忍野忍「うぬ。おい、そこのうぬじゃ。」 一方通行「あァ?」back

忍野忍「うぬ。おい、そこのうぬじゃ。」 一方通行「あァ?」


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4:
振り向いた先には、一人の幼い女の子が仁王立ちで立って居た。何故か威張っている。
見た目は十歳前後、髪は明るい金髪だが全く傷んでない。サラサラで柔らかそうなブロンドは恐らく地毛だろう。
顔はまさしく西洋人形の様だ。
金色の瞳はとても印象が強く、彼女のような整った目元にしか似合わないだろう。その綺麗な目と目の間からスラッとした鼻筋が通っており、鼻先がツンッとほんの僅かに上に向いているのが可愛らしい。
口は小さめだが、顎まわりが小さいので違和感がない。そして、自分と同じくらい肌が白い。皮膚が薄いせいか透き通って見える。
フリフリの白ドレス越しに可憐な体格をして居るのが窺える。
服に飾られているのではない、彼女が服を飾っている。
彼女がまた小さな口を開いた。
5:
忍野忍「この辺りにミスタードーナツの店舗が在るはずなんじゃが、知らぬか?」
一方通行「あァ・・・。知らねェなァ。他のヤツに訊いてくンねェかなァ。じゃあなァ。」クルツ
一方通行「(なンだァ・・・?あの口調。多少興味深く思うが面倒だし、スルーだァ。)」
忍野忍「おい小僧。」
一方通行「・・・オイ、オマエ。今なンつつたァ?」
忍野忍「もやし小僧と言ったのじゃ。ワシが道を案内させてやると言っておるのじゃぞ?光栄に思え。このたわけ者。」
8:
一方通行「オィオィ、どー見てもオマエの方が年下のガキだろォーが。それにオマエ、さっきから何様だクソガキ。もやしって付けた足してンじゃねェぞォ。ンーな生意気で可愛げの欠片もねェクソガキには知ってる道も教えェねーよォ。」
忍野忍「わしはうぬより遥か昔よりこの世におる。口の利き方に用心せんか。糸屑小僧。」
結標「あら?あれは一方通行・・・と?小さい女の子・・・・・ハッ!!!」
一方通行「・・・くっだらねェ。あァ、そーですかァ。それはすみませンでしたァ。」クルツ。スタスタ
忍野忍「聞けと言うておるじゃろ小僧!!!」靴ナゲ!
スコーンッ!!!!
一方通行「痛ェエッ!!!てめェ何しやがンだァ!!!!」
結標「どどどどどどどど、どうしよようッ!!!そ、そうよ!!アハハ(笑)そうだわ!電話!!!で、電話しないと?・・・ととにかくア、アンチスキルに通報よッ!!!!!」←(二人の様子が全く見えていません)
一方通行「なンだよ、なンですか、なンなンですかァ!!?そンなに殺されたいンですかァ!?クソガキィ!!!!」
10:
忍野忍「カッカッカ。笑わせてくれるのう、うぬ。わしを殺せる様には見えぬぞ?」
一方通行「・・・ジリジリ。・・そいつァどーもォ。」クルツ
一方通行「ッおァッ!?結標?オマエ人の真後ろで何やっーーー」
結標「ーーあっ!も、もしもし、アンチスキルですか?じょ、女児誘拐です!!今すぐ来て下さい!!!それが犯人があのア、一方ーー」
一方通行「ーー待てェ!!!!!何やってんだァオマエェ!!!!!!ッ」ブチィツ、ツーツー・・・
結標「きやああぁぁぁああああああああッッ!!!!!!????」
結標「知ってるわ!!私は知ってるのよッ!!!そうそう、そうよ、貴方はロリコンなのよ!!アハハ(笑)知ってる知ってる!!!ぜーんぶお見通しなの!!!!!!」ガクガク
一方通行「だアァァアア!!!ウゼエエェェエエ゛!!!!」
14:
―とあるミスタードーナツの店内―
結標「じゃあ私の誤解だったのね。ごめんなさい。」
一方通行「良い迷惑だァ。一体何がオマエをそこまで突き動かしたのか解らねェ。あ、あとロリコンも誤解だからなァ。」
結標「………。で、あの子は?」チラッ
忍野忍「エンゼルクリーム!うまそうじゃ!ぐふふッ!実にな!オールドファッション!これはもう、見ただけで美味しいことが分かってしまう!あーもう分かっちゃったもん!食べるまでもないわ!いや、食べるけども!というかここにずらっーと、宝石のごとく並べられたマフィン系!何故今までこれらのマフィン系の存在を儂にかくしておったのじゃ!憎い!全くもって許しがたい!しかしこれだけ大量のミスタードーナツ達が展示されていおるというのは圧巻じゃ!ぱないのぅ!おい小僧!これ全部食べてもよいのか!?」キャハハッ
一方通行「よいわけねェーだろクソガキィ。」
15:
一方通行「なンなンですかァ!?あのクソガキは。うちのクソガキの比にならねェクソガキっぷりだァ。」
結標「うふ。『うちのクソガキ』って小さな超電磁砲のことかしら。ところでもう夜だけど…あの子、家に帰らなくて良いの?」
一方通行「親も居ねェ、家もねェって言ってるから仕方なくここに連れて来た訳だけどよォ。」
結標「大変ね。チャイルドエラーの子…でもなさそうだし。分からないわね」
一方通行「後でじっくり聞いてみるかァ?あァめんどくせェ。ところでよォ?」
結標「何かしら?」
一方通行「オマエ、その服装で街中歩いてて、人に見られてて、恥ずかしいとか思ったりしないのかァ?」
結標「バカぁッ!変態ッ!エッチッ!スケベェッ///」カァァ
一方通行「(コイツ、やっぱ頭可笑しいのかなァ。)」
16:
その後、忍野忍は無言で二十個ほどドーナツを平らげ、こちらに話し掛けてきた。
忍野忍「おい小僧、まだ足りんわい。」
一方通行「………。」
結標「///」モジモジ
更に五個追加して食べた後、やっと自分のことを話し出した。
忍野忍「我が名は忍野忍(おしのしのぶ)――」
一方通行「オイ待てクソガキ、オマエ明らかに日本人じゃねェーだろォ。」
忍野忍「うむ、御察しの様じゃな。『忍』と言うたが『忍』の由来が儂の本名じゃ。」
忍野忍「我が名は、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。今は色々事があってこんな無様な姿じゃが、元は鉄拳にして熱血にして冷血の吸血鬼…「怪異殺し」という異名があったんじゃぞ。」
一方通行「あァ?吸血鬼ィ?オマエ、口調も可笑しいしアッタマ沸いてンですかァ?」
忍野忍「うむ…。ならば見るがよい!」ニィッ(牙)
一方通行「なンですかァ?こんなもん付けてまで吸血鬼気取りたいンですかァ?」サワサワ
一方通行「…あァ?マジもンかァ?」コショコショ
忍野忍「クハハッ!…小僧!ベタベタ触るでない!無礼者!勘違いするでないぞ。うぬには何かと世話を焼かせたから触らすのじゃぞ。普通ならこんな無礼許さず殺して居るぞ?」
17:
忍野忍「とはいえ、今の行為は許せん。責任を持て。うぬよ。」
一方通行「なンのだよ」
忍野忍「言わすな小僧!吸血鬼にとって自分の牙を触らせる行為はのう、人間の性交渉の愛撫に近いものなのじゃ。儂の貞操を汚しおって。」
一方通行「はィはィ。すいませンでしたァ。」(あの牙、コイツまさかマジで吸血鬼とかなのかァ?よくわかんねェ。…ン?)チラッ
結標「(チ、チラッ。)ッ///」プィッ
一方通行「……なァーンかちげェンだよなァー。やっぱ何かが可笑しい。でも何が可笑しいンだァ?」
忍野忍「おい!聞いとるのか小僧。言葉など要らぬ。ホレうぬ、儂の頭を撫でてみよ!」
一方通行「なンでだよ」
忍野忍「そんなことも知らぬのか。吸血鬼の世界の服従・謝罪・誓いの証じゃ。」
一方通行「はィはィ。」グシャグシャ
忍野忍「うむ。力強い証じゃ。」
一方通行「意味わっかンねぇ。…ン?」
結標「…あのさ一方通行、髪下ろして見たんだけど…どうかなぁ?私いつも結んでるから何か恥ずかしいかなってッ///」モジモジ
一方通行「……くっだらねェ。」(なンなンですかァ?どいつもォコイツもォ)
29:
一方通行「で、この街に来た目的はァ?」
忍野忍「…うむ。儂にはのう、儂をこの姿にして生かした主様が居ってのう」
忍野忍「その主様が想いを寄せる子娘が、大学とやらの長期休暇を利用してこの街の研究所に研修に行くという話を聞いてのう。儂は暇を持て余して居るところでじゃったから内緒でつけて来たのじゃ」
一方通行「よくわっかンねェけどよォ、それがどォーなってオレにミスタードーナツまでの道を尋ねて、今のこの状況に至ったのか説明して貰えませンかァ」
忍野忍「うむ、小娘をつけておる時にこの宝の地図を渡されてのう。」ガサゴソ
一方通行「…あァ?ただのミスタードーナツの広告じゃねェかァ。忍野さンはアレですかァ?なンでも面白おかしく大袈裟に言わないと気が済まないタチなンですかァ」
30:
忍野忍「まどろっこしいわ。儂の名は『忍』と呼ぶがよい。同じ忍野と言う奴が知り合いに居ってのう。其奴がこの名の名付けなんじゃがの。ところでうぬは名を何と申すのじゃ?」
一方通行「本名は忘れたァ。周りからは『アクセラレータ』って呼ばれてンだ。」
忍野忍「ほぉ、滑稽な名じゃのう。」
一方通行「あぁ、オマエの口調も滑稽だけどなァ。で、隣のコイツは結標ってンだ」チラッ
結標「ちょっ紹介なんて気が早いってばッ///もぅッ///」モジモジ
一方通行「(コイツァさっきから何クネクネやってンだァ気色悪りィ)」
32:
一方通行「ところでオマエ、本当に吸血鬼なのかァ?」
忍野忍「ふんっ。正確には元吸血鬼じゃ。」
一方通行「威張るとこじゃねェーよ。元ってことは今は吸血鬼じゃねェのかァ?牙あったけどよォ。」
忍野忍「吸血鬼の成れの果て、搾りかすの様なものじゃ。存在も消え、元の名前も消えた。ゆえに元の名は名乗れん。そこで新たな名がついたのじゃ。」
一方通行「搾りかすってこったァ、一応吸血鬼ってことかァ?」
33:
忍野忍「ん。まぁ限り無く吸血鬼に近い人間と言ったところかのう。元は純粋な吸血鬼であり、怪異の王であったのじゃ。」
一方通行「ハッ!おもしれェ!!『王』ってことに関しちゃァオレも同じ類いだからなァ。どンなこと出来ンだよ」
忍野忍「手刀で人を爆破、眼力でコンクリート爆破、身体は何度でも再生出来るから死なぬ。あと物質創造能力もある。それと儂の異名となる特殊能力『エナジードレイン』というものがある。血を吸う事で相手の存在自体を吸い取れるのじゃ。」
一方通行「ギャ゙ハハァッ!!!良いねェ良いねェ最高だねェ!!」
忍野忍「うぬも王と言うたが何の王じゃ?何が出来る?」
一方通行「ここは学園都市っつうンだけどよォ。最先端の科学によって超能力開発が進んだ街だァ。その二百三十万人の頂点に君臨するのがこのオレだァ。」
忍野忍「ほぉ。」
一方通行「能力はベクトル操作。動量・熱量・光・電気量など、体表面に触れたあらゆるベクトルを任意に操作する能力だァ。使い方によっちゃァ血流逆転させたり、体内電流操作によって心臓麻痺や洗脳させたり、身体運動増幅、M7クラスの暴風も起こせンだぜェ。攻撃を反射することも出来る。」
34:
忍野忍「ほぉ、生身の人間とは思えんのう。気に入ったぞ。うぬ」カッカッカ
一方通行「ところでよォ…そこまで『最強』だったらバカらしくて喧嘩ふっかけてくるヤツなんざ居ねェンだろォ?」
忍野忍「いや、毎日のように殺し合いじゃったよ。」
一方通行「あァ?まともにやって敵わねェって分かっててくンのかよォ?」
忍野忍「うむ、まともにやって敵わぬから卑怯な手をつかってでもかかって来る輩もおるわい。こんな儂でも油断して殺されかけた事がある。うぬも油断せんことだな。カッカッカ」足でウリウリ
一方通行「……ッけ。わっかンねェよ。」
一方通行が『どんな圧倒的な力をつけても結局は向かって来る者は絶えない』という挫折、一時思い描いていた理想と今突き付けられた現実との葛藤の中で、油断の末敗北した『とある少年』を思い出して居る頃…………
35:
―とある研究所―
戦場ヶ原「お疲れ様です。それではお先に失礼します。」
木山春生「あぁ。お疲れさま。暗いから気をつけて帰るんだよ。」
ガチャン。
木山春生「…ふっ。戦場ヶ原ひたぎか。面白い子だな」
戦場ヶ原ひたぎは、今年某有名国立大学に入学した大学一年生だ。有名大学にも拘わらず、学内で偏差値70以上をキープする彼女は大学からの推薦でこの学園都市に在る『とある研究所』に研修に来ていた。長期休暇の研修など嫌がるかと思えば、二つ返事で木山春生のもとに訪れたそうだ。
普段は無口だが、いざ必要であれば豊かな教養と博学ぶりで雄弁する。臨機応変な頭脳は知らない知識も他の知識からアプローチして解釈に至り、幅広い分野の知識がある為、全く違う分野同士の知識をリンクさせて独自の理論を展開し、しかも各分野の専門家もを頷かせる秀才ぶりだ。
多少か細い声で話すが、高めの背丈とメリハリのある体格、知的な顔立ちと美貌に加え、研究中は一切笑顔を見せない。『白衣が様になるな。』と木山春生は彼女に期待しざるを得ない。
39:
戦場ヶ原「………。」カツカツカツ(ハイヒール)
戦場ヶ原「(阿良々木くん、どうしてるかしら。……心配だわ。それは『阿良々木の体調』に対してもだし、あり得ない事だけれど、『恋人としての私』に対しても。それは心配じゃなくて不安かしら。)……考えすぎね。」
戦場ヶ原「(暗いわね。)」
スキルアウトA「…おいおい。良い女だなありゃー」
スキルアウトB「いく?」
スキルアウトC「常識っしょ。」
スキルアウトABC「おい!お嬢ちゃんー俺らと遊ばねー?帰り道?暇してんだろ?」
戦場ヶ原「・・・。私にとって帰路に就く事は、とても忙しい事なので失礼します。」カツカツカツ
スキルアウトABC「おいおい。冷たいねー」ゾロゾロ(囲み)
上条「フンフフン♪フンフフン♪フッフッフーン♪ん?あれは?」ダッ
40:
スキルアウトA「お!お嬢ちゃん近くで見たら…ぁ…ッ!?」ピタ
スキルアウトB「美人だよ…な…ッ!?」ピタ
スキルアウトC「へへッ、こりゃ上玉…だ…ッ!?」ピタ
戦場ヶ原「…動かないで」
シーン…。
戦場ヶ原「ああ、違うわ。『動いてもいいけれど、とても危険よ』というのが、正しかったのね」
それは、ほんの一瞬の出来事であった。戦場ヶ原は、左側の少年の口の中、しかも軟口蓋辺りに左手で握ったコンパスの針を突き付け、右手で正拳を作り、その正拳の第二指と第三指の間で鋭利に削られた鉛筆を挟み、下からでないと判りにくいが、第三指、第四指、第五指の中手指節間関節と指の腹で彫刻刀を握るような形で持ち、正拳から突き出ている凶器は、正面の少年の喉には鉛筆、右側の少年の舌には彫刻刀がピタリと触れている。
上から見れば、拳を基点に鉛筆と彫刻刀による美しい直角が出来上がっている。
スキルアウトABC「……………。」
戦場ヶ原「…。」スッ(凶器を抜いた)
41:
上条「こらこら君達」
上条「よってたかってか弱い女の子を苛めるんじゃありません!」
スキルアウトABC「ッ!!」ダッ
上条「っておい!?」
上条「…?なんだか初めてスムーズにいったな。まぁこんな上条さんにも良いことあるもんだなー!」
上条「…で。大丈夫か?」
戦場河原「……。」キッ(睨み)
43:
戻って
とあるミスタードーナツの駐車場
一方通行「で。オレらは帰ッけど。オマエ、どーすンだよ」
忍野忍「うむ、小娘を捜すかのう。見つからんかったら野宿でもすればよい」
一方通行「言っとくがァ、ここは学園都市だからよォ。元最強といえど、オマエ搾りかすなンだろ?寝る場所くれー考えた方が良いぜェ」
忍野忍「ふんっ。余計なお世話じゃ小僧」
一方通行「あァ、そーですか。ンじゃご自由に」
一方通行「ンじゃ帰ッかァ。…ン?」
結標「ねぇねぇ?///」
一方通行「あァン?」
結標「制服、前閉めてみたんだけど…どうかなぁ?ア、一方通行は似合ってると思う?///」ワクワク
一方通行「あァ。そっちの方が良いンじゃねェーか(色んな意味で。)」
結標「こっ、この世渡り上手ぅ!!////」べチンッ!!!(左ミドルキック)
一方通行「がァッ!!?」ドサッ。
結標「ッ///ばぃばぃ」シュンッ(座標移動)
一方通行「…ハァ゙ハァ゙…。アイツァ生かせておけねェ。一体、なンなンですかァ」
忍ちゃん「カッカッカ。じゃあの」テクテク
44:
忍野忍「…一方通行か。面白い小僧じゃったのう」トテトテ
滝壺「はまづらと離れちゃった」ペタンペタン
滝壺「……?あ。フレンダだ」
滝壺「フレンダ…なんかちっちゃくなったね。でも大丈夫だよフレンダ。私はそんなちっちゃなフレンダを応援してる」」
忍野忍「む?儂はフレンダとやらでないぞ」
滝壺「え?でも…アレ?なんかよく見たらフレンダじゃない」アタフタアタフタ
フレンダ「ん?あれは滝壺?」
フレンダ「おーい滝壺!」
滝壺「え?あれ?フレンダ?どっちがフレンダ?」アワワ
フレンダ「滝壺は今まで私の何を見てたの?って質問をぶつけざるを得ない訳よ」
滝壺「ごめんフレンダ。私ほとんど髪の毛しかみてなかった」
フレンダ「結局、脚を見れば一目瞭然な訳よ。この脚線美」ホレホレ
忍野忍「おい、うぬ等。儂は帰って良いかのう?」
滝壺「ごめんね。すごくフレンダに似てたから。ばいばい」
45:
戻りまして
―とある道端―
『気まずい』というよりかは、恐ろしい修羅場の様な沈黙の後、戦場ヶ原が口を開いた。
戦場ヶ原「……お礼は結構ですね?」
上条「へ?」
戦場ヶ原「ですから…あなたはお礼を求めるべきでないし、私もお礼を言いたくないので、お礼は結構ですね?」
上条「あ、あの??」
戦場ヶ原「私は今、あなたに凄くムカついて居るわ」
上条「は、はぁ(?)」
戦場ヶ原「あなたが私を助ける理由なんてないし、私は明らかに自分で危険を回避出来たわ。それを割り込んで来るなんて図々しい。」
上条「人を助けるのに理由なんて要らないだろ?それにお前が危険を回避出来て居ようが、目の前で女の子がそれっぽい奴らに絡まれてたら助けにいくのが人として当たり前だろ!お前が俺をどう思おうが勝手だけど、俺は目の前のリアルを許せなかったんだ!」
46:
戦場ヶ原「……つくづく鬱陶しいわ。あなたの『当たり前』を押し付けられ、あなたの自己満足に付き合わされた挙句、気分を害された上に幼稚な説教までくらう始末。人生の中に恥が出来てしまったわ。しかも他者の手によって。」
戦場ヶ原「・・・・・あなたは年頃の、しかも凄く美人な女の子が絡まれて居る場面に出会しました。」
上条「はぁ?なんだよいきなり(今、自分で自分のこと美人って言ったよな)」
戦場ヶ原「ここでヒーローのごとく助けようとして、内容はどうであれ不良が去った後、『大丈夫ですか』なんてセリフを吐いて接点を作れば、あの女の子とお近づきになれる。……なんて卑劣な見返りを求めて行動に及んだのじゃないかしら。一番タチが悪いわ。汚らわしい。」
上条「何言ってんだ。見ず知らずのお前に興味なんてねーよ」
戦場ヶ原「言ってる事が無茶苦茶過ぎて、矛盾を指摘するのも億劫になるわ。……まぁ要するに、あの場面で私に対しては興味はなかったのだけれど、自分の正義に反するものに対しては興味があったから動いたのかしら。それはそれで屈辱的だし、それだけではないと思うの」
47:
上条「は、はぁ」
戦場ヶ原「例えあなたが、卑劣な見返りで私と出会い、下劣な生物的本能をひた隠してまでアプローチを重ねようと言うのなら、私は躊躇いなく…………切り落としてやるわ」
上条「切り落とす!?」
上条「あの?なんて言うか、さっきから自意識過剰過ぎやしませんかね?」
戦場ヶ原「嫌だわ。本当の事でも言って良い事と悪い事があるわよ?」
上条「なっ!?自覚しているっ!?」
戦場ヶ原「あーうるさいわね。削ぐわよ」
上条「はぁ…なんか御坂の電気より痛い…心がシクシク。…とりあえず…俺は上条当麻だ」
戦場ヶ原「…あらそう。さようなら」カツカツカツ
上条「なんですか、その華麗なスルーぶりは!!こっちが名を名乗ったんだから、そっちも名乗るのが常識だろ!」
戦場ヶ原「上条くん、あなた全体的に自分勝手だわ。いい加減帰してくれるのなら良いわよ。……私の名前は戦場ヶ原ひたぎ。さようなら」カツカツカツ
上条「変わった奴だな…年上っぽいな」
56:
――とある道端
一方通行「……チッ、未だに右脇腹がいてェ。て言うか肝臓がいてェ」スタスタ
一方通行「無駄に能力使うのも勿体ねェーし、たまにゃ『痛み』ってェーのに慣れねーとなァ」
一方通行「……。 (あのマセガキ、研修に来てる女と遭遇出来たのかァ?)」
一方通行「まァ、もう俺には関係ねェ……ア?」
忍野忍「……。」トテトテ
一方通行「(噂をすれば影がさすってかァ?) オッマエまだ探してンのかァ?」
忍野忍「ん? 何じゃうぬか」
一方通行「……七時間五十分、もォ探しても無駄じゃねーかァ? 女の寝泊まりする予定の場所とか分かンねーの?」
忍野忍「うむ、確かこの街に住む教師とやらの家に世話になると言っておったかのう」
一方通行「そォか(教師って黄泉川とかじゃねーだろうなァ)」
忍野忍「仕方あるまい、久々に野宿でもするかのう。じゃあのう小僧」トテトテ
一方通行「あァ、じゃーなァ」
57:
一方通行「……。 (流石に外見はうちのクソガキと変わらねェが、落ち着きがあンなァ。500年生きてるってのは未だに信じてねェーけどな)」スタスタ
――とあるマンションの前
一方通行「八時十二分、クソガキも飯食い終わった辺りだろうな。……ってオイ」
忍野忍「何じゃまたうぬか、まさか儂を着けておるのか?」
一方通行「そりゃァそのままこっちのセリフだァ、オマエこンな所で何してンだよ」
忍野忍「ん? 野宿じゃ」
一方通行「はァ? 邪魔だし、こンな所で寝てたらドラム缶に集られンぞ」
忍野忍「ドラム缶?」
一方通行「学園都市が開発したドラム缶仕様の作業用(掃除、警備)ロボットの事だ」
一方通行「動かない物体をゴミと認識して清掃しにくンだよ。だが、オマエみてェな吸引口に入らねェ物体は吸い込めねーから、一台がてこずればもう一台、その二台がてこずればもう一台応援しに来るシステムなンだよ」
一方通行「そのうち防犯カメラを見た警備員に捕まえられンぞ。オマエ真っ当な方法で学園都市に入ったわけじゃねェーだろうし」
58:
忍野忍「なるほど、じゃあ屋根で寝るかのう」
一方通行「……ハァー。俺も実は居候の身でよォ、このマンションに住んでる黄泉川ってヤツに世話になってンだけどよォ」
一方通行「ソイツは『アンチスキル』っつー堅ッ苦しい仕事してンだけど、話せば分かるヤツでな。それに、外見的にオマエと同じくれーの年に見えるクソガキも居候してるから、ソイツの相手するってンなら俺にとっても好都合だ」
忍野忍「ふむ、つまり儂の寝床を用意してくれると?」
一方通行「クソガキの相手すンなら悪くねーしなァ」
忍野忍「……しかしのう、うぬ。責任の持てぬ優しさを振り撒くのなら、初めから悪人で居るべきじゃぞ?」
一方通行「優しさもクソもねェーよ、善人気取りでもねェ。悪党の気まぐれだァ」
忍野忍「カッカッカッ! うむ、それじゃあ世話になってやるかのう」
59:
――とあるボロアパート前
戦場ヶ原「ここが下宿先かしら。正直この街に馴染める気がしないけれど、このアパートは親近感が湧くわ」カンカンカン(階段上がる音)
戦場ヶ原「(月詠……月詠……『つきよみこもえ』) あったわ」
ぴんぽーん♪
小萌「はいはいはーい! 今開けますよー」ガチャ
戦場ヶ原「……え?」
小萌「どなた様ですかぁ?」
戦場ヶ原「えッ!? はい、あの、すみません、間違えました、こちらの不注意です、お忙しいところ本当に申し訳ありませんでした」
小萌「わぁ!? そんなに謝らないで下さい、人なら誰だって間違いの一つや二つあるものですよー!それじゃあ」ガチャ
戦場ヶ原「……またやらかしてしまったわ。だから子供は嫌いなのよ」
61:
戦場ヶ原は、もう一度ドアプレートを確認する。そこには確かに『つきよみこもえ』と表記してある。
(まさか留守?まさか何かの手違いで、この資料に書いてある住所は『月詠さんのお子さん』の家の住所?
この街では中学生以下の子は、施設の様な寮で共同生活を送っていると聞いたし、このアパートはどう見ても寮には見えない。
というか、そもそも月詠さんの資料にはお子さんが居るなんて書いてない。
まさか隠し子!?隠す理由があるのかしら?いけない事よ!きっといけないが絡んでいるのだわ!)と戦場ヶ原は、『月詠小萌』という人物を知っている人から見たら笑ってしまう様な思考を廻らせる。
しかし、彼女は正常だろう。
初めて月詠小萌という人物に会った人間は、少なからずおかしな事を考えてしまうだろう。ましてや戦場ヶ原は、見知らぬ土地へ単身で研修に来ている身なのだから、パニックになってもおかしくはない。
「困ったわ。どうしましょう」と困って居ると、後ろの方からカンカンカンと階段を上がる音が聞こえてきた。
62:
結標「あら?小萌に何か用かしら?」
戦場ヶ原「あっ、はい。私この街にある研究所に研修に来ている戦場ヶ原ひたぎという者ですが、研修期間中は月詠さんのお宅にお世話になるとの事でここを訪ねたのですが、今インターホン鳴らしたら十二歳くらいの女の子が出て来たので困っていました。あなたは月詠さんのお知り合いの方ですか?」
結標「ああ、貴女が戦場ヶ原さんね。私は結標淡希、小萌と同居してる者よ。小萌から話は聞いてるわ。さぁ入って (ってか困ってるってわりには無表情ね)」
戦場ヶ原「はい (良かったわ)」
63:
――黄泉川家
打ち止め「ついにあなたがやらかしたってミサカはミサカは軽蔑しなくてはいけない気持ちと、どうしても軽蔑出来ない気持ちの狭間で葛藤してみたり! でも最終的に、ミサカはいつの日か出所するあなたを待ってるからねってミサカはミサカはここに宣言してみる!」
一方通行「……これがうちのクソガキだ。どうだ、めンどくせェだろ?」
忍野忍「ほぅ、うぬは常に人拐いの疑いをかけられておるのか」
打ち止め「面倒くさい女!?一方的にポイ捨てフラグを立てられたかも、ってミサカはミサカは二番目の女でも良いから捨てないで!ってあなたにしがみついてみる!」
一方通行「誰だァ!! クソガキにまた変なこと教え込んだ奴はァ!」
黄泉川「あれじゃんよ」ピ
一方通行「テレビィ?」
芳川「昼ドラに嵌まってるみたいね」
一方通行「変なもン見せンじゃねェー! 教育上良くねェ、昼ドラ観るのは禁止だァ」
打ち止め「えー! 今すごく良いとこなのにってミサカはミサカは過保護過ぎるあなたに反抗してみる!」
64:
黄泉川「で、その子は何なのか説明するじゃん?」
一方通行「忍野忍。いろいろ訳あって連れてきた。クソガキの世話するって言ってるし、しばらくの間ここに置いてやってくれねェか?」
黄泉川「それは構わないじゃん。けど打ち止めの世話してくれるって、どう見ても打ち止めと同い年くらいにしか見えないじゃん!」
一方通行「コイツ、見た目はこンなンだけどガキじゃねェーンだ」
芳川「フッ……『打ち止めの世話をしてくれるから置いてくれ』なんて口実ね」
芳川「一方通行、あなた本当は忍と打ち止めでハーレム……言えないわ。ほら、私甘いじゃない。優しいんじゃはなくて甘いから、強くなりきれなくて結局中途半端になってしまったわ」
一方通行「殆ど全部言ってるも同然じゃねーか」
芳川「いえ、続きがあるの。聞いてくれる? 言いかけた部分は『ハーレムを築こうとしてるのかしら』じゃなくて『ハーレムを築こうとしてるのかしら、つまりあなたが二人に淫らな世話を焼かせるつもりじゃないのかしら』って言おうとしたの」
芳川「ほら、私甘いでしょう? 後からなら何とか言えるの。なるべく努力はしてるつもり」
一方通行「あーハィハィ分かったァ」
65:
忍野忍「……。」ピコピコ
一方通行「忍ゥ……人が説得してンのに何テトリス楽しんでやがンですかァ!!」
黄泉川「まぁとりあえず、二人飯は食ったじゃん?」
一方通行「あァ、ドーナツ食った」
黄泉川「んじゃあ、さっさと打ち止めと忍を風呂に入れるじゃん!」
一方通行「はァ? なンで俺が」
忍野忍「おい小僧、何を恥じらっておる。さっさと風呂に行くぞ」トテトテ
一方通行「恥じらってねェ! めンどくせェーンだよォ!」
打ち止め「わーい! 忍とあなたでお風呂お風呂ーってミサカはミサカは幸せ指数が50UP!」キャハハ
一方通行「って、引っ張るなクソガキィ!」
芳川「明るい環境って悪くないわね」
黄泉川「そりゃそうじゃん!」
71:
――小萌家
「「「いただきます(ですー)」」」
小萌「戦場ヶ原ちゃん、さっきは気づかなくてごめんなさいですー」パクパク
戦場ヶ原「いえ、私の方も取り乱してしまって名前すら名乗れなかったですから。すみません」モグモグ
結標「フフッ、私も初めて小萌に会った時驚いたわ。自分より二十センチくらい背の低い女の子が『あなたを保護するですー』って言うんだもの」モグモグ
戦場ヶ原「……ところで、月詠さんはお酒と煙草を嗜んで居ますか?」
小萌「ふぇっ!? 何で分かったんですかぁ? 戦場ヶ原ちゃんの件を引き受けて、一ヶ月以上前からお酒とタバコは外でして、掃除までしたんですよー?」
戦場ヶ原「私は鼻が利く方なので。正確にはビールとタバコの臭いを、三つの消臭剤で誤魔化している臭いがします」
月詠「ふぇえっ!?」
戦場ヶ原「消臭剤の種類が統一されてないので、ラベンダーとレモンとイチゴが混ざり合った複雑な臭いがします」
小萌「はわわっ! 戦場ヶ原ちゃんギブアップですー! それ以上言われたら先生の立場が危ういですぅー!」
72:
結標「ところで、ひたぎは何について研修をしてるのかしら?」
戦場ヶ原「もとは社会学を研究していたのだけれど、社会学を研究しているうちに、社会学と精神医学・心理学の関連性に気づいたわ」
戦場ヶ原「そこで精神医学・心理学についての研究も始めたのだけれど、脳と精神は切っても切り離せない関係だと学んだから、脳の研究も始めたころ、学園都市にある研究所への、研修の話が舞い込んで来たのよ」
戦場ヶ原「『脳についての研究』と言っても色々あるのだけれど、今私が研究しているのは『大脳生理学』という分野よ」
結標「学園都市ではやたらと『大脳生理学』って言葉を聞くんだけど、いまいちピンと来ないわ」
戦場ヶ原「大脳生理学というのは、大脳(脳の大部分)の働きについて研究するものよ。具体的に言うと、知覚・学習・記憶などを処理する『脳』の機能について明らかにしていく学問よ」
73:
戦場ヶ原「この学園都市の『超能力開発』というものは、大脳生理学研究の応用でもあるわね。理論的には能力を発動する時、複雑な演算が行われるから、大脳がとても活性化されている状態になるようだし」
結標「なるほどね。確かに能力使う時、イメージと計算を並行してやらないといけないし、五感を研ぎ澄まさないといけないから複雑に頭使ってるわ」
戦場ヶ原「それと、より活性化を促進するため、投薬により脳内物質を調整したり、特殊な電気で直接脳に刺激を与えてみたりしているようね。少々やり方が強引な気もするけれど」
結標「やっぱあれ強引なやり方なんだ」
戦場ヶ原「今述べたような理屈があるから、必然的に『大脳生理学』と言う言葉を良く聞くことになるでしょうね」
戦場ヶ原「兼ねてから聞いていたけれど、この街の医学と科学の進歩には驚いたわ。しかもそれらは結びついた上で実用されているし」
74:
戦場ヶ原「……ところで月詠さんも科学的な何かを施されてその若さ(幼さ)なのかしら?」
小萌「あれれー? 似た様なこと前にも、学園都市第一位の男の子に言われましたよー? その子は『学園都市の科学技術により生み出された生き物』だと思っていたらしいですけどねー」
小萌「ちなみに先生は科学的な施しを受けた訳でもありませんし、科学によって生み出された生き物でもありませんよー」
戦場ヶ原「そうですか、失礼しました。 (絶対『科学によって生み出された生き物』の方が悪意に満ちた言い方だわ)」
結標「もぅ小萌やだぁーッ///あーくんの話されたら照れるじゃない///」
小萌「結標ちゃん顔真っ赤ですよー? あーくんって、そう呼ぶ間柄なのですかー?」
結標「ッ///」モジモジ
小萌「そう言えば結標ちゃん、今日はいつもと違う格好してるですねー? 髪下ろして、制服の前閉めて、シャツまで来てるですー」
戦場ヶ原「……。 (一体いつもはどんな格好をしているというの!?)」
75:
小萌「戦場ヶ原ちゃんは恋人はいるのですかー?」
戦場ヶ原「はい、一応居ます」
小萌「おやおや、どんな人なのですかー?」
戦場ヶ原「優しくて、可愛くて、私が困っている時はいつだって助けに駆けつけてくれる王子様みたいな人です」
小萌「ふううっなんか上条ちゃんに似てるですー」
戦場ヶ原「どんな人なんですか? (上条……?)」
小萌「優しい人ですよー、でも優しすぎるのも女の子を泣かす事になってしまうのですー」
戦場ヶ原「そうですか。優し過ぎるのも良くないですよね (絶対あの子ね。…[ピーーー]。……[ピーーー]、[ピーーー]ば良いのに。同じ『偽善使い』でも全く違うわ。阿良々木君は押し付けたりしないもの)」
結標「ッ///」
76:
――黄泉川家の風呂場
忍野忍「おい、うぬの様な体つきをポッキー体型と言うそうじゃのう」
打ち止め「ポッキーもポッキー体型のあなたも大好きだよってミサカはミサカはのぼせながら愛の告白!」
一方通行「ありがとよォ、二つの意味でのぼせてるみてェーだし水かけてやンよ」シャー
打ち止め「ぶわーっ!? ってミサカはミサカはいつもはぬるま湯しかかけないのにって二つの意味で驚いてみたりー!」
忍野忍「クックック、ぬるま湯か」
一方通行「忍ゥ、オマエにもかけてやンよォ?」シャー
忍野忍「ぶわーっ!? このたわけ者が!! 今のは許せん、シャンプーじゃっ! 詫びとしてシャンプーせい!」
一方通行「あァ、分かったよ。上がってこい」
忍野忍「ふんっ」バシャッ(湯船から上がった)
77:
一方通行「髪柔らけェ」クシャクシャクシャ
一方通行「ってオイ、泡立ち過ぎじゃねェか?」モクモク
忍野忍「む? 儂はそもそも汚れること事態ないからのう、髪が汚れてないから泡立つそうじゃ」
一方通行「はァ? じゃあなンで俺に洗わせてやがンだよ。そもそも風呂に入る必要ねーじゃねェか」
忍野忍「戯れじゃ。…ほう、うぬはなかなか奉仕上手じゃのう、気持ち良いわ」
一方通行「そォかァ」ジャー
忍野忍「おい」ツンツン
一方通行「あァ?」
忍野忍「トリートメントも頼もうかのう」
一方通行「オマエのクソ量の多い髪に、いくらトリートメント使わなきゃなンねーンだよ」ヌリヌリ
ジャー
忍野忍「ふぅ、スッキリしたわい!」ジャボ
一方通行「また湯船浸かンのかよ」ジャボ
打ち止め「あー! ずるーい! ミサカも入りたいってミサカはミサカは嫉妬に狂ってみたり!」
一方通行「オマエはさっさと髪と身体洗っえちまえ」
打ち止め「ゔーってミサカはミサカはそろそろ我慢の出来る大人に近づく努力をしてみる!」ワシャワシャ
78:
忍野忍「うぬ、明日はどこに連れてってくれるのじゃ」
一方通行「なンでオマエと出掛けるの前提なンだよ」
忍野忍「儂はドーナツを食べに行きたいと思っておる」
一方通行「もはやドーナツ中毒だなァ」
忍野忍「ここの街で一番美味いドーナツが置いてある店に連れていくがよい」
一方通行「あァー? カフェとかに置いてあるドーナツとかかァ?」
忍野忍「ほう、カフェというものには美味いドーナツが置いてあるのか?」キラキラ
一方通行「なァ!? 眩しィッ! ミスタードーナツよりかは種類は少ねェーけど、使ってる材料が違うわなァ」
忍野忍「クックックッ明日が楽しみじゃのう」
一方通行「でェ、お前はいつまで学園都市に居るつもりなンだよ」
忍野忍「それは小娘に聞かんと分からんのう」
一方通行「明日その小娘ってェーのも探す――」
打ち止め「洗い終わったよー! ってミサカはミサカはあなたにダーイブッ!!!」バッシャー
一方通行「打ち止めァァァァアアアアアア゙ー!!!!」
83:
――とある歩道
○月△△日、午前八時。学園都市は柔らかな朝の日差しに包まれていた。
この街で生活する約八割の人間は学生なので、歩道はスーツを着た大人より、学生服を着た少年、少女が目立っている。
その学生たちが通学路として利用している歩道の側には街路樹が立ち並んでおり、その街路樹の葉は歩道に涼しげな陰をつくり、サワサワと心地よい旋律を奏でている。
車道ではあまり車が走っておらず、その街路樹の旋律と控えめに行き来する車の音が『程好く静かな朝の街』をつくり出している。
その程好く静かな朝の街は、学生たちの通学路での会話を捗らせ、低血圧の学生にも優しく、面倒になりがちな登校の時間を充実したものする。
そんな中、街路樹を疎みながら歩く女の子がいた。
彼女はハイヒールをコツコツコツと鳴らしながら歩き、腰骨と脚がスッと伸びていて、踏み出す足は内側も外側も向いておらず真っ直ぐで、かといってモデルの様な気取ったウォーキングフォームでもなく、彼女独自の美しいウォーキングフォームで目的地である研究所に向かう。
84:
そんな彼女は、この街でも少し目立つほどの美貌なので、初めて見る彼女に惹かれる少年、憧れる少女も少なくないだろう。
ただそれは彼女が『黙っていたら』の話である。
それはよく言われている、『話し出せば知能の低さや品性の無さが露呈するから話さない方がよい』というものではない。
一言で言うと『危険』なのだ。
彼女は幸福を噛み締めて生きてきた人間と言うより、幸福に浸る人間を妬みながらハンカチを噛み締めていた人間だ。
要はあまりに惨めな想いが続くうちに、人格に影響が出るほどの『劣等感』を抱える事になってしまったのだ。
そうなると毒の一つでも吐かない限り解消されないし、強引な形であろうと人より上位に立たないと気が済まない。いや、報われないような気がするのだ。
故に、その知性を絡めた毒舌・暴言の破壊力は凄まじいもので危険なのだ。
85:
「(こんなに街路樹を立てて馬鹿なのかしら?)」
そんな風に苛立っている彼女――戦場ヶ原ひたぎは悲観主義者である。
目の前に立ち並ぶ街路樹を見て、良い風に思えないのだ。
日陰の心地好さは感じないし、葉の旋律も聞こえない。
それは彼女の感性や耳が悪い訳ではない。
街路樹の素晴らしさを感じる以前に、『街路樹による弊害』を気にしているのだ。
「倒木したらどれだけ面倒な事になるか分からないのかしら? 信号機や道路標識も見えにくくなるし、根が伸展して地下の下水管悪影響を来すこともあるのに」
などと考えながら彼女は街路樹から離れて歩いているのだが、これも毛虫などの害虫、鳥のフンが落下してくる危険性を回避するためだ。
「……クスッ」
機嫌を損ねているのかと思えばいきなり微笑する。
「……クスクスッ。 (そう言えば阿良々木君、高校二年生だったかしら? 学校の駐輪場の近くを歩いてて、上から落ちてきた鳥のフンをかわして得意気に「僕の注意力を侮るなよ」とか言いながら格好つけてて、その後すぐ落ちてきた毛虫をかわそうとして駐輪場に突っ込んで、大量の自転車を倒した挙句、みんなに白い目で見られていたかしらね)」
と戦場ヶ原は更に微笑する。
実は彼女は高校入学当時から密かに阿良々木に注目しており、阿良々木が段々落ちこぼれていく様や、友達のいない寂しい学校生活や、何をやっても上手くいかなくて挫折している姿を見ては腹の中で大笑いしていたのだ。
それを彼本人に言うと「だから初めて会った時 (襲撃してきた時)、話したこともない僕の名前をフルネームで知っていたんだな!?」と驚いていた。
「(そういう所も可愛いわ)」
戦場ヶ原が歩いている歩道から車道を挟んだ向こう側の歩道では、一人の少年が幸福に浸っていた。
86:
――戦場ヶ原から見て向こう側の歩道
「今日はなんと快調なんでせうか!」
ウニの様にツンツンした髪の毛の少年は感極まって独り言を叫ぶ。
今日は朝から良いことばかりだった様だ。
いつもよりスムーズに目覚める事が出来て、少し前に無くして諦めていた三万円が教科書に挟まっていたのを見つけ、同居している大食いシスターは暫くイギリスに帰る事になり、「上条さん寂しいかなと思って///」と五和が家に家事手伝いに来て、朝食はとても美味しく、後片付けの手間が省けていつもより早く家を出れたのだ。何より、今日は今のところ「幸せだ」とは何度か口にしたが、「不幸だ」とは一度も口にしていない。
それに今日は天気まで良い。空気も澄んでいて美味しい。
学園都市は、大都会に関わらず空気が新鮮なのだ。
これも科学の技術だとは信じ難いのだが、実際科学の技術によって作り出された良質の空気なのである。
単に「空気が美味しい、良い気分!」という精神論のためにわざわざ良質の空気を作り出しているのではなく、学園都市なりの理屈があるのだ。
まず都会の空気と大自然の空気は何が違うのかと言うと、空気中に含まれている『陽イオン』と『陰イオン』の数の対比率である。
大自然では、一立方センチメートルあたりの陽イオンが五十個、陰イオンが二千五百個なのに対し、都会では陽イオンが八十個、陰イオンが千二百個……都会は陰イオンが少なく、陽イオンが多いのだ。
そして空気中の陽イオンの量が増えると、人の精神や自律神経や身体に悪影響を与え、犯罪発生率が上がるばかりでなく、能力開発に支障を来すと考えた学園都市は、陽イオンを吸い込み、陰イオンを送り出す巨大な装置を街の至るところに設置しているのだ。
舞い上がっているツンツンした髪の少年――上条当麻は、久しぶりに学園都市に感謝することが出来た。
「ハハハ! 家に帰ったら五和の美味い料理も食えるし、こんな気分で学校に向かうのは本当久しぶりだなー! 幸せだー! ……ん?」
87:
上条が歩いている歩道から車道を挟んで向こう側の歩道に、見覚えのある女の子が歩いていた。
昨日はお堅い黒スーツを着ていたけど、今日は打って変わってカジュアルな格好をしている。
ハッキリは見えないけど、上は白のロングTシャツを着ている。デザインは無地でシンプルなものだが、深めのUネックなので鎖骨が見えている。
下は濃いめの青いストレートデニムで、さほど高くないハイヒールを履いているのだが、自分より背が高いような気がする(上条さんは168センチ)。
髪は昨日と同じで黒のセミロングヘアーを下ろしている。
しかしその……胸が気になる。
ロングTシャツは身体のラインが素直に出る扇情的なものだという事に、女性は気づいているのだろうか?
ましてや彼女は、細身なのにそこそこバストがあるし、かなりそそられるものがある。
上条は向こう側の歩道を歩いている女の子に話し掛ける事にした。
88:
戦場ヶ原「……。」カツカツカツ
上条「おーい戦場ヶ原ー!!」
戦場ヶ原「……?」カツカ。クルッ
上条「よーお! どこ行くんだー?」ブンブン(手を振っている)
戦場ヶ原「……。」クルッ。カツカツカツ
上条「振り向いて人物を認識してからの無視!?」
タッタッタ(戦場ヶ原側の歩道に来ました)
上条「おい! 流石に今のはねーだろ! 」
戦場ヶ原「……。あなた誰ですか?」
上条「忘れたんかよ! 上条当麻、もう二度と言わねーぞ」
戦場ヶ原「上条当麻……、何か面白い事でも言ってるつもりかしら? むかつくわ」
上条「って、腹立ててる意味が分からないんですが!」
戦場ヶ原「むかつくわよ、何で私があなたに助けられなきゃいけないのかって未だにむかついているもの」
上条「何言ってんだよ。無事だったんだから何の問題もねーじゃんか。誰が助けたかなんてどうでもいい事だろ?」
戦場ヶ原「どうして今えなりかずきの物真似をしたの?」
上条「してねぇよ!」
89:
戦場ヶ原「それにしても分からないの? あなたは今、拒絶……いえ、無視されたのよ」
上条「やっぱ無視だったんかい、せめて返事くらいしろよ!」
戦場ヶ原「あら、返事が返って来なかったのが『返事』だとは思わなかったのかしら?」
上条「上条さんは態度より言葉で示してもらわないと分からないからなぁ」
戦場ヶ原「今の馬鹿な若者の風潮ね、人に指摘されるまで失敗を失敗だと思わない人間は楽そうで羨ましいわ。つまりは恐怖も恥も罪悪感も薄いのだから」
上条「は、はぁ」
戦場ヶ原「それに上条君、私はつくづくあなたの様な類いの人間が理解出来ないのだけれど」
上条「どういう所でせうか? 戦場ヶ原さん…」
戦場ヶ原「目の前に綺麗な女性が居たら話し掛けないと気が済まない性分なのかしら? 一度不慮の事故か思想の悩みからの自殺で死んでもらって、脳細胞をしっかり研究させてもらって、『これだ』と思う論文が完成するまで理解出来ないと思うの」
上条「お前の理解のために[ピーーー]るかよ!」
戦場ヶ原「じゃあ私に関わらない事ね。さもないと殺害…いえ、殺虫するわよ」
上条「今のは言い直す必要ねーだろ! 言い直す前の言葉もやべーけど!」
90:
戦場ヶ原「とにかく私が欲しいのは沈黙と無関心だけ。関わって来ないのならそれで良いわ」
上条「……。」
上条「…なぁ戦場ヶ原――どうしてそんなに人を避けるんだ?」キリッ
戦場ヶ原「別に人を避けてる訳じゃないわ、あなたを避けているだけよ。こっち見ないでよ気持ち悪い」
上条「……今のは傷ついた」
戦場ヶ原「そう。それは良かったわ」
上条「そこまで嫌いなんでせうか!」
戦場ヶ原「あとそれよ上条君。『せう』なんて現代の日常会話で使う人いないわ。あなた「醤油取って」も「せうゆ取って」って言い換えるのかしら? 考えただけでイライラしてくるわ」
上条「別に良いじゃねーかよ!」
戦場ヶ原「『せうゆ』でも良いのだけれど、正しくは『しやうゆ』よ。いえ、どちらを遣おうと痛い目で見られるのは確実だわ。それはそれで私にとっては好都合なのだけれど」
御坂「ん? ……アイツまた私の知らない女の子とでれでれイチャイチャしてーっ」ビリビリ
91:
戦場ヶ原「じゃあそういことで関わらないで頂戴。よろしくさん」カツカツカツ
上条「……不幸だ、散々心を傷つけられた」
御坂「ちょっとアンタ! また新しい女の子と楽しそうにお喋りなんて許せないわ」ビリビリ
上条「いっ!? ビリビリ!?」
上条「あのー? この表情のどこが楽しそうにお喋りしていた様に見えるんですか?…」
御坂「楽しくお喋りし過ぎてぐったりかしら? ムカつくのよー!!!」ビリビリビリ
上条さん「ぎゃー! 不幸だー!」
99:
――黄泉川家
一方通行「……。」zzZ
――
テテーン♪
黒子「ほねぇ?様ぁ?!」
神原「御坂ぁ?!」
御坂「アンタたちいい加減にしろーっ!!」ビリビリー
白井「あゔぅっ!? いいっ! 凄くいいですわお姉様ぁ!」ビリビリ
神原「ゔぁ゙!? 悪くない! 後輩にいたぶられるというのも悪くないな御坂!」ビリビリ
御坂「ハァ、ただでさえ黒子で手一杯なのに。まったく」
神原「そうか、わかった。そこまで聞けばもう十分だ。つまり私は脱げばいいんだな?」ヌギヌギ
御坂「脱ぐな!」
木山「じゃあ私は脱いで良いのか」ヌギヌギ
御坂「アンタも脱ぐな!」
絹旗「それにしてもあの女……」チラ
戦場ヶ原「……。」
絹旗「(く、雰囲気が麦野に超似てる気がしますね)」
――
一方通行「……ク。…スー」
一方通行「なンだよ今の夢…ン?」ムク
忍野忍「……。」スヤスヤ
一方通行「あァ? なンでお前がここにいンだよ、オイ起きろォ」ユサユサ
100:
忍野忍「う?ん。……あと五分」
一方通行「だからなンで俺の布団に潜り込んでやがンだよ、クソガキよテメェわ」ユサユサ
忍野忍「う?ん゙! ゔ?ん!」ゴロゴロ
一方通行「嫌がってンじゃねェ! 起きろォ」
忍野忍「儂はベッドで寝たかったんじゃ」ネムネム
一方通行「チッ、たくよォ」チラ
一方通行「…昼過ぎかァ。黄泉川たちは出掛けたみてェーだな」
忍野忍「ドーナツ」
一方通行「ハィハィ、その前にコーヒー飲ませろ」スタスタ
一方通行「……」ガラァ、カチャ、ゴクゴク
一方通行「ドーナツっつってもどこ行きゃーいンだよ」カタカタ(パソコン)
一方通行「あァ? 学舎の園しか出てこねェじゃねーか。あンな女くせェーとこ行けっかよ」
忍野忍「おいうぬ、儂はその学舎の園というところでドーナツを食いたいぞ」
一方通行「ンじゃ勝手に行け」
忍野忍「」
一方通行「? あァ?」
忍野忍「ドーナツ……食わしてはくれんのか?」
一方通行「はァ?」
忍野忍「い…嫌だよぉ」ウルウル
忍野忍「……ふ、ふぇぇ…、シクッシクッ、嫌だ、嫌だ、嫌だよぉ…スンッスンッ、ドーナツ食べたい、ドーナツ食べたい、ドーナツ食べたいよぉ! 食べたい食べたい食べたい! お願い、お願いします! 食べに連れていってくれたら何でもしますかぁー」ウェーン
一方通行「あー分かった分かった行きゃーいンだろ、用意しろ」
忍野忍「誘ってんのかぁ?!?」ニヤリ
一方通行「……。」イラ
101:
――学舎の園ゲート前
係員「しゃーせぇーwwwwww何か許可証とか招待状みたいなもんありやすかぁー?ww」
一方通行「『コードserori3、学園都市第一位のアクセラレータ』って伝えてくンねェか?」
係員「え? さーせんwwwwあせろられーたすっかぁ?ww」
一方通行「アクセラレータって伝えてくンねェーかな」イラ
係員「マジっスかーwwいかした名前っスねぇーwwwwあっ写真が必要なんでぇー撮らしてもらいやすよー?wwwwwwあーいいっすねーかっこいいなーwwあぃっチーズww、……あっすいやせんwwwwフィルム空でしたーwwwwwwww気を取り直してーwwあぃっ、カマンベールってぶはぁっwwwwwwwwwwおっけーですww」
一方通行「……。」イライラ
係員「wwんーじゃあ許可申請するんでーwwwwちぃーと待ってくやさいねーwwwwwwww」ピッピッ
係員『お疲れ様です。こちらゲートの田中です。許可申請の件で…はい、『コードserori3、学園都市第一位アクセラレータ』様。はい、写真は今転送しました。……はい、はい了解しました。失礼します』ピ
係員「おっっけーでやしたぁーwwwwwwwwwwどーぞぉー、あっお嬢ちゃんも行ってらっしゃいねーwwwwww」ポチ
一方通行「チッ、くっだらねェ」スタスタ
102:
係員「wwwwwwwwww」パッ
ドンッ! ピーピーピー
一方通行「痛ェ」
係員「ぶはぁwwwwwwwwwwwwすいやせんwwwwこれずっとボタン押さないと閉まっちゃうんすよぉーwwwwww」ポチ
一方通行「……。」スタスタ
103:
――学舎の園
学舎の園は、まるでヨーロッパの様な街並みだ。
西洋風のデザインに拘っているだけでなく、街の美観を保つため、外壁のペンキ色や建物の高さなどが厳しく規定されているのだろう。
そうする事によって、より実際のヨーロッパの様な街並みに近づけているのかもしれない。
そんな日本離れてした学舎の園の敷地内には、学校施設に加え居住区、それに喫茶店や洋服店といった生活に必要な店舗まで揃っている。しかも、それらは高級なものばかりである。
喫茶店にせよ、洋服店にせよ超一流で、学舎の園の中にある五つの学校も全てエリート校だ。
それらの学校に通う生徒たちは、学校が終わったらすぐ街に出掛ける者が多いようで、今日の授業が昼までだったのもあり、午後二時過ぎに関わらず街は制服を着た生徒たちで溢れかえっていた。
ただ驚く事に、街を歩いているのは女生徒のみだ。
実は学舎の園の中にある五つのエリート校は全て女子校で、俗に言う『お嬢様学校』というものだ。
必然的に街はお嬢様で溢れかえるわけだが、お嬢様と言っても、単に『資産家の娘だからお嬢様』という訳ではない。
勿論すべての者に当てはまる事ではないが、多くは『満たされた人間』なので、妙なプライドを持ったり、人を貶す様な事もしない。
教養豊かであり、周りに緊張を与えない程度に礼儀、素行も良い。
そう言ったものを、『淑女たるもの?』と教え込まれたわけでもなく、自然と学び、無意識に実行している辺りが『お嬢様』なのだろう。
むしろ一般人の貪欲さ、嫌らしさを目の当たりにしたら傷心してしまう様な女の子たちで、『美しき故に繊細』という言葉が思い浮かぶ。
そんな純粋な乙女たちには刺激が強すぎるであろう少年が、一人の女の子を連れて街を歩いていた。
104:
一方通行「(オイオイ、どいつもコイツもこっち見すぎだろォが)」スタスタ
忍野忍「♪」ワクワク
ヒソヒソ
お嬢様A「まぁ髪の毛とお肌が真っ白ですわ。何か特別な手入れをしていらっしゃるのかしら」
お嬢様B「目も真っ赤ですね。カラーコンタクトっていうの付けてるんですかね?」
お嬢様C「お化粧していらっしゃるのかしら?」
お嬢様D「あの…アレではないでしょうか? 『ヴィジュアル系バンド』というものがあると聞いた事がありますわ。なんでも男性の方たちが、お化粧をして演奏されるそうですわ」
湾内さん「まぁそのようなものがございますのね」
お嬢様E「ア゙ー!wwxy! ア゙グxゼラレータ!! z!! ぎゃー! アxグゼラー!!! こっぢ見てぇxzー!」
一方通行「(…うぜェ。それに一人、頭沸いちゃってるヤツいやがるし)」
忍野忍「おい」
一方通行「あァ? なンだよ」
忍野忍「うぬは幸せに浸ってきた人間ではないからのう…嫌いか? この街を歩いておる小娘たちは」
一方通行「幸せに浸っている人間に対しては別にどォーも思わねェーよ。不愉快なのは、人に幸せを見せびらかせて悦に入ってる奴等だァ」
忍野忍「カッカッカッ、なるほどな」
105:
――そのころ
「ど、どうしよう…迷子になっちゃった…」
と呟く彼女――千石撫子は中学三年生の女の子である。
中学二年生の時までは前髪を下まつ毛の辺りまで伸ばしていて、前髪の髪と髪の隙間から物を見ていたようなのだが、今は前髪が眉毛の辺りで丁寧に切り整えられているので、目を悪くすることはだろう。
以前は過度の羞恥心から前髪で目元を隠していたようなのだが、現在の髪型を見る限り良い方向に向かっているのだろう。
とは言え、今でも常に人前で怯え、恥じらっている姿を見ていると、彼女は対人恐怖症気味であるのが伺える。
過去に人前で失敗した事があるのか、高圧的かつ厳しい親の元で育ったのが原因なのかもしれない。
もしかすると、単に内気なだけなのかもしれないが、内気になる根本的な理由が対人恐怖症なのかもしれないので、やはり対人恐怖症の可能性が濃厚だろう。
ただ念を押して言っておくが、内気ではあるが決して真面目な女の子という訳ではない。
そんな彼女は学校そっちのけで、ここ学園都市に家族で旅行に来ていて、観光の一貫として『学舎の園』を見物していたのだが、家族とはぐれてしまったのだ。
家族全員でトイレ休憩をとることになり、先にトイレを出た彼女は指定された場所で待っていたのだが、彼女の隣に落ちていた空き缶を回収しに来た警備ロボットに対して、「自分をやっつけに来たんだ」と勘違いし、ここまで逃げて来て、気づけば迷子になっていたのだ。
106:
千石「どうしよう…早くお父さんたち見つけないと…でも、見つけたら見つけたで『どこ行ってたんだ』って叱られそうだし、どうしよう…」
忍野忍「ほう…彼奴か」
一方通行「あァ? 知り合いかなンかかァ?」
忍野忍「うむ、そういったところじゃろう。この前ドーナツを食わしてもらったし、どれ、話し掛けてみるかのう」トテトテ
一方通行「オイオイ、待て、見るからにめンどくさそうなオーラ出てンじゃねェーかよォ…って待て」
忍野忍「おい小娘」
千石「うわぁっ!? って、あれ…? 何で忍ちゃんがここにいるの?」
忍野忍「うむ、色々あってな」
千石「へ、へぇ?そうなんだ…」チラ
一方通行「……?」
千石「こここ殺さないでっ!!」
一方通行「はァ?」
千石「あ、あの、確かに撫子、お化けとか信じてなかったけど、…でも、それだけで殺されるなんて…やだよぉ!」
忍野忍「カッカッカ、安心せい小娘。此奴は霊などではない」
千石「え…? そうなんだ、良かった…ごめんなさい」
一方通行「あァ」
忍野忍「ところで小娘、こんな所で何をしておるのじゃ」
千石「うん…撫子、旅行に来てるんだけど…迷子になっちゃって」
107:
忍野忍「ほう…今度ミスタードーナツ食わしてくれると言うのなら場所だの家族だの探してやっても構わんぞ」
千石「ほ、ほんとに忍ちゃん…?」
忍野忍「構わん。交渉成立じゃ。今日の儂は気分が良い」
一方通行「オイ」
忍野忍「何じゃ小僧」
一方通行「『何じゃ』じゃねェーよ、それってオマエの利益しかねェーじゃねェーか」
千石「ダメ…かな? 目付きの悪いお兄ちゃん」
一方通行「誰が目付き悪ィだ。ってか何で服濡れてンだよ」
千石「え? そんな事ないよ?」ボタボタ
一方通行「そこまでずぶ濡れだったら、とぼけるの諦めようとか思わねェのかよ」
千石「ご、ごめんなさい」
一方通行「別に謝るこったねェだろ」
千石「あ、そ、そうだよね…ご、ごめんなさい。撫子は……そ、その……ごめんなさい」
一方通行「謝られ過ぎてこっちがこっちが申し訳ねェー」
千石「うん、申し訳ないよね、じゃあお礼は一緒に服買いに行ってくれるだけで良いよ? 目付きの悪いお兄ちゃん」
一方通行「あ? あァ… (なンっかおかしよなァ)」
忍野忍「じゃあさっさと済ましてドーナツ行くぞ」トテトテ
一方通行「オイ待て忍ゥ!」スタスタ
千石「クスクス」スタスタ
108:
――とある洋服店
店員「いらっしゃいませー」
千石「一方通行(いっぽうつうこう)のお兄ちゃん、撫子…どんな色が似合うかな?」
一方通行「白とかピンクとか水色とかが良いンじゃねェーかな」
忍野忍「ほう…白とかピンクとか水色とかか」ニヤニヤ
一方通行「チッ。千石ゥ、俺じゃーあてになンねェーオマエの好きな色にしろ」
千石「…お、お前って///」
一方通行「あァ?」
千石「……あなた」カァ
一方通行「はァ?」
千石「あなたとお前///」カァァ
一方通行「……? さっさと決めろよォ」
千石「…これにしようかな」スッ
店員「試着してみても結構ですよ」
千石「じゃ、じゃあ…」チラ
一方通行「ン?」
千石「…い、一方通行のお兄ちゃんはもう大人だから……撫子の裸を見て、いやらしい気持ちになったりは…しないよね?」
一方通行「しねェーけど閉めて着替えろよォ (『一方通行のお兄ちゃん』って道路工事の兄ちゃんみたいな響きだなァ)」
シャッ(カーテンが開く音)
千石「どうかな…、へ、変じゃないかな…?」
一方通行「良いンじゃねーの」
店員「六万九千円になります」
109:
千石「え!? そ、そんな大金持ってないよ?」
一方通行「…チッ、カードで」
千石「いいの? 一方通行のお兄ちゃん」
一方通行「あァ」
千石「ありがとうっ一方通行のお兄ちゃん」ニコ
一方通行「…あァ」
忍野忍「ドーナツ」
一方通行「ハィハィ、分かってンよ」
店員「ありがとうございましたー」
110:
――とあるカフェ
忍野忍「あ…圧巻じゃ…」モクモグ
一方通行「分かってンのかァ? オマエのドーナツ代だけで二万だからな」
忍野忍「こんな美味いドーナツが二十個も食えるとは…儂は幸せ者じゃ」
一方通行「あァ…幸せそうだな」
千石「じゃ、一方通行のお兄ちゃん、コーヒー飲もうか……コップは一つしかないんだけど」
一方通行「何でコップ一つなンだよ、あと俺喉乾いてねェーンだけど」
千石「喉乾いてなくとも、一方通行のお兄ちゃんはこのコーヒーを飲む以外ないんだよ。しかもこのコップで」
一方通行「…あー分かったよ。口触れっけどォ良いのかァ?」
千石「うん。触れないと駄目」
一方通行「?…。」ゴクゴク
111:
湾内さん「それでどうやらA組が学級閉鎖のようですわ」
お嬢様「えぇ? そうなんですか?」
千石「……学級閉鎖って、憧れる。学級崩壊と同じくらい憧れる」ボソ
一方通行「ン?」
千石「お友達って良いなぁ、撫子…あんまりお友達とかいないから」
一方通行「なンでだよ」
千石「人と話したりするの…怖いから、あと恥ずかしい」
一方通行「あァ? そこまで臆病なのに、なンで俺とは平然と話してられンだよ」
千石「初めは、ちょっと怖いと思ったけど…でも大丈夫、一方通行のお兄ちゃんは撫子のこと優しく見てくれてるから…」
忍野忍「クハハッ! 優しく見てくれとるか? 睨んでる様にしか見えんがのう」
一方通行「チッ、オマエは黙ってろ」
千石「撫子…すごく人からの目を気にするから、どういう風に見られてるか分かるの。一方通行のお兄ちゃんは一方通行のお兄ちゃんなりに、一生懸命撫子を怖がらせない様にしてくれてるのが分かるから」
忍野忍「クハハッ! 鮫肌の様な手でシャボン玉を優しく包み込もうとしとるようなものかクハハッ滑稽滑稽!」
一方通行「オイオマエ、二度とドーナツ食いに来ねぇーぞ」
112:
千石「だから…撫子は大丈……ッ、うわっぁ!!」
一方通行「あァ? なンだよ」
千石「お父さんが向こうにいる! わ、わあぁ! こんな格好して男の子と喋ってるとこお父さんに見られたら、な、撫子変態だと思われる!」アタフタアタフタ
一方通行「流石にそれはねーだろ」

千石「かか、帰るね一方通行のお兄ちゃん! 服ありがとう大切にするね! バイバイ!」バタバタ
一方通行「騒がしい野郎だし、意味分かンねェー奴だったなァ。…夕方だな、帰るか?」
忍野忍「あと一個! 頼む!」
一方通行「たくよォ、良いぜ」
119:
――とある歩道
戦場ヶ原「……。」カツカツカツ
戦場ヶ原「……。(十七時過ぎ…捗ったから早めに切り上げれたわ)」
御坂「はぁ?、何で素直になれないんだろ。素直に『お喋りしたい』って言えば良いのに、それっぽい口実をつくって喧嘩腰で関わりにいってしまうわ。いざアイツを目の前にしたら強がっちゃうのよね…私、ただの性格の悪い女にしか写ってないよね」スタスタ
御坂「そもそもアイツが私より強いからダメな…いいえ、自分の負けを認められない私がダメなのかなぁ。でも今更素直になりだしたところで受け入れてもらえ…ん?」
戦場ヶ原「……。」カツカツカツ
御坂「あの人今朝の ……」イラ
御坂「ちょっとアンタ!」
戦場ヶ原「……。」カツカツカツ
御坂「って、無視すんなー!」ダンダンダン
121:
戦場ヶ原「(クルッ) 何かしら?」
御坂「アンタ、アイツとどういう関係なのよ!」
戦場ヶ原「? あなた誰かしら。それにアイツって誰のこと? 客観を無視した話し方は止めてもらえるかしら」
御坂「私は御坂美琴、『アイツ』ってのは…その…今朝アンタが話してたアイツよ/// 言わせないでよ!」
戦場ヶ原「いきなり照れだしてキレだして…あなた更年期障害かしら? (今朝…またあの子の話題かしらまったく)」
御坂「なっ!? 私はまだ中学生よ! 誤魔化してないで質問に答えなさいよ! アンタはアイツとどういう関係なのよ!」
戦場ヶ原「あの子とは恋人以上奴隷未満よ」
御坂「こ、恋人!? 奴隷!?」
戦場ヶ原「ついさっきまでロウソクで虐待していたところよ」
御坂「ついさっきって、ロウソクって、えー!?」ウルウル
戦場ヶ原「嘘よ。実際のところ何の関係もないわ」ウフフ
御坂「変な冗談は止めてよ!」
戦場ヶ原「……あなたあの子のこと好きなのかしら?」
122:
御坂「な!? いきなり何よ」
戦場ヶ原「だから私にあの子のこと聞いてきたんじゃないのかしらね」
御坂「べ、別に私は好きとかそんなんじゃなくて、あくまで友人として気になるから聞いた訳で…」
戦場ヶ原「何そのあからさまなツンデレ。狙ってるのかしら」
御坂「つ、ツンデレ言うなー!」
戦場ヶ原「あらやだ萌えるわね」
御坂「萌えるって何よ、草や木の芽が出るって意味かしら?」
戦場ヶ原「いいえ、恋愛感情や性的欲求に近い感情が『燃え上がる』という意味よ。今時好きな人に『あなたが好きなの』なんて言っても冗談っぽく聞こえてしまうわ。これからは『あなたに萌えてるの』と言うべきよ。それとテストでも『萌える=草や木の芽が出ること』って解答したら×を付けられるわよ」(クスクス)
御坂「へぇ?勉強になるわね」フムフム
戦場ヶ原「そしてその『萌え』の一段階上を行くのが『蕩れ』よ」
御坂「ど、どういうニュアンスが含まれているのよ」ゴクッ
戦場ヶ原「気分が高まって顔の表情が明るくなる『萌え』に対し、気分が高まり過ぎて湯気が出そうなほど赤面した様を『蕩れ』と言うのよ。今のあなたは間違いなく『上条蕩れ』の状態よ」
御坂「ッ/// 上条…いや、『当麻蕩れ…』かぁ」カァァ
戦場ヶ原「そうよ、その調子よ。既に自分のものにしてるじゃない。『萌え』なんかで片付けちゃ駄目よ、『蕩れ』は興奮の度合いも恥じらいの度合いも桁違いなのだから」
御坂「でも度合いが桁違いなんて…ちょっと恥ずかしくないかしら?」
戦場ヶ原「何も恥じることはないわ。中途半端に愛してる方がよっぽど恥ずかしいわ」
123:
御坂「そうよね! ありがと、何だか素直になれそうな気がするわ」
戦場ヶ原「礼には及ばないわ。しかしあなたも苦労するわね」
御坂「どういう意味?」
戦場ヶ原「わたしの奴隷…いえ、恋人も誰にでも優しくする人だから、恋敵が多過ぎて冷や冷やしっぱなしだわ」
御坂「そこよね、アイツ誰にでも優しいし、誰にでもそれっぽい事言ったりしたりするから。本人自覚ないし。前だって『俺は御坂美琴とその周りの世界を守る』みたいなこと言ってたし。嬉しくなる前に不安になるわ」
戦場ヶ原「なるほどね (高校生の男子(性獣)がその手の自覚ないわけないわよ。[ピーーー][ピーーー][ピーーー]。)」
御坂「でもあなた…えっとまず名前は?」
戦場ヶ原「戦場ヶ原ひたぎよ」
御坂「戦場ヶ原さんね、戦場ヶ原さんはあーいうタイプの人恋人にしてるのよね?」
戦場ヶ原「えぇ」
御坂「その…どうやったら振り向いてもらえるかしら? 恋人にしたいの」
戦場ヶ原「縛りなさい」
御坂「え?」
戦場ヶ原「拉致して、縛って監禁して調教しなさい」
御坂「えぇ? でもそれって罪に問われるんじゃ」
戦場ヶ原「知ってるかしら? 恋愛は罪悪なのよ」
124:
御坂「でもいくらなんでも自分勝手すぎじゃ」
戦場ヶ原「恋愛なんてエゴイズムのぶつかり合いよ、何も躊躇うことないわ。先ずは『奪う』ことよ」
御坂「…奪う?」ゴクッ
戦場ヶ原「上条くんの自由も人権も心も奪ってやりなさい。恋敵からも上条くん自身からも『上条くん』を奪ってやりなさい…全てあなたのものよ」
御坂「全て私のもの?」
戦場ヶ原「もう下手に出る必要もないし、悩むこともないわ…ただ快楽に浸かって逝くだけよ。辛かったでしょうに」
御坂「快楽に……」
戦場ヶ原「そうよ……快楽に」
125:
――とある道端
一方通行「今日だけで随分浪費しちまったなァ」スタスタ
忍野忍「?♪」トテトテ
上条「あーもー上条さんは不幸です!」スタスタ
上条「朝はビリビリに追いかけられて学校遅刻して居残りさせられるわ、五和は急な仕事で帰っちまうわ不幸極まりないないです!」
一方通行「……。」スタスタ
金髪少女「……。」トテトテ
上条「うわぁ…不幸だ」
126:
一方通行「ン? 何見てンだ三下ァ」
上条「いや…えっと、その金髪の子はなんなのかな?って」チラ
一方通行「あァ、吸血鬼ィ」
忍野忍「うむ然様じゃ」
上条「吸血鬼って…もっとまともな冗談言えねぇのかよ」
一方通行「あァ? 何が冗談だってェ? 俺がンなくだらねェー冗談言うと思ってるンですかァ?」
上条「どう見ても金髪ロリにしか見えないんですが…」
忍野忍「何じゃ小僧、ガキ扱いするでないぞ」ムッ
上条「喋り方からして、ガキがアニメか何かの影響受けてる様にしか見えねーんだけど」
忍野忍「オイ一方通行、殺ってよいぞ」
一方通行「そうだなァ…」カチッ
上条「冗談だ冗談! 吸血鬼だな! 分かった信用する!」
127:
一方通行「チッ、こっちは今日一日意味の分かンねー奴等に振り回されて疲れてンだ。くだらねェー事で呼び止めンじゃねェーよ」スタスタ
上条「そうか。じゃあな」
忍野忍「……む?」トテトテ
上条「べろべろばぁー」ニコニコ
忍野忍「覚えておれよ小僧」イラ
上条「やっぱ一方通行ってロリ…ん」チラ
姫神「……。」クイックイッ(手招き)
上条「姫神? 物陰から手招きって怪しすぎんだろ…」
129:
上条「どーしたんだ姫神」
姫神「さっきの金髪の女の子は?」
上条「あぁ、知り合いの知り合いってとこだな」
姫神「…あの子。吸血鬼」
上条「お前まで意味の分かんねーことを」
姫神「限りなく妖気や存在は薄いけど…吸血鬼には間違いない」
上条「おい、マジで吸血鬼なのか? だとしたらあの子にとってお前の存在って危ないんじゃないのか?」
姫神「大丈夫。これ」ジャラ
上条「……胸?」ムラ
姫神「……。」キッ
上条「すみませんでした。その十字架か」
姫神「そう。シスターから貰ったやつ。これを身に付けてる限り私の能力は無効化される。だから吸血鬼も寄ってこない。だから大丈夫」
上条「インデックスもたまには役に立つんだな」
姫神「て言うか。それが霧ヶ丘女学院から今の高校に転入してきた理由。この十字架の力で能力が無効化されて『何もない人間』になったから (もう一つ理由があるけど)」
上条「そうだったのか」
姫神「普通。転入して来たその日に『何で転入して来たの?』って聞くよね?」
上条「あの日は何かと面倒な事があったからな?」
姫神「やっぱ私、影薄いのかな…」
上条「ど、どうでしょうね??」
姫神「軽い感じで『そんなことない』って否定出来ないのね…」
上条「ははは…」
姫神「じゃあ私は用事があるから」スタスタ
上条「おう、気をつけてな」
130:
上条「さ?て、じゃあ上条さんも帰る…がッ!?」ドサッ
御坂「やってしまったわ。もうあと戻りは出来ないわ」
上条「……びり…び…り?」
御坂「!?」
ドカッ☆ドスッ☆パンッ☆
上条「……。」ガク
御坂「キャハハハハハハハハハハッ!」
131:
――とあるホテルの一室
上条「…ん、う?ん? 何処だここ? 一方通行と話してて…思い出せねー。ん? なんだこの格好!? しかも手が動かないぞ」ジャラ
御坂「何処って、女王御坂の部屋よ」
上条「はぁ? ってビリビリ!? 何でお前…とにかく手錠外せよ!」ジャラジャラ
御坂「御坂様って呼べやゴルァ!!!」ベシィッ(鞭)
上条「痛っっでぇっ!!!!? 何すんだよ!!」
御坂「敬語使えやゴルァ!!!!」パンパンパンパシーン
上条「ぎゃあああああああああああ!!!!?」
御坂「良いかしら? ここは御坂様のお部屋よ? アンタはここの酸素を頂けるだけでも有り難いと思うべきなのよ」
上条「分かりました御坂様、どうしてこんな状況になっているのか説明して頂けませんでしょうか?」
132:
御坂「そうね」スッ
上条「れ? (俺の舌を?)」
御坂「アンタに質問する権利なんてないのよ。アンタは謂わば人間の顔した醜い畜生なのよ」
上条「れにいみわかんれーこと (なに意味分かんねーこと)」
御坂「喋るな畜生が」カチッ(ライター)
ジュッ
上条「!!!? あ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!あ゙ぁ?あ゛?」
御坂「牛タン♪牛タン♪ 嬉しそうじゃない?そんな声出して?」
上条「……。」
御坂「アンタ、高が電撃効かないだけで図に乗ってんじゃないわよ、アンタは私より下の人間よ!分かったわね」
上条「水…飲ましてくれませんか?」
御坂「仕方ないわね」ゴト
上条「いや、ビールじゃなくて水を」
パカーン☆
上条「ぎゃああああああああ!?」
御坂「アハハ! アンタはまだ未成年じゃない。代わりにそのクソみてぇーな額から出てるスポーツドリンク飲んでなさい! 水分は失うけど喉は潤うでしょ?キャハハ。アンタは私より下位の存在なんだからこのゾウリムシが」
上条「……。」
133:
上条「み…水を」
御坂「死んじゃったら意味ないわね。飲みなさいよ」ボトボト
上条「目の前で流すなんて! 頼みますよ?」
御坂「は? 精一杯その汚い舌を伸ばせば、このペットボトルという名の滝から流れる水に触れられるでしょ?」ホラホラ
上条「……っ」レーレー…ピチャピチャ
御坂「アハハ! 惨め惨め、水飲みたいからって普通そこまでやるもんなのー? 人間って面白いわね」アハハ
上条「それと手錠を外してください。トイレのに行くだけですから」
御坂「ふ?ん」ゲシゲシ
上条「下腹蹴らないでくれぇ?…」
御坂「あーあ、恥ずかしい恥ずかしい…私もアンタから日々それくらいの辱しめを受けてたのよ…そんなアンタも呆気ないわね?、痛みを知って優しくなりなさいこの小便小僧」
上条「辱しめ?」
御坂「そうよ。会う度、会う度恥ずかしい思いさせて。私はアンタが好きなのよ」
上条「……。」
御坂「アンタはそれに見向きもしないし、ポンポン恋敵作るしさ。こうするしかなかったのよ」
上条「……ざけんな」
御坂「え?」
上条「ふざけんな!!」
135:
上条「……好きなんだろ? だったら何でもっと正面切って相手に向き合わねーんだよ! お前が求めていたリアルってのはそんなものだったのかよ? 今の俺のこの姿だったのかよ? 乳首を洗濯鋏で摘ままれて、パンツ一丁で小便漏らして、M字開脚で固定されて、意味もなくシャンプーハットを被らされて……結局そんなのはお前が『たった一つの恋愛』のために…全てを賭ける勇気がなかった結果じゃねーのかよ!! 今の俺は確かに情けねーよ、お前という圧倒的な女王様の前にひれ伏してるだけだよ!でもなぁこれだけはこの命が尽きてでも言わしてもらうけどな、大切なのはお前のその心なんだよ! 振り向いてもらってからが恋じゃねー、たとえ振り向いてもらえなくても――てめぇのその胸が高鳴ったその瞬間…初めてこの世の中が素晴らしいものに見えたその瞬間から恋は始まってんだよ!!! 『御坂美琴』っていう輝く光を見失ってんじゃねーよ…お前はお前でいれば良いんだよ! 不器用な御坂美琴も人のために心を痛ませれる御坂美琴も…全部素晴らしいんだよ! いつまでも胸を張って、全て誇れる御坂美琴になれねーって言うんだったら――まずはそのふざけた幻想をブチ殺 す!!!!」
御坂「わ、私…間違えていたわ」ペタン
上条「……ったく、なんつーか不幸だぜ」
149:
――とある歩道
忍野忍「何じゃあの小僧! 儂を子供扱いしおって!」プンプン
一方通行「……。」スタスタ
忍野忍「おい、黙っておらんで何か言葉を掛けて儂の機嫌を取らぬか! もやし小僧!」
一方通行「あァーはいはい、オマエはガキじゃねェーよ」
忍野忍「つまらんつまらん。馬鹿にしとるのか!」
一方通行「オマエ、そこまで過剰に反応するっつー事は気にしてンだなァ」
忍野忍「しとらん! 全くもってしとらん! だがこの街を滅ぼしたいほど腹が立っておるのじゃ!」
一方通行「(くっだらねェ) あァそうですかァ。ンじゃご自由に」
忍野忍「ほう……先ずはうぬの家から滅ぼすかのう」
一方通行「はァ? 追い出されんぞオマエ」
150:
「――超ウケる」
一方通行と忍が歩く歩道の側にあるビルの屋上で、白い学生服――いわゆる『白ラン』を着た少年が呟く。
「おいおい、ドラマツルギーの旦那が言ってた通り――あの吸血鬼生きてんじゃねーかよ。超ウケるわ」
歩道を歩いている忍を、洒落にならないほど鋭い目付きで睨めつけている彼――エピソード。
一度は忍を瀕死の状態まで追いやった――優秀な吸血鬼ハンターの一人だ。
まだ『少年』と呼べる風貌なのだが、『少年』という言葉を聞いたからといって、決して油断してはならない。
常に殺気漂わせる三白眼が特徴的で、華奢な体格をしているのにも関わらず、体の三倍はあろうかという巨大な十字架を片手で肩に担いでいる。
その十字架を見る限り、着ている白ランは修道服を意識したものだろうか?
吸血鬼と人間の狭間である彼は、『ヴァンパイアハーフ』と呼ばれている存在で、人間に対しては軽侮、吸血鬼に対しては憎悪の念を抱いている。
その吸血鬼に対しての感情こそが――吸血鬼ハンターという仕事の原動力なのである。
今までしてきた憎みを交えた仕事――その中の一つに、『ハートアンダーブレード殺害』というものがあった。
彼も含めて三人で行う仕事だったが、『怪異の王』に対して、たった三人じゃ殺害不可能だと考えていた。
しかし――何故か心臓を失っていたハートアンダーブレードは自己再生出来ず、追い込まれた挙句、四枝まで奪われたのだが、間一髪のところで逃げた。
その後、『交渉人』と名乗る中年に交渉を持ちかけられ、交渉の過程でハートアンダーブレードの眷属として生まれ変わった少年と戦い、結果としては敗れたのだが――交渉通りなら目線の先にハートアンダーブレードはいないはず。
「――超ウケる。『絞りカス』だの、『存在が消えた』だの聞いてたけどよ――ピンピンしてんじゃねーか。そもそもハートアンダーブレードの死が『交渉条件』だったろ。あのアロハ野郎……ハメやがったな」
「まぁ見た感じ殆ど力も残ってないみてーだし、一旦帰って、ドラマツルギーの旦那と計画立ててから駆除するとするかな。今回は絶対だ」
エピソードはそう呟いた後――その場から消えた。
151:
――黄泉川家
一方通行「ふゥー」ガチャ
ドタドタドタ!
一方通行「あァ?」
打ち止め「おっ帰りなさいーってミサカはミサカはあなたにダーイブ!!」ダキッ、ギュー
一方通行「テメェ、コラァ! 放しやがれ打ち止めァ」
忍野忍「ほうほう、幸せそうな顔しとるのう……うぬ」
打ち止め「放れないもーんってミサカはミサカはしがみついてみたり!」ギュウウ
一方通行「疲れてンだァ! 放しやがれェ」
打ち止め「うぅ、今日半日も相手してくれなかったんだよってミサカはミサカはぁ?」ウェーン
一方通行「チッ、ンじゃあ好きにしろ」
忍野忍「ほぅ」ニャニャ
一方通行「オマエも見てンじゃねェーよ」スタスタ
芳川「帰ったのね、一方通行」
一方通行「あァ」
152:
芳川「それより何て様なのかしら。一日中小さな女の子とイチャイチャデートして、帰ってきたかと思えば違う小さな女の子と戯れて……これ以上言えないわ。私甘いから」
一方通行「オマエ最近、その『私甘いから』って言葉に甘えてねェーか」イラ
芳川「そうね。ほら、私甘いから、強いんじゃな――」
一方通行「はいはい、『強いんじゃなくて甘いから』だろ」
芳川「……、強いんじゃなくて甘いから。『なるべく努力はしてるつもり』よ。……甘いのはあなたの方じゃないかしら? 一方通行」
一方通行「チッ。くっだらねェ」スタスタ ゴロ
打ち止め「ねぇねぇ、明日ミサカは公園で出来た友達たちと遊ぶんだーってミサカはミサカは嬉しさ余って自慢してみたり!」
一方通行「そォか (明日は一日中寝るか)」
打ち止め「うぅ。リアクション薄いなー、倦怠期かしらってミサカはミサカは団地妻っぽく呟いてみる」
一方通行「ヨシカワァ!! またクソガキがおかしな事言ってンぞ! まだ昼ドラ観せてンじゃねェーだろなァ?」
芳川「なるべく観せない努力はしてる。だけど私甘いから…ねだられてDVDまで買っちゃったの」
一方通行「意味ねェーつーか、悪化してンじゃねェーか!」ガミガミ
打ち止め「ねぇねぇ、明日忍ちゃんも一緒に遊びに行かない? ってミサカはミサカは誘ってみたり!」
忍野忍「儂はよい」
打ち止め「そっかーってミサカはミサカはしょんぼりしてみたり」
一方通行「忍ゥ、オマエ明日クソガキと遊びに行って来い!」
忍野忍「儂は明日、一日中寝とるつもりじゃ」
一方通行「あァ、そうか (ッたくよォ、またコイツと一緒かよ)」
153:
――とある廃ビル
「――なぁ? 超ウケんだろ? ドラマツルギーの旦那」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
「おいおいドラマツルギーの旦那、『現地の仕事は現地の言葉で』が基本だぜ?」
「あぁ、そうだったな。基本を疎かにしてはいかんな」
白ランを着た少年――エピソードから、『ドラマツルギー』と呼ばれている男は、流暢な日本語で返答した。
エピソードは、人間と言っても違和感がないのだが、ドラマツルギーという男は、どう見ても人間とは言えないだろう。
長髪を携え、伸びきった前髪をカチューシャでかきあげているのだが、とてもお洒落でしているようには見えない。
服装も、Tシャツにジーンズとラフな格好だ。
まぁ、この辺りまでは人間っぽい。
具体的に人間離れしているのは――体格だ。
背丈は二メートル程あり、筋骨隆々で、腕周りは優に百五十センチ程はあるだろうし、太股は寝袋のように図太い。
まるで大木のようなその男だ。
そんな彼は、純粋な吸血鬼であり、エピソードと同業者――つまり吸血鬼ハンターだ。
吸血鬼にして吸血鬼ハンターと聞くと、矛盾や違和感があるように思うが、単純に吸血鬼の世界の『殺し屋』と考えれば良いだろう。
人間界の殺し屋も、人でありながら人を[ピーーー]――そう考えると解釈しやすいだろう。
彼も以前――忍を瀕死の状態まで追いやった一人であり、忍の右脚を奪った者である。
戦闘時は、身体の一部を変化させて生み出した二本の大剣を使うため――切断された忍の右脚の断面は、鋭利な形状だったようだ。
そして今――そのドラマツルギーとエピソードが話しているのが、『以前の仕事(出来事)』についてである。
155:
「――実は、稀にハートアンダーブレードの力を感じる時があった」
ドラマツルギーは厳しい表情でそう言った。
「感じる程の力なんて残ってるか? 今日街中で見掛けた時は、『元怪異の王』と言えど、瞬殺出来るくれぇ弱体化してたぞ? マジで搾りカスみたいなもんじゃねーか。超ウケる」
エピソードが今日の出来事について話す。
「恐らく普段は力を発揮してない……いや、発揮出来ないのだろう。発揮するには、何かきっかけが必要なのかもしれんな。少し前に力を感じた時は――以前のハートアンダーブレード程ではないが、なかなかの力があった」
ドラマツルギーはエピソードに、油断はするな と念を押して言う。
「油断はしてねー。まぁ――[ピーーー]のは今のうちかもしんねーから、さっさと殺っちまった方が良いぜ。また復活なんてされたら手に負えねー」
エピソードの言葉にドラマツルギーも頷いた。
「明日、俺が動くわ――多少汚ねー事考えるかもしんねーけど、ウケんなよ?」
こうして学園都市の夜は更けていった。
156:
――黄泉川家
一方通行「……。」zzZ
――
テテーン♪
――
一方通行「――ッ!!」バッ
一方通行「……クー、だからなンだよ。あの夢ェ……ン?」
忍野忍「……。」スースー
一方通行「たくよォ。クソガキは遊びに行ったか……ンじゃ、もうちょい寝るかァ――」
――ッ!
一方通行! 早く起きるじゃん!
一方通行「……あァ?」
黄泉川「一方通行! 大変じゃん! 打ち止めが変な奴に連れ去られたじゃん!!」
一方通行「はァ? 何わけ分っかンねェこと言ってンだよ」
黄泉川「とにかく起きるじゃん!!」
打ち止めの友達「……スンッスンッ、シクシク」
一方通行「……ッ! ヨミカワァ――詳しく話聞かせろォ」
157:
忍野忍「……なンじゃ朝っぱらから騒がしい」ムク
黄泉川「もう夕方じゃんよ! 一方通行、犯人の特徴は――バカでっかい十字架を背負ってて、白い学ランを着た細身の少年じゃん! 霧のように消えたりするらしく、能力者の可能性が高いからデータバンクで検索したんだけど、そんな奴いないじゃん! この街の人間じゃないかもしれないじゃん!」
忍野忍「む?」
一方通行「忍ゥ、オマエなンか知ってンのか?」
忍野忍「うむ……まさかとは思うが、知っとる男と特徴が合致し過ぎておる」
一方通行「何でも良い、とっとと話せェ!」
158:
忍野忍「一方通行、儂がうぬに初めて会った時、『殺されかけた事がある』と言っておったのを覚えておるか?」
一方通行「あァ……ってオイ、まさかソイツじゃねェーだろうな?」
忍野忍「下手すると『そいつ等』かもしれん」
一方通行「チッ、どういう奴等になンだよ」
忍野忍「吸血鬼ハンター……儂等のような吸血鬼を狩る奴等じゃ」
一方通行「吸血鬼ハンターだァ? 何でそンな奴等に打ち止めが拐われンだよ」
忍野忍「詳しい事は分からん。だが仮に其奴だったとしたら、儂に用があるのかもしれん」
黄泉川「お、おい! さっきから何意味の分からない事話してんじゃん?」
一方通行「ヨミカワァ、とりあえず俺は打ち止めを拐ったヤローを探し出す」
黄泉川「あぁ、了解じゃん! こっちもこっちでやる事があるじゃん! まず打ち止めの友達を帰すじゃん!」タッタッタッ
忍野忍「一方通行、念のため儂も連れて行くがよい。もし其奴だったとしたら他人事ではないからのう」
一方通行「あァ、勝手にしやがれェ」ダッ
159:
――とある廃墟ビル
ドラマツルギー「おいおい、一般人を巻き込むとは手荒な真似ををしたな――エピソード」
エピソード「ハートアンダーブレードが既に一般人と繋がってたんだから仕方ねーよ。ハートアンダーブレードと付き添ってた銀髪は、相当扱いにくい野郎らしーし、話しても聞かねーだろ。わざわざお話も面倒だ。そう考えると多少手荒であっても、この方法が一番楽で確実だしな」
打ち止め「うぅ、こんな事したらあの人がやっつけに来るんだからって……ミサカはミサカはぁ……」シクシク
ドラマツルギー「安心しろ、お前に危害は加えない。ハートアンダーブレードと関わっている少年を誘き出すためのエサにしているだけだ」
エピソード「つっても、こんな廃墟ビルなかなか見つけらんねーだろうな。俺等から出向く方が早くね?」
ドラマツルギー「ふむ、そうするか――」
160:
――とある裏路地
「――チッ、見つかンねェ!」
夜の真っ暗な裏路地に、一方通行の声が響き渡る。
「ふむ、奴は基本的に気配を消しとるから儂にも分からんのう」
少々感情的になっている一方通行とは対照的に、忍は冷静な口調で言う。
何処に隠れてやがンだァ! と声を荒らげる一方通行の後ろから、女の子の声が聞こえてきた。
「一方通行、ここに居たんですね、とミサカは息を切らしながら話し掛けます」
その機械的な口調の女の子――御坂妹は、レールガン御坂美琴から提供されたDNAマップをもとに製造されたクローンだ。
「――オマエかよ。……ッ! オイ、ミサカネットワークで打ち止めの現在地とか分かんねェか?」
一方通行は何かを閃いたかのように、御坂妹に問う。
「その件であなたにお話があります、とミサカは深刻な顔で現状を伝えます」
御坂妹の返答を聞いた一方通行は、スッと黙る。
既に話を聞く体勢を整え、御坂妹の言葉を待っているようだ。
161:
「この動画を観てください、とミサカはミサカネットワークを通じて上位個体から送信されてきた動画を再生します」
御坂妹はそう言いながら、頭部に引っ掛けていた軍用ゴーグルを下ろす。
その軍用ゴーグルから動画が流れてきた。
「――うぅ、こんな事したらあの人がやっつけに来るんだからって……ミサカはミサカはぁ……」
「――安心しろ、お前に危害は加えない。ハートアンダーブレードと関わっている少年を誘き出すためのエサにしているだけだ」
「――つっても、こんな廃墟ビルなかなか見つけらんねーだろうな」
「……うむ、間違いない。やはり儂が言うておった吸血鬼ハンターの奴等じゃ」
動画再生が終了すると同時に、忍が口を開いた。
その忍の言葉に対して、そうかァ と呟いた一方通行は、意外と冷静でいるように見えたが、見る見る感情を露にしながら、言葉を続ける。
「打ち止めをエサに俺を誘き寄せるだァ? 上等じゃねェーかよ……お望み通りぶっ殺 しに出向かってやるよォ!」
「――その必要はない」
一方通行の怒りに割り込むように、野太い声が聞こえてきた。
162:
「あ゙ァン!?」
一方通行が振り向いた先には、筋骨隆々の大男と巨大な十字架を担いだ少年、そして――打ち止めが立っていた。
大男は続けて言った。
「何故なら私たちが出向いたからだ」
厳しい表情をする大男とは対照的に、十字架を背負った少年はヘラヘラした表情で挑発する。
「――超ウケる。予想以上にブチギレてんじゃねーか。目まで真っ赤だぜ?」
一方通行は、オイオイ と一旦区切った後、吸血鬼ハンターたちに言葉を浴びせる。
「……お前等かァ? 素敵で愉快なパーティーに招待してくれたクズってのはァ……わざわざ迎えに来てくれンなンて大サービスだなァ。ンじゃ、さっさと下に転がってる鉄パイプをケツの穴に突っ込んで背中に乗せろやァ――特にそこの白ラン小僧ォ」
一方通行は目を見開き、不気味に笑いながら挑発する。
ドラマツルギーは動じないが、エピソードの方は血管がブチブチ鳴っている。
163:
エピソードは、打ち止めの頭を鷲掴みにして一方通行に言い放つ。
「交渉だ! このガキを返す代わりに、そっちに居る吸血鬼をこっちに寄越せ――さもねーとお前等全員死ぬことになんぜ?」
「なンだァ? その溝鼠みてェな汚ェ精神と、ウジ虫が湧いちまってる脳ミソによって考え出された交渉はァ?」
一方通行はそう言い捨てた後、ドン! と地面踏んだ。
その瞬間――エピソードと打ち止めの間に地割れが起こった。
エピソード側の地面だけ盛り上がり、エピソードの手は強制的に打ち止めの頭から離される。
「……超ウケる! お前何者だよ?」
二メートル近く盛り上がった地面のてっぺんから、見下ろすような形でエピソードが一方通行に問う。
一方通行は、俺かァ? と笑い、続けて言った。
「俺は一部のクソガキ共が愛して止まねェ――クソッたれ悪党だァ」
177:
――
午後九時、学園都市は夕日も沈み、夜の街へと変わっていた。
街は車も人通りもなく、恐怖を感じてしまう程静まり返っている。
そんな夜の街を一望出来る高層マンションの一室、バルコニーの手すりに頬杖を付きながら一方通行は呟く。
「あと二時間かァ」
生温い夜風を浴びながら、昨夜の出来事を思い出す。
自分が地割れを起こした後、白ランを着た少年の後方に立っていた大男は、「手荒な真似をして悪かったな」 と打ち止めをこちらに返し、徐々に姿を霞めながら自分たちに告げた。
「――誤算だ、今日は引き上げる事にしよう。……明日の午後十一時、とある高校の運動場に来い。一応言っておくが、逃げても無駄だぞ」
そう言い終わる頃には、大男と白ランを着た少年の姿はその場から消えていた。
「――奴等は身体を霧にすることによって姿を消せるのじゃ。移動する際、よく使いおるぞ」
後方から、舌足らずな幼い女の子の声が聞こえてきた。
「甘ったりィ」
声が聞こえた方を振り向きながら、話の内容より、実は前々から気になっていた声質に対して返事をする。
「む? 何のことじゃ?」
今更いきなり声質に対して指摘したのだから、案の定、後ろの女の子はさっぱり意味が分からないといった表情でこちらに問う。
「初めて会った時から思ってたけどよォ……オマエのその甘ったりィ声と口調合ってないンだよなァ」
その言葉を聞いた女の子は、むぅっ とする。
「儂は今この姿だから話しにくいだけじゃ。それに、うぬの方もおかしな話し方をしおる」
「……オイ忍ゥ、その姿でどーやって戦うつもりなンだよ」
忍の反論を無視して、飽きれ気味に問いかける。
彼女は、「ちょっと待っておれ」と言い残し、トタトタと台所に向かっていった。
178:
「クックックッ……どれ、小僧を驚かせてやるかのう」
そう言って、忍はパックのようなものに入った赤い液体をチューチュー吸い始めた。
その赤い液体とは――阿良々木暦の血液だ。
実は彼女は約1ヶ月分の食料として、阿良々木の血液が入った血液パックを隠し持っていたのだ。
阿良々木の血液中には微量だが、『伝説の吸血鬼の血』が混ざっている。
常温のまま保存しても二ヶ月近くはもつのだ。
「やはり直に吸うのと比べて多少風味は落ちておるが……美味いのう」
そう言いながら、1ヶ月分の血液を一気に飲み干した。
飲み干した直後、気分は向上し、身体中を快感とエネルギーが駆け巡る。
「ハァハァ……ッ、この感覚、久し振りじゃのう」
そこには――小さな女の子の声も姿もなかった。
忍は再び一方通行の居るバルコニーへと向かう。そして、夜風を浴びている一方通行に話しかける。
「儂は今、興奮しておるぞ」
一方通行は、「はァ? 誰だァ」 と声がする方を振り返り、二秒ほど停止してから口を開いた。
「……あァ? オマエ、忍か?」
「ふむ、然様じゃ」
179:
「ハッ! マジかよ」
目の前には、十七歳くらいになった忍が立っていた。
信じられない程大人っぽくなっている。
顔が成長したのも大きいが、軽くメイクを施しているようだ。
マスカラによってクルッと上がった睫毛が印象的で、まばたきをする度に、パチッパチッ と効果音が聞こえてきそうな程華やかな目元だ。
相変わらず小ぶりな唇は、赤い口紅で彩られていて色っぽいのだが、まだ幼さを帯びた頬を見ていると、少し背伸びしたのだろかと愛しく思ってしまう。
前髪はおでこが隠れるくらいの長さで、後ろ髪は腰骨辺りまで伸びており、後ろと横に鋭く跳ね上がっているのが分かる。
しかし、これらは後から脳に入ってきた情報だ。
真っ先に脳に入ってきた情報は『胸』だ。
初めに胸に目が言ってしまったので、全く違う人物かと思った。
胸元が開いた赤いドレスを着ていたので、圧倒的に白い胸が目立つ。
かと言って、たくましい体格に見えるわけではない。それは、細身と長身によってバランスが取られているからだろう。
これだけ派手なルックスをしているのだから、光沢のある真っ赤なドレスもよく似合っている。
180:
「おいおい、あれですかァ? これから舞踏会にでも行くつもりなンですかァ?」
「ふんっ、儂は元々は貴族の娘じゃ。貧乏人が着るような服には袖を通さん」
「あっそォ。で? 何をどうやって、ンな劇的に姿変れンだよ」
正直服装はどうでも良かった。一番の疑問を投げかける。
「うむ、我主様の血を飲んだからじゃ」
「あァ? その主様ってのは今来てンのか?」
「いや、パックに摘めて持ってきたんじゃよ」
パックというのは、『血液パック』の事だろうか?
「オマエ、ンなもン持ってたっけ? つーかオマエと会って数日経ってンぞ。飲ンで大丈夫なのかよ」
「ワンピースの下に忍ばせておったのじゃよ。それと、儂の主様も吸血鬼の血を宿す者じゃ、吸血鬼の血は人間の血のように脆いものじゃないわ」
「はァ? オマエの主様ってのも吸血鬼なのかよ」 と問いかけようとしたが、忍が急に真剣な表情をしたので、言葉を待つことにした。
181:
「……うぬが挑発しておった十字架を担いだ男――彼奴の名はエピソード。ヴァンパイアハーフと呼ばれておる生き物じゃ」
「ヴァンパイアハーフゥ?」
「うむ。吸血鬼としての弱点がなく、純粋な吸血鬼程ではないが、吸血鬼としてのスキルを兼ね備えておる。恐らくうぬは――彼奴と戦う事になるじゃろう」
「そうかァ。望むところだァ……あの白ラン野郎ォ」
珍しく戦闘に対して興味を湧かせている自分に気づく。
人間と違う存在……いや、人間より上位の存在と呼ばれている者が相手だからだろうか。
戦慄すべきところだろうが、胸が弾む。
「言っておくが、吸血鬼の血を宿す者に『人間の常識』は通用せんぞ」
「ハッ! この街の人間はよォ、その『人間の常識』を捨てて、『自分だけの常識 (現実)』ってのを手に入れる事に必死になってンだァ。その頂点が――この俺だ」
「フッ、そうじゃったのう」
忍は安心ではなく、信用の表情をした。
そして続けるように、「ところでうぬ」 と何かを言いかけたが、「いや、何でもない」 と言うのをやめた。
それから長い無言の時間が過ぎ、再び忍が口を開いた。
「……うぬ、覚悟は出来ておるな」
何の? と聞くまでもない。
忍と『戦場』へと向かった。
182:
――
第7学区――とある高校。
ここは上条当麻が通う高校であり、都市内でもあまりレベルの高くない学校だ。
通う生徒の多くは無能力者で、能力開発に長けているわけでもなく、スポーツが盛んなわけでもなく、学園都市には珍しい『普通の高校』だ。
生徒数も数百名程度で、入学希望者が少ない不人気校である。
そんな平凡な高校の広い運動場で、非凡な争いが行われる。
運動場の中心に立つ者たち――
ドラマツルギー。
エピソード。
忍野忍。
一方通行。
今宵、彼等は殺し合うのだ。
話し合ったわけでもなく、ドラマツルギーと忍、エピソードと一方通行が向き合う。
………………。
皆、何を考えているのか分からない。ただ沈黙の中で空気が張りつめてゆく。
183:
その緊張を容易く、ピンッ と弾くようにドラマツルギーが口を開いた。
「ハートアンダーブレード、随分臨戦態勢だな」
「当たり前じゃ」
忍は、フンッ と威張りながら答える。
正直、その可愛らしい顔のせいで様になっていないのだが。
ドラマツルギーは何故そこまで復活しているかは問わず、更に口を動かす。
「しかし、以前に比べて不完全な状態じゃないか。私と同等といったところか」
「良いハンデになるじゃろう」
忍は、ドラマツルギーを見下すように笑う。
「今まで圧倒的なスキル――特に再生能力に頼りっぱなしだったお前に、この戦いでの勝算など無いぞ」
「カッカッカ、面白い、久々に本気で争う事が出来るのう。じゃが儂とうぬでは、元の出来が違うわい」
対照的な二人……ドラマツルギーはいつも淡々としていて、忍はどこまでも高圧的だ。
「――では、狩りを始めるか」
そう言って、ドラマツルギーは手を変化させる。
その両手には、波打つデザインを持つ大剣――フランベルジュが握られた。
――フランベルジュ。
フランス語で「火炎の形」を表す。
その名の通り、火柱のような波状になった切刃をしている。
その特殊な刀身が肉を引き裂き、縫合はおろか止血すら困難にするため、非常に殺傷能力が高いと言われている剣。
――それに続いて忍も手を変化させる。
ドラマツルギーが『洋』なら、忍は『和』。
手に握られたのは一本の日本刀。
二メートルクラスのの大太刀――心渡。
二人は、一方通行とエピソードから百メートル程離れた所まで物凄いさで移動し、互いの刃を交え始めた。
184:
――ガチーンッ! と、壮絶な音を音を立ててぶつかり合った二つのは刃は、ギ、ギィィイインーッ! っと滑りながら音を響かせ、互いの刀身を傷つけようとし合う。
そして間が空いたと思えばまた、ガチーンッ! カンッ! カンッ! ガチーン! と激しくぶつかり合う。
音だけ聞いていると、単に互いの力試しのために刀と刀をぶつけ合って音を響かせているのだろうかと思うが、それは結果の話。
実際は忍もドラマツルギーも、一秒でも早く相手の体を斬り抜こうとしている。
響き合うのは、生死を賭けた攻守の音――殺し合いの過程で響き合う妖刀同士の叫びなのだ。
互いは闘いの中で『楽しむ事』が目的ではなく、『[ピーーー]事』が目的なのだから、緊張は計り知れないものだろう。
ドラマツルギーにとっては、弱体化したとは言え『元伝説の吸血鬼』との闘い。
忍にとっては、再生能力とスキル、そして心渡の精度までが未熟な状態での闘い。
言葉を交わし合うような余裕など皆無なのだ。
185:
「――超ウケんだけど」
忍とドラマツルギーの死闘を見物しながら、十字架を担いだ少年は口を開く。
向こうで行われている戦いとは対照的に、一方通行とエピソードは戦いすら始めていない。
「随分余裕だな白ラン野郎ォ」
一方通行の言葉にエピソードは答える。
「人間なんてゴミは俺の敵じゃねーっての。特に白髪で杖ついてるババアみてーな奴は論外だろ」
「ハッ、吸血鬼と人間の中間にいる『オカマ』が何気取ってやがンだか」
一方通行は、カチッと、電極のスイッチを入れる。
「なるほど……ハートアンダーブレードから俺の話は聞いてるってか?」
「あァ、吸血鬼にも人間にもなれねェー出来損ない野郎ってなァ」
ブチッ という音が聞こえたが、エピソードは表情を変えず話を続ける。
「まぁお前は『吸血鬼狩り』にあんまり関係のない人間だからなー、後遺症が残らない程度に殺してやるよ――って、何だよあれ?」
一方通行は、あァ? と後ろを振り返る――フリをして、地面を蹴って夜空へと飛び上がった。
その瞬間、一方通行が立っていた場所を――巨大な十字架が通過していった。
186:
「超ウケる。笑わせてくれんな? 超人ババアが」
エピソードは冗談交じりでそう言うが、今の行動は冗談では済まない。
一方通行の注意を逸らした瞬間、担いでいた巨大な十字架を一方通行目掛けてブン投げたのだ。
例え人間であっても油断しない。むしろ人間であろうと、油断させて楽に仕事を終わらせるのがエピソードだ。
「ギャ゙ハハァッ!? ……愉快で素敵な事かましてくれやがりますねェ、一昔前のボンボンみてェーな格好しやがってよォ! アレですかァ? めぞん一刻のファンだったりするンですかァー?」
空から軽いタッチで着地した一方通行は、エピソードに罵声を浴びせる。
「ちょっと脚力があるだけでその威張り様かよ。超ウケんだけど」
そう言いながら、エピソードは十字架が転がっている方向を見る。
十字架は地に大きな爪痕を残して止まっている。
187:
「まぁ、精々好きなだけ吠えてろ。お前が死ぬのは時間の問題だからよ」
エピソードは霧になり、十字架のすぐ傍へと移動する。
そして、十字架を持ち上げ、また一方通行目掛けて投げつける。
投げられた十字架は物凄い度で一方通行に向かっていくのだが、何故か一方通行はピクリとも動かない。
「超ウケる! 人間って鈍いよな」
十字架が一方通行に直撃した――と思った瞬間、ピッチャー返しのようにエピソードの元へ返ってきた。
しかも、尋常じゃないさで。
「なっ!? おい!」
エピソードは霧になり、ギリギリのところで交わす。
「ヒャハヘェッ!! 無様無様ァ……無様だなオカマ野郎ォ! テメェの攻撃ってのは、そんなショボいもンしかないンですかァ?」
地面に突き刺さるような形で十字架が止まった後、一方通行は狂気的に笑う。
エピソードは霧のまま十字架の元へと移動し、地面から引き抜いて、また一方通行目掛けて投げつける。
「だからよォ、効かねーつってンだろ?」
一方通行は向かってきた十字架を拳でブン殴る。その瞬間、十字架は轟音と共に粉々に砕け散った。
188:
「(な!? なんて馬鹿力してやがんだ、くそババア)」
エピソードは驚愕しながら、本当に生身の人間なのか? と疑う。
「呆気ねェーな、つまんねェよオマエ」
一方通行は呆れた顔でエピソードを見る。
そのエピソードの表情からは、余裕が消えている。
「なぁ、それがこの街で言われている『超能力』ってやつか?」
「あァ、俺の能力はベクトル操作。動量・熱量・光・電気量……体表面に触れたあらゆるベクトルを任意に操作出来んだよ」
「……そうかい。意味分かんねーけど――」
エピソードはそう言って姿を消す。
「チッ、またそれかよ」
「(面倒臭ェ、さっさと始末させやがれェ)」
ドンッ!!
「あァ? が……はッ!?」
一方通行は、窒息感と痛みでわけが分からなくなる。
「(何……しやがったァ!?)」
「――この釘は刺さるみてーだな。超ウケるわ」
189:
「――クッ、小僧、何があったんじゃ」
「余所見している場合か? ハートアンダーブレード」
ガチーンッ!!
忍とドラマツルギーは変わらず死闘を繰り広げている。
どうやらドラマツルギーが優勢のようだ。
忍は筋力も未完成で、ドラマツルギーの力任せな攻撃を防ぐのに、かなり体力を消耗してしまっている。
「(腕が限界じゃ。どうする……)」
「随分動きが鈍くなってきたんじゃないか? さっさと駆除されたらどうだ!」
ドラマツルギーは全く疲れていない。
寧ろ気分が乗ってきているようだ。
「(クッ……! せめて翼を使えたら良いのじゃが、心渡の創作でスキルを使いすぎたようじゃな。この状況で翼を創作したところで、また幼き姿に戻ってしまう!)」
「ほらぁ! ほらぁ! 大した事ないな!」
ドラマツルギーは徐々に余裕を持ち始める。
元伝説の吸血鬼と言えど、今勝ちに向かっているのは自分なのだから。
「このままでは殺される。一か八かじゃな――」
190:
「ハートアンダーブレード、終りだ!」
ドラマツルギーの振り抜いた剣によって、忍の手から心渡が弾かれた。
ズスゥ!!
忍は左胸を刺されて倒れた。
大量の血が流れているが、ピクリとも動かず、声も発しない。
「声一つあげないとはな、遂にやったか。」
ドラマツルギーは上から見下ろす形で忍の死を確認した。
――ザンッ!!
ドラマツルギーはいきなり首に痛みを感じた直後、酷い脱力感と倦怠感に襲われ倒れ込んだ。
「やっはほはわひほほは! (やったのは儂の方じゃ)」
「な……に……ッ」
ドラマツルギーの肩に乗り掛かる形で、死んだはずの忍が、幼い姿で吸血している。
ドラマツルギーが身動き出来なくなる程度に吸血した後、二十歳くらいの容姿になった忍はハイヒールでドラマツルギーのこめかみを踏みつけながら話す。
「冥土話にせい。うぬが刺したのは、儂の『ダミー』じゃ。分からんかったか? スキルが低いせいか、人形のような分かりやすいダミーだったと思うがのう」
「…………ッ」
「危険な賭けじゃったな! カッカッカ!」
忍は悲惨に笑った後、ドラマツルギーの全てを吸い付くした。
191:
――ドンッ!!
「カッ……ハッ……!!」
「ウケるウケる超ウケるわ。にしてもお前血の量少な過ぎねー?」
一方通行は、消えては死角から釘を刺すエピソードに苦戦している。
その釘はエピソード曰く、『聖なる釘』のようで、理屈では説明出来ない力を宿した物のようだ。故に、一方通行の能力が通用しないのかもしれない。
一方通行は、傷口から出ている血液の向きを『外』から『正常の向き』へと操作しているが、苦痛に顔を歪めている。
「(くっそォ……厄介なもン持ち出しやがって。……能力発動時間もそろそろやべェな)」
「話す事も出来ねーってか?」
エピソードの姿がまた消える。
「(チッ、見えねェーのが厄介だ、姿が見えれ―― 《奴等は身体を霧に変えることによって姿を消せるのじゃ》) ……ッ! ヒャハァッ! 良いぜェ、愉快な事思いついた――姿が見えるどころか殺しちまうぜェ!!」
一方通行は両手を広げて正面を見据える。
「クク、……くかき」
「くくくかきけけこォききけこかかけこきくかけきィがががががァけけクキィイいッ!!」
「はぁ? 超ウケる。ついに頭おかしくなったのか? 止めを刺すぜ」
エピソードは再び霧に変わる。
192:
「アハギャハァ!! ハーイ! ゲームオーバーァア!!」
その一言と同時に、運動場が極寒の地へと化した。厳密には、一方通行の足元だけ凍っていないが。
一秒程して、一方通行の傍に『一つの氷の塊』が落ちてきた。
「ヒェハァヒィ!! 雪だるまになった気分はどうですかァ? つっても、返事出来ねェーかァ――白ラン野郎ォ」
一方通行は、エピソードが霧になる瞬間を見計らって、運動場全体の熱(温度)を足を通じて地下へと操作し、水分が一瞬で凍る程の極寒の地へと変えたのだ。
一方通行の足元だけ凍っていなかったのは、そのためだろう。
「おいうぬ、寒いんじゃが。というか儂がここまで力を取り戻してなかったら、下手したら儂まで氷漬けじゃったぞ」
後方から忍が近づいて来た。
「おォ、オマエも終らせたのかァ?」
「フッ、見ての通りじゃ」
忍の容姿はドラマツルギーを食し、二十二歳くらいの容姿になっていた。
「ンじゃ戻すぜ! くくくかきけけこォききけこかかけこきくかけきィがががががァけけクキィイいッ!!」
運動場の気温が戻ってゆく。
「おい、その呪文のようなものは必ず必要なのか?」
「うるせェ帰ンぞ」
一方通行はそう言いながら、足元にある氷の塊を踏み潰した。
193:
――
午前零時三十分、黄泉川家。
「仰向けは背中と腰の傷が痛ェし、うつ伏せは肺が圧迫されて息苦しいし、横向けは肩が凝るゥ。どーしろっつーンだよ」
誰に聞いてもらうわけでもなく、独り言を呟く。
『死闘』を終え、忍と帰ってきたころには、生活を共にしている黄泉川と打ち止めは既に眠りについていた。
リビングに居た芳川が、こちらを見るなり鼻で笑ったのだが、それは面倒なので話さないでおこう。
ただ、「その辺の安い酒ではなく、『自分』という名の酒に酔っ払っている最中」とのこと。
サッとシャワーを浴び、寝床についたのだが、エピソードに刺された傷のせいで眠りにつく身体の向きに困っているのだ。
「うるさい」
忍が独り言を拾う。手には、帰る途中にコンビニで購入したドーナツを持っている。
まだ外見がまだ二十二歳くらいなので、ドーナツを持っていても以前のような愛くるしさはない。
代わりに大人の色気を漂わせている。
194:
「ヴァンパイアハーフを[ピーーー]ような奴がその程度の傷でぐちぐちと」
「うるせェー、俺は人間だからなァ」
「そうじゃったな」 と言い、忍は自分自身の太股を引っ掻いた。
「あァ?」
美しい血が流れている。人間の血と違って、ドロドロしていて、特殊な光沢を帯び、何となく硬質そうな血だった。
その血を背中と腰の傷に塗って貰った瞬間、忍の太股の引っ掻き傷と同様に一瞬で癒えた。
「おォ、吸血鬼ってのは便利だなァ」
「……ところでうぬ、話があるのじゃが」
忍は改まった様子で話し掛けてきた。
急に大人の表情で顔を見つめられたので、つい目を逸らしてしまった。
「あァ? なンだよ」
「うぬよ、儂の眷属となり――儂と共に生きる気はないか?」
幼い時の甘ったるい声とはまた違う……。
自分にはまだ早いだろうと思うくらいの、大人の甘い声で誘惑してきた。
顎からエラ辺りに手を添えられているのだが、逃げられない。
その表情や仕草には、吸い込まれてしまいそうな魅力があった。
195:
そのまま誘惑に溺れてしまいたかったが、そうするわけにはいかない。
忍から色々話を聞いていたので、『眷属なること』が何を意味するのか理解している。
理解しているだけに難しい。
「………………。」
長い沈黙が続く中、忍は目を逸らさない。
悩み、葛藤した結果、ようやく答えが出た。
「悪ィ。眷属には、なれねェーわ」
その返事を聞いた忍は理由も聞かず、ただ、「そうか」 と言いって、立ち上がった。
「……過去の俺なら願ってもねェー話だったけどなァ」
理由は自分から話す事にした。
自分自身でも嫌悪している過去を目を剃らさず、まるで食い入るように見つめながら話す。
「俺には一生かけて償わねェーといけねェー事があンだよ。それでも一生許されねェーし、俺自身も許さねェ」
「ふっ、そうか。儂の主様のような事を言っておるのう」
そう言った忍の背中から、黒い翼が生えた。
「儂は今回の戦闘で全て食料を失った。だからこのまま帰る。なに、初めから良い返事は期待しとらんかったよ。良いきっかけになったわい……その前にのう」
忍はクルっと、こちらに方向転換して歩いてくる。
196:
また顎に手を添えられたと思った瞬間――柔らかいものが唇に触れた。
チュッ という音と共に、フワッ と忍の甘い香りが漂ってきた。
「確かこれが人間の世界でいう『愛の証』じゃったかのう。だが、外国では挨拶みたいなものじゃ。あまり重く受けとるでないぞ小僧」
そう言って、忍は部屋の窓から夜空へと羽ばたいて行った。
夜空を羽ばたく忍は徐々に小さくなり、完全に姿が見えなくなった。
「……素敵なローアングルのサービス晒してくれてアリガトウ」
こうして学園都市の夜は更けていった。
198:
――
午前八時、学園都市――第七学区。
とある歩道では、この街の『程好く静かな朝』をぶち壊すように上条当麻の声が響いていた。
「どういう事か説明して貰おうか――おう? 戦場ヶ原よ」
いつ会っても無表情の戦場ヶ原に問う。
「キモ」
「『キモ』じゃ説明になりません!! 上条さんはとっても痛い目にあったんですよ!!」
「責めたければ好きなだけ責めても構わないわ。私が悪かったのだから」
「まぁ、流石に責めたりはしねーけどさ」
ほんの少し申し訳なさそうな顔をした戦場ヶ原を見て、冷静になる。
意外と反省する時は反省するんだなと驚いた。
「まぁでも上条くん、貴方に……フフッ、迷惑をフッ、かけた事はプフッ……謝るわ」
「って、おい! 全く謝罪の気持ちが見えないんですが! 見ろよこの傷! 七針縫ったんだぞ!」
戦場ヶ原に額を見せつける。
額は縫った直後なので、なるべく出血しないように分厚いテーピングが施されている。
199:
「いいじゃない。治ったらハリーポッターみたいな傷になりそうだし。でも、あなたにとっては嬉しい事かもしれないけれど、私は考えただけで吐き気がするわ。気持ち悪い」
「そんな傷、俺も嬉しくも何ともねーよ!」
「あら、そうなの。じゃあその傷は一体、誰得なのかしらね」
「誰も得しねーよ!!」
それにしても、こうやって話すだけでも舌が痛い。火傷しているので、出来たら水も飲みたくないくらい痛いのだ。
それも戦場ヶ原の責任が大きいので、戦場ヶ原に愚痴らないと気が済まない。
「火傷までしたんだぞ! しかも舌だぞ舌!!」
「責められるものならいくらでも責めてみなさいよ。私が悪かったのだから」
「ん? なぁ戦場ヶ原、何かさっきより強気な感じになってないか?」
「あら、そうかしら。私は気付かなかったけれど」
何か同じような言葉の中に違和感のようなものを感じたけど、気にしない事にしよう。
「じゃあ、次は上条くん。私に謝ってくれないかしら」
「? 何を謝るんだよ」
「『昨日は、人を通じて間接的に虐待して頂いて本当にありがとうございました。忙しい中、わざわざすみませんでした』って感謝しながら謝りなさいよ」
「お前やっぱり御坂を利用して俺に手を下したんだな! だったからそれは、お前の好き勝手だろうが!」
本当にとんでもない事をして、とんでもない事を言い出す女だと思う戦場ヶ原ひたぎは。
「うるさいわね。私に感謝・謝罪をしなさい。そうでないとぶっ[ピーーー]わよ」
「ありがとうございました。そしてごめんなさい」
戦場ヶ原は満足したのか、「私は『人助け』なんて、あまり性に合わないのだけれど」 と言い残し、去っていった。
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