先輩「本を読む後輩と」 後輩「かもめの先輩」back

先輩「本を読む後輩と」 後輩「かもめの先輩」


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1:
このssには、女性同士の恋愛の表現が含まれます
あらかじめご了承ください
また、一部性的な内容があります
こちらも、あわせてご注意ください
何卒よろしくお願いします
2:



?放課後・校舎 廊下?
後輩「……」
後輩友「ちょっと後輩?!」タタッ
後輩「あ、友ちゃん」
友「へっへっへ、お姉ちゃん、ひとりでどこいくつもりだい?」
後輩「図書館だよー。あと、私より友ちゃんの方がお姉ちゃんだよ! 私、八月生まれだから」
友「……いや、うん。そうね。私が悪かった」
後輩「?」
3:
友「私も行っていい?」
後輩「うん! 友ちゃん、何か読みたい本あったんだ?」
友「いや、ただついていくだけ」
後輩「何それぇー」
友「しかし、あんたも好きだねぇ。毎日通ってるじゃん、図書館」
後輩「毎日じゃないよぉ。一昨日は行ってないもん」
友「一昨日は日曜だ」
後輩「うん」
友「うんじゃない」
後輩「えへへ……」
4:
友「そうだ、今日この後、ヒマ?」
後輩「私はこの後、部活行くよ」
友「えー。一緒に帰ろうよー」
後輩「んー……、でも、部活だし……」
友「どうせ、今日も誰もいないんでしょ、文芸部」
後輩「うん、多分……」
友「ひとり寂しく本読んで帰るだけなら、可愛い友ちゃんと一緒に帰って遊ぼうや、ねぇ?」
後輩「でも、部活はちゃんと出た方がいいと思うし……。それに、本読むの好きだから、私」
友「はぁ、真面目だねぇ……」
後輩「……あ!」
友「ん?」
後輩「と、友ちゃんは可愛いよ! そこは、うん、本当、そう思うっ」
友「あーもう! そこは拾わなくていいんだよぉー! 可愛いなぁーこのポンコツはぁー!」ワシャワシャ
5:
後輩「わっ、ちょ……もう、私は可愛くないからぁ……」
友「ポンコツの方はちゃっかり聞こえない耳はこれかぁー? うりうりーっ」グイグイ
後輩「うわわ、やめてよぉ! ほら、もう図書館つい――……」
ドンッ
後輩「ひゃっ」ヨロッ
友「ぎにゃっ!?」
後輩「……あっ」
先輩「……」
後輩「あ、あの……、すみません、ぶつかっちゃっ――……」
先輩「……」
後輩「……え、えっと」
6:
先輩「……入りたいんだけど」
後輩「え……」
先輩「邪魔」
後輩「あ……! ご、ごめんなさいっ」
先輩「……」プイ
後輩「……」
友「……」
ガラッ
パタン
後輩「……」
友「……」
後輩「……」
友「……うぁー、焦ったぁ……」
後輩「……もう、友ちゃん……」
7:
友「あっはは、ごめんごめん! ……っていうか、今の……やっべぇ、先輩さんじゃん。こわ……」
後輩「知り合い?」
友「いや、違うけど……ほら、有名じゃん」
後輩「有名?」
友「……あぁ、あんたは知らなそうだね、そういうの」
後輩「何それぇ」
友「うわさとか、裏話とか、そういう話しないでしょ」
後輩「そんなこと――……あるけど。うわさの人なんだ」
友「影の有名人ってやつ。……ちょっと、言えないことしてるんですって」
8:
後輩「ちょっと、言えないこと……、って?」
友「そりゃあ、ちょっと言えないッスよ」
後輩「本当に言えないことなら、そもそも、うわさにもならないと思う!」
友「あ、はい……、うん、そうッスね……」
後輩「……」ムフー
友「うぉぉ、その論破ぁ! みたいなドヤ顔やめて! 腹立つ!」
後輩「それで?」
友「いや、うん、うわさだけどさ……、ウリやってるんだって、学校で、あの人」
後輩「瓜」
友「ウリ! お金もらって、えっちなことすんの!」
後輩「えっえっえっ」
友「慌てすぎ」
9:
後輩「お金で?」
友「うん」
後輩「えっ、えっちな?」
友「うん」
後輩「売春みたいなもんだよ、それ!?」
友「みたいな、じゃなくて、売春そのもの! 藤浪ばりの剛球ど真ん中!」
後輩「え、いや……でも……」
友「何?」
後輩「犯罪じゃないかな?」
友「あー、もう! そうだよ! だから有名人なんだってば!」
後輩「あぁ、なるほど。……ん、でもでも、やっぱりおかしくない?」
10:
友「何が」
後輩「うち、女子高だよ?」
友「だぁーかぁーらーぁ!」
ガラッ
先輩「……」
友「女相手に、金もらって体売ってるから、ヤバい人だっつってんの!」
後輩「あ……」
友「ぎゃっ……!」
先輩「……」ジロ
友「……!」
後輩「……!」
後輩(こっち見た!)
11:
先輩「……」
後輩「……」ドキリ
後輩(……うわ、正面からまじまじ見ると……)
後輩(すごい、きれいな人……)
先輩「……」
後輩(まつ毛、長い……)
先輩「……」
後輩(目、おっきくて……なんか吸い込まれそうな――……)
先輩「おい」
後輩「……ハッ」
先輩「なに見てんだよ」
後輩(こ……怖っ!)
後輩(男口調……!?)
12:
友「ちょ、ちょっとあんた! 何ガン飛ばしてんの!」
後輩「いいいいいえ! 私は別に、そんな……」
先輩「……」
後輩「あう……」
先輩「……」プイ
後輩「ぁ……」
スタスタ……
後輩「……行っちゃった」
友「うーぁー、もぉー、ビビッたぁー」
後輩「……」
後輩(……あれ)
13:
友「ちょっと、こら、あんたのせいでぶん殴られるかと思ったじゃないの」ウリウリ
後輩「……」
後輩(そういえば、あの人……、さっき持ってた本……)
友「……おい、おーい? 聞いてますかー、人の話ー?」
後輩「……」
後輩(あの本……、あれって――……)
友「もしもーし? 後輩たん? あの……、無視やめて? ねぇ、ちょっと……」



18:



?数日後・放課後、文芸部の部室?
後輩「……」
後輩「……」ペラ
後輩「……」
後輩「……」ペラリ
後輩「……」
後輩「……ふぅ」
後輩「……」チラッ
後輩(……もう、こんな時間)
19:
後輩「……」パタン
後輩(今日はもう、帰ろうかな)
後輩「……」ガサゴソ
後輩「……?」
後輩「……あれ?」ガサガサ
後輩「携帯ない……」
後輩「……あ、あれ? あれあれっ?」ガサゴソ
後輩「……」
後輩(落ち着け、私……)
後輩(こんなときは、落ち着いて……目を閉じて)
20:
後輩「……」
後輩(ゆっくり十秒、数えて――……)
後輩「……」
後輩(おもむろに目を開ける!)カッ
後輩「……」
後輩「……」
後輩「……やっぱりないよぉぉぉ」



21:



トタタタ
後輩「……はぁ、私ってドジだな……」
後輩「絶対、机の中だよ、もう」
後輩「……ぁー、外もう真っ暗だし」
後輩「早く帰らないと――……あれ?」
後輩「……教室」
後輩「電気ついてる……」トタタッ
ガララッ
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……ん」
後輩「へ?」
23:
後輩(あれ!? 教室間違えた!?)
後輩「……」キョロキョロ
後輩(……一年B組)
後輩「……あってる」
先輩「……何してんの」
後輩「ひゃい!?」ビクッ
先輩「きなよ、こっち」チョイチョイ
後輩「は、はい……?」トテトテ
後輩(……っていうか、そこ私の席……)
先輩「ふぅん……」スッ
後輩「……?」
ギュッ
後輩「!?」
25:
後輩(いいいいきなり、抱きしめられた!?)
先輩「……ちっこくて、可愛いじゃん」
後輩「なっ、なななななな!?」
ギュウ
後輩「えっ、あっ、えぇ!?」
先輩「……もっと、リラックスしろよ」
後輩(無理ぃ!)
後輩(っていうか、この人、私より華奢なんだ……)
後輩(なのに、抱きしめられると、すごく……)
後輩(力強くて、包み込まれるような……)
後輩(アンバランスな、感覚……)
26:
後輩「……ぁ」
後輩(でも、何だか……、ずっとこうしていたくなるような――……)
先輩「……あんた、すげー抱き心地いいんだね」モゾッ
後輩「あっ……! ど、どこ触って――……」
先輩「……っふふ」
後輩「や、ちょ……んんっ!」ビクッ
先輩「っていうか、次からは教室じゃねーところにしてくれよな」
後輩「え……」
先輩「誰か来たら、困るだろ?」
後輩「ひ……ぁ、ぁ、なんの……ことですかぁ……」
先輩「何って、このメモ……」ピラッ
後輩「メモ……?」
27:
先輩「あんたが書いたんだろ、この教室で、って……」
後輩「……?」
先輩「……?」
後輩「私、あの、携帯……、教室に、忘れて……、取りにきて……」
先輩「え」
後輩「それ……だけ……デス、ハイ」
先輩「ぁー……」
後輩「……」
先輩「悪い」スッ
後輩「あ……」
後輩(離れちゃった……)
先輩「……」ガタッ
後輩(……じゃなくて! 何考えてんの、私!)
28:
後輩「……」
先輩「……何だよ」
後輩「い、いえ、そこ……私の席、でしてぇ……」
先輩「……」ガタン
後輩「っ……」ビクッ
先輩「……」スタスタ
後輩「……」
先輩「……」ガタン
後輩「……」
29:
後輩(……あ、そうだ、携帯)
後輩「……」ガサゴソ
先輩「……」
後輩「……あれ、あれぇぇ」ガサゴソ
先輩「……」
後輩「……うぅぅぅ」ガサゴソ
先輩「……はぁ」パサッ
後輩「……あ」
後輩(あの本……)
後輩(この前も、持ってた……)
30:
先輩「……」
後輩「あ、あのぅ」
先輩「……ん?」
後輩「その本って……」
先輩「……本?」
後輩「あぁ、やっぱり! 『かもめのジョナサン』!」
先輩「……?」
後輩「この間も、借りてましたよね、図書館で! ひょっとして、お好きなんですか!?」
先輩「いや、えーっと」
後輩「私もすごい好きなんですこの本! もう、何回も読んでて、読むたびに感動しちゃって!」
先輩「あのさ……」
31:
後輩「嬉しいです、私! 同じ本を好きな人に会えて、本当に!」ニコリ
先輩「……あの、おい……」
後輩「特に好きなシーンが、やっぱり三章のあの、フレッチャーが岩に……」
先輩「お、おい、おいって……」
後輩「はい?」
先輩「……あのさ、わりーんだけど、私、読んだことねーから、この本。興味もねぇし」
後輩「そんな……、もったいないですよぉ! ぜひ、ぜひ読んでみてください! 損はさせませんからぁ!」
先輩「セールスマンかよ」
後輩「……って、あれ? じゃ、じゃあ何でこの本持って――……」
ガラッ
32:
女生徒「……」
後輩「……」
先輩「あ」
女生徒「……は?」
後輩「?」
女生徒「ねえ、ちょっと、何これ。ダブルブッキング?」
後輩「え?」
先輩「はぁ……」
女生徒「はぁ、マジで? 信じらんないんだけど……」
先輩「ちげーよ。こいつ、知らない子」
女生徒「うそ。教室の外まで、話し声してたんですけど」
36:
先輩「違うったら」
女生徒「ちょっと、あんた!」
後輩「わ、私!?」
女生徒「どういうつもりよ! ルール違反でしょうが!」
後輩「うぅ……、な、何のことですかぁ……」
女生徒「はぁぁ? とぼけるつもり!?」キッ
後輩「ひぅっ」ビクッ
先輩「おい、ちょっと……」
女生徒「……何よ」
先輩「揉めんなよ、こんなとこでさぁ」
37:
女生徒「だって――……」
ギュッ
女生徒「あっ……」
先輩「本当、知らないんだって……」モゾモゾ
後輩「!」カァァ
女生徒「あっ……ん」
先輩「な、分かってくれよ……」
女生徒「もう……、そんなこと言って……ぁんっ」
先輩「ん……」
女生徒「んっ、私……怒ってるんだからねぇ?」
先輩「悪かったって。今日は、サービスするからさぁ」モゾッ
女生徒「本当ぉ?」
38:
先輩「マジマジ……、だから、さ……」チュッ
女生徒「もぉ、しょうがないなぁ」
後輩「……」
先輩「じゃ……場所変えてさ……」スタスタ
女生徒「ん……」スタスタ
後輩「……」
先輩「……」チラッ
後輩「……っ!」ビクッ
ガラッ
パタン
後輩「……」ドキドキ
39:
後輩「……」
後輩「……ぁー」
後輩「……あ、そうだ……、携帯……」
ピロリロリロリン♪
後輩「!?」ビクッ
後輩「……って、あ……」
後輩「ポケット……」ピロリロリロリン♪
後輩「……」
後輩「……あった」
40:
後輩「……」
後輩「……」ピッ
友『もっしもーし、後輩ー? 今何してるーん?』
後輩「……あー、うん」
友『?』
後輩「何してるんだろうね、私……」
友『え、何それ? 哲学?』



41:



?夜・先輩宅?
先輩「……」
先輩「……」ドサッ
先輩「はぁ」
先輩「……」ボフッ
先輩「つーかれたーぁー」
先輩「……」
先輩「……あの一年」
先輩「……」
先輩(変なヤツだったなぁ)
42:
後輩『私もすごい好きなんですこの本! もう、何回も読んでて、読むたびに感動しちゃって!』
後輩『嬉しいです、私! 同じ本を好きな人に会えて、本当に!』ニコリ
先輩「……」
先輩(そんなに面白いのか、この本……)
先輩「……」ペラッ
先輩「……」
先輩「……かもめって」
先輩(童話か?)
43:
すべてのカモメにとって、重要なのは飛ぶことではなく、食べることだった。だが、この風変わりなカモメ、ジョナサン・リヴィングストンにとって重要なのは、食べることよりも飛ぶことそれ自体だったのだ。その他のどんなことよりも、彼は飛ぶことが好きだった。
先輩「……」
先輩「……ふぅん」ペラッ
先輩「……」
先輩「……」ペラッ
ジョナサンは、<朝食の集い>に集ったカモメの群れのまん中を、弾丸のようにまっすぐ突き抜けていったのだ。時三百四十キロのスピードで、目を閉じ、風と羽毛のまきおこす怒号のような金属音につつまれて。
先輩「……」
先輩「……はっ?」
先輩「……時340キロっ!?」
44:
先輩「……」
先輩「……」ペラ
ジョナサンの両翼のところに現れたその二羽のカモメは、星の光のように滑らかで、夜空の高みに優しく心をなごませるような輝きをはなっていた。
先輩「……は」
先輩「はぁぁ……!?」
そして、ジョナサン・リヴィングストンは、星のように輝く二羽のカモメとともに高く昇ってゆき、やがて暗黒の空のかなたへと消えていった。
先輩「……」
先輩「……」ポカーン



45:



?翌日・昼休み 図書館?
後輩「……あっ」
先輩「……」
後輩「……」トタタッ
先輩「……」
後輩「あの……」
先輩「……」
後輩「あのっ、先輩……?」
先輩「あぁ?」
後輩「……っ」ビクッ
46:
先輩「あぁ、あんた……」
後輩「はい。あの……、き、昨日は……すみませんでした!」ペコリ
先輩「別に、謝られる筋合いねーけど」
後輩「でも……、なんだか、ご迷惑おかけしたみたいで……」
先輩「別に」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……あう」
先輩「……あのさ」
後輩「は、はい?」
47:
先輩「読んだんだけど、これ。かもめのジョナサン」
後輩「本当ですか!? どうでした!? 感動でしたよねぇ!」
先輩「いや、全然」
後輩「うぇぇぇ!?」
先輩「……おかしいだろって。何でかもめが340キロで飛ぶんだよ」
後輩「ハヤブサも、それくらいで飛ぶらしいですよ」
先輩「かもめはハヤブサじゃねぇよ!」
後輩「それだけ頑張ったんですよね、ジョナサンは……!」ジィィン
先輩「努力で済ますな! ……あと、何だあの……いきなり、光り輝く二羽のかもめが……あの……、何だあれ!」
後輩「感動のシーンですよね……」
先輩「おっかしいだろ!」
48:
後輩「えぇ!?」
先輩「展開ぶっとびすぎて、本間違えたかと思ったわ!」
後輩「えぇー……、でもでも、考えてみてくださいよ! ある日、きらきらーってした人が、先輩の前に現れて」
先輩「おう」
後輩「貴方を迎えに来ましたー、って言ったら、どう思います?」
先輩「……宇宙人? って思う」
後輩「……先輩……」
先輩「な、なんだよ……」
後輩「意外と、ロマンチストなんですね……」
先輩「なんっで、そうなるんだよっ!」
51:
後輩「クスクス……」
先輩「何がおかしいんだ、この……」
後輩「すみません……、私、こうやって誰かと本の話したのって、はじめてで……」
先輩「……」
後輩「すごく、楽しくて」クスクス
先輩「……変なやつ」
後輩「あっ、そうだ!」
先輩「うん?」
後輩「部室、来ませんか? これから!」
先輩「部室?」
後輩「先輩なら、きっと気に入るんじゃないかなって本があって!」
先輩「いや、私は……」
後輩「ねっ」キラキラ
先輩「……ぁー」



52:



?文芸部 部室?
後輩「ささ、どうぞどうぞ!」
先輩「お邪魔――……って」
後輩「ちょっと座っててくださいね! ……えーっと、確かこの辺に……」ガサゴソ
先輩「……」
後輩「……あれぇ?」ガサガサ
先輩「……なぁ」
後輩「こっちかな? んー……、あ、はい? 何ですか?」
先輩「部室って……、誰もいねーけど……」
53:
後輩「幽霊部員ばっかりですからねー。……あ、こっちか」ガサゴソ
先輩「……いっつも、こんななの?」
後輩「まぁ、大抵は」ドサドサドサ
先輩「……」
後輩「ちゃんとやりたい人は、文学研究会の方に行っちゃうらしいですからね、ウチの学校、伝統的に」
先輩「……へぇ」
後輩「文芸部は、ほとんど活動してないですねぇー」ガサガサ
先輩「……お前は?」
後輩「後輩です!」
先輩「名前聞いたんじゃねーよ。……後輩は、文学研究会? にしなかったんだ?」
54:
後輩「あはは、書くのは苦手なんで。読むのは好きなんですけどねぇ」
先輩「……」
後輩「あ、でも……私、部活好きですよ! 本読めるから」
先輩「読むって言ってもよ……、ひとりだろ?」
後輩「はい」
先輩「本読むだけ?」
後輩「はい」
先輩「……寂しいやつ」
55:
後輩「寂しくないですよぉ。本読んでますもん」
先輩「意味わかんねー。それが寂しいって言ってんの」
後輩「あっ!」
先輩「ん?」
後輩「あったぁ……」
先輩「……何?」
後輩「この小説、ぜひ先輩に読んでもらいたくて!」
先輩「私に?」
後輩「はい!」
先輩「……ふぅん」ペラッ
56:
後輩「最初は普通の恋愛小説なんですけどぉ、実はヒロインが宇宙人で――」
先輩「……」ポイッ
後輩「ああっ! 本を投げないでください!」
先輩「つまんなそう」
後輩「えぇー……」
先輩「……っていうか、お前すっごいサラッとネタバレする人なのな……」
後輩「あ、じゃあこっちはどうですか? 宇宙船の中に入って、色んな宇宙人と――」
先輩「……」ポイッ
後輩「ああっ!!」
先輩「いや、あのな、別にウチュージン大好き人間じゃないからな、私は」
後輩「……えっ」
先輩「えっ、じゃないんだよ、えっ、じゃあ」
57:
後輩「うーん……、じゃあ、こっち? いやいや、こっちの方が読みやすいし……」ブツブツ
先輩「……」
後輩「……いや、ここは敢えてここ?」ブツブツ
先輩「……」
後輩「むぅ……」ブツブツ
先輩「……あのさ」
後輩「はい?」
先輩「お前さ、あんまり私に関わらない方がいいよ?」
後輩「……?」
先輩「うわさ、本当だから」
後輩「……」
58:
先輩「昨日みたいなこと」
後輩「……」
先輩「しょっちゅうしてるから」
後輩「……」カァァ
先輩「お前まで」
後輩「……」
先輩「そーいう目で、見られるかもって……」
後輩「……先輩は」
先輩「……ん」
後輩「優しいんですね!」
先輩「……はぁ?」
59:
後輩「はい、どうぞ」
先輩「お、おい……」
後輩「これ、私のオススメです。かもめのジョナサンの次くらいにおすすめ」
先輩「……」
後輩「あの、私、き……昨日みたいなのは……」
先輩「……」
後輩「あ、あんまり、よくないかも、って……思いますけど……」
先輩「……」
後輩「でも、えっと……、なんていうか……、うまくいえないんですけど……」
先輩「……」
後輩「先輩とは、もっとお話、してみたいなって……」
先輩「……」
60:
後輩「……あの、うぅ……」
先輩「……はぁ」
後輩「す、すみません……」
先輩「変なやつ……」
後輩「うぅ……っ」
先輩「……これ」
後輩「あ……」
先輩「借りてく」
後輩「は、はい!」



61:



?夜 先輩宅?
先輩「……」
先輩「……」
後輩『意外と、ロマンチストなんですね……』
先輩「……はぁ」
先輩(何なんだ、あいつ……)
先輩「……」
先輩「……ま、どうでもいいや」
62:
先輩「『お客』でもない他人と」
先輩(今さら……)
先輩「……馴れ合ったところで……」
先輩「……」
先輩「……」
後輩『すみません……、私、こうやって誰かと本の話したのって、はじめてで……』
後輩『すごく、楽しくて』クスクス
後輩『……先輩は』
後輩『優しいんですね!』
先輩「……」
63:
先輩「……」
先輩「……本」
先輩(……ま、適当に読んで)
先輩(んで、明日つき返して、それで……)
先輩「……」
先輩「……」ペラッ
先輩(……それで……)
後輩『先輩と、もっとお話、してみたいなって……』
先輩「……」ペラ
先輩「……」
先輩「……」ペラッ



66:



?三日後 放課後・文芸部 部室?
後輩「……」
後輩「……」ペラ
後輩「……」
後輩(先輩……)
後輩(やっぱり、来てくれない、かぁ……)
後輩「……」
後輩「……」ペラッ
後輩「……はぁ」
ガラッ
先輩「おっす」
後輩「……?」
67:
先輩「……?」
後輩「……先輩っ!?」
先輩「反応にぶっ! カメか」
後輩「人間です!」
先輩「知ってる」
後輩「あ、あの……、今日は……」
先輩「……これ」
後輩「あ……」
先輩「読んだ」
68:
後輩「……ど、どうでした?」
先輩「まぁ……、かもめのやつよりは、面白かったんじゃねーかな」
後輩「……!」パァァ
先輩「読書なんてさ、したことねーから、よく分かんねーけど……」
後輩「……! ……!」ガサガサガサッ
先輩「まぁ、暇つぶしには十分……って、後輩?」
後輩「せんぱぁい!」ドサドサッ
先輩「うぉっ」
後輩「こ、これ! これがその作家の代表作で! こっちがこれに影響を受けた日本の作家の! それでこれが――、これとこれと――」
先輩「はしゃぐな」ベシ
後輩「ぷひゃ」
先輩「……ぷっ」
69:
後輩「ぶったぁ……」
先輩「あはは、ぷひゃ、ってなんだよ、ぷひゃ、って……」ケラケラ
後輩「……先輩」
先輩「くっく……、ん?」
後輩「笑った顔、初めて見ました……」
先輩「な、何だよ、見るなよ……」
後輩「え、何でですか」ジィーー
先輩「やめろったら」
後輩「いいじゃないですかぁ、見せてくださいよ。にこーって、ほら、にこーって。はい、1たす1はー?」
先輩「見せもんじゃねー!」
70:
後輩「あ、じゃあ変顔しますね、私。絶対笑うやつ」
先輩「いいからそういうの!」
後輩「……」ムィィィーーン
先輩「ぶふっ」
後輩「わぁぁ……」
先輩「あっははは! み、見んなばか!」
後輩「……」ムィィーンン
先輩「あっはははは! あはははは!」ベシッベシッ
後輩「ぷひゃぁ」



71:



後輩「……」
後輩(あれから……)
後輩(先輩は、よく部室に来てくれるようになって……)
ガラッ
先輩「おーっす」
後輩「いらっしゃーい」
後輩(先輩のこと、色々……知ることができて……)
72:
後輩「どうでした、この間の?」
先輩「あー、私ダメ。挫折した」
後輩「えぇー、読みやすいと思ったのになぁ……」
先輩「暗いんだよ、話が」
後輩(悲劇よりも、明るい話が好きなこと……)
先輩「……ま、かもめのジョナサンよりは、マシかな」
後輩「……、先輩、ジョナサン駄目ですよねぇ……」
先輩「あれは駄目だ。ムカつくもん」
後輩「感動なのに……」
後輩(『かもめのジョナサン』は、好きじゃないこと……)
73:
先輩「だいたい、他のかもめを見下してるんだよ、ジョナサンは」
後輩「そんなことないですよぉ」
先輩「自分が好きなことしてるからって、そうじゃない連中を、ばかにしてるんだ」
後輩「でも、『他人を愛することを学べ』って、サリヴァンから教わったから……」
先輩「それはチャン長老のセリフだ」
後輩「……」
後輩(……もしかしたら、本当はちょっと、好きなのかもしれないこと……)
74:
後輩「……」
先輩「……」ペラッ
後輩「……」
先輩「……うぉ」
後輩「……」ビク
先輩「……」ペラッ
後輩「……」
先輩「……あぁ、やばいって」
後輩「……」
後輩(読みながら、独り言が出ちゃうこと……)
75:
先輩「飲みもん買ってきたー」
後輩「……な、何です、それ?」
先輩「購買ちゃんソーダ、アボカドバター味」
後輩「……」
先輩「新発売!」
後輩「……底に何か、溜まってます」
先輩「アボカドだろ」
後輩(意外と、新しいもの好きなこと……)
76:
先輩「じゃあ次いくぞー、……火星探査車」
後輩「火星たんしゃしゃ」
先輩「ブフッ……」
後輩「むぅ……、火星たんささ! 火星しゃんさしゃ! 火星ちゃん……」
先輩「あっはははは! 全滅! 全滅かよ!」
後輩「かしぇー……っ! うぅ……」
先輩「あはははは! あはははは!」バンバン
後輩(よく、笑うこと……)
77:
先輩「……んー」ノビー
後輩「……あ、読み終わりました?」
先輩「おう」
後輩「その本、続きありますよ、後日談みたいなの」
先輩「あー……、読む」
後輩「あ、私の家だったかも……」
先輩「そっか、じゃあ明日に――……」
後輩(それから……)
ピリリリリ♪ ピリリリリ♪
78:
ピリリリリ♪ ピリリリリ♪
後輩「……あ」
先輩「……」
後輩(携帯のアラームが鳴ったら……)
後輩「……」
先輩「……じゃ、今日はもう行くわ」
後輩「……はい」
後輩(誰かと……『約束』の、時間で……)
後輩(それから……)
79:
ガラッ
先輩「じゃな」
後輩「……またです」
後輩(それからは……)
後輩(誰かと……)
バタン
後輩「……」



83:



?数日後 教室?
後輩「……」
後輩「……」ボンヤリ
後輩(いけないことだとは、思うけど……)
後輩(先輩にとっては、きっと大事な……、必要なことなのかもしれない……)
後輩「……」
後輩「……」
後輩(ゾラの『ナナ』とか……いや、あれは悲劇だっけ? じゃあ『ファニー・ヒル』とか……)
後輩(吉行淳之介……は、読んだことないや)
後輩(色んな小説の、体を売る女性たち……)
後輩(特別な人たちじゃなくて……、私と同じように、考えたり、悩んだりする……)
84:
後輩「……」
後輩「……なんて」
後輩「本で読んだだけなんだけどさ……」
後輩(読んだだけの――……)
先輩『……あんた、すげー抱き心地いいんだね』
後輩「……っ!」カァァァ
後輩(忘れろ! 忘れろ私……!)
後輩「……!」ワタワタ
友「後輩ぃー?」
後輩「ひぃう!」
友「なーにしてんの?」
後輩「べ、別に何も……」
友「……ふーん」
後輩「……」
85:
友「……むぅ」ジィー
後輩「な、なに?」
友「後輩さぁ、最近ちょっと、雰囲気変わったよね……」
後輩「え、そう……かな……」
友「うん、なんか、明るくなった気がする」
後輩「自分では分かんないけど……」
友「と思ったら、さっきみたいにボンヤリしてることも増えたし」
後輩「そ、そんなことないよぉ!」
友「あと挙動不審」
後輩「挙動不審!?」
友「なーんか、ひとりでワタワタしてたりするしー?」
後輩「わ、ワタワタって何っ? 私、そ、そんなこと……」ワタワタ
友「それだよ、それそれ」
86:
後輩「……あ、うぅ……」
友「後輩……、もしかして」
後輩「え」
友「……ははーん」
後輩「え、え……、何それ」
友「はぁっはっはぁーん!」ズムムム
後輩「いや、本当に何それ! 何そ……それ何! すごいよ友ちゃん!」
友「好きな人、できたんでしょ」
後輩「えぇっ……!」
友「図星っしょ」
87:
後輩「えぇぇぇ!? 違う違う! わ、私は……!」
後輩(先輩のことは……)
後輩「そ、そういうのじゃなくて……!」
友「ふぅん?」
後輩「一緒にいると、楽しいとか……、その……そういうので……」
友「……」
後輩「だから……いや、でも、何考えてるのかとか、もっと知りたいなって思うけど……」
友「……」
後輩「で、でもでも、それは気になるといえば、気になるってだけで……、だから、好きっていうのとは……その……」ワタワタ
友「……ぁー、はいはい。甘酸っぱそうで何よりッスねーっ」カーッペッ
後輩「友ちゃん?」



88:



?放課後・文芸部 部室?
後輩「んー……、じゃ、これなんてどうですか?」
先輩「ツルゲ……? 何人だよ」
後輩「ロシアの人です」
先輩「難しそ……」
後輩「大丈夫ですよ! 結構読みやすいですよ? 薄いし」
先輩「んー、じゃあ……読む」
後輩「どうぞどうぞ!」
先輩「さんきゅー」
後輩「……」
89:
先輩「……」ペラッ
後輩「……」
後輩(たとえば、今……)
後輩(先輩が何考えてるのか、私には分からないけど……)
先輩「……」ペラッ
後輩「……」
後輩(でも、そもそも、そんなことを考えている、私自身のことが……)
後輩(自分でも、よく分かってなくて……)
先輩「……しかし」
後輩「……」ピクッ
先輩「本当に誰も来ねーんだな、ここ」
後輩「そ、そうですね! あ、でも……」
90:
先輩「……ん?」
後輩「たまに、生徒会長来ますよ。ほんとたまにですけど……」
先輩「会長ぉ? 何でぇ?」
後輩「いえ、何でも、放課後は校舎の見回りしてるらしいですよ、自主的に」
先輩「何だそりゃ」
後輩「色んな部活の様子とか、残ってる生徒が何してるとか、チェックしてるらしいですよ」
先輩「はぁ……」
後輩「そうそう、結構前なんですけど――……」



91:



後輩『さて、部活部活……あれ?』
チョットー
アハハハ
後輩『……あっ』ガラッ
幽霊部員1『……あ?』
後輩『あ、あの……! ここ、文芸部の部室で……、その……』
幽霊部員2『は? あんた何?』
幽霊部員3『っていうか、ウチらも文芸部だし!』
部員1『ねー』
後輩『でも……、本を……』
部員2『はぁ? だから何なの』
部員3『って言うかこいつ、1年じゃん。ウザッ』
部員1『邪魔なんですけどー。”部活”しないなら、帰ってくんない?』
キャハハハ
後輩『うぅ……』グスッ
92:
会長『――ふむ、ならば君たちは、それが文芸部の正式な活動だと?』
後輩『……!』
部員1『げっ……』
部員2『会長……!?』
会長『私には、ただ部室を占拠して、無駄話をしているだけにしか、見えないのだがね』
部員3『は……はぁ? 勝手に決め付けないでよ』
部員1『そ、そうよ……!』
会長『しかし、あんまり目に余るようであれば、生徒会としても、黙っていられない。分かるかい?』
部員1『……』
部員2『……いこーよ』
部員3『チッ……』
93:
後輩『……』ポカン
会長『……ふふっ、あっさり引き下がって……。生徒会程度、そんな権限があるわけないのにな』
後輩『あっ、あの、会長……』
会長『ん?』
後輩『ありがとうございましたっ!』ペコリ
会長『いやいや、気にすることはない。好きでやってることだからね。それに……』スッ
後輩『……』
会長『キミのような、真面目に部活に取り込む子の力になれて、私としても嬉しいよ』ナデナデ
後輩『あっ』カァァ
会長『ふふっ――……』ニッコリ



94:



後輩「……って」
先輩「うっげ……」
後輩「うっげ、って……。先輩、会長さん苦手です?」
先輩「苦手ってか……、キザくせーし、何だかんだ偉そうだしよー」
後輩「えぇー、カッコいいじゃないですかぁ」
先輩「あと口調が変」
後輩「それは……先輩が言っちゃ駄目なんじゃ……」
会長「――おやおや」ガラッ
後輩「あっ、会長……!」
先輩「げっ……」
95:
会長「うわさされるのは構わないが、陰口はご免こうむりたいね」
後輩「す、すみません……」
会長「いやいや、キミのことではないよ。私が言ってるのは……」チラッ
先輩「……はぁ」
会長「……部員でもないキミが、どうしてここにいるのかな? 先輩クン?」
先輩「ほっといてくださーい」
会長「いいや、放っておくわけにはいかないね。特にキミのような生徒は」
先輩「……」
会長「どういうつもりで、文芸部に近付いたかは知らないが……」
後輩「か、会長、違うんです! これは私が……」
会長「心配ないよ、後輩クン。すべて私に任せたまえ」ニッコリ
後輩「あう……」
先輩「ケッ」
96:
会長「きなさい、先輩クン。キミとはじっくり、話し合う必要がありそうだ」
先輩「……へいへい」
後輩「先輩っ」
先輩「心配すんなって。お前は大人しくしてろ」
後輩「でも、うぅ……」
先輩「大丈夫」
後輩「……」
先輩「またな」
後輩「……」コクン



97:



?廊下?
会長「……」スタスタ
先輩「……どこ行くんだよ」スタスタ
会長「ずいぶんと」
先輩「ん?」
会長「なつかれたんだな」
先輩「……変なやつだろ」
会長「キミが言うか」
先輩「ほっとけ」
会長「……意外だった」
先輩「ん?」
98:
会長「先輩クンが、あんな風に、誰かと打ち解けているところを、見れるなんてな」クックッ
先輩「うるせ」
会長「他人なんて、どうでもいいってタイプだろキミは、ええ?」
先輩「どうでもいい他人は、どうでもいいんだよ。あんたとかな」
会長「すると、彼女はどうでもよくはないと」
先輩「……」
会長「……ふふっ」
先輩「ちげーからな」
会長「……まさか、本気になったわけじゃ、ないだろうね」
先輩「よせよ。ちげーって言ってるだろ」
会長「ふん?」
99:
先輩「そんなんじゃねーから。ただ、暇だから寄り付いてるだけだ」
会長「そう……。まぁ、そうだろうねぇ、生来のクズだものなぁ、キミは」
先輩「うるせーよ」
会長「何かに興味を持ったり、本気になったり、そういうことがうまくやれない、がんばれない、そんなどうしようもない――……」
先輩「……なぁ」
会長「うん?」
先輩「説教なら、ちゃっちゃと済ませてくれねーかな。私この後、大事な『約束』が――……」
会長「心配ない」
先輩「あ?」
100:
会長「今日の『お客』は、私だ」ニッコリ
先輩「……あー」
会長「ふふ……大事な『約束』か。嬉しいねぇ、そんなに気にかけてもらえて……」クックッ
先輩「……あのさ」
会長「何かな」
先輩「私も大概どうしようもねーけど、あんた本当にどうしようもねーな……」
会長「知ってるよ」



105:



?日暮れ過ぎ?
先輩「……」トボトボ
先輩「……はぁ」
先輩(やっと解放してもらえた……)
先輩(あいつ……会長の相手は)
先輩(どうも、苦手なんだよな……)
先輩「……」
先輩「……ん?」チラッ
先輩(あそこ……部室? まだ電気ついて――……)
先輩「……」
先輩(あいつ……、まだいるのか? もしかして、何か……)
先輩「……」
先輩「……」タッ



106:



?文芸部 部室?
ガラッ
先輩「……」
後輩「……」スピー
先輩「……」
後輩「……」プフー
先輩「……」
後輩「……ムニャ」
先輩「……うーん」
107:
後輩「……」zzz
先輩「腹立つくらい安らかな寝顔だなぁ……」
後輩「……ンヘヘ」ゴロン
先輩「寝相わりー……」
後輩「……」zzz
先輩「……」
先輩(こいつ……)
先輩(意外と、あるんだよなぁ……)
後輩「……んっ」
先輩「……」
後輩「……」スピー
先輩「……」ムラ
108:
先輩(やばい……)
先輩「……」
先輩(まだ、さっきの熱が……)
先輩(引いてないのかも……)
先輩「……」ナデ
後輩「……」zzz
先輩「……」ムニュ
後輩「……ふ、ぅ」
先輩(体温高い……、柔らかい……)
109:
先輩「……」モミ
後輩「ん……」
先輩「って、いやいやいや!」
先輩(何してんだ私!)
先輩(……落ち着け、落ち着け)
先輩「……おい、起きろ、こら」ユサユサ
後輩「……」グゥ
先輩「起きろってーの」グニー
後輩「むにゃ……、ふぁい……?」
先輩「ふぁい、じゃないんだよ」
110:
後輩「……? ……!? ……先ぱっ……!」ガバッ
先輩「なーに寝てんだ、ばか」
後輩「だっ、だだだ大丈夫だったんですか!?」
先輩「当たり前だろ」
後輩「でも、でもでも……!」
先輩「……、……部員、なったから、私。文芸部」
後輩「え……」
先輩「部員なら、部活に出ても問題ないって、あいつも……」
後輩「うわぁ……!」ガシッ
先輩「お、おい」
後輩「良かったですねぇ!」ギュッ
111:
先輩「……」
後輩「嬉しいです、私!」
先輩「……」
後輩「また一緒にいれますね、先輩!」
先輩「……」
会長『……まさか、本気になったわけじゃ、ないだろうね』
先輩「……」
後輩「……先輩?」
先輩「ま、飽きるまではな」
後輩「えぇー、そんなぁ……」
先輩「ほら、帰るぞ。正面玄関、もう閉まってるから、裏口行くぜー」
後輩「え? うそ、もうこんな時間!? えっ、なんで!? 病気!?」
先輩「ばーか」



112:



?夜・帰り道?
先輩「――だから、心配ないって言ったろー」
後輩「無理ですって、本当に心配したんですからぁ」
先輩「嘘つけ、ぐっすり寝てたくせに」
後輩「ぐっすりではないです! 眠り浅かったです! 半端に寝たから、今も若干ダルさが……」
先輩「知らねーよ……」
後輩「もう……」
先輩「……」
後輩「……」
113:
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……はぁ」
先輩「……」
後輩「……寒い」
先輩「……なぁ」
後輩「はい?」
先輩「ウチくる?」
後輩「え?」
先輩「……いや、もう割と遅いし……」
後輩「んー」
先輩「寒いし」
114:
後輩「ん、でも大丈夫ですよぉ、まだバス、ありますし」
先輩「そっか」
後輩「はい! ……あ、私バス停、こっちなんで」
先輩「おー、そんじゃな」
後輩「はい! また明日ぁ!」
先輩「気が向いたらな」
後輩「もう、またそんなこと言ってぇ!」
先輩「はいはい」ヒラヒラ
後輩「おやすみなさーい」ヒラヒラ
タタッ…
先輩「……」
115:
先輩「……」
先輩「……はぁぁ」
先輩(なーんで、誘っちゃったんだろうなぁ、私……)
先輩「……しかも、断られるし」
先輩「……」
先輩「……」
先輩(本気なわけじゃない……)
先輩(ただ、何か……)
後輩『また一緒にいれますね、先輩!』
先輩(あいつ……)
先輩(どう思ってるんだろうな、私のこと……)



116:



タッタッタッ
後輩「?♪」タッタッ
後輩「……」タッ…
後輩「……」
後輩(さっきのって……)
先輩『ウチくる?』
後輩「……」ピタリ
後輩(私、もしかして……)
後輩(誘われてた……!?)
後輩「いや、いやいやいや!」
後輩「……」カァァァ
117:
後輩(そ、そんな変な意味のわけないじゃん!)
後輩(そう、あの先輩だもん! あんなの、あいさつ程度の……)
後輩「……」
後輩(そう……)
後輩「……」
後輩(あいさつみたいに……、誰にでも……)
後輩「……」
後輩(先輩……)
後輩(どう思ってるのかな、私のこと……)



118:



?翌日 休み時間・1年教室?
ブー ブー
後輩「あ、メール……」カチッ
後輩「……」
『今日部活行かないよー(乂'ω')』
後輩「えぇー……。『来て下さいよ』っと……」カチカチ
119:
ブー ブー
『アレなんだよ』
後輩「あー……」カチカチ
『お大事に』
『うん (o´・_・`o)ノシ』
後輩「……」
後輩(……っていうか、顔文字可愛いんだけど)
後輩(まぁ、どうせ色んな人に使ってるんだろうけど――って)
後輩「……」
後輩(……私、何考えて……)
後輩「……」
後輩(昨日から、私……変だ……)
123:
友「後はーい!」
後輩「友ちゃん?」ビクッ
友「見て見てー! さっきの授業中、がんばって似顔絵描いたんだー!」
後輩「……誰?」
友「阪神の上本」
後輩「ごめん、分かんない」
友「えぇー、似てると思うんだけど……。あ、そうそう、後輩、今日一緒に帰らない?」
後輩「友ちゃん、部活は……」
友「サボる!」
後輩「はぁ……」
124:
友「いいじゃん、たまにはさぁ! 息抜きだよ息抜き、後輩も部活休んで――……」
後輩「……うん、いいよ」
友「そう言わないでぇ、今日くらい――って、えぇ!?」
後輩「一緒に帰ろっか。部活休んで」
友「……」
後輩「……友ちゃん?」
友「……後輩」
後輩「うん」
友「の、ニセモノ!?」
後輩「ち、違うよぉ!」
125:
友「本物の後輩が、部活サボるはずがないっ」
後輩「本物だってばぁ」
友「どうかな……、本物の後輩なら、ものすごい変顔ができるはずだ!」
後輩「……」ムィィーーンン
友「あはははははっ! あっははははっ!」バンバン



126:



?放課後・市街 書店?
先輩「……」
先輩(うーん……)
先輩(部活行かない日も、本屋寄ってるとか……)
先輩(なんか、感化されてるな、私……)
先輩「……」ウロウロ
127:
先輩「……ん?」
先輩「これ……」
『かもめのジョナサン 完全版』
先輩「完全版……」
先輩(ジョナサンのくせに生意気な……)
先輩「……」
先輩(あいつは……)
先輩(喜びそうだな……)
128:



後輩『えっ、これって……! すごい! 幻の第四章を収録!?』
先輩『これ、やるよ』
後輩『ええぇっ!? 本当にっ? いいんですか先輩!?』
先輩『おう』
後輩『ありがとうございますぅ!』パァァ
先輩『いいってことよー』



先輩「……」
先輩「……よし」
129:
先輩「……」ヒョイ
先輩「……あ」
先輩(でも……)
先輩「でも……、後輩……」



後輩『でも……、先輩……』
先輩『うん?』
後輩『この本を買ったお金って……』
先輩『……』
後輩『誰から、もらったお金なんですか?』
130:
先輩『……』
後輩『何をして、稼いだお金なんですか……?』
先輩『……』
後輩『……そんなお金で、プレゼントされても……私』
先輩『……』
後輩『困ります……』



先輩「……」
先輩「……」
先輩「……」ハッ
131:
先輩「……いやいや」
先輩(あいつはそんなこと言わねーだろ)
先輩(言わねー、けど……)
先輩「……」
先輩「……うぅーん」モンモン



132:



友「――っていうかさぁ」
後輩「うん?」
友「なーんで本読む部活サボって、本屋に来ちゃうかなー!」
後輩「えへへ、まあまあ」
友「まったくぅー」
後輩「あとでゲームセンターにも付き合うから、ねっ」
友「約束だよぉー」
後輩「……」
友「……後輩?」
後輩「あっ、うん。そうだね、約束……――あれ」
133:
友「……どしたの?」
後輩(あそこにいるのって……)
友「どしたー? うんこかー?」
後輩「……友ちゃん、ちょっと待っててね!」ダッ
友「あっ、ちょっとぉ!」



134:



先輩「……」
先輩(やっぱり……やめておこう……)
先輩「……はぁ」
後輩「せーんぱい?」
先輩「うひゃあぁ!?」ビクーッ
後輩「あはは、びっくりしました?」
先輩「後輩!? おま……、何でここに……」
後輩「偶然ですよぉ。たまたま寄ったら、先輩見かけたから……」
135:
先輩「……部活は」
後輩「えへへ、サボっちゃいました」
先輩「お前なぁ……」
後輩「それより、これ!」
先輩「あっ……」
後輩「完全版ですよね! 私も買って読みましたけど、もぉ……すっごいよかったですよ!」
先輩「……ぁー」
後輩「四章で、もうすっごい泣いちゃって、一週間くらい引きずっちゃってー!」
先輩「……」
先輩(そ、そっか……)
先輩(そうだよな……、冷静に考えれば)
先輩(こいつが、買ってないわけないよな……)
136:
先輩「はは……」
後輩「でも先輩、どうしてこの本を? かもめのジョナサン嫌いだって、言ってたのに……」
先輩「あー、いや……、それは……だな……」
後輩「あっ、ははーん……、分かりましたよ!」
先輩「……っ」ドキッ
後輩「ふふ……、先輩もようやく、ジョナサンの面白さに気付いてくれたんですねぇー!」ニッコリ
先輩「……はぁ?」
後輩「そうですそうなんです! 何回、何十回と読んで、初めて分かる”味”っていうんですか!? そういう、”深み”が! ”コク”が!?」
先輩「ちげーし! そんなんじゃねーから! っていうかコクって何だ!」
140:
後輩「もう、素直じゃないんですからぁ……、……あれ、確かここに……」ガサゴソ
先輩「ちげーって言ってんだろー」
後輩「あった……! はい、先輩!」ズイッ
先輩「うぉ……」
『かもめのジョナサン 完全版』
先輩「……」
後輩「んふふ、言ってもらえれば、すぐ……本当にもう、その場ですぐお貸しできたんですからぁー」
先輩「常に持ち歩いてんのかよ、お前は」
友「ちょっと、後輩ー!?」
後輩「あ、友ちゃん!」
141:
先輩「……」
友「うにゃ……っ!?」ビクン
後輩「じゃ、先輩! 私行きますんで」
先輩「いや、お前、これ……」
後輩「しばらく借りてていいですよー! 私まだあと四冊持ってるんでー!」
先輩「何でだよ! 怖ぇよ!」
後輩「また明日ーっ」ヒラヒラ
先輩「……」
先輩「……」
先輩「……何やってんだ、私は……」



142:



後輩「?♪」
友「ねえ、後輩? さっきのって……」
後輩「ん?」
友「先輩さん、でしょ? あの、『うわさ』の……」
後輩「あ、うん……まぁ……」
友「何であんたと先輩さんが?」
後輩「ま、まあ、色々あって……」
友「……まさか、あんた……」
後輩「えっ、何?」
143:
ポワワーン
後輩『先輩……私、教えてほしいんです、物語やおとぎ話だけじゃ、分からないこと……』
先輩『ふふっ、やれやれ……困った子猫ちゃんだ……』
後輩『ああっ、しぇんぱぁい……』
先輩『大人の階段のぼる……、キミはまだシンデレラさ……』
ポワワワワーン
友「幸せはだれかがきっとぉぉーんっ↑」クネクネ
後輩「ちちち違うもん! あと先輩は子猫ちゃんとか言わないっ」
144:
友「違うのぉー?」
後輩「違うったら! 先輩は、文芸部に入ってくれて……」
友「それで?」
後輩「それで部室で、よく話すようになっただけ!」
友「……それだけ?」
後輩(それだけ……)
後輩「それだけだよ!」
後輩(たったそれだけ、なんだ……)
友「でも、あの先輩でしょ? やばい人じゃ……」
145:
後輩「そ、そんなことないよ。口は悪いけど、気のいい人だよ」
友「ふぅーん……」
後輩「あ、でもすぐぶつかも。チョップとか。あのチョップ、意外と痛くてさ……」
友「……後輩」
後輩「ん?」
友「そんないい顔で、笑うんだねぇ、あんたは……」
後輩「な、何それ友ちゃん」
友「私ゃ心配だよ、あんたのこと……」
後輩「もう、大丈夫だって。本当に優しい人で――」
146:
友「そうだとしてもさー」
後輩「……」
友「あんたや私とは、違いすぎるでしょ」
後輩「……」
友「このままだとあんた、きっと痛い目に会うから……」
後輩「あはは、やだな友ちゃん、どうして私が痛い目なんて――……」
友「だって」
後輩「え?」
友「好きなんでしょ、あんた。あの先輩さんのこと」



147:



?翌日・文芸部 部室?
先輩「……」ペラ
後輩「……」
先輩「……おぉ」
後輩「……」
先輩「……ふーん……」ペラ
後輩(まずい……)
後輩(私、めちゃくちゃ意識しちゃってる……)
後輩(友ちゃんめ……)
148:
先輩「……」
後輩「……」チラ
先輩「……」ペラッ
後輩(でも、そっか……)
後輩(先輩が来てくれて、嬉しいとか……)
後輩(先輩といると、落ち着くとか……)
後輩(この気持ちは……)
後輩「……」ジッ
先輩「……」ペラッ
後輩(そうなんだ……)
後輩(きっと、最初から私は――……)
149:
後輩「……」
先輩「……ん?」
後輩「……」ボケー
先輩「……何見てんだよ」
後輩「ひゃい!? あ、わっ、べ、別ににゃにもっ!?」
先輩「あっはは、なーんだにゃにもって」
後輩「うぅ……」
先輩「顔の筋肉がねーから、噛むんだよ。ひょーじょーきん」ズイッ
後輩「な……っ」
先輩「ほーら、やーわらけーの」ムニムニ
後輩「あっ、あっ……」カァァァ
150:
先輩「あっはは、何赤くなっ……」
後輩「……」カァ
先輩「……」
後輩「……」モジモジ
先輩「……ぁー」
後輩「……」
先輩「……わり」
後輩「……いえ」
先輩「……」ペラッ
後輩「……」
先輩(な、何だよ……あの表情……)
先輩(あんな顔、されたら……)
151:
先輩「……」チラッ
後輩「……っ!」ハッ
先輩(目が合った……!)
後輩(目が合った……!)
先輩「……」プイ
後輩「……」ドキドキ
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……し、しかし、あれだなー!」
後輩「は、はいっ!?」
152:
先輩「か、完全版って言っても、大して変わらねーもんだなぁ!」
後輩「あ、え……、ああ! 読んだんですか!?」
先輩「途中で投げた」
後輩「えぇー、せっかく貸したのにぃ」
先輩「だって駄目だ、あのかもめ。40年経っても何の成長もねぇ」
後輩「そんな無茶言わないでくださいよ!」
先輩「だってよ――……」
ピリリリリ♪ ピリリリリ♪
後輩「……っ!」
先輩「……」
153:
ピリリリリ♪ ピリリリリ♪
ピッ
後輩「……」
先輩「……ぁー」
後輩「……」
先輩「……じゃ」
後輩「……」
先輩「……行くわ」
後輩「……」ズキリ
先輩「またなー」
後輩「……」キュッ
先輩「……後輩? 離して――」
154:
後輩「……あの」
先輩「……」
後輩「今日だけは、もうちょっと……一緒に……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……お前」
後輩「……」スッ
先輩「あ」
後輩「……な、なんちゃってぇー……」
先輩「……」
後輩「あはは……」
155:
先輩「……はぁ」
後輩「……」
先輩「ばーか」
後輩「……すみません……」
先輩「……じゃ」
後輩「はい……」
先輩「……」
ガララ
パタン
後輩「……」
後輩「……」
後輩「……」



156:



?廊下?
先輩「……」
先輩「……」タッ
先輩「……」タッタッタッ
先輩「……っ!」ダッ
先輩(やばいやばいやばい……!)
先輩「はっ、はっ……!」ダッダッ
157:
先輩(その気に……)
先輩(その気になるな私……っ!)
先輩「はぁ……はぁ……っ!」タッ
先輩(駄目だ……)
先輩(もう限界だ……)
先輩(これ以上踏み込んだら、あいつは……)
先輩(私も……っ!)



158:



?夕暮れ過ぎ・三階空き教室?
会長「恋はまことに影法師」
先輩「……」
会長「こちらが逃げれば追ってくる、こちらが追えば、逃げていく……」
先輩「……いや、何言ってんだ」
会長「シェイクスピアさ。読んでないかい、文芸部?」
先輩「……あのさ、親切で言うけど、あんたマジでやめた方がいいって、そういうの。将来絶対後悔するから。マジで」
会長「ふふ、放っておいてくれたまえ」
先輩「いやいや」
会長「いいんだよ。意外とモテるんだ、このキャラ」
先輩「……あー、そうですか」
163:
会長「それにしても……、ふふふ、どうしたのかな? 髪が乱れている」ナデ
先輩「別に」
会長「まるで走ってきたみたい……、いや、逃げてきたみたいじゃないか」クックッ
先輩「……」
会長「んふふ、そんな顔をするなよ」スッ
先輩「……もう、おしゃべりはいいだろ」
会長「まぁ、焦りなさんな。ところで……、ちょっときてごらん」
先輩「……」
会長「この空き教室からは、向かいの西棟の様子が、よく見える」
164:
先輩「……」
会長「ほら、あそこの……、2階のところだ」
先輩「……ぁ」
会長「キミたちの部室だ」
先輩「……」
先輩(窓際に……、後輩の姿が見える……)
先輩(あいつ、まだ本読んでるし……)
先輩「……」
先輩(私がいないと、ずっとああしてるのか……)
先輩(ひとりで……)
165:
先輩「……っていうか」
会長「うん?」
先輩「あんた、まさか見てたのか、ここから! 今日も……!」
会長「はは、いやいや、まさか」
先輩「おい、こら……」
会長「本当だって。出歯亀の趣味はないさ」
先輩「……ちっ」
先輩(後輩……)
先輩「……」
会長「……ふふ」ギュッ
先輩「……! おい……、ちょっ……やめっ」
会長「何故?」
166:
先輩「なぜって……」
会長「ふふふ、あの子がこちらを向いたら、見られてしまうかもねぇ……」プチ プチ
先輩「ふざけっ――あ……っ」
会長「……」モゾッ
先輩「っ……、や、うぅ……っ!」
会長「――いいじゃないか、見てもらえば」
先輩「やめ……あっ、い……いい加減……あぁっ、んっ!」
会長「キミのその表情も、この薄い胸も」キュゥ
先輩「やだっ……、ばかっ、やめろぉ……」ピクン
167:
会長「キミの本当の姿も――」
先輩「あぁぁっ!」ビクッ
会長「どうしたんだ? いつもより敏感じゃないか……」
先輩「やだ、やだぁっ! 分かったから、もぉ……う、んぅぅっ!」
会長「見られるかもしれないのに、興奮しているんだろう」クチュッ
先輩「やめてっ、ねえ、お願……やっ、あぁっ!」
会長「――……」クニュ
先輩「あっ、あ、あぁっ! うぁぁっ!」ガクガクッ
会長「……これが、本当のキミだろ? このあばずれめ」
先輩「っくぅ、いや……もう、やなの……っ、っあぁ!」
168:
会長「周りのみんなのように、誰かと上手くやれない……、普通にできない……」
先輩「んっ、んんっ!」フルフル
会長「まともにやろうとしたことも、あったんだろう? 何度も。……駄目だったんだろう」
先輩「あぁっ、そこ、もう……っ」
会長「ばかで、間抜けで……、こういう風にしか、他人と接点を持てない、頭のおかしい女の子だ、キミは」
先輩「あぁっ、あっ、っ……! くぅぅぅっ!」ビクッビクッ
会長「……あの子は、いい子だな」
先輩「はぁ……はぁ……」
会長「キミみたいな人間には、もったいない」
先輩「……」
169:
会長「そうは思わないかい?」
先輩「……」
会長「……指が汚れてしまったな」
先輩「……」
会長「舐めてくれよ」
先輩「……、……」チュ
会長「そうだ、それでいい……」
先輩「……っふ……ん」
会長「それでいいんだよ、先輩クン」



170:



?数日後 放課後・文芸部 部室?
後輩「……」
後輩「……」ペラッ
後輩「……」
後輩(あの日から)
後輩(先輩は部室に来なくなって……)
後輩「……」
後輩「……」ペラッ
171:
後輩(以前と、同じ)
後輩(独りぼっちの、静かな時間……)
後輩「……」
後輩(いなくなって、心から思い知った)
後輩(どれだけ大切に思っていたか……)
後輩(先輩との、時間を)
後輩「……うぅ」
後輩(私が、壊したんだ……)
後輩「……」
172:
後輩(どうして、あんなことを、してしまったんだろう……)
後輩(どうして、我慢できなかったんだろう……)
後輩(どうして……、我慢できないんだろう)
後輩(この気持ちを、どうして……)
後輩「……」
後輩「……先輩」
先輩『……寂しいやつ』
後輩『寂しくないですよぉ。本読んでますもん』
後輩「先輩……」
173:
後輩(私は……)
後輩(寂しいです……)
後輩「……」
友「さぁぁみ゛しい子はい゛ね゛ぇぇぇがぁぁぁ!!」ガラララバターン!!
後輩「!」ビクーン
友「電撃部活見学だーっ! 後輩ー! おーっす!!」
後輩「……なんだ、友ちゃんか」
友「何だとは何よぉ」
後輩「別に……」
友「むぅぅ」
177:
後輩「……」
友「……はぁ」
後輩「……」
友「……あんた、まだ引きずってるの」
後輩「……」
友「もう、忘れちゃいなよ……」
後輩「……無理だよ」
友「……」
後輩「忘れるなんて」
友「……」
178:
後輩「……」
友「……まったく」
後輩「……」
友「……私さ、後輩のこと、好きだよ。大事な友達だと思ってる」
後輩「……」
友「だから、これは、本当は教えたくなかった。けど……」
後輩「友ちゃん?」
友「後輩……、よく聞いてね?」
後輩「……」



179:



友「……」
後輩「……」
友「……」
後輩「……友ちゃん」
友「……」
後輩「……ありがとう」
友「はぁ……、あーあ……」



180:



?さらに一ヵ月後 放課後・三階空き教室?
先輩「……」
先輩「……」ペラッ
先輩(文芸部に行かなくなってから、ずいぶん経った)
先輩(……要は、前と同じに戻っただけ)
先輩(後輩と出会う前の……)
先輩(なんの抵抗もなく、そんな毎日に戻っていて……)
先輩(……やっぱり、どうしようもないやつだ、私は)
先輩(でも……)
181:
先輩「……」
先輩「……」チラリ
先輩(空き教室から見える、部室)
先輩(後輩の姿は……ない)
先輩「はぁ……」
先輩(いつからだったか)
先輩(後輩は、文芸部に顔を出さなくなっていて……)
先輩「……」
先輩「あのばか……」ボソッ
182:
先輩(……構うな)
先輩(これでよかったんだ)
先輩(これで……)
先輩「……」スッ
ガララ
パタン



183:



?図書館?
先輩「……」
先輩(この学校の図書館には……)
先輩(なぜか、『かもめのジョナサン』が二冊、置いてあって――……)
先輩「……」スッ
先輩「……」
先輩(そのうちの一冊は、辞書のコーナーに、ひっそりと置かれていて……)
先輩(その、100ページ目――……)
先輩「……」ペラッ
184:
『ぼくなんかにかまうなんて、時間の無駄ですよ、ジョナサン! ぼくは駄目なやつなんだ! どうしようもない間抜けなんだ! 何度やったって、どうせものになりゃしませんよ!』
先輩「……」
先輩(そのページに、メモが挟められている――……)
先輩「……」
『12/13 十九時 東棟三F 空き教室 5』
先輩「……」
先輩「五千かぁー……」
先輩(日時と、場所と……、金額を示す、符丁)
先輩「……ま、いっか」
先輩「……」
先輩「……今日じゃん」
185:
先輩(いつ、誰が作ったのかも、分からないルール)
先輩(『約束』のためのルール……)
先輩「……」
司書「……」チラ
先輩「……これ、お願いします」
司書「ここに、名前書いてね」
先輩「……」
司書「どうも」
先輩「……」
先輩「……行くか」



186:



?空き教室?
先輩「……」
先輩(あいつの大好きな、この本は)
先輩(私にとっては、ただの目印で……)
先輩「……」
先輩(私は、結局……、勝手にやってるつもりで……)
先輩(誰かのルールに、乗っかっているだけで……)
先輩(中途半端な私には、お似合いだけどさ)
先輩「……はは」
ガラッ
先輩「……っと、いらっしゃ――……」
後輩「……」
187:
先輩「……ぁー」
後輩「……」
先輩「教室、間違ってるぞ」
後輩「……先輩」
先輩「……ま、間違ってるってば……」
後輩「……五万円、あります」スッ
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……おま」
188:
後輩「あ、あれっ? 足りませんか!? だったらまだ――……、あれ……あった! まだありますから!」
先輩「いや……、いや、お前な……」
後輩「先輩、だから、先輩……!」グイッ
先輩「……っ」
後輩「して、ください……」ギュ
先輩「……冗談やめろよ」
後輩「冗談じゃないもん……」
先輩「怒るぞ」
後輩「『お客』に?」
先輩「っ!」
後輩「……友達が、教えてくれたんです。やり方」
189:
先輩「……」
後輩「……『お客』だったら、して……くれるんですよね、先輩は……」ギュウ
先輩「……あっ」
後輩「だから……」
先輩「……っ、……だめ」グイッ
後輩「どうして……!」
先輩「……ばか」
後輩「……」
195:
後輩「……」
先輩「お前は……、違うだろ……」
後輩「……」
先輩「私みたいな駄目なやつとは、違うじゃん……!」
後輩「先輩……」
先輩「だから、やめろよ、こんな……」
後輩「……」ヌギヌギ
先輩「って、聞け! 脱ぐな!」
後輩「先輩は駄目じゃないです!」
196:
先輩「……」
後輩「……っていうか、駄目でもいいんです!」
先輩「どっちだよ……」
後輩「私にとっては、先輩と一緒に入れないことの方が、ずっと、ずっと駄目なんです!」
先輩「お前は、こんな馬鹿なこと、していいやつじゃないだろ!」
後輩「私はこんなやつなんです!」ズイッ
先輩「ま、待て……」
後輩「先輩のせいで、馬鹿になっちゃったんですからぁー!」ガシィィ
先輩「ひっつくなぁー!」グイッ
後輩「せんぱぁぁぁいぃぃ!」ギュゥゥゥ
197:
先輩「はーなーせぇぇぇー! 脱がすなぁぁぁ!」グイグイ
後輩「やーぁー……」
ガララッ
生徒1「そしたらさー、あいつ、西岡は外側走ってたとか言い出してぇー」
生徒2「うそー! それってありえな――……」
先輩「あ」
後輩「あ」ギュゥゥゥ
生徒1「……」
生徒2「……」
198:
先輩「……」
後輩「……」
生徒1「……」
生徒2「……」
カラカラ
パタン
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……先輩」
先輩「……」
後輩「……部室、行きますか?」
先輩「ぁー……」



199:



?部室?
先輩「……部室も久しぶりだな……」
後輩「本当ですよぉー……」シャッ
先輩「カーテン閉めんな!」
後輩「……」プチ プチ
先輩「脱ーぐーなー!」
後輩「先輩……」
先輩「い、いいから! いったん座れ! 落ち着け、な!」
後輩「どうして、してくれないんですかぁ……」
200:
先輩「だから、それは……」
後輩「先輩は、私のこと……、嫌い……?」
先輩「ちが……っ!」
後輩「……」
先輩「……ちげーよ」
後輩「先ぱ……」
先輩「私だって、お前のこと……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……うん」
後輩「言ってよぉぉ!」
先輩「あーもう、うるせーうるせー!」
201:
後輩「うん、ってなんですか、うんって!」
先輩「どうせ! どうせ好きだって言っても!」
後輩「……」
先輩「うまくいかないんだ! お前だって、きっと私に、愛想つかして……!」
後輩「どうして、そう思うんですか」
先輩「……だってさ、私、ダメだし……」
後輩「さっきも聞きました」
先輩「性格悪いし……」
後輩「私は好きですよ」
202:
先輩「お前と本の趣味、合わないし」
後輩「その方が、面白いじゃないですか」
先輩「……性欲強いし」
後輩「うっ……、そ、それは、がんばります……」
先輩「お前の……」
後輩「……」
先輩「知らない誰かと……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……もし、それが」
203:
先輩「……」
後輩「先輩にとって、大切なことなら……」
先輩「……」
後輩「私、構いません」ニコリ
先輩「お前……」
後輩「『お客』でも、構いませんから……」
先輩「……」
後輩「それで、先輩と一緒に入れるなら――……」
先輩「……ていっ」ベシッ
後輩「あうっ」
204:
先輩「……本当、お前は……。見てて心配になってくるわ」
後輩「ぶったぁ……」
先輩「そのうち、悪いヤツに騙されて、のこのこついて行きそうな……」
後輩「……今まさに、そんな感じですけどね」
先輩「……」ベシッ
後輩「うっ! じょ、冗談です、冗談」
先輩「……後輩」
後輩「お、怒らないでくださいよぉ」
先輩「本当に……」
後輩「……」
205:
先輩「いいの?」
後輩「……」
先輩「私で」
後輩「先輩がいいんです」
先輩「……」
後輩「大丈夫ですよ、先輩」
先輩「……」
後輩「きっと、大丈夫です、私たち」
先輩「後輩……」
後輩「はい……」
先輩「ありがとう」
後輩「……」
先輩「好きだよ、私も。大好き」
206:



207:



?帰り道?
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……寒くなったな」
後輩「……ですね」
先輩「……」
後輩「……」
208:
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……そういやさ」
後輩「はい?」
先輩「お前、あんな金、どうしたの」
後輩「バイトしました! 一ヶ月、ずっと!」ムフー
先輩「……あー、それで部室に……」
後輩「何です?」
先輩「い、いや、別に別に。で、何のバイト?」
209:
後輩「清掃業」
先輩「せーいそうぎょおぉー?」
後輩「な、何ですか何ですか!」
先輩「お前……、華の女子高生が、アルバイトしますー、って言って、便所掃除するかぁー?」
後輩「便所掃除って言わないでくださいよ!」
先輩「便所掃除だろ」
後輩「便所掃除ですけど……」
先輩「……あはは」
後輩「……ふふ」
先輩「……」
後輩「……」
210:
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……あの」
先輩「ん?」
後輩「…………手」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」ギュ
後輩「……あ」
先輩「さみいなー」
後輩「……はい」
211:
先輩「……あのさ」
後輩「はい」
先輩「……私も、がんばるから」
後輩「え?」
先輩「後輩と、一緒にいれるように、がんばる」
後輩「……そうですね」
先輩「おう」
後輩「……そうです! 大切なのは、研究と練習! ジョナサンもそう言ってました!」
先輩「それはチャンのセリフだ」
後輩「……そ、そうでしたっけ」
先輩「はは」
後輩「……」
先輩「……」
212:
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……ゆっくり」
後輩「……」
先輩「ゆっくり帰ろうな」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……はい」
先輩「……」
後輩「ゆっくり帰りましょう」



213:



214:
?おわり?
224:



?アフター1?
先輩「……ふぅ、終わったぁ」ノビー
後輩「何読んでたんですかー?」
先輩「オースター」
後輩「あぁ、いいですよねー!」
先輩「おう、かなり面白かった。犬がさー、可愛くてさー」
後輩「先輩、犬好きなんです?」
先輩「好きー。飼ったことねーけど」
225:
後輩「……うち、犬飼ってますよ」
先輩「マジで」
後輩「見に来ます?」
先輩「見たい見たい」
後輩「じゃ、今日うちどうですか?」
先輩「おー、行くー」
後輩「了解ですー」
226:
先輩「かわいい?」
後輩「滅茶苦茶かわいいです」
先輩「撫でていい?」
後輩「撫でていいですよー」
先輩「そっかぁ……、えへへ……」



227:



?後輩の家?
犬「……」ズゥゥン
先輩「……」
犬「……」ズムゥゥン
先輩「……」
先輩(……でけぇ!)
後輩「どうですか、先輩! かわいいでしょ!?」
先輩「いや、ちょっ、いやっ……、でけえ!」
228:
後輩「うん」
先輩「いや、うん、じゃなくて……、え、犬? これ犬?」
後輩「犬ですよー」
先輩「熊じゃなくて?」
後輩「犬です」
先輩「……」
犬「……ヘッヘッ」
先輩「熊だろ?」
後輩「犬です」
先輩「……」
後輩「えへへ、いっぱい撫でてあげてくださいー」
229:
先輩「……」オソルオソル
犬「……ガオウ」
先輩「うぉぉ!?」ビク
後輩「そんな緊張しなくても大丈夫ですよぉ」
先輩「いや、ガオーって言った! ガオーって言ったから!」
後輩「あはは、あんまり怖がってると、逆にパクッといかれちゃいますよ」
先輩「あははじゃねぇよ怖ぇよ! パクッといかれてたまるか!」
後輩「ザムザー、おすわりー」
先輩「名前やめてやれよ! 虫になったらかわいそうだろ!」
犬「……ガウ」
先輩「ほらガオーって言ったぁー!?」ビクーッ



230:



?後輩の部屋?
後輩「はい、お茶どうぞ」
先輩「わりぃね」
後輩「よかったですね、ザムザ、先輩に懐いてました」
先輩「慣れたらかわいいもんだなぁ」
後輩「でも、先輩が犬好きなの、ちょっと意外ですね」
先輩「何でだよ」
後輩「……何となく、猫っぽいし、猫派かな、って」
先輩「あはは、それ言ったらお前は、犬だな」
後輩「犬!? っぽいとかじゃなくて!」
先輩「あはは、ほーら、よしよし」ワシャワシャ
後輩「わっ、もう、髪ぼさぼさになっちゃいますー!」
231:
先輩「嬉しいくせにー、ほれほれー」ワシャワシャ
後輩「あはは、わんっ! なんちゃってー……」ギュッ
先輩「はは……」ナデ
後輩「先ぱ……」
先輩「……」ギュ
後輩「あっ……」
232:
先輩「……あのさ」
後輩「……、いいですよ……」
先輩「……」ドキドキ
後輩「……」ドキドキ
犬2「……」
先輩「……」
犬2「……キャン!」
先輩「うわぉ!?」ビク-ッ
233:
後輩「……何ビックリしてるんですかぁ、ずっといたじゃないですか、この子」
先輩「い、いや、ぬいぐるみだとばかり……」
後輩「座敷犬です」
犬2「ヘッヘッヘッ」フリフリ
先輩「……かわいい」
後輩「ポチー、おいでー」
先輩「ザムザと大分ネーミングに差が」
犬2「キャン! キャン!」ペロペロ
先輩「わっ、あはは、おい、そんな舐めんなよー」
後輩「ふふっ……」
234:
犬2「クゥーン」ペロペロ
先輩「ははっ、めっちゃ舐めてる。そんなに美味しいかー、私の指ー、ほれほれー」ナデナデ
犬2「キャン!」
先輩「あは、かーわいいー」ワシャワシャ
後輩「……!」ハッ
後輩(あれ……)
後輩(私、犬に負けてる……!?)
先輩「ほーれ、しっぽしっぽー」
犬2「キャンキャン」フリフリ
後輩「……」
先輩「あはははー」ケラケラ
後輩「……」ニッコリ
後輩(まぁ……)
後輩(いいか……)



235:



?アフター2?
友「……でさー、そしたら妹が、『えぇっ、カメルーンなの!?』って」
後輩「あはははっ、ははっ、カメしか合ってないよぉー!」ケラケラ
友「でしょー、そんで結局、リクガメひっくり返ったまんまでー」
後輩「あっはは、ぜってーありえねーだろってー!」ケラケラ
友「!!」
後輩「あははは、はぁー……、あれ、友ちゃん?」
236:
友「こ、後輩が……」
後輩「え、な、何」
友「後輩が不良になったぁー……」ウルウル
後輩「えぇっ!? あ! い、今のは! 違うの、先輩のがうつっただけで……」
友「私の後輩がぁぁ……」ウルウル
後輩「ち、違うってばぁ! あと友ちゃんのものじゃないから私!」
友「おのろけだぁぁぁ……」シクシクシク
後輩「ちげーっての! あ……」
友「あぁぁぁ……」シクシク
後輩「あぁぁ……」



237:



後輩「……と、いうわけで、ですね」
先輩「うん」
後輩「先輩の言葉遣いを直そうキャンペーン」
先輩「ほっとけよマジで……」
後輩「放っておいたら、そのうち私、完全に先輩の口調がうつっちゃいますよ! いいんですか!?」
先輩「いいんですかと言われても……」
後輩「あ、もうだんだん、それっぽくなってきた。あー、ッべー、まじッべーですー」
先輩「お前の中の私ってそんななん?」
238:
後輩「……っていうか、おしとやかな先輩が見てみたい……」
先輩「んなこと言われたってよー」
後輩「それ」
先輩「お」
後輩「そこは『そんなこと言われましても……』で」
先輩「マシテモ!?」
後輩「ちょっと大げさなくらいでいいんです! ショック療法ですよ」
先輩「そうな……の、かしら」
後輩「おぉ、その調子ですよ!」
先輩「絶対間違っている気がしますわ……」
後輩「大丈夫です!」
239:
先輩「ふふっ、後輩さん、ごきげんよう」
後輩「お、お嬢様っぽい!」
先輩「あら、後輩さん、タイが曲がっていてよ」クイッ
後輩「はわー……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「……」
先輩(コレジャナイ感すげぇ……)
後輩(コレジャナイ感すごいな……)



240:



?アフター3?
先輩「……」
後輩「……」ペラッ
先輩「……」
後輩「……」ペラ
ピリリリリ♪ ピリリリリ♪
後輩「……」
先輩「……ん」
241:
ピリリリリ♪ ピリリリリ♪
ピッ
後輩「……」
先輩「時間だ……」
後輩「……」
先輩「……」ペリペリ
後輩「……」
先輩「……」パキッ
後輩「……」
先輩「いただきます……」
後輩「……」
先輩「……」ズゾッ ズルル
後輩「……」
先輩「……ハフハフ」
242:
後輩「……」
先輩「……」ズルルル
後輩「……」
先輩「購買ちゃんラーメン、ブルックリン味噌味」
後輩「……」
先輩「新発売!」
後輩「……」
先輩「……ハフハフ」
後輩(味噌くさいな……)
先輩「……」ズゾゾー



243:



?アフター4?
先輩「?♪」トタタッ
先輩「人間はもう?おわりだ?♪」
先輩「……?♪ ……ん?」
後輩「………………」
先輩「おーっす、後輩。どうした、部室入らねーの?」
後輩「せ、先輩ぃ……」ウルウル
先輩「おいおい、どうしたよ」
後輩「これぇ……」ウルウル
先輩「あん? 何この張り紙……、えーと、なになに……?」
244:
『連絡
文芸部は12/1をもって廃部となります
部員は各自、部室の私物を処分のこと
生徒会』
後輩「先ぱぁい……」
先輩「……」ポカーン



245:



?生徒会室?
先輩「かぁぁぁいぃぃ長ぉー!」ガララッ!バシーン!
会長「……おや、誰かと思えば、先輩クンじゃないか。久しいな」
先輩「それどころじゃねー! なんだあの張り紙はぁー!!」
会長「張り紙……? ああ、文芸部の廃部のことかい?」
先輩「それだよ! なんだ廃部って! どーいうことだよ!」
会長「私に言われてもな……。決めたのは先生方だ」
先輩「でも、生徒会の名前が……!」
会長「たかが生徒会、決定事項には従うしかないさ。学校が決めたことに、口出しできるわけないだろう?」
246:
先輩「むぅぅ……!」
会長「そもそも、何の活動もしない、ただ本読んでるだけ、なんて部活がある方が、おかしいのだからね」
先輩「う……、それは……」
会長「学校が用意した部室を使っているんだ、然るべき活動実態が必要に決まっているじゃないか」
先輩「……」
会長「それを、キミらふたりで占有して、日暮れすぎまでイチャこらイチャこらと……、はんっ、別に羨ましくなどないがねっ!」ペッ
先輩「……」
先輩(おぉ……、会長様が荒んでらっしゃる……)
247:
先輩「……って、ていうか、別にいちゃこらなんて、してねーし!」
会長「はっはっは、じゃあシッポリの間違いだったな? グッチョリでもネットリでもいいぞ?」カーッペッ
先輩「だーかーらー! 何もしてねぇって言ってるだろ!」
会長「……?」
先輩「な、何だよ……」
会長「え、いや、ほ、本当に?」
先輩「う、うん……」
会長「何もしてないの……?」
先輩「……」コクリ
会長「いや、いやいや……、キミら、つ、付き合ってるんだろう?」
先輩「……」コクン
248:
会長「いやいやいや、キミみたいなヤツが、何もしてないなんて、そんなわけ……」
先輩「……」
会長「え、逆になんで? なんで何もしてないの?」
先輩「……とき……――まり…………」ゴニョゴニョ
会長「ふんふん、『いざというとき、あんまり手馴れすぎてて』?」
先輩「……でる……ずか……ぃ……」ゴニョゴニョ
会長「『遊んでると思われたら恥ずかしいし』?」
先輩「……」コクン
会長「……ば???っかじゃないのかキミは!?」
先輩「うっ……うるせーうるせー!」
249:
会長「なーにが、『遊んでると思われたら恥ずかしい』だ! 遊んでるじゃないか! 遊びすぎて真っ黒じゃないか!」
先輩「誰が真っ黒だっ! 全然きれーな色してるっつーの!」
会長「内面! 内面が真っ黒なんだよ! 完全に汚れきってるだろうが!」
先輩「汚れてないですー! 処女ですー! 理論上は処女ですうぅー!」
会長「処女! 言うに事欠いてショジョ! ガバガバのくせに、ガッバガバのくせに! どれだけ厚かましいんだこのビッチは!?」
先輩「だだだ誰がガバガバだっ! この腹黒ヅカモドキ!!」
会長「はははは腹黒ヅカモドキぃぃ!? キミぃ! 言って良いことと悪いことが――!」
ギャーギャー
ワーワー



250:



先輩「……」ハー ハー
会長「……」ハァハァ
先輩「……あーもう、分かったよ! アンタには頼まねぇ!」
会長「……」
先輩「はぁ……、邪魔したな」ガラッ
会長「……先輩クン」
先輩「ん」
会長「私は……、私は反対したんだ。伝統ある部活動だからって……」
先輩「……」
会長「ちゃんと、真面目に取り組んでいる生徒もいるって、反対したんだ! だけど……!」
先輩「いいよ、会長。分かってる」
251:
会長「……」
先輩「ありがとな」
会長「……キミは……」
先輩「んじゃな」
ガララ
パタン
会長「……キミは、変わったな」
会長「……」
会長(……私も)
会長(恋人探すか……)ハァ



252:



?帰り道?
後輩「はぁ……」トボトボ
先輩「元気出せよ。別に、本が読めなくなるわけじゃねーだろ」
後輩「それは、そうですけどぉ……」
先輩「……」
後輩「文芸部、好きだったのに……」
先輩「……そうだなー」ナデナデ
後輩「うぅ……」
先輩「……あー、それじゃあ、さ……」
後輩「……?」
253:
先輩「ふたりで、プチ文芸部、やる?」
後輩「ふたりで?」
先輩「放課後にさ」
後輩「……」
先輩「わ、私のウチ、とかで……」
後輩「……!」
先輩「……」
後輩「……あ、あの」カァァ
先輩「いや、べ、別に変なアレじゃなくて――」
254:
後輩「先輩!」
先輩「お、おう……」
後輩「よ、よろしくお願い……します……」
先輩「……」カァァ
後輩「……」カァァァ
先輩「……後輩」
後輩「……」
先輩「行こっか」
後輩「はい」



255:



?アフター おわり?
256:
これで、このssは本当に終わりです
お読みくださった方、ありがとうございました
お付き合いありがとうございました
259:
よければ前作も教えて欲しいな
26

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