ハルヒ「……変身」back ▼
ハルヒ「……変身」
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1:
本日はどうやら、最高の幸運に恵まれているらしい。
今日も今日とてハルヒに不思議探索をすると呼び出され、正直な所相当の憂鬱を抱えていたのだが、朝比奈さんとペアになれたのならば話は別である。
ペアになれたのは久しぶりですねなどと話しつつ、この際だから思い切って今度一緒にどこか行きませんかと誘おうか、なんて事を考えていた。
その時、俺の横を歩いていた朝比奈さんが唐突に足を止める。
どうかしましたか。
訪ねるが、朝比奈さんは答えない。
彼女の視線の先へ目を向けると、どこかのビジネスマンだろうか、高そうなスーツに身を包んだ2人の男が立っていた。
お知り合いですか、朝比奈さん。
朝比奈さんは、無言で俺の手を取った。
4:
「逃げましょう」
朝比奈さんは柄にもなくきつい声で――と言っても小声でだが――言った。
いきなりそう言われても面食らう。
あれですか? あれは敵対組織か何かですか?
朝比奈さんは、俺の質問には答えず、普段からは想像も付かない力で俺を引っ張った。
ちょ、ちょっと、朝比奈さん?
朝比奈さんは俺の腕を引いて近くの裏道へ走る。
何なんです? 大きめの声で訪ねるが返事はなかった。
そして人通りのない裏道に入った所で、またしても彼女は足をストップさせる。
先程の2人組と同じ格好をした男が、その小道の奥に立ちふさがっていたからだ。
朝比奈さんは路地から出ようとするが、出口にはさっきの2人が現れていた。
「……」
唇をかみしめる朝比奈さん。
事情は判らないが、相当にまずい状況らしかった。
路地の奥に立つ男が口を開く。
奴は、低い声で言った。
「処分する。裏切り者のオルフェノク」
――と。
7:
裏切り者、オルフェノク。
何の事だがさっぱり判らなかった。
俺の腕を指が白くなる程強く握り締めている朝比奈さんを見やると、彼女は言った。
「大丈夫です」
俺が知る朝比奈さんからは想像も付かない、堅い決意を秘めた声で。
「わたしが守りますから」
「行くぞ」
路地の奥で仁王立ちする男が声を上げた。
それに呼応するように俺達の背後を塞ぐ2人が距離を詰めてくる。
朝比奈さんは、ゆっくり俺の腕から手を離して、肩から下げているバックを開けた。
そして、恐らくは鋼鉄製だろうベルトを取り出す。
金属が擦れ合う独特の音が鳴った。
目を瞬かせる俺を尻目に、朝比奈さんはそれを腰へ付ける。
前後から迫ってくる男達と俺達の距離は、既に5メートルもなかった。
朝比奈さんは続いて、大きな携帯電話を取り出す。
男達がニヤリと汚い笑みを浮かべた。
「ベルト持参か。手間が省ける」
彼らは冷たい声で言う。
朝比奈さんはチラと俺の方を悲しげな目で見、それから携帯のボタンを4度押した。
低音の電子音が路地に木霊し、低い電子音声がコンクリートの通路に響き渡る。
『STANDING BY』
朝比奈さんは、頑丈そうなその携帯電話をベルトのバックル部に突き立て、左へ倒した。
コンプリート――と低い電子音声が告げる。
朝比奈さんの豊満な肉体をなぞるかの如く、金色の光が走っていった。
眩しくて思わず瞼を閉じる。
目を開けた時、俺の隣に立っていたのは――Xが刻まれた仮面を付け、黒のスーツの上に灰色とオレンジの鎧を纏った人間だった。
9:
未来人……ってのは、こんなものまで作ってるのか?
一瞬呆けた俺の精神を、男達の嘲笑が再び覚醒させる。
「反逆者とそれに関わる者は、抹殺する」
その言葉と同時に、3人の男も自らの姿を変えた。
な――口から驚愕とも悲鳴ともつかない声が漏れる。
朝比奈さんが変わった姿とは違う。
彼らの姿は、まるで化け物だ。
全身灰色で、獣を無理矢理ヒト型にしたような姿をしている。
朝比奈さんが、ベルトの脇に取り付けられている十字型の器具を取った。
携帯から外したチップをそれに差し込み、某宇宙戦争の騎士が使うような光の刃を出現させる。
前後の男達――いや、今となっては怪物達、と言った方がいいか――が一気に襲い掛かってきた。
姿を変えている朝比奈さんが、俺を路地の壁へ押し付ける。
どこからともなく取り出された怪物共の剣が、全て変身バージョンの朝比奈さんへ叩き付けられた。
「う……ぐ」
噛み締めるような悲鳴が零れる。
朝比奈さんは、前から斬り掛かってきた怪物2人の刃を自分の剣で受け止めていた。
しかし、背後からの1人の刃はもろにその肩へ食い込んでいる。
10:
白騎士かザムザかと思った・・・
18:
助けなければ、と言う声が脳内で響く。
姿は変わっているが、攻撃を受けているのは朝比奈さんなんだ。
俺は、反射的に後ろから朝比奈さんへ斬りつけている怪物へ体当たりしていた。
相手は想像以上に重たかったが、それでも何とか押し飛ばす事に成功する。
俺の後ろで闘う朝比奈さんの方で、エクシードチャージ――と電子音声が言った。
そちらへ目をやると、朝比奈さんは、一瞬驚いて隙を作っていた怪物の1人を光の剣で両断している。
「キョン君!」
悲鳴にも似た声で朝比奈さんは俺を見て叫ぶ。
え、と思わず間の抜けた声を漏らす俺は、思い切り地面へ叩き付けられた。
さっき体当たりした奴が、お返しとばかりに俺を殴り飛ばしたのである。
馬乗りになられ、剣を突き付けられた。
「貴様ァ」
マウントポジションで俺を見下ろす怪物の横の壁に、そいつの人間体と思われる姿が映し出される。
「よくも」
怪物は、猛々しく俺の喉へ剣を振り下ろそうとした。
だが、怪物は俺を殺せない。
奴が剣を振り下ろすより先に、奴の胸を大きなメリケンサック――のようなもの――をはめた右手で朝比奈さんが殴り付けたからだ。
怪物は小さく呻いて、俺の上で灰になって行く。
「大丈夫ですか!」
黒とオレンジの鎧を纏った朝比奈さんは、俺を抱き起こした。
残った怪物の1人が逃げて行くのが、彼女の肩越しに見える。
19:
元の姿に戻った朝比奈さんは、ハンカチで俺の口元の血を拭ってくれた。
彼女のハンカチで顔を拭いてもらえるなんて、普段ならば躍り上がりたい気分になる所だが、生憎と今回はそうなれない。
怪物に殴られて痛む頬を押さえつつ尋ねた。
朝比奈さん。あの怪物は何なんですか?
「それは、僕からお話しましょう」
突然、背後で聞き慣れた優(やさ)い声がした。
驚いて振り向く。
古泉。
「はい」
奴は普段よりも少しだけ強張った笑顔を浮かべて路地に立っていた。
「一部始終を見させていただきました」
って事は、俺達が襲われているのを黙って見てたって事か。
「済みません。僕には彼らと闘う力はないもので。出ていったところで足手まといになるだけだと判断しました」
まあ……それは正しいんだろうが。
古泉は言葉を続けた。
「あなた達を襲った怪物達は、オルフェノクと言う新人類です」
オルフェノク?
「そうです」
俺はある危惧を覚えた。
まさか、ハルヒが――。
「いえ」
古泉は首を横に振った。
「涼宮さんが彼らを作り出した訳ではないと思います。恐らくは、この世界で自然に生まれた新たな生命種――と言ったところでしょう」
長門さんもこの見解を支持しています、と古泉は付け足す。
「そう、か」
少しほっとした。
あの怪物、オルフェノクは何か――俺達以外の人間も襲っているような気がしていた。ハルヒが作り出した訳じゃなくて……よかった。
20:
「あともう1つ」
古泉は俺の腕を掴み、俺を自分の方へ引き寄せた。
おいおい、お前やっぱりそう言う趣味だったのか?
「そうではありません」
固めの笑顔で古泉は言う。
「朝比奈さんが腰に巻いているベルト、あれはカイザギアと言って、カイザと言う存在に変身する為のものです」
カイザ……朝比奈さんがさっき変わった姿か。
「はい。そして」
古泉は一旦言葉を切り、それから重い口調で言葉を編んだ。
「カイザに変身して無事で済むのは、オルフェノクだけです」
――え?
一瞬、古泉の言っている事が理解出来なかった。
「カイザギアは、元々オルフェノク達が自分達で使用する為に作ったもの。人が使えば、その負荷に耐えきれず、体が崩壊するのです」
ど、どう言う意味だ。
頭がみるみる混乱して行く。
古泉は目を伏せた。
「もう1度、言います。カイザギアはオルフェノク専用で、だから、人が使えば死にます」
古泉の声は、震えている。
「つまり――使用して生きている朝比奈さんは、オルフェノクです」
22:
「来て下さい」
古泉は強く俺を朝比奈さんの反対方向へ引っ張った。
おい、ちょっと待てよ。朝比奈さんが人間じゃないって――。
奴は、朝比奈さんへ言った。
「オルフェノクは、人類の敵です。例えあなたと言えど、オルフェノクである時点で、我々の敵です」
おい古泉! お前何言ってるんだッ。
古泉は、俺の名前を呼んだ。
「――あなたを、化け物の傍へおいておく訳にはいかないんです」
そう言った古泉の頬には、雫が伝っている。
俺は朝比奈さんを見やった。
「行きますよ」
優男然とした外見からは想像出来ない力で、古泉は俺を彼女から遠ざける。
待て古泉!
朝比奈さんは――。
怪物に殴られた後遺症で脚に充分な力を入れられない俺は、なす術なく古泉に引きずられていった。
最後に見た朝比奈さんは、古泉と同じく――或いは古泉以上に泣いていた。
23:
わたしは夕方の街を1人で歩いている。
空は厚い雨雲で覆われて、雨が降り始めていたけれど、コンビニで傘を買う気にもなれなかった。
キョン君と古泉君に正体を見られた――その言葉が繰り返し頭の奥で点滅する。
止まらない涙を、悪あがきで拭った。
どうせ、いつかはばれるかも知れなかったんだ。
それに或る意味、良かったのかも知れない。
わたし自身、彼らを欺き続ける事に、限界を感じていたから。
そんな――ポジティブな事を、考えられるまでに思考は回復した。
でも、やっぱり涙は止まらない。
わたしは、これからどうすればいいんだろう。
あてもなく街を歩き続けた。
気が付くと、人気のない裏通りへ出ている。
帰ろうか――と、そう思う。
いえ――と即座に打ち消した。
自宅には既に人間の手が回っているだろう。
わたしに行く所はないんだ。
少しだけ苦笑して、足を止める。
その時。
背中で本当に小さく、トンと音が鳴った。
24:
「……え?」
両膝から力が抜ける。
わたしは地面へ倒れ込んだ。
「ごめんなさいね。朝比奈みくる」
どこかで聞いた事がある、女性の声。
「カイザギア、わたしが頂くわ――」
体に力が入らなかった。
背に焼け付くような痛みが襲ってくる。
刺された――?
わたしのバックが漁られる。
カイザのベルトが抜き取られた。
動かない体を無理矢理動かして、強奪犯の顔を見る。
「な……」
口から驚愕の音が零れた。
「朝倉――さん」
蒼の長髪に独特の眉毛、学校でのわたしの後輩。
彼女は、わたしの胸ぐらを掴み上げた。
「ねえ、残りの2本のベルトの所在、教えてくれない?」
悪魔みたいに、朝倉涼子は微笑む。
「い、言えません……」
喉奥からこみ上げる血を無理に飲み込んで言った。
「そう?」
彼女はくすくすと笑う。
そして、わたしから奪ったベルトを自らの腰へ付けた。
「じゃあ、体に聞こうかな」
スタンバイ――とカイザフォンが言う。
「興味あったのよね。朝比奈みくるがどんなオルフェノクなのか」
黒とオレンジの装甲を纏い、Xの仮面を付けた朝倉涼子は、わたしの鳩尾を容赦なく殴りつけた。
26:
「やっぱり牛なのかな?」
楽しそうに朝倉さんは言って、わたしを攻撃する。
背中と口から血を垂らしつつ、わたしは回避を試みるが、如何せん傷が深すぎた。
よろめくように体を動かすのが精一杯だ。
「ほら、早く変化しないと死んじゃうわよ」
からかうみたいに喋る朝倉さん。
わたしは、脳裏にSOS団のメンバーの顔を思い浮かべた。
もう1度、会いたいと思う。
体に力を込めた。
この傷ではオルフェノクの姿に変わったところで、朝倉さんを退けられないだろう。
でも、それでも足掻きたい。
体中が熱くなって、全身が鷲の形をした異形へ変わった。
「へえ」
朝倉さんがカイザの仮面の下で小さく声を漏らす。
「18番目の改造体……か。あれ?」
わたしは右手を拳に固めて彼女へ向かった。
「って事は、キョン君の後輩って事になるのかな」
余裕綽々の朝倉さんの言葉に一切耳を傾ける事なく、ただ一瞬でも彼女の意識をブレさせて逃げる隙を作る事に集中する。
27:
朝倉さんはカイザフォンを銃モードにして、わたしを撃った。
胸と脇腹に衝撃が走り、わたしは地面に膝を付く。
背中の傷に加えて、銃撃によるダメージがわたしの体から最後の体力をも奪った。
「朝比奈さん」
ブレイガンをブレイドモードにした朝倉さんがわたしを見下ろす。
「ファイズとデルタのベルト、どこにあるの?」
彼女は冷たい声で問うてきた。
最後の脅しだとでも言いたげに、エクシードチャージをして。
「言えま……せんっ」
末期の力を振り絞って、右手の爪でその首筋を狙った。
「そう」
「……ッ」
わたしのお腹へ、フォトンブラッドが転送されたカイザの刃が食い込んでいる。
「ごめんなさい」
悪びれた感じなど欠片もなしに、朝倉さんは言った。
「殺しちゃった」
わたしの体の上に黄色のXが描かれる。
28:
朝倉さんが笑いながら去っていった後、崩れ掛けの体でカイザのものとは別の携帯を取り出した。
ボタンを1つ押すたびに指が1本灰になったけど、必要なプッシュは4回だ。問題はない。
砂のような涙を落とした携帯のボタンを4度目に押した時、限界が訪れた。
視界が消える。
体が完全に崩れた。
最後に、涼宮さんや長門さんや、キョン君や古泉君の顔を思い出せた事だけが、少し幸せだった。
30:
朝比奈さんが殺された?
俺は、古泉のその言葉に大声を上げていた。
昨日の戦いから1日たった朝、俺は学校で古泉と長門に呼び出された。
朝比奈さんの話だろうとは思っていたが、まさか……彼女が死んだって話だなんて。
「犯人は朝倉涼子」
僅かだが怒りがこもっているように聞こえる声で、長門が言った。
「朝比奈さんから、これが送られてきました――」
淡々と話を進めようとする古泉へ、強く怒りを覚える。
おい、お前は何でそんなに飄々としてるんだ。
思わず奴の襟首を掴み上げている。
お前が俺を引っ張っていかなきゃ、俺が朝比奈さんと一緒に居れば、朝比奈さんを逃がす事ぐらい出来たかも知れないんだぞ。
古泉は、いつもように多弁を振るう事なく、目を伏せてただ一言済みませんと言った。
「彼にも事情があった。判ってあげて欲しい」
長門が口を挟む。
俺は手を離した。
判ってはいる。
古泉のせいじゃない。
だが……。
古泉は、俯きがちに部室の机へ2つのケースを置いた。
英語でスマートブレインと書かれた鉄のケースである。
「昨夜、僕の所へ極秘に送られてきたものです」
古泉がそのケースを開けた。
中には、それぞれ朝比奈さんが付けていたものに似たベルトが入っている。
31:
ここまでキバ無し
32:
>31 ごめんなさい、最後までファイズの仮面ライダーしか出ないと思います。
「右がファイズギア、左がデルタギアです」
古泉は、いつもの笑顔が消えた顔で説明した。
「ファイズギアは僕の組織が、デルタギアは長門さんが持つ事になりました」
長門が? 抑揚のない声で言い、長門を見る。
「朝倉涼子はカイザの力を使ってSOS団の関係者を殺そうとしている」
そう……なのか。
朝倉。
やっぱりお前は、そう言う奴なんだな。
「普通に戦った場合、わたしが朝倉涼子に敗北する可能性はかなり低い。ただし、朝倉涼子がカイザギアを所有しているなら、その確立は高くなる」
長門は感情を殺しているかのような声で続けた。
「わたしは朝倉涼子を処分する。そしてその確実性を上げる為にベルトが必要」
判った。
俺は力の抜けた声で返事をする。
33:
放課後、ハルヒが部室にやって来た。
「キョン、みくるちゃんは?」
何も知らないその言葉に、泣き出しそうになる。
「風邪を引いたそう。今日は休み」
長門が答えた。
ハルヒには朝比奈さんが死んだ事を伝えないでおこう、と言う事になっている。
SOS団の天使の死は、団長に未来永劫伝えられる事はないのだ。
36:
※朝倉視点
「待ってたわ。長門さん」
学校が終わってから2時間、わたしは大通りの脇にある空き地で、やっと来た長門さんと対峙していた。
「朝倉涼子、処分する」
長門さんは、感情を消した声で告げる。
「それは、こっちのセリフよ」
長門さんの情報操作で、空き地が外界から隔離された。
お互いにベルトを装着する。
わたしは黒とオレンジのカイザギアを、長門さんは黒と白のデルタギアを。
わたしはカイザフォンに変身コードを入力し、長門さんはデルタフォンのトリガーを引いて、変身――と呟いた。
体がオレンジの光で囲われて、黒ずんだ鎧が出現する。
長門さんも変身を終えた。
先に動くのは、挑んだこちら。
ブレイガンを剣にして、長門さんへ斬り掛かった。
長門さんはデルタフォンとデルタムーバーを接合させた銃を撃ってくる。
情報操作では長門さんの方が上だ。
でも、ベルトの力を借りた戦いならばこちらにも勝機があるかも知れない。
銃撃を剣で防ぎつつ間合いを詰めた。
黒い手袋に包まれた長門さんの拳が迫る。
紙一重で躱したところへ、ハイキックが来た。
顎に喰らい、数メートル吹っ飛ぶ。
落下すると同時に長門さんに狙い撃ちされた。
体中に弾丸が突き刺さる。
く――!
悲鳴をかみ殺し、カイザフォンを銃にして応戦した。
37:
長門さんの周囲に鉄の防壁が出現してわたしの攻撃をシャットダウンする。
「駄目……か」
思わず呟いてしまってから首を横に振った。
長門さんのプログラムに自身の意思を割り込ませ、彼女の情報操作を妨害する。
もう少し、もう少しだ。
もう少しだけ持ちこたえれば。
胸のプロテクターの上で長門さんの銃弾による火花が飛んだ。
地面へ倒れ込む。
「諦めるべき。所詮、あなたではわたしには勝てない」
冷酷ね、長門さん。
立ち上がり、走って攻撃を躱しつつ時折牽制の銃撃を放つ。
わたしらしくない、消極的な戦い方だ。
でも、今回は必要。
「早く……」
つい内心での独り言を口走っていた。
「何を考えている」
しまった。
長門さんが疑っている。
足を止めた。
長門さんの銃口は僅かばかりもブレる事なくわたしを捉えている。
――落ち着くのよ。
例え感付かれたとしても、大した問題じゃない。
39:
長門さんが銃の引き金を引きかけた時、わたしは仕掛けが間に合った事を察知した。
「待って!」
大声を出してブレイガンを捨てる。
「……何のつもりか知らない――」
長門さんの言葉を遮って叫んだ。
「外を見てみて!」
長門さんは微かに銃口を揺らす。
動揺したわね。
そう、外では、キョン君の妹がオルフェノクに襲われているわ。
「関係ない」
「え?」
長門さんは、わたしを撃った。
「た、助けに行かない……の」
膝を折りながら訊く。
「あなたを殺すのが先決」
長門――さん。
諦めては駄目だ。
もっと、言葉を使う。
「い、いいの?」
仮面の下でわたしを見つめる長門さんへ言った。
「あなた、キョン君が好きなんでしょう」
長門さんの手が僅かに震える。
40:
「妹さんが死んだら、キョン君はどんな顔をすると思う? どれだけ悲しむと思う? いいの」
大切な人を悲しみのどん底へ落としても――と、長門さんへ語りかける。
「それに」
言葉を、ゆっくりと、インパクトを与えるように紡いだ。
「ここでわたし達が交戦している事は、古泉君――超能力者の機関も知っているわ。もし彼らからキョン君へあなたが妹さんを見殺しにした事が知れたら、キョン君はあなたにどんな態度をとるかしら」
恐らく、長門さんがわたしを殺しに来た最大の理由は、キョン君を守る事。
長門さんは、相手の愛情を欲しがるタイプだ。
その彼女が、好きな相手から一生真っ直ぐ見てもらえなくなる事に耐えられるか。
長門さんには感情がかなり豊かに芽生えだしている。
わたしは、そこに――賭けている。
長門さんはデルタの銃に、ミッションチップを挿入した。
レディ――と電子音が言う。
長門さんは、銃をわたしに向けた。
――妹ちゃん。お願いだから、もっと悲鳴を上げて!
「ねぇ」
知っている――と、極力声の震えを押し殺して言った。
「明日は妹ちゃんが初めて言葉を喋った日だそうよ。ちなみにね、何を喋ったかって言うとキョン君の名前だって。キョン君、意外にそう言う事覚えてて、嬉しそうに話してた……」
でまかせだ。
けど、通じなければ死ぬ。
「長門さん。キョン君は――実は本当に妹思いの、いいお兄さんなのよ!」
追いつめられた妹ちゃんが、ついに大声で悲鳴を上げた。
戦場の空き地を隔離していた情報操作による結界が消滅する。
長門さんは、空き地が面した道路でキョン君の妹を襲っているオルフェノクへ銃を撃ち、ロックオンした。
43:
勝った……!
長門さんは、跳び蹴り――ルシファーズハンマーで妹ちゃんを襲っているオルフェノクを殺した。
その隙が、命取り!
道路へ隠しておいたサイドバッシャーが動いた。
バトルモードへ変形して、6連装ミサイル砲と4連装バルカン砲を長門さんへ向ける。
長門さんには情報操作を行える時間はない。
かと言って、逃げては傍にいる自分が助けたばかりの妹ちゃんにバッシャーの攻撃が当たるし、妹ちゃんを抱えて逃げ切るだけの時間もない。
だから、長門さんは――。
サイドバッシャーが放ったミサイルと弾丸が、全て妹ちゃんを庇った長門さんへ叩き込まれた。
予想通りの動きだ。
か細い悲鳴を上げ、長門さんは崩れ落ちる。
その変身が解除された。
気絶している妹ちゃんの横で倒れている長門さんへ、わたしは銃にしているカイザフォンを向ける。
「さようなら――。再構成してくれた事、感謝してるわ」
静かに、そして正確に、わたしはトリガーを絞った。
44:
最後に何事が呟いて、長門さんは事切れた。
やった――!
胸の奥から沸き上がる歓喜を押さえられずに、わたしは大声で笑っていた。
これで。
これでっ!
キョン君はもっとわたしを見てくれる――。
48:
俺は、いつもとは明らかに違う重さを心に感じながら、いつも通りに通学路の険しい坂を上っていた。
「おはよう! キョン君」
坂を8分目くらいまで上った時、後ろから明るく声を掛けられた。
背筋が強張る。
この声は……。
「どうしたの? キョン君」
首を振るわせながら振り向くと、そこには満面の笑顔の朝倉がいた。
お前……。
「キョン君? 顔がちょっと怖いわよ?」
長門は――。
お前が生きているって事は。
「ああ。長門さん」
朝倉は自分のバックをゴソゴソと漁った。
嘘、だよな。長門。
朝倉と和解したんだろう?
確かに、昨日別れてから1度も連絡がなかったが、あれも何も心配する事はないって意味で――。
「ねえ、見て。キョン君」
朝倉は、女神でも嫉妬しそうな程に輝いた笑顔で、ぼろぼろに壊れたデルタギアを見せた。
あ……。
俺の口は、俺自身の意思を外れて震えた声を落とした。
「キョン君。これからは、わたししか見れなくしてあげるからね」
壊れているから美しい笑顔を光らせる朝倉に俺は背を向ける。
1度も振り返る事なく、走り出した。
目的地なんかなかった。
単純に、逃げたくて。
57:
わたしの思い通りにならない者は全て殺す――とでも言いたげな朝倉の顔が頭から離れない。
足がもつれて歩道で倒れ込んだ。
全身が震えている。
朝比奈さんが死んだ、そう告げる古泉の声が甦った。
長門が死んだ、その事実がフラッシュバックする。
脂汗で体中がぐしょぐしょだった。
「大丈夫ですか」
頭上から男の声が振ってくる。
どこか粘っこい、神経質そうな声だった。
顔を上げると、俺の前に書生風の若い男が立っている。
彼は、ニヤァと笑った。
69:
いつの間にか、気を失っていたらしい。
俺は、痛みを訴える頭を振って瞼を開けた。
「あら? 気が付いた?」
目の前にいた年増の女性が声を掛けてくる。
「ここは……」
両手が縛られている事に気が付く。
誘拐された?
「そうよ。あなたは人質、わたし達のベルトを取り戻す為のね」
視界にいるのは、今話している女と気を失う直前に会った書生風の男、そして黒のTシャツの少年だ。
「ファイズとカイザ、どちらを先に呼び出します?」
書生崩れの男が言った。
「両方一緒でいいんじゃない?」
Tシャツの少年がどこかふわふわした声で答える。
「カイザからよ」
女が提案した。
「ん?。まあそれでいいか」
少年が賛成して、書生崩れも頷いた。
朝倉が……来る?
70:
「キョン君がさらわれた?」
わたしは古泉一樹の言葉に目を見開いた。
「はい……」
彼は努めて装っているかのような無表情で言う。
「誘拐犯――十中八九オルフェノクです――は、あなたに来いと言っています」
なるほど。
ベルトの奪還が目的って訳ね。
「本当は……」
古泉君はトーンの低い声で言った。
「あなたの力など借りたくないのですが、今の僕の組織の力では3体ものオルフェノクを相手に闘えません」
「言われなくたって行くわよ。ふふ、オルフェノクね。ただのベルト使いならともかく、情報操作の宇宙人に勝てる訳がないわ。キョン君は直ぐに助け出す」
サイドバッシャーで指定された海岸に向かう途中、体に異変を感じた。
これは……。
「統合思念体から切り離されている?」
ふと、長門さんの最後の光景が頭に甦った。
あの時、長門さんは何か呟いていたけれど、あれはまさか……。
「やられたわね」
バイクを止めて、ハンドルを叩いた。
長門さんは、最後の力でわたしの体に断絶のプログラムを仕込んでいたんだ。
今のわたしの体は、人間のそれと大差がない。
71:
わたしはオルフェノクじゃない。
なのにカイザに変身して無事でいられたのは、情報操作を使って体を強化していたからだ。
逆を言えば、情報操作を使えない状態で変身すれば、確実に死ぬと言う事。
このまま変身すれば……死ぬって事ね。
「そうだ」
デルタのベルトを……。
駄目だ。
あれは破損が酷くて使える状態じゃない。
直す事も今すぐには不可能だ。
「どうすればいいの」
行けばほぼ確実に死ぬ。
でも、行かなければキョン君が。
72:
「来たわね――」
そう言う色年増のおばさんへ、当然じゃない、と返してベルトを装着する。
わたしは3体のオルフェノク達の前へ来ていた。
行くか否か迷った時間は結局1分もなかった。
答えは直ぐに出たの。
わたしはキョン君が好きで、その気持ちは何より上にあるものだって。
カイザフォンのボタンを、ゆっくりと押した。
低い電子音が1度鳴る。
3人のオルフェノク達が、それぞれ正体を現した。
2つめのボタン――1を押す。
センチピード、ロブスター、ドラゴン、3体のオルフェノクがこちらへ駆けてきた。
最後の3とエンターを殆ど同時にプッシュし、カイザフォンをベルトへ差し込む。
「変身」
73:
雄叫びを上げて灰色の怪物達へ斬り掛かった。
まずはトゲトゲの奴を袈裟懸けに斬り、返す刃でエビを押し飛ばす。
ドラゴンの爪が胸の鎧を抉るけれど、痛みを押し殺してその顔を殴りつけた。
背後から迫ってくるエビへキックを見舞う。
3体同時に相手にしたのでは勝ち目はない。
まず1体を集団から引き離して殺す。
遠くへ飛ばされたエビを一瞥して、カイザポインターを足首へセットした。
鞭を取り出しているトゲを一斬りし、リュウの爪を躱して空中へジャンプする。
狙うはエビの年増だ。
中空でロックして、落下の勢いを上乗せしたキックを打つ。
わたしの右足は、綺麗にエビの胸を貫いた。
「やった」
まず1体。
「冴子さん!」
トゲのオルフェノクが叫んだ。
「へえ。やるんだ」
ドラゴンオルフェノクが言う。
「次はあなた達よ」
青く燃え上がるエビを尻目に、ブレイガンをドラゴンへ撃った。
76:
ドラゴンはわたしの銃撃を爪で受け止めると、一瞬の内に鎧を脱ぎ捨てた。
「な……」
思わず声が漏れる。
ドラゴンオルフェノクの姿はわたしの視界から掻き消えた。
次の瞬間、左肩を斬りつけられる。
悲鳴と共にわたしの体は吹っ飛んだ。
「高移動――?」
着地する前に再度斬られる。
「ああッ」
胸のプロテクターへ爪痕が刻まれた。
落下して砂浜を転がるわたしを、今度はトゲが攻撃してくる。
鞭がスーツを刻み、中の肉体へ傷を付けた。
息を乱しつつもどうにか立ち上がると、目にも留まらない早さでドラゴンが眼前へ現れる。
今度は首筋を打たれた。
意識が揺れる。
「く……」
強い。
胸の前でブレイガンを構えようして、自分が武器を落としている事に気が付いた。
「そんな、ちゃんと」
握っていたつもりだったのに。
その時、自分の手から砂が零れた。
いや、そうじゃない。
自分の手が、灰になり始めたのだ。
もう、時間なの?
センチピードオルフェノクの鞭がわたしの体を弾き飛ばした。
77:
砂浜で這いつくばるわたしを、再び鎧を纏ったドラゴンが持ち上げる。
重たい爪が脇腹を抉った。
意識が遠くなる。
ふっと、キョン君の顔が脳裏に浮かんだ。
鞭が仮面を傷付ける。
キョン君――。
わたしは、1度彼を殺そうとした。
それは、わたしが彼に殺されていたから。
わたしはキョン君に女として殺されていた。
だから……殺そうとした。
どんどん、他の女と触れ合って行く彼が――許せなかった。
ドラゴンの爪がわたしのベルトを奪う。
変身が、解けた。
79:
揺れて、ぼやける視界の中、2体のオルフェノクが迫ってくるのが見える。
――再構成されてから、キョン君を眺めるのは気が狂うような苦痛だった。
以前より遙かに他の女と親密になっていて、また親密になっていっている彼を、何もせずに見ているしかない。
何か行動を起こせば即座に消され、彼を見る事さえ出来なくなるから。
でも、今回やっとそれから解放されるチャンスを得た。
長門さんにさえ勝てる可能性をもたらしてくれる状況と力、それを手に入れたんだ。
そして、わたしは実際その2つを生かして最大の邪魔者を殺した。
あともう少し――
トゲのオルフェノクに殴られる。
涼宮ハルヒと佐々木とあと数名の女達……奴らさえ殺せば彼は。
ドラゴンオルフェノクに捕まって、首を締め上げられた。
なのに。
脳に酸素が送られず、意識が消えて行く。
「やっぱり――駄目なの?」
目尻から涙が落ちた。
1度だけでいいから。
キョン君に、わたしだけを見て欲しい。
そんな願いさえ――叶えられないの?
鈍い音と共に、胸へ衝撃が走った。
心臓を貫かれた私は、ゆっくりと灰になってゆく。
80:
なんでミスターJいないの?馬鹿なの?
83:
>80 草加が死んだ時いなかったのでJは省きました。
俺は、海の家の2階から下の砂浜での朝倉達の闘いを見ていた。
「あ、朝倉……」
朝比奈さんと長門を殺したクラスメイトが、灰になる。
少しだけ複雑な思いが生まれたが、俺はそれを押し殺すように自業自得だと呟いた。
あいつは、死んで当然の殺人鬼なんだから。
「大丈夫ですか!」
背後で声がした。
その主は古泉一樹、SOS団副団長である。
「助けに来ました。早く逃げましょう」
古泉は森さんらの仲間を連れて俺の傍へ来ると、俺を戒めている縄をナイフで切断した。
85:
機関の車でオルフェノク達を完全にまいた後、俺は古泉と自宅傍の公園に来ていた。
本当は自宅まで真っ直ぐ送り届けてもらう筈だったのだが、途中でハルヒから呼び出しが入った。
古泉は行かなくていいと言ったが、もしハルヒまでが殺されたら、と思うといてもたってもいられなくなり、自宅近くで下ろしてもらって、念の為、とのファイズギアを持った古泉の護衛付きで指定された公園にいる訳である。
「キョン! 遅かったじゃない。何やってたのよ!」
先に着いて待っていたハルヒは、いつもどおりの口調で俺を責めた。
その日常に、涙が零れる。
「ちょ、ちょっと! どうしたのよ」
柄にもなく慌てるハルヒが、少しだけおかしかった。
「いえ、大した事ではないんです」
古泉が何とかポーカーフェースを作って俺をフォローする。
俺は我慢出来なくなって、日常と言う名のハルヒを抱き締めようとした。
そんな時、左の方で実に不快な声がする。
「あれれ?。それ、ファイズギアじゃない」
ハルヒに抱き付きかけた体を止め、俺は声の方に目をやった。
視線の先には、シルクハット姿の青年が立っている。
「僕、未来から来たんだけどさ」
彼は、顔にオルフェノクの模様を浮かべた。
「何――あの人」
ハルヒが怪訝な声を出す。
「ファイズのベルト、見付けてもってくと賞金出るんだよね?」
イカれた格好の青年は、静かに異形へと変化した。
「ちょうだい?」
87:
「ハルヒ、逃げるぞ」
俺は大きく口を開けているハルヒの腕を掴んだ。
丁度、最後に会った時の朝比奈さんのように。
「無駄無駄」
オルフェノクは一跳びで俺達との距離を詰めると、古泉と俺を殴り飛ばした。
地面へ叩き付けられて俺は咳き込む。
は、ハルヒは――。
オルフェノクは、真っ直ぐベルトを持った古泉の方へ歩み寄っていた。
取り敢えずハルヒは大丈夫か。
だが、その代わり古泉が大丈夫じゃない。
やめろと怒鳴って、俺はオルフェノクへ突進した。
だが、裏拳1発で吹っ飛ばされる。
古泉は後じさりながら、ファイズギアを取り出した。
古泉、それはオルフェノクじゃなくても変身出来るのか。
俺の問いには答えず、古泉はベルトを付けた。
ファイズフォンに変身コードを入力し、バックルへ差し入れる。
「変……身」
古泉はバックルへ縦に入れた携帯を倒した。
86:
>>85
ラスト3行がいいな
ゾクゾクする
90:
>86 ありがとうございます。
『エラー』
無情にも、そんな電子音声が公園に響き渡った。
ベルトが拒否反応によって古泉を跳ね飛ばし、反作用で自分も宙を舞う。
1秒程飛んでいたベルトは、丁度――俺とオルフェノクの間に落ちた。
ドクン、と心臓が跳ねる。
古泉は駄目だ。
奴は変身出来ない。
このままじゃ殺される。
俺は、思いっきり地面を蹴っていた。
オルフェノクは驚いた様子で動きを止めている。
これなら取れる!
自分が変身出来るとか、出来ないとか、そんな事を考える余裕はなかった。
ただ、生きたくて、これ以上誰も殺させたくなかった。
ベルトへ駆け寄り、素早く拾い上げて装着する。
ファイズフォンを開いて――。
コード!
俺の動きが止まる。
変身コードは何番だ。
「君は変身出来るの?」
オルフェノクがこちらへゆっくり歩いてくる。
……ええい!
ファイズと言うくらいだから。
どんなメールを打つ時よりくボタンを押した。
5・5・5――だろう。
97:
ファイズフォンをバックルへ入れ、倒した瞬間、電子の音声が言った。
気のせいか、少し優しい声で。
『COMPLETE』
――と。
俺の体を真紅の光が包み込んだ。
光の線が体の上をなぞって、その線と線の間に白の鎧と黒のスーツが出現する。
「へえ」
俺の前で立つオルフェノクが、感心したような声を漏らした。
紅の光がフォトンストリームへ収束する。
変身、出来た……。
俺は――。
「君もオルフェノクなんだ」
実に軽い口調で、コーカサスビートルのオルフェノクは言った。
「……」
黒手袋に包まれた手を眺めて変身出来ている事を確認し、そして言葉を失っている俺へ、彼は余裕ある歩みで歩みよってくる。
「でも僕に勝てるかな? 僕は、強化改造体だからね?」
ハッと顔を上げた瞬間、仮面の顎に強烈なパンチが食い込んでいる。
99:
視界がブレて、意識が歪んだ。
けれど、倒れる前に思い出す。
俺は、俺自身と、ハルヒと古泉を守りたくて変身しているんだと。
奥歯を食いしばり、足に力を込めて踏み止まった。
「おっ。耐えたか」
灰色のコーカサスは愉快そうに言って、虚空から剣を取り出す。
「じゃあ」
地面に映し出された人間体の彼が笑った。
「これはどうかな」
まるで踊るように、コーカサスオルフェノクは剣を振るってくる。
い。
オルフェノクって言う連中は、みんなこんなに動きがいいのか?
たちまち右肩と右脇腹を切られた。
ぐ……。
俺も――剣が欲しいな。
103:
ファイズスーツによって強化された聴覚がハルヒと古泉の会話を拾う。
あの怪物は何なの、とか、キョンは大丈夫なの、とか、話している。
ハルヒが俺を助けに行くと叫んだ。
何だ、嬉しい事言ってくれるじゃないか。
胸当てを斬られ、その勢いで吹っ飛ばされながら思った。
「ほら。どうしたの?」
僕をもっと笑顔にしてよ――なんてふざけた事を言いながら、コーカサスのオルフェノクは剣を振るってくる。
くそ……。
口から毒がもれた。
このままじゃ勝てない。
古泉が語っている。
このオルフェノクは恐らく、強化改造を受けた特別製だと。
オリジナルでないオルフェノクの性能を、オリジナル以上に上げる改造手術が存在し、それを受けたオルフェノクは高い確率で圧倒的な力を得るそうだ。
俺をなます斬りにしている奴がその手術を受けていると言う根拠は、オルフェノクは本来動植物を模した姿にしかならない筈なのに、昆虫紛いの姿をしているから――。
古泉。
そんなのいいから、弱点とかないのかよ。
何とか相手の剣を避け、その腹へ一撃を叩き込んだ。
けれど、全く効いた感じがない。
106:
どうすればいいんだ。
仮面にひびを入れられ、よろめきながら考える。
古泉が言ったとおりの圧倒的な力を発揮し、俺を追いつめているオルフェノクが言った。
「ねえ、君はオルフェノクなのに、どうして人を殺さないの」
と。
馬鹿野郎。
俺は今日まで自分がオルフェノクだって事を知らなかったんだよ。
どうして以前の問題だ。
尤も。
コーカサス野郎の頭上を飛び越え、背後に回って腰に付いていた掌全体を覆うメリケンサックを装着した。
『レディ』
バックルにはめているフォンのエンターキーを押す。
『エクシードチャージ』
尤も。
もっと前から自分がオルフェノクだって知っていたとしても、俺は人なんか殺さなかっただろうけどな。
渾身の力を込めた右ストレートをカブトムシ崩れの顔へ打った。
「そうなんだ」
コーカサスはどこからともなく出現させた盾で俺のパンチを受け止める。
くそぉ……
逆袈裟に斬られた。
地面へ受け身も取れずに倒れ込み、呻く。
「まあそう言うオルフェノクも何人かいたらしいよ。スマートブレインの社長も一時期はそう言う人がやっていたみたいだし」
でも――と灰色のカブトムシは言った。
「僕には判らないな。改造を受けたオルフェノクは、脳もいじられて無条件で人を殺す事が楽しくなっちゃうからね」
110:
そうかい。
俺は改造なんか受けた覚えないから大丈夫って事だな。
「人を殺すのは楽しいよ」
こちらの装甲をぼろぼろにしつつ、コーカサスは無邪気に言った。
「まあ最近はさすがに飽きてきたんだけどね。基本的には今でも最高の娯楽さ」
ああ、でも――とオルフェノクは攻撃の手を止める。
チャンスとばかりに懐へ潜り込んだが、俺の攻撃は全て奴が宙に出現させる盾に阻まれた。
「自分が殺した人間がオルフェノクになった時はちょっと複雑かな。特にそいつが強化の手術を受けたりした場合は……逆恨みで襲われるの結構怖いし」
盾の隙間から突き出された剣が、俺の鎧を穿つ。
またしても俺は吹っ飛ばされた。
「あの、何て言ったっけ。朝比奈――だったかな」
起き上がろうとしていた俺の動きが凍る。
「詳しい名前忘れたけど、中学生くらいの女の子殺したんだよね。そしたらその子オルフェノクになって復活しちゃって。うん。それだけならまだ良かったんだけどさ」
奴は剣を自身の肩へ当て、俺を馬鹿にしきった余裕振りでこちらへ歩いてきた。
「その子更に強化手術受けちゃって。僕の時よりずっと技術が進んでる時の改造だったからビビッたビビッた。でもま、結果的に手術は失敗で」
俺は地面に片膝を付いたまま、静かに拳を握り締める。
「特に僕の脅威にはならなかったんだけどね。ハハ、そうだ」
脅かすなよって、その子半殺しにしたんだった――と、コーカサスオルフェノクは笑った。
可愛かったからついでに――なんて、クソみたいな事まで付け足しやがる。
そう、か。
俺は、全身に力がみなぎっているような全身から力が抜けているような、微妙なコンディションで立ち上がった。
お前が、朝比奈さんを殺したのか。
うん――とオルフェノクは笑顔で首肯する。
114:
「あれ、知り合いだった?」
ああ。
知り合いだったよ。
そして、それ以上に仲間だった。
「ふ?ん。そうなんだ」
灰色の昆虫型オルフェノクは、俺へ剣を向ける。
1つだけ、聞いていいか。
「なに?」
お前、改造される前から人を殺すのは愉しかったのか。
コーカサスは少し首を傾げた。
「って言うか、寧ろ改造される前の方が殺しは愉しかったね。だって続けてると飽きるし」
じゃあ。
俺は力なく笑った。
お前、脳改造とか関係ないじゃないか。
「え? う?ん。そう言われてみるとそうかな」
化け物は首を捻った。
俺は両手を強く強く拳にする。
今度は、明確に自分の中に力がみなぎっている。
朝比奈さんを殺したのは、純粋な自分自身の愉しみの為で、大勢の人を殺したのも同じで、朝比奈さんをまた汚したのだって――。
許せない、そう叫んだ。
お前だけは、許せない!
近くのマンションの地下駐車場、そこから1台のバイクが走り出してくる。
銀と黄色と赤のそのマシンは、一直線に公園へ滑り込んできて、そして変形した。
朝比奈さんの仇だ――、化け物。
116:
朝比奈さんの仇だ。
そして――多くの人達を殺した事と、ハルヒと古泉を傷付けた事の罰だ。
この、化け物。
自分の隣に着地したバイクロボットの肩からハンドルを引き抜き、ミッションチップを差し込んだ。
独特の音を立てて、ハンドルの先に紅の刃が出現する。
「あは。怒ってるの?」
化け物はクスクスと笑った。
もう、こいつと話なんかしたくない。
俺は一直線に化け物へ斬り掛かった。
出現する盾を一刀で切り捨て、その体へ太刀を入れる。
「な……」
驚愕する化け物を返す刃でまた斬った。
今までにない感情の高ぶりが、信じられないくらい全身の血を熱くしている。
体も、まるで体重が消えたかのように軽かった。
戸惑い、うろたえる化け物を、一瞬も休む事なく斬り続ける。
30回ほど、その身を切り裂いただろうか。
俺は、そろそろトドメだと化け物を数メートル蹴り飛ばした。
「ま、待ってよ」
1分前までの余裕とは打って変わった惨めさで、怪物は許しを乞うてきた。
「その朝比奈って子大事だったの?」
俺は無言で奴へ歩む。
「だ、だったら」
灰色の虫けらは、とことこんたわけ切った事を口にした。
「だったら、僕も同じオルフェノク――」
錯乱しているのか。
馬鹿な事を言うな。
赤の剣を振り上げた。
お前と朝比奈さんは、オルフェノクである事は同じでも、もっと深い部分で全くの別物なんだよ。
118:
青く燃え上がる化け物を一瞥して、俺は踵を返した。
変身を解き、ハルヒ達の方へ駆け寄る。
大丈夫だったか。
2人にそう言うと、ハルヒが俺へ抱き付いてきた。
「キョン!」
ハルヒは涙声で叫んで顔を俺の胸へ埋める。
馬鹿ともアホとも付かない、涙が混じった罵声が浴びせられた。
幸せな暴言と言うのもあるんだと、俺は今更ながらに思う。
ハルヒがひとしきり泣いたところで、俺は古泉へ言った。
「ハルヒを、頼む」
古泉は、精悍な顔でゆっくり頷く。
「え」
どう言う事よ! とハルヒは俺の胸ぐらを掴んできた。
ごめんな、ハルヒ。
俺は、オルフェノクだから。
ハルヒが、大きく目を見開いた。
「で、でも」
ハルヒは、その可愛い声を荒げる。
「でも! あんた、自分がオルフェノクでも人は殺さないって……」
そう、思いたいんだけどな。
微かに苦笑した。
俺は……あの虫けらを殺した瞬間、確かに笑ってたんだよ。
121:
俺は、あいつを殺した時確かに愉しかった。
俺は。
俺も、化け物なんだ。
だから――お前達とは一緒にいられない。
俺は、ハルヒ達と別れて夜の学校へ来ていた。
ハルヒと出会って、朝比奈さんと出会って、長門と出会って、SOS団をやって――色んな思い出が、ここにはある。
だから、この街を出て行く前にもう1度来たかったんだ。
校門を垂直跳びで軽く飛び越え、校庭へ入る。
普段ならばまず立つ事のないグラウンドの真ん中に立って、黒々とした闇でペイントされた校舎を眺めた。
これで、この学校ともお別れか。
――ありがとな。
この学校へ、この学校に詰まった思い出へ、礼とさよならを言った。
踵を返して敷地から出ようとした時、背中に妙な気配を感じる。
ん……?
振り向くと、俺の目の前の空間が歪んでいた。
妙に達観していて、俺は不思議と驚かない。
朝比奈さんが決して見せてくれなかったタイムスリップの光景、外から見るとこんな感じなのか。
空間の歪みから、5人のスーツ男が現れた。
124:
彼らのリーダー格が口を開く。
「せっかく奪ったオルフェノク共の力。再びオルフェノクの手へ渡す訳にはいかない」
なるほど。
俺は、護身用に持って行けと古泉に無理矢理押し付けられた、右手のファイズギアを見やった。
これを返せば、争わなくて済むのか。
「いや」
黒背広は言う。
オルフェノクである貴様はそれを差し出そうが差し出すまいが殺す――と。
そうかい。
俺は、出来ればもう闘いたくないんだが……残念ながら、だからと言って黙って殺されてやれる程人間が出来てもいないんだ。
ちょっとだけ、痛い目に遭ってもらうぞ。
ファイズのベルトを装着した。
「遠慮は無用だ」
黒スーツのリーダーが言い、背広のエージェント達もそれぞれベルトを装着する。
変身――俺と背広達の声が重なった。
ファイズに変わった俺の眼前には、白と黒の強化スーツを纏い、同じ色合いの仮面を付けた男達がいる。
量産型か……と呟いた。
男達は、音もなく俺の周囲を囲んで行く。
126:
ファイズショットを右手へはめた。
四方から襲い来る男達を、オルフェノクの力も使った反応度で迎撃する。
所詮は大量生産、もっと人数を持ってこないと、オンリーワンの力には勝てないぞ。
30秒も経たない内に2人を倒した。
円陣を崩された男達は各自任意に俺を攻撃してくるが、そんなもの今の俺には小学生に殴りかかられているようなものでしかない。
更に1人を倒し、その仮面へメリケン付きの右拳をぶつけようとした。
その時、地面に倒れたその男は言った。
「オルフェノクが――!」
それで思い出す。
こいつらはさっき、せっかく奪ったオルフェノク共の力、と言った。
オルフェノクは殺す、とも言った。
つまり――こいつらは人間なんだ。
一瞬、迷いが生まれる。
俺は、人を――。
背中に、焼け付くような痛みが走った。
ぐあッ……!
斬りつけられ、体勢を崩した俺を量産型達が銃で狙い撃つ。
目の前で火花が散った。
数歩よろめく。
「死ね。人類の敵が!」
リーダー格の男が叫んで、俺へ剣を振り下ろした。
体のダメージと心の迷いが重なって、俺は今までの反応度を嘘のようになくしている。
正面から、まともにその刃を喰らった。
他の男達も立ち上がり、俺へ刃を振るってくる。
125:
オーガとサイガの出番ある?
127:
>125 最後でチラッと登場します。
5人に体中を斬られ、俺は地面へ崩れ落ちた。
変身が解除される。
「手間をかけさせおって」
リーダー格の男に首を掴まれて、片手で宙に持ち上げられた。
全体重が首に掛かり、小さく呻く。
「さあ、殺してやる」
俺の首を掴んだ量産型の手袋へ力がこもった。
まずい、な。
俺……本当に、殺されるのか。
俺を締め上げている男の後ろの男が言った。
「早くやってください」
更に首が強く絞められて、完全に息が出来なくなり、首の骨も軋み出す。
顔は自然に上を向いて、視界には夜空しか映らなくなった。
意外にも明るい夜の空には、大量の流れ星達が走っている。
流れ……星?
流星――?
俺の頭の中で、1つの記憶の引き出しが開いた。
129:
白衣の見知らぬ男の声が、脳内で再生される。
『流星塾メンバーに施した技術を元に、オリジナルでないオルフェノクをオリジナルと同等以上の力を持った存在にする技術がついに確立された』
なんだ……俺は。
酸素が足りないせいか、封じ込めていた記憶を思い出しているせいか、頭の奥がズキズキと痛んだ。
いつだったのかは覚えていない。
覚えていないが、俺は1度オルフェノクに殺されている。
そして、オルフェノクとして甦った。
そして、改造手術を受けたんだ。
『喜びたまえ』
記憶の中の白衣は、感情のない声で言う。
『君は、最強のオルフェノクになったんだ』
せっかく思い出した記憶が、酸素欠乏のせいで再び意識から引きずり下ろされた。
死ぬ……のか。
内心でそんな言葉を呟いた。
次の瞬間から、俺の血液は少しずつ沸騰し始めた。
先程の言葉を、全身が否定する。
死ぬのは――こいつらだ。
頭が真っ白になる。
俺は、血液の温度が上がるに任せて笑い出した。
首を絞められ、宙吊りにされたまま、俺は哄笑する。
オルフェノクは死ぬと灰になるんだ。
もしかするとそれは、生きている時全身の血が燃え上がっているせいなのかも知れない。
生身の手で量産型の仮面を殴りつけた。
首を絞めていた手が離れ、俺は校庭へ着地する。
130:
真っ白だった頭の中は、真っ赤に染まっていた。
男を殴った手が焼けるが如く熱くなって、異形のそれへと変化する。
一瞬驚愕したものの気を取り直して襲ってくる男達を、次々と殴り壊し、蹴り折り……。
愉しい。
俺が言いたい言葉ではないが、確かに俺が言っている言葉が校庭に落ちる。
相手が人間? それがどうした。
倒せば楽しい。
殺せば嬉しい。
それだけだ!
敵を殴った両手と両腕、蹴った両足と両脚が変化していた。
背後に回っていた男が、俺の背中へ攻撃を加える。
同時に、背面も白い異形へ変わった。
目の前で倒れている男が、俺へ発砲する。
俺の心臓を貫くかに見えたその弾丸は、けれど一瞬く変化した俺の前面の肉によって阻まれた。
顔も――変わる。
完全に化け物へ変化し、猛る血に任せて俺は吼えた。
流星に覆われた夜空へ。
あとは――ほんの数分だった。
ライダー達全員の四肢を引きちぎるのに3分。
ショック死しなかった2人の頭を踏みつぶすのに2分。
それで、全部が終わった。
俺以外に息をしている動物がいなくなったところで、ファイズギアを拾って校門へ歩き出す。
ふと目に付いた、門の近くにある誰も知らないような小さな池に自分の姿を映してみた。
返り血で真っ赤に染まった――キメラのオルフェノクが、映っていた。
俺は、歪に口元を歪める。
132:
気が付くと、自宅のリビングで座っていた。
あの後、意識がなくなって……。
帰巣本能、とでも言うべきものに従って家に帰ったのか。
いつの間にやら服も着替えている俺は、大量の砂が落ちたリビングを出た。
廊下に立った時、玄関のチャイムが鳴らされる。
……誰だ?
こんな朝っぱらに来る客などいない筈だと思いながら玄関へ歩いた。
玄関に近付く度、心臓が熱く脈打つのを感じる。
知らず知らずの内に、ラッキーだ、なんて口走っていた。
顔へ、オルフェノクの模様が浮かぶのを感じる。
そして、俺は玄関の扉を開けた。
135:
「何やってんのよキョン!」
開けた瞬間に、威勢のいい声に耳を叩かれる。
ハルヒ――。
いつも顔を合わせている彼女を見た瞬間に、俺は我に返った。
ど、どうしたんだ?
「あんた今何時だと思ってるの? とっくに学校始まってるのよ」
い、いや俺は。
しどろもどろになりつつ言った。
「俺はもう、学校には――」
最後まで言わせず、ハルヒは俺の腕を引く。
ふと、朝比奈さんを思い出した。
家から俺を引きずり出したハルヒは、そのままずんずんと道を歩いて行く。
腕を掴まれたままの俺は、仕方なく続いた。
ハルヒ、こっちは学校じゃないぞ。
通学路を逸れている事を指摘するが、ハルヒは答えなかった。
尚も暫く歩いて、昨日虫けらと闘った公園へ入る。
ハルヒは、俺の顔を見て、俺を殴った。
133:
支援
アクセルとブラスターは出るの?
136:
>133 勿論です!
な……。
これまで幾度となくその奇行に付き合わされてきた俺だが、さすがに顔を殴られるとは思っていなかった。
何するんだ、と言いかける。
が、ハルヒの大きな目の端に水が溜まっている事に気付いて思いとどまった。
お前――。
ハルヒは、涙声で――しかし力強く断言した。
「あんたは、そんな奴じゃないんだから!」
俺の中で未だくすぶっていたオルフェノクの血が、一気に冷める。
ハルヒはそれっきり何も言わずに俯いてしまった。
俺は、何て言っていいのか判らず立ちつくす。
140:
永遠にこの静寂が続くのか――なんて詩的な事を思ってしまっていた俺だが、その考えは裏切られたようだ。
ハルヒの背後の空間が歪み始める。
俺の背後でも気配がした。
おいおい、仇討ちにしても多すぎだろ。
何人いるんだよ?
ハルヒが顔を上げた。
その綺麗な顔が驚愕に歪む。
公園を取り囲むように、100人を超える黒スーツ共が立っていたのだから――当たり前だ。
ハルヒ。
ハルヒの手を引いて、俺は公園のトイレの壁の前へ行った。
ハルヒを庇うように、コンクリートの壁を背にして立つ。
100人以上の黒服達が歩調を揃えて向かってきた。
俺がファイズギアを取り出すと同時に、彼らはあらかじめ装着していたベルトにフォンを差し込んで変身する。
昨日の男達と同じ、黒と白の量産型の姿にだ。
ハルヒ――。
ベルトを装着してフォンを出しつつ、言った。
俺はもう、化け物になってしまった。
だけど――俺は、化け物としてでもお前を守りたい、と。
その理由が、学友だからなのか彼女が団長だからなのか、それとも別の何かなのか――それは判らなかった。
でも、絶対にお前を守る、その決意だけは明確すぎるくらいに明確である。
俺が変身する前に殺してしまおうと男達が撃ってきたが、その弾丸は空から舞い降りたバジンに防がれた。
行くぞ、未来人。
変身コードを入力したファイズフォンをバックルに差し。
変身――!
静かに倒した。
142:
平成ライダー各派閥の特徴
クウガ派:何かとサムズアップする。笑顔が好き
アギト派:寒いダジャレで周囲を凍らせてしまう。魚の口に指を突っ込みたがる。
龍騎派:何か始める前に「しゃー!!」って言っちゃう。鏡を見て戦う妄想する
555派:手首をスナップする。携帯で無意味に555を入力してしまう。猫舌のフリをする。嫌な事は全部乾巧って奴の仕業にする
剣派:何かする時に「ウェイ!」とか言ってみたりする。ポーカーでRSF狙う。
響鬼派:大丈夫?等と聴かれると「鍛えてますから」って言っちゃう。
カブト派:隙あらば「おばあちゃんが言っていた…」と言う。
天を指差す仕草を誰もいない所でこっそりする。
電王派:「答えは聞いてない」「泣けるで」等を多様。
電車がホームに来ると電車斬りの妄想をする。
キバ派:名護さんが大好き。隙あらば名護さん口調になる。クジを引くとき「来なさい!」と言う。
音矢も真似したいが恥ずかしくてできない。
143:
ディケイド派:独り言で「おのれディケイド…お前のせいで〇〇も破壊されてしまった」と言う。
カードを返す動作をする。
傘などを撫でる。
「だいたいわかった」
「大したお宝だね」
等を口癖とする
144:
オートバジンからハンドルを抜き、ミッションメモリーを挿入する。
左手首に装着しているファイズアクセルのアクセルメモリーを外して、フォンのプラットフォームへはめ込んだ。
『COMPLETE』
電子音声がそう報告した後、胸部アーマーが展開する。
更にフォトンストリームが銀色に変わり、仮面の眼が赤色に染め直された。
100体を超える量産達は、俺とハルヒへ向かって真っ直ぐ駆けてくる。
ファイズアクセルのスタータースイッチを押した。
『Start Up』
そんな音声と共に、アイドリングモードが始まる。
腰を落として力を溜めた。
敵は、既に目と鼻の先まで迫っている。
最前列の男が俺達の前に立ちふさがるバジンに手をかけようとした時、ファイズのシステムはアクセルモードへ移行した。
あらゆる動作を通常の1000倍の度で行えるアクセルファイズの目に、100人以上の敵の動きはあくびが出る度で映る。
だが、いくらく動けると言っても、時間はたったの10秒だ。
145:
雄叫びと共にマッハの度で駆け出し、ファイズエッジを振るって行く。
正確無比に、次々と男達のベルトを切り裂いた。
闘っていても、もうオルフェノクの血は騒ぎ出さない。
ハルヒの顔が、ハルヒに殴られた痛みが、怪物の血を抑えているからだ。
10、15、20――破壊したベルトの数を頭の中でカウントする。
5、4、3――アクセルフォームの残り時間を口でカウントした。
今25個。
あと2秒。
地面がえぐれる程強く地を蹴った。
残り1秒だ。
スローモーに動く男達のベルトを声を上げて切り裂く。
丁度公園を一周してハルヒの元へ戻ったところで、タイムアウト――と電子音声が告げた。
壊したベルトの数は30である。
『Reformation』
展開していた鎧と、シルバーに変わっていたフォトンストリームが元に戻った。
目の色も黄色へ復元される。
さて――。
肩を竦めて呟いた。
あとはこつこるやるしかないか。
残った70数人を見渡した。
148:
力強く叫んで、量産の兵士達のど真ん中へ飛び込んだ。
ハルヒの護衛はバジンに頼んでいるから、暫く大丈夫だろう。
今は、こいつらを戦闘不能にする事だけを考えるんだ。
振り下ろされる剣を躱し、薙がれる刃を受け、放たれる銃弾を避けて――1つ、また1つとベルトを破壊して行く。
15個のベルトを切り裂いたところで、ファイズエッジが銃撃によって壊された。
く……。
だが、剣を折られただけに過ぎない。
俺自身が斬られた回数は未だ10回程度、撃たれた数も8回くらいだ。
まだまだ行ける。
素早くハンドルの残骸からメモリーを抜いて、ファイズショットへ挿入した。
エクシードチャージは出来ないが、大量生産のベルトを砕くくらいなら充分だろう。
残り60人のベルトへ、右拳と両足を叩き込み続けた。
はあはあ――と喘ぐ。
相手の数は減っている筈なのに、体が受ける刃や銃弾の数は増える一方だった。
やっぱり、ちょっときついな。
けれど、止まる事なく量産のベルトを壊す。
ひびや欠損だらけになった鎧が、ぼろぼろと音を立てて崩れ出した。
口腔へこみ上げた血を飲み込んで、それでも次の敵を動けなくする。
相手の数を元の3分の1まで減らしたところで、ファイズのスーツは自壊した。
多少の、我を失うのではないかと言う恐怖が生まれたが、それを押し殺してオルフェノクの姿へ変化する。
154:
残り40人弱だ!
立っていられないと泣き叫ぶ膝を叱咤して、ライオンと鳥と牛と蛇が組み合わさったような姿の俺は、敵のベルトを壊し続ける。
口から粉に似た血が漏れるが、気にする余裕もなく走り続けた。
中空から短槍を取り出して、俺を囲む連中を一旦斬り倒す。
それから、1人ずつベルトを蹴りや槍の突きで破壊していった。
ラスト、10人――。
倒れるようにその内2人を戦闘不能にした瞬間、俺はもろに背後を取られた。
首筋へエクシードチャージを終えた刃が振り押されるが、もう避ける力は残っていない。
くそ……。
こんなところで、と思ったが、敵の刃は俺の命を吸う事はなかった。
オートバジンの銃が火を噴き、俺へ斬り掛かっていた男のベルトを破壊したからである。
サンキュ、バジン。
心の内で呟き、ぼろぼろの体と槍を振るって残り7人のギアを切り裂いた。
やった――。
俺は、もう1歩も歩けないと叫ぶ体の声を無視して、ハルヒの方へ歩み寄る。
「キョン!」
泣きそうな顔で駆け寄ってくるハルヒの胸の中へ、俺は変化を解いて倒れ込んだ。
156:
大丈夫、だ。
女に支えてもらうなんって格好悪いところは見せているが、まだちゃんと生きてる。
絶え絶えの息で俺はそう言った。
「キョン」
ハルヒは、俺の頭の上へ涙を落としながら言う。
「キョン、キョンがこの街を出て行くって言うんなら、わたしもついてく」
絶対、ついていくから――とハルヒは言った。
馬鹿、やめとけよ。
いい事なんかないし――。
体をどうにかこうにか自力で立たせようとした。
古泉だっていい迷惑だろ。
「どうして古泉君が出てくるの?」
ああ……、いや。何でもない。
秘密をついつい言ってしまいそうになって口を噤んだ。
未だに自分で立とうとしていたが、ハルヒが俺を強く抱き締めている為に、それは無理そうである。
諦めて身を任せた。
ハルヒは少し重そうにしたが、それでもしっかりと俺を支えてくれている。
「ねえ、キョン」
ん?
何だ――と言いかけた俺の口は、言葉の代わりに血を漏らした。
157:
あ……。
俺の背中から、煙が上がっている。
ハルヒが、いつも俺に馬鹿と言っていた事を思い出した。
ああ――。俺は本当に馬鹿だ。
ベルトを壊すだけじゃなくて、しっかり気絶させておけばよかった。
変身出来なくなった黒服達、しかしその10人程度は未だ動け、こちらへ銃を構えている。
即座にバジンが撃って、彼らを黙らせた。
だが――俺の傷は。
その時、天が俺を完全に見放したと言う気配を感じた。
増援……か。
ハルヒから無理矢理に体を離し、公園の真ん中へ向いた。
「キョン?」
さっきよりも大きな空間の歪みが生まれている。
恐らく、今度の人数は200人程度だ。
ハルヒ――愛しい人の名前を口にする。
どうすれば彼女を守れるんだ。
闘っても、勝ち目はない。
バジンに運ばせるか? いや、向こうは飛び道具を持っているんだ。狙い撃ちされてしまう。
公園の中に、白と紫のリーダー戦士に率いられた量産の部隊が出現する。
兵隊の数は予想通り先程の2倍だ。
どうすれば、逃げ切らせられる?
考えろ――心の中で自分を怒鳴りつけた。
「キョン」
ハルヒが俺の腕をギュッと握る。
絶対にこいつだけは殺させない――その誓いを再確認した。
158:
地面へ転がった、ファイズのベルトが目に付く。
これだ。
バジンへ、ハルヒを庇いつつあいつらを牽制してくれと告げる。
バイクのロボットが頷き、敵へ向かって銃を撃ち出した瞬間、俺は素早くその影から出て、ベルトを拾い上げた。
相手の銃撃が雨霰と襲い掛かる中、何とかバジンの後ろにいるハルヒの傍まで戻る。
ハルヒ!
細い肩を掴んで言った。
変身するんだ――と。
「え?」
目を丸くするハルヒ。
気持ちは判るが、冷静に聞いてくれ。
まだ1回は変身出来る、これでアクセルフォームになって逃げるんだ。
ハルヒの細いウエストへベルトを巻く。
「ちょ、そんな。キョンは?」
ハルヒ、答えの判りきった質問をしないでくれよ。
俺は、一緒には行けないんだ。
嫌――とハルヒは叫ぶ。
「キョンも、一緒に!」
既に敵は俺達の目前まで迫っていた。
もう時間がない。
ハルヒを揺さぶった。
「俺の遺言だ……無下にはしないでくれ」
161:
ハルヒの両肩を掴んでいた両手から力を抜く。
ドサリと音を立てて、俺は公園の地面へ崩れ落ちた。
キョン――ハルヒが震えた声を出す。
上目遣いでハルヒを見て、俺は小さく笑った。
行け――声にならない声で言い、ゆっくりと目を閉じて行く。
頭上で、ハルヒの泣き声が聞こえる。
馬鹿野郎。早く、行け――。
目を閉じ切る前に見たのは、絶叫しながら狼のオルフェノクに変化するハルヒの姿だった。
そうだ……。
お前は大抵の事はそつなくこなす奴だからな。
変身だって出来るだろ――。
やがてファイズに変身する音、アクセルフォームに変わる音が聞こえ、そしてハルヒの音は聞こえなくなった。
もう、いいだろう。
ハルヒを追う為、俺を踏みつけて公園の外へ出ようとしている兵士の足首を掴んだ。
な、と声を漏らして俺を見る兵士。
やれやれ、死なないと言う事を聞いてもらえなかったとは言え、1番大事な奴に最後にやった事が演技だなんて、死ぬ程格好悪いな。
いやまあ、実際……もう長くはない訳だが。
文字通りの死に体を無理に立ち上がらせた。
ハルヒを追おうとしている連中を殴り倒し、その前へゆらりと立ちはだかる。
ここから先は、誰であろうと通さない。
「最後だ。気張って……行くぜ」
164:
「彼は、大勢の人間を殺した。それは、殺されても仕方のない事実です」
古泉君の――彼の本心とは違うだろう言葉が頭に甦った。
彼は、結局最後までわたしに本当の姿で接してくれなかった。
でもそれが古泉君らしいと言えばそんな感じもするな。
なんて、昔の事を考えた。
首を左右に振る。
古泉君の言葉は関係ない。
キョンがどんな事をしたのだとしても、彼はわたしの1番大切な人だから。
そして、わたしはキョンの仇を討つんだ。
人間のトルーパー達を前に、わたしは呟く。
「――変身」
修復したファイズギアを稼働させ、ファイズになってそのままブラスターフォームへ変わった。
隣にいるオーガに、行くわよと声を掛ける。
あの時キョンを殴った衝撃が今も残る右手を軽く振り、記憶を手全体に広げて再び握り込んだ。
以上です。遅くまでお付き合いありがとうございました。
165:
終わり?
167:
「ここは私に任せなさい」
突如、俺の目の前に現れる一人の男。
俺の肩を掴み、前へ出る。
何なんだ、お前は――そいつは答えない。
ただ、その背中はやけに神々しく、輝いているように見えた。
疲労が限界に達したのだろうか。瞼が重い。
量産野郎共が男の登場に戸惑っているのがなんとなく解った。
そいつは、そっと俺の方へ振り返る。
その腰に巻かれているベルトは……スマートブレインのものではなかった。
「……なんだ、そのベルトはっ……」
「魑魅魍魎跋扈するこの地獄変、名護啓介はここに居る!」
『レ・デ・ィ』
「イクサ……爆現!」
『フィ・ス・ト・オ・ン!』
170:
>>1乙!
17
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