まる子「女子VS男子の野球対決!の巻」back

まる子「女子VS男子の野球対決!の巻」


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1:
公園。
バレーボールに興じている まる子達。
男子の集団「おい、おまえら」
まる子「何さあんた達、見ない顔だね」
男子A「今から野球(三角ベース)やるんだよ。邪魔だからそこどけ」
城ヶ崎「はあ? 何言ってんのよ」
冬田「私たちが先に遊んでたのに……」
笹山「本当、酷い……」
男子B「ああん!?」
男子C「何か文句でもあんのかよ!」
城ヶ崎「あるわよ!」
まる子「大ありだね!」
たまえ「ちょ、ちょっと、まるちゃん、城ヶ崎さん……!」
2:
まる子「あんた達ね、いきなり割り込んできて何なのさ!」
男子A「野球やるからどけっつってんだよ」
城ヶ崎「先客がいるんだから他あたりなさいよ!」
男子B「女子の遊びなんて隅っこで十分だろ?」
男子C「そうだそうだ」
男子D「井戸端会議でもしてろ!」
まる子「ふざけるんじゃないよ! 野球なら広い校庭ですりゃいいじゃん!」
男子A「うるせえ、学校はサッカーやってて使えねえんだよ!」
かよ子「どうせ杉山君と大野君がいるから怖くて口出せないんでしょ」
冬田(大野くん……///)
城ヶ崎「図星みたいね」
まる子「かぁ?、だからってか弱い女子に噛みつくなんて、清水の男が廃るねぇ」
キートン「あんたは図太いだろ」
3:
男子A「ゴタゴタうるせえ奴らだな! 出ていかねえならこうだ!」
男子たち、女子を囲むように散らばり、勝手にキャッチボールを始める。
たまえ「きゃー!」
かよ子「あわわっ」
城ヶ崎「危ないじゃないの!」
まる子「あんた達いい加減にしなよ! 大人呼ぶよ!」
男子A「でました女子お得意の他力本願?」
男子B「チクリ魔チクリ魔?」
男子C「俺達キャッチボールしてるだけだもんね?」
男子D「早くどかないと当たっちゃうぞ?」
城ヶ崎「野球やる奴らって何でこう横暴なのかしらっ!」
6:
男子A「ま、女どもには到底理解できない高度なスポーツだからなー」
男子B「そうそう、男にしか出来ない複雑な競技だもんなー」
城ヶ崎「何よ、野球ぐらい私達にだって出来るわよ!」
まる子「そうだよ! あんた達みたいなバカ面にも出来るんならあたしらにも出来るね!」
男子達「なんだとぉ……!」
笹山「二人共、落ち着いてっ」
たまえ(ああ、どうしよう……また、まるちゃんが余計なこと言って
 男子を刺激しちゃってる……。タミーどうすればいいの!?)
男子A「おもしれえ、そこまで言うなら実際に証明してみせろ!」
男子B「そうだな……1週間ぐらいの猶予はやるよ。それでここの使用権利を賭けて勝負ってのはどうだ!」
まる子「臨むところだよ!」
たまえ「まるちゃん……」
男子C「逃げてもいいぜ?? その時は敗北と見なして俺達がずーっと占拠するけどな!」
城ヶ崎「誰がっ……!」
こうして女子軍と男子軍による壮絶な闘いの幕が開き、
男子達は勝利を確信したかのように、歓喜の笑みを浮かべながら公園をあとにした。
9:
かよ子「な、何だか大変なことになっちゃったね」
たまえ「うん……」
笹山「私、野球知らない」
冬田「私も」
かよ子「私は、その、杉山君とキャッチボールしたことはあるけど……///」
キートン「アニメ540話『杉山君とキャッチボールの巻』参照」
まる子(実はあたしもよく知らないんだよねぇ……よくお父さんが観戦してるのは見かけるけど)
城ヶ崎「か、簡単よ。投げて叩いて点を取ればいいのよ!」
城ヶ崎「とりあえず棒状の物を探しましょ」
12:
たまえ「なかなか良さそうな物見つからないねえ」
笹山「浜崎くん達から貸してもらうのはどうかな?」
まる子「ダメダメ、あいつらケチだから絶対無理だよ」
キートン「何もあんたに言われたくはない」
かよ子「じゃあ、すすす杉山君!///」
冬田「大野君……///」
キートン「まーた、この人達は……」
城ヶ崎「それだけは嫌よ、男子になんて頼み込みたくないわ」
13:
かよ子「これ、どうかな? バットらしくて使えると思うんだけど!」
まる子「かよちゃん、それビール瓶だよ……」
たまえ「確実に血まみれになるね……」
かよ子「あぁ……」
まる子「ちょっと、おっちょこちょいにも程があるよ」
一同「うん」
かよ子(私って一体……)白目ポカーン
14:
城ヶ崎「ねぇ皆、グローブの事なんだけど、鍋つかみはどうかしら」
一同「鍋つかみ!?」
まる子「確かに、それらしいと言えばそれらしいかねぇ」
笹山「でも、お母さんに叱られないかな」
城ヶ崎「すぐ洗濯してすぐ乾かせば大丈夫よ」
冬田「嫌よ、お料理の時に使う物なのに、汚すなんて嫌!」
城ヶ崎「じゃあ、ウチのを使うと良いわ。余分にあるから」
まる子(この人本気だよ。何がなんでも勝つつもりだね……)
キートン「まる子よ、責任者としての自覚はないのか」
15:
探索していると、街路樹の世話をしている佐々木のじいさんに遭遇。
まる子「あっ、佐々木さん、こんにちは」
佐々木「おや……まるちゃんに皆、こんにちは」
佐々木「今日はやけに大勢だねぇ」
まる子「そうそう佐々木さん、何か棒状の物知らない?」
佐々木「棒状の物? はて……」
じいさんに事情を打ち明ける一行。
佐々木「なるほど、それは面倒な事になったものだねぇ」
たまえ「うん、本当に……」
佐々木「……何故だろうねぇ」
一同「え?」
17:
佐々木「なぜ、野球のバットは木製なのだろうねぇ」
佐々木「テニスや卓球ならまだしも……あんなに硬いボールを木にぶつけるなんて狂気の沙汰だと思わんかね」
一同「はあ……」ポカーン
佐々木「剛球で粉々にへし折れた時なんて目も当てられん」
佐々木「ワシは甚だ遺憾に思っとるよ……」
♪『佐々木のじいさんの木の生命力をたたえる歌』
まる子「その、佐々木さん……木の尊さは痛いほど分かったけどさ」
佐々木「ああ、そうじゃった。孫が昔使っておったから、それを持っていきなさい」
18:
再び公園。
とりあえず入手できたのは木製バット1本、軟球3つ、グローブ2つ。
まる子「思わぬところで手に入ったね」
城ヶ崎「じゃあ早、特訓しましょ!」
冬田「まず何をどうすればいいの?」
笹山「私も全然分からない……」
かよ子「ま、まずは基本のキャッチボールやってみよう!」
まる子「お、いいね?さすが経験者」
かよ子「えへへっ///」
19:
ドジッ子かよちゃんの提案で、まずは二人で実演することになった。
まる子「じゃ、かよちゃん行くよー」
まる子投球、一応放物線を描きながらかよちゃんの元へ飛んでいくが……。
かよ子「あわわわっ(高い高いっ)」
ポコンッ
かよちゃん、あたふたしながら見事な脳天キャッチを披露。
ふむふむと頷く笹山さん。
笹山「そっか、あんな風にすれば良いのね」
たまえ「ち、違うと思う。ちゃんとグローブで捕らなくちゃ……」
城ヶ崎「点を取るにはボールを飛ばさないと……やっぱり打つ練習よ!」
20:
城ヶ崎「じゃあ、さくらさん、遠慮せず投げて」
まる子「とりゃ」ヒョイッ
城ヶ崎「えいっ」
パカーン!!
放たれたボールは快音とともに上へ上へと飛翔し、前方に見えるブランコを越え、先に位置する砂場へと着弾した。
一同「おおおおおおおお」拍手喝采
まる子「凄いじゃん城ヶ崎さん! ありゃ完璧ホームランだよ!」
城ヶ崎「ホームラン……///」
冬田「これなら男子に勝てるかも!」
たまえ「うん、いけるね!」
まる子「さあ、みんなも城ヶ崎さんを見習って練習だよ!」
一同「おー!!」
城ヶ崎(今の感触、気持ちよかった……)
21:
城ヶ崎さんが放った特大飛球に希望を見出し、士気を高める女子一同。
光明が見えたかに思えた打撃練習だが……。
笹山「えいっ!」スカッ
たまえ「また空振り……」
冬田「城ヶ崎さん以外まったく前に飛ばせないなんて……」
まる子「城ヶ崎さん、ここはひとつ、コツか何か教えとくれよ」
城ヶ崎「へ? え?っと……」
城ヶ崎「バッと来たのをグッと待ってはボンと打つ」
たまえ「何か抽象的というか」
冬田「内容が要領を得ないわね」
笹山「やってみる」
22:
スカ、スカ、スカーン
まる子「だぁ?もうっ、全く当たりゃしないよ! どうなってんのかね!」
たまえ「まるちゃん……」
さっきまでいけそうだと思ってただけに落胆も大きいね。
みんな意識が散漫になっちゃってるよ……。
まるちゃん……今回ばかりは流石に付き合いきれないかもしれないよ。
どうせこのままの状態で試合に臨んでも、早々に限界がきて惨敗しちゃうもの。
城ヶ崎さんはともかく、まるちゃんのていたらくには不安が募るばかりだよ。
……
ううん、駄目よタミー!
いくらなんでも友達を見捨てるなんてあんまりじゃないの!
どこの馬の骨とも知れない輩に笑われて自尊心をズタズタにされようと、私とまるちゃんは親友!
傍観なんて以ての外、それにこういう修羅場に直面しては凌いできたでしょ!?
私だって一度やる気を見せたんだから、一蓮托生を覚悟するのが親しき友としてベストな選択……!
たまえ「まるちゃん落ち着いて。もう一度みんなで良い案を考えよう!」
23:
いつも黒子として徹していた彼女だからこそ、
普段見せないその能動的な姿勢が一際輝いて映った。
眼鏡の奥で青く揺らめく力強い眼差し……。
まるで引火するように、各々の瞳にもより一層の光が宿る。
気が付けば、先刻まで発想すら至らなかった助言を交えたり、
徐々に一つ一つの挙動に意識を向けて練習に打ち込むようになっていた。
24:
冬田「えいっ」スカッ
笹山「えいっ」スカッ
かよ子「ええいっ!」ポテッ
一同「あっ!」
かよ子「かすった……」
ぶふっ!
面々からしてみれば至極感動的な瞬間。
その光景を見て噴飯するように、何者かの不気味な笑い声が木陰から飛び出した。
???「飛びやしない、飛びやしないよ」
城ヶ崎「だ、誰!?」
???「慣れないうちは短く持ちな」
一同「……!」
???「目を瞑ってちゃ打てやしないよ……」
まる子「あ、あんた……」
一同「野口さん!?」
キートン【どこからともなく現れた野口さん、この人が何をもたらすというのか、後半へ続く】
25:
野口「ふんっ……」ビシュッ
パァーンッ!!
まる子「痛たたたた!」
野口「クックックッ、捕っただけでも大したもんだよ。一つ言うなら、
 利き手は後ろに据えときな……ファールチップで大怪我するよ」
城ヶ崎「あ、あんなに精密な投球ができるなんて……」
笹山さん「野口さんすごい!」
まる子「こりゃもう百人力だよ!」
冬田「でも、野口さんが野球できるなんて意外ね」
たまえ「うん! 器用なのは知ってたけど」
野口「伊達に箕島恨んでないよ」
一同「???」
野口「それはそれとして、問題は打撃だね。はっきり言ってあんたら論外だよ」
一同「……」
26:
城ヶ崎「そもそも、いつから見てたわけ?」
野口「最初から居たよ」
一同「えぇ!?」
野口「初めは様子見で終わるつもりだったけど」
野口「あんたらの気概が本物っぽいから出てきてあげた……それだけ」
たまえ「じゃあ、私達に打撃を伝授してくれるの!?」
野口「さあ、どうだろうね」
まる子「ちょっとあんた……」
野口「プッ……冗談だよ」
野口「一応、この場に適当なキーアイテムを持ってきてあげたよ」
一同「バドミントンの羽に……突っ張り棒(日用伸縮棒)……?」
まる子「アルミホイルまで」
たまえ「野球とは関係なさそうだけど……」
城ヶ崎「こんな物で上手くなれるっていうの?」
27:
ピキィィン!
まる子によってトスされたバドミントンが勢いよく飛んでいく。
正規のバットよりもずっと細い棒(突っ張り棒)を使っているにも関わらず、的確に打ち返してのける野口さんに、一同絶句。
一同(す、凄い……あんな小さな羽を……)
野口「ただ単に一本の線を意識して振り抜いただけだよ」
野口「あんたらがやってるのは闇雲なダウンスイング。しかも間合いも糞もないドアスイング(大振り)」
野口「現時点じゃ空振り凡打の嵐だね」
俗に“ストレート”と呼ばれる、最も威力のある球種であっても、
地球に重力が存在する以上、進行するにつれて徐々に落下していく道理である。
放物線に対して振り下ろして当てようとすると、ボールとスイングが交差する点は一点に絞られてしまう。
これを素人が行うと言うのだから、必然的にボールをミートできる機会は激減する。
ダウンスイングのメリットとしては、ボールを地面に叩きつけてゴロにしやすい事。(特に軟球は跳ねる為)
それと、重力を利用することでバットのヘッドを最短距離で振り出せること、と言われているが、これは間違ってないようで間違っている。
そもそもは、かの王貞治が畳の上でダウンスイングを黙々行っている様子、また日本刀で紙を斬る様子(極端なアッパースイングを矯正する為の反復練習)がTV放送を通して世間の目に焼き付いたことで生じた誤解である。
「あの王貞治がダウンスイングを熱心に行っていたのだから、ダウンスイングこそ正しいのだ」と。
ダウンはダウンでも、それは“始動”に限った話である。
実際にその後の王貞治の試合映像を見ても、そのスイングはボールの軌道に対して水平線を描く綺麗なレベルスイングである。
28:
野口「物理的に考えると、結局は凸面(点と点)の衝突なわけだから、
 軌道を線に置き換えて、バットの中心に当てる感覚を養わせればいい話……」
笹山「バットの幅を狭めることで、凸面のどの部分に当たっているのかがより明確化するのね」
野口「通常バットでも効果はあるけどね」
かよ子「このバドミントンの羽は?」
野口「安全性……強く当てても初だけだから。取りに走る手間も省けて効率的」
かよ子「な、なるほど……」
たまえ「そっちのアルミホイルは?」
野口「それは……いざって時の切り札ってとこ」
一同「???」
野口「ま、野球のフォームは地道な反復練習で固めるもんだけど、
 感覚を一時的に馴染ませる作業だって決して無駄じゃぁないからね」
野口「付け焼き刃でも、どこまで昇華できるかはあんたら次第ってこと。クックックッ」
城ヶ崎「や、やってやるわ!」
29:
数時間後。
一応、様子を窺いにきた男子達。
男子A「お、何だよあいつら、生意気に道具揃えてやがる」
男子B「見てみろよ、バットの持ち手が上下逆だぜ」
男子C「ド素人じゃねえか」
男子D「こりゃ余裕だな」
女子軍の奇抜な練習風景を見て、抱腹絶倒する男子軍。
最後に笑うのはどちらか。
30:
試合前日、神社に参拝するかよちゃん。
31:
――試合当日。
男子達「よく逃げずに来たな。それだけは褒めてやる」
まる子「ふん、あんた達こそ覚悟しな! こっちにゃ心強いエースがいるんだからね」
男子達「ほ?、そいつは楽しみだ」
(ふん、素人のくせにハッタリかましやがって)
野口「……」
城ヶ崎「私たちが勝ったら土下座で謝りなさいよ!」
男子達「そっちこそ忘れんなよ!」
たまえ「い、いよいよだね……」
かよ子「ききき緊張してきたぁ?……痛つつつ」
冬田「山根みたい」
かよ子「うん……今思った」
【ルール】
イニングは七回まで。
コールド、延長無し。
32:
女子軍オーダー
1(投)野口
2(遊)城ヶ崎
3(遊)笹山
4(捕)まる子
5(二)冬田
6(一)たまえ
7(外)かよ子
33:
一回表、女子チームの攻撃。
まる子「野口さん、そんなヘボPやっちゃいな!」
城ヶ崎「ぶちかますのよー!」
一同「野口さーん頑張ってー!」
男子B(ピーピーうるせえな)
男子C(これだから女は嫌いなんだよ)
男子A「へへっ、ビビんなくてもいいぜ。少しは手加減してやるよ」
野口「……」
男子A「そらよっ」シュピッ
バシィーン!
初球。
その快音は、投球がミットに収まる音ではなく、
女子軍に1点をもたらす長打によるものだった。
野口「あ?あ、嫌だね……少し詰まっちゃった」
34:
女子チーム、先頭打者ホームランで1点先制。
一同「きゃー! 野口さん、やったやったぁー!」
男子A(ま、まぐれだろ。加減してたしな。出会い頭を叩かれただけだ!)
城ヶ崎「景気づけの一発ありがと」
野口「クックッ、相手は手頃な癖球だよ。手筈通りにやんな」
今のホームランで気が楽になったのか、
城ヶ崎さんは意気揚々と打席に立ち、投手めがけてバットを突きだした。
城ヶ崎「さあ、来なさい!」
城ヶ崎さんの打撃フォームは野口さんのそれと近似してはいるが、
より顕著に股関節を広げた、がに股気味のオープンスタンスだった。
イメージ
男子達「ぎゃははははっ、何だあの構え! ゴリラ女だ!」
城ヶ崎「なっ!? 何ですって?!!///」
城ヶ崎(は、恥ずかしぃ///……でも、そんなの今更じゃない!
 ここまで馬鹿にされた以上は何がなんでも打ってみせるんだからっ!)
一同「城ヶ崎さん頑張ってー!」
野口「お尻を突き出し過ぎだよ。ま、打てるなら自己流で構わないけどね」
35:
城ヶ崎(元はと言えば私がいけないのよ。みんな止めてたのに、一時の感情で巻き込んで……。
 だから、言い出しっぺの私が塁に出て、チーム全体を盛り立てなくちゃ!)
“打たれた直後の初球を狙いな……”
野口さんの一言が脳裏に浮かび上がり、頷くように構え直した。
男子A「おらぁ!」ピシュッ
力んでいるのか、投じられたボールは若干甘いインコース。
それでも城ヶ崎さんは動かない。はやる気持ちを抑えながら、直前まで軌道を見定める為である。
バドミントンの羽を真芯で捉える感覚ならば、試合ぎりぎりまで研ぎ澄ませてきた。
誰よりも、独り責任を感じて、誰よりもだ。
城ヶ崎(引きつけて、引きつけて……)
グワァラゴワガキーン!!
ボールは右中間へグングン伸びていく。
36:
一同「おおお、大きいよ!」
男子A(そんなっ!?)
野口「テニス研究会の時に思ったよ。なかなか良い上半身の使い方してるってね」
野口「押し手主導(トップハンド)の打ち方のほうが性に合ってると思ったけど、まさかこうも短期間でコツを掴むとはね」
今しがた城ヶ崎さんが実践してみせたバッティングは『トップハンド・トルク』。
瞬発的に全身の力を発揮してバットを加させる始動様式のことを言う。
いきなり0から100の力を爆発させるイメージで、ボールをぎりぎりまで引きつけてコンタクトしなければならない為、むしろアベレージヒッター向きの型と言える。
手元で変化するムービングボール全盛の現代、特にMLBでは最もポピュラーな打撃スタイルとされている。
ちなみに、日本ではウェートシフト型という、体重移動や回転を枢軸にバットを加させ、先端を遅らせてインパクトの瞬間に出力するスタイルが主流である。
37:
一回表、女子チームは連続アーチで2点を先制。
冬田「頑張って笹山さん!」
まる子「流れは完全にこっちだよ!」
笹山「がんばる!」
男子A(何が頑張るだぁ? ド素人が調子乗りやがって!
  相変わらず持ち手が逆さまじゃねえかっ……!)
男子A「ナメてんじゃねえ!」ピシュッ
バシィ!
笹山「きゃっ!」
城ヶ崎「ちょっと、どこ投げてんのよ!」
たまえ「いま顔面狙ったんじゃないの!?」
まる子「危ないじゃないのさ!」
野口「ブラッシュ(威嚇)かい……初回から荒れちゃって無様だね」
まる子「笹山さん、大丈夫!?」
笹山「平気っ」
39:
男子A「平気なら、もっかい喰らえ!」ビシュッ
笹山「んっ!」
パコンッ
笹山さんの打球は二塁線を破るヒットとなった。
男子B(おいおい、何がどうなってんだ……)
男子A(何で……何で当てられた!? あんなド素人に!)
上下(押し手と引き手)が真逆の素人持ち。
一見すると滑稽かもしれないが、城ヶ崎さん以外のドアスイング(大振り)を矯正する為の苦肉の策であった。
逆に配置された右腕が嫌でも脇を締める為、また窮屈な右肘を軸にバットを振り出せる為、素人でもスイングの軌道が固定されて幾分安定する。
一部では怪我の危険を懸念する声もあるが、それはあくまで無理矢理な手打ちから来るものだ。
有名所では元広島の前田智徳、現在ならば現西武の森友哉が高校時代の練習の最終調整として組み込んでいたことで知った方もいることだろう。
40:
野口(本来こねるのは厳禁だけど、それは本格的な競技内の話……急造素人ならこれで十分だね)
野口さんの意図は何もスイング軌道を固定させるだけではない。
支点(軸)が内側にあるということは、
本来のドアスイングではまず出来ない
内角球を強く引っ張ることが可能だということ!
まる子「ほいさ!」パカッ【レフト前ヒット】
冬田「えいっ!!」パカッ【レフト前ヒット】
たまえ「えいっ!」パカッ【センター前ヒット】
かよ子「ええいっ!」ポコッ【遊ゴロ併殺】
41:
一回表が何とか終了したものの、男子チームは致命的な状況に陥っていた。
暴投、捕逸、送球ミス等、ケアレスミスの頻発で大量得点を許してしまう。
その差12点。
男子A「くそっ!」
男子B「なっさけねーな。女ごときに何してんだ」
男子A「うるせえ! だったら次お前がやってみろ!」
男子C「まあまあ、落ち着けって」
男子D「打線で注意すべきは1・2番だな。あいつら素人じゃねえ」
男子E「球審目線で見てて判ったけど、あのコケシ女、只者じゃないぞ。
  木製バットの“しなり”を利用してやがった……!」
男子F「スイングスピードが尋常じゃないってことか……」
43:
しかし、相手は女だ。
守備には慣れていないだろうからこちらにも十分勝機はある。
男子チームが想い描いた希望は、
野口「ふん……」シュビッ
ヒョロロロッ
ギュルルルッ
スパァーンッ!!【三者連続三振】
男子A「なん……だとぉ……」
男子B「同じリリースポイントで緩急を操るなんて……」
男子C「本当に小学生なのか……?」
早々に潰えた。
44:
三回表、1死2塁
ポコンッ
城ヶ崎さんの打ち上げた外野飛球が犠牲フライとなり、野口さんが生還。
16対0
まる子「こりゃ間違いなく勝ったよ!」
野口「コールド制じゃないのが悔やまれるね」
かよ子「こおるど?」
笹山「寒いってことかな?」
野口「ブプッ!」
男子A「おい、このままじゃ負けちまうぞ!」
男子E「落ち着け」
男子A「落ち着けるか! 女子に負けたなんて噂がたってみろ、生き恥だぜ」
男子E「ひとつ、球審をしてて判ったことがある」
男子達「???」
男子E「あのキャッチャーだよ」ニヤッ
45:
四回裏、男子の攻撃。
相手はこの回ヒットを連発し、1死1,2塁のチャンスを迎えていた。
野口(……おかしいね)
野口(三回からやけに振り抜いてくるようになったよ)
野口(こりゃぁ確実に盗まれてるね……)
男子A「へっ、次にどんな球種が来るのか判ってりゃ」
男子B「あんなやつ屁のカッパよ!」
野口(それなら泳がせてカウント稼ごうかね)
男子達「打て打てー! 打ってこうぜー!」
ボスッ!【ライト方向ファール】
野口(今のステップ……明らかにチェンジアップを待ってたね)
男子達「打ってけ打ってけー!」
46:
パカァン!【ライト前ヒット】
野口(スローカーブも……やっぱり緩い球に張ってたか)
かよ子「ひええ?……出番ないと思った途端に打たれ出したよ?!」
城ヶ崎「山田さん、早く、早く!」
かよ子「ええいっ」ポイッ
かよちゃんの送球ミスにより城ヶ崎さん捕球できず、
ランナーはランニングホームラン。
男子達「よっしゃ! 外野大穴狙ってけ!」
野口「……」
かよ子「ご、ごめ?ん! つつつ次はちゃんとするから!」
47:
男子達「いけいけ! いったれ!」
バコォン!!【ライト前ヒット】
かよ子「ひえええぇぇ……」
野口(なるほどね)
少々の失点覚悟で敢えて配球を単純化し、意図的に打たせて検証を重ねた結果、野口さんは違和感の正体をほぼ看破した。
男子軍はこちらのサインではなく、恐らくはまる子の挙動(癖)から球種を判別しているのだろう、と。
“利き手は後ろに据えときな。ファールチップで大怪我するよ”
野口さんの助言を受け、まる子は利き手を後ろに据えるようにしたわけだが、
い球が来るとなれば無意識に各部位が強張り、身構える際に握り拳をつくったりと、外部に微妙な反応を示してしまっていたのだ。
球審はその差異に気が付いた。そうしてサインを以てベンチに伝えては、ベンチの仲間達が掛け声で球種を告げるという仕組みだ。
野口(「いけ」は球で、「打て」が緩い球か……クックックッ)
48:
野口(いきなり特定の掛け声使い出したら不審に思われても無理ないよ。
 あたしならワードを複雑化してキーを設定したり、発声の順番とか色々工夫するけどね)
野口(ま、何にせよ対処法はいくらでもあるんだけど……)
野口(さくらさんには酷だけど、慣れてもらうしかないね)
男子達「おっしゃ打てよぉ!」
スパァーン!!【空振り三振】
まる子「!?」
男子C「なっ……」
男子E(球審)「何ぃ!?」
男子達「ス、ストレートじゃねえか……」
野口「無駄なあがき御苦労さん」
49:
五回表。
スコア【女】20対6【男】
かよ子「ていっ!」ペコッ【投ゴロ併殺】
たまえ「かよちゃん、まだ一回もヒット打ててないね……」
城ヶ崎「さっきからダブルプレーばっかりよ」
笹山「守りでも大穴呼ばわりされて……」
野口「すくえないね。ザルだけに」
キートン「酷い言われようである」
かよ子(私だけ結果残せてないなんて……勝ってるのに複雑だなぁ。
 こんなていたらく、杉山君に見られたらきっと呆れられちゃうよね)
冬田「山田さん、気を落とさないで」
かよ子「冬田さん……」
冬田「恋する者同士、一つ教えてあげる」
50:
五回裏
男子D(スイングスピード0のバッティングならどうだ。嫌でも当たるぜ!)
野口(バスターかと思いきやプッシュバントかい……小物らしく良いかもね)
ブラッシュボールで内角を抉った直後に、
同じ軌道から鋭く落ちるチェンジアップで泳がせる。
仕上げに高めの釣り球で打ち上げさせ、スリーバント失敗となって1アウト。
男子A(球球で一つ挟んで外にカーブ……最後はインハイ直球か?)
野口「フッ……!」ピシュッ
【空振り三振】
男子A(外一杯の真っスラ(カットボール)……)
まる子「2アウト、2アウト?!」
城ヶ崎「打球が来ないからって緩んじゃダメよ! 締まっていきましょ!」
内野陣「おー!」
51:
かよ子(まるちゃんも城ヶ崎さんも、みんな、様になってるなぁ……)
本当、私だけ良いとこないな。完全に足手まといだ。
……私、何であのとき倒れたまま諦めちゃったんだろう?
杉山君だって優しく投げてくれてたのに……。
1球すら続かないで何がキャッチボールよ。
なに一端の経験者面して惚けてたのよ。
私、ドジを免罪符にずっと逃げてるだけじゃないの?
かよ子「杉山君……」
コーンッ
笹山「山田さん、行ったわよ!」
男子達「凡フライだけど、あいつなら1点確定だ。ラッキー!」
54:
“ボールは友達って言うでしょ?
 私、飛んできたボールを捕る時に大野君の物だと思って向き合うの。
 そうする事で不思議と怖くなくなったわ”
かよ子(冬田さん……この際やってみるよ)
かよ子(ここで……ここで行動すら出来ないようじゃ、
 杉山君に会うたび後ろめたさが付きまとう気がする)
かよ子(今度は……消しゴムなんかじゃなくて、ちゃんとしたボール!)
男子達「回れ、回れ!」
かよ子(今度こそ、捕ってみせるからっ!)
かよ子「とぉりゃああああああああああ」
かよちゃん、落ち込む寸前のボールに勢いよくダイブする。
ドザザザッ……
一同「かよちゃん!」
55:
かよ子「あたたた……」
城ヶ崎「ボールは!?」
かよ子「と、捕った!!」
野口「……やるじゃん」
56:
冬田「山田さん、手当てしないと」
かよ子「痛っ……これくらい大丈夫だよ」
たまえ「でも、所々擦り剥いてるよ」
かよ子「えへへっ、今すごくスッキリしてるんだ! だから平気!」
一同「???」
まる子「さあ六回表は1番からだよ! 終盤だしトドメ刺そうかね!」
野口「あ?あ……」
笹山さん「野口さん?」
野口「あたし帰るよ」
57:
一同「ええぇーーっ!?」
まる子「ちょ、ちょいとあんた! ここまできて、そりゃないよ!」
野口「ラジオが始まるから。録音しなきゃいけないよ」
まる子「野口さん抜けたら誰が投げりゃいいのさ!?」
たまえ「それに守備の人数だって……!」
野口「ま、最後は自分らでケリつけな」
58:
野口「この中でまともな球投げられるのは、城ヶ崎さんだね」
城ヶ崎「わ、私!?」
笹山「……うん、適任かも」
冬田「ドッヂの時すごいボール投げてたものね」
まる子「うんうん、確かに! 城ヶ崎さんの球威に関しては、
 あたしが顔面で受けたからよく分かるよ!」
城ヶ崎「さ、さくらさん、その話は止してってば!///」
野口「テニスの要領で振り下ろしゃ形になるよ」
野口「それと、アルミホイルを思い出しな」
城ヶ崎「……」
野口「教えたはずだよ」
一同「城ヶ崎さん、お願い」
城ヶ崎「わ、分かったわよ……やるわ。やってやるわよ!」
59:
男子A「あの女、どっか行っちまったぞ」
男子B「揉めてたし帰ったんだろうぜ」
男子C「何にせよ、これで戦力ガタ落ちだな!」
六回表、女子チームの攻撃。
一同「城ヶ崎さーん! 頑張ってー!」
先頭の強打者・城ヶ崎さんが打席に入ると同時に、男子キャッチャーがおもむろに立ち上がった。
ピッチャーから放たれるスローボールがミットに収まりノーワン。
そう、敬遠策をとったのである。
ボールカウント
【S0‐B1】
城ヶ崎(もっと追加点が欲しいって時に……!)
城ヶ崎「ちょっと! 恥ずかしくないの!?」
男子達「……!!」
城ヶ崎「あれだけ大口叩いといて、女相手にノーアウトから敬遠だなんて!!」
60:
まる子「まったく、情けないったらありゃしないよ!!」
男子A(何とでも言え。おまえは避けるに値するバッター……。
  女を認めるのは癪だが、あのコケシ女といい事実は事実だ)
ヒョイッ パシッ
【S0‐B2】
ヒョイッ パシッ
【S0‐B3】
ヒョイッ
城ヶ崎「……」ブンッ!
【S1‐B3】
男子達「なっ……!?」
61:
ブンッ!
【S2‐B3】
男子C「な、情けねえのはそっちだクソコロネ!」
男子D「あからさまなボール球をわざとらしく振りやがって……!
  黙って一塁に歩くほうがよっぽど潔くて格好いいだろうがよ!」
まる子「男子の口ぶりは腹立つけど、城ヶ崎さんも城ヶ崎さんだよ。何で振るかねぇ?」
笹山「違うわ」
まる子「えっ?」
笹山「城ヶ崎さんは先を見据えているのよ」
一同「???」
笹山「もし、少しでも打てそうな敬遠球が来たら……?
 その為に打つ構えは捨てない……多分、その延長としての空振りなのよ!」
62:
城ヶ崎「……」
男子A(こいつを歩かせた後はあのミカン女か……。
  安パイを仕留めれば無駄な失点は回避できる。それに……)ヒョイッ
【投手たるもの
 一旦 投球動作に入ったら 全ての思考を停止し
 キャッチャーミットめがけて投げることだけに専念せよ】
男子B「バカッ、どこ投げt」
グワァラゴワガキーン!!
64:
真ん中高めに抜けてしまった弱々しい絶好球――。
最後まで全神経を集中させていた城ヶ崎さんが見逃すはずもなく、
一同「やったやった城ヶ崎さん! ソロホームラン(左中間)よ!」
女子、21点目。
男子B「どこ投げてんだよバカヤロー……」
男子A「ククククッ」
男子B「な、何がおかしいんだよ?」
男子A(フンッ、むしろ打たれてホッとしてやがる)
まる子「さあ、今の一撃でピッチャー動揺してるよ!」
笹山「うん、私も続くね!」
男子A(コロネ以外は内角一本に絞ってる感じだから……
  落ち着いて、自分のリズムで、外中心に組み立てれば強打はねえ!)
城ヶ崎さんの一発によって崩れたかに思われた男子A……。
そう都合よくはいかず、女子打線は三者凡退に終わってしまう。
65:
六回裏、男子チームの攻撃。
男子C「あのコロネ女が継投するみたいだぜ」
男子E「今さら先発以上のピッチングが出来るとは思えないな」
男子A「まずは早打ち禁止で、右狙いで繋げてくぞ」
まる子「しまっていくよー!」
城ヶ崎「テニスの要領で……アルミ、アルミ……」ブツブツ
男子B「来い、ゴリラ女」
城ヶ崎さんはテニスのサーブトスをイメージしながら大きく振り被った。
城ヶ崎「やぁぁあ!」ドシュッ
シュバーーンッ!
男子達「コ、ココ、コケシ女よりいんじゃねーか……?」
まる子(くぅ?、強烈だね……)
67:
>>65
外野の守備範囲広いなw
68:
>>67
冬田と笹山で全力サポート
66:
ドパンッ!
【数球ファールの末、空振り三振】
男子達「ど、どうだった?」
男子B「とんでもねえ癖球だ……」
男子A「ゴクリッ……」
城ヶ崎「そーぉれッ!」ドシュッ
バシンッ
男子A「……!!」
男子A(間違いない、シュートだ)
『シュート』……
右投手の場合、右打者の内角へ食い込むように曲がっていく変化球である。
69:
野球界には“シュートを投げるのは肘に良くない”という定説がある。
しかし、“カミソリシュート”と称されたシュートの使い手・平松政次、稲尾和久らは、その説に対してこんな事を述べている。
「シュートが肘に悪い? 冗談はよせ」
では、どのようにリリースしていたのか?
「手首や肘を捻らず、左肩を早く転回させることで腕を遅らせ、
 ボールの表面を人差し指で押し込むようにしてシュート回転を与えていた」という。
そう、現代では“ツーシーム”と呼ばれる握りで、内角に鋭く食い込む直球(シンキング・ファスト・ボール)そのものである。
大昔に“癖球を投げる”と噂されていた一部の投手達も、
現代に於けるツーシームやワンシームといったムービング・ファスト・ボールを投げていたのではないか?と考えられている。
野口さんは自身が離脱する事態を想定していた。
だからこそ、城ヶ崎さんの人差し指にアルミホイルを巻き付けて投球練習、リリースの感覚を養わせたのである。
城ヶ崎(直球と同じ感覚で、人差し指で縫い目にプレッシャーをかけ……回転数を殺す!)ボシュッ!
男子A「ぐうっ!」ガシッ
【弱々しいキャッチャーフライ】
71:
七回表、女子チーム最後の攻撃。
たまえ、かよちゃん共に凡退に終わり、2死から城ヶ崎さんを迎える形となった。
捕手役の男子Bが再び立ち上がり、
男子B(今度こそ敬遠だ。絶対に気ぃ抜くなよ!)
城ヶ崎「また歩かせるつもり?」
男子A「……」
男子A「わりーな、B」
男子B「???」
ガシャンッ!
男子Aの投じた渾身のストレートが、球審(男子E)の頬をかすめて、後方の金網にめり込んだ。
城ヶ崎「……そうこなくっちゃ」
72:
男子B「おい、A! ふざけんなよ!」
男子A「B、座って構えろ」
男子B「おまえ正気か!?」
男子A「いいから座れ」
男子B「うっ……でも」
男子A「座れ」
男子B「……わかったよ」
73:
城ヶ崎(まっすぐ……!)
ベシッ!【右方向ライナー性ファール】
カウント
【S1‐B1】
城ヶ崎(微妙に逃げた……今のは真っスラ? 今までのヌキスラ(緩い球)含めて2種類あったのね)
城ヶ崎(でも、球系は強く振り抜いて飛ばしたことで使いづらくなった筈)
男子A(これで奴は緩いのを頭に浮かべるかな。お次は……)
内角低め、パーム
ポシッ 【詰まり気味に引っ張ってファール】
【S2‐B1】
74:
パァンッ!
内角高めの直球、ボール
【S2‐B2】
男子A(布石は打ったぜ。大好きな外で思いきり引きつけてぇだろ?)
城ヶ崎(外から内連投の目付けで、次は……)
男子A(今度のは目一杯インステップで、ワンテンポ溜めてから……)
城ヶ崎(球っ!)
男子A(そのオープンじゃ絞りにくい、内角ボールゾーンからかすめるように入る真っスラだ!)
城ヶ崎「くっ……」
ボスッ!【内野フライ】
男子A「しゃあッッッッ!!」
75:
男子D「凌いだな」
男子E「ナイピー!」
男子B「だけど、もう最終回だぜ! どうすんだよ!」
男子C「このままじゃ公園使えなくなっちまう!」
男子A(ああ、元々そういう趣旨だっけ……)
城ヶ崎「いよいよラストよ! 締まっていきましょ、さくらさん!」
まる子「バッチコーイ!」ズキンッズキンッ
76:
七回裏、男子チーム最後の攻撃。
男子C「うぁら!」ブンッ【空振り】
男子A(焦って早打ちになってんじゃねーか?
  ……捕手がボール逸らしてるっ!)
男子A「C、走れ! 振り逃げできるぞ!」
まる子、一塁に送球しようとするが間に合わず。
【無死1塁】
男子F(俺じゃミートするのは無理だ。選んでかないと……)
バッシィイ!
まる子「くぅうっう……!」
たまえ「まるちゃん!」
一同「さくらさん!」
77:
一同「さくらさん、大丈夫?」
まる子「だ、だいじょぶだよ! ちょっとよそ見しちゃってさ!」
たまえ「まるちゃん、手を見せて」
まる子「ええ? だいじょぶだって」
たまえ「いいからっ!」
グローブを外したまる子の手のひらは赤く腫れ上がっていた。
野口さんと城ヶ崎さんの剛球をぶっ通しで捕っていたのだ。
当然と言えば当然だ。
たまえ「今までポケットに突っ込んで隠してたね……! 何で言わないの!」
まる子「大袈裟だね。このくらい……」
たまえ「バカッ!!!!!」
一同「!?」
78:
たまえ「深刻な後遺症になったらどうするの!!
 まるちゃんはよくても私が許さないよ!」
城ヶ崎さん「穂波さん……」
まる子「ちょっとくらいさ」
一同「……」
まる子「ちょっとくらい、あたしにも格好付けさせとくれよ……」
たまえ「もう、じゅうぶん格好ついてるよっ」
まる子「もう最終回なんだし、右手で捕ってみせるよ」
たまえ「まるちゃん……」
男子A「……おい、左用グラブ持ってこい」
79:
男子軍からサウスポー用のグローブを借りて試合再開。
男子D「おっしゃ、打ち頃!」パカンッ【2ランホームラン】
男子B「もうスタミナ切れか?」バシンッ【ソロホームラン】
男子A「……」パコンッ【ランニングホームラン】
かよ子「ひええぇぇぇ」
たまえ「城ヶ崎さん……」
城ヶ崎(やっぱりダメ……いくら逆の手と言っても、無意識にセーブしちゃう……)
その後、女子軍はさらなる得点を許してしまい、21対18と猛追撃を食らってしまう。
80:
男子達「勝てる勝てる! このままサヨナラだぁー!」
まる子「大丈夫だよ城ヶ崎さん、思いっきり投げちゃってよ」
城ヶ崎「くっ……そう言われても……」
男子A「B、キャッチャーやれ」
男子B「おう!……って、はああ!?」
城ヶ崎「!?」
男子「代わってやれ」
男子B「おまえ正気かよ!?」
男子A「やれ」
男子B「……わかったよッ!」
城ヶ崎「あんた……」
男子A「勝ち逃げするんじゃねーよ」
82:
男子B(まあいい、Aが何と言おうと、Aの得意なコース要求してやる)
男子A「B……」
男子B「なんだよ」
男子A「お前は指示するなよ。あいつ(城ヶ崎)自身の意思でやらせなきゃ意味ねえからな」
男子A「わかったな?」
男子B「……わかったよッ!」
男子A「ってなわけで、来やがれ!」
城ヶ崎「ふんっ……臨むところよ!」
86:
男子B「ええい、この際やけくそだ……締まってくぞぉぉお!」
城ヶ崎「ふふふっ」
男子A「……何だ?」
城ヶ崎「ううんっ、何でもない」
一同「バッチコーイ!!」
城ヶ崎「……野球も悪くないかもね」ボソッ
87:
ズパァン!
胸元を抉る内角高め
【S0‐B1】
男子A(やっぱり、あくまで真っ向か)
城ヶ崎「せえぇいっ」ドシュッ
男子A「ぐっ!」
ドパァン!!
内角低めツーシーム、空振り
【S1‐B1】
男子A(外か?)
男子A(いや、こいつは性格的に考えて逃げねえ。
  終始一貫して内角……そうだろ?)
城ヶ崎「ふえい!」ビシュッ
男子A(内っ……!)
ガッシィン!
真後ろへの強烈なファールチップ
【S2‐B1】
88:
男子A(遊び球は無い。全部ストライク狙いで来てやがる!)
城ヶ崎「そぉりゃああああああ」ピシュ!!
男子A(っ……!)
  (球じゃない!?)
そのボールは、地面に吸い込まれるように打者の視界から消えた。
遅い、只ただ遅い、チェンジアップ!
【空振り三振】
男子達「まだだA、走れ! 振り逃げできる!」
男子B(もたつく振りして時間を稼いでやれば……)
男子A「……」
男子B「なぜ走らねぇぇぇ!」
男子A、タッチアウト。
89:
ボテッ!
冬田「きゃっ!」
城ヶ崎「冬田さん、落ち着いて! 間に合うわ!」
冬田さん、慌てず処理して打者走者アウト。
これで2アウト。
90:
――男子軍ベンチ。
男子達「まだだ! じっくり見てけよー!」
男子A(くそっ、何でだ。決めつけた俺も俺だけどよ……。
  何故あそこでチェンジアップを……温存してたってのか?)
まる子「2アウトだよみんなー! あと1人あと1人!」
男子A「!!」
男子達「よしよし、選んでいけー!」
男子A(そうか、あの時……)
男子A(オカッパを気遣って手を抜いた時、コツを掴んだのか)
ズパァァンッ!
【空振り三振】
ゲームセット。
91:
21対18で女子チームの勝利。
一同「やったやったぁあーー!」
冬田「一時はどうなることかと思ったけど!」
笹山「私たち勝てたのね!」
かよ子「疲れたぁぁ?!」ヘトッ
まる子「みんな、かっこよかったよ!」
たまえ「まるちゃんもね!」
城ヶ崎「みんな! 本当に、本当にありがとう!」
女子一同、それぞれ手をつないで飛び跳ね、喜びを分かち合った。
男子A「おい」
一同「あっ……」
92:
男子A「見ての通りお前らの勝ちだ。正直完敗だったぜ」
男子A「約束どおり出ていくよ。二度と此処には近付かないようにする」
男子A「それと……」
地面に膝をつくと、静かに頭を下げようとする男子A。
しかし、咄嗟に伸ばされた城ヶ崎さんの双手によって止められる。
城ヶ崎「何やってんのよ!」
男子A「何って、どげz」
城ヶ崎「バッカじゃないの!? なに本気にしてるのよ!」
男子A「……」
93:
城ヶ崎「私たち、使用権利なんてどうだっていいの!
 此処はみんなの場所なんだから、みんなで譲り合って使えばいいのよ!」
男子A「……」
男子A「ああ、本当、その通りだよ」
城ヶ崎「わかってくれれば良いのよ。それに……」
男子A「??」
城ヶ崎「野球、楽しかったし! ねっ、みんな!」
一同「うん!!」
男子A「……」
94:
男子A「う、うううっ……ぐすっ!」
まる子(あらら、この人は……。泣いちゃったよ)
笹山「泣かないで……」
男子A「俺、女には出来ないって、バカにして……!」
一同「大丈夫だって! 過ぎたことなんだからさ!」
男子A「本当に、ごべんな゙っ……!」
男子達「ごめんなさい!!」
95:
後日、学校の教室。
まる子達は校庭でトレーニングを続けている男子A達を眺めていた。
まる子「折角の休み時間だってのに、何本ダッシュすりゃ気が済むのかね」
城ヶ崎「男子A達、野口さんに師事したそうよ」
たまえ「へぇ?、野球うまいもんねぇ」
冬田「メモに練習メニューがびっしり書かれてるんだって」
かよ子「大変だぁ?」
笹山「野口さんも乗り気だし、良い事ね」
男子A「コーチ……ダッシュの次は何だって!?」
男子B「タイヤ引き……」
男子達「うわああ?……」
野口「クックックッ!」
96:
余談だが、この男子A……。
将来、高校で甲子園を経験した後に投手としてドラフト2位でロッテに入団する。
故障に悩まされる時期もあるが、数多の輝かしい成績を記録し、チーム優勝にも大いに貢献。
選手として晩年を迎え、引退を表明した後、会見の席でこんな質問が寄せられた。
“長い野球人生の中で、最も記憶に残った人物は誰でしたか?”
少し間を置いてから、Aは微かな笑みを浮かべて、答えた。
「城ヶ崎」
直後、記者たちが眉をひそめたのは言うまでもない。
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