モバP「冬空に天才」back

モバP「冬空に天才」


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2:
――事務所
P「……」カタカタカタ……
千川ちひろ「……」ジーッ
ガチャ
池袋晶葉「やあ、お疲れ様」
P「……」カタカタカタ……
晶葉「おい、無視するんじゃない」
P「ん……ああ、晶葉か。どうした?」
晶葉「君こそどうしたんだ、P」
P「……そんなに元気なく見えるのか」
晶葉「ああ。いつもの君らしくない」
P「俺はいつも通りだが……」
晶葉「むぅ……」
ちひろ「……」ハァ
3:
ちひろ「……晶葉ちゃん、ちょっといいかしら」チョイチョイ
晶葉「ん? ああ……」
ちひろ「プロデューサーさん、少し前からあの様子なの」
晶葉「ふむ……」
ちひろ「話しかけても時々気付いてないみたいですし……」
晶葉「困ったな」
ちひろ「本当にですよ」
4:
晶葉「……ちひろ。しばらくPを借りてもいいか?」
ちひろ「プロデューサーさんを?」
晶葉「ああ。ずっと仕事詰めなのも良くないだろう?」
晶葉「たまには私に付き合ってもらおうじゃないか」
ちひろ「……それじゃあプロデューサーさんのこと、晶葉ちゃんにお願いしちゃおうかしら」
晶葉「そうか。ありがとう」
ちひろ「ああ、そうだ。ついでに買い出し、お願いしてもいい?」
晶葉「買い出し?」
ちひろ「少し遠くなっちゃうかもしれないけれど……これ、頼めるかしら」ピラッ
晶葉「ふむ……分かった」
ちひろ「ごめんね晶葉ちゃん、せっかくの機会なのに」
晶葉「いや、これくらいはお安い御用さ。ありがとう、ちひろ」
ちひろ「いえいえ、楽しんできてくださいね♪」
5:
晶葉「……というわけだ、P。仕事を切り上げて私に付き合ってくれ」
P「……へ?」
P「いや、まだ仕事が……」
ちひろ「私が代わりに引き受けますよ?」
P「え?」
ちひろ「たまには息抜きしてきたらどうですか?」
ちひろ「ここのところずっとお仕事ばかりでしたし……」
P「でも……」
晶葉「むぅ……」ジーッ
P「……いえ、そうですね。お願いします」
晶葉「そうか! さあ、すぐに支度だ。時間がもったいないからな!」パァッ
P「分かった分かった」
ちひろ「プロデューサーさん、あとは任せて下さいね。それじゃあ、ごゆっくりどうぞ♪」
P「は、はい……? 分かりました」
6:
――――
P「……一体何だったんだ、晶葉?」
晶葉「まあ、まあ。私もちひろも、君のことが心配だったんだ」
P「俺が?」
晶葉「最近ずっと上の空だったからな。気付いてなかったのか?」
P「あー……確かにそうだったかもしれない」
晶葉「……それに最近、あまりかまってもらえてなかったしな」ボソッ
P「ん?」
晶葉「なんでもない。ほら、行くぞ」
P「はいはい」
7:
P「今日は特に寒いな……晶葉は、大丈夫そうだな」
晶葉「……なんだ、その目は」モコモコ
P「いつになくお洒落だと思ってさ」
晶葉「……クリスマスプレゼントで貰ったんだ。着ないわけにいかないだろう」フイッ
P「なるほどな」
晶葉「君はいつもの格好だな」
P「これが落ち着くんだ。それに、十分暖かい」
晶葉「そうか……その、似合っているか?」
P「もちろん」
晶葉「……と、当然だろう。皆が選んでくれたんだからな」
P「それで、どこに行くんだ?」
晶葉「いつものパーツショップだ。年末年始で閉まる前に顔を出そうと思ってな」
P「へぇ……ん、少し遠くないか?」
晶葉「たまには歩くのも、いいだろう」
P「そうだな」
8:
P「そうか……もう、年末だもんな」
晶葉「ああ。すっかりクリスマスも終わってしまった」
P「プレゼント、ありがとな。サンタロボは助かったよ」
晶葉「そうか。そう言ってもらえると、私も嬉しいぞ」
晶葉「何しろ一月前から計画していたからな!」
P「プレゼントを渡したら、まさか自動で配りに行くとは思わなかったよ」
晶葉「新しい技術を取り入れてみたんだが……上手く行ってくれたようだな」ニコッ
P「流石だったよ」
晶葉「へへん、もっと褒めてくれてもいいんだぞ?」
P「……ただ、ロボの早さが足りなくてなぁ」
晶葉「……うっ」
P「結局、俺が手渡しするのとあまり変わらなかった気がするんだが」
晶葉「その、それは……来年の課題だな」
9:
――――
カランコロン
「いらっしゃい……おう、晶葉ちゃんじゃねぇか」
晶葉「やあ、店長。アレは届いているかい」
「もちろんだ、ちょっと待ってな……」
P「……いつ見ても、すごいな」
晶葉「だろう? これだけの種類を揃えているのは、ここだけだからな」
P「へぇ……俺には同じようにしか見えん」
晶葉「それと……少々恥ずかしいんだがな」ボソッ
P「?」
晶葉「店長が私のファンなんだ」ヒソヒソ
P「なるほど」ヒソヒソ
10:
「ほら、これで間違いないか?」
晶葉「ああ。いつもありがとう」
「それからこれも。おまけだ」
晶葉「そんな……本当にいいのか?」
「いいんだ、持ってってくれ。前から欲しがってたろ?」
P「……ありがとうございます。ほら、晶葉」
晶葉「ああ……ありがとう」
「俺からのクリスマスプレゼントみたいなもんだ。貰ってくれ」
「それから……ちょっと、兄ちゃん」
P「……?」
P「何でしょうか」
11:
――――
P(それから何軒か、晶葉が懇意にしている店を回った)
P(どこの店でも、晶葉は顔と名前を覚えられているほど有名だった)
P「まるで街のアイドルだな」
P「……いや、今や晶葉はメジャーなアイドル、って所だろうけど」
晶葉「……私はもう、アイドルだぞ?」
P「そうだけどさ」
P「ちゃんと覚えてもらえてて凄いな、ってこと」
晶葉「そうか? 確かに私みたいな客は少ないだろうが……」
P「みんな、晶葉を見たら喜んでくれただろ」
P「それだけ、ファンがいてくれるんだなって思ったんだ」
晶葉「そうだな……こうやって、直接声を聞けるのは嬉しいよ」
晶葉「だが、私もメジャーなアイドルに留まっているわけにはいかないからな」
P「日本を代表するようなアイドルになって貰わなきゃな」
晶葉「もちろんだ。もっと上を目指そうじゃないか」
12:
P「ところで、次はどこだ?」
晶葉「む……さっきの店で全部だな」
P「他に予定は?」
晶葉「……ああ、ちひろから買い出しを頼まれていたんだった」
晶葉「えっと……これだ」ピラッ
P「……ここからだとそう遠くないな」
晶葉「では、行こう。ほら」クイッ
P「楽しそうだな」
晶葉「そうか?」
晶葉「……そうかもな」
晶葉「……ほら!早く行くぞ、P」グイッ
P「はいはい……そんなに急ぐなよ、転ぶぞ」
13:
――――
P「さて……これで全部か」
晶葉「……ほとんど事務用品だな」
P「ああ。年末年始も忙しいしな。足りなくなった時の予備ってところだろう」
P「それより……何か欲しいのがあったら、いいんだぞ?」
晶葉「本当か?」
P「ああ。経費では落とせないけど……」
晶葉「ほう……P、ちょっと来てくれ」
P「ん?」
晶葉「せっかくだ、君に選んでもらおう」
14:
晶葉「さあ、選んでくれ」
P「へぇ、手帳か」
晶葉「来年こそは予定で埋め尽くしてくれよ?」
P「……善処する」
晶葉「ははっ、半分冗談だ」
P「でも、来年こそはもっと晶葉に頑張ってもらわないとな」
晶葉「もちろんだ。今以上に君にも働いてもらおう」
P「そうだな……じゃあ、これとかどうだ?」
晶葉「ほう……かわいいデザインだな」
P「こういうの好きだろう? ほら、うさぎがついてるだろ」
晶葉「……ふふ、中々センスがあるじゃないか」
P「これくらいは、何となく分かるよ」
15:
晶葉「そうか。では、君はこれだな」
P「ほう」
晶葉「君の趣味に合うといいんだが」
P「……うん。いいと思う」パラパラ
晶葉「だろう?」
P「それじゃあ、これも一緒に……」
晶葉「ああ、待ってくれ。これは私が買う」
P「?」
晶葉「……君が自分で買っては、意味がないからな」
P「そうか……?」
晶葉「そういうものさ」
16:
――――
晶葉「ふふ……」ニヤニヤ
P「どうした晶葉?」
晶葉「ん、何でもない、何でもないぞ?」
P「そうか……顔に出てるぞ」
晶葉「!」
晶葉「わ、忘れろ。今すぐにだ」
P「ああ。考えとく」
晶葉「……はぁ」
晶葉「君に忘れろと言って、忘れてくれた事はなかったな」
P「そりゃあ、忘れるのは難しいからなぁ」
晶葉「いっそ、記憶ごと消せば……」ニヤリ
P「やめてくれ」
晶葉「さすがに冗談だ」
17:
P「さて、結構いい時間だな」
晶葉「本当だ……そろそろ戻るか?」
P「ああ。これ以上は暗くなりそうだし」
晶葉「ふむ……」
P「どこか寄っておきたいところはあるか?」
晶葉「そうだな……」
晶葉「……なあ、P」
P「ん?」
晶葉「少し、話をしたい」
P「そうか。分かった」
18:
――――
P「……ほら、晶葉。ココアで良かったか」
晶葉「……ああ。ありがとう、P」
晶葉「……今年も、もうすぐ終わるんだな」
P「そうだな」
晶葉「……私としては、物足りない一年だったな」
P「……」
晶葉「べつに君を非難したい訳じゃない」
晶葉「私自身、力が及ばなかったところはある」
P「……そうか」
晶葉「でも、いいんだ」
晶葉「私にはまだまだ越えなければいけないものがあると、気付けたからな」
19:
晶葉「……そういえば」
晶葉「さっきの、店長との話」
P「ああ」
晶葉「この前の争奪選挙の話だろう?」
P「……そうだ」
晶葉「だと思ったよ」
晶葉「君がずっと、ここ数日悩んでいたのもそれだろう?」
P「……」
晶葉「……確かに、私は落ちたけれど」
晶葉「大丈夫だ。これが最後のチャンスというわけでもないだろう?」
P「ああ……」
晶葉「だから、そんな顔をしないでくれ、P」
晶葉「君はもっと自信を持って、トップアイドルのプロデューサーなんだ、くらいの意気込みでいればいい」
20:
晶葉「……そうだ。オーディションのひとつじゃないか」
P「でも」
晶葉「また、次がある。何度だって、チャンスはある」
晶葉「だから、だから……Pにそんな顔で、いてほしくないんだ」
P「……晶葉」
晶葉「……私には、応援してくれるファンの皆がいる」
晶葉「皆の力のおかげで、私は表舞台に立てている」
晶葉「それが分かっただけでも、嬉しいんだ」
P「……俺は」
P「悔しかったんだ。晶葉を一位にできなくて」
P「それどころか、入賞すら届かなくて」
晶葉「……それは」
晶葉「君だけの所為じゃ、ない」
21:
晶葉「……」
晶葉「私だって、悔しいさ」
晶葉「私の力が及ばなかったのは事実だからな」
P「……」
晶葉「……だが」
晶葉「壁が高いのなら、越えればいいだけのことだ」
晶葉「それに、今の私には……Pがいる」
晶葉「君はただ、私の隣で自信たっぷりに笑ってくれればいい」
P「晶葉……」
P「はは……そうだったな」
P「誰よりも、晶葉を信じなきゃいけなかったのに」
P「俺が弱気になってちゃ、駄目だよな」
晶葉「……いいんだ。私だって、弱気になることくらいある」
晶葉「私には、アイドルなんて華やかなものは似合わないんじゃないかって、不安になることも……あるんだ」
22:
晶葉「時々、思うんだ。私には薄暗い裏方が似合うんじゃないかって」
晶葉「君のおかげで、私は変われたはずなのに」
晶葉「もしかしたら、それはただの思い上がりだったんじゃないかって……」
P「そう……だったのか」
晶葉「……忘れないでくれ、P」
晶葉「君は私を、裏方から連れ出してくれた」
晶葉「私に『表舞台のほうが似合っている』と、言ってくれたんだ」
P「!」
晶葉「Pがくれたガラスの靴……そういうことだと受け取ったよ」
晶葉「やるからには最後まで……君を、私を信じたい」
晶葉「だから……その。来年こそは期待しているからな」
P「……勿論だ。待っててくれ」
P「来年こそは、晶葉をトップまで連れて行く」
晶葉「ああ。約束だ」
23:
晶葉「……へへん、ようやく君らしい顔になったじゃないか」
P「そうか?」
晶葉「ああ。自信に溢れていて、まっすぐ前を向いていて……」
晶葉「なんだか、安心できるんだ」
P「……ありがとな」
24:
――――
P「……ずいぶん暗くなったな」
晶葉「ああ。ちひろも待っていることだろう」
P「それじゃあ、帰ろうか」
晶葉「そうだな……ああ、P」
P「どうした?」
晶葉「……いや、少し寒いなと思ってな」
P「……?」
晶葉「その、手を貸してくれ。右手だ」
P「……ほら」
ギュッ
晶葉「……ふふ、なんだか温かいな」
P「そうだな。温かい」
25:
P「……冬が寒くて本当に良かった、か」
晶葉「?」
P「そういう歌があるんだ」
晶葉「へぇ……確かに、そうかもな」
晶葉「……やっぱり、まだ寒いと思わないか?」
P「そうかもしれないな」
晶葉「だったら……もう少し、こっちに寄ってくれると嬉しい」
P「はいはい」
晶葉「……ふふっ」
P「どうした?」
晶葉「何でもない……さあ、事務所に帰ろう」
P「……そうだな。帰ろうか」
26:
――事務所
ガチャッ
P「お疲れ様です」
ちひろ「あら、おかえりなさい、プロデューサーさん、晶葉ちゃん!」
晶葉「ただいま。ちひろ、ちゃんと買ってきたぞ」
ちひろ「ふふ、ありがとう晶葉ちゃん。それで……」ジーッ
P「?」
ちひろ「上手く行ったみたいですね♪」ニコッ
晶葉「な、何を言って……そ、その……」
晶葉「……ありがとう、ちひろ」ボソッ
ちひろ「いいんですよ、二人とも楽しかったみたいですし」
ちひろ「ねっ、プロデューサーさん?」
P「へ? ああ、そうですね……?」
晶葉「お、おい! P!」
27:
P「そうだ、仕事は……」
ちひろ「ああ、終わらせちゃいました」
P「えっ」
ちひろ「あとは任せて下さい、って言ったじゃないですか」
ちひろ「……もしもプロデューサーさんが元気ないまま帰ってきたらと、思って」
P「そうですか……ありがとうございます、助かりました」
ちひろ「いえいえ、プロデューサーさんと晶葉ちゃんのためですから!」
晶葉「……ふふっ」
P「晶葉?」
晶葉「いや、大したことじゃないさ……ただ」
ちひろ「ただ?」
晶葉「なんだか改めて言うのは恥ずかしいが……」
晶葉「ちひろ、P」
晶葉「今年も良い一年だった。ありがとう」
28:
晶葉「……それと」
晶葉「来年も、よろしく頼む」
ちひろ「……ええ、もちろんですっ♪」
P「こちらこそ、よろしくな」
晶葉「来年こそは、だぞ」
P「……ああ。楽しみに待っててくれ」
晶葉「ふふっ……もう半分のガラスの靴、いつまでも待っているからな」
29:
以上で終わりです。
ありがとうございました。
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