井之頭五郎「このおにぎり不真面目な味」美希「えー……」back

井之頭五郎「このおにぎり不真面目な味」美希「えー……」


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1:
このところ、煙草の煙とともに溜め息ばかり吐いている気がする。
 忙しい割に小口の商売ばかり続いているせいか……。
 今日も午前午後合わせて6件の仕事をこなさなければならない。
五郎「一足先に師走が来たか……」
 もうすぐ12月か……。
 ついこの間年を越した気がするのに。
五郎「ううー……寒いな……」
 北風が骨身にしみる。
 見上げれば、空は灰色。せめて晴れてくれれば気力も湧いてくるんだが。
 こう寒いとなんだか……
五郎「なんだか……腹が減るな……」
2:
ーーーー
 井之頭五郎は、食べる。
 それも、よくある街角の定食屋やラーメン屋で、ひたすら食べる。
 時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき、彼はつかの間自分勝手になり、「自由」になる。
 孤独のグルメ──。それは、誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為だ。
 そして、この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の「癒し」といえるのである。
『孤独のグルメ』
4:
都内某所 喫茶店
五郎「では、発注するのはこちらのテーブルでよろしいですか?」
「はい。ありがとうございました。何から何まで……」
五郎「確か、ショップのオープンは一月末でしたね?」
「はい、そのときは是非。では……」
 会計を手に席を立とうとしていたので、呼び止める。
五郎「ここのお代は私が。お客様に出していただくわけにはいきませんので」
「なんだかどうも……ありがとうございます」
5:
店を後にする顧客を見送って、俺はホッと息を吐いた。
 小口の仕事であっても、商談成立は嬉しいものだ。
 これで今日の仕事は終了。くたびれた。
五郎「まあ夜は夜で別の案件をこなさいといけないが……」
 今日は久々に事務所飯か……。
 その前にここで何か甘いものでも食べていくか。
6:
五郎「チョコバナナタルトと……紅茶のセットを」
店員「かしこまりました」
 自分へのご褒美……なんてのは柄じゃないが、たまにはいいかもしれない。
五郎「ここは全席禁煙だったか……?」
 店内を見回そうと顔を上げ、そこでようやく気づいた。
 二つ離れた席に座った制服姿の少女が、何故か不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている。
8:
五郎「……こんなところで何をしてるんだ、響」
響「お茶」
 そこにいたのは765プロダクションのアイドル、我那覇響だった。
 簡潔に答えると、彼女は当然のように俺の向かい側に座った。
 このツーショット、他人にはどう見えるんだろう。何故だか不安になる。
五郎「学校帰りか?」
響「うん」
五郎「真っ直ぐ帰りなさい」
9:
響「これから事務所に行かないといけないんだよ。だからちょっと時間潰そうと思っただけ」
 あまりうるさく言うつもりはないが……この前の雪歩みたいに変な奴に絡まれても知らないぞ。
 しばらくして運ばれてきたタルトを見て、響は「それ美味しそうだな……」と物欲しげに呟いた。 
五郎「……すみません。これと同じセットをもう一つ」
11:
…………
響「そういえば、今度社長がまたゴローに仕事頼むかもしれないって」
 タルトを頬張りながら響は言った。
五郎「食べるか喋るかどっちかにしなさい」
響「うー……今日のゴローうるさい……」
 そういう日もある。
五郎「……仕事? 年末年始にライブでもやるのか?」
響「それもあるんだけど、その前に単独ライブをやる子がいてさ。多分そっちだと思う」
 やはりか。
 仕事を選り好みするつもりはないが、そういうのはもっと大手に頼めばいいだろうに。
12:
五郎「まあ、俺の仕事はほとんど仲買みたいなものだからな……」
 ぼやきながら、タルトを一口。
 甘い。美味い。
響「ちなみに自分もステージに立つから見に来てくれてもいいぞ!」
五郎「単独ライブなのにか?」
響「バックダンサーとしてね」
五郎「まあ……行けたら行くよ」
響「それ絶対来ない人の返事だぞゴロー……」
15:
五郎「考えてもみてくれ響。四十を越えたおっさんがアイドルのライブを1人で見に行く切なさを」
響「えー? そういうファンの人、けっこう見るけどなぁ」
 それはきっと選ばれし者たちなんだ。俺はそこまで強くない。
五郎「それはそうと、単独ライブってことはかなり人気のある子なんだな」
響「うん。ちょっと変わってるけどすっごく可愛いぞ! まあ、顔合わせることもあるんじゃないかなぁ」
五郎「名前は?」
響「星井美希」
16:
…………
 当然、俺がその星井美希なるアイドルを知っているはずもなく、なあなあのまま仕事の依頼を引き受けた。
 後日、高木社長から電話をもらった俺は幾度目かになる765プロへ足を踏み入れべく、扉を叩いた。
五郎「やれやれ……ここの仕事は特別厄介なんだよなぁ……」
「まあそう言わずに」
五郎「うおっ!?」
 背後からかけられた声に驚いて振り向く。
五郎「……驚かさないでください、音無さん」
小鳥「ふふっ、ごめんなさい」
五郎「……それと、今の独り言は高木社長には内密に……」
小鳥「大丈夫です。聞かなかったことにします」
17:
…………
五郎「……では、私への依頼は受付周りのと控え室で使う物品。ステージ関係は別に発注してある……という感じですね」
小鳥「はい。ギリギリになってしまってすみません……」
 音無さん曰く、高木社長は俺の仕事の手際の良さを買ってくれているらしい。
 まあ、そんなに特別な代物を扱う訳じゃないから良しとするか。
18:
五郎「星井美希……という子の単独ライブだそうですね」
小鳥「あ、もしかして響ちゃんから聞きました?」
 何故わかったんだろう。
小鳥「喫茶店でばったり会った、って響ちゃんが言ってたので。なかなか気に入られてるみたいですね?」
 俺も響のことはなかなか気に入っている。タコライス的な意味で。
小鳥「ライブ、見に行ってはどうですか? 特等席をご用意しますよ?」
 あくまで朗らかな微笑みを浮かべながら音無さんは言った。
 勘弁して下さい。
19:
…………
 765プロビルを降りた俺は大きく伸びをして、また溜め息を吐いた。
五郎「今日は徹夜確定だな……」
 今日も事務所に帰る前に飯を買い込んでいこう。なんだかんだ言って、その時間が好きな自分がいる。
「おじさん」
五郎「うおっ!」
 ぼうっとしていた俺は目の前からかけられた声に驚いてしまった。
 
「そこ、通してもらってもいいかな?」
五郎「え……あ、ああ、すみません」
 俺はようやく自分がビルの出入り口を塞いでいることに気づいた。
 年のせいか、注意力が散漫になっているようだ。
 俺はそそくさと脇に避けた。
20:
金髪の、イマドキ風の少女は大きな瞳でじっとこちらを見つめている。
「おじさん、765プロのお客さん?」
五郎「ええ、ライブの打ち合わせに伺いました、井之頭です」
「ふーん……」
 無関心に納得した少女は、大あくびをかましながらビルの階段を上がっていってしまった。
 自分から訊いといてそれはないんじゃないか。
五郎「十中八九、765プロのアイドルだろうな……」
 変わった雰囲気の子だったが、どこか765プロ然としていた。
 ……『765プロ然』って何だ。
22:
…………
美希「みんなー、盛り上がってるー!?」
 熱を帯びていた会場がさらに熱気に包まれる。
 響の言っていた通り、俺くらいの年の男性もかなり見受けられる。なんというか、浮き世離れした光景だ。
 ……俺は夢でも見ているのだろうか。
五郎「……悪夢に近い夢だ」
雪歩「? 何か言いました?」
五郎「いや何も」
 特等席という名の舞台袖で、俺は萩原雪歩と共にステージを眺めていた。
24:
打ち合わせの日に765プロ前で鉢合わせした少女がかの星井美希なるアイドルだと気づいたのは、結局ライブ当日になってからだった。
 舞台の上の彼女はあの気怠げな印象を感じさせないほど生き生きとしていた。
 その人気は推して知るべし、というところか。
 ああいうのをカリスマ、というのだろう。
響「結局来たんじゃないか、ゴロー」
 出番を終えた響がからかうような笑みを浮かべて俺の前に仁王立ちした。
 余裕そうに見えるが、額には玉のような汗がにじんでいる。
 俺は黙ってタオルと飲み物を手渡した。
26:
響「ありがと」
五郎「って、なんで俺がこんなマネージャーみたいなことをしてるんだ」
響「細かいことは気にしない。プロデューサー忙しそうだし、ゴロー暇そうだし」 
 当たり前だ。今日はオフだからな。
 しかし響的にはスタッフとしてカウントされているらしい。解せない。
響「どう? 初765プロライブの感想は」
五郎「こういうのもあるのか、って感じだ」
響「……それ、褒めてるのか?」
29:
…………
 とにかく腹が減っていた。
 ライブの感想……いや、とにかく腹が減った。
 どこか寄って帰ろうという算段をしている最中に高木社長が現れ、ライブの打ち上げに参加していくよう告げられた。
 出演者はもちろん、音響・舞台設営に携わった者はほとんど参加するそうなので、こういう業界を知る良い機会だと思って参加することにした。
 ……断じて「飯が食えればなんでもいいか」なんて思ってはいない。
五郎「……すごいな」
 俺は会議室に並んだ料理の数々を見て、感嘆の声を上げた。
 長テーブルに並んだ料理には節操が無く、明らかに出来合いの惣菜を持ったであろう物もある。
 なんというか、高校の文化祭みたいな、雑な野暮ったさがある。
五郎「なんか……良いな、こういうの」
31:
まあ、出演者たちの年齢層を考えればこういうのが妥当なんだろう。
 並べられたジュースのペットボトルを見て、何やら微笑ましい気持ちになった。
五郎「しかし……何なんだこのおにぎりの山は」
 俺は一際異彩を放つ大皿に目をやった。
 主食だとしてもちょっと多すぎないか。
五郎「中身が気になるな……」
「えっとね、そっちの丸いのが明太子で三角のが鮭、おむすび型のがおかかだよ」
 ご丁寧にどうも。
 振り返ると、そこにいたのは今日の主役だった。
32:
五郎「どうも。今日は素晴らしいステージでした」
美希「えっと……おじさん、前に事務所の前でぼーっとしてた人だよね?」
 間違ってはいない。
美希「えーっと……い、い……イヌバシリさん?」
五郎「井之頭五郎です」
美希「そうそう、変わった名前だから覚えてたの」
 覚えてなかったじゃないか。二文字しかあってなかったぞ。
33:
美希「ふわ……あふぅ」
五郎「お疲れのようですね」
美希「エネルギー切れなの。おにぎり食べれば大丈夫だよ」
 すごいな。おにぎり。
五郎「もしかして、このおにぎりの山は星井さんのリクエストなんですか?」
美希「星井さん、って止めて欲しいな。ミキ、堅苦しいの、ヤ」
五郎「……このおにぎりは君のリクエストなのか?」
美希「君じゃなくて、ミキ!」
五郎「……美希のリクエストなのか?」
美希「そうだよ」
 ……いかん。疲れる。
35:
五郎「丸、三角、おむすび型以外にもおかしな形のがいくつか見えるんだがこれは……?」
美希「それはミキお手製の星形おにぎりなの」
 星には見えない。海苔がすごく歪に貼り付けられている。
 しかしお手製とは驚いた。そこまでおにぎりに情熱をかけているんだろうか。
美希「特別に食べてもいいよ?」
五郎「……じゃあ、ありがたく」
36:
嫌な気配を感じつつも、俺は星形おにぎりを手に取った。
 ぼろり、と星の一片がこぼれ落ちる。不吉だ。
五郎「……いただきます」
 かじって食べるのは無理だと判断し、丸ごと口の中に放り込んだ。
 ……複雑な味だった。
 雑多で野暮ったい。どちらかというとこちらは嫌な野暮ったさだ。
五郎「おかかと、明太子と、鮭と、昆布か」
美希「正解なの! すごいね!」
 ごちゃ混ぜもいいところだ。
 不味くはない。不味くはないが、このおにぎり……
五郎「……不真面目な味」
美希「えー……」
38:
気づけば、遠巻きに見ていたスタッフ数人が訳知り顔で頷いていた。
 同情するなら飲み物をくれ。
響「良かったなー、ゴロー。美希のファンだったら泣いて喜ぶところだぞ」
 またしてもどこからともなく現れた響が、イタズラっぽく笑った。
 その隣にいた雪歩が、困ったような笑みを浮かべながら飲み物を差し出してくれた。ありがたい。
五郎「……そうかもな。しかし言っちゃ悪いが、この星おにぎりは失敗だと思う」
美希「えー? そうかなぁ……」
 崩れゆくおにぎりを器用に頬張りながら、美希は首を傾げた。
41:
…………
 話して見ると、美希は響とも雪歩とも違うタイプのアイドルのようだった。
 例えるなら、二人が犬タイプなのに対し、美希は猫科の類を連想させる。
 なんというか、非常にマイペースだ。
 だからといって取っつきにくいわけではなく、フランクで話しやすいタイプだ。
 そして、確固たる自分の世界を持っている。
 ちなみに、好物はおにぎりとイチゴババロアとキャラメルマキアートだそうだ。
 好みに関しては気が合うかもしれない。
五郎「……って、何冷静にアイドル分析なぞしているんだ、俺は」
42:
ライブの数日後、俺はまたしても765プロへ足を運ぼうとしていた。
五郎「……これで今年は仕事納めだな」
 柄にもなく感傷に浸ってしまう。
 途中、洋菓子店の看板に書かれた『ババロアシュークリーム』という文字が目に入った。
五郎「……よし、手土産でも持って行くか」
 今年は765プロにお世話になったし、来年もお世話になるかもしれないしな。
 ……いや、確実になる気がする。
 そんな予感がした。
43:
765プロの事務所然とした扉をノックする。
五郎「ごめんください。井之頭です。先日のライブの件でお伺いしました」
 そう告げると、中から誰かが駆けてくる音がして、扉が開いた。
小鳥「お待ちしてました、井之頭さん」
五郎「どうも」
44:
小鳥「どうぞ、おかけになってお待ち下さい」
 今日は見積もりの書類を渡しにきただけで時間は取らせないつもりなのだが……まあいい。
 ソファに座り、鞄の中から書類を取り出そうとしたところで、事務所の電話が鳴った。
小鳥「はい、765プロダクションです。……ああ、度々すみません……」
小鳥「ええ……はい。まだ連絡が取れないみたいで……申し訳ありません……」
 その後二言三言謝罪を述べ、受話器を置いた彼女は、しょんぼりと肩を落とした。
47:
五郎「あの、何かあったんですか?」
 訊ねると、一瞬目を丸くした音無さんは、気まずそうに頬を掻いた。
五郎「すみません、盗み聞きするつもりはなかったのですが……」
小鳥「いえ、こちらこそお見苦しいところを見せてしまって……」
五郎「都合が悪いようでしたら、出直しましょうか? 私は別に年明けでも問題ないので」
小鳥「い、いえいえ! 大丈夫です!」
五郎「そうですか……」
小鳥「はい」
五郎「では、こちらが今回の見積もり書なのですが……」
小鳥「…………」
五郎「……あの、音無さん?」
小鳥「…………」
 大丈夫じゃないだろ、これ。
48:
五郎「あの……」
小鳥「! す、すみませんっ! 私ったらぼーっとして!」
五郎「……何があったんですか?」
 余計なお世話かもしれないが、訊かなければむず痒い。
 ……うーん、雪歩の時といい、お節介が習慣になりつつある自分がいる。
小鳥「ええと……実は美希ちゃんの件で……」
五郎「美希?」
小鳥「はい。今日は美希ちゃん、雑誌の取材を受ける予定だったんです。けど、時間になっても現場に来なくって……」
50:
おいおい、どこかで事故にでもあってるんじゃないだろうな。
小鳥「一度電話には出てくれたんです。そのときは一言、『今日はお休みするの』とだけ……」
 そうか……そうなると話は別だ。
五郎「うーん……マイペースで許される話じゃあないですね」
小鳥「でも、何か事情があるんだと思います。ただの気まぐれでこういうことをする子じゃないですから……」
 そう言うと、音無さんは一層肩を落とした。
小鳥「一応先方には連絡をして、『後日でも構わない』という返事は頂いてるんですが……とにかく美希ちゃんが心配で……」
51:
なるほど、俺では役に立てそうもない問題だ。
 俺に出来ることといったら、早くここから立ち去る事くらいだろう。
五郎「見積もり書、渡しておきます。何か不備がありましたらお電話で……」
小鳥「はい。またよろしくお願いします」
五郎「……では、良いお年を」
 今かけるべき言葉ではない気がする。
小鳥「良いお年を」
 どことなく覇気のない音無さんの笑顔を背に向けられつつ、俺は765プロを後にした。
52:
五郎「大変なんだなぁ、アイドル事務所ってのも」
 あの事務所には確か二人プロデューサーがいたっけ。プロデューサーっていうより、俺にはマネージャーに見えたが。
五郎「年頃の女の子の心のケア……俺には無理だな」
 甘いもので釣るくらいしか考えつかない。
五郎「……あっ! しまった、ババロアシュークリーム置いてき忘れた……」
 今から戻るのもかなり気まずい。
 ええい、持って帰ってしまえ。
五郎「夜喰うにしても多すぎるな……どこか公園でも寄って消費するとしよう」
53:
…………
 星井美希がいた。
 たまたま立ち寄った公園に。
五郎「なんだかすごいことになっちゃったな……」
 美希は橋の欄干にもたれて、じっと池を見つめている。まだこちらに気づく様子はない。
五郎「やれやれ……ほっとくのは、音無さんの精神衛生上良くないな」
 それとなく話しかけて探りを入れてみるか。
 俺は微妙に不機嫌そう見える美希にそそくさと歩み寄った。
五郎「音無さんが心配してたぞ、美希」
 ……『それとなく』って言わなかったか、俺。
54:
美希は目だけを動かして俺の方を見た。
 同時に、俺は確信した。これは明らかに不機嫌な顔だ。
美希「何だ、ゴローか……」
 美希はがっかりしたように呟いた。
 俺の名字を覚えることを諦めた美希は俺の事を五郎と呼ぶことにしたらしい。
五郎「誰だったら良かったんだ?」
美希「……」
 ……マズい。してはいけない質問だったか。
 慣れない冗談など言うものではない。
55:
五郎「あー、その……あんまり事務所の人たちを困らせないようにだな……」
美希「…………」
 無言で目をそらされてしまった。
 ……誰か代わってくれ。本当に。
五郎「……何があったんだ?」 
 こうなったらもう直球で勝負だ。
美希「……何もないよ」
五郎「嘘を吐くな、嘘を」
 美希は依然視線を合わせようとしなかった。
57:
無言が続いた。
 ややあって、美希がようやく口を開いた。
美希「ミキ、今日はお休みだったの」
五郎「……ふむ」
 雑誌の取材があったらしいけどな。
美希「ハニーにそう言っておいたの」
 ……ハニー? 何やら甘い響きだ。
美希「ハニーと二人でお出かけしたいからお仕事入れないでね、って」
 ……ん? 何かマズい話を聞いた気がする。
 流石の俺でも感づくことができる。
58:
五郎「……それは、俺が聞いてもいい話なのか」
美希「別にいいよ」
 自棄になってないか、美希。
美希「アイドル、やめちゃおうかなぁ……そしたらハニーはミキのこと、見てくれるかな……それとも、嫌われちゃうかな……」
 寂しげに独白し、美希はまた池をじっと見つめていた。
 あの、穏やかそうな若いプロデューサーの顔が浮かんだ。
 ……大変なんだな。アイドルも、プロデューサーも。
60:
五郎「精一杯アイドルをやって、引退して、その後じゃダメなのか」
美希「そんなの……いつになるかわからないもん……おばさんになってるかもしれないの。ミキは、今のミキを見て欲しいの」
 今の、自分を……。
『私には何かを食べてる時間も落ち着いてる時間もないのよ!』
 ふと、五年前のパリのことを思いだした。
五郎「……美希。俺には昔、恋人がいたんだ」
美希「? 自慢?」
五郎「違う。いいから聞いてくれ」
五郎「彼女は女優だった。努力家な人でな……売れ始めてこれからって時に、二人でパリに旅行に行ったんだ」
62:
美希は依然池を見つめながら、それでも俺の話をちゃんと聞いてくれているようだった。
五郎「滞在中に、彼女が『数年でいいから、二人でパリに住もう』と言い出した」
五郎「俺は言った。『日本で待ってる人がいるんじゃないか。監督、スタッフ、ファンの人たち』」
五郎「パリで遊んで暮らして、その後帰った日本で彼女が成功できるほど女優ってのは甘くないと思った」
 「意気地なし!」って言われたっけな。ふふっ。
五郎「だけど、本音を言えば……俺は、ただ恐かったんだ」
五郎「そこでイエスと言えば、彼女の女優としての人生を俺の手で壊してしまうかもしれない、ってね。我ながら女々しい話だ」
63:
五郎「結局、彼女とはそれっきりだ」
美希「ふーん……」
 美希は考え込むように俯いた。
 無関心、ってわけでもないようだった。
五郎「そのハニーさんも、美希の夢を自分の手で壊しちゃいけないって、慎重になってるのかもしれない」
五郎「あんまりせっかちにならない方がいい。適度に生き急ぐんだ」
美希「なんか……よくわかんないの」
 うむ。自分でもよくわからない話だったからな。
 それにしても……一人語りなんて久しぶりだ。
 久しぶりに話し続けたら、なんだか……
五郎「なんだか……腹が減った」
64:
五郎「そうだ。これでも喰うか」
 俺は765プロに置きそびれた手土産のことを思い出した。
美希「何それ?」
五郎「ババロアシュークリーム」
美希「美味しそうなの!」
 一転、目を輝かせ始める美希。
 現金な奴だ。
 適当なベンチに腰掛け、美希にシュークリームを一つ手渡した。
五郎「なかなかボリュームがあるな……」
 ババロアがどう入っているかが気になる。
 分析している横で、美希は既にシュークリームを頬張っていた。
五郎「…………」
美希「?」
五郎「いや、何でもない」
65:
五郎「シュークリームもなかなか手強い食べ物なんだよな……」
 クリームをこぼさないよう加減しつつ、一口。
 ……ひたすら甘い。そして、俺はどうやらババロアにたどり着けていないらしい。
 めげずにもう一口。
 クリームのなめらかさ以外に、ツルンとした食感がある。
 掘り当てた、ババロア。
五郎「なるほど、こういうタイプか。これはいいな……」
 シュークリームは、大きく頬張るのがロマンだ。
66:
…………
五郎「じゃあこの残りのシュークリーム、事務所でわけてもいいし、一人占めしてもいいから」
美希「ありがとなの!」
 あ、一人占めする気だこれ。
五郎「ちゃんと音無さんに謝るんだぞ」
美希「……うん」
五郎「それと、応援してるからな」
 今日の話は聞かなかったことにするけど。
67:
去りゆく美希の背中を見つめる俺は、なんとも複雑な心境だった。
 これから先……彼女はどうなるんだろう。期待半分、心配半分。
 良い変化が彼女に訪れることを祈るばかりだ。
五郎「俺みたいになるなよ、プロデューサー君」
 そう呟いて、俺は立ち食いそば屋の暖簾をくぐった。
終わり
70:

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