海未「自責の輪」back

海未「自責の輪」


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1:
手に持った四本の矢のうち、二本を床に置く。
手に残った矢の一本を弦に番え、手の内を整える。
残りの一本は右手の薬指、小指で鏃を隠すようにして持ち、右手はそのまま腰に当てる。
物見。
薄い道着の隙間を刺す寒さも、射場に立つと気にならない。
呼吸に合わせて、打起こし、大三、引き分け、会。
口割りを意識し、一秒、二秒……きりきりとわずかに聞こえる、弓の軋む音が耳に心地良い。
十分に会の型をとったのち、離れ。
タァン。
放った矢は28メートルの距離を一瞬で移動し、直径36センチの的を突き破り、安土に突き刺さった。
ゆっくりと息を吐き、残心を解く。
2:
弓を握るのは少し久しぶりのこと。
勉強、アイドル活動、生徒会、家での稽古……忙しくも充実している日常に不満はありませんが、こうして弓を引く時間が減ったのは少し寂しい気がします。
私は弓が好きです。
弓道をしていると頭がすっきりとします。
無心で弓を引いた後には、そういえば、と、不意に忘れていたことを思い出すことがあります。
歌詞作りに行き詰まった時にもこうして弓を手にして射場に立つと、今までのスランプが嘘のようにアイデアが浮かんで来たりもするのです。
3:
右手に持っていた矢を新しく番え、先ほどと同じ動作を繰り返す。
二本目を射ったら、先ほど床に置いた二本の矢を拾い、同じように番え、放つ。
命中したのは四本中二本。
今日はずっとこの調子。
多少のブランクがあったことを考えると悪くない結果ではありましたが、未だ皆中がでていないことが少し無念ですね。
すり足で射場を退場し、カケを外そうとしたところで、ぱちぱちと手を叩く音が聞こえてきました。
「海未ちゃんかっこいー!」
「はぁ……また勝手に弓道場入って……」
「ごめんね、海未ちゃん」
二人の幼なじみ、穂乃果とことりが壁の陰からこちらを覗いていました。
4:
「今日はμ`sの練習は休みでしょう?帰ってなかったのですか?」
「ことりちゃんと部室でおしゃべりしてたの」
穂乃果が壁の陰からぴょこんと飛び出して、答えました。
サイドに結った髪がひらりと揺れる。
それに続いてことりも壁の陰から体を出しました。
「気づいたら結構時間経ってたから、どうせなら海未ちゃん待って一緒に帰ろうかなって」
「そうでしたか。ちょうど最後にしようと思っていたところです。片付けるので少し待ってもらえますか?」
「手伝うね」
5:
「勝手に弓道場に入ってはダメですよ」と再三注意したかいがなかったかいあってか、二人は弓道場の片付けのやり方を熟知した様子で、二人は的場の方へとかけていった。
「どうぞ!」
これは「的場に入ってもいいですよ」という合図。
今は射場には私しかいませんから、的場に矢が飛んで行く心配はありませんが、事故を防ぐためには何時でも守らなければいけないルールです。
二人もそのことは心得ている様子で、私の合図を待ってから的場に入ってきました。
道場の床にモップをかけながら、一応、二人の様子を伺う。
6:
穂乃果が安土に刺さった矢を抜き、ことりが的を外していく。
矢についた土を拭き終えた穂乃果が、的場の脇の小屋からホースを引っ張ってきて、慣れた様子で安土を潤し、同じく脇の小屋から竹箒を取り出してきたことりが土を均していく。
特に心配はなさそうです。
床の掃除を終え、射場のシャッターを下ろす。
鉄のシャッターがひやりと冷たい。
そういえば、道場のホースはノズルのジョイント部分からの水漏れがひどかったはず。
あとで穂乃果にカイロをあげましょう。
7:
「う?さむさむ?」
カイロをくしゃくしゃとこする手に更に息を吐きながら穂乃果が嘆きます。
見ると、ことりもマフラーの中で首をすくめていました。
住宅の塀を越えてところどころ見える木枝には水分を失った葉が数枚、かろうじてくっついているだけで、いかにも寒々としています。
空は子供がセメントを塗りたくったような不均等で灰色の雲の束。
見ただけで体が冷える気がします。
予報では夜から雪でしたが、じきに降り始めるかもしれませんね。
「あ、穂乃果ちょっと本屋さん寄ってくね」
そう思った矢先に、穂乃果が言いました。
8:
「私もついていこっかな。海未ちゃんは?」
雪も降りそうですし明日にしては?
言いかけましたが、穂乃果は思い立ったが吉日を地で行く性格。
雪程度では言っても聞かないでしょう。
だからといって自分だけさようなら、というのも味気がありません。
「そうですね。では、私も」
幸い、利用する書店は家からそれほど離れていません。
少しくらい雪が降ったところで、大して濡れることはないでしょう。
10:
自動ドアが開くと、人口の温い空気が体に絡みついてきました。
家ではあまり暖房を使いませんが、冷えた体には中々に心地が良い。
マフラーを外す。
コートを脱ぐほどではありません。
漫画の新巻でも出たのでしょうか、穂乃果は漫画コーナーへと足を向け、ことりは雑誌コーナーでファッション雑誌を手に取り、ペラペラとページを繰りはじめました。
私も少し見て回ってみましょうか。
11:
あてもなく店内を回っていると棚に挟まれた細い通路の中に穂乃果の姿。
思った通り、片手にはビニールで包まれた漫画が一冊。
本棚の前で何か難しそうな顔をしています。
陳列された本を見るにそこは小説コーナー。
意外、と言っては失礼でしょうか。
穂乃果は活字にはあまり興味のないものと思っていたのですが、何をそんなに熱心に見ているのでしょう。
「どうかしましたか?」
「あ、海未ちゃん。これ、イタズラかな?」
そう言って、穂乃果は目の前の本棚を指差しました。
12:
悪戯?
穂乃果の指の向く先に目を向けると、なるほど、確かに妙でした。
書店では、本は背をこちらに向けて棚に陳列するのが一般的でしょう。
それが一番場所を取りませんし、背表紙にはタイトルと著者以外に目を引く情報がほとんど書かれていませんから、客にとっても楽に目的の本を見つけることができます。
ところが、私達の前の棚には、そういった「効率」というものがおよそ感じられません。
小口がこちらを向いているもの。背はこちらを向いているものの、上下が逆になっているものなどがところどころ混ざっているのです。
よく見ると、本の並び順もいじられている様で、同著者の本が点々と散らばっているものも見受けられました。
13:
「イタズラ……のようですね」
本を手にとった客が無造作に書棚に本を戻した、というだけではここまで滅裂にはなりません。
書店があえてこう陳列している、というのはもっと可能性が低い。
穂乃果の言うとおり、誰かが故意に並びをいじったのでしょう。
「直したほうがいいかな?」
「お店の方に知らせてまかせましょう。結構たくさんの本がいじられているようですし、私達が触って本を傷めてしまっても事でしょうから」
穂乃果の会計を待っていると、ことりが近寄って来ました。
「何かあったの?」
穂乃果が店の方と言葉を交わしているのを見て尋ねて来ました。
「お店の本が少しイタズラされていたので、それを伝えているんですよ」
「イタズラ?」
「はい」
14:
先ほど見たものを簡単にことりに説明していると、穂乃果の方も話が終わった様子。
漫画の入った袋を抱えてかけてきました。
店から出ると、雲は一層重い色を帯び。
また、それとは対称に白く軽い結晶を、ふわりふわりと街に落とし始めていました。
寒い━━━━
そういえば、マフラーを外していたのでした。
15:
小雪とはいえ雪に降られ、穂乃果とことりと分かれ家路を急いでいると、赤い派手な車が家の前の道に止められているのを見つけました。
この車は、確か……
車に近づくと、運転席のドアが開きサングラスをかけた女性が出てきました。
背は私より頭半分ほど高い。
かかとを少し上げたチャンキーヒールのブーツを履いていますから、差は十センチ弱でしょう。
私と同じ、腰ほどまで伸ばした青みがかった黒髪をうなじの辺りで一つにまとめています。
「あの……」
「んふ……」
16:
私が声をかけると、女性は何やら不敵に微笑み、サングラスに手をかけました。
そして……
「海未ちゃーん!ひっさしぶりー!」
気取った風にサングラスを外したかと思えば、甘ったるい猫なで声で私の名前を呼ぶ彼女は、美空(そら)姉さん。
━━━━私の姉です。
24:
「姉さん、帰ってきてたんで……」
言いかけたところで、姉の人差し指が私の口をふさぎました。
悪戯っぽく笑う歳の離れた姉には、私にはない大人の魅力のようなものが感じられて。
思わずどきりとしてしまいます。
「姉さんじゃなくて、お姉ちゃんがいいっていつも言ってるでしょ?」
言動が子供っぽいところは、昔と変わりませんが。
25:
「ちょっとこっちの方に用があってね、海未ちゃんに会っておこうかと」
「どうしてこんなところにいるんですか?家にあがらないんですか?」
「ん?、それなんだけどね?……海未ちゃん、一緒にご飯食べに行こ!」
またですか、と私は思わずため息をつきました。
26:
美空姉さんは、私よりも十歳年上の、園田家の長女だ。
通常では長女である姉が園田道場の跡継ぎということになるのですが、姉はそれを望まなかった。
卒業したら一人暮らしを始めると言ったのが姉が高校生の時のこと、反対する両親を説得して卒業と同時に家をでました。
そのこともあって、姉は実家に帰ってきてもあまり両親と顔を合わせようとせず、こうして私だけを食事に誘ってきます。
とは言え、姉と両親は喧嘩別れというわけでもなく、「姉が継がないのなら私が継ぎます!」と、私が名乗りを上げ、それならまあと、円満とはいかないまでも、比較的穏やかに姉の意思は両親に受け入れられました。
姉ももともと放埒だったわけではなく、基本的には家の教えには従うことが多かったのも、親が姉の我侭を聞いた一因でしょう。
両親と会おうとしないのは、「小言がうるさいから」という、ただそれだけの理由、と姉は言っています。
それにしても、当時私はまだ小学生だったのですが……
当時の私の言葉を鵜呑みにして、もし私の気持ちが変わっていたら、両親はどうするつもりだったのでしょう。
27:
「それなら事前に連絡してください。母上に連絡しないと……」
「大丈夫。私から海未ちゃん借りるって連絡入れといたから」
「私は物ではないのですが……」
ちょうど姉の胸元から、メールの受信を告げる音がなりました。
が、姉は確認しようともしません。
続いてもう一度、受信音。姉はやはり無視。
おそらく母からのメールでしょう。
有無を言わせず連れて行くつもりでしょうか。
28:
「はぁ、わかりました」
「よぅし、決まり!乗って乗って」
抗っても無意味なことは過去の経験から承知済み。
おとなしく姉の車に乗り込みます。
タバコのにおいがしました。
「何食べたい?なんでもいいよー」
「そうですね。お寿司とか」
「おいおい……」
あとで母に小言を言われるのは私です。
これくらいは許していただかないと、ね。
「なぁんか、強かになったね」
「おかげ様で、ふふ」
姉は呆れたように笑って、車を出しました。
31:
「ふ?ん……へぇ?……」
関心した声を上げて私を見る姉の目はしかし、これはからかいがいがありそうだと笑っていました。
ああ、なんという不覚でしょう。
我が家から車を10分ほど走らせたところにある寿司屋。
「回らないところは勘弁してね」という姉の言葉を「仕方ありませんね」と受けて入ると、回転寿司、と言っても、一皿の値がネタに寄って変わる少し高めのお寿司屋さん。
お皿を重ねながら「最近どう?」などと、お互いの近況報告に花を咲かせていたわけですが、そこでうっかり、私がアイドルをやっていることを滑らせてしまったのです。
32:
「海未ちゃんがアイドルねー」
秘密にしていたわけではありませんが、やはり顔が熱くなります。
「なんでまた?」
私は諦めて、アイドルになるまでの経緯を簡単に説明しました。
「ふぅん、やっぱり穂乃果ちゃんか。しかも、海未ちゃんたちの活動のおかげで廃校は免れたわけだ。立派立派」
姉は嬉しそうに言いながら、イクラの軍艦を口に放り込みました。
音ノ木坂学院は、姉の母校でもあります。
33:
「今日帰りが遅かったのもそのアイドル部の活動があったから?」
「いえ、今日は活動は休みで、弓道部の活動のあと、穂乃果とことりと本屋に寄り道を」
「海未ちゃんはホント幼なじみラブよね」
「そういえば、その本屋でのことなのですが」
この類のからかいには慣れていたので、無視する。
姉は無視されたことに少しふくれっ面を見せました。
34:
「本屋にイタズラねぇ……」
私の話が終わると、姉はなにか含みのある言い方でつぶやきました。
軽口をいなすつもりで話した本屋の悪戯の件に、姉は思いの外真剣になって耳を傾けていたようでした。
「その本屋でイタズラがあったのは、今日が初めてなのかな?」
「え?さあ、そこまでは……私が見たのは今日が初めてですけど……」
「他の本屋でそういうのは見た?」
「他の店には最近行ってないので……あの、何か気になることでもあるんですか?」
「や、なんでもなーい。あ、サーモンサーモン♪」
それまで少し剣呑な表情をしていた姉は一転してケロッとして、再びお寿司を頬張り始めました。
35:
そこからは姉の話。
お寿司をつまみながら、姉の旦那様の愚痴を長々聞かされました。
愚痴といっても、揶揄するような含みはまったく感じられず、半ば惚気話のようなもので、幸せに生活していることが伺えて、聞いていて気持ちのいいものでした。
36:
━━
━━━━
「今日はありがとねー、付き合ってくれて」
「いえ、こちらこそご馳走様でした。お寿司美味しかったです」
帰りの車。
「あー、また節約しなきゃ」
「吝嗇は身を滅ぼすと言いますよ。使いたくなったらまた誘ってください」
なんて軽口を叩いてみる。
「ホント、強かになったね」
姉は呆れて笑いました。
つられて、私もクスリ。
37:
私がこんな態度を取るのは、美空姉さんだけ。
姉もやぶさかではないのです。
私にはそれがとても嬉しい。
このように甘えられる相手は、なかなか見つからないもの。
歳が離れていても、姓が変わっても、離れて暮らしていても、彼女は昔から私の頼れる姉なのです。
3

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