一夏「インフィニット・ストラトス」【後半】back

一夏「インフィニット・ストラトス」【後半】


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?数日後 日曜日? 
箒(皆が一夏にそれぞれの事情を報告し合った日以来、私は専用機持ちたちやクラスメイトと親交を深めていっている)
箒(クラスメイトたちは気が良く、優しく、一緒に過ごしていて楽しかった。
 食堂で談笑しているとそのときの話題に関心を惹かれた先輩たちが寄ってきて、そこからよく会話するようになったこともある)
箒(しかし、私はタイミングになかなか恵まれず、未だに一夏に私が距離を取ろうとした理由を打ち明けられずにいた。
 ある日の昼休みに謝ろうと思って一夏に接触したのはいいものの、静寐たちからいきなり声を掛けられて言いそびれてしまったこともある)
箒(彼女たちの笑い声に囲まれて、段々と一夏のことを考える機会が減っていったのも関係しているかもしれない
 あの日奇妙な色に染まった一夏の目を見て私が心配したことすら、友人たちとの付き合いに押されていつしか記憶から薄れていった)
箒(しかし私はそれでいいと思っていた。一夏は平気そうだったし、もう誰も少し前の話を持ち出そうとはしなかった。
 恐らく私と同じように信頼できる仲間と楽しく日々を送るのに夢中になって、他のことを考える余裕が無くなっているのだろう)
箒(今だって楯無さんがセシリアと鈴に特別講義と称して模擬戦を行っている。
 生徒会長が率先して下級生と交流しているので、上級生たちの中には楯無さんのその姿勢に影響を受けた人もいるそうだ)
箒「………」
ダリル「よーよー箒ちゃーん。準備はできてるかー?」
箒「先輩」
フォルテ「今日は先輩が揉んであげるからなー。といっても胸じゃねえぞー」
340 :以下、
箒「あ、はい! お願いします」
ダリル「それにしても勤勉だねー。特訓付けてもらいたいなんてさ」
フォルテ「今年の一年はすごいとは聞いてるけどー。こんな向上心あるなら納得って感じかなー。ね、先輩?」
ダリル「おまえも見習えよ―」
フォルテ「先輩こそー。率先して後輩にあるべき姿を示さなきゃいけない立場じゃないんスか」
箒「あ、あの……」
ダリル「そーだ。もう一人いるって話じゃなかったな。ほら……」
簪「すいません。今来ました」
フォルテ「おー」
箒「ダリル先輩、フォルテ先輩……知り合ったばかりというのに特訓に付き合ってくれてありがとうございます」
ダリル「気にすんなって。後輩に胸を貸すのはウチらだって初めてじゃないんだからよ」
フォルテ「後輩があんなにがんばってる姿勢を見せてきたからには、エネルギー節約志向の私らでもちょっとは己を見つめ直すッスよねー」
簪「そうなんですか?」
フォルテ「聞いてねえのー? ほら話題の彼だよ彼」
箒「一夏……ですか」
341 :以下、
ダリル「おう。一昨日に私らがアリーナでだべってるところに声掛けて来てさー」
フォルテ「デートの誘いかって思ったッスよね、あのときは」
箒「へえ……」
ダリル「ちょっと手合わせしてくれって言う相談だったんだよ。で、興味半分で受けてみたら、ビックリだったね」
フォルテ「冷や汗かかせられましたよねー」
ダリル「ほらあれだ。会長にしごかれたらしいから、その成果が出たんだろ」
フォルテ「会長様々ッスよねー。そうだ、簪ちゃんはあの人の妹なんだよなー」
簪「はい」
フォルテ「まじ強いんだろなー。お手柔らかになー」
簪「い、いえ! 私なんて全然……!」ブンブン
ダリル「じゃいっちょアリーナ行くか―!」
箒「はい!」
簪「ええ!」
342 :以下、
簪(私も強くならなきゃ……もっともっと稼働時間を積んでいかなきゃダメ! 皆と一緒に戦いたいもの……)
箒(簪……気合いが入っているな。私も負けていられない)
ダリル「さーて……どれくらいの実力なのかなー」
フォルテ(『イージス』見せてやったら驚くだろうなー。披露するかどうかはこの子ら次第だね)
箒(ダリル先輩もフォルテ先輩もかなりの強さを誇っていると聞いている。相手にとって不足は無い!)
箒(ふふ……今日も充実した日になりそうだ。そうだ、特訓が終わったら先輩たちを遊びに誘ってみるのも良いかもしれない)
?その日の昼前?
【一夏が住んでいた町】
一夏「んー……さてと、さっさと買いに行くか。書店に戦術書とかおいてあるかな」
一夏「この一週間、休みが来るのが凄く遅かった気がする。目の前のことに夢中だったからかな」
一夏「…………」
一夏(俺がやろうとしていることは、多分間違ってないと思う。皆笑ってくれているし、話を聞く限りじゃあ悩みも解決したらしいし)
一夏(弾……あの日はおまえに厳しいこと言われたけど、俺は一つの答を掴みかけてるぞ)
一夏「…………ん?」
弾「お……」
343 :以下、
一夏「よう弾。出前の帰りか?」
弾「ああ、まあな」
一夏「そっか、大変だな」
弾「…………」ジロー…
一夏「どうしたよ」
弾「もう選んだのか」
一夏「……」
弾「分かってるんだろ。俺が何のこと言ってるか」
一夏「ああ」
弾「それならいいや。もうあの子たちに何があったか分かってるんだよな」
一夏「おう。今はすべて分かってる」
弾「そうか。で、今までの無責任な生き方を改める気になったって訳だな」
一夏「そのことなんだけどな、弾……俺前におまえに相談に行った帰り道で色々考えたんだ。
 箒たちの事情とか、自分の立場とか……今まで俺があいつらにやってきたことと、やりたいこともな」
弾「ふーん……」
344 :以下、
一夏「俺なりに頭回して、どうにかしてあいつら全員を幸せにする方法は無いか、考えてみたんだ」
弾「何?」ピクッ
一夏「え……」
弾「おまえ、さっき俺が『もう選んだのか』って聞いたら『ああ』って答えたじゃねえか。
 女の子たちの中から一緒にやっていく子を決めたんだろ?」
一夏「俺はどういう生き方をするかってことを尋ねられたと思って……」
弾「はあ……はいはい、まあいいや、うん。良くねえけど」
一夏「……俺、答の輪郭を掴めた気がするんだ」
弾「その前に聞いとくけどさ、おまえ、俺が言ったこと覚えてるか? おまえ一人で全員助けていくなんて無理だって」
一夏「分かってるさ」
弾「……一人を見ながら他の子たちにも気を向けるなんて最低野郎のすることだぞ」
一夏「そういうことも言われると分かってるさ。でも、皆を幸せにしたいんだよ……俺は」
弾(……何でこいつは「守る」とか「助ける」とかそういったことにここまで執着するのかね)
一夏「やるべきことが見えてきたんだ。今までのやり方と変えたんだけど、おまえには多分変わってないと言われるかもな」
弾「言ってみろよ」
345 :以下、
一夏「俺は皆の力になりたい。誘拐事件に巻き込まれたとき千冬姉に助けられたから、俺も誰かを助けたい気持ちを持つようになったのかも知れない」
一夏「その気持ちに則って色々やって、IS学園ではたくさん仲間ができた。
 でも、皆に接触を拒まれたときはすげえ不安になったんだ。それまでは知らず知らずの内に自分のやり方は正しいんだと考えてたからさ」
一夏「それこそ、自分の世界が壊れるような感覚にも襲われたよ。皆に残酷なことした罪悪感と自分の無力感に苛まされた」
弾「それなりに悩んだってことだな。で?」
一夏「俺は理想を少しずつ形にしようって思って、つまづきながらも行動を続けたんだ」
弾「そこだ。そこを詳しく聞かせろ。どういう行動を起こしたのか、それはどういう目的に基づいているのかをな」
一夏「皆を全員笑顔にできる方法なんだ。おまえが前言った通り、皆それぞれ俺には想像できない悩みを抱えていたよ。
 IS学園戻って皆に声を掛けていったんだけど、こっぴどくはねのけられちまった」
弾(だろうな。皆愛想尽かして当然だぜ)
一夏「皆に接触しようとしたのは一つの考えがあったからだ。皆を守るためには、皆の力を借りれば良いんだって」
弾「は?」
一夏「俺一人の力では限界がある。でも、皆が助け合う関係になってくれれば、結果的に全員の悩みを解決できるんだ」
一夏「そのために俺はあいつらに周りへ目を向ける余裕を持ってもらおうとした。あいつらの事情を聞いたり、仲間を頼るよう言ったりな。
 良いやつらなんだよ、本当に。仲が良くて結束力もあって……」
弾「…………」
346 :以下、
一夏「だから鈴たちが鬱屈した気持ちを持ってるなら、俺にそれを吐き出して欲しいと思った。
 友達同士で仲良くしていたあいつらの気持ちを信じて、交流を取り戻す後押しをしようってさ」
弾「それも全部あの子たちを守るために、か」
一夏「直接全員守るのは無理かも知れない。「誰か」一人を助けに向かうと別の「誰か」を無防備にしてしまうこともある」
一夏「でも、その「誰か」と「誰か」をお互いに心から助けたいと思える仲にする手伝いはできるかも知れない。
 助け合いのネットワークを際限無く広げ続けることはできるかも知れないんだ」
弾「……まあ大体分かった。おまえが考えてることはな」
一夏「俺も鈴たちが笑うところを見るまではかなり不安になったけどさ、間違いじゃ無かったって思うよ」
弾「ふう。おまえってやっぱり無責任な男だな」
一夏「……」
弾「肝心の悩みの解決は他の子に頼って、おまえがやることは結局裏からせこせこするだけかよ。楽なポジションだな」
一夏「俺が相談相手だと話しにくいことだってあるだろうからな。
 例えば、俺がしたことが原因で苦しんでいるときは、俺が行っても迷惑だろう。
 ま、そういう場合でもまず話は聞きに行って、悩みを話してくれとは言うけどな」
弾「そういうのが嫌な子だっているぜ。周りから干渉されることが重荷になることもある」
一夏「でもそういう人だって一人で抱え切むのが辛くなって外に助けを求めることがきっと来る。
 そのときのために想いを受け止める地盤を作っておくのは悪いことじゃないだろ?」
347 :以下、
弾「…………」
一夏「内に篭るのをやめて心を開いた人が二、三人いれば、少しくらい気難しい人がいても包み込んでやれる」
一夏「……事実、あいつらはそうしてくれた」
弾「おまえの考えはよく分かったよ」
弾「でも、少なくとも俺はごめんだな。俺はおまえが作る相互互助の輪に入りたくは無い」
一夏「…………!」
弾「気持ち悪いんだよ。俺は真正面から応えたい人がいるから、自分の身の回り以外のことに気を回せない」
一夏「弾……」
弾「鈴たちがおまえを遠ざけたのは、おまえが原因だったんだろ」
一夏「……ああ」
弾「やっぱり今回のは元を辿ればおまえの無責任さが引き起こした事態じゃねえか。それなのに愛想を振り撒くのを止めようとは思ってない。
 そんな奴が浅知恵で導き出して縋りついてる理想なんて、早晩穴が空いちまうに違いねえよ」
一夏「!!」
弾「こういう言葉を聞いたことがあるぜ。『八方美人の行く末は八方塞がり』だってな。今のおまえはこの言葉を重く受け取らないとダメだ」
弾(皆おまえに好意を持っている可能性がある以上、いつかは彼女たちはぶつかり合ってしまうはずだ。
 そうなったら仲良しの子に何かあったとき助ける余裕を無くしてしまう人も出るに違いねえ)
348 :以下、
一夏「……それも……分かってるさ……」
弾「いいや、分かってねえよ。今まで通り女の子をたぶらかしてるんだろ?」
一夏「……あいつらとは距離を取ってるよ。多分、鈴たちの中の俺の存在感は薄くなってると思う」
弾「あん?」
一夏「多分信頼できる仲間に囲まれてるってことが嬉しくて、俺のことなんか忘れちまってるさ」
一夏「あいつら、食堂で友達同士集まって凄く楽しそうにしててよ……あ、俺はもういらないんだって思っちゃったぜ」
一夏「…………」ジワッ
弾(え? こいつ泣きかけてんのか)
一夏「でも、そうなることは俺が追ってる理想にとって良いことなんだよな。鈴やセシリアがお互いの絆を深め合ってくれるなんて、願ったり叶ったりだよ。
 交流が深まれば自然と助け合おうと考えるようになるし……」
弾(こいつ……)
一夏「それ見たあとしばらく考えて、やっぱりああいう光景を守りたいっていう思いを強くしたよ」
弾「おまえさあ……何か無理してねえか?」
一夏「俺が無理を? 皆に無理させちまったのは俺だぜ……」
弾「自分に嘘ついてるっつーか、重要なことを全部言ってないって気がするぜ」
349 :以下、
一夏「…………!」ピクッ
弾「ま、いいや。おまえの描いた理想の世界が実現するとは思わねえが、目標を持って行動に移してること自体はいいんじゃねえのって思うしな」
一夏「弾……」
弾「でも言っとくが、俺はおまえの気持ち悪いヒロイズムなんて認めないからな。蘭にも近づかないでくれ」
一夏(! そこまで言わなくても……)
弾「そんな驚いた顔すんなよ。胡散臭い男に大切な妹を近づけたい兄なんていねえだろ」
弾「そもそも何でおまえはそこまで『全員の力になる』とか完全な自己満目標を追い掛けてるんだよ? ちょっと異常だぜ。
 自分のしたことがきっかけで苦しめても反省してねえし―――」
一夏「…………」プルプル
一夏「……じゃあ、どうすりゃ良かったんだよ!!」
弾「何だ急に?」
一夏「鈴が冬の日に凍えているのを見かけても、他人事だとして放っておくのが正解だったのかよ!?
 シャルの家の事情を知っても、無関係を決め込んでさっさと学園から追い出した方が良かったって言うつもりか!?」
弾「そう言う訳じゃねえよ。でも線引を早い内にやっとかねえといつかはとんでもねえことになるって話だよ」
一夏「諦められねえんだよ! 向こうの事情も分からず急にいなくなられるのは誰だって嫌なんだ!
 いきなり繋がりを断ち切られたときは辛くなるんだよ! 一人で辛い気持ちを抱え込んでたらダメになっちまうよ!」
弾「はあ……?」
350 :以下、
一夏「ふう……ふう……」
一夏「弾……おまえもIS学園に入ってみろよ。その上で俺よりうまいこと立ち回れるならやってみせてくれよ」
弾「……そんな話をしても意味ねえだろ」
一夏「さっきから好き勝手なこと言いやがるもんだからさ。いきなり放り込まれて、勉強を強制させられることなんか俺は望んでなかったんだぜ?
 生徒会に入れられたり無理に部活に貸し出されたり決められて……
 痛え思いも何回もして、骨が折れたこともある。俺が良い思いばっかりしてきたと思ってんのか?」
弾「っ……」ギリッ…
弾(こいつ……俺が持っていないものをどれだけ持ってると思ってやがる……!)
弾「その代わりおまえは羨まれる地位を持ってるだろうが! 世界で唯一ISを使えて、世界最強の姉いるんだろ!
 恵まれてる癖に苦労人面するんじゃねえ!」
一夏「それは……ぐ……」
弾(俺だって、ISを使えるなら使いたいさ……でも……男で動かせるのはこいつだけなんだ)
弾「この際だから教えといてやるよ。俺がおまえと今まで仲良くしてたのは、IS学園の女の子とお近づきになりたかったからだ」
一夏「え……」
弾「おまえはどうしてか分からねえがモテるからな。一夏くんの友達ポジションにいればおこぼれに預かれるだろうって計算してたんだよ」
一夏「弾……おまえ本気で……」
弾「でも、厄介事を持ち込まれるのは俺が望んでたことじゃない。今までは俺なりにおまえの問題に付き合ってやったが……内心うざいと思ってた」
351 :以下、
一夏「な……に……?」
弾「もう良いだろ。アドバイスもしてやったじゃねえか。消えろよ」
一夏「おまえ……俺に厳しいこと言ってたのも……」
弾「ああ。おまえに苦しんで貰おうと思っただけだよ。どうでも良かった」
一夏「……………!!」
弾「さっさと女の子の楽園に戻れよ。おまえほど恵まれた人間なら寄ってくる女も多いだろ? 選び放題じゃねえか。
 皆守りたいなんてガキみたいなこと言ってねえで、お気に入りと好きに遊びまくるっていうのも一つの道だぜ」
一夏「……」
一夏「おい、弾」
弾「……んだよ、その殺気に満ちた目は? 暴力事件でも起こそうってのか?
 あ、そうか。おまえ国から大事に扱われてるんだっけ。何しても保護して貰えるから―――」
一夏「……!」ブン!
弾「!」グアッ!
バギャッッ!!
352 :以下、
一夏「ぐ……」
弾「がはっ……」ヨロッ
一夏(痛え……こいつ、こんなに重いパンチを……)
弾「う……」ガクッ
弾「……てえ……くそ、同時に打ち込んだのに……」
一夏「…………」
一夏(俺は……何をしてるんだ……)
弾「流石に鍛えられてるな。専属コーチでもいるのか? それとも千冬さんの直伝か」
一夏「う……」
弾「ふん……よっと」ムクッ
一夏「あっ、弾……」
弾「…………」ギロッ
弾「一夏……俺はおまえのやり方を聞いてて、俺は違和感を捨てきれなかった。
 それは多分、おまえが何かを伏せて話したからだと思ってる」
一夏「え!?」
弾「……あばよ」スタスタ
353 :以下、
一夏「あ、ああ…………」
一夏「行っちまった……」
一夏「弾……」
一夏「俺だけかよ。友達と思ってたのは……」
一夏「厳さんの飯食わせてもらったり、蘭の遊び相手になったこともあるだろ。
 やっぱり、高校が違うとうまくいかなくなるもんなのか……」
一夏(あのとき、弾の言ってた言葉……俺が恵まれてるって言うのは、否定できねえ事実だ。
 俺だって分かってる……でもおまえがそう思ってたなんて……)
一夏(あいつが欲しかったのは『世界唯一の男性IS操縦者の友人』っていうポジションで、俺は利用されてただけだったって、本当か……)
一夏「はは……相棒みたいな奴だったのにな……」
一夏「…………」
一夏「うう……ううううう…………」
――――――
―――

354 :以下、
【五反田食堂前 道路】
弾(あーあ……何でカッとなっちまうかね、俺は)
弾(そりゃ、あいつに嫉妬していた面があるのは認める。でも、ここで問題なのは自分の中の悪意をかなり脚色してしまったことだ)
弾(…………)
弾(あいつが仲良くしてた女の子たちから無視されてるって話を聞かされたときも、そのことを喜ぶ気持ちが僅かにあった。
 俺はあいつに最低野郎みたいなこと言ったけど、友人が苦しんでるのを楽しんでしまった俺はもっと屑だな)
弾(でも、あいつに言ったアドバイスは俺なりにあいつのことを思って送ったつもりだ。後の方以外はまともに対応していたとも思う
 ……やれやれ、前に数馬と衝突したときといい、頭に血が上ると俺は人一倍喧嘩腰になっちまうのかもな)
蘭「あ、お兄! どうしたの、顔赤いよ! 殴られたみたい」
弾「蘭か。心配すんな」
蘭「大丈夫なの?」
弾「おー。でも物騒だからしばらく家出るのは止めとけ」グイッ
蘭「え、ちょ、ちょっとどういうこと? 何があったの」
弾「いいからいいから」
弾(今のあいつは知り合いには会いたくねえだろう……)
355 :以下、
【喫茶店】
一夏「弾……好き勝手言ってくれたけど、真に迫る意見も多かったんだよな」
一夏(そもそも、俺自身がまだ甘すぎるんだよな……くそ)
一夏(俺にだってエゴがあるのは知ってるさ。感じてしまうものは仕方ないだろ)
一夏「俺……解決策を思いついて、それを実行して、最初はつまづいたけど形になっていくのを感じられて、心に温かさが広がっていくのが感じられた」
一夏「でもあの日、飯に誘いに来た箒に知らされた。皆が一緒になって笑い合う様になったのは箒が俺がやろうとした役割を……
 『皆を結び付ける』行動を代わりにやってくれたからだって気付いて……」
一夏「その仕事まで取られたら俺がいる意味が無くなってしまうと恐怖しちまった。
 皆が食堂で他愛もない話題で盛り上がっている光景を見たときは嬉しかったのに、それが自分がもたらしたものではないと気付いたときはショックだったさ」
一夏「結局俺は『皆を助けたのは俺だ』って言いたかっただけなんだって思って、二重にダメージを受けた」
一夏「皆に遠ざけられてた理由を聞いたときもそうだ。皆それぞれ事情があったけど、やっぱり俺の存在が悩みの遠因になっていた。
 俺が良かれと思ってやったことが、苦しみの種になって、追い込んでしまったんだ……」
一夏(もう……関わるべきじゃないんだ。あいつらと深く付き合うことを、少しずつでもやめて行かなきゃいけない)
一夏(そんな難しいことじゃないさ。そもそも出会った最初から俺のことを好意的に見てくれたケースの方が少ないし。
 邪険されて、利用しようとされて、見下されてきたのが普通だったじゃないか)
一夏(大丈夫だよな、俺)
一夏「…………」
356 :以下、
一夏(うん。大丈夫だ。あいつらの笑顔を未来まで守ることができるんだ)
一夏(あいつらが集まって楽しそうにしてるのを見たときの、胸の奥から嬉しい気持ちがせり上がってきた感覚は強く残ってる)
一夏(山田先生だって、のほほんさんだって、楯無さんだって、俺は背中を押して外の世界に目を向けさせてきた。
 箒に朝食に誘われてとき、朗らかにして周りと交流している皆を見れて、凄く安心したんだ)
一夏(何が問題か? 俺の夢がどんどん形になっていってるんだぜ? 良いことじゃないか)
「うぇーい数馬! どうだった?」
一夏「ん?」
数馬「いけたぜ。アドレス教えてもらった」
学生A「へえ?! やったじゃん」
学生B「場数の違いが出るのかね、やっぱ」
数馬「まーな。モテるために話題のチョイスやら女子の流行やらを研究してたからな。論文発表くらいはできるぜ?」
学生A「言うねえ?」
学生B「ゲーセンでいきなり『女の子見つけたから仕掛けにいく』なんて言ったときはどうなるかと思ったけどな」
357 :以下、
一夏(あれは数馬だ! あの二人は友達か?)
学生A「モテるための努力かあー。そういや数馬、おまえ前ベース練習してるっつってなかったか?」
数馬「ああ、あれか。だるいからやめたよ」
学生B「もったいねえなあ。いつか聞かせて貰おうと思ってたのに」
数馬「いやあ、女にモテたくて始めたもんで俺も気楽にやってたんだよ。
 でも、一緒に練習してた奴がもっと真面目にやろうぜとか言い出して、そっから全部狂った」
学生A「ああ、いるよなあ。急に意識が高くなってうざいやつ。パッとしない奴だったのに宗教入ったみたいに急に豹変したやつも知ってるわ」
学生B「そういう奴見てるとイライラしてくるよな」
数馬「そうそう。俺は今まで通りでいいよって言ったんだけど、そいつは自分で勝手に練習するようになってさ」
数馬「何つーか、ノリが合わなくなったんだよ。変に努力せんでいいのによ」
学生B「まあ、あれだ。俺らみたいなのはある程度は頑張らんと女も手に入れられんからな」
学生A「そこら努力しようとする姿勢は見習おーかな。いや、うそうそ」
数馬「あいつの真剣さは理解できねえんだよ……」
学生A「……ほら、何て言ったっけ? IS動かせた奴。俺らと同じ高一の」
学生B「織斑だろ。織斑一夏」
358 :以下、
数馬「!」
学生A「そうそれ。何の努力もせずに女の子を手に入れたいならあいつと立場替わってもらうしかねえよ」
学生B「うんうん。一日でいいからマジで俺をあの学園に入れてくれとは、俺も何度も思ってる」
学生A「ま、でもあいつ絶対調子乗ってるよな」
学生B「めっちゃ羨ましいぜ。ネットニュースでIS学園は美女揃いだって言ってたし。
  唯一の男子学生ってことで周りからめっちゃ持て囃されてんだろうよ」
学生A「そういや、この前雑誌でモデルみたいなことやってたらしいしぜ。勘違いは確実にしてるな」
数馬「…………」
学生A「周りから気を遣われてるんだろうな。ああ、なんかムカついてきたわ。俺らは何も良いことないのに」
学生B「どうした数馬?」
数馬「あ、いや……」
学生A「なあ、数馬。織斑ってやつ腹立つよなあ」
数馬「え……」
一夏(数馬……)
359 :以下、
学生B「俺らは悲惨な境遇に甘んじてるっつーのに、不公平だよなあ」
数馬「…………」
学生A「なあ、どうした?」
数馬(やべえ、怪しまれてるな……)
数馬「……ま……」
数馬「まあ、な。確かに、俺らと何も変わらんのにあいつだけ良い思いをしてるっていうのは、許せねえよ」
学生A「だよなあ。さっき言ってたベース一緒に練習してた奴とどっちがムカつく?」
数馬「分からんな。でも、練習仲間だった方も出来の良い妹が居たり最近になって彼女できたり、恵まれてたな」
学生B「マジかよ」
数馬「まあ、どっちも大したことないぜ。織斑の方なんかたまたま運が良かっただけだし」
数馬「と言っても、向こうも俺らみたいな奴のこと見下してるだろうけどな。世間知らずの馬鹿だから」
学生A「あー、ありそうだわ」
数馬「と……済まん、ちょっとトイレ行ってくるわ」
学生B「ここに来る前に済まして来いよ??!」
360 :以下、
【道路】
一夏「数馬が……そうか。俺はそう思われてたんだな」テクテク
一夏「そもそもが、俺が自分の都合の良いようにあいつらのことを捉えてたってことだな。
 弾や数馬が友人だと、疑い無しに信じてた俺が悪いってことなんだな」テクテク
一夏(そうだよ……高校が違えば付き合いも変わるし……中学時代の仲間といつまでもいられねえさ)
一夏「でも……くそ……だ、ダメだ」ジワ
一夏(喫茶店での話を聞いてるときは頭がかーっとしたけど、しばらくしたら悲しくなってきた)
一夏(そりゃ世間ではああいった声はあるだろう。それは良いんだ。でも、昔の友達にまで馬鹿にされるのってよ……
 ここまで……ショックなものなんだな……)
一夏(うう……)ポタッ
一夏「何でだよ。何で昔の友達が離れてくんだよ」
一夏「雑誌の取材だって、自分から行きたいと言った訳じゃねえよ」
一夏「俺はだってなあ、おまえら同じように遊びたいよ!
 やりたいこと探したり、それを見つけても実現できるか不安になったりしてるんだ!」
一夏「俺だって……俺だって……」
一夏「おまえらと変わんねえんだよっ……!」
361 :以下、
一夏「……………ん」
一夏(ここは……篠ノ之神社か。なんで足がここに向いたんだろう)
一夏(前に夢で見たからかな? それとも決意を新たにしたいから、自分の原点があるここを確認したかったのかな?)
一夏「…………はあ」
一夏(最近ちょっと疲れたな。どうしようもなく落ち込んだり、嬉しい出来事にわくわくしたり、またちょっと悩んだり……)
一夏(俺の生き方が悪いのかな。弾に否定されたせいか、皆を守るっていう決意がちょっと揺らいじまってる)
一夏(でも、俺みたいな境遇の人間なんていないしな。俺自身でどうにかしないとダメなんだ)
一夏(これで良いはずだとは思ってるんだけどな。
 ……皆が笑ってる姿を見て、それが嬉しくて、でもそれは俺じゃなく箒が頑張ってくれたことで、それでまた自分の価値が分からなくなって)
一夏(小学生時代の俺は、こういうことで苦しむことになるなんて想像もしたことなかったな……)
ヤアー! タアー!
一夏「うん……? 掛け声?」
一夏(聞こえてくる方向からすると……俺たちの秘密の場所か?)
362 :以下、
【篠ノ之神社近辺の林】
ブン! ブン! 
少年「やあー!」
ブン! ブン!
少年「面! 面!……ふー……ちょっと休憩」
少年(あいつが付いてきてないから集中できるなあ。ああ、もっと強くなりたい……)
「なあ、そこの君」
少年「へっ!?」ビクッ
一夏「ああ、ごめんごめん。掛け声が聞こえてきたもんだからちょっと気になってさ。剣道の練習?」
少年「はあ、その、えっと……そうです」
一夏「やっぱりか!」
少年(高校生くらい? ここは僕くらいしか知らない良い特訓場だと思ったけど、あんまり熱を入れると声でばれちゃうな……)
363 :以下、
一夏「ずっとここで自主錬してるの?」
少年「……一ヶ月くらい前から、道場が休みの日はここでやってます……」
一夏「道場って、この近くに昔からある篠ノ之道場?」
少年「はい」
一夏「…………そっか」フッ
少年(あんまり怖い人じゃ無さそうだ。目も優しいし、大らかな人なのかな?)
一夏「熱心なんだな。休みの日くらいゆっくりしてればいいのに」
少年「少しでも強くなりたいんですよ」
一夏「へえ……何で?」
少年「えっと……そ。それはですねー」
少年「っ…………」カアァァァァ
一夏「ごめんごめん、初対面なのに突っ込んだこと聞き過ぎちゃったな」
少年「いえ、こちらこそすみません……ところで、お兄さんはここの人なんですか?」
一夏「うん。俺も子供の頃はそこの剣道場通って稽古してたんだぜ」
少年「え! そうなんですか!?」
364 :以下、
一夏「おう。道場に行くことは無くなったけど、今でも特訓はしてるぜ」
少年(僕の大先輩ってことかあ……)
少年「へ、へえ??。じゃ、じゃあ……あの、えっと……」
一夏「うん? 何?」
少年「よ、良かったら稽古の相手して貰えませんか? 
 ずっと一人で基礎ばっかり続けてて、気分転換に他のこともやりたいなって……その、思ってたんですけど……」
一夏「もちろん構わないぜ! こっちからはあんまり打ちこまないようにするから、安心してくれ」
少年「は、はい! ありがとうございます!」
一夏「よ?し、そうと決まれば手頃な折れた枝でも探してくるよ」
少年「分かりました」
少年(優しそうな人だとは思うけど、剣の腕はどれくらいなのかな?)ドキドキ
――――――
―――

365 :以下、
?一時間後?
少年「はあ……はあ……えい!」
一夏「っと! 上段か」バシ
少年「……胴!」ビシッ
一夏「うっ!」
少年「はあ……はあ……やった! やっとまともに入った」
一夏「ふうー……やられたやられた。よし、ここまでにするか」
少年「はい。今日はどうもありがとうございました」
一夏「いやいや。こっちもいきなり話しかけて悪かったな。びっくりさせただろう?」
少年「まあ、正直……でも、話してる内に良い人だっていうのが分かりましたから」
一夏「ははは。よし、アイスでもおごって……いや、今って見知らぬ児童に対してそういうことするのダメっぽいからなあ……
 今日みたいに、初めて会った子供の稽古に付き合うのもあんまり良いことじゃねえんだろうな」
少年「……」ショボン
一夏「ま、まあそこんとこはごまかすよ。俺が自分の分買って、君に押し付けたってことにしよう!
 もし誰かにばれたらそう答えるんだぞ! この言い分なら君は共犯にならないからな」
少年「す、すみません本当に……」
366 :以下、
一夏「いいって。でも今日俺が教えたことは忘れちゃダメだぞ?」
少年「はい。剣を振るときは竹刀を立てて打つんじゃなくて左手を攻撃するところより高く上げなきゃいけないんですよね?」
一夏「そう。基本だけどな。俺の経験だけど、左手の動きが素早くなれば自然と切る動作にもうまく繋がるようになる。
 ただ剣を伸ばすだけとか下ろすだけってやり方は早く直した方がいいって教わったな、俺は」
少年「はい……先生が言ってた気がします。僕、不器用なのか飲み込みが早い方じゃ無くて道場じゃいつも迷惑掛けて……」
一夏「でも君の剣は何ていうか気迫があったよ。確かに今は不格好かも知れないけど、そんなのいくらでも直していけるって。
 それより情熱を燃やして気持ちを込めて剣を打てるほうが大事だと思う」
少年「本当……ですか?」
一夏「おう!」
少年「へへ! じゃあ道具片付けますからちょっと待ってて下さい!」
一夏「よしよし」
一夏「…………」
367 :以下、
一夏(ガキの頃の俺も同じ道を通ったなあ。基本だからって重点的に教え込まれた記憶が残ってる)
一夏(……もし、あの出来事が無かったら……今も道場でこの子と一緒に稽古してたかも知れないんだな……弾たちとも付き合い保ててたかも)
一夏(今更自分の身の上についてどうこう言う気は無いけどさ。
 でも、今みたいに何でもない情景を見てありえたかも知れない未来をふっと思い浮かべてしまうことはある)
一夏(この子も子供の頃に良い出会いや教えに巡り合えれば良いな。その記憶さえあればこれからの人生でも結構やっていけるから……)
少年「終わりましたー! さあ、行きましょう……って、どうかしましたか?」
一夏「い、いや。大丈夫。ごめんごめん」
368 :以下、
――――――
―――

?夕方?
【IS学園 中庭】
一夏「…………」ボー
「こんなところで座り込んではいけないよ」
一夏「ん?」
用務員「もうじき紅葉ではなく霜が降るようになる。腰を落ち着けるなら自分の部屋があるだろう? 風邪をひいてしまうぞ」
一夏「…………」
用務員「どうしたのかね? 私の顔に何か付いているのかい?」
一夏「いえ。男の用務員さんに話しかけられたことにちょっと驚いて。ここは女の子ばっかりですから」
用務員「そうかい。驚かせてしまって済まなかったね」
一夏「いえ……」
用務員「ぼんやりとした眼差しを辺りに向けていたが、物想いに耽っていたのかな?」
369 :以下、
一夏「うーん、まあ、そんなところです」
用務員「ほっほ。青春は悩み多き時期だから仕方ないさ。どうだい織斑くん、考え事があるなら私に話してみるというのは」
一夏「ははは……いえ、お気持はありがたいんですが……」
用務員「君の活躍は聞いているよ。学園に迫る数々の危機を打ち払ってきたそうじゃないか」
一夏「……」
用務員「男がこんな環境にいるというのは嬉しいことかも知れんが、女の子には話せない問題も出てきてもおかしくないからねえ。
 相談事があるなら何でも言ってくれて構わないよ?」
一夏「…………」
用務員「まあ、気が進まないならそれもまた良し。でも、部屋に戻ったらうがいするように―――」
一夏「俺、今までのままじゃダメだって気付いたんです」
用務員「ん?」
一夏「俺、全然気付かなかった。皆にどんな酷いことをしてきたか、自分の勝手な行為で皆をどれだけ苦しめることになったか」
用務員「……織斑くん」
一夏「それを知ったとき、自分の世界が壊れてしまうような感覚に襲われたんです。
 今は皆を暗い世界から救いあげることは出来たんですけど、それでもまだ胸にすっきりしないものが残ってて」
370 :以下、
用務員「…………要領を得ないねえ。良ければ初めから詳しく教えてくれないかな」
一夏「……」
用務員「どうも君という人間は自分が苦しいときに気持ちを外に出さない気がするね」
一夏「そうでもありませんよ。先生や友人に頼ったりすることもあります」
用務員「はてさて、どこまで頼っているのやら。
 善後策の協議に付き合ってもらうことがあっても、君自身の深いところを明かしたことはとても少ないのでは?」
一夏「…………」
用務員「すまないな、年寄りの戯言として聞き流してくれ」
一夏「……ああ、思い出した。あなたが学園の良心と皆が噂してた人でしたか。
 何だか不思議な人ですね。器の大きな人って感じがする」
用務員「買い被りすぎだよ。私など歯牙無い一介の用務員さ」
一夏「…………俺って皆に……何ができるんでしょうか?」
用務員「ん?」
――――――
―――

371 :以下、
一夏「で、俺はまた不安に駆られているんです。俺の役割が箒に取られちゃって、自分の価値が分からなくなって……」
用務員(なるほど……大体の事情は分かった)
一夏「エゴなんですよ、結局……皆が助け合うようにしたいっていう目標の第一段階は叶ってるんです。
 それを形にする役目は俺じゃなくても良いはずなんです。喜ぶべきことなのに、下らないことで不満を溜めて」
用務員「…………」
一夏「鈍感だの朴念仁だの言われてきましたけど、今ほど自分のそういう特質を呪ったことはありませんよ。
 一度突き付けられるまで皆の苦しみに気付かなかったんですから」
用務員「一つ尋ねるが、君は何故人の助けにならなければいけないと思ってるのかね?」
一夏「それが俺の生き方なんですよ……」
用務員「答になっていないよ」
一夏「俺は皆を守らなきゃいけないんだ。それが俺の価値なんだ……」
用務員「?」
一夏「俺は恵まれまくってる!! でも、俺ができるもの、皆に返せるものはこれくらいしかないんだ!!」
用務員「返す?」
一夏「俺は貰ってばっかりだ。ISを動かせたのは偶然だし、操縦技術を身に付けられたのは、先生や周りの皆のおかげなんです」
372 :以下、
用務員「……」
一夏「あいつらは、俺みたいな人間に付き合ってくれました。皆悲しい過去を抱えているのに、いつも元気で前向きで……」
用務員「織斑くん」
一夏「……守らなくちゃ! 強くならなくちゃ! 求められるものに応えなきゃ!
 ―――それさえできなかったら…………俺なんか生きてる意味はねえんだよ!!」
用務員「君は……それで良いのか?」
一夏「俺は全部守り抜いて見せる! 誰一人傷付けず! 声が聞こえたらすぐ向かってやる! 倒れそうならすぐ支えてやる!
 皆には、もう皆には、ずっと幸せでいて欲しいんだ! あいつらは俺よりずっと喜びを周りに与えられるんだ!」
用務員「……誰か一人を選ぶつもりはないのかね……」
一夏「全員を助けるって決めたんだ!」
用務員「君はどうするんだ! そんな道、簡単に歩めるものじゃないぞ! 君みたいな若者がたった一人で……」
一夏「俺は……平気ですよ」
用務員「嘘を言うな。見たところ君は自分の理想を広げる一方で、自分の心の声を押し殺しているようにも見える」
一夏「…………」
用務員「そもそも人間ができることなのかね? 自分の気持ちを見せず助けも受けずに、ただただ人を救うために動くとは……まるで機械ではないか!
 周りが相互に助け合う環境を作れという命令をプログラミングされた……」
373 :以下、
一夏「じゃあ俺は『機械』でいい! 『システム』でいい!」
用務員「何?」
一夏「俺、周りの反応が変わっただけで不安になってしまって……
 壊れそうな自分の世界を護ろうとしてしまった! あいつらに差しだすことができた手を伸ばさず、自分を優先したんだ!」
一夏「その結果、皆の痛みを長引かせてしまった……」
用務員「むう」
一夏「へへ……朴念仁が機械に変わったところで、皆気にも留めませんよ」
用務員「…………」
一夏「俺は運が良くて、顔も姉と同じ遺伝子を持ってるんだから良い方なんでしょうね。
 接触したきっかけはどうあれ、出会った女の子は皆仲間になってくれましたし、自分を鍛えてくれる環境も揃ってました」
一夏「でも……『俺じゃなきゃダメだったのか』って思っちゃって……」
用務員「そんなことを今更言ったところで……」
一夏「たまたまIS動かせて……たまたま優秀な姉がいて……たまたま皆俺に目を掛けてくれて……
 ぶっちゃけると、ISさえ動かせたら誰でも良かったんですよ。それだけでちやほやされるでしょうし、強くなるためのプランも整備されるから」
一夏「ISが動かせなければ織斑一夏という人間単体には何にも価値が無い。どう考えてもそうだったんですが、俺は受け入れたくなくて……」
374 :以下、
用務員(そこまで思い詰めているのか……)
一夏「必死になって、自分の価値を見出そうとして『皆を守るためのネットワークを作る』っていう発想が生まれたんです。
 これは俺のやりたかったこととその答えにも繋がってて、これしかないと思いました」
用務員「だが君自身は本当にそれでいいのかね? 辛くないのかい?」
一夏「俺という人間はいつも笑っていて、ことが起きれば敵に飛び込んでいくのが正しい姿なんです。
 皆が認めてくれたのはそういう俺だったはずです」
用務員「……」
一夏「強くて、明るくて、優しくて、でも鈍感で、変なところで意地っ張り。皆が求める俺の姿はそうだった……」
用務員「今の君とはどうも違った人物のように聞こえるね」
一夏「じゃあ、今が嘘なんですよ。本物は皆に見せてる方です」
用務員「そう思わせようと考えてるのだね。こんな弱気でふらついてる君なんか、誰も見たくないと。
 あの子たちの前ではお気楽そうに笑っているのは、そういう理由なのかね」
一夏「はい」
用務員「……過ちを反省して今後の生き方を改める。これは人間として必要なプロセスだが、君は考え過ぎではないか?」
用務員「専用機持ちの子たちに対して悪いことをしたと感じているようだが、それでもその時は君なりに精いっぱいやったんだろう?
 話を聞いていると、十五、六歳の若者には荷が重すぎる問題もいくつか出ていたぞ。
 特に彼女たちの生い立ちに関する事情は、君の判断能力を超える領域にあった」
一夏「何が言いたいんですか?」
375 :以下、
用務員「そこまで思い詰めなくて良いんじゃないか、ということだよ。
 高校生と言えば遊びたい盛りだろう? 君のことだ、皆に付き合ってばかりで自由な時間がなくなっているんじゃないのかね」
一夏「いえ……そんなことは……」
用務員「生徒会にも入っていて、様々な部活に貸し出されているという話だったが、そろそろお暇を頂くのもありかも知れないよ」
一夏「……」
用務員「今は皆の元気は戻っているんだろう? そんなときに君ばかり暗い顔をしてどうする」
一夏「すいません。もう部屋戻ります」
用務員「あ……」
一夏「話聞いてくれてありがとうございました。何故あなたに打ち明ける気分になったのか、自分でも分かりませんけど」
用務員「……何かあったら周りの先生に相談するんだぞ」
一夏(相談か……山田先生の事情を知ったあとじゃ、それもする気になれない……)
一夏「では」スタスタ
用務員「行ってしまったか」
用務員(ふむ。今聞いたことはどうしよう。楯無くんや千冬くんに話した方が良いのだろうか)
用務員(もしそうした場合、周りの織斑一夏くんへの接し方が少なからず変わるだろう。しかし、彼の自分の価値に対する疑問符まで取り除けるか分からない)
376 :以下、
用務員(何にせよ、彼が自分で問題の答を見つけ出すことが求められる。というより、それしかない。
 思春期というのは悩み多きものだが、彼の場合複雑な状況に身を置く羽目になったために誰にも苦しみを分かち合えないと考えているのだろう)
用務員(いや、苦しんでいることを悟られることすら許されないと思っている節がある)
用務員「……ふう」
用務員(……何故彼はああいう人間になってしまったのだろう。多くの人生を見てきたこの轡木十蔵も測りかねる)
――――――
―――

【IS学園 廊下】
一夏(妙に事情通な用務員さんだったな。話していないことも知っていた)テクテク
一夏(思えば、この学園に来てからは流されてばっかりだった)
一夏(そろそろ自分の意思で何か大きなことを決めて……そんで、もっと自分に出来ることを見つけよう)
一夏(そう言えば今日は秘密の場所で思いがけない出会いがあったな。あの少年に幻滅されるようなことはできない)
一夏(また来週練習に付き合うって勢いで約束しちまったしな……あの日の辛い記憶を上書きできるような良い思い出を作れるかも知れねえ……)
377 :以下、
【篠ノ之束の研究所】
束「これが完成していっくんたちと華々しい共闘をさせたら、いっくんたちの思い出に更なる一ページが加わるね♪」
束「そのために最終チェックをさっさと終わらせなきゃいけないんだけど、どうもISコアの反応が少しおかしいんだよね」
束(でも些細なもんだし……この程度ならもう出撃させてOKかな?)チラ
無人機「…………」
束「!」ゾワッ
束「無機質で怖い顔してるね??我ながらちょっとびびっちゃったよ」
束「『自己進化機能』と『コア・ネットワーク』に手を加えた本機体は従来のものより段違いの性能を発揮するはず。
 その光景を見るのを隠れた楽しみにして開発をガンガン進めたのは良いんだけど、やっぱり無理し過ぎちゃったかな?」
束「ま、良いや。明日の朝調整し直すことにして今日はもう休もーっと。もう一機もあらかた出来上がってるし」テクテク
束「お休みー♪」バタン
無人機「………」
無人機「―――――!」ギロ キョロキョロ
無人機「………」ウィーン…
378 :以下、
――――――――――――――――
一夏「…………」キョロキョロ
少女「……」
一夏「ん?」
一夏(真っ白だな……帽子もそこから流れる長い髪も……簡素なワンピースも……)
一夏「君か。また会ったな。いつ以来かな? 臨海学校で俺がドジった後に会ったんだっけ」
少女「いつも一緒にいるんだよ」
一夏「? な、なあ、俺はどうしてまたここに?」
少女「あなたは私を分かろうとしてくれた」
少女「私もあなたを分かってきた」
一夏「???」
一夏「え……君は一体?」
少女「…………」
一夏「そう言えば、前は近くに騎士みたいな人がいたけど、今は一人なんだね」
379 :以下、
少女「あなたは私の質問に答えてくれた」
少女「どうして力が欲しいのか―――それは守るためだって」
一夏「!」
少女「それは今も変わらない」
一夏「ああ。もちろんだ」
少女「でも分からない。守るための力を与えるために私もがんばった。それがあなたの望みだったから」
少女「私は願いを叶えた。それなのに今、あなたはとても弱っているみたい」
一夏「!!」
少女「今のあなた、とっても不思議。望みを実現したあとも、更に力を付けるために他の子と競ってる」
少女「それは良いこと。夢にまた一歩近づく。でも、あなたの心は少し前から穴が空いたまま変わらない」
一夏「……」
少女「目標を実現させる行動をしているのに心は満たされていない。それどころか、暗闇がどんどん濃くなってるの」
一夏「…………!」
少女「もう一度質問させてね」
少女「『誰かを守ってみたい』―――それが今の一番の望みなの?」
380 :以下、
一夏「お……俺は―――」
一夏(皆には大きな負担を掛けて……昔からの友達もいなくなって…………)
少女「今もその考えは変わらないの?」
一夏「……そうだよ」
一夏「それが一番の望みさ!! 全員を守り切れるくらいの力が欲しい!! 前そう答えたときより強く願っているよ!!」
少女「本当なんだね?」
一夏「ああ!! 皆を守るためなら、この身を喜んで差し出せる!!」
少女「…………」
少女「―――あなたの望みがそうなら」
一夏「……」
少女「私も――――」パァァァァァ……
一夏(う……光り出した? な、何だ? 意識が―――)
―――あなたを守るためにがんばるよ、一夏
381 :以下、
―――覚えが遅いぞ! 裂迫の気合いを以て振り下ろせ!
束「……」
―――お父さん! もういいじゃないですか! 束が泣いていますよ!
束「……」
―――女だからと言って甘やかしてはならん! むしろ女だからこそ武術の理は必要とされるのだ!
束「……う」
束「もうやめ……」
―――苦しいだろうが今逃げてはならん! さあ剣を強く握れ! まだ30本残っているぞ!!
束「もう嫌だよっ……!!」
束「………はっ」
束「あはは………大分寝てたみたい……」
382 :以下、
束「……もう興味ないし、あの人のことなんか。箒ちゃんたちがいれば十分」
―――すごいです! こんなむずかしいほんわかるなんて!
束「箒ちゃん……」
―――ねえさんにまけないよう、わたしもがんばります! 
束「…………」
束「ISはあなたの明るい未来を作るためにあるんだよ」フッ
束「……さてと、仕上げちゃおうかな。開発プロジェクトもフィニッシュが近いね」
束「いっくん、箒ちゃん、気を付けてね。今回のゴーレムは少し手強いよ」ガチャ
無人機「――――――」
束「……………この子は手が掛かるなあ。調整にいつもの三倍くらいの時間を費やしてるよ」カタカタカタ……
束「―――よし、完了! 近いうちに試運転を―――」
ガチャン
383 :以下、
束「そうだ、後回しにしてた標的設定関連の処理が―――ん?」
束「何? 今の音」クルッ
ガチャ……ガチャ……
無人機「――――!」ゴゴゴ……
束「!!」
無人機「――――」
束(え? ゴーレムが動いてる?)
束「こ、こらこら! 困るなー君ー!! 束さんはまだ起動命令出してないよー!!」
無人機「――――」キョロキョロ
束「もう!!」カタカタカタカタカタ
束(早く内部プログラムを訂正しないと……どこでミスがあったんだろ?)カタカタカタカタカタ
無人機「――――――」
束(自己進化機能に手を入れたから? やばいよ! ここで止めないと私の意図を離れて暴れ出しちゃう!!)
384 :以下、
無人機「―――――」ガシャン!
《無人機 ウイングスラスター 展開》
束「あ、ああ……」
無人機「―――――」
ビュゥゥウン!!!
束「きゃっ!!」
束「!」ガバッ!
束「あ、ああ……行っちゃった……」
束「…………今後の行動……最初に入力した命令に沿うとしたら……」
束「行く先は……IS学園……」
395 :以下、
【IS学園 廊下】
?昼休み?
山田「今日は冷えますねえ??」
谷本「曇ってて陽の光も届かないですし……」
山田(午後からは実習ですが、織斑くんはこの寒さの下でも燃えているんでしょうね。
 少し前からぐっと真剣さが増してて、気圧されるときもあります……)
のほほんさん「さむさむ……」フルフル
ラウラ「本音、本音」チョンチョン
のほほんさん「な?に?? ボーちゃん?」
箒「ほら、前言った冬季休暇に皆で遊ぼうという計画の件だ。覚えているだろう?」
のほほんさん「忘れっこないよ??」
ラウラ「今からそのことで話し合うんだが、おまえも来ないか?」
のほほんさん「行く行く??!!」ピョンピョン
箒「よし!」
396 :以下、
ラウラ「食堂に行くか! 既にシャルロット達も集まってるかも知れん」
箒「ああ」
のほほんさん「うきうきだね??」
【食堂】
箒「もう皆来ているか」
鈴「待ってたわよ!」
シャル「早く座りなよ」
のほほんさん「は?い」
ラウラ「すまないな」
セシリア「もう休暇の計画についてのお話は始めさせて頂いておりますわ」
鈴「そうそう、おいしいご飯が食べられる場所を探した方が良いかなって意見が出てさ―――」
簪「大人数になるから早いうちに予約しておかなくちゃいけないと思うの」
箒「よし、今度の休みに探しに行ってみるか」
ラウラ「店選びか……わ、私も同行していいだろうか?」
397 :以下、
箒「いいぞ!」
シャル「それ、僕も行こうかな」
簪(私も皆と一緒に歩きたいな……ついでにカップケーキの材料買いたいし……)
箒「じゃあ、行く日までに候補をリストアップしておこう」
セシリア「皆さん、それもよろしいですが、お弁当を持っていくという道もありましてよ」
シャル「!」ピクッ
セシリア「わたくしが全員の分を作って差し上げることもやぶさかではありませんわ!」
鈴「そ、それだけはやめて!」
箒「そうだ! おまえに負担を掛けることになるのは、私たちにとっても心苦しい!」
セシリア「わたくしは別に構わないのですけれど……」
シャル「み、皆! それについての話はひとまず置いといて、遊ぶ場所をそろそろ決めよっか!」
のほほんさん「私遊園地が良い??!!」ピョンピョン
――――――
―――

398 :以下、
一夏「…………」テクテク
一夏「…………ふう、目立たない場所探すのも大変だな」
一夏(……今朝見た夢に出てきたあの子はやっぱり……)チラ
ガントレットを見遣る一夏
一夏「……そうさ。想いは変わらない。皆を守るためにもっと力が欲しい」
一夏(ん? 待てよ………俺が誰かを守りたいって気持ちを持つようになったのはいつからだっけ?)
一夏(いつも自分を守ってくれてた千冬姉への憧れの気持ちを抱いていて、自分も他人を助けられる人間になりたいと思ったから―――)
一夏(そうだ。そのはずだ)
一夏「……」
一夏「分析は置いといて、そろそろやるか。あっという間に授業始まっちゃうしな」
一夏「今日は曇りか……肌寒い。特訓中に雨降ってこないだろうな?」
一夏「……ん?」
399 :以下、
一夏(何だ? 雲から黒い影が落ちて――)
一夏「鳥か? いや、雲より高く飛ぶ鳥なんて……」
一夏「はっ!」
一夏「……来い! 白式!!」
《白式 展開 & 瞬間加(イグニッションブースト)》
ドシュウゥゥゥゥ!!!
一夏(やっぱり……間違いない―――!)
一夏「……」ピタッ
「―――――」ギロ……
一夏(無人機……! 前に来た奴とはまた違うタイプ!)
無人機「―――――」グアッ!
400 :以下、
一夏(いきなり突進!?)
ガキイィィィィ……!!
一夏「こいつ……馬力が……」ギリギリ
一夏(押されてる! やばい! 俺の後ろには学園がある!)
一夏「……!!」グググ… ゲシッ!
無人機「―――」ヒュン
一夏「蹴りを警戒して後ろに下がったか!」
無人機「―――」ジャキッ!!
一夏「腕部から飛び出し型のブレードか……いいぜ、やってやる!」
一夏「IS学園に踏み込めると思うなよ!!」
《雪片弐型 展開》
一夏(いつかまた来ると思って、鍛え直したんだぜ)
一夏(迂闊に飛び込んじゃダメだ。どんな武器を隠しているか分からない。警戒しないと)
401 :以下、
一夏「ふうぅぅー……!」
一夏(こなした特訓を思い出すんだ! 楯無さんやダリル先輩たちとの対戦で気付いたことを活かせばきっと勝てる!)
無人機「―――」ギュン!!
一夏(来た! 慌てず、動きは最小限に……)
ガシイィィ!!
無人機「―――」
一夏(さっき組み合ったときの手応えで分かった。こいつはエネルギーの無駄遣いしてて勝てる相手じゃない!)
無人機「―――」グアッ
一夏「上段!」
ガキン!
一夏(剣道の基本は「見」! それはここでも通じるはず!)
無人機「――――」ギリギリ…
402 :以下、
一夏(やばい!)ドガッ!!
無人機「――――!」グラッ
ドシュッッッ!!
一夏(鍔迫り合いのとき妙な気配を感じて何かと思えば、腹部ショートブレード飛び出しか。蹴り飛ばすのが一歩遅れてたら食らってたぜ)
一夏(……可能性を頭に入れておいてよかった。楯無さんのフィードバックが活きた)
無人機「―――」ギチチ ギチ…
グオォォォォォ!!!
一夏(また突進か! 力比べに持ち込まれたら勝ち目はねえ!! ここは距離を取る!)
《白式 瞬間加 発動(後退)》
ギュゥン!!
一夏(距離を取ったところで―――)
《白式 荷電粒子砲 発射》
ドウゥゥゥン!!! ……ヒュゥン!!
無人機「――――!!」バッ
403 :以下、
一夏(バリアで塞いで突破か! なら―――!)
《白式 零落白夜 展開》
一夏「くらえ!」ブン!
無人機「―――」ヒュン!
一夏(急降下!? 回避された!)
無人機「―――!!」ギュゥウン!! グアッ
一夏(真下からの攻撃―――太刀筋は斜め左上から右下にかけての袈裟切り―――)
ブンッ!!! ヒュッ……
一夏は無人機が空振った隙に鋭い突きを繰り出す!
一夏「……」
無人機「――――――」グラッ
無人機「ギッ――――」バチバチバチ……
一夏(見切れた……左肩に一発入れることができた!)
404 :以下、
無人機「――――――」
《無人機 瞬間加 発動(後退)》
一夏「逃がすか!」
《白式 瞬間加 発動》
一夏(さっきの一撃で左腕の動きに障害が生じているはず! そこから攻める!)
無人機「――――――」ヒュウ……
一夏(度が落ちた! 今だ!)
無人機「――――――」カチャッッ……
ドシュッッ!!
一夏(こめかみの箇所から棘が発射されただと!?)
一夏「くっ」バシッ
ドウゥン!!!
405 :以下、
一夏(爆発した!? マイクロミサイルの一種か!)
一夏「視界が…………はっ!!」
無人機「―――」ギュィイン!!
一夏「ッ!」サッ
ズシャァッ!!
無人機「――――」ジジ…ジ…
一夏「…………」
一夏「入った……か」
右手で突きだした雪片の先に、無人機の胴が刺さっているのを確認する一夏
一夏「必殺を期すため死角の方から打ち込んでくると思ってたぜ」
無人機「――――――」
一夏(よし、とどめを―――)
ガシッ!!
406 :以下、
一夏「!?」
無人機「―――」
一夏「こいつ……雪片を掴んで離さねえ」ギチギチ……
一夏「ダメだ……力じゃ……」グググ…… バッ!!!
一夏「うわあっ!!」
無人機「――――――」
一夏「取られちまった………! くっ!!」
無人機「――――――」ブン!! ブン!!
407 :以下、
一夏「!」ヒュン!
一夏「危ねえ! ギリギリで上に逃れることができた! くそ、何とかして取り返さねえと……!」
一夏(雪片は白式の武装……使いこなすことはできやしない。動きを見て冷静になって……)
無人機「―――――」スッ
一夏「?」
《無人機 零落白夜 展開》
ギュオォォォォォォオオォォオオ!!!
無人機「―――」ギロッ
一夏「なっ……!?」
408 :以下、
【IS学園 廊下(教室前)】
セシリア「もう授業が始まりますわ」
のほほんさん「楽しみだね???冬休み」
鈴「……」
ザワザワ エッ ソラデ? コワーイ
鈴「何か周りが騒がしくない?」
簪「私も……そう思う」
ラウラ「様子がおかしいな」
相川「あっ! 皆!」
シャル「どうしたの? そんな慌てて」
相川「良かった! 一年の専用機持ち全員いるんだ!」
谷本「大変なのよ! 今、この学園の空でね―――」
409 :以下、
【IS学園 廊下(職員室前)】
山田「はぁ……! はぁ……! お、織斑先生!」
千冬「もう聞いている」
山田「え!! じゃ、じゃあ」
千冬「今回の襲撃は単体。学園上空で織斑一夏と交戦中のところを何名もの生徒が目撃している」
山田「織斑くんが!? し、指令は!?」
千冬「既に他の教員に連絡を入れてある。生徒へのシェルター避難命令も間もなく伝えられるはずだ。
 戦闘教員をツーマンセルで二組派遣し、残りは内部の異常検査と避難のサポートに回す。
 敵の増援を警戒し、学園での任務に当たっている教員も生徒の安全を確保でき次第ISの出撃準備をさせるつもりだ」
千冬「山田。おまえも出撃班に当たっている。やかに発ち、外敵を討て」
山田「はい!」
千冬「この学園に入れるなよ」
山田「分かっています!!」ダッ
千冬「……」
千冬(一夏……もう少しの間だけ一人で耐えてくれ……)ギュ…
410 :以下、
箒「一夏は……どこだ」キョロキョロ
箒(最近一夏とまともに会話していない気がする……口数が減ったし、実習でも妙な必死さを感じて話し掛けるのが憚られていた)
箒(皆との話し合いが一段落して、残り時間くらい久しぶりに二人で会いたいと思ったのだが……)
鷹月「…………」
箒「あ、静寐。一夏を見なかったか?」
鷹月「篠ノ之さん、あれ……」
箒「何だ? 空を指差して。珍しい鳥でもいるのか?」ヒョイ
箒「ん……あのISの輝きは……白式!? もう片方はなんだ!?」
鷹月「あっ……織斑くんの剣が」
箒「……奪われた!? い、一夏!!」
鷹月「ね、ねえ篠ノ之さん! 早く助けに行ってあげて!!」
箒「もちろんだ! 待っていろ一夏! 今、紅椿で―――」
「できないよ」
箒「!」
411 :以下、
箒「そ、その声は……」
鷹月「あ……」
「久しぶりだね、箒ちゃん」
箒「な、なぜあなたがここに!?」
束「箒ちゃんが心配になってさ」
箒「くっ……すみませんが今はあなたと話している暇は無いんです! 早く一夏を助けに行かないと!」バッ
箒「来い! 紅椿!」
シーン……
箒「なっ! どうしてISが展開されない!?」
束「箒ちゃんが行くことないって。あんな怖い敵はいっくんに任せようよ」
箒「……まさかあなたが紅椿の起動を邪魔しているのではないでしょうね!?」
束「…………」
箒「何とか言ってください!」
412 :以下、
《白式 瞬間加 発動(後退)》
ギュンッ!!
一夏「こちらの武器を奪い取って自由自在に扱えるとは……くそ!」
一夏(頭を切り替えるんだ! 動揺を断て!!)
一夏(零落白夜は一撃必殺の切り札だ。腕部ブレードと共に振り回されたら間合いに入ることすらままならない。
 かといって、あまり距離をとると敵意の矛先が学園に向く危険性がある)
一夏(俺は消費エネルギーを抑えるために整備課に行ったり無駄を減らす運用法を考えたりして、燃費はぐっと良くなったが……
 相手はそんなの考えなくていいくらいにエネルギーを備えているかも知れない。悠長にガス欠を待ってたらあっという間にやられてしまう)
無人機「――――」
一夏(こちらができることは……やはり荷電粒子砲を相手に向けて放ち、隙が出来たところを奪い返すしかなさそうだ)
一夏(いや、待てよ……今相手の持ってる武器は―――)
無人機「――――」
《無人機 瞬間加 発動》
一夏「!」
《白式 荷電粒子砲 発動》
ドゥゥウン!!
413 :以下、
無人機「――――」バッ
バシャシャシャシャァッ!!
一夏(予想通り零落白夜で切り裂きつつ突進してきたな)
一夏(次の手は……)
無人機「―――」グアッ
一夏(相手の手元を狙って)ジン……
一夏(―――左の貫手!)ビュッ!!
ガシィィィィ!!
一夏(腹部の隠しショートブレードで受け止めるか……
 武器をとり戻そうとする相手からの手元への攻撃を読んでカウンターを食らわせる策か)
一夏「よし…………」
《白式 雪羅エネルギー爪 発動》
ビカッ!!!
無人機「――――!」グラッ
414 :以下、
一夏「読めてたぜ!!」ブォン!
その場で大きな回し蹴りを放ち、無人機が握る雪片弐型を天高く弾き飛ばす
無人機「――――」
ヒュンヒュンヒュンヒュン……
一夏「よし!」パシッ
無人機「――――」ピク…ピク…
一夏(何だ? 様子が少しおかしいが……チャンスだ!)
《白式 零落白夜 発動》
一夏「くらえっ!!」
無人機「――――」ギャシンッ!!
一夏「!!」
《無人機 腕部ブレード 雪片弐型と同型に変換》
一夏(こいつ……武器が変化してる!?)
無人機「―――」ギロッ
415 :以下、
一夏「な、何なんだ!」
《無人機 両腕部 零落白夜 発動》
ギュオォォォォォォ
一夏「げ!」
無人機「―――」ブン! ブン!
一夏「くっ!」キンキン!
一夏(こいつ……進化しやがった……! 戦闘経験を積んで新しい武装を生み出した! 紅椿と同じ無段階移行(シームレス・シフト)だ!)
無人機「―――」ブアッ
ガシィイン!!
一夏(しかも左右一本ずつ持ってやがる!)ドカッ!
無人機「――」グラッ
ヒュゥウン!!!
一夏(とにかく零落白夜を食らったらその時点でアウトだ。距離を取るか? 
 でも、あまり離れ過ぎると俺を相手するのを止めて学園の方に向かうかも知れねえから慎重に行こう)
一夏(敵は両手に雪片弐型と同系の剣を持ち、今はしまわれているが腹部にブレードを隠している。おまけに頭部にはマイクロミサイル……)
一夏(機体運用時のエネルギーの無駄を限りなく無くし、戦術を見直したのが効いてるのか、こっちは色々使ってエネルギー残量は70パーセント近く残ってるけど……
416 :以下、
一夏(やれるか? 俺はこいつを倒せるのか?)
一夏「……」
―――でも言っとくが、俺はおまえの気持ち悪いヒロイズムなんて認めないからな
―――俺らと何も変わらんのにあいつだけ良い思いをしてるっていうのは、許せねえよ
一夏「……っ」ギリッ
一夏(何言ってるんだ! やらなきゃダメなんだよ!
 こんな状況が来たときのために技を磨いて読みを鍛えてきたんだろ!)
一夏(倒して見せるさ! この危機を打ち払ってやる! 俺の信念は強固で、ただ流されただけのボンクラじゃないってことを証明してやる!)
一夏「皆……!」チラッ
戦場と化した上空から、緊張の隙間をついてIS学園に目を落とす一夏
一夏(……負ける訳にはいかない)
一夏(安心してくれ。侵入は俺が食い止めるからな!!)
無人機「―――」ギロッ
417 :以下、
一夏(今回の敵は攪乱やフェイントを多用して人間的な動きを見せる。相手の行動を読みきれなきゃ負けだ!)
無人機「―――」
《無人機 瞬間加 発動》
一夏「!」
ガシィィィ!!!
一夏「そうだよな! おまえは俺よりパワーも手数も上回ってるんだ! 接近して打ち込みまくるだけで勝てるよなあ!」ギリギリ
無人機「―――」
《無人機 零落白夜 展開 ×2》ビカァァァァ!!!
無人機「―――」ブン! ブン!
一夏「っ!!」キン! キン!
一夏(二刀を持つ相手に対して両手持ちで挑むのは危険過ぎる。一方の剣を受け止めてももう一方の剣で脇腹を刺し貫かれるのがオチだ)ガキィン!!
418 :以下、
一夏(しかし、対二刀流のセオリーを守ったところでこっちが先に限界が来るのは避けられない……よし、やってみるか)ヒュンッ!!
《白式 零落白夜 発動》
ギュオォォォォォ!!
一夏「でもって……」
《白式 瞬間加 発動(後退)》
ドシュウゥゥゥ!!
無人機「―――」ギロッ
一夏「来やがれ!」ガチャ フィィィィィィィ……
無人機「―――」ガチャ フィィィィィィィ……
《無人機 瞬間加 発―――
一夏(加前の一瞬の隙! ここだ!)
《白式 瞬間加 発動》
ドシュウゥゥゥゥ!!
無人機「―――」
419 :以下、
加の勢いを乗せて敵の胴を斬り付ける一夏
ザンッ!!
一夏(後退時の勢いが抜けきらないうちにいきなり加するのはきつい……けど! 出し抜けた! 手応えもあった!!)
無人機「―――」
無人機「――――――――」ギロッ ヒュン
一夏「!」
一夏「……な……何でだよ……確かに斬ったはず……」
一夏(! 敵の腰の部分……切れているがまだ繋がってる! 慣れない戦法で僅かに手元が狂ったか!!)
無人機「―――」グアッ…… フィィィィ…
一夏(大上段に構えた!? くっ!!)
《白式 瞬間加 発動(後退)》
無人機「――――」
《無人機 瞬間加 発動》
一夏「!!」ガキィィィィイン!!
一夏(こいつ! 間髪いれずに俺を追撃してきた!? 剣を振り上げたのは後退を誘うエサだ!)ギリギリ……
420 :以下、
一夏(………)ギリギリ
一夏「あ」
一夏(俺今雪片を両手持ちして受けてる……)
無人機「――――」キュイィィン…
一夏「しまっ……!」
無人機「――――!」ブゥン!!
ザシュゥゥゥッ!
一夏(! ここだ!)バッ
《零落白夜 発動》
ドスゥッ! バリバリバチバチッ!!
421 :以下、
無人機「――――――」ジ…ジジ……
一夏「へ……へへ……」
一夏「どうだ。その腹にカウンター入れてやったぜ」
一夏(剣を振った後に一瞬の隙ができたな。ラッキーラッキー)
一夏「遂にコアが見えた。けど……」
一夏「……左腕……飛ばされちまった」フラッ
………ブシャァァァァ!!
424 :以下、
【IS学園内 格納庫】
教員A「……原因は解明できた?」
教員B「まだ。整備不良だというわけではなさそうね」
山田「はぁ……はぁ……!! あ、み、皆さん! 早く出撃しましょう!」
教員C「……」チラッ
山田「どうしたんですか!? 学園の危機ですよ! 織斑くんがたった一人で応戦してるんです!」
教員A「分かっているわよ!」
山田「な、ならどうして!」
教員C「出来ないのよ」
山田「え!?」
教員D「起動できないの! ここに配備された機体全てが、凍りついたみたいに何の反応も見せてくれないの!!」
山田「……!!」
425 :以下、
箒「一夏っ……!! う、腕が……!!」
束「いっくん!!」
箒「姉さん! これはどういうことですか!?」
箒「やはり、今までの事件も全部あなたが絡んでいたということですか!?」
束「…………」
束「そだよ。気付かなかったの?」
箒「……! そんな、じゃあ、私たちを攻撃して何をしようと……?」
束「どういう想像してるのかな。箒ちゃんは」
束「ここは勘違いして欲しくないんだけど、全部箒ちゃんといっくんのためにやったんだよ?
 二人が戦いを経て絆が生まれるように、共に強くなれるように取り計らったんだよ?」
箒「―――!」
束「いっくんとの距離を縮められて箒ちゃんも嬉しかったでしょ? 共に戦えるよう用意した紅椿も、破格の性能を発揮したでしょ?」
箒「紅椿は……」
束「ねえ。どうしてかな? どうしてこんなことになっちゃったのかな? 
 今いっくんの腕が切り飛ばされたの見た? くるくる血を飛び散らせながら海に落ちていっちゃったね」
426 :以下、
箒「姉さん、あなたは」
束「どうして白式の生体再生機能が働かないのかな? あれだけの傷を負ったらまず操縦者の命を守るために回復に集中するはずなのに。
 絶対防御を妨害するシステムは組み込んだけど、その機能までカットするようには作ってないよ」
箒「ちょっと待ってください」
箒「私が喜ぶと思って一夏や仲間たちを危険な目に合わせたんですか。死人が出るかも知れないのに」
束「考えられる原因はいくつかあるね。新ゴーレムの持つ自己進化機能が新たに再生妨害能力を発現させたという説が一つ」
箒「……姉さん」
束「二つ目は、白式のコアの自意識が操縦者であるいっくんの意識と同調し、回復より戦闘行為の続行を優先したという説」
箒「姉さん」
束「切断面の出血が少しずつ止まってることから見て回復機能は今も働いてるみたい。
 普通のISも裂傷の止血くらいはできるけど、白式は操縦者の腕が切断されてもなお戦いを続けようというのかな?」
箒「姉さん!!」
束「……何かな? 箒ちゃん」
箒(目が虚ろだ……事態を把握し切れていないのか……?)
箒「は、早くあの無人機を止めてください!」
427 :以下、
束「そうできるものならとっくにそうしてるよ」
箒「え?」
束「内蔵された自己進化機能が、自分で外部干渉を排除するよう内部システムを作り変えちゃったみたい」
箒「ということは……」
束「そ。もう束さんの命令は受け付けないってこと」
箒「じゃ、じゃあ学校側のISにあの無人機からの命令をシャットアウトできるようにする措置はとれないんですか?
 姉さんならいくつかのISにそういった施しをすることは可能でしょう!?」
束「できるかも知れないけど現実的じゃない。超簡単に説明すると、新ゴーレムが白式以外のISの起動妨害を行えるのは、
 コア・ネットワークを介して他者のコアへ命令できるようにしてあるからなんだ」
束「で、新ゴーレムによって起動を封じられたISは、通常の待機形態とは違った状態に置かれるんだよ」
束「その状態はコアが眠っているって言うか、更なる外部の働きかけを受け付けなくなるんだ。
 パソコンもシャットダウンしたままでプログラム上の操作を行うことはできないでしょ? ざっくばらんに言えばそれと同じ」
箒「そんな……!」
束「がんばれば抜け道を見つけられるかも知れないけど、今からそれをしても時間が膨大に掛かるだろうから無駄だね」
箒「ああ……!!」
束「さっき新ゴーレムの状態解析をしてたんだけど、自己進化機能で内部機能まで勝手に改造しちゃってるみたいだったし。
 もしかしたら私が他のISを起動しても、すぐにまた停止させられちゃうことになるかも知れない」
428 :以下、
箒「……ISの自己進化機能とはそもそも、戦いの経験からより強い形へ姿を変える特性を指すのではないですか?」
束「あのゴーレムが特別なんだよ。今作は無人機の動きに幅を持たせるのと、自己進化機能の改良及び適用範囲の拡大がテーマだったんだ」
束「当初は戦闘用AIだけを改善しようとしただけなんだけど……
 より効果的な行動を展開するためには内部機能も必要に応じて改良できるようにした方がいいと思ってさ」
箒「…………」
束「今いっくんが相手をしているのはハイスピードで状況に適応し、新装備を展開できるようになった前代未聞の超兵器だね。
 形態移行したときに過去の経験から武装が追加される特質は従来のISにもあるけど、あのゴーレムは紅椿みたいにそれをもっと高頻度に行うんだ」
箒「今は一夏しかISを動かせる者はいないんですか」
束「んー、コアロック機能適用の例外は白式だけ。命令コードに組めたのはそれだけだったし」
束「もちろん紅椿に対してもこの機能を使わせないようにするつもりだったよ。
 けど、AIの不備とか新機能と従来機能の噛み合わせだとか途中で他の問題がいくつも目に付いてさ。
 開発スケジュールを見直すことにして優先度を振り分けた結果、紅椿を除外するコード入力は機体機能調整後に持ってくることにしたんだ」
鷹月「待ってください! あなたは篠ノ之さんと織斑くんを大切に思ってるんでしょう!」
箒「!?」
束「箒ちゃんまで……殺されて欲しくないし」
箒「今更何を言っているんです!! そんなこと言うなら最初からやらないで下さい!」
429 :以下、
箒「すぐに増援に行かなければ一夏が本当に死んでしまいます!! 一夏のことはどうでもいいんですか!!」
束「行ってもどうせ勝てないよ!」
箒「一夏が倒れたら今度は学園が狙われるかも知れないでしょう!! 
 戦闘教員たちのISも使えないこの状況では、どの道私たちも助かりません!!」
束「うん。そうだね。だからこそ……」
束「最後くらい姉妹水入らずで過ごそうよ」
箒「姉さん!」
束「…………お願い、箒ちゃん。そんな睨むような目つきで見ないで」
鷹月「博士……」
束「最後の最後まで箒ちゃんに嫌われたままっていうのは、流石の束さんも辛いよ」
箒「あ、あなたは! いつも! いつも余計なことをして!」
束「……」
箒「勝手に掻き回して! 邪魔をして! 私の仲間まで傷付けて!!」
箒「ほ……本当に……こんな事態まで招いて……」
束「ごめんね。私が変な真似しなけりゃいっくんと一緒にいれたのにね」
430 :以下、
箒「違います!!」
束「ん……?」
箒(確かに……一夏と離されたことは悲しかった……けど!)ジワ…
箒「わ……私の大切な友達まで巻き込んだっていうことも許せないんです!!」ポロッ
束「ともだち?」
箒「うっ……うううぅ……」
束「……」
鷹月「……」
鷹月「篠ノ之博士。妹さんの言っていることが本当に分からないんですか?」
束「君、誰?」
箒「静寐……」
鷹月「あなたは知らないでしょうけど、箒さんはこのIS学園でたくさんの友人を作ったんですよ」
鷹月「自分のISを手に入れた後は先輩に鍛えてもらうようになりましたし、悩んでいる友達に話を聞きに行って感謝されたこともあるんです」
431 :以下、
箒「私の不備で作戦失敗したときも、彼女たちはフォローに回ってくれた……」
束「…………?」
箒「そ、そんな友人たちを姉妹間の問題に引き込んで、危ない目に合わせたことは……」
束「箒ちゃん……」
鷹月(こういう状況ってどうすれば良いのかしら……)
鷹月(さっき避難指示の校内放送が聞こえたけれど、篠ノ之さんは一夏くんの戦いを見ずにはいられないでしょう……)
鷹月(でも、織斑くんが戦っているのは皆を守るため……なら、彼の意思を無駄にする訳には)
束(箒ちゃん……何故そんなに悲しんでいるの? いっくんがやられてるから、だけじゃないよね?)
鷹月「篠ノ之さん、早く避難しましょ。博士も一緒に」
箒「……一夏を見捨てる訳にはいかない」
鷹月「気持ちは分かるけど! 早く行かなきゃあなたも危ないわよ!」
箒「私のために姉がしたことで、今一夏は苦しんでいるんだ。私だけ安全な場所で身を隠すのは許されない」
鷹月「しっかりしなさい! 今、あなたが傷付くことを、一夏くんが望んでいると思ってるの!?」
束(……………)
束(この子……関係ない癖に何でここまで……?)
432 :以下、
【IS学園 上空】
一夏(シールドも荷電粒子砲も使えなくなっちまったな)
無人機「―――」ブン! ブン!
一夏「おっと」
キン! キン!
一夏(……今ので決められねえのか……!! くっ、片腕を失ったまま斬り合いを続けるのは危険だ!)
無人機「…………」
一夏(一旦引くぜ!)
《白式 瞬間加 発動(後退)》
ギュゥン!!
一夏(……………あぶ……え?)
《無人機 瞬間加 発動》 ギュゥン!!
433 :以下、
無人機「―――」グアッ
一夏「な! 一瞬で詰めて……! くそ!」ブン!
ガシィィィ!
一夏(俺が引くのを見越してすぐ瞬間加仕掛けてきた……)ギリギリ……
無人機「――――」グググ…
一夏(やばい!! 片手じゃ鍔迫り合いに勝てねえ!)ギリリ……!
無人機「―――」ギリギリ…… ザシュ!
一夏「ぐあっ!」
一夏(押し切られた……はっ!!)
434 :以下、
無人機「―――」グアッ
一夏(蹴りが―――)
ドガアァァ!!
一夏「……っは」
一夏「が、か……かはっ……」
《無人機 零落白夜 発動》
一夏「え?」
ザシュゥゥゥゥ!!
435 :以下、
一夏「…………」
一夏「斬られる瞬間体を引いたから、傷は浅目に留めることが出来た……でも……」
一夏(ダメだ……血を流し過ぎたか、右手にも力が入りにくくなってる……)
無人機「――――」
一夏「おまえ強いなあ……
一夏「へへ……」ガクッ フィィィィィィ……
《白式 スラスター稼働 停止》
 ヒュゥゥゥゥゥゥ……
無人機「―――――」キュィ…ィイン
一夏「…………」ヒュゥゥゥゥゥゥ……
436 :以下、
一夏(……苦肉の策だ。片腕が無い今、力で勝る相手に斬り合ってもまともな勝負にならない)
一夏(攻撃を誘い、後ろに引いて反撃する方法は読まれてるかも知れない。これが決まらなかったら終わりだ―――)
一夏(皆、今までごめんな。迷惑掛けて、負担掛けて、余計に苦しませて)
一夏(これくらいしかできることないけど、こいつだけは俺が倒してみせるよ。皆の間に芽生えた絆を守ってみせる)
一夏(インフィニット・ストラトス―――無限の成層圏。女性を守る機械仕掛けの鎧。俺はそれでいい)
一夏「―――――――」
《無人機 瞬間加&零落白夜 発動》
一夏「!」カッ
《白式 瞬間加&零落白夜 発動》
一夏は高で接近する敵機に正面から迎え撃とうと加する
一夏「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
437 :以下、
【IS学園 地下シェルターに続く道】
鈴「…………」
セシリア「一夏さんは大丈夫でしょうか?」
シャル「話を聞いてすぐ一夏を助けに行こうとしたけど、ISは何故か展開できないし……」
ラウラ「その後すぐ教官に見つかって、早く避難するよう諭されてしまった」
鈴「箒もいないじゃない……」
簪(……私たちだけ逃げてて良いのかな)
相川「皆……織斑くんのことが心配なのは分かるわ。私もよ」
のほほんさん「セッシーたちのISが起動できないってことは、もしかしたら戦闘教員が使う機体も動かせないってことかな……」
鈴「だとしたら……」
セシリア「一夏さんは今も一人で……?」
438 :以下、
一夏「………」
一夏「っ………………」
無人機「―――」
無人機「―――――――――!」グラッ
一夏「………!」
一夏(突撃してきた俺の剣を左腕で受け止め、右腕に据えられた刃で俺を刺す―――)
一夏(そうやって咄嗟に対処されたせいで、俺はコアを破壊することができなかった)
無人機「―――」ヴゥ……ゥン
一夏(それだけじゃない。さっきの衝突の一瞬に、露出したコアを体のパーツで塞いでくるなんてことは予測してなかった)
一夏(左腕とパーツに阻まれコア破壊は失敗。でも……)
無人機「――――」
一夏「剣先が届いたのは俺が先だったな。こっちも傷は浅いながらも食らっちまった……」
439 :以下、
一夏「はぁ……はぁ……」
一夏「敵はコアが破壊されなかったにしろ、かなりグロッキーにはなってるみたいだ」
一夏(にしても、空中で静止したままなのは、エネルギーがまだ完全にゼロになってないってことか?)
無人機「―――」ウィーン
一夏(とどめを……早く……)チャキ
無人機「―――」ガチャ……ガチャ……
一夏「ん?」
一夏「何だ……こいつ、スラスターの噴出孔を一方向に……?」
一夏「くそっ!! 逃げようってのか! この……!!」ジャキッ!!
    ビカッ
バチィッ!
一夏「…………ぐおっ!!」
一夏(何だ? 今、背後から光線が……)
440 :以下、
一夏「くそっ! 何だ!」
   
    ビカっ
一夏「おっと!」サッ
    ギュンッッッ!!!
一夏「…………!」
一夏(あの細い体躯、バイザー型のライン・アイ……確かこの前学園に強襲して来た奴だ)
一夏「このタイミングで増援……!?」
女性型無人機「―――」キュイン
女性型無人機「――――」ドンドンドン!!
一夏「ぐっ……!! 乱射してきやがる!」
441 :以下、
鷹月「織斑くん!」
箒「……!!」
束「ああ……!」
束「研究室で眠らせておいたゴーレムまで目覚めるなんて」
束(それに……あの機体に備わった機能は……)
一夏「はぁ……はぁ……!!」
一夏(もう一体居やがったのか……! 予想しておくべきだった……)
女性型無人機「――――」カチャ……
【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】
ビィィィ!!
一夏「ぐあっ!!」
ビィィ!! ビィィ!!
一夏(出力も連射性能も上がってる! 飛び回らなきゃかわせない!)ビュン!!
442 :以下、
ビィィィ!! ビィィィ!!
ビュン! ビュン!
一夏(あいつ、見たところ格闘能力に比重は置いてないのか、近接用の武装は据え付けられてないみたいだ。
 瞬間加で一気に距離を詰めて切り込めば、隠し武器を仕込んでいたとしても使わせずに沈められるか……?)
女性型「―――」
ビィィィ!! ビィィィ!!
一夏(連射が途切れない! 被弾覚悟で突っ込むしかねえか!
 相手に向ける面積を最小にして超高の矢になれば、致命傷は受けないはずだ)
ビィィィ!! ビィィィ!!
一夏(よし……)ジャキ コオォォ……
女性型「――!」
【白式 瞬間加 発動】
ギュウゥゥゥゥオオォォォォ!!
一夏「食らえ! 」
女性型「――――――」
【女性型 スカート型シールドビット 展開】
443 :以下、
一夏「!」
ガシィィィィ!
一夏(雪片が阻まれた……!?)
一夏「はっ! 敵は―――」
女性型「―――」ガチャ……
一夏(上に―――!)
【女性型 脚部マイクロミサイル群&腕部メーザーキャノン 一斉発射】
ドドドドドドドゥゥゥ!!
ビィィィィ! ビィィィ! ビィィィ!
一夏「ぐわぁぁぁぁ!!」
444 :以下、
一夏「う……うう……」
一夏「はぁ……はぁ……くそ、かなり吹き飛ばされた」
一夏「ん…………?」
女性型「―――」
無人機「―――」
一夏(何だ……? さっき俺が倒した無人機に近寄ってる?)
女性型「―――」スアッ
無人機「―――」
【女性型 エネルギー転送 無人機へ】パァァァァァ……
無人機「―――」
一夏「えっ」
無人機「―――」ウィー……
一夏「嘘だろ……」
445 :以下、
無人機「―――」カッ!
一夏「やばい!」
【無人機 エネルギー充填率100パーセント】
【無人機 零落白夜発動×2&瞬間加発動】
ギュオォォォォォォ!!
一夏(……完全回復だと!?)
【白式 零落白夜 発動】
一夏「くっ!!」
無人機「―――」ブンッ!!
一夏「っ」サッ!
一夏(左側から襲ってくるなよ!)
無人機「―――」ブン! ブン!
一夏(接近戦は無理だ! 距離引いて隙を―――)ギュン!
一夏(こっちのエネルギーは半分くらいしか残ってねえ! 慎重に戦わないとガス切れで終わりだ!)
446 :以下、
女性型「―――」キラッ
【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】
ビィィィ!! ビィィィ!!
一夏「うわっ!!」
無人機「――――――」ギュィインッ!!
一夏「!!」
無人機は逃げ回る一夏の行く先に回り込み、斬撃を加える
ザシュゥゥゥゥ!!
一夏「――――――」
一夏(二体で掛かられたら……どうすれば……)グラッ
一夏「くっ……うっ……うぅぅ……!」
一夏(何とかするんだ……俺ができることはこれくらいしか、皆のために身を削ることしかできないんだからっ……)
456 :以下、
鷹月「篠ノ之さん……」
箒「あ……ああ……」
鷹月(かなりショックなのは私も同じだけど、織斑くんと幼馴染だった篠ノ之さんは計り知れない衝撃でしょうね)
鷹月(でも……)
鷹月「篠ノ之さん! 早く逃げましょう!! 織斑くんが頑張ってくれてる間に!」
束「逃げても無駄だよ。現時点での目標であるいっくんを排除したあとは学園の破壊へ移るだろうからね。
 起動妨害の機能で学園内のISは飛べなくなってるけど、それを知らずに格納庫でうろたえてる戦闘教員たちが真っ先に犠牲になるかな」
鷹月「すぐシェルターに避難させれば!」
束「好きにすれば」
箒(一夏……あんなにボロボロになって、た、たった一人で立ち向かって……)
鷹月(どうしよう……先生たちを格納庫から出るように伝えなきゃいけないのに、かといって篠ノ之さんたちを放っておくわけにはいかない)
箒(一夏は最近様子がおかしかった。物憂げに佇んでいるときもあれば、いつも以上に明るく話しているときもあった)
束「いっくん……よく戦ってるねえ」
箒(この人さえいなければ、私は―――)
箒(ISが作られなければ、そもそもこういった状況になることは無かったのに!
 一夏が左腕を失うことは避けられたはずなのに……!)
457 :以下、
ヒュン! ヒュン!
一夏「はあっ……! はあっ……!」
無人機「―――」バッ
ガシィィィィ!!! キンッキンッ!!
一夏(攻撃をいなし続けるのも辛くなってきた。その上、動きを止めると―――)
ビィィィ! ビィィィ! ヒュゥンッ!
一夏(もう片方がすぐ光線を打ってきやがる……どうにかして打開策を開かないと)
できるのか 俺に?―――
一夏(接近タイプを倒しても遠隔タイプに回復させられちまうかも知れないんだ。
 作戦って言っても、あえて接近タイプを近づけさせてギリギリで瞬間加で引き離し、
 遠隔タイプを一撃で仕留めにかかるくらいしか打つべき手が無いっ……)
458 :以下、
無理だ 左腕が無いんだぞ? 
一夏(目の前のこいつはラッシュの圧力が強くて反撃を入れにくい。
 やっぱり、タイミングを図って遠隔タイプに突進するしか……)
エネルギー充分の格上二体を相手にそもそも勝てる訳ない―――
一夏「っ……」
一夏(頭の中で弱音が渦巻いてくる……! 接近タイプを倒せたと考えたとき、集中を一度途切れさせてしまったせいか)
またシールドビットに阻まれて終わりだ――― うまくいってもその後はどうするんだ―――
一夏(どっち道ここで俺が堕ちれば終わりなんだ! だったらやるしかねえだろ!!)
一夏「……………!」
無人機「―――」グアッ!
一夏(ここだ! ここで横薙ぎをかましてっ!!)
ガキィン!!!
無人機「―――」グラッ
459 :以下、
【白式 瞬間加 発動】
一夏「遠隔タイプを仕留めるっ!!」ギュオォォッ!! 
一夏(さっき防がれたとき、シールドビットの反応は早かったが挙動は単純だった……操作するAIがまだ不完全なのかも知れない。
 それに零落白夜を受けたダメージは、確実にビットに残ってる。打ち破れるはずだ―――)
女性型「――――」バッ
【女性型 スカート型シールドビット展開 障壁型】
一夏(前面部を全てを覆う楯か―――!)
【白式 零落白夜 発動】
ザシュゥゥゥゥゥゥ!!!
一夏「…………くっ!!」
女性型「―――」
一夏「浅いっ………!」
一夏の握る雪片はシールドビットを全て両断しきったものの、コアを守る外装に止められていた
460 :以下、
一夏(パワーアシストが切れてきたんだ! くそ……この攻撃に賭けたのに仕留められないなんて……)
女性型「――――――」サッ
【女性型 腕部メーザーキャノン 発射―――
一夏「うおっ!! 止めろ!」ドガッ!
女性型「―――!」グラッ
ギュオォォォォ……
一夏「…………!」
【無人機 零落白夜×2 発動】
無人機「―――――!!」ギュオォォォォ!!!
一夏(もう来やがった!)チャキッ 
ザシュッッ!!
一夏は僅かに身をずらして無人機の突進をかわし、すれ違いざまに剣を振る
無人機「―――」ジジ…
一夏「うう……」
461 :以下、
一夏(ダメだ……通らなかった……敵の右肩を少し斬っただけ)
無人機「――――」グアッ
一夏「!」
ドカァァァァ!
一夏は、無人機の前蹴りに大きく吹き飛ばされる
女性型「――――」キュイン
【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】 ビィィィ! ビィィィ!
蹴り上げられた一夏に、幾条もの光線が次々と殺到する
バチバチバチ!!
一夏「――――うわぁぁぁぁ!!」
一夏「がっ………! ぐ、ぐううぅぅ……!」
一夏(勝てない……のか?)
束「……………いっくん、ほんとによく頑張ってるよね」
箒「……」
箒(この人さえいなければ……最初から存在していなければ!!)
462 :以下、
箒「あなたのせいでしょう!! 何故そんなに他人事みたいに傍観していられるのですか!」
箒「いつもいつも邪魔ばかり! そもそもISの無いままの世界だったら、こんなことにはならなかった!」
束「……」
箒「あなたがISを作りさえしなければ―――」
鷹月「篠ノ之さん!」
箒「!」
鷹月「本当に言っているの!? 確かに、今織斑くんが死闘を演じているのはあなたにとって悲しいことだし、私だって心配よ!」
鷹月「でも、あなたはこのIS学園で得たものを自分から否定するようなことは言ってはダメ!」
箒「得た……もの?」
鷹月「ISが作られなければ、この学校が出来なかったら出会わなかった人がたくさんいたはずよ。
 その中には、あなたが悩みから救った人もいる。誰よりあなたが知っているでしょう!」
箒「!」
束(まただ。この子、箒ちゃんを見る目が真剣だ……なんで?)
箒(簪……鈴……シャルロット……セシリア……ラウラ……)
箒(あいつらはずっと家族や生まれについて問題を抱えていて……それが原因で関係にヒビが入ったとき、私は……)
463 :以下、
「箒!」
箒「え!」
ラウラ「探したぞ! 早く避難しろ!」
セシリア「あなたまで巻き込まれますわ!」
鷹月「あ、あなたたちも避難してなかったの!?」
シャル「箒と鷹月さんが見当たらなかったから探しに来たんだよ!」
鈴「先生にどやされるの覚悟でね」
箒「皆……」
簪「よ、良かった……無事だったんだ……」ポロ
箒「……」
箒(何だ……? こんな状況なのに、何故かほっとしている自分がいる)
束(あれ、箒ちゃんの目が……)
箒「……………おまえたち」
464 :以下、
鷹月「篠ノ之さん! 分かったでしょ!? あなたがこの学園で何を得たか!」
箒「静寐……そうだった、私は……」
束(あ、分かった。この子たちを見る箒ちゃんの目って……)
―――ねえさん! きょうはめずらしいむしをみつけたんですよ!
―――あ、ねえさん。おかしくれるんですか!? ありがとうございます!
―――ねえさん……わたし、もっとつよくなりたいとおもいます!
束「…………」
束(子供の頃、私に向けてくれていた温かい視線とおんなじなんだ……)
鈴「あれ、束さんもいるの!?」
シャル「空では一夏が戦ってるよ! たった一人で!」
セシリア「どうしましょう! ISは起動できませんし……」
ラウラ「とにかく安全なシェルターまで撤回するのが先決だ!」
簪(一夏……! 左腕が無いよ……!?)
465 :以下、
鷹月「篠ノ之さん! 早く避難しないとセシリアさんたちまで巻き込むことになるわよ! 博士も早く!」
箒「あ、ああ……分かった」
箒「ね、姉さん」チラッ
箒(危険を顧みず探しに来てくれる友人たちができたのは……姉さんがISを作ったからで……それと……)
束「…………」
束(そっか。そっかそっか)
束(私は妹を想ってISを作ったけど箒ちゃんを悲しませるだけに終わって、箒ちゃんは『友達』ができて私がいなくても平気になってたんだ)
束(剣道の才能が無くて親に失望されて、劣等感を埋めるように背伸びして難しい技術本読んで、
  慕ってくれる妹を応援するために培った知識を基にISを製作して……)
束(それは結局全部私のエゴで、馬鹿みたいに空回りし続けただけだったんだね)
束「…………………」
束「うっ……」ジワ・・・
束(じゃあ、私のやってきたことって何だったんだろう?)ポタッ
466 :以下、
一夏「はあ……もう、エネルギー残量もわずかだ……
 でも、随分長持ちしたなあ。付き合ってくれてありがとうな、白式」
一夏(本当に相棒がおまえで良かったよ。ここまで戦い抜けたのは間違いなくおまえのおかげだ)
一夏(相手の連携だって、フォルテ先輩とダリル先輩の『イージス』ほどじゃないんだ。役割が明確に別れてるから対処できるはずなんだ)
無人機「―――」キュイン
一夏「蹴っ飛ばされて、メーザー砲浴びて、海面すれすれまで落ちちまったな……早く応戦しに戻らないと」ヒュンッ
一夏(ん? 中庭にいるのは……皆!? 避難する時間くらいは稼いだと思うのにどうして!?)
無人機「――――」キュイィィィィ…
一夏「くっ!」ジャキッ!!
一夏(俺は奴の戦法はこちらの左側から攻めた方が有利というデータを元に動いているはず。今回も確実にそうしてくる)
一夏(それを逆手にとってやる!)
ドシュゥゥゥ!!
鋼鉄の体を誇るように無人機は一夏に向けて突進する
一夏(ここだっ! 軌道に剣先を合わせる!)サッ!
【白式 零落白夜 発動】
467 :以下、
無人機「―――」ギュワッッッ!
一夏(! 上に逃げ―――)
無人機「―――!」ドシュドシュドシュ!!
一夏(こめかみの針ミサイル!)
ドゥン! ドドゥン!
一夏「ぐっ―――」
無人機「―――」
【無人機 零落白夜×2 発動】バチバチバチバチバチ!!
無人機「―――」グアッッ!!
怯んだ隙に二振りの光剣を交差させるように切り付ける無人機
一夏「食らうかっ!」サッサッ!
468 :以下、
一夏「せいっ!!」ブンッ!
ガシィィィィ!!
勢いよく振られた雪片が無人機の右肩に食い込む
一夏(よし、ここで零落白夜を―――!)
ガシッッッ!! 
一夏「お?」
ブンッ!
一夏「うわっ!!」
無人機「――――――」
一夏「この、また雪片を奪いやがって……返せっ!」ヒュンッ
469 :以下、
ビィィィ! ビィィィ!
一夏「うわっ!」
女性型「――――」
一夏「くそ、あの野郎! 邪魔しやがって!」
ミシ…
一夏「!」
無人機「――――」グググ・・・
ミシミシミシ…
一夏(雪片を左腕で握りしめてやがる……まさか!)
一夏「おい! やめろ!」
470 :以下、
ビィィィ! ビィィィ!
一夏「うわっ!」
ミシミシ……ピシッ……ピシシッ・・・!!!
一夏「やめろーーー!!」
無人機「――――」ググググッ……
ピシッ……バリィィィィン!
一夏「あっ……」
一夏「あっあっ……雪片が、唯一の武器が折られちまった……!」
474 :以下、
ラウラ「雪片が!」
シャル「コナゴナにされちゃった…………!」
鈴「もう! 動いてよ甲龍! あたしに助けに行かせて!!」
セシリア(一夏さんがやられてしまう? つまり……死んでしまうということですか?)
鷹月(織斑くん……あんなに一生懸命戦ってたけど……これじゃあもう)
簪(前のときと同じ……タッグマッチに乱入を受けたときと……
 一夏……生き残って! あなたは……私のヒーローなんだから!)
箒「あああああ……」
束「…………」
束(打つ手は無くなった。終わりだね)
束(結局……私が造ったISは世界に無用な混乱を持ち込んで、近しい人に苦しみを与えてしまった)
束(全部全部裏目に出ちゃった。箒ちゃんに嫌われ、いっくんを大怪我させて……
 望むものを与えてやれなかったし、自分の欲しいものも手に入らなかった。これが私の人生だった)
束(何が『インフィニット・ストラトス』だよ。名前に込めた意味も、今じゃあお笑い草だよ)ペタン
475 :以下、
箒「姉さん……」
箒(あの人が無気力にへたり込んで、今まで見せなかった失意の表情を……)ズキッ
箒(どうして……憎いはずなのに……別の気持ちが……
 くそう、この状況をどうすればいいんだ!?)
鷹月(どうしたの? 篠ノ之さん……)
シャル「見て! 一夏が追い立てられてるよ!!」
鈴「もういい! もういいから! そのまま遠くまで逃げちゃいなさいよ!
 フラフラ飛んでるから狙われるんでしょ!? 自分の身を考えて!!」
ラウラ(一夏のヤツ、接近型のスキを伺っているのか……? ああ! ほらまた射撃を食らった!)
セシリア(ふらついて……ついに動きを止めてしまわれました……)
セシリア「あ」
バギャアアァァァン!!
簪「きゃああああ!!!」
束「……」
476 :以下、
箒「一夏ああ!!」
鷹月「今、何が!?」
パラ…… パラ・・・
鷹月「な、何これ……? ……白くて、赤いものが……」
シャル「…………雪……じゃない」
シャル「……白式の破片だよ! さっき、一夏が防御したとき砕かれたんだ……!」
パラパラ……
パラパラパラパラ…………
簪(まだどんどん降ってくる……)
箒「一夏…… 姉さん……」
束(終わり終わり。もう望みなんかない。もし奇跡的にあの新型ISが停止したとしても、私がすべてを失ったことは変わらないんだもん)
477 :以下、
一夏「ヒュー……ヒュー……」
一夏(足の装甲もやられた……! バランスが……)
一夏「…………ここで、終わるのか? もう駄目なのかっ……!?」
一夏「もう、打つ手は…………はっ!」
無人機「―――」ウィィン・・・・・・ ギュンッッッ!!
一夏「うお!」サッ!
一夏(良かった……! 避けられた……!)
一夏「! うっ!」フラッ
一夏(食らいすぎたな。左腕斬り飛ばされて、治療も無しに戦い続けてるんだからふらつくのも当然か)
白式(――――)
一夏(…………)ドクン………… ドクン…………
一夏(俺……死ぬんだろうな。もう分かる。
 昨日の夢の中で「喜んでこの身を差し出せる」なんて啖呵を切ったけど、こんなに早くそのときが来るなんて……)
一夏「なら―――」チラッ
478 :以下、
簪「―――!」 ラウラ「――――!!」 鷹月「――――!!!」
シャル「――――!!」 鈴「―――!」 セシリア「――――!」
束「…」 箒「……」
一夏(やっぱり……皆を守り抜いて死にたいよなあ……!!!)
一夏「―――」
一夏「……!」キッ
無人機「―――」ジャキッ
女性型「―――」
一夏「救うんだ……学園を……! せっかくいくつもの糸が繋がり始めたのに……壊させるもんか……」
一夏「守るんだ……守るために飛ぶんだ……そのために、俺は、ISに――――」
白式「――――――」
【無人機 瞬間加 発動】
ドシュウゥゥゥゥゥゥ!!
479 :以下、
一夏(最初に現れた方の右肩を狙うしかない! さっき雪片で切り付けたから接続が甘くなってるはず!)
一夏(でも……!)
ビュンッ!!
無人機「―――」
一夏(ダメだ! い上に武器を振りかざしてくるからとても奪えない……!!)
一夏(攻撃を受けまくったせいで、さっきは意識が飛びかけて足の装甲を剥がされる羽目になっちまったし……)
一夏「はあっ……はあっ……」
一夏(くそ! くそくそ!! ここでこいつらを止められなかったら俺は一体なんなんだよ!!??)
一夏(俺がっ、皆を、守り抜くんだ! それができなきゃあ……)
―――そんな道、簡単に歩めるものじゃないぞ! 君みたいな若者がたった一人で……
一夏「っ……!!」
480 :以下、
一夏(うう……ううううう!!!!)
―――なんで……いっちゃったんだよ!?
一夏(!)
―――なかよかったやつとはなれるって……こんなにつらいんだ……
一夏(……っ)
一夏(思い出したくないガキのときのことまで浮かんできやがった……)
一夏(でも今は関係ねえ! あんな弱かったときの記憶なんか今必要ない!)
一夏「だって……やるって言ったんだからな!」
一夏「そうだ……守らなきゃ……」
一夏「助けなきゃ! 庇わなきゃ! 力にならなきゃ!
 壁にならなきゃ! 楯にならなきゃ! 救いあげなきゃ! 手を伸ばさなきゃ!」
一夏「俺がっ……! 俺がやるんだ!!」
481 :以下、
白式「――――!」
一夏「ん!?」ピクッ
無人機「――――」ブワッ!!
【無人機 零落白夜 発動】
バチバチバチバチ!!!!
一夏「うわっ!!」サッ!
一夏(何だ……? 攻撃が来る前に感じたさっきの感触は……)
一夏(とにかく、まだ見切れる! まだ立ち向かえる!)
無人機「――――」ギロッ
一夏(どう攻めるにしても……まず落ち着いて……)
白式「―――」
一夏「!」
482 :以下、
無人機「―――――!!」バチバチバチ……!!
《無人機 零落白夜×2 発動》
一夏「くっ!」ギュン!
一夏(こいつから距離を取ると―――)
ビィィィ!! ビィィィ!!
女性型「――――」
一夏「当たるか!」
一夏(すぐさまメーザーがくる! でも、近接タイプから離れるときに遠隔タイプに注意を払っておけば対応はできる!)
一夏(まだチャンスはあるはず……どうにかして……)
白式「―――」
一夏「……そうだ!!」
483 :以下、
一夏(瞬間加の準備をして……) ウィィィィ…… パアァァァ……
女性型「―――」スッ
一夏(……来る!)
【女性型 メーザーキャノン 発射】
ビィィィ!! ビィィィ!!
一夏「ここだっ!」グルンッ!
一夏は勢いよく体をひねり、女性型無人機の方に背を向ける
ビィィィィィィィ!!! バシュンッッッ!!
放たれたメーザーは白式のスラスターに吸い込まれ――――
一夏「!」キッ!
瞬間加の爆発力を苛烈化させる!
一夏「うぉぉぉぉ!!」バッシュゥゥゥゥゥゥン!!!!
無人機「――――!」
一夏(狙いは………)
484 :以下、
バキャアアアァァ!!
無人機「――――!」ジジジ……
一夏「…………」
一夏「奪えた……!!」
一夏「お前の右腕! 貰ったぞ!!」
無人機「―――」ギュン!
【無人機 左腕ブレード 刺突】
一夏「食らうか!!」ガキンッ
無人機「―――!」
【無人機 腹部ブレード 展開】ビシュッッッ!!!
一夏「!」ビュンッッッ!!
白式「――――――」
女性型「…………」
485 :以下、
無人機「――――」ブンッ! ブンッ!
一夏(!)サッ! サッ!
一夏(片腕を失って敵の攻撃パターンが乏しくなってるからか? 動きが分かるぞ!)
白式「――――」
一夏(いや、戦いに集中しなきゃ! 動きが読めると言ってもこっちはもうエネルギーがないんだ。早いとこ決めないと)
無人機「―――」グアッ!!
一夏「……その猪突猛進っぷりにはいい加減勘弁してもらいたいな」
一夏(さて、敵はどう考える? 右腕をロストした状態で手負いだがすばしっこい獲物を確実に仕留めるには……)
一夏「――――!」サッ
【無人機 マイクロミサイル 発射】
ドウドウドウッ!!
一夏(やっぱり撃ってくると思った!)ヒュンッ
【白式 瞬間加 発動】
一夏(懐に潜り込んで――――)
ブンッ!!
486 :以下、
一夏(敵の得物をふっ飛ばす!)
無人機「――――!」サッ
敵の懐に潜り込み、回転切りを放つ一夏
ガキィィィィィン!!!
一夏(受け止められた!? けど――――)
一夏(片手歴はなぁ! 俺の方がほんの少し長いんだよ!)ギュイッ!!
手首を捻って剣先を回し、相手の腹部をこじ開ける!
一夏(序盤で左肩にダメージ与えといてよかった。動きがわずかに鈍ってる!)
一夏(そんで少し引いて!)サッ
【無人機 腹部ブレード 飛出】
一夏(隠し剣をかわして――――)
一夏「くらえっ!!」
ドスッッッ!!!
無人機「――――」ジジジ・・・
487 :以下、
喉元に刃を刺され、無人機の動きが止まる
一夏「――――やったか?」
白式「―――!!」
一夏(! いややってない!)
無人機「―――!」
【無人機 零落白夜 発動】バチバチバチバチ!!
一夏「!」
一夏(残された左腕のブレードだけじゃなく、腹部に仕込んだ刃まで零落白夜にできるのか。
 この機体……この戦いの中、どれだけのスピードで進化してるんだ……!?)
無人機「―――」ドシュン!
一夏(来やがったか!)
一夏(もう一体の遠隔タイプからの銃撃は、俺がこの接近タイプと距離が近いときは来ないはずだ)
一夏(小回りを利かせて避けつつ、着かず離れずの距離から隙を伺う!)ヒュンッ!!!
無人機「――――――」ビュウゥゥンンッッッ!!
一夏「と言っても、かわし続けるのは無理だな……」
488 :以下、
一夏(よし……なら)
飛行度を落とし、無人機の軌道直線状に向き直る一夏
一夏「……ほら、来いよ!」サッ!
左半身を前に晒し、更に不敵に笑う
無人機「――――――!!」ギュゥゥゥゥン!!
一夏「………」
がら空きの一夏の脇腹を貫こうと、無人機は左腕のブレードを伸ばす!!
一夏「でやっ!!」ブンッ!!!
そのとき、無人機の右腕は一夏の手から勢いよく放たれ―――
無人機「―――!」
ガスッッッッ!!!
無人機「―――!!」ジ……ジジ……
489 :以下、
冷たい殺意を閉じ込めた無人機の頭に突き刺さり、大きくバランスを崩す!
一夏(ここだっ!)ギュンッ!!
無人機「―――」
体勢を立て直し切れていない敵に距離を詰めた一夏は、即席の矢を機械の頭部から引っこ抜き―――
一夏「でやあっっ!!」ドスッッッッ!!!
鋼の胴体めがけ渾身の力で突き刺した!
無人機「―――」バチッ……バチバチ……!!
無人機「―――ゥ―――」
一夏(……手応えありだ)
無人機「―」フラッ……!
ヒュウゥゥゥゥゥゥゥ……………
一夏「…………」
490 :以下、
シャル「す、すごい! あの状態から一機倒しちゃったよ!!」
簪「あ……ああ!! も、もうダメかと思ってたのに……!」
鈴「あ……あはは……」
鷹月(さっきから何……? 織斑くんのこの戦闘技能は?)
鷹月(白式より武装の数やパワーを上回り、かつ新たに進化し続ける敵を片腕を斬り飛ばされた状態で出し抜いた)
鷹月(しかし、勝利の喜びに浸る間もなく新たに遠距離戦を得意とする敵が現れて、倒したはずの無人機まで完全に復活させられた)
鷹月(そんな絶望的な状況を切り抜けて、今再び盛り返し、また接近タイプに打ち勝っちゃった……)
セシリア「一夏さん! 流石ですわ!」
ラウラ「奴はあそこまでやるようになったのか……!」
鷹月(でも……何か怖い)
鷹月(痛い思いして、不安な思いと戦って、心が折られる状況を目の当たりにしても……
 二対一という劣勢を強いられても、頼みの武器を砕かれても、新しい武装が発現することがなくても……
 それでもなお「戦おう」とする意思を捨てないのって、普通の精神じゃないわ……)
箒「い、一夏……!!」
鷹月(篠ノ之さんは私よりずっと前からそのことを気にしてるはず)
鷹月(そして私と同じように、この戦いを織斑くんが勝ったしても彼は決定的に変わってしまう……そんな不安も抱いているのでは?
491 :以下、
箒(一夏……)
簪「でも、もう一機いるよ……」
鈴「あんな状態で倒せるの……?」
セシリア「もうここまで来たら信じるしかないでしょう!」
シャル「お願い……! 生き残って!」
ラウラ「きっとあいつは帰ってくるはずだ!」
箒(皆……)
束「……」
箒(姉さん……)
箒(さっきこの人が見せた目は昔の私のと同じだ……)
ラウラ「もう一機はどういう動きをしている!」
簪「空中で静止してるみたい」
シャル「少し前までは一夏を撃とうと移動を繰り返してたけど」
鈴「でも、なんか様子がおかしくない?」
セシリア「ええ……見間違いでなければ……こちらにキャノンを向けているような……?」
492 :以下、
一夏「はあ……はあ……」
一夏(よし……あと一機……!)
一夏(接近タイプと戦ってるときはあいつは誤射を恐れてか撃ってこないことが分かったからな。
 その行動指針を逆手にとって、さっき仕留めた奴とは着かず離れず戦うことでメーザーを封じることができたが、これからは―――)
一夏(……!)
一夏(やばい! 俺との戦闘中は俺以外狙わねえと思ってた!!)
一夏(当然考えるべき可能性だったのに! 目の前の敵を倒すのに必死になり過ぎた!!)
女性型「――――――」スチャ………
一夏(! 学園に照準を――――!!!)
【白式 瞬間加 発動】
一夏「やめやがれーーー!!!」ドシュゥゥゥゥン! 
女性型「―――」
ドウッ!!!!
498 :以下、
【IS学園 校舎内】
タッタッタッ
轡木「くそ! 何をしているんだ……!」
轡木(一年生の専用機持ちが避難を拒み外に出るとはな……! 早く保護しないと!)
轡木(聞けば、織斑くんが一人で応戦に当たっているという。それを知った彼女たちが助けに行こうとするのは予測できたはずだ)
轡木(しかし、織斑くんまでは……救助に向かえまい)
轡木(彼が先日中庭で私に語った言葉からすると、今頃は捨身で敵に食らいついてることは想像に難くない。
 まだ学園が攻撃されていない現状を見てもその考えは裏付けられるだろう。オペレーター室に寄らずともこの程度は分かる)
轡木(襲撃事件は回数を経るごとに機体性能も規模も上がってきている。今回はもっと強くなっている可能性が高い……)
轡木(織斑くん……無責任だが、一人の生徒に対して学園を守るべき者が言う言葉では無いだろうが……)
轡木(がんばってくれ! 今は君しか頼れる人がいないんだ!)
轡木(……彼と前話したときは無理をするなと言ったのに……すまないな……本当に……)
ドガァァァァァァァァァ!!!
轡木「!!」
499 :以下、
【IS学園 中庭】
セシリア「きゃああああ!」ヨロッ
ラウラ「セシリア! くっ!!」バシッ
シャル「よ、良かった……直撃しなかった!」
簪(でも、敵の光線が当たった校舎が崩れてくる!)
ガラガラ……ガラガラガラガラ!!!!!!
鷹月「きゃっ………!」ビクッ
鈴「ちょっと! あんた! こっち!」グイッ!
鷹月「あ、ありがとう」
鷹月(でも、篠ノ之さんは!?)
箒「皆は……無事か……」
箒「!」
束「………」ヘタッ……
ガラッ……!
500 :以下、
箒「姉さん……! ガレキが上に―――!」
箒(ああっ―――)
束(……)
ダッ!!!
束「うわっ!」
ガシャアァァァァン!!
束「――――――」
箒「はあっ……はあっ……」
束「うっ……箒ちゃん? えっ?」
箒「あなたは! 本当に! どこまでも困らせてくれます!」
箒「助けたとき、膝を擦ってしまったではないですか」
501 :以下、
束「な、何で……私なんかを? ひどいこといっぱいしたのに」
箒「私にだってよくわかりません」
箒「でも……見捨てられなかった。あなたにはたくさん邪魔されましたが、たくさん世話にもなっていましたから」
束「箒ちゃん?」
箒「あっ……」
箒(そうだ……私が、変わりたかったのは……この人を許したかったから……)
束「……?」
箒(セシリアたちを救おうとしたのは、あいつみたいに優しくなりたかったからだ……)
束「……」
束「ははは……」
束「ほんとなっさけないね、私って。自分一人の考えだけで突っ走った挙句、結局こんな事態を引き起こしちゃって」
束「ほ……本当に……虚しい、人間、だよ……」
束「うっ」ポロポロ
箒「泣かないでください」
束「えっ……」
502 :以下、
箒「確かにあなたがISを作らなければ世の中は混乱せず、今のようなことには起きなかったでしょう。
 でも、ISの存在があったからこそ生まれた出会いがあり、かけがえのない仲間を私は手にすることができたのです」
箒「ここでは楽しいことも、悔しいことも、悲しいことも、涙したこともありました。
 あなたが自分の人生を無価値だと言うことは、そんな学園の日々を否定することにもなります」
束「っ……!!」
束「で、でも今いっくんは目を覆わんばかりにボロボロになってるんだよ! 私のせいだよ! 私がくだらないものを作ったから!」
箒「姉さん」
束「いっくんだってISなんか無ければ良かったと思ってるよ!! 私を恨んでるに決まってる!」
箒(……そうだ。私だって一夏が今やられているのに助けにも行けないのは悲しい)
箒(でも、どうしてもこの人に怒る気にはなれない……)
箒(この人も私と同じように、不器用で、自分を曲げることが苦手だということが分かってしまったから)
束「……本当に……私なんか……」
503 :以下、
一夏「はあ……はあ……!! 皆には直撃しなかったか!」
一夏(思いっきり体当たりして、どうにか光線の軌道をずらすことができた……)
女性型「……」
一夏「てめえっ! よくも……よくも学園を撃ちやがったな!」
女性型「……!」
【女性型 メーザーキャノン 発射】
ビィィィィィィィ!!!
一夏「当たるかよ!」サッ
一夏(もう読めるぜ。自分でもどうかしちまったかと思うくらい、行動が分かる!)
女性型「――――」ビィィィィィィィ!!! ビィィィィィィィィ!!
一夏(やっぱりこいつ、離れたところから撃つことしかできねえんだ!!)
女性型「――――」ビィィィィィィィ!!! ビィィィィィィィィ!!
一夏(撃つテンポが一本調子だ! 連射性は高いがそれに頼りすぎてる!)
504 :以下、
一夏「―――ッ!」
【白式 瞬間加 発動】
ビュウゥゥゥゥゥン!!
白い矢と化した一夏は、敵機の頭部を違いざまに掠っていく
女性型「―――!」
一夏「…………」
一夏「かわされたか…… それにやっぱり武器が無いと決定打が……」
女性型「――――」
パカッ…
一夏「何だ? 両腕の一部が開いた……?」
女性型「―――!」
【女性型 ビット×2 射出】
ヒュヒュンッ!
505 :以下、
一夏「!」
一夏(隠し武器か! この状況になるまで使って来なかったということは切り札か!)
一夏(短刀状の形から察するに防御のみならず攻撃手段としても活用できるよう搭載されたものだろう。
 本来ならシールドビットが使えなくなったときに自分を守るために使うんだろうが、飛ばしてくるってことは……)
【女性型 腕部メーザーキャノン 発射】
ビィィィィィィィ!!! ビィィィィィィィィ!!
一夏「!」サッ
女性型「――――!!」
一夏「何としても俺を今ここで仕留めたいんだな!」
一夏(撃っては逃げを繰り返す長期戦スタイルで来られた方がむしろ動きは読みやすくて楽だったんだが……手を焼かせる)
一夏「はあ……はあ……」
白式「―――!」
ヒュンッ ヒュヒュンッ カチャッ! カチャッ!
【ビット 形状変化 「先割れ」】
506 :以下、
一夏(な! ビットが開いて鋏みたいになった!?)
ガシガシィィィ! 
一夏の腕に飛びつくビットたち
一夏「くっ……腕を封じてきたか……!」ググ……
一夏(そうだ……メーザーを撃つタイミングはこの足止めに合わせてくるはず―――)
ビィィィィィ!! バチバチバチ!!
一夏「うわあああああ!!!!」
一夏「ぁ……ぅ……」
一夏「…」フラッ
ガリッ!!
一夏は頬の内側の肉を噛むことで意識を強引に拾い上げる
一夏「くっ!!」ビクッ
白式「――! ―――!!!」
一夏(白式……? さっき、なんか見えかけたが……)
507 :以下、
一夏「…………」
一夏「そうだよな…… 絶対に守らなきゃなあ……!!」
一夏(ここで死んだら、何の価値も無い流されただけの奴で終わっちゃうんだ……! ガキの頃から何も変わらなかった奴で……)
白式「……ィ」
ヒュヒュン!
女性型「―――」
一夏(またビッドが飛んできた……)
女性型「―――!」
ガシィィィ
一夏「……!」
一夏は抵抗もせず二つのビットに挟まれる
508 :以下、
一夏「……!」
【女性型 腕部メーザー【白式 瞬間加 発動】
ドヒュウゥゥゥゥゥゥン!!
一夏「ここだっ!!」
ビットに捕えられたまま加し、敵機に向けて飛ぶ一夏
一夏「ここだっ!! 飛んできたメーザーを……!!」
一夏「でやっ!!」サッ
ビィィィィィ!!………バチッ! バチバチ!!
加しつつ纏わりついたビットを剥がし、そのまま楯にして光線を防ぐ!!
一夏「っ!!」
509 :以下、
一夏(決めるっ!! ここで!)
一夏「おおおおおお!!」
ビットを振りかざし、本体へ打ち付けに行く一夏
女性型「―――!」
ガシィィィィ!!
一夏(入った!!)
女性型「―――」ヨロッ…
機械の女人は大きく体を傾け、重力に流されるままにその身を落としていく
一夏「はぁ……!! はぁー……!」
女性型「――――」
510 :以下、
簪「やった……! やったあ!!」
ラウラ「おお……」
鈴「一夏!」
箒「ああ……! 一夏……!」
束「……!」
束「箒ちゃん」
箒「……姉さん?」
束「いっぱい間違えてごめんね。箒ちゃんの大切な世界を壊して、自由を奪って」
箒「もういいんです」
箒「私自身、今自分があなたにどういう感情を抱いているかもよく掴めていません。
 一夏や仲間を傷つけた件については腹が立っていますし、心の奥底ではあなたと仲良くなりたい気持ちもあるんです」
箒「でも、ひとつだけ言えることがあります」
束「?」
箒「……あなたはやはり私の姉であり、おんなじくらい不器用なんだということです。
 気持ちの伝え方が分からず、自分でも駄目だと思っているのに変えられない」
束「……箒ちゃんは私とは違うよ。ああまでした私を助けるために動いてくれるなんて……」
511 :以下、
束「友達だってたくさん作ってたみたいだし。危険を顧みず探してきてくれる友達なんて、私には……」
箒「そ、それは――」
箒(そもそも私は、あいつを手本にして……あっ)
箒「一夏……」
束「え?」
箒「一夏が危ない!」
シャル「どうしたの!?」
女性型「―――」 ヒュゥゥゥゥゥゥ……
女性型「―」ピタッ
女性型「―――――――」カッ!
セシリア「まさか…………まだ!」
512 :以下、
一夏「くそっ……あと、あと少しだったのに腕でガードされちまった……」
一夏「ぐ……ぐうううう!!」バシュンッ!!
女性型「―――」バシュンッ!
中空を飛び交い、「二機」のISは激しくぶつかりあう
ヒュンッ ヒュンッ ガシィィィィィ!!
一夏(メーザー砲はさっきのでイカれたらしいな!)
一夏(あとは、反応度で負けなきゃ勝てる!)
一夏(もっと! もっと! もっと力を! 早さを! 反応を!!)
一夏(白式!! 夢で約束したろ!! 俺の願いを叶えるためにがんばってくれ! ここで終わりたくないんだよ!!)
白式「―――」
白式「………」
ヒュン! ガシッ! ビュン!!
ドシュゥゥゥゥゥゥン!! ドガァ!!!
513 :以下、
女性型「―――!!」
【女性型 瞬間加 発動】
バシュゥゥッゥゥン!!
一夏(見切れる!)ザヒュン!!
女性型「――!」
一夏(……また来るな)
【女性型 瞬間加 発動】
【女性型 瞬間加 発動】
【女性型 瞬間加 発動】
バシュゥゥッゥゥン!! バシュゥゥッゥゥン!! バシュゥゥッゥゥン!!
一夏「―――」サッ サッ ヒュン!
514 :以下、
一夏「――――――」ブアッ
突進をすべてかわし、一夏は虚空へ向け蹴りを仕掛ける
女性型「―――――!」
ちょうどその蹴りの先に加した敵機体が飛び込んでくる
ドゴッ……!
鷹月「えっ! まさか軌道を先読みして攻撃を……!?」
一夏「―――」
女性型「―――」フラッ
女性型「―――!!」
女性型「―――」ドガッ!
一夏「―――」ドガッ!!
鈴「殴り合ってる……」
515 :以下、
鷹月「何よあれ……」
鷹月(織斑くん……何かに憑りつかれてるみたい。もうとっくに機体維持警告域(レッドゾーン)を超えて、
 操縦者生命危険域(デッドゾーン)に入っているはずなのに、何故ああまで動けるの……?)
女性型「―――!!」ドガァァァ!!
一夏「―――」
大きく殴り飛ばされる一夏
女性型「――――!」
必殺の好機に、大きく加して仕留めにかかる敵機
一夏(――――)
一夏「―――」フラッ
白目を剥いたまま、一夏は引き合うように体を前へ向ける
一夏「―――」
女性型「―――!!」
ドガシィィィィィィィ!!!
516 :以下、
一夏「――――」
女性型「―― ―――― ― ――」
互いの胴体には、目の前の相手の拳が突き刺さっていた
一夏「―――」
女性型「………」
「二機」のISは力を失い、共に落下していく
箒「一夏!」
シャル「ああ!」
箒「………!」ダッ
鈴「ちょっと箒!」
束「……」
簪「篠ノ之博士……?」
517 :以下、
【IS学園の外れ 海岸付近】
一夏「う……うぐ……」
一夏(PICがギリギリで働いたか……助かった)
一夏(敵もこの近くに落下したはず。早く、戦いに戻……ぐっ!?)ズキッ
一夏(頭が……痛えっ!! なんだ!?)フラッ
一夏(そういや戦いの途中から聞こえすぎるし、見えすぎるし、感じすぎる……時間も一秒一秒が濃く感じる! 今この時も!)
一夏「がっ……げほっ!! げほっ!!」
一夏(痛みも強く長い! どうしてだ!?)
一夏「うう」
一夏(……そうか。戦ってないからだ。戦いに集中すれば痛みも吐き気も意識せずに済む。早く戦いに)
一夏「……戦いに……」ヨロヨロ
一夏「学園……守……」
一夏「……」ガクッ
518 :以下、
―――――――
――――
――

一夏「…………」
少女「…………」
一夏「夢で見た女の子……やっぱり君は白式……?」
少女「うん」
一夏「はは……なら話は早い。敵はまだ倒れてないんだ。すぐ戦いに戻りたい、俺は行くよ」
少女「待って」
一夏「ん?」
少女「あなたの気持ちが少しずつ分かってきたの」
一夏「……なら止めないでくれ」
少女「力が欲しいなら私も手を貸すよ。でも、その前にあなたから自分の気持ちを聞かせて」
一夏「なんだよ。またそれかい?」
519 :以下、
少女「このままじゃ、あなたは一人ぼっちで気持ちを抱えたまま死んでしまうかも知れないから」
一夏「なっ……!」
少女「だから、本当にそれでいいのか言ってくれないと」
一夏「っ……」
少女「教えて」
一夏「……それでいいよ。どうせ今までと同じだし」
少女「そうなの……?」
一夏「俺は、結局一人なのかも知れない。ISを動かせたばっかりに、男にも女にもどっちの輪にも入れない。
 大人だと言うにはまだ幼いし、子供というにはいろいろ知り過ぎた。
 自分のことは外向的な方だと思ってたけど、ちょっとしたことに怯えて内に籠ってしまうこともよくあるんだ」
一夏「こんな俺の居場所なんて、無いのかも知れない」
一夏「昔からの友達もいなくなっちゃったし。学園に来て知り合った女の子たちの中にも今更戻れやしない。どこか距離を取ってしまうんだ」
一夏「皆から遠ざけられた原因も、辿ってみれば俺にあったからさ。もうそばにいれないって。
 つくづく自分の鈍感振りが嫌になる」
少女「どうしてそんなに鈍感なの? あなたはなんでそうやって人を助けたいと思うの?」
520 :以下、
一夏「なんでって……」
少女「本当に知らないはずないでしょう。あなたは薄々気付いているはずだよ。私に隠し事できると思わないで」
一夏「君は……」
少女「ずっと一緒にいるんだから。何度あなたのわがままに付き合ってきたと思ってるの?」
少女「あなたが戦いたいと言うのなら、私は力を貸すよ。主人であるあなたの意思に沿えるよう、全力で応援する。
 ケガしちゃったら一生懸命治す。でも、それだけじゃなくてね……」
少女「心に抱えている気持ちを閉じ込めたままにしておくことが、一夏を苦しめるのなら……その気持ちを解放してあげたい。
 元気になれるように、手助けをしたい」
一夏「……」
少女「この戦いの中でもあなたのことがどんどん分かってきた。でも、あなたは……」
一夏「……ごめんよ。今は力がいるんだ」
一夏「さっきの感覚共有と反応度の向上は君のおかげなんだろう?」
少女「……うん」
一夏「なら、もっと強化幅を上げることはできないか? ここであいつを仕留めきらないといけない。もう少しなんだ」
524 :以下、
少女「……」
一夏「なあ……」
「力を欲するのですね」
一夏「!」
白い女騎士「守るために力が欲しい―――間違いありませんね?」
一夏「あ……! 今までどこに?」
女騎士「この子が、自分だけで話したがってましたから。あなたに相対するのは控えていたのです」
少女「…………」
一夏「そうなのか。会って早で悪いけど力を貸してくれよ、あいつを上回れるだけの力を。学園の皆を守らなきゃいけないんだ」
女騎士「ひとつ聞かせてもらいます」
一夏「何?」
525 :以下、
女騎士「問いの前に―――空間認識力の増大、反応度の向上、戦闘データを参照したうえでの適切な行動選択……
 先ほどまであなたが手にしていた力ですが―――」
女騎士「これら戦いに関わる能力の上昇は、その子があなたの意識を探っていた際に、数々の条件を満たしたうえで、
 副次的に生み出された『現象』であるとまずお教えしておきます」
一夏「え?」
女騎士「普通ではまず起こりえない事態です。
 幼いISコアの自意識が操縦者をより深く理解しようとアプローチをかけるとします」
一夏「……」
女騎士「その際、ISコアの自意識は操縦者の意識とリンクしようと働きかけます。
 主人の表の主張と、その奥に眠る想念を把握し、心の実態を整理しようとするのです」
少女「……勝手に探ってごめんなさい」
女騎士「ISと人間の意識が重なると、ISコアが操縦者の思考・記憶を理解するのみならず、
 操縦者の方にもISが処理しているセンサー類からの情報や蓄積されている戦闘データが、そのままダイレクトに意識に届くようになります」
女騎士「ディスプレイを介さずに直接脳に送受され、感覚レベルで把握できるように変わるのです。
 通常時は伝えられないような細々としたデータの膨大な集積も脳に流入し、無意識レベルでの行動も置かれている状況に適合したものになります」
一夏「え……それは『同調』とは違うのか?」
女騎士「はい。同調は操縦者とISの波長が合っているだけで、それぞれの意識は保たれています。
 今回の場合は同調しようとするIS側からのアプローチで引き起こされた『不具合』です」
526 :以下、
一夏「不具合……」
女騎士「本来ならば、非同調の状態にあってもISコアの意識はこのような強引な行動に出ることはないのですけれど。
 万一そうした場合も操縦者にかかる負荷に気づいてすぐ取りやめるはずです」
女騎士「ですが、あなたは力を欲していると強く願っていましたので。
 操縦者の脳の異常に気づいても、この子はあなたの「力が欲しい」という願いを叶えていることになっているからと、やめませんでした」
一夏「……」
少女「欲しがってるんだから力を貸してあげようって気持ちと、苦しんでるから止めてほしいって気持ちが同時に存在してる。
 でも、やっぱり自分でもこのままじゃダメだと思ったの」
 
少女「一夏はこの前のときは、人を守ってみたい、そのために力が欲しいって言ってた。
 でも、そのときの一夏の言葉と今の一夏の言葉はちょっと違う。ちょっとだけど絶対違う」
一夏「同じだよ! 皆を守るために力が欲しい! 一人だって失いたくない!!」
少女「そのために自分を捨てていいの?」
一夏「……捨てる……確かに体に良いことじゃないだろうな。
 戦いの最中ならそれほど気にならなかったけど、集中が切れたらかなりきつい状態になってることが分かった」
女騎士「もはやエネルギーはほとんど底をつきかけています。
 これ以上戦いを続行するなら、創傷の回復や出血の抑制などに回していたエネルギーまで打ち切って戦いに回すことになります。
 また、送り込まれる多大な情報量はあなたの脳に大きな負担をかけるでしょう」
 
女騎士「ただでさえ満身創痍なのに、戦いを止めないというならば、もはや命の保証はできません」
527 :以下、
一夏「…………」
少女「どうするの……? ここが最後の分岐点だよ?」
少女「力を得て、自分の身を滅ぼすか。それともこれ以上戦うのを止めるか」
一夏「……」
一夏「俺は行くよ。どうせもうボロボロの体なんだから」
少女「!」
女騎士「構わないのですね」
一夏「ああ」
少女「……」
少女「嫌」
一夏「?」
少女「ダメ。絶対。一夏、それは哀しい」
一夏「何言ってるんだよ。早く意識をリンクし直して力を―――」
528 :以下、
少女「私、もう一夏の気持ち分かってる」
一夏「何?」
少女「さっきリンクしたとき、知ってしまった。一夏は本当は皆と離れたくないってこと」
一夏「!」
少女「昔、仲が良かった人といきなり離ればなれにされちゃって、その時のショックが元で誰かと深く関わろうとしなくなったこと」
少女「その反面、家族もいなかったから、人との繋がりが断ち切られそうになるとすごく焦っちゃうことも」
少女「一夏、あなたが鈍感なのもそういった過去から来ているのではないの?」
一夏「なっ……」
少女「人が苦しんでると助けになりたがる癖に、自分が誰かに踏み込まれそうになるとふっと一歩引いてしまうのは、
 一夏がまだその記憶に決着を付けていないからよ」
一夏「君は! 一体何を言っているんだよ!」
少女「間違ってる?」
一夏「!」
少女「違うよね。一夏も分かってるはず」
一夏「…………」
529 :以下、
一夏「く……」
一夏「……はっきりと思い出したよ。自分の中であえて曖昧にしてた記憶をさ」
一夏「子供の頃、ある女の子と突然別れちゃったのがショックで、考えないようにしてたんだ」
少女「……」
一夏「別れた記憶は薄れてもその衝撃は残ってる。苦しんでいる人の力になりたがったのは、あの頃の自分の姿を無意識に重ねてたからかも知れない」
一夏「鈴のときも、シャルのときも、ラウラのときも、会長と簪のときも」
一夏「見過ごせなかったんだ」
少女「うん……」
一夏「セシリアだって家族と生き別れて、もう父親と母親の声を受け取ることもできず、自分の声を届けることができないことに悩んでてさ。
 もっと早くそのことに気付くことができたら、余計に苦しむ前に励ましの言葉でもかけることができたのに」
一夏「でもさ、そういうやり方じゃダメって気付いたんだ」
少女「……」
一夏「皆、俺が中途半端に手を貸したせいで結局もっと苦しんでしまった」
一夏「俺のやり方は間違ってたってこと。俺はやっぱり、皆の中にいるべきじゃないんだよ」
少女「…………」
少女「私は、そうじゃないと思う」
530 :以下、
一夏「……え」
少女「皆、一夏のことを必要としていると思う。今までだって、助けに入ったのが一夏だったからうまく行っていたと思うの」
一夏「そりゃ、ありがたいことに世界で唯一ISを操れる男だからな。そんなことより―――」
少女「違う。それだけじゃない」
少女「皆はISが使えるから一夏を受け入れた訳じゃないよ。皆は一夏にいなくなられたらもっと苦しむよ」
一夏「!」
少女「私なんかなくても、一夏は頑張ってたって、頑張れるって信じてる」
一夏「何をっ……!」
     「―――――か、だい――――!」
一夏「うん? なんだ、声が聞こえる?」
少女「自分の目で見てきて。一夏の今までやってきたこと、その結晶を」
一夏「何だよ……君は……」
少女「がんばって。相互意識干渉(クロッシング・アクセス)なんかに頼らなくても、一夏は自分の口と耳があるでしょ?」
一夏「な………何だよ君は……機械の癖に……」
少女「今までありがとう。お別れだね…………」
531 :以下、
    「……さよなら」
――――――
―――

箒「一夏!」
一夏「…………ぅ」
箒「一夏!! 意識はあるか!?」ポロポロ
一夏「箒……?」
箒「気が付いたか!! ああ……! ケガだらけだ……!」
箒「せ、せめて……腕の出血だけでも……!」バッ
シュルシュル……
一夏「箒、おまえ、その白いリボン……」
箒「構うな」ギュッ ギュッ
箒「よし……簡単な止血材代わりにはなったか」
532 :以下、
一夏「……何で、そこまでして」
箒「おまえが心配だからに決まってるだろう!」
箒「一人で、左腕を失ってもなお戦い続けて! 無茶し過ぎだ! うぅ……」ポロポロ
一夏「箒……泣いてるのか?」
箒「見て、分からないか……!?」ポロポロ
一夏(涙を流してくれてるのか……こんな、俺のために……?)
箒「ぐすっ……一夏……」ポロポロ
一夏(そうだ……敵……倒さなきゃ)
一夏(体……まだ動くから……早く……)グググ……
箒「! じっとしていろ! もういい!」
一夏「行かせてくれ」
箒「どうしてだ! どうしてそこまでする!」
一夏「俺にできるのはこれしかないからだよ!!」
箒「なっ……!」
533 :以下、
一夏「今までのやり方じゃダメだったんだ。だから、変えなきゃ! 戦わなきゃ!」
箒(「これしかない」……? 「今までのやり方だとダメ」……?)
箒「! 一夏……! おまえは……」
一夏「どいてくれ、箒。あと少しで終わるんだ」
箒「……一夏ぁ……うぅ」
箒「あ……ああ……」
箒(想いが纏まらない……! 掛けたい言葉が溢れだしてくるっ!!)ポロポロ
一夏「……」
箒「一夏っ!!」
一夏「え…」
箒「おまえが示した道があったから、私は仲間たちの力になれたんだっ!
 一夏がいなければ皆出会うことも無かった! そして、私たちが再び繋がり合えたのは……やはりおまえがいたからだ!」
一夏「……!」
534 :以下、
箒「おまえが苦しいときは私がそばにいるっ……私が引き揚げてやる!」
一夏「――――――ッ!!」
箒「もう私は、二度と勝手にいなくなったりしないから!」
 
一夏「うっ……ううううううぅぅう!!!」
箒「皆を守るというおまえの夢は、いまや私の夢にもなった! そしてその『皆』の中には……」
箒「一夏! 当然おまえも含まれている!」
一夏「――――」
箒「だから……だから一夏っ……もう無理はしないでくれっ……!」
一夏「あ……」
箒「私はおまえの優しさには境界線がないと思っていたが、たった一人だけ例外がいたようだ……」
箒「一夏……たまにはその優しさを自分に向けろ!」
535 :以下、
一夏「………ほ、ほうき…………」
箒「はぁっ…………はぁっ…………一夏」
一夏「違うんだっ……! 俺は、自分にばかり優しくして、守ろうとして……」
箒「それとそれと……そうだ。おまえに謝らなければいけないな」
箒「小学生の頃、私は勝手におまえの前から消えた」
 
一夏(! そう……俺は、あのときに……)
箒「……すまなかった! 許してほしい」
一夏「!!」
箒「でも……」
一夏「あ、ああ……」
箒「もう絶対私は消えたりしない! だから、おまえも私たちの前から勝手に消えるな!!」
箒「やめてくれ…………もう…………一人で背負い込むのは……!」ギュッ
一夏「………!」
箒(くそう、ダメだ、想いをただそのままぶつけることしかできない!)
536 :以下、
女性型「…………」
ギチッ…… ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
一夏「敵が……」
箒「…………!」
【女性型 瞬間加 発―――
ズドン!!!
一夏「!」
箒「な……敵が銃弾でよろけた?」
「散々我が物顔で振る舞ってくれましたが、おふざけももうおしまいですわ」
箒「セシリア! ISが使えるようになったのか!」
セシリア「ええ。最初に来た敵機が倒されたためでしょうか? それより箒さん! 一夏さんをお願いします!」
537 :以下、
女性型「……!」 ブワッ!!
セシリア「宙へ飛び立ちましたか!」
【女性型 瞬間加 発動】 ギュンッッ!!
セシリア(こちらへ高で接近―――!)
ガキィィィ!!
女性型「……」ギリギリ……!
鈴「まったく! 加する兆候を悟らなきゃ!」
セシリア「鈴さん……! 庇ってくれて助かりましたわ」
鈴「礼ならこの鉄人形を―――」クルッ
鈴「何とかしてからねっ!」バギィ!
振り回した双天牙月をブチ当て、鈴は敵機と距離を取る
538 :以下、
女性型「……」
【ラファール・リヴァイヴ・カスタム? ガルム(六一口径アサルトカノン ) 発射】 ドウン! ドウン!
女性型「!」
シャル「鈴! セシリア! 離れて!」ヒュンッ パァアアア……
【ラファール・リヴァイヴ・カスタム? ブレッド・スライサー 展開】 
シャル「えいっ!!」ブン!
女性型「―――」ガシィィ! ドガッ!
攻撃を受け止め、シャルを蹴り飛ばす
シャル「わっ!」
女性型「―――」ググ……
シャル「!」
セシリア「シャルロットさん! 大丈夫ですか!? やみくもに突撃するのは無謀ではなくて!?」
シャル「大丈夫! 狙いは果たせたから!」
539 :以下、
【女性型 瞬間加 発―――】
「そこまでだ」
女性型「―――」ピタ!
セシリア「!」
鈴「敵が止まった!」
ラウラ「どうだ? 私のA.I.Cは? 身動きが取れんだろう」
女性型「―――!」グググ……
ラウラ「……今だ!」
「……皆! ありがとう!」
【打鉄弐式 八連装ミサイルポッド《 山嵐 》 発射】
ドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!
540 :以下、
女性型「―――!!」
ドゥンドゥン!! ドドドドゥン!! ドドドドドドゥン!!
一夏(皆……)
簪「……これでどう!?」
鈴「ひゃあ?全弾命中……」
シャル「すごい破壊力!」
ラウラ「油断するな! 相手は未知の機体だ!」
セシリア「爆煙が晴れてきましたわ!」
女性型「―――」シュウウゥゥゥゥ…
女性型「―――!」
鈴「生きてる!!」
ラウラ「咄嗟にバリアを展開したのだろう……!」
セシリア「装甲はほぼ全壊……コアも剥きだしになっているのにまだ動きますか!?」
女性型「―――」
541 :以下、
【女性型 瞬間加 発動】ドシュゥン!
シャル「あ!」
ラウラ(一夏と箒のところへ飛んだ!)
簪(あの無人機、スラスターもほとんど壊れてるのに……! 一夏! 箒!)
女性型「――――!!」
箒「…………」
女性型「――――!」
       ザンッ!!!
女性型「――――――」ジジ……
襲い掛かる女性型無人機のコアを一閃したのは、箒の専用機【紅椿】とその武装"雨月"だった。
箒「…………」
【雨月 展開解除】
542 :以下、
箒「…………一夏」
一夏「がはっ……はぁはぁ……箒」
箒「じっとしていろ。今エネルギーを回復させてやるから!」パァァァァ
【紅椿 絢爛舞踏 発動】
箒(白式の生体回復機能をこれで支援できればいいが……!)
一夏「何で、俺なんかを……あんな危険な相手に……」
箒「しゃべらなくていい。もう戦いは終わった。安心しろ」
ヒュンヒュン!
セシリア「箒さん!」
鈴「間一髪だったわよ!」
シャル「一夏は大丈夫!?」
ラウラ「即刻学園側に連絡を取る!」
簪(一夏が……私に勇気を与えてくれた一夏が……!!)
543 :以下、
一夏「皆……」
一夏は自分を取り囲む少女たちを見て、安らかにほほ笑む
箒「皆も来てくれたぞ。ケガを治して、また元気な姿を見せてやらなければな」
一夏(白式……そっか。おまえは分かってたんだな)
一夏「はは……」パァァァァ……
【白式 展開解除】
一夏(認められた……)
一夏(俺の苦しみは自身の甘さから来るものだと思って、誰にも言えなかった。でも、箒はそれも受け入れてくれた)
一夏(自分の内に閉じ込めて、心を蝕んでた想いをおまえが掃き清めてくれたんだ。おかげで……楽になれた)
一夏(『力がついたら誰かを守ってみたい』……こんなガキの頃の夢が、こういう形に姿を変えるとはな)
一夏(追いかけられて、急きたてられて……呪いと同じだ。抱え込んでたらきっといつか心が壊れたに違いない)
544 :以下、
箒「いいぞ。もう心配することは何もないからな」
一夏(でも俺は一人じゃなかった。俺には箒がいる。俺に手を差し伸べてくれた箒が。いや―――)
セシリア「一夏さん! 嫌ですわ!」
鈴「あんた……どうして一人でここまで……」
シャル「大丈夫!? 死んじゃイヤだよぉ!!」
ラウラ「教官ですか……そうです! 状況は終了しました! すぐさま治療の準備を整えて下さい!」
簪「ど、どうしよう? あっ! 早くここから運んだ方が良いじゃない!?」
一夏(……こんな、集まってくれる仲間が……居たんだな)
ヒラ……ヒラ……ヒラヒラ……
一夏(お……曇っててやけに寒いと思ったら……)
簪「雪……?」
一夏(本当に、鈍感だな。俺を心配してくれてる人たちに気付かなかくて。食事に誘いに来たとき箒が言ったくれたことから目を背けてもいたんだから)
545 :以下、
箒「すぐ治療を受けさせてやる!」
一夏(ああ……安心したらなんか気持ちよくなってきた)
セシリア「一夏さん! よく戦い抜かれましたわ! 今は安静にしてくださいまし」
一夏(傷を治して、次に起きたときは皆に礼を言おう)
鈴「……どうしたのよ一夏。息してるわよね?」
一夏(そうだ。俺や箒の秘密の場所にいた剣道少年の稽古に付き合う約束もしてたんだったな)
シャル「あ、あれ!? 呼吸が浅すぎるよ!?」
一夏(片腕無くした姿見せたらビックリするだろうなあ。こうなったら、俺も剣術は一から鍛えなおさないと)
ラウラ「普通は展開が解除されるような損傷でも白式は動き続けてたが……まさかそのせいで生体回復機能に支障が!? 」
一夏(……でも今は眠ろう。ああ、こんなに傷ついてるのにすごく安らかだ)
簪「ダメ! 一夏しっかり!」
セシリア「そんな……!」
箒「い……一夏……」
ヒラヒラ……ヒラヒラ……
548 :以下、
一夏(ケガ治して、白式修理して、先生たちに謝って、そんで皆にお礼言って……やることいっぱいだけど……)
一夏(また目が覚めるときまで……)
一夏(ちょっと休憩……)
552 :以下、
――――――
―――

数週間後―――
【織斑家】
千冬「さて、そろそろ準備に取りかかるか。篠ノ之」
箒「はい」
箒「もう料理のほとんどは作り終えていますし、並べるだけで済みますね」
千冬「和風ちらしずしはパーティーメニューとしてもいけるな。あとは……」
千冬「ローストチキンも抜かりはないな。塩もよく揉みこんである。よし、火を入れよう」カチャ
箒「……」
553 :以下、
千冬「あいつら、私が料理している姿を見たらどう思うかな」
箒「………」
千冬「どうした篠ノ之。さっきから私の顔ばかり見て?」
箒「千冬さん……」
箒「あいつは……きっと後悔してないと思います」
箒「あの日……無人機を満身創痍になって撃破したあと、周りを取り囲んだ私たちにとても安らかな笑顔を向けてくれました」
千冬「……湿っぽくなってしまったな。今日は盛大に祝ってやろう」
箒「ええ。今日はあいつが主役です」
千冬「そうだな。あいつめ、一言も断りもなく勝手に……」
箒「では」
千冬「……」
554 :以下、
千冬「篠ノ之」
箒「なんです?」
千冬「私はこれで良かったんだろうか」
箒「?」
千冬「早くからISに関わりを持ち、モンド・グロッソで優勝もした。ドイツに指導に向かったあと、教鞭を執る立場になった」
千冬「だが、弟のことを―――唯一の家族のことをろくに見てやれなかった。
 どれだけ世間から持てはやされようが、たった一人の弟の面倒を満足に見れなければそんな賞賛何も意味がない」
箒「千冬さん―――」
千冬「アルバムをめくっていると思い出してな。私が高校生だった頃、学校帰りに一夏が公園で佇んでいるところを見かけたことがある」
千冬「一夏の視線の先には両親と戯れる子供の姿があった。それに気付いて声を掛けると、あいつは笑顔を向けてその日の夕食の話をしだしたんだ」
千冬「必死に自分が考えていたことをごまかそうとするようにな」
箒「……」
555 :以下、
千冬「もう少しあいつに寄り添えていてやれれば……」
箒「……でも、一夏はそのことで千冬さんを恨むことは無かったと思います」
千冬「どうだろうな。もうそのことは―――」
ピンポーン
千冬「お、来たか」パタパタ
ガチャ
セシリア「こんにちは。織斑先生」
鈴「ん? この匂いは……ローストチキンですね!」
千冬「ああ、今焼いているところだ」
シャル「お料理……先生がエプロンなんて意外です……」
ラウラ「教官! 今日はお誘い頂いてありがとうございます」
簪「ど、どうも……です」
千冬「そうか。よく来てくれた。すまんが、まだ準備をしている途中でな。手伝ってもらえるか?」
セシリア鈴シャルラウラ簪「はい!」
556 :以下、
千冬「悪いなおまえたち、さあ楯無たちも早く入ってこい」
弾「……はあ」
蘭「ちょっとお兄ー! 何溜息ついてんのよー! パーティー嫌なの!?」
弾「そういう訳じゃねえんだが……」
虚「……」
数馬(はぁ???! 俺、IS学園の女の子たちとパーティーするんだよな……! 今でも実感が湧かねえや……! お気に入りのこの子と距離縮めるぞ?!!)チラッ
鷹月(何かしら。さっきからこの数馬っていう人、こっちを見てるような)
弾「おーい数馬、何そわそわしてんだよ」
数馬「い、いやなんでもねえし!」
数馬(弾のヤツも理知的で可愛い年上の彼女もゲットできたんだ……! 俺だって……!)
虚「でも五反田くん、ここに来るまではちょっと気が進まないみたいだったけど……どこが悪いの?」
弾「いえ! 健康そのものっすよ俺は!」
のほほんさん「じゃあど?して元気なさげなの??」
弾(うーん……あいつの考え否定して殴り合った過去があるし、その上あいつがああなっちまうとはなあ………)
557 :以下、
【キッチン】
セシリア「あらあら、もうお料理の方はほとんど完成しているのですね」
シャル(よ、良かった。セシリア暴走させる機会を潰せて……)
ラウラ「教官! どうやら食器の数が足りないように見受けられます! 私が迅に手配します!」シュバッ!!!
千冬「駆け出さんでいい。紙コップや紙皿の封を切るわ」
鈴「先生、もし料理が足りなくなったらあたしが腕振るいますよ! 中華料理屋の娘ですから!」
千冬「それはありがたい。使わなかった食材が冷蔵庫に眠っているからそのときは適当に見繕ってくれ」
セシリア「鈴さん、そのときは私もお手伝い致しますわ!」
鈴「き、気持ちだけ受け取っとくわ。セシリアはゆっくりしてて!」
楯無「あっはっは。おねーさんケーキ買ってきてるから、それ食べられる余裕作っといてね」
箒「………」
箒(なんだか、この風景を見ていると心が温かくなってくる……)
簪「箒。どうかしたの?」
箒「いやいや、何でもない。私も手を動かさなければな」
558 :以下、
数馬「あ、あの、鷹月さん、そのニットワンピース、そ、その可愛いですね」
鷹月「そう? 私も気に入っているんだ。ありがと」
弾(こいつ、鷹月さん狙いか……)
鈴「蘭、最近あんたどうなの?」
蘭「生徒会は仕事が多くて、この冬休みでようやく一息つけるかなってとこですよ。またすぐ3学期になって忙しくなるでしょうけど」
のほほんさん「ランランはIS学園に入る予定なんでしょ?? そのときは整備課に入ってね???! 優しく指導しちゃうよ!」
虚「あなた生徒会会長さんなんでしょう。IS学園生徒会の運営に力を貸してくれたら嬉しいわ」
虚(彼の妹さんとは仲良くしたいし……ね)
蘭「あわわ……気が早すぎますよ???!!」
鈴「さてと、弾と数馬。数少ない男手なんだから率先して動くとかはできない訳?」
数馬「え……」
鷹月「そうね、私も手伝わなきゃ。せっかく招いて頂いたんだし」
数馬「! い、いや! 心配いりません鷹月さん! 俺たちが全部やりますから! 行くぞ弾!」
弾「おいおい……」
559 :以下、
ワイワイ ガヤガヤ
箒(一夏………)
箒(お前がやってきたことは、決して無駄ではなかったぞ……!)
【篠ノ之神社付近 一夏たちの秘密の場所】
少年「………199…200!」ブン! ブン!
少年「……ふうー。汗かいたな、タオルタオル」
少年(……あの人と会ってから、今日で一ヶ月。『また練習に付き合うよ』って言ってくれたけど、約束した日は姿を見せてくれなかった)フキフキ
少年「忘れられちゃったのかな。何か事情があって、来れなくなったのかも知れない……」
少年(せっかく剣を振るときの悪い癖を直せたのに……見て貰いたかったなあ……)
少年「よし、もう一頑張りしよう」
「―――」ガサ
少年「!」ピクッ
少年「あ、え……!?」
560 :以下、
「―――――――」
少年「え? いえいえ、ぼくはそんなに顔つき変わってませんって! それよりさっそく稽古を始めましょうよ!」
少年「ぼく、前言われたとおりに剣を振るときの癖なおしたんですよ!」
「―――」
少年「はい、では早行きますよ!!」
―――――――
―――

少年「はあっはあっ……! もう一回お願いします!」
「―――」
少年「てやあっ!!」
カァァン!
561 :以下、
少年(面を防がせて……胴に切り替え!!) ブンッ
「……」トン!
少年(あ……防がれ……)
「――」ペシッ
少年「たっ!」
少年「ああ……足捌きで本当にわかっちゃうものなんですね……攻撃が全部読まれちゃってる……」
少年「十回打ち込んで十回とも一歩も動かず捌かれちゃうなんて……やっぱりお兄さんって結構強いんでしょう? どこの剣道部なんですか?」
「――――――」
少年「え! 剣道部には入ってないんですか!?」
「――――――」
少年「あーあ。ぼくはまだまだだなあ。もっと強くなりたいなあ」
「―――――――――――――――――――――――――――――」
少年「きっと強くなれる? 本当に?」
「―――!」
少年「ありがとうございます……でも初めて会ったとき、何で僕なんかに剣道教えてくれるのか不思議ですよ」
562 :以下、
少年「見ず知らずの僕に親身に練習方法を指導してくれて、掛かり稽古の相手になってくれて」
少年「アイスをおごってくれたりして……」チラッ
「――――――――――――――――――――――――」
少年「え、買ってくれるんですか! やったー! 稽古がんばった甲斐あった!」
―――――――
―――

少年「えーと……ぼくは雪見大福にしますね!」
「――――――」
少年「前もそうだったなって? い、いいでしょう!」
「――――」ツンツン
少年「何です? え、自動ドアの前に誰かいるんですか―――あっ!」
幼女「……」ジー
少年「あいつは僕の妹です……もう、また探しにきたのか」
563 :以下、
少年「見ず知らずの僕に親身に練習方法を指導してくれて、掛かり稽古の相手になってくれて」
少年「アイスをおごってくれたりして……」チラッ
「――――――――――――――――――――――――」
少年「え、買ってくれるんですか! やったー! 稽古がんばった甲斐あった!」
―――――――
―――

少年「えーと……ぼくは雪見大福にしますね!」
「――――――」
少年「前もそうだったなって? い、いいでしょう!」
「――――」ツンツン
少年「何です? え、自動ドアの前に誰かいるんですか―――あっ!」
幼女「……」ジー
少年「あいつは僕の妹です……もう、また探しにきたのか」
564 :以下、
「――――――――」
少年「『心配してくれてるんだからそんなこと言うな』ですって?……そりゃ、わかってますけど」
少年「うーん……まったく……ちょっとすいません。行ってきます」タタタッ
「―――――――」
レジ係「お会計98円です」
「――」
レジ係「はい、100円お預かりします」
少年「こら、探しにくるなって言ったじゃないか!」
幼女「お兄ちゃ?ん……どこに行ったのかって……ぐすっ……このお店のぞいたら偶然いて」メソメソ
少年「今日は剣道の稽古に行くって言ってたろ! 道路歩くのは危ないのにいっつもおまえは……あ」
「―――」
少年「すみません、急に飛び出しちゃって……」
幼女「え、この人……」
565 :以下、
「――――」スッ
少年「あ、アイスありがとうございます」
「―――――」
少年「そういえば稽古に付き合ってもらえる時間は五時まででしたね。あと十分くらいだから、もうお別れですね。
 ……あの、これからも稽古付けてくださいね! 僕、強くなりたいんです!」チラッ
幼女「……うん?」
少年「こいつを守れるくらいには……」ヒソヒソ
「――――――」コクリ
幼女「……あ、アイスだ??! おにいちゃんがこの前一個くれたゆきみだいふくだ??!」
少年「分かってるよ、やるから心配するな!」
「――――――」トントン
「何です?」
「きみ、癖直ってたね。左腕の動かし方」ヒソヒソ
少年「そうですよ! 割と苦労したんです!」
「よしよし。子供の頃の悪い癖ってずっと尾を引くからな。今正しといた方が絶対いいよ」
566 :以下、
「……年取ってくると荒療治が必要になるからさ」
少年「……?」
「あと、妹は大切にしてやれよ。雪見大福あげる優しいお兄ちゃん」
少年「も、もう………はい、わかりました!」カァァ
幼女「?」
少年「じゃあ、ぼくたち行きますね。ほら、おまえも挨拶!」
幼女「ばいばーい!」ブンブン!!
少年「さようならー!」ブンブン!
「――――――」ブンブン!!
「――――」ブンブン!
「――」ブンブン……
567 :以下、
「――――――強くなりたい、か」
「俺も思い続けてることだ。同じ目標を持つ仲間が増えたのは心強いぜ」
「皆はもうすでに集まっている頃か。あれだけの数の人間を家に呼んだことはないけど大丈夫かな。でも、まぁ……ん、んぅー」ノビー
一夏「さてと! 俺も行くとするか!」
578 :以下、
【織斑家へ向かう道路】
一夏「ふうー」
「ずいぶんと慌てているな」
一夏「お……?」
箒「皆も大目に見ると思うが、連絡をまったく入れずにふらつくとは感心しないぞ?」
一夏「よお箒! おまえも今からか?」
箒「違う。私はおまえの家でパーティーの準備を続けていたんだが、肝心のおまえがいつまでも帰ってこないから探しに来たんだ」
一夏「そっか、悪い悪い。外せない用事があってさ」
箒「用事? この日に入れざるを得なかったのか?」
一夏「前々から俺とある約束をしてた奴がいたんだが、すっぽかしちまったことがあってな。どうしても謝りたかったんだ。まあ大目に見てくれ」
箒「ふむ……まあ、いいだろう。ところで一夏、本当に体はもう良いのか?」
579 :以下、
一夏「ああ、もう元気そのもの! まあ、左腕はなくなっちまったけどな! 子供にも驚かれちゃったぜ」
箒「それはそうだろう……」
一夏「でも、あの日襲撃してきた無人機を打ち破ったあの日、IS学園の手厚い治療を受けてなきゃ危なかったよな、俺」
箒「ああ、学園長が呼んでくれた医者に感謝するんだな」
一夏「そうだな。でも、箒たち、そのお医者さんに泣きながら礼を言いに行ってくれたらしいじゃん。術後に山田先生から聞いたぜ?」
箒「なっ! し、知っていたのか!?」
一夏「俺が意識取り戻したときも泣いてたもんな。箒って結構泣き虫なのか??」
箒「む、むう…・…」
一夏「嘘うそ! ありがとうよ」
箒(確か……あのとき、セシリアたちだって泣きたかったはずなのに私を励ます側に回ってくれていた)
箒「一夏……今日は、皆に改めて礼を言わなければいけないぞ」
一夏「うん。分かってる」
一夏(それに……パーティーに集まってくれた人だけじゃない……俺を救ってくれたあの白式のことも、忘れちゃいけないはずだ)
580 :以下、
箒「どうした? 考え込むような顔をして……」
一夏「いや……」
箒「やはり……白式のことか?」
一夏「! ま、まあな……」
箒(やはり、ああなったことを受け入れきれてはいないのか?)
一夏「とても良い相棒だったよ。俺にとって最高のISさ」
―――――――――――――
―――――――
―――

?一夏が意識を取り戻した次の日のこと?
【IS学園の病室】
一夏「…………」
一夏「俺、助かったんだな」
一夏「戦ってたときはもう死ぬんだと思ってたけど、白式と、箒たちのおかげで命拾いしたんだ」
581 :以下、
一夏「……白式」
一夏「そうだ、白式は!?」
コンコン ガチャッ
楯無「こんにちは一夏くん、お加減はいかが?」
一夏「あ、会長! 俺は意外なほど痛みも残ってないですけど……」
楯無「ふーん、元気なんだ。良かったよかった」
楯無(意識取り戻した攻で会いに行った箒ちゃんたちに遅れちゃったけど、やっと私も一夏くんの顔を見れた)
一夏「すみません会長、ちょっと聞いて良いですか?」
楯無「何かしら」
一夏「俺のIS……白式のことです。今どこにあるんですか?」
楯無「!」
楯無(うーん……どうしようかしら)
一夏「楯無さん! 知っているんですか!? 知らないんですか!?」
「あんまり大声上げるんじゃねえよ」
一夏「!」
582 :以下、
弾「おまえの体に障らなくとも近所迷惑なんだよ」
一夏「弾!」
虚「こんにちは」
一夏「何で弾が……布仏先輩、あなたが呼んだんですか?」
虚「ええ、あなたの身に起こったことを知らせたのは私だけど……」
弾「一応見舞いに来てやろうと思ってな」
一夏(入園手続きは楯無さんたちが手を回したんだな……)
コンコン ガチャ
箒「一夏、どうだ調子は―――」
セシリア「あら、わたくしたちより先に先輩たちが」
鈴「てか、弾もいるじゃん! あたしがメールで数日前のこと教えてあげたときは素っ気ない返事しかよこさなかった癖に!」
弾(その前に虚さんから聞かされてたからな……)
583 :以下、
シャル「一夏、お医者さんによるとまだ食事は止めといた方が良いんだって? 食べられるようになったらリンゴ剥いてあげるからね」
ラウラ「うむ、そのときは私もナイフ捌きを披露しよう」
簪(顔色も良いみたいで良かった……)
一夏「なあ皆。俺の白式が今どこにあるか知らないか?」
箒「……!」
一夏「なんだ。まさか、IS特務機関に回収されたとかか?」 
セシリア「……」
一夏「どうなったんだよ!?」
楯無「……いつかは知ることだしね。もう教えてあげようか」
簪「……そうだね」
鈴「……落ちついて聞いてね、一夏。ISは損害甚大な状態で無理に稼働させ続けると、その後の駆動に悪影響が出ることは知ってるわよね?」
一夏「……? ああ」
シャル「中枢にまで異常を引き起こすこともあるの。そうした場合、取る処置って言うのがね…………」
シャル「…………」
584 :以下、
虚「…………」
セシリア「…………」
一夏「な、何だよ皆?」
弾「ISのコアってよ。革新的な技術がたくさん盛り込まれてるんだよな」
虚「五反田くん!?」
弾「ISの研究が進めば、ISにのみ許されたそれらは市民の生活で使われるようになるかも知れない。
 例えば、量子保存技術の他分野での応用が実現されたら旅行に手ぶらで行けるようになるだろうし、
 PICの原理が解明されたら急ブレーキでも反動が来ない自動車が登場するかもな」
弾「抑止力という役目のみならず、そういった側面からも期待されてるって訳だ。
 となると、ISって世界的に大事なモンだってことになるよな。人の営みを一変させうるものなんだから」
一夏「無駄話は止めてくれ! 白式は今どうなってる!?」
ラウラ「……ISをIS足らしめるコアに不具合が確認され、このままでは起動が出来なくなると判明した。
 動かせないISに意味は無い。それに使えないISにまだ使えるコアが占有されているのは、大きな損失だ」
ラウラ「五反田が言ったように、ISの重要性は非常に高いのだからな」
シャル「……ラウラ」
一夏「その話が白式に何の関係が……? あっ……!」
弾「もう教えたやった方が良いな。一夏、おまえの専用機である白式のコアは―――『初期化』された」
585 :以下、
一夏「……!!」
セシリア「一夏さんは限界を超えて白式を動かし続け、迫る敵に戦い抜きました。
  斬撃に身を削られ、光線に焼かれても、白金の輝きを空に示し続けた雄姿は眩しいほどでしたが……」
鈴「でも、やっぱり代償は大きかったみたい。戦いの後、
 整備課で点検したスタッフは今までに見たことのないほど損傷してるって言ってたらしいわ」
簪「来てくれた倉持技研の人たちが診たところ、そのコアとの結合に問題があるのか、もう白式を起動できないと判断されたって……」
シャル「でね、その人たちは白式を解体してコアを初期化する決断をしたの。
 操縦者だった一夏の許可も取らずに勝手に進めて……って思ったんだけど……」
鈴「雪片や雪羅を始めとする装備もほとんど失われてたことがこの決定を後押ししてさ、機体パーツも一から作り直した方が手っ取り早いんだって―――」
ラウラ「コア自体は学園が保有し倉持技研と共同管理することになった。
 フラグメントマップのデータは取れたそうだから、以降の機体作りの参考にはされると思う」
586 :以下、
ラウラ「コア自体は学園が保有し倉持技研と共同管理することになった。
 フラグメントマップのデータは取れたそうだから、以降の機体作りの参考にはされると思う」
弾「俺もおまえが目を覚ます前に鈴たちから聞いてよ。まあ、IS学園から除籍ってことはないはずだぜ」
一夏「え……ま、待てよ、待ってくれよ……!!」
箒「……一夏、おまえは無理をし過ぎたんだ」
箒「深いダメージを受けたまま稼働を続けると不調を引き起こす原因になるとはさっき鈴が言った通りだ。
 あのような状態で限界を超えた動きをさせていてはコアの方にも悪影響が出るのは自明だ」
一夏(そうだ……! その上女騎士があの空間で俺の感覚が向上したのは白式の不具合が原因だったって言ってた……
 白式の方も俺と意識を重ねたせいで異常が出てたのか……!?)
一夏「でも、白式が初期化だと!」
虚「コアの機能自体は生きてるんだけど、ISの人格と呼ぶべきものがかなり不安定な状況でね。
 そんな状態に置かれたISコアの観測例がなくて、放置して万が一にでもコアが使えなくなったら事だと考えての決断だと思うわ」
587 :以下、
一夏「……………ふ、ふざけないでくれよ!!」
箒「一夏!」
楯無「気持ちはわかるけど落ち着いて!」
弾「だから騒ぐなって言ってんだろうが」
一夏「……!」
弾「そもそも、この事態はおまえが自分の道を突き進もうとしたから起きたんだろ!?」
一夏「あ……」
楯無「……! 弾くん、あのときは一夏くんしかISを起動できなかったのよ! 彼の選択を非難するの!?」
シャル「そうだよ! 一夏が立ち向かってくれなかったらこの学園は今頃廃墟になってたさ! 僕らだって今ここにいないはず!」
弾「違いますよ。俺は何も白式は一夏のせいで初期化されたと言っている訳じゃありません」
一夏「…………」
弾「一夏、白式はおまえに最後まで付き合ってくれたらしいじゃねえか。鈴たちによると限界を超えて稼働し続けて戦ってたって話だ」
一夏「ああ」
弾「それを支えた白式は最後までおまえの要求をまっとうできたんだし、おまえがそうまでして戦わなかったら学園が侵略されてた。
 騒ぐばかりじゃなく助けられたものの方に目を向けろってことだよ。俺が言いたいのは」
鈴「ちょっと弾、さっきから何様なのよあんた!」
588 :以下、
一夏「いや、良いんだ鈴。急に知らされて驚いたけど、これは確かに……なるべくしてなったことなんだ」
一夏「……俺が生きているのは白式の持つ生体再生能力のおかげだ。いや、それだけじゃない……ここにいる皆が助けてくれたからだ。
 失ったものを嘆くより、そのことをちゃんと考えないといけないっていうのは、本当だよ」
簪「え、一夏……」
一夏「……正直言ってまだ心の整理が着いたわけじゃないけど、俺は自分のしたことに後悔はない。だって、皆を救えたんだから」
セシリア「一夏さん!」
一夏「……と言っても最後は皆に助けて貰ちゃったけどな!」
鈴「なに言ってんのよ水臭いわね???」
シャル「そうだよ一夏。さっきからちょっと言い方が他人行儀だよ。それに助けてもらったのは僕らも同じなんだからさ」
一夏「はは、そうだな……」
589 :以下、
楯無「さてと。もうすぐお医者さんが検査にくる時間だし、お暇しよっか」
簪「そうね」
楯無(愛用してた機体を失ったショックから立ち直る時間もあげたいし、ね)
ラウラ「嫁よ、怪我をしっかり治すのも兵士の義務だぞ。ではまた顔を出す」
箒「……ではな、一夏」
一夏「おう!」
セシリア「さようなら。もし許可が出れば次回は差し入れをお持ちしますわ」
一夏「あ、ああ」
590 :以下、
弾「……」
一夏「弾……」
弾「たまたま休日だったからこうして見舞いには来てやったけど」
弾「俺、あのとき聞かされたおまえの考えに賛同したわけじゃねえから」
一夏「う……」
弾「じゃあな」クルッ スタスタ
虚「?」
一夏「…………」
【IS学園 廊下】
弾(一夏の奴、IS学園を守るために片腕無くしてまで戦ったっていうのは本当だったのか)
弾(……去り際にああは言ったが、俺自身あいつに対する自分の感情がよく分かってないんだよな)
弾(あいつの人助けの輪を作る考え方は受け入れられないにしても、中学時代の友達だし、心配する気持ちが無いでもない。
 俺が欲しかったものを持っているあいつには嫉妬していたが、結構な苦労もあると分かったらなあ……)
弾(まあ、あいつは俺のこと嫌ってるだろうがな。殴りかかって来たほどだし)
虚「五反田くん」
591 :以下、
弾「はい!?」
虚「良かったら昔のあなたと織斑くんのこと、聞かせてくれない? あなたから何度か話をして貰ったことあったけどまだ知らないことが多いのよ」
弾「え、あ、ああ構いませんけど」
虚「助かるわ。織斑くんとはこれからも同じ生徒会メンバーとして共に活動しなきゃいけないし、知っておいて損はないでしょう」
弾「ええ、でも急ですね。今回の件でそう思うようになったんですか?」
虚「そうね。あと、あなたが織斑くんと何かあったみたいだから」
弾「え!」
虚「織斑くんの病室に行く前も難しそうな顔してたじゃない? 今同じ表情してたから彼について悩んでるんじゃないかな、って」
弾「はは……」
虚「どうなの?」グイッ
弾「せ、正解です……(急に近寄ってこないでください!)」
虚「お話しすればあなたも自分の気持ちを把握することができるかもしれないでしょう。聞かせてよ」
弾「たしかにそうっすね……分かりました。でも、虚さんも昔のこと話してくださいよ!」
虚「え、わ、私?」
592 :以下、
のほほんさん「…………お姉ちゃん頑張って???街に着いたらそのままデート突入だよ???」
箒「布仏、何をやっているんだ?」
のほほんさん「あ、しののんたち! お見舞いには行って来たの?」
セシリア「ええ。今し方」
ラウラ「おまえも昨日行ったんだろう?」
のほほんさん「うん! でも面会時間短かったし、他の子たちと皆で行ったからほとんど会えなかった???。
  でもでも、おりむーを励ます会をしようかと友達と相談してるよ???」
ラウラ「ほう、それは良いな」
鈴「本当に、今回の被害は特にショッキングだったもんね……」
シャル「うん。それをやるだけの価値はあるよ」
箒(……)
箒(今回を含めた数々の襲撃事件の黒幕は私の姉だと知ったら、皆はどう思うだろうか?)
箒(話さず胸に秘めておくべきだろうか。いや、真実を知りながら秘密にしておくのは今まで巻き込んできた皆に申し訳が立たない……)
593 :以下、
箒(しかし、恐怖の気持ちもある。もし学園中に広まれば私も絡めた黒い噂も出るだろう。
 IS特務機関に事情聴取に招集されて今までの生活が壊されてしまう可能性もある。
 だが、無人機による襲撃は姉さんが私を想ってしたことであるし、間違いなく私が原因だ。私が口を噤み続けるのは……)
簪「箒? どうしたの?」
箒「いや、何でもない……」
簪(?)ジーッ
箒(あまり見ないでくれ……あ)
箒「簪、もし会長がおまえのために悪いことをして、皆に被害を受けさせたと知ったらおまえはどうする?」ゴニョゴニョ
簪「え!? 何? 急に」
箒「す、すまない。良ければ教えて貰えないか」
簪「そうねえ……私はそんなことしても喜ばないって伝えて、悪いことは二度としないように言うかな」
箒「そうか。で、まだそのことを知らない被害者たちにその事を伝えるか」
簪「え……そうね、やっぱり言うかな」
594 :以下、
箒「……!」
簪「私、昔ならきっと黙っていようとすると思う。でも、今は一夏や箒が手を伸ばしてくれたおかげで変われたし、気持ちを打ち明けられる人もできたから!」
箒「!」
簪「実際はお姉ちゃんは陰ながら私を助けてくれてたんだけどね」
箒「そうだったな。悪いな、例え話とはいえ勝手に会長を悪役にして」
簪「ううん。でも何でそんな話を……? あ、もしかして……!?」
鈴「さっきから何話し合ってんのー?」
595 :以下、
箒「……」
箒「皆、少しいいか? 聞いて欲しいことがあるんだ」
セシリア「何ですの?」
シャル「急に改まって……」
箒(どういう反応が返ってくるか怖い。でも……この仲間たちなら信じられる)
箒「皆、実はな、今までの襲撃事件は―――」
――――――
―――

セシリア「…………何とまあ」
シャル「箒、それは本当なんだよね?」
箒「ああ。姉さんの口から聞いた」
596 :以下、
ラウラ「……他にそのことを知っているものは?」
箒「私が知る限り、そばにいた静寐だけだ」
のほほんさん「嘘じゃないんだ……」
鈴「全部が全部じゃないんでしょ? 例えば亡国機業(ファントムタスク)が起こした事件とは関わりは持ってないわよね?」
箒「それも、はっきり違うと答えることはできない」
箒(やはり、皆ショックか……)
ラウラ「もし、それが本当だとしたら私は篠ノ之博士を許すことはできない」
セシリア「ラウラさん」
ラウラ「箒、おまえ自身はそのことをどう考えているんだ?」
箒「私は……」
箒「……」
箒「身勝手な理由でここにいる皆だけでなく多くの人を危険に晒し、一夏の左腕を奪ったあの人を簡単に許すことはできない……」
簪(姉妹の仲でも、か……)
597 :以下、
箒「しかし、だ」
箒「あの日、姉さんは私に今まで見せなかった表情を見せ、詫びの言葉も漏らした。
 頑なだった私だが、姉さんが瓦礫の下敷きになりそうになると、考えもなく飛び出してしまっていた」
 
箒「そのとき私は、自分に無いものを持つ天才科学者だと思っていたあの人も実は不器用なんだと知ってしまった。
 ……自分と似ていてどうしようもなく、な」
シャル「じゃあ……」
箒「私は、姉さんを……『認めたい』と思う。そういう人なのだと。そして、その上で……心から和解したい」
ラウラ「認めたい、か。箒自身がそう考えるなら、誰も口を挟むことはできないな」
箒「……もちろん、皆がどう思おうと自由だ。恨まれようともあの人はそれだけのことをしたんだ。
 当然元凶の妹であり、その人と和解したいなどと言う私のこともだ」
簪「……」
598 :以下、
鈴「箒、あんた……」
セシリア「篠ノ之さん。お互いに生きてさえいれば、いつかはすれ違いや抱えた偏見を解消し歩み寄ることができるはずと、わたくしは思います」
箒「セシリア……」
簪「私も……」
簪「正直、一夏をあんなに傷付けたのは私も許せないと思ってた。でも、複雑な立場にいる箒のことを見てると、段々そんな感情がどこかへ行ってしまって……」
シャル「僕も身勝手な血縁者に振り回されたことあるけどさ。それでも不思議なもんでどれだけ嫌な人でも中々切り捨てられないんだよね。
 分かるよ、箒の気持ち。僕だってお父さんに対して似たような気持ち持ってるもん」
鈴「ごめん、あたしは今んとこどう判断すればいいか分かんないわ。保留しとく。
 でも箒。あんたのことは全然恨んでないし、あんたの進む道を応援してあげたいと思うわ」
箒「ありがとう」
599 :以下、
ラウラ「……おまえ達は篠ノ之博士の所業を見過ごせるのか? 私は彼女を許してはおけない」
 
ラウラ「このまま放置しているとまた同じような事態を引き起こさないとも限らん。
 世界が奴に振り回されたんだ。今回嫁に起きたことを抜きにしても、第一級の危険人物だと認識するに足る材料はいくらでもある」
シャル「ラウラ……」
ラウラ「大体が、危機の渦中にあるとき心情を聞いたことで犯罪者に対し好意的になってしまうのはストックホルム症候群の典型例だろう。
 箒もしばらくすれば考えも変わる可能性もある。『やはり姉は憎むべき敵』だとな」
箒「……ラウラはそう思うか」
鈴(ま、あたしも簡単には許せないとは思ってんのよね。箒の肩を持ってあげたいって気持ちの方が強いだけで)
ラウラ「しかしだ、箒。それも肉親を持たない私だからこそそう断じてしまえるのかも知れない。
 血縁という特別な関係を持ったことがない者の無理解から来る結論だと言われても、私は言い返せないだろう」
のほほんさん「ぼ、ボーちゃん! だ、誰もそんなこと言わないよ???」
ラウラ「しかし他者を支えたい、繋がりたいという気持ちはおまえ達から教わった。箒……おまえに関しては鈴と考えは同じだ」
シャル「ラウラ!」
600 :以下、
ラウラ「おまえの望む未来へたどり着けると良いな!」
箒「…………」ジワ
簪「何か、立場があべこべになっちゃったみたいだね」
鈴「ホントホント。最初、私たちの悩みを聞いてくれたのは箒の方だったのに」
箒「ありがとう……皆」
セシリア「まったく。わざわざつまびらかにせずとも、胸に秘め続けておくこともできたはずですのに」
箒「はは、しかし、な……」
シャル(僕らを巻き添えにした過去があるから、例えどう思われようと打ち明けずにはいられなかったんだろうね)
簪「箒、私もずっと距離を置いてたお姉ちゃんと仲直りできたんだから、きっとあなたもできるよ!」
箒「簪……」
箒(温かい……皆を信じて良かった)
鈴「でも、肝心の一夏がどう思うかよね。左腕無くすほどの大怪我だし、意識もしばらく戻らないところまで追い込まれたし」
セシリア「そうですわね」
箒「そうだな。一夏にも教えなければ。事件に巻き込まれた他の人も原因を知りたがるだろうし織斑先生に報告した後判断を仰ごう」
601 :以下、
のほほんさん「ね??みんな???思い出したんだけどさ???」
箒「どうした?」
のほほんさん「ほらあの日、食堂で冬休みにみんなでどっかに遊びにいこ???って言ってたじゃない?」
簪「ええ」
のほほんさん「その計画のことなんだけど、おりむーも誘って???クラスで励ます会する前に???…………」
――――――
―――

602 :以下、
?その日の深夜?
一夏(白式は最後に俺を救ってくれた)
一夏(戦いだけじゃない。俺の心の問題まで見抜いて、励ましてくれたんだ)
―――私なんかなくても、一夏は頑張ってたって、頑張れるって信じてる
一夏(白式……俺、もっと頑張るよ。もしかしたらおまえのコアを使った新しいISで、もう一度会えるかも知れないもんな……)
一夏(……いや、会うことだけを考えちゃダメだな。自分にできることを考えて、前に進んでいかないと。それが白式に応えることになるから)
一夏(……ん? 窓が開いてる?)
フワァ……
一夏(誰かいる? 逆光でよく見えないけど、この雰囲気は……)
「やあいっくん。お加減いかが?」
603 :以下、
一夏「束さん……!?」
束「意識は取り戻してるみたいだね。でも、眠らなくて良いのかな?」
一夏「なぜ、ここに?」
束(本来あるべき左腕が無くなってる。私のせいなんだよね……)
束「今日はいっくんにお教えすることがあって参ったのです」
一夏(何だ……? 声の調子がいつもより大人しい?)
束「さて、いっくん。先日は凄まじい戦いっぷりだったよ。流石はいっくんだね。ちーちゃんにも勝てるんじゃない?」
一夏「えっと……確か束さんはそのとき箒たちといましたよね? どうしてですか?」
束「最後になると思って会いに来たんだよ」
一夏「え?」
束「私が作ったISが暴走して、私の想像を超える事態を引き起こしたからさ」
一夏「!!」
一夏「え、じゃあ……」
束「いっくんの考える通り、すべての無人機乱入事件は束さんが引き金を引いたのです―――驚いたかな?」
604 :以下、
一夏「…………」
束「声も出ないかな?」
一夏「嘘でしょう?」
束「ホントの話。何? 私以外が誰かが仕掛けたんだと想像してたのかな?」
一夏「いえ、想像はしてたんです。コアを作れるのは束さんしかいないし……
 亡国機業(ファントムタスク)のことを知ったときは、そいつらがやったんだと思ってました。いや思おうとしてました」
一夏「心のどこかでするはずがないと、無意識にそう考えるのを避けて……」
束「……ごめんね。残酷な現実を突き付けちゃって」
束「でもいっくん。束さんはなんだか疲れちゃったのさ。もうこんな過ちは繰り返さないよ。本当にごめんね……」
一夏「あの、一体どうしたんですか……?」
束「もう箒ちゃんやいっくん、ちーちゃんには関わらないからさ。安心して」
一夏「え!?」
束「これを言いに来ただけ。箒ちゃんにも伝えといて……」
一夏(束さんが無人機を……!? 箒との仲はどうなるんだ……!? そもそも何でそんなことを……! あ!)
一夏「待ってください!!」
束「!」
605 :以下、
一夏「束さんはどうしてISを作ろうと思ったんですか!?」
束「どうしてって、そりゃ……」
束(箒ちゃんのために……そして邪魔者がいない理想の世界を作ろうと、願いを込めて……)
束「……そうだね。いっくんをこんな状況に追いやってしまった責任は私にあるもんね。元凶が生まれた理由を知りたがるのも無理ないか」
一夏「違います!!」
束「今更ISを作ったときの絵空事の願いを打ち明けなきゃならないなんてね……え?」
一夏「あの戦いの最後、白式は俺を助けてくれたんです! 戦闘のサポートだけじゃない! 閉じこもっていた俺の背中を押してくれたんだ!」
束「何を言ってるの……」
一夏「あの戦いのとき、束さんが作ったISは操縦者の身体だけじゃなく精神をも助けてくれました。束さんがそう設計したんじゃないですか?」
束「え……? よく分からないなあ。まず、そのときの状況を教えてよ……」
――――――
―――

606 :以下、
一夏「……というような感じでした」
束「ふーん……急激に五感が研ぎ澄まされ、敵機の動きの先読みもできるようになったんだ……」
束「ハイパーセンサーがもたらす知覚拡大によって操縦者の感覚が急激に向上するケースは結構あるけど、
 聞いた限りじゃあそれを更に短時間でかつ凌駕する効果を発揮したみたいだね……」
一夏「気を失っているときに見た女騎士は、不具合だと言ってましたけど」
束「束さんもいっくんが死闘を演じてるとこ見てたけど、確かに真っ当な挙動じゃなかったねえ。
 蓄積されていた諸々のデータがダイレクトにアクションへフィードバックでされるようになったということは、ISになったようなものと言えるかも」
束「いっくん、終盤には思考する前に敵の行動に対応してなかった? ああいう動きをできたこと、自分で不思議と思わない?」
一夏「それは……はい。確かに、どうして俺はあんな戦い方ができたんだろう」
束「いっくんはベンジャミン・リベットっていう学者さんを知ってる?」
一夏「誰です? その人……」
束「その人が行った実験の結果によるとね、どうやら人の思考は実際の脳の活動より0.5秒ほど遅れて展開されるらしいんだ。
 言い換えれば思考に先んじて無意識は何をするかの行動を提案しているってこと」
一夏「え!」
束「すべての行動は無意識の段階で起草され、意識はそれを実行するかしないかを決めるだけっていう説だよ。
 人間は自らの思考では何一つ生み出せず、無意識の哀れな御用聞きに過ぎない……この事実を知ってそう悲嘆にくれた人もいるだろうね」
607 :以下、
一夏「無意識って……じゃあ……」
束「白式コアの自我が無意識と接続したことで戦闘データの流入を招き、動きを先読みしてのキックなど最適な行動選択をもたらした。
 いっくんの意識には思考と言う形で上ることは無いけど、何をするべきかは白式コアがサジェストに協力してくれたんじゃない?
 もちろんいっくんの無意識もあるから、全ての行動が白式の提案通りって訳ではないだろうけどさ」
一夏「そう説明されると……俺みたいな不勉強は何も言えませんけど……」
束「でもね、これってイレギュラーだよ。いっくんが狂ってもおかしくないんだ。脳に多大な負担が掛かっているはず」
一夏「そうですか……」
束「どうしてこういう不具合が出たんだろう……」
一夏「夢の中であった白いワンピースの少女―――白式は」
一夏「俺の心を理解するためにその行動を取ったんです。そして俺を励ましてこの世界に送り出してくれました」
一夏「束さん。さっきも言いましたけど……白式がそうしたのはあなたがそう作ったからじゃないんですか?」
束「……」
束「私はそんな風に操縦者の意識に積極的に干渉する設計はしてない」
一夏「じゃあ、白式の行動の理由が―――!!」
束「してないって!! 知らないよそんなの!!」
608 :以下、
一夏「!!」
一夏(束さん……目を潤ませて、口をまっすぐに閉じて……)
束「そんな気の利いたことなんかしてない……本当に、余計なことしかできなかった。ただただ害悪を垂れ流しただけだった」
一夏「束さん!」
束「……いっくん、白式の生体維持装置に助けられたからって別にISを持ち上げることないよ。
 いっくんを傷つけた無人機を作ったのも私なんだから」
一夏(……違う! 俺はそういうつもりで言ったんじゃない!)
一夏「俺も、ISの意味についてずっと考えてたんです。その過程で気付いたことがあります」
一夏「束さんがISを作らなければ出会えなかった人がたくさんいるってことに。経験できなかったことがたくさんあるってことに」
一夏「織斑一夏だけじゃない。ISが無ければ、IS学園が無ければ結ばれなかった絆を俺は知っています」
束「それが……?」
一夏「束さん。俺、感謝してます。白式は新しい道を指し示してくれたんです。
 それは普通の高校生活を送っていたらまず考えないようなことです」
束(そう言えば、箒ちゃんとその横にいた鷹月って子も似たようなこと言ってたなあ……)
609 :以下、
一夏(白式があったから……それを作った束さんがいたから今の俺がある。
 俺はそのことを肯定したい……ISに救われた俺なら、ISを作った束さんの心に訴えかけられるはずだ……)
一夏「束さんはダメだったところばかり見過ぎですよ。そりゃ俺も痛めつけられましたし、襲撃に巻き込まれた人の中には許せないって人もいるかも知れません。
 でも、俺は束さんのことを怒っていません」
束「いっくん……」
一夏「俺は……束さんがISを作ってくれて良かったと思ってますよ。その考えは絶対に変わりません」
一夏「自分のやってきたことを否定された気持ちになっても、右腕を斬り飛ばされてボロボロになるまで追い込まれても、仲の良かった友達に笑われても」
一夏「俺はこの世界が好きです。この学園で出会えた人たちと過ごした日々が、そしてこれからの過ごす日々が愛しく思うんです」
束「い、いっくん……」ジワ…
束「…………」
束(そうだった、私は―――)
束「いっくん、白式が君の精神を救ったのは私がそう設計したからだと言ったね」
一夏「はい」
束「さっき答えたとおり、確立したシステムとしては搭載してない」
束「でも、最初に中核となる部分の設計に組み込んだ理念はあるよ―――『操縦者を守る』というね。それが思わぬ形をとって現われたのかな」
束「インフィニット・ストラトス―――その名前はさ、『護り』の願いを込めて付けたものだったのに」
610 :以下、
束「雨を降らせ雷を落とす雲よりはるかな高み、穏やかで安らかな空間。邪魔なものなんて一つもない完璧な青空の世界のことさ」
束「私が欲しかったのはそれ。いっくんと話してたらさ、そんな昔のことが思い出されるんだよ」
一夏「そうなんですか……じゃあ、束さんはやはり幸せに暮らしたかっただけなんですね」
束「うん。意外かも知れないけど、ISは最初は箒ちゃんたちのためだけに作ったものなんだ。少なくとも自分ではそう思ってた」
一夏「自分では、ですか」
束「うん。でも、そういうのは本心じゃなかったと今なら認められる。
 箒ちゃんたちのことをダシにして自分のエゴを押し通したのが真実だろう、ってね」
一夏(エゴ、か……)
一夏「束さん、俺、分かります。人のためだと思ってやったことが、結局は自分のエゴに過ぎなかったと知ったときの気持ち」
束「え……?」
一夏「そんで、現実から強烈なしっぺ返し食らって、激しい後悔に囚われて……確かな支えとなるものが分からなくなるその気持ちも」
束(いっくんってこんな大人っぽい顔してたっけ……?)
一夏「しかし、俺は今まで迷惑を掛けてきたと思っていた人たちから手を伸ばしてもらって、
 案外悲観することばかりじゃないと知って……こうして束さんと話せているんです」
611 :以下、
一夏「その人たちのようにうまくできるかどうかはわかりませんけど―――束さんが苦しんでいるなら、助けたいんです!」
束「い、いっくん。き、君は……」
一夏「二度と姿を見せないと言ってましたけど、束さんは本当は箒と仲良くしたいんじゃないですか!?」
一夏「ISを作ったときの気持ちはもう死んでしまったんですか!? 違いますよね!!」
束「え……う、うん」
一夏「なら……まだ、手遅れじゃない!!」
束「……」
―――確かにあなたがISを作らなければ世の中は混乱せず、今のようなことには起きなかったでしょう。
 でも、ISの存在があったからこそ生まれた出会いがあり、かけがえのない仲間を私は手にすることができたのです―――
―――ここでは楽しいことも、悔しいことも、悲しいことも、涙したこともありました。
 あなたが自分の人生を無価値だと言うことは、そんな学園の日々を否定することにもなります―――
612 :以下、
束(箒ちゃんも、私にああ言ってくれた……)
束(手遅れじゃない……)ギュッ
一夏「インフィニット・ストラトス。俺、それのことを『女性を守る機械仕掛けの鎧』としか捉えてなかったんです。
 本当は深い願いが込められてた名前だったんですね」
束「ISか。そうだよ。お笑い種だけど……」
束「いっくんも箒ちゃんも白式も、この束さんの目の届くところにいたのに。
 いつの間にか束さんの手を離れて―――いや手を伸ばして貰ったんだけど―――私が気付かなかった可能性を見せつけてくれたよ」
一夏「束さん!」
束「でもね、束さんは結構長く篠ノ之博士やってきたからさ。いっくんたちみたいにそうそう変われないんだよね」
一夏「え……!」
束「さてと、もう帰ろうかな。」
一夏「束さん! そんな、こんなタイミングで……」
束「あんまり長くお邪魔しちゃあいっくんの体に障るからね???」
一夏(そんな、まだ話したいことがあるのに……!!)
613 :以下、
束(箒ちゃんも、私にああ言ってくれた……)
束(手遅れじゃない……)ギュッ
一夏「インフィニット・ストラトス。俺、それのことを『女性を守る機械仕掛けの鎧』としか捉えてなかったんです。
 本当は深い願いが込められてた名前だったんですね」
束「ISか。そうだよ。お笑い種だけど……」
束「いっくんも箒ちゃんも白式も、この束さんの目の届くところにいたのに。
 いつの間にか束さんの手を離れて―――いや手を伸ばして貰ったんだけど―――私が気付かなかった可能性を見せつけてくれたよ」
一夏「束さん!」
束「でもね、束さんは結構長く篠ノ之博士やってきたからさ。いっくんたちみたいにそうそう変われないんだよね」
一夏「え……!」
束「さてと、もう帰ろうかな。」
一夏「束さん! そんな、こんなタイミングで……」
束「あんまり長くお邪魔しちゃあいっくんの体に障るからね???」
一夏(そんな、まだ話したいことがあるのに……!!)
614 :以下、
束「いっくん」
一夏「!」
束「今夜はありがとう。そして、本当に今までごめんなさい。ちーちゃんにも謝っとくよ」
一夏「ちょ、ちょっと! また行方を眩ますんですか!?」
束「そんなとこかな???♪ じゃあねいっくん! お大事に!」ピョーン
一夏「行っちゃった……」
一夏「…………」
一夏(あの様子じゃあ、もう無人機を俺たちにけしかけて来ることもないだろうけど……)
一夏(箒や家族に対してはどうするんだろう。俺に何かできることがあるのか)
一夏(弱気になっちゃだめだ。白式に恥ずかしくないことを……IS……)
一夏(インフィニット・ストラトス……か。束さんは願いを込めてそう命名したときのことをあまり振り返りたくないみたいだったけど……)
一夏(俺は……)
――――――
―――

637 :以下、
―――数日後の夜―――
一夏「すーーー……はーーー……」
一夏「……」ドクン……ドクン……
一夏(うわあ、やっぱ俺緊張してるなあ……怖いぜ、電話かけるの……どんな反応が返ってくるか……)
一夏(束さんの言うように、脳の領域が開発されて感覚が鋭敏になったとしても、相手の考えていることは分からないからなあ……)
一夏(今思うと、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)の空間でも、完全に相手と理解し合えるわけじゃなかったんだな。
 人間なんて自分の中でも色々意見が入り混じってて当たり前だし、何が本音かも分からない。俺だって自分のことを把握するのに時間が掛かった)
一夏(相手の本当の気持ちが分かったとしても、それが自分の考えに背く場合はどうするんだ? 潰しあうのか? そこからをどうするか、だよな)
一夏(……やっぱり、自分の耳や口を使って、自分の考え方を変えていくしかないんだ)
一夏「かけるか。怖いけど」ピッピッ
一夏(束さんが帰ったあと、決意したこと……この程度の恐怖から逃げだしちゃ、嘘になっちゃうからな)
Prrrr Prrrr Prrrr……… 
一夏「もしもし。弾か?」
「何だよ? 電話なんかして体に障らねえのか?」
一夏「悪い悪い。今ちょっと良いか?」
638 :以下、
弾「どうしたんだ」
一夏「実はさあ、俺が退院したら皆が快気祝いを兼ねてパーティー開いてくれるらしいんだ」
弾「へえ。まあ、良かったじゃねえか」
一夏(よし、ここまでいい感じだ!)
一夏「そ、そんでさあ、弾。おまえも来ないか?」
弾「へ?」
一夏「ほら、周りが皆女の子なのに男が俺一人っていうのも場が持たないしさあ」
弾「場が持たないもなにもおまえの日常の光景じゃねえか、それ」
一夏(いかん。まずった。もう少し想定会話練ってからかければ良かった……)
一夏「わ、分かってるけど、俺の誕生日のときみたいにどうかなと思ってよ」
弾「なあ」
一夏「虚さんも来てくれるみたいなんだ。おまえも来たら喜んでくれると思うんだ。ほら、二人でこっそり話してただろ?」
弾「一夏……おまえ、マジで言ってんのか?」
一夏「え?」
639 :以下、
弾「俺はおまえの考えを否定したし、今だってその意見は変わってないんだぜ?」
一夏「……!」
一夏「……ああ、分かってるよ。おまえは自分の考えを持ったままでいいし、俺だって自分の考えを押し付けるつもりはない」
弾「じゃあどうして」
一夏「んー、俺もベッドに横たわりながら結構考えたんだけどよ、相談に行った次のときおまえに言われたことは結構当てはまってるなって思ったんだ」
弾「あ?」
一夏「なんつーか、俺としては別におまえを恨んだりしてないんだ。ごめんな、いきなり殴りかかっちまって」
弾「あ、いや……」
一夏「俺の見舞いにもわざわざ来てもらったからよ、声掛けといた方が良いかなって」
弾(俺は俺で自分の考えを見つめなおしたんだよな……うーん……)
一夏「きっとおまえだって思うところがあったからああいう厳しい言い方になったんだろうし……」
弾(一夏は一夏の事情があったってことは、もう俺も知ってる……でも)
一夏「蘭にも誘いの連絡するつもりでさ、付き添いがてらどうかな」
弾「……まあ、行くかどうかわからねえけど……蘭に同行してやるくらいならいいかな」
640 :以下、

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