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ココア「チノちゃん。おまわりさんに捕まっちゃうよ?」


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1:
「ああ……」
チノの目の前で、一匹のうさぎが体を痙攣させていた。
急いでラビットハウスに向かっていたチノは、
曲がり角で急に飛び出してきたそのうさぎを踏んづけてしまったのだ。
「ど、どうしましょう……」
突然のことで全然頭が回らない。
チノは震えたまま、しばしその場に立ち尽くしていた。
「どうしたの? チノちゃん」
後ろから声がした。
2:
「ココアさん……」
振り返るとココアが立っていた。
チノは震える指で地面に横たわるうさぎを指し示した。
「チノちゃん、そのうさぎ」
「急いでたので踏んづけちゃいました……」
ココアが問うより早く、チノがそう答えた。
「……分かった。ちょっと待っててね」
少し考え込んでいたココアだったが、急に顔を上げそう言い残すと、
チノを残してどこかへ駆けていってしまった。
3:
「これでもう大丈夫だから。チノちゃんは先にお店に行っててね」
傷付いたうさぎをケージにおさめながら、ココアが言った。
「私が病院に連れていってあげる」
俯いたまま震えているチノの頭を優しく撫でると、
ケージを抱えたココアはラビットハウスとは逆方向に歩き出した。
「ココアさん……。ありがとうございます」
チノはその背中にお礼を言うと、店に向かうことにした。
4:
「ああ、これくらいなら一日寝かせておけば平気ですよ」
真っ白なシーツの上で寝そべっているうさぎの背中を撫でつけながら、
若い医師はそう言った。
「いきなり踏んづけられて驚いただけでしょう。
 子供とぶつかっただけなら大した怪我はしませんよ」
にっこりと笑いながらそう続けた。
その言葉を聞いて、ココアは安堵の表情を浮かべる。
「そうですか。ありがとうございました」
野良うさぎは法律で保護されているので治療費はいらない、
と医師に告げられると、ココアはお礼を言って病院を後にした。
5:
チノは仕事中も気が気では無かった。
あのうさぎはどうなったんだろうか。
そればかりが頭の中を行ったり来たりする。
「大丈夫か? チノ」
その様子を見かねて、年上のリゼが声をかけた。
「随分、顔色が悪いみたいだけど」
心配そうに言って、両腕を広げた。
7:
「大丈夫です。少し、心配事があって」
チノは正直に、今日あった出来事を話した。
「……そうか。無事だといいな、うさぎ」
リゼがチノの肩に手を置いた。
二人はしばし見つめ合う。
沈黙の時間が流れた。
「そう、ですね……」
チノはやっと口を開くと、それだけ言った。
9:
「じゃあ、私はそろそろ帰るからな。何かあったら言ってくれよ」
チノを心配したリゼは、閉店時間を過ぎてもラビットハウスに残っていたが、
さすがに日が落ちてくるとそう口にした。
「リゼさん。ありがとうございます」
店の前までリゼを見送ったチノが、お礼の言葉を述べる。
「いいよいいよ。じゃあまた明日な」
そう言うと軽く手を振って、リゼは帰っていた。
12:
ココアさん遅いな。
チノがそう心配していると、ガチャリとドアが鳴った。
「ココアさん!」
立ち上がると、慌てて駆け寄る。
「ただいまー。……ごめんねぇ、遅くなって。
 いろいろ手続きがあってさ」
手続き?
チノは疑問に思った。
「手続きって……」
「あのうさぎね、死んじゃったの」
薄暗い室内が、静寂に包まれた。
13:
「死んじゃった、って。どうして……」
チノは今にも泣きそうな顔をしている。
ココアは目を閉じると、黙って首を振った。
「お医者さんも一生懸命やってくれたんだけど……。
 チノちゃんが踏んづけた時に内臓が潰れちゃったみたいでね。
 どうやっても助からなかったのよ」
「そんな……」
チノは青ざめた顔で、首をゆっくりと左右に動かした。
17:
「私は、その手続きをしていたの」
手続き。
先程、チノが引っかかった言葉だ。
「野良うさぎを殺すとね、おまわりさんに捕まっちゃうんだよ」
チノは頭の中が真っ白になった。
捕まる? 私が?
心臓の音だけが、うるさいくらいに聞こえてくる。
「チノちゃんも、そういう話聞いたことあるでしょ?」
チノは必死に自分を落ち着けるように言い聞かせ、
ココアの問いに対する答えを考えていた。
19:
確か。
チノは、マヤの言っていたことを思い出した。
『別の中学の話だけどね、
 うさぎを掴まえては夜な夜な解体している生徒がいてね、
 最後はうさぎに飽きちゃってね、人間を解体しちゃったんだよ』
あれは自分を怖がらせるための嘘だと思っていた。
もしも本当の話だったとしたら……。
私も、うさぎを殺すのが癖になってしまうのだろうか。
そしていつか、人間も踏んづけて殺してしまうんだろうか。
チノの足がガタガタと震えていた。
「ど、どうしましょう……。ココアさん……」
蒼白の顔で、チノはココアにすがりついた。
22:
チノちゃんをからかうのは楽しいなぁ。
ココアは内心笑っていた。
いつネタばらししようかな。
そう考えると、真顔を作るのがつらくなってきた。
「そう、だね……」
ココアはそう言って顔を伏せた。
笑ってしまうのをこらえるためだ。
チノの真剣な顔が、滑稽でおかしくて仕方がない。
「捕まりたくないのなら。とりあえず、私の言うとおりにしてね」
24:
「こ、これでいいんですか」
二人はチノの自室に移動していた。
白いもこもこの服を着て、うさぎの耳を付けたチノが、床で丸まっている。
「そう。うさぎと同じ気持ちになれば、
 罪を償ったことになって捕まらないのよ」
我ながらひどく適当な嘘だな、とココアは思った。
しかし、必死なチノはそれに気が付かない。
「そのまま丸まっててね」
「あっ……」
ベッドのふちに腰かけたココアがチノの背中を踏みつけると、
チノの口から声が漏れた。
27:
「どう? チノちゃん」
「いっ、痛いです……」
ココアは言いながら、チノの背中を踵でぐりぐりと踏みにじる。
「あのうさぎさんは、もっと痛かったんだよ?」
「うっ……。ふううっ……」
先程より強く踏みつけられると、
吐息に交じって呻くような声が出た。
「ちゃんと反省してね」
ココアは踏みつけている足にさらに力を込めた。
28:
「んっ……。ふううっ……。くぅっ……」
少しやり過ぎかな。
ココアは思った。
しかし、自身の足元で必死に耐えているチノを見ると、
嗜虐心に火がついてしまう。
「チノちゃん。うさぎさんにごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさいっ! うさぎさん、ごめんなさいっ!」
チノは叫ぶように、悶えるように、そう言った。
33:
私がいけないんだ。
急いでいるからって踏んづけて、殺してしまった。
うさぎさんごめんなさい。
うさぎさんごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
いくら謝っても、謝り切れない。
背中に与えられる鈍い痛みだけが、自分を救ってくれるような気がした。
35:
「うさぎのことは誰にも言ってないよね?」
チノの背中に置いた足をねじるようにしながら、
ココアがそう言った。
「リ、リゼさんに……」
「言ったの?」
チノの震えが先程より激しくなった。
漏れる吐息が嗚咽に変わる。
「い、言いました……」
ココアがため息を吐いて立ち上がった。
38:
「コ、ココアさん……?」
背中にかかる圧力から解放されたチノが、
おそるおそる顔を上げた。
立ち上がったココアは、ひどくつまらなさそうな顔をしている。
「そう。言っちゃったの」
冷たい目でチノを見下ろした。
「すいません……」
涙と鼻水と唾液で顔をぐしゃぐしゃにしたチノが、再び俯いた。
「じゃあ、もうどうしようもないね」
39:
どうしよう。
ココアは、自らの作り出した現状にひどく戸惑っていた。
きっと今ネタばらしをしても、チノは笑って許してはくれないだろう。
というよりも、ココアは罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
「ココアさん……。どうしたらいいんでしょうか……」
ぐしゃぐしゃの顔でチノがすがりついてくる。
「そうね」
ココアは考え込んだが、答えを見つけられそうになかった。
41:
チノは一人、部屋に取り残されていた。
頼りにしていたココアにも見放されてしまった。
『今日は遅いから、もう寝よう。チノちゃんおやすみ』
そう言い残して、ココアは部屋に戻ってしまったのだった。
「どうしよう……」
ベッドに突っ伏して、チノは泣いていた。
警察に捕まってしまうことももちろん怖かったが、
うさぎを殺してしまったという事実が、
他の何よりもチノを恐怖させていた。
「うっ……。うううっ……」
叫び出したい衝動を必死に抑え、チノは声を殺して一人泣いていた。
43:
黒ココアちゃんに踏まれたいよおおおお
44:
「どうしよう……」
ココアも、もちろんチノの苦悩の大きさと比べるほどでもないが、
部屋で一人、ベッドに寝そべりながら頭を悩ませていた。
「明日の朝一で謝ったら許してくれるかなぁ……」
呟いて寝返りを打つ。
「許してくれるといいなぁ……」
気付くとココアは眠っていた。
45:
もう、こうするしかないですよね。
天井から垂れ下がったロープの先に作った輪っかを見つめながら、
チノは深呼吸を繰り返していた。
いざ”死”というものが眼前に迫ると、
その現実感の重さに意識を失いそうになる。
「あのうさぎさんも、同じ気持ちだったんでしょうか」
呟くように言って、ゆっくりと体を前傾させると、
ロープで作った輪っかにすっぽりと頭がおさまった。
「うさぎさん、ごめんなさい。ココアさんごめんなさい。
 ティッピーごめんなさい。お父さんごめんなさい。
 リゼさん、シャロさん、千夜さんごめんなさい。
 マヤさん、メグさんごめんなさい。
 みんなみんな。ごめんなさい」
生まれてきて、ごめんなさい。
チノは、ベッドの上から飛び降りた。
50:
「……?」
ココアは物音で目を覚ました。
何かが倒れるような音と、建物が軋むような音だった。
上体を起こして耳をそばだてる。
かすかにだが、相変わらず軋むような音が断続的に響いていた。
「チノちゃん……?」
妙な胸騒ぎがする。
ココアは自室を飛び出すと、走れば数秒の距離にあるチノの部屋へと駆け出した。
51:
「……っ!」
ココアはチノの部屋の前にいた。
慌てているのでうまくノブを掴めない。
やっとのことでドアを開け放つ。
「チノちゃんっ!?」
その目に飛び込んできたのは。
ロープに吊られて揺れている、チノの姿だった。
「チノちゃん!」
その体に、必死にしがみついた。
53:
ひどく長い時間が過ぎたような気がする。
ココアが時計を見ると、15分ほどしか経っていなかった。
チノの”治療”は続いているのだろうか。
それとも……。
ココアは集中治療室へ向かう扉をぼんやりと眺めた。
発見した時、チノはまだかすかに息があったが、
ココアが慌てて救急車を呼び、
病院に運び込まれたときには呼吸が停止していたのだ。
神様、お願いします。
どうか。チノちゃんを、助けてください。
ココアは、目の前で左右の手を組み、何度もそう祈っていた。
55:
扉が音をたてて開き、医師が姿を現した。
「……っ!」
「先生! 娘は……!」
ココアとチノの父は、慌てて立ち上がるとそばへ駆け寄った。
ふ、と医師が笑顔を見せる。
「発見が早かったのが救いでしたね。
 あとは経過次第ですが、おそらく後遺症も残らないでしょうし、
 現在は意識もはっきりとしていますよ」
その言葉を聞いて、二人は安堵のため息を漏らした。
56:
「お父さん……。ココアさん……」
二人が病室に入ると、
ベッドに寝かされていたチノは、
ひどく弱々しくそう言った。
「どうして、こんなことを……。
 少しくらい相談してくれても良かったのに……」
娘の悩みに気付けなかった自分が、
情けなくて、悔しくて、仕方がないのだろう。
チノの父は、人目もはばからずに泣いていた。
「ごめんなさい……。お父さん……」
チノの目からも涙がこぼれた。
57:
チノが回復し、数日の入院生活を終えると、ココアは街を出ることにした。
おそらく、もう二度と。ここへ帰ってくることは無いだろう。
「ごめんね。みんな」
街を見下ろせる小高い丘の上で、ココアはそう呟いた。
自分の小さな嘘から始まったこの物語の幕を引くのは、
やはり自分でなくてはいけないのだろうけど。
「私には、少し荷が重すぎたみたい」
結局全てから逃げることを選んだ。
チノちゃんはきっと私を許さない。でも、それでいいんだよ。
ココアはそう考えていた。
58:
「わっ」
丘の上に強い風が吹いた。
その風は、生い茂った濃緑の草を薙いで、
ココアの髪を激しくなびかせた。
思わず目を閉じてしまう。
「ココアさん」
突然声がする。
「え……。どうして、ここに……」
目を開けると、視線の先にチノが立っていた。
「どこへ行くつもりですか」
「それは……」
ココアは返答に困ってしまった。
59:
「罪は償わないといけないんでしたよね。
 逃げるような真似はしないでください」
黙り込んだココアに対して、チノが強い口調でそう言った。
「ココアさんは適当過ぎるんです。
 そんなんじゃ、どこに行ってもうまくやれるはずがありません」
ココアは俯いてしまった。
心臓が狂ったように跳ねている。
「だから」
下げた視線の先にチノの足先が見えた。
ココアは思わず顔を上げる。
「ラビットハウスでみっちり鍛えてあげます。
 街から出ようなんて思わないことです」
60:
「チ、チノちゃん……」
ココアの思いが決壊した。
ボロボロと目から大粒の涙が零れ落ちる。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいいいいいっっっ!!!!」
チノに縋り付くようにして、ココアは泣き叫んだ。
「もう、しょうがないですね」
チノは穏やかな、全てを許すような眼差しでココアを見つめる。
その目にも、光るものがあった。
66:
「悪いことをしても、ちゃんと謝ればいいんです。
 逃げるのは一番やっちゃいけないことなんだって、
 私も病室で目覚めたときにようやく気付けました。
 ただ、自分とまわりの人達を苦しめるだけなんです」
ココアの頭を抱きしめながらチノが言う。
「うっ……。ぐすっ……。チノちゃん……」
チノの胸の中で、ココアはまだ泣き続けている。
「それで」
チノがココアの体を引き離した。
「ココアさんは、ラビットハウスで働きたい気持ちはあるんですか」
67:
「……ある! あるよ!」
腕でぐいっと涙を拭うと、ココアは真剣な顔つきで叫んだ。
その様子を見て、チノが微笑みを浮かべる。
「そうですか。じゃあ、帰りましょう」
「うん!」
二人は並んで歩き始めた。
また、いつもの日常に帰るために。
そして誰もいなくなっても、丘の上では変わらず風が吹いている。
いつまでも、そよそよと草木を揺らし続けるのだった。
終わり
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