高槻やよい「この真実が幸せを運ぶ」back

高槻やよい「この真実が幸せを運ぶ」


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1:
やよい「夢を見ました……」
後部座席で、私はいつの間にか眠ってしまっていたみたいです。
P「夢?」
やよい「はい」
寝ぼけた頭で、さっきの夢を、必死で言葉にしようとします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416067002
3:
やよい「プロデューサーが、遠くに行ってしまう」
やよい「悲しい、悲しい夢です」
P「………」
運転中のプロデューサーは、黙って続きを聴いてくれます。
4:
やよい「夢の中の私は、何も出来なくて」
やよい「えーん…って、泣いてばかりいるんです」
P「………」
やよい「………」
5:
しばらくの沈黙。
やよい「……あの、プロデューサー」
P「ん?」
やよい「こういうときって、『俺はどこにもいかない』って」
やよい「言ってくれたり……しないんですか」チラッ
6:
P「お前……それ言ってて恥ずかしくないのか?」
やよい「……あぅ」
P「そんなの、言うまでもないと思うんだけどな」
やよい「…でもでも、女の子はちゃんと言ってほしいものなんですっ!///」
P「はいはい」
7:
P「ほら、事務所に着いたぞ」
やよい「…はーい」
ガチャッ
P「寒くなってきたなぁ」
スッ
やよい「ええ、とっても!」
ギュッ
さしだされた左手に、私の右手を重ねます。
8:
P「やよいの手は小さいなぁ」
プロデューサーは、私の手を取って、いつも決まってこれを言います。
やよい「もう、何回も聞いたかなーって」
それは、私たちのおまじないみたいなものでした。
9:
私たちはよく、手をつなぎます。
そして、プロデューサーは、私の半歩のまた半分だけ、前を歩いて。
私は、プロデューサーの半歩のまた半分だけ後ろを、ついていきます。
10:
――――――――
―――――
――
11:
我慢しなさい、と言われて育ってきた。
欲しがっちゃいけないと、子どもの頃言われ続けてきた。
だから、「欲しい」なんて殆ど言ったことが無い。
言っちゃいけないことだと思っていた。
12:
本当に欲しいものが何かなんて
私には全然分からない。
今でも、全然分からない。
13:
でも、私の運命を変えたその日、
二人きりの楽屋で、私はプロデューサーの手を取って、
プロデューサーを見上げながら、囁きました。
14:
『欲しがってもいいですか?』
『プロデューサーのこと、欲しがってもいいですか?』
15:
特別なものに対しては、人は悲しいほど純情です。
言葉にならない声を返すプロデューサーに、
私は止まらなくなって、続けました。
16:
『欲しい、プロデューサーが欲しい…です』
『全部欲しい、ずっと一緒にいたい……!』
17:
生まれて初めて、「欲しい」と言えた気がした。
それはなんだか、嬉しいような、泣きたいような気分だった。
18:
その後のことはあまり覚えていない。
いまにも泣きそうな私の頭をなでながら、
プロデューサーが困ったような笑顔で、
『後一年だけ、やよいがアイドルに集中できるように、我慢しててくれないか』
と言ったのだけは、ちゃんと覚えていた。
その後、私は一年間、ひたすら待ち続けたのだから。
19:
―――――――――
―――――
――
20:
その一年、私はがむしゃらに頑張っていた。
頑張っていれば、プロデューサーの理想に近づけると思って。
期待に応えれば、プロデューサーに喜んでもらえるんじゃないかって。
微熱に冒されたような日々は続いた。
21:
それでも、hotに振り切れたメーターは、最後まで続かなかった。
私は、寝不足と過労で、ある番組の収録が終わった後に糸が切れたように倒れ、
医務室に運ばれた。
体力自慢の私には、ありえないことだった。
22:
『やよい!やよいっ!!』
目が覚めると、プロデューサーが目の前にいました。
『よかった……あぁぁ』
まだ医務室のおばさんがいるのに、プロデューサーは私を強く抱きしめると、
『ごめん、ごめんな、やよい……』
『俺が、ちゃんと気付いてやらなきゃいけなかったのに……』
大人の人は、人前で涙を流さないものだと思っていたんです。
『プロデューサーのそんな声、初めて聴きました……』
だから私は、間抜けにもそんなことを言いました。
23:
その日、プロデューサーは私の元気が出るまで、
ずっと横で、私の手を握っていました。
『プロデューサー、私はどこにもいきませんよぅ?』
『俺が一緒にいたいんだよ』
ああ、私は、離したくないんだなぁって。
私を支えてくれる、この手を。
私の、大好きな人の、この手を。
24:
そして、約束していた一年が過ぎて、
プロデューサーが突然、私を映画に誘いました。
映画のあと、カフェに入って、くだらない話をしていたと思います。
25:
『えーっと』
話の途中、プロデューサーは今までと違う声のトーンを出して、
何秒か視線を泳がせて、
また『えーっと』と言いました。
そのあと、好きです、と言って、付き合ってください、と付け加えました。
26:
あんまり突然だったので、私はとっても驚いてしまいました。
プロデューサーは、ちょっと緊張した感じに、
だけどまっすぐに私を見てくれていました。
27:
私も、不思議な力に引っ張られるように、
『はい、好きです』
って返しました。
私たちは何だか安心した感じになって、コーヒーを飲みましたね……
私のは、甘いカフェオレだったんですけど……えへへ。
28:
――――――――
―――――
――
29:
一日が経って、一週間が経ちました。
一ヶ月が経って、半年が経ちました。
30:
あれから私たちは、ゆっくりと、歩幅を合わせて歩いています。
それでもまだ、付き合って半年。
私たちは、歩き始めたばかりです。
31:
765プロで会う以外は、月に一、二度のデートをするぐらいで、
電話は週に三回。私とプロデューサーが交代でかけました。
それはとても、ゆるやかで淡いお付き合いだったと思います。
私としてはちょっと物足りないかなーって感じでしたけど、
プロデューサーは、『足りないくらいがちょうどいい』らしいです。
32:
プロデューサーはみんなに優しいけれど、
私と二人きりの時は、ときどきいじわるでした。
33:
やよい『先生?、ここ、分かんないです?!』
P『どれだ』
ギュッ
やよい『ひゃっ!な、なんですか?もう!』
よく、後ろからくっつかれました。
34:
P『いいだろ、このままで教えられるんだから』
やよい『んひゃ……く、くすぐったいです?!』
P『ん、やよいのいい匂いがする』クンクン
やよい『う、あ、女の子の匂いなんて、かいじゃダメですってば?!!///』
35:
それからそれから、
私はとってもヤキモチ妬きでした……
36:
P『………ってね、昨日、モバPさんと話したんだけど』
やよい『モバPさん?』
P『うん』
やよい『モバPさんですか……』
P『うん』
やよい『……モバPさん』
37:
P『ねえ、一応訊くけど、妬いてるのか?……男だぞ?』
やよい『でも、妬いちゃいます』
やよい『一緒に楽しそうに女の子の話とかして?』ムスー
P『職業上の都合だもん……』
38:
P『あのさ、俺が好きなのはやよいだけって、知ってるでしょうに』
やよい『妬けます』
P『妬かないで』
やよい『……ごめんなさい』シュン
P『あ、あやまることじゃないよ』
39:
やよい『自分でも、こんなに妬いちゃうのはいやなんです』
やよい『だけど、プロデューサーの前の彼女さんのこととか考えると』
やよい『どうしても、この辺が、ギュー!ってなっちゃうんです』
P『前の彼女?』キョトン
40:
やよい『あぅ、ごめんなさい』
P『ごめんってことはないけど』
P『前の彼女なんて、いないし』
やよい『え?』
P『え?』
41:
やよい『こんなヤキモチ妬きの彼女は嫌ですよね……』
P『そんなことはないよ』
やよい『でもでも、妬かないほうがいいですよね?』
P『……そんな風に妬くっていうのはさ』
P『それだけやよいに愛されてるんだにゃ、とは思うよ』
42:
やよい『う?』
P『何?』
やよい『今、噛みませんでした?』
P『何が?』
やよい『愛されてるんだにゃ、って』
P『言ってないよ』
43:
やよい『言いました』
P『ちょっと言ったかも』
やよい『にゃんでですか?にゃんで今、愛されてるんだにゃ、って』クスクス
P『にゃんでかは、俺も分からにゃいよ』アハハ
44:
――――――――
―――――
――
45:
こんな感じで、私たちは、かけがえのない何かを確かめながら、
ゆっくりと、けれど確かに、歩いてきました。
46:
そして、数年が経ちました。
今日は三月二十五日。
牡羊座の私は、二十回目の誕生日を迎えます。
47:
二十歳になった記念、ということもあって、
プロデューサーとお酒を飲むことにしたんです。
プロデューサーは、神楽坂の小さな和食のお店を予約してくれていました。
48:
「お誕生日、おめでとう」
プロデューサーはごく普通の祝辞を述べて、私に日本酒をそそいでくれました。
「えへへ、ありがとうございます」
お祝いのお酒はとても美味しかったです。
私ももう二十歳だから、お酒の味も分かるんですよ!
なーんて、えへへ……
49:
私は少し酔っていました……
やよい「あのですね」
やよい「私はもう二十歳じゃないですか」
P「うん」
やよい「二十歳になったら……って言ってたじゃないですか」
P「ああ、おう」
50:
やよい「でもでも、まだちょっと怖くて、延長してもいいですか?」
P「いいよ、もちろん」アハハ…
P「それにいつかさ、きっと、そういう時が来るよ」
51:
もう付き合って何年目でしょう。
というより、結婚もしているのに、何を私は生娘のような……
って、生娘なのだから大事なことなんです……うぅ。
52:
お店を出て、ぶらぶらと散歩をしながら、
私たちは途中で見つけた高台で立ち止まりました。
気持ちが澄まされるような、月夜でした。
53:
やよい「プロデューサー?」
P「ん?」
やよい「大好きですよ、ずっと」
P「……おう」
54:
やよい「プロデューサーは、言ってくれないんですか?」
P「そんなの、言うまでもないと思うんだけどな」
やよい「でもでも、女の子はちゃんと言ってほしいものなんですっ!」
P「……だ、」
P「……大好き、です」
やよい「なんで敬語なんですか?!!」
55:
それからプロデューサーは、ぎこちなくかがんで、私にキスをしました。
私はいつも、この瞬間、この身長差が愛おしく思うのです。
ぎこちなくかがんで、かっこ悪いキスができる、
プロデューサーと、私だけの距離。
56:
やよい「あの」
P「ん?」
やよい「見られてますよ」
P「誰に?」
やよい「月に、です」
57:
大きな月が、私たちの恋を見守っていました。
プロデューサーは月を見上げ、嬉しそうな顔をします。
もう一度、私はキスをしました。
波打ちぎわで春の波が、寄せては返すみたいに。
ゆっくりと、柔らかに。
58:
P「暖かくなってきたなぁ」
スッ
やよい「もうすぐ四月ですから」
ギュッ
さしだされた左手に、私の右手を重ねます。
あなたの薬指には、私の左手のと、サイズ違いのプラチナの指輪。
59:
P「やよいの手は小さいなぁ」
やよい「もう、何回も聞いたかなーって」
P「これからも、何度でも言えるといいな」
やよい「……ずるいですよ、そんなの」
60:
私たちはよく、手をつなぎます。
そして、プロデューサーは、私の半歩のまた半分だけ、前を歩いて。
私は、プロデューサーの半歩のまた半分だけ後ろを、ついていきます。
61:
街は人工的に輝き、恋人たちは歩く。
恋人じゃない人も、何かを待っている人も、何かを探している人も、
みんな歩く。
私たちは手をつないで、街を歩きます。
きっとこれからも私たちは、大人と子どもの境界線上を、
ゆっくりと、やさしく、手をつなぎながら歩いていくのでしょう。
62:
P「やよい」
やよい「……?」
P「大好きだからな、ずっと」
やよい「…はい!」
63:
おしまいです。
読んでくださった方々ありがとうございました。
“高槻やよい「暖めてあげるからそばにいて」”の正編でした。
http://ssflash.net/archives/1873117.html
甘いものは、苦いもののあとに食べると、より美味しい。
これからも、やよいとPが幸せでありますように。
64:
乙ー
カラメルの効いた極上プリン、御馳走様でした
65:

ちょっとコーヒー買ってくる
6

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