【ガルパン】みほ「サッカー?」back

【ガルパン】みほ「サッカー?」


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1:
みほ「……以上が、今度の戦車道合宿について、私が考えた日程の案です」
河嶋「うむ」
みほ「どうでしょうか、生徒会の皆さん」
小山「さすが西住さんね。よくできてると思う」
会長「うん。必要な内容が限られた合宿日程の中へ全部、効率的に盛り込まれてるね」
河嶋「全体練習、チームごとの個別練習、整備、戦術に関する全員参加ミーティング……」
小山「考えるの、大変だったでしょ?」
みほ「いえ、そんな……。前にいた学校でも合宿の計画作りに関わりましたから」
会長「やっぱり西住ちゃんに全部任せて正解だったねえ」
みほ「それで、どうでしょう。私の作ったこの案に意見や疑問があれば…」
河嶋「あるはずがないだろう」
みほ「えっ」
会長「河嶋の言うとおりだよ」
小山「足りない内容も不要な内容もないし、直す点もありません」
会長「これで決定ーぃ! 小山、今後の実務を頼む」
小山「分かりました。早、この日程表に従って各施設などのスケジュールを押さえます」
みほ「そ、そんな……いいんですか? 修正点は何もないんですか?」
会長「そんなもの最初から、あるわけないって思ってたよ」
みほ「……」
小山「お疲れ様、西住さん。後は任せて」
みほ「はい」
会長「でもさ、西住ちゃん」
みほ「何でしょう」
会長「日程のちょうど真ん中の日、夕食前の時間の所に“レク”って書いてあるよね」
みほ「はい」
会長「これ、何やるの?」
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2:
みほ「それは……その内容は、まだ考えてません」
小山「レクリエーション。つまり、何か息抜きになるようなことをするのね?」
みほ「はい。いくら合宿といっても、ずっと戦車に触れてばかりだと飽きちゃいますから」
河嶋「ふむ、気分転換も必要だな。それで、何がいいと思う?」
みほ「みんながやりたいことなら、何でも……」
会長「黒森峰の合宿にもこういう時間ってあったの?」
みほ「はい。でも…」
小山「何?」
みほ「全然、レクっていえるようなものじゃなくて…」
河嶋「どんなことをしていたんだ?」
みほ「野外行軍訓練とか、格闘訓練とか」
会長「何だいそりゃ。全然レクじゃないね」
小山「訓練なんて名前が付くのなら、練習の一環じゃないの」
河嶋「まあ黒森峰らしいといえば、らしいな」
みほ「みんな本当はもっとレクっぽい内容がいいと思ってたんですけど、伝統だからって、毎年…」
会長「同じことが繰り返されるんだね」
小山「部外者がこんなこと言ったら失礼だけど、旧弊ね」
みほ「いえ、失礼なんて……。みんなそう考えてましたから」
河嶋「レクは、誰もが楽しめるスポーツで汗を流すのがあるべき姿だ」
小山「戦車道だってスポーツの一種じゃないの。武道なんだから」
河嶋「そのとおりだが、車内から出て屋外で思い切り体を動かすことが必要なのだ」
みほ「そうですね。スポーツとか、ゲームとかをできれば楽しいと思います」
河嶋「で、スポーツなら何がいいと思うんだ?」
みほ「それは、だから……みんながやりたいものなら、何でも…」
3:
小山「桃ちゃん」
河嶋「その呼び方をするな」
小山「さっきから何だか、スポーツへこだわってない?」
会長「河嶋ぁ」
河嶋「何でしょう」
会長「やりたいものがあるなら、言ってみ?」
河嶋「……ふっふっふ。さすが会長、そして柚子。察しが早い」
みほ「河嶋先輩、何か名案がありますか?」
河嶋「聞きたいか? 西住」
小山「勿体ぶってないで早く言ったら?」
河嶋「では教えてやろう、それはサッカーだ!」
みほ「サッカー?」
河嶋「そうだ。考えてもみろ、この状況にこれほどふさわしいスポーツはない」
みほ「どういうことですか?」
河嶋「我々は急拵えの戦車隊とはいえ、隊長のお前も含め32名もの人数がいる」
みほ「はい」
河嶋「大勢でやるスポーツといえば、誰もがまず野球を思い付くだろう」
みほ「そうですね」
河嶋「だが野球をするには必ず道具が必要だ。しかも各種、大量の」
小山「ボールはもちろん、グラブ、バットが絶対に要るね」
会長「確かに、たかが合宿中の息抜きのために用意するほどじゃないかもね」
河嶋「ところがサッカーなら適当な広場と、ボール一個だけがあればいい」
みほ「なるほど……。メンバーは運動できる格好に着替えて、グラウンドに集まればいいだけです」
会長「練習の合間にやるレクとしてはうってつけだね」
4:
河嶋「かのサッカー王国ブラジルではそのボールすら、貧しい地域に住む子供たちは持っていない」
小山「ボロ布を丸めただけとか、そういう物を使ってるって話を聞いたことがある」
河嶋「それでもあの国では、そうやって練習したり遊んだりした子供たちから…」
会長「新しい才能が、次々と出てくるんだよねえ」
みほ「まさにボール一個だけ、そして広場や空き地さえあればできるスポーツですね」
河嶋「我々にはサッカーボールの調達など容易いことだ。場所は戦車倉庫前のグラウンドがある」
みほ「でも、ゴールはどうするんですか?」
河嶋「ゴールマウスは、サッカー部のを拝借するまでだ」
小山「やっぱり道具が必要じゃないの」
河嶋「人数分の野球グラブを用意するのに比べればはるかに簡単だろう」
小山「それはそうだけど。もし野球をするなら最低9個のグラブが必要だから」
河嶋「柚子はサッカー部へも顔が利いたはずだ。生徒会の強権を発動するまでもない」
小山「そうね。ゴールくらいなら簡単に貸してくれると思う」
河嶋「我が校のサッカー部は弱小だから学園内の発言力も低い。文句など言わせるな」
会長「西住ちゃんはどう思う?」
みほ「サッカー、名案です。一チームが11人ですから…」
会長「うん」
みほ「同時に22人も参加できます。ルールを少し工夫すれば、全員が出場できるようになります」
河嶋「交代枠を必ず使う決まりを作って、誰もが一度はピッチへ立つようにすればいい」
みほ「それにサッカーなら、みんなの希望を前もって訊かなくていいかもしれません」
会長「文句を言う生徒はまず、いないだろうね」
河嶋「よし! レクはサッカーで決まりだ!」
5:
小山「妙に乗り気ね、桃ちゃん」
みほ「河嶋先輩、サッカーが好きだったんですね」
河嶋「全員参加の紅白戦だ! 相手チームを叩き潰してやる!」
みほ「……」
河嶋「やるからには勝つぞ!!」
みほ「……あのー」
河嶋「何だ」
みほ「ただの、合宿中のレクですから…」
河嶋「何を言っている! それが隊長の言うことか!?」
みほ「は……?」
河嶋「これも合宿における活動の一部だ!」
みほ「……」
河嶋「レクといえども、それを通じて勝利へ執着する精神を涵養するのだ!」
みほ「……」
小山「やれやれ。これじゃ、黒森峰のレクのことを笑えなくなっちゃうね」
会長「ま、いーんじゃない?」
みほ「会長まで……」
会長「そーゆーことならさ、こうしよう!」
みほ「え?」
会長「今回は、生徒会長杯のサッカー大会だ!」
みほ「……何だか、どんどん本格的になってきちゃった」
会長「勝利チームには私が豪華賞品をあげちゃうよー!」
みほ「賞品?」
小山「豪華賞品って、何ですか?」
会長「干し芋3日分!!」ビシッ
一同(またか……)
6:
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カルパッチョ『というわけで、いよいよ試合が始まろうとしています』
カルパッチョ『試合の実況は私、アンツィオ高校で副隊長を務めておりますカルパッチョ』
カルパッチョ『そして解説をしてくださるのは、高校生戦車道界の重鎮ともいうべきこのかた』
カルパッチョ『黒森峰女学園の隊長、西住まほさんです』
まほ『……』
カルパッチョ『まほさん、どうぞよろしくお願いします』
まほ『……』
カルパッチョ『よろしくお願いします』
まほ『……』
カルパッチョ『まほさん? よろしくお願いします』
まほ『……あなたは……』
カルパッチョ『何でしょう』
まほ『この状況をおかしいと思わないのか?』
カルパッチョ『何のことでしょう』
まほ『なぜ私が他の学園艦までわざわざやって来て、合宿の様子を見物しなくてはならんのだ?』
カルパッチョ『さあ?』
まほ『しかもこれは戦車道ではなくサッカーだ。合宿中の単なる遊びの時間だろう』
7:
カルパッチョ『おっしゃるとおりです。合宿の日程表には“レク”と書かれていますね』
まほ『おかしいだろう? 戦車道に関することならともかく』
カルパッチョ『ですが…』
まほ『アンツィオから呼ばれてるあなただってそうだ。おかしいと思わないのか?』
カルパッチョ『ですがまほさん自身、こうして現にここへ来てるじゃないですか』
まほ『……』
カルパッチョ『行動した後でその行動に自分で疑問を持つなんて、西住まほさんらしくありません』
まほ『疑問を持って当然の状況だからだ』
カルパッチョ『こういうことになったのは…』
まほ『何だ?』
カルパッチョ『私もよく知りませんけど、話の都合じゃないですか?』
まほ『……そういう発言、いいのか? それってメ○発言というんじゃないか?』
8:
カルパッチョ『とにかく、まほさんには解説をお願いします』
まほ『それに、この組合せ…』
カルパッチョ『まだ何か?』
まほ『どうして私とあなたという組合せなんだ?』
カルパッチョ『変でしょうか。合理的な人選の結果だと思いますけど』
まほ『どういうことだ?』
カルパッチョ『実況と解説というこの役目をできる第一の条件。それはサッカー強豪校の生徒』
まほ『それは確かに、そのとおりだな』
カルパッチョ『我がアンツィオ高はこの競技に関して他校の追随を許しません』
まほ『何だと? 全国屈指の実力校、黒森峰にいる私の前でよくそんなことが言えるな』
カルパッチョ『何か異論がおありで?』
まほ『大体、W杯で2大会連続、グループリーグ敗退に終わったのは一体どこの国だ?』
カルパッチョ『は? 我がアズーリに公式戦で過去、全敗している国は一体どこでしょうか?』
まほ『カテナチオなどという愚策にこだわるのはもうやめたらどうだ?』
カルパッチョ『“ゲルマン魂”という言葉は揶揄の表現だと、いつになったら分かるんですか?』
まほ『……』
カルパッチョ『……』
まほ『……やめよう。不毛な言い争いだ』
カルパッチョ『……そうですね。とにかく適任者は強豪校の、サッカーに詳しい生徒です』
まほ『弱小校の者がこの競技について語っても説得力は皆無だ』
カルパッチョ『だからまず、サンダース大付属のかたがたは候補から除外されます』
まほ『ケイたちがふさわしいのは野球やバスケに関することだな』
カルパッチョ『こうして我が校と黒森峰から、私たちが抜擢されたのです』
9:
まほ『それならグロリアーナの田尻はどうなんだ。あそこはサッカーの伝統校だ』
カルパッチョ『ダージリンさんの本名は“田尻”だったでしょうか』
まほ『田尻で十分だ。なぜ日本人なのにあんなあだ名を付けてるのか理解に苦しむ』
カルパッチョ『それはあのかたへ対するのと同時に、私への苦言でもありますね?』
まほ『どうでもいい、あだ名なんて好きにしろ。だが、あなたの場合…』
カルパッチョ『何でしょう』
まほ『あだ名の字数が多い。今のままだと何だか読みにくいんじゃないか?』
カルパッチョ『その種の発言はいかがなものか、と言ったのはまほさん自身ですけど』
まほ『私の名前は2文字だけだからいろいろと簡便だぞ』
カル『では私も同じ2文字に略しましょう』
まほ『あっさり変えたな』
カル『私はダージリンさんやうちのドゥーチェのような、名前についてのこだわりが特にないので』
10:
まほ『話を元に戻すが、この役目をするのは田尻でも良かったろう』
カル『大洗はダージリンさんたちへも打診したそうです』
まほ『断ってきたのか、田尻は』
カル『“伝統ある我が校以外のかたがたは全員、サッカーの素人ですの”』
まほ『……』
カル『“そうした人々に関わるつもりは毛頭ございませんわ”と言ってきたそうです』
まほ『まだそんなことを口走ってるのか。化石のような奴だな』
カル『近代サッカー発祥の地のプライドがそうさせているんでしょうけど』
まほ『あの国では、4協会は100年以上も前にFIFAへ加盟してるのにな』
11:
カル『私たちが選ばれた第二の理由ですけど』
まほ『ああ』
カル『比較的、冷静で公平な見方をする人物を選んだようです』
まほ『ふむ。それなら私は適任だ』
カル『そんなこと、自分で言いますか?』
まほ『冷静沈着、頭脳明晰な指揮官といえば私を措いてほかにいない』
カル『一方の私は、温厚で実直な人柄が評価されたのでしょう』
まほ『あなただってそんなこと、自分で言ってるじゃないか』
カル『プラウダ高もサッカーは決して弱くありませんけど…』
まほ『カチューシャか。解説する際に、いちいち自分たちと比較するような話し方をしそうだ』
カル『“あんなプレーしてる。我がプラウダなら絶対にあり得ないわね”とか』
まほ『言いそうだな。ではあなたの学校の隊長はどうなんだ?』
カル『……ドゥーチェは今、いろいろ多忙でして…』
まほ『どうした?』
カル『……まあ、貧乏な我が校のことですから…』
まほ『何かあったのか?』
カル『……訊かないでやってください』
まほ『安斎も相変わらず苦労しているようだな』
12:
カル『さて、それではまずこの試合の実施要領と、独自ルールについてお伝えしておきましょう。
 ・合宿中の全員が参加
 ・プレー要員を紅組と白組に分けて対戦
 ・各チームに監督を置かず、作戦などはプレー要員が自ら決定する
 ・試合時間を前半と後半それぞれ20分とし、その間に5分の休憩を取る
 ・延長戦は無し
 ・選手交代を必ず行ない、全プレー要員へ出場の機会を設ける
 以上のようなものです』
まほ『通常のサッカーと違うのは監督がいないこと、試合時間、交代の規則だな』
カル『なお、プレー要員、つまり選手としては試合へ参加しないかたがたがいます』
まほ『生徒会長か。この試合は“生徒会長杯”とされている』
カル『はい。このかたがスポンサーとなっています。今、本人がグラウンドへ姿を現しました』
まほ『ピッチサイドの椅子へどっかり腰を下ろして、何か食べ始めた』
カル『干し芋ですね。常にあれを食べているそうです』
まほ『この人が大洗に戦車道を復活させた張本人らしいな。そして38(t)の車長だ』
カル『全国大会の対プラウダ戦では陽動で重要な役割を演じたそうですね』
まほ『我々との決勝には車体をヘッツァーに改装して出てきた。なかなかうるさい存在だった』
カル『続いて審判団の入場です。このかたがたもゲームへ、選手としての出場はありません』
まほ『この3人はルノーB1bisの搭乗員だな』
カル『よく御存じですね。この学園で風紀委員を務めているそうです』
まほ『風紀委員たちが審判とは、まさに適任だ』
カル『車長の園さんが主審、操縦手の後藤さんと砲手の金春さんが線審です』
13:
カル『さていよいよ、両チームの選手が入場してきました』
カル『選手たちは紅組と白組とに分かれ、それぞれのチームカラーのビブスを着けています』
カル『グラウンドへ散り、思い思いに準備運動、アップを開始しました』
カル『チーム分けは、各車の乗員がどちらかの組に偏らないよう配慮されたとのことです』
カル『したがって両チームとも、車両や学年などがバラバラの混成メンバーとなっています』
カル『それにより公平性が保たれる、ということです』
カル『特に八九式搭乗員たちのチーム分けは慎重に行なわれました』
カル『この選手たちは、今は廃部になっているバレーボール部の部員だったからです』
カル『まほさん』
まほ『何だ』
カル『大洗の個々の選手については私が、手元に入ってきている情報を基にお伝えしていきます』
まほ『……』
カル『まほさんには主に、プレーや戦術などについて解説をお願いします』
まほ『私も大洗の選手に関してデータをいろいろ持っている』
カル『そのようですね。先ほど、B1bisの乗員を知っていたのにはびっくりしました』
まほ『驚くに当たらない。誰でも基本データ程度なら連盟の全国大会出場名簿で知ることができる』
カル『やはり黒森峰も、この学園を好敵手とみなして情報収集や分析を…』
まほ『悪い虫が付くといけないからな』
カル『え?』
まほ『周辺にいる女については調査済みだ』
カル『えーと、それはどういう意味…』
まほ『男ならともかく同じ女には絶対、負けるわけにいかんのだ』
カル『……よく分かりませんが、それでは紅組、白組それぞれについてメンバーを紹介しましょう』
カル『まず紅組です』
14:
紅組
GK 磯辺典子
DF 小山柚子
DF 佐々木あけび
DF カエサル
MF おりょう
MF ねこにゃー
MF ナカジマ
MF 澤梓
FW 大野あや
FW ホシノ
FW 河嶋桃
ベンチ
武部沙織
丸山紗希
冷泉麻子
15:
カル『まほさん。この顔ぶれについてどう御覧になりますか?』
まほ『あなたもさっき言った八九式のメンバー。これが試合の鍵となる』
カル『はい。彼女たちの運動能力が他の選手よりはるかに高いのは間違いありません』
まほ『だから車長の選手をゴールキーパーとしていることは、このチームの大きな注目点だ』
カル『磯辺選手ですね。身長143センチ、非常に小柄と言っていいでしょう』
まほ『無謀とも思える人選だが、あえてこのポジションに就いているということは…』
カル『何らかの意図があると考えるのが自然ですね』
まほ『グラウンドにいる磯辺選手を見てみろ』
カル『長袖長ズボン、両肘両膝にバレーボールのサポーター。両手には…』
まほ『整備のときに使う手袋を何枚も重ねているようだな』
カル『完全武装といった趣ですね』
まほ『アップ中に見せている体の動きが軽快だ。極めて士気の高い様子が窺える』
磯辺「根性ー!!」
カル『大きな声でディフェンスの選手たちをコーチングしています』
まほ『あれってコーチングか?』
16:
カル『一方の攻撃面についてはどうでしょう。フォワード登録は3人で、全員が砲手です』
まほ『3トップの布陣を採れれば強力だろうが、相手の出方によってもポジションは変わる』
河嶋「いいか、お前たち!」
カル『センターフォワードの位置にいる河嶋選手が、中盤の4人へ指示を出しています』
河嶋「ボールを持ったら迷わず私へパスしろ!」
中盤の4人「……」
河嶋「大洗のマラドーナと呼ばれたこの私が、間違いなくゴールを決めてやる!」
まほ『ずいぶん古い名前が出てきたな』
中盤の4人「は?い」
カル『指示を受けた選手たちが返事をしましたけど、嫌々ながらといった表情です』
17:
まほ『そもそも、前線にいるのは彼女だけではないが…』
カル『ほかの二人は呆れた顔でこの様子を見ていますね』
ホシノ「ねー、私たちだって一応フォワードなんだけど」
大野「そうですよ、河嶋先輩」
河嶋「お前らもだ! 中央にいる私へボールを出せ!」
ホシノ・大野「……」
河嶋「大洗のロマーリオという異名を持つ私が、確実にネットを揺らしてやる!」
まほ『古い名前ばかり出てくるな。この河嶋選手は本当にそう呼ばれているのか?』
カル『私のところへそのような情報は入ってきていません』
まほ『本人の妄想か』
カル『今もテンションがかなり高いようですし、“大洗のマラドーナ”ということは…』
まほ『かつてのあの選手のように、ク○リでもキメてるんじゃないだろうな』
カル『では次に、白組のメンバーを御覧いただきましょう』
18:
白組
GK 近藤妙子
DF 西住みほ
DF 山郷あゆみ
DF スズキ
MF 阪口桂利奈
MF 秋山優花里
MF ぴよたん
MF エルヴィン
MF ももがー
FW 河西忍
FW 五十鈴華
ベンチ
宇津木優季
ツチヤ
左衛門佐
21:
カル『こちらのチームにはまほさんの妹さんであり、大洗の隊長であるみほ選手がいます』
カル『もうお気付きのことと思いますが、私はお二人を常に下の名前で呼んでいます』
カル『苗字だけで呼ぶと、姉妹のどちらなのか分かりにくいおそれがあるからです』
カル『したがって今後も、姉の西住まほさんについては“まほさん”』
カル『妹の西住みほ選手については“みほ選手”と呼ばせていただくこととします』
まほ『……あなたは……』
カル『また、何か?』
まほ『さっきから誰に向かって実況しているんだ?』
カル『そう言うまほさんこそ、誰のために解説しているんですか?』
まほ『……』
カル『……』
まほ『……やめよう』
カルパッチョ『そうですね。気を取り直して、みほ選手の所属する白組についてです』
まほ『……話の都合……』
カル『この種の発言はもう無視するとして、まほさん、メンバーについてどう御覧になりますか?』
まほ『不満だな』
カル『は?』
22:
まほ『聞こえなかったか? 不満、と言ったんだ』
カル『解説者が出場メンバーについて不満を言うなんて、聞いたことありませんけど』
まほ『たった今、聞いただろう』
カル『……』
まほ『私はこのメンバー表について大いなる不満を表明する』
カル『では、どういう点が御不満で?』
まほ『どうしてみほがディフェンダーなんだ?』
カル『……』
まほ『みほにふさわしいポジションは、フォワードだろう?』
カル『……』
まほ『みほがふさわしいのはアタッカーだろう? 点取り屋だろう!?』
カル『私へそう訊かれましても』
まほ『どうしてみほがディフェンスをやるんだ!? ああ!?』
カル『こっちへ向かって叫ばないでください。唾が飛びます』
まほ『フォワードじゃなければせめてトップ下だ! 司令塔だ!!』
カル『みほ選手は隊長ですから、そのポジションはふさわしいかもしれませんね』
まほ『そう思うだろう!? あなただってそう思うだろう!?』ズイ
カル『にじり寄ってこないでください。顔を近付けないで。……でも、もしかすると』
まほ『何だ?』
カル『彼女自身が望んで、ディフェンスへ就いているのかもしれませんよ?』
まほ『……』
カル『サッカーは得点されなければ負けることはありません。守備で貢献したいと思ったのでは?』
まほ『……う、うん……そうだな。確かに、そうかもしれん。みほらしい堅実な考えだ。うん』
カル『……』
まほ『得点者の栄誉をほかの選手へ譲ったんだな。うん、みほは実に謙虚だなあ。うんうん』
カル『……この人が極度の姉バカって噂は、本当だったのね……』
23:
まほ『フォワードの二人を見れば、みほが信頼してそのポジションを任せたことも納得できる』
カル『まず河西選手ですが、身長170センチ。バレー部でもアタッカーを務めていたそうです』
まほ『あの高さは相手にって脅威だ。バレーの選手だから優れたジャンプ力を持っているはず』
カル『彼女のヘディングは強力な武器になるでしょう』
まほ『もう一人はあの?号の砲手。独特の雰囲気を持った選手だ』
カル『五十鈴選手ですね。スポーツ面で部活動などの経験は特にないようですが…』
まほ『私には分かる。あの選手は常に何かを、貪欲に求めている』
カル『……』
まほ『彼女は華道の家元の娘だそうだ。しかし武芸である戦車道へあえて身を投じた』
カル『……』
まほ『何かを激しく求めてそうしたのだ。得点という獲物を常に求めるストライカーに適格だ』
カル『彼女についてはこぼれ話も伝わっていて、非常によく食べる人ということですけど…』
まほ『そうらしいな。だが今は、本人の名誉のために言わないでおいた』
カル『“貪欲に何かを求める”って、やっぱりそれを知ってて言ったんですね』
まほ『“山盛りのメシに飢えるようにゴールを常に求める”と言うわけにはいかないだろ』
カル『とにかく、五十鈴選手は戦車道の全国大会で目覚ましい活躍をしましたね』
まほ『サンダース、あなたのアンツィオ、そして我が黒森峰…』
カル『いずれとの対戦でも相手校のフラッグ車を撃破するトリガーを引いたのは、彼女でした』
まほ『それにしてもあの五十鈴選手だけ、何やら本格的な装備をしているように見えないか?』
24:
カル『あ、そうですね。他の選手のほとんどがこの学園で使われているらしい体操着を着用』
まほ『だがあの選手だけ、着ているのはおそらくサッカー専用のユニフォームだ』
カル『青を基調とした上下です』
まほ『スポンサー名が白いビブスに透けて見える。私の地元にもある家電量販店だ』
カル『背中には彼女が乗る?号に描かれているのと同じ、丸っこいお魚のマークがありますね』
まほ『足元も、ソックスに……靴だって履いているのは普通の運動靴ではない。スパイクだ』
カル『おっしゃるとおりです。これらも専用の物でしょう』
まほ『なぜあの選手だけ、あんな……あ!』
カル『何ですか?』
まほ『よく見たら、みほが同じ格好をしてるじゃないか!』
カル『ああ、そのようです。全く同じ服装に見えますね』
まほ『なぜだ!? どうして揃いの格好なんてしてるんだ!?』
カル『さあ?』
まほ『チーム全員が一緒ならまだ分かる! だがあの二人だけだぞ! どういうことだ!?』
カル『あの、また唾が…』
まほ『……ぐぬぬ……』
カル『どうしました?』
まほ『……みほにまとわり付いてるのは、あのもじゃ毛女だけと思っていたが……』
カル『もじゃ毛?』
まほ『……いつの間に揃いの服など……この試合には不穏な空気を感じる……』
カル『不穏なのはまほさんの様子だと思いますけど』
25:
そど子「…」ピィーッ
カル『いろいろと前置きが長くなりましたが、主審の笛でいよいよキックオフです』
カル『まずボールを持ったのは白組、中盤の底にいる阪口選手』
カル『そこからトップ下のももがー選手へパスが繋がります』
カル『ももがー選手、守備の相手を一人抜き去る。柔らかい動きを見せています』
カル『前線では河西選手と五十鈴選手が待ち構える』
ももがー「五十鈴先輩!」ドカッ
華「はい」
カル『五十鈴選手へボールが通った』
カル『顔を上げた。シュートを撃てるコースを探す。しかしまだペナルティーエリアの外にいます』
カル『開始早々にシュートまで持ち込むことができるか』
カル『相手ディフェンダーの小山選手と佐々木選手に囲まれた』
カル『おっとここで素早くターン! 五十鈴選手が二人を躱す! 撃てるか!?』
カル『撃った! シュート!!』
磯辺「とりゃあっ」バシィ
河西「あっ!?」
華「くっ…」
エルヴィン「止められた…!」
ももがー「キーパーが、と、飛んだナリ……!」
阪口「そんな……」
26:
まほ『これだな』
カル『これですね』
まほ『これが、あのポジションに磯辺選手が就いている理由だ』
カル『キーパーの磯辺選手、横っ飛びに飛んでボールを弾きました』
まほ『五十鈴選手のシュートは枠を捉えていた』
カル『それを見事にピッチの外へ弾き出しました。驚異的な跳躍力です』
まほ『上背の低さという不利な点が、身体能力で完全にカバーされている』
カル『磯辺選手は自分の能力に絶対的な自信を持ち、このポジションを選択したのだと思われます』
まほ『シュートを撃たれる前のポジショニングと、飛ぶ瞬間の判断も絶妙だった』
カル『コースとタイミングを完全に読んでいましたね』
磯辺「へへっ」
小山・佐々木・カエサル「ナイスキーパー!」
磯辺「はい!」
佐々木「申し訳ありませんキャプテン。ディフェンスの私たちが抜かれてなければ…」
磯辺「気にするな! 次も根性で止めてやる!」
カル『ディフェンダー3人とキーパーが声を掛け合っています』
カル『白組はゲーム開始から1分に満たない時間での先制シュートでしたが、不発でした』
カル『さあコーナーキックです』
27:
エルヴィン「阪口、頼む」
阪口「あい!」
宇津木「桂利奈ちゃん頑張って?!」
カル『白組のプレースキック担当は阪口選手のようです。ベンチから声援が送られます』
阪口「おりゃぁぁああ」ドカッ
小山「キーパー!」
磯辺「了解っ」ガシッ
カル『これはキーパーが直接キャッチ』
カル『磯辺選手がボールを思い切り前へ。ナカジマ選手に繋がりました』
カル『今度は紅組の反撃です』
河嶋「よし、いいぞ! 私へパスを出せ!」
優花里「そうはさせません!」ダダッ
カル『ナカジマ選手が、秋山選手やぴよたん選手ら相手守備の執拗なチェックを受けます』
ナカジマ「くっ…」
おりょう「こっちへ一回戻すぜよ」
ナカジマ「うん」ドカッ
おりょう「…」キョロキョロ
カル『中盤の底にいるおりょう選手がボールを受け、パスの出し所を探しています』
河嶋「私はここだ! ここへ渡せ!」
28:
おりょう「澤っ」ドカッ
澤「はい」
河嶋「いいぞ澤! こっちだ!」
カル『紅組は、パスを受けた澤選手が司令塔の位置』
カル『フォワードの3人がペナルティーエリア付近に並んでいる。どこへ最終パスを出すか』
澤「ホシノ先輩!」ドカッ
ホシノ「オーケー」
河嶋「よし来い! 中央にいる私へ回せ!」
カル『ボールを持ったホシノ選手が前を見る』
カル『角度のない位置だが狙うか? シュートか!?』
カル『シュート!!』
カル『しかし白組キーパーの近藤選手が難なく押さえました』
カル『近藤選手は長い手足を駆使してゴールマウスを守ります』
カル『両チームとも元バレー部の選手がキーパー。しかしその様子は対照的と言えるでしょう』
河嶋「なぜだ! なぜ私にボールを出さない!」
カル『河嶋選手が何か叫んでますけど、ゴールキーパーが大きく前線へ蹴ってプレー再開』
29:
――前半10分経過
カル『両チーム無得点のままキックオフから10分が過ぎました』
カル『まほさん。これまでの状況からどういう御感想をお持ちですか?』
カル『グラウンドでは今、紅組のおりょう選手がボールを持ち攻撃の組立てを図るところ』
まほ『あの選手だ』
カル『紅組の注目選手ですか?』
まほ『そうだ。このチームの攻撃は今まで全て、おりょう選手を起点にしている』
カル『彼女のポジションは中盤の底、つまりボランチと呼ばれる位置です』
まほ『バレー部員たちとともに、この選手がゲームの行方を左右するのはほぼ間違いない』
カル『おりょう選手は、戦車道では?号突撃砲の操縦手を務めています』
まほ『操縦手がボランチか。でき過ぎた符合だな』
カル『全国大会の試合でのことですが…』
まほ『ああ』
カル『私の乗るセモヴェンテが、その?突と一騎討ちになりました』
まほ『……』
カル『相手車両は限られた区域の中でも縦横に走り回り、決着は容易につきませんでした』
まほ『……』
カル『もちろんこちらの操縦手も負けてはいませんでした。けど…』
まほ『結果は?』
カル『相討ちでした』
まほ『ボランチとはポルトガル語で“ハンドル”“舵”などの意味らしい』
カル『おりょう選手は全国大会でもこの試合でも、視野の広さや距離感に優れ、冷静です』
まほ『有能な操縦手がチームのハンドルや舵を握っているということだな』
30:
カル『ボールを奪った白組が反撃に転じます』
カル『今度はこちらのチームのボランチ、阪口選手がゲームを組み立てます』
カル『まほさん、白組についてはいかがですか?』
まほ『紅組と同じだ。注目すべきはこの阪口選手』
カル『はい』
まほ『相手チームのおりょう選手と立場が全く同じ。この選手が攻撃の要だ』
カル『そして彼女もまた、操縦手です。搭乗車両はM3』
まほ『我々は全国大会でM3に、エレファント、そしてヤークトティーガーまで仕留められた』
カル『えっ。あの戦車の火力では撃破できるはずが…』
まほ『頭脳戦だ。まんまと罠にはめられた。その重戦車2両は自滅したも同然だった』
カル『……』
まほ『無論、その作戦を考えたのはM3の車長だろう。だが実行に移したのは…』
カル『阪口選手を始めとする乗員たちですね』
まほ『M3に乗るのは1年生ばかりだ。我々はそんな子供たちにしてやられたんだ』
カル『阪口選手はボランチの役目だけでなく、セットプレーのキッカーも任されているようです』
まほ『紅組と同様に、白組でも優れた操縦手がハンドルや舵を握っているんだ』
31:
猫田「ひゃ?、ボクもう疲れた?」
ぴよたん「私もだっちゃ」
カル『紅組ねこにゃー選手、白組はぴよたん選手が交代するようです』
沙織「猫田さーん! 早くはやく!」
ツチヤ「やっと球を蹴られるぞー」
カル『両チームのベンチメンバーが交代を待ちかねています』
そど子「こら! まだ線の内側に入っちゃ駄目! 交代する相手がピッチを出るまで待つ!」
沙織「えー? ちょっと越えちゃっただけじゃないですかー。ねーツチヤさん?」
ツチヤ「ねー」
沙織「固いこと言わないでくださいよー」
そど子「駄目ったら駄目! 校則、じゃなかったルール違反よ!」
まほ『こういう場面は牧歌的だな。この試合は予想以上に締まった展開になったが』
カル『そもそもレクなんだから、少々ゆるい時間があってもいいですね』
まほ『……だが見ろ。そうも言っていられないようだ』
32:
カル『え? あっ、白組のスズキ選手! ドリブルしながら右サイドを駆け上がります!』
まほ『ゴール前では河西選手が張っている』
カル『その頭を狙ってクロスを…いや、上げられない! カエサル選手が体を寄せて競り合う!』
まほ『長身選手同士の肉弾戦だ。迫力があるな』
カル『たかちゃん頑張れ!』
まほ『へ?』
カル『たかちゃん負けるな! あ! スズキ選手が体当たりで無理やり突破しようとします!』
まほ『たかちゃん?』
カル『あーっ!! たかちゃんが倒れた! 何てひどいことをするんでしょう!』
まほ『誰?』
カル『ボールはラインを割りました。ゴールキックかコーナーか…』
ゴモヨ「…」サッ
カル『線審がコーナーを指した! 今のがコーナーキック!? たかちゃんはまだ倒れてます!』
33:
まほ『おい、たかちゃんって誰だ?』
カル『たかちゃんはたかちゃんです! カエサル選手のことです!』
まほ『ああ、その選手の本名か。あなたと知り合いなんだな。でもその呼び方は…』
カル『あっ、主審がカードを出さない! 注意すら与えません! 人が倒れてるのに!』
まほ『呼び方も今喋った内容も、公平さに欠けていないか?』
カル『だってあんなひどいことを! まほさんだってひどいと思うでしょう!? ね、ね!?』
まほ『いや、詰め寄られても。それに“ひどい”と言うがあの程度なら…』
カル『おおっ、たかちゃんが起き上がりました! 痛そうな様子はもうありません』
まほ『あの程度なら少し転んだくらいだろ』
カル『競り合ったスズキ選手と笑顔で言葉を交わしています。さすがフェアなたかちゃん』
まほ『おい、私たちがこの役目を任されたのは…』
カル『キッカーの阪口選手がコーナーへ向かいます。たかちゃんたち紅組ディフェンス陣は要警戒』
まほ『その理由は、私たちが冷静で公平だからじゃなかったのか?』
カル『コーナーからのボールを河西選手がヘディング! しかしバーの上を越えます』
まほ『……』
カル『この局面でも、たかちゃんが河西選手に体を寄せて自由にプレーさせませんでした』
まほ『……』
カル『たかちゃんの活躍で紅組はピンチを免れました。ゴールキックに変わります』
まほ『これがキャラ崩壊か……』
カル『は? 何か言いましたか?』
まほ『ん? 何か聞こえたのか?』
34:
――前半終了直前
カル『先にお伝えしたようにこの試合は前後半20分ずつ。間もなくその前半が終了します』
まほ『いまだに両チーム無得点。こうした展開は意外だな』
カル『どんなゲームになることを予想していましたか?』
まほ『点の取り合いになると思っていた。ごく少数の選手が目立つだけの』
カル『しかしここまでのところ、拮抗した状況が続いています』
まほ『両チーム互角ということだろうが…』
カル『見ている方としては大きな動きが欲しいですね』
まほ『今までと同じことを繰り返していたら得点は難しい。選手たちも分かっているだろう』
カル『では、これまでと違う方法とは例えばどんなものでしょうか』
まほ『両チームがここまで主にやってきたのは、中盤からゲームを組み立てるという展開だ』
カル『パスを繋いでシュートまで持っていく。ある意味、正攻法ですね』
まほ『それ以外だと例えば、サイドから一気に崩すというやり方がある』
カル『先ほど白組のスズキ選手が試みました』
まほ『スズキ選手は右サイドバックだな。白組の右サイドはその選手』
カル『……』
まほ『どうした? 実況担当が黙るな』
カル『では、そのチームの左サイドバックは…』
まほ『みほだ』
カル『……話を誘導しましたね?』
まほ『何のことだ?』
カル『みほ選手に攻撃参加を期待する、と?』
まほ『よく分かったな』
カル『分からない方がどうかしています』
まほ『…おっ見ろ! 私の言うとおりになったぞ!』
35:
みほ「…」ダダッ
カル『ボールを持ったみほ選手、左サイドを猛然と駆け上がります!』
まほ『よし行け! 中央へ切り込め!』
カル『え? サイドからの崩しを期待してたのでは?』
まほ『そのままドリブルシュートだ!』
カル『そんなの無理でしょう。ゴールまでに何人も相手の守備がいるんですから』
まほ『そいつら全員抜け!』
カル『それこそマラドーナじゃないんだし』
まほ『“神の手”を使ってもいいぞ!』
カル『微妙なこと言わないでください』
カル『さあ、私たちが下らない会話をしているうちにみほ選手、相手守備を躱しながら前線へ』
カル『ゴール前では河西、五十鈴の両アタッカーがクロスを待つ』
カル『みほ選手、クロスボールを上げるところまで持ち込めるか』
まほ『フォワードに頼るな! 自分で行け!』
カル『クロスを上げた! ボールがふわりとゴール前へ…』
まほ『ああっ』
カル『それを五十鈴選手がダイレクトボレー!!』
まほ『よしっ』
カル『ゴオオォォォォォル!! 白組が先制! 前半の終了直前、ついに均衡が破られました!』
まほ『おっしゃあああああ』
カル『みほ選手が五十鈴選手へ笑顔で走り寄る! ゴール前に歓喜の輪ができます!』
まほ『よっしゃあああああ』
36:
カル『あれ? 得点を決めたのはみほ選手じゃなかったですけど?』
まほ『みほのチームが勝てばいいのだあああああ』
みほ「ナイスシュート、華さん!」ギュッ
華「いえ、みほさんのクロスが良かったからできたんです」
河西「すごいです! 五十鈴先輩!」ギュッ
華「ありがとうございます」
カル『白組の選手たちが抱き合って喜びます』
まほ『むっ……』
エルヴィン「二人とも、よくやった」
ももがー「1両撃破ナリー!」
優花里「五十鈴殿! 西住殿ぉ?!!」
まほ『むむっ……』
カル『ほかの選手たちもどんどん輪に加わります』
カル『この試合が行なわれているのは芝ではなく土のグラウンド』
カル『だから、ジャンピングボレーシュートを放った後に倒れ込んだ五十鈴選手の髪は埃だらけ』
カル『みほ選手たちがその汚れを優しく払ってあげていま……あれ?』
まほ『むむむ……』
カル『まほさん、どうしました?』
37:
まほ『だ、抱き合うなど、けしからん……』
カル『得点を上げた後に選手たちが抱き合って喜ぶのは普通でしょう』
まほ『けけけ、けしからんものはけしからん!』
カル『喜んだり怒ったり忙しい人ですね』
まほ『お姉ちゃんは許さんぞ!』
カル『まほさんが許そうと許すまいと…』
まほ『特にあのもじゃ毛! どうしてお前までみほに抱き付く!?』
カル『さっきも言ってましたけど、その“もじゃ毛”って誰のことですか?』
まほ『あのもじゃ毛女だ! もじゃもじゃした毛の奴!』
カル『全く説明になってません。……ああ、髪が癖毛の秋山選手ですね』
まほ『犬っコロの分際で調子ぶっこいてんじゃないわよーっ!!』
カル『どこかで見たようなセリフですが』
まほ『揃いのユニフォームを着たアホ毛女はまだ許す! ゴールを決めたから!』
カル『五十鈴選手のことですか。ひどい言い方をしますねえ』
まほ『ただしもじゃ毛! テメーはダメだ!!』
カル『このセリフについては元ネタが有名ですね』
カル『さて、私たちがまたもや下らない会話をしているうちに前半が終了』
カル『ここまでのスコアは1―0。五十鈴選手の上げた先制点で白組がリード』
カル『5分間のハーフタイムに入ります』
38:
――休憩時間中 紅組
磯辺「……くっそー」
佐々木「キャプテン、まだ気にしてるんですか? あれはキャプテンのせいじゃありません」
カエサル「五十鈴へのマークを甘くしてしまった我々ディフェンダーの責任だ」
小山「西住さんにクロスを上げさせちゃったのもまずかったね」
磯辺「……とにかく後半は絶対、無失点にします。相手チームに根性見せてやりますよ」
沙織「磯辺キャプテン」
磯辺「うん…? 武部さんか」
沙織「無理しないでね? レクなんだし。キャプテンは何事にも頑張り屋さんって分かってるけど」
磯辺「うん。気にしてくれてありがとう」
沙織「……さてと、もっと気にしなくちゃいけない人たちがいるんだよね。丸山ちゃん?」
丸山「……」ボー
沙織「後半に出場してね?」
丸山「……」ボー
沙織「全員参加が決まりなんだから、出なくちゃ駄目だよ?」
丸山「……」コク
沙織「丸山ちゃんと交代してベンチへ行ってくれる人、誰かいませんか?」
ナカジマ「あ。じゃあ私の代わりに後半の頭から出てくれない?」
沙織「ナカジマ先輩、いいんですか? 後半最初からなんて」
ナカジマ「私ゃもう3年生の年寄りだからねー。前半だけで十分だよ」
沙織「現役の女子高生が何言ってるんですか。……さてと、もう一人。麻子?」
39:
麻子「何だ」
沙織「麻子もだよ? 出なくちゃ駄目」
麻子「めんどくさい」
沙織「文句言わないで」
麻子「お腹空いた」
沙織「それは全員同じでしょ? 晩御飯の前なんだから」
麻子「動きたくない」
沙織「我が儘言わないの! みんなも出てるんだから、やらなくちゃ駄目!」
麻子「そんなの全体主義だ。横並び無個性教育の押し付けだ」
沙織「わけ分かんないこと言うな! みぽりんが決めたことなんだから、出場するの!」
麻子「西住さんの指示か」
沙織「試合前の話、聞いてなかったの? 全員参加がルールなんだよ」
麻子「それならやる」
沙織「まったくもう。みぽりんの名前を出さないと動かないんだから」
麻子「隊長の命令に従うのは当然だ。で、何をすればいいんだ?」
沙織「はぁ? 今さらそんなこと……」
麻子「私たちはサッカーをやっている。それは知ってるぞ」
沙織「とにかく、ただ立ってるだけでいいから出場してね?」
麻子「立ってるだけでいいんだな」
沙織「誰か、麻子と交代してくれる人いませんかー?」
40:
――休憩時間中 白組
優花里「どうしました、五十鈴殿?」
近藤「西住隊長、五十鈴先輩の様子が…」
みほ「華さん? グッタリしちゃって、具合悪いの?」
華「……すみません……心配を掛けて……」
優花里「でも顔色がいいし、健康そのものに見えますが」
みほ「あ。ひょっとして…」
華「……はい……お腹が空いて……」
みほ「やっぱり」
華「……何だか力が入らなくて……」
エルヴィン「晩メシ前の時間だからな」
みほ「体調が悪いどころか、絶好調過ぎてお腹がすぐ空いちゃうんだね」
華「……お恥ずかしい話です……」
河西「五十鈴先輩はもしかしたら、さっきのボレーシュートで…」
華「……はい……エネルギーを使い果たしてしまいました……」
スズキ「早々とガス欠か。得点の代償は大きかったね」
エルヴィン「燃費があまり良くない女だな、五十鈴は」
華「……面目ありません……」
みほ「レクの時間を御飯の前にしたのは失敗だったかなぁ」
優花里「そんなことありません! 体を動かせばその後の食事がもっとおいしくなるんです!」
エルヴィン「隊長、五十鈴を交代させよう。点取り屋の離脱は痛手だが無理はさせられない」
みほ「うん。華さん、ベンチで休んでて」
華「……ありがとうございます……」
41:
エルヴィン「左衛門佐、五十鈴の代わりに行けるか?」
左衛門佐「エースストライカーの代役。責任重大だな」
みほ「左衛門佐さん、お願い。左衛門佐さんならきっとうまくいくと思う」
左衛門佐「承知した。精一杯務めを果たそう」
みほ「あと、出てないのは…」
山郷「優季ちゃんです」
宇津木「私は遠慮しときます?。運動は得意じゃないし?」
阪口「駄目だよ、優季ちゃん」
近藤「全員が必ず参加しなくちゃ」
宇津木「でも?」
みほ「心配しないで、宇津木さん」
宇津木「はい??」
みほ「後半は激しいプレーや難しいプレーが少なくなってくると思う」
宇津木「そうなんですか?」
河西「どっちのチームもどんどんバテてくるから」
みほ「バテちゃう選手は必ずいる。その人の代わりに入ってくれるだけでいいの」
宇津木「分かりました?」
42:
――後半開始直前
カル『ピッチ上に散った選手たちが後半の開始を告げるホイッスルを待っています』
カル『両チームに選手の交代がありました。まず白組の方からお伝えしましょう』
カル『まほさん。これは驚きのメンバーチェンジと言っていいですね?』
まほ『ああ。まさかエースがこんなに早くベンチへ引っ込むとは』
カル『五十鈴選手が交代です。何かあったのでしょうか。ケガなどでなければいいのですけど』
まほ『おそらく心配することはないだろう』
カル『と言いますと?』
まほ『あの選手のことだ。単に腹が減って動けないとかの理由だろう』
カル『さっきからひどいことばかり言いますねえ』
カル『代わりに入ったのは左衛門佐選手。戦車道では?突の砲手です』
カル『一方の紅組ですが……』
丸山「……」トテトテ
カル『何と言うか……ちょっと表現しづらいのですが……』
まほ『これだけ人数がいるんだ。あんな選手がいても不思議ではない』
カル『まあその、ああして歩く姿とか……実に可愛らしい、とは言えますね』
まほ『あの選手が走ってボールを追う、そんな姿を想像するのは至難の技だな』
カル『そうした光景もこの後見られるでしょうか。ナカジマ選手に代わり丸山選手が入りました』
43:
まほ『こっちは、もっとひどいぞ』
麻子「……」
カル『絵に描いたような棒立ちですね』
まほ『歩いてすらいない。準備運動をやろうとする気配など皆無だ』
カル『膝を完全に伸ばして立っています。これからスポーツをする人にはどうしても見えません』
まほ『この冷泉選手との交代で下がったのは誰だ?』
カル『フォワードのホシノ選手です。冷泉選手はその位置へ入っています』
まほ『さっきの交代といいこの交代といい、紅組は勝負を捨てたと見られても仕方ないな』
カル『しかし白組も、得点源の五十鈴選手が外れました』
まほ『戦力ダウンはお互い様か。だが、この冷泉選手…』
カル『何でしょう』
まほ『相変わらず不気味な存在だ。何をするか分からない気配を感じる』
カル『どういうことでしょうか』
まほ『彼女は?号の操縦手だ。私のティーガーが決勝の最後に?号と一騎討ちをしたのは…』
カル『もちろん知っています。あの戦いは今後ずっと、全国大会についての語り草になるでしょう』
まほ『この操縦手は高でティーガーの後ろへ回り込んだ。そうして我々は撃破された』
カル『記録映像で見ました。あり得ない操縦でしたね。あんなことが戦車に可能なのかと…』
まほ『その“あり得ない”ことを可能にさせたのが、この冷泉選手だ』
カル『……』
まほ『彼女はこの学園で学年主席だそうだ。通知表の全教科が常に最高評定という噂がある』
カル『あ。ということは、体育も……』
まほ『この選手は、実は優れた反射神経や動体視力、運動能力を持っているのかもしれない』
カル『……とにかく、後半の開始です。主審の園さんが時計を見て、笛を口に咥えました』
44:
――後半10分経過
まほ『……なあ』
カル『何ですか?』
まほ『もうこんなこと、やめないか?』
カル『私へそう言われましても』
まほ『何だかもう飽きちゃった』
カル『あと10分だけですから辛抱してください』
まほ『でもなあ。ずっとこんな試合見せられてもなあ』
カル『お気持ちは分かりますけど』
まほ『やっぱり後半の交代で、ゲームがつまらなくなったな』
カル『先ほど、最後までベンチにいた白組の宇津木選手もピッチへ入りました』
まほ『下がったのは誰だっけ』
カル『ももがー選手です。三式中戦車搭乗員の中では一人、気を吐いていましたけど…』
まほ『その戦車に乗ってる3人は普段ネトゲ漬けらしいから、バテるのも早かったな』
カル『でも、ももがー選手はトップ下として機能していました』
まほ『だから、だ。そういう選手がベンチへ下がっちゃったから、試合がつまんなくなった』
カル『代わりにトップ下の役割へ就いたのは、秋山選手です』
まほ『はぁ? ほーん。あのもじゃ毛に司令塔なんて務まるわけないだろ』ホジホジ
カル『ちょっと……鼻の穴をほじらないでください。みっともない』
まほ『いーだろ、誰も見てないし。もうつまんないからこの試合』
カル『……』
まほ『あなただってそう思ってるんだろ? このままみほたちの勝ちでいいぞ』ハナホジー
カル『それはまあ……あっ? あ、危ない!』
まほ『どした?』
カル『ボールが冷泉選手の所へ飛んでいきます!』
45:
沙織「麻子、危ない!」
澤「冷泉先輩、避けてください!」
大野「早く! ボールが当たる!!」
カル『冷泉選手は相変わらず棒立ち状態! このままでは頭に激突…』
麻子「何だ? こっちへ球を飛ばすな」ヒョイ
カル『ああっ!? 冷泉選手、頭だけ動かしてそれを避けた!』
カル『そしてボールは……これはなんということでしょう!』
カル『結果として、これがほかの選手へのスルーパスになった!』
河嶋「うおっしゃあぁあ」ダダダッ
カル『このパスを受けたのは河嶋選手』
カル『今までボールを全く出してもらえなかった…いえ、ボールに触る機会のなかったこの選手』
カル『この河嶋選手へ初めてパスが出ました!』
カル『敵も味方も完全に予想外の展開』
カル『河嶋選手はゴールまで独走、オフサイドはない!』
カル『キーパーと一対一! 至近距離からシュートを撃つ!!』
河嶋「でやああぁぁぁぁぁああ」ドカッ
46:
澤「あっ…」
大野「あーあ」
沙織「あちゃー」
おりょう「……諸行無常ぜよ」
丸山「……」ボー
カル『これもまた、なんということでしょう……!』
カル『河嶋選手、シュートを大きく外してしまいました』
カル『ボールはクロスバーのはるか上へ』
カル『ゴールよりもボールを高く高く蹴り上げて、又とないチャンスを逃してしまいました』
カル『味方の選手たちは皆、何やってるんだという表情です』
カル『さあ、そして出るか? 例のセリフ』
小山「桃ちゃん、ここで外すー?」
カル『出ました! 小山選手、お約束のセリフです!』
まほ『……これがやりたかっただけだろ』
カル『まほさん? また何か言いましたか?』
まほ『どうした? また何か聞こえたのか?』
47:
カル『この試合ではボールが1個しか使われていません』
カル『その1個のボールを追って、白組キーパーの近藤選手がゴールの向こうへ走っていきました』
カル『ゴール裏の林へ、河嶋選手がシュートを大きく外しボールを入れてしまったからです』
カル『河嶋選手はゴールマウスの前で仁王立ちになり、遠ざかる近藤選手を見つめています』
カル『一緒にボールを探しに行けばいいのに、と思うのは私だけでしょうか』
カル『この時間を利用して、両チームの選手たちがそれぞれのベンチ前で水分を補給しています』
カル『1点を追う紅組では攻撃陣が真剣な表情で集まり、緊急の話合いを行なっている模様です』
沙織「どうする? このままじゃ負けちゃう」
おりょう「たった1点が遠いぜよ」
澤「私がもっとうまく、あやへパスを出せてれば…」
大野「私の1トップ状態で、ディフェンスからのマークがキツいんだから仕方ないよ」
澤「相手センターバックのあゆみが、あんなに粘っこい守備をするなんて思わなかった」
沙織「河嶋先輩は相変わらず当てにならないし」
おりょう「キーパーと一対一の絶好機を見事に外してくれたぜよ」
澤「とにかく、私たちが何とかしなければ駄目です」
大野「あけびちゃんたちが後ろで頑張ってくれてるんだから」
おりょう「ディフェンダー3人が左衛門佐と河西を抑えてるうちに、点を取り返さんといかん」
沙織「でもそのために、どうすればいいの……?」
48:
丸山「……」トントン
大野「え? 肩を……あ、紗希ちゃんか」
丸山「……同じコト、やればいい……」
大野「何? 同じ?」
丸山「……さっきと、同じコト……」
澤「さっきと……? あ!」
大野「そうか……! さっきと同じこと!」
沙織「そうだ! 同じことをやればいいんだよ!」
おりょう「なるほど。妙案ぜよ」
大野「すごい! 紗希ちゃん天才!」
沙織「麻子!? どこにいるの、麻子!?」
麻子「すぐそばにいる。何の用だ、沙織」
一同「……」ギロッ
麻子「うっ」
一同「……」ジー
麻子「何だ。どうして皆、私を見つめるんだ」
一同「……」ジー
麻子「人間はたまに、お化けより怖いな」
澤「冷泉先輩……」ズイ
麻子「な、何だ」
おりょう「これから…」ズイ
沙織「私たちの、言うとおりに…」ズイ
大野「動いて、くれませんか?」ズイ
麻子「……」
49:
カル『ボールを回収した近藤選手がグラウンドへ戻り、給水を終えた選手たちも再びピッチへ』
カル『試合の残り時間は10分を切りました。このまま白組が1点を守りきるか』
カル『それとも紅組が追い上げを見せるか。先ほどの話合いは功を奏するでしょうか』
カル『その紅組ですが、システムに変更があるように見えます』
カル『司令塔の澤選手が今までよりも下がり気味の位置へ』
カル『そして、澤選手がいた場所には…』
カル『これは驚くことに、冷泉選手がいます。棒立ちの冷泉選手がトップ下?』
カル『まほさん、一体どういうことでしょうか』
まほ『ふうん。少しは面白くなってきたようだな』
カル『面白くなった? 紅組の意図はどのようなものだとお考えですか?』
まほ『見ていろ。すぐに分かる』
カル『は、はい。プレーは既に再開されています。紅組がボールを奪い、おりょう選手へ』
カル『ここから再び攻撃の組立てを図り…いや、上がっていかない』
カル『おりょう選手、押し上げていかない。ボールを足元で止めました』
カル『フリーキックのような動作。白組の選手たちはそれをチェックに行かず、中途半端な動き』
カル『両チームとも疲れが見られる時間帯です』
カル『おりょう選手はその隙を突いて、前線へロングボールを送ろうという狙いか』
おりょう「南無八幡大菩薩…!」
カル『何かを低く呟き、短く助走して蹴った。飛んだ先は…』
カル『あっ、また冷泉選手です! 冷泉選手へ向かってボールが一直線!』
50:
麻子「また球が来たか。危ない」ポン
スズキ「えっ」
山郷「あ。しまった…!?」
大野「よしっ! もらったああッ!」ダダッ
みほ「山郷さん! 追って!」
山郷「は、はいっ! くうっ…!!」ダッ
カル『また、目を疑うような展開です!』
カル『冷泉選手へ飛んだボールは、今度は頭ではなく足の方へ』
カル『それをこの選手は、邪魔だと言わんばかりに自分の斜め後ろへ蹴り出した』
カル『棒立ちのまま足をひと振りしただけ』
カル『するとこれがなんと、フォワードの大野選手への絶妙なヒールパスとなりました!』
カル『パスを受けた大野選手がドリブル! ツインテールの髪をなびかせてゴールへ疾走!』
カル『山郷選手が必死に追うもディフェンスは完全に置き去り! 今度もオフサイドはない!』
カル『またキーパーと一対一! シュート!!』
カル『ゴオオォォォォォル!! 同点! 大野選手のゴールで1―1! 紅組、追い付きました!』
大野「やったああ!」
澤「あや! ナイスゴール!」
沙織「やだもおおお嬉しいいい」
おりょう「今、冷泉と大野に菩薩の姿を見たぜよ」
丸山「……」トテトテ
河嶋「ふむ、よくやった。褒めてやろう」
カル『今度は紅組に歓喜の輪ができます』
カル『無表情な丸山選手もそれに加わり、仲間と手を取り合う』
カル『先ほど同じ局面でシュートを外した河嶋選手も、ゆっくり輪の中へ』
カル『そして冷泉選手が、武部選手に手を引かれて仲間たちの所へ行き、祝福を受けます』
51:
カル『まほさん』
まほ『何だ』
カル『どう言えばいいのか……』
まほ『私が“面白くなってきた”と話した意味が分かったろう』
カル『はい。冷泉選手は、あんなプレーを意図してやっているんでしょうか』
まほ『私に分かるものか』
カル『……』
まほ『あなたは、私があの選手を“不気味”と言った理由も分かったろう』
カル『はい……』
まほ『何をするか分からない。思ったとおりあんなプレーが出たな』
カル『……』
まほ『だが冷泉選手は、ただ棒立ちになっているだけではなかった』
カル『ただ立っているだけでは、なかった……?』
まほ『味方選手の居場所を常に意識し、その動きに合わせて自分の立つ位置を微妙に変えていた』
カル『それは、自分へパスを出す選手、そして自分が最終パスを供給すべき選手の…』
まほ『そうだ。トップ下という役割を完全に理解し、それを正確に実行していたんだ』
カル『さっき私たちは、冷泉選手を“不気味”と言いましたけど…』
まほ『大洗の選手たちにとっては不気味でも何でもない。彼女は極めて有能な、頼れる仲間だ』
カル『ではやはり、あのプレーも計算されたもので…』
まほ『それは本人に訊かないと分からない。今の我々に分かるのは結果だけだ。事実だけだ』
カル『仲間の選手が彼女を信頼し、彼女はその期待に応えた。そういう結果、事実ですね』
まほ『我々は所詮、部外者だ。ここの選手のことをどれほど調べようと限界がある』
カル『はい』
まほ『だが大洗の選手たちは冷泉選手の仲間だ。彼女のことを知っている。理解している』
52:
カル『あ……。御覧ください、白組もフォーメーションを変えます』
まほ『冷泉選手を理解しているのは相手チームも同じだ。封じ込める策に出るようだな』
カル『みほ選手がエルヴィン選手と何か話し合っていましたが、その後…』
まほ『エルヴィン選手が本来の位置から離れた』
カル『このポジション変更も驚きです。なんと、マンマークです』
まほ『冷泉選手へエルヴィン選手が、影のように付きまとう作戦だ』
カル『白組はこの選手だけに対して、マンツーマンディフェンスをするようです』
まほ『中盤を一人削るリスクを冒してでも、確実に抑え込む必要がある。そう判断したんだな』
カル『大洗の選手たちは冷泉選手のことを理解しているからこそ、逆に…』
まほ『敵に回したらどれほどの脅威となるかを、知っているんだ』
エルヴィン「冷泉。私はこれから、お前に少し大人しくしてもらう」
麻子「……」
エルヴィン「悪く思うな。お前を封じない限り我々に勝ち目はない」
麻子「何の話だ? 私はただ、仲間から言われたとおりにしているだけだ」
エルヴィン「ほう? 仲間から何をしろと言われたんだ?」
麻子「そんなことを教えられると思うのか?」
53:
おりょう「冷泉っ」ドカッ
沙織「麻子! ボールが行ったよ!」
麻子「…」スッ
エルヴィン「動いた!?」
麻子「…」ススッ
エルヴィン「くっ…こいつ、早い!」
麻子「何だ? 付いてくるな」スッスッ
エルヴィン「そうはさせるかっ!」ザアッ
カル『素早く動く冷泉選手、それを懸命に追うエルヴィン選手』
カル『エルヴィン選手はスライディングタックルなどを仕掛ける。ファウルすれすれのプレー』
カル『しかし冷泉選手はそれを顔色一つ変えずに躱す』
カル『二人が激しく競り合うすぐそばを、冷泉選手へのパスを狙ったボールが通り過ぎました』
カル『マンマークは一定の効果を上げているようですが…』
まほ『時間の問題だな。エルヴィン選手が消耗してマークが振り切られるのは』
カル『その時間ですが、試合の残り時間が僅かとなりました』
まほ『やっと終わりか。あとどのくらいだ?』
カル『3分です。アディショナルタイムを含めれば5分ほどかと』
まほ『これまでに蓄積した疲労もあるだろうし、終了まで体力がもつか微妙なところだな』
54:
カル『残り時間が少なくなり、このまま同点で終わるか、それとも…』
まほ『試合の結末はもう見えてるだろ』
カル『え? どんな結末ですか?』
まほ『このまま同点が続く。そして試合終了直前、みほが決勝点を入れて劇的に終了だ』フフン
カル『えーと……』
まほ『何だ?』
カル『すごいドヤ顔で喋ってますけど、どうしてそう断言できるんですか?』 
まほ『決まってるだろう。みほがこのストーリーの主人公だからだ』
カル『……』
まほ『どうした? 実況が何度も黙るな』
カル『失礼しました。今のは姉バカ発言なのか、○タ発言なのか、すぐに判断できなかったので』
まほ『あなたが何を話してるのか理解できない』
カル『それはともかく、そのタイミングで点が入ればほぼ間違いなく試合が決まりますね』
まほ『結末はこれ以外にないだろ。最後はみほがいるチームの勝利だ。正義は勝つのだ』
カル『まるで相手チームが悪みたいですね』
まほ『正義に対抗する者は悪だ。こんなことは中学生でも分かるぞ』
カル『今のが論理のすりかえだってことも、中学生でも分かると思いますよ』
55:
まほ『とにかく、決勝点を叩き込んでこの試合の最優秀選手になるのはみほだ』
カル『でもみほ選手はディフェンダーです。白組が勝つとしても得点するのは前線の選手…』
まほ『そんなことに何の関係がある?』
カル『は?』
まほ『最終ラインでボールを奪ったら、周りなんて敵も味方も一切構わず攻め上がればいい』
カル『さっきも同じようなムチャクチャを叫んでましたね』
まほ『そらもうアレよ。ガーッと行ってドーンよ』
カル『それって誰のマネなんですか?』
まほ『ゴールまでにいる全員を華麗に抜き去ってシュートよ』
カル『まあ、そのとおりになるかどうか知りませんけど…』
まほ『何だ?』
カル『確かにおっしゃるとおりサッカーは、どのポジションの選手でも得点は可能です』
まほ『ディフェンダー、ゴールキーパー、さらにはゴールを守る側の選手であろうと…』
カル『誰でも得点者になる可能性があります。ボールをゴールに入れるだけの競技ですから』
まほ『穴は一つしかないから』
カル『そういう意味深な言い方はやめてください』
まほ『意味深な言い方(意味深)』
カル『いい加減にしてもらえます?』
56:
麻子「どうした? ずいぶん息が荒くなったな」
エルヴィン「はあっ。はあっ。はあっ」
麻子「もう終わりか?」
エルヴィン「はあっ。はあっ。はあっ」
麻子「私へのストーカー行為は」
エルヴィン「ぐ……ほざけ!」ダッ
麻子「…」スッ
エルヴィン「うっ!? 消え…」
大野「冷泉先輩!」ドカッ
麻子「…ほら」ポン
澤「はいっ!」ダダッ
エルヴィン「……やられた……!」
カル『再び出ました! 冷泉選手のミラクルプレー!』
カル『いえ、今度はそのミラクルプレーを活かした紅組攻撃陣の連係プレー!』
カル『大野選手がボールを持ってディフェンダーに囲まれ、後ろへパス』
カル『このパスはマークを一瞬だけ躱した冷泉選手へ飛び、それをこの選手が頭で方向を変えた』
カル『するとボールは後方よりダッシュしてきた澤選手に。冷泉選手はそっちを全く見ていない』
カル『再び出た、まさに“後ろに目がある”ようなミラクルプレー! こうして連係が完成!』
カル『後方から一気に抜け出た澤選手に対して白組はノーマーク! またまた紅組の選手が独走!』
カル『澤選手がキーパーの位置を見て、ボールを確実にゴールへ流し込む!』
カル『逆転!! ついに逆転です! 2―1! 終了間際、紅組が試合を引っくり返しました!』
57:
麻子「落ち着いて決めたな」
澤「冷泉先輩のお陰です!」ギュッ
麻子「こら。急に抱き付くな」
大野「冷泉先輩だぁい好きー!!」ギュッ
麻子「苦しい。二人も抱き付くんじゃない」
沙織「麻子すごおおおーい!!」ギュッ
麻子「く、くるちい。皆やめろ。圧死させる気か」
カル『仲間の手荒い祝福を受ける冷泉選手』
カル『再びできた紅組の歓喜の輪へ、選手たちが次々と加わる』
カル『ゴールキーパーの磯辺選手もその場で大きくガッツポーズ』
カル『一方の白組は、ほとんど全員が呆然自失。2失点したキーパーの近藤選手は特に険しい表情』
カル『しかしゴールキーパーばかりを責めることはできないでしょう』
カル『失点シーンはいずれも一対一、シュートを撃つ側が有利とされる状況だったからです』
カル『今、前後半の40分が終了』
カル『アディショナルタイムに入りました。2分です』
カル『白組は窮地に立たされた。この2分間で同点へ追い付けるか』
カル『それとも、土壇場での逆転に成功した紅組の勝利か』
59:
まほ『……な……な……』
カル『まほさん、どうしました?』
まほ『……な、な、な……』
カル『小刻みに震えながら何か呟いてますけど、試合が再開されたのでそちらを優先しましょう』
まほ『なっなっ何やってだああああああああああああ』
カル『もう黙って座っててください。ハッキリ言ってうるさいですから』
まほ『お前ら全員人民法廷送りだあああああああああ』
カル『シャレにならないことは言わないようにお願いします』
まほ『終了間際の失点なんて許されると思ってんのかあああああああ』
カル『さっきはそういう失点を望んだくせに。みほ選手のゴールで紅組が終了間際に失点するのを』
まほ『ドーハの悲劇から何一つ学んでないじゃないかあああああああ』
カル『まほさんの言うことも河嶋選手並みに古いですね』
まほ『こうなったらみほ! みほが行け! 全員蹴散らしてドリブルシュートだ!!』
カル『別に蹴散らす必要なんてありませんけど』
まほ『この超弱小零細無名校、大洗を優勝させたみほならできる! もう一回奇跡を起こせ!!』
カル『大洗に人民法廷があったら侮辱罪でそこに送られますよ?』
まほ『そもそも、もうそのくらいしか残された道はない!!』
カル『それはおっしゃるとおりですね。時間的にもスーパープレーが出ない限り得点は難しい』
まほ『今から2点入れて逆転だ! 1分につき1点! 今すぐやれ!!』
カル『そんな無茶な。しかし白組としてはせめて引き分けで終わりたいでしょう』
まほ『おっ見ろ! また私の言うとおりになったぞ!!』
60:
カル『えっ。あ、そうです! そのとおりです! 最終ラインでみほ選手がボールを持ちました!』
まほ『行け! そこから一気にゴールを目指せ! 執念の全員抜き、魂の追撃だ!!』
カル『しかしみほ選手、上がっていかない。ボールをその場でキープしたまま』
カル『もう残り時間がほとんどない。主審が時計を見た』
カル『みほ選手がボールを足元で止めて前を向く』
カル『今、ボールがあるのは白組の最終ライン』
カル『ハーフウェーラインと自陣ゴールとの中間くらいの位置』
カル『そこから紅組ゴールまで、かなりの距離がある』
カル『その距離をどうやって縮めていくのか』
カル『ここからどう攻撃を仕掛けていくのか』
カル『みほ選手の意図は何か。今、何を考えて…』
まほ『曲射だ』
カル『えっ』
61:
まほ『曲射だ。弾丸が大きく放物線軌道を描く射撃だ。あなたが知らないはずないだろう』
カル『もちろん知っていますけど、それは射撃の話…』
まほ『みほは今、曲射の弾道を計算してるんだ』
カル『それは、まさか…』
まほ『その“まさか”だ。あそこで蹴ったボールが空中で放物線を描きゴールするのを狙っている』
カル『それは……それは超長距離シュートということになります。そんなものが可能でしょうか』
まほ『もうパスを細かく繋いで相手ゴールまで行く時間はない。得点する方法はこれ以外にない』
カル『でもあの位置から、フィールドプレーヤー全員の頭上を越えるシュートなんて』
まほ『あなたはさっきこう言った。“スーパープレーが出ない限り得点は難しい”』
カル『では今からその、スーパープレーが…』
まほ『それに、撃つのは砲弾ではなくボールだ。単なる曲射にはならない』
カル『そんな。ますます、まほさんの言っていることが…』
まほ『単なる曲射以上のことが可能なんだ。キックの技術で軌道を変化させることもできるんだ』
カル『あっ。御覧ください、ゴールキーパーの磯辺選手が…』
まほ『みほの狙いに気付いたな。腰をぐっと落とした』
カル『いつでも跳躍可能な構え。まるでPKのときの姿勢です』
まほ『これはもはや事実上のPK、みほとキーパーの一騎討ちだ。磯辺選手は状況を分かっている』
カル『この試合に関わる全員がみほ選手を見つめています』
カル『グラウンドが異様な雰囲気に包まれてきました』
カル『おそらくこれが、この試合で最後のプレー』
カル『何人かの選手がみほ選手の意図に気付いた様子』
カル『気付いた中には紅組の選手もいる。今、その選手たちがみほ選手に向かって走り出した!』
カル『この超長距離シュートを撃たせてしまったら、紅組は勝利を逃す可能性がある』
カル『何としてもみほ選手を潰し、シュートを阻止するつもりです!』
62:
まほ『みほ! 早く撃て!』
カル『前を見たままみほ選手が何歩も下がる。長い助走距離』
まほ『早くしろ! 潰される!』
カル『ゴールをもう一度見て助走に入った。紅組の選手たちが必死の形相で迫っている』
まほ『よし撃てえええっ』
カル『蹴った! その直後にタックルを受けてみほ選手が地面に倒れる』
まほ『よし行っけえええええええっ』
カル『ボールが大きく放物線を描く。フィールドプレーヤー全員の頭上を通り過ぎていく』
まほ『行けええっゴールだあああっ』
カル『落下点を予測してキーパーが動く…しかしボールの軌道が変化! それを見た磯辺選手は…』
まほ『行けえっもっと曲がれええっ』
カル『飛んだ!! この試合で最大の跳躍! ボールは枠の右隅へ! 思い切り手を伸ばす!!』
まほ『みほおおおおおおおおおおっ』
カル『手が先か!? ゴールが先か!?』
64:
??????????
まほ「……うう……」
カル「もう泣くのなんて、やめたらどうですか?」
まほ「……ううう……」
カル「大洗の皆さんは全員グラウンドからいなくなって、私たちだけになってしまいましたよ」
まほ「……ううう……みほ……」
カル「もういいじゃないですか。最後は結局、磯辺選手の手が勝ったんです」
まほ「……ううう……みほ……うう……」
カル「手というより指ですね。指先だけで辛うじて弾いた。ほんの数センチだけボールに触れた」
まほ「……うう……」
カル「これはもう運みたいなものです。みほ選手はその数センチだけ、運が足りなかったんです」
まほ「……ううう……」
カル「大洗の皆さんだって、勝っても負けても泣いたりなんかしていなかったですよ?」
まほ「……ううう……みほ……」
カル「隊長のみほ選手を始め、誰もが“楽しかったね”と言ってました」
まほ「……ううう……みほ……うう……」
カル「活躍した人もしなかった人も、全員が笑顔でした」
まほ「……うう……」
カル「だからまほさんも笑ってください。笑って、もう帰りましょう」
まほ「……ううう……」
カル「まほさん」
まほ「……ううう……」
カル「もう泣きマネなんて、やめたらどうですか?」
まほ「ギクッ」
65:
カル「そういう擬音を口に出して言う人を、今、初めて見ました」
まほ「私は泣きマネなど、し、してい…」
カル「じゃあ帰りましょう。今すぐに」
まほ「先に、帰ってくれ……」
カル「何言ってるんですか。一緒にヘリへ乗って帰りましょうよ」
まほ「……」
カル「フォッケ・アハゲリスFa223で送っていってくれるんでしょう?」
まほ「だから、それに乗って先に帰ってくれ……」
カル「じゃあまほさんはどうするんです?」
まほ「私は、適当に帰る……」
カル「ますます何を言ってるんでしょう。この学園艦から泳いで帰るとでも言うんですか?」
まほ「……」
カル「それとも…」
まほ「何だ……?」
カル「帰らない理由、私を先に帰したい理由でもあるんですか?」
まほ「ギクギクッ」
カル「もうそういう擬音は口にしなくていいですから」
まほ「そ、そんな理由など、ない……」
カル「こうしてずっと泣きマネをしていれば、そのうち私は呆れて先に帰ってしまう」
まほ「……」
カル「それを狙ってるんじゃ、ないですか?」
66:
まほ「なっ、何を根拠に…」
カル「こんなことを本人に言うのは失礼かもしれませんけど…」
まほ「何だ?」
カル「私は以前、まほさんについて恐ろしい噂を耳にしたことがあるんです」
まほ「噂? 恐ろしい?」
カル「恐ろしいと言うより、おぞましいと言った方がいいかもしれませんね」
まほ「おぞましい? どんな噂だ?」
カル「まほさんは、妹のみほ選手のことが大好きです」
まほ「ああ。妹だからな」
カル「好きで好きで大好きで、大好きなあまり…」
まほ「……」
カル「みほ選手の下着を盗んで、隠し持っているという噂です。下着泥棒をしているという噂です」
まほ「ドキッ」
カル「擬音をわざと言ってます?」
まほ「な、なんというとんでもないことを。それでは私がまるで変態みたいだ」
カル「違うと言うんですか? 私は今日のまほさんを見て、ある確信を持ちましたけど」
まほ「ある、確信……?」
カル「まほさんはみほ選手が大好き。姉バカなくらいに」
まほ「……」
カル「でもこれはそんなレベルじゃない。これはもう、みほ選手の恋人になりたいくらいのレベル」
まほ「何を言ってるんだ、実の妹だぞ…?」
カル「みほ選手の全てを、自分のものにしてしまいたい」
まほ「へ、変なことを言うな。いい加減にしろ…」
カル「だから私は、確信したんです…!」
まほ「やっやめろ…これ以上言うな…」
カル「下着ドロの噂は本当である、と!!」ビシッ
67:
まほ「……う……」
カル「反論したらどうですか?」
まほ「……」
カル「みほ選手たちは今、合宿中です」
まほ「……」
カル「全員が、校内の合宿棟で寝泊りしているそうです」
まほ「……」
カル「ということは、本来住んでいる寮の部屋にみほ選手はいない」
まほ「……」
カル「まほさんはその隙に部屋へ忍び込んで、またパンツでも盗もうと考えたんじゃないですか?」
まほ「……」
カル「だから私を、先に帰してしまいたかったんじゃないですか?」
まほ「……は、ははは……」
カル「……」
まほ「も、妄想も大概にしろ……ははは、ははははははははははははははははははは」
カル「こんなに白々しく笑う人も、今、初めて見ました」
まほ「全てデタラメだ。根も葉もない言いがかりだ」
カル「それなら今すぐ、私と一緒に帰ってくれますね?」
まほ「ぐ……そ、それは……」
カル「全てデタラメなら、今すぐ帰っても何の問題もないですよね?」
まほ「それは、あなたが先に帰…」
カル「まほさんはこんな所までやって来て、やりたくもないサッカーの解説なんかやらされて…」
まほ「……」
カル「どうせならひと仕事してから帰ろう、と思ったんでしょう?」
まほ「何だそれは。人を常習犯みたいに」
68:
カル「ほら、お迎えが来ましたよ。Fa223の操縦手、通信手のかたがた」
まほ「うっ。お、お前たち……」
操縦手「隊長。遅いから迎えに来ました」
通信手「さあ早く帰りましょう」
操縦手「アンツィオ高の副隊長さん。うちの隊長がお手間を掛けたみたいですね」
カル「いえ、それほどでも」
通信手「元副隊長のことになると、隊長は見境がなくなっちゃうんです」
カル「そのようですね。でもたった今、一緒に帰ることに同意してもらえました」
まほ「わ、私は同意など…」
操縦手「隊長はここへ残るって言ったんですか? 元副隊長に何をするつもりだったんでしょう」
通信手「それに、ここから一人でどうやって帰る気だったんでしょうね」
カル「まあ、変態の考えることですから。私たちには理解できません」
操縦手「そうですね」
通信手「まったくです」
カル・操縦手・通信手「はっはっはっ」
まほ「お前たち何を言ってるんだ! 私は変態ではない!」
カル「変態はみんなそう言うんです」
操縦手「さあ行きましょう」ガシッ
通信手「大人しくしてくださいね」ガシッ
まほ「おい! どうして両腕を掴むんだ!」
69:
カル「大丈夫でしょうか。機内で暴れたりするんじゃないですか?」
操縦手「ああ、それなら御心配なく」
通信手「ヘリは病人やケガ人を搬送する際に使う担架を積んでいます」
操縦手「担架には乗せられた人が動かないよう固定するベルトが付いてますから」
通信手「それに乗せて、体をベルトで拘束します」
カル「なるほど」
まほ「そ、それはどういうことだ! それじゃ私がまるで凶暴なキ○ガイみたいだろう!」
操縦手「え? 違うんですか?」
通信手「今の隊長は“みたい”じゃないと思いますけど」
カル「キチ○イはみんな自分を正常だと思っている。さっきの変態理論と同じですね」
操縦手「さあ、もういいから行きますよ?」グイ
まほ「何をする! 私は帰らないぞ! 帰らない!」
通信手「もうお腹空いたでしょ? 帰りますよ? ね?」グイ
まほ「いやだ! 帰らない! みほ、助けてくれーっ!」
操縦手「叫んでないでとっとと歩いてください」
通信手「本当に世話の焼ける人ですね」
カル「叫んでもみほ選手は来ませんよ。今頃は皆さんで仲良く、御飯を食べていることでしょう」
まほ「私は帰らない! 助けて! みほ! みほーっ!!」

70:
>>1です。
1か所、訂正があります。
>>1にある小山のセリフ、
「足りない内容も付け足す内容も」を、
「足りない内容も不要な内容も」に訂正します。
71:
ついに「乙レスすら付かないss」を書いてしまったか、と思い、
このまま何もせずにhtml化申請をする積もりでした。
しかしある事から、こんな物でも目に留めてくださるかたがいるということを知って、
上の訂正文を書きました。
誤字脱字などについてではないため、訂正として許されるものかちょっと微妙ですが。
72:
サッカークラブとのコラボネタを絡めた物を以前に1本書きましたが、
今回は最初から最後までサッカーという内容に挑戦しました。
スポーツの描写って難しいですね。
最後に、これを読んでくださった全てのかたがたにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
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