キョン「夏の終わり?」ハルヒ「夏の終わり!」back

キョン「夏の終わり?」ハルヒ「夏の終わり!」


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1:
夏休みも最終日を迎え、夏の終わりをしみじみと実感する。
 長かったようで短かった夏休み。今年も夏期合宿を筆頭に、昨年と同様――いや、それ以上にハルヒには引っ張り回された。
もうこれでもかというぐらい振り回された。体も心もへとへとになってしまったわけだが、それなりに充実していたと訊かれれば頷ざかるを得ない。
 まぁ、そんな夏休みだったわけだが流石に最終日くらいは朝寝という惰眠を貪り、のんびりと過ごしたいと思っていた。
 ただ、過去形なのだ。
 そんな俺の休日をぶち壊しにしてくれるやつは数える程しかいない。むしろ特定の人物に決まっていたりする。
俺の特殊な事情を多少なりとも知っているなら直ぐにその特定の人物に思い当たるだろう。
 そう、涼宮ハルヒである。
8:
「キョンくんあさだよ?」
 今日は起こさなくていいと言ってあったはずなのに、何故か普段と同じ時間に妹に叩き起こされた。
 だがしかし。
 今日はなんといっても8月31日である。そんなことをされても俺は起きないという断固たる意志を見せるべく布団を頭から被り直した。
これで諦めて出ていってくれるだろう。
「ハルにゃん、キョンくんおきないよ?」
「やっぱり妹ちゃんじゃあ軽すぎるのね。ここはあたしが一発フライング・ニーを見せてあげるわ」
 行くわよ?という気合いの入った我が家に存在するはずのない声。おい、ちょっと待て。そんなはずは無い。
俺の灰色の脳細胞は――ん?なんかいろいろと違うような気がするがこの際は構わない。
 そんな些細な疑問はアンドロメダ辺りに置いといて、だ。早急に確認すべき事象がある。
11:
「おい、何でハルヒが――」
 勢いよく起き上がったのがいけなかった。かばりと布団を跳ねのけて起き上がった矢先に俺の顔面に膝がめり込んだ。
プロレスラーだって失神するような見事としか言い様が無い一撃。
「あっ……!って、キョン!何やってんのよ!?」
 ハルヒのぎゃーぎゃーという文句とともに俺は望んでいた二度寝を失神という形で果たすことと相成った。
「遊びに行くわよ」
 不幸なことに、俺の二度寝は僅か数分で終わった。
 焦ったハルヒが俺の胸元を掴んで前後に激しく脳ミソをシェイクしてくれたおかげでな。
で、悪夢から目覚めて改めて向き合ったハルヒの第一声がこれである。
謝罪の言葉なんてものは遥か彼方に置き忘れてしまったのか。
 主語も目的語あったもんしゃない。いや、目的語はあるか。
どうも頭が上手く回らない。
12:
「謝罪を要求する」
「嫌よ。何で団長のあたしが平団員に頭を下げなくちゃならないのよ」
「そうか。なら勝手に遊びにでも行ってくれ。俺は寝る」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!団長命令よ?キョンに拒否権なんか無いんだからね!」
 知るか。謝罪もできんやつと遊びに行けるか。などといつになく強気な俺。
ひとえに寝起きで頭が上手く回っていないおかげだろう。
 まったくありがたくない。
「――……悪かったわよ。これでいいんでしょ?ほら、さっさと着替えなさい」
 まだまだ言いたいことはあったがこれぐらいにしておこう。
これ以上刺激するようなことになってはどこぞの爽やかスマイル0円の超能力者のバイトを増やすことになりかねない。
13:
「それで、どこ行くんだ?」
 母親のにやにやした視線を黙殺しやってきたのは何時もの駅前。
朝食もろくに摂ってないせか、若干腹が減っている。
「映画なんてどうかしら?」
「映画?そういや面白そうなのが幾つか公開してたよな」
 魚のアニメやデスメタル、はたまた本格科学冒険映画みたいなやつか。
「で、どれを観るんだ?」
 正直なところ、あまり乗り気ではない。しかし、ボーリングなどのように体力を使わないという点に置いては賛成である。
「これよ」
 ハルヒが手に持ったパンフレットを鼻先に突き付けられる。
 いつの間に買ったんだ、それ?
15:
「この子供の頃の与太話とかがやたらスケールが大きくて面白そうじゃない」
 確かにハルヒの好きそうな内容ではあるな。番宣程度の知識しかないけどな。
「ほら、チケット買うわよ」
 左手を掴まれズルズルと引きずられていく。無理矢理連れてこられたわけだが、ハルヒが奢ってくれるわけもなく自腹を切ることとなった。
当たり前か。映画と言えばポップコーン。ポップコーンと言えば映画と言っても過言ではない組み合わせ。
 映画館で食べるポップコーンは格別というか、自宅で映画を観ながらポップコーンを食べても味気ないものである。
小腹も空いていたので丁度いい。売店でポップコーンとコーラを購入した。
「何でお前は我が物顔で俺のポップコーンを食べてるんだ?」
「べふにひひじゃなひ」
 ハムスターのように頬を膨らませてもしゃもしゃと咀嚼するハルヒにため息しか出てこない。
 さて、映画館での座席といえば左右にひじ掛けがついていのだが、それの占有権を取れるかどうかで映画をじっくりと楽しめるかどうかが決定する。
時間が早いせいもあってか、幸いなことに館内はあまり混んでおらず、ゆったりと座ることが出来た。俺の左隣にはハルヒ、右は空いている。
 ハルヒも対称ではあるが同様の状況下にある。
 つまり、ハルヒと俺の間のひじ掛けをゲットできるかどうかで話は変わってくる。
16:
「ちょっと、キョン。邪魔だから手どけなさいよ」
「断る」
 身を削り合う攻防の結果、俺が占有権をとることとなった。
これでじっくりと映画が観れると思った矢先、あろうことかハルヒは俺の手の甲に手を乗せやがった。
「おい、何やってんだ?」
「ふん、知らない」
 文句を言おうとしたところで場内の灯りが落ちる。これ以上の私語は他の客に迷惑だということで渋々黙った。
 なんとく手のひらを返してみる。ハルヒの手のひらと俺の手のひらが合わさった。ついでに指を絡めてみた。
ハルヒは怒るかなと思ったが、特に動じた様子もなく画面を食い入るように見入っていた。そんなハルヒの横顔をずっと眺めていた。
 映画を見終わった後は買い物に付き合ったりと、夏休みの大半と対して変わらずにハルヒにぶんぶんとハンマー投げのように振り回された。
別れ際にハルヒがまた明日などと言って少しだけ寂しそうにしていたことを除けば、特筆するようなことはなかったと思う。
 帰路に着いたところで、そういえば二人っきりで遊びに出掛けるなんて、まるでデートみたいだなと思った。
 後日、ハルヒ以外のメンバーにそのようなことを話したところ、思い切り呆れられてしまった。
 なんでだ?
17:
終わり
18:
おい
20:
とある休日、不思議探索は休みと団長様からお達しがあり、久々に惰眠を貪ることができるなどと俺は考えていた。
もはやお約束と言われても仕方がないのだが、ハルヒによってその快適な睡眠は妨げられることとなる。
 いや、薄々はわかってはいたのだ。ここのところ何かと忙しく、ハルヒと二人っきりになる時間がほとんど無かった。
それをハルヒがどう思っていたのかは、今日の行動を待たずとも明白であったわけだ。
 実際、俺としてもハルヒと一緒に過ごせないのは残念に思っていたわけで、本日の訪問は素直に嬉しく思う。
しかし、一つだけ納得いかないのは、快適な惰眠を妨げられたことだ。
「ちょっと、せっかく可愛い彼女が遊びに来てやってるのに、その言い草は何よ?」
「自分で可愛いとか言うな」
21:
現在午後一時過ぎ、昼食を食べ終え、俺の部屋でのんびりとゲームなんぞをやっている。
ちなみにではあるが、両親、妹ともに外出しており、昼食はハルヒの作ってくれた炒飯だった。
 美味かったとだけでも言っておこうか。
「それはそうと、キョン弱すぎ。これじゃあ対戦してる意味が無いじゃない。COPのほうがよっぽど強いわよ?」
「そりゃ、こんな状態で普段の実力を出せと言われても無理ってもんだ」
 再びちなみにではあるが、現在ハルヒは俺を椅子に見立ててそこに座っている。
ハルヒのせいで画面は見えづらい上に、その、いろいろとあれなわけで、集中なんてできやしない。
「なぁ、ハルヒ。重いからのいてくれ――「却下」
 即答。いや、最後まで喋らせてくれなかった。
22:
「嫌よ、そんなの。絶対に嫌」
「おいおい、何でそんなにこだわるんだよ?」
「だって――」
 ――寂しかったんだから。
 なんて、かぼそい声で言われた日には、俺はハルヒのお願いを無下にすることなんて出来るはずもなく、
ただただハルヒのわがままを甘受するだけである。
「そ、それに、キョンだってあたしと引っ付いてないと寂しいんでしょ?仕方なくよ、仕方なく」
「……そういうことにしといてやるよ」
「う、うるさい!バカキョン!」
24:
駄々っ子のように足をバタバタするハルヒ。ストレートな感情表現をしてくる一方で、こういった子供みたいなところもある。付き合う以前からそういう傾向はあったのだが、ここ最近それが顕著になってきているような気がする。
「ねぇ、キョン。ぎゅってして」
「はいよ」
 言われるがままに後ろからハルヒに手を回し抱き締める。
 ハルヒは何食わぬ顔でガチャガチャとコントローラをいじっていると思いきや、ほんのりと頬を朱に染まっているのに俺は気が付いた。
「もっとぎゅってしなさいよ」
「はいはい」
 さらに力を込める。そして、いい匂いのするハルヒの首筋に顔を埋めた。
匂いが強くなるとともに安らかな気持ちになる。
「……変態」
「それは酷いぞ。ハルヒだってよく俺にこうやるじゃないか」
「し、してないわよ!」
「どうだか、ね」
25:
付き合い始めてから、ハルヒは随分と甘えるようになった。
それまでツンツンしていた反動と言えばいいのだろうか、ことあるごとに俺に引っ付いてくるようになった。
俺個人としては、それを非常に嬉しく思っている。
周囲からバカップルだの桃色職人だのと言われたりするが、それ以上にハルヒと一緒に居ることに幸せを感じている。
それに、甘えてくる時のハルヒは可愛い。
それだけで十分ではないだろうか。
「……ねぇ、キョン。キスしてほしかったりする?」
「いや、別に」
「……そ、そう」
「なんだ、残念そうだな」
「ざ、残念なのはキョンのほうでしょ!?せっかくこのあたしがキョンがしてほしかったらキスしてあげようかと思ってたのに、
せっかくのチャンスを潰したんだからね。もう頼んでもしてあげないんだから」
「そうか。じゃあ、もうキスは無しだな」
「えっ……?」
 半身を捻ってこっちに向いたハルヒの瞳が、俺の返答が予想外だったのか動揺にゆれていた。
27:
「ほんとに……?ほんとのほんとにあたしとキスしないの?」
「頼んでもハルヒはしてくれないしさせてくれないんだろ?」
「そ、それは……」
 ハルヒが口籠もる。ハルヒの性格なら、言ったことをいまさら取り消すなんてできやしないのはわかっている。
不安そうにこちらをじっと見つめるハルヒ。そんな表情がたまらなく可愛い。
「や、やっぱりさっきの――むぐっ」
 ハルヒがすべて言い終わる前にその唇を奪い去った。触れるだけのキス。ハルヒが驚いたまま表情で固まっている。
「頼んでもしてくれないから奪ってみた」
 我ながら恥ずかしいセリフだと思う。そもそも俺はこんなキャラではないしな。
28:
「ば、ば、バカキョン!な、な、なんてことしてくれんのよ!」
 顔を真っ赤にしたハルヒが怒鳴る。
「い、いきなりなんて卑怯よ!」
「じゃあ、もうしないさ」
「…………」
 押し黙るハルヒ。数瞬迷った挙げ句――
「た、たまにはいいわよ。嫌いってわけじゃないんだから」
 ――と、蚊の鳴くような声でそう言った。
「可愛いぞ、ハルヒ」
「恥ずかしいこと言うな!」
 プイッと明後日の方向へ顔を向けるハルヒを、俺は再び強く抱き締めるのであった。
2

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