春香「真冬の夜は眩しくて」back

春香「真冬の夜は眩しくて」


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1:
(シャンッシャンッシャンッシャンッ!)
春香「メリークリスマース!」
春香「はいっ、どうぞ!」
春香「えへへっ、私からのプレゼント、ですっ!」
春香「わぁっ! ありがとうございます! 大切にしますね!」
春香「こ、こんなにたくさん! 持ちきれないですよぅ!」
春香「これからもがんばりますっ!」
春香「それではみなさん改めて――」
春香「メリークリスマース!!」
2:
―――――――――
――――――
―――
春香「お疲れ様でしたー」
春香「いえ、お気になさらないでください!」
春香「はい、またよろしくお願いします」ペコリ
春香「……っふぅ。仕事、すっかり延びちゃったな」
春香「今の時間は……ってえぇっ!? もうそんな時間!?」
春香「あ、あわわ! えっとえっと!」ポパピプペ
春香「……」prrrrrr...
春香「……!」ルスバンデンワサービスニ...
春香「……はぁ」ピッ
春香「あーぁ……すっぽかしちゃった……」
3:
春香「前にもこんなことがあった気がする……」
春香「なんかクリスマス運ないなぁ、私……」
春香「あ、でも今年はちょっとあったかい」モゾモゾ
春香「この前貰った手袋とマフラー」モフモフ
春香「えへへ、あったかい……」ボーッ
(ガッ)
春香「んきゃっ!?」
(ドンガラガッシャーン!)
春香「……ごめんなさい神様、調子に乗ってました……」
4:
春香「流石にもう、人もまばらだねー」
春香「あ、あの人、プレゼント抱えてる」
春香「ふふふっ、お子さんへのプレゼントかな」
春香「嬉しそうだなぁ……」
(ピカピカチカチカ)
春香「あ……ツリーがライトアップしてる!」
春香「じんぐるべーるじんぐるべーる、すずがーなるー♪」ワッホイ!
(フッ)
春香「ってえぇっ!? 消えちゃう? 今消えちゃうの!? 春香さんテンション上がってきてたのに!」
5:
春香「23時過ぎたからかな」
春香「あーあ、なんだかお祭り気分がぜんぶ終わっちゃった感じだなぁ」
春香「人肌が恋しい……」
(prrrrrr...)
春香「あっ!?」ババッ!
春香「はいっ、もしもし!?」
春香「……うん、うん、ごめんね! 仕事が延びちゃって……」
春香「え? 今駅の前? ありがと、すぐ行くね!」
(ピッ)
春香「良かったぁ……それじゃ急がないとってあわわわっ!?」ズルッ
(ドンガラガッシャーン)
6:
春香「ええっと、たぶんこの辺りに……あ、居た!」タッタッタッ
千早「ふぅ、やっと来たのね、春香……ってどうしたのよ、その膝」
春香「い、いやぁ、仕事中のトラブルで」
千早「違うわね」
春香「え?」
千早「その手袋に残ってる泥」
春香「うっ」
千早「コートの裾の汚れ」
春香「うぅっ」
千早「そして乱れた髪の毛」
春香「ううう……」
千早「転んだわね?」
春香「はい……」
7:
千早「ほら、消毒してあげるから」
春香「そんな大した傷じゃないよぅ」
千早「いいから。膝出して」
春香「えへへ、なんだかお姉ちゃんみたい」ヨッコイショット
千早「これでも一応、弟がいたんですから」
春香「あ……ごめん」
千早「ふふっ、何神妙な顔してるの。しみるわよ」スッ
春香「いつっ……」
千早「軽く拭きとって、絆創膏は……って、あら?」
春香「どうしたの?」
千早「そうだった……亜美の餌食になったんだったわ……。ごめんなさい、絆創膏きらしちゃってて」
春香「あ、大丈夫大丈夫! そんなに血は出てないし!」
千早「そう?」
8:
千早「歩ける?」
春香「そんなに重症じゃないってば!」
千早「ていっ」ペチッ
春香「いひゃひゃっ!?」
千早「ええ、それだけ騒げれば大丈夫そうね」
春香「観点が違うよ千早ちゃん!」
千早「ふふっ、やっぱり春香って面白いわ」
春香「千早ちゃんのばかー」プクーッ
千早「あら、いいのかしら? 折角お手伝いしてあげるのに、そんな口きいちゃって」
春香「ごごごごごめんなさい千早大明神さまぁ!」
千早「はいはい。それじゃ、私の部屋に取りに行きましょうか」
10:
(テクテク)
春香「ごめんね、こんな日に預かりものなんて……」
千早「いいのよ。さっきまで、春香抜きでみんなでクリスマスパーティーしてたついでだから」
春香「え゙っ、それ知らないんだけど」
千早「それはそうでしょうね。みんな気を使って春香には黙ってたから」
春香「そ、そんなぁ!」
千早「……なぁんて。事務所にいた亜美、真、美希、音無さんと、萩原さんのお祝いをしただけよ」
春香「もうっ! 千早ちゃん、最近ちょっと意地悪いよ!」
千早「あら、春香こそ大概よ? 何が、とは言わないけれど」
春香「うっ……」
千早「今日のこれだって、音無さんに言ったらどんな反応をされるか……」
春香「ご、ごめんなさぁいっ!」
11:
―――――――――
――――――
―――
春香「ちょびっとお邪魔しまーす……」
千早「そんなひそひそしなくても、この部屋は防音よ」
春香「でもちょっと楽しくない? 抜き足差し足忍び足?って」
千早「春香って時々妙に子どもっぽいわよね」
春香「またそうやって馬鹿にするー」
千早「ほらほら、ふてくされないの。冷蔵庫の中に入ってるわ」
春香「はーい」ガチャッ
春香「んっしょっと……ありがとね、千早ちゃん」
千早「それと、これも忘れないでね?」
春香「あぁっ!? ご、ごめんありがとう!」
千早「本当に抜けてるんだから……」クスクス
12:
千早「ねぇ、春香」
春香「ん?」
千早「春香は今、幸せ?」
春香「えぇっ!? い、いきなり難しい質問をするねぇ、千早ちゃん……」
千早「そんなに難しく考えなくていいわ」
春香「そう? なら……やっぱり、幸せ」
千早「そうでなければ、こんな手の込んだこともしないわよね」
春香「も、もうっ! 分かってるのになんでそこ突っつくの!」
千早「ううん、大したことじゃないの」
千早「そういう幸せって、すごく大切だと思っただけ」
春香「千早ちゃん……」
千早「……ほら、あんまりのんびりしてると折角の幸せが逃げちゃうわよ?」
春香「え? あわわっ!? もうこんな時間!」
13:
春香「千早ちゃん、ありがとう! それじゃ、また事務所でねー」
千早「ええ。メリークリスマス、春香」
春香「メリークリスマース!」
春香「それじゃあえっと……あ、メール来てる!」
春香「よしっ、待ち合わせ場所に行かないと!」
春香「……」
春香「でもここで急いだら、間違いなく転ぶよね、私」
春香「……」
14:
―――――――――
――――――
―――
(ピタッ)
春香「ツリーの前ってここだよね」
春香「うーん、いないなぁ……」キョロキョロ
春香「まだ向かってるとこみたいだし、ベンチで待ちますか」ストン
春香「幸せ、かぁ……」
春香「……」ガサガサ
春香「今年はちゃんと用意したし」
春香「プレゼントも……これで喜んでもらえるはず」
春香「……」
春香「……んー、なんか忘れてるような違うような……気がする」
春香「うー、小骨が喉に引っ掛かってるような……」
(コツッコツッコツッ)
春香「!」
15:
P「おっ、やっと来たな」
春香「私の方が先に着いてるじゃないですか!」
P「あんまり遅いもんでコンビニでコーヒーを買ってきたのだ」ガサガサ
春香「……あれ?」
P「時計時計」トントン
春香「……うわぁっ!? もうこんな時間!」
P「いやいや、こちらの台詞ですよ」
春香「ご、ごめんなさい……絶対転ばないようにって気を付けて歩いてたら……」
P「ちょっと極端すぎるね、お前は……」
16:
P「さて、見事に終電を逃したわけだが」
春香「すすすすみませんっ!」
P「タクシーで帰りますかね」
春香「わっ、なんだか贅沢ですね!」
P「普段送迎車乗ってるトップアイドル様のお言葉じゃないな」
春香「オフは一人の高校生ですからっ」
P「はいはい。しかし、それにしても随分と軽装なんだな」
春香「え?」
P「そのまま泊まってくんだろう? 着替えとか持ってるのか?」
春香「……」
春香「あ」
17:
(コンコン)
(ガチャッ)
千早「来ると思ったわ」
春香「ごめんなさい……」
P「ご迷惑をおかけしました」
千早「いえいえとんでもない」
P「いつも娘がお世話になっております」フカブカ
千早「こちらこそ、天海さんにはいつも……」フカブカ
春香「二人とも何やってるの! 恥ずかしいよ!」カァッ
千早「ふふふ。はい、お泊まりセット」ゴソゴソ
春香「ごめんね、千早ちゃん」
千早「春香」コソコソ
春香「な、なに?」コソコソ
千早「あんまりヤンチャしちゃダメよ?」コソッ
春香「しないよ!」
18:
(バタン)
(ブロロロロロ......)
P「最後、何をコソコソ話してたんだ?」
春香「知りませんっ!」プンスカ
P「何を怒ってるんだ……」
春香「もうっ、千早ちゃんのばかっ……!」カァッ
19:
(シィン...)
P「流石にこの時間だとイルミネーションもついてないな」
春香「さっき、ちょうど駅前のライトが消える瞬間を見ました」
P「さっき待ち合わせてたとこのか?」
春香「そうです! ……はぁ、ほんとはもうちょっと見てたかったのになぁ」
P「そうか……」
P「あ、運転手さん。そこを右でお願いします」
春香「あれ? 家ってもう少しまっすぐじゃ……」
P「いいからいいから」
20:
(バタンッ)
P「はい、どうもー」
春香「うぅっ、外さむい……」
P「コート羽織るか?」
春香「あ、プロデューサーさんのいい匂いがするコート……じゃなくて! それ脱いだら風邪ひいちゃいますって!」
P「子どもは風の子って言うだろう?」
春香「確かにプロデューサーさんは子どもっぽいですけど……」
P「言ったなこいつめ」コチョコチョ
春香「わひゃっ!? あ、あははは! や、やめっ! 箱落としちゃいますぅ!」
P「おっと、それはいけない」ピタッ
春香「ぜぇ、ぜぇ……い、一気に暑くなりました……」
P「作戦成功だな」
春香「ほんとに作戦ですか……?」
21:
春香「わっ、寒いと思ったらもう0度近いですよ!」ピッピッ
P「そりゃあ寒いわけだ……おっと、エリアによっては雪降ってるみたいだな」テクテク
春香「さぶぶぶ……こんなに寒いのに、なんで直接帰らないで寄り道なんて……」
P「春香が見たいって言うからさ」
春香「え? 何を?」
P「確かこのちょい先に……おっ、あったあった」
春香「へぇー、ここ、小さな広場になってるんですね……って、あれ?」
春香「わっ、小さなツリー! やよいくらいの大きさですね」
P「自治体が毎年出してるんだよ。他にも何箇所かにあった気がする」
春香「大きいツリーもいいですけど、こういう小さなのも可愛いなぁ……」
22:
P「えいっ」カチッ
春香「あれ、プロデューサーさん、今の音は何――」
(チカッ)
春香「わ……」
(チカチカ)
春香「わぁっ……!」
(ピカピカチカチカ)
春香「ライトアップ……綺麗……!」
P「自由に電飾つけられるんだよ、ここのツリー」
23:
(ピカピカチカチカ)
P「綺麗だな」
春香「はいっ、とっても!」
春香「でも綺麗に見えるのは、プロデューサーさんが見せてくれて、一緒に見てるからで……」
春香「……あ、そっか」
P「? どうした?」
春香「ううん、なんでもないです」
(ピカピカチカチカ)
春香「ツリー、綺麗だなぁって思って……」
P「良かった良かった。満足してもらえたか?」
春香「……いいえ」
P「えっ」
24:
春香「私、プロデューサーさんとお付き合いするようになってから、ずっと満足しちゃってたんです」
P「……」
春香「プロデューサーさんがいつも見ててくれて」
春香「傍に居てくれて」
春香「でもいつの間にかそれが当たり前になっちゃってました」
春香「すごく大切な、幸せっていう気持ち、忘れてたような気がします」
P「忙しくて、あんまり構ってやれてなかったと思ってたけど」
春香「えへへ、それでも付き合い始める前と比べると、ずっとずっと傍に居てくれました」
P「……そうかなぁ」
春香「はい。仕事の時も、そうでない時も、ずぅっと」
25:
(ピカピカチカチカ)
春香「去年のクリスマスを思い出すなぁ……」
P「春香の家に行ったっけか、そういえば」
春香「そうですよ、誰かさんが寝過して」
P「それで、誰かさんに唆されてな」
春香「えへ」
P「目を逸らすな」
春香「あはは。去年の今頃はまだ、プロデューサーさんに想いを伝えてなかったっけ……」
春香「ツリーを見てると、あの時の切ない気持ちが蘇ってきて」
春香「あの時を思うと」
(ギュッ)
P「っと」
春香「……本当に、私、幸せです」
P「暖かいなぁ、春香は」
27:
P「でも幸せなのもいいが、手元のものを忘れるなよ?」
春香「あっ! 危ない危ない……」
P「せっかく持ってきてくれたんだから」
(スッ)
P「ケーキ、本当に作ってきたんだな」
春香「去年、約束しましたから」
P「偉いなぁ、春香は」ナデナデ
春香「また子供扱いするぅ……」
P「家まで持つよ」
春香「大丈夫ですってばぁ!」
29:
春香「もうっ! プロデューサーさんったら一度言い出したら聞かないんですから……」
P「いいじゃないか。たまにくらいカッコつけさせてくれ」
春香「むぅ……」
P「よし、それじゃあうちに行くぞー。今日はちゃんとターキーもあるからなー」テクテク
春香「あぁっ! 待ってくださいよぅ!」タタタッ
P「おい、急に走ると……」
春香「あわわっ!?」
(グッ)
春香「な、なんのぉっ!」グググッ!
P「おっ?! 転ばないのか!?」
(ズルッ)
春香「へぶっ」ビタンッ!
P「ダメだったかー」
30:
P「ったくもう、毎度世話の焼ける……って膝、怪我してるじゃないか!」
春香「あ、それはさっきプロデューサーさんと会う前に……」
P「本当に生傷の絶えないやつだな……急いで手当しないと」
春香「千早ちゃんが消毒してくれたから大丈夫ですよ!」
P「千早が消毒……?」
春香「マキロンちょちょんってしただけですよ?」
P「あ、ああうん、そうだよな、分かってる」
春香「……その顔、何考えてたんですか?!」
P「ほら、絆創膏とか貼ってやるから。早く家に行こう」
春香「何考えてたんですかー!?」
31:
――――――――
―――――
―――
(ガチャッ)
春香「おじゃましまーす……」
P「なんでそんなに恐る恐るなんだ」
春香「抜き足差し足忍び足……」
P「忍者ごっこか?」
32:
P「そこらへんに腰掛けて待っててくれ。大人しく待ってろよー」ガチャッ
春香「はーい」バタン
春香「……なぁんて、黙って待ってるわけないじゃないですか!」
春香「久しぶりのプロデューサーさんの部屋……早! チェックしてみたいと思いますっ!」スクッ
春香「さて、何か怪しいものは……ベッドの下とか?」コソコソ
春香「ううん何もない。他には……あれ?」キョロキョロ
(ズモッ)
春香「クローゼットが……不自然過ぎるくらい膨らんでる……」
33:
春香「これは確認しないといけないよね! 天海春香、行きますっ!」スッ...
(ガチャッ)
P「春香お待たせー……ってどこ開けようとしてるんだお前?!」
春香「あっ! その慌てよう、怪しいですね!」グッ
P「や、やめろぉっ!」
春香「恥ずかしいものいっぱい見せてもらっちゃ――」ギィッ
(グラッ)
春香「……へ?」
春香(何かがクローゼットいっぱいに詰め込まれて……?)
春香「バベルの塔……?」
P「あほーーっ!」
(ガララララッ!)
(ドンガラガッシャーン!)
34:
(ガチャガチャ...)
P「だ、大丈夫か? 固いものはなかったはずだが……」
春香「うえぇ……服やらなんやらに埋もれて動けないです……」
P「だから開けるなと言ったのに……」
春香「助けてくださーい!」ゴソゴソ
P「待ってろ、今掘り出してやるから」ガサガサ
春香「……あっ、このブラウス、プロデューサーさんの匂いがする……」
P「さっさと這い出して来い馬鹿!!」ガササササッ!!
35:
春香「とんだクリスマスプレゼントでした……」
P「ふぅ、まぁこれくらい片付ければ大丈夫だろう」
春香(……でも、プロデューサーさんの香りがいっぱいだぁ……)
P「何ニヤニヤしてるんだ……」
春香「うえぇっ!? に、にやけてました?」
P「今も頬が緩みきってるが」
春香「え、えっと、あのその、何でもないです……」
春香(は、恥ずかしい……!)
P「……もういい。さて、じゃあ春香。ベッドに来い」
春香「はい、今行きま……ってええっ!?」ビクッ!
P「ほら、さっさと来る」グイッ
春香「あ……」
春香(わ、私……どうなっちゃうのーーー!?)
36:
――――――――――
―――――――
――――
春香「ぁっ……!」
P「痛いか?」
春香「い、いえ。だいじょうぶ、です」
P「でも、まだちょっとだけだぞ?」
春香「我慢……します。一気に、きてください」ギュッ
P「そうか……じゃあ、歯を食いしばれよ」
春香「はいっ……」
P「そらっ」
春香「ひっ……?!」
春香「っ????……!!!」ビクッ!
37:
P「はいマキロンどばー」ビャッ
春香「????っ!??!?」ジタバタジタバタ
春香「しししししみるうううううう!!!」ジタバタジタバタ
P「はい、暴れない」ガシッ
春香「くうううっ……!」
P「アイドルは見栄えも大切なんだから、あんまり迂闊な怪我はするなよ?」
春香「はい……気をつけます……」
P「そのうっかり屋なところも魅力なんだけどな」
春香「……はい」カァッ
38:
P「結構、怪我の範囲が広いな。大きい絆創膏は……あったあった」ゴソゴソ
春香「す、すみません」
P「いいんだよ。俺が心配性なだけだ」ペタペタ
春香「……私が怪我してると、心配ですか?」
P「当たり前だろう。何言ってるんだ」
春香「仕事なんかと関係ない、とってもとってもちっちゃな怪我でも?」
P「ああ。ちっちゃなとげが刺さっただけでも、春香が辛いんじゃないかって思うと、気が気じゃない」
春香「……えへ」
P「なんだよ急に。気持ち悪いな」
春香「……すごく大切にされてるんだなって。今更、実感して」
P「調子のいいやつめ」
39:
P「ほいっ、オッケー」ペシッ!
春香「きゃんっ!? い、痛いですよぅプロデューサーさん!」
P「治療が完了すれば気にしないのさ」
春香「うぅ……」
P「ほら、ターキー食べるぞ?」
春香「あっ! 食べます!!」
P「現金なやつだなぁ」
40:
春香「それではっ!」
P「聖夜を祝して……」
春香・P「「メリークリスマース!」」チンッ!
春香「って、ターキー大きいっ!」
P「俺の数日分の夕飯も兼ねてるからな」
春香「そんなに持つんですか?」
P「持たせるのさ」
春香「……ふふっ」
P「俺のいじましい年末が面白そうか?」
春香「いえ……こんなクリスマス過ごせて、幸せなだけです」
41:
春香「プロデューサーさんのはシャンパンですか?」ショワワワワワ
P「ああ。春香は去年と同じ、シャンパンもどき」ショワワワワワ
春香「……一口貰っていいですか?」
P「ダメに決まってるだろう」ゴクッ
春香「ねっ、プロデューサーさん! 一口、一口だけ!」
P「ダメったらダメだ。どうせあと数年もないんだから我慢しなさい」
春香「うぅ……ロマンチックなクリスマスがぁ……」
P「じゃあ要らないならその発泡ジュースも俺が……」
春香「ダメ! これは私のですもん!」ガシッ!
P「そうやってると酒瓶抱えてるアル中みたいだな」
春香「え゙っ」ピタッ
P「はい、もーらい」パシッ
春香「あっ……あぁーーーっ!!」
42:
春香「ずるい! プロデューサーさんずるいですよぅ!」
P「怒るな怒るな。お姫様、どうぞ」ショワワワワワ
春香「えっ、お姫様……?」
春香「……えへへ、うむ、苦しゅうない!」
P「安い姫様だ……」ボソッ
春香「プロデューサーさん、ちょっと聞き捨てならないセリフが聴こえましたけど」
P「気のせいだよ気のせい。ほら、冷めないうちに食べよう」
春香「……ふふっ。はいっ」
43:
(カチャカチャ)
P「そういえば俺とのことは、ご両親には話してるのか?」モグモグ
春香「いえ……付き合ってる人がいる、とは話したんですけど」
P「そうか……」
春香「急に考え込んで、どうしたんですか?」
P「いや、近々ご挨拶に行かなきゃいけないかな、と思って」
春香「あー、そうですね。やっぱりいつまでもこのままは……」
春香「……って、ご挨拶!?」
44:
春香「えっ、あえっ、あわわっ!? どどど、どういう意味ですか?!」
P「え? そのままの意味だけれども」
春香「え、ええっ……あ、うわっ……!」
P「どうしたんだ、急に顔面押さえて」
春香「あ、あわわ! か、考えてみたら、急に恥ずかしく……!」
P「まぁ俺も気まずいし恥ずかしいけれども……今後のこと考えたら、ちゃんとご挨拶しないと、な」
春香「……今後?」
P「ああ」
春香「ええと、その、今後って……?」
45:
P「もちろん、詳細設計を見据えて、さ」
春香「将来設計って……」
春香「……え?」
春香「えええええええええええええええ?!!?!?」
46:
春香「ぷ、プロデューサーさっ……将来って……しょうっ……!?」
P「え? 春香はそこまで考えてなかったのか? まずいな、もしかして俺の独り相撲だったのか……」
春香「いいいいいいえいえいえいえいえ!!! そ、そんなことなくてっ! あのその、つまりそれって……!」
P「ああ、もちろん……」
春香「けっこ」
P「アイドル業とどう両立するのかとか、親御さんも変なスキャンダルにならないか心配だろうしな」
春香「へぷっ」
47:
P「ん? どうした?」
春香「……な、なんでもないです、はい」
春香(そりゃそうだよね……私、何早とちりしてるんだろ……)ガックリ
P「……っぷ」
春香「へ?」
P「あっはっは! 冗談だよ、冗談」
春香「……もおおおおおお! プロデューサーさんのばかーーー!」ガタァッ!
P「悪い悪い! ついついからかいたくなったんだって」ダダダッ!
春香「あっ! こら! 待てーーー!」
48:
(ダダダッ!)
春香「こらぁぁぁああ!!」
P「あっはっはっは! は、は……」ピタッ
春香「……プロデューサーさん?」
(フラッ...)
春香「……え?」
P「あ……俺はもう、ダメ、だ……」グラッ
(ドサッ...)
春香「ぷ、プロデューサーさん!? 急にベッドに倒れこんで……どうしたんですか!?」
P「……」
春香「プロデューサーさん! プロデューサーさん!!」
49:
春香「しっかり、しっかりしてください!! プロデュー……」
P「……んが……」
春香「……サー、さん?」チョンチョン
P「ぐぅ」zzzz
春香「……」
春香「はぁぁぁぁあああぁぁあぁ……び、びっくりしたぁ……」ヘタッ
50:
春香「もうっ、プロデューサーさんのばか! すぐに叩き起こして――」
(パサッパラララッ)
春香「あれ、プロデューサーさんからなにか落ちた?」ヒョイッ
春香「スケジュール帳かぁ。こっそりのぞいちゃおっかな……」ペラッ
春香「……わ、凄いスケジュール量! 私達の比じゃない……」
春香「って、それもそっか。今年は事務所みんな、色んな所から引っ張りだこだったから……」
春香「今年もずっとずっと、私達のために……」
51:
春香「……そっか」
P「くかー……」
春香「ここ何日も、殆ど寝てなかったんですね。なのに、私のわがままのために……」
P「んんん……」zzzz
春香「ふふっ。ありがとうございます、プロデューサーさん」
春香「ありがとう、ございます……」ギュッ
52:
春香「さて、お片付けしないと。プロデューサーさん、多分起きたらまだ食べるよね」
春香「ラップして、空いたお皿洗って……あ、ケーキまだ食べてない!」
春香「明日起きたら食べよっかな。たはは、太っちゃいそう――」
春香「……」
春香「……プロデューサー、さん」チラッ
P「すかー……」
春香「ふふふ、本当にぐっすり寝てる」
春香「……」
53:
春香「寝顔、可愛いですよ」
P「むにゃ……」
春香「……」スッ
P「んー……」
春香「顔、こんなに近いのに……全然起きないや」
春香「……」
春香「……そう言えば……一年も経ったのに、したこと、なかったかも」
春香「いつも人目を気にしてたし……」
54:
P「くかー……」
春香「プロデューサーさん」
(スッ)
春香「んっ……」
春香「……」
春香「っぷぁ……えへへ……」
55:
P「ぐぅ……」
春香「って、全然起きる気配ないし」
春香「そんなに疲れてたのかな。電気、消してあげよっと」パチッ
(フッ)
春香「わっ、思ったより暗くて足元が……!」アタフタ
春香「こ、転んでプロデューサーさん起こさない様にしないと……」ソォーッ
56:
春香「んー、口元がなんか甘いなぁ。ちょっと苦いかも」
春香「なんだかぽーっとなってきた……って、これシャンパン?」
春香「いやいや、流石にこんな触っただけで……」クラッ
春香「えぇ……嘘でしょ……? 私、こんなにお酒に弱い……」フラッ...
(ドサッ)
春香「……あ、違うや。私も、もう疲れて限界……」
春香「このまま寝ちゃおっかな……」
P「すぴー……」
春香「……ふふっ、プロデューサーさん」チョンッ
P「むが……」
春香「いい夢見れそう……」
春香「おやすみ、なさい……」
57:
――――――――――
―――――――
――――
P「……んんん……いかん、寝ちまったか」
P「なんだか口元が甘いな……気のせいか」
P「ん?」チラッ
春香「すぅ……すぅ……」
P「折角の日なのに、悪いことしたな……今度埋め合わせしないとな」
P「ごめんな、春香」ナデナデ
春香「んぅ……ふふ……」ムニャムニャ
P「さて、今の時間は……まだ夜中か」
P「ちゃっちゃと食器片付けて、ああ、クローゼットも片付けないと」
58:
P「電気付けたら起きるかな」
春香「ふあぁぁぁあ……」
P「あぁ、もう起こしちゃったか。悪いな」
春香「……はれ? なんで私、プロデューサーさんの部屋に……?」
P「夕食もそこそこに放り出して、二人して寝ちまったみたいだ。そのまま寝てるか?」
春香「そうでした……。大丈夫です、起きます」ムクリ
P「そうか? クローゼット片付けたりしてるから、少しぼーっとしてな」
春香「はぁい……」ムニャムニャ
59:
春香「あ」
P「どうした?」
春香「雪、止んでます」
P「お、本当だ。折角ホワイトクリスマスだったのにな」
春香「月が出てますよ。雪が照らされて綺麗です」
P「あんなに曇ってたのに。月明かりって結構強いもんだな」
60:
春香「……あれ?」
P「今度はなんだ」
春香「そこに落ちてる箱、なんですか? 月明かりが照らしてるとこ……」
P「お、ホントだ」
(ヒョイッ)
P「なんだろう? クローゼットから崩れ落ちてきたかな」ジーッ
春香「宝石箱とかそういうのにも見えますけど……」
P「……あっ! これか! 思い出した!」ポンッ
春香「何なんですか?」
P「これ、お袋の指輪だ」
春香「プロデューサーさんのお母さんの?」
61:
P「うち、親が若い頃に死んでなぁ。まぁ形見みたいなもんだ」
春香「えっ……そうだったんですか……。すみません、私、知らなくて……」
P「いやいや、一体どれだけ前だと思ってるんだ。気にするなよ」
春香「はい……」シュン
P「まったく、そんな暗い顔しないの」クシャッ
春香「わっ! い、いきなり髪をくしゃくしゃにしないでくださいよぉ!」
P「辛気くさい顔してるからだ」
春香「ううううぅ……!」
62:
春香「あの」
P「どうした、気まずそうに」
春香「ええっと……その指輪、見てみてもいいですか?」
P「ああ、いいぞ。ほれ」スッ
春香「わ……これが、プロデューサーさんのお母さんの……」
P「確か結婚指輪のはずだ」
春香「ということは、プロデューサーさんのお父さんが?」
P「そうなるな。そういや指輪貰った時の話、何度か自慢げにされたな……」
春香「えぇっ!? ど、どんな話ですか!? 教えてください!」クワッ!
P「な、何だいきなり!?」
春香「お、女の子は人の恋バナが大好きなんです!」フンフン!
P「お、落ち着け! もう大分昔だから良く覚えとらん!」
春香「えー……」シュンッ
P「落ち込みすぎだお前……」
63:
春香「プロデューサーさんのお母さん、貰った時どんな気持ちだったのかなぁ」
P「さぁなぁ。女心は分からないよ」
春香「綺麗な指輪だなぁ……」ジーッ
P「……そうだなぁ」ウーム
春香「どうしたんですか、急に考え込んだりして」
P「春香」
春香「はい?」
P「その指輪、貰ってくれるか?」
春香「はい、分かりまし……へ?」
春香「へっ!?」
64:
P「俺が持っててもクローゼットで腐らせてるだけだからな。誰かがはめてくれた方が指輪も嬉しいだろうさ」
春香「えっ!? あ、はいっ、他意はないんですよね?!」
P「?」
春香「い、いえ、何でもないですっ! で、でも……」オソルオソル
P「なんだ?」
春香「その……本当に貰ってしまって、いいんですか? お母さんの形見なのに、私なんかが……」
P「私なんか、ってなぁ……」ハァ
春香「え?」
P「その程度にしか考えてなかったら、将来のこと考えたりご両親に挨拶行ったりするわけないだろう……」ハァ
春香「それ、冗談なんじゃ……」
P「あ」
P「さて、飯食おうか」
春香「待ってくださいよ!? 今すっごい大事な話してませんでした!?!?」
65:
P「さて、天海さんのケーキは甘味たっぷりかなー」
春香「ぷ、プロデューサーさぁん! はぐらかさないでくださいよぅ!!」
P「要らないなら飯も全部食べちまうぞー」ガチャッ
春香「食べますよぅばかぁ!!」テッテッテッ
P「……そう言えば」
春香「どうしたんですか?」
P「いや、何でもない」
春香「もうっ、さっきから隠し事ばっかりー……」
P(親父から指輪貰ったの、クリスマスの夜だって嬉しそうに話してたっけ)
66:
春香「プロデューサーさん、何嬉しそうに笑ってるんですか」
P「ちょっと子供の頃を思い出しただけだよ」
春香「もー、私の知らないことばっかり!」プンプン
P「怒るなって。知らないことを話す時間は、これからいくらでもあるだろう?」
春香「……」チラッ
P「な」
春香「……はいっ」クスッ
春香「それじゃあ最初に、さっき喋りかけたこと教えてくださいね!」
P「まずいな、藪蛇だったか」
春香「ふふふっ。それじゃ、食卓に戻りましょう!」
P「分かった分かった、だから慌てるなって。そんなことしてるとまた……」
春香「わきゃっ!?」ズルッ
(ドンガラガッシャーン!)
P「言わんこっちゃない……」
67:
――――――――――
―――――――
――――
春香「るんるんるんっ! おっはよー千早ちゃん!」
千早「随分とご機嫌ね?」
春香「そ、そんなに浮かれてるかな?」
千早「朝から鼻歌歌いながらご登場なんてなかなか……ってたまに歌ってるわね」
春香「変かな?」
千早「ううん。春香らしくていいと思うわ」
春香「えへへ、じゃあ千早ちゃんも一緒に歌おうよ!」
千早「いえ、遠慮しておくわ」
68:
千早「その指輪……」
春香「ふふふっ、昨日プロデューサーさんに貰ったの。お母さんの形見なんだって」
千早「あら、指輪ということはつまり……?」ニヤニヤ
春香「ちっ、違うよ!? だからほら、人差し指に!」
千早「ふぅん……?」
春香「本当は家からあまり持ち出さない方がいいんだけど……千早ちゃんにだけは、どうしても見せてあげたくて」
千早「……もうっ、春香ったら」
春香「てへへ」
千早「でも、音無さんにだけは絶対に見られない様に気を付けた方がいいわ」
春香「うん、そうだね」
69:
P「お、春香と千早。なんかあっちで音無さんが悶絶してるんだが、理由知ってるか?」
千早「あ、遅かったみたいね」
春香「あー」
P「? 知ってるのか?」
千早「犯人はあなたです」
P「何故だ」
70:
P「ああ、その指輪持ってきたのか。それが原因か……」
春香「ご、ごめんなさい! 千早ちゃんにだけは見せてあげたくて」
P「いや、失くすかもとか気にせず普段からはめてていいからな? ファンに誤解されるような指でなければ」
千早「誤解じゃないと思いますけど」
P「細かいとこ突っ込まないの」
春香「もー、やめてよ千早ちゃん……」カァァッ
千早「その指輪、前々から春香にあげようと思ってたんですか?」
P「いや、昨日たまたま部屋で見つけてね」
春香「ドラマチックだったんだよー、月明かりが指輪の箱を照らして……」
P「ドラマチックかはさておき、月明かりは確かに綺麗だったな」
千早「……月明かり?」
71:
P「どうした、変な顔して」
千早「プロデューサーの部屋って、結構遠くですか?」
春香「ううん、タクシーで少し走ったところだけど……」
千早「……あの、昨夜は雲がずっと晴れることなく、結構な雪が降り続けてましたけど」
春香「え?」
千早「月明かりって……いつでしょう?」
P「たまたま僅かに晴れたタイミングで目が覚めたのかな」
千早「いえ、一晩中雪が窓に吹き付ける音が酷くて、あまり眠れなかったくらいだったから」
春香「え……」
千早「仮に晴れてたとしても、昨夜は20時過ぎには月は沈んでいますし」
春香「……」
P「……」
72:
千早「……まぁ、気にしても仕方ないですね。悪いことがあったわけでもないですし」
春香「う、うん、そうだね」
千早「それじゃあ私、音無さんを止めてきますね。我那覇さんの諌める声が徐々に弱ってきているので」
P「あ、ああ、頼んだ」
千早「ふふっ、良かったわね、春香」タタタッ
春香「……うん。ありがと、千早ちゃん」
73:
P「何だったんだろうな」
春香「サンタさんからのプレゼントですよ」
P「夢があるねぇ、ロマンだねぇ」
春香「……あの、プロデューサーさん」
P「ん?」
春香「この指輪……人が居ないとこでは、薬指にはめても……いいですか?」
P「薬指ねぇ」
春香「……」ドキドキ
74:
P「さすがダメだ」
春香「えっ……」
春香「……あはは、そうですよね」
P「……」
春香「あのっ、変なこと言ってすみません! 指輪ありがとうございます、私、大事に――」
P「薬指の指輪は、三か月分で作らないと、な」
春香「っ……!」
P「ちゃんと、春香のために、な」
春香「はい……はいっ!」
7

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