凛「蟋蟀の頃」back

凛「蟋蟀の頃」


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1:
凛「かよちん、お弁当一口ちょーだい」
花陽「えっ、凛ちゃんお弁当は?」
凛「二限で食べちゃったんだ。お腹減ってて」
花陽「凛ちゃんったら。仕方ないなあ」
花陽「はい、あーん」
凛「むぐっ、えへへ、ありがとかよちん」
凛(ああ、楽観的だ。享楽的だ。吐き気がする)
3:
花陽「一口と言わず、半分こしようよ」
凛「それは悪いよー」
花陽「ううん、一緒に食べた方が美味しいでしょ?」
凛「かよちん優しいにゃー。大好き!」
花陽「だ、抱きつかないで。恥ずかしいよぉ」
凛「えへへ……」
4:
凛(『にゃ』などという大衆に媚びるような語尾を付け始めたのは、いつの頃だっただろうか)
凛(私が物心ついたときには既ににゃが定着していたような気もするので、もっと前なのだろう)
凛(こんな阿呆に阿呆を重ね合わせたような語尾、何も好き好んでつけているわけではないのだ)
花陽「はい、あーん」
凛「あーん♪ かよちんにもお返し、あーん」
花陽「あーん」
凛(目の前で私の差し出したるハンバーグを食むは、親友の花陽だ)
6:
凛(私は何をトチ狂ったのか、この少女をかよちんと呼んでいる)
凛(ちん、って何だ、ちんって)
凛(到底女子高生の名につけていいものではない)
凛(しかし、当の花陽が満更でもないようなので私も変えるに変えられないのだ)
花陽「凛ちゃん、ほっぺにおべんとついてるよ」チュッ
凛「くすぐったいよぉー」
凛(キスである。嗚呼、紛れもなく頬にキスをされているではないか)
7:
凛(花陽はよくよく、こうして疑似恋人染みた行動を取る)
凛(はっきり言う。これは私にとって恐怖でしかない)
凛(何せ親友である。お泊まりもする仲である。花陽がエスカレートした結果襲われでもしたら大惨事ではないか)
凛(私は世に蔓延る同性愛者諸氏を、馬鹿にする気もなければ否定する気もない)
凛(しかし、しかし。それは私から遠く離れた場所で幸せになってくれた場合だ)
凛(私に近寄るのなら、私は差別主義者にならざるを得ないのだ)
花陽「んっ、取れたよ」
凛「ありがとうにゃー」
10:
花陽「……」ジーッ
凛「どうしたの? 顔に何か付いてる?」
花陽「最近凛ちゃん、可愛くなったなあって思って」
凛「凛は可愛くなんかないよぉー」
凛(凛! そう、凛! 私の一人称は自分の名前なのだ)
凛(まるで勘違い女子ではないか。大脳が砂糖菓子で構成されているのか?)
11:
凛(これも昔からのことだ。最早引っ込みがつかなくなっている)
凛(私が私のことを『私』と呼べば、脳の異常を疑われることだろう。現状が異常だというのに、誰も気付いていないのだ)
凛(花陽の前で普段と違う自分を見せられなかった私は、高校でも阿呆女の称号を得てしまっている)
凛(ああ、何故私は高校で花陽と離れるという選択肢を取らなかったのか。唯一無二の親友を選んだ数ヶ月前の自分は大馬鹿者である)
凛「今日も練習楽しみだにゃー」
花陽「そうだね、廃校阻止に向けて頑張らなきゃ」
12:
練習後
凛「練習終わったにゃー」
花陽「はぁ、はぁ……凛ちゃんやっぱり体力あるね」
凛「えへへ、元気は人一倍だよ!」
凛(当たり前だ。私は陸上部に入るつもりだったくらいなのだから)
凛(体力、教養の二つが揃って初めて人は一人前と認められる、そう考えて小学生からトレーニングをしてきた賜物である)
凛「まだまだ出来るくらいだよっ」
花陽「わ、私も頑張るよ!」
凛(花陽の、目標さえ出来れば努力を怠らない面は中々好ましいと思う。無論、友愛だが)
13:
花陽「一緒に帰ろ」
凛「ごめんにゃ、今日寄るところあって……遅くなりそうだから、先に帰ってて」
花陽「う、うん……明日は一緒に帰ろうね」
凛「勿論にゃ!」
凛(申し訳ないとは思う。しかし、ここからの私の姿は、絶対に花陽には見られたくないのだ)
凛(それは彼女にとって親友の『星空凛』をかき消してしまうものだから)
15:
古本屋
凛「失礼します」
店主「ああ、星空さんか。いらっしゃい」
店主「どうだった? 『不思議図書館』」
凛「中々興味深いものでしたね。寺山修司は名前だけは知っていましたが、他の本も読みたくなりました」
凛「何より文章が上手い。理路整然と情報を伝えているのに、どこかユーモアがあって」
店主「寺山修司ならあの辺りのコーナーにあるね。しばらくは絞るかい?」
凛「そうですね……数冊、オススメがあれば頂きます」
店主「毎度あり」
16:
店主「それにしても、星空さんみたいな若い子がこうして本を読んでくれるってのは嬉しいねえ」
凛「最近は本を読まない方が増えていますからね」
店主「本以外にも手軽で面白い物が増えたからだろうな。あの、何だっけ、スマ、スマー?」
凛「スマートフォンですか?」
店主「そうそう。あれが出てから本を読む人がめっきり減ったね」
凛「携帯小説なんてものもありますし、文章に触れる機会は増えているのかもしれませんけど」
店主「ありゃ小説じゃないよ」
凛「同感です」
18:
店主「乱歩とか、若い子に受けそうな本も一杯あるんだけどねえ、最近はもう星空さんくらいだ」
凛「今の子は江戸川乱歩も読みませんよ」
店主「私が若い頃は怪奇小説を読みふけったものだよ」
店主「今はどんなものが受けてるんだい?」
凛「私の周りでは、ライトノベルが多いですね」
店主「ああ、ライトノベル……スレイヤーズというのを読んだことがあるよ」
19:
凛「どうでした?」
店主「擬音だらけのあれを小説と呼ぶなら、私は二度と小説を読まなくていいと思った」
凛「でしょうね。過去の文学作品とは一線を画していますから」
凛「戸惑うのも無理はないです」
店主「だが、絵本から上がったばかりのローティーンには受けるだろうとは思った」
凛「たまに面白い物もあるんですけどね」
店主「好き嫌いせずに読めるというのは、正直羨ましいよ」
20:
店主「ん、そろそろいい時間だね」
凛「では私はこの辺りで。遅くまでお邪魔して、すいません」
店主「いやいや、とんでもない。星空さんは良いお客さんだよ」
店主「次に来るときには、前に言ってた中原中也の全集、仕入れておくね」
凛「本当ですか! 是非お願いします!」
店主「後、普段話してくれてるお友達も是非連れてきてほしいな。星空さんの友人だから、その子も文学に傾倒しているんだろ?」
凛「あ、あはは。考えておきます」
22:

凛「今日もいい買い物したなあ」
凛「寺山修司もだけど、通りゃんせ殺人事件やっと手に入ったよ」
凛「早く帰って、文庫版とどこを加筆修正したのか見比べたいな」
海未「あれ、そこに居るのは凛ですか?」
凛「ッ!」
凛(海未さんだッ! 何故ここにッ!?)
26:
凛(園田海未は、私の一年上の先輩である)
凛(成績優秀、弓道の腕前も高い、まさに文武両道を絵に描いたような人だ)
凛(恐らく、素の私と最も話の合う先輩……しかし、素を見せるわけにはいかないのだ)
凛(花陽のためにも!)
凛「あ、あれ、海未ちゃん奇遇だにゃー」
海未「花陽と一緒にいないとは、珍しいですね。その紙袋、買い物にでも行っていたのですか?」
27:
凛「そうだよー。ちょっと、欲しいものがあって」
海未「へえ……何を買ったのですか?」
凛(海未さんとしては、ただの世間話のつもりなのだろう)
凛(私にとって、この紙袋の中身を知られることは何にも耐え難い苦痛だと知らないのだ)
凛(致し方ない。心が痛むが、嘘を吐こう)
凛「新発売のカップラーメンがあるって聞いて、それを買いに来たんだ」
海未「? 紙袋に『桐谷古書堂』と書いてありますが。近くの古本屋ですよね、それ?」
29:
凛(嗚呼、この瞬間の私の心内環境をどう表せばいいだろう)
凛(額からは冷や汗が流れ、心臓は血が逆流したかのように激しく警鐘を鳴らす)
凛(明らかに海未さんは、此方の嘘を不審に思っている。となれば、次の質問は……)
海未「凛、嘘といいその焦り方といい、貴女何か隠していませんか?」
凛「な、何も隠してなんかないよ」
31:
海未「……その紙袋の中身、本当は何なんですか?」
凛(不味い、不味い不味い不味いッ!)
凛(通りゃんせ殺人事件はともかく、寺山修司なんて見られた日には……)
凛(私がそこまで阿呆ではないことが、気付かれてしまうではないか!)
凛(どう切り抜ける……!?)
凛「こ、これはね……」
凛(蟋蟀な凛が持っていて、かつ海未さんが中身を見たくなくなるような物……何か……!)
32:
凛(一つだけ、ある。しかし、これは別の意味で……)
凛(仕方ない、か。花陽のためだ。私は喜んで泥を被ろう)
凛「実は、これBL本なんだ」
海未「び、BL!?」
凛(これが、私の選んだ答え)
凛(性癖が特殊なくらいでは、楽観的で、享楽的で、阿呆な星空凛は否定されない)
凛(海未さんの私を見る目が、変わるくらいである。悲しいことだが、最早これしかなかったのだ)
36:
凛「凛は、こういうの好きなんだけど恥ずかしくって……それでこうして夜中に買いに来たんだ」
海未「……」
凛(こう言っておけば、追求はあるまい)
凛(軽蔑したろう? 侮蔑の視線と適当な別れ文句を言って、さっさと何処かに行くがいいさ)
凛(海未さんなら、軽々しく噂を流すこともなかろう。完璧だ)
海未「……」ザッザッ
凛「え?」
凛(待て、何故近付いてくる)
39:
凛(まさか、中を確認しようと……いや、そんなことをする人ではない筈だ)
凛(一体全体、何をするつもりなのだ)
海未「……」ガシッ
凛「う、海未ちゃん……何で手を掴むの?」
凛(同情か、軽々しく聞いた謝罪か? もしくは怒っているのだろうか)
海未「同士よ!」
凛(やあやあ、ここにおわすは腐れ女にてござる)
凛(言ってる場合ではない)
凛(海未さんと親しくなりたいとは思っていたが、これが神の下した論功行賞だとしたらあんまりである)
42:
海未「穂乃果もことりも理解してくれなくて……ようやく仲間が見つかりました!」
凛「う、うん……」
凛(墓穴を掘ってしまった。よくよく考えてみれば、ただの特殊性癖本で良かったじゃあないか)
凛(十大危険性癖の一つでも言っておけばこうはならなかったろうに……)
海未「私は主に年下攻めが好きなんです、受けは誘い受けか襲われ受けが良いですね」
凛「……そうなんだー」
凛(嘘だと言って楽になってしまいたい。しかし、このようなキラキラした目を見て、そのような残酷な行動誰が取れようか)
43:
海未「凛はどんなシチュエーションが好きなんですか? 二次の特定カプでもいいですが」
凛「り、凛はね……」
凛(お、思いつかない。そもそもそんなこと考えたことすらない!)
凛(しかし、何か言わねばガッカリさせてしまうのは目に見えている)
凛(ここは適当にでも、口を回さねば!)
凛「眼鏡ショタ鬼畜攻めかなー。受けは年上だけど、おじさんというよりはガテン兄貴系。ショタに服従してるって構図が好きなんだよね」
凛(恐らく、生涯で二度と使わないであろう言葉達だ。脳がもげる)
凛(海未さんの反応は……?)
海未「へ、へー……」
凛(引かれた!?)
89:
凛「う、海未ちゃん?」
海未「すいません、意外で……私は結構線が細いキャラクターの方が好きなので、ガテン系というのは想像もしていませんでした」
凛(確かに言われてみれば、現在漫画やアニメや小説問わず、人気があるのは線が細い男である)
凛(筋肉男にキャアキャアと黄色い声をあげる女など、ほぼいないのではないだろうか)
凛(私が浅はかだったか。ガテン系などと言わず知的系とでも言えば良かった)
海未「鬼畜というのもちょっと……ほのぼの系が好きなので……」
凛「そ、そうだよね。冗談にゃ冗談、ちょっと海未ちゃんをからかっただけにゃ!」
90:
海未「冗談、ですか?」
凛「そうだよー、凛も海未ちゃんみたいに細いキャラクターとほのぼのな本が好きなんだ」
海未「話を合わせるために、自分の趣味を曲げたりしていませんよね?」
凛(無論、曲げきっている)
凛(しかし今、そのような素振りは微塵も見せてはいけない。私とて、腐っても頼れる先輩に嘘吐き猫扱いされたくはないのだ)
凛(嗚呼、この疑いの眼差しから逃れる術を教授してくれる存在がいるならば、私はそれを神と崇めてもいい!)
凛「嘘なんて吐いてないよー。凛も今まで、そういうのが好きって人が周りにいなかったからさ」
凛「ほんのちょっと、舞い上がっちゃったんだ」チラッ
凛(さて、どうなるか)
92:
海未「……」プルプル
凛(震えて……怒っているのだろうか? いや、これは……)
凛(泣いている……)
海未「分かります、その気持ち……私も、私も語れる友達、誰もいなぐで……」ポロポロ
凛(何か、琴線に触れる点があったのだろう。私も趣味を隠してはいるが、同好の士が欲しいとそこまで熱烈に思ったことはない)
凛(それは恐らく、古書堂の主人がいたから、というのが大きいのだろう。ああして話せる存在がいなければ、私も海未さんのようになっていたのだろうか)
凛(目の前で泣く少女は、形こそ違えど私の選ばなかった姿なのかもしれない)
凛(ただ、趣味を話し合う仲間が欲しい。私が当たり前だと思っていたことは、彼女にとっては酷く重大な物だったのだ)
95:
凛「海未ちゃん、凛で良かったらいつでも話聞くよ」
凛(気付けば、そんな言葉が口をついて出ていた)
凛(それは欺きの罪悪感と同情が混ざり合った、泥のようなものである)
凛(なんだ、根っこのところでは同じじゃないか。私も彼女も、意味合いこそ違えど腐っている)
海未「ありがとうございます、凛。泣き顔なんて見せて、すいません」
凛「海未ちゃんは笑ってる方がいいよ! ほらほら、これで涙拭いて」
凛(私の差し出したハンカチで顔を拭き、海未さんが笑う。素敵な笑顔だと、素直に思った)
凛(このような可憐な少女が腐っているのだから、この世は信じられぬ)
96:
海未「もう遅いですから、今度の週末にでも話をしませんか?」
凛「うん! 何処かで待ち合わせる?」
海未「私の家に来ませんか? 秘蔵の本も山ほどありますので、一緒に読みましょう」
凛「わーい! 楽しみにゃー!」
凛(今日は帰ったら、本を読む前にBLの勉強をしなくてはならない。気は進まないが、海未さんの為だ)
海未「では、また明日学校で。ふふ、秘密を共有するのは、少し照れ臭いですね」
凛「ばいばーい!」
凛(AmazonでBL本をいくつか買って……いや、商業では怪しまれる。アニメイトで買おう)
97:
翌日 学校
凛「ふぁああ……」
花陽「凛ちゃんどうしたの? 目が真っ赤だけど」
凛「昨日夜更かししちゃって。眠いよかよちーん」
花陽「しっかり寝なきゃ駄目だよー」
凛(さしもの花陽も、私がpixivに登録しBL画像を見ていたとは思うまい)
凛(気付けば日が昇っていたのは誤算だったが、中々の知識を得られた気がする)
凛(それを披露し、困ったら弱虫ペダルの話題を振ればいい。完璧だ)
花陽「なんだか凛ちゃん、やり遂げたって顔をしてるね」
凛「そうかな? 自分では分からないよ」
98:
花陽「ねえ凛ちゃん、旅行とかしたくない?」
凛(突然すぎる話題の変化は、最早恒例と化している。花陽は基本普通なのだが、たまに脈絡なく会話内容が変化するのが困りものだ)
凛「したいね。海がいいなあ」
花陽「海かぁ。一度は皆で行ったけど、今度は二人きりで行ってみたいね」
凛(親友と二人で海。本来微笑ましく思える筈のこの会話に、おぞましさを感じるのは私の考えすぎだろうか)
凛「うん! かよちんは旅行するなら、何処が良い?」
花陽「私は温泉かなあ」
凛「ああ、温泉……浸かりたいにゃー」
凛(演技のせいか、胸もない癖に最近肩が凝って仕方ない。疲労感とまではいかないが、ゆったりと温泉に浸かりたい気分ではある)
99:
花陽「温泉に浸かって、景色を楽しんで、背中の洗いっことかしたいなぁ」
凛「冬で雪とか積もってると、何だか風情を感じるよね」
凛(城崎温泉三木屋に泊まれたら最高なのだけれど)
花陽「冬の方が温泉! って気分になるもんね」
凛「うん!」
花陽「じゃあ、冬休み入ったくらいかな。多分大丈夫だとは思うけど、空けておいてね」
凛「え……うん」
凛(どうやら彼女の中では、温泉に行くのは確定事項らしい。皆で、と思いたいが恐らく私と二人きりで行く腹づもりだろう)
凛(あくまで自然に、花陽に不信感を抱かれないように真姫でも誘っておこう)
100:
部室
凛(掃除当番だから先に行ってて。そう言う花陽を置いて先に向かった部室には)
凛(一人ぽつねんと窓際の席に座るにこさんが居た)
にこ「花陽が一緒じゃないなんて珍しいわね」
凛「掃除当番だから。にこちゃん一人なの?」
にこ「見れば分かるでしょ。誰も来ないから、暇だったのよ」
凛(矢澤にこというこの少女、見た目こそ小さく庇護欲を掻き立てられる幼さがあるが、性格はどうにも悪い)
凛(自分を上に見せたいというプライドでもあるのか、妹弟には自らをセンター、私達をバックダンサーと教えていたことからもそれは伺える)
凛(性格が悪いのはまだいいが、その上にこにこにーなる名状し難き奇怪なる言語を発する寒さは少々いただけない)
凛(花陽が懐いていなければ、特に意識することもない先輩である)
101:
にこ「……何? 顔に何かついてる?」
凛「何でもないにゃ」
にこ「ボーッとしてちゃ駄目よ。アイドルたるもの、いつでも気を張ってなきゃ」
凛(唯一尊敬できる点は、アイドルに対する直向きさだろうか)
凛(この学院において、彼女ほどアイドルと言う存在に向き合っている人間はいない)
凛(アイドルになるため、常に自分を磨き、ファンにもサービスをし、小悪魔のように振る舞う)
凛(私には到底、そんなことは無理だ。スクールアイドルでさえ既に辞めたいくらいなのだから)
にこ「ちょっと、聞いてるの?」
凛「聞いてるよー」
凛(努力を忘れないという点では、私や穂乃果さんと一括りにされていても、蟋蟀ではないのだろう)
102:
凛(彼女は蟋蟀というよりは、蟋蟀だ)
凛(字こそ同じでも、その意味は多大に変わってくる)
凛(ただ享楽的に過ごす蟋蟀と、精一杯その声を伝えようとする蟋蟀)
凛「皆中々来ないね」
にこ「忙しいんじゃない? 来たらすぐ練習始められるように、準備しておくわよ」
凛「了解にゃー!」
凛(私も蟋蟀から、蟋蟀になりたい。蟋蟀の自分になって、過ごしたいものだ)
103:
屋上
穂乃果「じゃあ、今日の練習はこの辺りで終わろうか」
にこ「もうちょっとやったほうがいいんじゃない? まだダンスが怪しいわよ」
絵里「そうは言っても、もう六時よ。暗くなってきたら足元が見え辛くて逆効果よ」
希「せやなあ、絵里ちの言う通りやん。あんまり遅くなっても、親が心配するやろうし。また明日頑張ろ」
にこ「そう言うなら仕方ないわね……」
ことり「今日何処か寄ってく?」
穂乃果「私マックがいい! まだ新商品食べてないんだー」
海未「いけませんよ、穂乃果。また太ってしまいますからね」
穂乃果「うう……」
104:
真姫「……」
凛「どうしたの真姫ちゃん、そんなボーッとして」
真姫「別に、どうもしないわよ」
凛「ふうん、ならいいけど」
凛(輪に混ざりたいけど混ざれない。恐らくそんなところなのだろう)
凛(この真姫という少女、度胸があるように見えて存外恥ずかしがり屋なのだ)
凛(今もちらちらとにこさんの方を見ている。何か助け船を出してあげられればいいのだが、それは出来ない)
凛(何せ、私も案外照れ屋なのだ)
105:
凛「……」
真姫「……」
凛(そして、私と真姫の間にはあまり話題がない)
凛(花陽がいれば上手く会話が回るのだ。しかし当の花陽は……)
花陽「それで、その新曲のPVで回るシーンが……」
にこ「あれいいわね。その少し後の激しいダンスも意外に曲調に合ってて……」
凛(あれである)
凛(私も真姫もアイドル事情には明るくはない。今入りに行ったとしても、頷きと合いの手のみで無言の行を貫くことになるだろう)
真姫「天気いいわね、今日」
凛(無言が気まずくなったな、と一瞬で分かる適当な話題だ)
106:
凛「そうだにゃー」
真姫「ええ」
凛「……」
真姫「……」
凛(何だこの空気)
凛(私まで気まずくなってくるじゃあないか。適当に長続きしそうな話題でも見繕えばよかろう)
凛「そういえば真姫ちゃんって、作曲する時やってることとかある?」
真姫「どうしたのよ急に……」
凛「いや、少し気になって」
107:
真姫「そうねぇ……特には何もないわね」
凛「そうなんだ」
真姫「ええ」
凛「ふうん」
真姫「……」
凛「……」
凛(おかしい、妙だぞ。今のはもっと続くと思ったのに、何処で失敗したんだ)
凛(特にないなんて言われたら、それ以上広げようがないじゃないか)
108:
凛(さて、どうするか。誰か来てくれればいいのだが)
穂乃果「ハンバーガー一個だけ!」
海未「いけません!」
ことり「海未ちゃん厳しいねぇ」
絵里「汗かいちゃったわね」
希「家でシャワー浴びてく?」
花陽「やっぱりメインボーカルが変わったことですかね」
にこ「そうね、マンネリ化を阻止する良い方法だと思ったわ」
凛(それぞれ話に熱中していて、そもそもこっちを見てすらいない)
109:
真姫「……」ムー
凛(真姫の顔がみるみる不機嫌に。何か話題を見つけねば)
凛「真姫ちゃん、本とか読む?」
真姫「たまに読むわよ。ミステリ系が多いけど」
凛「へえ、ミステリー好きなんだにゃ」
真姫「そうね、やっぱりミステリの方が読んでて面白いもの」
凛(ミステリーをミステリと言う系女子である。読み込んでますよ感を与えたいのだろうが、正直逆効果な気がしてならない)
110:
凛「最近読んでて面白かった本とかある?」
真姫「そうねえ、パット・マガーの『被害者を捜せ』は面白かったわ」
凛「へえ、パット・マガー!」
凛(正直、その名を聞くのは意外であった。通ぶっていても、東野圭吾や宮部みゆき、クリスティーにクイーン辺りを出してくるとばかり思ったからだ)
凛(カーやヴァン・ダイン、チャンドラーのような有名どころでもないのは、中々どうして驚きだ)
真姫「ああいう形式のミステリって初めてだったから、すぐに引き込まれたわ。日本でもああいうのってあるのかしら」
凛「……」
真姫「って凛に聞いても仕方な」
凛「貫井徳郎の『被害者は誰?』とかあるね」
真姫「え?」
凛「え、あ……」
111:
凛(不味い。ついテンションが上がってしまった)
凛(少なくとも真姫の知っている星空凛はそんなことがサラッと出てくる存在ではない)
凛(精々出てきてもライトノベルくらいだ。本格なんて読んでるわけがない)
真姫「凛、貴女……」
凛「って、テレビで見たんだ」
凛(我ながら苦しい言い訳だ。しかし、それ以外に言いようがない)
凛(いや……知っていても案外大丈夫だったか? 直木賞候補作家なのだから、どんな人間でも名前くらいは知っているだろうし)
真姫「ああ、なんだ。そうだったのね、びっくりしちゃったわ」
凛(ちょろい)
125:
帰り道
凛(眠い)
凛(練習をした後はいつもこうだ。眠くて眠くて仕方がない)
凛(疲れているということもあるのだろうが、しかしこの程度の疲れで眠くなるほどやわな鍛え方はしていないつもりだ)
凛(加えて昨日のBL行脚のせいで、普段以上に眠気が抑えられないものになっている)
花陽「凛ちゃんふらふらしてるけど……」
凛「平気だにゃ」
凛(目の前にベッドがあったら今すぐにでも飛び込みたい気持ちだ。夜中に公園のベンチで寝ている人々の気持ちが、今ならよく分かる)
126:
凛「ふるふるしてる」
花陽「凛ちゃん、それはただの電柱だよ」
凛「けどふるふるしてるから……」
花陽「うん……でも電柱なの……」
凛「電柱かぁ……」
花陽「凛ちゃんにはふるふるして見えているんだね」
凛(花陽は何を言っているのだろう。これほどまでにふるふるとした電柱など存在するわけがない)
凛(電柱だけではない。目の前の世界がぐねぐねとうねり、地面は分断し踊り狂っている)
凛(道端に座る汚れためしいの唄う、スカラカチャカポコの音に合わせて足元もふわふわと浮いてくる)
花陽「凛ちゃん、道違うよ。そっちだと学校に戻っちゃうよ」
127:
凛「何かよく分からないけど、今とっても楽しい気分だよ」
凛(身体は眠気が容を作ったかのようにどろどろとしているのに、調子だけが奇妙にも上を向いている)
凛(眠気がピークを回ると、人間という者は脳が壊れて気が違ってしまう)
凛(何やらいい気分だ。ねこじゃねこじゃを踊りたくなる)
花陽「今日はどこにも寄らずに帰ろうか? 何だか凄く、疲れているみたいだし」
凛「大丈夫なのになあ」
花陽「自分で大丈夫っていう人ほど、案外大丈夫じゃないんだよ?」
128:
翌日 星空家
凛「……」
凛「おかしいな、昨日家に帰った覚えがない」
凛(真姫と話をしたことは覚えているのに、その後のことが頑として思い出せない)
凛(思考は霧の街を歩き、鼓膜にはがやがやと烏が鳴く)
凛(随分眠ったような気もするけれど、あまり寝ていないような気もする)
凛(時計を見る限り、二度寝と洒落込む時間はあるけれど脳は睡眠を欲していない。どうにも微妙だ)
凛(こんな時は乙一でも読もう)
129:
凛(乙一は嫌いじゃない)
凛(暗い雰囲気の作品が多いが、その暗さが脳に突き刺さるのだ)
凛(しかし正直なところを言うと、乙一名義の作品よりも中田永一名義で出しているものの方が好きだ)
凛(何だかんだと言っても恋愛要素の強い物を好む辺り、所詮私も女子高生ということなのだろう)
凛(古書堂の店主も乙一を読めば、ライトノベルに対する偏見も僅かには紛れるだろうに)
凛(初期作品以外はライトノベルレーベルから出ていないし、ライトノベルと呼べるかは微妙なところではあるが)
凛(そもそも初期作品もライトノベル扱いするのは何とも失礼な話ではないかと思うが、まあレーベルの問題なのだから仕方がない。塩の街のようなものだ)
131:
凛父「おい、そろそろ起きないと遅刻するぞ」
凛「ノックくらいしてよ」
凛父「なんだ、反抗期か?」
凛「反抗期っていうよりマナーの問題だと思うけど」
凛(父はどうにも、私を子ども扱いしたがる節がある。それが親というものだと言っても、最低限部屋のノックくらいはしてもらいたいものだ)
凛(急に入られたところで、別段親に隠したいものなんてないのだが何となく嫌なのだ)
凛父「悲しいなあ、昔はそんなこと言わなかったのに」
凛「はいはい、着替えるから出てってよ」
凛父「分かったよ。朝食は用意してあるから、食べ終わったら流しに置いておくんだぞ」
凛(まあデリカシーの無い人ではあるが、今も高鼾の母親の代わりに料理を作り、文句も言わず仕事に行ってくれる点は尊敬している)
133:
学校
凛(学校は楽しい所だ。何せ花陽も居れば真姫もいる。ちょいと足をのばせば高学年のクラスにも人はいる)
凛(唯一問題点があるとすれば、大っぴらに小説を読めないところだ)
真姫「それでにこちゃんったら、肉じゃがにトマトを入れちゃって」
凛「うんうん」
真姫「うわーっと思ったんだけど、意外に合ってて吃驚したわ」
凛「へえ、そうなんだー」
凛(こうして真姫の、毒にも薬にもならないにこさん自慢を聞いていれば時間が潰れるので、まあいいのだが)
真姫「そうだ、こんなことがあったわ。三か月くらい前なんだけど、にこちゃんが地面に塩を撒いて……」
凛(この話はもう八回目だ。ストックが少ないので同じ話を延々聞かなければならないのが若干辛い)
134:
真姫「そしたらどうなったと思う?」
凛(土竜が出てきた)
真姫「なんとモグラが出てきたのよ!」
凛「凄いなあ」
真姫「出てきた瞬間虎太郎くんがそれを捕まえて、今は家で飼ってるんだって」
凛(土竜というものは、捕獲こそ簡単だが飼育は中々難しい)
凛(まず餌のミミズを大量に捕まえなければならない。何せ、一日に体重の半分以上もの量を食べるのだ)
凛(研究施設などではミンチ肉で代用しているようだが、毎日あげるとなると一般家庭には中々厳しいところがある)
凛(特に矢澤家は、母子家庭のせいか暮らしぶりは裕福と言えない。虎太郎くんが毎日ミミズを獲ってきているのだろうか?)
真姫「地面に置けば勝手に餌を食べて戻ってくるから、餌代がかからないって喜んでたわ。モグラって中々賢いのね」
凛(何か色々とおかしいが、特殊変異した賢い土竜なのだろうきっと。深く考えたら負けだ)
137:
屋上
海未「凛、凛」
凛「どうしたの、海未ちゃん。そんな声を低くして」
海未「忘れていないですよね、週末遊ぶこと……」
穂乃果「えっ、週末遊ぶの? 私も行きたい!」
ことり「私も!」
海未「ふ、二人ともいつからそこに!?」
凛(最初から海未さんの後ろに居たのだが……気付いていなかったのか)
海未「い、いえ、それはですね……」
希「なんやー? 皆で週末遊ぶん?」
139:
にこ「週末なら空いてるわよ。本当なら練習に充てたいくらいだけど」
真姫「に、にこちゃんが行くなら私も!」
花陽「皆で遊ぶのも久しぶりですねー」
海未「ち、違……」
凛(やれやれだ。海未さんも、後でメールでもしてくれれば良かったのに)
絵里「ほら皆、練習の途中よ。……ちなみに私も、週末は暇よ」
凛(こうなってしまえば仕方がない。海未さんには悪いが……)
凛「皆で遊ぶにゃー!」
140:
海未「……」
凛(海未さんが憔悴しきったような顔をしている。後で謝罪と別の日に予定を取り付けておこう)
凛(私としても、あれだけ勉強したBL知識を無駄にしたくはないのだ)
凛(皆が笑顔で、週末の計画を立てている。練習練習と言っていた絵里さんも、気付けばその輪に加わっている)
凛(皆、来たるライブを前にしてあまりに享楽的だ。皆々、蟋蟀だ)
花陽「何処行こうか、凛ちゃん」
凛(花陽が笑いながらそう言うので、私も笑顔でそれに応える)
凛(享楽的な蟋蟀も悪くない。少なくとも、今はそう思えた)
 完
141:
おつ
意外とあっさり終わったにゃー
145:
bl談みたいにゃー

15

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