葛城ミサト「あなたはもう何もしないで」 碇シンジ「わかりました」back

葛城ミサト「あなたはもう何もしないで」 碇シンジ「わかりました」


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1:
【伊吹マヤ】
ーー股の間でバイブが揺れている
伊吹マヤはそれをじっと見ていた。
2年前のあの日、碇シンジはエヴァに乗る事をやめた。
結果、なにも起きなかった。
サードインパクトも人類補完計画も全ては空論であった事を知る。
ゼーレ、ネルフ共に活動停止を表明、ヴィレも事実上解体となった。
それでも良かった。
伊吹マヤにとって組織は重要ではなかった。
あの人と一緒にいる事こそが居場所なのだ。だから付いていくつもりだった。
ヴィレ解体の翌日、赤木リツコは自殺した。
衝動的ではなくあらかじめ計画していたかのように、静かに死んだ。
誰も知らされていなかった。親友の葛城ミサトさえも。
だからしょうがないと思う。
頭では理解しているのだが自分は赤木リツコの一部になれなかった事を思うと
胸が締め付けられる。
赤木リツコの葬儀の日、伊吹マヤは日向マコトに処女を捧げた。
2:
天井のシミの数を数えていればすぐ終わる。
誰が言ったかは知らないがその通りだった。
顔を紅潮させ、必死で腰を振る日向マコトの姿は滑稽でしかなかった。
「こんなものか・・・」
男に対する嫌悪が増すだけの行為でしかなかった。
そして現在、伊吹マヤは築42年家賃2万3千円の安アパートで生活している。
同僚とはあの日以来会っていない。
ろくに風呂に入らず食事もせず半分死んだように毎日を過ごしている。
私はあの人のあとを追うべきだった。
いびつな回転を繰り返すバイブを見てそう思う。
体液の饐えた臭いがする。
「・・・不潔」
いつだったか、この台詞を言った事を思い出す。
3:
【葛城ミサト】
「綺麗・・・」
星空を見ながらそう呟いた。
葛城ミサトは幸せの絶頂にいた。
ヴィレの解体は彼女を父親の呪縛、エヴァから解き放ったのだ。
初めて自分の人生を歩む事になった。
加持リョウジと結婚するのは自然な事だと思った。
もう強がる必要はない、ひとりの女であればいいのだ。
子を産み、育む権利を得たのだ。
加持リョウジは理想の夫だった。
包容力があり、葛城ミサトだけを愛した。喧嘩をした時はいつも彼の方から折れた。
今は民間の企業に勤めている夫の帰りを待ち、迎える。
共に食事をし、会話をし、眠る。
ごく普通の平凡な主婦の日常だったが、葛城ミサトは幸せだった。
「おめでとうございます」
ヴィレ解体からちょうど2年後、葛城ミサトは妊娠した。
5:
腕を奮いいつもより豪華な夕食とワインを用意し夫を待った。
あの人は驚きはしないだろう。いつも冷静なのだ。
だが喜んでくれるに違いない。
あの人が父親になり、私は母になる。
あの頃には考えてもなかった事だ。
そっと腹部に手を当て、葛城ミサトは微笑んだ。
「そうか・・・」
帰宅した夫はただ一言そう言った。
静かに、歓喜でも落胆でもない、ただの言葉だった。
その直後、後頭部に強い衝撃を受け葛城ミサトは意識を失った。
7:
目を覚ます。
ここが外である事はすぐにわかった。
湿った土の匂いがする。そこに寝かされているのだ。
「・・・葛城、すまないな」
加持リョウジはそこにいた。
すぐそばで葛城ミサトを見下げていた。
いつもと同じ、優しい静かな夫の声だった。
横たわった身体に濡れた土が被せられる。
夫がスコップを振るう音、それだけが静寂の中響いていた。
正面には幾千もの星が瞬いている。
「綺麗・・・」
葛城ミサトは幸せの絶頂にいた。
子供の名前はなににしよう。
男の子かしら。
女の子かしら。
10:
【碇ゲンドウ】
「碇さんねぇ、もうちょっと愛想よく出来ないかなぁ・・・」
碇ゲンドウはコンビニエンスストアのバックヤードで説教を受けていた。
「あとそのヒゲ、剃ってくるって言ったでしょう?」
「・・・すみません」
そう呟くと碇ゲンドウはバックヤードを後にした。
またクビかもしれないな、とだけ思った。
ゼーレという後ろ盾を失った彼は居場所を失い、
文字通り裸で寒空に放り出される事となった。
人生を捧げて追い求めたものはもう無い。
いや、最初から夢物語だったかもしれないのだ。
エヴァというただの人形に勝手な幻想を抱いただけなのだ。
「コンビニバイトすら出来ない私が人類を補完か・・・」
自虐的に、そう呟き、笑った。
13:
「おかえり、六分儀君。外は寒かったろう、今日はおでんだ」
帰ると冬月コウゾウがいつものように出迎えてくれた。
居場所を失った彼を救ってくれたのは冬月コウゾウただ一人だった。
老人の一人暮らしは寂しいのでな、たまに将棋の相手をしてくれればいい。
ただ、そう言った。
そして、松濤にある冬月の自宅に二人で暮らしている。
私は卵が大好物なのだが、医者にひとつまでと言われていてね。
冬月はいつも詮索してくる事はなかった。昔から変わってはいない。
一線引いて付き合う事が出来る人間なのだろう。
「冬月先生・・・足の具合はどうですか」
右脚に巻かれた包帯を見る。
「・・・もう歳だからね、ガタもくるよ。仕様がない事だ。
君と働いていた頃は一日中立っていても平気だったのだがね」
そういうと冬月はお茶をすすり静かに笑った。あの頃を思い出したのかもしれない。
翌日、碇ゲンドウは長年蓄えていた顎鬚を剃り、アルバイトに向かった。
14:
【碇シンジ】
赤木リツコの葬儀の日、碇シンジは鈴原サクラをレイプした。
赤木リツコに特別な感情を持っていたわけではない。
だが身近な人の死によって築こうとしていたものが崩れ去るのを実感した。
父に呼び出されるあの日に戻った頃を知った。
また、誰からも必要とされず誰からも愛されない日々に。
鈴原サクラをレイプしたのは、たまたまそこにいたから。それだけの理由だった。
消失感を14歳の肉体は性衝動へと変えた。
ただ本能のままに鈴原サクラを犯した。
初めは声を荒げ抗っていた鈴原サクラだったが、碇シンジが3度目の射精をする頃には
静かになっていた。
碇シンジには後悔はなかった。鈴原トウジに殺されるかもしれないな、とだけ思った。
だが、鈴原サクラは兄にも警察にも知らせる事はなかった。
そして碇シンジのアパートに転がりこんできた。
それから二人は同棲を始めた。
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