海未「離陸する夜/鎖をぬけて」back

海未「離陸する夜/鎖をぬけて」


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1:
 父上、母上。
 先立つ不孝をお許しください。
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2:
 お別れの挨拶を悟られぬよう一通り済ませてから、
 私はあの子の待つ公園に向かいました。
 指先から深深と寒さが染み込み、
 ひとりで手をさすり合わせながら、
 点々と並ぶオレンジ色の街灯と 白い息が流れて消える先へと歩きます。
 向かいのお宅の寝静まった柴犬、
 遠くの道を笑いあいながら 過ぎてゆく学生たち、
 家路へ急ぐ スーツ姿の初老の男性。
 かつての通学路に立っていたコンビニがもう閉店してしまったせいか、
 日付も変わる今ぐらいにはこの通りもやけに暗く感じます。
 「テナント募集中」のしなびた張り紙が目に入ると、
 いつかにポイントシールを意気揚々と集めていた 懐かしい笑顔が浮かんで、
 そのかけがえのなさに、
 思わず立ち止まってしまいそうでした。
 数十メートル先の赤信号の光が
 熟した果実のように胸を痛めるのは、
 もう二度とかえれない、甘酸っぱい日々を 思い出してしまったからでしょうか。
3:
 ――海未ちゃん、遅いよ。
 公園入り口のポールに寄っかかっていた穂乃果が私に小さく手を振ります。
 花のこぼれ落ちるような笑顔は 宵闇の中でも光り輝くようで、
 せめて私の目の黒いうちは、
 あの笑顔を曇らせたくなかったのにと、
 何千回と繰り返した苦い後悔を また噛みしめてしまいます。
 強く噛んだ自分の唇はもう 冬の寒さにかさつき始めていて、
 これではあの子と重ね合わせるのに都合が悪いだろうか、
 と詮無いことを気に掛けます。
 これも、
 最期の時を一秒でも先延ばしにしたいからなのでしょうか。
 そのまま動けない私に、
 穂乃果はぴょんと地面に降り立つと
 まるでいつもと同じように身体を寄り添い、
 私の冷えた腕に触れては 難なく手を取ってみせるのです。
 半月が煌々と小さな私たちを照らし、
 穂乃果は何も知らない子どものように、
 真っ白な笑顔を 浮かべているのでした。
4:
 父上、私は弱い子です。
 弱くて、悪い娘に育ってしまいました。
 これから私たちは、この世でもっとも重い罪を犯します。
 ――ねえ海未ちゃん。
 さいごだから、ちょっと寄り道していいかな。
 指さした先では、ブランコがきぃきぃと風に揺れてありました。
 穂乃果は飛びつくように走り出し、
 私の手もそこに引きずられて、ふらふらとそこにたどり着きます。
「海未ちゃん、座って。押したげるから」
 私の少ない荷物を肩からそっと外すと、
 穂乃果は私を 否応もなく座席に座らせます。
 手に掴んだ鉄製の鎖は赤茶色に錆びていて、
 どう考えても 冷え切っているはずなのに、
 なぜか 懐かしい温もりを感じるようでした。
5:
「いくよ! そーぉ、れえっ!」
 私が地面を蹴り上げる
 と同時に、穂乃果の両手が私の背中を押します。
 ほんの一瞬、
 すべての重力から解放され、
 空に飛び立ったような心地がしました。
 長らく忘れていたその感覚に私は戸惑い、
 これから二人ですることも忘れて鎖を強く握りしめます。
 手のひらが痛むほど、
 きつく。
 それでも鎖はちぎれるどころか
 汗や熱を感じさせてくれて、
 背中の笑い声は からからと 夜空に響いていました。
 時間も 年齢も 終わりのことも、
 重力さえも 忘れてしまって、
 私まで 子どもみたいな高い声をあげてしまいました。
6:
 振り子の幅はやがて縮まり、
 私は穂乃果の手の中へ返るようにして、元の場所で停まります。
 もう日付が変わる頃、
 半分欠けた月は てっぺんまでたどり着いてしまいそうです。
 言葉も、
 息さえも静まりかえった その場所で、
 そろそろ行きましょうか、と声をかけました。
 穂乃果は小さくうなづいて、
 私に顔を見せないうちに、公園の外へと引っ張っていきました。
7:
 十数分して辿りついたのは、近くのマンションの屋上階です。
 金網越しに風が強く吹き付け、
 地上の町明かりは
 夜空に輝く星々のように きらきらと瞬いていました。
 あいにく満月とはいきませんが、
 私の、
 私たちの
 最期に見る景色としては、なかなか悪くないものです。
 壊れたままの南京錠を外して、金網の裂け目をくぐり抜けます。
 なんとなく手の中に残した 南京錠は
 重たく、自ら汗までかいているようで、
 少し前まで握っていた あの鎖 を想起させるようです。
8:
 穂乃果、ごめんなさい。
 私と穂乃果は結ばれてはいけないんです。
 何度も身体を重ねながら、
 濡れた息を交わしあいながら、
 このまま溶け合って一つの身体になりたいと何度も願いました。
 でも、
 私と穂乃果の暮らす世界は 近くて 遠く、
 絶望的に 隔てられているのです。
 私は家に縛られていて、
 家を捨てることもできず、
 この場所で朽ち果てていくしかないのです。
 「錆び付くよりは、燃え尽きた方がいい」
 なんて歌った歌手がいたと、以前耳にしました。
 今ならその気持ちは分かります。
 穂乃果と永遠に生きる方法なんて、もう、
 ……これぐらいしか。
9:
 父上、母上、申し訳ございません。
 私は、私たちは今から、この夜空に飛び立ちます。
 穂乃果と二人の永遠の場所へ、
 月明かりの下、
 手をつないで、
 羽を広げて、
 重力のゆるす限り 飛び立ちます。
 みなさま、それでは さようなら――
10:
 ……握りしめたもう一方の手が、動きません。
11:
 それは固く冷たい鎖のようでした。
 愛する人の柔らかな手が、
 そのとき、
 石のように固まってしまったのです。
 そのとき私は、穂乃果の手を離そうとしました。
 あの輝く笑顔を、
 私の手で地獄の底へ引きずり落とすべきではないのだ。
 穂乃果は、
 私よりも 生きることを選んだのだ、当たり前の話だ、
 だから 手放しなさい、園田海未、
 胸の奥がぐるぐると重たいもので膨れ上がって
 重力に押しつぶされそうになりながら 私は手放そうとします、
 手放そうとしました、
 愛する人を
 この世に 遺そうと、ここまで連れてきてしまった 後悔とともに、
 吹きすさぶ 冷たい 風のなか、
 今度こそ 空へ 飛び立とうと、穂乃果を 引きはがそうと、
 私は、 わたしは、 ほのかを、
――だめだよ。
 だめ、
 私、 海未ちゃんと まだ幸せでいたいのっ!
12:
 その瞬間息の根や心臓まで止まってしまうほど物凄い力で後ろへ引きずり込まれて
 視界がくるりと天上へ向かい私の頭と肩は冷たいコンクリートの底面に叩きつけられ
 間髪おかずに服ごと引きずり込まれたその先は、
 穂乃果の膝の上でした。
 雲ひとつない空が見えたのはほんの一瞬、
 すぐに暗く覆われてしまいます。
 私を覆い隠した闇は柔らかく、
 暖かく、
 震えがどんどん広がり、
 ついには 私を腕の中に押しつけたまましゃくりあげ始めました。
 震えの大波が私まで飲み込む頃、
 私たちは、
 まるでひとつの生き物になったみたいに、
 大声をあげて、叱られた子どもみたいに泣いていました。
13:
 ねえ、海未ちゃん。
 私、海未ちゃんのこと、すきだよね?
 波が収まったころ、赤く腫れた両眼が私をのぞき込みました。
 私は答えを確かめるように、
 そのかわいい頭を両腕で近づけて、唇を重ね合わせました。
 切れた唇の端から鉄の味が滲んで
 舌を濡らす体液と混ざり合うのがたまらなくて、
 もっともっとと押しつけ合います。
 付け根の奥底の感触まで 深く 深く
 ふたりの体温と 答えとを 確かめあわせたあと、
 いったん唇を離して、 わかってるでしょう、と返しました。
 うん、わかった。
 そんな穂乃果の笑顔は月影に黒ずんで、
 よだれで口を汚していて、ちっともきれいなものじゃありません。
 でも、
 この瞬間、
 穂乃果は確かに生きていて、
 それがこの世でもっとも尊いものだとはっきり悟りました。
14:
 私は大変な過ちを犯してしまいました。
 ここは この生まれ育った町内で一番高い所で、
 同時に、
 どこからも低くさげすまれるべき 地獄の底なのです。
 大変なことをしてしまいました。
 机に残したあの手紙を読まれてしまえば、私たちは、もう、
「海未ちゃん。
 穂乃果、貯金けっこうあるんだよね」
 唐突に穂乃果は訳の分からないことを言い出します。
 穂乃果はいつだって、
 私をこんな風にして知らない世界へ連れ出そうとしてきました。
 だめです、私は最低な人間なのに、
 ……だめなのに、
 心の奥が踊り出すのを感じます。
 私はぽかんと口を開けたまま、次の言葉を待ちました。
「海未ちゃん、貯金いくらある?」
 通帳の残高をぼんやり思いだし、
 数字を告げると、穂乃果はちょっぴり苦い顔をしてみせました。
 思わず吹き出してしまいます。
15:
「海未ちゃん」
「なんですか、穂乃果」
「逃げちゃおうよ。
 二人でアパートでも借りて少し潜伏生活でもしてようよ。
 みんな私たちのことわかってて、手伝いたいって言ってたじゃん。
 もしだめだったら、そのまま二人で生きてこうよ」
16:
 相変わらず子供じみた提案でした。
 あんまりにも幼稚で、
 まるで成長していないみたいで、
 さっき笑いを浮かべてしまった口元がまたゆるんで、
 どうしようもなくなります。
 返事は、言うまでもありません。
17:
 私たちはビルを降りると
 公園の向こうを抜け、 新しくできた駅前近くのコンビニへと走ります。
 駅の方へ近づくにつれて
 街灯や居酒屋の明かり、酔いつぶれた人の姿も多くなります。
 夜道を駆け抜け息が切れて脈拍も上がると、
 昔むかしの あの心地よい疲れを思い出します。
 コンビニでお金を下ろして、
 駅でタクシーでも拾ってもっと大きな駅に向かって、
 ネットカフェかビジネスホテルになだれ込んで、
 それから、それから……
 穂乃果と二人で、
 たったいま産声をあげた革命の予感に、
 めまいがするほどの興奮を体中で感じていました。
 このまま夜の向こうまで、太陽に追いつかれないうちに、全力で。
18:
 それから後のことは、今はまだお話できません。
 とりあえずは 穂乃果と二人で、
 あるいはかわいい内通者や なつかしい共犯者たちとともに、
 ずさんな包囲網などかいくぐって、
 めくるめく潜伏生活を生き抜いていこうと思います。
 父上、先立つ不孝をお許しください。
 それでは、いつかまた。
おわり。
2

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