魔王「ならば、我が后となれ」 少女「私が…?」back

魔王「ならば、我が后となれ」 少女「私が…?」


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乙です
激しく期待
13: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:45:45.95 ID:4V70RNmz0
::::::::::::::::::::::
謁見の間で、例の呟きが聞こえた後
重苦しい雰囲気が張り詰めていた
興味など何ひとつ持たなかったが きっと俺はひどい顔をしていたのだろう
その翌日である今朝 ひきつったような笑顔で臣下から助言があった
臣下B「魔王様。連日の謁見で少々お疲れでしょう…。 今日は謁見希望者も少ない見込みですので、どうぞ休息などお取りください」
「要らぬ」という言葉を掛けられるとでも思ったのか、臣下はそういうやいなや礼をして部屋を出ていった
休息。何をしていいものやらわからないまま、俺は身支度が終わると城を出て敷地内のとある森に足を伸ばした
そこを選んだのに、特別な理由などない
あるとすれば、自然に人気の少なそうな場所を選んでいたというだけ
14: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:46:24.89 ID:4V70RNmz0
森を歩いていると、少女の姿をみつけた
魔王(この森に、人間… それも少女が?)
少女は手付かずで自然のままに咲き誇る花々を摘み集めているようだった
俺がいることにも気づかず、油断しきった背を向けてせわしなく花を探しては摘んでいる
魔王「……何者だ。誰の許可を得てこの森に立ち入っている」
少女「!」ビクッ
魔王「話せ」
少女「えっと…あの。花を、あつめていました」
魔王「集めて、どうする」
少女「その… 売るんです」
魔王「……」
15: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:47:18.60 ID:4V70RNmz0
花売りか。身なりからして貧しい子供…
確かにこの森の中でならば多くの花を摘むことも出来るし、他の花売りと場所を競い合うこともないだろう
だが
魔王「この森は俺の森だ。花とはいえ、勝手に持ち出すのを見逃すことも出来ぬ」
少女「……あ… ごめん、なさい」
魔王「……」
少女「……」
少女は目を閉じて、手を両脇に垂らしたままぎゅっと握って棒立ちになった
魔王「どうした」
少女「……え。 あの… 叩かないの…?」
魔王「なんと?」
少女「あの、その。花を盗ったから…」
16: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:53:16.27 ID:4V70RNmz0
少女は緊張した様子で、身体を強張らせていた
口調が時々崩れそうになるのを なるべく丁寧に言い換えようとしている様子も見て取れる
こういった様子は見慣れているのでよくわかる
つまりこの少女は 怯えながらも、俺の機嫌を損ねぬように気を張っているのだろう
誰も彼も、よくもまあそんなつまらぬことを気にするものだ
魔王「…持ち帰ったわけではないし、知らなかったのだろう。知っていて、なお持ち帰りたいならば それなりの事を覚悟する必要はあるかも知れぬが」
少女「……持ち帰りたい、です」
魔王「そうか。ならばその覚悟も頷ける」
少女「でも私は、まだ15で…」
魔王「……?」
少女「あと1年たたねば、身体も売れぬ年齢なのだと聞いています」
魔王「………」
17: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:53:45.15 ID:4V70RNmz0
少女「叩くだけでは足りないなら あと1年まって欲しいです」
魔王「1年待つと、どうなる」
少女「身体で代価をお支払いできるようになります」
魔王「馬鹿な」
少女「え?」
魔王「支払う金がないのはわかる。だが幼いうちは叩かれて許しを乞い、育てば身体で支払うと? 親にそう言われているのか」
少女「私に親はいないの。えっと… 孤児、っていうんです」
魔王「そうであったか。では、誰にそのような生き方を習った」
少女「……町にいる、駐在軍の人に 教えてもらいました」
魔王「なんだと?」
少女「そうして日銭を稼ぐのです」
18: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:54:51.95 ID:4V70RNmz0
魔王「……その金、たいした額にはならないだろう。何を買う」
少女「はい。駐在軍の方からパンをいただくかわりに、その日に稼いだ銭を渡すのです」
魔王「な。 ……お前は、配給品を買っているのか?」
少女「ハイキューヒン…? パンのこと…ですか?」
魔王「………」
首をかしげて魔王の言葉を待つ少女
魔王は国のことに興味はないとは言え 仮にも王の座にある
ともすれば周辺諸国の話も 嫌でも聞かされている
あいまいな記憶をたどり 町の情報を思いだす
人間の町は確かにすぐそばにひとつある
魔国の領地に一番近く、常に警戒の張られている… 貧しく物々しい町だったはずだ
おそらくこの少女、そこの町から来ているのだろう
19: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:58:26.93 ID:4V70RNmz0
魔王(軍の配給品は、王国が農耕をろくに行えない辺境の地に無償で届けていたはず。物は届くが、目は届いていないということか)
自分自身、自国の内情になど目を向けていないのだからそれを責める気にはならない
荒れ果てた土地で、どうにか私腹を肥やしストレスを吐きたい軍の人間の心理も理解できる
だから魔王は、そんな“悲惨な状況を危惧する”ことはしなかった
ただ、目の前の少女にはどこか気をとられる気がした
魔王(生きたくとも、賢く生きる方法をしらない少女…か)
生きることの価値を見出せない魔王にとって
それは同類するものなのか、相反するものなのか
そんな疑問がうっすらと浮かび上がるころには
魔王は既に『自分の役割として自分の敷地内を守る意義』など、どうでもよくなっていた
もとより最初から興味があったわけではない
そうするべきだと言われて、していたことにすぎない… この少女と、同じように
20: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/15(木) 13:59:09.21 ID:4V70RNmz0
少女「あ、あの…?」
魔王「ああ、よい。花にも、お前を罰することにも、特に興味はないからな」
少女「え?」
魔王「見逃しておこう」
少女「あ」
俺はそういって、そのまま少女の横を素通りして歩き出した
背後に視線を感じたが、気にもとめずにそのまま立ち去る
その日は、ただなんとなく森を歩き続けてから城に帰った
1日かけて うすぼんやりと心に浮かんだままの自分の疑問を洗い出そうとしてみたが、結局なんの収穫もないまま夜になり、寝所へはいった
魔王(……ふむ。何にも興味はないと思っていたが、まだ自分自身の感情くらいは気になっているものなのかもな)
そんな結論が出たことで、魔王は久しぶりにほんの少しの満足感を得て眠りについた
夢は、見なかった
・・・・・・・
・・・・・
・・・
27: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:08:15.90 ID:2MQxt6/70
::::::::::::::::::::::::::
翌日
朝、少し早く目が覚めた
昨夜味わったほんのすこしの満足感。その余韻が残っていたのだろうか
何気なく、朝食をとる前に軽く敷地内を歩いてみる気になった
魔王(とはいえ、やはり人のいる場所は億劫だ)
何気なく城の裏手へ回る
すると小さな石造りの倉庫前で、2人の警備兵が話しこんでいるのが見えた。早朝訓練の後片付けだろう
魔王(…見つかると大仰な挨拶の後、下手すると食堂まで警護されるな。戻るか)
クルリ、と踵を返したときだった
新人警備兵「魔王様って、やっぱ怖いっすね」
ガタガタと槍を束ねながら、警備兵の一人がそう話すのが聞こえた
だれにどう思われようと興味はない。そのまま2歩ほど足を進めてから、ふと立ち止まった
28: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:09:23.50 ID:2MQxt6/70
魔王(……そうだ。自分自身には興味があるのかもしれないと、昨日気づいたばかりではないか)
興味があるのかもしれない
それならば、それを確かめてみるのは悪くない。うまくいけば昨夜のように満足感を得られるかもしれない
そのまま気づかれぬように耳を澄ませてみた
新人警備兵「謁見室で魔王様が焦点を合わせて人を見る所、初めて見たんすよ」
警備兵「俺だって、あの魔王様が誰かを探して睨むようなのは初めてだけどな」
新人警備兵「あの態度で、無言・無表情のまま ゆっくりと視線をあげて…うぅ、思い出しただけでブルっとするっす」
29: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:10:20.47 ID:2MQxt6/70
警備兵「まぁ、何を考えてるかわからない御方だしな。それだけに威圧感があるよな」
新人警備兵「それっすよ! なんかあの魔王様は、視線をあげるのも 客を殺すのも 同じ態度でいきなりヤりそうな末恐ろしさがあるっす!」
警備兵「はは、んなことはいくら魔王様でも……………っ」
新人警備兵「………先輩、今 あっさり想像できちゃったでしょ」
警備兵「し、仕方ねぇだろ! 先王様と同じ能力を持っていて、しかも本当に何考えてるかわかんねぇんだ。怒ってても行動されるまでわかんねぇよ、絶対…」
新人警備兵「そうっすよねー。まあ、自分のところの王様なんで頼もしいっすけどね」アハハ
警備兵「まぁ、来客に対して親しみやすい『魔王様』なんてハクもつかねぇしな」ハハ
魔王(…………で?)
興味を持てるかもしれないと思ったが、勘違いだったようだ
結局、謁見室で過ごした後と同じように溜息をひとつ残し、そのまま立ち去る
30: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:11:45.09 ID:2MQxt6/70
朝食を終え、謁見室の玉座につくと 周囲には普段以上に緊張した空気が漂っていた
あの警備兵と同じく、周囲は一昨日の空気をまだ引きずっているようだった
魔王(なかば無理やりに俺に1日の休息を取らせておいて、自分たちが気分転換できていないとは)
魔王(…仕方ないか。あの警備兵達が言っていた通りなのだとしたら、気づかぬ内に威圧的なことをしたようだしな)
これまでは謁見の間、魔王は大抵 頬杖をついて何もない空間をぼんやりと見つめていた
飽きると足を組み、意味もなく靴先を眺めたりする程度しか反応しない
横柄な態度であることは自覚していたが
自分がどう見られるかにすら興味が持てない魔王にとってはどうでもよかったのだ
普段は、謁見者が通され挨拶の口上を述べあげても その格好のまま無言で小さく頷く程度だったのだが…
魔王(何もしないがゆえ、些細なことをするだけで注目されてしまう、か。……困るほどのこともないが、愉快でもないな)
魔王(なにより、いちいち このように過剰反応されるようだと後々が面倒そうな…)
31: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:12:34.35 ID:2MQxt6/70
自分は今、関心や興味を払っているのだろうか。それともその“振り”をしているのだろうか
その疑問が脳裏をよぎった時、昨日と同じ感覚を思い出した
魔王(つまり、俺自身が自分をどう思うのかには興味があるようだ)
せっかく立ち止まってまで聞いた話だ。少しは役立ててみるのもいいかもしれない
これから少し反応を返してみよう。それで余計な面倒事が減れば僥倖、変わらぬなら止めればいいだけの話…
そんな結論を出すためだけに、随分と時間を消費していたらしい
「……というのも、身内ながら聡明な娘でして。今日は是非とも魔王様のお知恵に触れさせていただきたいとつれてまいりました…。どうぞ娘にも、謁見のご許可を」
気がつけば既に、臣下は今日の1組目の謁見希望者を入室させていた
その男は挨拶の口上を終え、謁見理由を既に述べていたようだ。今は要望を出し、控えて魔王の反応を待っている
32: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:13:34.38 ID:2MQxt6/70
臣下たちはいつも通り、僅かな魔王の反応を見逃すまいと 沈黙して両隣に立つのみ
魔王はさっそく自分の出した結論に従って見ることにした
といっても、突然に言葉など出てくる訳もなく…
魔王「ああ」
なるべく穏やかな表情で視線を投げかけ、そう一言呟くだけで終わった
だが謁見室にいる全員の心をざわめかせるには充分だったようだ
臣下B(魔王様が、返答なさるとは。これはもしや ついに興味を持たれたか…)
臣下A(初めての好反応! ええいこの者、期待に沿うだけの娘とやらを連れてこいよ…!!)
男「は…ははっ!! え、謁見の許可を頂き……畏れ多くも、魔王様のお目に触れることができ、娘も光栄と存じまする…!!」
男が立ち上がり、興奮してうわずった声で 従者に娘を連れてはいるよう指示をする
それと同時に他の謁見希望者などからざわめきが立ち上り、一瞬で室内は期待と動揺に包まれた
33: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:16:09.71 ID:2MQxt6/70
臣下B「鎮まれ! 魔王様の御前なるぞ!」
声を荒げて鎮静を図る臣下Bこそ、興奮の色を隠せていない
「お待たせしました!」という誇らしげな男の一声
そのすぐ後に連れられてきた娘に誰もが注視したその瞬間、ようやく場の雰囲気が収まり、皆が一斉に息を飲んだ
魔王(なるほど、美しい)
魔王の前まで優雅に歩み寄り、ゆったりと辞儀をする令嬢
長くしなやかに、腰まで伸びた金糸のような頭髪がスルリと落ちる
次いで、控えめだが充分に練られたと思われる感謝の言葉を述べあげる
落ち着いた、清涼な川の流れをおもわせるような声
実際、ある者は水をかぶったかのように興奮を収めていたし、また別のある者はすっかり心溺れて魅了されていたようだった
34: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:17:37.96 ID:2MQxt6/70
謁見室内の雰囲気に気をよくしたのか、娘を連れてきた男は上機嫌で語りだす
男「この娘、記憶力にとても優れておりまして…」
魔王(ほう)
男「一度読んだ話などを、ずっと覚えていられるのです。それも大量に」
魔王「それは見事だ。では何か話してみるがよい」
控えて頭を下げたままの令嬢に声をかけたつもりだったが
横にいた男に口を挟まれるほうが早かった
男「いえいえ、魔王さま」
魔王「?」
男「せっかくならば、この娘の記憶力をしっかりとご覧頂きたいと存じます」
魔王「……ほう。つまりどうしたいのだ」
男「どうぞ、夜 お眠りになる際などにお呼びいただければ。眠る前に子守唄のように話をさせていただきましょう。この娘、朝まででも続けていられまするゆえ…」
魔王「…………」
35: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:18:49.28 ID:2MQxt6/70
しまりの悪い笑顔と、わざとらしく歯切れを悪くした言い回し
要するに、この聡明な才能を建前に 彼女を女として俺にあてがうつもりなのだろう
魔王「この娘、どこのものだ」
男「はい、私の4番目の娘でございます。身分ははっきりとしております。たとえ御寝所にいれたとしても不審な思いをなさることもございませぬ」
男「いかがでしょう、魔王様。是非一度、お試しください。もちろん気に入らなければそれまででよいのです」
キッパリとした、自信に満ちた口ぶりが気に入らなかった。実の娘を、政治工作に使うために女として取り扱うこの狸親父
その横で、凛とした美しさを保ちつつも どこか物憂げな視線で床の一点を見つめているだけの令嬢
魔王(娘も、哀れなものだな)
36: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:19:42.92 ID:2MQxt6/70
いかに美しく、どれほど聡明であろうと 令嬢そのものに興味はもてなかった
だが、この父親の元では宝の持ち腐れ。その有り余る稀有な才能は埋もれるだけであろうと考えると、同情をしてやってもいい気もする
だからといって興味の持てない俺の元に来ても、捨て置いてしまうのは明白
哀れんでこの令嬢を迎え入れたところで、結局はお飾り。喜ぶのはこの狸だけだ
令嬢には悪いが、結果 どうなろうとこの娘は報われぬのだ 
それならば、やはり……
魔王「要らぬ」
令嬢はそれまでとはうってかわって、青ざめ強張った表情をした
そんな娘を、今にも舌打ちをしそうな表情で睨みつけ 瞬時に顔を取り繕う男
男「そ、そうですか。これは大変差し出がましいことを致しまして……」
令嬢「………」
37: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:22:40.87 ID:2MQxt6/70
俺が反応したことで もしかしたら、という期待をさせてしまったらしい
その期待度が大きかった分 落胆も一層のようで、男は足をよろつかせながら退室していった
おそらくあの娘 帰ったら帰ったで『役に立たぬ、恥をかかせた』などとムチのひとつも打たれ不満をぶつけられるのであろう
そんな恐怖の見える、青ざめ方だった
魔王(俺の試みにつきあわせ、余計な負担を負わせてしまったか)
生まれた先を間違った、己を恨め
そしてその才能、埋もすことなく賢い生き道を探してほしい
せめてもの償いにと、立ち去る令嬢の後姿に そう心中で声をかけた
口に出してしまえば、また期待をさせてしまうだけ…欲しがるフリはできても、実際に欲しいとは思えないのだから
38: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 09:25:31.56 ID:2MQxt6/70
多くのものが与えられる
だが、そのどれをも選ぶ事が出来ない
下手に選ぶ真似をすれば、こうして無為に傷つけてしまうから
やはり、今の俺にできることはただひとつ。ただ一言呟くのが最善なのだ
『要らぬ』、と
断り続けることでしか 今、俺がこの王国を守ることは出来ない
様々なものを手に入れるのは 様々なものを管理することになる
全てを持つ事など、こんな俺に出来る訳がない… 『大事に守る』など出来ない
全てを譲り受けてなお、俺は先王とは違うのだ
それとも
俺にはまだ、何か足りない大切なものがあるのだろうか
46: 以下、
少女が次いつでて来るのかたのしみ。
47: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:48:35.50 ID:2MQxt6/70
:::::::::::::::::::::::::
魔王は今 一人で森の中を歩いている
その後の謁見室の空気はひどいものだった
申請書を出してから随分長い期間を待ったであろう希望者が その謁見を取りやめて帰りたがるなど混乱もあり
その日はまた休息を取らされることになる程だったのだ
魔王(誰が泣こうと騒ごうと構わぬが…… 騒々しいのが落ち着かないのは確かだ)
一度は部屋に戻ったが、次々とご機嫌伺いに現れる臣下や侍従に いちいち要らぬといっているのは気が滅入ってきそうだった
だからしかたなく、魔王はまた森を歩いていたのだ
48: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:50:05.14 ID:2MQxt6/70
しばらく歩くうちに、森の中にある豊かな泉のほとりに行き着く
休息を取ろうと思った矢先、先日会った少女が対岸にいるのを見つけた
魔王(あの少女… また森の中に来ているのか)
何気なく足がそちらに向かう
向かいながら、何故 少女のほうに歩いているのか違和感を覚えた。確か、休息を取ろうとしていたはずなのに
魔王(とはいえ、ここは俺の敷地内。侵入者を確認し、追い払うのはもっともな行為だな)
当然過ぎる理由があったので、それ以上気にしなかった
湖畔に沿って歩くにつれ、はっきりと少女の姿を確認する事が出来た
少女は泉の傍で、水をくんでいた
魔王「……おい」
少女「!」ビクッ
49: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:50:52.34 ID:2MQxt6/70
少女「え、あ…。 えっと、このあいだの…」
魔王「やはり先日、花摘みをしていた子供か」
少女「はい」
魔王「今日は、何をしている」
少女「えっと… その。水を汲ませてもらってます」
魔王「言ったであろう。この森は魔王の森。水とはいえ、勝手に持ち出すのを見逃すことも出来ぬ」
少女「……では」
魔王「なんだ。また叩かれるとか1年待てとか言うつもりか」
少女「そうじゃなくて… 持ち出さないので、今ここで 少しだけ貰うことは出来ませんか」
魔王「……ならぬ」
少女「どうしてですか?」
魔王「この森にあるものは、全て魔王のものだからだ」
50: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:52:22.68 ID:2MQxt6/70
少女「……じゃあ」
頭を垂れて、無防備な姿をさらす少女
また瞳を閉じ、手を硬く握り締めている
魔王「なんのつもりだ。前にも言ったとおり、実行したわけではない以上 処罰に興味など…」
少女「でも、私はもうこの森にある空気を吸って生きているから」
魔王「何?」
少女「この森にあるものが全て、あなたのものなら 私はもうそれを勝手に使っています」
少女「なので、他に支払えるものもないので叩いてください。それで、空気をください」
魔王「……」
魔王「それは、とんちのつもりか」
少女「と… とんち??」
51: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:57:18.50 ID:2MQxt6/70
魔王「……水は、もういいのか」
少女「水は…欲しいです。でも、空気を吸う方が大事だし。空気の分を叩かれたら、痛いので…」
少女「その上、水を貰う分まで叩かれてしまったら、痛くて帰れなくなるかもしれないので。諦めます」
魔王「諦める……? 空気の分を叩け、というのは 水を譲らせるための口上ではないのか?」
少女「え? えっと… ごめんなさい。言葉が難しくて…どういう意味ですか?」
魔王「おまえは、賢いのか愚かなのか……」
少女「あの… 本当にお金はないんです。なので、代わりに…
魔王「叩きはせぬ」
言葉を遮ってまで返答をしたのは、あまりにくだらない問答の繰り返しを嫌ったからなのか
それとも『許しを得るために叩かれて当然』という少女の行動を嫌ったからなのか
そんな疑問が浮かび 言葉を閉ざした魔王と、支払い方法に悩む少女の間で しばしの沈黙が生まれた
52: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:57:56.50 ID:2MQxt6/70
少女「……わかりました。では、1年後に お支払いに来ます」
魔王「身体で、というつもりか」
少女「はい…。 それしか、私にはないので、それで許してもらうしか…」
今にも泣き出しそうなほどに困った様子で、懇願する視線で見上げてくる少女
どうやら本当に、空気を吸うだけでも支払いを済ませねばならぬと思っているらしかった
魔王「……ならば」
ペシ。
少女「ひゃ!?」
魔王「叩いてやった。そうしてやる義理はないが、これで空気を売り渡したことにしてやろう」
少女「…こんなに軽くでいいなんて。ありがとうございます」
魔王「感謝されるのはおかしい気がするな」
少女「いつもはもっと強く叩かれます。痛くないのは、嬉しいです」
53: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 20:59:14.82 ID:2MQxt6/70
あまりに愚かで、騙されていることに気がつかない少女
皮肉を言ったつもりが、心から深々とした礼を返されては居心地の悪いものだと思い知った
なので、皮肉を言った事を誤魔化すように少女の勘違いに付き合って見ることにした
ちょっとした気まぐれだ
魔王「おまえは強く叩かれるのか。 どのくらいだ」
少女「え、えっと… どのくらい…。あ、それは 4度ほどです」
魔王「回数ではなく、力加減を聞いている」
困ったように、少女は手をあごに当てて思案する
きっと強さを表現する事が出来ないのだろう
少女「こう…… 『びしっ!』っと…」
少女は悩み、彼女を打ち付ける者の真似をして見せた
その手首の動きに見覚えがあった。……馬をけしかける時の、ソレだ
54: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:00:28.85 ID:2MQxt6/70
魔王「おまえ、身体を見せてみろ」
少女「えっ! あ、あの、その!! まだ、身体でお支払いできる年ではないので、1年まってもらわないとっ…!!」アワワ
魔王「……そういった意図ではない」ハァ
少女「ふぇ!?」
強引に服をめくり上げる
案の定だった
青、赤、紫のおおきな腫れ物と 鞭によるミミズ腫れの線
その中には、そのミミズの中心が裂けて ひどく膿んでいる傷もあった
魔王「……これは。消毒もしていないのか」
少女「その。えっと… 綺麗な水はほとんどないし、町には水自体が少ないので、うまく洗い流せなくて…」
魔王「それでこの泉の水を使わせて欲しかった、と?」
少女「……」コクン
申し訳なさそうな表情のまま 黙ってうつむく少女
叱りつけられる子供の姿、そのままだった
55: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:01:33.15 ID:2MQxt6/70
少女「で、でも もう諦めます! 本当にごめんなs
魔王「水を使うことを許そう」
少女「え?」
少女「……えっと、でも。お支払いできるものは…。 あ、でもそっか。さっきの痛くなかったし、それなら今度は水の分をちゃんと…」
慌てたように、でも嬉しそうに頭を働かせる少女
叩かれて許しを乞い、金の代わりに身体で支払うなどと聞いたときはとんでもない育ちの娘だとあきれたが…
律儀に支払いを済まそうとしたり、勝手に盗る真似はしないという点でしっかりとした躾をされているとも言える
この少女からは、打算や野心どころか 一切の悪気も感じられなかった
そういう人間に会うことは 魔王にとって非常に新鮮に感じた
魔王「…今、俺はお前の身体を強引に見た。その代価として、金ではなく水を与えよう」
少女「……!! ありがとうっ!!」ニコ
56: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:02:24.87 ID:2MQxt6/70
少女は満面の笑顔でそう言うと、嬉しそうに水辺に駆け寄っていった
衣服をぬぎ、置いてあった粗末な木の器で水を汲み、小さく傷だらけの身体にかけた
傷口に染みるのか、ときどき 顔をしかめつつも 楽しげに水浴びをする少女
その姿を見ているうちに、今度はしっかりと自分の中に満足感があるのを感じた
その満足感を確かめる事に気をとられ、少女に何も言わぬまま立ち去る
立ち去る魔王を見つけた少女が声をかけたことにも、気づかなかった
魔王(……『与えよう』、か。与えられてばかりだったが、悪くないかもしれない)
魔王(こんな気分は心地いい。今度からは、望むものを与えてみるとしよう)
一人で歩く魔王は、自分自身では気づかない
他に誰もいない以上、誰もそれを魔王に教えることはできないが
魔王はその時
確かに、微笑を浮かべていた
57: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:03:56.24 ID:2MQxt6/70
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自室のバルコニーに設置されたテーブルセットで昼の満足感の余韻に浸っていると、コンコン、というノック音が響いた
視線だけそちらに向けたものの、立ち上がり招き入れる気にはならない。今はこのまま、この空気に浸っていたい
しばらくすると、ゆっくりと扉が開いた
訪れたのは、愛らしい顔をした年頃の女だった
魔王(明らかに様子伺いの侍女ではないな…)
どこかの王侯が、機嫌取りにと寄越したか。
いまだ窓辺で空を見ていた魔王は 椅子に座ったままぼんやりとそんなことを思うだけだ
58: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:05:53.87 ID:2MQxt6/70
女はしとやかにバルコニーへと歩み寄りながら
その着衣をゆるりゆるりとはだけさせていく
月明かりに照らされた、白い肌
腕にも腹にも余計なひっかかりのない、なめらかな曲線だけで描いたような肌だった
女「どうぞ、触れてくださいまし。お情けを頂戴くださいまし」
魔王「ほう。欲しいというのか」
女「はい…」
女は艶やかな紅の塗られた唇を一舐めし、控えたように顎を引いた
そうして僅かに首を傾げたまま、甘えて乞う視線を投げかけてくる
魔王(丁度いい。与えてみたいと、思っていたところだ)
59: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:07:49.27 ID:2MQxt6/70
手を伸ばすと、女はその手を受け取った
支えるようにして手を引かれ、室内に招き入れられる
女はもう片方の手でバルコニーの扉を閉めると そのまま自分の胸に俺の手を当て……
満足そうな微笑を浮かべた
触れた女の体は ほんのりとした甘い香と、しっとりとあたたかな感触があった
直前まで温かな花湯にでも浸かっていたのだろうか
触れているその腕を伝うようにして女は自身の腕を絡ませ、身を寄せる
密着してなおまだ足りぬというかのように、腕が伸ばされ吸い付くようにして首元に絡みつく
両腕で俺の頭を捕らえ、熱っぽい視線を注いで…
そのまま、ゆっくりと唇を寄せ…
女「――どうぞ、私を…… 貰ってくださいまし」
なんだ
欲しいんじゃなかったのか。それならば……
魔王「要らぬ」
掛ける言葉は、決まってひとつだ
60: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:11:21.93 ID:2MQxt6/70
女はビクリと身を引いたあと 頬を紅潮させてわなないていた
そうして慌しく床におちていた絹をひろいあげると、泣きながら、部屋を飛び出していく
魔王「……別にお前など要らないが、欲しがるならば与えてもいいとは思えたのだがな」
女が怒った理由は明白だ
もちろんそれに気づかないわけではない… 
憎悪、嫉妬、憤怒、恥辱。そういった感情は幼いころより見慣れてきた
頂点に属し生活していれば いろいろなものがよく見える
魔王(頂点、か。一国の王とはいえ、思い上がりかも知れぬ)
バルコニーの窓から見上げれば、手が届かない高さに空がある
亜寒帯の国である魔国においても、その日は格別で 凍るように透き通った星空が広がっていた
魔王(今日は、寒かった。 ゆっくりと湯浴みをするのはいいかもしれない)
先ほどの、あたたかな湯にはいっていた為と思われる女のぬくもり
それ自体は 決して悪くはなかったと思う
61: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:12:57.03 ID:2MQxt6/70
その美しい白い肌を思いだした直後、泉にいた傷だらけの少女を対比的に連想した
魔王(暖かい花湯につかる美しい肌の女。それに対し、森の泉で器に掬った水をかける傷だらけの少女……)
魔王(ああ、そうか)
あの少女が水をかぶり、顔をしかめていたのは
傷口に染みるだけではなく きっと、水の冷たさに凍えていたのだろう
水の冷たさに触れる事などない俺は そんなことには気づかなかった
恵まれ、与えられすぎたこの俺は
何もかもをすっかりわかった上で 興味も関心も持てないのだと思っていた
知っていることと一致すれば、それだけでわかった気になっていたんだ
それでは興味など沸くわけもない
関心など持てる訳もない
俺はただ 気づかない事に気づけないほどに 愚鈍だっただけなのだ
この日の夢見は、最悪だった
62: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/16(金) 21:13:35.97 ID:2MQxt6/70
:::::::::::::::::::::::::::
翌日、森にいってみると
少女はいなかった
:::::::::::::::::::::::::::
73: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:41:09.24 ID:7GZzCymT0
数日の間、俺は足しげく森に通った
時間を置いたり半日中待ったりしてみたが、それでも少女は現れなかった
謁見が終わるとすぐに部屋を出て そのままどこかに居なくなる魔王を臣下たちは訝しんだ
だが、機嫌を損ねないことに必死で問いただされなかったのは幸いだった
実際、少女が現れないことに少々気が立っていたのだ
下手なことを問われれば、その者を『要らぬ』と斬っていたかもしれない
その理由の大半は、なぜこれほどまでに少女を探しているのかわからない苛立ちからくるものだろう
だが2週間ほど経ってから、ようやく森の中で少女が花を摘んでいるところを見つけた
少女はまた一段と痩せこけ、青白い顔をしながら 緩慢な動作で花を集めていた
74: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:41:36.97 ID:7GZzCymT0
魔王「……配給のパンを買う銭のために 結局ここを選んだのか」
少女「……っ」
魔王「この森で花を摘んではならない。それを承知で、よくここに来たな」
少女「……ごめん、なさい…」
魔王「……」
少女が来るのを待っていたはずなのに、何故このような物言いになってしまったのか
責めたいわけではない。だが、俺の口から出る言葉は全て威圧的だ
『魔王として 相応しいように』
そう育てられた。 隙を与えてはならない、と…
魔王(……違う。与えようと、決めたではないか)
自分の本心を、ゆっくりと洗い出す
75: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:42:07.96 ID:7GZzCymT0
魔王「……責めた訳では、ない」
少女「え……?」
魔王「追い払い、ここには立ち入りにくかっただろうに よく来てくれたと… そう、言いたかった」
少女「……怒らない…の?」
魔王「少なくとも今日は、歓迎しよう。待っていた」
少女「えっと…? あ、丁度いい叩き相手を探していたとか?」
魔王「その思考回路は、叩き直してやりたいものだな」
魔王「……しばらくの間、見なかった。何故 またここに来ようと思った」
少女「あ…しばらく熱がでて、動けなくて… パンも、買えなくて」
魔王「熱?」
少女「今日は少し体調もよかったから…急いでお金にするために、その…」
魔王「泉の冷たい水を浴びて、風邪をひいたんだな」
76: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:42:38.29 ID:7GZzCymT0
あの時にすぐ気づいていれば
全身に水をかぶるような無茶を諌めることもできたのかもしれないと思う
少女「ち、ちがうよ! 大丈夫、そりゃ冷たかったし熱は上がっちゃったけど…でもそれは泉の水を浴びたせいじゃないよ!」
魔王「違う?」
少女「…熱は、前から続いてたの」
魔王「それなのに、水浴びを?」
少女「近くに住んでるおじいちゃんが言うには…体調が悪いのは、背中の傷が膿んでいるせいだろうって」
少女「綺麗に洗って、冷やして…そうやってしておかないと もっともっとひどくなるって教えてくれたよ」
魔王「なるほど」
少女「それに、熱があって 喉が渇いていたから… 冷たい水も飲みたくて、我慢できなかったし」
少女「本当に助かったの。もっかいお礼を言おうと思ったら、帰っちゃう所だったから…今日は、会えて嬉しい!」
少女「あの時は、本当にありがとうございました!!」ペコリッ
77: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:43:36.86 ID:7GZzCymT0
隙を与えれば、つけこまれると思っていた
それでもいいと思った。つけこまれて、花を持ち帰るくらいなら構わぬと
だがこの少女は あたたかな謝辞で、与えた隙を満たして返してくる
比喩でしか表現できない心地よさがあった
魔王(少女との会話は気分がいい。ならば続けよう)
魔王「普段はどこの水をのんでいる」
少女「地面だよ」
魔王「………どういう意味だ?」
少女「地面に穴を掘っておくとね、雨が降って、そこに水がたまるんだよ!」
魔王「なんと」
貧しいということ
力がないということ
それだけで、そこまでの生活を強いられるのか
78: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:44:38.04 ID:7GZzCymT0
少女「綺麗に洗ったおかげでね、膿みが引いたの。おじいちゃんが言うには、次は食べて精をつけて直す番なんだって」
少女「でも、後で払うって言ってもパンを貰うことはできなくて…。それで、つい…ごめんなさい……」
魔王「……」
『配給品のパンを、買わされる』…彼女は それを当然だと思い込まされている
親切な老人もそれを教えてはいないのだろう。教えれば その老人が鞭を打たれるのは明白だ
不条理を抱かされ、疑問は奪われている この少女
聡明な頭を持っていても 判断に至るだけの知識は持たぬこの少女
野に咲く雑草を譲ってくれと
そのために、身を差し出すからと
それを当然のように 『生きる知恵』として身につけた少女……
79: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:45:07.17 ID:7GZzCymT0
魔王「……今日は、花を取りにきたのだったな」
少女「っ! その…ごめんなさい。でも、もしも譲ってくれるのなら…
魔王「また、叩かれるからと言うのだな」
少女「…それしか、払えるものがないから…」
少女は、申し訳なさそうに顔をうつむけた
魔王「……では、話し相手になってもらおう」
少女「はなし・・・あいて・・・?」
魔王「ああ。聞きたい事がある、答えてくれるのならば代わりに花を与えよう」
少女「聞きたいこと?」キョトン
80: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:45:36.59 ID:7GZzCymT0
魔王「………初めて会った時から、引っかかっていた疑問がようやくわかったのでな」
少女「?」
魔王「そこまでして、何故 お前は生きようとする?」
少女はまっすぐに俺の目を見つめた。だが、顔色を伺っているわけではない
『そんなあたりまえのことを聞くわけがないから』と、続きを話すのを待っているだけのようだった
魔王「……俺が聞きたいのは、それだけだが?」
少女「え」
魔王「答えがあるならば、答えよ。何故、生きようとする」
少女「え? えっと、それは… 生きたいから、かなぁ?」
魔王「生きたいのか」
少女「そりゃ、死にたくないです。生きたいです!」
81: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:46:36.66 ID:7GZzCymT0
魔王「何故だ。聞いた所、お前の現状にいいことなんて無いだろう。辛いことばかりだろう」
少女「……?」キョトン
魔王「違うのか」
少女「んっと… よくわかんないけど… 生きていれば、夢を見ることが出来るよ」
魔王「夢……? 夜に見る、あれか」
少女「ううん。起きてても夢を見るの。うーん… お金が無くても、辛くっても…楽しい事を考えていられるって事かなぁ。それは、生きているからだよ」
魔王「楽しい事……?」
少女「楽しい事とか、ないの?」
魔王「思いつかないな」
少女「あ、じゃあ 幸せなことは?」
魔王「ふむ。何を持って幸せと呼ぶかによるが…幸福の定義があるとすれば要件は満たすのではないだろうか」
少女「な、なにそれ??」
魔王「幸せとはなんだ」
82: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:47:42.08 ID:7GZzCymT0
少女「あ、知ってる。テツガクっていうんでしょ?」
魔王「つまり、お前も知らないのではないか…」
少女「むぅ。幸せなことも、楽しいこともいっぱい知ってるよ!!」
魔王「いっぱい…? 幸福とは質量の増えるものではなく、個体数として増加する物だったのか」
少女「さ、さっきから 何をいってるかわかんないけど…私はいっぱい思いつくよ?」
魔王「……では、そのいくつかを教えてみろ」
少女「んーっとねぇ…」
少女は思案する
目を閉じ、考え込むその側から微笑みを浮かべ…
想像のなかの幸福を、指折り数え始める
少女「おなかいっぱいなこと。自分のお部屋があること… あ、あと可愛いぬいぐるみ!」
少女「ぴかぴかのカガミに、あったかいお風呂でしょ。ふかふかのお布団に、キレーなお洋服も…」
83: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:48:12.28 ID:7GZzCymT0
それから、と 少女は自分の胸に手を当てて、愛おしむ様に言葉を並べ置いた
少女「やさしい、ぬくもり」
少女「あたたかな会話。愛しい想い」
少女「手を伸ばした先にある、人の気配…」
魔王「…………」
少女「えへへ…。溢れそうなほど、いっぱいあるよ! いくらでも、思いつくよ!」
魔王「そう、か」
照れくさそうに、でも誇らしげに笑う少女
魔王「そういうものを 楽しいとか幸せというのか。だが、それならばその殆どは俺も持っている。ぬいぐるみなどはないがな」
少女「あはは。あなたがぬいぐるみもってても、嬉しくなさそうだもんね!」
魔王「? ぬいぐるみは『楽しいもの』ではないのか」
少女「ヒトによって違うよ! 大事なのは、気持ちだもん!」
魔王「気持ち?」
84: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:48:45.06 ID:7GZzCymT0
少女「うん! 今私が言ったのは、私の好きなものだよ。持ってないものだらけ。憧れてるものや、欲しいものだよ!」
魔王「は? ……ではお前は、鏡が欲しかったりするのか?」
少女「私が憧れてるのは、ピッカピカのカガミだよ!」
魔王「どう違うのだ」
少女「えっとね。…えへへ。ひび割れて、顔が8つに見えたりしないやつ」
魔王「……ああ」
貧しい境遇では、鏡も贅沢品なのだろう
ピカピカの、という部分に重点を置く理由に 合点がいった
魔王「では、ふかふかの布団、というのも?」
少女「うん。麻布じゃなくて、ちゃんと中に 綿が入っているやつっていいなぁって思うよ!」
魔王「……では、あたたかい風呂というのは?」
少女「入ったコト無いから。きっと気持ちいいんだろうなーって、憧れてるの!」
魔王「…………」
85: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:49:39.64 ID:7GZzCymT0
かたや 君主
望んで手に入らぬ物などはない
面倒だからと、手に負えないからと すべてを『要らぬ』と断る『魔王』
かたや 貧民
与えられるべき物ですら奪われ、それを得るために また毟り取られる
憧れだから、幸せだからと 瑣末な物をも欲しがる『少女』
はじめから、理解などできるわけがなかったのだ
魔王「俺には、やはりわからぬものか」
少女「なんでわからないのか、わからないよぉ」
魔王「ではわかるまで、もうすこし話をしてくれないか」
少女「あ…。教えてあげたいけど… でも、お金を稼ぐのにお花を集めに行かなくちゃ…」
魔王「……そうか。そうだったな」
86: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:50:18.94 ID:7GZzCymT0
少女「お花…本当に貰っていってもいい? お話が足りないなら、パンを買った後に戻ってきても…」
魔王「まだ本調子ではないのだろう」
少女「え? あ、そう…だけど。でも」
魔王「良い」
少女「……ごめんね。やっぱり、話し相手なんかじゃ…」
魔王「……」
少女「私のこと、叩いていいんだよ。それでだめなら、1年後に身体でだけど…払いにくるよ」
魔王「…………」
どうしても、最後にはこうして後味が悪くなる
俺に何かを与えようとなど、これ以上 持たせようなどとしなくていいのに
どうすれば この少女は
ただ素直に与えさせてくれるのだろう
87: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:51:10.76 ID:7GZzCymT0
魔王(そうだ、ならばいっそのこと…)
魔力を練り、掌の上に靄の球体を生み出す
指を鳴らすと、靄はギュルリと凝縮し、その姿を変えた
少女「魔法!」
魔王「…魔術だ。これは胡蝶蘭の花だな。創り出した物だが本物と変わらない生花だ」
少女「綺麗…! すごいよ、こんなのみたことない!」
魔王「生花…というか、生物を創りだすのは俺の専売特許だ。見た事が無いのは当然で…
少女「ううん…魔法もすごいけど、こんなに白くて可愛いたくさんの花がついた枝、見たコト無い…! それに、すごくいい匂い!」
魔王「……」
88: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:51:51.70 ID:7GZzCymT0
誰もが俺の術を見れば 褒め称え、感嘆する。時には畏怖の対象にされることもある
成しあげた物を評価するよりも、成し遂げる様ばかり評価されてきた
魔王(それらしいポーズさえ取れれば、結果などどうでもよかった)
だが、この少女はその結果に魅了されている
そこかしこに咲くありふれた花を出さなくて良かったと思った
魔王(そうだ、ならばこんな花はどうだろうか…)
次いで、亜寒帯の国ではまず見ることの無いヒマワリの花を数本創りだす
少女は目をまん丸に見開いて、その大きな花に顔をつき合わせていた
少女「な、なにこのおおきな黄色い花!? 綺麗だけどおっきすぎる! 面白いー!!」
魔王「ヒマワリという。このあたりでは非常に珍しい、あたたかい場所で咲く花だ」
少女「すごい、すごいすごい! こんなにスゴイ事ができるのに、どうして楽しくないの?!」
魔王「さあ… なぜだろうな」
少女「本当に、どっちもすごく綺麗…!」
89: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:53:32.92 ID:7GZzCymT0
自分だけしか使えない術は、確かに『すごいもの』なのだろう
だが魔王にしてみれば、職務の一部にすぎない能力。日常の中にある、ありふれたつまらないものだった
目の前で喜ぶ少女を見て、魔王はそこで初めて
その術を使ったことに確かな達成感を覚えることができたのだ
魔王(やはり、純粋に“ただ与える”ということは気持ちのいいものなのだろうか)
魔王「その花を、持っていけ」
少女「え…」
魔王「どうした」
少女「こ、こんなに綺麗で立派な花…、とてもじゃないけど、支払いきれないよ」
魔王「ああ。これに価値をつけるとすれば、お前ではとても支払いきれないだろうな」
少女「う…」
90: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:54:11.52 ID:7GZzCymT0
魔王「だが、これは森の花ではない。俺がお前に与えるために創った花だ」
少女「…じゃあ、貰っていいの…? 代価は…?」
魔王「………」
魔王「『要らぬ』」 
少女「!」ガバッ!
魔王「っ」
突然、少女は抱きついてきた
抱きついたまま、ぴょんぴょんとその場で跳ねている
魔王「おい」
少女「〜〜〜〜〜っ嬉しい!!! ありがとう!!!」ニコッ
魔王「――っ」
喜ばれる 感謝される
心臓が 一瞬、おおきく揺れたのを感じた
91: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:54:38.71 ID:7GZzCymT0
要らぬ、といったはずなのに
いつものように、ただ断っただけのはずなのに
強張るでもなく
怒りと辱めに紅潮するでもなく
少女は 大きくひたすらな感謝をしてくれた
大きく手を振り続けながら、花を両手に抱えて森を去る少女を見送った
見送った後で、自分の胸に手を当てて考える
魔王(……これは どういう感情なのか…)
魔王(これが… 『楽しい』。 いや、『幸せ』? ……『嬉しい』? 嬉しいとはなんだ?)
魔王(???)
『要らぬ』と言ったのに、妙なものを貰った気がした
その日の夜は 自分の中にある初めての感情を整理しきれず、眠ることも出来なかった
92: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:56:32.19 ID:7GZzCymT0
::::::::::::::::::::::::::
翌日、魔王はおとなしく城内に留まっていた
その後も何度か、少しを与えてはその後で『要らぬ』と言うのを繰り返してみた
だがその誰もが 魔王には結局他の何も差し出さぬまま
それぞれが出していた欲望をひっこめるだけ…… 魔王は興ざめしていた
要らぬ、と断る魔王に差し出されるのは
いつだって 相手が無理矢理にでも押し付けたいものばかりだったのだ
魔王(そうだ。どうでもいいものばかりなんだ…)
政治や 権力や 金や 名声
美酒も美女も いまさら欲しいだなどと思わない
そんなものは全て もう、持っている
持っているものばかり渡されても それは要らぬのも道理
魔王(なるほど。つまり、持っていないのか)
おまえらは持っていないのだ 俺の持っていないものを
だからきっと 俺はお前らから なにも欲しがろうと思えないのだろう
93: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:57:24.43 ID:7GZzCymT0
その結論が出たとき、俺はどんな顔をしたのだろうか
それまで饒舌に 大振りな仕草で話をしていた謁見希望者が、動きを止めた
「魔王…様……」
嘲笑。おそらくそんな所だろう
俺は周囲の人間と、そして自分自身に対して 嘲笑を浮かべていた
確かに、持っていない
割れて顔が8つに映るような『不思議な鏡』も
“布団”の役割をおしつけられた『道化のような麻布』も
あたたかい湯船を『知らぬ自分』も
魔王の持っていないものを あの少女は持っている
彼女の住む世界で、彼女から見る景色を 魔王は知らない
魔王は 彼女を知らない
魔王(それならば まず俺が望むのは……)
94: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:58:17.72 ID:7GZzCymT0
::::::::::::::::::::::::::
夜明けの薄闇にまぎれ、町の近くにまで足を伸ばした
花摘みをするのならば、朝露のある時間に近くの街道にいるはず
そう思い、危険を省みずに少女を探した
朝日がすっかり昇りきり、誰かに見つかる前に帰ろうと思ったその時
少女が困った様子で歩いてくるのを見つけた
その手には、割れたワインの瓶が握られている
魔王「少女」
少女「!」
人差し指を口元に寄せ、人気の少なそうな茂みに誘う
林にしては少し深い場所まで来ると、少女は小さく口を開いた
少女「び、びっくりしたぁ。こんなところで何をしているの?」
95: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:58:48.18 ID:7GZzCymT0
魔王「お前こそ、それをどうするつもりなのだ」
少女「あ うん。これに一杯の、綺麗な水をどこかで汲めないかと思って…」
魔王「瓶の先端が割れているな。呑むつもりならば、危ない」
少女「あはは。これは呑むんじゃないよ。お花を活けるのに使おうと思ってるの」
魔王「花を?」
少女「えへへ… こないだ貰ったお花。すごく高く売れたよ。だから一本づつ、売らずにとってあるの」
魔王「そうであったか」
少女「でも、泥水じゃあんなに綺麗なお花が かわいそうだから…綺麗なお水を汲んであげたいなぁって」
魔王「……妙な話だな」
少女「みょう?」
96: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 01:59:14.27 ID:7GZzCymT0
魔王「お前自身は…その泥水の方を飲むのだろう」
少女「うん。飲むよー」
魔王「それなのに、花には綺麗な水を汲むのか」
少女「うん」
魔王「なぜだ。むしろお前こそ、綺麗な水を飲むべきだろう」
少女「え? だ、だって…あのお花はすごく綺麗だから、泥水じゃ可哀相じゃない」
魔王「では、その泥水を飲むおまえも可哀相なのだな」
純粋で無垢なこの少女は、取り上げて硬くなったパンを売り渡され、泥水で喉を潤す
その少女を、可哀相と言わずしてなんと言うのか。それくらいはすぐに分かった
だから少女について知ったことを、確認するように反芻したのに…
少女「んー…。私は 可哀相じゃないよ?」
即座に、否定されてしまった
97: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:00:02.26 ID:7GZzCymT0
魔王「……何故?」
少女「えへへ。だって私は、眼を閉じるだけで 尽きることなくたくさん幸せなことが思いつくから!」
魔王「………」
少女「帰ったら、この瓶に花を挿して飾るんだ。頭の傍に置いたら、きっといい匂いがすると思うの!」
魔王「……花の香りがして、どうなるというんだ」
少女「そうしたらきっと いい夢がみられるでしょ? やっぱり、楽しみ!」ニコッ
割れたワインの瓶を抱えて
言い換えれば、あまりにも不憫なその状況におかれても、なお……
この少女は
幸福を、失わずに生きている
98: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:00:31.17 ID:7GZzCymT0
魔王「おい、お前」
少女「?」
魔王「『尽きることなく、幸せや楽しいことがある』、といったな」
少女「う、うん」
魔王「ならばその幸せとやら、俺に売ってくれないか」
少女「は、はぁ!?」
魔王は本気だった
少女「え、幸せを売るって……」
魔王「空気を買うために身体を売ろうとしたお前なのだ。おまえの幸せを 他の何かで買うことはできないのか」
少女「う、うんー?」クビカシゲー
99: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:01:02.02 ID:7GZzCymT0
魔王「では、花ではどうだ。お前は花が好きなのだろう」
少女「花で? 幸せを、買う?」
言うやいなや、魔王は指を打ち鳴らす
パチン!という音と共に、大気中の魔素が花びらとなって周囲に降りそそいだ
少女「うわぁ…!!」 
魔王「これで、どうだろうか」
少女「〜〜〜〜〜〜っくぅぅっ!」
少女は大喜びで 降り注ぐ花を浴び、積もるそれを散らし、辺りを駆け回った
それだけでは興奮が冷めないらしく、はしゃいで、魔王の手を取って廻りはじめた
魔王「な、おい…」
少女「すごいすごい! まるで、春の妖精になった気分!! 見て、動くたびに花びらが舞うよ!」
魔王「あ、ああ」
しまいには歌などをうたい、魔王の腕をさんざんに振り回しながら踊り始めた
少女はひとしきり花びらの雨を堪能し、降り止むまで止まる事が無かった
100: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:03:06.51 ID:7GZzCymT0
::::::::::::::::::::::::::::
少女「はふぅ…」
魔王「興奮しすぎたようだな」
疲れて、積もった花びらでつくりだしたベッドに座る少女
その横で、ぐったりと疲弊した魔王も身体を横にした
すると少女は身体をずらし、自らの膝を枕として提供してくれる
晴天、木立の間をまぶしい光が縫う 心地よい時間
しばらくの間、魔王と少女はそのままで休憩を取っていた
預けた頭の下にはぬくもりがあり
耳には幼く、優しい歌声が届く
そして目を開けると、疲れた魔王を気遣う穏かな笑顔があった
魔王(……これは)
101: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:03:42.67 ID:7GZzCymT0
ぼんやりとしていると、鈴を転がしたような可愛いらしい声が聞こえた
少女「でも、これじゃあ 花も幸せも 私が貰ったコトにならないかなー?」
少女が、真剣なまなざしでつぶやくのが見える
少女「うーん…。やっぱり、私ばっかり貰ったことになる気がするー…」
少女「ねえ、私は代わりに 何をあげたらいいかなぁ。ね、聞いてる?」
少女「こんなにたくさんの幸せを貰っちゃったら、命でもあげないとだめかもしれない〜…・・・って、ねぇ? あれ?」
やわらかな眠りに誘われながら、魔王は 幸せというものが何か・・・
楽しさ、可笑しさというのが何か わかったような気がした
102: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:04:47.47 ID:7GZzCymT0
:::::::::::::::::::::::::
魔王(……む。眠っていたか…)
魔王がうたたねから眼を覚ました時
少女はなんと まだ悩んでいた
少女「うー…。ほんとに、何を返せばいいかなぁ…」
魔王「……」
少女「なにか、返したいんだけどな…。できること、あげられるもの なにがあるかなぁ…?」
魔王「……」
少女「叩いたり、身体でーとかは 嫌みたいだし…」
103: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:05:33.27 ID:7GZzCymT0
少女「うぅ、他になにがあるかなぁ…充分に価値のあるもの…? そんなのあったら、とっくに売っちゃってるよお!」
魔王「……」
少女「何かないかなあ… なんか、なんでも… うーん、うーん…!?」
惜しみなく。ただ、幸せだったから それに見合うものを返したいと言う
ただそれだけで 惜しみなく捧げたいという 無邪気でまっすぐな願い
少女「何か、欲しいものないのかなぁ… 私の持ってるものであれば、なんでもあげるのにな…」
そう呟いてうつむいた時、魔王と目が合った
104: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/19(月) 02:06:47.41 ID:7GZzCymT0
少女「な゛っ。お、起きてたの?」
魔王「……今の言葉は、真実か」
少女「え? あ、うん! なんかあるなら…なんでも言って!」パァッ
魔王「ならば、俺の后となれ」
少女「」
少女を見て、おもわず口から飛び出したのはそんな言葉だった
口をあけたまま固まっている少女が、ようやく「私が…?」と呟いたのを見て可笑しいと思った
でも一番可笑しいのは
自分が何故そんなことをいったのか 自分ではわからないという事だった
114: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:41:35.55 ID:INjK0txM0
::::::::::::::::::::::::::::
その日のうちに、魔王は少女を城に連れて帰った
城中がざわめきたったが、魔王は素通りして自室へと少女を招き入れる
少女「……あ、あの。私」
魔王「ああ…注目を浴びて不快だったか」
少女「そ、そうじゃなくて。あの、ここって…」
魔王「俺の城だ」
少女「……本当に、ホンモノの魔王様なんだぁ」
魔王「疑っていたのか?」
115: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:42:03.09 ID:INjK0txM0
少女「エライヒトは、エライヒトだから。魔王とか、あんまり気にしてなかった」
魔王「お前にとって…軍属の駐在軍であろうと魔王であろうと、同じくへりくだる相手に過ぎないと?」
少女「むぅ。だって、エライヒトはいっぱいいるから…ヤクショクとか言われても、あんまりわかんないんだもん…」
魔王(……最下層、か。そんなものなのかもしれないな)
例えその“エライヒト”の頂点に立とうとも、この少女には意味がない
有象無象と同じ対応。有象無象の一人に過ぎないと言う訳だ
それを思うと、少し苛ただしい気分になる
少女「あ゛」
魔王「どうした」
少女「あの… ご、ごめんなさい!!」
自分の非礼に気がついたか、と 視線だけで話の先を促す
少女「お花の事とか…あんまり嬉しくて。エライヒトなのに、そんな風にぜんっぜん思えなくなっちゃって…魔王様とかすっかり忘れてお話をしてました!!」
魔王「」
116: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:42:50.55 ID:INjK0txM0
非礼どころか、もはや侮辱のレベル
ここに臣下が居なくて本当によかったと思った
だが『魔王』という立場に強い誇りがあるわけでもない
魔王自身は、魔王として扱われないなんて事はどうでもよかった
むしろ
魔王(こいつは、俺を『魔王』として見ていなかった…。ならば『何』と話をしていたつもりなんだ?)
話せば話すほど、疑問が募る
あちらこちらへと興味がわく
少女「今度からはちゃんと、魔王様って呼ぶからねー!」ニコー
魔王(心がけは立派だが、肝心なのは呼称より態度にあるのではないだろうか)
言葉にはしない
あれほど話をしたいと思っていたのに、言葉にする気になれない
諌めようとは思えなかった
諌めてしまえば、きっと従うだろう。魔王が服従できない相手などいないのだから
117: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:43:33.50 ID:INjK0txM0
少女「魔王様! ねぇねぇ、コレは何? すごいね! こんなにいっぱいの立派なもの、見たコト無い!」
少女「う、うわぁぁぁぁぁぁ!! すごいーーー! お布団がふかふか! 屋根がある!? 布団のお部屋なの? お部屋の中にお部屋なの!? なんで!?」
少女「! コレ、壁じゃなくて鏡だ!! ピッカピカで、しかもすっごいおっきい鏡だ!? か、顔だけじゃなくて 身体も全部写るよ!?」
魔王「……気に入ったか?」
少女「……こんなおっきい鏡がもしも割れちゃったら、私が8人になっちゃうと思うと…ちょっと怖い」ブルブル
魔王「」
服従するのは簡単だろう
だけれど、放っておいた方がこんなに可笑しい
手に入れたいと思ったはずなのに、手にしてしまうのは勿体無い
118: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:44:22.63 ID:INjK0txM0
欲しいのか、欲しくないのか わからなくなってしまった
もしかしたら 自分の物になどしなくていいのかもしれない
結局、そんなことはどうでもいいんだ
ただ
魔王「8人に増えるのならば、割ってみよう」
少女「えええ!? やだよ! 割っちゃだめぇ!!」
こうして居てくれることが『嬉しい』と知っただけで、満足だった
119: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:45:21.17 ID:INjK0txM0
:::::::::::::::::::::::::
厄介ごとを避けるために、臣下や従者たちへは何も説明をしなかった
后にしようと思った、などと言っては 今度はどんな混乱になるかわからない
ましてや、本当に『手に入れたい』のか 疑問すら持ってしまった身だ
少女を連れ帰りそばに置いたまま沈黙をする魔王を見て
城内には様々な憶測が飛び交った
「ペットのおつもりじゃないかしら」
いつの間にかそんな意見に憶測が集中し、そこで収まった
夕方には数人の侍女が魔王の部屋を訪ねて来て……
メイドA「魔王様のお部屋を汚されては困りますので、身体を洗いましょう」
メイドB「まぁ、ひどい傷。魔王様の側にこのような穢れがあるなんて」
メイドC「麻服? 魔王様の品位と沽券に関わります。いくつか違うものを用意しなければ」
少女「あ、あのっ あの!?」
魔王「……」
少女が困惑しているのに気がついたが
衣服を脱がされ始めたのを見て、魔王は何も言わずに部屋を出た
120: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:45:51.63 ID:INjK0txM0
魔王が時間を置いて部屋に戻った時、既にメイドたちは退室していた
一人部屋に残されていた少女は、真っ赤な顔をしてモジモジと立ち尽くしている
鏡と魔王を交互に見ては、うつむいて口ごもって、最後には座り込んで動かない
魔王(どうしたのだろうか)
少女が着ていたのは 夢にまで見て憧れた、美しい絹の一級品のワンピース
夢見心地でお姫様気分を味わいつつも、あまりの照れくささに披露するのもはばかられる代物
少女(な、なんで 何もいってくれないの〜〜〜! どうしようっっ//)
少女が着ていたのは メイドの一存で即時に数着の用意ができるようなワンピース
落ち着いたならば、『后』として充分に相応しいものを贈るべき魔王にとっては一時的な着替えに過ぎない代物
魔王(ふむ。衣装か…気付かず放置していたが必要なものだな。早いうちにきちんと整えねばならぬ)ハァ
少女(うぅ。こんなに立派なお洋服、やっぱり似合わないのかなぁ)ハァ
121: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/20(火) 12:46:20.99 ID:INjK0txM0
こうして始まった魔王城での生活だったが
なんだかんだとうまく物事が進んでくれた
翌日以降
恥ずかしそうに魔王の後ろに隠れてどこまでも付いて回る少女を見た者によって
『少女=魔王様のペット』という図式が 広く城内に認識されていったからだ
魔王の機嫌を損ねないよう、そのペットである少女は誰からも虐げられることはない
魔王の招待客として扱われていたら、過度の接待を受けて気後れすることになっただろう
后として紹介されていたならば… 妬みの的として、どこかの謁見希望者に暗殺されていたかもしれない
ペット、という周囲の待遇
それが今の少女にとっては、快適で居心地がよく素晴らしい生活だったのだ
それが丁度よかったと気がついたのは、もうしばらく後のことだが……
ともかく、こうして少女は
ゆっくりと魔王城に溶け込んでいくことができたのである
137: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:24:10.02 ID:WWLfwMQc0
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謁見の間に少女も同席するようになってから数日
事情を知らない謁見希望者の間には 城内とはまた少し違った噂が流れ始めた
「あれは、どこかの国が秘密裏に魔王様に捧げた娘なのではないか」
少女自身は、いつも魔王の後ろに隠れている
見え隠れする場所で姿を現さない少女に対して、日に日に詮索の視線は強まっていった
好奇、羨望、嫉妬、侮蔑。そういった種で、あからさまに少女に向けられた物もあった
魔王(不愉快だ)
ある日、魔王は謁見を中断し 少女を離席させることに決めた
少女を視線から守るためにマントに隠し、無言のまま退室する
部屋に少女を残し、謁見の間に戻ると… 扉の向こうでは また混乱が起きていた
138: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:24:50.04 ID:WWLfwMQc0
「魔王様はどうなさったんだ。謁見はどうなる!?」
「あの娘に何かあったのでは? あの様子、寵愛しているようにも見えるではないか」
「俺がこの謁見の機をもらうのに、何ヶ月待ったと思ってる! あんな貧相な小娘…」
臣下B「皆、落ち着いて欲しい。ともかく魔王様のご様子を伺いに行かせる。申し訳ないがしばし待機いただきたい」
「大体、噂に聞いていたがあの小娘はなんなんだ」
「どこの国だ、おまえの所から出してきたのか!?」
「何!? うちならばもっと立派な美女を―― そういうお前の所なんじゃないのか!?」
「あんな金魚の糞のようなガキを、どうして我が国が――」
来訪者同士の、小汚い罵り合い
突然に魔王が居なくなり、緊張のタガが外れたせいもあるのだろう
互いの言い合いがエスカレートしていく内に、その言葉は全て少女をなじる物に代わっていく
139: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:25:23.81 ID:WWLfwMQc0
臣下A「貴様ら、いい加減にしろ! あの娘はどこの国かより捧げられたものではなく 魔王様のペットで――
魔王「后だ」
「「「!!!?!?」」」
扉を開けると同時、そう一言だけ宣言する
部屋中の者達を見渡すと 一様に皆、凍りついた
冷え切った空気の中を、まっすぐ玉座へ歩く
ドサリと乱暴に椅子に腰かけ、肘掛に頬杖をつく
謁見途中だった組の3人は 蒼白の表情で膝をつき、微動だにしない
魔王「お前たちか。貧相な小娘、金魚の糞…そのように言っていたな」
謁見希望者「「「!!!」」」
魔王「臣下。お前もあいつをペットだなどと言っていたが… 誰がそう言った?」
臣下A「そ、それは……」
140: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:25:49.73 ID:WWLfwMQc0
魔王は、魔王だ
誰もが彼の才能に畏怖し、視線に硬直し、その言葉に希望を見失う
それは決して 先入観や第六感的なあやふやなものに起因するわけではない
生まれながらに、彼は次代の魔王としての教育を受けてきた
代々その血に受け継がれてきたものは 威圧感あるその風貌だけではない
怒らせれば一人で国を破壊することも可能な魔力――武力
気に障れば、一声で経済貿易を停止させてしまえるほどの、権力
それだけではない
誰かに先手を打たれてしまえば…あっという間に有利に事業を成立されてしまう
人も、土地も、金も 全ては彼の手の内だ
魔物を生み、操るかのごとく統制に置くその支配力は、何よりも恐ろしい
王族も貴族も富豪も商人も、些細な魔王の言動にすら人生を左右されかねない
知れば知るほどに、震え上がる
夢物語ではなく…現実に、王としてそこに存在する“絵に描いたような恐怖”
それが、魔王という存在であった
141: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:26:39.08 ID:WWLfwMQc0
魔王「あれは、俺の后にと考えている娘だ。俺自身で連れてきた」
謁見希望者A「なっ」
魔王「それを、そのように貶めてくれるとは。俺の目が節穴だと言いたいのか」
謁見希望者B「とんでもございません! 自分はそのような発言をしておりませぬ!」
魔王「では残りの二人…」
謁見希望者A/C「「!!!」」
魔王「………だけでは、ないな。この場にいる全員が等しく似たような思いを持っているのだろう」
「……………」
凍りついた空気は、次第に黒々とした粘性を持って皆を捕らえていくようだった
ドロリと粘りつくその音が聞こえそうなほど、重く沈殿した雰囲気…
箱入りの娘などがいれば、それだけで失神しそうなほどの緊張感が部屋中に纏わりついている
142: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:27:16.72 ID:WWLfwMQc0
魔王「否定しないか。ならば、この場にいる全員―― 要らぬ」
阿鼻叫喚と共に、威圧に押し出されるかのように皆一斉に逃げ出した
ある者は、殺されると思った
ある者は、顔を覚えられては堪らないと思った
ある者は、真っ白な頭でよろめきながら――ただ、ここに居てはならないという危機感だけで逃げ出した
部屋には、頬杖をついたままの魔王と…
その役割から逃げることすら出来なかった忠義者の臣下2人だけが、残されていた
夕刻には、少女の耳にもその話は届いていた
143: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:28:15.92 ID:WWLfwMQc0
:::::::::::::::::::::::::::
その晩、魔王の自室――
そこだけは魔王城で唯一 可愛らしい笑い声が響き、穏かな空気が流れていた
魔王「……まったく、あれならば蜘蛛の子の方がマシだ。静かに散る」
少女「きっと本当に怖かったんだろうねー。見てみたかったなぁ」
魔王「見たい? お前は魔王が怖くないのか」
少女「? 魔王っていうのは…怖いものなんでしょ?」
魔王「では、やはり怖いのだな」
少女「ううん、今は怖くない。でも、本当は怖いもので、それが魔王様なら、見てみたかったなぁ」
魔王「……怖いもの見たさと言うことか。 怖いほうが良いか?」
少女「怖いの嫌い」
魔王「」
144: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:29:20.10 ID:WWLfwMQc0
少女「でも…… 怖いのも魔王様なんでしょ? やっぱり見たかったなー」
魔王(…・・・??)
少女は頭を悩ませる魔王を見て、また笑う
その後で「あれ…もしかしてわかんないのって、私の説明が下手なせい??」と 少女のほうが頭を悩ませはじめた
少女「魔王様は、つよいんだね。それに、やっぱりえらいんだ」
しばらく後で、少女はにっこりと笑い そんな言葉を説明に代えた
魔王はこれ以上の理解は難しそうだと、溜息をひとつ吐いて思考を中断する
魔王「まあよい。…しかし、后だと宣言してしまったからな。以降は城内での対応も変わるだろうな」
少女「そうなの?」
魔王「それから……様付けでも構わぬが、もう少し気安く呼ぶとよいだろう。むしろ后として、そう振舞うべきだ」
145: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:29:48.89 ID:WWLfwMQc0
少女「気安く? どういう風にしたらいいの?」
魔王「呼びたいように、過ごしたいように。王の伴侶として堂々と自由に振舞え」
少女「呼びたいように…?」
魔王「ああ」
少女「じゃぁ……っ!」
少女「 『おにいちゃん』って、呼んでもいい!?」
魔王「ブハッ!」 ゲホッ… ゴホッ、ゴホゴホ!!
少女「……ま、魔王様…? 大丈夫…?」ソー…
魔王「おい……『后』だと、言っただろう?」
少女「なんでもいいって言ったから… 呼びやすい、呼びたい呼び方。駄目だったの?」
146: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:30:34.87 ID:WWLfwMQc0
魔王「お前は… 俺を“兄”のように思っているのか」
少女「わかんない。魔王様は魔王様… でも」
少女「……なんとなく。友達とかより身近で、頼れる。エライヒトでも、緊張しない。そばにいると、落ち着く気がする。だから…おにいちゃんかなって」
魔王「……」
少女「だめ?」クビカシゲー
魔王「……ああ、まあ。…そうだな」
魔王「さすがにそのような趣味を疑われては困る」
少女「駄目ってこと? 『おにいちゃん』…だめ?」
魔王「……そう、呼びたいのか」
少女「うん」
147: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:31:11.38 ID:WWLfwMQc0
后―― 妻として迎える存在に、兄として慕われる
理屈と感情のどちらによるものかは分からぬが、モヤモヤとした気分になる
だが、それを望んでいるのならば、それを与えてみたい
そうするためにこそ、彼女を迎えたのだから
魔王は、深い溜息をついてから ひとつの提案をした
魔王「では、公私で使い分けるとよい」
少女「コウシ?」
魔王「ああ。人前に出る時と、俺と二人でいるとき。そこで呼び方や態度を変えるのだ」
少女「む、むずかしそうだね? ……魔王様も、コウシを使うの?」
魔王「言葉が妙だな。 公私とは公事と私事の二つを合わせた意だ。公私は“使い分ける”ものだ」
少女「えっと…じゃあ。魔王様も、公私を使い分けるの?」
魔王「俺は、公私共に魔王だからな。使い分ける必要などない」
148: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:34:47.85 ID:WWLfwMQc0
少女「ぁぅ。魔王様もしないなら、私もしなくていいよ?」
確かにそのままで構わないとも思う
少し考えてから…そのまま、言葉を続けた
魔王「だがおまえは、公の態度を学ぶことで魔王の后らしい素養を身につける事ができよう。多くの知識、常識と共に お前の為になるはずだ」
少女「后らしい素養?」
魔王「立ち居振る舞いや、言葉遣い。そういったものもあるな。上品さ…一流の姫らしさ。王族らしさ、とでも言おうか」
少女「……え… 私でも、なれるの…?」
魔王「后とした時点でその地位は王族だ。今はその身分に相応しい素養の話を…
少女「私が…お姫さまみたいに、なれるの!?」
目を輝かせて、興奮の色を隠せない少女
魔王は言葉を止め、そんな彼女の様子を見つめた
149: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:35:46.81 ID:WWLfwMQc0
少女は后というものが何か、よくわかっていなかったのだ
正確に言えばイメージしにくかった
童話などで見聞きする后は、“厳しく意地悪な母”の役割が多い
少女は、自分がそれになるということが理解できずにいた
だが、魔王が口にした『姫』という単語は、その立場のイメージが容易だったらしい
想像の中では、きっと童話などで語り聞いた 洗練された淑女の姿に自分を重ね合わせているのだろう
まさしく憧れた―― 永遠の、夢の姿だ
頬を紅潮させるほどに、うっとりと空想にふける少女
魔王は複雑な思いと同時に、可笑しさも感じた
魔王「ああ。望むのならば、必ずなれるだろう」
少女「えへへ…… じゃあ、がんばる! わぁいっ!!」
150: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:36:17.92 ID:WWLfwMQc0
無邪気にはしゃぐ少女をみて 魔王は心温まるのを感じる
少女に何かを与えると、幸せを返してくれるのだと、再認識した
魔王(共存関係にあるとでもいうのだろうか。そうか、后とはこういうものか)
知識や、知恵
多くのものを与えよう。望むように、望むものを…
そうして、幸せを売ってもらうのだ
少女は尽きることのない幸せを分ける代わりに 知識や知恵を得る事が出来る
生きるのも容易くなろう。お互いに両得な関係だ
魔王はそんな事を思いながら
目の前で飛び跳ねる少女をいつまでも眺めていた
151: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:36:53.75 ID:WWLfwMQc0
:::::::::::::::::::::::::::
それから、一月
少女は賢く、教えられた事はすぐに吸収していく
理解も早く、その様子は一月前とは見違えるほどのものになった。だが――
少女「魔王様。本日はまだご公務をお続けになりますか?」
魔王「いや、今日はもうやめだ」
少女「では、ご入浴の準備など確認して参ります、どうぞごゆるりと」
魔王「ああ」
少女「その間、お酒などをお持ちしますか?」
魔王「要らぬ。お前の分は、好きなものを侍女に頼んでおくとよいだろう」
少女「はい、魔王様」
知識、礼儀、マナー、言葉遣いは、問題なく習得できた
だが、侍女や謁見希望者の連れてくる娘達の振る舞いを模倣する少女は決して后らしくはなかった
152: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:38:33.07 ID:WWLfwMQc0
母である后が、后らしく振舞っていた決め手が何であったかなど覚えていない
興味を持たなかった。だから魔王もアドバイスも出来ぬまま、違和感だけを抱えていた
内心で少女を后に迎えることを快く思わない臣下達もまた
魔王の機嫌を取るために表面上だけは相応に扱ったが…… 本当に必要な忠言はしなかった
そして謁見に来る者や来客たちは――
「ほぅ… これは面白いな」
「あれはあの時の、小娘?」
「しっ。声が大きいぞ…聞かれたらばまた二の舞だ」
「しかし、変われば変わるものだな。コソコソと、金魚の…… っ。いけない、いけない」
「だが、あれではいくら出来がよくとも せいぜい一流の“侍女”だ」
「ははははは! たしかにな。后とは呼べまい。あのような娘、いずれ飽きて放り出されるさ」
「ではそれまでに、次こそは我が領地から 選ばれるべき上等の娘を…」
「いやいや、魔王様にもご興味があることはわかったのだ。こちらも負けてはいられない」
「ははは…!」
少女を値踏みしては嘲笑と侮蔑の的にし、その存在を無視して……
ただ、それぞれの欲望と思惑を魔王に与え続ける
153: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:39:32.47 ID:WWLfwMQc0
少女にとってかつて経験のない、勉強漬けの日々
言葉の選び方、食事を取る仕草、歩き方… 
生活のほぼ全てを、慎重に努力して 憧れた姫らしくあるように務めあげていた
だが、そんな彼女の周りにあるのは
表面的で心のこもらない臣下たちの態度
ふと見上げた先にある、嘲笑の視線
時折、耳に入ってしまう来客たちの侮蔑の言葉……
それらは、少女の心を 確実に蝕んでいった
魔王の部屋にこもりがちになり、魔王にくっついたまま
言葉少なに、すぐにうつむいてしまう。笑顔も、あまり見なくなった
そしてある晩、少女は魔王の胸に頭を預けて… ただ、泣き続けた
魔王はその涙を止める術を持たず、立ち尽くすしか出来なかった
初めて知った、無力感だった
154: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:40:53.54 ID:WWLfwMQc0
::::::::::::::::::::::::
魔王「…………」
少女「…………っく。ひっ………う…っ」
少女の涙が枯れるまで、魔王はただその胸を貸し続けた
何も与えることが出来ず、苦しい思いをした
泣き止んだ少女はゆっくりと涙をぬぐうと…ぽつりぽつりと言葉を漏らした
少女「……ね、おにいちゃん…」
魔王「なんだ?」
少女「……私、まだ頑張りが足りないのかな」
魔王「そんなことは…
少女「でも。いっぱい頑張ったけど……やっぱりお姫様なんかになれないよ。もう、これ以上どうしたらいいのかわかんないよ」
魔王「……」
少女「少し、疲れちゃった。やっぱり私には無理だったんじゃないかなぁ…」
魔王「…………」グッ
155: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:42:44.72 ID:WWLfwMQc0
この少女は 知識や知恵、物―― そういったものを充分に身につけてきた
もう そういった“持っているもの”では幸せを売ってもらえないのだろうか
それとも、彼女は俺にたくさんの幸せを与えすぎて… 無くしてしまったのだろうか
魔王はうつむいたままの少女をみながら、そんな考えにしか至れない
本当にわからなかったのだ
魔王は生まれながらに 今の少女のいる環境に置かれていた
人々から向けられる視線の違いなど知らなかったし、そういうものだと思っていた
少女が生まれた環境も、育った環境も知らない魔王にとって…
何が、彼女をそこまで参らせているのか 知る由もなかったのだ
魔王(他に何か、こいつが持っていないものはないだろうか。彼女に必要なもの…)
与える者、与えられる者
魔王にとってこの世界は そういったものに過ぎなかった
156: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:43:31.52 ID:WWLfwMQc0
魔王「……そうだ」
少女「おにーちゃん…?」
魔王「お前が“公”の態度を身につけるように、俺も“私”の態度を身につけるように努力をしてやろう」
少女「おにいちゃんが…? そうすると、どうなるの?」
魔王「俺がお前にとって、より気安い態度となるかもしれぬ」
魔王「それに……忘れていたが。お前が俺の后ならば、俺はお前の伴侶なのだ」
少女「ハンリョ?」
魔王「仲間のことだ。共に努力をする者、婚姻相手… そういった者を示す」
少女「おにいちゃんが…仲間? 一緒に、頑張ってくれるの?」
魔王「ああ」
157: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:44:22.97 ID:WWLfwMQc0
少女のもたないもの、それは“仲間”だ
だからそれを与えようと思った
そうしてできることならば、また幸せを譲って欲しい
元のように……今までのように。
魔王(“仲間”を引き換えに、幸せと換えてくれるだろうか)
魔王(魔王に値段をつけるとしたら 相当なものだろう。まあ売れるようなものでもないし、買うようなヤツもいないだろうが)
魔王(これで買えない幸せならば、もはや諦めるしかないのかもしれない)
そう思いながら少女の反応を待つ
口数も減り、表情もうつむいていてわからない少女の様子を見るうちに、魔王は『不安』を感じるようになった
魔王(…ああ、そうか。“魔王”なんていう仲間は、いらないという可能性もあるな)
魔王(持っていなくとも、“欲しくないもの”もあるだろう…。 魔王だなどと、言われてみれば 俺自身でも願い下げのシロモノではないか)
158: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:44:50.40 ID:WWLfwMQc0
だとしたら、魔王には安い価値しかないのだろうか
魔王の価値とはなんだろう
少女は俺にどれほどの価値をつけるのだろうか
俺は、不要ではないだろうか。 入り用だとしても高価だろうか安価だろうか……
疑問は、湧き出す側から不安へと変わっていく
魔王(……そんなことはどうでもいい。俺は俺、魔王なのだから…)
そう自分に言い聞かせて、馴染みの無い“不安感”を払拭する
それなのに 少女の答えを促すのがためらわれるのは、何故なのだろう
159: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:46:37.82 ID:WWLfwMQc0
いつの間にか、少女は魔王の顔をじっと見つめていた
随分長く、思案にふけってしまっていたらしい
焦点が合うと、少女はいつか見た真剣なまなざしと同じ目をしているのに気付く
少女「おにいちゃんが… 一緒に がんばってくれる……」
魔王「………まあ、そういうことだが… …それでは駄目だろうか……」
生まれ持った筈の“威圧感”はどこへ消えてしまったのだろう
自分でも、その自信なさげに漏れ出た声に驚くほどだった
少女「私と一緒に、同じように? おにいちゃんは、公私を使い分ける必要はないんでしょ?」
魔王「…ああ。“私”など使う機会もない。だが…そうだな、おまえの前でだけ違う態度を取るというのでは納得できないだろうか…?」
少女「わ、私だけ…? ど、どんな態度になるの?」
魔王「……済まない。具体的になど想像はまだできぬ」
少女「えええ……それじゃわからないよぉ…」
160: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:47:39.01 ID:WWLfwMQc0
ガックリと肩を落としかけた少女を見て、慌てて言葉をつむぎだす
魔王「が、お前が俺を兄のように慕うのならば。俺をお前を妹のように慕おうと思う」
少女「!!」パァァ
眼を大きく見開いて、期待の表情を浮かべる少女
それを見て、また少し ほころぶ様な温かさを手に入れた
どうやら、“仲間”でも幸せを譲ってもらえるらしい
やはりこの少女は、幸福を失ってなどいなかったのだ。魔王は人知れず安堵した
少女「ね、じゃあ…! お前、じゃなくて。少女って呼んでみて! おにいちゃんみたいに!」
魔王「それくらいならば。……『少女』」
喜ぶならばと、たっぷりと情感をこめて 少女の名を呼んだ
少女「怖い」
魔王「」
161: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:48:05.22 ID:WWLfwMQc0
含むべき情感を間違えたらしい
言われてみると、“威圧感”以外に言葉に乗せる物など知らなかった
溜息をつき、弁解を試みる
魔王「…これから努力する、と言ったのだ。そう簡単には身につくものではない」
少女「そっか… うん! そうだね! だから一緒に頑張るんだもんね!」
魔王「うむ」ポン
少女「ひゃ!?」
魔王「……」グッ…
少女「お、おにいちゃん? ……何してるの?」
魔王「…………」ナ、ナデ…
少女「おじいちゃんがよくやってる、乾布摩擦…?」
魔王「断じて違う」
162: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:49:10.75 ID:WWLfwMQc0
少女「……?」
魔王「……ハァ。人の子がするように、撫でようとしている」ナッデー
少女「撫でてくれてたの? …………ぎこちないね?」
魔王「力加減とさのバランスを思案していた」
少女「ぷっ」
魔王「何故笑う」
少女「あははは! 撫でるやりかたを知らないなんて、魔王は私よりも公私を覚えるのが大変そうだね!」
魔王「俺にできぬ事など無い」
少女「じゃぁ、ちゃんと撫でてー!」
魔王「…………」グニグニグニ
少女(く、首がもげる…っ)
163: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:52:43.14 ID:WWLfwMQc0
魔王「………どうだろうか…?」
少女「……えへへ。ありがとう、おにいちゃん」ニコ
優しく微笑んでくれる少女に、達成感を覚えた
その達成感が確かなものであるか確認したくて、口が勝手に動き出す
魔王「満足したか?」
少女「これから一緒に、がんばろうね!!」
魔王「」
少女「?」
遠まわしに物事を伝えられる事はよくあったが
そうして伝えられる事象の中で、一番ショックだったような気がした
魔王(余計なことを聞かなければよかった)ハァ
少女はそんな気も知らず、頭に載せられた俺の掌に 自ら頭を撫で付けた
うっかり潰してしまわぬように、そのままにしてやらせておくと
おもしろがって俺の腕の下をくぐったり、指を折り曲げたりしはじめる
少しためらったが、腕を曲げて軽く少女の首元に絡むようにしてやった
くすぐったそうに首を縮め、今度こそ少女は満足そうに笑った
164: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:53:14.64 ID:WWLfwMQc0
間違って首を絞めてしまわぬように気をつけていると
少女がその体重を預けてよりかかってくる
そうしたいのならば、と、されるがままに体重を受け止めた
暖かい。そして心地よい、重みだった
少女「えへへ……あったかい」ニコ
魔王「………ああ」
何かが、心を満たした
衝動的な何かも同時に生まれたが、それが何かはわからない
俺が今手に入れたこの思いはなんだろうか
何を差し出して、これを得ることが出来たのだろうか
魔王(できることならば この感情を いつまでも――)
この日、ようやく二人は足並みを揃える事が出来た
『これから共に頑張っていく』
少女の心にも、魔王の心にも そんな希望の光が灯った夜だった
165: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/21(水) 17:53:56.02 ID:WWLfwMQc0
『魔王』――古来は災厄の根源
諸悪の起源として、忌み嫌われ打倒された存在
そんな彼が、希望を持つ事など 許されないのだろうか
何を間違ったというのだろう
何の罪があるというのだろう
幸福を願ってはならない者が 居るとでもいうのだろうか
186: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/23(金) 22:12:50.71 ID:te8QySvI0
::::::::::::::::::::::::::::
それ以降、少女は魔王の横に物怖じせず立つようになった
辛いと感じた時でも、すぐ隣にいれば こっそりと魔王だけに接する事が出来る
そうすれば『私事』の魔王がこっそりと少女の名を呼んで、甘えさせてくれる
その安心感が、少女を余裕のある振る舞いに変えていたのだ
そして少女の落ち着いた振る舞いは、魔王の『后』であるという事を皆に印象付けた
目に見えたり耳に聞こえたりする嘲笑や侮蔑を押し黙らせる事が出来たのが
二人が重ねた努力のもたらした、一番の結果だろう
もちろん、皆の心の底にある物までは計り知れないが
::::::::::::::::::::::::::::::
187: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/23(金) 22:22:15.75 ID:te8QySvI0
少女の振る舞いが変わり、数日――
謁見は相変わらず連日行われているが、次第にその様相は変わっていった
その日の謁見の最中
少女はすっかりお決まりになった姿勢で同席していた
玉座の横に立ち、魔王が頬杖をつく肘掛に軽く両手を沿え、心持ち身を寄せている
そして時折 魔王の様子をみては、微笑みながらそっと耳元で言葉をかけた
そんな少女に対して、同じように魔王も耳打ちで答えた
魔王は少女の言葉を聞きながら、謁見者に視線を飛ばすようになっていた
魔王の顔は、相変わらず無表情
だがそれでも、今までのような 何を考えているかわからない空虚さは消えていた
代わりに宿ったのは 『明確な意思を持った眼差し』
魔王の発言に人生を左右されかねない者達は
その“意思”がどこに向いているのか探ろうと 彼らの様子を必死に盗み見るようになっていた
188: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/23(金) 22:39:58.03 ID:te8QySvI0
だが、彼らが何を話しているのか 他の者には決して聞こえない――
いままで侮蔑の言葉や視線をわざとらしく少女に浴びせていた者にとって、それは恐怖だった
(愉快そうに微笑を漏らす少女は、魔王に何を言っているのだろう)
(聞いた魔王が、今 自分をちらりと見やったのはどういう意図なのだろうか――)
横柄な、悠々とした態度で高い場所から見下してくる『意思のある視線』
心に疚しい所がある者にとって、その視線は 断罪の宣告と同じ恐怖をもたらした
少女「(ねぇ、おにいちゃん… すごい事に気がついちゃった)」ヒソ…
魔王「(なんだ?)」コソ
189: ◆OkIOr5cb.o 2015/01/23(金) 22:40:42.66 ID:te8QySvI0
少女「(あの、なんか一生懸命な顔でお話してるオジさん…)」
魔王「(……?)」チラ
謁見希望者「――っ!」ビクッ! ……ガクガク
少女「(……チャック、開いてて お花のパンツが見えてるの。ちょっと可愛いの)」ニコ
魔王(……顔面蒼白のあの中年が、お花のパンツ……だと……)
少女「(でもやっぱり、教えてあげた方がいいよね?)」
魔王「……」チラ
謁見希望者「ヒッ…!」
魔王「(……やめてやれ)」
少女「(そう?)」
魔王(……これほどの『哀れみ』の感情を、俺は一体何と引き換えたのだろうか…)
少女(あとで侍女さんか誰かに伝言して、教えてあげよーっと)
190: 急用につき一時中断します  ◆OkIOr5cb.o 2015/01/23(金) 22:45:36.57 ID:te8QySvI0
またその一方
二人のその様子に見蕩れる者も居た
一人は旅の敬虔な宗教家で、一人はある王侯が供にした幼い姫
もう一人は田舎の貧しい町長だった
彼らは多少の差異こそあれど、魔王と少女を見て似たような事を思った
『地に堕ち救いを求める者の小さな囁きを、暖かな眼差しで聞き届ける天使』――その絵画のようだ、と 
少女はそれを知ってか知らずか、目が合った時に にこりと微笑んだだけ
そして、魔王は相変わらず「要らぬ」というだけ
魔王が新王に座して以来、謁見を終え退城する者は
暗い顔で溜息をつくか、顔を赤くして苛立つ者ばかりだった
初めてその三人だけが
満足気な表情でゆったりと帰路につく事が出来たのである
少女「(えへへ…今のちっちゃいお姫様、かわいかったね!)」
魔王(少女も、『ちっちゃいお姫様』ではないだろうか…?)
残念ながら、彼らを正しく見つめる事ができた者は皆無だったが
穏かで平和な日々が しばらくの間 ふたりを包んでいたのは確かだった
191: 以下、
このまま平和で終わってくれよ…
192: 以下、

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