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はいわかった、なかったことにしましょう


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1:
環状線をもう一周して帰ろうと思った。
追加料金が発生するけれど、そのくらい払ってやろうと思った。
今日は楽しい一日で、これからもそうであるはずだったのに。
電車に乗り込み、たまたま椅子に座れたまではよかった。
その座席で俺は二年付き合った女から一方的に別れを告げられた。
突然の出来事に呆然とし、立ち上がることも出来なかった。
降りるはずの駅に止まっていた電車は、俺に情状酌量の余地も与えずドアを閉めた。
2:
一人暮らしの部屋は真っ暗だった。
電気をつける気力もわかず、二度か三度ほど何かにつまずきながら俺はベッドに転がり込んだ。
目は段々と暗さに順応して行き、うっすらと灰色の天井が見える。
目蓋の裏に今日のデートが、彼女の笑顔が映って目を開けた。
静かな部屋では彼女の声が聞こえるようでヘッドフォンをして音楽を聞く。
好んで何度も聴いていたはずの歌が急に安っぽく聞こえるようだった。
3:
頭はまだ現実を認められないでいる。
ぐるぐると現れては消えゆく思考に、五月蝿いだけのヘッドフォンを外す。
『何が悪かったんだろう』 『なんでフラれたんだろう』
『なんで何も言い返せなかったんだろう』 『もし今日出かけなければ』
『またやり直せないかな』
4:
付き合う前に戻りたかった。あの頃はまだ彼女の言いたいことがよくわかるようで。
最近の彼女は何を考えているのかよくわからなかった。
――彼女と、女と付き合ってなきゃよかった。
そんなことを考えながら眠りに付いた。
5:
『はいわかった、なかったことにしましょう』
夢の中で神様にそう言われた。
6:
「は?」
携帯を見ると、女からのメールが一通入っていた。
>昨日は楽しかったね! 誘ってくれてありがとう。
>昨日に続いて早でごめんね。
>もしよければでいいんだけど今日映画見に行かない?
>見たい映画が今日までらしくて。
7:
思わず画面を二度見する。だが文面は変化しない。
馬鹿にされているのかと思った。
だから俺は返信をせず、携帯をベッドに投げつけた。
携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。反射的に俺は電話を取った。
《あ、もしもーし》
女だった。電話を切ろうかと思ったが、急にさっきの夢の言葉が頭に響いた。
8:
『なかったことにしましょう――』
「まさか、な」
《あれ、聞いてる? もしもーし》
「ああ、もしもし」
《ん、何か都合悪かった? ごめんね》
「いや、大丈夫。どうしたの?」
9:
でも、もし。
騙されてるとは思いつつ何かに期待して会話を成立させる自分が不甲斐なかった。
《メール見たかな……?》
「ああ、いいよ。何時に集合する?」
《やったあ! 映画が14時からだから……》
彼女の純粋な声色がどうしても嘘だとは思えなかった。
おかしいのは俺のほうだったんじゃないか。
そんな風にさえ思えてきた。
昨日のあれは、悪い夢だったんじゃないか。
10:
《それじゃあ、12時くらいにいつもの場所で!》
きっと、そうに違いない。
煮え切らない思いを無理やり御すと、俺は出かける準備を始めた。
家にいても全く落ち着かなかった。
待ち合わせ場所に一時間も早くついてしまった。
五分、十分と経つにつれ、徐々に心に不安がたちこめてきた。
11:
やっぱり騙されているんじゃないか、どこかに隠れて笑っているんじゃないか。
疑心が渦を巻き始め、思考はだんだんと悪い方に向かっていく。
帰ろうか。そんな考えが浮かんだときだった。
彼女は手を振りながら走ってきた。
「おまたせ! ごめん、待った?」
時間は11時42分。
「いや、さっき来たとこだよ。それにまだ待ち合わせ時間にもなってないし」
俺にはやっぱり彼女の不安そうな、嬉しそうな表情がどうしても演技には見えなかった。
13:
よく来ていたファミレスで昼食を取る。
「いつも遅刻する男くんが先にいるんだもん、慌てたよ」
「なんとなく家にいても落ち着かなかったんだよ」
いたずらっ子のようににやりと笑いながら軽口を叩く彼女。
不自然にならないよう心がけながらの会話の応酬。
それはどこか疲労がたまるようでもあった。
14:
「……もしかして、今日何か予定あった?」
食事も終わり軽い談笑をしているとき、彼女は不安そうに聞いた。
「ん、ないけど。どうして?」
「いや、なら私の勘違い。ごめんね」
慌てる彼女を見て、いたたまれなくなってつい携帯に目を落とす。
今朝のメールをもう一度確認しようとしたとき、あることに気が付いた。
15:
「……これ、昨日の夜のメールか?」
>今日は楽しかったね、いつも誘ってくれてありがとう!
>次は誘うからまた遊ぼうね!
返信のマークがついているのに気付き、送信メールも確認する。
見つかったのは送った覚えのないメール。
>こちらこそありがとう。期待して待ってるよ!
16:
「マジ、かよ」
「どうしたの? もしかしてほんとに急用できちゃったとか?」
ハッと気付き顔を上げた。
「いや、すまん。女からのメールを読み直してただけだよ」
そう言うといつも彼女は恥ずかしがる。それが楽しくていつも弄るネタにしていた。
「んー私なにか変なこと送った?」
しかし今、彼女は平然とグラスを持ちジュースを飲む。
17:
「いや、ただの確認だよ」
ごまかすようにそう言って笑った。彼女も優しく微笑んだ。
別れ話がなかったことになったのか。それとも別れ話なんてなかったのか。
どちらにしても結果は同じだ。
首をかしげながらも俺は現状に従うしかない。
きっとすぐに慣れてしまうのだろう。
そう自分に言い聞かせた。
18:
ファミレスを出て映画館に向かう。
いつもの癖で彼女の手を取ったときだった。
「えっ」
一瞬ビクッと手を震わせ、彼女はすぐに手を引いた。
彼女は少し困ったような顔をしている。
「ん、どうした……?」
まさかと思い、恐る恐る聞いてみる。
19:
「いや、いきなりでびっくりしただけ……ごめん」
「……いや、こっちこそごめん。手、繋いでいいか?」
よくわからないまま謝り問うと、彼女は少し悩むような仕草を見せた。
「……男くんは、私のこと好きなの?」
20:
俺はその一言で混乱したんだろう。
何が起きているのかを考えもせず、ついに彼女に直球の質問を投げた。
「え、俺ら付き合ってるんだよな?」
一瞬の間をおいて、彼女は笑って答えた。
「なーに? またいつもの冗談?」
でも、彼女の笑いが僅かに引きつったのを俺は見逃さなかった。
「悪い悪い、ちょっとふざけすぎたよ」
その一撃で冷静になった俺は作り笑いで頭を掻いた。
21:
俺は。俺と彼女は付き合っていない。
それがこの世界の事実だということだろうか。
『なかったことにしましょう――』
ありえない。そう思いつつももう無視することが出来なかった。
22:
くっきりと脳裏に残る夢で言われた神様の言葉。
俺は寝る直前に何を願ったんだっけ。
『彼女と、女と付き合ってなきゃよかった』
おそらくその願いが叶ったということだろう。
俺と女の付き合った二年間は、おそらくなかったことになっている。
そしてきっと違う二年間が、俺と女の間にあるのだろう。
23:
俺たちは一緒に映画を見て、買い物をして、そのまま居酒屋に入った。
お酒の力を借りて、もう一度彼女に告白した。
彼女は赤かった顔をさらに真っ赤にして、静かに頷いた。
彼女を家まで送り届け、俺は家に帰った。
またやり直せる。このとき俺は幸せでしょうがなかった。
今度こそ彼女を大切にすると決めた。
24:
それから三ヶ月が過ぎた。
俺たちは色々なところに行った。
俺の二年間で行ったところに、行かなかったところに。
当たり前かもしれないが、俺と彼女の二年間には共通のものもあれば、相違もあった。
デートスポットとして名高い浜辺に行ったとき、彼女は言った。
「初めて来る場所なのに、なんか懐かしい感じがする」
「そうかな、ハハハ……」
25:
このときは正直冷や汗ものだった。
でも、もしかしたらどこかに彼女との二年間が残っているような気がして。
俺はどうしてか嬉しくもあった。
こんな単純な日々が、どうしようもなく俺には幸せだった。
26:
でも、そんな幸せは長続きしなかった。
だってそうだろう。
俺の過ごした二年間と、彼女の過ごしてきた二年間は別のものなのだ。
二年という月日は、俺たちにとってあまりにも大きすぎた。
27:
「大体なんでいつも覚えてないのよ!」
彼女も色々我慢してきたのだろう。
「それ昔嫌だって言ったわよね!」
きっと無意識に違和感を覚えていたのかもしれない。
「もう顔も見たくない!」
そしてそれは、俺のほうも同じだった。
「うるせえ! 嫌なら帰ればいいだろうが!」
もちろんそれは、後で思えば無責任だったのだろうけれど。
28:
もう顔も見たくない。
俺の頭は怒りに支配されていて。
「あーくそっ!」
なぜこんな嫌な気分にならなければいけないのか。
全て彼女のせいにした。
そして俺はそのまま眠りについた。
――女なんていなきゃよかったんだ!
29:
『はいわかった、なかったことにしましょう』
夢の中で神様にそう言われた。
30:
瞬間俺は飛び起きた。
上半身を勢いよく起こし、息も荒いまま携帯を見た。
画面が淡く光り、心臓が高鳴る。
慌てて机の上の写真立てを確認する。
なかった。
彼女とのメールが、彼女の写真が。
携帯のアドレス帳からさえも残らず消え去っていた。
31:
それから数日が経った。
彼女の家にも行った。
震える手でインターフォンを押すと、母親らしき女性の声がした。
「女さんはいらっしゃいますか」
《うちに女なんて名前の人はいませんが、人違いではないでしょうか》
32:
ついに怒られてまで聞いた情報では、その夫婦の間には二十年以上子どもはいないらしかった。
大学に行っても、女という生徒の在籍した記録はなかった。
友達だって誰ひとりとして知らないと言い張った。
どれだけ探しても、彼女が存在したという証拠が、もうこの世界にはなかった。
33:
俺はやがて部屋から出なくなった。
暇さえあればベッドで目を閉じ続けた。
――女に戻ってきてほしい。
ずっとそればかりを願って眠り続けた。
顔も声も覚えていない神様に願い続けた。
寝すぎて頭痛がしても、体が重くても関係なかった。
俺は人を一人、それも一番大切な人を怒りに任せこの世から消してしまったのだ。
34:
その調子で二週間が過ぎた。
俺の願いは未だ叶えられない。
大学の友達や教授からの電話やメールがうるさいので携帯電話は折って捨てた。
彼女との記憶のない携帯なんて俺の敵でしかなかった。
インターフォンもうるさいので殴ったら壊れた。
35:
それでもお腹だけは空く。
カップ麺も食材もなくなり、何か買おうと外に出た。
精神は磨耗し切って、体力もすっかり削ぎ落ちていた。
外には彼女との思い出がたくさんあった。
でも一つとして彼女の痕跡はなかった。
36:
俺はそのままぶっ倒れたらしい。
そうして最後に願った。
――この世界が全部なかったことになればいい。
37:
『はいわかった、なかったことにしましょう』
夢の中で神様にそう言われた。
38:
――――――
――――
――
俺は目を覚ました。
なんだか体が重かった。
動かそうとすると、ロッキンチェアが軋み、前後に揺れた。
見覚えのない服を着て、手には深いしわが刻まれていた。
やがて鈍く錆付いた脳が全てを思い出した。
何を成し遂げられる事もなく死が目の前に迫った老人は、
どうしようもない自分自身の今までの人生を否定したのだった。
39:
そして、目は再び閉じられる。
もう俺は何も願わなかった。
Fin.
4

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