マスオ「僕が会社クビに…」back

マスオ「僕が会社クビに…」


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1:
タラオ「パパー、何でお家にいるですか?」
マスオ「…」
タラオ「会社行かなくていいですか?」
マスオ「…」
2:
サザエ「タラちゃん!あっちでカツオお兄ちゃんと遊んでらっしゃい」
タラオ「ええー、カツオお兄ちゃん野球に行くって…」
サザエ「いいから!あっちに行ってなさい!!」
タラオ「…はいです」
4:
サザエ「…あなた」
マスオ「…すまないねサザエ。僕が不甲斐ないばっかりに…」
サザエ「あなた…」
サザエ「大丈夫よ。お金なら当面は心配ないし」
サザエ「あなたはずっと真面目に働いてきたんだもの」
サザエ「少し休んで、また仕事を探せばいいわ」
5:
マスオ「サザエ…ありがとう。僕は君と結婚して、本当によかったよ…」
サザエ「もうっ、マスオさんったら」
サザエ「泣くことないじゃない!さっ!今日の夕飯はあなたが好きなものを作るわ!」
サザエ「だし巻き卵でいいわよね?」
マスオ「…サザエ…」
8:
―夜―
サザエ「ご飯できたわよー!」
カツオ「わーいって…だし巻き卵かぁ…」
サザエ「何言ってんのよ。あんた好きでしょう?」
カツオ「だってこれだけじゃオカズにならないよ?」
サザエ「何言ってるの!早く食べちゃいなさい!!」
カツオ「ちぇっ!」
マスオ(…ごめんよ、カツオくん…)
9:
サザエ「あなた、美味しい?」
マスオ「びゃあ゜ぁ゜゜ぁうまひぃ゜ぃぃ゜!!サザエの料理は本当に美味しいなぁ」
サザエ「もうっ!あなたったら?!!うふふふふ」
ワカメ「もう、姉さんとマスオお兄さんって本当に仲良しねぇ」
10:
波平「あー、おっほん!!」
マスオ「ビクゥ」
波平「マスオ君、食事が終わったら、わしの部屋に来てくれんか?」
マスオ「はっはいぃ!!」
11:
―夕飯後―
カツオ「ねえ、姉さん」
サザエ「なーに?今後片付けで忙しいのよ」
カツオ「マスオ兄さん…何かあったの?」
サザエ「…なんで?」
カツオ「だって…いつもは居間で晩酌するのに」
サザエ「たまには静かに飲みたい時もあるでしょう」
カツオ「でも…変だよ…まさかリス…ふぐぅ!!」
12:
サザエ「…いい?カツオ?」
カツオ「ふぅ!!ぐぅう!!??」
サザエ「このことは、誰にも言っちゃいけないわよ?」
サザエ「我が家の稼ぎ手がリストラだなんて…」
サザエ「恥以外の何物でもないんだからね?」
サザエ「絶対にご近所に言いふらしたりしないでよ!?」
カツオ「…はっはい…」
13:
―波平の部屋―
波平「今度のことは災難だったな、マスオ君」
マスオ「…はい。まさか、派閥に入ってないというだけで…」
マスオ「リストラの筆頭になるなんて思っても…」
波平「思ってもみなかったか?マスオ君?」
マスオ「…はい」
14:
波平「…」
マスオ「…」
波平「フゥー」
マスオ(びくぅ!!)
波平「本当に君は甘いな、マスオ君」
マスオ「お義父さん…」
波平「自分の力だけで世間を渡っていけると」
波平「本気でそう思っていたのかね?」
マスオ「…すみません」
15:
波平「まあ…」
波平「今更こんなこと言っても仕方ない」
波平「しかしこの件で…わしの立場も危うくなった」
波平「もうこれ以上の地位は望めんだろう」
マスオ「お義父さん…本当に…」
波平「君が謝ってもなにも変わらんよ。マスオ君」
マスオ「…はい…」
17:
波平「それよりも…」
波平「再就職の目処は付いてるのかね?」
マスオ「いえ…昨日の今日なもので」
波平「なるべく早く決めるように。婿がいつまでも無職では、近所のいい笑いの種だ」
マスオ「…はい。すぐに探します。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ないです…」
波平「まったくだ」
マスオ「…」
18:
マスオ(…ふぅ。やっぱりお義父さんは手厳しいなぁ…)
マスオ(再就職か…)
マスオ(明日、ハローワークにでも行ってみようかな)
タラオ「パパー?」
マスオ「タラちゃん!!もう寝たんじゃなかったのかい?」
20:
タラオ「パパー、明日もお家いるですかぁ?」
マスオ「えっ!!いっいや…その…」
タラオ「お家いないですか…」
マスオ「いやっ!!いつもよりゆっくりだよ!!」
タラオ「ほんとですか!!じゃあ、パパと遊びたいですぅ!!」
マスオ「…タラちゃん…」
21:
マスオ(そういえば最近、タラちゃんと遊んでいなかったな)
マスオ(朝からハローワークへ行くつもりだったけど…)
マスオ(また忙しくなる前に息子と交流を持つのも…いいな…)
タラオ「パパー、やっぱり忙しいですか?」
マスオ「いや、大丈夫だよ!」
マスオ「明日は朝からパパといっぱい遊ぼう!!」
タラオ「やったで?す!!」
カツオ(…マスオ兄さん…)
22:
サザエ「ふぅ、やっと夕飯の片付けが終わったわ」
フネ「サザエ、今日はもうお休みなさい」
サザエ「えー。でも母さん、朝食の下ごしらえがまだ…」
フネ「私がやっておくから。サザエも疲れてるでしょう?」
サザエ「母さん…ありがとう…」
フネ「辛い時だけど、一番大変なのはマスオさんだからね」
フネ「あなただけは何があっても味方でいてあげなさい。ね?」
サザエ「母さん…言われなくてもわかっているわよ?!!」
サザエ「マスオさんは私の大事な旦那様だもの!!」
23:
サザエ(…とは言っても…)
サザエ(リストラされたばかりなのにグッスリ眠っちゃって…)
サザエ(危機感ってものがないのかしら)
サザエ(昔からボーッとした人だとは思っていたけど…)
サザエ(かといって、プレッシャー掛け過ぎても自滅しそうだし…)
サザエ(やんわりと発破をかけていくしかないわね)
サザエ(…まったく…面倒くさい人…!)
24:
―次の日―
マスオ「ふぅ?ごちそうさま」
タラオ「パパー!何して遊ぶですか?」
ワカメ「タラちゃんったらぁ!マスオ兄さんは会社があるんだから遊べないわよー?」
マスオ「…」
波平「うおっほん!!」
カツオ「ほらっ!ワカメ!!早く学校行くぞ!!」
ワカメ「ええ?っ!待ってよお兄ちゃん?!!」
マスオ(カツオくん…ありがとう…)
26:
タラオ「パパー!何するですぅ??」
マスオ「そうだなー。じゃあ天気もいいし公園にでも…」
波平「うおっほん!!!」
マスオ「あっ!いやっ!ええと…」
サザエ「あら、あなた、今日は早くから用事があるんじゃなかったかしら」
マスオ「えっ!その…でも…」
タラオ「パパー…忙しいですか…」
マスオ「ええと…ええと…」
サザエ「…あなた…?」
マスオ「ごめん…タラちゃん…」
27:
マスオ(ごめんよ…タラちゃん…)
マスオ(ハローワークってこんなとこにあったのか…)
マスオ(こんな近所なのに知らなかった…)
マスオ(自分には縁のないとこだと思ってたからなぁ…)
28:
マスオ(思ったより綺麗な建物なんだな…うわっ)
マスオ(凄い人…まだ午前中なのに…)
マスオ(これどうなってるんだろう…どこへ行けば…)
マスオ(…今日はやめとこう…)
マスオ(まだ頭の整理も心の整理もついてないし…)
マスオ(肩身は狭いけど…急いで探すこともないだろうし…)
マスオ(また出直そう)
???「あれ?あなた確かカツオくんの?」
29:
マスオ(まっまずい!!知り合い!!??)
マスオ「ええと…あなたは…」
???「ああ、すみません。私、こういうものです」
マスオ「花沢…ああっ!確かカツオくんの!!」
花沢父「はい。娘がいつもお世話になってます?」
マスオ「いえいえこちらこそ」
花沢父「今日はこの物件の見回りに来たんですよ。マスオさんは今日はどうしたんです…はっ!!」
30:
マスオ「えっ…あっ!!違うんですよ!!今日は仕事ができたんです!!」
花沢父「仕事を…探しに…?」
マスオ「ちっ違いますよ!家の会社で労働市場の調査をしてるんですよ!!」
花沢父「あっ、あ?なるほど!そうですよねぇ」
花沢父「早大出の商社マンがリストラなんて…ありえないですよねぇ」
マスオ「ははははは。いやー、ははははは」
マスオ(詳しいな、この人)
31:
マスオ(…今日は仕事を探さないとしても…)
マスオ(やることがない…)
マスオ(近所にいると誰かに会いそうだし…)
マスオ(…家に戻るか…)
32:
マスオ「ただいまー…」
サザエ「…あら、早かったのね」
タラオ「おかえりです!!」
サザエ「それで…どうだったの…?」
マスオ「…ああ、目星は…ついたよ…」
サザエ「本当に!?よかったわ?!!」
タラオ「どうしたんです?いいことあったですかぁ?」
サザエ「うふふ、お昼ご飯にしましょうか?あ・な・た!」
マスオ「あ…ああ、そうだね…」
34:
―昼食後―
マスオ(思わずあんなこといっちゃったけど…どうしよう…)
サザエ「あなた?」
マスオ「あっああ!サザエ!…ええと、タラちゃんは!?」
サザエ「お昼寝してるわよ。で、新しいお仕事はどんなものかしら?」
マスオ「あっ…ええと…建設!建設業だよ!!」
サザエ「…は?」
マスオ「…え?」
35:
サザエ「…まさかとは思うけど…現場で土掘ったりするわけじゃないわよね?」
マスオ「…いや…その…」
サザエ「まさかそんなわけないわよね?」
マスオ「サザエ…その言い方だとまるで…土方が悪いような…」
サザエ「悪くないわよ。でも、私は商社マンと結婚したのよ」
マスオ「…」
サザエ「…考え直してちょうだい」
38:
マスオ(…はあ…)
マスオ(まさか…サザエがあんなこと言うなんて…)
マスオ(本当は…肉体労働もいいかなって…思ってたんだけどな…)
マスオ(汗水垂らして働くってのも…生きてるって感じがしそうで…)
マスオ(…でも…)
マスオ(自分ひとりのことじゃないからな…)
マスオ(ツテで商社関係の仕事がないか探してみよう)
マスオ(とりあえず明日、アナゴくんに電話を掛けてみようかな…)
39:
―次の日―
アナゴ「やあ!フグ田くぅん!!」
マスオ「アナゴくん!!…何だか…ものすごく久しぶりな気がするよ…」
アナゴ「ははぁ!何いってるんだい!」
マスオ「ははは!とりあえず飲もうか!!いつものところで…アナゴくん?」
アナゴ「…あぁー、いや」
アナゴ「会社の近くは…その…な?」
マスオ「…そうだね」
40:
アナゴ「すまないね、フグ田くぅん…」
アナゴ「君と一緒にいるところを…あの部長の一派に見られたら…」
マスオ「わかってるよ。アナゴくん」
アナゴ「…すまないね…。少し離れたところに、旨い魚を出す店があるんだ。そこへ行こう!」
マスオ「…アナゴくん…ありがとう…」
アナゴ「な?に!いいってことよぅ!!ぶるぁあああああ!!!」
42:
アナゴ「…そうかぁ…カミさん…やっぱり怒ってるのかぁ…」
マスオ「…表に出さないけどね…」
マスオ「それで…もしよかったら…」
アナゴ「ああ、わかってるよぅ!フグ田くぅん」
マスオ「アナゴくん!!すまない!!本当にありがとう!!」
アナゴ「な?に。期待に沿えるかわからないが、全力を尽くすよ」
マスオ「アナゴくん…」
アナゴ「さっ、今日は飲もうじゃないかぁ!!ぶるぁぁああああああ!!!」
43:
マスオ「あ?飲み過ぎちゃったかな?っと」
マスオ「ただいま?っと…あれ?鍵が…?」
マスオ「お?い!!サザエ?サザエ?!!」
マスオ「サザ…あっ!」
サザエ「あら、お帰りなさい。随分気持ちが良さそうね」
44:
マスオ「ああ…今日はアナゴくんに…仕事の…」
サザエ「働かないで飲むお酒は美味しい?」
マスオ「すみません…」
マスオ(一応…自分で稼いだ金なんだけど…)
45:
―次の日―
マスオ(…もう朝か…)
マスオ(サザエ…まだ怒ってるかな…)
マスオ(今日はちゃんと仕事を探してみよう…アナゴくんに頼ってばかりもいられないしな…)
49:
タラオ「パパ?」
マスオ「やあタラちゃん。おはよう」
タラオ「おはようですぅ。お仕事行くですかぁ?」
マスオ「ああ…いや、タラちゃん。パパのお話、聞いてくれるかな?」
タラオ「はい?」
51:
マスオ「パパね、お仕事…出来なくなっちゃったんだ…」
タラオ「…どうしてですか?パパ、お仕事嫌いになったですか?」
マスオ「…いや、お仕事は…好きだったよ…」
タラオ「じゃあ、なんでですか?好きなのにできないですか?」
マスオ「…」
52:
マスオ「…そうだね」
マスオ「好きでも…出来なくなっちゃうときがあるんだ」
マスオ「好きなことでも…それが出来るとは、限らないんだ」
タラオ「…よくわからないです…」
55:
マスオ「…そうだね。タラちゃんには…まだ難しいね…」
マスオ「でもね、タラちゃん」
マスオ「好きな仕事は無くなっちゃったけど、パパはこれからね」
マスオ「また、好きになれる仕事を探しに行くんだ。…時間はかかるかもしれないけどね」
マスオ「なんて…はは…タラちゃんに話すことじゃなかったかな…」
タラオ「そんなことないです!!」
57:
マスオ「タラちゃん…」
タラオ「パパ、がんばるです!お仕事行ってるパパ、かっこよかったです!!」
タラオ「だから…またお仕事みつけてがんばるです!!」
タラオ「ぼく…パパのこと応援します!」
マスオ「タラちゃん…ありがとう…」
カツオ「…マスオ兄さん…」
58:
マスオ「!??」
マスオ「カッカツオくん!?…もしかして今の話…」
カツオ「うん…聞いていたよ…」
マスオ「カツオくん…」
カツオ「…マスオ兄さん…酷いじゃないか…」
61:
マスオ「…そうだね…僕は本当に不甲斐ない…」
カツオ「違うよ!!」
カツオ「どうして…どうして何も言ってくれなかったんだよ…」
カツオ「そりゃあ…簡単に言えることじゃないし…世間の目も気になるかもしれない…」
カツオ「…でも…こんなときに…つらい時に支え合うのが…家族じゃないか!!」
64:
マスオ「…カツオくん…」
カツオ「そりゃあ…僕に相談したって…なんにも解決しないかもしれないけど…でも…」
カツオ「でもっ!!」
マスオ「カツオくん!!」
カツオ「!!」
マスオ「…ありがとう…」
カツオ「マスオ兄さん…」
66:
マスオ「君が…こんなに考えていてくれたなんて…」
マスオ「ついこの間まで…あんなに小さかったのにな…」
マスオ「本当に…男の子って…急に大きくなるんだな…」
カツオ「兄さん…なにいってるんだよ…もう…」
マスオ「ははは…ありがとう。君が応援してくれたら、本当に心強いよ」
カツオ「マスオ兄さん…頑張ってね!兄さんなら…会社がほっておかないよ!」
マスオ「うん…頑張るよ」
タラオ「僕も応援しまーす」
68:
マスオ「タラちゃん…そうだね。タラちゃんもいれば…百人力だ!」
マスオ「じゃあ、行ってくるよ」
カツオ「うん…朝ご飯は…いいの?」
マスオ「ああ、朝から並んで気合いをいれないとね!」
カツオ「そっか…いってらっしゃい!マスオ兄さん!」
マスオ「ああ、いってきます!」
タラオ「いってらっしゃいでーす」
69:
マスオ(…ふう…とりあえず…目ぼしい求人は見てみたけど…)
マスオ(やっぱり給料は…今までの半分もいかないか…)
マスオ(アナゴくんが探してくれる仕事も…すぐに見つかるとは限らないしなぁ…)
マスオ(…一度家に戻って…アナゴくんから電話がないか聞いてみるか…)
70:
マスオ(近所の人に会ったら気まずいからな…)
マスオ(人の少ない道を通って帰ろう…おや?)
マスオ(あれは…ワカメちゃん?)
マスオ(そうか…もう学校は終わっている時間なんだな…)
マスオ「おーい!ワカメちゃーん!」
ワカメ「…」
71:
マスオ(あれ…聞こえなかったかな?)
マスオ「おーい!ワカメちゃ…」
ワカメ「…話かけないで」
マスオ「…えっ…?」
72:
マスオ「ワカメちゃん…どうしたんだい?」
ワカメ「…姉さん、怒ってるわよ。じゃあ」
マスオ「ワッワカメちゃん!?」
マスオ「サザエが怒ってるって…そんな…」
73:
マスオ「…た…ただいま…」
サザエ「…あなた。ちょっとこっちへ来て」
マスオ「ええと…何かあったのかい…?」
サザエ「いいから!!」
マスオ「いっ痛いよサザエぇ!!耳は!!耳を引っぱるのはぁ!!!」
75:
サザエ「どうしてよ…なんで…なんで…黙っておかなかったのよ…!!」
マスオ「それは…家族だし…」
サザエ「あの子はまだ子供なのよ!!話していいことと悪いことの区別もつかないの」
サザエ「あなた…そんなこともわからないの!?」
サザエ「…あなたがリストラされたってことは…もう近所中に…知れ渡ってる…」
76:
サザエ「あなた、タラちゃんに話したのね」
マスオ「…サザエ…それは…」
サザエ「…あの子…近所中に言いふらしてるのよ…」
サザエ「パパは…お仕事出来ないって…」
サザエ「新しいお仕事探してるって…!!」
78:
サザエ「明日から…近所中の…いい話のタネよ…」
マスオ「でも…この近所の人は優しいから…こんなことで…」
サザエ「ええ、そうよ…優しいわよ…」
サザエ「優しいから…表立っては言わないわよ…」
サザエ「代わりに…皆裏では…なんていってるか…」
マスオ「サザエ…それは…」
サザエ「考えすぎだって思ってるんでしょう!?」
80:
サザエ「あなたは…わからないわよ…」
サザエ「近所付き合いだって…したことないものね」
サザエ「ニコニコ笑顔で話していれば…済むものでもないのよ…」
サザエ「笑顔の裏に…どんな感情が隠されているか…」
マスオ「サザエ…サザエ…」
カツオ「姉さんの馬鹿っ!!」
82:
マスオ「カッカツオくん!?」
サザエ「カツオ…あんた!!」
カツオ「姉さんは…姉さんは結局…自分のことばかりじゃないか!!」
カツオ「仕事を失って傷ついてるのは…マスオ兄さんだろう!!」
カツオ「なのに…優しくしたのは最初だけで…」
カツオ「結局姉さんは…マスオ兄さんのことを…家族だなんて思っていないんじゃないか!」
83:
カツオ「…ねえ…姉さんは…」
カツオ「マスオ兄さんが好きで結婚したんだろう?」
カツオ「だったら…こんなときこそ…支えあってよ…」
カツオ「僕…もし…将来結婚したら…」
カツオ「二人みたいに仲のいい夫婦になるんだって…」
カツオ「二人のこと…羨ましいなって…憧れるなって…」
カツオ「そう思ってたのに…」
マスオ「カツオくん…君ってひとは!!」
サザエ「…愛…?」
85:
マスオ「サザエ…?」
サザエ「…そうね…もしかしたら…」
サザエ「私は…あなたのこと…愛していなかったのかもしれない」
マスオ「…サザエ…?何を言ってるんだい?」
カツオ「姉さん…?」
87:
サザエ「私が…あなたと結婚したのは…」
サザエ「あなたとなら…幸せな結婚が出来ると思って…」
サザエ「親にも…親戚にも…近所の人たちにも…」
サザエ「祝福されて…なんの問題も…後ろめたいこともなく結婚できるから…」
サザエ「マスオさん…私は…私は…」
マスオ「サザエ…もういい…もういいよ…サザエ…」
カツオ「姉さん…やめてよ…姉さん!!」
89:
サザエ「マスオさん…私は…あなたを…愛してない…愛したことが…な…」
フネ「サザエっ!!」
サザエ・マスオ・カツオ「!!!」
サザエ「かあ…さん…」
フネ「サザエ。ちょっとこっちへいらっしゃい」
サザエ「母さん…私…」
フネ「カツオとマスオさんは部屋に入ってなさい」
カツオ「母さん!僕はっ!!」
フネ「静かにしなさい」
90:
カツオ「…」
フネ「あなたの話は後でちゃんと聞くから。ね?」
フネ「マスオさん」
マスオ「はっはいぃぃぃ!!」
フネ「カツオのこと、お願いしますよ」
マスオ「…わかりました」
マスオ「さっ、カツオくん」
カツオ「…はい」
91:
カツオ「…マスオ兄さん」
マスオ「なんだい?カツオくん」
カツオ「…ごめんなさい…」
マスオ「…どうして君が謝るんだい?」
カツオ「だって…僕…」
マスオ「カツオくん。…ありがとう」
カツオ「…えっ!?」
92:
マスオ「思えば…僕とサザエは、今まで喧嘩一つしたことがなかった」
マスオ「お互いに感情をぶつけ合うということが…なかったんだ」
カツオ「…いいことじゃないの?」
マスオ「そうだね…悪いことではないのかもしれない」
マスオ「でも、決して良いことでもない」
カツオ「…よくわからないよ…マスオ兄さん…」
94:
マスオ「カツオくん。君はよくサザエと、喧嘩したり追いかけっこをしてるよね」
カツオ「…うん」
マスオ「僕は…そんな君たちを羨ましく思うことがあった」
マスオ「気持ちをぶつけて…喧嘩して…仲直りをして…」
マスオ「何て言えばいいのかわからないけれど…」
マスオ「君たちは家族なんだなって、そう思ったんだ」
カツオ「マスオ兄さん…」
96:
マスオ「僕は昔から…人に遠慮することが多くてね…」
マスオ「人に正直な気持ちを伝えることが苦手だった」
マスオ「相手に合わせることが多いから、目に見える敵をつくることはなかったけど」
マスオ「はっきりと主張しない僕を疎ましく思った人もいたかもしれない」
マスオ「多分これが…今回のリストラの原因にもなったのかもしれないね」
カツオ「マスオ兄さん…」
97:
マスオ「誰にでもいい顔するのが…必ずしも良い結果をもたらすとは限らないみたいだ」
カツオ「マスオ兄さん…でも僕は…」
カツオ「マスオ兄さんのそういうところ…好きだよ」
カツオ「優しくて…色んな人を受け入れられるような…」
マスオ「カツオくん…」
カツオ「だから…そんなにさ、自分を悪く言わないでよ…」
マスオ「カツオくん…君は本当に…優しい子だね」
カツオ「そんなの…ま、僕はマスオ兄さんの弟だからねっ!!」
99:
マスオ「ははは!カツオくんは本当に調子がいいなぁ!!」
カツオ「ははは!マスオ兄さんも、たまには僕を見習って、姉さんと取っ組み合いでもしたほうがいいんじゃない?」
マスオ「う?ん、サザエは強そうだなぁ」
カツオ「強いよ?姉さんは!町内相撲大会の伝説の横綱だからね!!」
マスオ「びゃあ゛ぁ゛゛ぁすごいぃ゛ぃぃ゛!!」
ワカメ「…あのう…マスオ兄さん…」
100:
マスオ「おや?ワカメちゃん。おかえりなさい」
カツオ「ワカメー!どこ行ってたんだ?」
ワカメ「…マスオ兄さん…そのう…」
マスオ「どうしたんだい?ワカメちゃん?」
102:
ワカメ「さっきは…ごめんなさい…」
マスオ「ワカメちゃん…」
ワカメ「その…お姉ちゃんが怒っていたから…私も…つい…」
カツオ「ワカメ!!マスオ兄さんになにを言ったんだよ!!」
マスオ「カツオくん!!」
カツオ「マスオ兄さん…でも…」
マスオ「いいんだよ。ワカメちゃん。びっくりさせて…すまないね…」
ワカメ「マスオ兄さん…私…私…」
104:
マスオ「大丈夫だよ。ワカメちゃん」
マスオ「さっ、居間へ行こうか!」
マスオ「お義父さんもそろそろ帰ってくるところだし、今日は僕らで夕飯を作ろう!!」
カツオ「ええ?っ!!僕、料理なんてできないよ?」
マスオ「練習すればすぐ出来るようになるさ!」
ワカメ「そうよお兄ちゃん?!最近は男の人でも料理が出来ないと結婚できないのよ?」
カツオ「なんだよ?ちぇっ!!まあ、いいや。たまにはこういうのもいいかもね」
マスオ「よ?し!そうと決まれば台所へレッツゴーだ!」
106:
マスオ「さて、そうは言っても…」
マスオ「今から作るとなると…時間がかかるものは作れないしなぁ」
カツオ「マスオ兄さん!見てよこれ!!」
マスオ「おっ!お肉じゃないか!!」
ワカメ「割り下もあるわ?!」
マスオ「今日はすき焼きの予定だったのかな?よ?し!!」
マスオ「これなら材料を切るだけだね!手分けして切ろう!!」
カツオ・ワカメ「おーっ!!」
107:
マスオ「ふぅ…何とか形になったかな」
ワカメ「わーい!美味しそう!!」
カツオ「この一番大きく切ってある肉は僕のだからね!!」
ワカメ「お兄ちゃんずる?い!!」
マスオ「ははははは!カツオくんは本当に食いしん坊だなぁ」
フネ「あらあらまあまあ」
109:
マスオ「あっ!お義母さん!」
マスオ「すみません…台所を勝手に借りてしまって…」
フネ「あら、いいのよ。助かったわ」
マスオ「ありがとうございます…あの、サザエは…?」
サザエ「マスオさん…」
マスオ「サザエっ!そのっ!僕は!」
波平「今帰ったぞー」
111:
マスオ「あっ、お義父さん…」
フネ「まあまあ。お話は後にして、夕飯を頂きましょう。皆が作ってくれたすき焼き、とても美味しそうだわ」
波平「…なんだ…マスオ君が作ったのか…」
マスオ「…はい」
波平「男が料理とはな…」
マスオ「…」
フネ「あなた?」
波平「ああ…うむ…」
112:
カツオ「よーし!食べるぞ?!!いっただっきま?す!!」
ワカメ「あらぁ?そういえばタラちゃんは?」
マスオ「そういえば…姿がみえないな…」
サザエ「そんな…まさか…事故にでも…!」
フネ「落ち着きなさいサザエ」
サザエ「でも…っ」
タラオ「ただいまでーす」
113:
フネ「ほら、帰ってきたじゃないか」
サザエ「タラちゃん!どこ行ってたの」
サザエ「…あら」
ノリスケ「いや?お久しぶりです!」
サザエ「ノリスケさん…」
ノリスケ「伊佐坂先生のところへ原稿を取りにいったら」
ノリスケ「偶然タラちゃんも先生のお家に遊びにきてましてね」
タラオ「偶然ですぅ」
ノリスケ「帰るついでに送りにきたんですよ」
117:
サザエ「あら…それはどうも…」
ノリスケ「いや?いいんですよ!それにしても今夜は…すき焼きですか」
サザエ「ええ…まあ…」
ノリスケ「いいな?この季節のすき焼きって美味しんですよねぇ」
タラオ「ノリスケおじさんも一緒に食べるですぅ」
サザエ「!!タラちゃん!」
ノリスケ「いや?それは悪いですよ」
タラオ「みんなで食べるとおいしいです?」
ノリスケ「そうかい?いや?タラちゃんに誘われると断りきれないなぁ」
118:
ノリスケ「いや?おじゃまします」
マスオ「ノッノリスケ君!」
ノリスケ「お久しぶりです。マスオさん…おや?エプロンですか」
ノリスケ「仕事も出来て料理もこなすとは…いや?さすがですね」
マスオ「ああ…はは…そんなことないよ」
波平「う?おっほん!!」
ノリスケ「あっ!おじさん!お久しぶりです」
120:
ノリスケ「いや?それにしても美味しいですねこのお肉」
ノリスケ「最近ウチの会社も景気が悪くなっちゃって」
ノリスケ「こんないい肉買えないですよ」
カツオ「ノリスケおじさん!このネギすごく美味しいよ」
ノリスケ「ごめん。ネギは苦手なんだ」
122:
ノリスケ「いや?ビールが美味しいなぁ!!…あれ?」
ノリスケ「マスオさんは飲まないんですか?」
マスオ「ああ、僕はいいんだ」
ノリスケ「どうしたんです?遠慮深いな?。…あっ!もしかして…」
ノリスケ「失業しちゃって肩身が狭くて酒も喉を通らないとか!?ははは!な?んちゃって!!」
ノリスケ「な?んちゃって!!…あれ?」
タラオ「パパ、お仕事できないですぅ」
カツオ「…タラちゃん…」
波平「ノリスケ。お前は出入り禁止だ」
125:
ノリスケ「すいません…こんな時に上がり込んじゃって…」
マスオ「気にすることはないさ。はは…いつものことじゃないか」
ノリスケ「いやーそれにしても、あんまり気を落とさないほうがいいですよ」
ノリスケ「人生山あり谷あり!落ちるとこまで落ちれば怖いものなんてなくなりますよ!ははは!!」
マスオ「ははは!そうだね」
マスオ(ノリスケ君が言うと腹が立つな…)
ノリスケ「じゃあ求職活動頑張ってください!それじゃ!!」
マスオ「ああ、おやすみ」
127:
マスオ(さて、ノリスケは帰ったし)
マスオ「サザエ…いるかい?」
サザエ「マスオさん…」
マスオ「タラちゃんは?」
サザエ「今晩は父さんと母さんのところで寝かせてもらうわ」
マスオ「そうかい…なあ、サザエ」
128:
マスオ「不甲斐ない夫で…本当にすまない」
サザエ「…あなた…」
マスオ「今回のリストラも、社内で上手く渡り切れなかった…」
マスオ「僕の意気地のなさが…優柔不断さが…原因になったんだ」
マスオ「この性格のせいで…君たちに…君たち家族に本当に迷惑をかけてしまったね」
129:
マスオ「もし…君が望むなら…僕は…」
サザエ「だめっ!!」
マスオ「サザエ…?」
サザエ「マスオさん…あなたは…どうしたいの?」
サザエ「私がどう望かじゃなくて…あなたの…気持は?」
131:
マスオ「サザエ…」
サザエ「私は…あなたの気持が…本当の気持ちが聞きたいの…」
マスオ「僕の…僕の気持は…」
マスオ「僕は…君ともう一度…やり直したい」
サザエ「マスオさん…」
133:
マスオ「頼りなく思うかもしれないけど…僕は君と夫婦でいたい」
マスオ「今度は…ちゃんと君たちと家族になりたいんだ」
サザエ「…」
マスオ「サザエ…どうしたんだい?」
サザエ「あなたって…どうしていつもそうなのよ…」
134:
マスオ「サザエ?」
サザエ「いつも…自分からあやまって…」
サザエ「人の良いことばかり言って…」
サザエ「私は…あなたに謝られるたびに…苦しかった」
サザエ「謝られたら…そこで終わりじゃない…」
サザエ「反論もできない。喧嘩もできない。…本当に言いたいことも言えない…」
135:
サザエ「あなたの前で一人で感情を爆発させていると…自分が馬鹿みたいだった…」
サザエ「私は…いつも仲良しじゃなくてもいいから…」
サザエ「喧嘩して、仲直りして、なんでも言い合える…そんな仲になりたかった」
マスオ「ごめん…サザエ…ごめん」
サザエ「違うの…最後まで聞いてちょうだい…」
サザエ「さっき、母さんと話したの」
136:
―数時間前―
フネ「少し落ち着いたかい?サザエ?」
サザエ「うん、ありがと。母さん」
サザエ「…ねえ、母さん」
フネ「なんだい?」
サザエ「母さんは…父さんのこと、愛してる?」
137:
フネ「そうだねぇ…昔みたいに愛してるかっていわれたら、嘘になるね」
サザエ「…そう」
フネ「でもね、サザエ」
フネ「純粋な愛情だけを求めていては、夫婦は成り立たないんだよ」
サザエ「…」
フネ「母さんもね、お父さんのことが嫌になった時期があったのよ」
フネ「お前がまだ小さい頃だったけどね」
フネ「お父さん、会社でトラブルを起こしてね、やめるやめないの大騒ぎになったの」
サザエ「父さんが?」
138:
フネ「今も頑固だけど、あの頃はその頑固さに若さゆえの意地が上乗せされてねぇ」
フネ「母さん、やめるかもって話を聞いた途端、実家に帰っちゃったの」
サザエ「母さんが…?」
フネ「ええ。この人は私を守ってくれないって思った途端、何もかも嫌になってねぇ」
サザエ「それで…どうしたの?」
フネ「実家のお母さんに説教されて、とんぼ返り」
サザエ「おばあちゃん…なんて?」
139:
フネ「ちゃんと夫婦になりなさいって」
サザエ「夫婦に…なる…?」
フネ「そう。変な感じでしょう?結婚したんだから、とっくに夫婦なのにって」
フネ「でもね、それは違ったのよ」
フネ「お互いが努力して、色々なことをすり合わせていかないと、夫婦になれないのよ」
フネ「その為には自分から何かを捨てなきゃいけないかもしれない」
フネ「でも、捨てた後にはまた何かが手に入るのよ」
140:
フネ「わかるかい?」
サザエ「難しいわ…」
フネ「そうだね。すぐには理解できないかもしれないねえ…」
フネ「それで…サザエはどうするんだい?」
サザエ「…ちゃんと…マスオさんと話して…謝りたい…」
サザエ「私…今まで自分のことばかりで…」
サザエ「今回も…マスオさんが一番辛いはずなのに…」
サザエ「あの人の優しさに…強さを甘えて…勝手なことばかり言って…」
141:
サザエ「母さん…私、あの人と…夫婦になりたい…ちゃんと…家族になりたい…」
フネ「そう…そうだね。あなたたちならきっと…大丈夫だよ…」
フネ「おや…いい匂いがしてきたね」
フネ「さっ、サザエ、夕飯の支度、手伝いましょう」
サザエ「はい、母さん」
144:
サザエ「マスオさん…本当にごめんなさい…」
マスオ「サザエ…」
サザエ「私、あなたに甘えさせてもらっていることにも気がつかなかった」
サザエ「本当に…子供だったんだと思うわ」
サザエ「一時の感情に流されて…人のことを考えられない…」
サザエ「こんなんじゃ…奥さんになんてなれない…誰かを支えることなんて…できない…」
サザエ「マスオさん…私も、あなたと家族になりたい」
サザエ「ちゃんと…あなたが何でも言えるような…そんな相手に…なりたい…」
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