加蓮「2:00AM」back ▼
加蓮「2:00AM」
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クルー「お持ち帰りでお待ちのお客様ー」
加蓮「あ。はーい」
クルー「お待たせいたしました。ありがとうございましたー」
ベーコンオムレツバーガーとスパムバーガー、フレッシュレモネードが、ふたつ。
加蓮「うん、よし」
袋を手に、事務所へ。
あったかいなー。
加蓮「あ」
夜の闇に雪、はらはらと。ちょっとロマンチック。
Pさんと一緒ならなあ、なーんて。
加蓮「ぜいたく、かなあ」
Pさんが待ってるし。早く戻らなきゃ。
粉雪
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3: 以下、
深夜2時。
ほんとなら、もうすっかりおやすみ、の時間。
今日はちょっとだけ、いけないわたし。
夜遅くっても、どこかお店は営業してるし。コンビニだってあるし。
でも、今日の気分は『愛 LIKE ハンバーガー』。
加蓮「わたしは恋を夢見るアメリカンガール」
加蓮「大好きな食べ物はハンバーガー」
加蓮「あ? 愛しのダーリンどこにいるの……」
事務所にいるけどね。
ふと、口ずさんでみる。
さあ、冷めないうちに。お届けお届け。
がちゃり。
加蓮「Pさーん、買ってきたよー」
4: 以下、
P「おう、加蓮……ありがとな」
Pさんは、絶賛残業中。
って言うか。
いっつも遅くまで仕事してない?
加蓮「スパムバーガーと、レモネード、っと。はい」
P「ありがと。……なあ、加蓮」
加蓮「ん? なに?」
P「やっぱり家に帰った方がよくないか? 俺が送るし」
えー。
乙女に帰れって言うの? こんな時間に。
加蓮「もう家に電話しちゃったし。それに」
加蓮「わたしがPさんの仕事、手伝いたいって言ったんだもん」
帰らないよ。だって。
Pさんが心配だもん。
5: 以下、
このところPさんががんばってくれたおかげで。凛や奈緒と離れ、ソロの仕事も増えた。
今日も、ソロでテレビの収録。押しまくって遅くなったけど。
なんかね。ぴんと来たの。
Pさんの力になれないかなあって。そう思って。
なーんてね。ただのわがまま。
なんだかんだ理由つけて、一緒にいたいだけ。
気づくはず、ないよね。
加蓮「さ。冷めないうちに召し上がれ!」
P「お、おう。そうだな」
加蓮「早く届けたくて、走って戻ってきたんだから」
P「加蓮……あんまり無理、するなよ?」
Pさん、ありがと。心配してくれるんだ。
でも。
あんまり、心配かけたくない、かな。
6: 以下、
来たばかりのころの、身体の弱いわたしじゃないって思ってるけど。
相変わらず、Pさんは心配性。
加蓮「大丈夫大丈夫。もう昔のわたしじゃないもん」
P「そうは言ってもなあ」
加蓮「ねえ、食べよ食べよ。ほら」
Pさんとわたし。ふたりがさがさと、包み紙を開けた。
Pさんにスカウトされて今まで、二人三脚で歩んできた。
体も弱くて根性なしだったわたしを、Pさんは。
あきれもせず、怒りもせず。導いてくれた。
暑苦しい熱血もないし、ただ優しいだけの甘やかしもない。
でも、わたしのことを最初からサポートしてくれた。
大人の、ひと。
好きになっちゃったんだなあ。いつの間にか。
決して、凛が彼女のプロデューサーといい関係に影響されてとか、そういうことはない……って思う。
うん。
たぶん。
7: 以下、
P「ん。いつものスパム味だな」
加蓮「スパム味って?」
P「ん? そうだなあ。ちょっと説明は難しいけど」
P「けっこうしょっぱいソーセージ、つか、ハムっつか」
加蓮「えー? わかんないよ、そんなんじゃ」
加蓮「じゃあ、さ。ほ・ら」
わたしはPさんに向かって、口を開けて。
加蓮「あーん」
P「おい加蓮」
加蓮「あーん!」
8: 以下、
わたしはおなかがすいた雛鳥なの。Pさんがくれないと死んじゃうの。
ほら。はやく。
P「仕方ないな、ほれ」
Pさんが差し出すそれを、わたしはかじる。
Pさんが口つけたところを。
加蓮「あむ!」
P「あ! おい」
加蓮「ん。んー……これもおいしいね」
Pさんはちょっとあきれてる、けど。
わたしは満足。
9: 以下、
加蓮「じゃあ、お礼に。わたしのもどーぞ」
P「いや、まあ」
加蓮「いいから遠慮しないで?」
自分でもとびっきりの笑顔じゃないかな、今。
加蓮「はい、あーん」
P「……」
加蓮「あーん」
P「……」
Pさん、しぶといなあ。
加蓮「こ、こ!」
わたしは、自分が口を付けたところを指さす。
さあ。
さあ。
10: 以下、
Pさんは観念して、わたしの指さしたとこをがぶり、と。
P「……ん。うまいな」
加蓮「でしょ?」
Pさんのほころぶ顔を見るだけで、幸せな気持ちになれる。
うれしい。
加蓮「なんか、オムレツのまろやかなのもいいよね」
P「そうだなあ。でも、あれだな」
加蓮「ん?」
P「加蓮はほんと、うまそうに食うよな」
加蓮「……そりゃ、好きだもん。ハンバーガー」
ジャンクなものを、イレギュラーな時間に食べるなんて。
ちょっと気持ちがいい。
Pさんと一緒だから、もっといい。
11: 以下、
P「デビュー前のころなんか、すぐねだってきたけどな」
加蓮「あはは。そんなこともあったね」
加蓮「でも、ちゃんと自分のからだのこと、考えてるから」
P「いいことだ。それだけプロらしくなったってことさ」
加蓮「でも、たまーに欲しくなるよね?」
P「いいんじゃないか? それに」
P「たまにありつけるから、うれしいもんさ」
P「しょっちゅう食ってたら、感慨も何もないさ。むしろむなしい」
加蓮「……説得力あるね。Pさん」
P「男の独り暮らしなんて、コンビニとファストフードで支えられてるようなもんさ」
P「いかんなーとは、思うけどなあ」
なら。
12: 以下、
加蓮「じゃあ」
お約束のことを言ってみたり。
加蓮「わたしがPさんのご飯、作りに行ってあげる!」
P「ん? 加蓮が?」
Pさんの目が、優しげに映る。
加蓮「うん」
P「……ありがとうな。でも、やめとけ」
加蓮「え? どうして?」
P「……わかるだろ?」
わかるよ、Pさんの言う意味は。
女子が、男の一人暮らしのとこに行くこと。
加蓮「わたしは、気にしないよ?」
わかってて、言ってるんだけどな。
だって、Pさんなら。
P「……とにかく、明日もあるから。仮眠室で寝ておけよ」
加蓮「あー、話そらしたー」
P「まあ、そのうちな。そのうち」
右手をひらひらとさせて、Pさんが話を打ち切った。
ざんねん。
子どもと思われてるのかなあ。
それとも、世間知らずとか。
もぐもぐと。深夜の食事。
13: 以下、
P「ん。ごちそうさん。加蓮、ありがとな」
加蓮「ううん。わたしこそ付き合ってくれてありがと」
加蓮「あ、Pさん。お茶かなんか入れる?」
P「そうだなあ。コーヒーもらうか。もう少しがんばりたいから」
加蓮「インスタントでいい?」
P「いいぞー。ブラックで頼む」
加蓮「はーい」
Pさんの机からマグカップを持って。
給湯室の棚をごそごそ。うん、あった。
わたしもなんか飲もうかな。
加蓮「あ、ハイビスカス」
鮮やかな赤もいいかな。これにしよっと。
14: 以下、
加蓮「Pさん、お待たせー。はい、これ」
ことり。
P「さんきゅ」
Pさんはパソコンに向かってる。かたかたとキーボードの音。
加蓮「Pさん、なにか手伝えることない?」
P「ん? ああ、この文書作って終わりだから、特にないな」
加蓮「そっか。ざんねん」
P「いや、加蓮が手伝ってくれるって言ってくれるのが、ありがたいさ。それだけでがんばれる」
加蓮「そう?」
P「ああ」
ならよかった。
Pさんは饒舌じゃない。でも欲しい気持ちを、くれる。
ふふっ。
わたしはPさんの隣に座る。
加蓮「ねえ。なに作ってるの?」
15: 以下、
P「ん? これか?」
わたしは画面をのぞきこむ。それは、企画書。
加蓮「わたしの、ソロライブ……」
営業先のミニライブとかじゃなく、ホールでのペイライブ、って。
しかもツアー。
加蓮「え? ちょっと」
P「そろそろいい頃合いだと思ってな」
加蓮「むりむり! わたしにはまだ無理だって!」
P「そうか?」
Pさんはこともなげに言うけど。
だってまだソロデビューして間もないし、曲だってひとつしかないよ?
なのに、ツアーって。
16: 以下、
P「勢いのあるうちに、さ。こういう企画を出さないとな」
加蓮「んー、でもさー」
P「まあ不安なのはわかる。持ち曲も少ない。経験もない」
加蓮「……うん」
Pさんがわたしのために、って。
わたしを一番に考えて、こうしていろんな仕事を企画してくれてる。
わかってるけど、やっぱり不安。はじめてのことは。
そういえば、初めてPさんにスカウトされた時もそうだった。
うれしいけど、不安ばかりがつのって。
ついつい、ネガティブなこと言っちゃって。
17: 以下、
P「でもな。こういう企画はできたからすぐやる、ってもんじゃない」
P「企画を通しても準備に時間がかかるし。ヘタすれば1年後ってのもある」
加蓮「え? そうなんだ……」
P「今のこれも、ステージに加蓮が立つのは、半年先だ」
半年先。
Pさんはわたしの半年先、一年先……それ以上。
そんなずっと先のことを考えてるんだ。
加蓮「ねえPさん」
P「ん?」
加蓮「わたしが今、こうしてソロデビューしたのも」
加蓮「前から、決まっていたことなの?」
18: 以下、
P「そりゃそうさ。加蓮のようにユニットからはじめることはあっても」
P「俺たちは、ソロでアイドルさせるためにスカウトしてる」
Pさんはわたしを見て。
そして、ふわっと笑って。
P「プロデューサーとして当然じゃないか?」
そっか。そうだよね。
凛はソロからスタートしてる。
奈緒も、わたしと同じタイミングでソロデビューした。
みんなにそれぞれプロデューサーがついてるんだから、ソロで活動することが前提なんだよね。
たぶん。
凛や奈緒と一緒に過ごすことが気持ちよくて、それが当たり前のことのように感じて。
そんな関係が続くもんだって。思ってた。
加蓮「ねえPさん」
加蓮「どうして、わたしだったの?」
19: 以下、
P「どうして、って?」
出会った時から、疑問に思ってたんだ。
加蓮「ほら。わたしなんかよりずっとかわいくて、ずっとアイドルに向いてる子、いっぱいいるじゃない」
加蓮「なんでわたし、なのかなって」
P「ん?」
だって……、って。
そう言いたくなるのをこらえる。
体は弱いし、面倒くさがりだったし。
それに、一丁前のこと言って反抗してたし。
こんなに手がかかる女じゃ、Pさんも嫌な思いしたんじゃないかなって。
P「んー、そうだな……」
Pさんはキーボードの手を止める。
20: 以下、
次に出てくる言葉が怖い。
わたし、余計なこと言っちゃったんじゃないかな。
スカウトされたばかりの頃の、自信のなさが首をもたげる。
P「まあ、なんだ。よく社長が言うだろ? ティンときた、って」
加蓮「う、うん……」
P「よくさ、この子はこういうところが魅力的でうんぬん、なんて。知ったようなこと言ったりするプロデューサーがいるけどさ」
P「でも、結局は勘なんだよ、カン。売れるとかそういうの抜きにして、『これだ!』って」
加蓮「……」
P「明確な理由なんかないのさ。こうして一緒に仕事を始めて、やっと方向が見つかることなんて、ざらにある」
加蓮「じゃあ、Pさんは、わたしに……」
加蓮「ティン、ときた、の?」
21: 以下、
P「ま、そういうことだな。そして、それ正しいって」
P「今の加蓮が証明してくれてる。ありがたいことさ」
そう言ってPさんはふわりと笑った。
加蓮「そっか……そっかあ」
加蓮「じゃあさ。あのね? 仮に……仮によ? わたしがトップアイドルになったら、さ」
加蓮「そのあとも……わたし、Pさんと一緒にアイドルしていけるの、かなあ……」
気がかり。そのことが、とても。
ううん、気がかりっていうんじゃなくって、不安。
トップっていうのがゴールなんだとしたら、わたし、Pさんと一緒にいられなくなるのかなって。
Pさんの目を、見つめる。
ねえ、Pさん。
加蓮「教えて?」
22: 以下、
Pさんは目を細める。
そして、ゆっくりと。
P「……どこまでも、一緒だよ」
ああ。そうなんだあ。
Pさんのその言葉だけで、わたしの顔は、ポーカーフェイス気取れなくなっちゃう。
Pさんはわたしの表情を察して、ぽんぽんって、頭をなでてくれた。
P「心配すんな。加蓮とはずっと一緒にいてやる」
加蓮「うん……うん」
うん、よかった。なんか安心。
Pさんは頭をなでながら、片手にマグカップを持って、コーヒーをすする。
わたしは、Pさんのぬくもりを感じながら、うつむく。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「ん?」
23: 以下、
わたしは上目づかいに、おねだりをした。
加蓮「これからもずっと、わたしに」
それは、わたしがずっと思い描いている、願い。
加蓮「魔法を、かけてね?」
Pさんは、机にことりとマグカップを置いた。
P「……そうだな」
この日この時。
わたしの全部が、ここにあった。
お願い。覚めないで。
―――――
―――
―
28: 以下、
スタッフ「北条さーん! 次こっちお願い!」
加蓮「はーい!」
きらびやかなライブステージの裏。わたしは、忙しく走っている。
登場を待つ、ファンの歓声。そして熱気。
自然とわたしも、熱を帯びる。
でも、そこは。
凛「ねえ、加蓮」
加蓮「ん? 準備できた?」
凛「どう、かな」
凛が衣装替えを終えて、袖に戻ってきた。
加蓮「うん、似合ってる。ばっちり」
凛「そっか。よかった」
うん、すっごくきれいだよ。
シンデレラガールの座を射止めて、凛はますますきれいになったね。
それとも。プロデューサーのおかげ、かな?
29: 以下、
スタッフ「渋谷さーん、時間でーす! 準備お願いしまーす!」
凛「ねえ! 加蓮」
凛が、わたしを呼ぶ。
加蓮「ん?」
凛「あのさ、加蓮」
凛はわたしの左手を取って、こう言った。
凛「できれば、また……また加蓮と一緒に……」
加蓮「……ありがと」
ほんとにありがとう、凛。わたし、うれしいよ。
でもその言葉に、わたしは首を振る。
加蓮「そのつもりはないんだ。ごめんね」
凛「……加蓮」
悲しげな顔をする彼女に、わたしはこう言った。
加蓮「わたしはもう、魔法使いだから……」
30: 以下、
ソロデビューして、わたしのアイドル人生は順調そのもので。
不安を超えて、楽しさしかなくて。
Pさんとどこまでも行ける、そう信じて疑いもしなかった。
好事魔多し。
ソロになって3年目。わたしはステージ後に倒れる。
激痛。
痛い。息ができない。動けない。
Pさん……助けて…… Pさん!
P「加蓮! どうした! 加蓮!」
心の叫びが伝わったみたい。誰よりも早くPさんが抱えてくれる。
わたしを気にかけてくれる声に、返事すらできない。
そのまま救急車に乗せられ、わたしは病院へと運ばれる。
そして。
31: 以下、
加蓮「……」
昔、いつか見たような、白い部屋。
病室のベッドで、わたしはぼんやりと壁を見つめている。
P「……大丈夫さ、加蓮。ちょっと休めって、神様のおぼしめしさ」
加蓮「……」
わたしは、入院することに。
気胸。肺に穴が開いたんだって。
P「ゆっくり休んで、英気を養っておこうな。ファンのみんなが、待っててくれる」
うん、Pさん。知ってるよ。
気胸を患っても、アイドルを続けている人たちは、いっぱいいるって。
無理しなければ、あのきらびやかな世界で、やっていけるって。
加蓮「……」
ほほを、温かいものが伝う。
こらえていたのに。涙が、あふれてくる。
加蓮「……ううっ」
もう、止められない。涙が止まらない。
ごめんね、Pさん。わたし、気付いちゃった。
P「……加蓮」
加蓮「……魔法、解けちゃった……解けちゃったよぉ」
32: 以下、
12時は、もう過ぎた。シンデレラの時間、終わっちゃった。
加蓮「……Pさん」
涙が止まらないわたしを、Pさんがやさしく、抱きしめてくれる。
加蓮「……ごめんね……Pさん、ごめんね」
誰のせいでもない。きっとPさんなら、そう言うよね。
でもわたしは、謝るしかできないの。
加蓮「……魔法かけてくれたのに……Pさん、ごめんね」
Pさんの顔を見ることができない。
魔法が解けて、ただの女の子になったわたし。シンデレラじゃないから。
Pさんに顔向けが、できないよ。
P「……加蓮、いいんだ……いいんだ」
もうなにも言えないわたしを、Pさんはなでてくれる。
あのときと同じ、ぬくもり。
ねえ、Pさん。
わたし、Pさんと一緒に、歩けない……
33: 以下、
何日か経って。わたしはPさんに打ち明ける。
加蓮「……アイドル、やめる」
Pさんは驚いて、わたしをずっと説得してくれる。けど。
これしか、ないの。
加蓮「……魔法が解けちゃったから……アイドルになる気持ちも、なんか解けちゃったみたい」
正直な気持ち。わたしはPさんに、魔法をかけてもらえる資格なんて、ないの。
だから。
P「……」
Pさんの顔が、ゆがむ。ねえ、そんな顔しないで。
わたしが言ったせいだけど、Pさんのつらい顔を見るのは、つらいよ。
P「……わかった。加蓮」
Pさんは絞り出すように、つぶやいた。
うん、ごめんね。だから、諦めて。
加蓮「……うん……だから」
P「……なら、加蓮。俺と一緒に、魔法使いにならないか?」
34: 以下、
加蓮「え?」
わたしの瞳を、Pさんの視線が貫いた。
それは厳しくて、とてもやさしい。そんな感じ。
P「加蓮が、アイドルたちに、魔法をかけてあげないか?」
加蓮「……なんで?」
P「いつか約束しただろ? ずっと一緒にいてやる、って」
加蓮「あ」
そうだ。
あのときの、あの風景がよみがえる。
Pさんとふたりきりで、ハンバーガー。
P「お前に魔法をかけられないかもしれないけど、一緒に歩くことは、できるだろ?」
覚えていて、くれたんだ。
あのときの約束、守ってくれるんだ。
35: 以下、
加蓮「どうして?」
P「どうしてって?」
加蓮「どうして、あたしなの?」
あのときと同じ。わたしは同じ言葉を、Pさんに投げかける。
Pさんは頭をかいて、言葉をつなぐ。
P「……そりゃあ、ティンときたからさ。それに」
Pさんの表情が、真剣になる。
P「加蓮が、好きだから」
36: 以下、
加蓮「……」
え?
どういうこと?
え?
P「好きだよ」
うそ。どうして。
加蓮「……P、さん」
どうして、今なの? その言葉。
あの日から、ううん。そのずっと前から。
願っていたの。その言葉をずっと、願っていたの。
加蓮「……叶った」
P「……」
加蓮「……わたしの願い、叶った」
わたしはPさんの手を取る。そして、わたしの言葉で、告げる。
加蓮「……好き」
37: 以下、
P「……」
加蓮「……Pさんが、好き」
もう我慢しなくて、いいんだ。シンデレラじゃなくても、いいんだ。
加蓮「……一緒にいたい……いさせて、Pさん」
Pさんに抱きしめられる。わたしは、もう我慢しない。
加蓮「……好きなの……好き。ずっと一緒に、いて?」
P「……ずっと一緒、な」
あの日から焦がれていたぬくもりが、全身で感じられる。
Pさんが、そう言ってくれるなら。
加蓮「……魔法使いに、して?」
P「うん」
加蓮「……わたしに魔法を、教えて?」
P「うん」
Pさんのぬくもりを、鼓動を、感じながら。
わたしは魔法使いへと変わっていく。
38: 以下、
引退して2年。事務所スタッフになった、わたし。
事務所専属のスタイリストになって、がむしゃらに走っている。
わたしが引退の発表をしたとき、凛も奈緒も、事務所のアイドルみんな、わたしを惜しんでくれた。
ううん、今でもこうして、惜しんでくれてる。
加蓮「さあ、凛。ファンのみんな待ってるよ」
凛「加蓮……」
加蓮「わたしのコーデした衣装、みんなに見せつけてよ! 頼むね!」
わたしはそう言って、凛をステージへ送る。
わああ、と。歓声が沸きあがる。
あのきらびやかな場所にもう、わたしはいない。でも。
わたしの想いを乗せた衣装で、アイドルが輝いている。
Pさん。わたし、Pさんの気持ちが、わかるよ。
凛や奈緒や、彼女たちの輝きを観るのは、こんなにうれしいことなんだね。
加蓮「……凛……がんばって」
わたしは確かに、幸せだよ。
―――――
―――
―
39: 以下、
※ とりあえずここまで ※
次で終わります。では ノシ
40: 以下、
気胸って程度によっちゃちょいと息しにくいなぁって感じなんだけど重いとそんなキツいの?ろっ骨の向きおかしいから肺引っ掻いて気ついたらなってたんだが
41: 以下、
酷いものだと死ぬこともあるはず。
呼吸器系の病気はピンキリだが、喘息とかも
重いと相当きついしな
42: 以下、
去年手術した俺、見事二週間の入院
43: 以下、
人によってはボン!とか音がして片方の肺が半分くらいぺしゃんこになったりするよ。んでそのまま意識なくなってぶっ倒れる
ソースは中学ん時の先生(今ではその先生は肺をホッチキスみたいなやつで膨らんだ状態に固定してる)
45: 以下、
投下します
↓ ↓ ↓
46: 以下、
加蓮「……ん……んん」
夢を、見た。
よく覚えていないけど、なんだかあったかくて幸せな、夢。
加蓮「うとうと、しちゃった」
外を見ると、雪、はらはらと。
ああ、なんか、思い出しちゃうな。
加蓮「大丈夫かな」
Pさんは「今日は夕飯作らないで」って言ってたけど。
今日も帰りが遅いのかな。ちょっと心配。
加蓮「早く帰ってくると、いいね?」
そんなことをつぶやいていたら、気配が。
がちゃり。
P「ただいま、加蓮」
47: 以下、
加蓮「あ! お帰りなさい、Pさん」
Pさんとわたし、ふたりの部屋で。
今日もまた、日常が帰ってくる。
加蓮「今日はちょっと、早かった?」
P「ん、まあ。急いで帰ってきたよ」
加蓮「ふふ、よかった」
Pさんの手に、なにかが。
P「ほれ。今日の夕飯」
加蓮「……ありがと?」
袋を受け取って、中を見る。それは。
ベーコンオムレツバーガーとスパムバーガー。
加蓮「……これ」
P「今日は、なんの日だ?」
加蓮「……あ」
48: 以下、
そうだ、あの日。
時間は違うけど、Pさんとわたしの、ふたりだけの日。
加蓮「ふふっ。ふふふっ」
P「……どうした? なんかおかしいこと」
加蓮「ねえ、これじゃあ」
わたしは、袋を持ち上げてこう言うの。
加蓮「夕飯にはちょっと、足りなくない?」
Pさんは頭をかいて、気まずそうにしてる。
でもね、Pさん。
加蓮「……覚えててくれて、うれしい」
そう答えて、Pさんに。
キスをした。
49: 以下、
加蓮「足りなかったらさ。外に食べに、いこ?」
P「でも、さ」
加蓮「大丈夫大丈夫。あったかくしてさ、ゆっくり行けばへーき」
P「……そうだな」
Pさんに抱かれていたわたしは、手を解いてキッチンへ。
加蓮「コーヒー、入れるよ」
P「加蓮は?」
加蓮「わたしは、ハイビスカスティー」
あの時と、同じ。でも。
あの時と違うのは。
加蓮「カフェイン摂取は、気をつけてるから、ね」
そう言ってわたしは、自分のおなかを撫でた。
50: 以下、
Pさんとわたしの間に授かった、新しい命。
結婚して1年半で、今24週。ちょっとだけ、目立ってきたかも。
Pさんと一緒に仕事をして、いつのまにかPさんとふたりで暮らし始めて。
わたしの全部を、受け取ってもらって。
とても自然に、息をするように、わたしたちは結婚した。
そしてわたしたちのもとへ、コウノトリが愛を運んでくれた。
ねえ、チビPちゃん。あなたのパパはカッコつけだね。
でもそんなパパが、わたしは大好き。
おなかの内側をぽこん、って。キックされる。
加蓮「あ! 今蹴った」
P「え! どれどれ」
Pさんはわたしのおなかをさするけど、ざーんねん。
パパにはまだ、おあずけなのかもね。
加蓮「ふふふっ。Pさんタイミングわるーい!」
P「ちぇ、今日も返事してくれなかったか」
51: 以下、
電気ポットのお湯が、もうすぐ沸く。
わたしはPさんのために、ドリッパーをセットする。
粉を入れたら、ちょうどいいタイミングでお湯が沸く。
わたしはティーポットにハイビスカスを。
そして、ドリッパーにはお湯をゆっくりと注いで。
加蓮「ん。いい香り」
ポットにもお湯を注いで、と。ガラスのティーポットに鮮やかな赤が広がる。
加蓮「はーい、お待たせ」
P「おう、ありがとな」
Pさんはにこにこと、マグカップを受け取った。
がさがさと、袋を開けて。ハンバーガーを取り出して。
はい。Pさんはスパムバーガー。わたしは、ベーコンオムレツバーガー。
P「じゃ、いただきます」
加蓮「いただきます」
52: 以下、
こんな記念の日だから、ジャンクもいいね。
加蓮「わたしは恋を夢見るアメリカンガール」
加蓮「大好きな食べ物はハンバーガー」
加蓮・P「「あ? 愛しのダーリンどこにいるの……」」
あ! ちょっと。
Pさん、急に割り込んじゃダメじゃない。
加蓮「ぷっ……くくっ」
P「ははは……はははっ」
加蓮「ふふっ……んふふふっ」
ほら、笑っちゃって食事にならないよ。
でも。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「ん?」
加蓮「どうして、わたしだったの?」
53: 以下、
P「……まだそれ、訊くか?」
加蓮「うん」
しょうがないなあという顔をする、Pさん。でも、にやけてるぞ。
P「……ティンときたから」
加蓮「うん……知ってる」
わたしはでれでれ顔で、そう応えたんじゃないかな。
鏡を見なくてもわかる。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「……おう」
加蓮「……ありがと……大好き」
わたしとPさんはまた、どちらともなく近づいて、キスをする。
うれしい。しあわせ。
でもね。
加蓮「やっぱり1個だけじゃ、足りないね」
P「そうだな」
お互いにハンバーガー1個じゃ、あっという間にごちそうさま。
それなら、お外へ出かけましょう。
54: 以下、
加蓮「わたし、牛丼もラーメンもいいなー」
P「こらこら。あんまりジャンク続きってものあれだろ?」
加蓮「だっていつもなら、わたしの手料理でしょ? 少しはねぎらってほしいかなー」
P「はい、感謝しております。いつも健康的な食事、ありがとう」
Pさんはぺこりとお辞儀する。
加蓮「うん、よろしい! ならサイゼにしよっか。サラダとかもあるし」
P「家計のことも気にかけてくれて、ありがとう」
加蓮「いやいや、くるしうない! Pさんが稼いでくれるお金だもん。大事に使わなきゃね」
わたしたちふたりは立ち上がって、出かける準備を始めた。
P「加蓮さー。あったかい格好しておけよー」
加蓮「わかってるー」
P「外はちらちらって雪だし、少し冷えるから」
加蓮「はいはい、まったく心配性なんだから」
わたしが着替えてる間、Pさんは戸締りのチェックをする。
よし、準備オッケー。
55: 以下、
玄関で待ってるPさんに、わたしは言った。
加蓮「ねえ、Pさん」
P「なんだ?」
加蓮「わたしにまた、魔法をかけてくれて、ありがと」
そして、ちゅっと。軽いキス。
P「いや、俺は」
加蓮「ううん。ずっとずっとすごい、魔法だよ」
このせいいっぱいの感謝を、Pさんに。
加蓮「Pさんのお嫁さんって、魔法」
わたしは、Pさんに微笑む。Pさんもわたしに、笑みを返す。
アイドルじゃないけど、もっと大きな、Pさんだけのアイドル。
そんなわたしに、なれたの。
56: 以下、
P「もうすぐ、パパとママだけどな」
加蓮「うん、だからね」
Pさんの手を握る。
加蓮「ふたりでこの子に、魔法をかけてあげようね」
加蓮「わたしたちは、魔法使いだから」
近い未来の話。
わたしたち3人はたぶん、魔法使い一家として、みんなから注目されるの。
みんなって誰か?
それはたぶん、凛や奈緒や、事務所のみんなや。
お父さんやお母さんや。
ひょっとしたら、まだ見ない、誰か。
P「楽しみだな」
加蓮「うん」
さあ、なに食べよっかなあ。
でもPさんとふたりなら、なんでもおいしいはず。
そして、3人になったら。
がちゃり。ドアの鍵閉めオッケー。
Pさんが左腕を出してくれる。
加蓮「エスコートお願いしますね。王子様?」
P「承りました。お姫様」
Pさんの左腕に手を通して、エスコート。
わたしはまた、シンデレラに、なった。
そして、この先も。
(おわり)
57: 以下、
乙。いい加蓮ちゃんだった…
60: 以下、
こういう雰囲気すごく好き
お疲れ様
TVアニメ アイドルマスター シンデレラガールズ G4U!パック VOL.1 (初回限定特典 ソーシャルゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ」の限定アイドル「[G4U!]島村卯月+」(描き下ろし!)が手に入るシリアルナンバー同梱&【Amazon.co.jp限定】PC壁紙(2015年4月22日注文分まで)付)
バンダイナムコゲームス バンダイナムコゲームス 2015-04-23
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