モバP「なぁ、春香」back

モバP「なぁ、春香」


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1:
“あるところに、とても優秀なプロデューサーがいました”
“それはそれは、腕の立つプロデューサーでした……”
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416929710
2:
なぁ、春香。
あれから何年経った?
まだ、俺のことを待ってくれているのか?
3:
――――――――
―――――
――
4:
『あのっ、プロデューサーさん』
『サヨナラする前に、少し外、歩きませんか? 話したいことが……』
6:
『私、決めました。これから先…どうするのか…』
『私、もうアイドル……』
『…やめてもいいかなって、思ってました』
『けど、やっぱり続けることにしますっ』
7:
『プロデューサーさんっ。これからも、ずっと私といてください!』
『お別れなんてイヤです!』
8:
『アイドルとしての将来の方が、私の気持ちより、大切なんですか……!?』
9:
――――――――
―――――
――
10:
彼女を大切にしていたのは、それが仕事だったから?
いや、きっとそうじゃない。
そうじゃないのは分かっている。
でも、そうだって言い聞かせなければ、
11:
『私にとって、生涯ただひとりの、代わりのきかない人ですから』
12:
そうだって言い聞かせなければ、あの時彼女を突き放した理由がない。
理由を作って、自分を責めなければ、
この渇きにも、耐えられない。
13:
未央『ねぇねぇ、プロデューサーがさっき一緒にいたの、765プロの春香ちゃんでしょ?』
未央『なんだか親しげだったけど、仲いいんだね?』グイグイ
モバP『ああ……まあな』
未央『なんで?ちょー気になるぅ』ズイッ
凛『いや別に、当然でしょ。だって……』
卯月『プロデューサーさん、昔765プロにいらっしゃったんですよね?』
14:
未央『……え?』ポカン
卯月『って、未央ちゃん知らなかった?』
モバP『卯月、その話は……』
未央『へぇーっ!何それ初耳だよ!!』
凛『なんだ未央、知らなかったんだ』
15:
未央『聞きたい!プロデューサーの武勇伝、話してー!』
モバP『いや、ホントに黎明期の一年弱だけだよ』
モバP『俺がプロデュースしたのも天海春香だけだから……』
未央『えぇーー!!春香ちゃんのプロデューサーだったの!!?』
16:
『は?って、おい、それ……ヤバい意味じゃないだろうな?』
……俺に、彼女のプロデューサーを名乗る資格はない。
17:
――――――――
―――――
――
18:
のあ『ヘルマン・ヘッセはこう言ったわ』
のあ『私がとても愛している徳がたったひとつある。その名は“我が儘”という』
のあ『ふふ、貴方はヘッセの生まれ変わりかしらね……』
モバP『……俺が我が儘って言いたいんですか』アハハ
19:
のあ『さあね。……貴方ほど、欲しがりな人も、また珍しい』
モバP『この業界は、貪欲な奴だけが上がっていけますから』
のあ『そうじゃないわ』
のあ『貴方は、誰が見ても、満ち足りているというのに……』
のあ『まだ、迷子のように何かを探し求めている』
のあ『……これ以上、一体何が、貴方の渇きを癒せるのかしら』
20:
――――――――
―――――
――
21:
春香は特別容姿に恵まれた訳でも、歌が飛びぬけて上手いこともなかった。
彼女を売り出すのは、苦労ばかりだった。
朝の挨拶一つに文句を言い、
仕事の前日に夜更かしはする、その仕事の出来は不安定。
俺が新米だったのもあっただろうが、素材に対しての苦悩が多かったのも事実だ。
22:
それでも、楽しいと思えることが多かった。
ランクアップを祝って、ささやかな祝勝会を開いたり、
仕事の合間にアトリウムに二人で行ったりしたこともあった。
23:
『プロデューサーさんっ!ドームですよっ!ドームっっ!!』
24:
それから、765プロから独立した俺は、
まだ立ち上がったばかりだったCGプロに誘われて、
可愛い、個性的なアイドルを何十人とプロデュースしてきた。
捉えにくかったり、少々癖があったりするアイドルだって、
きちんと最良の方法で導いてきた。
25:
CGプロは加度的に展開していった。
もはや今のアイドル業界で、CGプロに圧力をかけられるような事務所は無い。
765プロという強力な存在もあるが、実力で言ったら恐ろしいのは、春香ぐらいだ。
26:
今のCGプロには全てが揃っている。
立地の良い事務所。
優秀なアシスタント。
アイドルだって粒ぞろいだ。
まだ小学生の子から、俺と、大して年齢差の無い大人の方まで、層も厚く。
……俺を慕ってアイドルをしてくれている子もいるぐらい。
27:
当然だが、プロデュースの方もそれなりに結果を出せている。
日本中に知られていると言ってもいい、CGプロの顔、“シンデレラガール”を三人輩出した。
この前、765プロを抑えて頂点に立ったユニットも、俺のプロデュースだ。
28:
だが――――
だが、今の俺にはどの子も、あの頃のような熱量で、プロデュース出来ていない。
Pくん、Pさん、Pちゃん、なんて、呼ばれても。
俺は彼女たちを、しっかりと見つめることが出来ないまま。
29:
―――俺は、間違っていたのか?
30:
なぁ、春香。
正しいと言ってくれ。
間違っていないと、笑ってくれ……
31:
――――――――
―――――
――
32:
卯月「なんだか元気ないですね」
モバP「ん?……そんなことないよ」
卯月「そんなことありますよ」
卯月「ここ最近、そんな風にぼーっとしてるプロデューサーさんを、よく見ます」
モバP「あはは、ごめんごめん」
モバP「この年になると、“今まで”とか“これから”とか、よく考えちゃって」ハハ…
33:
卯月「春香ちゃんですか……?」
モバP「……へっ?」
卯月「……プロデューサーさんが悲しそうなの、春香ちゃんと関係があるんですか?」
モバP「えっと、卯月……?」
卯月「私が何も気付いてないと思っているんでしょう」ツーン
34:
モバP「あはは、参ったな」
卯月「他の子を誤魔化せても、私はそうはいきません」プクー
卯月「この事務所じゃ、私が一番付き合いが長いんですから」フンス
モバP「……どうして分かったかな」
卯月「だって、プロデューサーさん、雑誌とか、いつも春香ちゃんの記事で手を止めてますから」
35:
卯月「話して下さい」
モバP「どうしてもか?」
卯月「こんなこと言ったら、良くないのかもしれませんけど……」
卯月「……不安なんです。私、プロデューサーさんに全然信頼されてないんじゃって」ウツムキ
モバP「卯月……」
36:
モバP「……」ハァ…
モバP「かつて……とても大切な人がいた」
モバP「お互いの将来のために、一度別々の道を歩むことを、決めたけど…」
モバP「結局、別れ際に、伝えなきゃいけない気持ちも、言葉も、言えなかった」
37:
モバP「彼女と別れる時、“強くなりたい”って思った」
モバP「彼女を守れるくらいに、遠く離れてもその気持ちを無くさないぐらいに」
モバP「……実際は、そんな清潔な願いは、現実に負けて薄れていったんだけど」
38:
モバP「強い後悔と……“もっと上に、もっと先へ”」
モバP「“ここは自分の居場所じゃない、こんな自分は認めない”」
モバP「そんな、切迫感だけは残ってしまった」
39:
卯月「……話してくれて、ありがとうございます」
卯月「……」
卯月「プロデューサーさんは、優しいですね」
卯月「優しくて、責任感が強い人なのに、本当はすごく弱くて」
卯月「……ときどき、目の前の女の子からも逃げちゃう」
40:
卯月「でもきっと、そんなプロデューサーさんのことが、事務所のみんなは大好きなんだと思います」
卯月「事情は分からなくても、みんなプロデューサーさんのことが大好きなんです」
卯月「だからもう、昔の自分を許して……」
卯月「今、ここにいる私たちと、一緒に前を向いて生きましょう?」
41:
「私たちだけの思い出を、新しい何かを、一緒に始めませんか」ニコッ
42:
――――――――
―――――
――
43:
ちひろ「あっ、プロデューサーさん、変わったお手紙が」
モバP「手紙……?」
ちひろ「ええ。この前のニュージェネレーションのライブのプレゼントボックスに入っていたんです」
スッ
モバP「……たしかに、“プロデューサーさんへ”って」
ちひろ「プロデューサーさんにもついに、ファンが出来たんじゃないですか」アハハ
モバP「いやぁ、出来るとしたら俺より先にちひろさんですよ」
ちひろ「あら、ちょっと嬉しかったりして」
44:
その可愛らしい桜色の封筒には、名前が記されていなかった。
だけど、間違いなく、その筆跡も、言葉づかいも、春香のものだった。
45:
プロデューサーさんへ
お元気ですか?
はじめに、ワールド・アイドル・ノヴァに、私を推薦してくださったこと、感謝します。
聞きましたよ、最終選考の会議で、「天海春香がいいんじゃないか」と、ひと押し下さったって。
おかげで、私は世界の舞台に立てることになりました!
えへへ、世界の天海春香ですよ!
46:
―――
あの時あなたが、私に伝えたかったこと、やっと分かってきたと思うんです。
アイドルは誰のものでもないって。
私も、たくさんステージに立って、765プロもたくさんの仲間に助けられて、
その中で、もっと私が大切にするべきものが、ちゃんと考えられるようになった気がします。
47:
だから、もし、
もしも……私の言葉が、私の存在が、今のあなたを苦しめているならば、
私のことなんか忘れてしまってください。
今はあなたの周りには、大切にしなければいけない人がたくさんいると思うんです。
どうか、彼女たちの想いを無碍にせず、
私にしてくれたように、
気持ちに、真剣に向き合ってあげて下さい。
あなたは優しくて、臆病だから……きっと上手に逃げてしまえるのかもしれないですけど。
……なんて言ったら、怒っちゃいますか?
48:
でもでも、私がいつか、ただの天海春香になって、
あなたとまた向かい合える日がきたら、伝えたい言葉が、やっぱりあるんです。
それ以上は、ここには書きません。
追伸 プロデューサーさんは、明日へのヒント、見つけられましたか?
49:
何度も何度も、読み返した。
こんな矛盾だらけの文章を、海外へ行く直前の彼女が、どんな気持ちで書いたのか……
手紙から、言葉からまるで、温度が、表情が、伝わってくるようで。
こみあげるものを必死にこらえながら、
うるんだ視界で、その可愛げな小さな文字が、ぼやけて消えた。
50:
凛「……プロデューサー?」
事務所のドアが開く音に、気がつかなかった。
モバP「り、凛…!」アタフタ
凛「待って」
凛「……感情を抑えつける必要なんてない」
51:
凛「私も伝えるのが苦手だし、表現するのだって下手だけど」
凛「プロデューサーの気持ちを見せて」
モバP「……俺が悪いんだ」
凛「そうやって、優しい態度で誤魔化さないで」
モバP「俺は……」
モバP「俺は……自分がずっと許せなかった……っ…」ポロポロ
凛「……これ」つティッシュ
52:
泣きたいわけじゃなかった。慰めてほしいわけじゃなかった。
それでも、意識とは無関係に感情はあふれ、止まらなかった。
53:
未央「プロデューサーっ!!」ガバッ
モバP「……!!」
未央「ごめんね、ドアの外で、二人の声が聞こえて」
未央「でも、私、いてもたってもいられなかったよぅ……」ギュゥゥ
モバP「……未央、すまなかった」
モバP「今まで……ちゃんと見てやれなくて……ごめんな……」
未央「ううん……」ギュゥゥ
54:
それから、微熱のような波が止まるまで、
凛と未央の小さな手が、ずっと右手に重ねられていた。
55:
――――――――
―――――
――
56:
それから少しだけ、時は経って――
57:
居酒屋・女子会
瑞樹「なるほどねー、最近ニュージェネとプロデューサーの距離感が変わったと思ったら……」
楓「……それにしても、ちひろさん、なんでも知ってるんですね」
ちひろ「まあ、事務所にいると色々な声を聞きますからね」ハハ…
ちひろ「あ、それと、今の事はみなさんが大人だからお話したんですよ」
瑞樹「ええ、もちろん。そこまでヤボじゃないもの」
58:
楓「春香ちゃんかぁ……大スターじゃないですか」
瑞樹「そうねぇ……」
楓「……神さま」
楓「神さま、エントツをひとつ」
楓「私の心にエントツをひとつつけてください」
59:
楓「この手に負えないジェラシーを 追い出したいのです」
楓「でないともうすぐ、心がまっくろにすすけてしまいます……」
瑞樹「分かるわ」
ちひろ「楓さん、相変わらず酔いが良いですね」
楓「あっ、ちひろさん、それなかなかグッドです」フフ
60:
瑞樹「でも、プロデューサーも結構ピュアな所があるのね」
楓「……たしかに」
楓「初恋、憧れ、信じる心……」
ちひろ「かけがえのない想いを抱える少女たち……」
「「「いいわぁ?」」」
61:
楓「世界は永遠に続く音楽、なんていうのはどうですか?」
楓「結果は新しい原因となって、また新しい結果を生む」
楓「人はゴールの無いマラソンを、過去と並走しながら生きるの」
瑞樹「でもでも、過去に囚われているのと、」
瑞樹「過去を大切にするのとでは違うでしょ?」
ちひろ「過去……川島さんが言うと重みがありますね」
瑞樹「ちょっとやめてよ?!」キャピ☆
62:
――――――――
―――――
――
63:
運命や偶然、宿命と、私たちによって名づけられたものごとがある。
だれに出会って、だれと恋をし、だれと別れ、
何を得て、何を失い、どんな道を歩き、どのように生をまっとうしていくか。
自分自身のことであるのに、あまりに理解不能で、
神秘的で、計算不可で……
そのことに慄いて、私たちはそのような名づけや、定義付けを行うのかもしれない。
でもそんな言葉じゃ、生きることに関わる大きなことは、
言葉の持つせまい意味ではとらえられず、言葉からあふれ出てしまう。
64:
年末・CGプロ事務所
モバP「……どっか飯でも食いに行くか」
きらり「うぇへっ!?」
杏「えぇー?どったのプロデューサー、珍しいね」
65:
モバP「ちひろさんも、どうですか、よろしかったら」
ちひろ「ええ、いいですよ。もちろん♪」
杏「いってらっしゃーい」
モバP「お前も行くんだ、杏」
ヒョイッ
杏「うひゃっ!?」
66:
モバP「おお、軽い軽い」
杏「何するんだ、降ろせぇー!!セクハラだぞーっ!!」ギャー
きらり「いいなー杏ちゃん!Pちゃん、きらりも抱っこ☆してー!!」ガバッ
モバP「うおっ、ちょい待てっ!」グラッ
ドシーン!
モバP「あははは……杏すまん、平気か?」
杏「まったく……いきなり陽気なオッサンぶるからそうなんの……」
67:
ちひろ「さ、行きましょう」ニコニコ
きらり「Pちゃん、行くお店は決まってるのかにぃ?」
モバP「ああ、鍋が美味しい店があるんだ」
杏「空腹で死にそう。早く連れてって?」グデー
モバP「よし、しゅっぱーつ!」
「「おー!」」「おー……」
68:
追伸の追伸 
明日へのヒントが見つかったなら、いってらっしゃいです!プロデューサーさん!
69:
きらめく舞台で、強くなる努力を一途に重ねていた君。
軽やかに、世界の頂点を目指そうとしている君――。
……いつか
いつか、あの時、君から受け取った大切な気持ちを、
返せる日が来たらと、願っている。
70:
おしまいです。
夜遅くまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
71:

良かった
7

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