薔薇師の水晶 第1話〜第7話back

薔薇師の水晶 第1話〜第7話


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今までに出てきたキャラと似たような人や展開が発生しますが、それもパラレルです。全部で21話。
【薔薇師の水晶 01/21 雪が昇る】
769 :
村人「薔薇? なんだそれは」
水晶「前は何処にもいなかった、けれども今は何処にでもいる。それが薔薇です」
村人「?」
水晶「もう一度聞きますが、あなたの所だけですね? この有様は」
村人「見たら分かるだろう。隣の田んぼは全て稲穂が重く垂れ始めているのに
  俺の所だけ、まだ実もつけず青いままだ。今まで逆はあっても、こんなことはなかった」
水晶「逆?」
村人「俺の田だけ他の奴の田より少し深く掘っている。その分、水かさが多い。この意味が分かるな?」
水晶「保温ですか」
村人「そうだ。冷夏の時にはこれが効力を発揮する。他の水が浅い田が実らない時でも
  俺の田だけは実をつけてきた。それがどうして? 冷夏でもない今年だけ?」
水晶「最近、雪は降りませんでしたか?」
村人「雪ぃ!? 馬鹿も休み休み言え! まだ秋口だぞ」
水晶「今、調べたところあなたの田の水温が隣の田よりも、わずかに低い。気付いていましたか?」
村人「なに?」
水晶「手を入れて比べてみて」
村人「…本当だ」
水晶「本来なら水が深く、保温能力に優れたあなたの田の方が水温が高くてしかるべき。
  しかし現実は逆。間違いないく薔薇の仕業です」
村人「だから、その薔薇って何なんだ?」
770 :
村人「キラ?」
水晶「その字のごとく雪の姿をした…いえ、雪の中に棲むと言った方が正しい薔薇です」
村人「雪の…中?」
水晶「そう、雪の中。目では見えないほど小さなもの。普段は雲の中にいますが、餌が不足すると雪と一緒に落ちてきます」
村人「餌? 生き物なのか、その雪華と言うか……薔薇って奴は?」
水晶「それはYESでもありNOでもあります」
村人「どういう意味だ」
水晶「生き物であるような薔薇もいれば、とてもそうは見えない薔薇もいるということ」
村人「……」
水晶「雪華に限って言えば、生物に近いと言えるかもしれません。彼女達の餌は『温度』」
村人「温度? まさか俺の田の?」
水晶「その通り。この田んぼは雪華に温度を食べられている。今、この時も」
村人「そんなことが」
水晶「雪華は常に温度を奪い続けます。雲から落ちてくる間に自分達が纏う水の粒の温度も奪う。
  それが雪ともなる。そして地に落ちた雪華達は通常は熊などの大型動物に寄生します」
村人「俺の田は熊じゃないぞ」
水晶「適当な『獲物』が見つからなかったのでしょう。私も聞いたこともありません。動物以外に雪華が寄生しているなど」
771 :
水晶「あなたが気付かない間に降ったのかも。あとで他の村人にも私から聞き込みをしてみます」
村人「そんなことより、雪華っていうのが犯人なんだろ? 何とか退治できないのか?
  そのためにあんたを槐先生から紹介してもらったんだぞ」
水晶「……」
村人「もしかして…退治できないのか?」
水晶「……」
村人「おい!」
水晶「……」
村人「…嘘だろ」
水晶「熊などに寄生した場合、雪華達はお互いに連結し一つとなったあと、栄養体と呼ばれる器官を形成します」
村人「栄養体?」
水晶「キノコのようなものです。そこに雪華達は奪った温度を貯め込みますが
  その栄養体が形成されるのは、雪華が最初にその動物に接触した部位」
村人「最初に接触した…?」
水晶「栄養体に、槐先生が調合されたこの薬草の灸を据えれば」
村人「退治できるんだな!」
水晶「いえ、栄養体に温度を与えることで満腹にさせます。
  満腹になった雪華は栄養体から種を空に向かって飛ばす。それが地に落ちた雪華の生活史」
村人「……」
水晶「無理に引っこ抜くことはできません。栄養体は雪華の一部分に過ぎない。雪華自体は
  宿主に深く根を張っている。しかし、種を飛ばせば根は役目を終えて、枯れ、宿主は解放される」
村人「もし栄養体が見つからなければ?」
水晶「雪華に寄生された熊が生き残る確率は五割といったところ。
  今回の場合、放っておいても田が死ぬことはないでしょうが冷えた田では稲は育たない」
村人「そうだ!このままじゃ米ができないまま冬が来る。田は死ななくても俺が死んでしまう」
水晶「誰かが田に雪が降る所を見ていれば、その証言からどこに栄養体ができているのか見当がつけられます」
村人「それで聞き込みをするって、さっき言っていたのか! 俺も手伝うぞ。自分の田のためだ。なんだってする」
772 :
水晶「誰も見ていないとは」
村人「もしかして皆が寝ている夜に降ったんじゃあ……」
水晶「今までの記録では雪華が降るのは日中しか確認されていません。
  しかし、記録がないのは誰も知らないからだとも言える。もし、そうならお手上げです」
村人「ふざけるな! こうなったら田んぼの中をしらみつぶしに探してやる」
水晶「気の遠くなる作業ですよ。当てもなく田の中の雪華の栄養体を探すなど。砂丘に落ちた針を探すような物です」
村人「お嬢ちゃん、あんたはそこで見ているか。俺の家で寝てろ。それっぽいのを見つけたら呼んでやる」
水晶「何故そこまで、この田にこだわるのです」
村人「……」
水晶「聞き込みの間にあなたの人柄は分かりました。働き者としてとても慕われている」
村人「だから、どうした」
水晶「事情を知った方の中には『今年の冬を乗り越えられるくらいの援助は出そう』と申し出た人も何人もいた」
村人「……」
水晶「雪華に寄生された田では収穫は見込めません。しかし、それもおそらくは一度きりのこと。
  春までには自然と雪華は種を成し、空に帰るでしょう」
村人「どこにそんな保証がある。この田は、俺の…俺達の田だ」
773 :
村人「……」
水晶「失礼ながら聞き込みの間、雪のことだけではなく、あなたについての話も聞かさせていただきました」
村人「勝手なことを。だが、もう知ってるのなら分かるだろう。
  田んぼを深く掘ろうっていうのも、あいつの考えだった。あいつはいつも俺の仕事を助けてくれた」
水晶「……」
村人「あいつのお陰で俺の田も立派になった。他の田がダメダメな冷夏の時も稲は実った。
  貯えができた。これから子供を作ろうって時だった」
水晶「流行り病で、お亡くなりになったそうですね」
村人「新米はな、あいつの墓前に供えるって決めてるんだよ。お前のお陰で今年も米がたくさん取れたってな」
水晶「なるほど」
村人「キラだかバラだか知らないが、そんな目にも見えないようなチンケな奴らのために諦めていいものじゃないんだ」
水晶「チンケな奴…ですか。薔薇がチンケね」
村人「ふん。学者肌にはカチンとくるかよ?」
水晶「いえ、幾分か爽快な気さえします。きっと私だけでは、とても薔薇をチンケだなんて発想は出ない」
村人「そうかい。とにかく話はこれで終いだ。俺はキノコを探す。この田は俺とあいつの子供同然だ。
  あんたみたいなお嬢ちゃんには、まだ分からないだろうが…」
水晶「…例え、放っておけば治ると言われても…、病気の我が子を前に何もしないでいられる親などいない」
村人「あんた…」
水晶「あなたの熱意に打たれました。私も田に入り、雪華の栄養体を探します。二人なら作業も半分で済む」
村人「ふ、惚れるんじゃねえぞ。俺は妻一筋だからな」
水晶「…ご冗談を」
774 :
水晶(二人で手分けしても、流石にすぐ見つかるものでもないか)
村人「ちくしょう、原因は分かったんだ! 俺が、俺がキノコさえ見つけてやれば!」
水晶「…暗くなってきた。今日は切り上げるべきです」
村人「しかし!」
水晶「また明日、朝から探しましょう。私も手伝いますから」
村人「あと少し、あと少しだけ探させてくれ!」
水晶「あなたが倒れるようなことがあっては、それこそ奥方に申し訳ないのでは?」
村人「…分かったよ。あんたの言うとお…ッ!?」
水晶「どうしました? 急にうずくまって?」
村人「体…が突然…」
水晶「!?」
村人「さ…寒い」
775 :
水晶「気が付きましたか」
村人「こ、ここは?」
水晶「あ、立ち上がらないで、そのまま寝ていてください。ここはあなたの家です。
  勝手にですが湯を沸かさせていただきました。これを飲んで落ち着いて」
村人「俺は気を失っていて? あんたが運んでくれたのか!? 重かったろうに…」
水晶「……」
村人「しかし、田んぼの真ん中でぶっ倒れるなんて…」
水晶「どうやら、あなたの熱意に打たれたのは私だけでは無かったということです」
村人「?」
水晶「ご自身の右足の裏を見て下さい」
村人「俺の足…? こ、これは、まさか!」
水晶「ええ、それがキノコ、もとい雪華の栄養体です」
村人「どうして俺の足に!?」
水晶「田よりも最適の獲物が目の前に現れた。雪華にとっては、そういうことなのでしょう」
村人「……」
水晶「あなたの田靴の底に穴が空いていました。おそらくはそこから」
村人「また、あいつに感謝しなくちゃな」
水晶「?」
村人「前も空いてたんだよ、その穴。あいつが繕ってくれたんだが、この時になって、その穴がまた開くとは…」
水晶「…では、外に出て頂けますか。その足の雪華の栄養体に灸を据えます」
村人「ああ、そうだな」
776 :
村人「やってくれ」
水晶「では」
村人「…ッ!? キノコが膨らみ始めた」
水晶「じき、種を空に飛ばすはずです。槐先生がこさえた灸は温度を与えるだけでなく、薔薇の成長をも促します」
村人「なあ、もし俺がこの手で種が空へ飛ぶのを叩き落としたらどうなる?」
水晶「雪華の種は、雲の中でしか発芽できません」
村人「……」
水晶「かまいませんよ。決定権はあなたにある」
村人「いや、よそう。だって種ってことは、つまり子供……なんだろう?」
水晶「……」
村人「それより、種はまだ飛ばないのか?」
水晶「飛んでますよ、既に」
村人「?」
水晶「灸の煙に混じって飛んでいっています。雪華の種は目に見えないほど小さい。栄養体が規格外に大きいだけです」
村人「何だよ、それじゃあ俺の手なんかじゃまったく抑えることさえ出来ないじゃないか。あんたも意地が悪いな」
水晶「あなたが遮ろうと遮らまいと、空の雲まで戻れる雪華の種はごく僅か。
  99.99%は辿り着けず地に落ち、やがて消えます」
村人「……」
水晶「薔薇は死んでも骸を残すことはない。ただ生きて、生き続けるだけ」
村人「そうか」
水晶「…あなたの体の中の雪華も消えたようです。お疲れさまでした」
村人「ああ、ありがとうよ」
水晶「礼には、まだ早い。明日、田の水温が正常なことを確認してからです」
村人「そうだな。では明日またよろしく頼むぜ、薔薇師の水晶さん」
777 :
水晶「よかった…」
村人「何もかもあんたのお陰だ。少ないが、これ」
水晶「お代は結構です。昨晩は泊めてもいただきましたし…」
村人「しかし」
水晶「田は回復したとはいえ、稲の成長が遅れた分、今年の収穫は少ないでしょう」
村人「ゼロになるかもしれない収穫をあんたが救ってくれた」
水晶「いいえ。救ったのはあなたと奥方です」
村人「……」
水晶「私はもう帰ります。これからも槐先生を御贔屓に」
村人「本当に…ありがとう」
778 :
木鬼「ここでは槐先生と呼んでくれと言ったろ。じゃないと僕も君のことを薔薇水晶って呼んじゃうよ?」
水晶「すいません。うっかりしてました」
木鬼「君にうっかりだなんてあるものか。まあ、いいか。それより水晶、お土産は?」
水晶「ありません」
木鬼「え、嘘。何かお礼に貰ったんじゃないの?」
水晶「お礼は断りました。今回、田から雪華を剥がしたのは、あの方自身の力です」
木鬼「雪華だって? まさか雪華が田んぼにいたのかい」
水晶「そのまさかでした。薬灸を使いましたので補充をお願いします」
木鬼「お灸だって安くないのに…」
水晶「『槐先生を御贔屓に』と、お願いしておきましたから。医者は信用第一でしょう?」
木鬼「僕は医者じゃなくて錬金術師」
水晶「今となっては誰も錬金術師なんて理解できませんよ」
木鬼「…変わったな水晶。そんなことを言うなんて」
水晶「変わるには十分な時が流れましたから。槐先生も随分と明るくなられました」
木鬼「まあ、いつまでも物憂げな青年は気取っていられないよね。
  あの時勢ならまだしも、こんな片田舎じゃあ、ただの変質者だ」
水晶「…私は前の方が好きでしたが」
木鬼「僕も昔の寡黙で素直な薔薇水晶が恋しいよ」
水晶「…槐先生」
木鬼「すまない。薔薇の名前は捨てたんだよな。どれ、鞄を渡しなさい。灸を補充しよう」
水晶「お願いします」
779 :
水晶「ありがとうございます」
木鬼「次は君だ。左目の眼帯を外しなさい」
水晶「…はい」
木鬼「また…少し穴が広がっているな」
水晶「…はい」
木鬼「雪華は…あの白薔薇にかなり近い系統の薔薇だ。何も手掛かりは掴めなかったのかい。
  君から左目を奪った、あの白薔薇の」
水晶「残念ながら、動物ではなく田に寄生していたということ以外には過去の記録以上のことは何も…、ただ」
木鬼「ただ?」
水晶「何と言いますか…、チンケな奴でした」
木鬼「チンケ? チンケだって? ははは、そりゃあいい!」
水晶「……」
木鬼「本当にそれはいい。その意気だ水晶」
薔薇師の水晶 01/21 雪が昇る 【終】
780 :
781 :
水晶「…はい」
執事「ささ、どうぞ中へ。外はお寒かったでしょう」
水晶「では、失礼します」
執事「今、お茶を…」
水晶「お気遣いなく。それより『例の病人』とやらは?」
執事「…こちらです。お嬢様の部屋へ案内します」
水晶「外から見ても立派なものでしたが、中もそれに劣らぬ造りですね。今、この屋敷の中に人間は何人います?」
執事「旦那様も奥様も仕事で二ヶ月ほど前から外国へ行ったきり。
  この家にいるのはお嬢様一人の他は私のような使用人が三名いるだけです」
水晶「あなた方の中で、そのお嬢様と同様の症状が出た者は?」
執事「いません。ただ、あれは本当に病気なのかどうかすら私には分からないのですが…」
水晶「それで正解ですよ」
執事「?」
水晶「分からないものは分からない。それも一つの正答。お嬢さんは病気ではありません」
執事「?」
水晶「薔薇の仕業です。だから私がここに来た」
執事「…着きました。ここがお嬢様の部屋です」
782 :
水晶「薔薇師の水晶と申します。随分と探しましたよ。執事さんに案内された部屋にいなかった時は何事かと…」
お嬢「薔薇師?」
水晶「お嬢さんの身に起きている不思議な現象を治しに来ました」
お嬢「……」
水晶「執事さんから屋敷の地図を借りておいて良かったというところでしょうか。
  さあ、こんな物置に隠れていないで自分の部屋へ戻りましょう」
お嬢「いや、私はここにいるの。執事にも食事はここへ運ばせるように伝えて」
水晶「やれやれ。拝見させてもらいましたが立派な部屋でしたよ。何が不満なのです」
お嬢「私の病気を知っているんなら想像ぐらいつくでしょ?」
水晶「鏡…ですね」
お嬢「……」
水晶「舶来の大きな姿見の鏡が置いてありました」
お嬢「そうよ。あれは大き過ぎて部屋から動かせない。なら、私が動くしかないじゃない」
水晶「『自分の姿が鏡に映らない』。確認しておきますが、これがあなたの症状で間違いありませんね」
お嬢「ええ、あの姿見の鏡だけじゃない。手鏡にも窓ガラスにも水面にも、およそあらゆるものに映らない」
水晶「……」
お嬢「何人もお医者様が来て、いろいろと検査したけれど駄目だった」
水晶「それが回り回って、うちの槐先生のとこへ依頼が来たのです。
  こういう手合いはもっと早く薔薇師に届くようになればいいのですが」
783 :
水晶「薔薇が引き起こす問題を専門にする者達のことです」
お嬢「薔薇?」
水晶「薔薇とは…陰より生まれ、陽と陰の境にたむろするものども
  夢より生まれ、夢と現の間にたたずむものども。どこにでもいて、どこにもいないもの」
お嬢「何それ? ワケ分かんない」
水晶「端的に言うと、鏡に映っていたお嬢さんの姿は薔薇に乗っ取られました
  鏡の中のお嬢さんは勝手に動き回るようになり、その結果、お嬢さんは鏡に映らなくなった」
お嬢「鏡の中?」
水晶「そう。映るものであればそれは全て出入り口」
お嬢「そんな…」
水晶「信じられない?」
お嬢「鏡の国なんて…そんな、おとぎ話みたいなこと」
水晶「おとぎ話は全て嘘だと?」
お嬢「だって作り話じゃない」
水晶「自分で確かめたわけじゃないのに?」
お嬢「…そんなの本当かどうかなんて分かるわけないじゃない」
水晶「正解」
お嬢「?」
水晶「分からないものは分からない。けれども、それらが全て嘘だというわけではない」
784 :
水晶「いえ、鏡はあくまでも通り道。鏡の先の世界は化野(あだしの)と呼ばれています」
お嬢「鏡の中のあたしは、その化野のどこかにいる?」
水晶「そのとおり。化野にいるもう一人のお嬢さんを薔薇から取り返せば、以前のように鏡にも映るようになる」
お嬢「それじゃあ連れて行って、あたしが自分を見つけるわ」
水晶「できません」
お嬢「え?」
水晶「鏡とは自分と対峙するための道具。古代では祭祀にも使われた神具です。
  今のお嬢さんのように鏡無しで自らと向かい合おうとすることは非常に危険です」
お嬢「……」
水晶「私が化野にいるもう一人のお嬢さんを捕まえます」
お嬢「水晶さんが?」
水晶「そのための薔薇師です」
785 :
お嬢「……」
水晶「端見は鏡、あるいは瞼の裏に棲む薔薇です」
お嬢「瞼の裏? そんなところにも」
水晶「閉じた目が見るもの、夢もまた化野への入り口」
お嬢「……」
水晶「端見は不定形な薔薇ですが、化野と現実世界を自由に行き来することができます」
お嬢「それがどうして、鏡の中のあたしを…」
水晶「本能なのでしょうか。自分に形を与えたいという欲求があるようです」
お嬢「私の姿になるために鏡の中のあたしを盗んだ?」
水晶「端見が鏡または夢から盗むものには順番があります。まず姿形。この段階だと鏡にその人が映らなくなる」
お嬢「順番ってことは、次は?」
水晶「次に記憶と意識。そして知性を獲得した端見は化野から現実世界に出てきて本人と入れ替わります」
お嬢「入れ替わられたら、あたしはどうなるの?」
水晶「分かりません。入れ替わられた人は消えて無くなってしまうとしか…」
お嬢「嫌よ! そんな! この体はあたしのものよ! そんなお化けみたいなやつに取られたくない」
水晶「……」
お嬢「は、早く鏡の中のあたしを取り返してよ。水晶さん! それがあなたの仕事なんでしょう?」
水晶「ええ、そうです」
お嬢「だったら…!」
水晶「では」
お嬢「?」
水晶「この水晶が問います。『あなたは誰?』」
お嬢「!?」
水晶「『あなたは誰?』」
お嬢「…ッ!!」
水晶「答えられませんか? もう一度聞きます。『あなたは誰?』」
お嬢「や…やめてッ! やめてよ! それ、どういうつもりで質問してるの? やめて! 気持ち悪い!」
786 :
お嬢「それが…今の?」
水晶「ええ。これに正直に答えると、端見は対象を認識し姿形を奪う。
  嘘を答えると、あなた本人ではない姿ということなので、この姿形は自分のものとして持っていく」
お嬢「そんな…じゃあどうすれば」
水晶「『沈黙』が正解です。答えてはいけない」
お嬢「……」
水晶「そして、端見から取られた姿形などを取り返す方法は端見に対して『あなたは誰?』と問いかけ、答えを聞くこと」
お嬢「……」
水晶「『あなたは誰?』」
お嬢「……」
水晶「答えていただけませんか? お嬢さん?」
お嬢「ちょっと待ってよ……水晶さん。どうしてあたしが答えなくちゃならないの…」
水晶「どうか、ご理解願います。私とて力尽くは好きではない。『あなたは誰?』」
お嬢「嘘でしょ。そんなのって……」
水晶「嘘ではありません。あなたが端見です。そしてここは化野の中です」
お嬢「あ、あたしが……!? デタラメ言ってるんじゃないわよ!」
水晶「なら、答えてください。どう答えても結構。あなたが端見でなければ何も起りませんから」
お嬢「それはできない! 何だかすごく気持ち悪いもの、その質問!」
水晶「この質問を気持ち悪いと思う。それこそが端見の本能」
お嬢「嘘よ…! あ、あたしは…」
水晶「本物のお嬢さんは、私が着いた時には既に記憶と意識を奪われ
  昏睡状態に陥っていた。私は急いで化野に入りお嬢さんの記憶を基に端見が再現した、この屋敷を捜索した」
お嬢「う、嘘よ。そんなことあるはずがない。あたしが人の姿を奪っていく化け物だなんて…」
水晶「端見は決して化け物ではない。ただ生きて、生き続けているだけ」
お嬢「……」
水晶「証拠を見せましょうか」
お嬢「……」
水晶「何でもかまいません。物置にあるものを一つ…その壺がいいですね。それを手に持って屋敷の外へ出てください」
お嬢「いいわ! 壺の一つや二つ、いくらでも持って外に出てみせる」
787 :
水晶「……」
お嬢「ッ!? 壺が消えた!! さっきまで手に持っていたのに!?」
水晶「この屋敷は端見であるあなたが、お嬢さんの記憶を基に作り上げた仮の巣。
  お嬢さんの記憶を再現できるのは、この屋敷内が限度」
お嬢「そんな…」
水晶「物置に戻りますか? 壺が最初の場所に戻っているはずです」
お嬢「…いい。もう…分かったわ」
水晶「なら、今度こそ答えてください。『あなたは誰?』」
お嬢「ねぇ、端見は…、私はその質問に答えて姿形や記憶を返すとどうなるの? 元の不定形に戻るだけ?」
水晶「記録によれば姿形を取り返された端見は消滅するとあります」
お嬢「そう、死ぬのね。はっきり言ってくれてありがと」
水晶「…『あなたは誰?』」
お嬢「正直に言ってくれたお返しに、あたしも正直に言う。さっき端見は最後に対象の全てを奪う…って言ったわね?」
水晶「……」
お嬢「でもね、あたしは…その…本物のお嬢さんから
  何もかも奪うつもりはない。ここで…お嬢さんの記憶の中だけで生き続ける。それじゃ駄目?」
水晶「お嬢さんの記憶を奪った直後だから、あなたは自分をお嬢さん本人だと
  思い込んでいるだけに過ぎない。すぐに端見としての本能があなたを次の行動に移らせる」
お嬢「…そう、分かったわ。なら、答える。人間としての意識がまだあるうちに…あたしは端見だとしても人間として死にたい」
水晶「『あなたは誰?』」
お嬢「……」
788 :
お嬢「ごめん。さっきのだけは嘘。あたし、やっぱり死にたくない」
水晶「…『あなたは誰?』」
お嬢「ねぇ! どうして!? あたしはただ…生きたいだけなの。それなのに、どうしてあなたは!」
水晶「お嬢さんだって生きたいと願っている。そのためにはあなたに死んでもらう必要がある」
お嬢「どうしてよ。どうしてあなたは…、あたしじゃなく本物のお嬢さんを助けるの!?」
水晶「……」
お嬢「あたしが偽物だから!? 偽物は本物になっちゃいけないの? 偽物は…ただ生きることさえ許されないの!?」
水晶「……」
お嬢「…ごめんなさい。分かってるの、あたしだって自分が間違っていることぐらい…でも…」
水晶「いいえ、あなたは間違ってなどいない」
お嬢「!?」
水晶「あなたが端見の生き方を間違いだと思うのは、あなたが得たお嬢さんの記憶が…
  人間の価値観があなたにそう思わせているだけ」
お嬢「人間の価値観……」
水晶「端見は、薔薇は、ただ生きていくことに一生懸命な存在。そこに偽物も本物もない」
お嬢「……」
水晶「けれども今はまだ、人間達の方が生きる力が強い。だから今回あなたは負けることになった」
お嬢「強い方が生き残る…それだけ?」
水晶「そう、それだけが真実。でも、人間だけがまたその真実に疑問を持っている」
お嬢「……」
水晶「私はあなたを哀れむことは出来ないけども
  せめて、次はもっと強く生まれて来るように祈る。薔薇師も手出しができない、強い薔薇に」
お嬢「ありがとう。水晶さん」
水晶「今度こそ私からの最後の質問です…、『あなたは誰?』」
789 :
木鬼「おっかえり?、水晶。ねぇ? お土産は?」
水晶「ありません」
木鬼「おいおい、今回は大きなお屋敷の依頼だったんだぞ絶対何か貰ってるだろう? 隠すと後でお尻ペンペンだからな」
水晶「とても報酬を頂く気分にはなれませんでしたので」
木鬼「…鏡に映らない少女についての依頼だったから十中八九、端見が原因だと思ったんだけど違ったのかい?」
水晶「いえ、典型的な端見の姿取りでした…が、端見が命乞いをしました」
木鬼「薔薇が命乞いを!?」
水晶「ええ。ちょうど人の記憶を奪った直後だったらしく端見の本能を人間の意識が凌駕していました」
木鬼「そうか、それはやりづらかったろうに…」
水晶「『偽物は生きていく事さえ許されないのか』、そう問い詰められました」
木鬼「なんて答えたんだい? 水晶」
水晶「『生きていくことに一生懸命な者には、そこに偽物も本物もない』と」
木鬼「……」
水晶「この言葉、私もまだ信じていていいのですよね? お父様」
木鬼「ああ…、そうだとも」
薔薇師の水晶 02/21 鏡の問い 【終】
791 :
792 :
村人「おお、そうよ。なんでも熊か狒狒が出たそうな。何人も目撃している。お嬢ちゃんももう切り上げな」
水晶「でも、この界隈にはそんなものは…」
村人「俺だって信じられねえさ。でも山狩りするのは本当だ。うろうろしてると間違って鉄砲で撃たれるかもしれん」
水晶「それもそうですね。教えて頂いてありがとうございます」
村人「礼には及ばんよ。それよりも早く帰った方がいい」
水晶「ええ、荷物をまとめたらすぐ降ります」
村人「そうかい。じゃあ、くれぐれも気をつけてな」
水晶「はい」
793 :
  この山に熊や狒狒が? どこを見てもそれらしき痕跡はない)
水晶「…あれは?」
村人「う…うう…」
水晶「つい先ほど、山狩りを教えてくれた方? 先に山を下りられたとばかり…」
村人「? お、お嬢ちゃん!?」
水晶「どうされました?」
村人「す、すまん。助けてもらえないか。足をひねってしまって…」
水晶「分かりました。そこから動かないでください」
村人「恩に着る」
水晶「…少し触りますよ」
村人「ぐっ!?」
水晶「すいません。痛みますか?」
村人「ああ、動かすことすらできん」
水晶「捻挫ですね。手持ちのもので申し訳ありませんが、今、湿布を貼ります」
村人「あ、ありがとう。しかし、湿布を持ち歩いているなんて、あんた薬師かなんかかね?」
水晶「薔薇師の水晶と言います」
村人「薔薇師!」
水晶「ご存知ですか?」
村人「俺の村にも年に何回か、放浪の薔薇師がやって来ては、いろいろと知恵を授けてくれている」
水晶「なるほど。それはそうと少し場所を変えましょう。
  あっちに、腰を下ろすのに適した倒木がありました。私につかまりながらなら歩けますね?」
村人「分かった。お言葉に甘えて肩を借りさせてもらう」
794 :
  山狩りに来た村の人間に助けてもらう。ええと、水晶さんでしたか、あなたは俺に構わず下山するといい」
水晶「……」
村人「水晶さん?」
水晶「私もあなたが動けるようになるか、助けが来るまで一緒に待ちます」
村人「いや、そこまでしてもらっては悪い」
水晶「お気になさらず。少し調べたいこともありますので」
村人「調べる? 何を?」
水晶「先ほどまで、山を散策していたのですが熊や狒狒など大型の猛獣がいる気配は無かった」
村人「そりゃあ…失礼だが、あなたがよそ者でこの山をよく知らんだけだろう」
水晶「こちらも失礼ながら言わせてもらうと、この規模の山では
  とても大型の肉食獣をまかなえるほどの生物資源があるとは思えない」
村人「かーっ、これだから薔薇師とやらは。難しい言葉で現地の人間の言葉を抑え込んじまう」
水晶「…ともかく、私は何か口に入れられるものを探してきます。
  山狩りがいつ来るかもわかりません。少しでも体力を回復しておかないと」
村人「本当にすまないな。何から何まで」
水晶「すぐ戻りますので」
795 :
水晶「この山に人を近付けたくないようにも思える。もしかして山狩りというのも嘘かしら?」
水晶(いや、人を追い返したいだけなら、もっといい嘘はいくらでもあるはず)
水晶「…ッ!? あれは曼珠沙華? こんな山の中で曼珠沙華が実をつけている?
  それにこの実の巨大さと形は! そうか、そういうこと…」
796 :
村人「戻りが遅いので心配したよ」
水晶「心配とは私のことですか? それとも…」
村人「何が言いたい?」
水晶「失礼。遅くなったのには訳があります。なにぶん大きな実でしたので解体するのに時間がかかって」
村人「実?」
水晶「これです。どうぞ、一緒に食べましょう」
村人「ありがたい。正直、腹が減っていたところだ」
水晶「……」
村人「随分と美味しいな。ザクロのような、百合の根のような。水晶さん。これは一体、何の実で?」
水晶「曼珠沙華です」
村人「…笑えない冗談だな。曼珠沙華は実をつけない。それに曼珠沙華は有毒だ。食べて無事なはずがない」
水晶「ええ、普通なら」
村人「?」
水晶「曼珠沙華(彼岸花)と共生する薔薇で此岸花(しがんばな)というものがあります」
村人「彼岸花に此岸花か。洒落た名前だな」
水晶「実をつけない曼珠沙華に働きかけ此岸花は実をつけさせます。もちろん無毒化させた上で」
村人「ほお」
水晶「味も良く、大概は野生動物にすぐ食べ尽くされるのですが私は運が良かった。
  なったばかりの実をほぼ丸ごと手に入れました。今、あなたに食べてもらったものは、その一部分です」
村人「確かに、これだけうまけりゃ動物達も放っておくまい」
水晶「鳥や獣に実を食べさせ、此岸花は自らの種子を運んでもらうのですが
  実の中には曼珠沙華それ自身の種も含まれています」
村人「……」
水晶「曼珠沙華は通常、種を残さず球根で増えますが此岸花と共生した場合にのみ、種子を作ることができる」
村人「なるほど。彼岸と此岸どちらにも得があるわけだ」
797 :
村人「勿体ぶるね。その特徴とは?」
水晶「虫や小動物の形をしているのですよ。
  そう、その地に住む他の捕食者が常食している生物の形に実が擬態しているのです」
村人「……」
水晶「面白いのは、その地に生息している生物の形にしか実が擬態しないということ」
村人「?」
水晶「カエルが多くいるところの此岸花の実はカエルの形をしているが
  カエルが全くいない地域の此岸花の実は、そこにいる別の動物の形をしているのです」
村人「そりゃあ面白いな。此岸花が周りの生き物を観察しているってか?」
水晶「その謎もまた、先達の薔薇師や庭師によって解明されています」
村人「聞かせてくれ」
水晶「百聞は一見に如かず。答えはこの籠の中に…。今、私達が食べた実の残りの部分を見れば、すぐ分かります」
村人「見てもいいのか」
水晶「是非」
798 :
水晶「……」
村人「うわあああああああああ!! ひ! ぐ! ぐぅおえ!!」
水晶「どうしました?」
村人「どうしました、じゃない!! よくもこんなものを食わせてくれたな、これは…ッ! この形は!!」
水晶「そう、人間の子供の形です。が、形が似ているだけのこと。実際は先ほど食べたとおり植物の実に過ぎない」
村人「だが! しかしッ!!」
水晶「それとも、その曼珠沙華の実の、子供の顔に見覚えが?」
村人「くっ!!」
水晶「おおよその見当は既についてます。大人しくした方が身のため。その捻挫した足で私をどうにかできるとでも?」
村人「……」
水晶「あなたの子ですね」
村人「ああ」
水晶「騙して食べさせて、申し訳ありませんでした。ですが、これぐらいのショックを与えないと
  あなたには正直になっていただけないかと思いまして」
村人「…薔薇師は、どこか浮世離れした奴ばっかりだった。
  けど、あんたは人間離れしているよ、水晶さん、あんた本当に人間かい?」
水晶「……」
村人「いや、すまない。人間じゃないのは俺の方さ。自分の子供を…山に捨てたのだから」
799 :
村人「田を荒らすモグラや、墓を掘り返すキツネがそれを嫌うからな」
水晶「ある時、墓地に植えられた曼珠沙華に此岸花が共生を始めた。出来た実は…」
村人「人の形をしていた…だろ?」
水晶「そう。それも埋葬された人々と全く同じ顔で」
村人「……」
水晶「それまで小動物の実の時は誰も気付かなかったことですが
  人の形の実ができた時に此岸花が何を基準に実の形を決めていたかが判明した」
村人「土の中にいる、そこで死んだ生き物が基準だったのか」
水晶「私達の体の中には、人なら人の形を、鳥なら鳥の形を決定している因子が存在します」
村人「因子?」
水晶「昔の科学者はそれを遺伝子と呼んでいました。それを元に全く同じ人間を複製する技術まで
  あったそうです。此岸花は根からそれを読み取り、実に反映させる」
村人「昔の技術か。それさえまだ残ってりゃ、俺の生活も…いや、よそう」
水晶「何があって、あなたが自分のお子さんを捨てたかまでは追求しません」
村人「まあな。ありふれた理由さ。今の世じゃ珍しくもない。でも、この山にでかい獣が出るようになったと聞いて…」
水晶「もしかしたら子が生き延びているのでは、と」
村人「ああ、そう思っちまったら体が勝手に動いていた。山狩りの前に何とか見つけたかった」
水晶「……」
村人「けど、此岸花の実の形がこいつってことは」
水晶「ええ、既にお子さんは土に還っていることでしょう」
村人「熊や狒狒と見間違えたってのも、これか。幽霊の正体見たり枯れ尾花ってところだな」
800 :
木鬼「随分と帰りが遅かったから道草でも食っているのかと思ったら、そういうことになっていたのか」
水晶「はい」
木鬼「それから、その村人はどうしたんだい?」
水晶「私と一緒に山狩りの皆さんに事情を説明しました。
  既に山狩りの一部の方が此岸花の実を見つけていたので、すぐに納得していただきました」
木鬼「恐るべきは此岸花の擬態能力……か。親子だと判別できるほど、正確に顔の形まで真似るんだから」
水晶「あの…」
木鬼「ん?」
水晶「私は、あの村人から真実を聞き出すために子の形をした実を騙して食べさせました」
木鬼「……」
水晶「そんな私に、彼は『あんた人間か?』と怒りをあらわにした」
木鬼「捨てたとは言え、子の親だからね」
水晶「人間の薔薇師なら、こんなことはしないのでしょうか?」
木鬼「さあね。でも水晶、君がやったことは人間のすることではないと
  罵られるかもしれないけど、その奥には『優しさ』があったと僕は思う」
水晶「……」
木鬼「此岸花の実は、鎮痛、解熱その他もろもろの天然の万能薬だ。
  薔薇師の君がそれを知らないとは言わさないよ。その村人、今頃は捻挫も綺麗に治っていることだろう」
水晶「そうだと、いいのですが」
木鬼「さあさあ、話はここまでだ。頼んでいた薬草を出してくれ。あ、そうだ。此岸花の実も持って帰ってるんだろ?」
水晶「約束の薬草はありますが、此岸花の実はありません」
木鬼「ええ? どうして?」
水晶「山狩りの皆さんに手分けして全部かき集めた後、燃やしました。
  人の子の形をしたものが、獣に食い散らかされるは不憫だと思ったので」
木鬼「…水晶、君、変なところで人間臭い一面を発揮するね」
水晶「可笑しいですか」
木鬼「いや、嬉しいよ」
薔薇師の水晶 03/21 親と子と 【終】
801 :
802 :
水晶「お久しぶりです」
桜田「今、茶菓子を用意するから。いつもの客間で待っていてくれ」
水晶「はい」
桜田「何が食べたい? カステラか苺大福か?」
水晶「大福でお願いします」
―――水晶の前に立つ少年(少女)の姓は桜田。名は無い。
まだ幼さすら残る彼(彼女)が、この薔薇屋敷と称される邸宅にただ一人で住んでいる。
803 :
―――桜田は禁種の薔薇の呪いを受けた一族だとされている。それは真紅の呪い。
薔薇乙女に力を吸い尽くされた媒介は、その薔薇乙女と似た姿になってしまう。
故に、彼は男でもあり女でもある。さらに言うなら桜田ジュンの末裔であり、真紅の写し身である。
真紅が媒介の力を使い尽くすことなど有り得ないとは思うが、アリスゲームの扇動者に過ぎなかった薔薇水晶には
あの後、真紅達が真の第七ドールである白薔薇と、どれほど熾烈な戦いを繰り広げたのかは分からない。
水晶(あの時、私はこの左目を差し出すことで白薔薇から私とお父様を見逃して貰った)
―――偽物に本物の光は眩し過ぎた。
薔薇水晶は左目の光を手放すことで、眩しさに潰されることから逃れ、お父様である槐と共に眠りに就いた。
どれほどの時間を眠ったのかは分からない。目覚めた時には、文明は退化しており
自然界からは、かつて薔薇と呼ばれていた花達は姿を消し、代わりに魑魅魍魎の類が薔薇という名を得ていた。
水晶(机の上に書き物が出しっぱなしに? 彼が作業中のものかしら。これは薔薇草紙の写本をしている?)
―――桜田もまた薔薇師であるが、水晶とは異なる。体内にある真紅の呪いを封じるためだけの薔薇師。
桜田には真紅の呪いの証として、その名のごとく真紅に染まった右腕を持つ。
真紅の呪いを封じる方法はただ一つ。水晶のような薔薇師達から
薔薇を退治した話を聞き、それを絵物語『薔薇草紙』として書き残すこと。
この薔薇草紙こそが、薔薇師の唯一の指南書でもあり
薔薇師達は桜田に話をする見返りとして、蔵書の閲覧を許可されている。
桜田がその右手で筆をとると、穂先には自然と紅い墨が滲み出る。
その紅で、いくつもの絵物語を残すことで、だんだんと右腕の真紅は色を失っていく。
その特性から、彼は特に薔薇絵師とも呼ばれていた。
804 :
水晶「…これは?」
桜田「ああ、それか。薔薇草紙をね、複写しているんだ」
水晶「複写では真紅を封じるには効果が無いのでは?」
桜田「無いことは無い。新しい話に比べたら、数十分の一だけれども、それでもこの右腕の紅は薄まっていく」
水晶「……」
桜田「毎日、薔薇師が訪れてくれるわけでもない、空いた日には専ら複写さ。
  僕の代でも…呪いは封じ切れないだろうが、それでも少しでも子孫の負担を減らせればね」
―――桜田は代々、自家受精で身籠る。真紅の呪いを全て封じ切らない限り
薔薇の円環から解き放たれ、人間としての生に復帰することは無い。
子を成せば、真紅の右腕の呪いは赤子に移る。子が筆を持てるようになるまで育つと
親の桜田の命は散る。そうやって、何代も何代も一人で生きてきたのが桜田だ。
水晶「……」
桜田「それに結構、需要もあるんだよ。写本は封じられている真紅の呪いも薄いから
  一人前の薔薇師になら貸し出すことができる」
水晶「なるほど。一番人気は、やはりこの…今も写本中の『エデルロゼ』ですか?」
桜田「うん。『エデルロゼ』は薔薇師なら誰もが最初に聞かされる物語だろうけど
  それだけに謎が多く、人を惹き付けるのも確かだ」
805 :
最初に七つの薔薇があり、その七つの薔薇が一つになろうとして失敗し、千に万にと砕け散った。
そして、以前は何処にもいなかった薔薇は今は何処にでもいるようになった。
二行でまとめればこの程度だが、七薔薇についての記述がそれに続く。
その内容については薔薇水晶の知る、人形同士のアリスゲームとは異なり
それぞれの薔薇は鳥や獣のような姿をしていたとされている。
伝えられていくうちに内容が変化したのか、それとも初代桜田が意図的にそうしたのだろうか。
七つの薔薇はすなわち水銀燈、金糸雀、翠星石、蒼星石、真紅、雛苺…
ただし、最後の七番目の薔薇については、名が伏されており物語中では白薔薇という表現で一貫している。
水晶(当然ながら私に関する記述は無い。いや、その方がいい)
桜田「そうそう、君のくれた話も密かに人気があるんだよ」
水晶「私の?」
桜田「ああ、何人かの薔薇師が、特に君が体験した薔薇の話を、と指定の上で写本を頼んできたことがある」
水晶「……」
桜田「そういうわけで、僕としても人気者の話は是非残したい。大福をつまみながら、新しい話をしてもらえるだろうか」
水晶「…分かりました」
806 :
  それに捨て子の姿を模した此岸花(しがんばな)か」
水晶「……」
桜田「君の話にカルトな人気があるのも頷けるな」
水晶「?」
桜田「他の薔薇師達の話は程度の違いはあれ、基本的に自慢話が多いんだよ。
  自分は、こうこう機転を利かせて薔薇を退治しましたってね」
水晶「そうなのですか」
桜田「対して君の話は薔薇を滅ぼすべきものとしてよりも隣人として接している節がある」
水晶「……」
桜田「薔薇との共存を唱える薔薇師は少なくは無いけど、水晶、君の場合は何と言うべきか
  それよりもさらに薔薇寄りと言うか、まるで君自身が一つの薔薇であるかのように…」
水晶「……」
桜田「僕の見当外れなら謝るけど」
水晶「いえ、感心しています。確かに私にはどこか、まだ薔薇になりたいという思いが燻っているのでしょう」
桜田「まだ、っていうことは薔薇になりたかったことがあったのかい?」
水晶「はい。薔薇に、薔薇を越えるものになりたかった」
桜田「……」
水晶「けれども失敗した。しかし、まだ私がこうして薔薇師をしているのは
  この世にあまねく広がる薔薇達に自らの砕け散った夢の欠片を重ねているからなのかもしれない」
桜田「水晶、君は一体?」
水晶「…今の話は忘れてください。少し喋りすぎました」
桜田「そうか。それじゃあ薔薇草紙の執筆を始める。水晶、悪いけど…」
水晶「大丈夫。いつものように、終わるまでここであなたを見ています。
  何時間でも。だから、何も心配しないでください」
桜田「ありがとう」
―――右腕の真紅の呪いを薔薇草紙に封じる際には激痛を伴う。それは筆ではなく、焼け火箸を
握らされているかのごとくらしいが、薔薇水晶にはその痛みを推し量ることさえできない。
涙と呻き声を必死でこらえ、大粒の脂汗を額に滲ませながら紅い筆を走らせる桜田を見守るだけだ。
それはまさに、自らの血を搾って描いているように見えた。
807 :
水晶「……」
桜田「執筆中の姿を見せられるのは…君だけだよ。水晶」
水晶「…光栄に思います」
808 :
水晶「気が付きましたか」
桜田「気を失っていたのか、僕は」
水晶「薔薇草紙を三つ連続で書き上げたのが、こたえたのでしょう。終わると同時に倒れてしまわれたのです」
桜田「そうか、君に格好いいところ見せようと思って頑張りすぎちゃったな」
水晶「……」
桜田「そんな困ったような顔しないでよ。ここは笑うところ、冗談なんだから。ところで、どれくらい寝てた?」
水晶「半日ほど」
桜田「半日もか。君はずっと、その間もここに?」
水晶「はい」
桜田「…この布団も、君がかけてくれたんだね」
水晶「言ったはずです。何も心配しなくていいと。それと、勝手ながら
  汗がひどかったので寝ている間に体も拭かさせてもらいました」
桜田「何から何まで……ありがとう、水晶」
水晶「いえ」
桜田「それじゃあ、水晶お嬢さんを槐先生にお返ししないとね。嫁入り前の娘さんに
  いつまでも世話させたとあっちゃあ、あの人、気が気でないだろう」
水晶「そんなことは…」
桜田「無いと言い切れる?」
水晶「言い切れませんね」
桜田「はは、そうだろう。水晶、そこの冊子を開いてみてご覧」
水晶「これ…ですか?」
桜田「そうそう」
水晶「目録と数字が並んでますね。これはもしかして」
桜田「今まで写本した薔薇草紙のリストだ。君になら好きな物を好きなだけの期間、貸し出そう」
水晶「……」
桜田「欲しいのがなければ、蔵書からリクエストしてくれれば優先的に写本しておくよ」
水晶「いえ、それでは…このエデルロゼの写本をお貸し願えますか」
桜田「勿論だとも」
809 :
木鬼「遅い、遅いよ水晶。桜田君に話をするだけでどうして予定より一日も遅れて帰ってくるんだい?」
水晶「一日くらい良いじゃないですか。薔薇を鎮めに行く時は、何日遅れても怒ったりしないのに」
木鬼「それとこれとは別! 大体、あいつは君に何かと色目を……」
水晶「私はまんざら嫌いじゃないですが」
木鬼「す…水晶ッ?」
水晶「冗談です。ここは笑うところですよ、槐先生」
木鬼「き、君が言うと冗談に聞こえないから困る。次からは、やっぱり僕も同行すべきか」
水晶「先生が留守にすると困る人が多いんですよ。名医としての自覚を持って下さい」
木鬼「うう…」
水晶「それより、今回はお土産があります。カステラをいただきました」
木鬼「本当かい? よし、すぐに紅茶を淹れよう」
水晶「それともう一つ」
木鬼「?」
水晶「エデルロゼ写本です」
木鬼「エデルロゼ…の写本?」
水晶「桜田君は真紅の呪いを封じる一環として写本も始められました。
  そうして出来たものを少しづつですが、貸し出されているのです」
木鬼「…これは僕が読んでもいいのかな?」
水晶「引退したとは言え、槐先生も薔薇師でしたから、それは問題無いとのことです」
木鬼「そうか。あとでありがたく読ませてもらうよ。
  やはり、口伝に聞くのと本で読むのとは違うからね。それにこれは絵付きだし」
水晶「……」
810 :
水晶「……」
木鬼「あまり良くはないみたいだね。もしかして…」
水晶「いえ、まだ妊娠はしていませんでしたが、それも時間の問題かと。
  彼に私達が知っていること全てを話したらどうでしょう?」
木鬼「それは難しいだろうな。僕達が経験したアリスゲームと今の時代の薔薇とはあまりにも違う点が多い」
水晶「……」
木鬼「信じてもらえたとしても、却って混乱を招くばかりかも。
  それに、君の素性を知った薔薇師達が君をどうするか…桜田君だって君を見る目が変わるだろう」
水晶「私は彼の前で真実を隠し続けられる自信がありません。今回も、忘れていた夢について思わず話してしまった」
木鬼「僕は真実を話すこと、それ自体には反対しない。だが、今はまだ時期が早すぎる」
水晶「時期はいつ満ちるのでしょうか? 今の桜田君が代替わりする前にそれは来ますか?
  私の左目の闇が広がって、私を飲み込む前にそれは来ますか?」
木鬼「水晶…」
水晶「すいません。がらにもなく、焦ってしまって」
木鬼「お茶にしよう、水晶。温かいものを飲めば、少し落ち着くはずだ」
水晶「…はい」
811 :
水晶「はい」
木鬼「うん。このカステラも美味しい。桜田君もなんだかんだでいいモン食ってるな」
水晶「……」
木鬼「……先ほどの話の続きだが、僕達の時が満ちるのは、今の世界に満ちた薔薇の混沌を制した時だ」
水晶「混沌を制す?」
木鬼「僕が思うに、今はアリスゲームの失敗で溢れ出た薔薇が煮えたぎっている状態だ。
  右を見ても左を見ても大小何かしらの薔薇がいる」
水晶「……」
木鬼「勿論、その失敗の原因には、僕の思い上がりによるアリスゲームの扇動も含まれている」
水晶「……」
木鬼「だからこそ僕は責任を取らなければいけない。そのために君をまた苦しませているのも申し訳ない」
水晶「槐先生だけの罪ではありません。私は…あなたの人形です」
木鬼「ありがとう水晶。…今まで僕達は、この世界を把握するために薔薇師として情報を集め続けた」
水晶「ええ」
木鬼「ちょっとした因果で、この村で医者の真似事を始めたら、いつの間にか簡単には離れられなくなったけど」
水晶「最初の頃は大変でしたね。次から次へと患者がやって来て」
木鬼「ああ、ここの人達ときたら今まで医者がいなかったせいか知らないが僕に何でもかんでも診させようとするんだ」
水晶「そうそう」
木鬼「腹痛、切り傷、子供の夜泣きとかならまだしも、うちのベベが産気づいたから来いとか
  しまいには雨乞いみたいな真似までさせられたっけ」
水晶「でも、槐先生は文句を言いながらも、ちゃんと村人達の話を全て聞いて、解決してきた」
木鬼「根はいい人ばかりだからな。みんな、僕の言うことを無条件に信じて実行してくれた」
水晶「そして、お礼を言われて照れている槐先生は本当に嬉しそうでした。今では、それが私の一番好きな顔です」
812 :
水晶「はい」
木鬼「錬金術師のモットーで Solve et Coagula (溶解と凝固)という言葉がある」
水晶「溶解と凝固」
木鬼「『溶かして混ぜて固めろ』ってことなんだけど
  アリスゲームも言い換えればローザミスティカを溶かして混ぜて固める作業だった」
水晶「……」
木鬼「例えば……だ。この紅茶に角砂糖を溶かそうとする。角砂糖をそのまま入れてもいいだろうが
  もしこの砂糖が非常に溶けにくいものだとしたら、水晶、どうする?」
水晶「角砂糖を…小さく砕く?」
木鬼「そうだ。ローゼンが一つだったローザミスティカをわざわざ七つに砕いたのも、その為だろう」
水晶「ではローゼンは、ローザミスティカと『何』を混ぜてアリスを作ろうとしていたのですか?」
木鬼「陳腐な表現だが『人の心』……と言わざるを得んだろうな。その為の媒介(ミーディアム)
  その為の容器(アリスゲーム)。あの時、アリスの横取りを狙った僕達はそこまで考えが至っていなかった」
水晶「溶かして混ぜるところまでは何とかなったけど、その熱量の前に私という器は耐えられなかった」
木鬼「君がローザミスティカを手離し、さらに左目をあの白兎と白薔薇に差し出したことで僕達は九死に一生を得た」
水晶「……」
木鬼「そのあと僕達は眠っちゃったから、ここから先は想像でしかないが
  結局オリジナル達でも、うまく固めることは出来なかったのだろう」
水晶「アリスになりきれなかったローザミスティカが人形と言う器に収まりきらず、世界に溢れ出た?」
木鬼「何度か君にも話したけど、やはりこの仮説が正しいと僕は思う」
813 :
木鬼「まさか、そこまでの力がローザミスティカにあったとはね。ローゼンに張り合おうとしていたあの頃が恥ずかしい」
水晶「お父様」
木鬼「ここでは槐先生だってば。まあ、とにかく溢れ出たなら僕達が集めればいい。そうは思わないか?」
水晶「可能…なのですか」
木鬼「可能性ならある。魂が抜けた七薔薇の遺体を探すんだ。
  僕の仮説が正しければ、それは傷ついたまま、世界のどこかで眠っている」
水晶「水銀燈達の…遺体?」
木鬼「七つを一つにすることは神の御業にも等しい。おそらくはローゼンでも手が出せない領域だろう。
  だからアリスゲームという舞台を用意した」
水晶「……」
木鬼「しかし、七つの器の綻びを再び繕いさえすれば
  この世界中で迷子となっている薔薇達を元の体に返せるかもしれない」
水晶「アリスは無理でも、ローゼンメイデンを復活させれば今の世の魑魅魍魎たる薔薇はいなくなる?」
木鬼「しかし、ここで一つ気になることが出てくる」
水晶「?」
木鬼「ローゼンだよ。彼なら、今、僕が言ったことを実行することは容易いはずなんだ。
  だが、それをしないということは何か理由があるのかもしれない」
水晶「理由? どんな?」
木鬼「分からない。例えば、既にローゼンがこの世にいないだとか
  この事態もアリスゲームの途中であるとか、あるいは薔薇が世に満ちた今の世界こそがアリスだとか」
水晶「挙げればキリが無い…」
木鬼「そうさ。だから僕達は僕達ができることから始めるしかない。今までは情報収集だけだったけど」
水晶「これからは七薔薇の遺体を念頭に、薔薇の怪異に立ち向かうべき」
木鬼「そういうことだ。基本的にやっていることは変わらないのかもしれない。
  薔薇の怪異に悩まされている人達を助ける。けれども、その何処かに七薔薇の遺体に近付くヒントがある」
水晶「……」
木鬼「途方もない話だと思うか? 水晶?」
水晶「いえ、勇気が湧いてきました。わずかでも希望が見えるのなら、それはきっと正しい道」
木鬼「そうだな、そうだとも。これからは僕達が…」
水晶「この世界を巻き返す」
薔薇師の水晶 04/21 紅に誓う 【終】
814 :
815 :
水晶「……」
一樹「何かリアクションして下さいよ。淋しいじゃないですか」
水晶「一樹(かずき)さん、と言いましたね。あなたもいい加減、気付いているのでしょう?」
一樹「あらら、もう少し一緒に散歩していたかったんだけど。流石、水晶さん。その通り、これは薔薇の仕業です」
水晶「…私がこの山に入ったのは三時間ほど前です」
一樹「俺はもう二日目です」
水晶「二日? あなたほどの薔薇師が二日もこの山に閉じ込められて?」
一樹「あなたほどの…て、まだ会ってから一時間程度じゃないですか。買い被るのも、いくらなんでも早すぎません?」
水晶「身のこなしや、装備を見れば同業者の格というものは
  見当が付きます。あなたは私よりも遥かに熟練した薔薇師です」
一樹「だから買い被りだって…。それに、俺もあなたが水晶さんだと一目でわかりましたよ」
水晶「?」
一樹「紫のひらひらした着物に左目の眼帯。一度見たら忘れられるもんじゃない」
水晶「失礼ですが、以前、お会いしたことが?」
一樹「いやいや、昔、桜田様のところであなたの絵を拝見したことがあるのさ」
水晶「絵? 私の?」
一樹「知らないはずないでしょう? あの人は真紅封じとは別に趣味で絵も描くんだよ」
水晶「……」
一樹「あ、もしかして水晶さんにだけは秘密にしてたのかもしれんな。
  思い返してみれば、君を描いた絵だけ気合の入れ方が違ってたよ」
水晶「そうですか。桜田君が私を」
一樹「そのあと、桜田様に頼みこんでさ、水晶さんが体験した薔薇草紙を全部読ませてもらったんだ。
  写本も借りてる、ほらコレ。だから俺はあなたのことは、それなりに知っている」
水晶「未熟な処置ばかりでお恥ずかしい限りです」
一樹「いやいや。立派なもんだと思います。ただ、気になったのは」
水晶「?」
一樹「あなた、薔薇と人間、どっちの味方なんです?」
水晶「人間の味方です」
一樹「即答ですか。ま、どっちでもいいと俺は思いますけど…」
816 :
一樹「そのことについては本当に申し訳ない。俺のせいなんだ」
水晶「あなたの?」
一樹「俺は薔薇を寄せ付ける性質なんで、流れの薔薇師をやっているんですが
  一つ前の仕事中に迷い蛾(まよいが)に繭を作られちまったらしくて」
水晶「…この山で羽化してしまったのですね」
一樹「そうなんだ。羽化した迷い蛾は人に憑りつき、道を迷わせる。何が目的で人を迷わせるのかはまだ研究中だが」
水晶「仮説では、迷って死んだ人の血を吸うとか」
一樹「そんな仮説があるのかい? 確かめたいところだが、死ぬのだけは勘弁だな。水晶さんもそうでしょう?」
水晶「そうですわね。…ッ? ちょっと待って下さい。
  今、私まで道に迷っているのですが、迷い蛾は一匹につき一人しか迷わせないはず」
一樹「ああ、水晶さんを巻き込んで申し訳ないとはその事なんだ。俺に付いた迷い蛾の繭は、玉繭だったんです」
水晶「羽化した迷い蛾は二匹」
一樹「そういうことです。一匹は俺に、一匹は通りがかったあなたに」
水晶「……」
一樹「探しても見えませんよ。羽化した迷い蛾は限りなく透明に近い。こんな木々の中で肉眼で見つけられるわけは…」
水晶「いました。あそこの木の枝に確かに二匹」
一樹「驚いた。いい目をされている」
水晶「あの迷い蛾…?」
一樹「何か?」
水晶「どちらも片羽が無い。片方は右の羽が、他方は左の羽が…。だから、お互い支えあって飛んでいる」
一樹「比翼の迷い蛾か。可哀想な気もするが
  俺達もいつまでも迷わされているわけにはいきません。早く、薔薇落としを済まさないと」
水晶「落とす方法は? 私の手持ちで使えそうなものは薬灸と光酒(みす)ぐらいですが」
一樹「俺も似たようなもの。それに加えて薔薇煙草もあるが高価だからあまり使いたくないんだよな」
水晶「私も薔薇煙草を扱ったことはありません」
一樹「今なら水晶さんが迷い蛾を目視できているから
  煙草を初体験してもらって、迷い蛾に煙を吹きかけて散らしてもらうってのもありだが…」
水晶「……」
一樹「水晶さんさえ良ければ、もう少し散策につきあってもらませんか?」
水晶「…この山には、道教え(みちおしえ)がいるのですか?」
一樹「ええ、迷い蛾を好物として捕食する薔薇。
  まだ繭の内に食べてもらおうと思っていたのですが探しているうちに、迷い蛾が羽化してしまって」
水晶「……」
一樹「道教えのいる山までもったのだから不幸中の幸いとも言えますがね。
  ところで、水晶さんもこの山で探しものを? それともただの通り道?」
水晶「実を言うと、私もこの山に『ある物』を探しにきました」
一樹「じゃあ、こうしましょう。水晶さんの探し物をしながら、ついでに道教えも探す、と」
水晶「道教えはついでですか?」
一樹「いやまあ、正直一人でうろうろするのも飽きてきましてね。旅は道づれと言うじゃないですか」
水晶「何か釈然としませんが私の目的を優先させて構わないのですね」
一樹「勿論ですとも。ところで、何を探しているので?」
水晶「人形です。一樹さんは見かけませんでしたか」
一樹「人形? どんな?」
水晶「大きさは私とほぼ同じぐらい。格好も私の意匠とやや似ている、西洋風の人形です」
一樹「う?ん。そんなのがこの山の中にあったなら、すぐ気付きそうなものだが…」
水晶「予想では、人形はバラバラになっている可能性も高い。この山にあるのは、腕や足など一部分だけなのかも」
一樹「しっかし、なんでまた人形を? 薔薇と関係あるのかい?」
水晶「ええ、まあ少し」
817 :
水晶「そうですね…」
一樹「薔薇の尾でも引いてみます?」
水晶「一樹さん、薔薇の尾を引けるのですか?」
一樹「いや、水晶さんが手伝ってくれれば出来ますよ」
818 :
桜田「先生、薔薇の尾を引くって何ですか?」
木鬼「薔薇師の間での決まった言い回しだよ。これを説明するには、まず薔薇の尾から解説しよう」
桜田「はい」
木鬼「地面の中にしかいない薔薇で『夢轍(ゆめわだち)』という薔薇がいる。地域によって呼び名や性質に
  多少の差はあるけれども『地面の中にいる』『そして驚くほど巨大だ』ということが共通している」
桜田「そいつの尻尾が薔薇の尾?」
木鬼「夢轍は粘菌状の薔薇でね。薔薇の尾とはそれが四方八方に張り巡らせた突起のことを言う」
桜田「へぇ。その突起を引っ張ることを薔薇の尾を引くって言うんだね」
木鬼「物理的に引っ張るわけじゃないけどね。突起の一部分に精神的に接続することで
  夢轍がカバーしている地域、全ての情報を検索できるんだ」
桜田「凄い凄い」
木鬼「さっきも言ったけど、夢轍は巨大な薔薇だ。山一つ、村一つの地下丸ごとに突起を張り巡らしている」
桜田「地上最大の生物だね。あ、地下最大か」
木鬼「そのとおり。だけど逆に、そのあまりの夢轍の大きさに接続しようとした薔薇師の意識が
  飲み込まれてしまうこともある。かなり強い精神力をもって臨まないと廃人になってしまうんだ」
桜田「怖い怖い」
木鬼「だから一人前の薔薇師でも薔薇の尾が引ける人はあまり多くない」
桜田「超一流の職人の、超一流の技ってことだね」
木鬼「そんなに褒めないでくれよ」
桜田「僕、槐先生を褒めたわけじゃないけど」
木鬼「いや、だって僕は薔薇の尾引けるもの」
桜田「ええ!?」
木鬼「何そのリアクション。傷つくなあ。これでも昔は腕利きの薔薇師としてブイブイ言わせたんだから」
桜田「どうせ、覗きとかエッチな事ばっかに使ってたんでしょ」
木鬼「ははは、冗談は顔だけにしておきたまえ」
桜田「あやしいなあ…」
木鬼「そもそも、水晶が今回、あの山に人形探しに出たのは僕が薔薇の尾を引いたからなんだよ」
桜田「?」
木鬼「夢轍は夢轍同士で連結して、さらに大きなネットワークを形成している。
  僕ぐらいのレベルになると、一部の夢轍の突起から、そのネットを通して
  山を越え谷を越え検索できる。めちゃくちゃ疲れるから滅多にやらないけど」
桜田「槐先生って何気に凄かったのね」
木鬼「見直したろ。今度から水晶に持たせるお土産、倍にしてね。まあ、そうやって薔薇の尾を引いて
  どこかにローゼンメイデンの遺体のヒントが無いか探していたら…」
桜田「あの山に、それを見つけたんだ」
木鬼「いやあ、流石にそこまで詳しくは分からないよ。ただ、あの山で薔薇の気が渦巻いているのが分かってね」
桜田「薔薇の気が渦巻く?」
木鬼「ただ強力なだけではない異質の薔薇か、それに近い存在がいるはずなんだ。そういうのがいる場合
  周りの薔薇達の気が巻き込まれて渦を形成する。宇宙の銀河みたいなのをイメージしてくれればいい」
桜田「水晶はそれを探していたのか」
木鬼「そうそう。そこまで詳しくは一樹君に説明していないようだけど、山で探し物をするのなら
  薔薇の尾を引くのが一番だ。僕では遠すぎて分からなかったことも、その場でなら分かるだろう」
桜田「でも、難しいんでしょ」
木鬼「だから、これから水晶と一樹君は二人で協力して
  薔薇の尾を引こうとしている。彼ら二人でなら何とかなるだろう」
桜田「二人でやるとどうなるの?」
木鬼「一人が薔薇の尾を引く、つまり夢轍に接続し、もう一人は接続した人が夢轍に引きずり込まれそうになったら
  こちら側に引っ張り返す。要するに安全綱の役割をする」
桜田「ファイト一発って感じ?」
木鬼「うん、まあ…そんな感じ。他にも接続中の薔薇師は完全に無防備状態になるからね。
  それを守るためにも野外で薔薇の尾を引く時は二人以上でやるのがセオリーだ」
桜田「なるほど」
木鬼「それじゃあ今回の講座はこれまで」
桜田「槐先生、ありがとうございました?」
819 :
水晶「大丈夫ですか? 一樹さん」
一樹「あ、ああ。水晶さんが呼び戻してくれなかったら危なかった。だが、収穫はありました。『見えた』」
水晶「人形ですか?」
一樹「いや、大きな石だ。十文字に割れた石が見えた」
水晶「石?」
一樹「ああ、異様な石だった。あの石の周りにだけ、薔薇の気配が全く無い。夢轍もそこにだけ根を張っていなかった」
水晶「……」
一樹「だから逆に目立っていた。その周囲に薔薇の気が渦巻いていた。
  侵入しようとしているのか、吹き飛ばされているのか、風の音がまるで螺旋律の様に鳴っていた…」
水晶(薔薇の気の渦巻き。お父様が感じていたのと同じ…。しかし、石? もしかして遺体が石化しているのか?)
一樹「水晶さんが言っていた人形とは違うかもしれないが、どうします?」
水晶「いえ、おそらくはそれが私の探しているものです。行きましょう。場所は分かりますか?」
一樹「ああ、まかせてください。こっちです」
820 :
  いや、それどころか普通の樹木まで、まばらに…山の精気自体が薄れているのかしら?」
一樹「見えました。あれです。あの石!」
水晶「これが一樹さんが見た十文字に割れた石…」
一樹「間違いありません」
水晶「なんだろう? 何かおかしい、この石」
一樹「おかしい?」
水晶「誰かが、この石を割った? 断面が綺麗すぎる」
一樹「こんな、熊よりも大きな石を、誰が…?」
水晶「…! 十字の割れ目の中心に何かある?」
一樹「ちょ、ちょっと水晶さん。あんまり身を乗り出すと石の割れ目に挟まりますよ?」
水晶「すいません。ちょっと私のお尻を押してください。手が奥まで届かない」
一樹「え? あ、でも」
水晶「早く」
一樹「で、では、不肖ながら押させていただきます」
水晶「よし、掴んだ。次は私の足を持って引っ張りあげて下さい」
一樹「は、はい」
821 :
一樹「いえ、こちらこそ」
水晶「?」
一樹「あああ! いや…どういたしまして! と、ところで『それ』が石の間に
  あったってことは、この石を割ったのも『それ』なんですね」
水晶「そうに違いないと思います」
一樹「なんなんです、それ?」
水晶「『庭師の鋏』…。薔薇を切ることだけに特化した刃」
一樹「そんな物が…」
水晶「この石の周りにだけ、薔薇が寄りつかないのもおそらくは、この鋏の力。
  本来の持ち主の手に無いだけで、鋏の力が暴走してしまっている」
一樹「本来の持ち主?」
水晶「私が探している人形のうちの一体です」
822 :
木鬼「それはいいけど、折角見つけた庭師の鋏の片刃を、その一樹君にあげちゃったのかなあ、君は?」
水晶「あげたのではありません。貸しただけです。一樹さんは薔薇を寄せ付ける体質ですから
  庭師の鋏が片刃あれば、ちょうどいいお守りになる」
木鬼「彼に扱いきれるのかい?」
水晶「腕は確かです。薔薇の尾も、ほとんど私のサポート無しで引けていた」
木鬼「でも、一樹君の生き方は流れの薔薇師。どうやって返してもらうつもりだ?」
水晶「一樹さんも定期的に桜田君を訪れているそうですので私と彼との連絡は桜田君に仲介してもらいます」
木鬼「…可哀想に、桜田君」
水晶「いえ、桜田君にそれほど負担はかけません」
木鬼「ちがーーう。そういうことじゃない。全く、男の機微が分からないやつだ…」
水晶「ええ、よく分かりません」
木鬼「すまない。僕の育て方が悪かった」
水晶「自分を責めないでください。槐先生」
木鬼「…そう言えば、比翼の迷い蛾はどうした? 道教えに食べてもらったのかい?」
水晶「庭師の鋏を触っていたら、いつのまにか迷い蛾が私達から離れていました。
  鋏が払ってくれたのだろう、と一樹さんは言っていました」
木鬼「…鋏の他に、何か見つけたかい?」
水晶「あの後もう一度、一樹さんに薔薇の尾を引いてもらったのですが
  この鋏以外に、ローゼンメイデンの一部と思われるようなパーツは見つかりませんでした」
木鬼「そうか」
水晶「あの石を割ったのは…蒼星石でしょうか?」
木鬼「実物を見たのは君だ。君はどう思う?」
水晶「蒼星石が庭師の鋏を手離すとは思えない」
木鬼「僕もそう思う。だが、桜田君の真紅の呪いの前例もある。
  僕達がまさか、と思うことでも実際には起きていたのかもしれない」
水晶「……」
木鬼「なにはともあれ、早ローゼンメイデンの遺物の一部を見つけられたんだ。幸先のいい出だしだと僕は思うよ」
水晶「そのことですが、一樹さんも人形探しを手伝ってくれるそうです。勿論ローゼンメイデンについては
  私は説明していませんが…。薔薇の怪異がらみで、それっぽいのがあれば連絡をくれると」
木鬼「そうか、一樹君に蒼星石の名前を出さなかったのは正解だね。エデルロゼの中では
  蒼星石は大きな蟹の姿の薔薇の化身とされている。まさか蟹の鋏が庭師の鋏だとは思いもしないだろう」
水晶「ええ、とてもまだ…信じてもらえるとは」
木鬼「焦ることは無い水晶。僕達の巻き返しはまだ始まったばかりだ。
  だが、君は確実に大きな一歩を踏み出した。それには自信を持っていい」
水晶「はい」
薔薇師 05/21 傍ら寂し 【終】
827 :
828 :
水晶「槐先生?」
木鬼「すぐに出立の準備を。今回ばかりは僕も行く!」
水晶「え!? 何をそんなに慌てて…? 薔薇の尾を引いて何を見つけたのです。槐先生が出るほど重要な…?」
木鬼「いや、違う。薔薇の気の渦巻きじゃないが、とんでもないのを見つけてしまった。
  手遅れかもしれないが…水銀『痘』だ!! 村一つが全滅しかかっている!」
水晶「水銀痘!?」
木鬼「くそ。こんなになるまで気付けなかったとは…詳しくは道すがら説明する。荷物を持って早く出るんだ」
829 :
木鬼「水銀痘に冒されている村は山二つ向こうだ。このペースで歩けば、日の出ている内に着くだろう。
  それが間に合うと言えるのかどうかは、着いてみなければ分からないことだが」
水晶「……」
木鬼「僕達の住んでいる村も下手すると感染してしまう距離だ。今の内に抑えないと…」
水晶「槐先生、他にもいくつか聞きたいことがあるのですが?」
木鬼「ああ、歩きながら説明する約束だったしな。どこから話そうか?」
水晶「では、村が全滅しかかっているという事態から。
  水銀痘は感染力は強いものの、死にいたる薔薇病では無いはず」
木鬼「突然変異だ。薔薇の尾で見えた村人達の症状は、皮膚に黒い逆十時が浮かぶ水銀痘のそれだった。
  しかし、衰弱の程度が激し過ぎる。既に死人も出ていた」
水晶「突然変異?」
木鬼「水晶が知らないのも無理は無い。水銀痘は薔薇師の記録よりも、医家の記録の方に詳しく残されている。
  疫病としてね。だが薔薇師が見ればすぐ分かる、薔薇の仕業だ」
水晶「……」
木鬼「従来の水銀痘が大流行した後に、致死率の高い水銀痘と同様の薔薇病が出ることがある」
水晶「それが突然変異した水銀痘?」
木鬼「そうだ。感染を繰り返す中で変異したんだ。だが、その確率は僅か。だから先ず普通の水銀痘の大流行がある」
水晶「え、でも…」
木鬼「そうだ。ここ最近、水銀痘が少しでも流行しただなんて話は聞いたことが無い」
水晶「……」
木鬼「急ごう、水晶。何か嫌な胸騒ぎがする」
830 :
木鬼「そうです。一から説明している暇は無いが、この村の病気を治しに来ました」
村長「あ、ありがとうございます。も、もう駄目かと。
  外に医者を呼ぼうにも、まともに山歩きを出来る体力が残っている者がおらんのです」
水晶「どうしてこんなになるまで放っておいたのです?」
村長「そ、それが村のあちこちで死人が出始めてから二日でこの有様に」
水晶「二日で…」
村長「それに、皆の症状がまだ軽い時期に
  一度は旅のお医者様に治していただいたのですが、あっという間にぶり返して」
木鬼(旅の医者? 薔薇師か? 治療に失敗したのか…いや、それよりも今は)
水晶「何人、お亡くなりに?」
村長「既に二十人を越えております」
木鬼「多すぎる。最初に死んだ人間の身内で生き残っている方は?」
村長「わ、分かりません。一昨日に突然、何人も死んでいて。それも、血縁でも隣近所でもない者たちが…」
木鬼「…ご遺体は?」
村長「恥ずかしながら…浅く埋めただけです。皆、墓を掘るだけの体力を奪われているのと、恐怖から」
木鬼「分かりました。村長、集会所を借ります」
村長「う、うむ。何でも好きに使ってください」
木鬼「水晶、君は村の家全てを回って這ってでも集会所に来るように伝えてくれ。そこで治療薬を施す。まだ間に合う」
水晶「はい」
木鬼「どうしても動けない者がいた場合は、あとでその家を僕に教えてくれればいい」
水晶「はい」
木鬼「そして、酷なことを頼むが…」
水晶「分かっています。住民に通達した後、遺体を掘り返し、全て燃やします」
村長「!!」
木鬼「死体からも感染するのです。村長、この村の外に被害を広げないためにも、ご理解願います」
831 :
少年「お姉ちゃん、誰?」
水晶「…! 失礼、気付きませんで。はじめまして、私は水晶。この村にやってきた槐先生の助手です」
少年「ああ、あの金髪の先生の。それで、何しているの? こんなとこで?」
水晶「亡くなられた方の遺体を燃やしているのです」
少年「どうして?」
水晶「遺体を食べたカラスが病気を媒介するのです」
少年「ふぅん。焼かれて熱くないのかな、みんな」
水晶「すいません。こうするしか」
少年「……」
水晶「もう、あなたは注射を打ってもらったのですか」
少年「うん。凄いね、あの先生に薬もらったら皆すぐに元気になっちゃった」
水晶「それは良かった。ですが、病み上がりには変わりありません。
  あまり、外を歩き回っていては親御さんが心配されますよ」
少年「ボクのお父さんとお母さんは、そこで燃えてる」
水晶「…!」
少年「ボクの元気になった姿を見せれば、安心するかなと思って来たんだ」
832 :
老人「あ、ありがとうございます。あ、あの…」
木鬼「お代なら結構です。お大事に」
老人「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
水晶「お疲れ様です、槐先生。この家で最後です。これで、この村の全ての人に薬を与え終わりました」
木鬼「君もお疲れ様、水晶。集会所に戻ろう、今日はあそこに泊まらせてもらえるように村長の許可は取っている」
水晶「はい」
833 :
木鬼「ああ、流石に腰に来たな。水晶も今日は歩き尽くめで疲れたろう」
水晶「いえ…」
木鬼「どうした?」
水晶「水銀痘で親を失った子も多いようですが、彼らはこれから…?」
木鬼「同じように、子を失った親も多い。そのあたりは村長がうまく養子縁組させるだろう」
水晶「そう…ですか」
木鬼「なかなかしっかりした村長だよ、あの人は。遺体も浅くとは言え、土に埋めたから
  それほどカラスにやられていなかった。これが野晒しだったら、もっと酷いことになっていた」
水晶「……」
木鬼「水銀痘を媒介するのがカラスだとは知らずにやったんだろうが
  それでも結果的には、この地域の村々全てを守ったと言ってもいい」
水晶「でも、私達がもっと早く来ていれば…誰も」
木鬼「水晶…」
水晶「薔薇の仕業の前に、これほど自分の無力を感じたことはありません」
木鬼「それは僕も同じだ。だが水晶、これから言う話を落ち着いて聞いて欲しい」
水晶「?」
木鬼「これは薔薇の仕業じゃない。人の仕業だ」
水晶「!!」
木鬼「…水銀痘の大流行を経ずにの突然変異。
  一つの家族からではなく、複数の家族からの同時多発的な発症。これは人為的な干渉によるものだ」
水晶「そ…そんな」
木鬼「君も話には聞いたことがあるだろう。黒薔薇師のことを」
水晶「自らの私利私欲の為に、薔薇を使う者達……」
木鬼「この村の人達、みんな僕に『お代は?』って聞いてきていただろ?」
水晶「そう言えば…」
木鬼「僕らより先に来た薔薇師だか医者が(普通の)水銀痘を治療した際に結構な報酬を要求したらしい」
水晶「……」
木鬼「あまりに高いんで村長が代表して交渉したところ、その薔薇師も折り合いをつけ治療を施して去っていった」
水晶「その薔薇師が黒薔薇師?」
木鬼「だと思う。故意に水銀痘をばら撒いて、その治療を高額で受ける…というのは黒薔薇師が行う詐欺のひとつだ」
水晶「わざと…」
木鬼「通常の水銀痘は感染力は高いが弱毒性だ。体が不調になる程度だが症状は長い。
  無知な村人からすれば恐ろしい病に見える。そこを煽る」
水晶「なんてことを」
木鬼「だが水晶! 今回の奴はもっとひどいことをしたんだ。まるで悪魔か、鬼のやることだ! 許されることじゃない!」
水晶「え、槐先生?」
木鬼「す、すまない。つい激昂した。しかし、よく聞いてくれ、水晶。
  その黒薔薇師が水銀痘感染者に打ったのは薬じゃなかったんだ!」
水晶「まさか」
木鬼「突然変異を促す毒だ」
水晶「…ッ!!」
木鬼「薔薇を異常に成長させたり、混乱させたりする薬物はゴマンとある。黒薔薇師は特にそういうのにも精通している」
水晶「嘘でしょう、お父様? そんな恐ろしい真似を、人が…人に?」
木鬼「僕だって、嘘であってほしいと思う。最初は水銀痘の治療に失敗したんだと思った。
  けど、僕の治療を見てただろう水晶。突然変異した水銀痘でさえ、あの簡単な処方で薔薇落としできるんだ」
水晶「……」
木鬼「まともな薔薇師なら、しくじるはずがない」
水晶「ど、どうして、その黒薔薇師は、そんなことを」
木鬼「支払いを渋られた腹いせにしては手が込みすぎている。きっと…」
水晶「きっと?」
木鬼「いや、明朝に確かめてからにしよう。寝る前に悪い話を聞かせてすまない。今日はもう休むんだ、君も…僕も」
水晶「…はい」
834 :
  そして位置的には、村を一望できるこの山間が怪しい。昼飯前に何とか見つけられればいいが」
水晶「槐先生、こっちに来てください」
木鬼「見つけたのかい水晶?」
水晶「はい。こちらが、おそらく槐先生の探している方に間違いないかと」
死体「……」
木鬼「やはり、近くの山に篭っていたな」
水晶「彼…いえ、この死体が昨夜に槐先生が話していた黒薔薇師なのですね」
木鬼「ああ、そうだ。今、彼の荷物を漁って分かった。これは水銀痘のタネだ。
  ということは、こっちの粉末が突然変異を促す薬かな」
水晶「何故、死んでいるのです?」
木鬼「薔薇の尾を引くのに失敗したんだよ。
  魂を夢轍(ゆめわだち)に持っていかれてる。村人が全滅するのを、監視していたんだろう」
水晶「監視…?」
木鬼「村が滅んだところで金目のものをさらっていくつもりだったのさ」
水晶「……」
木鬼「素直に法外な支払いを呑めば好し。断られれば殺して奪う。それがこいつのやり方らしい」
水晶「……」
木鬼「ところが、僕達が昨日やってきて治療を始めたもんだから、気が気でなくなって薔薇の尾を引き続けたんだろう」
水晶「昨日の私達の行動が筒抜けだったのですか? 見られていたことに全然気付かなかった」
木鬼「僕もだ。流石は黒薔薇師と言ってやろうか。憎たらしいまでに完璧な薔薇の尾の引き方だ。
  だが、僕達に気を取られすぎていた、その一瞬を…」
水晶「夢轍に引きずり込まれた」
木鬼「そうだ。この死体をよく見ておくんだ水晶。これが黒薔薇師の…私欲に薔薇を使う者の末路だ」
死体「……」
水晶「……」
木鬼「念のため、この死体も火にかける」
水晶「彼の荷も一緒に燃やしますか?」
木鬼「いや、持ち帰って解析する。黒薔薇師間の繋がりが分かるかもしれないし、今後の似たような事件の対策にもなる」
835 :
水晶「槐先生、お風呂の用意が出来ました」
木鬼「ありがとう、水晶。久しぶりに一緒に入る?」
水晶「結構です」
木鬼「あ、そう。じゃあ先に入っちゃってくれないか。もう少しで調査に一区切りつきそうだからさ」
水晶「例の黒薔薇師のこと、詳細が分かったのですか」
木鬼「ま、だいたいね。あいつ、丁寧に日記なんかつけてやがったよ。いや、収穫の記録と言った方が正しいかな」
水晶「記録…」
木鬼「ずっと同じようなことをして、各地を回っていたらしい。十は下らない数の村を滅ぼしている」
水晶「そんなに!?」
木鬼「とんでもない奴だよ、黒薔薇師ってのは本当に。
  簡単に十も村を殺せるんだから、こっちは一つ助けるので精一杯なのに…」
水晶「……」
836 :
水銀燈は七薔薇の最初に数えられる薔薇であり、始まりの薔薇であると。
始まりは闇に包まれていた。水銀燈は闇から生まれ、闇をまとった大烏の姿をした薔薇だった。
その胸には逆十字の傷がある。それは同じく七薔薇の一つで
大蟹の姿をした蒼星石に付けられた傷であるとも、生まれた時から既にあった傷だとも伝えられている。
水銀燈が大烏の姿をしているため、昔から薔薇師達はカラスを水銀燈の使いだと信じていた。
故に、カラスが媒介するこの病に水銀痘という名を付けた。病原の正体は一微にも満たない小さな薔薇だ。
水晶(あなたならどう思うのでしょう、水銀燈。自分の名前が元になった病気があることを。
  ふざけるなと怒るでしょうか? それとも、くだらないと笑うでしょうか?)
―――風呂に浸かりながら薔薇水晶は考える。
あまりにも、あの日々とは違うこの世界に、今でもまだ自分は夢を見ているのではないかと。
しかし、薔薇水晶はすぐにこれも現実だと気付かされる。
何故なら水面に映る自分の顔が、右目の無いあの白薔薇の顔を常に思い出させるからだ。
薔薇師の水晶 06/21 黒い蝕み 【終】
837 :
838 :
水晶「……」
河童「おいおい、随分とスルースキルが高いじゃねーか。
  普通の人なら俺を見た瞬間、そりゃワーキャーとフィバるもんだYO!」
水晶「…お静かに、魚が逃げます」
河童「あのねぇ、俺、河童YO? 河童。もっとホットなパッションを俺に向けてもいいじゃんかYO!」
水晶「……」
河童「何、その目。信じる要素0mg配合って感じがプンプンするYO!」
水晶「どこにそんな自己主張の強い河童がいますか」
河童「この皿、緑色に濡れた肌、背負った甲羅、クールな水掻き、くちばし。これが河童で無くて何だって言うんだYO!」
水晶「…翠物(みどりもの)という、このような淀んだ沼や池に棲む、藻のような薔薇がいます」
河童「薔薇ぁ?」
水晶「水の中に落ちた生き物の死骸に取りつき、自分の栄養とするのですが
  ごく稀に、気の早い翠物は、溺れている生物にも取りつきます」
河童「ほうほう、それでそれで?」
水晶「さらに欲張りの度が過ぎる翠物は複数の生物を取り込み
  それらを消化するだけならまだしも、一つの合成生物(キメラ)にすることが有ります」
河童「へぇ?! へぇ?! あんた物知りだねぇ」
水晶「翠物に取り付かれた生物は体色が緑に変化するので判別が容易です」
河童「……」
水晶「……」
河童「ねぇ…、それってもしかして俺のこと?」
水晶「近くの村で、この沼が何と呼ばれているかご存知ですか?」
河童「そりゃあ、河童様の出る神聖な…」
水晶「一週間前に、酔った馬鹿がカメとアヒルを担いで溺れた沼…だそうです」
河童「ホーリィシットッ!」
水晶「分かったのなら、もう私の邪魔をしないでください」
河童「ちょ、ちょっと待ったぁーー!! ウェイト・ア・モーメント!」
水晶「なんです? さっきから少しずつウザさが増していますよ」
河童「あらやだ! この子、結構辛辣!? っと、それはさておき! クチバシ、水掻き、甲羅と
  緑色の肌は百歩譲って翠物のせいだとしよう。だが、だったらこの頭の皿はどう説明する!?」
水晶「溺れた馬鹿は、それは見事なテッペンハゲだったそうです」
河童「ブッダファック!! 自前かYO!」
水晶(うるさいなぁ…)
河童「正直おかしいとは思ってたさ。俺、河童なのに泳げないし。1週間以上前の記憶は無いし。
  そうか、酔っぱらっていたから河童になる前を覚えてないのか」
水晶(色々とツッコみたいけどテンション下がって静かになって来ているから、ほっとこう…)
河童「でもYO! 大切なのは過去ではなく未来! 未来だYO! Youもそう思うだろ!?」
水晶(あ、立ち直り早い)
河童「むしろ、俺は君に感謝している。真実を伝えてくれた君は天使だ。女神だ。俺の嫁だ」
水晶「勝手に生涯の伴侶にしないでください」
河童「Oh! 今まで黙っていたのに、そこは刹那のタイミングで否定するのかYO!
  おじさん、悲しみの涙でまた溺れちゃうYO!」
水晶(どうしよう。凄くウザい…)
839 :
水晶「では、黙っててください」
河童「そいつはノーサンキュー! そんなネガティブなことじゃ、人生損しちゃう!
  折角の願い、もっと有意義に使わなくちゃ駄目駄目ダメットさんYO!」
水晶「あなたと出会ったことが、私の人生最大の損失で…」
河童「よーし! それじゃあ、おじさん! 勝手に恩返ししちゃうぞーー!」
水晶(勢いで強引に無視された…タイミングといい、声の大きさといい、できる)
河童「最初に、魚を釣ってるって言ってたがそんなボロい釣り竿じゃあ釣れるもんも釣れないYO!」
水晶「……」
河童「おじさん、すごい釣り竿持ってるんだけどなぁ?? どんな魚も入れ食い間違いなし!」
水晶「……」
河童「カーボン入りだし」
水晶「……」
河童「浮きも二個付いてるよね」
水晶「下ネタか」
840 :
河童「ごめんなさーーーい! 帰らないで! お願ーーい! 謝るからーーッ!! ずびばぜんでじだーーーーッ!!」
水晶「……」
河童「調子こいて本当すみませんでした。(河童になってから)初めて会った人なんで
  嬉しさのあまり舞い上がっちゃってました」
水晶「……」
河童「それじゃあこうしようYO! 俺が今から沼に潜って、Youが狙ってる魚獲ってきちゃう! どう? これで?」
水晶「泳げないのでは?」
河童「泳げないけど、水の中は歩けるんだYO! 息は結構続くからね。
  よーし、それがいい。そうしよう! で、何釣ってんの? 鯉?」
水晶「ええ、鯉ですが、ただの鯉ではありません。両目、あるいは片目が重瞳(ちょうどう)の鯉を探しています」
河童「重瞳…? 何だいそりゃ? それも薔薇ってやつかYO?」
水晶「はい、見分け方は簡単です。一つの眼の中に瞳が二つ、あるいはそれ以上あります」
河童「目ん玉の中に黒目が二つ以上? そいつぁバッドフィーリング!」
水晶「目の中に薔薇が寄生することでそうなります」
河童「もっと詳しく聞かせてくれYO!」
水晶「…重瞳は宿主を何度も変える薔薇です。最初、重瞳の卵は水中にありますが
  それを食べた魚に先ず寄生します。その後、その魚を食べた鳥や猪などにまた寄生する」
河童「ふむふむ」
水晶「そうやって宿主を変えながら成長した重瞳はやがて生まれた沼に帰り、そこで産卵します」
河童「どうやって帰るんだ? まさか目ん玉からポロっと出ちまうのかい?」
水晶「生命の神秘……としか言えませんが、産卵が近付くと重瞳は宿主を操り
  生まれた沼へと向かわせます。この仕組みについては、まだまだ薔薇師の研究課題です」
河童「……」
水晶「そして、宿主が水を飲もうと水に顔を近付けた瞬間
  重瞳は宿主に涙を流させ、それとともに卵を沼に放ちます。これが重瞳の生活史」
河童「どうしてYouは鯉だけ探しているんだい? その話だと重瞳はいろんな生き物にいると思うんだが。
  この沼には鯉以外にも魚はいっぱいいるYO!」
水晶「重瞳に寄生されていて尚且つある程度以上の大きさの眼球が、私には必要なのです。
  鳥や猪を捕らえるのは骨が折れますから この重瞳が棲む沼で大型の魚類に的を絞ると…」
河童「なるほど・ザ・ワールド。で、最初に聞くべきだったけど、なんで重瞳を探してるの?」
水晶「義眼の材料になるのです。見ての通り、私は片目を失っているのですが
  重瞳に寄生された目玉を加工すれば、目の代わりになるので」
河童「その眼帯はファッションじゃなかったのね」
841 :
水晶「……」
木鬼「なんだこりゃ? ボウズじゃないか? 珍しいな、君が不漁だなんて」
水晶「河童にカラまれました」
木鬼「かっぱぁ!?」
水晶「あの沼には、重瞳だけでなく翠物も棲んでいたようで溺れた人がアヒルとカメと合成されていました」
木鬼「はぁ?。珍しいこともあるもんだ」
水晶「それでひとしきりカラまれた後、重瞳のことを説明したら…
  明日もう一度来て下さい。特大の重瞳とやらを差し上げますYO! と言われました」
木鬼「なんじゃそりゃ。で、明日も約束通り行くつもりなの?」
水晶「あのまま居座っても一向に釣れる気がしないので、河童にお任せすることにしました」
木鬼「胡散臭いねぇ。実に胡散臭いねぇ」 
水晶「兎も角、明日もう一度出かけてきます」
842 :
水晶「どうしました槐先生、朝も早くから? 私はもうすぐ河童さんとの約束で沼に出かけるつもりですが」
木鬼「今朝、誰かが軒先に桶を置いてったらしくて、その中を覗いたら」
水晶「捨て猫でも?」
木鬼「眼球が一つ入ってた! 重瞳が寄生している! それも君が昨日話してくれていた河童の眼球だ!!」
水晶「ッ!?」
木鬼「重瞳に寄生されていたんだよ。その河童」
水晶「でも、彼の目の中には瞳は一個しかありませんでしたよ」
木鬼「良く見るんだ。…この河童の瞳は緑色をしているな」
水晶「そ、それは翠物が取りついていたから…、まさか?」
木鬼「寄生していた重瞳が本来の瞳と一つに合成されていたんだ。翠物によってな」
水晶「……」
木鬼「君宛の手紙も入ってた。どうやら、明日また来てくれと言ったのは河童がこの手紙を書くための時間稼ぎだったようだ」
水晶「あの河童が…手紙を」
843 :
おじさん、Youの話を聞いている内に全部思い出しちゃったんだYO!
酔っぱらって沼にフォーリンダウンしたわけじゃなかった。
あの時、俺は急激に喉がドライ、つまり渇いて渇いてどうしようもなかった。
そんで通りがかった沼で水を飲もうと思ったら、突然視界が涙で滲んで前が見えなくなって転んで落ちたんだYO!
その時、暴れてたらカメとかアヒルとか掴んだかもしれないような気がするYO!
あれ、これってもしかして酔っぱらって落ちたより恥ずかしくなくない?(笑)
そうそう、それで重瞳の話を聞いてさらに思い出した。おじさん、まだ人間だった頃、ズバリ左目がその重瞳だったんだYO!
あの沼で獲った重瞳の鯉、鍋にして食べちゃってたんDE☆SU☆YOー!
食いしん坊でごーめーんーなーさーい!!
そういうわけで、おじさんの左目あげちゃう。それも取れたてピチピチ。鮮度が違う。産地直送。マジで活きがいい。
遠慮なんかしなくていいから。それともキモイって捨てちゃう?(泣)
若い子と話せて本当楽しかった。そのお礼。
約束通り、鯉なんかより大きいでしょ? おじさん大きさには自信あるんだよね?!
おっと、また下ネタ出ちゃった。メンゴメンゴ。
追伸
なんか今いる沼にもソッコー飽きたんで引っ越すことにしました。
縁があれば、また会うこともあるでしょう。その時は、ヨロシク36! 愛してるぜベイベッ!!
844 :
木鬼「義眼化と移植の準備、始めるよ水晶?」
水晶「はい…」
木鬼「河童さんの意思を無駄にしちゃいけない」
水晶「はい…」
木鬼「さ、こっちへ来て」
水晶「お父様…」
木鬼「何だい?」
水晶「この左目でなら…私もまた涙を流せるようになるのでしょうか」
木鬼「ああ、きっと流せるようになる。あとで一杯泣くといい…薔薇水晶」
―――ローゼンメイデンは涙を流せるが、薔薇水晶には涙を流す機能は無かった。
アリスゲームの果てにローザミスティカを(一次的に)六つ得た薔薇水晶は涙を流す機能を手に入れ
実際に涙を流したがその後アリスゲームはリセットされ、白薔薇に涙ごと左目を差し出した。
差し出した物は光と涙だけでは済まず、薔薇水晶はその空いた左の眼窩に白薔薇の呪いを受けることとなった。
その左目の穴は寿命。だんだんと広がっていき、やがて薔薇水晶全てを飲み込み、消し去る。
今まで、重瞳を宿した生物の眼球を加工して目の代わりとすることで穴の進行を抑えることができたが
一時しのぎに過ぎず、いつの間にか白薔薇の闇にその目玉は食われ、また穴が広がりだす。
しかし、今度の目玉は元・人間の眼球である。
しかも重瞳が翠物によって眼球に完全に融合されている。正直、これ以上の好条件は望めないだろう。
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