって」
ジロー「……?」
シャル「僕はメガリバースマシンを破壊する。そしたら、胸を張って君に言えることがあるんだ。……その言葉を君に聞いて欲しいから。僕がその言葉を口にできるまで、消えないで」
ジロー「分かった。約束する。君の言葉を聞くまで、僕は消えない」
シャル「うん。……ありがとう、ジロー」
 ――シャルロットは、マキシマムスロットにメモリを挿入する。
 ――キカイダー! マキシマムドライブ!
<メガリバースマシン最上層>
一夏「戒斗……!」
戒斗「思いっ切りやれ。サポートはしてやる!」
一夏「ああ……!」
 ――ヒッサーツ・フルスロットル!
 ――スピード!!
228: ◆n.O102o4Y

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