ソーニャ「やすなと同棲することになった」back

ソーニャ「やすなと同棲することになった」


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1:
ある日の帰り道――やすなとソーニャは、いつものように並んで歩いていた。
やすな「……」
ソーニャ「……お前、今日一日、元気無かったな」
やすな「……うん」
ソーニャ「正確に言えば……ここ1?2週間、ずっとだ」
やすな「……ソーニャちゃん、気付いてくれてたんだ」
ソーニャ「まあな。 様子がおかしいとは思ってた。 何かあったのか?」
やすな「……」
 やすなはいつの間にか立ち止まり、うつむいて震えている。 その顔は今にも泣き出しそうであった。 その尋
常でない様子に気付いたソーニャも思わず立ち止まる。
ソーニャ「おい」
やすな「私、ソーニャちゃんに言わなきゃいけないことがあるの」
ソーニャ「何だよ、急に改まって……」
3:
やすな「私、転校することになったの」
ソーニャ「えっ……」
 突然のやすなの告白に、ソーニャの思考が一瞬停止する。
ソーニャ「お前、転校、って……」
やすな「親の仕事の都合で……」
ソーニャ「……そうか」
 ソーニャはそう呟いて口をつぐんだ。 じゃあ、もうお前のうっとおしい顔を見なくても済むんだな――そんな
軽口を叩こうとしたが、唇が震えて思うように言葉が出ない。 いつもの冗談か? という希望的推測が頭を一瞬
よぎったが、冗談を言っている雰囲気ではないのは明らかであった。
ソーニャ「……寂しく、なるな」
やすな「うん」
4:
ソーニャ「いつ?」
やすな「……2週間後」
ソーニャ「急だな……」
やすな「……昨日まで、ずっと両親と交渉してたの。 私は独りでこっちに残るって。 でも、両親は、高校生の娘
の独り暮らしは認められないって、大反対で……」
そこまで言うと、やすな大粒の涙をぽろぽろと零し始めた。
やすな「がんばって親を説得しようとしたんだけど……ダメだった。 私、もう、ソーニャちゃんに会えなくなっちゃ
う……」
ソーニャ「おい、泣くなよ。 転校しても、メールで連絡取り合えばいいし、たまに休日に会うことだってできるだろ?」
やすな「……うん。 そうだね……ありがとう、ソーニャちゃん」
それからふたりは、夕暮れの通学路を並んで帰った。 どちらも、俯いたままで一言も喋らなかった。
6:
その夜――
 ソーニャは部屋に帰って鞄を放り投げると、暫くぼんやりとしていた。 夕飯を食べる気にもならなかった。
それからソーニャは、シャワーを浴びて髪を乾かすと、ベッドに倒れこんで天井を見つめた。
 ソーニャにとって、やすなは煩くてうっとおしい相手であったが、それでも確かに友達といえる存在だった。
 もともとソーニャは、自分の仕事の都合でやすなと会えなくなるのは覚悟していた。 いつ何時、命を落とすか
もしれない。 組織の命令で、遠い地に赴かなければならないかもしれない。 ソーニャは、自分の方からやすな
に別れを告げる練習も脳内で済ませていたのだ。 仕事の都合で転校するパターン。 瀕死の重傷を負って最
期の言葉を残すパターン。 いろんなパターンで、やすなとの別れをシミュレートしていた。 だから、別れはつら
くない、はずであった。 しかし……ソーニャは、自分が『残される側』になる覚悟はできていなかった。
ソーニャ「やすなの奴、あれだけ私に付きまとっておいて、自分からいなくなるなんて」
 いや、あいつにはその方がいいのかもしれない……と、ソーニャは思う。 自分の都合で別れるのだから、あい
つ自身も納得しやすいだろう。 新しい学校に転校すれば、新しい友達もできて、私の事などすぐ忘れるだろう。
それが良い。 殺し屋の友達なんかと一緒にいるよりも、普通の友達を作った方が、あいつにとっては、ずっと……
 そこまで考えて、ソーニャは自分が泣いていることに気付いた。 私はプロの殺し屋だぞ、友達と別れるくらい
のことで流す涙など無い――そう自分に言い聞かせても無駄であった。
ソーニャ「やすな……」
7:
次の日、教室
やすな「ソーニャちゃん! おっはよう!!」
ソーニャ「……だいぶ元気が戻ったみたいだな」
やすな「うん! だって、あと2週間しかソーニャちゃんと一緒にいられないし、くよくよしてもしょうがないもんね!」
ソーニャ「……そうか」
やすな「あっれー? どうしたのソーニャちゃん? 元気ないね? もしかして私と会えなくなるのが寂しいの? ん? ん??」
ソーニャ「……馬鹿。 『寂しくなる』って、昨日言っただろ」
やすな「……や、やめてよソーニャちゃん、そういう湿っぽいの。 せっかく私が……」
ソーニャ「私はお前みたいに馬鹿じゃないから、カラ元気で自分をごまかすようなことはできない」
やすなは、シュンとして自分の席に座る。 そして、また昨日の帰り道のように俯いて泣きそうな顔になるのであった。
やすな「でも……ありがとう、ソーニャちゃん」
ソーニャ「何が」
やすな「どうせ、『私はプロの殺し屋だから、お前がいなくなろうがどうでもいい』とか、言われると思ってた」
ソーニャ「……そのつもりだったけど……どうも私は、プロとしてはまだ半人前らしい」
やすな「ソーニャちゃん……」
9:
ソーニャ「なあ、やすな……私、考えたんだが」
やすな「……なに?」
ソーニャ「お前の両親、独り暮らしでなければ、こっちに残るのを許可してくれるのか?」
やすな「どういうこと?」
ソーニャ「例えば……ルームメイトとか」
やすな「それは私も考えたんだよ……でも、この学校の近くで都合よくルームメイト募集してるとこって無いんだよ
ね。 それに、肝心のルームメイトが信用できる人じゃないと、親も認めてくれないだろうし」
ソーニャ「それじゃあ……その……私と一緒に暮らすことにすれば、どうかな?」
やすな「えっ?! それってつまり……私がソーニャちゃんの部屋に『同棲』してもいいってこと?!!」 (ガタッ
ソーニャ「ば、馬鹿!! 声がでかい!! クラスの奴らに聞かれるだろ! そうじゃなくて……」
やすな「なんだ……そうじゃないのか……」
10:
ソーニャ「お前が、自分の両親に、私のことを『ルームメイト』として紹介するだけでいい。 それでお前の両親が
私のことを信用してくれれば、こっちで暮らすことを許可してもらえる可能性があんだろ? 許可して貰えれば
こっちのもんだ。 お前は独り暮らしでもなんでもすればいい」
やすな「要するに、ソーニャちゃんをダシにして、親を騙すってこと?」
ソーニャ「ダシにするって言い方は気に食わないが……まあ、そういうことだ」
やすな「うーん、どうだろう……。 親に嘘つくのは、ちょっと……。 それに、仮にそうするとしたら、親に部屋を
借りてもらうわけにはいかないから、自分でなんとかしなきゃ。 私、自分で部屋なんか借りれるかなぁ。 高校生
だし、お金無いし」
ソーニャ「そこは私に任せろ。 殺し屋が複数のセーフハウス(隠れ家)を確保しておくのはめずらしくないからな。
組織に申請すれば、すぐに新しい部屋を手配してくれる。 私がいま住んでる部屋も、組織が用意してくれたも
のだ」
やすな「ホントに?! 凄い!!」
 やすなの顔が、希望で少し明るくなる。
やすな「あ、でも、組織が用意した部屋を、私が使ってもいいの?」
ソーニャ「ああ。 セーフハウスの管理は、個人の裁量に任されてるから。 例えば、赤の他人を一時的に住まわ
せて世間を欺くこともある。 それに、殺し屋が自分のセーフハウスに恋人を匿ったりするのはめずらしくない」
やすな「こ、恋人だなんて……そんな……私……」(赤面)
ソーニャ「ば、馬鹿! 違う! 勘違いすんな!」
13:
それからはトントン拍子に決まった。 やすなの両親は、自分たちの娘が『ルームメイトと一緒に暮らす』と言い
出したことに対して、最初のうちは反対していたが、ソーニャが用意した小綺麗な1LDKの部屋を見に来て、考
えを変えたようであった。
 リビング兼ダイニングは、真新しいテーブルセットとソファが置かれて快適そのものであった。 寝室には二段
ベッドが置かれており、2人ぶんの布団が既に用意されていた。 全て、ソーニャが所属している組織が手配した
ものである。 最近流行りのルームシェアではなく、相部屋(ドミトリー)といった生活環境であるが、高校生が2人
で住むスペースとしてはかえって説得力があった。
 ところで、やすなの両親も、娘に『ソーニャ』という名前の親しい友達がいることは知っていた。 だから、ルーム
メイトとして『ソーニャ』の名前を出せば、両親を安心させることは簡単だっただろう。 だが、この部屋が『ソー
ニャ』のセーフハウスであるという情報を外部に漏らすわけにはいかなかった。 ソーニャは変装して偽名を使い、
やすなとは別の学校に通っていると偽って、両親に挨拶した。
「ワタシハ、いたりあカラノ留学生デ、日本人ノ女ノ子ノるーむめいとヲ募集シテイタトコロナノデス」
と、ソーニャはわざと片言の日本語で、やすなの両親に説明した。 むろん、イタリアからの留学生というのは大
嘘である。 だが、そうやって海外からの留学生を演じ、ルームメイトとの生活に慣れているフリをすれば、すぐに
両親を信用させることができた。
 やすなの両親は、自分たちの娘が、留学してきたばかりという見知らぬ外国人の少女と親しげにしているのを
見て意外そうにしていたが――2人の共同生活に心配はなさそうだと判断した様子だった。
 結局、やすなの両親は、毎月生活費を仕送りをしますと約束して帰っていった。
14:
両親の許可が下りた後、やすなは大はしゃぎであった。
やすな「ねぇねぇソーニャちゃん! 二段ベッドの上と下、どっちがいい? 私は上!!」
ソーニャ「好きに使え。 その二段ベッドは、お前の両親を騙すためだけに用意したものなんだから」
やすな「えー? いいじゃん! ここで一緒に暮らそうよ! そしてこのベッドで一緒に寝ようよソーニャちゃん!」
ソーニャ「ば……馬鹿なこと言うな! そんなわけにいくか!」
やすな「ブーブー!!」
 やすなは不満そうに言うが、その顔は嬉しそうであった。
やすな「ありがとう、ソーニャちゃん。 私、これでまた、ソーニャちゃんと一緒の学校に行けるよ」
ソーニャ「ああ。 独り暮らし、大変だろうけど頑張れよ」
やすな「うん」
ソーニャ「じゃあな。 また明日」
 ソーニャはそう言って、やすなを残して部屋を出た。 これで良かったんだろうか? ソーニャの心に一抹の
不安が生じる。 私がこんなことしなければ、やすなは転校して、殺し屋の世界とは縁を切ることができたはず。
それなのに、私は……
 ソーニャはそこまで考えて、首を振った。 ――私は今まで、自分のセーフハウスに恋人を匿うような殺し屋を
軽蔑していた。 でも、もう、そういう連中のことを馬鹿にできないな。 ……別に、やすなは私の『恋人』とかじゃ
ないけど。
15:
次の日、教室
やすな「おはよう、ソーニャちゃん!! いやぁ、初めての独り暮らし、朝が大変だったよ!」
ソーニャ「……」 (ゲッソリ
やすな「ど、どうしたの、ソーニャちゃん? 青い顔で頭を抱えて」
ソーニャ「私としたことが……うっかりしていた……組織の規律を……くそっ……大失敗してしまった……」
やすな「大失敗? 何? まさか……お仕事で何かあったの??」
ソーニャ「今朝、組織から連絡があって……」
やすな「う、うん……」
ソーニャ「私の組織……私みたいなヒラの構成員には、セーフハウスを1つしか支給してくれないらしいんだ」
やすな「えっ……つまり、どういうこと?」
ソーニャ「つまり……新しくセーフハウスを支給してもらった以上、私がいま住んでる部屋は数日以内に引き払わ
ないと、組織の規律違反になってしまう……」
やすな「ええっ? じゃあ、ソーニャちゃん、これからどこに住むつもりなの?」
ソーニャ「そ、それなんだが……」 (チラッ
やすな「……むふふ……やっぱり私たち、一緒に暮らす運命だったんだね、ソーニャちゃん!」
ソーニャ「くそっ……くそっ……なんでこんなことに……」
17:
数日後
ソーニャは今まで住んでいた部屋を引き払うと、荷物を持って新しいセーフハウスへとやってきた。
やすな「えっ? ソーニャちゃん、引越しの荷物それだけ?」
ソーニャ「学校の勉強道具と、着替えと、簡単な小物と、あとは仕事道具」
やすな「そ、それにしても……着替えがこれだけって……一泊旅行並みじゃん」
ソーニャ「なんだよ? 別にいいだろ。 私服なんか持ってないし」
やすな「はぁ、ソーニャちゃんったら……。 私と一緒に暮らしているあいだにオシャレに目覚めさせてあげないと
いけないね」
ソーニャ「余計なお世話だ」
やすな「でも意外。 ソーニャちゃん、テニスとかギターとかの趣味があるんだ」
ソーニャ「あ、触るな! そのラケットバッグとギターケースには仕事道具が入ってる」
やすな「じゃあ、こっちの怪しげなジェラルミンケースは?」
ソーニャ「当然、こっちも中身は仕事道具だ」
やすな「……」
ソーニャ「最初に言っておくが、同居人として最低限のプライバシーは守ってもらうぞ。 特に、私の仕事道具に
手を触れたりしたらタダじゃおかない……」 (ゴゴゴゴゴ
やすな「は、はい……肝に銘じておきます……」
18:
ソーニャ「……しかし、寝室が相部屋とはな……。 こんなことになるなら、ふたりのプライバシーをちゃんと確保
できるように、寝室が2つに分かれている部屋を借りておくべきだった」
やすな「ソーニャちゃんが選んでくれた部屋だよ? 文句言わないの」
ソーニャ「お前が独りで住むなら、これで十分だと思ってたんだよ」
やすな「ふふふ、でもそのおかげで……これからは同じ寝屋の同じベッドで一緒に寝るれるね、ソーニャちゃん」
ソーニャ「……変なことしたら殺すぞ」
やすな「えっ? 『変なこと』って何? もしかしてソーニャちゃん、何かイヤラシイこと考えてる? やだー!」
ソーニャ「……貴様、言わせておけば……」 (イライラ
やすな「いいのよ、ソーニャちゃん。 この部屋では2人っきりなんだから、私に『変なこと』してくれても……」
ソーニャ「(ドキッ) お、お前何言って……」
やすな「なーんちゃって! 今ドキッとした? ねぇドキッとした?」
ソーニャ「してねーよ!!」
やすな「もう、素直じゃないなぁ」
ソーニャ「調子にのるな!!!」 ドカッ!!
やすな「痛い!!」
ソーニャ「くそう……今日からこいつと朝から晩まで一緒に過ごすのか……気が滅入る」
21:
やすな「ソーニャちゃん酷いよ! せっかくの記念すべき同棲生活第1日目なのに、さっそく殴るんだもん!」
ソーニャ「『同棲』とか言うな!! そんなんじゃないだろ!! 単なる『同居』だ、『同居』!!」
やすな「はぁ……もう、先が思いやられるなぁ」
ソーニャ「あぁ?!!」
やすな「あ、ソーニャちゃん、引越しで疲れてるでしょ? ソファーでくつろいでて。 晩ご飯つくってあげるから」
 やすなはそう言うと、先ほど殴られた痛みはどこへやら、ニコニコしながらエプロンをつけて台所へ向かう。
ソーニャは何か言い返そうとしたが、タイミングを逸してしまい、諦めて素直にソファーに座った。
ソーニャ「何をやってるんだろう、私は」
 ソーニャは呟いて、天井を仰ぎ見た。 やすなと同棲、もとい、同居することになるなんて、数日前までは絶対
に考えられなかったことだ。 あまりの現実感の無さに、今更ながら頭がクラクラしてくる。 本当にこれからやすな
と暮らすのか? そんなのに耐えられるだろうか。 学校で会うだけでもうっとおしいのに、毎日、朝から晩まで
一緒にいることになるとは……
やすな「んふふふ??! お野菜お野菜??! にんじんは短冊切りだ??!」
 台所のやすなは上機嫌で鼻歌を歌いながら、なにやら料理を作っている。 その様子をぼんやりと眺めながら、
ああ、こういうのは良いかもしれないな、とソーニャは思う。 家の台所で誰かが料理を作ってくれる――そんな
生活、私には縁の無いものだと思っていた。 もっとも、その相手がやすなというのは誠に不本意だが。
23:
やすな「はい、ソーニャちゃん、おまたせ」
 やすなは、2人分の料理をお盆に載せて運んできた。 茶碗によそわれた白米と、肉野菜炒め、それから麦茶。
ソーニャ「普通だな」
やすな「開口一番の感想がそれ?! ひどい!!」
ソーニャ「あ、いや、すまん。 なんか、もっと変なもの食べさせられるかと思ってた」
やすな「んもぅ、そんなことしないよ。 私も自分で食べるんだし」
ソーニャ「それはそうか」
 2人揃って『いただきます』をして食べ始める。 やすなの料理は簡単なものだったが、野菜の切り方や肉の焼
き加減などを見れば、普段から作り慣れていることが伺えた。
やすな「ごめんね??手抜きで。 まだ調理器具とか調味料が揃ってなくてさ。 せめて鍋でもあればお味噌汁
くらい作るんだけど」
 そんな風に言って笑うやすなを見て、こいつは意外と良いお嫁さんになるかもしれないな、とソーニャは思う。
25:
ソーニャ「(モグモグ) 二人で暮らすんだし、家事の分担でも決めるか」
やすな「えっ? 別にいいけど……ソーニャちゃん、家事なんかできるの?」
ソーニャ「あぁ?! 失礼だな貴様!! できるに決まってるだろ! 私が何年独り暮らしをしてると思ってる!」
やすな「ほんとにー? じゃあ、明日はソーニャちゃんの手料理が食べたいなぁ。 ご馳走を期待してるよ?」 (ニヤニヤ
ソーニャ「馬鹿にしやがって……見てろよ」
 だが、ソーニャも悪い気はしない。 今まで誰かのために料理を作ったことなど無いのだから。
 結局、家事の分担は、毎週の始めにクジ引きで決めることになった。 今日は初日だから私が全部やるね、と
言って、やすなは食器を片付け、風呂の準備をする。 やすなは始終上機嫌であった。
26:
夕飯を食べ終えた後、ソーニャはまたソファーに座ってぼんやりしていた。
ソーニャ「なんだろう、これ……」
 既にやすなとの生活に馴染みかけている自分に困惑する。 思ったほど悪くない。 もっと耐え難いものになる
と想像していたのだ。 だが、まだ初日の晩飯を一緒に食べただけだ。 
やすな「ソーニャちゃん、お風呂沸いたよ、お風呂!」
ソーニャ「ん」
やすな「一緒に入る?」
ソーニャ「そうだな……って、おおおおい!!何でそうなる?!!」
やすな「プププププ……ソーニャちゃんったら、照れちゃってぇ。 冗談だよ!」
ソーニャ「ったく……」
やすな「先に入る?」
ソーニャ「いや……私は後でいい」
やすな「じゃあ私が先に入るね」
ソーニャ「ああ」
やすな「覗いちゃだめだよ?」
ソーニャ「誰が覗くか!!」
27:
その後、やすなと入れ替わりでソーニャも風呂に入った。 身体を流して、湯船に浸かる―― 
ソーニャ「やすなが浸かった後のお湯か……」
 別にそれが嫌というわけではなく、ただ、なんとなく妙に気恥ずかしい気分になった。 本当に、やすなと一つ
屋根の下で暮らしているんだな、と実感する。
 風呂から上がったソーニャが長い髪を拭きながら居間に戻ると、やすなはポカンとしてソーニャを眺めた。
やすな(ソーニャちゃんって……綺麗だな……)
ソーニャ「どうした?」
やすな「……あ! 見とれてる場合じゃなかった! 写真撮らなきゃ!」
 やすなは準備していたカメラを慌ててソーニャに向けて構えた。 だが――シャッターが押されるよりも一瞬早く、
ソーニャがやすなの腕を捻りあげる。
ソーニャ「おい! 何撮ろうとしてるんだ!」 (ギリギリ
やすな「いだだだだ!! とれちゃう! とれちゃうよ?!」
ソーニャ「写真撮ってどうするつもりだったか言え!」 (ギリギリ
やすな「別に何かするつもりだったわけじゃなくて……ただ、湯上りで髪を下ろしたパジャマ姿というソーニャちゃ
んの貴重な姿を写真に残しておこうと……」
ソーニャ「そんなもの残さなくていい! それに、こんなもの、これからは毎日見れるだろ」
やすな(そ、そっか。 これから毎日見れるんだ……えへへへ)
28:
それからふたりは他愛の無いおしゃべりとゲームをしていたが、あっという間に日付が変わる時刻になった。
やすなは少し興奮ぎみでまだ眠くないようであったが、ソーニャが「私はもう寝るぞ」と言って寝室に向かうと、
やすなも渋々と寝室に付いてきた。
やすな「今のところ私は二段ベッドの上を使ってるんだけど……ソーニャちゃんどうする? 下でもいい?」
ソーニャ「お前の方が上っていうのは気に食わないが……まあ別にいいよ」
やすな「じゃあ、決まりだね」
やすなは寝室の明かりを消すと、二段ベッドの梯子をトトトッと上って上の段のベッドの布団に転がりこんだ。
ソーニャも下の段のベッドの布団に潜り込む。
やすな「おやすみ、ソーニャちゃん」
ソーニャ「ああ。 おやすみ」
 ――程なくして、上の段からはスースーという寝息が聞こえてきた。 
ソーニャ(やけにあっさりと寝たな)
ソーニャ(意外にも、寝室ではちょっかいを出してこないのか……)
ソーニャ(ベッドではもっと何かいろいろと変なことをされるかと思ってたけど。 つまらん)
ソーニャ(――いやいやいや、馬鹿か私は。 やすなに何を期待してるんだ)
29:
ソーニャは自分も寝ようと目をつむったが、すぐ上でやすなが寝ていると思うとなかなか寝付けなかった。
何度も寝返りを繰り返したあげく、寝るのを諦めてムクリと起き上がる。
ソーニャ「これじゃ埒があかないな。 やすなが寝てる間に、仕事道具の手入れでもしておくか」
 ソーニャは、やすなを起こさないように注意しながら寝室を出ると、居間に向かった。 そして、他の荷物と一緒
に持ってきた例のジュラルミンケースを開ける。 その中には、ソーニャの仕事道具であるナイフが、何十本も
きちんと並べられて収納されているのであった。 ソーニャは、その中から最近手入れをしていない一本を選び
出す。
 グリップに汚れや破損が無いことを確認し、刃の状態を確かめる。 少し研いでおく必要があると判断したソー
ニャは、愛用の砥石を持って台所に向かった。 水道の水で砥石を濡らし、刃を研ぎ始める。 と、そのとき、
自分以外には誰もいないはずの台所に、何者かの気配がした。 咄嗟にナイフを構えるソーニャ。
ソーニャ「何者だ?!」
やすな「ソーニャちゃん?」
ソーニャ「……なんだ、やすな。 起こしちゃったか」
31:
やすな「何やってるの?」
ソーニャ「仕事道具の手入れだよ」
やすな「こんな夜中にコソコソやらなくてもいいのに」
ソーニャ「いや……なんか……こういうことをしてる姿は、お前には見せたくないような気がして」
やすな「ねぇ、ソーニャちゃん……私たち一緒に暮らすんだから、隠し事は無しだよ」
ソーニャ「……そうだな」
やすな「見ててもいい?」
ソーニャ「いいけど、別に面白くはないぞ?」
やすな「うん」
 ソーニャは黙々とナイフを研ぐ作業に戻った。 慣れた手つきでナイフを砥石の上で往復させ、刃の状態を
確認する。 そのときの目付きは、まさにプロの殺し屋であった。 ソーニャがナイフを研ぎ終わるまで、やすな
は黙ってじっと見つめていた。
32:
次の日の朝
やすな「ソーニャちゃん朝だよ!!! 起きてーー!!!」
 やすなは大声を出しながら、まだ寝ているソーニャの布団の上に飛び乗った。 次の瞬間、ソーニャが反射的
に正拳突きを繰り出し――やすなの顔面にめり込む!!
ドゴオオオォォ!!!!
やすな「うべらし!!!!」
ソーニャ「何事だ!? 敵襲か?!!」 (ガバッ!
やすな「あがぁぁぁぁぁぁーーーー!!! 顔がぁぁぁぁぁーー!!!!!」 ジタバタ
ソーニャ「ん? やすな? お前、そんなとこで何やってんだ?」
やすな「もう! 酷いよソーニャちゃん!! 危うく、今日学校に行けない顔になるところだったよ!」
ソーニャ「は?」
やすな「まったくもう……ほら、記念すべき最初の朝だよ! 起きて!」
ソーニャ「……ああ」
33:
ソーニャは、寝癖でぼさぼさになった頭をワシャワシャとしながら、今日の朝飯の当番は私に決まったんだっけ、
と思い出した。
ソーニャ「朝飯、作るぞ」
やすな「じゃあ私、お弁当詰めるね」
ソーニャ「弁当??」
やすな「朝ご飯を作らない方が、お弁当を作る当番だよ」
ソーニャ「そんなルール、昨日は決めなかったはずだが。 っていうか弁当が要るのはお前だけだろ」
やすな「じゃじゃーん!! ソーニャちゃん用のお弁当箱!!」
ソーニャ「あっ! お前、いつの間にそんな物を!」
やすな「へっへっへ……今日からソーニャちゃんのお昼は、私とお揃いのお弁当だよ!!」
ソーニャ「ええー……?」
やすな「ねぇ、いいでしょー? いつもいつも焼きそばパンじゃあ、栄養偏っちゃうよ?」
ソーニャ「はぁ……。 分かった分かった。 好きにしろ」
やすな「やったー!!」
34:
ソーニャが朝食を作り、やすなが弁当を詰める。 キッチンはそれほど広くなかったので、2人は多少窮屈な
思いをしなければならなかった。
やすな「うーん。 朝御飯とお弁当を同時に作るのは作業効率が悪いねぇ。 これは改善の余地ありだなぁ」
ソーニャ「まあ、そのへんは後々考えるか」
やすな「それに、これじゃあお弁当の中身がソーニャちゃんにバレちゃう」
ソーニャ「別に秘密にするようなもんじゃないだろ」
やすな「チッチッチ。 手作り弁当はね、蓋を開けるまで中身が分からないのが醍醐味なんだよ! 今日のおか
ずは何だろう? と思いながらお弁当の蓋を開けるワクワク感! ソーニャちゃんにも味あわせてあげたいなー」
ソーニャ「ワクワク感って言ってもな。 どうせタコさんウインナーと卵焼きだし」
やすな「もう! ひどい! どうして今ネタばらしするの!?」
ソーニャ「ネタばらしっていうか……お前がさっき私の隣で弁当に詰めてただろ」
36:
ソーニャ「ほら、朝飯できたぞ」
 ソーニャはそう言って、ふたり分の朝食を運んできた。 トーストと、目玉焼きと、レタスのサラダと、コーヒー。
やすな「わーい! これが、夢にまで見たソーニャちゃんの手料理かぁー!!」
ソーニャ「……」
やすな「なんか、普通だね」 (ボソッ
ソーニャ「てめぇ! 言うに事欠いて、それかよ!」 ゴチン!!
やすな「痛っ! もう! 何?! ソーニャちゃんだって昨日、私の料理に同じ事言ったじゃん!」
ソーニャ「だいたい……朝飯なんて、誰が作ってもこんなもんだろ」
やすな「あれあれ? まるで、晩ご飯なら、誰にも負けない凄い料理が作れるとでも言いたげですね?」
ソーニャ「(ムカッ) あたりまえだ……なんなら、今晩、私の本気を見せてやってもいい」
やすな「マジ?! マジで?! 期待してるからね!!」
ソーニャ「えっ……いや、その……うん(しまった、ハードル上げ過ぎたか?)」
やすな「まあそれはともかく……せっかくソーニャちゃんが作ってくれたんだから、冷めないうちに食べよう!
いっただきまーす!!」
ソーニャ「……いただきます」
37:
朝食を食べ終わると、ソーニャが食器を片付けた。 それから、やすなとソーニャは制服に着替え、交代で洗面
所を使った。 ソーニャは、まだ少しぼんやりしていた。 やすなと一緒に暮らし始めたということが、なんだか夢
でも見ているように非現実的に思われたのだ。 洗面所で鏡の中の自分に向かい、これは現実なんだ、と言い聞
かせる。 髪でも梳かすか、とブラシを手に取ろうとしたときに、居間の方からやすなの声がした。
やすな「ソーニャちゃーん! 来て来て!!」
ソーニャ「後にしろ! まだ終わってない」
やすな「今から髪を梳かすんでしょ? その前に来てよー! はやくー!」
ソーニャ「ああ? 面倒臭いやつだな……」
 やすながうるさく言い始めるとなかなか収まらないことを、ソーニャは知っていた。 ソーニャはため息をつき、
ボサボサの髪のままで居間に向かう。 居間では、ヘアブラシとドライヤーを手にしたやすなが、目を輝かせて
ソファの隣に立っていた。
ソーニャ「おい、何のつもりだ」
やすな「さあソーニャちゃん、ソファーに座って?」
ソーニャ「嫌だ」
やすな「えー! いいじゃんいいじゃん! ソーニャちゃんの髪、セットさせてー!!」
ソーニャ「アホか!! 何でお前なんかに髪を触らせなきゃならないんだ!!」
やすな「お願い! 先っぽだけ!! 先っぽだけでもいいから!」
ソーニャ「意味がわからん!!」
39:
やすな「ほらほら。 カリスマスタイリストやすなちゃんにお任せなさい」
ソーニャ「どうせ、変な髪形にするつもりだろ」
やすな「そんなことしないよ!! ファッション雑誌で髪のお手入れの方法とか研究したもん!!」 (プンプン
ソーニャ「また雑誌の影響か……いまいち信用できない」
 ソーニャはちらりと時計を見た。 家を出る予定の時間が迫っている。 このままやすなの相手をしていると、
学校に遅刻する可能性があった。
ソーニャ「まったく……今日だけだぞ? 何か変なことしたら、お前の髪でも同じ目にあわせるからな」
やすな「わかってるって」
 ソーニャは渋々とソファーに座る。
やすな「それで……えっと、えっと、どうするんだっけ……たしかスプレーして、それからドライヤーで……」
ソーニャ「は? ドライヤーとか、そんな面倒なことしなくていいよ。 私も普段やってないし」
やすな「でも、雑誌にそう書いて……」
ソーニャ「あんまり時間がないんだ。 軽くスプレーして梳かすだけでいい」
やすな「ちぇっ……わかったよ。 今日のところはそれで勘弁してあげる」
ソーニャ「おまえは何様だ」
41:
やすなは、軽くスプレーを吹き付けると、嬉しそうにソーニャの髪にブラシをあて始めた。 しかし、やすなは
ブラシをあまり使い慣れていないらしく、扱いは上手くない。
ソーニャ「いたたたた! おい! 引っ張られる!! もっと丁寧にやれ!」
やすな「あっ! ごめん! うーん、思ってたより難しいなぁ」
ソーニャ「……どうせこんなことだろうと思った」
だが、やすなはブラシの扱いにすぐ慣れてきたようだった。 ソーニャも安心してやすなに髪を任せる。
やすな「ソーニャちゃんの髪って綺麗だね。 お人形さんみたい」
ソーニャ「ふん」
やすな「私ね、こうやってソーニャちゃんの髪を梳いてあげるのが夢だったんだー」
ソーニャ「……」
やすな「うふふ……しあわせー」
ソーニャ(しあわせ、か……)
 それ以来、学校に出かける前にソーニャの髪を梳いてツインテールのリボンを結ぶのがやすなの日課になった。
42:
やすな「戸締りよし、と」
ソーニャ「忘れ物は無いな」
やすな「ソーニャちゃん、鍵持った?」
ソーニャ「ああ」
やすな「うふふ……ふたりの愛の巣の鍵なんだから、無くしちゃだめだよ?」
ソーニャ「何が愛の巣だ!!!!」
ドゴォ!!!!
やすな「へぶらぁ!!!!」
ソーニャ「まったく……」 スタスタ
やすな「ひ、ひどい…… あ! ソーニャちゃん待ってー! 置いてかないでよー!!」
 そうやって、ふたりの同居生活が始まった。 学校に行くときはいつも一緒だった。 教室ではいつものように
やすなが馬鹿をやって、ソーニャがナイフを投げ関節技をきめた。 昼にはふたりでお揃いの弁当を食べた。
放課後は、あらかじめ決めておいた交差点まで一緒に帰り、そこで別れてわざと別々に帰った。 やすなが先に
部屋に戻り、その後からソーニャが毎回違う経路で戻る。 ふたりが同居していることを、刺客に知られないよう
にするためである。
43:
ソーニャとやすなが同居していることが外部に漏れると、やすなが刺客に狙われる可能性があった。 だから、
ふたりは、同居していることを誰にも言わなかった。
 同居生活を始めて以来、変わったことといえば、やすながソーニャに対して以前にも増して馴れ馴れしくなり、
ソーニャがやすなを殴る頻度が少し減ったくらいのことだ。 しかしそれは、クラスメイトはもちろん、本人たちでさ
えも気付かない変化であった。 ふたりが新しい生活を始めたことに気付いた者は誰もいなかった。
 ――もちろん、あの忍者は例外である。
あぎり「ソーニャ、聞きましたよー。 同棲生活、はじめたんですってねー」
ソーニャ「誰から聞いたのかは知らないが……。 まあ、お前にだけはバレると思ってたよ」
あぎり「ソーニャも、意外と隅に置けませんねー」
ソーニャ「ただの成り行きだ。 それに、『同棲』じゃなくて『同居』だ。 間違えるな」
あぎり「ええー? いまさらそこを否定しなくてもー」
ソーニャ「で? 何が言いたい? わざわざ空き教室にまで呼び出して……」
あぎり「……ソーニャ。 分かってると思うけど、私たちは決して人並みの幸せを望めない身」
ソーニャ「……」
あぎり「あまり不相応な幸せを享受していると、後で手痛いシッペ返しを食らうかもしれませんよ」
ソーニャ「幸せ……か。 別にそんなもんじゃない。 忠告はありがたく頂くが、余計なお世話だ」
あぎり「……まあ私は、ソーニャが選んだ道なら、応援しますけどねー」
ソーニャ「……」
44:
同居生活を始めてから、しばらく経った休日
 その日は、ソーニャが掃除の担当だった。 ソーニャはTシャツにハーフパンツというラフな格好で掃除機をか
けていた。 やすなは床に寝転がって携帯電話を弄っている。
ソーニャ「おい、掃除機かけるから、そこを退け」
やすな「いまメール打ってるからダメ」
ソーニャ「向こうでやればいいだろ」
やすな「もうちょっとだから待って」
ソーニャ「誰へのメールだよ」
やすな「彼氏」
ソーニャ「なっ……か、彼氏だと!?」
やすな「なに? 私だって彼氏くらいいるよ?」
ソーニャ「いや……でも……お前……いや……だって……そんな……」
やすな「あれ? もしかしてソーニャちゃん、焦ってる? それとも嫉妬?」
ソーニャ「ば、馬鹿!! ちがう!!!」
やすな「よし、送った」
45:
ピロンピロン! ピロンピロン!
ソーニャ「あ、メールが……」
『From: やすな
 本文: ドッキリ大成功!!!!』
ソーニャ「てめぇ……」
やすな「やーい! ひっかかってやんのー!」
ソーニャ「ひっかかってねぇ!! そこに直れ!!! 貴様もゴミと一緒に吸い込んでやる!!!!」
ブオオオオオーー!!!
やすな「あ! やめて! 掃除機の吸い口を顔に押し当てるのはやめて!!!」
ソーニャ「まったく……」
やすな「もう……ただの冗談じゃない。 そんなに怒らなくても」
ソーニャ「怒ってない!!」
やすな「でも……私、嘘は付いてないよ? だって……同棲中の『彼氏』にメールを送ったのは、本当だもん」
ソーニャ「えっ……」
やすな「……なんてね」
ソーニャ(イラッ)
47:
ピロロロロ! ピロロロロ!
ソーニャ「あ、今度は電話が」
 ソーニャは携帯電話を取り出し、画面を確認する。 ソーニャは表情を少し険しくすると、「すまん、ちょっと向こ
うに行くぞ」と言って、携帯を持ったまま寝室に入ってドアを閉めた。 寝室からは、外国語らしいソーニャの話し
声がかすかに漏れて聞こえてくる。
 しばらくするとソーニャは寝室から出てきた。
ソーニャ「やすな。 急な仕事が入った。 今からすぐ出かけないといけない」
やすな「えー…… 今日は一緒にテスト勉強するはずじゃあ……」
ソーニャ「すまん……今度埋め合わせするよ」
やすな「まあ……お仕事なら仕方ないね」
 今回は久々に大物だった。 ナイフだけでシンプルに仕留めるのは難しい。 重装備で行こう。 ソーニャは
ありったけの仕事道具をテニスのラケットバッグに詰め込んだ。 制服に着替えたソーニャは、 ラケットバッグを
背負い、玄関に向かう。 それは、はたから見れば、部活に出かける女子高生にしか見えなかった。
やすな「ソーニャちゃん……」
ソーニャ「ん?」
やすな「……いってらっしゃい」
ソーニャ「ああ。 ……いってきます」
48:
ソーニャ(いってらっしゃい、いってきます、か……)
ソーニャ(変な感じだな)
ソーニャ(今までは仕事に出かけるとき、送り出してくれる人なんていなかった)
ソーニャ(…………絶対、帰ってこよう)
ソーニャ(そして、やすなに『ただいま』と言うんだ)
 ソーニャはラケットバッグを背負いなおした。
 ソーニャが仕事に出かけた後、やすなは部屋で所在なさげにしていた。 テーブルには、テスト勉強のために
教科書とノートが広げられていたが、全く進んでいなかった。 
やすな(寂しいな……)
やすな(ひとりの部屋がこんなに寂しいなんて……)
やすな(ソーニャちゃん……)
やすな(私……ソーニャちゃんがいないと何もできないや)
やすな(ソーニャちゃん、帰ってきてくれるよね?)
やすな(ソーニャちゃん……)
やすな(寂しいよ、ソーニャちゃん……)
49:
やすなは、ハッと目を覚ました。 知らないうちに寝てしまっていたようだった。 外はすっかり暗くなっている。
時計を見ると夜の8時を回っていた。
やすな(ソーニャちゃん、まだ帰ってないんだ……)
 殺し屋の仕事は夜が本番だ。 帰りが深夜になることは普通で、明け方になることも珍しくない――そんなこと
を、ソーニャから予め聞かされていた。
やすな「よし! ソーニャちゃんが帰ってきたときのために、ご飯を作っておこう!」
 やすなは気力を奮い立たせて立ち上がった。 実のところ、今日の夕食の当番はソーニャであったが、そんな
ことはどうでも良かった。 仕事で疲れて帰ってきたソーニャちゃんに食べさせてあげるんだ! 冷蔵庫には、
明日作ろうと思って買っておいたハンバーグの材料が入ってる!
 やすなはエプロンをつけて台所に向かった。
50:
時刻は夜の10時を回っていた。
 ハンバーグは、焼けばいいだけの状態にして冷蔵庫で寝かせてある。 やすなは、リビングで正座して、ほとん
ど時計とにらめっこするような状態になっていた。
やすな(ううう……ソーニャちゃん遅いなぁ)
やすな(もしかして、帰りが明け方になるパターンなのかなぁ)
やすな(お腹減ったな……)
やすな(ハンバーグは焼かないと食べれないし……)
やすな(何かお菓子でもつまみ食いしちゃおうかな)
やすな(いや、こうなったらもう意地だ! ソーニャちゃんが帰るまで何も食べないぞ!)
 もうすぐ夜の12時になろうという頃、ガタッという物音が聞こえて、やすなは目を覚ました。 また少し寝てしまっ
ていた。 物音は玄関から聞こえてきたようだった。 やすなは急いで玄関に向かう。 そこには、ラケットバッグを
背負ったソーニャが立っていた。 ふたりは顔を見合わせて自然と笑顔がこぼれる。
やすな「ソーニャちゃん……おかえり!」
ソーニャ「ただいま、やすな」
51:
そんな感じで、ふたりの共同生活は続いた。 教室でのふたりは相変わらずで、ナイフと拳が飛び交っていた。
だが、部屋に戻ると、ソーニャがやすなにナイフを向けることは決してなかったし、殴る機会もめっきり減った。
 だからと言って、ふたりの関係が変わったわけでもなかった。 ただ、この部屋は、ふたりにとって特別な空間
であった。 ナイフや拳がなくても、ふたりで一緒にいることができるのだから。
 ソーニャは一度だけ、まだ殺し屋をやめてほしいか? とやすなに訊いたことがあった。
やすな「そりゃあ、本当はやめて欲しいよ。 いけないことだし、危ないもの」
やすな「でも、この部屋は組織が用意してくれたものだし、ソーニャちゃんがお仕事をしてるから、私たち一緒
に暮らせてる……」
やすな「それに……無理に組織を抜けようとすると、裏切り物として始末されちゃうんでしょ?」
やすな「だから、私、分からないよ……どうしていいのか」
やすな「ソーニャちゃんが殺し屋をやめて、それで、私たちもずっと一緒にいられたらいいんだけどなぁ……」 
 どうしていいのか分からないのはソーニャも同じであった。 考えても答えは出なかった。
53:
ある晩
 その日は、やすなが夕飯の当番であった。 やすなはいつものように鼻歌を歌いながら、上機嫌で見事な包丁
さばきをみせている。 ソーニャは、制服のネクタイを外して胸元をはだけた無防備な格好で寝転がり、ファッショ
ン雑誌を読んでいた。 やすなが、ソーニャに無理やり押し付けた雑誌であった。
 やすなが台所で料理しながらソーニャに呼びかける。
やすな「ソーニャちゃーん! どう? 少しは最先端のオシャレに興味でた?」
ソーニャ「なあ、やすな。 やっぱ私には、こういうのは……」
やすな「あ、ダメだよソーニャちゃん! 諦めないで! きっといつの日か、オシャレが似合う普通の女の子にな
れるときが来るから!」
ソーニャ「おい、どういう意味だそれは」
やすな「とにかく! 今度一緒にお洋服買いに行こうって約束したでしょ! それまでに予習しておいてよね!」
ソーニャ「はぁ……」
 ソーニャはため息をついて雑誌のページをめくる。 一緒に服を買いに行く約束をしたのは本当だったが、
ソーニャにとって服などどうでも良かった。 やすなの強引な誘いに根負けしたのである。 
ソーニャ(普通の女の子、か)
 私がそんなものになれるわけがない、とソーニャは思う。 でも考えてみれば、やすなと一緒との共同生活も、
最初のうちは有り得ないと思っていたのだ。 それが今では、すっかり普通になってしまった。 もしかしたら、
ほんとうに、いつか私も『普通の女の子』になれるときがくるかもしれないな――
 ソーニャがそんなことをぼんやりと考えていたとき、ガシャン! とガラスが割れる大きな音がした。
54:
ソーニャ「何事だ!!」
 ソーニャは咄嗟に飛び起きる。 やすなは驚いて包丁を持つ手の動きを止めた。 窓ガラスが割れ、床にガラス
の破片が散らばり――やすなとソーニャだけのスペースであるはずのリビングには、今、漆黒のスーツに身を包
んだ見知らぬ男が立っていた。
やすな「ソーニャちゃん!!」
ソーニャ「やすなは隠れていろ!!」
 ソーニャは、やすなを手で制すると、男に向き合う。
ソーニャ「貴様。 私たちの部屋に……随分と行儀の悪い訪問をしてくれたな」
クマバチ「ククク……俺は『THE・クマバチ』。 貴様の命を貰いに来た」
ソーニャ「クマバチ? 聞いたことが無いな。 どこの組織の者だ?」
クマバチ「あいにく俺はフリーさ」
ソーニャ「フリーの殺し屋がなぜ組織の殺し屋を狙う?」
クマバチ「現在売り出し中でね……。 だから、ここらで腕利きと評判の『ソーニャ』を仕留めて、名を上げようっ
てわけさ」
ソーニャ「組織に追われる危険を冒してまでか? ご苦労なことだ」
クマバチ「組織に追われているくらいの方が、かえって『箔』が付くってもんよ。 まあ、組織に属しているお前に
は分からんかもしれんがな」
56:
ソーニャ「だが……どうやってこの部屋を?」
クマバチ「知れたこと。 尾行したのさ」
ソーニャ(くっ……あれだけ注意していたのに、つけられていたのか。 私としたことが……)
クマバチ「まあ、意外な盲点だったよ。 まさかプロの殺し屋が、学校のクラスのお友達と仲良く同棲生活とは信じ
られなくてな。 てっきり、この部屋のお友達はただの囮で、本当のセーフハウスが他にあるに違いないと思って、
随分と無駄骨を折ったもんさ」
ソーニャ「ふん、ありもしないセーフハウスを探して、駆けずり回ってたのか。 とんだ間抜けと見えるな」
 2人の殺し屋は互いに言葉を交わしながらも、相手の隙を伺いつつ既に臨戦態勢に入っていた。
 ソーニャはクマバチとの間合いをとりながら、考えを巡らせる。 今、ソーニャの手元にはナイフも銃も無い。
いつも学校で携帯しているナイフは、部屋に戻ったときに例のジュラルミンケースに仕舞ってしまった。 その
ジュラルミンケースは押入れの奥にあり、今は手が出せない。
 台所には調理用のナイフと包丁がある。 だが、その台所には、今、やすなが震えながら立っているのである。
台所に移動することはできない。 むしろ、相手の注意を台所以外に向けなければ。
 緊急時のために、ソファーの下と、寝室の枕元に、1本ずつナイフを隠している。 しかし、わざわざ寝室まで
ナイフを取りに行くのは現実的ではない。
 なら、ソファーの下のナイフしかない。 ソーニャはちらりとソファーに目をやった。 今、 ソファーは、クマバチ
を挟んでソーニャの反対側にある。 あそこまで移動してナイフを取り、振り向きざまに相手に一撃を加える――
そんなことが可能だろうか。 それとも、素手で先制攻撃した方が確実だろうか。 なんせ、このクマバチという殺
し屋の戦闘スタイルと実力はまだ知れないのだ。
57:
やすな「ソーニャちゃん、逃げて!!」
 2人の殺し屋の緊迫した睨み合いを固唾をのんで見守っていたやすなは、思わず声を上げた。 
ソーニャ「やすな、黙って隠れていろ!」
やすな「戦わなくていいから!! ソーニャちゃん!! お願い!!逃げて!!」
 それを聞いたクマバチは煩そうに顔をしかめ、懐からナイフを取り出すと、流れるような動作でやすなに投げつ
けた。 その数、同時に6本。 ドドドドドドスッ、と、まるでマシンガンのように6本のナイフが刺さる音が響く。
 ――やすなは声を立てることもできず、グラリと崩れ落ちた。
ソーニャ「やすな!!!」
クマバチ「これで静かになったな」
ソーニャ「き……きさまあああぁぁぁ!!!!」
 ソーニャの瞳が怒りで燃える。 間合いを取っていたのがアダとなってしまった。 クマバチがやすなに向けて
ナイフを投げるのを止めることができなかった。 だが、ナイフ使いと分かれば話は早い。 瞬時に間合いを詰め、
相手が再びナイフを取り出す前に、拳を叩き込む!!!
 しかし、ソーニャの予想に反し、クマバチはナイフを取り出そうとせず、躊躇なく素手でソーニャの拳を受けた。
そのままクマバチはヒラリと舞うように身体を反らし、ソーニャの拳をあらぬ方向に受け流す。 拳の狙いを逸らさ
れたソーニャは、一瞬、身体のバランスを崩し――クマバチはその隙に、ソーニャのわき腹に掌底を打ち込んだ。
ソーニャ「ぐはっ……」
 一瞬、気が遠くなる。 気付けば、ソーニャはマウントポジションを取られ、喉元にナイフを押し当てられていた。
チェックメイトであった。
58:
当然のようにチョーで再生された
59:
クマバチ「噂の『ソーニャ』もこの程度か。 あっけないな」
ソーニャ「貴様……貴様!!! よくもやすなを!!!」
クマバチ「死んだお友達のことがそんなに大切だったか? プロの殺し屋が聞いて呆れる」
ソーニャ「うるさい!! 無関係のやすなを巻き込みやがって!! 貴様それでもプロか!!」
クマバチ「ふん。 俺だって、お前が1人のときを狙おうとしたさ。 だが、お前は、朝から晩まで一日中、お友達
とべったり。 ふたりで仲良くイチャつきやがって……。 1人になる時がありゃしない。 しまいには諦めたよ」
ソーニャ(そうだ……私たちは最近、ずっと一緒だった)
ソーニャ(何をするときも……朝から晩まで。 楽しかったな)
ソーニャ(……幸せだった)
ソーニャ(ああ、なるほど……これが、あぎりが言っていた『手痛いシッペ返し』か……)
クマバチ「安心しな。 今すぐお友達のところに送ってやるよ」
ソーニャ(やすなの……ところに?)
ソーニャ(行けるのだろうか? 殺し屋の私が、やすなと同じところに……)
クマバチ「あの世でもふたりで仲良く過ごすんだな……」
 クマバチはそう言って、ナイフを握る手に力を入れる。
ソーニャ「やすな……ごめんね……」
61:
やすな「ソーニャちゃんから離れろ!!!!」
 背後で張り詰めた声が響き、クマバチは思わず振り返った。 そこには、やすなが、足を震わせながら包丁を構
えて立っていた。
クマバチ「ば……馬鹿な!! なぜ?! ナイフは命中したはず!!!」
 確かに、クマバチが投げた6本のナイフのうちの1本は、やすなの左肩に深々と刺さっていた。 だが致命傷で
はない。 そして、残りの5本は、かすり傷すら負わせていなかった。
 それは、別に奇跡というわけでもなかった。 クマバチの狙いは極めて正確だったが……正確過ぎたのだ。
クマバチは知らなかったのである。 やすなが、ソーニャの投げる正確無比なナイフを避け慣れているということを。
 マウントポジションで圧倒的有利だったはずのクマバチは、やすなが生きていたことに動揺し、ソーニャの喉元
にナイフを押し当てる力を、一瞬だけ緩めてしまった。 その一瞬を、ソーニャは見逃さない。 ソーニャは、ナイ
フを払い除けると同時に、クマバチの胸倉を掴んで思い切り引き寄せる。 後ろを振り返るために身体を捻って
いたクマバチは、無理な姿勢で強引に引っ張られバランスを崩す。 ソーニャは、バランスを崩したクマバチの上
半身を更に引き寄せて、リーチの圏内に入れ――相手の喉元に全力で貫手を打ち込んだ。
 それで、決着がついた。
63:
ガチのキルミーSSとか何ヶ月ぶりだろ
なんか涙出てきた
64:
ソーニャが組織に連絡を入れるとすぐに、宅配業者の作業着に身を包んだ男たちが部屋にやってきて、気を
失ったクマバチを回収した。 それから彼らは、クマバチの投げたナイフが刺さった壁の穴を補修し、やすなが床
に流した血を拭い、散らばったガラス片を掃除し、割れた窓ガラスを交換し、おまけにその窓ガラスに泥水で汚
れをつけて新品のガラスに見えないように偽装した。 彼らは、その仕事を、恐ろしく手際よく音も立てずに行った。
 男たちの中に、1人だけ大きな皮製の鞄を持ってきた者がいた。 彼はやすなをベッドに寝かせると、ナイフが
刺さった左肩の傷に応急処置を施した。 簡易的な手術だったが、腕は確かなようであった。
 彼らが去ったあと、部屋はすっかり元通りになり、殺し屋が侵入して死闘を演じた形跡は全くなかった。 それ
はさながら魔法のようであった。
やすな「うわー! 凄いねソーニャちゃん! あんなことがあったのに、元通り!」
ソーニャ「ああ」
やすな「この窓の汚れとか凄いリアルだよ! やっぱソーニャちゃんの組織ってすごいねぇ」
ソーニャ「やすな……肩の傷はいいのか?」
やすな「うん! 二週間もすれば完治するって! まあ私にかかれば2日で治るけどね!」
ソーニャ「……」
65:
やすな「あ! そうだ! 晩ご飯の支度が台無しになっちゃったから、どっか食べに行こうよソーニャちゃん!」
ソーニャ「そういうの……やめろよ」
やすな「えっ?」
ソーニャ「お前のカラ元気を私が見抜けないと思ってるのか? ……本当は怖かったんだろ?」
やすな「……そりゃあ……怖かったよ?」
ソーニャ「……」
やすな「だって……私……ソーニャちゃんが殺されちゃうと思って……怖くて……怖くて……」
そう言うと、やすなはポロポロと泣き始めた。
やすな「今まで……私……ソーニャちゃんは無敵だと思ってた。 だから……お仕事に出かけるときも、そこまで
心配してなかったの。 ソーニャちゃんは絶対死なない、絶対帰ってきてくれるって。 でも……でも……さっき
……ソーニャちゃんは……もうちょっとで……殺され……」
ソーニャ「……」
やすな「う……う……うあわあああああん! 良かった! ソーニャちゃんが無事でよかったおおおおぉぉ!」
 やすなはソーニャに抱きついて泣きじゃくった。 ソーニャは黙ってやすなの頭を撫でてやった。
66:
しばらくして、やすなが落ち着くと、ソーニャは言おうとしていたことを切り出した。
ソーニャ「やすな、私たち、もう別れないか」
やすな「えっ?」 
ソーニャ「あっ、いや……『別れる』って何か変だな。 そうじゃなくて……私たち、別々に暮らした方がいいと思う」
やすな「やだよ! 私、ソーニャちゃんと一緒がいい!!」
ソーニャ「今回のことで分かっただろ? 殺し屋と一緒に住むのは危険なんだよ」
やすな「でも……」
ソーニャ「聞け。 別々に暮らしたからって、学校ではいつもどおり会えるじゃないか。 お前は当初の予定どおり、
親を騙して独り暮らしを続ければいい。 私は……自腹でセーフハウスを確保して、そこに住む」
やすな「やだ……やだよ……」
69:
ソーニャ「いいか、よく聞け。 私は、お前と暮らし始めたときから、今回のような敵襲を受ける可能性は常に考え
ていたんだ。 だから私は、何かあればお前を守ってやるつもりだった。 一緒に暮らした方が、お前にとっては
却って安全だとすら思ってたんだ」
やすな「……」
ソーニャ「でも、今回のことではっきりした。 私にはお前を守る力が無い。 お前を守ることができなかった」
 そこまで言って、ふいにソーニャの目から涙が零れた
ソーニャ「……ごめん、やすな。 私、お前を守ってやることができなかった……」
やすな「ソーニャちゃん……」
ソーニャ「守れると……思ってたのに……くそっ……くそっ!」
やすな「……」
ソーニャ「……あの殺し屋がナイフを投げたとき、本当にお前が死んでしまったと思ったんだ。 あんな思い、もう
二度としたくない……」
やすな「……」
ソーニャ「だから……分かるだろ? 別れて暮らすのが、お互いに一番いいんだよ」
75:
やすな「ねぇソーニャちゃん……あのとき……もし私が死んで」
ソーニャ「え?」
やすな「ソーニャちゃんも殺されてたら、私たち、ずっと一緒になれてたかな?」
ソーニャ「おい……やめろ。 そういうことを考えるのは」
やすな「だって……今回のことではっきりしたじゃん。 ソーニャちゃん、いつ死んじゃうか分からない……いつま
でソーニャちゃんと一緒にいられるか……うっ……うう…」
ソーニャ「……」
やすな「だから……私……少しでも長くソーニャちゃんのそばにいたいよ……」
ソーニャ「……」
77:
やすな「……ソーニャちゃん……私ね、ソーニャちゃんと暮らしてて、すごく幸せだったの。 今までで、こんなに
幸せな毎日って無かったと思う」
ソーニャ「やすな……」
やすな「ソーニャちゃんは……そうじゃなかった?」
 ソーニャは一瞬、答えに詰まった。 適当なことを言って、答えをはぐらかそうかとも思った。 だが、自分の本
当の気持ちは、はっきりしていた。 殺し屋としてずっと独りで生きてきたソーニャにとって、やすなと暮らした日々
は間違いなくかけがえの無いものだったのだから。 
ソーニャ「幸せだった……とても」
やすな「えへへ……ソーニャちゃん大好き!」
 やすなは涙を拭ってソーニャに抱きついた。 ああ、こいつを突き放すことができればいいのに、とソーニャは
思う。 そうするのが、やすなの人生にとって一番いいことは明らかだった。 でも、できなかった。
 代わりに、ソーニャはやすなをギュッと抱き返した。
80:
クマバチは一匹狼の殺し屋だったらしく、やすなとソーニャの部屋の情報が他に漏れた形跡は無かった。
だが、念には念を入れて、それまでの部屋は引き払うことにした。
 新しい部屋も、前と同じく1LDKで、寝室は相部屋にした。 相変わらずプライバシーが無い環境だったが、そ
れで何の問題もないことは既に分かりきっていた。
 引越しの荷物を運び入れて、一息つくと、やすなは笑顔で言う。
やすな「新しい同棲生活の始まりだね! ソーニャちゃん!」
ソーニャ「『同棲』か……。 まあ、そういうことにしておくか」
やすな「えへへへ……」
 また『手痛いシッペ返し』を食らうときが来るかもしれない、とソーニャは思う。 だが既にソーニャは腹をくくって
いた。 やすなも同じ気持ちだった。 
ソーニャ「じゃあ、『同棲生活』の始まりを記念して、焼肉でも食べに行くか」
やすな「えー? 私、ソーニャちゃんの手料理が食べたい!」
ソーニャ「引越しで疲れてるんだよ。 また今度にしろ」
やすな「仕方ないなぁ。 じゃあ食べ放題ね?」
ソーニャ「はいはい」
そうやって、また2人の生活が始まったのであった。
おわり
82:
乙。最高だった
8

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職場にて、とあるメールの内容について電話で問い合わせることにした。

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