希「絵里ちの金玉をマフラーにしたいんやけど」 Part6
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7：
第六部『ヤザワギドラ』
希（醜い怪物。それが、三人を見たウチの素直の感想だった）
希（全身の筋がぐちゃぐちゃに混ざり合って身体はもう人間の姿を保ってはいない）
希（緑色の液体を纏った肉体からは、血と汚物の混じった臭いが漂っている）
希（今まで見てきたゾンビよりも、随分クリーチャーに近い存在だ）
希「にこっち、大丈夫なん……？」
にこ「あー……何が？」
希「にこっちの体調とか、その……その子達が正気を保っているか、とか」
にこ「私は別に、何処も怪我とかしてないわよ。この子達も暴れたりはしないわ」
「グルオアンザァ！」
にこ「ほらこたろう、静かにしなさい」
202：
希「身体を動かすのは誰がやってるん？」
「ギルル」
希「こころちゃんか……大変やな三人とも、まだ若いのに」
「グルオォオ……」
にこ「心配しなくても大丈夫よ。あんた達は私が働いて養うから」
希「働くにしても、まずはこの街から出なあかんけどな」
希（あかん、頭痛くなってきた。ウチも何を普通に反応してるんや）
希（こんな化け物相手に……）
希「ッ！？」
希（化け物……！？）
204：
希（今ウチ、化け物って思った……友達の妹を化け物って？）
希（そんな、嘘やろ？ ウチがそんなこと）
希「変化……」
希（人間の変化、性質の変化）
にこ「？ ところで個別に呼ぶときはともかく、三人纏めて呼ぶ時に何か名前欲しいんだけど」
希（海未ちゃんに起こったようなことがウチにも起こっている？）
希（ウチが、ウチじゃなくなってきているのかもしれへん）
希（……本当に、そうなんか？）
にこ「呼びやすく、親しみの持ちやすい六文字くらいの名前が良いわね」
希（これはむしろ、自分が気付いていなかった自分の汚い部分、隠していた本性が顔を見せたのかもしれへん）
206：
希（だとすると、これがウチ？）
希（これが、本当のウチの姿なん？）
希「嘘やろ……そんなの……」
にこ「ちょっと、話聞いてんの？」
希「あ、ご、ごめん。聞いてなかった」
にこ「この子達の集合体に、個別に名前付けたいと思うんだけど私じゃ思いつかないのよ」
希「名前？」
名前（三つ首の怪物の名前……）
希「ヤザワギドラ、とか」
208：
希（言ってから、後悔した）
希（こんな事を言えば、ウチが彼らのことを怪物として見ていたことに気付かれてしまう）
希（にこっちは怒るだろう。彼らは絶望することだろう）
希（今は仲間が、助けてあげなければならないのに。信用してもらわなければならないのに……）
にこ「いいわねそれ！」
希「え……」
「ギルゴァ！」
「アックアンザァ！」
「フグルイ！」
にこ「ほら三人とも喜んでるし」
にこ「今日からあんた達は、個別に呼ぶ時以外はヤザワギドラよ！」
「「「ギイィッ！」」」
希「あ、ははは……喜んでもらえてよかったわ……」
希（いいのか、これ……？）
210：
絵里「の、希……どうなっ……」
花陽「な、何ですか……この……何て言えばいいのか……」
希「ああ、にこっちの妹弟のヤザワギドラちゃんや」
にこっち「あによ、そんな怯えた顔して」
絵里「だだだって、怖いんだもの……！」
にこっち「少々見た目は怖くても、他のゾンビと違って暴れもしないしいい子達よ」
「ザックダンザァ」ﾔｱ
絵里「あ……穂乃果のお父さんと同じパターンなのね」
花陽「な、なんでこんな姿に？」
希「ああ、それはやね――」
213：
絵里「成程、そんな事情があったのね」
花陽「三人とも、可哀想……けど、小学生と保育園児でこんなに身体が大きくなるんですか？」
にこ「あー……それは。意識ないから言わなかったけど、四人いるのよ」
希「四人って、まさか」
にこ「お母さんよ。この子達庇って頭潰れちゃったみたいでね」
にこ「身体だけ肉に取り込まれたってわけ」
希「それは……何と言っていいか……」
希（これでにこっちも天涯孤独の身ってわけか……可哀想に）
214：
にこ「いいのよ、もう吹っ切れたから。それより、残りの皆は？ 今から探すとこ？」
希「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、凛ちゃんは既に見つかっとるよ」
絵里「今は別々に行動して、まずは真姫ちゃんの家に行ってもらってるの」
にこ「真姫の？ ここならことりの家の方が近いんじゃない？」
希「ことりちゃんは、もう海未ちゃん達が探しに行ったんやけど見つからなくて」
にこ「ことりと真姫は一人ってわけ？ 心配ね……」
にこ「それに海未達もゾンビに襲われでもしたら大変じゃない。全員で行動した方がいいんじゃないの」
花陽「た、多分あの三人なら襲われても大丈夫だと思うよ？」
希（海未ちゃんと凛ちゃんが居たら少々の争いなら平気やろうしな……）
215：
希（先んじて殴りにいくタイプのあの二人が怪我してるところなんて、想像しにくいし）
……ｳﾌﾞ!? ｼｯｶ……！
にこ「って、この声穂乃果ね。帰ってきたみたいじゃない」
花陽「な、なんだか焦っているような……」
希「ゾンビに追われてる？ いや、それなら海未ちゃんらが片付けるやろうし」
穂乃果「もうすぐ着くから……！ しっかりして！ 誰か、手を貸して！」
希（なんや……？ 嫌な予感……それにこれはヤザワギドラ以外の血の匂い！？）
絵里「ちょ、何があったの！？」
216：
希（ウチらは玄関から飛び出し、外へ向かう）
希（角を曲がってすぐそこに、穂乃果ちゃん達はいた）
希「なあ、一体何が……！」
穂乃果「希ちゃん、皆……助けて！」
凛「海未ちゃんが、海未ちゃんが……死んじゃうよ！」
希（穂乃果ちゃんと凛ちゃんに担がれ、力無く項垂れる――）
希（頭から血を流した海未ちゃんが、そこにいた）
絵里「う、海未……！？ そんな！？」
にこ「慌てないで！ まずは比較的無事な海未の家に運ぶわよ！ ヤザワギドラッ！」
「グルルァ！」ﾋｮｲ
凛「ちょ、え！？ これ何にゃ！？」
希「その話は後や！ 今は運んで……ああ、薬箱と包帯も探さへんと！」
217：
海未の家（奥の方の比較的壊れてない部屋）
希「海未ちゃんの容体は？」
にこ「大丈夫、少し頭に傷があっただけ。瓦礫に頭でもぶつけたんじゃないの」
絵里「良かった……穂乃果と花陽とヤザ……ヤザワギドラは？」
にこ「付きっ切りで看病してるわ。軽傷だって言ってるのに」
希「なあ、凛ちゃん。何があったんや？」
凛「……凛達が真姫ちゃんの家に行ったのは、皆知ってるよね？」
218：
凛「そこで凛達は――」
穂乃果「……」ｷｮﾛｷｮﾛ
海未「どうしたんです？ そんなに辺りを見回して」
穂乃果「だって、あのゾンビが急に来たら怖いし」
凛「大丈夫大丈夫、凛と海未ちゃんが居れば大抵のゾンビ倒せるにゃ」
海未「そうですよ、穂乃果は心配しすぎです」
穂乃果「だ、だって……」
凛「あ、ほら！ 見えてきたよ真姫ちゃんの、家……？」
海未「あそこにいるのは……」
ことり「……あれ、皆？ 良かったぁ、生きてたんだね」
穂乃果「ことりちゃん！」
第六部 完
220：
『あだしごと』
絵里「はー、練習とか関係なく思いっきり歌うと気持ちいいわね」
真姫「やっぱりカラオケはストレス解消に最適ね！」
穂乃果「えーと次は花陽ちゃんだね！」
花陽「き、緊張します……」
凛「曲名は、自分……リセット？」
海未「リスタートと読むんですよ。アイドルソングですか、花陽らしいですね」
にこ「……」ﾁﾗｯ
花陽「……」ｺｸｯ
221：
ことり「あ、曲が流れて……」
花陽「行くぞぉおおおおおおおおおおおお！」
七人「！？」
にこ「HEY！ HEY！ HEY！ HEY！」
真姫（え、ちょっとこれ……）
ことり（コールだよね、お客さんがよくやってる……）
絵里「……HEY！ HEY！」
希（あかん、絵里ちも乗り出した……）
にこ「ウゥーはいはいはいはい！」
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