魔王「ああ勇者、なぜあなたは勇者なの!?」back

魔王「ああ勇者、なぜあなたは勇者なの!?」


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3:
魔王「勇者ぁ、大丈夫!?」
勇者「……常識的に考えて、あの数をたった一人で、しかも素手で相手するとか、無理だろ」
魔王「あなたは充分に頑張ったわ! だから今は何も喋らないで! 命に障るわ!」
勇者「いや、別に死なねえよ……」
魔王「うっぅ……」
??B「……いい加減、我々の言うことを聞いてくれませんか?」
魔王「いや、いやぁ……」
??B「さあ!」
??他「ぐぎゃぁぁぁぁ!」
??B「な、何事だッ!?」
近衛「……なんとか間に合ったようだ」
97:
??B「お前は……近衛兵!」
近衛「……消えろ」
??B「ぐぎゃぁぁぁ!」
魔王「近衛、兵……?」
近衛「……お待たせして申し訳ありません。ここに来るまで、少し手こずりまして」
勇者「……ようやく登場かよ」
近衛「……魔王様を守れと言ったはずだが?」
近衛「はぁ……お前がやられてどうする」
勇者「う、うるせーよ! 俺だって剣があればだな!」
近衛「……ほら」
勇者「こ、これは……」
近衛「俺の予備の剣だ。使え」
勇者「あ、ありがと……」
99:
勇者「……それで、これは一体何の騒ぎなんだ?」
近衛「――クーデターだ」
勇者「……はぁ!?」
近衛「首謀者は、――魔王様の叔父上様だ」
魔王「え、叔父様!?」
近衛「今、直属の国軍部隊を使ってこの城を制圧に掛かっている」
勇者「ちょ、ちょっと待てって! 急にぽんぽん言うなよ! 訳わかんねぇ、いきなり過ぎだろ!」
近衛「こんな所でゆっくり説明している暇など無い。理解できなくても、すぐにでもここから逃げろ」
勇者「逃げろったって、どこに逃げればいいんだよ!?」
近衛「知らん! 自分で考えろ!」
勇者「そんな……」
国軍「――おーい、こっちだぁ!」
近衛「マズイ、増援が来た!」
100:
勇者「ちくしょぉ……逃げるっつっても、どこに逃げろってんだよ」
近衛「逃げながら考えろ!」
勇者「無茶言うな!」
魔王「……あの書斎はどうかしら?」
勇者「え?」
魔王「お父様の隠し部屋よ。あそこなら中に入っちゃえば、外からは開けられないし」
勇者「いや、確かに外からの侵入は防げても、一旦そこに入っちまったらどこにも逃げられねえじゃないか!」
魔王「でも、他にどこも無いじゃない」
近衛「早くッ!」
勇者「……ああもう! 分かったよ、一旦はそこに逃げ込もう! 後のことはそれからだ!」
102:
勇者「どりゃぁ!」
近衛「はぁ!」
国軍「「ぎゃぁぁぁ!」」
魔王「二人ともすごいわ! 私を守るナイトが二人もいるなんて、なんて頼もしいのかしら!」
勇者「……若干一名、緊張感のない奴がいるな」
近衛「……気にするな」
勇者「……それにしても、次々に湧いてくるな。どれだけいるんだよ、その叔父様直属の部隊とやらは」
近衛「知らん。たくさんだ」
勇者「……ったく、なんなんだよ」
勇者「……おっと、この部屋だったな」
近衛「この部屋の中に隠し部屋への扉が?」
魔王「ええそうよ。とにかく中に入りましょ」
103:
勇者「……とりあえず、この部屋の扉にも鍵は掛けておくか」
魔王「……えっとぉ、なんだったかしらね。隠し部屋に入るための仕掛け」
勇者「忘れたのかよ!?」
魔王「し、仕方ないじゃない。なんだか複雑だったし!」
魔王「そういう勇者は、ちゃんと覚えているの?」
勇者「え……」
魔王「ほら、勇者だってあんまり覚えてないじゃない!」
近衛「……」
104:
魔王「えーと、確かぁ……」
国軍「ここだぁ、魔王様はここに逃げ込んだぞ!」
勇者「ちょ、もうバレたのかよ!」
勇者「魔王、早くしろ!」
魔王「えっと、うんと、……確か、まずはこの彫像を左に540度回転させ――」
勇者「一回転半も回してねえよ! 確かそこは左に90度だ!」
魔王「え……ホントぉ? 勇者の勘違いじゃない?」
勇者「勘違いじゃねえから早くしろ!」
魔王「う、うん……」
105:
魔王「つ、次はぁ……」
ガスン、ガスン!
勇者「おい、扉が突破されちまうぞ!」
魔王「え、え、えぇ! あぁ、えっとぉ! こ、この花瓶を叩き割――」
勇者「割るなぁぁぁぁぁ!」
魔王「う、う、うぅ……。この花瓶をくぼみに……」
魔王「そして、本棚から……ど、どの本だったかしら」
勇者「4段目右から3番目の奴!」
魔王「あ、この本ね。これを引き抜いて。それからソファを印までずらす」
勇者「んで、この壁にシミに手を合わせるようにして、そのまま押す――」
突然壁が静かに横にスライドし、その先に下り階段が現れた!
勇者「よしっ!」
しかし、部屋の扉も突破されてしまった!
106:
叔父「…………」
魔王「お、叔父様……」
叔父「……ふん。何処に逃げようというのだ、魔王」
叔父「さあ、あまり私に手間をかけさせるな」
魔王「い、いや!」
勇者「……おい、おっさん。可愛い姪っ子を苛めてんじゃねえぞ」
叔父「……誰だ、お前は?」
勇者「あんたの姪っ子の運命の相手、らしいぜ」
魔王「えっ……勇者ッ!」
叔父「……ああ、例のヒモ勇者か。お前の話も一応は耳にしている」
勇者「……」
叔父「お前になど用は無い。消え失せろ」
魔王「どうしてそこで黙っちゃうの! 何か言い返してよ、勇者!」
107:
魔王「叔父様ッ! どうしてこんなことをするの?」
叔父「どうして? どうして、だと?」
叔父「はっ、決まっているじゃないか。お前が魔王にふさわしくないからだ!」
叔父「お前に魔物を統べる資格など無いッ!」
魔王「そんな! そんなのあんまりよ!」
叔父「ふん……何があんまりなものか」
叔父「この出来そこないめ!」
魔王「ッ!?」
108:
勇者「ちょ、ちょっと待てよ!」
勇者「そりゃ、こいつは仕事全然しないし、決して頭が回る方でもないけど」
勇者「だからといって、出来そこないはあんまりだろ!」
叔父「……自分のことを棚に上げて、大口なんぞ叩きおって」
叔父「お前が言った所で、何の説得力もないぞ」
叔父「……それに、お前はひとつ勘違いをしておる」
勇者「あん?」
叔父「私が言っているのはそんなことじゃないのだよ」
勇者「ハァ? おっさん、一体何を言いたいんだよ」
109:
叔父「私が言っているのは、こいつが『魔王』という存在として、出来そこないだと言っているのだ」
勇者「だから、言っている意味が分かんねえよ!」
叔父「……ふふ。ならもう少し分かりやすく言ってやろうか?」
叔父「……こいつはな、『魔王』どころか、『魔物』としてさえ、……出来そこないなのだよ」
魔王「え……」
勇者「……おっさん、お前、何を言って――」
叔父「察しの悪いお前達でも、すでにおおよその想像はついているだろう」
叔父「魔王、お前はな……」
叔父「――半魔だ」
110:
叔父「傑作じゃないか、魔物を従えていた長が、その出来そこないの半魔だとは!」
魔王「う、嘘よッ!!」
魔王「だってそんなこと、……今まで一度だって――」
叔父「それはそうだろう。お前の父、先代魔王が必死になって隠したからな」
魔王「そ、そんなの信じないッ!」
叔父「おかしいとは思わなかったのか? お前が父親に一度も外出を許さなかったことを」
叔父「それはな、外に出てしまえば、――お前が半魔だということがばれてしまうからだったんだよ」
魔王「信じない信じない信じないッ!!」
叔父「この城の中でずっと過ごし、豊富に魔力を含んだ食べ物を食べさせていれば」
叔父「――魔物の体を保てるだけの魔力を、体の中に保つことができるからな」
魔王「うああああああああっ!!」
112:
叔父「……よかったなぁ、近衛兵。お前の仲間が、こんなにも近くにいたんだぞ。喜べよ」
近衛「あ、あぁ……」
叔父「ふん……つまらん奴だ。もっとリアクションをとれよ」
叔父「……まあいい。もう分かったかと思うが」
叔父「こいつには、元々魔王になる資格なんか無かったんだ」
叔父「……それなのに、親馬鹿なお前の父は、皆を裏切って、半魔であるお前を魔王に据えた」
叔父「それがそもそもの間違いだったんだよ」
叔父「だから、今正しい姿に直そうというのだ」
叔父「……とても簡単なことだ。馬鹿なお前にも分かるだろう、なあ魔王?」
114:
近衛「……どうやって、ここを制圧した?」
叔父「んん?」
近衛「いくらなんでも、こんなにすんなりとこの城が制圧されたのは不自然だ」
叔父「……ああ、もうそれを聞くのか。気が早いな。もう少し焦らそうと思ったのだが」
近衛「?」
叔父「それにはいくつか理由があるのだよ」
叔父「ひとつは、あらかじめ下準備をしておいたこと」
叔父「下準備といっても、ただ単にこの城の兵士をこちら側に引き込んだだけだがな」
叔父「引き抜けそうな奴に絞って、今回のクーデターへの協力を持ちかけたのだ」
叔父「魔王の秘密を喋ったら、皆喜んで協力してくれたぞ」
叔父「そしてもう一つなんだが……」
叔父「――そろそろ、出てきてもらえるかな」
側近「……私だったり、するんですよね」
116:
魔王「えっ……」
近衛「あ、あぁぁ……」
側近「……」
叔父「……紹介するまでもないだろうが、彼女は魔王の忠臣たる部下、側近だ」
叔父「いや、『元』忠臣と言った方が良いかな?」
魔王「――ッ!? 側近ッ!? どうしてあなたがそこにいるのよ!?」
側近「……」
叔父「どうしてもなにも、彼女は最初から、こちら側の人間だ」
叔父「彼女を推したのは一体誰だったか、お忘れかな?」
魔王「あ……」
117:
叔父「側近は他の者と違って、このクーデターが画策されるずっと前から、彼女は私の味方だったのだよ」
叔父「なにせ、私の代わりにこの城内で自由に動ける手足となることを条件に、私が後見人となったのだからな」
叔父「政治になどまるで興味の無いボンクラの姪の代わりに、ほとんどの政務を側近が担当していたから」
叔父「色々と楽させてもらったよ!」
叔父「……ふぅ。つい調子に乗って喋り過ぎてしまったかな」
魔王「あ、あ……」
叔父「ふふふ。貴様にはその呆け面がよく似合うな」
叔父「貴様の命運もこれで終いだ。おい、魔王を捕えろ」
国軍「はっ!」
119:
近衛「……ッ。おい、勇者!」
勇者「え、あっ」
近衛「しっかりしろ!」
近衛「俺がこいつらを食い止めるから、お前は魔王様を連れて隠し部屋とやらに逃げ込め!」
勇者「食いとめるって……」
近衛「いいから! 魔王様はショックで自失している! お前が何とかしてやってくれ!」
勇者「あ、……ああ!」
勇者「ほら、来い! 魔王!」
魔王「……どうして、どうして」
国軍「待て!」
近衛「させるかぁッ!」
120:
勇者「……よし、入れた!」
勇者は閉ボタンを押した! 扉がゆっくりと閉じていく!
勇者「近衛兵ッ! おまえも来い!
近衛「……僕はいい」
勇者「え?」
近衛「……姉さんと、話がある」
勇者「……そうか」
近衛「……魔王様を、頼んだぞ」
勇者「ああ、頼まれた」
扉は完全に閉まった!
121:
勇者「……鍵も閉めてっと」
勇者「これで、外からは誰も入ってこれない」
勇者「逆に俺たちももう外に出れないけどな……」
魔王「……」
勇者「……」
勇者「……書斎まで、行こうか」
魔王「……」
勇者「……」
122:
勇者「……とりあえず、ベッドに腰を下ろして休めよ。くたくただろ?」
魔王「……」
勇者「……あのさ――」
魔王「私……」
勇者「ん?」
魔王「私、……半魔だったんだね」
勇者「……」
魔王「あのアルバムに挟まってた写真の、あの綺麗な女の人。あの人がひょっとして、お母様なのかな」
勇者「……かもな」
魔王「……私、お母様似で良かったわ。もし、私がお父様似だったら、きっと目も当てられなかったわ」
勇者「……そうか」
123:
魔王「……私ね、別に半魔のことを、今までどうこう思ったことなんて、一度もないのよ」
魔王「むしろ、人間と魔物との、その種族を超えた愛に、素直に憧れを抱いていたわ」
魔王「だから、別に近衛兵のことを他の魔物に比べて、特に劣るとか悪いとか、そういう風には考えたこと無いの」
魔王「……なのに、どうして、かな?」
魔王「……怖いの。周りのみんなに嫌われるのが」
魔王「叔父様、言ってたわ。私が半魔だって知って、皆が私を嫌いになって叔父様の味方になっちゃったって……」
魔王「それを聞いてね……胸がね、ぎゅーっと締め付けられて、このままつぶれちゃいそうなほど、苦しくなったの」
魔王「……私、もうここにはいられないのよね」
魔王「私、別に魔王の座が惜しいわけじゃないのよ」
魔王「ただ、……魔王の座と一緒に、他のものまで失うのが怖いの」
魔王「私の大好きなみんなが、私から離れていくのが――」
勇者「……俺も近衛兵も、お前が半魔だからって離れていったりはしないよ」
魔王「……でも側近は、私のそばにはいてくれないわ」
126:
魔王「……側近、今までずっと、私を騙していたのかな?」
勇者「……」
魔王「私がドジ踏んだり、馬鹿やった時も、陰で叔父様と『愚図だなぁ』と嘲笑っていたのかな?」
勇者「……俺には、側近がそんな奴だとは、思えない。短い間だが一緒にいて、そういう風には見えなかった」
魔王「……でも、今までのは、全て演技かもしれない」
勇者「……」
魔王「私だって、側近のことを疑いたくないわ」
魔王「私は側近とずーっと一緒だったのよ」
魔王「多分勇者が生まれるよりも、ずっとずーっと前から……」
魔王「誰よりも側近のことを知っていると思っていたし、側近のことで知らないことなんてないと思ってた」
魔王「……とんだ道化ね、私」
勇者「……」
勇者「……なら訊きに行こう」
魔王「……え?」
127:
勇者「確かめに行こう」
魔王「……確かめるって、何を?」
勇者「側近の本心をだよ」
魔王「そんな……こと、したって、無駄よ」
勇者「無駄、かどうかは訊いてみないと分からないぞ」
勇者「俺たちはまだ、側近の口から直接本心を聞いていない」
勇者「あのおっさんが勝手にしゃべってただけだ」
勇者「今から、ここを出て、側近を問い詰めるぞ」
魔王「……でももし、訊いても答えが変わらなかったら――」
勇者「その時は、ぶん殴ってでも目を覚まさせてやればいい」
魔王「ぶん、殴る……?」
勇者「おう、ムカつくから一発殴っとけ」
勇者「んで、あのおっさんから側近を奪い返そうぜ」
魔王「…………」
128:
近衛「……」
側近「……」
近衛「……姉さん」
側近「……ごめんね。騙すようなことをしちゃって。……見損なったでしょ?」
近衛「どうして!?」
側近「……それはどれのこと?」
近衛「え?」
側近「私が叔父様に味方していたこと? それともそれをあなたに隠していたこと?」
近衛「……どっちもだよ」
側近「叔父様に味方していた件に関しては、仕方なかったのよ」
側近「だってそうしなかったら、私たち、いまだにあの地獄のようなスラムで暮らしていたかもしれないのよ?」
側近「スラム育ちの何の教養の無い魔物と……半魔が、生き延びるためには、必要だったのよ」
近衛「……姉さん」
129:
叔父「そうだぞ、近衛。側近に感謝こそすれ、恨むなどお門違いだ」
叔父「お前の姉が一生懸命私に尽くしたからこそ、お前は近衛兵隊に入れたんだぞ」
叔父「そして弟をこんな汚いことに巻き込みたくないと言って、頑なにお前には隠し続けてきたのだ」
叔父「とても弟思いのいいお姉さんじゃないか」
近衛「……お前なんかが軽々しく、姉さんを語るな」
叔父「おお、怖い怖い」
叔父「……さてと。近衛兵、お前の処遇に関してはどうしようか、ふふ」
側近「叔父様」
叔父「分かっている。悪いようにはしないさ。それがお前との約束だからな」
叔父「……近衛兵、私はお前のことを決して低く評価していない」
叔父「なんなら私が魔王となってからも、私の下で働かないか?」
叔父「といっても、半魔を表立っては使えないから、影で活躍してもらうことになると思うが」
近衛「断る」
叔父「……そうか、残念だ」
130:
側近「……近衛兵、考え直して。別に悪い話じゃ――」
近衛「姉さんが考え直してよ! 別に律義にこいつの言うことなんて聞くこと無いじゃないか!」
近衛「こんなやつ、今この場で叩き斬ってやれば――」
側近「近衛兵、少しは冷静になりなさい」
側近「こんな所で反抗して、叔父様を倒したとしても」
側近「叔父様の部下の兵がここにはたくさんいるのよ。ただで済むわけがないでしょ」
近衛「なら、姉さんには今までに絶好の機会がいくらでもあっただろ!? なんでその時に殺してしまわなかったんだ!」
近衛「そうすればこんなことにはならなかったんだ……」
側近「……あのね近衛兵。叔父様は国軍総司令官なのよ」
側近「傍らには常に護衛の兵はいるし、そんなことしたらすぐに逆に殺されちゃうわ」
側近「だいたい、叔父様は私たちの恩人なのよ。なんで私が殺さないといけないの」
近衛「……姉さんは、平気なの? 魔王様を騙して、あんなに傷つけてしまって」
側近「……」
131:
叔父「……ふん。そんな情に絆されるような女ならとっくにボロを出してるさ」
叔父「この女は、今まで私が下したどんな命令でも、正確にこなしてきた」
叔父「非常に優秀な女だよ。いや、非情で優秀、なのかな?」
叔父「ふふふ、ふははは、はーはっはっはぁ!」
側近「…………」
近衛「……姉さん」
「違うわ、叔父様」
叔父「……はぁ?」
魔王「……側近は、そんなに非情な女じゃないわ」
133:
叔父「……ほう。自分から出てくるとは、意外だな」
叔父「てっきり隠し部屋とやらの中で、亀のように手足を縮こまらせているのかと思った」
近衛「……馬鹿な。どうして出てきたんだ!」
側近「……出てきて、しまったんですね」
魔王「……ええ、側近。あなたの本心を訊きたくて」
側近「私の、本心?」
魔王「そうよ、あなたの口から直接聞きたいの」
側近「……」
叔父「ふふふ、出てきて早々におまえは何を言っているのだ。側近の本心だと? まったく馬鹿らし――」
勇者「おい、おっさん! 少し黙ってろ!」
叔父「なっ!」
134:
魔王「側近、あなた……本当に私のことを騙していたの?」
魔王「あなたが私に掛けてくれた言葉はすべて、欺瞞と虚言だったの?」
魔王「あなたが私にくれた、微笑みも優しさも慰めも思いやりも……全部ウソだったの?」
魔王「……私は、違うと、そう信じてる」
魔王「だって、私はずっとあなたと一緒に暮らして、一緒に過ごして、一緒に生きてきて――」
魔王「そう思ったことなんて、一度もないんですもの」
魔王「私は、叔父様の言葉なんて信じない。自分が今まで見て、聞いて、感じてきたことを信じるわ」
魔王「さあ、聞かせて側近! 私が今まで見てきたあなたは、仮初のあなたに過ぎなかったのッ!?」
側近「……」
魔王「……」
側近「……ずるいですよ」
側近「そういう、聞いてる側が赤面しかねないような青臭いセリフを、あなたは臆面もなく言えちゃうんですもんね……」
側近「ホント……ずるいです」
136:
叔父「お、お前は、何を言っているんだ……」
側近「……時間までもう少しあったんですけど、そろそろ限界、ですね」
叔父「はぁ!?」
側近「魔王様、近衛兵、勇者さん! こっちです! 一緒に来てください!」
魔王「え? ……ええ!」
近衛「え、ちょっと、どういうこと?」
勇者「よく分からんが、とりあえずついてけ!」
叔父「な、な、な……」
叔父「お前達、何をボケッとしている! 早く捕まえないか!!」
国軍「は、はっ!」
138:
側近「――次はこっちです!」
魔王「ねえ、側近。私たち、どこに向かっているの?」
側近「どこにも向かっていませんよ。ただ、闇雲に逃げてるだけです」
魔王「え、ええっ!?」
側近「もちろん敵との接触がなるべく少ないコースを選んではいますが。兵の配置はすべて記憶しておりますし」
魔王「でもそれって、ジリ貧なんじゃないの!? いくら逃げても、いずれは――」
側近「いえ、大丈夫です」
側近「もうそろそろだと思いますので」
魔王「?」
142:
叔父「……側近の奴、一体なんだというのだ。あんなことをして、一体何のメリットがあるというのだ」
叔父「……っくそ!」
国軍「し、司令!」
叔父「なんだ! 魔王たちを捕まえたのか!?」
国軍「いえ、違います!」
叔父「じゃあなんだ! くだらないことなら報告しなくていいッ!!」
国軍「そ、それが――」
国軍「人間の軍勢がここに大挙してやってきております!」
叔父「な、なにぃ!?」
143:
魔王「……城内が、増して騒がしくなったわね」
側近「……ようやくやってきたみたいですね」
魔王「なにが?」
側近「人間の軍隊ですよ」
魔王「人間のッ!?」
側近「ええ」
魔王「どうして人間の軍隊が、いきなり攻めてくるのよ!」
側近「それはもちろん、呼んだからですよ」
魔王「よ、呼んだって!?」
側近「はい。事前にそういう段取りを組んでおいたんです」
144:
魔王「どういうことよッ! ちゃんと説明しなさい!」
側近「説明と言われましても、一体どこから説明しましょうか……」
魔王「一からよ! 私たち、今何が起きてるのかさっぱり分かってないのよ!」
側近「一から、ですか……」
側近「色々と説明が難しいんですけど、まあざっくり申し上げますと」
側近「私、二重スパイだったんです」
魔王「二重、スパイ?」
145:
側近「私は叔父様の手足としてこの城内で働いていたのと同時に、叔父様の動きや思惑を他の人に報告していたんです」
側近「だから二重スパイです」
魔王「……他の人って誰よ」
側近「先代様です」
魔王「お父様!?」
側近「先代様は、叔父様が野心強く、自分をつけ狙っていることに気付いておられました」
側近「だから私がそれに対処するためのお手伝いをさせていただきました」
側近「つまりは、私が叔父様を裏切ったというわけですね」
魔王「でも、今回のクーデターの協力をしたじゃない……」
側近「……本当は事前に頓挫させられれば良かったんですけど」
側近「残念ながら、それはできませんでした」
側近「だから次点の策として、こうして叔父様の協力をするふりをして、それを失敗させるために準備をしていました」
魔王「……それが、人間の軍を呼ぶこと、なの?」
側近「ええ」
146:
側近「ちなみに、人間の軍を要請してくれたのは、先代様ですよ」
魔王「え? お父様?」
側近「実を言うとですね、先代様が温泉旅行に行っているというのは嘘で、本当は人間界に行ってもらってるんです」
側近「王と裏で政治的な取引をして、今回クーデターを起こした反乱分子を潰すために兵を出してもらいました」
側近「まあ当然ながら、色々と対価を支払って、ですが」
勇者「で、でも、そんなことしたら――」
側近「こちらの軍勢にとっては、どう考えてもただの痛手にすぎませんよね」
側近「このクーデターで魔王様は魔王から追われ、加えてクーデターの頭目である叔父様を排除しようというのですから」
側近「魔王の座が欠席であるよりは、たとえクーデターでなったとはいえ、叔父様に魔王となってもらった方がマシです」
147:
側近「それでもこれを行ったのは、私たちのエゴです」
勇者「エゴ?」
側近「そうです。親馬鹿の先代様と、そして私のエゴでもあります」
勇者「先代魔王のエゴっていうのは娘の魔王を無事ここから逃げ出させる、ということか?」
側近「ええ」
勇者「……じゃあ、お前のエゴというのは?」
側近「…………先代様と、同じですよ」
148:
魔王「……城内が静かになったようね」
側近「城内にいた兵士は人間軍との交戦に駆り出されたみたいですね」
側近「今がチャンスです。この隙に魔王様達は城から脱出してください」
魔王「え? 側近も一緒じゃないの?」
側近「……私は少し、やり残したことがありますので」
魔王「なら、私も一緒に残るわ!」
側近「駄目です。早くこの城から出ていってください」
魔王「どうして!? 側近を一人残して行くなんて出来ないわ!」
側近「……これは私一人の問題ですので、一人で片付けたいんです」
側近「傍には誰もいて欲しくないんです」
魔王「……」
側近「だからお願いします」
魔王「……すぐに、終わらせるのよ」
側近「……はい」
151:
叔父「……終わりだ。なんだってこんな時に、人間軍が……」
側近「……あらあら。随分とうらぶれていますのね」
叔父「き、貴様ぁぁぁぁ! よくも私の前に顔を出せたものだなぁ!」
側近「……随分と怒ってますね」
叔父「当たり前だろうがァ!」
側近「……そう」
側近「叔父様。私が今、叔父様の前に戻ってきた理由、分かりますか?」
叔父「そんなこと知るかァ!」
側近「……でしょうね」
152:
側近「……叔父様も、私と私の母が父に捨てられて、スラムに流れ着いたことは知ってますよね」
側近「スラムでの過酷な生活の中で、母は病気で倒れてしまいましたが」
側近「母は、毎夜毎夜、私にお話ししてくれました」
側近「――まるで、恨み事のように」
叔父「……何を言っているのだ、お前は」
側近「それは、私の父の話でした」
側近「母は父に捨てられたことを、ひどく悔み、そして恨んでいました」
側近「私は、そんな恨み事を毎晩聞かせられながら育ってきたのです」
叔父「だから何を言っているのだ、お前はッ!!」
153:
側近「当然、私だって父を憎みました」
側近「母を捨て、私を捨て、こんな生活を強いた父に憎悪するようになるのは、自然な感情ですよね?」
側近「だから私、父を捜しました」
側近「……復讐のために」
叔父「な、何を……」
側近「……見つけ出すのは、それほど大変じゃありませんでした」
側近「だってその人、豪遊して回ってるんですもの。女遊びが盛んで、すごく目立っていたんですよ」
叔父「あ、あああ……」
側近「……何をおびえているんです? 叔父様?」
叔父「お前は……お前はァ!」
側近「ふふふ……、なんですか?」
側近「――――お父様」
154:
叔父「そんな馬鹿なことがあるァ!!」
叔父「お前は、私が偶然見つけた、スラム育ちのガキだァ!」
側近「ふふ、……偶然?」
側近「何を言っているんですか、お父様?」
側近「偶然なわけ、無いじゃないですか」
側近「……私の方から、お父様に接触したんですよ? 偶然を装って」
叔父「その時のお前は、まだほんの子供だったじゃないか。そんなやつが――」
側近「歳は関係ないんじゃないですか?」
叔父「ならお前は、あの時からずっと、私を騙し続けてきたというのか!?」
側近「ええ、そうですよ?」
側近「――あの時からずっと、お父様への復讐の機会をうかがっていました」
157:
側近「でも、やっぱり難しいんですよね」
側近「叔父様、常に護衛の兵を連れていますし、復讐に成功したとしてもすぐに私がやったとバレてしまうでしょうから」
側近「――それでも、ようやく機会に恵まれました」
側近「今なら他の兵は出払っていますし、ちゃんと上手く工作すれば攻めてきた人間の兵にやられたことになりますから」
叔父「な、あ、あああああ……。や、止めろ!」
叔父「後見人として、お前たち姉弟の面倒を見てやったのは誰だと思っているんだ!」
側近「ええ、ありがとうございました。でもその恩は、仇で返させてもらいますね」
叔父「た、助けてくれぇ!」
側近「お断りします」
叔父「こ、この悪魔がぁ!」
側近「……叔父様が言ったんですよ」
側近「私は、非情で非常に優秀、なんですよね? あはは」
158:
側近「…………」
側近「……お母さん。ようやく、終わったよ」
側近「…………」
側近「……もう、城から出なきゃ」
側近「……」
170:
側近「……あれ?」
魔王「……あ、側近」
側近「……どうしてまだ城内にいるんですか。逃げてくださいって言ったじゃないですか」
魔王「うん、そうだけどさ……」
魔王「なんとなく、側近を置いて行ったら、駄目な気がして」
側近「……」
勇者「――というか、俺はそもそもお前を置いて出られないんだよ」
側近「……は?」
勇者「これだよこれ!」
側近「あ、腕輪ですか。そう言えばそんなもの、付けてましたね」
側近「自分で付けておいて忘れるなよ……」
172:
側近「……よし、取れました」
勇者「ふぅ、ようやくこんな物騒なものからおさらばできるな」
側近「さ、早くここから出ましょう。すぐにここに人間の軍隊が攻め入ってきますから」
魔王「ええ」
173:
側近「ここまで来れば、大丈夫ですかね」
勇者「そう、だな」
側近「……」
魔王「……」
勇者「……」
近衛「……」
側近「……これから一体どうしましょうか」
魔王「……私はもう、魔王には戻れないわ」
側近「……」
魔王「……でもいいの。私のそばにずっと、側近と、近衛兵と、そして勇者がいてくれれば!」
勇者「俺も!?」
175:
勇者も頑張れ
176:
魔王「あら、勇者はさっき書斎の中で言ってくれたじゃない。『俺はお前の傍から離れない』って」
勇者「あ、あれはその、勢いで、というか……」
魔王「……あの言葉は、嘘だったの?」
勇者「いや、そういうわけじゃないって! けど……」
魔王「……じとー」
勇者「……分かったよ! 一緒にいてやるよ!」
魔王「側近、今のセリフ聞いた!? これってもしかしてプロポーズかしら!?」
側近「ええ、確かに聞きました。男でしたら、ちゃんと自分の言葉に責任を持ってくださいね」
勇者「……」
177:
側近「……でも、本当に私もご一緒でいいのですか?」
魔王「え?」
側近「……だって、私は魔王様を傷つけました」
魔王「でもそれは仕方が無かったんでしょ? 側近は私を騙していたわけじゃなかったんでしょ?」
側近「それでも、結果的に魔王様は傷つけてしまいました」
魔王「……側近?」
側近「はい?」
魔王「ぱーんち」
側近「あいたっ!」
魔王「……私はもう平気よ。全然大丈夫」
魔王「だから、側近は側近のしたいようにすればいいのよ」
魔王「あなたはどうしたいの?」
側近「……私は」
側近「――魔王様とずっと一緒にいたいです」
魔王「なら、ずっと一緒にいればいいじゃない!」
180:
魔王「――なら、皆で旅でもしてみない?」
勇者「旅?」
魔王「そう、世界の色んな所を私、見て回りたいわ」
魔王「今まで、ずっとお城の中で引きこもっていたんですもの」
魔王「人間界でお買い物もしてみたいし、色んな町を見てみたい」
勇者「でもお前、魔物が人間の街に出たら――」
魔王「変装すれば大丈夫よ」
勇者「いやだから、その角はさすがに無理あるって」
魔王「大丈夫よ。今にこの角も退化するから」
魔王「だって私、――半魔ですもの。時間がたてば今よりも人寄りの姿になるわ」
勇者「……そうか」
181:
魔王「側近も近衛兵も、いいわよね!」
側近「私は問題ありませんよ。私は魔王様ほど立派な角など生えていませんし」
近衛「僕も……大丈夫です。魔王様と一緒に色んな所を見て回りたいです」
魔王「そう! だったら行きましょ!」
勇者「って、おい! 手を引っ張るなよ!」
魔王「あはははははっ! 勇者、急いで急いで!」
勇者「急がなくたってお店も町も逃げたりしないって!」
魔王「でも、この胸が高鳴るような高揚感は逃げてしまうかもしれないわ!」
勇者「……はは、大丈夫だって」
182:
魔王「え、どうして?」
勇者「俺はお前に出会うまで、色んな所を旅をして、色んなものを見てきた」
勇者「楽しい物、変わった場所、おいしい食べ物。世界にはそんなものがたくさんある」
勇者「それらに出会うたびに俺も、興奮したり驚いたり、そんな新鮮な気持ちを味わってきた」
勇者「……俺が教えてやるよ。楽しい物、変わった場所、おいしい食べ物。俺が知っている全部を」
勇者「そして何度だって与えてやる。お前が今感じているような高揚感を、な!」
近衛「……クサっ。死ねよ」
側近「なんだか、聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃいますね……」
魔王「…………」
魔王「……ああ、もう!」
魔王「勇者ッ! どうしてあなたはそう、勇者なのッ!?」
<完>
183:
おつかれさまーおもしろかったぜー
184:
超乙!
マジ楽しめた!
186:
はい、なんとかかんとか完結
後半はすっげー急ぎ足に話進めた
回収してない伏線いくつかあるけど、これらは無理だと判断した
だって回収してたら、むちゃくちゃ長くなりそうなんだもん
回収しなかった伏線を回収するだけで一話作れそうだし
ごめん
それにしてもこの勇者、空気である
それに輪をかけて、近衛兵が空気だけど
魔王のメルヘン発言は考えるのがすごく楽しかった
まあ、色々と不満はあるけど、まあなんとか完走できたからいいや
皆お疲れ&ありがとー!
そして何日も突き合わせてしまって本当に申し訳ない
189:

側近かわいいよ側近
198:
乙、良い魔王だった
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