あやせ「どうしてわたしにひどいことをするんですか」back

あやせ「どうしてわたしにひどいことをするんですか」


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1:
そう言って涙を流して微笑むあやせはやっぱり綺麗だった
◇ ◇ ◇
あやせ「――そんなあなたのことが好きです」
あやせの言葉が理解できなかった
京介「……ちょっと待ってくれ。意味がわからないんだが……」
あやせ「言葉の通りですよ。わたしはお兄さんが好きです」
京介「いや、だってさ……。お前俺のこと嫌っていただろ?さっきも……」
あやせ「スケベで、シスコンで、変態で、ドMですか?」
2:
京介「そう、それだよ。スケベでシスコンで変態でドMが好きっておかしくないか?」
あやせ「えぇ、確かに恋人としては最悪でしょうね。囚人としては優秀なのかもしれませんが」
あやせの口はいつも通り絶好調だと言うのに、俺は困惑してしまう
別に俺がドMな変態と言うわけじゃない
今まで毒を吐く時は全身に嫌悪感を纏っていたというのに、今のあやせからは負の感情を全く感じないのだ
京介「そうだよ。変態だって分かっているのに告白するなんておかしいだろ!あやせらしくないだろ!」
3:
あやせ「わたしらしく、ですか……?」
その言葉は俺に向けられたというよりも、あやせが自分に言い聞かせているように思えた
伏せられていた瞳が再び俺を覗き込んでくる
その瞳に陰りを感じたのは俺の気のせいなのだろうか
あやせ「お兄さんが言うわたしらしくというのは、自分の正義を振り回してお兄さんを傷付けるわたしですか?」
京介「俺は別にあやせに傷付けられたことなんて……」
4:
あやせ「意地悪な言い方になっちゃいましたね、ごめんなさい。わたし本当は知っていたのに気付かない振りをしていました」
微笑んでいるはずのあやせが泣いているように見えた
あやせ「本当はずっと前から気付いていたんです。パソコンゲームが好きなのは桐乃だって」
京介「あやせ……」
それは俺が吐いた嘘だった
妹もののエロゲが好きで実の妹に手を出すかもしれない愚兄と、妹もののエロゲを強要されて実の兄に手を出されるかもしれない親友
5:
あやせ「だってわたしは桐乃の親友で、桐乃はわたしの親友ですよ?」
あやせ「だって桐乃は真っ直ぐで、キラキラ輝いていて、誰も捕まえることができないんですよ?」
あやせ「そして何より、わたしが好きになった人のことですよ?」
あやせ「桐乃が誰かの色に染まるなんて有り得るわけないじゃないですか。お兄さんがそんな最低な人だなんて有り得るはずないじゃないですか」
小さな雫が地面を濡らした
あやせ「一年前のあの日、わたしはお兄さんを汚したんです」
6:
京介「汚してなんか……」
あやせ「いいえ、あの日一番汚れていたのはわたしなんです」
初めてと高坂京介と新垣あやせが衝突した日を思い出す
あやせ「あの日、桐乃は自分の趣味に誇りを持っていました」
あやせ「あの日、お兄さんは妹を守る為に泥を被りました」
けれど、とあやせは小さく呟いて顔を伏せる
7:
あやせ「けれどあの日、わたしだけは違っていたんです」
あやせ「あの日、わたしは桐乃に理想を押し付けて、お兄さんに泥を被せました」
次に見たとき、あやせの瞳には決意が宿っていた
あやせ「矜持でも愛情でも責任感でもなく、わたしはただ自分の我が侭をお二人に押し付けました。それはわたしが弱かったからです」
あやせ「そしてその我が侭をお兄さんに一年間も強いてきました。強いてきた結果がこの前の出来事です」
俺の脳裏には小さなファンが浮かぶ
8:
あやせ「お兄さんは許してくれるのかもしれません。けれど、わたしは自分を許すことが出来ません」
あやせ「お兄さんは手に怪我を負いました。今回は運がよかっただけです」
あやせ「もしかするとわたしは桐乃やご家族からお兄さんを奪ってしまっていたのかもしれません」
気に病むことはない、そう言えばあやせが傷付いてしまうような気がした
あやせ「わたしは何をしているんでしょうね、ふふっ。お兄さんに謝らないといけないのに、言い訳ばっかりです」
あやせ「つまり、ですね。わたしが何を言いたいのかというとですね……」
9:
あやせ「……わたしは強くなりたいです。そしてわたしはお兄さんを傷付けてもいい理由が欲しいです」
あやせ「お兄さんを傷付けるだけの理由。お兄さんが他の女の子と居る所を見て嫉妬するだけの理由」
あやせ「お兄さんと一緒に居てドキドキするだけの理由。お兄さんを振り回してもいい理由」
あやせの姿に桐乃の面影が重なる
あやせ「親友のお兄さんと妹の親友なんていう無責任な関係じゃなくて、一人の女の子と一人の男性という関係が欲しいです」
――あなたが好きです
10:
その八文字にどれだけの決意と勇気が込められているか想像もつかない
だからこそ俺はあやせの決意と勇気に対して誠実に向き合おうと思う
京介「……今は誰とも付き合うつもりはない」
あやせ「……そ、うですか。困らせてしまってごめんなさい」
呟く姿が小さくなったような気がする
今震えるあやせを抱きしめることは出来ない
11:
なぜなら抱きしめてしまえば、たった今固めた決意がボロボロと崩壊してしまう気がした
京介「あやせも俺も今は受験生だろ。だから……」
――だから春になって二人で合格してから付き合おう
あやせ「…………え?」
瞬きを繰り返すあやせは言葉を理解できなかったようだ
だからあやせが理解できるまで何度でも納得してくれるまで説明しよう
12:
京介「だからさ、今は二人とも勉強を頑張って春からデートとか行こうぜ」
涙を零しながら、ただ繰り返し頷くあやせ
けれどそんな姿を見ているとついさっき固めた決心もボロボロと崩れ落ちる
やっぱり俺はあやせの涙に弱いらしい
子供のように泣くあやせの肩を抱き寄せながら思う
彼女の泣き顔はなんて綺麗なのだろうか
15:

あやせ「合格おめでとうございます、お兄さん」
京介「合格おめでとう、あやせ」
公園の桜が咲き誇る中、俺たちは向かい合っている
京介「それにしてもまさかあやせや桐乃が俺たちの母校に通うことになるとはな」
あやせ「だめでしたか?」
京介「いや、ダメって言うわけじゃないけどさ。……なんていうか意外だったから」
16:
あやせ「そうですか?」
京介「あぁ、あやせはまだしも桐乃は絶対に来ないと思った。アイツなら進学校とかスポ薦でいい学校行けるだろ?」
あやせ「確かに桐乃は進学校や陸上の強い学校から推薦を貰っていましたね」
京介「だろ?だからてっきりそういう学校に行くんじゃねーかなってさ」
あやせ「えぇ。でも桐乃言葉を借りて言うなら…………」
京介「?なんだよ?」
17:
口を閉ざしてしまったあやせは小さく笑って首を振った
あやせ「いいえ、やっぱり言うのは止めておきます」
京介「そんな風に言われたら余計に気になるじゃんか」
あやせ「ごめんなさい、お兄さん。でもこれは桐乃の言葉だから桐乃だけしか口にしてはいけないと思います」
だからごめんなさい、ともう一度謝るあやせに聞くことはできなかった
京介「仕方ないなー。じゃあさ、俺たちの話をしようぜ」
19:
あやせ「私たちのお話はついでなんですか?」
頬を膨らませて分かりやすく怒るあやせ
京介「ごめん、正直桐乃のことなんて頭に入らない」
あやせ「いくらなんでもそれは桐乃が可哀相だと思います、お兄さん」
京介「今は割りと本気だぞ?なんせこれからが俺にとって本番だからな。合格や桐乃のことなんてついでだよ」
あやせ「……そうですね。本当は私も桐乃のことなんて二の次です」
20:
京介「あやせ」
あやせ「はい、お兄さん」
夕焼けに染まる公園であやせは微笑む
京介「あやせが好きだ」
京介「親友を助けようと奔放して空回りするあやせが好きだ」
京介「親友を喜ばせる為に嫌いな桐乃の趣味を理解しようとするあやせが好きだ」
21:
京介「桐乃のことを大切に思ってくれているあやせが好きだ」
京介「桐乃と一緒に楽しそうに読モを頑張るあやせが好きだ」
京介「でも罵倒も涙も空回りも努力も友達思いなあやせも全部俺だけのものにしたい」
京介「何よりあやせの笑顔を独占したい」
――だから俺の彼女になってください
22:
あやせの口から返事を聞くことは出来なかった
嗚咽を漏らし、ひたすら何度も何度も繰り返して頷くあやせを強く抱きしめる
空に朱と藍が溶け合っていく様に、あやせと俺の体温も溶け合っていく
そして俺はキスの味がレモン味ではなく、しょっぱくてシャンプーの匂いがするということを知った
彼女の泣き顔はやっぱり綺麗だった
23:
 夜
京介「桐乃、いいか?」
窓の外は真っ暗で、春だと言うのに廊下の空気はひんやりと冷たい
ドアをノックしても桐乃からの返事は返ってこない
ただ、ガチャっとドアが開錠された音が廊下に響いた
京介「入るぞ、桐乃?」
もう一度声を掛けてから部屋の中に入る
24:
カーテンが閉められているのか、月明かりが入ってくることはなく闇のように暗い
秒針が時を刻む音に紛れて微かな呼吸音が聞こえてくる
一年以上前は家具の色や配置も分からなかったというのに、今では月明かりがなくてもベッドに歩を進めることが出来る
ベッドの前に座して聞こえなくなってしまった桐乃の呼吸音を確かめる
ベッドの姿が段々と輪郭を持ち、餌を頬張るリスのように膨れ上がった布団は僅かに上下している
返事をしない桐乃を眺めている俺の頭に過ぎるのは、初めて俺のために奔放してくれた桐乃の姿と交わした約束
25:
京介「桐乃。お前に言わないといけないことがあるんだ」
独白めいた口調になってしまった
桐乃「……眠ってる相手に話しかけるとかアンタ頭おかしいんじゃないの?」
いかにも不機嫌です、といった桐乃の声を聞いて思わず笑ってしまった
桐乃「……何アンタもしかして妹の罵倒されて喜んでるの?マジでキモいんだけど」
桐乃の罵声を聞いて頬が緩くなってしまう
28:
俺が大人になったのか、それとも桐乃が言うように妹の罵声を聞いて喜んでいるのか
そんなこと言われずとも、考えずとも分かっている
京介「あやせと付き合うことになった」
桐乃「………………」
桐乃からの返事はない
京介「それだけだ。眠ろうとしてるのに悪かったな」
29:
諦めて立ち上がるとパジャマが首を締め付けられる
振り返れば布団から伸びた小さな手が俺のパジャマの裾を摘んでいた
京介「どうした桐乃?」
桐乃「………………」
蓑虫となった桐乃は何も答えず、ただ裾を掴んだまま離さない
少しの沈黙を経て、俺はもう一度腰を下ろした
パジャマを掴んでいる桐乃の手に自分の手を重ねる
固く結ばれていた手は静かに解れていき、その小さな手を繋ぐ
30:
暗闇の中、二つの呼吸音だけが静かに溶けていく
そして次に目を覚ました時ベッドはもぬけの空だった
温もりを失った右手を伝って言いようのない寂しさが胸に広がる
くっきりと刻まれたカーペット模様の頬を擦りながら立ち上がった時それn気付いた
京介「ははっ……。何なんだよ桐乃のヤツ」
メルルのメモ帳にはたった一言だけ書いてあった
“あやせ泣かせたらコロす!”
35:

京介「なぁあやせー」
あやせ「………………」
京介「美人読者モデルの新垣あやせさーん?」
あやせ「………………」
京介「新垣議員のお嬢さんで可愛いあやせちゃーん?」
あやせ「………………」
36:
京介「…………俺のエロ本を熟読してたあやせちゃん」
あやせ「っ!」
京介「っ!ちょっ!いたっ痛いからあやせさん!無言で殴らないでください、あやせさま!」
一通り俺のことを殴り満足したあやせは暑くなったのか扇子で扇ぎ始める
あやせ「ここは図書館なんですから静かにしてください、お兄さん」
京介「いや、だってさ。勉強してるだけって暇じゃん?」
37:
あやせ「わたしだけじゃなくて、お兄さんも期末試験近いですよね?どうしてそんなに余裕があるんですか?」
京介「大学はほとんどの試験にノート持ち込みおっけーだし、ノートを作って過去問解くだけだから割と余裕があるんだよ」
あやせ「……お兄さんに余裕がある理由はわかりました。けれどわたしは試験勉強をしないといけないので大人しくしてください」
梅雨も明けて本格的な夏になり始めたある日のこと、俺とあやせは県立図書館でデートをしていた
梅雨明けまでは週一でデートしていたのに明けてからのあやせは読者モデルの仕事で忙殺
一日に一度はしていた電話も日に日に短くなり、声を聞けない日が何日も続いた
38:
そして台風のように舞い込んできた仕事もようやく落ち着き、久しぶりのデートが図書館デート
別に図書館デートがいやだと言うわけじゃない
ラブリーマイエンジェルあやせたんと会うだけでも楽しいけど、人間と言うのは欲深いものでどうせならもっとあやせとイチャイチャしたい
なのに、あやせは俺を放り出してテキストに夢中……いじけたくもなるさ
俺の不満を感じ取ったのか、ため息混じりにあやせが口を開く
あやせ「あと一時間我慢してください。少し早くなってしまいますけどその後お昼ご飯を食べに行きましょう」
39:
エサを目の前に待てと言われた犬の心情を経験しつつ、忠犬のようにあやせを眺める
淡い水色のロングワンピースに目の粗い白のカーディガンを羽織ったあやせたんマジ天使
適当な判例とその解説を読んでいると消しゴムを肘で落としてしまった
京介「おっ」
机に潜り込んだ俺はシャングリラを見た
丁寧に編み込まれたミュールがあやせの踝まで包み込み、フリルをあしらった裾から覗くふくらはぎが色っぽい
40:
うーん、スカートの中が見えなくてもエロいなぁ……俺のあやせだからな
なんて頭の悪いことを考えていると、どういうわけかさらに頭の悪いことが浮かんでくる
試すべきか試さぬべきか、それが問題だ…………なんてな
紳士はただ実行するのみ!
あやせ「…………ひゃあっ!…………いったぁ」
ミュールから露出している足の甲をぺろりと舐めてみた
舐められたあやせは悲鳴を上げ、反射的に上がった膝が机の裏を蹴り上げる
41:
京介「あ、あやせ?」
静かな図書館は一瞬言い様のない緊張に支配されたものの、すぐにまた静寂に包まれた
そして図書館に波紋を広げたあやせは涙目になりながらぶつけた膝を擦っている
京介「…………あやせ、大丈夫か?」
あやせ「…………正座」
次に見たあやせの頭には角が生えていた
あやせ「そこに正座しなさいっ!」
45:
 
 ◇ ◇ ◇ 
あれから俺は半刻ほどの正座と四半刻ほどの弁解を費やして、ようやくあやせの機嫌は直った
あやせ「まったく……どうしてお兄さんはそう変態なんですか?」
京介「知らなかったの?男ってみんな変態なんだぜ?」
あやせ「はぁ……そんな知識得たくありませんでした」
俺とあやせは美咲さん行き付けというフレンチレストランに来ていた
美咲さん曰く、この土地柄で二千円でドリンク・デザート付きのフレンチコースが楽しめる店はそうそうないらしい
46:
周りの席を見れば品のよさそうな女性客が多く、野郎二人では足がすくんでしまうような店だ
あやせ「お兄さん、お兄さんっ。早く食べてみてくださいよ、このマリネ!スモークサーモンがすっごくおいしいですよ!」
さっきまで湿った目で俺を睨みつけていたあやせも今は満開の笑顔で前菜のマリネをつっついている
梅肉をベースにした味付けはあっさりとしていてきょうみたいな暑い日には箸が良く進む
その後もパンとシチュー、冷製パスタと出てくる品々どれも初夏を感じさせる爽やかな味であやせもご満悦だ
あやせ「おいしかったですね、お兄さん。デザートはなにかなぁ」
47:
ほっぺたをおさえながら食べるあやせは驚嘆と幸せでコロコロと表情を変えて見ている俺まで幸せにさせてくれる
あやせ「なんですかお兄さん?」
視線があったあやせは小さく首をかしげて訊ねてくる
京介「いや、こんな可愛い彼女がいるって幸せだなぁと思ってさ」
あやせ「っ……。お、お世辞ですかっ。そんなにおだててもデザートはあげませんよっ」
わざと見当はずれなことを言って頬を膨らませるあやせ
48:
あやせ「ど、どうして笑うんですかっ。ふんっ、どうせ他のお客さんを見てニヤニヤしていたんでしょ!」
初めて見たときから可愛いとは思っていたけど、あやせと付き合うようになってからもっと好きになっていく
ニヤニヤと笑う俺とそれを見て怒るあやせ
そんな中ウエイターが持ってきてくれたのは小さなケーキとアイスクリームだった
あやせ「お兄さんお兄さん、これフォンダン・オ・ショコラですよっ」
京介「ホンダのショコラ?ここのシェフ本田さんっていうの?」
49:
あやせ「違いますよっ。“フォンダン・オ・ショコラ”っていうチョコケーキです。ほらっ」
そう言ってあやせはケーキを切ってその断面を俺に見せてきた
切り口からはトロトロとしたチョコソース?が流れ出してアイスの白と交わる
あやせ「ケーキを切ると中からソースがトロって出てきてそれにケーキをつけて食べるとおいしいんですよ!」
切り分けたケーキをフォークで食べようとするあやせと目が合う
あやせ「どうかしましたか?お兄さん?」
50:
京介「俺には本田さんのケーキを食べるスキルがないみたいだからさ」
あやせ「簡単ですし、スキルなんて要りませんよ?」
そんなことあやせに言われなくてもわかっているさ
京介「だからさ、食べさしてよ。……あーん」
あやせ「え?……えぇっ!?む、ムリですよっ。だってここお店ですよ?他の人に見られちゃいますよ!」
京介「大丈夫、大丈夫。みんな料理に夢中で俺たちのことなんて見てないって」
52:
あやせ「そ、それでも……その、は……恥ずかしいです……」
京介「一口くれたら俺の分のケーキも食べて良いからさ。はい、あーん」
あやせ「む、ムリです!絶対にムリですってば!」
あやせ「ムリですよぉ……。お兄さんいい加減口をふさいでくださいよっ」
あやせ「………………ど、どうしてもしないといけませんか?」
あやせ「し、仕方ないですね……。ひ、ひとっ口だきゅえですよっ」
53:
顔を真っ赤にしたあやせは小さく切ったケーキを恐る恐ると俺の口に近づけてくる
あやせ「あ、あーん?」
京介「あーん…………」
あやせ「お、おいしいですか?」
京介「うーん、あやせの味がするからおいしいぞ?」
あやせ「っ!な、なんてこと言うんですか!」
54:
さっきよりさらに顔を赤くしたあやせはパクパクと無言でケーキを頬張る
あっさりとケーキとアイスを平らげたあやせは無言で右手を差し出してきた
あやせの行動の意味を察した俺は陶磁器のように白く滑らかなあやせの指に指を絡ませる
あやせ「な、な、なんてことするんですかっ!こんなことして誰かに見られたらっ」
京介「え?だって手を繋ぎたいから差し出してきたんだろ?」
あやせ「ち、違いますよっ。ケーキをください!」
55:
京介「そうだったな。はいはい…………ほれ、あーん」
あやせ「え?じ、自分で食べられますからいいです!お皿だけください」
京介「ダメだ、俺はあやせにあーんをする。第一俺はケーキを食べても良いとは言ったけど、あやせにあげるとは言ってないぞ」
あやせ「さ、詐欺です!弁護士を要求します!これは立派な詐欺です!」
京介「俺、法学部法律科の二回生だぞ?よって判決は無罪です。大人しくあーんさせるんだな」
あやせ「ううぅ……。もう結構です。どうぞそのケーキはお兄さんが食べてください」
62:
京介「残念だなぁ。俺、甘いもの苦手だから残すしかないな」
そう言うとあやせはぐぬぬと悔しそうに俺を睨みつけてくる
フォークが宙を行ったり来たりして、あやせの視線はフォークに釘付けになっている
京介「恥ずかしいならあやせが目を瞑ればいいだろ?ほれ、あーん」
あやせ「…………………あーん」
そう言ってあやせの口元にフォークを運ぶと、しばらくの膠着を経てあやせは観念した
63:
小さな口でもぐもぐと咀嚼するあやせはハムスターにしか見えない
アイスとケーキを交互に食べさせてそれが終わったころには、頬の朱も消えていた
あやせ「…………ごちそうさまでした」
不満げな顔をしたあやせは紙ナプキンで口元を拭っている
京介「そろそろ行くか」
先に立ち上がって、あやせの椅子を引く
64:
あやせ「あ、ありがとうござい……えっ?」
立ち上がり際にキスされたあやせは呆然と立ち尽くす
最後にあやせを驚かせることができた俺は吹くことのできない口笛を鳴らしながら会計に向かった
あやせ「ごちそうさまでした」
京介「お粗末さまでした。て言っても割り勘だからなぁ」
あやせ「それは当然です。わたしだってお仕事しているんですからお兄さんだけに負担を掛けるわけには行きませんから」
65:
男としてはデートは奢って甲斐性を見せたいのに、あやせはモデルをしているからと割り勘を頑なに求めてくる
そんな彼女を愛おしく思いつつもその誠実さと頑固さが歯痒くもある
あやせ「お兄さん、お兄さん」
京介「ん?どうしたあやせ?」
あやせ「幸せのお裾分けをしてあげようかなと思いまして」
66:
京介「幸せをお裾分けしてくれるのか?」
あやせ「えぇ。というわけで目を瞑って少し屈んでください」
あやせの言うとおり目を瞑って屈むとあやせの匂いが鼻をくすぐる
あやせ「ん……っ。どうですか、幸せになりましたか?」
柔らかな唇の感触と甘く硬い何かが咥内に入ってきた
67:
京介「………………んっ。……ん?これ、飴か?」
ミントの清涼感ある味とあっさりとした甘さが口いっぱいに広がる
あやせ「えぇ、そうですよ。どうですか、幸せになれましたか?」
数歩先を歩くあやせの顔は逆光となって見えない
だから俺はこう言おう
俺の彼女がこんなにかわいいはずがない
68:
おわり
77:
 秋
京介「大学合格おめでとう、あやせ」
あやせ「ありがとうございます、お兄さん」
京介「それにしてもあやせが俺の後輩になるのかー」
あやせ「そうなりますね。ご感想は?」
京介「そうだなー。感慨深くもあり、うれしくもあり、心配でもあり、かな」
あやせ「うれしいっていうのはわかりますけど。心配……です、か?」
78:
小首を傾げるあやせたんマジかわいい!
京介「だってそうだろ?うちの学校に来るっていうことはピラニアの居る池にあやせを放り込むようなもんだろ。そんなの不安にもなるさ」
あやせ「そんなことですか?心配しなくてもわ、わたしはお兄さんのものです……よ?」
そう言ってテーブルの下で指を絡めてくるあやせの頬はわずかに赤い
残暑も過ぎ去り、オープンテラスから夜の帳が落ちていく様をあやせと一緒に眺める
何とか巻きアートを小鳥のように飲むあやせは目を合わせてくれない
79:
この時期ならば受験生は寝る間も惜しんで勉強しているはずだが、あやせは緊張感もなくただ赤面している
京介「それにしてもよくAO入試で受かったよなぁ」
あやせ「高校に入ったときからAO入試を念頭に置いていましたから」
京介「そう言えばあやせってテスト期間になるとピリピリしていたよなぁ。何度あやせに正座させられたことか」
あやせ「そ、それはお兄さんが変態チックなことやおバカなことを言ったりしたからですよ!」
口では怒っても、繋いだ手は離されずにひんやりとした秋の空気の中、温もりが伝ってくる
83:
あやせの親指に自分の親指を這わせると、手を握り締める力が少しだけ強くなる
京介「食後のティータイムも終わったし、そろそろ行くか」
あやせ「そ、そうです……ね」
あやせは目を伏せて、さっきよりもっと強く俺の手を握り締める
門限を考えればそろそろ次の行動に移さなければいけないのに抱きしめたくなる
京介「……今日はさ、おめでたい日だから少しくらい門限破ってもいいよな?」
84:
あやせ「そ、そうですよねっ!今日くらいは少し遅くなってもいいですよね!」
笑窪を作って笑うあやせが可愛くて仕方がない
あやせ「あっ。も、もう!仕方ないですね!でもいきなり人目の多いところで、こんなことしてきたらダメですよっ」
あやせがかわいくて、ついキスをしてしまう
彼女がデートのときによく飲んでいるキャラメルマキアートを俺は飲んだことがないけど、その味を唇がしっかりと覚えている
あやせ「それでこれから何処に行くんですか?」
支払いを終えて駅に歩き出すとあやせは不思議そうに訊ねてきた
85:
帰りの道と被っているからそのことを心配しているのかもしれない
そんな心配全く意味がないというのに
京介「秘密だよ。でも絶対にあやせは気に入ると思うから俺のこと信じてくれよ」
わずかな不安を隠して笑うあやせの手を力強く抱きしめる
京介「あやせ?」
あやせ「はい?……あっ…………ってまたこんなところでキスしないでください!ホントにもう!」
怒るあやせの大きく膨らんだ頬っぺたをつっつきながら東京の街を歩いていく
94:
 夜
あやせ「ここ、です……か?」
ここが意外だったのかあやせは歩くのをやめ、こちらを見てくる
京介「そうだけど何か不満?」
あやせ「いえっ。そんなことはありませんけど」
口ではそう言うが、あやせは少し不満そうだった
京介「まぁまぁ。行けば分かるから行こうぜ」
95:
すっかりと暗くなった公園の道を歩く
都内有数の広大な公園には潮干狩りや水族館、水上バスやバーベキューなどの自然と触れ合うことの出来る施設などがある
日の差すうちは子供やご老人の遊び場になる公園も、夜の今は学生服やスーツを着た男女のデートスポットになっている
すれ違う恋人たちの気に中てられたのか隣を歩くあやせの顔は火照っているように見える
点々と続く外灯の光を辿って行くと、今日の最終目的地に着いた
あやせ「観覧車、ですか?」
96:
京介「おう!ここの公園の観覧車は日本最大級の規模らしいぞ?」
イルミネーションが輝く観覧車は約十七分の空中散歩を楽しめる上に冷暖房完備・六人乗りという仕様で好評らしい
放っておけばいつまでも観覧車を見上げていそうなあやせの手を引っ張る
あやせ「あ、あのチケットは買わなくていいんですか?」
チケット売り場ではなく観覧車に直接足を進めたせいか、あやせは不安そうに訊ねてくる
京介「あぁ、友達から貰ったチケットがあるからもう買わなくていいんだよ。というわけで、割り勘とか出来ないのであしからず」
97:
あやせ「…………そうですか。ならお兄さんのお友達のご好意に甘えさせていただきましょうか」
不承不承といった様子のあやせだが友人から貰ったと言われたせいか、いつもの頑固さを見せることはなく大人しく引き下がってくれた
ちなみに友達が譲ってくれた、というのは真っ赤なウソだ
あやせとのデートに向かう途中で一度この駅に降りて当日券を購入した、というのが本当の話だったりする
普段のデートならこんなまどろっこしいマネをする必要はないけど今日は俺にとって大切な日だから格好をつけたかった
係員に二人分のチケットを渡して乗り場を上り、観覧車に乗り込む
98:
あやせ「観覧車だから狭いと思ってましたけど、思いのほか広いですね。ね、お兄さん?」
京介「そうだな。まぁ、観覧車って言っても六人乗りだからそれなりに広いだろ」
インターネットで下調べしていたとはいえ、やはり蓋を開けてみるまでは分からないものだな
シュレディンガー先生もきっと今の俺みたいな気持ちだったに違いない
…………いや、違うか?……違うな。ごめんなさいシュレディンガー先生
哲学やら量子力学やらが頭の中で渦を巻き、俺の頭の中は混沌としていた
104:
そのせいかあやせに声を掛けられているというのに俺のリアクションはワンテンポ遅れてしまった
あやせ「…………お兄さん、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
京介「…………あ、あぁ。大丈夫だぞ?あやせがあまりにも綺麗だから見惚れてただけだよ」
あやせ「そう……ですか…………」
いつものあやせなら赤面してかわいらしく怒るはずなのに、今のあやせは何かを考えているようだった
踏み込んでしまえば追撃されることは目に見えていて俺は何も言えなくなってしまう
105:
あやせが考えていそうなことは三つほど思い浮かぶ
そのうちの一つなら笑えばいい
そのうちの一つなら赤面するのはあやせだ
けれど、最後の一つは悟られてはいけない
なぜならそれを悟られてしまえば、あやせは十字架を背負い込むだろうから
あやせ「…………体調が悪そうですけど……お兄さん、ってもしかして高所恐怖症、ですか?」
107:
真剣な眼差しをしたあやせの口から出てきた言葉に一瞬考えが止まった
背中を流れる汗の不快さが心地良くて無意識のうちに笑みが零れた
京介「残念でした!俺は高所も暗所も閉所も全然へっちゃらです!本当にあやせが綺麗だから見惚れていただけだって」
そう言って俺は手すりを掴みながら外の夜景を眺める
まだ頂上までの半分ほどの位置にいるものの、外を見ればスカイツリーや東京タワー、都庁などが輝いて見える
あやせに見せ付ける為に外の景色を見たつもりだったのに俺はいつしか心を奪われていた
108:
京介「ほらっ。見てみろよ、あやせ!都庁とかスカイツリーが見えるぞ!ヤバいからあやせも見てみろよ!」
疑念の眼差しを送るあやせの手を握り締めて無理矢理あやせの頭を外に向ける
あやせ「…………すごく……きれい、ですね。門限を破ってよかったです、お兄さん」
そう言ったきりあやせは東京の夜景を眺めている
握ったままの手の温もりに幸せを感じつつ、俺は秘密がばれなかったことに安堵する
京介「あやせ、話があるんだ」
109:
終わり
111:
俺たちの乗っているゴンドラが頂点に着く前に俺はあやせに声を掛けた
あやせ「…………なん、ですか?それよりもお兄さん、もっと夜景を楽しみましょうよ!」
繋がれた手が強張り、あやせはわざとらしい歓声をあげ、俺と目を合わせようとしない
京介「あやせ!真面目な話があるんだ。こっちを向いてくれ」
あやせ「…………はい、わかりました」
そう言って席に座るあやせは淡い笑みを浮かべていた
112:
京介「あやせ」
あやせ「…………はい」
京介「俺と……」
あやせ「いやです!いやです……っ。がんばりますからっ。桐乃みたいになれるように……がんばるから、わたしのことを見捨てないで……ください……」
俺の言葉を遮ったあやせは泣きながら俺のことを抱きしめる
いつも慣れ親しんだはずのあやせの温もりが酷く脆く壊れてしまいそうな気がした
113:
京介「あやせ……」
あやせ「いやですっ。いやです……別れたくありません……」
壊れたオルゴールのように歪な謝罪を繰り返す
泣き崩れるあやせを自分の隣に座らせてゴンドラの床に膝をつける
あやせ「…………ごめ……さい…………めんな…………………捨て、ない……で」
京介「あやせ!」
114:
大きくあやせの名前を呼ぶとビクっと肩を震わせる
そんなあやせの姿を見て、俺は昔親父に怒られていた時の自分を思い出した
自分の体温が伝わるようにあやせの震える肩を抱きしめる
初めてあやせを抱きしめたこの温もりと感触を俺は生涯忘れることはない、そう確信した
京介「あやせ。今の俺は自分の気持ち全てをお前に伝えることが出来ない」
115:
だから行動で気持ちを伝えようと思う
嗚咽を漏らし震えるあやせの左手を手に取る
ひんやりと冷たいそれを彼女の薬指にはめる
京介「今はまだ親や友達や、妹に支えられて生きている俺だけど。俺が一人の男として君を守れるようになったとき君の事を守ってもいいですか?」
薬指に嵌めたそれをあやせは何も言わず、そして何度も頷きながら子供のように泣いた
 
116:
 
晩秋
あやせ「それにしてもこの指輪どうしたんですか?」
泣き止んだあやせの第一声はそれだった
指輪を渡した後のあやせはただただ泣いた
言葉を発することが出来ず、観覧車は空中散歩を終えてしまった
本来ならば公園のどこかを彷徨っているはずの俺たちはまだゴンドラの中に居た
着いても降りようとしないあやせに俺もスタッフも困惑したけど、状況を察してくれた彼女は扉を開けず俺たちを見逃してくれた
117:
心優しいスタッフにチケットとミルクティーを渡すことを心に決めた。お姉さんマジイケメンだよね
京介「あーその指輪な、俺の友達が作ってくれたんだ」
あやせ「でもこれ、銀の台座に本物のダイヤと綺麗な青い宝石、ですよね?高くなかったですか?」
喜びながらもしっかりと俺の懐具合を心配してくれるあやせは最高のお嫁さんになると思う
京介「その……さすがに手持ちがなかったので、出世払いにしてもらいました……」
あやせ「お兄さん、そこに正座してください」
118:
京介「はい……」
本日二度目の正座をする羽目になった
ちなみに指輪を作ってくれたのは御鏡のやつだ
本人はお金は要らないと言っていたけど、ただで作ってもらったものを婚約指輪にするのは格好がつかないからと却下した
あやせの写真を見せ、俺のイメージやリクエストを伝えた結果、御鏡のやつはとんでもないものを作りやがった
あやせが台座は銀と言っていたが本当は白金、つまりはプラチナで鍍金している
119:
鍍金とは入っても強度などの問題も含めて相当ハイグレードなものらしい
百合の花を模った装飾には3カラットのホワイトダイヤと、俺リクエストの0.5カラットのタンザナイトが使われている
そして気になるお値段だが、御鏡を脅してしっかりとデザイン料も勘定に入れた結果、■○○万円也
人が良くてあほっぽいから忘れていたけど、御鏡は自ブランドまで持つ有名デザイナー
というわけで俺的天文学的数字を叩きつけられた俺は御鏡の好意に甘えさせてもらうことにした
結局、材料費・僅かな手間賃・友人の優しさを算盤で叩いた結果、▲○○万円也
120:
元の値段からは半額以下になったというのにまだまだ俺的天文学的数字には変わりなく、毛先ほどの頭金を払った後は出世払いという旨になった
にしても▲○○万円を出世払いで渡せるなんて……俺もデザイナー目指そうかな
なんて馬鹿なことを考えているとあやせのお説教は終わったらしい
絶対に指輪の値段なんて言えねぇ…………御鏡のヤツをしっかりと口止めしておかないとな
微熱を瞳に宿したあやせを見て笑っていた俺はこの時知らずにいた
俺とあやせの物語はこの時を境に狂い始めていたということを……
137:
初冬
京介「そろそろ帰るか」
観覧車を二週した俺たちは道をゆっくりと歩く
チケットとミルクティーをスタッフのお姉さんに渡すというミッションを終えた俺の脳には、苦虫を潰したようなお姉さんの微笑が残っている
隣を歩くあやせは俺の左腕に絡みつき、甘える猫のように腕に頬を擦りつけている
あやせ「あの……お兄さん、実は……」
足を止めたあやせを見れば、俯いたまま何かを言っているらしい
138:
ただ間の悪いことに隣を通ったカップルの声が大きかったせいで、あやせがなんて言ったのか聞こえなかった
京介「悪い聞こえなかった。なんて言った?」
あやせ「…………きょ、今日は!加奈子の部屋に泊まることになってるんです!」
顔を真っ赤にしたあやせはそう叫んだ
周りの視線を感じた俺は小走りで駅に向かう
京介「加奈子のとこに行くの?俺、家とか知らないけど大丈夫?」
139:
流石に言ったことのない家に送り届けるというのは少し不安になる
と言うか今のあやせの格好でいいのか?
普通女の子がお泊りするときってもっと荷物があってもよさそうだけどなぁ
あやせの持っている荷物は少し大きめのポーチだけで、お泊りに行くという風には見えない
それにあやせがデートとお泊りをブッキングするっていうのもなんか珍しいな
京介「分かったよ。加奈子の家知らないから案内頼むな」
140:
あやせ「お兄さん、正座してください」
京介「えっ。……なんで?てかここ駅前の交差点なんですけど……?」
あやせ「正座」
京介「いやだからさ?」
あやせ「正座」
京介「いやあの」
141:
あやせ「正座」
京介「はい」
午後八時過ぎの●●駅前の交差点に面する歩道で、現役女子高生読者モデルに正座させられている男子大学生の姿がそこにはあった
あやせ「いいですか、お兄さん。まず女の子と言うものはですね……」
突如路上で始まったあやせによる女性に対するマナー講座は通行人の視線もなんのその恙無く終わりを迎えた
あやせ「…………つ、つまりですね!今日は加奈子の家に泊まるってお母さんには言ってあるから……その……か、帰らなくてもいいんです!」
142:
京介「ふぁおっ!?……ば、馬鹿!ここから離れるぞ!」
涙目で顔を真っ赤にしたあやせはとんでもないことを叫び、公道は騒然となった
正座の後遺症で脚が痺れているはずなのに、走る度は多分人生最だったと思う
タクシー乗り場に止まっていたタクシーにあやせを放り込む
京介「運転手さん、■■区の▲▲までお願い……」
あやせ「……いえ、東京●●ホテルまでお願いします」
143:
隣からの横槍にあやせを見れば、やはり顔を真っ赤にしたまま俯いている
バックミラーに写る運転手の視線がどちらに行けばいいのかと聞いてくる
強く握り締めてくるあやせの左手を感じた俺は覚悟を決める
京介「やっぱり東京●●ホテルまでお願いします」
そこからホテルに着くまで俺たちは終始無言でただお互いの手を握り合っていた
ホテルに着いた俺は度肝を抜かれた
144:
映画でしか見たことのない豪華な中央階段があり、右を見ても左を見ても上品そうな紳士淑女しか居らず帰りたくなる衝動を押さえ込むのに精一杯だった
そして何よりも驚いたのはあやせに連れて行かれるがままにフロントでチェックインする時だった
――本日よりセミスイートに一泊の高坂御夫妻様でよろしいでしょうか?
叫びたくなる衝動を押さえ込んで、油のないブリキ人形のような笑顔で頷く
イケメンなページボーイの後ろを着いて行く俺の心臓はニトロエンジンの如く激しく鼓動する
タクシーで行き先を聞いたときからある程度の予測はしていたものの、ホテルやスタッフの雰囲気に飲まれた俺の心境は不審者のそれだった
145:
さっきまでイチゴのように真っ赤だったあやせは深窓の令嬢といった立ち振る舞いで、俺の小心さが浮き彫りになっていく気がした
ボーイからカードキーを受け取りドアを閉めた瞬間、俺は盛大にへたれ込んだ
京介「無理無理無理無理無理!どういうことだよ、あやせ!」
ありえない出来事が連続してパンク寸前だった俺の頭は状況を処理できずにいた
あやせ「どういうこと、と言うのは?」
未だに令嬢モードのあやせは絵画のような笑みを浮かべている
146:
京介「全部だよ、全部!ホテルのこととか、セミスイートのこととか、さっきのボーイがイケメンなこととか全部だよ!」
あやせ「最後の質問はおかしいですよね。でもそうですね、一言で言うなら……
『えぇ、友達から貰った優待券があるのでもう払わなくていいんですよ。というわけで、割り勘とか出来ないのであしからず』
……と、言ったところでしょうか」
そう言ってあやせは微笑んだ
京介「そ、うか……。なら、その友達さんに感謝しないとな」
147:
犯人の目星はついていたが、あやせの一言で俺は全てを封じられてしまった
と、嫌な空気を一掃するかのようにインターホンが鳴った
チェーンをかけ、ドアを開けると外にはスーツを着た壮年の男性が立っていた
京介「何のっ御用ですかっ」
声が思いっきり上擦ってしまったというのに、男性は笑うこともなく上品な笑みを浮かべている
「お飲み物と軽食をお持ちしました」
148:
京介「今開けます」
チェーンを外してもう一度開けなおすと男性はサービスワゴンをコロコロと押しながら入ってきた
京介「や、やべぇ……これがプロの仕事なのか……」
ものの数分でテーブルクロスは引かれ、サンドイッチの乗った皿やグラスは整然と並べられている
男性はチーフ・バトラーという役職らしく、俺たちがホテルに居る間サポートしてくれるそうだ
軽食を食べている間も山本さんはホテルにあるお勧めの施設やちょっとした小話をしてくれたお陰で、俺たちは楽しく食事を取ることが出来た
149:
「食後のシャンパンと生チョコレートでございます」
京介「……あっ彼女は未成年なのでお酒は……あっ」
「お聞きしております。奥様はこちらのグレープジュースをお召し上がりください」
うっかり口を滑らしてしまい俺とあやせの間は緊張に包まれたけど、山本さんは気にした様子もなくグラスに飲み物を注いでいる
「それでは最後になりますが、『覚悟を決めなさい、お兄ちゃん。ば?い美咲ちゃん』」
京介「やっぱり黒幕はあの人かよ!」
150:
京介「乾杯っ」
あやせ「………………」
グラスは小さな音を立てて、ぶつけた衝撃でグラスの底から無数の泡が弾けている
初めて飲んだシャンパンはバタークリームのように濃厚で、それでいて炭酸が爽やかに弾ける
生チョコは生クリームと一緒に大福皮に包まれていてシャンパンとよく合う
ただ、ぶどうジュースとの相性は悪いのか、あやせはチョコとジュースの間に水を飲んでから食べている
151:
京介「あやせ、一口だけシャンパン飲んでみるか?」
冗談で言ったつもりだったのに、あやせは小さく頷いて俺のグラスを手に取った
あやせ「……っ」
お酒を飲むことに躊躇いを見せている
京介「おいあやせ……」
あやせ「っ!」
152:
止めようと思った矢先、あやせはシャンパングラスに口をつけた
薄紅色のグロスを塗ったあやせの唇が僅かに開き、シャンパンを嚥下する
ただシャンパンの炭酸がきつかったのか少し咽ながらも飲みきった
咽たあやせの瞳は潤んでいてそれがとても扇情的で、理性の緒が繊維の一本ずつ千切れていく音が頭に響く
京介「…………おっ、俺風呂に入ってくる!」
綾瀬の返事も聞かずに俺はバスルームに向かった
159:
熱いシャワーを浴びて理性を繋ぎなおす
俺とあやせが恋人同士になってから二年と六ヶ月が過ぎた
つまり俺とあやせがキスをしてから二年と六ヶ月が過ぎたことになるが、俺とあやせはそれ以上先に進んではいなかった
進みたくなかったわけじゃない、むしろ進みたいからこそ進めない道を選んだ、俺はその先へと進みたかった
恋人止まりなんかじゃなく、お互いの親に認めてもらって結婚するつもりだから
目先の欲望や衝動や恋なんかじゃなく、親や友達やそしてなにより桐乃に認めてもらう為に俺たちはこの道を選んだ
160:
京介「なのにっ……なのに、こんなところで欲望に負けてどうする高坂京介!しっかりしろよ高坂京介!」
俺はあやせに対する気持ちを奮い立たせて降り注ぐシャワーの中で叫ぶ
髪と身体を洗って歯磨きをして浴衣を着て、帯をしっかりと締めて鏡に映る自分を睨み付けてからバスルームを出る
廊下を出て部屋を見渡してみたけどあやせの姿が見受けられない
トイレにでも行ったのか?まぁその内帰ってくるだろう
そして自分のベッドにダイブした俺はほろ酔いしていたこともありそのままベッドに身を委ねた
161:
軽く酔った頭でも違和感を抱かせる程度の何かがそこにはあった
京介「…………あやせ、か?」
あやせ「おはようございます、お兄さん。お加減はいかがですか?」
京介「すっげー気持ちいい。天国に居るみたいだ」
俺はあやせに膝枕されているらしい
白磁のような右手が俺の前髪を撫でる
162:
アルコールが残っているからなのか今の俺は変に格好をつけることもなく、素直になれた
あやせ「わたし、お兄さんのことが大好きです」
突然なあやせの告白に俺は言葉を紡ぐことができなかった
あやせ「初めて会った時から素敵なお兄さんだなって思いました」
あやせ「次にあった時は桐乃にエッチなものを押し付ける変態だと思いました」
あやせ「でも違ったんですよね。お兄さんはいつでも桐乃のため、黒猫さんのため、そしてわたしのために頑張っていてくれたんですよね」
163:
何も見えない暗闇の中であやせは俺の頬や顎を優しく撫でる
けれど、俺にはあやせの表情はわからなくて、静かなあやせの心音だけを感じる
あやせ「わたしが初めてお兄さんに告白してからもう三年になります」
あやせ「お兄さんは初めて会ったときからエッチで変態でスケベで優しくて、でもやっぱり優しかったです」
あやせ「お兄さんのことが好きです。大好きです。愛しています……」
見えないはずのあやせが微笑んでいる気がした
あやせ「……だから、わたしの初めての人になってください。わたしはお兄さんの初めてが欲しいです」
そして俺は口を開く
164:
間接照明が暖色の光を放つ中、俺はあやせを押し倒していた
妄想やカ●ビアンコムの知識を総動員してあやせとのそれをシュミレーションしていたはずなのに、俺は手の震えを抑えることができない
京介「あやせ…………その、本当にいいの……か?」
目蓋を閉じて微笑むあやせは静かに頷く
そんなあやせの姿を見て理性の緒は千切れ、あやせの頬を撫でる
京介「優しく、できるだけ優しくするからな」
165:
あやせ「いやです」
京介「……えっ?」
突然の拒絶に呼吸が止まる
あやせ「思いっきり痛くしてください。わたしはお兄さんを愛しています。だからお兄さんがくれる全てが愛おしいです」
あやせ「お兄さんがくれる痛みならわたしはそれすら愛せます。だから来世でも鮮明に思い出せるくらいに愛してください」
そしてあやせは微笑んだ
166:
「い、痛かったら……右手をあげてください」
俺は初めて知った
「ふふっなんですかそれ。右手をあげたら止めてくれるんですか?」
あやせはキスをするとき、わざと離れるように身体を反らして逃げようとすることを
「わ……かる……か、あやせ。今からあやせは俺のものになるんだ」
それが俺の存在を確かめるためだということを
167:
「来てくださいっ。好きですっ……大好きです!愛しています……」
そして俺はあやせに誓う
「大好きですよ、京介さん」
新垣あやせを死ぬまで守り抜こうと
そしてこれが俺たちが幸せだった最初で最後の記憶
177:

薄暗い部屋には口舌し難い臭いが充満していた
「いやぁ……お願いですからっ!やめてください、京介さん!」
ギシギシとスプリングが軋むベッドの上で、組み敷かれたあやせは悲鳴を上げる
「ダメです!だめだめだめ……っ。いやっいやあああああああああ」
蠕動する膣内に自分の欲望を吐き出す
「……あぁっ。ダメだって言ったのに…………うっ、うぅぅ……」
涙を目尻一杯に溜め、嗚咽を漏らすあやせの瞳は虚空を映していた
俺はタバコに安物のガスライターで火をつけながら、狂い始めたあの日を思い出す
178:
就活が解禁となって、あっという間に年度は変わった
解禁当初の俺は順風満帆だった
俺は初めて受けた中小企業や幾つかの地元企業からは早々と内定を貰い、あやせもまた本腰を入れだしたモデル業で頭角を現していた
内定を貰ったからと言って俺は安堵することなく勉強に打ち込んでいた
なぜなら旧国家公務員試験第I種改め、国家公務員総合職試験のための勉強に明け暮れていたからだ
最難関大学や旧帝大学の学生たちが通う専門学校で机を並べ夜遅くまで勉強する日が続く
179:
人生の中で最も過酷な受験戦争だったがあやせという恋人の力添えもあり充実した日々だった
四月の末にあった学科試験やその後行われた面接でも確かな手応えを感じ、甘くも幸せな就活生活を送れた
僅かな謙遜と絶対的な自信を持って合格通知を開けた俺は書面を見ても理解することが出来なかった
『不合格』
信じることが出来なかった
筆記でも面接でも確かな手応えを感じていたのに俺の力は及ばなかったらしい
181:
小鳥が運んできた合格通知もいつの間にかオレンジ色に染まっていた
部屋の呼び鈴で我に帰った俺は砕けたガラスや不恰好に破かれた紙が散乱している部屋を眺める
幾度かの呼び鈴の音を聞き流して砕け散ったガラスを片付け始める
「京介さん?……京介さん、何してるんですか!」
呼び鈴を鳴らしていたのはあやせだったらしい
遠くからあやせが俺を呼ぶ声が聞こえる
182:
赤く光るガラスを一つ一つテーブルの上に積み上げていると、右手は暖かい何かに包まれていた
「京介さんしっかりしてください!手を切っているじゃないですかっ。ガラスなんていいから傷の手当をしないと」
そして俺はあやせに言われて初めてガラスを赤く染めているのが夕焼けではなく自分の血だということに気付く
そう言ったあやせは慌ただしく何処かに行った、と思えばすぐに救急箱を抱えて戻ってきた
オキシドールを含んだコットンがシュワシュワと泡立つ様を眺める
両手の切り傷にしっかりと消毒したあやえは何も言わず、ガラスや紙を片付け始める
184:
何も言わず黙々と後片付けするあやせを見て沸々とドロドロとした黒い何かが心臓の鼓動で全身を駆け巡った
「……きゃっ。きょ、京介……さん?」
あやせをベッドに放り投げ、水色のチュニックを捲り上げる
あやせの身体を弄る右手はジンジンと熱を帯びていく
「なんで、何も言わないんだよ……なんで何も聞いてこないんだよ!」
黒く汚れた俺は咆哮する
185:
あやせの両手を掴んでいると言うのに、彼女は恐れることもなくただ優しく微笑む
「わたしは、京介さんが頑張った姿を見てきてその努力を知っています。だからわたしには吐き出してもいいんですよ?」
そして俺は慟哭しながら彼女の中で果てた
「今度からはもう少し優しくしてくださいね?」
そう言って微笑むあやせは俺の頬を撫でる
技術も経験もなく本能のままに彼女を抱いてしまった
186:
漠然とした意識の中、罪悪感が心を苛む
そして俺は彼女の二の腕に付いた赤い線を見て意識を取り戻す
「あや……せ、その傷…………」
「あぁ、傷がついちゃいましたね……。今度からは気をつけてくださいね?」
あやせはぺろりと赤い舌で滲み出る血を舐める
それを見た俺の視界は白い火花が散り、だらしないスウェット姿だと言うのに玄関に走り出していた
遠くから聞こえるあやせの声は非常階段の前で途切れた
187:
「あの時のことが原因ですか……?」
病院の一室でリンゴを剥いているあやせはポツリとそう零した
これ以上隠すことが出来ないと悟った俺は頷く
あの後非常階段の前で失神した俺はあやせの呼んだ救急車で都内の病院に運ばれたらしい
極度の興奮によるPTSDの再発、それが医者の下した判断だった
188:
一月だけの一人暮らし最後の日、俺はアパートの階段から転落した
無事試験は終わったものの、俺は重い捻挫とそしてPTSDにより上下運動ができなくなっていた
心療内科に通いリハビリを行った結果PTSDは比較的低いグレードに落ち着き、実家やマンションなど日常的に使う階段で発症することはなくなった
観覧車であやせに指摘されたのも軽いPTSDを起こしたからだ
そしてあやせが剥いてくれたリンゴはもう味がしなくなっていた
189:
入院したあの日から俺とあやせの関係性は狂い始めた
あやせは多少のことで俺に注意してくることはなくなったし、俺はあやせに多少の無茶を強いるようになっていった
あやせは一般雑誌にも載るようになり、俺は始めのことは貰えていた中小企業からもお祈りメールを貰うようなった
以前のように凛とした立ち振る舞いのあやせはなく、俺に対してはビクビクと怯えることが多い
彼女の愛し方を忘れてしまった俺は成功していくあやせに対する劣等感を紛らわすように激しく抱く
悲鳴を上げ、嬌声をあげ、水音の中、苦しむように喘ぐあやせを見ることで高坂京介という人格は保たれていた
190:
三日間の休養が取れたと言うあやせはインターホンの中で儚い微笑を浮かべていた
二本ある内の一本のスペアキーをあやせに渡しているが、あの日以降彼女がその鍵を使うことはなかった
小さな旅行かばんを携えたあやせの唇を乱暴に貪る
胸を小さく叩いて抗議するあやせの頭を押さえつけて激しく舌を絡み付ける
酸欠になったあやせの腰はガクガクと砕けて体重を俺に委ねてくる
ライトグリーンのパフスリーブシャツのボタンを外しながらベッドに向かった
192:
あやせが泊まりにきて三日目になった
あれから俺たちは外出することもなく、時間と言う概念を忘却して身体を交わっている
予め買い溜めてあった食糧はあと一日分ほどにまで減っていた
昼夜問わず責め求められ、体力を極限まですり減らされたあやせの思考力は紙切れほどの薄さになっている
汚らしい自分のそれを口元に差し出せばそれを舐め、秘所を攻め立てれば獣のような声で喘ぐ
それはもはや新垣あやせという人間ではなく条件反射のようなものだった
193:
身体の至る所に俺のつけた鬱血が白い肌を染め、手首には抵抗して暴れた痕が赤く腫れ上がっている
始めのころは強い意志を秘めていた瞳も今となっては薄暗く鈍く光る
今のあやせならば、俺以外の男を宛がっても喜んで咥えるのかもしれないな
穢れた考えが頭に浮かび、それを振り払う
振り払った理由はあやせに対する愛情や誠実さからではなかった
臭気が漂いそうなほどの独占欲と所有欲が頭からこびりついて離れない
社会から塵芥という烙印を刻み込まれた俺にとってそれが最後のプライドだった
194:
酷使した粘膜はヒリヒリと痛み、不快感が胸の中で肥大していく
増血剤とビタミン剤、栄養剤を飲み込んだ俺はあやせの寝顔を眺める
顔や二の腕は少し痩せていたけど静かに眠るあやせは初めて抱いたあの時と同じ顔だった
あのころを思い出した俺は桜色の唇を啄ばみ、かけたままの手錠に手を伸ばす
「…………お、にい……さん?」
寝ぼけたあやせはそう呟いた
195:
俺は開錠するために伸ばしたその手で顎を持ち上げる
歯茎をなぞるように舌で舐め、咥内を愛撫する
啄ばみ、なぞり、吸い付き、唾液を流し込んであやせの口を陵辱する
呆けていたあやせもキスをするうちに瞳に熱が篭る
「ん…………っ」
人差し指を差し出せば本物を舐めるように口淫してくる
196:
あやせの口淫を眺めているといつ買ったのかも忘れてしまったウオッカのビンが目に留まる
三分の一ほど残っているビンを引き寄せるとそれを片手で開ける
そんな俺の姿を見ていたあやせは僅かに眉間にしわを寄せたがそのまま指を舐め続ける
ウオッカを口に含めば粘つくような苦味が広がり、アルコールが歯肉をチリチリと焦がす
口の中で唾液とアルコールを転がして、あやせの口から指を引き抜く
右手で頬と顎を固定し、口をつける
197:
俺の動きを予想していたであろうあやせははっきりとした嫌悪感を示して口を堅く閉じる
舌で唇の間を突っ突くと、少しずつ舌が咥内に侵食していく
舌はついに堅く閉じた唇を突き破り、素早く舌を引き抜く
それと同時に口に溜まったウオッカを細い隙間から流し込む
「……んんっ!んーんーっ!んっふ……」
手錠でつながれたあやせは抗うことも出来ずにウオッカを流し込まれる
198:
アルコールのせいなのか咽たあやせは涙ながらに嚥下する
口の中にあったウオッカがなくなればもう一度指を突っ込んで口の中をかき回す
指で舌を掴まれたあやせは抵抗することも出来ず涙を溜めてされるがままに玩ばれている
もう一度ウオッカを口に含み、さっきと同じようにあやせの口に注ぎ込む
始めのころは激しかった抵抗も興奮しているせいか、それもアルコールに酔っていったのか次第に受け入れていた
最後の一口を注ぎ終えるころにはあやせの顔は赤く染まり、誰が見ても酔っていると分かるほどだった
199:
酔っ払ったあやせは舌を入れれば必死に絡めてくる
秘所を撫でればヌラヌラと体液が絡みついてくる
一突きすればあやせは盛大に喘ぎ、悦楽に全身を震わせていた
次第に射精感は高まっていき後数突きもすれば白い欲望であやせの中を満たすだろう
腰の動きを止め、嬌声に喘ぐあやせの耳元で囁く
――あやせ。この三日間でお前ピル飲んでたか?
200:
「………………えっ」
喘いでいたあやせは声を失い、ついさっきまで赤かった顔は青くなっている
奥歯がカチカチと音を鳴らし、全身が震えている
瞳には怯えがくっきりと映り、許しを乞うている
そして俺は怯え震えるあやせに笑いかける
――妊娠するかもな
201:
「いっ、やああああああああああああああ!出さないでください……っ。ダメっ!ウソですよね?ウソウソウソウソ……」
子宮にまで響くように大きく力強く打ちつける
「…………ダメです!いやいやいやいやいやあああああああああああっ」
臀部の筋肉に力を溜め、一気に放つ
「う……そ……ですよ…………ね?」
202:
膣内は精液を搾り尽くすようにその全てを包み込み締め付ける
「……あぁ…………あああああああっ」
涙を零し全身を震わせるあやせを見下ろす
あやせの瞳は何も映らず空虚で、身体から零れ落ちた雫がシーツを濡らしていた
倦怠感に包まれながら俺の頭にはそれがちらついていた
俺たちはもう、ダメなのかもしれない
207:
晩冬
スマホがバイブしてロックを外せば懐かしい名前がそこにはあった
「二年ぶりくらいになるのかな、きょうちゃん?」
「もうそんなになるんだな、麻奈美」
麻奈美のメールで呼び出された俺は都内の小さな喫茶店に来ていた
「沙織も元気そうで良かったよ」
「………………」
208:
昔と変わらぬ笑顔を浮かべる麻奈美とは対照的に、沙織は見たこともないような冷たい視線を俺に向けている
正直この二人の組み合わせは意外な気もしたが、呼び出された理由を考えれば当然なのかもしれない
俺たち以外に客はいないというのに、俺たちは喫茶店の奥にある個室に通された
コーヒーと抹茶を注文した俺と麻奈美だが、沙織の前にはお冷すら置かれていない
注文を取りにきたマスターに水も結構です、と断る沙織は多分いままでで一番怖い
「赤城……今は田村か、まぁいいや。赤城のやつは元気か?」
209:
「うん、浩平君は元気だよぉ。お父さんたちにこき使われてるけどねぇ?」
目尻を下げた麻奈美の薬指には指輪が嵌められている
「そっか……」
「うん」
そう言って俺と麻奈美はカップと茶飲みに口をつける
「きょうちゃん。どうして今日、呼ばれたのか分かってるよね?」
210:
子供を諭すような口調の麻奈美につい苦笑してしまう
「何がおかしいのですか京介お兄様!?」
沙織はテーブルを激しく叩き、コーヒーに波が立つ
「別に。ただ懐かしいなって思っただけだよ。怒らないで座ったらどうだ?」
肩を竦めて着席を促せば肩を震わせながら腰掛ける
「ふん……っ」
211:
沙織の激昂ぶりに流石の麻奈美も苦笑いする
「それでね、きょうちゃん。あやせちゃんのこと、どうするつもりなのかなって」
咎める気がない麻奈美の言葉が逆につらかった
「わからねぇ……。けど、このままじゃいけないっていうのは分かる」
「分からないってどういうことですか!ご自分が何をなさったのか分かっていないのですか!?」
「沙織ちゃん、お口ちゃっくして、ね?」
212:
口を開けば怒りを滾らせる沙織に麻奈美はジェスチャー付きで沙織を鎮圧する
麻奈美に諭された沙織は不承不承といった顔で口を閉じた
「それでね、きょうちゃん。あやせちゃんのこと、どうするつもりなの?」
「わからねぇんだよ、自分でも。あやせのことは大切にしたいって思ってる。けど、どう大切にすればいいのか、それがわからないんだよ」
「そっか?。でも今のままじゃいけないってことはわかるんだよね?」
麻奈美の問いに黙って頷く
213:
「多分、今のきょうちゃんは迷子になってるんじゃないかな?」
麻奈美の言うとおりなのかもしれない。でも本当にどうすればいいのかわからない
俺の表情で察したのか麻奈美は明るく口を開いた
「もし、本当にきょうちゃんがあやせちゃんが大切で、けどどうすればいいのかわからないなら一つ方法があるよ?」
麻奈美の言葉はとても信じられるものではなかった
けれど、俺には麻奈美の言葉を信じる他なかった
214:
「というわけで沙織ちゃん、説明をよろしくお願いします」
「ふん……っ」
話を振られた沙織は物凄く嫌そうな顔をしながら一つのパンフレットをテーブルに出した
そのパンフレットは確かに俺とあやせの関係を変えるものだった
そして俺とあやせの物語は終わりを迎える
215:
「久しぶりだな、あやせ」
「…………お久しぶりです、京介さん」
半月ぶりに会ったあやせはさらに少し痩せていた
十二月に入り、本格的な冬が始まった
あやせは四年前のあの日と同じ白のダッフルコートを着ている
「話があるんだ」
「別れ話以外なら喜んでお聞きします。もしそうならお話はこれで終わりです」
あやせの先制攻撃を受け、思わず苦笑いしてしまう
最近の俺は苦笑いばっかりだ
216:
「別れ話じゃないさ。けど、俺たちにとって大切な話だ」
「ならいやです」
そう言ってあやせは本当に帰ろうとして、慌てて手を掴む
「いやっ!放してください!警察呼びま……っ」
思いっきり強く抱きしめてしばらくするとあやせの抵抗はなくなった
「どうしてもお話しするつもりですか?」
「おう」
「泣き叫びますよ?」
217:
「俺の腕の中でならいくらでもいいぞ」
「……はぁ、わかりました。もう逃げませんから放してください」
「だーめ。もうこの状態で話すって決めたから」
「そうですか」
「おう」
あやせは腕の中でモゾモゾと動いている
「それでお話って何ですか?」
「俺さ、留学することになった」
218:
「えっ?」
「友達のコネでさ、旧財閥系のコンサルタント会社で働くことになったんだ」
「それでそこの会社に早期留学制度っていうのがあってさ、その制度で短期学校に通ってその後ニューヨークの提携会社に入る」
「………………」
「最低でも一年は掛かるらしいんだ」
「もう決めちゃったんですよね?」
「おう」
「いつ行くんですか?」
219:
「今月の中旬の頭に」
「行かないでって言ったらどうします?」
「ごめん。もう行くって決めたから行く」
「わたしと離れて寂しくないんですか?」
「寂しいに決まってるさ」
「ウソですっ!」
あやせの叫びが公園の木々を揺らす
220:
「どうしてそんなウソ吐くんですか?」
「ウソじゃないさ」
「ウソです!もし本当に寂しいならそんな話受けるはずがないじゃないですか……」
「本当だって。あやせと離れるなんて寂しくて泣きそうになる」
「……なら、わたしを置いていかないでください」
「……ごめん、でももう決めたことだから」
「なら、わたしが京介さんについていきます」
「それもダメだ。あやせは日本に残ってくれ」
221:
「どうしてわたしにひどいことをするんですか?」
「違うんだ、あやせ。これは俺たちのためなんだ」
「わたしは嬉しくないです」
「俺たちこのままじゃダメになっちまう」
「どうしてそんなこと言うんですか……?」
「この前の休みは本当に悪かったと思ってる」
「………………」
「言い訳だけどあの時の俺はどこか狂っていたんだよ」
222:
「………………」
「今のままじゃ俺たちは幸せにはなれない」
「そんなこと……」
「なれないさ。あやせも本当はわかってるんだろ?」
「………………」
「今俺たちに必要なのは自分と相手を見つめ直す時間なんだと思う」
「………………」
「それにさ、あやせ。お前モデル辞めるつもりなんだってな」
223:
「っ」
「美咲さんから聞いたよ。あれだけ頑張ってたのにどうして辞めたいんだ?」
「…………それは」
「俺の力足らずで面接に落ちるのと、あやせが頑張って成功するのは関係ないんだ」
「………………」
「俺はあやせに劣等感を抱いているし、あやせは俺に罪悪感を持ってる。今の俺たちじゃお互いの為にならない」
「わたしはお互いの為とか利益とか、そんなことはどうでもいいんです!ただ京介さんと一緒に居たい……それだけじゃだめですか?」
224:
潤んだ瞳で上目遣いするあやせの言葉に頭がグラグラと揺れる
「……それでも、やっぱりダメだ」
「そ……うですか……。もう京介さんは何を言っても行くんですね…………」
「あぁ」
「つまり、別れるってこと……ですか?」
「いいや別れない」
「え?」
225:
「俺はあやせと別れたくない」
「……一年も一人で待っていろって言うんですか?」
「無理にとは言わない。でも俺はそのつもりで日本を発つ」
「今、物凄くひどいことを言っているって自覚、ありますか?」
「あるよ。けど、あやせと俺なら大丈夫だって信じてる」
「最悪ですね」
「……ごめん」
226:
「でもいいですよ、わたしも信じることにします」
「えっ?」
「ですからわたしも京介さんが格好良くなって帰ってくるって信じて待ちます」
あやせの言葉が胸に染み込んでいく
「絶対帰ってくるから」
「はい……」
「あやせにふさわしい男になってくる」
227:
「今の京介さんは十分格好良いですよ?」
「好きだ……愛してる…………」
「知ってます……でも残念でした。わたしのほうがもっと京介さんを愛しています」
「ありがとな」
「お礼なんて言わなくていいですよ。でもわたし、空港には行きませんからね?」
「そうしてくれると助かる。直前にあやせの顔を見たくなったら逃げちゃいそうだからさ」
「………………京介さん、放してください」
229:
「………………ん」
最後にもう一度力強く抱きしめてあやせを離す
もう一度見たあやせは風が吹けば決壊しそうなほど瞳を潤ませていた
「…………ぐすっ。京介さん、目を閉じてください」
「……おうっ」
優しい声色であやせはそう呟く
言われたとおりに目蓋を閉じ、首を斜め四五度に傾ける
よし、とあやせが呟く声が聞こえる
230:
「…………京介のバカヤローーーーーーーっ!」
「………………えっ…………おっごぼおおおおおおおお!」
あやせの罵倒が公園を揺らし、衝撃が身体を突き抜ける
吹き飛ばされた俺は腰と頭を思いっきりぶつけた
金槌で殴られたような鈍痛が腰と頭を襲い、鳩尾に残った衝撃が遅れて爆ぜる
視界には線香花火のような火花がいくつも燃えていた
「…………お兄さんなんて、だいっきらいです、バカァーーーーーーっ!」
231:
続けざまの罵倒を受けて俺の頭はようやく状況を理解しだす
どうやらあやせ渾身の跳び蹴りを鳩尾に喰らった俺は頭と腰を強打したらしい
半規管を揺さぶられた俺は立ち上がることも出来ず、公園を走り去っていく後姿を眺めていた
「……は、はははっ。なんだよそりゃ。普通、こういう時はサヨナラのキスだろ。普通に考えたらさ」
空は何処までも青く透き通っていて、空を流れる雲は綿菓子のように白い
「…………やっぱり、あやせは最高の彼女だよ」
そして俺たちは違う道を歩み始める
234:

窓の外を覗き込めば一セントコインほどの雲が点在している
十インチほどの画面の中では白人女性が笑顔で身長と同じくらいのブレードを震わせている
俺が身を委ねるソファーは会社の応接室にあるそれよりも上質で、このソファーをベッドにしたいくらいだ
話しかけてくるCAは映画女優のように美しく、その立ち振る舞いも洗礼されている
小さなテーブルにはフルボトルのワインとグラスが置かれている
卸値でも俺の月給を軽々と超えるワインは薫りを放つこともなく俺の胃袋に消えていく
235:
生まれも育ちも中流家庭で骨の髄にまで貧乏人根性を染み付けた俺が飲むにはありえないものだった
昔の自分ならフルボトルをあければ便器とお友達になっていただろうが、フランス人やイタリア人の同僚につき合わされた俺にとっては水のようなものだ
二本目のボトルを空けようかというとき、憎たらしい声が俺を呼ぶ
「うわぁ……。京介くん、それ一等シャトーのワインだよね?いくら僕が奢るからって酷くないかな……」
「ふんっ。そう思うんだったら今後俺のストーカーは止めるんだな、御鏡」
カジュアルスーツを着た御鏡はため息混じりに口を開く
236:
「ストーカーはひどいなぁ……。ただたまたま仕事先が被っているだけじゃないか」
「バカかお前。俺がL.A.に居るときはL.A.で仕事して、その次はパリだろ?いくらなんでも被りすぎなんだよ。ストーキングするならもう少し隠れようとしろよ」
CAの女性にもう一つグラスを持ってきてもらい、ワインを注ぐ
「遠慮することないからな、御鏡。なんせお前の財布から出て行くんだからな」
「ありがと、京介くん。それじゃあ乾杯」
御鏡はナッツを肴にワインを飲み始めた
237:
日本を発ってから二年半が過ぎた
N.Y.の提携会社に勤めていた俺は僅か半年でL.A.に飛ばされることになった
半年で経営コンサルタントとしての基礎を叩き込まれた俺は欧州各国を飛び回ることとなる
そして自社ブランドを作った御鏡もまた俺より先に行く国々で待ち構えていた
行く先々で出会うこともあってか、俺は御鏡に遠慮しなくなっていた
「京介くんは向こうに付いたらどうするの?」
238:
「あー?とりあえず本社に出向いてそれからはフリーだな」
「そっか、それじゃあ久しぶりに会うんだね」
「…………そうだな。親父や桐乃とも二年ぶりになるのか」
「ふふっ。今はそういうことにしておいてあげるよ」
気持ち悪い笑みを浮かべる御鏡は放っておいて一眠り付くことにした
人を拉致ってファーストクラスにぶち込み高級ワインを飲まれているというのに、御鏡は楽しそうにワイングラスを傾けていた
239:
 早春
「では四月一日付けの辞令で出向という形でよろしいでしょうか」
「あぁ、ただ三〇日に顔合わせがあるからそこで改めてということになる。それにしても槇島さんには改めて御礼をしないとね」
「恐縮です。それではお先に失礼します」
これからお世話になる会社と上司に見送られてビルから出る
東京の春は肌寒く、街を歩く人々は一様にコートを羽織っている
電車に乗り、タクシーを拾えば足は自然とそこに向かっていた
木々の隙間から小さな影を見つける
網膜がその姿を映すよりもはやく駆け出して、その後姿を見つけると足は自然と止まる
240:
「久しぶりだな」
「一年半の遅刻ですよ」
「綺麗になったな」
「お世辞がお上手になりましたね」
「月が綺麗だな」
241:
「残念ながら今はまだ夕方です」
「会いたかった」
「忘れていて、今思い出しただけでは」
「久しぶりだな」
「どちら様でしょうか」
242:
「あやせ」
「……はい」
彼女は振り向く
「ただいま、あやせ」
「……おかえりなさい、京介さん」
俺は書類の入ったカバンを放り投げて駆け出す
24

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