上条「バレンタインをぶっ飛ばせ!」back

上条「バレンタインをぶっ飛ばせ!」


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1:
・スレタイ通り今更ネタ
・キャラ崩壊あり
・たぶんほのぼの
・特定カップリングのエンディングなし
2:
青髪 「今日集まってもらった理由は分かってもらえてると思うんやけど、もう一回説明するわ」
上条 「土御門、マリオカートやろうぜ、マリオカート」
土御門「……カミやん、バイクしか使わないしにゃー」
上条 「いや、おまえらだってそうだろ? いいじゃん、マリオカート」
青髪 「きたる十四日! 二月の十四日の月曜日! 何の日かは言わずもがなって感じやけど……」
上条 「じゃあスマブラやろう。デラックスの方」
土御門「何で今更ゲームキューブの方なんだにゃー?」
上条 「俺、未だにジャンプの浮遊してる感じに慣れないんだよなぁ……」
青髪 「聞けや君たち」
3:
上条 「さっきから何だよ、青髪。二月十四日二月十四日って、そんなに二月十四日が大事かよ」
土御門「最近、耳にする回数が多すぎて、来てもいない二月十四日に食傷気味だぜい」
青髪 「……君らね、もうこういうやりとりするのも飽き飽きって感じやけど、二月十四日が何の日か知らないわけやないでしょ?」
上条 「グラハム・ベルが電話の特許を申請した日だろ? 『ワトソン君、用事がある。ちょっと来てくれたまえ』の人」
土御門「『夕焼け小焼け』を作曲した草川信の誕生日かにゃー」
上条 「夕焼ーけ小焼ーけーの、って奴?」
土御門「いんや。そっちは赤とんぼだぜい」
青髪 「ええねんそういうの……。
 そういう『二月十四日って何の日?』って聞かれたときに核心から話題を逸らす為に用意しておいた答えはええねん……」
4:
上条 「……言えよ。聞いてやるよ。
 ただ覚えておけよ青髪、それを言ったが最後、おまえの心も自分の言葉によって深く抉られるって事を……!」
青髪 「え、なに? そんなシリアスになるようなタイミング? ここ」
土御門「どっちも大袈裟だにゃー。たかだかバレンタインくらいで」
青髪 「え、話題避けた割に、あっさり言うてまうん?」
上条 「……ぐ、グググ、ぐォおオぉォ……ばれン……たいン……!」
青髪 「カミやんはカミやんで、何で呻いとるん……?」
土御門「バレンタインなんて、所詮チョコレート業界の策略だにゃー」
青髪 「本当は欲しいのにもらえない男子の定番の言い訳やないのそれ……」
5:
上条 「や、やめろよ! 男三人でバレンタイン前に集まって、チョコだとか何だとかそういう話しなくたっていいじゃねえか!」
青髪 「いや、まだ何も言うてないんやけど」
土御門「つってもにゃー。もらえないことが確定してると、イベント意識なんて逆に薄れちまうもんだぜい」
上条 「もらえないって言うな!」
青髪 「まあ、そんで、三日後に迫る十四日に向けて対策を取るために集まってもらったわけなんやけど……」
上条 「対策?」
土御門「対策……かにゃー?」
青髪 「そ、対策。男として生まれたからにはバレンタインがドキドキとワクワクと絶望の日なのは確定事項や」
上条 「……絶望って言うな、ホントに」
青髪 「すまんカミやん。話進まんから、ちょっちガマンしてな」
6:
青髪 「それで、や。バレンタイン。ギャルゲーで一月か二月から物語が始まったら、確実にイベント起こる日やで」
上条 「こういう場合はギャルゲー脳って言うのか? 現実とごっちゃにするんじゃねえよ。何もないよ。ただの平日だよ」
土御門「なんつーか、カミやんはもうちょっと期待してもいいと思うんだけどにゃー」
上条 「ねえよ……なんだかんだでガックリ肩を落として家に帰ることになるんだよ。期待させんな土御門」
青髪 「カミやんが言った通り、今年のバレンタインは月曜、平日やね」
上条 「それが?」
青髪 「バレンタインが日曜だったりすると、結構めんどくさいわけですよ、予想が。
 でも今年は月曜やから、その日に起こることが集中することが分かる。
 日曜だと、当日のみならず、その前の金曜と次の月曜も含めて、計四日やから……」
土御門「計四日、期待しては裏切られ、を繰り返すはめになるってわけだにゃー」
上条 「一日で済む今年はだいぶ楽ってことだな……気分的に」
7:
青髪 「バレンタイン……この時期、憂鬱やねん。いや、いいのよ、どうせもらえないし、もらえても義理やから」
上条 「まぁ、そう……かな」
土御門「でも、十四日が近くなると、男子と女子の間に見えざる壁が出来るぜよ。男子も女子もソワソワしはじめるし」
青髪 「そう! 特に男子! 頼むから廊下に出るのはやめろや! 教室に居づらいねん!」
上条 「ああ、まぁ、それはあるよなぁ……」
土御門「……カミやん、さっきから反応が他人事みたいだにゃー」
上条 「えっ。あ、いや。どうせもらったこともないはずだし、他人事みたいなもんだろ、実際」
青髪 「……『はず』?」
上条 「いや、ホント何でもないから。大丈夫、続けて」
8:
青髪 「それで、一応、一応な。聞いとこう思うんやけど、君らふたり、チョコをもらえるアテは?」
上条 「…………」
土御門「どんなんだにゃー? カミやん」
上条 「お、俺?」
青髪 「他に誰がおるねん」
上条 「……俺は別に……」
上条 (禁書目録には期待できないだろうし……かと言って他にくれそうなアテもないし……)
上条 (小萌先生が義理でチロルチョコくれるかもってくらいかなぁ……そのときはみんなにだろうけど)
上条 「……うん。ないな」
青髪 「えっ」
上条 「えっ」
9:
青髪 「……ないん?」
上条 「いや、ないよ。ホントに」
土御門「……にゃー」
青髪 「……なんか怪しい自己申告やけど、まぁおいとこか。つっちーはどうなん?」
土御門「義妹」
上条 「オーケイ、てめえは俺を怒らせた」
土御門「――からはもらえないんだにゃー。残念ながら」
上条 「えっ」
青髪 「え、なんで?」
10:
土御門「……いや、舞夏の奴、今年はなんだか張り切ってたんだにゃー。「どんなのがいい?」とか聞いてくるくらい。
 受け取る側にそんなの聞くなって言ったんだが、妙にひとりで盛り上がってたんだにゃー」
青髪 「……それで?」
土御門「そしたらな、カミやんにも渡すとかいいはじめたんだ」
上条 「は」
青髪 「……ん?」
土御門「……にゃー」
青髪 「……カミやん」
上条 「は、はい?」
青髪 「さっそくカミやんの自己申告の誤りが発覚したわけなんやけど」
上条 「ちょ、待て! ひとまず土御門の話の続きを聞こう!」
11:
土御門「カミやんに渡すっていうんだぜい? 何で? って聞いたら、「なんとなく」って」
土御門「……なんとなくってなんだって言うんだにゃー」
上条 (……なんか怖え……)
土御門「気合入ってたし、楽しそうだったし、別にいいかとも思ったんだが、
 カミやんに渡すのを考えてウキウキしてるんだと思うと……」
土御門「……殺してえ、と……」
青髪 「いや、怖すぎですよつっちー」
土御門「だから、「カミやんに渡すのはやめとけ」って言ったんだにゃー」
上条 「おい、オイ待て土御門、テメエなんてことしてくれてやがる」
土御門「テメエこそなに人の義妹たぶらかしてんだにゃー! 万死に値する!」
青髪 「いや、ええねん。とりあえず落ち着けや君たち。つっちー、続けて」
12:
土御門「そしたらめちゃくちゃ嫌な顔されて、それでも頼み込んでみたんだにゃー。カミやんにチョコはやめるんだーって」
上条 「……おまえと俺は相容れない関係なのかもな」
土御門「そんで、なんやかんやでカミやんにチョコを渡すのを阻止できたんだが、その影響で俺の分のチョコもナシにされ……」
青髪 「……得るものは何もない戦いやったんやね」
土御門「いやもうホントに」
上条 「……なんてことしやがる……チョコが……」
土御門「……俺もつらかったんだにゃー」
上条 「いや、そもそもおまえが余計なこと言わなきゃどっちも幸せだったろうが!」
土御門「男には、それでもやらなければならない瞬間ってものがあるんだぜい」
上条 「そういうキメっぽいセリフ吐くタイミングじゃないから、今」
13:
青髪 「……まぁ、ふたりともチョコもらう予定はないんやね」
土御門「未知の女性から告白を受ける可能性は、十四日が過ぎるまで消えないにゃー!」
上条 「……十四日の記憶を失ってしまうというのはどうだろう。
 そうすればチョコをもらった可能性ともらわなかった可能性は量子論的には同時に存在できる……」
青髪「エセシュレディンガーの話はええから。絶対間違おとるし。とにかく、まぁボクら三人、非モテってことなんやけど」
上条 「や、やめろ! 明確な言葉にするのはやめてくれ……!」
土御門「俺は舞夏さえいればそれでいいにゃー」
青髪 「まぁ、義妹がいても非モテは非モテやね」
土御門「……」イラッ
14:
上条 「それで、青髪。結局おまえは何が言いたいんだよ」
青髪 「……ボクな、思うねん」
青髪 「『男』という字と……『恋』と言う字ほど不似合いな字はないって……」
土御門「…………」
上条 「…………」
上条 「……え、それが何?」
青髪 「あ、あれっ? 不似合いですよねっ?」
上条 「……いや、まぁ……」
青髪 「あれ? 何この空気! 反応薄ッ!」
15:
上条 「まぁ、確かに不似合いっつーか……気持ち悪い感じはするな。「男」と「恋」」
土御門「でも、それがなんだっていうんだにゃー?」
青髪 「な、なんだもなにもないでしょう! バレンタインだのなんだのにうつつを抜かす男なんて気持ち悪いじゃないですか!」
上条 「……なんか敬語になってる」
土御門「イントネーションは関西弁のままなのが不思議なところだぜい」
上条 「……まぁ、恋だの何だの言ってる男は気持ち悪い……かも知れない」
青髪 「ですよね?! ボク間違ってないですよね!?」
土御門「いや、だから、それがなんだっていうんだにゃー」
16:
青髪 「つまりボクが言いたいのはね……バレンタインは悪しき慣習だってことなんですよ!」
土御門「……悪しき慣習」
上条 「……たとえそうでも、チョコもらえれば嬉しいと思うけどな」
青髪 「待ってカミやん、それは正しいけどひとまずおいといてや! 話進まんから!」
上条 「わ、悪い……」
土御門「悪しき慣習、かにゃー」
青髪 「そう、悪しき慣習。バレンタインなんておかしい。外国の文化。日本文化に誇りを持ちましょう」
土御門「……女性が男性に想いを伝える為にチョコを渡す文化は、日本が発祥だった気が」
青髪 「気のせい! 気のせいですよ土御門くん!」
17:
青髪 「このまま三日後を迎えれば、朝さんざん期待しても一日の終わりに待つのは間違いなく落胆と絶望と男泣き!」
青髪 「いやでしょそんなん! 悲しいし悔しいでしょ!」
土御門「……うーん」
上条 「……チョコ、かぁ……」
青髪 「それでね、考えたわけですボクは」
上条 「……? 何を?」
青髪 「『バレンタインをぶっ飛ばせ!』や!」
上条 「……バレンタインをぶっ飛ばせ?」
18:
土御門「色恋に溺れる男の気持ち悪さは認めるにゃーが……人様の恋路を邪魔するのは……」
上条 「正直、近頃の妙にソワソワしている女子の姿を見るだけでほほえましい気持ちになるから別にいいんだが」
土御門「ああ、あのチラチラって男子を気に掛ける感じな。あれはいいものだぜい」
青髪 「……キミらは何を言うとるねん」
上条 「って言っても、別に……なあ?」
土御門「もらえないならもらえないで仕方ないにゃー。諦めて寂しく過ごすのもまた一興」
青髪 「何日和っとんねん! ええから話進めんで!」
上条 「ああ、うん。つか、マリオカートやりたい。一人でやってていい?」
青髪 「あとで相手したげるから! 今は話聞いて! お願い!」
19:
青髪 「とにかく! 『バレンタインをぶっ飛ばせ!』プロジェクトに参加してもらいます! ふたりには!」
上条 「……え、一人でやれよ」
土御門「……正直、巻き込まれるのは遠慮したいぜよ」
青髪 「え、なんで?! 何でよ、二人ともこういうイベント好きやん! 悪戯とか超好きでしょ!」
上条 「……まぁ、いいや。内容聞いてから決めるから、具体的な内容言ってみろよ」
青髪 「……参加するって言うてくれんなら説明しない」
上条 「そっか。土御門、マリオカートしようぜ!」
土御門「俺はスマブラがいいにゃー」
上条 「俺のメタナイトが火を噴くぜ……!」
土御門「……カミやん、メタナイトかよ……」
青髪 「ごめんなさい説明するから聞いてくださいホントお願いします!」
20:
青髪 「具体的に説明するけどな」
上条 「うん」
土御門「そうだにゃー。どんなことするかにもよるんだぜい、協力するかどうかは」
青髪 「実は、何も決まってないんですよ」
上条 「は?」
土御門「カミやん、このセーブデータ、トゥーンリンクが出てないんだが……」
上条 「えっ、何でだよ! おい青髪! 全キャラ出そうぜそこは!」
青髪 「ええ、ちょっとまってちょっとまって、何でボク怒られとるん?」
21:
上条 「で、何も決まってないってなんだよ。計画とか言っといて」
青髪 「いや、だからね、二人のお知恵を拝借しようかなぁ、なんて」
土御門「バレンタインをぶっ飛ばす手伝いかにゃー?」
上条 「人様にいやがらせみたいなことするのはなぁ……」
青髪 「いや、ええねん、いやがらせはしなくて。ただ、バレンタインの、
 むなしさというか寂しさというか人恋しさというか、そういうものをぶっ飛ばしたいわけですよ。
 それができればなんでもええよ。男三人でボーリング行くだけでもいいよ」
土御門「……それは家に帰ってからむなしくなりそうだ」
上条 「バレンタインなのにな……」
青髪 「いや、ボーリングはたとえですよ。他になんか良い案あればそれしましょうってことで」
22:
上条 「……つってもなぁ……」
土御門「バレンタインをぶっ飛ばす、というのも微妙な話だにゃー」
青髪 「あ、そうそう。二人、森見登美彦って作家さんの、『太陽の塔』って小説知らん?」
上条 「知ってるも何も、おまえが熱心に進めてきたんだろ。ちゃんと読んだよ」
青髪 「あれの「ええじゃないか騒動」みたいなことやりたいわけ」
上条 「……「ええじゃないか騒動」」
青髪 「そう! あのバカ騒ぎする奴!」
土御門「現実でやろうとしても、「ハア?」って言われて終わりそうなアレか……」
青髪 「うん。風紀委員か警備員に突き出されて終わりそうなアレな。いや、アレみたいなのなら何でもええねん」
上条 「おまえのオーダーは少し抽象的過ぎるな……」
23:
上条 「とりあえず、学校サボってナンパとか?」
青髪 「カミやん、あのね、学園都市ですよ。学校行ってますよみんな。誰をナンパするのよ」
土御門「そもそもこの時期に女だけで歩いている集団っていうのも少ないと思うぜい?」
上条 「クラスの女子にねだってみるとか。同情されればひとつくらいもらえそうな気がしないか?」
土御門「……それは、すごく悲しそうだにゃー……」
上条 「小萌先生に土下座すれば……たぶん」
青髪 「それはまぁ、実際に試してみるとして、他にもうちょっと盛り上がりそうな案が欲しいね」
土御門「ていうか、さっきからカミやんが挙げてる案だと、全然バレンタインをぶっ飛ばせてないわけだが」
上条 「じゃあおまえらもなんか言えよ! なんで俺だけが案出してるんだよ!」
24:
青髪 「もっとこう……バレンタインの概念を根底から覆すような……
 雰囲気をぶちこわしながら、バレンタインにそぐわないというわけではない感じの……」
土御門「間接的に恋する乙女の勇気を萎ませてしまいそうで怖いぜよ……」
上条 「パーティーでも開けば? 夜にみんなで集まって。二人きりにならなけりゃそういうことも起きないだろ」
青髪 「いいセンいってるんやけど、三日後やし、人集まらんでしょう」
上条 「じゃあどうすんだよ。みんなにチロルチョコでも配るか?」
青髪 「……え、なんで?」
上条 「いや、そういうお祭りっぽい雰囲気にすれば、みんなシリアスにチョコの受け渡しとかしなくなりそうじゃね?」
青髪 「……案その一、やね」
25:
上条 「さっきから挙げてるの俺だけじゃねえか。土御門、なんかないの?」
土御門「そうだにゃー……。というか、他の人間のことはともかく、青髪のバレンタインをぶっ飛ばせばいいわけだよな?」
青髪 「……まぁ、そうやね。視界に入らなければ……」
上条 「難儀な奴だなぁ……。つか、喉乾いた。何か飲み物ない?」
青髪 「カミやんカミやん、空気読んで。あとでコンビニ行こう、後でな」
土御門「じゃあ、合コン、かにゃー」
青髪 「……相手は?」
上条 「ダメだろ、土御門。恋と男という字は不似合いだって、さんざん本人が言ってたじゃないか。恋愛系は省くべきだよ」
土御門「それもそうか」
青髪 「……え、いや別に、恋をするのが悪いとかそういうアレではなくて」
上条 「他になんかないかなぁ……」
青髪 「……」
26:
青髪 「か、カミやん。ブレインストーミングって知ってる?」
上条 「……なにそれ」
青髪 「どっかの誰かが言ってたんやけどね、
 「判断・結論をすぐに出さない」「どんな案でも利用できないか考える」
 「様々な角度から多くのアイディアを出す、内容の質よりも量を優先する」
 「様々なアイディアを結合・発展させる」っていう会議における四原則っていうのがあるんよ」
土御門「つまり……?」
青髪 「ボクは確かに、恋と男という字は不似合いだと思う。けど、そのせいで発想を縛られるのはよくない。
 合コン、という発想はたしかに男らしくないけど、その発想は何かに使えるかも知れない。
 つまり合コンというアイディアを捨ててしまうのはあまりにもったいないとボクは思うんや!」
上条 「え、なに、合コンしたいの?」
青髪 「そんなことはまったくこれっぽっちもいってまへんがな!」
土御門(……関西弁、崩れはじめたにゃー)
上条 「まぁそもそも相手がいないんだけどな」
27:
上条 「んー。どう転んでもパーティーでも開く以外に解決策が浮かばないなぁ」
土御門「……もし、みんなで集まってパーティーすることになって、舞夏も参加するとしたら、チョコ食べられるかにゃー?」
上条 「アイツ、マメだし、みんなが食べれるように準備するんじゃね?」
土御門「パーティー、アリだぜい」
上条 「いや、おまえ以外の人も食べれるってことなんだけど、分かってるか?」
土御門「別にかまわない。カミやんさえ食べなければ、オレとしては何も問題ないぜよ」
上条 「何でだよ!」
土御門「あのなぁカミやん! ウチの義妹がだぞ!? 二週間も前から「どんなチョコにするかなー」とか考えてたんだよ!
 誰にあげるんだって言ったらカミやんだぞ!? ソワソワして妙に落ち着きがなくて妙に幸せそうで、
 ふっと耳を澄ませたら「どんな顔するかなぁー」とか言ってるんだよ! 
 人の義妹たぶらかすのもいい加減にしろよ……!」
上条 「まったく、これっぽっちも、心当たりがないんですが……っ!」
青髪 「あの、もしもーし? おふたりさーん?」
28:
青髪 「まぁ、パーティーってことで進めていいん? 独り者多いし、不可能ではないと思うけど」
上条 「会費は?」
土御門「えっ」
上条 「いや、会費。どうすんの、会費。大事だよ、金の話は」
土御門「……うわあ」
青髪 「場所とか時間とかよりも先に金のこと気に掛けるって……カミやん、さすがにそれはないわ」
土御門「そういうのも混ぜて、具体化していくぜよ。でも一番の問題は、今日が金曜日の放課後ってことだにゃー」
青髪 「土日挟んで当日やもんね。いきなりじゃ、みんな予定入れてそうや」
上条 「みんな寮暮らしだし、大丈夫っちゃ大丈夫だと思うけど、一応、当たれるところにメールしとくか」
29:
青髪 「それよりも先に、場所と時間を決めとかなね。
 やることは、まぁ、食べ物と飲み物用意してバカ騒ぎするだけでええと思うけど」
土御門「……場所。何人くらい呼ぶかにもよるけど、ウチとかカミやんの部屋じゃあ狭いよな……」
青髪 「そういうツテないん? ふたりとも」
上条 「どれくらいの人数になるかにもよるよな。数人なら俺や土御門の部屋でも大丈夫だけど、十数人となると難しい」
青髪 「ちょっと整理してみよか」
上条 「……えーっと。ウチの禁書目録は確実に参加だな。
 たぶん、スフィンクスも連れて行きたがるから、ペット可のところじゃないと……」
土御門「寮もペット禁止だけどにゃー。舞夏もたぶん、呼べば面白がって参加する」
青髪 「クラスメイトたちも大事ですよね。……うん。何人か呼ぶとして」
上条 「それだけでも十人近くなるな。いっそ、知り合い全員呼べばいいんじゃない?」
青髪 「多くなりすぎるのはちょっとアレやし……。知らない人ばっかりになるのもなんかなぁ」
上条 「じゃあ、ステイルや神裂たちはナシ、と……」
土御門「その二人を呼ぼうという発想がすごいにゃー、カミやん」
30:
青髪 「パーティーなら、女の子は大事やね。カミやん、知り合いで暇な子いないん?」
上条 「……アテがないではないが、連絡先が分からない」
土御門「使えないにゃー」
上条 「……」イラッ
上条 「つか、最初の趣旨とずれてきてるな。実はバカ騒ぎできれば何でもいいんだろ」
青髪 「てへっ」
上条 「……はあ。まぁ、分かったよ。一応当たってみる。できる限りな」
40:
 ◆小萌宅
禁書 「今日集まってもらった理由は言わなくても分かると思うんだけど、一応もう一度説明しておくんだよ」
姫神 「ぱちぱち」
禁書 「たくさんの拍手ありがとう! 今日の議題は三日後に迫るバレンタインのこと。つまり、チョコの話だね」
小萌 「……何でウチに集まることになったのかが疑問なのですが……」
禁書 「だってとうまのお部屋で相談してたらバレちゃうもん。こういうのはサプライズが重要だよね!」
姫神 「サプライズは。確かに重要」
禁書 「きたる月曜! 乙女にとっての戦場であるところのバレンタインの日!」
禁書 「イギリスと日本ではバレンタインの形式もちょっと違うけど、郷に入りてはってことわざもあるしたぶん大丈夫!」
姫神 「そうなの?」
禁書 「ちょっとくらい間違ったってみんな見逃してくれるんだよ!」
姫神 「それで。いったい今日は何を話せば?」
41:
禁書 「バレンタインは秘めた想いを伝える日……日本では女性が男性に向けてチョコを渡すことで想いを告白するという!」
禁書 「ここで言う「想い」は何も恋心とかに限定されていないわけであって。感謝でも何でも、とりあえずはいいんだよね?」
小萌 「まぁ、そうですね。一般では恋愛事のイベントとして取られることが多いと思いますけど」
禁書 「そこで、私、禁書目録は考えました。とうまにチョコを渡して驚かせてやろう、と!」
姫神 「え。驚かせる必要はどこに……?」
禁書 「肝心なのはサプライズ、なんだよ、あいさ!」
禁書 「ちなみにイギリスでは、バレンタインには名前を明かさずに贈り物をするわけだけど、
 日本でそんなことやったらたちまち御用だよね」
小萌 「……まぁ、確かに。バレンタインだからと言って不審物を見逃す人はいませんよね……」
禁書 「まぁ、ともあれ、日本のバレンタインの話をするよ」
42:
姫神 「チョコを思い人に渡す。手作りが望ましい」
禁書 「あいさ、良いこと言った! 私が言いたいのはまさにそこなんだよ!」
禁書 「とうまは最近、私が年がら年中寝転んでばかりのぐうたらシスターだと思ってる節があるんだよ」
小萌 (……違ったんですか、というのはさすがに失礼ですよね……)
禁書 「だから、とうまを見返してやるためにも、ここはひとつ、
 それこそほっぺが物理的に落ちるくらい美味しいチョコを作ってあげようと思うの!」
姫神 「物理的には。さすがにまずいと思う」
小萌 「つまり、シスターちゃんが手作りチョコを上条ちゃんにプレゼントですかー?」
禁書 「そう。私だってやればできるってところをちゃんと見せてあげないとね!」
43:
小萌 「どうしてそれが、私の部屋に集まって内緒のお話をすることに繋がるんです?」
禁書 「あ、いやそれは……」
姫神 「……」
禁書 「……チョコレートとか、作ったことないから、教えてもらえないかなあって……」カァァァ
小萌 「……健気ですね、シスターちゃん」
禁書 「そ、そんなんじゃないんだよ!」
小萌 「大丈夫! 私が手伝います! 必ずシスターちゃんが美味しいチョコを作れるように協力するのです!」
姫神 「せんせ。私も」
小萌 「大船に乗った気でいてください!」
禁書 「なにはともあれ、心強いんだよ!」
44:
小萌 「それで、シスターちゃん。どういうチョコを作るつもりだったんですか?」
禁書 「……えっと。そういうのも、よく分からなくて。
 あんまり簡単なのもいやだけど、手の込んだものを作ろうとして失敗するのもちょっと……」
姫神 「私。ちょうどバレンタインのチョコレート特集されてる雑誌を持ってる」
小萌 「ナイスなのです! それを見てみましょう!」
禁書 「……ど、どれも美味しそうなんだけど」
小萌 「シスターちゃんシスターちゃん? 自分で食べるわけではないのですよー?」
禁書 「わ、分かってるけど……味見する機会だってあるはずなんだよ……どうせなら、味見が楽しくなるようなのを……」
小萌 「ち、違うのですシスターちゃん! 優先するべきなのは上条ちゃんの好みなのですよー!」
禁書 「と、とうまなら、どんなチョコでも喜んでくれそうな気が……!」
小萌 「それは受け取る側が言うべきことであって、渡す側が言い訳に使っていい言葉じゃないのですー!」
45:
小萌 「チョコチップケーキ、ガトーショコラ、トリュフチョコ……男の子ですし、あんまり甘すぎない方がいいんですかねー?」
禁書 「そういえば私、とうまの味の好みって、あんまり知らないかも……」
姫神 「……リサーチ不足」
小萌 「だ、大丈夫なのです! 甘いのが苦手でも苦いのが苦手でも、大丈夫そうなのを選べば……!」
禁書 「そんなのあるの?」
小萌 「……ないんですかね、やっぱり」
姫神 「ないことはないような。でも。咄嗟には思いつかない」
小萌 「……直接訊いてみるわけにもいきませんし、味を何種類かに分けるしかないのです」
禁書 「ううん、直接訊いてみればいいんだよ!」
小萌 「えっ」
46:
禁書 「私がとうまに、「とうま、チョコレートはどんな味が好き?」って訊いてみるじゃない?」
小萌 「で、でもでも。そうすると、チョコを渡そうとしてるのがばれちゃうのです。サプライズはどこに行っちゃったのですか?」
禁書 「こもえ、そこが盲点なんだよ。期待させておいて、当日になっても何事もないような振りをして生活するんだよ」
禁書 「そうなるととうまは、「あ、あれ? やっぱりないの……?」と思うはず!」
姫神 「……なるほど。そして落胆しているところに」
禁書 「そう! 二重でサプライズなんだよ!」
小萌 「どのあたりが二重になってるかは分かりませんけど……上げて下げて上げるという発想は悪くないのです」
禁書 「というわけで、さっそく電話してみよう! こもえ、電話借りるんだよ!」
小萌 「あ、はいなのです」
47:
禁書 「……も、もしもし! 禁書目録ですけれども……ッ!」
小萌 「……すごく緊張してますねー」
姫神 「……」
禁書 「と、とうまー? あ、れ?」
小萌 「……?」
禁書 「……留守電なんだよ」
姫神 「え」
小萌 「け、携帯の方は……」
禁書 「かけてみる!」
48:
禁書 「も、もしもし! とうま?」
禁書 「あ、え、ええと……」
禁書 「……うぅ……顔を見ないで話すのは未だに慣れない……」
禁書 「あ、そ、それでね、とうま。とうまって、甘いの苦手?」
禁書 「じゃあ、チョコレートは?」
禁書 「そ、そっか。分かったんだよ!」
姫神 「…………」
小萌 「…………」
禁書 「それじゃあ……え?」
小萌 「……?」
49:
禁書 「あ、うん。分かった。ばいばい、とうま」
小萌 「……終わりましたね」
禁書 「寿命が縮むかと思ったんだよ……」
姫神 「口では。余裕そうなことを言ってたのに」
禁書 「口で言うのと実際にやるのは全然ちがう! ほんとにつかれた……」
小萌 「それで、上条ちゃんの好みは?」
禁書 「あ、えっと。どんなものでも大丈夫だって。甘いのも別に、苦手とかじゃないみたい」
小萌 「ですかー。じゃあとりあえず、適当なものを選んで作ってみます?」
禁書 「うん!」
50:
禁書 「……トリュフ。材料のとこにお酒が入ってるんだけど……」
姫神 「気持ち程度入れるなら。問題なさそうだけど」
禁書 「で、でも、こういうのに使うお酒って高そうだし……!」
小萌 「でも、大抵のには入ってますね。ラム酒とかブランデーとか」
禁書 「……変に気取ってお酒とか入れない方がいいんじゃないのかなぁ。癖が強くなりそうな気がするんだけど」
小萌 「まぁ、お酒は入れても入れなくてもかまわないでしょう。
 むしろ、ウチのキッチンで作れるかどうかも考えなきゃいけないですねー」
禁書 「そ、そういう問題もあるんだね……!」
小萌 「あるのです。いろいろ、考えなきゃならないことは山積みなのですよー。材料費とかね?」
禁書 「……!」
姫神 「……まさか。お金。ないんじゃ」
禁書 「……い、一応、とうまからもらったお小遣いを貯めておいたへそくりが、ここに……」
小萌 「いち、にい、さん、しい……八千円、ですか」
禁書 「い、いくらくらいかかるのかな……?」
小萌 「こんなに良く貯めましたねー……。上条ちゃん、万年金欠みたいなこと言ってるのに」
51:
禁書 「とうま、毎月のはじめに、欲しいものが買えるように、って必要な分とは別にお小遣いくれてるの」
禁書 「でも、私、あんまり欲しいものとか、ないし……」
姫神 「なるほど」
禁書 「折りを見てとうまに返そうとも思ったんだけど、バレンタインが、ちょうどいいタイミングで……!」
小萌 「……チョコでお返し、ですか」
禁書 「……うん」
姫神 (……かわいい)
小萌 「よし! じゃあまずは材料の買い出しにいくのですよ!」
禁書 「お、おー!」
姫神 「落ち着いて。ふたりとも。今からすぐに作るの?」
52:
禁書 「あ」
小萌 「……明後日の方がいいですかね。月曜、渡すには……」
姫神 「……当日の午前中。というのはさすがにダメだとしても」
禁書 「日曜の夜になるのかな?」
小萌 「ですね。だとすると、月曜の夜に渡すことになるんでしょうか?」
姫神 「私は。学校で渡せると思うけど」
禁書 「そ、それじゃあ、明日までに何を作るかを決めて、材料の買い出し、明後日チョコレートを作る、ってことかな?」
小萌 「そうなりますねー。今のうちに、いろいろと見てみましょう。美味しそうなのあるかも知れないですし」
姫神 「他の雑誌でも。似たような特集がされてるかも。本屋さん行ってみる?」
禁書 「……よし。俄然、燃えてきたんだよ……!」
60:
 ◆ファミレス
白井 「今日集まってもらった理由……は言うまでもないと思いますけど、一応説明しておきますの」
初春 「いや、必要ないですよ。バレンタインのことですよね?」
佐天 「まぁ、この時期だし、どうするかの相談ですよね。私は友だちだけに配って終わる予定でしたけど」
白井 「そうなんですが、そうじゃないんですの。ご覧ください。テーブルに顔をくっつけて真っ赤になってるお姉様の姿を」
初春 「……今日はなんだか様子がおかしいですよね、御坂さん」
佐天 「今の流れだと、やっぱりバレンタイン関係の悩みなんですか?」
白井 「そうですの。わたくしとしては大変遺憾なのですけれど、お姉さま、ずっとこの調子で……」
初春 「それはやっぱり、男の人のことで?」
白井 「殿方のことで、ですの」
佐天 「御坂さんが、ですか……いいなぁ」
61:
御坂 「…………」プシュー
初春 「……すごく大変そうで、「いいなぁ」って感じじゃないんですけど」
佐天 「た、たしかに……」
白井 「今日ふたりに来てもらったのは、
 この蒸気機関車みたいな音を立ててゆでだこになっているお姉様にアドバイスしてもらうためですの」
佐天 「あどばいす、ですか」
初春 「といっても、御坂さんは何を悩んでるんですか?」
白井 「バレンタインに関するすべて、だと思いますの」
佐天 「すべて? バレンタインの誕生とか、意義とかですか?」
白井 「そうではなくて。「どうすればいいか」というお話ですの。お姉様、起きてくださいまし」ペシペシ
御坂 「……う、な、なに……?」
白井 「おはようございますお姉様」
62:
佐天 「それで、バレンタインの話ですけど」
御坂 「え、えっ?」
初春 「あ、すみません御坂さん。話が進まなくなっちゃうので、質問には簡潔に答えてくださいね?」
御坂 「え……え、なに?」
初春 「チョコ、誰かに渡したいんですか?」
御坂 「べ、べつに、バレンタインだからってそんなの……!」
佐天 「……」
白井 「……」
御坂 「…………う、うん」カァァァ
63:
白井 「……こまったものですの」
佐天 「いいじゃないですか。初々しくてかわいいし」
初春 「渡したいんですかー。そうですかー。がんばってくださいね!」
御坂 「え、え?」
佐天 「いやぁ、私も相手がいればなあ」
初春 「佐天さんには私がいるじゃないですか。期待してますよ、私は作りませんけど」
佐天 「なにそれ、ずるいー!」
白井 「……はあ。お姉様が、殿方にチョコ……」
御坂 「あ、あのっ!」
初春 「はい?」
佐天 「どうかしました?」
御坂 「……そ、相談に乗って欲しいんだけど……」
64:
初春 「相談、ですか」
御坂 「う、うん」
初春 「それはどのような?」
御坂 「その、ね……」
御坂 「あの。男の人って、突然チョコとか渡されても、変に思わないかな……?」
白井 「……」
初春 「私は男の人じゃないので分かりませんが……嬉しいんじゃないですか? ふつうに」
御坂 「たとえばその、そういうのって、どういう風に渡せば……」
佐天 「うーん……ふつうに、「はい、これ!」じゃダメなんですか?」
御坂 「そんなの……」
御坂 「自然に出来る気がしない……」
65:
佐天 「なんていうか、普段は自信満々で怖いものナシって感じがするのに……」
佐天 「御坂さんって、色恋沙汰になると途端に引っ込み思案なんですね……」
御坂 「い、色恋とか、そういうんじゃなくてっ!」
初春 「え、違うんですか?」
御坂 「……うぅ……」カァァァ
白井 (お姉様、かわいらしいですけど……黒子は複雑な気分ですの)
初春 「まぁ、相手がどんな反応するかは、その人との距離感にもよると思いますよ」
御坂 「距離感?」
66:
初春 「たとえば、いつも冗談を言い合ったりしてる仲だったら、
 「はいこれ」って、気軽に渡せますよね。気まずくなりそうだったら義理だから、とでもいって」
御坂 「うん、うん」
初春 「逆に、普段からちょっと距離があったりすると、チョコを渡す理由が希薄ですから……。
 『ひょっとして俺のこと好きなのか?』と思われる懸念が……」
御坂 「距離がある、っていうと?」
初春 「あんまり話をしたことがない人にチョコを渡されたら、「もしかして」と思うんじゃないかなぁ、と」
御坂 「それには当てはまらない、と思う。冗談を言い合うって仲でもないけど……」
初春 「ちなみに御坂さん、手作り? 購入?」
御坂 「……買った奴」
佐天 「え、手作りじゃないんですか?」
67:
御坂 「だ、だって。手作りってなんか……恥ずかしいじゃない」
佐天 「……そうですか?」
初春 「失敗するかも、とか、美味しくできないかも、と思うことはあっても、恥ずかしいっていうのはないかと……」
御坂 「え、私だけ?」
佐天 「ちょっとよく分からないんで、もうちょっと詳しく説明してもらっていいですか?」
御坂 「いや、だからさ。チョコを渡すじゃない? 作る以上」
御坂 「でも、手作りのチョコって、なんかこう……本気っぽくて……」
佐天 「……ん?」
御坂 「だから、気合が入りすぎてる感じがして、なんかいやじゃない?」
白井 「……つまり、ええかっこしいなんですのね、お姉様は」
御坂 「な、なんでっ!?」
68:
佐天 「つまり、本気だと思われたくないってことですよね? 本気だと思われるのが恥ずかしいと」
御坂 「……そういうこと、になるのかな?」
初春 「つまり……『勘違いしないで! 義理なんだからね!』っていうことですか?」
白井 「初春。それだとちょっとしたツンデレみたいですの」
初春 「ていうか、御坂さん、本気っぽく見られたくないって言いますけど、『本気』じゃないんですか?」
御坂 「ほ、本気って……本命、ってこと?」
白井 (……かわいいですの)
初春 「本命ってことですね。というか、そこ、最初にはっきりさせましょう。義理か本命か」
69:
御坂 「本命ってわけじゃない、わよ。うん、義理」
佐天 「ちなみに、他の人にチョコを渡す予定は?」
御坂 「……? えっと、一応、ここにいる三人と、固法先輩と、水泳部の二人と……」
初春 「あ、すみません。チョコはありがたいんですけど、女性は抜きで」
御坂 「他の男性でってこと? 誰にも渡さないわよ?」
初春 「……ん?」
佐天 「……それ、本命とは違うんですか?」
御坂 「ち、違うわよ! どうしてそうなるのっ!?」
御坂 「た、ただアイツには世話になってるから! お礼とか、そういうのも兼ねて……」
70:
初春 「御坂さん」
御坂 「えっ、何?」
初春 「認めちゃいましょう?」
御坂 「なに、なにを!」
初春 「好きなんですよね?」
御坂 「だ、だれが! だれを!」
初春 「御坂さんが。その男の人を」
御坂 「だ、だから! そんなんじゃないってばっ!」
白井 「……この寂しげな気持ちはなんですの?」
佐天 「よしよし、ですよ白井さん。寂しげなだけで済むんだから、成長しましたね」
白井 「こんな成長なら、したくありませんでしたの……」
71:
初春 「まぁ、ひとまず義理ってことで話を進めますか。このままだと話が進みませんし」
御坂 「だから義理なんだってば!」
白井 「そんなに力いっぱい主張されなくても分かってますの……」
御坂 「うぅ……」
佐天 「そ、それで。義理で、チョコレートを買って、渡そうと思ってるんですよね?」
御坂 「そう! そうなの!」
初春 「そう難しいことじゃないような気がしますけど……経験がないからなんとも言えません」
佐天 「渡すって言うくらいですから、十四日にチョコを贈りたいわけですよね?」
御坂 「う、うん」
佐天 「十四日は平日ですから……放課後、会えないかを訊いてみたらどうですか?」
72:
御坂 「……でも、連絡先わからないし……」
佐天 「……道のりは険しいですね」
御坂 「だ、第一! 十四日に会う約束なんて、なんか……、なんか、本気っぽいじゃない!」
佐天 「ま、またそれですか……」
初春 「でも、約束しなきゃ会えませんよね。その人の学校まで行って校門前で待ってるとかしない限りは」
御坂 「!!」
白井 「お姉様? 『その手があったか!』みたいな顔しても、その殿方が校門につくより先に帰ってしまう可能性も……」
御坂 「……だ、だよね……」
73:
初春 「つまり、その人と十四日にコンタクトを取る方法が必要なわけですよね」
佐天 「連絡先がわからないのが痛いねー。三日後だし、その人の方も予定入ってるかも」
御坂 「そ、それは……その、女の人と一緒に、という?」
佐天 「あ、あくまで可能性の話ですよ!」
御坂 「ううん。でもありえる……もしそうだったら」
初春 「……御坂さん」
御坂 「え?」
初春 「ファイアーエムブレム、というゲームをご存知ですか?」
御坂 「……な、名前だけなら」
佐天 「……なぜに今ファイアーエムブレム?」
74:
初春 「乱数は悪い可能性の方を前提にして行動するのが普通です。
 ヒットポイントゲージの残りが3しかないのにこちらの命中70%を信じてトドメを刺そうなど愚の骨頂。
 距離を取って森に隠れてきずぐすりでも使うか騎兵に救出させるのがベター。
 でもですよ、御坂さん。時には、そう、時には……天馬騎士で弓兵に接近しなければいけない時もあるんです」
御坂 「……ごめん、言わんとしていることがまったく伝わってこないんだけど……」
白井 「分の悪い賭けに出なければならない瞬間もある、ということですの」
佐天 「……あれ? 今、そういう流れでしたっけ?」
初春 「つまり、悪い可能性なんて全部度外視して、勇気を出さなければならないタイミングというのがあるんです! この世には!」
白井 「ペガサスを接近させるくらいなら、賢者でサンダーストーム打ちますの、わたくしなら」
佐天 「白井さんも白井さんで何か語り始めちゃったし……」
75:
御坂 「そ、そうよね。悪い風に考えたってはじまらないわよね……!」
白井 (別の女性と十四日を過ごす可能性はなくなったわけではないはずなのですが)
初春 「その意気です、御坂さん!」
御坂 「分かったわ、初春さん!」
佐天 「乗せられてるなぁ……」
白井 「元々乗せられやすい方ですから……」
御坂 「あ、でも、ちょっとまって、あっちの予定はともかく、こっちから誘う手段の話が全く進んでないわよね?!」
佐天 「あ、そうですね。とにかく、誘う手段を考えなきゃ」
76:
初春 「……書庫で住所調べます?」
白井 「情報の私的利用は……さすがに」
佐天 「学校に電話したら教えてもらえませんかね?」
御坂 「そもそも、どこの高校に通ってるかが……」
初春 「あ、高校生なんですか」
佐天 「大人ですね……」
御坂 「あの、ホントにそういうのじゃなくて……!」
佐天 「そうですね。とにかく、方法、ですか……」
77:
初春 「しかし、お手上げですね。その人を見つけだす方法が分かりません」
白井 「……噂をすれば影とも申しますから、もしかするとこの辺りにいるかも知れませんわね」
初春 「まさか、そんな都合のいい話――」
御坂 「……い、いたああああああああああ―――!!」
初春 「え、ええー?」
佐天 「もはや運命じみてますね……」
白井 「ホントですの」
78:
御坂 「ど、どうしよう! どうすればいい!?」
白井 「どうすればも何も、直接つかまえてくればいいじゃありませんの」
御坂 「どうやって!? ちょっとまって、十四日会うにはどうすればいいの? 待ち合わせ!?」
佐天 「お、落ち着いて御坂さん。とにかく十四日の予定を訊けばいいんです」
初春 「もしそれが聞けなかったら、連絡先だけでも訊けばいいじゃないですか」
御坂 「転んでもただじゃ起きない計画ね……!」
白井 「ただの行き当たりばったりな計画だと思いますの……」
御坂 「それじゃ、私! ちょっと行って来る。すぐ戻ってくるから!」
佐天 「……壮絶だなあ」
初春 「いつになくハイテンションですね」
白井 「たぶん、緊張してるだけですの」
79:
白井 「さて。戻ってくるまでに、何か飲み物でも持ってきますか……」
佐天 「ですね。話し込んでて、ドリンクバー取りに行くタイミングありませんでしたし」
初春 「メロンソーダって、何であんなに毒々しい色してるんですかね」
佐天 「……言われるまで気付かなかったけど、確かに毒々しい色してるなぁ」
白井 「そんなこと言ったらウーロン茶だって泥水ですし、コーラなんて墨汁ですの」
佐天 「……食欲なくなるなぁ」
御坂 「……た、ただいまー」
佐天 「え、早いですね」
80:
白井 「どうでした? 予定、聞けましたの?」
初春 「まさか別人だったとか……」
御坂 「……う、ううん」
佐天 「な、なんだか妙に静かになって帰ってきましたね。どうしたんですか?」
御坂 「……どうしよう」
白井 「ど、どうしたんですのお姉様! 何があったんですの!?」
御坂 「……なんか、十四日に」
初春 「十四日に?」
御坂 「パーティーみたいなのやるから来ないかって」
佐天 「……パーティー?」
81:
御坂 「な、なんかね、内輪だけでどこかに集まってバカ騒ぎするっていうのを企画してるらしくて」
御坂 「友だち連れてきてもいいっていうんだけど……どう答えたらいいか分からなくて」
御坂 「そしたら、メールでどうするか教えてくれって、電話番号とメールアドレス教えてもらった」
佐天 「…………初春、これはどうなの? 成功なの? 失敗なの?」
初春 「正直分かりませんけど……これは、天恵では?」
白井 「天恵、ですの?」
御坂 「で、でも。チョコ渡したいだけなのに……」
佐天 (正直、チョコ渡したいだけには見えない……)
初春 「距離を縮めるチャンスじゃないですか、御坂さん!」
御坂 「だ、だからそういうんじゃないんだってば……!」
82:
初春 「十四日に集まるって事は、バレンタインに合わせた企画ですよね、たぶん」
白井 「まぁ、ですわね。意図はさておき」
初春 「御坂さん、僥倖です。手作りチョコを作っても不自然じゃないですよ、パーティーなら!」
御坂 「…………!」
佐天 「まさに、おあつらえ向きってわけだね!」
白井 「パーティーという言葉のうさんくささが気になりますけれど」
初春 「そこは気にしない方向で!」
83:
初春 「何人ぐらいになるかにもよりますけど、大人数で集まるなら、ふたりきりになっても不自然ではないタイミングがあるはず」
初春 「そのときを狙えば……個人的にチョコを渡すことも可能!」
御坂 「ふ、ふたりきりって……!」
佐天 「見事にお膳立てが済んでますね……。あとは御坂さん次第です」
白井 「お姉様がその、パーティーに参加すると言うなら、わたくしも参加しますの」
初春 「私もです! どうせ予定ありませんでしたから、できればこの四人で集まりたいって思ってましたし!」
佐天 「どうします? 御坂さん」
御坂 「わ、私は……」
84:
御坂 「で、でも、知らない人と会うのは、ちょっといやというか……」
佐天 「御坂さんって、人見知りとかするタイプでしたっけ?」
御坂 「ちがうけど……でもなんか、いやじゃない? 月曜ってことは放課後からでしょ? 夕方から夜にかけてってことだし」
初春 「でもほら、何か失礼なことをしてきたり、変なことをしてこようとしたら、白井さんと私がいますし」
御坂 「アイツの知り合いが変なことをしてくるとか考えてるわけじゃなくて!」
御坂 「こう、行っていいのかな、って。部外者だし」
初春 「……御坂さん」
御坂 「は、はい?」
初春 「簡潔に答えてください」
初春 「行きたいですよね?」
御坂 「……」
御坂 「……うん」
93:
 ◆上条宅
禁書 「ただいまー」
上条 「おー、帰ってきたか。どこいってたんだ?」
禁書 「こもえの家! とうまとうま、晩ご飯なに?」
上条 「ちょっとまってな、今作ってるから」
禁書 「はーい。あ、とうま。結局、電話のとき、何の用だったの?」
上条 「待て待て。飯を食いながら話そう。コロッケあるぞ。食うか?」
禁書 「たべる!」
94:
禁書 「……」モグモグ
上条 「美味いか?」
禁書 「……」コクコク
上条 「そうかそうか」
禁書 「……モグモグ」
上条 「あ、んで、さっきの話なんだけどな。禁書目録、十四日の予定ってなんかあるか?」
禁書 「……!!」ングッ
上条 「あーあー、待ってろ。水持ってくるから」
95:
禁書 「じゅ、十四日? なんで?」
上条 「いや、それがさ。十四日に、青髪とか土御門と一緒に遊ぶことになって」
禁書 「え、ええっ!!」
上条 「……な、なんでそんなに驚いてるんだ?」
禁書 「な、なんでって……ううん、なんでもないよ……?」
上条 「……そうか?」
禁書 「うん! で、その、遊ぶ予定って……? 帰ってくる時間は? 夜には帰ってくる?」
上条 「ど、どうしたんだよおまえ……」
禁書 「た、大した意味はないけど! 大した意味はないんだけど、教えてほしいかも!」
96:
上条 「いや、というか、ウチなんだよ、場所が」
禁書 「ま、まさかとうま……私が邪魔だから外に遊びに行っててくれとか言わないよね?」
上条 「言うわけないだろそんなこと」
禁書 「……」ホッ
禁書 「……え? でも、それだとウチで遊べないんじゃ……?」
上条 「いや、そうじゃなくてな。青髪が、十四日は一人でいたくないんだと」
禁書 「……」
上条 「「バレンタインをぶっ飛ばせ!」とか言って」
禁書 「……!!」ギクッ
97:
上条 「まぁ、そんで。十四日に集まって騒ぐことになったんだよ」
禁書 「……ここで?」
上条 「そう。一応知り合いとか呼んでな」
禁書 「……夜?」
上条 「たぶん。あんまり遅くはならないと思うけど……どうだろうな。まだ分からん」
禁書 「……う、うぅ……」
禁書 (ふたりきりになれなかったら、とうまを驚かせるのは難しいかも……!)
上条 「それで、禁書目録。おまえも参加するだろ?」
禁書 「えっ。あ、う、うん! もちろん!」
98:
上条 「そっか。ならいいんだ」
禁書 「あ、あの。とうま、念のために訊きたいんだけど……女の人は来たりするの?」
上条 「ん? ああ、御坂とその友だちは誘ったよ。土御門は舞夏も誘ってみるって。姫神にもメールしてみようかと思ってるけど」
禁書 「……十四日の夜、なんだよね?」
上条 「世間で言うところのバレンタインだな」
禁書 「そ、そんな……」
上条 「……?」
禁書 「こ、これは由々しき事態なんだよ……!」
99:
 ◆小萌宅
禁書 「と、いうわけで! 本日はゲストのツチミカドマイカさんに来てもらいました!」
姫神 「ぱちぱち」
舞夏 「盛大な拍手をどうもありがとうー!」
小萌 「シスターちゃーん? 今日はどんなチョコにするか決める予定だったのではー?」
禁書 「それよりも大問題が発生したんだよこもえ……! 下手をすると、とうまの貞操が……貞操が……!」
小萌 「て、貞操って……そんな、まさか……」
舞夏 「くふふ。貞操だけで済めばいいけどなー」
禁書 「……そ、そんな……」
姫神 「……ごめんなさい。この空気には。ついていけない」
100:
禁書 「こもえ、大変なんだよ! わたしはもうどうすればいいのか……!」
小萌 「お、落ち着いてくださいシスターちゃん。私は何がなんだかわからないのですよ……」
姫神 「たぶん。今日の議題は。このメールのこと」
小萌 「メール?」
姫神 「これ」
小萌 「……『十四日、みんなで集まってバレンタインパーティー』……」
小萌 「……バレンタインパーティ……変な響きです」
禁書 「いいの? 教師として! 見逃して良いの? 時間夜だよ!?」
小萌 「……うーん。非行にさえ走らなければ見逃すのはやぶさかではないのです」
禁書 「そ、そんな……こもえまで……!」
101:
姫神 「悪いけど。私はこのメールの文面に従わせてもらう」
禁書 「う、うらぎりもの!」
姫神 「十四日。楽しみ」
小萌 「き、昨日までの和やかな雰囲気が跡形もないのです……!」
舞夏 「ゲストとして招かれたところ悪いけど、私もパーティーには参加させてもらうぞー」
禁書 「ま、まいかまで……う、うぅ……私がとうまをひとりじめするつもりだったのに……!」
姫神 「独占はよくない。平等であるべき」
禁書 「平等じゃいつまで経ってもふたりっきりになれないじゃない!」
舞夏 「なりたいのかー? ふたりきり!」
禁書 「なりたいとかなりたくないとか、そういうレベルの話じゃないんだよ!」
禁書 「みんなの前でチョコを渡すとか……! 恥ずかしいにも、ほどがある……!」
102:
舞夏 「……チョコ渡すためにふたりっきりになりたいのかー?」
禁書 「そ、そういう言い方をすれば、そうとも言える……」
姫神 「私は。ふつうにみんなのまえでも渡すけど」
小萌 「シスターちゃんには悪いですけど、今回はどう考えても二人に理があるのです。みんな仲良く、ですよ……?」
禁書 「うぅ……とうまに日頃の感謝を込めて、ちょっとまじめなことを言おうと思ってたのに……」
小萌 「パーティーが終わって、みんなが帰ってから言えばいいじゃないですか。祭りの後なら自然とそういうことも言えますよ」
禁書 「…………!!」
姫神 「同居というアドバンテージ。恐るべし」
舞夏 「最後まで一緒にいるわけだしなー。有利っていえば有利かもー」
103:
禁書 「……そう、そうだね、こもえ。私は勘違いしてたんだよ……バレンタインは甘いわたあめみたいな幻想じゃないんだよ……。
 言うなれば二月十四日は……乙女の、戦争……!」
舞夏 「くふふ。ようやく気付いたかー」
姫神 「勝負は既に。始まっている」
禁書 「あ! 私が読む分の雑誌がない! ふたりとも、どっちか貸してー! うぐぐ、ひ、卑怯なー!」
小萌 「い、一緒に仲良くみてくださいー!」
舞夏 「まぁ、チョコレートなんてイベントのおまけみたいなものだしなー」
姫神 「それは。渡す側が言うセリフではないのでは」
禁書 「ど、どれにすれば……いったい、どれに……」
小萌 「収拾がつかなくなってしまったのです……」
104:
小萌 「三人とも! 注目ー! 注目ですー!」
姫神 「なに?」
禁書 「……うぅ、こもえ、わたしはどうすれば……!」
舞夏 「んー。チョコはどうせみんな用意するだろうし、ちょっと変わり種にするか?」
小萌 「シスターちゃんは落ち着いてください! あと話はちゃんと聞いて!」
舞夏 「はーい」
禁書 「……」スー、ハー
小萌 「静かになりましたね」
105:
小萌 「どっちにせよ、チョコを作るのは昨日までの予定通りです。人が増えたからって慌てることはないのですよ」
禁書 「そ、そういえば、そうだね……」
姫神 「慌てすぎ」
禁書 「……うぅ……」
小萌 「まだ午前中ですし、午後までに何をつくるか決めましょう」
小萌 「決まったら、必要な材料をメモして、買い出しにいくのですよ」
小萌 「作るのは明日になると思いますけど、下ごしらえみたいなのが必要なタイプのもあるはずです」
小萌 「渡す相手のことを考えて、しっかり決めるのです」
禁書 「……う、うん。分かったんだよ……」
112:
 ◆ファミレス
御坂 「参加することが決まったのはいいのよ、連絡しといたし、人数も報告したし……」
白井 「何か心配事でもありますの?」
御坂 「なにか、って心配ごとだらけよ!」
御坂 「お菓子作りなんてあんまりしたことないし……服とかどんなの着てけばいいか分からないし……!」
御坂 「第一、時間によっては門限破りも視野にいれなきゃ……!」
白井 「……寮監の折檻は恐ろしいですけれど、まぁ、仕方ありませんの」
佐天 「目下の問題点はチョコですかね? 服はどうにでもなりますし」
御坂 「ど、どうにもならないよ! どうしよう、どんなの着てけばいいの……パーティーって!」
初春 「たぶん御坂さんが考えてるようなパーティーじゃないと思いますから、普段着でいいのでは?」
御坂 「ふ、普段……制服だし……」
113:
佐天 「御坂さん。逆に考えましょう」
御坂 「ぎゃ、逆に?」
佐天 「チャンスです。ここぞとばかりに、普段とは違う自分をアピールです」
御坂 「あ、あぴーる?」
佐天 「そうです。普段よりちょっと気合入れた服装で、軽めにお化粧もして!」
初春 「……佐天さん、テンション高いですね」
白井 「お姉様はそのままでも十分かわいらしいと思いますの」
佐天 「そんなことではダメです白井さん! 御坂さんがかわいいからこそ、ここぞというときには更に磨きをかけて……!」
御坂 「あ、あんまりかわいいかわいい連呼しないで!」
初春 「事実ですから大丈夫ですよ」
御坂 「そういう反応に困る話はやめてよ……」
114:
御坂 「というか……服に関しても、あんまり自信ないし……」
初春 「どうしてですか?」
御坂 「だ、だって……」
御坂 「私の趣味って、こどもっぽいでしょ?」
白井 「お姉様……自覚あったんですの?」
御坂 「あれだけ言われ続けてればそうなのかなって思うわよ!」
初春 (あ、自分で気付いたわけではないんですね)
佐天 「とにかく! 服装に関してはいつもより気合を入れて……なんならこの後セブンスミストに行く勢いで!」
初春 「そうですねー。なんならみんなで見繕ってもいいですし」
白井 「お姉様だけじゃなくて、わたくしたちも参加するわけですし、必要に応じて買い物した方がいいでしょうね」
115:
初春 「服に関してはひとまずそれでオーケーですね。次は……チョコですか」
白井 「手作り……となると、ちょっと資料が必要ですね」
佐天 「あ、私、雑誌買ってきました! 手作りチョコ特集の!」
初春 「準備いいですね、佐天さん」
白井 「……ふむ。味も大事ですけど、見栄えも重要ですわよね、手が込んでるかどうかはそこで判断されやすいですから」
初春 「まぁ、美味しい方がいいとはいえ、あんまり手の込んだもの作ろうとしてよくわからない味になってもダメですし……」
佐天 「じゃあ見栄え優先? 量とかは……パーティーだし、考えた方がいいよね」
御坂 「あ、あれ……。なんか私、当事者なのに蚊帳の外……?」
116:
白井 「そうですわね。お姉様の意見も聞かなければなりませんの」
初春 「どうします? 味ですか? 見栄えですか? いっそラッピングですか?」
佐天 「ラッピングに関しては……この雑誌、あんまり載ってないね……」
御坂 「う、うぅ……?」
御坂 「……な、なにがなんだか……」
佐天 「そんなんじゃだめですよ御坂さん! その人に手作りチョコつくってあげなきゃならないんですから!」
初春 「そうですよ、ちゃんとその人が食べて美味しいって言ってもらえるようにしないと!」
白井 「私たちが決めた通りにチョコレートを作ったところで、お姉様の気持ちは三分の一も伝わりませんの」
御坂 「……うぐっ」
117:
御坂 「と、というかそれ以前に! 私の気持ちってどういうことよ、黒子!」
白井 「ですから、お姉様はその方に気持ちを伝えるためにチョコを作るんですわよね?」
御坂 「アイツとはそんなんじゃないって……!」
佐天 「え、じゃあなんでチョコを渡すんですか?」
御坂 「……あれ?」
御坂 「……なんでだっけ」
白井 「いつの間にか目的がすり替えって分からなくなってきたんですのね……」
初春 「ちなみに御坂さんは最初、「感謝の気持ちを伝えたい」って言ってましたから、白井さんの言い分は間違ってませんね」
佐天 「御坂さんが勝手に勘違いしただけ、ってことですか……」
御坂 「な、なんか今日、みんなちょっと辛辣じゃない? 私に対して」
118:
白井 「当たり前ですの」
白井 「もう一度言わせてもらいますけど」
白井 「当たり前ですの!」
佐天 「え、そんな強調するようなタイミングですか? 今」
白井 「わたくし、お姉様が殿方にチョコを渡そうとするなんて、それだけで心が苦しくなりますの……!」
白井 「ですけど、お姉様、この際、お姉様がその殿方に好意を抱いているかどうかなんてどうでもいいんですの」
白井 「重要なのは、わたくしが敬愛するお姉様が、その方に感謝していて、その感謝を少しでも伝えたいというところ……!」
白井 「お姉様がそう望むなら、黒子は協力するにやぶさかではありませんのに……」
白井 「ですのに、何でお姉様はこの期に及んで及び腰なんですのっ!?」
御坂 「…………!!」
初春 「唐突に雰囲気が一変しちゃいましたねー」
119:
御坂 「そ、そうよね。ぐだぐだ考えてる場合じゃないわ。ありがとう黒子」
白井 「どういたしまして、ですの」
御坂 「とにかく、アイツを喜ばせてやらなくちゃ。余計なことは考えないで……」
佐天 「そうですね。とりあえず、どんなチョコにします?」
御坂 「写真だけ見てもイメージ湧かないわね……これ、どのくらいの大きさなんだろう」
白井 「パーティーですし、大勢で食べられるようなものがいいかもしれませんけど……」
佐天 「……んー。みんながチョコ作ってきてたら飽きそうですよね……」
初春 「チョコ以外の可能性も模索しといた方がいいですね。クッキー……あ、飲み物とかどうするんでしょう」
白井 「一応、わたくしたちの側でも用意していった方がいいでしょうね」
120:
御坂 「とりあえず予算はあるから、いろんなのを試しに作ってみましょうか……」
初春 「えっ」
佐天 「み、御坂さん? 作り終わったら当然、味見するんですよね? その役はいったい誰が……」
御坂 「みんな協力してくれるわよね?」
佐天 「……」
初春 「……」
佐天 「……は、はい……」
初春 「……私、こないだ、体重計に追いかけられる夢みたんです」
白井 「正夢ですわね。よかったじゃありませんの」
初春 「なにがっ! どこがっ! いいんですかっ!?」
125:
 ◆上条の部屋
青髪 「一応、カミやんの部屋でやることは確定したわけなんやけど……」
上条 「れいぞうこあけーてー!」
土御門「なんもーありゃしなーいや! ってカミやん、そこは「冷蔵庫開けりゃ」だにゃー」
青髪 「……ふたりとも、何やっとるん?」
上条 「何って……どちらかが挙げた曲を歌詞を見ないで熱唱するゲームだけど」
土御門「今のところ歌詞間違いはカミやんが三回、俺が二回なんだにゃー」
青髪 「なにくだらないことしてんねん自分ら……」
126:
上条 「これが結構楽しい。大声で歌うのも結構楽しい。上手い下手気にせずに済むのも結構大きい」
青髪 「いやええねん、その何とかゲームは。カラオケでも行っとけやそこは。あと結構って何回言うんや」
上条 「採点……怖いじゃん。九十点台出せないし」
土御門「にゃー」
青髪 「採点しなきゃええ……いや、いいわ。ひとまず歌うのやめ。
 パーティーの細部決めていこう。こらこら、ゲームキューブやめろや」
土御門「なんでWiiがないんだにゃー……」
上条 「新型買う余裕なんてありませんよ、上条さんには……これも青髪から譲ってもらった奴だし」
青髪 「いや、やから。ゲームやめてこっち向こう、君たち」
127:
上条 「んーっと。まだ決めなきゃいけないことあったっけ?」
青髪 「決めなきゃいけないことも何も、まだ何にも準備してないでしょう」
土御門「人数、はっきりしてるだけで何人なんだにゃー?」
青髪 「ちょっと数えてみよか」
土御門「まずここにいる三人に、禁書目録、舞夏で五人……」
上条 「御坂たちはメールで人数報告来たぜ。四人だってさ」
青髪 「姫やんも誘っといたから……合計で十人やね」
土御門「……んー。結構多くなったけど、まだ少ない気がするにゃー」
青髪 「男女比……3:7なんやけど……君ら、男の知り合いは?」
上条 「……」
土御門「……」
青髪 「ですよね」
128:
青髪 「まぁ、もうちょっと人数増やしてみよか。小萌センセとかどうやろ」
上条 「おいおい……いいのか、教師呼んで」
土御門「まぁ、あの人なら大丈夫って気もするんだぜい」
青髪 「監督だとかなんとか名目つければ来てくれるやろ」
上条 「……そうかなあ」
青髪 「それにカミやんの知り合いの子、常盤台の子なんやろ? 監督の先生が面倒見るっていえば、大丈夫なんちゃう?」
上条 「そんなに甘くないとは思うけど……。言い訳がないよりマシか?」
土御門「そうなると先生に迷惑がかからないように、常盤台の方に確認してもらわなきゃならないにゃー」
上条 「確実に許可がとれるか分からないし、ちょっとした賭けになるな」
青髪 「ひとまず、小萌センセの予定を訊いて、そこらへんも相談してみよか」
上条 「んじゃ、電話して見るか」
129:
青髪 「さて……あと考えなきゃいけないことは……なんかある? つっちー」
土御門「食い物と飲み物とか。どのくらい用意するかとか。あとまぁ、バカ騒ぎするのに必要なものがあるにゃー」
上条 「必要なもの」
土御門「酒」
上条 「先生いるんだぞ……ねーよそれは。パーティーグッズとかいっとけ」
青髪 「……パーティーグッズ、て、どんなん?」
上条 「……」
土御門「……」
上条 「……お金なんかは」
土御門「ちょっとでいいのだあああ!」
青髪 「考えるの面倒になったからって歌うなや。しかも何でそこなん? 「大迷惑」やろそれ……」
130:
上条 「……ひとまずそっちはおいといて、食い物のこと考えるか」
青髪 「そうやね。あんまり多くてもアレやし、分量考えんと」
上条 「いや、普通に多くて大丈夫だと思うぞ」
土御門「だにゃー」
青髪 「え、なんで?」
上条 「うちの同居人も、たまにはたらふく食いたいだろうし」
土御門「奴の胃袋は宇宙だにゃー。想像の倍は用意しとかないと追いつかないぜい」
上条 「それは言い過ぎにしても、まぁ多めに用意しとくに越したことはないだろう」
青髪 「そ、そうなん? まあ予算の関係上限界はあると思うけど」
上条 「会費とるワケにもいかないし、俺ら三人で払うしかないわけだな」
131:
土御門「まぁ、たまにはこういうことにパアッと使うのも悪くないにゃー」
上条 「……だな」
青髪 「万年金欠のカミやんからそんなセリフが出るなんて……成長したなぁ、カミやん」
上条 「や、やめろ。なま暖かい目でこっちを見るんじゃない。ニヤニヤすんな」
土御門「ちょっと前まで不幸だ不幸だって毎日のように言ってたのに、最近は数が減ってきたしにゃー」
上条 「……そりゃ、ね。なんでもないようなことが幸せだったと気付く程度には大人になったんですよ」
青髪 「そやね……バカ騒ぎしよか、カミやん」
土御門「もう計画するのが楽しくなってきて、バレンタインとかどうでもよくなってきたにゃー」
青髪 「ばれ……ああ、そういう話やったね、最初」
上条 「おい、おまえは忘れちゃダメだろ」
132:
青髪 「参ったなぁ……このままやと普通に楽しいままで終わってまうね。バレンタインぶっ飛ばしとかんと……」
土御門「無理矢理ぶっ飛ばす必要はないような気がするが……」
青髪 「いやいや、ダメですよ。看板に偽りありはいかんでしょう。
 美味しい味噌ラーメンの店って書いてあるのに醤油ラーメンしかなかったら嫌でしょう」
上条 「いや、嫌っていうよりは……まぁ、確かに「看板に偽りあり!」って感じだが」
青髪 「でしょ。やっぱり考えとかんとね、ぶっ飛ばす方法」
上条 「ちょうど食い物の話してたわけだし……食い物でぶっ飛ばす方法を考えてみるか」
青髪 「えっと……全部和食とか?」
土御門「パーティーで全部和食はさすがにないにゃー。雰囲気ぶちこわしって意味では正しいけど、空気が凍り付きそうだぜい」
上条 「ピザとかオードブルとか、そういうのだとクリスマスっぽいよな」
青髪 「くりすます? なんですかそれ。リスの仲間? どっちかっていうと魚の仲間?」
上条 「あーわかったわかった。クリスマスも嫌いだったのな、おまえ」
133:
青髪 「嫌いじゃないですよ……! 嫌いなものですか……! 嫌いじゃない! 嫌いじゃないよカミやん!」
上条 「やめろ、主語を抜いて話すな、微妙な感じになるから」
土御門「かといって、パーティーって言って食べ物で手を抜くのもなぁ」
上条 「お菓子とかだけでっていうのも難だし……」
上条 「……いっそ、作るか?」
青髪 「……ん? どういう意味、カミやん?」
上条 「料理。作っちまわない? バレンタインっつったら手作りだし」
土御門「いや、いやいやいや。手作り料理と手作りチョコじゃあ意味合いがだいぶ違うと思うにゃー」
青髪 「ぶっ飛ばすためにバレンタインに則ってどうすんねん。のせられとるやないの」
134:
上条 「だから、バレンタインをぶっ飛ばすために手作り料理なんだよ」
青髪 「……ん?」
土御門「それはアレかにゃー、チロルチョコ配ろうってのと同じ理屈で?」
上条 「そう。男が手作り料理するなんて誰も思わないだろ。驚くはずだ」
青髪 「……驚かせてどうすんの?」
上条 「脅かすことができればそれでいいじゃないか。ドッキリ大成功、的な」
土御門「……んー、実際驚くかどうかは微妙とはいえ、食べ物についても解決するし、アリって言えばアリか……?」
青髪 「え、アリなんですかつっちー、これ」
土御門「食い物は確かに大事だにゃー。つーか、自分たちで作るってパーティーっぽくてなんか良くね?」
青髪 「……良くね? と訊かれればたしかに悪くはないでしょうけど……」
135:
上条 「でも、料理とかできないしな……土御門、舞夏に協力を仰ごう」
土御門「オーケイだにゃー。しかし、料理とか具体的なことも考えとかないとな」
青髪 「パーティー料理って言ったらどんなんやろねー……」
上条 「……フライドチキン?」
土御門「ピザ?」
青髪 「んー……油っぽそうなものばっかりやねえ……しかも手作りできなさそうなの」
上条 「そこらへんも舞夏に相談してみよう。予算のことも考えて」
青髪 「よし! 決めなきゃならんことはまだまだあるで……!」
136:
上条 「あ、そうだ。この部屋でやるのはいいんだけど、大きめのテーブルないんだよな。場所はまぁどうにかなると思うんだが」
青髪 「小萌センセも混ぜたら十一人やし、手狭なんはしゃあないけど……テーブルは必要やね……」
土御門「後は食器の類。紙コップと紙皿と割り箸の使い捨てできる感じにするのかにゃー?」
青髪 「テーブルはウチにもあるけど、持ち運び面倒やな……誰かが車出してくれるとええんやけど」
上条 「つか、場所を青髪の部屋にすれば良かったんじゃねえの?」
青髪 「そんなん、広さも確定してない部屋でやるなんて無理に決まっとるでしょ」
上条 「……は? どういう意味?」
土御門「そのままの意味だと思うが、まぁこの部屋でやるのはどっちにせよ決まりだぜい、カミやん」
137:
青髪 「んー。つっちーの部屋に、持ち運びやすいテーブルない?」
土御門「ない……けどまぁ、手配はできると思うにゃー」
上条 「んじゃあ、そこんとこは土御門に任せるか。
 食器類は使い捨てでいいとして……あとは舞夏に早めに相談しないと準備が間に合わないな」
土御門「じゃあさっそく連絡してみるんだぜい」
上条 「小萌先生にも一応、料理の相談しといた方いいだろうな……」
青髪 「だんだん形になってきたなぁ」
上条 「忙しいのはこれからだろうけどな」
土御門「そうだにゃー」
138:
上条 「……授業が終わってすぐに料理を始めたとしても、結構スケジュールはギリギリになりそうだな……」
青髪 「そこはほら、カミやんが言い出しっぺやから、責任は……ね?」
土御門「にゃー」
上条 「ね? じゃねーよ。にゃー、じゃねーよ。連帯責任だろ」
青髪 「まぁ、間に合わなくたって殺されるわけじゃないんやし」
土御門「いざとなればみんな一緒に作るのも悪くないと思うぜい?」
上条 「ま、そうな。ポジティブに考えようか」
青髪 「それにつけても、この部屋の広さが一番のネックやなぁ。
 ベッドがなければ違うんやろうけど、さすがに運び出すわけにはいかんし」
上条 「そこは仕方ないが、十何人が集まるにはやっぱり……」
土御門「大丈夫大丈夫」
青髪 「何を根拠に?」
土御門「ちょっと近すぎるくらいの方が、みんなすぐに打ち解けるんだぜい」
上条 「……おまえはポジティブに考えすぎだ」
139:
青髪 「って言っても、広さはどうにもならんしね。しゃあない。ひとまずはそんな感じでやろか」
上条 「一応、邪魔になりそうなもんはどけとくよ。後は暇つぶしになりそうなものも用意しとかないとな」
青髪 「人生ゲームとか?」
土御門「定番だにゃー」
上条 「大人数だし、そこまでモノが必要になるとは思えないけど、必要になりそうなものは土御門の部屋においといてもらおう」
土御門「オーケイ」
上条 「んじゃあ、舞夏と小萌先生の連絡を待つか……」
140:
 ◆小萌宅
小萌 「……上条ちゃんから、メール……」
禁書 「な、なんて?」
小萌 「……あ、パーティーのお誘いのメールなのです。監督として来てもらえないかって」
禁書 「あの節操なし……! 教師にまで手を出そうとするなんて……!」
姫神 「そういう言い方は。さすがに可哀想」
禁書 「……むぐう」
舞夏 「なあなあー」
禁書 「な、なに?」
舞夏 「なんかよくわかんないんだけど、兄貴に呼び出されたから私は先に帰るぞー」
禁書 「え、帰っちゃうの? チョコ、どんなの良いか決まってないのに!」
舞夏 「ひょっとしたら十四日のことかも知れないし。そこはまあ、がんばって自分で決めるんだぞー」
141:
禁書 「こ、こもえ……?」
小萌 「あ、まってください、すぐ済みますから。えっと、常盤台の学生さんですか……上条ちゃんも隅に置けないのです」
姫神 「…………」
禁書 「……と、とりあえず……どのチョコにするかを決めないと」
禁書 「あいさはどんなのにするの?」
姫神 「シンプルに。トリュフでも」
禁書 「定番……って書いてあるね」
姫神 「固くなりすぎないように作るのが。意外と難しい」
禁書 「奥が深いんだよ……お菓子作り……!」
小萌 「……よし。これでおーけいなのです。ってあれ? またメールが……」
小萌 「……料理、ですか」
148:
禁書 「こもえ、メールの内容はなんだったの?」
小萌 「大したことじゃないのですよ。明日のパーティーに私も参加してくれないかってことです」
禁書 「それだけだったら席をはずす理由が分からないんだけど……」
小萌 「いろいろあるのですよ。いろいろ」
禁書 「……はぐらかされてる」
小萌 「そんなことないのですよ? どんなの作るか決めました?」
禁書 「あ、えっと、ちょ、ちょっとまって!」
小萌 「慌てなくてもよいのですよー」
禁書 「もうこうなったら、すごいのを作ってやるんだから……!」
149:
小萌 「その意気です! と、いきたいんですが、シスターちゃん。ごめんなさい、緊急事態なのです」
禁書 「――え?」
小萌 「先生、用事ができちゃったのです。急ぎというわけではないですが、
 そっちを済ませてから戻ってきた方が時間がとれると思うので」
禁書 「で、でもこもえ? まだなんにも決まってないんだよ……!」
姫神 「……」
小萌 「シスターちゃん。自分で言ってたでしょう?」
禁書 「な、なにを……?」
小萌 「バレンタインは甘いわたあめみたいな幻想じゃないのです。
 作るところから渡すところまで、自分で決めないと意味がないのですよ。
小萌 「協力するとは言いましたけど……あくまでやり方なんかの問題であって、
 シスターちゃんが自分で決めなきゃいけないところまで介入するつもりはないのですよ」
150:
禁書 「で、でも、わたしは……!」
小萌 「…………」
禁書 「材料だってよくわからないし、どんなお店にあるか分からないし、
 お菓子作りにどんなものが必要なのかとか、
 どのくらいの時間がかかるかとか、小さじ四分の一がどのくらいだとか……分からないんだよ! ひとりじゃできないよ!」
小萌 「出来る限り、協力はするのです。シスターちゃん。不安になることはないのですよ」
姫神 「私も。いる」
小萌 「シスターちゃんは、上条ちゃんにどんなチョコを渡したいかだけを考えればいいのです。
 たとえ作るのが難しいものでも、出来る限り力は尽くします。その為には、シスターちゃん。あなたの判断が必要なのですよ」
禁書 「……こ、こもえ……」
小萌 「それと、小さじの「さじ」はスプーンのことです。
 小さじ四分の一は「小さい方のスプーンで四分の一くらい」という意味なのですよ。
 計量スプーンはあるので、迷うことはないのです」
151:
 ◆街
禁書 「こもえに言われて、一応どんなのにするかは選んだけど……」
禁書 「……やっぱり不安なんだよ。薄力粉と小麦粉の違いすら分からないのに……」
禁書 「グラニュー糖、卵黄……アーモンドプードル?」
禁書 「……あんなふうに言われたから美味しそうなの選んだけど、やっぱり無謀な気が……!」
姫神 「とにかく。材料を買っておかないと」
禁書 「ど、どんな店に行けば……」
姫神 「いざとなれば。小萌に電話してみればいい」
禁書 「足りないかも知れないからって、こもえがお金おいていったけど……こんなお金持たされたら逆に不安なんだよ……」
152:
姫神 「それでも。なんとかしないと」
禁書 「そ、そうだね……!」
禁書 「とりあえず、この時期だったらどこでもバレンタインキャンペーンみたいなのをやってるはず!」
禁書 「売り物のチョコとは別の材料なんかが置かれてる場所もきっとあるはずなんだよ」
姫神 「じゃあ。ひとまずデパート?」
禁書 「う、うん! 見てみないことには分からないし、回ってみよう。
 見つからなければ他のところも行ってみればいいんだよ!」
姫神 「その通り。がんばろう」
禁書 「お、おー!」
153:
 ◆百貨店
禁書 「……バレンタインっていう文字がゲシュタルト崩壊を起こしそうなんだけど」
姫神 「流れてる音楽が。バレンタイン・キッス」
禁書 「そういうタイトルなの?」
姫神 「たしか」
禁書 「へえ……まぁそんなことはいいや。まわってみよっか」
姫神 「ついでだし。市販されてるチョコもみてみる?」
禁書 「……つくるのに?」
姫神 「見栄えとか。参考になるかも」
禁書 「……なるほど」
154:
禁書 「……あのチョコ、明らかに版権もののキャラクターの形してるんだけど」
姫神 「こういうものは。許可を取っているのでは?」
禁書 「食べるのがもったいないくらいだね。すごく良くできてるかも」
姫神 「ガラスでも陶芸品でも。同じ形してるものはあるのに。食べ物だと精巧に見える」
禁書 「こっちのチョコは、なんだろう……薄い……?」
姫神 「高い」
禁書 「こ、この量でこの値段って……! そんなに美味しいの? これ」
姫神 「庶民な私には。きっと板チョコの方が美味しく感じる」
禁書 「さ、搾取! これが搾取って奴なんだね……!」
155:
禁書 「あ、あっちにも何か珍しい形の……」
姫神 「待って。走らないほうが」
禁書 「だいじょーぶだよ、あいさ!」
姫神 「そんなふうに言う人は。必ずといっていいほど」
禁書 「わ、わあッ?!」
姫神 「……転ぶ」
禁書 「い、たた……」
御坂 「ちょっと。大丈夫?」
禁書 「えっ」
姫神 「……?」
156:
御坂 「あれ、アンタ……」
禁書 「たんぱつ!」
御坂 「たんぱつって言うなっつーの! 私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ!」
姫神 「……知り合い?」
白井 「お姉様ー?」
佐天 「あれ? そっちの人、知り合いですか?」
禁書 「ぞ、ぞろぞろと……キングスライムにでもなるつもり!?」
御坂 「何の話をしてるのよ、アンタは……」
157:
禁書 「で、でもこれはひょっとして……幸運?」
禁書 「このタイミングで知り合いに会えるなんて……まさに主の思し召しかも」
御坂 「何の話してるのよ、アンタ」
禁書 「あ、あの! たんぱつ! ……さん!」
御坂 「……あの、なんとか頑張って敬語を使おうとしてるのは分かるけど、バカにされてるようにしか聞こえないわよ?」
禁書 「え、あっ、ご、ごめんなさい! その……た、頼みが……!」
御坂 「……御坂美琴」
禁書 「えっと……みこと!」
白井 (……「さん」が消えてますの、今度は)
158:
御坂 「ひょっとして、アンタもチョコ?」
禁書 「……! どうして……!」
御坂 「この時期にこのコーナーにいたら、まぁ予想はつくわよ。相手はあのバカでしょ?」
禁書 「……あのバカって言い方はちょっとないかも」
御坂 「あ、えっと……ごめん」
白井 「見逃してあげてくださいまし。お姉様は本人がいないところでも素直になれないタチですの」
御坂 「アンタも余計なこと言わないッ!」
佐天 「どうでもいいことなんですけど、今、微妙に「タチ」の発音が違っていた気が……」
初春 「気にしたらおしまいですよ、そこは」
佐天 「う、うん……?」
姫神 「……なんか。影が薄くなってる」
159:
禁書 「女と見込んで頼みがあるんだよ、みこと……!」
御坂 「……頼み、ね」
白井 「余裕ぶってますけど、お姉様の方も猫の手も借りたい状況では?」
御坂 「アンタ、ちょっと黙ってなさい」
禁書 「あ、その……迷惑なら」
御坂 「いいから言いなさいよ。うだうだしてないで」
禁書 「……チョコを、作りたいんだけど、材料が……」
御坂 「……分からない?」
禁書 「分からないの。作り方も材料もかかる時間も小さじ二杯がどのくらいの量なのかも、どんなふうに渡せばいいのかも……」
160:
御坂 「……アンタも、パーティー参加するんでしょ?」
禁書 「そ、そういえば、みことも……!」
御坂 「……え、待って。なんで突然睨むの?」
禁書 「本当なら私がとうまとふたりっきりで十四日を過ごす予定だったのに……!」
姫神 「まだ言ってる……」
御坂 「……えっと、それはその……ごめん?」
禁書 「別に謝らなくてもいいんだよ! みことは悪いことしてないもの……!」
禁書 「悪いとすれば、とうま……! もう。人の気も知らないで!」
御坂 「な、なんか……アンタも苦労してるのね……」
禁書 「あ、それで! チョコのことなんだけど……!」
御坂 「良いわよ。一緒に買い物しましょうか」
禁書 「やった! 心強い味方ゲットなんだよ!」
御坂 「……心強い、ねえ」
白井 「照れてますの?」
御坂 「うるさいのよ、アンタはさっきから」
168:
 ◆上条当麻行きつけのスーパー
上条 「なみだがおちてー! うみにそそいでー! いつしかそらまでもどるよなー!」
土御門「なにひとつ! のこらなくたってー!」
上条・土御門「きみーがーわらえばーそーれーでー!」
青髪 「歌うなや、食料品売り場で。周りからごっつ見られてるから。迷惑やから」
小萌 「先生は、はやくも一緒に来たことを後悔しはじめているのですよ……」
舞夏 「私は楽しいけどなー」
青髪 「鉄の心やな、つっちーの妹さんは……」
舞夏 「むしろ私も歌いたくなってきた」
小萌 「上条ちゃんたちに近いメンタルの持ち主だっただけなのです……!?」
169:
上条 「食材を見に来たわけだが……正直明日でよかったんじゃないのか、先生?」
小萌 「確かに、月曜の夕方から準備を始めるわけなので、明日でも遅くないのですが」
舞夏 「まぁ、念のためだなー。明日買いに来て、欲しい材料がなかったら困るだろー?」
青髪 「そらそうやけど……まだ何を作るかも決まっとらんのに」
舞夏 「えっ」
土御門「……にゃー」
小萌 「……行き当たりばったりだったんですね、作りたい料理とか、ないんですか?」
上条 「そういうのよくわからないから、お二人の知恵を拝借しようと……」
小萌 「……はぁ……」
青髪 「センセに呆れられるのも悪くはないんやけど……」
土御門「どう考えてもそういうタイミングじゃないんだにゃー」
170:
小萌 「計画を変更して、本屋さんに行くのですよ。ただし、デパートみたいなところは避けるのです」
上条 「どうして?」
小萌 「察してください!」
青髪 「……?」
上条 「どういうこと……?」
土御門「とにかく、本屋に行けばいいんだにゃー。まったくもって無駄足だったんだぜい」
舞夏 「なーに他人事みたいな言い方してんだ、兄貴ー?」
土御門「……すまんぜよ」
小萌 「まったくもう。計画性がないんですから……!」
青髪 「でもほら、センセー的には、ダメな子ほどかわいいっていう……」
小萌 「開き直らないでほしいのです!」
171:
 ◆本屋
小萌 「とりあえず、料理関係の本を見てみるのですよー」
舞夏 「どんなの作るか、イメージが湧きやすいしなー」
上条 「『料理の基本』『誰でも作れる! 簡単レシピ』『お手軽! お弁当レシピ』『猿でも分かる料理の基礎』……」
舞夏 「そういう徐々に慣れていく感じの本じゃなくて、今探すべきなのはパーティー料理のレシピっぽいのだなー」
青髪 「『簡単! パーティーレシピ』……こういうのですかね?」
小萌 「それっぽいものがあったら、手にとって見てみるのです」
172:
土御門「……んー? よくわからんぜい」
上条 「……パーティーに出てくる料理って、具体的に思い浮かばないよな……」
青髪 「肉系に、サラダに魚……どれもよくわからんなぁ」
舞夏 「というか、本格的なものを作ろうとしてたんだなー……」
上条 「いや、何も考えてなかっただけだけど」
小萌 「……料理はやっぱり、私たちで作りますか?」
青髪 「小萌センセーの手料理はぜひとも食べたいけど、やっぱこれはボクらがやらんとね」
舞夏 「でも、手伝いはさせてもらえるんだよなー?」
上条 「まぁ、必然的にな。頼りにさせてもらうぜ?」
173:
土御門「……んー。豚肉だの鶏肉だの、こういうのを一皿ずつ乗っけてくのは部屋の大きさ的にキツいものがあると思うが」
上条 「大皿に載せて、小皿に自由に取り分けられる感じになるだろうな、自然と」
青髪 「やっぱりピザとか出前取った方が早かったんじゃ」
上条 「一回やるって決めたもんはやるぞ」
土御門「変なスイッチ入っちゃってるんだぜい……」
青髪 「ローストビーフ、合鴨肉……あ、フライドチキンあったわ。これええんちゃう?」
上条 「んー。現実的に考えるとあんまり準備できないよな、場所的にも」
土御門「ゆっくり飲み食いしてれば腹も膨らむから、量は準備しなくてもいいかもにゃー。財布的な事情も踏まえて」
上条 「かといって少なくても困るだろ。仕方ないから、二、三種類だけ自分たちで準備して、あとは買うか」
174:
青髪 「さて。じゃあ具体的なメニューやけど……」
小萌 「……なんだか、みんなが唐突に真面目なのです」
舞夏 「こいつら、行動力はあるからー。やる気をだしたらすぐいろいろやっちゃうんだよなー」
小萌 「……授業のときもこうならいいんですけど……」
舞夏 「それを期待するのは、豚に空を飛ぶように命令するほど酷なことだと思うぞー」
小萌 「なんの。空を飛ぶ豚だっているのです」
舞夏 「いや、あの豚はいろいろ特殊だと思うけどー」
小萌 「さてと……シスターちゃんたちはどうなっているんでしょう」
175:
 ◆百貨店
禁書 「材料を買うんだよ!」
御坂 「……なんだか、テンション高いわよね、アンタ」
禁書 「アンタって言わないで欲しいかも。私にだって禁書目録ってちゃんとした名前があるんだよ」
白井 「……目次、ですの?」
禁書 「この街に来てから何回そう言われたか分からないけど、禁書目録なんだよ!」
御坂 「……まぁ、いいわ。禁書目録。それで、アンタはどんなのを作ろうとしてるわけ?」
禁書 「えっと……このページの……」
御坂 「えっ……こんなの作れるの?」
禁書 「さ、さあ……?」
176:
姫神 「たいへん。たいへん」
禁書 「どうしたの? あいさ」
姫神 「板チョコ。売り切れてる」
御坂 「えっ!?」
佐天 「は、早すぎませんか……? まだ前々日なのに」
禁書 「勝負は既にはじまっていたんだね……」
初春 「明日作ろうとする人が多いでしょうから、早いってことはないと思いますけど……」
御坂 「バレンタインチョコを手作りしようとする人って、意外と多いの?」
佐天 「意外とっていうか、渡そうとする人は手作りするんじゃないでしょうか」
御坂 「……困ったわね。板チョコ、ないのか……」
初春 「業務用チョコレート、ネットで注文します?」
御坂 「間に合うの? それ。っていうか、店回って探しましょうよ。その方がバレンタインっぽいし」
177:
禁書 「……? 「ぽい」?」
御坂 「何よ、変な顔して。こういうイベントごとで「それっぽい」っていうのは結構重要でしょ?」
禁書 「……そういうもの?」
御坂 「クリスマスにケーキの代わりに和菓子食べたりしないでしょ。そういう形から入る精神も大事よ、きっと」
白井 「……昨日までバレンタインをいったいどうやって過ごせばいいか悩んでいた人に言われたくはないと思いますけれど」
御坂 「もう! さっきからうるさいわね!」
白井 「お姉様が元気になってくれてなによりですの」
初春 「ですねー」
姫神 「それじゃあ。次はどこに?」
178:
佐天 「製菓材料専門店みたいなとこってないんですかね?」
姫神 「あったとしても。そっちの方が売り切れてそうだけど」
初春 「ニーズはあるんですから、山ほど在庫があるはずでは?」
姫神 「そんなに在庫を用意するほど売れるなら。こんなデパートの板チョコが売り切れるとは思えないけど」
御坂 「まぁ、そういうところも探してみましょうか。いろいろ回ってみるのも悪くないし」
禁書 「あのあの……そういうところって、値段が張ったりするんじゃ……」
179:
御坂 「…………」
姫神 「…………」
禁書 「ど、どうして黙るのー!?」
姫神 「まぁ。とりあえず」
御坂 「行ってみてからでも、遅くはないわね。黒子、アンタここらへんの地図は頭に入ってるっていってたっけ?」
白井 「一応入ってますけど、どんな店かは知りませんわよ?」
御坂 「あるにはあるってことだ。じゃあ、案内してくれる?」
佐天 「……なんだか、とんでもない方向に物事が動いているような気がするんですが、市販の板チョコ探してからでも……」
御坂 「まぁまぁ。見てみるだけ、見てみるだけ」
初春 「……フラグですよ、それ……」
180:
 ◆上条の部屋
上条 「二月十三日……バレンタイン前日」
上条 「学園都市は火に包まれていた。怒号のような音をあげて燃えさかる炎を、冬の冷たい風が煽り、その勢いはとどまることなく強まっていく。ある者は呆然と立ち尽くし、ある者は誰にともなく怒り叫び、ある者は誰かの名前を呼びながら涙を流していた。その有様はまさに地獄。けれどそれは始まりでしかない。学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーが世界に対して宣戦布告した事実を、学園都市のほとんどの住人たちは知る由もない。後にバレンタインの惨劇と呼ばれることになる三日間に渡る地獄の、これは序章に過ぎなかった。発達した科学技術と圧倒的な軍事力。それを前に多くの国家が学園都市に恐怖し、そしてこの場所は戦火に包まれることになった。学生達はその事実を知ることもなく、ただ眼前に広がる光景の圧倒的なリアリティに逃れようのない恐怖を感じずにはいられない。けれど煙が目に沁みても、誰かの死を目撃しても、彼らはそれが現実の光景だとはどうしても信じられなかった。これは悪い夢だ。そう信じようとした上条当麻の目の前で、青髪ピアスが焼ける柱に押しつぶされ右腕を失った。血と煙と死と現実に侵された街で、上条当麻は生き延びることができるのか」
上条 「映画『惨劇の三日間』。2.14。ロードショー」
土御門「カミやんカミやん。することがなくて暇だからって映画の予告編妄想するのはやめとくんだにゃー」
青髪 「主人公がカミやん自身ていうのもなんつーかねえ……。というか、何勝手にボクの右腕潰しとんねん」
上条 「だって暇だし」
青髪 「材料買うのは夕方からでもええしね……確かに暇やわ」
181:
土御門「ていうかカミやん、何で三日間なんだにゃー?」
青髪 「え、その話引っ張るん?」
上条 「それっぽくない?」
土御門「確かにそれっぽいけど、二日間でもよくね?」
上条 「二日って、初日と次の日ってことだろ。短いじゃん。戦火の中で知り合った少女と一緒に眠るためにもう一晩欲しい」
上条 「ちなみに土御門は裏切りポジションな」
土御門「……なんつーか、妙にリアリティのあるポジションだにゃー」
上条 「なんせリアリティがテーマだからな」
青髪 「まぁ、どうせ暇やし、妄想で映画の設定でも作り込んでみる?」
土御門「平和だにゃー……」
186:
 ◆小萌宅
禁書 「なんだか、落ち着かないんだよ……」
姫神 「そわそわしすぎ」
御坂 「まったくもう……」
禁書 「そ、そんなこと言われたって……」
佐天 「おーよしよし」
禁書 「き、気安く触らないでほしいんだよっ!」
佐天 「え、だめ?」
禁書 「だ、だめでは……ないけど」
初春 「ツンデレって奴ですかね?」
白井 「この場合はちょっと違う気がしますの」
187:
小萌 「あの、ちょっといいですかー?」
御坂 「はい?」
禁書 「どうしたの? こもえ」
小萌 「あの、どうしたの、というよりはですね」
小萌 「人、増えすぎじゃありません?」
禁書 「あー……」
姫神 「……」
御坂 「……ごめんなさい」
小萌 「いやその、別に悪いとか言ってるわけではなくてですね……!」
小萌 「この人数でお話するには、この部屋はちょっと狭くはないですか?」
188:
禁書 「……確かに。灰皿はなぜかバベルの塔の様相を呈しているし、空き缶は部屋中に転がってブービートラップ状態だし」
小萌 「こ、これでも片づけた、のです」
御坂 「……え、片付けてこれなの?」
小萌 「な、なんで先生こんなこと言われてるのです……?」
姫神 「作るのは午後からでもいいし。午前中はちょっと暇」
白井 「何故午後から集まるようにしなかったんですの?」
禁書 「……」
御坂 「何も考えてなかったわけね」
禁書 「そんなことないもん! でも、だって、家にいるととうまがいるわけで……!」
御坂 「……まぁ、同居してたら家にいるのは当たり前よね」
佐天 「……ど、同居……?」
189:
初春 「人様の事情に首を突っ込んではいけませんよ、佐天さん」
佐天 「そ、そんなに込み入った事情が……」
禁書 「まぁ、ないんだけどね」
初春 「あ、ないんですか」
小萌 「あの、皆さん、落ち着いてください。なんだか話がずれていってますから」
白井 「そういえば……知らないうちに話題が変わってましたわね。いったいどなたが……」
初春 「佐天さんですね」
佐天 「え、ちょ」
御坂 「ま、まぁまぁ。話を続けましょう。先生、それで?」
小萌 「場所を移しませんか? 朝ご飯がてら」
190:
 ◆ファミレス
禁書 「それで、みこと。結局聞き忘れてたんだけど、みことって、とうまとどういう関係なの?」
御坂 「何よ藪から棒に。どういう……カンケイ、って。カンケイって言い方、なんかいやなんだけど」
白井 「カンケイ……ですの」
佐天 「……カンケイ、ですかぁ」
初春 「……カンケイ」
御坂 「なんなのよその反応はっ!」
姫神 「禁煙席で」
小萌 「……!?」
姫神 「まさか。生徒の前で煙草を吸ったりは……」
小萌 「……喫煙者の肩身がどんどん狭くなっていくのです」
191:
禁書 「……えっと。どれを頼もうかなぁ」
禁書 「というか、よくよく考えたら、昨日材料を買ったからお金がないんだよ……」
小萌 「ちょっとくらいなら先生が払いますのです」
禁書 「え、でも……」
小萌 「だいじょうぶですよ、シスターちゃん」
禁書 「こもえ……」
小萌 「あとでしっかり上条ちゃんに請求しますから」
禁書 「ありがとう! って、ええ? そ、それじゃダメなんだよ……!」
小萌 「つまり、先生のおごりがいいと……」
禁書 「そ、そういうアレではなくて……!」
姫神 「こもえ。意地悪はあまり」
小萌 「そうですね、ごめんなさい。先生がお支払いするので、頼んで良いですよ。……多少遠慮はして欲しいですけど」
192:
禁書 「それで? みことはとうまとどういうカンケイなのかな?」
御坂 「……アンタこそどうなのよ。アイツとどういうカンケイなの?」
初春 「……二股男を取り合う女ふたり、みたいな構図になってますね、会話が」
白井 「実際、似たようなものですの」
小萌 「上条ちゃんも罪な男です」
佐天 「そうなんですか?」
禁書 「違うもん!」
御坂 「そんなんじゃないわよ!」
佐天 「えっ……ご、ごめんなさい」
佐天 「……なんで私が怒られてるんだろう……」
小萌 「佐天ちゃん、ドリンクバー行きます?」
佐天 「あ、はーい」
193:
御坂 「アイツはただの居候だって言ってたけど……どうも、違うように見えるんだけど?」
禁書 「みことこそ……ただの友だちって言うにはちょっと、とうまとの接し方が不自然なんじゃない?」
小萌 「大奥みたいですねー」
初春 「私、華の乱が好きですよ」
佐天 「どっちが正室でどっちが側室なんですか?」
御坂 「……」
禁書 「……」
佐天 「……私、なんかマズいこと言いました?」
姫神 「大丈夫。このふたりは犬猿の仲に見えて。実は仲が良い」
佐天 「ホントですか?」
姫神 「さあ?」
佐天 「えっ」
194:
姫神 「質問に答えると」
佐天 「……?」
姫神 「正室は私。二人は側室」
御坂 「……!?」
禁書 「あ、あいさ……それは少し図々しいかも……」
姫神 「ほっぺが引きつってる。正室になるには。余裕が足りない」
御坂 「……べ、別に私はアイツが誰と何をしていようといいけど……それは本当なわけ?」
姫神 「もちろん」
姫神 「……ふふふ」
御坂 「……!!」
禁書 「……あいさ。私たちは友だちだけど、それ以上はちょっと庇いきれないかも」
禁書 「い、今のうちに訂正するなら、ゆ、許してあげないこともないんだよ」
姫神 「…………」ニヤッ
禁書 「……!!」
195:
禁書 「笑った! 今笑ったね!? 何のつもりかなあいさ! それは余裕!?」
御坂 「ひ、姫神さんだっけ? あなた、いったいアイツとどういう……」
姫神 「……にやり」
禁書 「今「にやり」って口で言ったでしょ! あいさ!」
御坂 「べ、別に私はアイツのことなんてどうでもいいんだけど……」
佐天 「……ど、どうすればいいの……この状況」
白井 「放っておけばすぐに収まると思いますの」
初春 「修羅場っぽい空気ですね。見てて楽しいですけど」
佐天 「初春って結構、いい性格してるよね……」
初春 「そうですか? ありがとうございます」
佐天 「いや、あの……ああ、まぁいいや」
白井 「月詠先生? 仲裁に入らなくていいんですの?」
小萌 「先生は非番なのですよー」
196:
佐天 「しかし、上条さんって人、そんなにかっこいいんですか?」
初春 「モテモテですねえ」
白井 「……」
佐天 「白井さん? 会ったことあるんですよね?」
白井 「……そうですわね。見た目はちょっと、冴えない感じですの」
禁書 「」ピクッ
御坂 「」ピクッ
白井 「性格は……優柔不断というか、はっきりしないというか」
初春 「話を聞いた印象とは微妙に違うような……」
白井 「あとは鈍感ですの。限りなく」
佐天 「あ、それは何となく分かります」
197:
白井 「あとは考えなしで無鉄砲で、ちょっと頭の回転が遅いところもありそうですの」
姫神 「……辛辣」
白井 「印象ですので。申し訳ありませんの」
御坂 (……今までアイツのことを知ってる知り合いが少なかったから何とも思ってなかったけど……)
御坂 (友だちの評価って気になる……すごく!)
禁書 「でもまぁ、半分以上は正解かも。頭の回転はものすごくいときもあるし」
禁書 「真面目で頑固なところもあるけどいつもは優柔不断だし」
白井 「あとはことあるごとに「不幸だー!」って言ってますの」
初春 「……ん? 訊いてる限り、そんなに好かれるタイプの人とは思えないんですけど」
御坂 「結構はっきり言うわね、初春さん」
初春 「あ、ご、ごめんなさい」
198:
御坂 「でもまぁ、確かに……って別に、アイツのこと好きとかそういうんじゃないけど……」
佐天 「……それは無理があるような」
御坂 「何か?」
佐天 「な、なんでもないです……」
初春 「口は災いの門ということわざがありますよ、佐天さん」
佐天 「痛感してる……」
禁書 「まぁ、とうまは人格とか容姿とは別のところで好かれるタイプだから」
姫神 「……」
佐天 「別のところ?」
禁書 「なんだろう。行動?」
初春 「それは人格の一部では……?」
禁書 「まぁ、よくわかんないところなんだよ、そこは」
姫神 「……料理。来た」
禁書 「待ってました!」
203:
 ◆小萌宅
小萌 「先生の部屋のキッチンではさすがに大人数での調理は無理なのですよ」
小萌 「というわけで、二手に分かれましょう」
御坂 「ここから先は別行動ってわけね」
佐天 「どこで作ります? 私の部屋?」
白井 「……ですわね。お世話になりますの」
初春 「腕が鳴りますね……お菓子とか、あんまり作ったことないんですけど」
姫神 「じゃあ。私たちは小萌と」
禁書 「だね! ようし……がんばろう!」
204:
 ◆上条の部屋
青髪 「……っと。ちょっと用事ができたわ」
上条 「……? どっかいくのか?」
土御門「まぁ、時間にも余裕があるし、いいんじゃないかにゃー? 俺もちょっと出掛けてくるんだぜい」
上条 「そうだな。じゃあ時間になったらまた集合ってことで」
土御門「うーい」
青髪 「ほな、また後でな」
上条「……一人になってしまった」
上条「……スマブラでもしてるか……」
205:
 ◆学生寮玄関
青髪 「さてと。カミやん……」
青髪 「料理を作るくらいじゃ、バレンタインはぶっ飛ばせないんやで」
青髪 「まずは協力者を募らな……」
青髪 「つっちーはやめといた方が無難やろな。とすると……」
青髪 「……協力してくれるとは思えんけど……まぁ、なんとかなるやろ」
青髪 「ハッピーバレンタイン、や。カミやん。楽しみにしといてな」
206:
 ◆隣室
土御門「……舞夏、いるか?」
舞夏 「おー」
土御門「出番なんだぜい」
舞夏 「ういうい」
土御門「……やる気あるか?」
舞夏 「そりゃあもう」
土御門「……言葉の省エネしてる?」
舞夏 「いやいやー」
土御門「……まぁいい。行くぞ」
舞夏 「どこへ?」
土御門「下ごしらえだよ」
207:
 ◆小萌宅
小萌 「突然どうしたのですか……先生びっくりしたのですよ」
青髪 「いやあ、すんません。先生もチョコの準備とかあるかなーって思ってはいたんですけど」
小萌 「まったくもう……」
青髪 「甘い匂いがしますね。やっぱ、作っとったんですか?」
小萌 「ま、まぁ……そうなのです」
青髪 「一人で?」
小萌 「はい。私ひとりなのですよ」
青髪 (……ま、そうなるわ)
青髪 「なるほど、ね。ちなみに、どなたに?」
小萌 「どなたにも何も……あなたたちが私をパーティーに誘ったんじゃないですか。先生、気合入れて準備してたのですよ」
青髪 「……へえ」
208:
小萌 「ところで、明日は月曜ですけど……」
青髪 「……はい?」
小萌 「平日でもあるのですよ。課題、やりましたか?」
青髪 「……!!」
青髪 「いやあ、はは……」
小萌 「ダメじゃないですか。ちゃんとやらないと、すけすけみるみるなのですよ?」
青髪 (……これはひょっとして)
青髪 (センセイはボクを追い返そうとしている……? 見られたくない何かがあって……ボクを早々に追い返そうと……)
青髪 (……まだ確証はない)
209:
青髪 「センセイと一緒ならそれも悪くないかなぁ、なんて」
小萌 「先生は、そういうことをする男の人は嫌いです」
青髪 「お、男の人はって」
小萌 「な、なんでもないのですッ……!」
青髪 「な……グッ……!」
青髪 (ど、動揺するな……騙されるな。これは小萌センセイの計画や……普段と違うことを言って……ボクを動揺させようと……)
青髪 (……だがしかし……抗えない……)
小萌 「…………」ニヤリ
青髪 (……!? 今……)
210:
小萌 「ほら、早く帰って課題をしないといけないのですよ? そうじゃないと、先生困っちゃうのです」
青髪 「……はは、そうですね。いやでも、どうしてもセンセイに聞いて欲しい話があるんですよ」
小萌 「……話、ですか?」
小萌 「いったいなに……」
小萌 (……!!)
小萌 (……これはまずい、のです)
小萌 (聞いて欲しい話が何か分かりませんが……相談ごとなら断れません)
小萌 (でも……中に入られるわけにはいかない)
小萌 (あの二人が中でチョコ作りをしていることは……絶対に悟られてはいけないのです。あの二人の為にも……)
小萌 (……でも、聞いて欲しい話がある、なんて言い方をされては……立場的にも心理的にも断れない……)
小萌 「どんなお話なのですか?」
小萌 (一刻も早く……話とやらを終わらせなくては。もしもそれが口実なら、そこに論理性はないはずなのです)
小萌 (いえ……今日は用意で忙しいからと断るべき? ああもう、頭が回りません……!)
211:
青髪 「実は先生、明日のパーティーのことなんですけどね」
小萌 「明日のこと、ですか?」
青髪 「そ。明日のことや。センセ」
青髪 「センセは……カミやんにチョコ渡すん?」
小萌 「……ど、どうして上条ちゃんに……?」
青髪 「センセイは相手によって態度を変えたりしない公平な人やけど……人間や」
青髪 「カミやんが小萌センセイのお気に入りってことくらい、みーんな知っとるで」
小萌 「……もう。そんなことないのですよ?」
青髪 「やからね、センセ。一応聞いとこうと思ったんですわ。チョコを誰に渡すか……?」
212:
小萌 「……マナー違反なのですよ? バレンタインの前日に誰にチョコを渡すかを訊くなんて」
青髪 「あはは。すんません。どうしても気になって……」
小萌 (……まさか、本当にそれだけの用事で……?)
小萌 (……いや……)
小萌 (ありえないのです。この子はそんなことをわざわざ聞きに来る子じゃない)
小萌 (むしろバレンタインが終わるまで、もらえるかもらえないかを一喜一憂して楽しむタイプ……)
小萌 (だとすればやはり……これはなんらかの……)
青髪 「……分かった。誰に渡すかは、訊かんときますわ」
小萌 「……」ホッ
青髪 「でも、いい匂いですね。どんなチョコ作っとるんですか?」
小萌 「……?」
小萌 (……明らかに、態度がおかしい……彼は何かを企んでいる……)
213:
小萌 「……」
青髪 「……ふふ」
小萌 「……?」
青髪 「……センセイ。根負けや」
小萌 「え……?」
青髪 「このまま続けたって、ボロだしてくれそうにないもんな。さすがにこういうのはキツいわ」
青髪 「正直に教えてや。誰かおるんやろ?」
小萌 「……!!」
小萌 「な、なんのことですかー?」
青髪 「二人や」
小萌 「な、なんでっ……!」
小萌 「……!!」
214:
青髪 「……カマかけただけやよ」
青髪 「適当な数字を言えば、センセイは反応してくれるって思ったんや」
青髪 「数字が合っていれば驚くし、数字が合っていなければ安心したはず」
青髪 「……誰もいなければ、そのときは何とも思わないはずなんや。センセイの今の反応は――中でも一番わかりやすいやっちゃな」
小萌 「……どういうつもりなのですか。無粋なのですよ」
青髪 「ごめんな、センセイ。でもね、ボクはそう……無粋。無粋なことをしたいんですよ」
青髪 「バレンタインをね、ぶっ飛ばしたいんです」
小萌 「……ば、バレンタインを……」
青髪 「そう」
青髪 「バレンタインを、ぶっ飛ばすんです」
215:
小萌 「な、何をするつもりですか?」
青髪 「心配せんでも、何も大暴れしたりはしませんよ。ただ、バレンタインをね」
青髪 「こう……ぶっ飛ばしたろ、と」
小萌 「だ、だから。ぶっ飛ばすって一体なんなのです?」
青髪 「分かりませんか、センセイ」
小萌 「え……?」
青髪 「明日のバレンタイン・パーティー。メンバーは、ほとんど全員、カミやんの知り合いなんですわ」
青髪 「姫やんと、あと禁書目録いうシスターさん。小萌センセイは知り合いですけど……それ以外はカミやんの知り合いなんですわ」
青髪 「このままでは「バレンタインをぶっ飛ばせ!」の名目でただのバレンタインに落ちてしまうのは明白……」
青髪 「カミやんが女の子をはべらせてるのを眺めて悔しい思いをするだけになるんですわ」
青髪 「……そんなん楽しくない」
小萌 (……な、なんなんですかこの負のオーラは……)
216:
青髪 「嫉妬!? 嫉妬ですよ! ええ嫉妬です! 妬んでますようらやましいですよ! チクショウ、呪われろ!」
小萌 (え、えええ……?)
青髪 「とにかくこのまま無難なパーティーになんてなったら困るんです! いや! ボクは嫌や!」
小萌 「駄々っ子になっちゃったのです……」
青髪 「どうにかしてカミやんに「してやられた!」と言わせたい!」
小萌 「なぜ「してやられた!」なのかが分からないのですが……」
青髪 「別に「ぎゃふん」でも「うんとかすん」でも良いですそこは!」
小萌 「「うんとかすん」は違うと思うのですよ……」
青髪 「下手なさぐり合いはなしにしましょうセンセイ」
青髪 「ボクのたくらみを全部話します。協力してください。後ろの二人も混ぜて」
禁書・姫神「!!」
青髪 「カミやんのバレンタインを……崩落させたるんです」
217:
 ◆柵川中学学生寮
土御門「……ここかにゃー?」
舞夏 「一応、連絡しといたからー」
土御門「うーす。さて、いくかにゃー。部屋は?」
舞夏 「ついてきてー」
舞夏 「しかし、兄貴ー、青髪は青髪で独自に動いてるんだよなー?」
土御門「……恐らくな。このままだとあちらに有利に物事が展開されてしまうだろう」
舞夏 「あちらに有利って、競合するような計画なのか? あっちとこっち」
土御門「あんまりしない」
舞夏 「ならいいんじゃ……」
土御門「嫌だ」
舞夏 「えっ」
土御門「カミやんに「してやられた!」と言わせるのは……俺の方なんだぜい」
舞夏 「……くだらねー」
土御門「なにをぅ」
218:
舞夏 「ここかな」
土御門「ようし。おじゃましまーす!」
舞夏 「こらバカ兄貴、仮にも女の子の部屋に入る時にそんなに堂々としてる奴があるか」
土御門「な、なんか悪かったかにゃー?」
舞夏 「……いや、もういい」
土御門「……にゃー」
御坂 「……なに?」
土御門「……どうも、学園統括理事会の者です」
御坂 「……は?」
舞夏「言っていい冗談と悪い冗談っていうのがあってな、兄貴ー?」
御坂 「あれ、土御門?」
土御門「にゃー」
舞夏 「愚兄です」
御坂 「え、お兄さん?」
219:
 ◆佐天涙子の部屋
土御門「……さて。今日ここに集まってもらった理由は分かってもらえていると思うが……」
御坂 「すみません、全然分かってないんですけど」
佐天 「……だれ、この人たち」
初春 「さぁ?」
佐天 「……私、部屋に男の人いれるのはじめてなんだけど……」
初春 「大人の階段のぼりましたね」
佐天 「意味がわからないし……」
220:
土御門「……? もう一人いると思っていたんだが?」
御坂 「……どうして?」
土御門「カミやんがな、呼んだ女子は四人だと言っていたものだから……てっきり、な」
御坂 「黒子ならいないわ。用事があるって言って抜けてった」
土御門「……用事、か」
土御門「……まぁいいか」
土御門「さて。俺がここに来た理由を説明させてもらってもいいか?」
御坂 「かまわないわ。さっさと話して」
221:
土御門「……世界は危機に瀕している」
御坂 「……!?」
土御門「明日の十四日。事態は切迫している。俺たちの取る行動如何によっては――」
土御門「――多くの人間が血涙を流しその夜を終えることだろう。大いなる絶望を胸に」
御坂 「……それって、どういう……」
初春 「ココアパウダーって美味しいですよねー」
佐天 「こら、舐めるな!」
御坂 「……ごめんなさい、後ろの二人は気にしないで」
舞夏 「……兄貴、その遊びはまだ続けるのかー?」
土御門「だんだん楽しくなってきたから、もうちょっとだにゃー」
御坂 「……は?」
222:
御坂 「ええと……それで、何の話だったっけ?」
土御門「あ、明日のバレンタインのことなんだぜい……」
舞夏 「はじめから素直に話をしてればよかったのに」
御坂 「ごめんね。感情のコントロールは出来てるつもりなんだけど、最近は不安定で」
御坂 「つい、イラっとくると、こう、ビリビリーっとね?」
土御門「いや、悪ふざけしたこっちが悪かったんだにゃー……」
御坂 「それで、何の用なのよ、結局」
223:
土御門「……他でもないカミやんの話なんだぜい」
御坂 「……カミやん……ていうのは、つまり」
舞夏 「お察しの通り、上条当麻のことだなー」
御坂 「アイツがどうかしたの? それに十四日って……明日のことよね?」
土御門「そう。上条当麻と明日のことだ。なんならちょっと意味ありげに「上条当麻との未来のこと」と言い換えてもいい」
御坂 「いや、別に言い換えなくてもいいから……」
土御門「カミやんはな、アホだ」
御坂 「え、なに? 突然」
土御門「アイツはこの期に及んで……自分が個人的にチョコをもらうことはないと思っている」
御坂 「えっ」
御坂 (……えっ、って思うのも変な話よね、気付かれてない方がいいし……)
御坂 (……でもこの喩えようのないむなしさは何……?)
御坂 (……一切期待されないっていうのも、なんだかんだで悲しいもんなのね……)
224:
土御門「バカにしていやがる……年頃の女が好きでもない男と一緒にバレンタインをすごそうと思うものか……!」
御坂 「ちょろっとー? だいぶ語弊のある言い回ししてるわよ、お兄さん?」
舞夏 「あれ、違うのかー?」
御坂 「……アンタこそどうなのよ」
舞夏 「私はほら。バレンタインもクリスマスも、家族と過ごすものだと思ってるからな」
御坂 「……なんか、悲しくない? 世間じゃ恋人たちの……だのなんだの言ってるのに」
舞夏 「自分の身を顧みてからそういうことを言おうなー、御坂美琴ー。誰と誰が恋人なんだー?」
御坂 「……うぅ……」
舞夏 「それに、結婚しちゃえば家族じゃん。恋人たちのバレンタインも家族のバレンタインもそう変わらないってー」
舞夏 「……け、けっこん……ですか」
土御門「……舞夏? 舞夏ー? お兄ちゃん、結婚の話はちょっと早いと思うんだぜい?」
225:
御坂 「……そ、それで。お兄さん、いったい何をしに来たんでしたっけ?」
土御門「さっき言ったとおり、カミやんはチョコを一切期待していない」
土御門「むしろ絶望的だと思ってるらしい」
御坂 「それホント?」
土御門「本当。期待していないからそわそわしたりすることもなく、普段通りの態度でスマブラ始めてたにゃー」
御坂 「……」
土御門「このままじゃつまらんぜよ。だからって普通にパーティーで盛り上がってチョコを渡すってのも、なんだかにゃー」
御坂 「……つまり?」
土御門「ちょっとした演出を加えようと思うんだぜい。そのために、君たち三人の協力が必要なわけだ」
御坂 「……私たち?」
土御門「そう。――カミやんの幻想をぶち[ピーーー]ためにな」
226:
御坂 「……そ、それで。お兄さん、いったい何をしに来たんでしたっけ?」
土御門「さっき言ったとおり、カミやんはチョコを一切期待していない」
土御門「むしろ絶望的だと思ってるらしい」
御坂 「それホント?」
土御門「本当。期待していないからそわそわしたりすることもなく、普段通りの態度でスマブラ始めてたにゃー」
御坂 「……」
土御門「このままじゃつまらんぜよ。だからって普通にパーティーで盛り上がってチョコを渡すってのも、なんだかにゃー」
御坂 「……つまり?」
土御門「ちょっとした演出を加えようと思うんだぜい。そのために、君たち三人の協力が必要なわけだ」
御坂 「……私たち?」
土御門「そう。――カミやんの幻想をぶち殺すためにな」
227:
 ◆小萌宅
青髪 「してほしいことっていうのは単純や」
青髪 「何も本気でカミやんを悲しませたろ思おとるわけやない」
青髪 「ただね、カタルシスと言いますか……」
青髪 「サプライズとも言うかな……カミやんにね、チョコを渡さないで欲しいんですよ」
姫神 「……ひょっとして。ばかにしてる?」
青髪 「至って真面目や。ちょっと話聞いてな」
姫神 「カミやんに渡す約束とかなんもしてないんやろ? やったら、渡さんでも裏切ったことにはならん」
禁書 「で、でも」
青髪 「わかっとるわかっとる。十四日のバレンタインの日に渡さないだけでええんや」
青髪 「二月十四日が過ぎれば……それはもうボクの知るところやない」
青髪 「それにほら、十四日が過ぎてから渡せば、「そういえばなかったなぁ」ってときに渡せるやん」
青髪 「印象強まるんやないの?」
禁書 「そういうもの……?」
青髪 「そういうものや」
小萌 「……え、なんですかこの状況……」
228:
 ◆町中
白井 「……いましたの」
白井 「早々に写真を撮って……」
白井 「……盗撮ですけど、まぁ悪用するわけではないですしいいですわよね?」
白井 「……これを佐天さんたちのところに持っていって……」
白井 「……あの二人も人使いが荒いですの」
白井 「ふう……まったくもう」
229:
 ◆佐天涙子の部屋
土御門「君たちにしてほしいことはひとつ。カミやんにチョコを渡して欲しいんだぜい」
御坂 「……え?」
佐天 「……?」
初春 「どういうことですか?」
土御門「聞いておきたいんだが、三人はカミやんにチョコを渡す予定はあったかにゃー?」
御坂 「えっと……まぁその、一応」
初春 「私と佐天さんは……ひとまずみんなで食べられるものを持っていくつもりだったんですけど」
土御門「そう、まさにそこなんだぜい」
佐天 「え、どこ?」
土御門「カミやんにチョコを渡して欲しいんだにゃー。個人的に。できるだけムードたっぷりに」
佐天 「……え?」
土御門「つまり……ドッキリって奴だにゃー」
御坂 「え……」
佐天 「ひ……」
初春 (酷すぎるでしょう、それは……)
土御門「チョコは実際にあげるわけだし、問題ないぜよ」
御坂 「そういうものかなぁ……?」
土御門「ちょっと思わせぶりなこと言うだけでいいにゃー。何も好きだーと言えとか言ってない」
御坂 「いや、抵抗があるのはもっと他の部分なんだけど……」
230:
白井 「ただいま戻りましたの」
佐天 「あ、おかえりなさい」
白井 「お姉様は?」
初春 「お客さんとお話ししてますよ」
白井 「……では、今のうちにこれを」
初春 「……見られると何かまずいんですの?」
白井 「盗撮ですので」
初春 「風紀委員です!」
白井 「……貴女も同罪ですのよ、初春」
佐天 「まぁ、ひとまず、写真を」
白井 「こちらですの」
佐天 「…………」
佐天 「……あれ?」
初春 「……このひと、たしか……」
御坂 「なーにみてんのー?」
白井 「……ッ!!」
231:
 ◆街
上条 「……ん?」
一方 「……ン?」
上条・一方「おっ」
上条 「何やってんだ一方通行。打ち止めは?」
一方 「久しぶりだな、三下ァ……。あのクソガキなら今は黄泉川ントコだ」
上条 「……あぁ、おまえの方もか」
一方 「っつゥと……」
上条 「まぁ、お互いもくろみはあるわな」
一方 「だなァ」
232:
上条 「おまえも明日のパーティーくる?」
一方 「……明日? あァ、あれか。土御門から連絡が来てたから何かと思ってたンだが……」
上条 「どうするよ? 結構人数集まるぜ」
一方 「……オリジナルもなンだろ? やめとくわ。どうせ明日は打ち止めに付き合わされるだろうしなァ」
上条 「……で。どうよ、調子は。余裕かましてていいのか?」
一方 「ン? ……ククッ……。テメェこそ大丈夫かよ三下ァ? こんな町中うろついてよォ」
上条 「……生憎とな、こっちにもいろいろ、計画ってもんがあるんだよ。悪いけど俺は負けねえぜ?」
一方 「ふン……。威勢はいいじゃねェの……」
233:
上条 「おまえこそ、余裕ぶってほえ面かくんじゃねえぜ?」
一方 「はァ? おいおい三下ァ? それは誰に向かって言ってやがるんですかァ!?」
上条 「とにかく……忘れるなよ、一方通行。明日、バレンタインの日に……」
一方 「忘れちゃいねェよ……。明日の十四日に……」
上条・一方「――より多くのチョコレートをもらった奴が勝つ」
一方 「敗者は勝者のいいなりってなァ!」
上条 「随分余裕じゃねえか。大丈夫か?」
一方 「あァ? そっちこそヤケに自信満々じゃねェか」
上条 「……まぁ、いいだろ。今日のところはここらで別れとくか」
一方 「おォ。楽しみだぜェ? 三下ァ。テメェが俺に跪くのがよォ……!」
上条 「ハッ。好きに言っとけよ、最強」
239:
 ◆二月十四日 朝 教室
上条 「ハッピーバレンタイン!」
青髪 「ハッピーバレンタイン!」
土御門「ハッピーバレンタインだにゃー!」
吹寄 「……何をやってるのよ、貴様らは」
上条 「……何をやってるの、ですか」
上条 「これですよ……これだから男心を分かっていない女の子は……」
吹寄 「……」イラッ
上条 「青髪くん。説明してあげて」
青髪 「ぼ、ボクかいな!?」
土御門「にゃー」
240:
青髪 「えっと……」
上条 「……」
吹寄 「……」
青髪 「……すまんカミやん、ボクには無理や……」
上条 「だらしがない!」
青髪 (……いつのまにか立場が逆転しとる……)
上条 「つまりなあ!」
上条 「バレンタインバレンタインって周囲に騒がれて、期待値ゼロの非モテ系男子はもう疲れ果ててるんですよ!」
土御門(どの口が期待値ゼロだなんて言ってるんだ……)
上条 「チョコをもらえるのはどうせほんの一握り……だったら最初からそいつらだけでやれって話じゃねえか!」
上条 「あんまりにもムカついたんで、クラス全員にチロルチョコを配ってたところだ」
吹寄 「……ん? ちょっとまてちょっとまて。途中まで理解できてたんだけど、今まったく分からなくなったわ」
吹寄 「悪いけどもう一回言ってもらえる?」
上条 「だから」
上条 「ムカつくからチロルチョコを……!」
土御門「悪いことは言わないから、理解しようとするのはやめておいた方がいいぜい」
吹寄 「……そうね」
241:
上条 「ハッピーバレンタイン! ハッピーバレンタイン!」
吹寄 「……」
上条 「ハッピーバレ……ゲフッ、ゲホッ、ゲホッ……!」
土御門「か、カミやん……大丈夫か?」
上条 「だ、だいじょうぶ……ゲホッ……! 大丈夫だ……問題ない」
青髪 「な……なに、この空気」
吹寄 「上条当麻?」
上条 「なんだよ? ああそうか! まだチロルチョコ渡してなかったな! ほらハッピーバレンタイン!」
吹寄 「あ、いやえっと……それはいただこう。でもそうではなくて……」
上条 「何だ?」
吹寄 「……チョコ、欲しいの?」
上条 「……」
土御門「……」
青髪 「……」
上条 「欲しい」
青髪 「うわあ……あっさりヘタれたわこの人」
242:
吹寄 「だったら、ほら」
上条 「……え?」
青髪 「……んなッ……」
土御門「……にゃー」
吹寄 「……別に特別な意味なんてないわよ。ただちょっと、糖分が足りてないような顔してたから、ちょっと気になっただけ」
吹寄 「ほら、そっちの二人にも」
青髪 「えっ」
土御門「おぉ、サンキュー」
吹寄 「……こら、上条当麻。貴様、何をニヤついてる……!」
上条 「いや、ありがとう吹寄。すっげえ嬉しいよ!」
吹寄 「……っ!」
吹寄 「はあ……。まあいいわ。それじゃ」
243:
上条 「……へへ」
上条 (……まずはひとつゲット。一方通行とのこととは別に、チョコをもらうのはやっぱり嬉しいもんだなぁ)
上条 (にしても、まさか吹寄からもらえるとは)
上条 「ハッピーバレンタイン!」
土御門「ハッピーバレンタインー!」
青髪 「は、ハッピーバレンタイン!」
吹寄 「騒ぐなっ!」
青髪 「……風」
土御門「ん?」
青髪 「風が吹いとる……ボクたちの方に」
土御門「……にゃー」
244:
小萌 「なにしてるのですかー?」
青髪 「!!」
上条 「ハッピーバレンタイン、小萌先生。はい、チロルチョコ」
小萌 「お菓子の持ち込みは……まぁいいのです。いただきます、チロルチョコ」
小萌 「席につくのですよー。チャイムもう鳴りましたよー」
上条 (……小萌先生からはナシか……安いチョコくらい配ると思ったんだが……アテがはずれたな)
上条 (……いや。予想外の吹寄のチョコを喜んでいよう。嬉しいし)
上条 (一方通行との勝負の賞品は……負けた方が勝った方の言うことを、ひとつだけなんでもきくこと)
上条 「やってやる……やってやるぞ!」
小萌 「上条ちゃーん? 授業はじめますよー?」
245:
 ◆放課後
上条 (……収穫は……十五個か。予想以上だな。
 クラスメイトの女子八人、面白がってた男子三人、吹寄に、見知らぬ後輩から二つ、見知らぬ先輩から一つ)
上条 (……しかし。いくらバレンタインだからって、適当な男子にまでチョコを配るもんなのかね?)
上条 (嬉しいことではあるからいいんだけど……知り合い以外からももらえるとは思ってなかったなぁ)
上条 (……まぁ、いいか。お返しも考えとかないとな。一ヶ月後までに)
青髪 (……チョコ、もらってもうた)
青髪 (カミやんのついでに、やけど……おこぼれやけど……でも……)
青髪 (……ええやん。バレンタイン)
土御門「にゃー。早く移動しようぜい」
上条 「そうだな。時間はいくらあっても足りないし」
246:
 ◆上条の部屋
上条 「さて。気持ちを切り替えて準備を始めるか。禁書目録はまだ出掛けてるし」
土御門「出前の注文しとくんだにゃー」
青髪 「さてと……過酷やね、こっからは」
上条 「というところで悪いんだが……」
青髪 「どったの? カミやん」
上条 「……飲み物買い込んでくるの忘れた」
青髪 「え、えええ……?」
上条 「ちょっと買ってくるわ」
青髪 「え、ええ? カミやん、ちょっとー?」
上条 「大丈夫大丈夫、すぐ戻るから」
247:
 ◆街
上条 「昨日ちゃんと確認したつもりだったんだけどなぁ……」
上条 「買い忘れたものは仕方ない。行くか……」
10032 「どこにですか? とミサカは若干荒くなった息を整えながら貴方の背中に声をかけます」
上条 「御坂妹? 久しぶりだな。元気か?」
10032 「走ってきたので少し息が苦しいですが、問題はありません、とミサカは問いかけに答えます」
上条 「なんだって走ってきたんだ?」
10032 「貴方の姿を見かけたからです、とミサカは鈍感な貴方でもわかりやすいように直球に思いの丈をぶつけます」
上条 「……?」
248:
10032 「今日は二月十四日ですね、とミサカは遠回しにミサカの目的を伝えようと試みます」
上条 「ああ、バレンタインだな」
10032 「その通りです、とミサカは意外にも貴方の理解が早いことに驚きを隠せません」
上条 「あ、そうだ……これ食べる?」
10032 「……チロルチョコですか? とミサカは首を傾げながら貴方の手から慎重にチョコレートと思しきものを受け取ります」
上条 「チロルチョコだ。バレンタインだからな」
10032 「なるほど。バレンタインですからね、とミサカは事態の都合の良さに動揺しながらも内心ガッツポーズを天高く掲げます」
10032 「これを受け取ってください、とミサカは自らの努力の結晶をいささか緊張しながら差し出しました」
249:
上条 「……これ、チョコか?」
10032 「はい、とミサカは肯定しますが、
 その疑問よりも先に受け取ってもらわなければ緊張で逃げ出してしまいそうです、と内心を吐露します」
上条 「……俺に?」
10032 「察してください、とミサカは口数少なくなりながらも震える膝に力を入れて正面を向きます」
上条 「あ、ああ。その……」
上条 「ありがとう……」
10032 「いえ。バレンタインですから、と、ミサカは意味不明の言い訳をしてから踵を返します」
上条 「もういくのか?」
10032 「はい。目的は達成しましたので、とミサカは宣言します」
上条 「じゃあな」
10032 「それでは、とミサカは頭を下げて立ち去ります」
上条 「………」
上条 「……バレンタイン、だもんな」
250:
 ◆上条の部屋
上条 「……ふぅ」
青髪 「カミやん、ジュースは?」
上条 「……あ」
土御門「……」
上条 「もう一回行って来るわ……」
青髪 「頼むでホンマに。つっちーの妹さんと小萌先生はもう来てくれたから、手は足りてるんやけど」
上条 「ま、待て! 俺が作業するぶんも残しておけよ! 絶対だからなっ!」
青髪 「作業を残すって、どういう状況やねん……」
上条 「と、とにかく! 俺が帰ってくるまで待ってろよ!」
青髪 「いや、何を……?」
251:
 ◆上条の部屋
上条 「……近くのコンビニの飲み物、ほとんど売り切れてた。……不幸だ」
佐天 「あ、おかえりなさい。おじゃましてます。スリッパもお借りしてますね?」
上条 「あ、うん。どうぞどうぞ。数足りるかな……?」
佐天 「大丈夫でしたよ。足りない分は土御門さんが持ってきてくれました。あ、ジュース、冷蔵庫にいれときます」
上条 「ああ、ありがとう。そっかそっか。よし、準備がんばるぞー!」
佐天 「ほとんど終わっちゃってるんですけどね。ていうか、初心者がいきなりローストビーフって何考えてたんですか」
上条 「あ、いや。何も考えてなかったんだよね。切って焼けばできるかな、なんて」
上条 「それはそうと、エプロンがすごく似合ってるな。いいお嫁さんになれるよ」
佐天 「え、そ……そうですかね? ありがとうございます。でもこの場合、セクハラ! って叫ぶべきですか?」
上条 「いやぁ、ははは。それは困るなぁそれは……どう考えてもセクハラじゃないと思うし」
上条 「……ってあれっ!? なぜ上条さんの部屋に新妻がっ!?」
佐天 「あの、新妻ではないです。新妻ではないですから……!」ブンブン
252:
上条 「来るの早すぎだろ……いや、俺が遅かったのか……」
佐天 「そうですね、私が来たときにはもう、いろいろとハチャメチャで」
上条 「え……どんなふうに?」
佐天 「キッチンではメイドさんと小さな女の子が料理漫画並の派手な調理をしてて……」
佐天 「リビングでは男の人ふたりが全身を揺らしながらスマブラを……」
上条 「……なにそれこわい」
佐天 「怖かったんです、ホントに」
佐天 「で、今は……」
佐天 「私と一緒に来た御坂さんと白井さんと初春とシスターさんと巫女さんが、ベッドの下とかを漁ってます」
上条 「え、ちょ、ま、なにそれちょっとまて!」
佐天 「わ、私に言われても……」
上条 「禁書目録ー!! おまえ何やってんだー!!」
253:
禁書 「あ、とうま。遅いんだよ」
御坂 「……ベッドの下には何もないみたいね」
白井 「他の場所にあるかもしれませんわね。シスターさん、あの殿方が何かを隠すとしたらどこですの?」
禁書 「思いつかないけど、とうまは基本的にお風呂で睡眠を取ってるから、そっちかもね」
姫神 「寝床。可能性は高い」
上条 「あの……もしもーし、何をされているのでせう?」
御坂 「……ッ!!」ギクッ
白井 「あ、あら……意外と早かったですわね」
上条 「どちらかというとこっちのセリフなんですが……」
初春 「どうも。お招きいただいてありがとうございます。お邪魔してますね」
上条 「あ、いえいえご丁寧に。狭いところで申し訳ないですけど、くつろいでってください」
初春 「それで、さっそくなんですけど、洗面所と浴室見せて頂いてよろしいでしょうか?」
上条 「いやいや! 何でだよ?」
姫神 「……強い拒絶。可能性が高い」
上条 「え、なにこの状況……」
254:
上条 「御坂さん……? 念のために聞きたいんですけど、いったい何を……?」
御坂 「え、えっと……」
白井 「……決まってますの」
御坂 「ちょっと黒子」
白井 「年頃の殿方の部屋に来てすることなんて……」
白井 「エロ本探しに決まって――」
御坂 「直接的な表現はやめてええ!!」
上条 「い、いや……正直何が起こってるかさっぱり理解できないんだが」
御坂 「……えっと」
御坂 「……桃色図書探しを」
上条 「言い方の問題じゃないからなッ!?」
255:
上条 「部屋に入って早々いったい何してるんですかアンタらは……」
御坂 「ご、ごめんなさい……」シュン
白井 「……」
上条 「あ、えっと……」
上条 「だ、第一、人の部屋を漁るなんて……!」
初春 「桃色図書、発見です」
上条 「え、ちょっ……!」
佐天 「どれどれー?」
御坂 「あっ、私にも……」
上条 「ちょ、ちょっと君たち。プライバシーとか人格の尊厳とか言う言葉知ってる? ねえ、ちょっと返事してくれよ」
256:
初春 「結構すごいですねえ……」
佐天 「う、うわあ……」ドキドキ
御坂 「こ、これって……」ドキドキ
白井 「……アブノーマルなのもドサッとありますの。ロリ女教師、シスター、妹メイド……これはコスプレ系ですの?」
上条 「それは俺の趣味じゃねええ! 青髪と土御門のだ! 青髪のだああああああああ!!」
白井 「……『生意気な年下の女を強引に』……DVDまでありますの」
上条 「……!!」
初春 「こっちは『生意気な年下の女のいいなり』……『生意気な年下シリーズ』ですか?」
御坂 「……」ドキドキ
佐天 「……」ドキドキ
上条 「な、なんだこの絶望的な環境は……なんだか分からないがこのままだと名誉とかいろいろまずい気がする……!」
257:
上条 「っていうか! 中学生がそんなもの見ちゃいけません!」
小萌 「高校生でもダメなのですよ?」
上条 「!!」ビクッ
佐天 「あ、あの……」ドキドキ
上条 「は、はい?」
佐天 「……生意気なのが、いいんですか?」カァァァ
御坂 「…………」カァァァ
上条 「……」
上条 「……なんだこれ」
258:
土御門「青ピ、ピット使って勝ったくらいで調子に乗るなよ……」
青髪 「いややわあ、連戦連勝だったからって余裕かまして慣れないクッパ使ったのは自分やん」
青髪 「減らず口は! 勝って叩けや!」
土御門「……ハッ」
舞夏 「ぴかちゅうー♪」
青髪 「なんで妹さんは雷連打しかしないん?」
舞夏 「ぴっかっちゅー!」
土御門「かわいいだろ?」
青髪 「……う、うん……?」
禁書 「ねえねえ! 私も混ぜて欲しいんだよ!」
土御門「お、やるか。じゃあコントローラーを差してっと」
禁書 「……えーっと、じゃあ……なにこの緑色の変なの」
舞夏 「ヨッシーだなー」
禁書 「……ねえねえ、何でヨッシーって名前なの?」
舞夏 「……さぁ?」
259:
上条 (まずい……)
上条 (本格的にバレンタインが遥か彼方にぶっ飛んでしまっている……)
上条 (っていうか、この部屋の人間が例外なくぶっ飛んでしまっている……!)
上条 (気付けばテーブルの上には紙コップ……宣言すらなくパーティーが既に始まってるし)
上条 (がしかし……このテンションで夜まで持つの? 大丈夫? あと青ピてめえエロ本回収しとけよこの野郎……!)ガシガシッ
青髪 「え、ちょ、何で蹴るん? あ、まって、ピット落ちる! 落ちる!」
土御門「スマッシュボールはもらったああ!」
青髪 「え、あ、ちょ、つっちー待てや! リアル大乱闘起こってるから!」
260:
土御門「……ッ! しまった……ッ!」
禁書 「……なにこれ?」
青髪 「あ、あああ!!」
舞夏 「っふふ……もらった!」
土御門「ま、舞夏ァアア――!?」
舞夏 「ピッ……カァアアアアアアア!!」
土御門「あ、死んだ」
上条 「なんだこれ……」
261:
姫神 「まぁまぁ。落ち着いて」
上条 「……何で巫女服?」
姫神 「……気分? あとこれ。私の正装」
上条 「正装してきたのか……」
姫神 「バレンタインだから」
上条 「なるほど……」
上条 「……姫神は比較的冷静だな?」
姫神 「うん。わたし、冷静」
262:
姫神 「冷静だから……」
姫神 「ちゅーして?」
上条 「は?」
姫紙 「ちゅー」
上条 「待ておまえこら右手に持った紙コップをただちにこちらに渡しなさいあとすり寄るな、すり寄るなー!」
上条 「あ、案の定チューハイじゃねえか……誰だ持ち込んだのッ!」
小萌 「先生ですよー。こういう席では必要かと思って」
上条 「何生徒に酒のませてるんですか!!
小萌 「いやですねー、上条ちゃん……」
小萌 「チューハイは……お酒に入らないのですよ?」
上条 「オッサンかアンタは! 酒に強いのを自慢したいオッサンか!」
小萌 「先生、監督の名目で来たんですけど、あくまで名目ですからお酒飲んでますねー?」
上条 「え、ちょ、いいんですかそれで。いつもの教育熱心な先生はどこへ?」
小萌 「いいから。お酌お酌」
上条 「ああもう! 収拾つかねえええええ!!」
269:
小萌 「上条ちゃん。お酒の席であんまり大声を出すものじゃありませんよ」
小萌 「お酒は静かにたしなむものです。さ、座って。まだ何も食べてませんよね?」
上条 「え、ええ。まぁ、今帰ってきたばかりですし」
小萌 「……」ポンポン
上条 「……えっと? 座れと?」
小萌 「……」ポンポン
上条 「は、はぁ……」
小萌 「よいしょっと」
上条 「……」
小萌 「……ぷはあ。今日のお酒は格別なのです」
上条 「……あの、何で俺の膝の上に座るんでせうか?」
小萌 「……てへ?」
上条 「ただの酔っぱらいじゃねえか……!!」
270:
上条 「集合! 集合! おまえら席につけ! こら禁書目録! がっつくな! ピザもうなくなってんじゃねえか!」
禁書 「味見兼毒味だよとうま……何が起こるか分からないからね」
青髪 「んじゃあボクも」
土御門「まぁまぁカミやん、足りなくなったらまた頼めばいいぜよ」
上条 「そういうもんだいじゃ……! いや、そういう問題か?」
佐天 「……」ドキドキ
御坂 「……」ドキドキ
上条 「そこのふたりはいつまで顔赤くしてるんだ……! さっきあったことは忘れなさい! 忘却の彼方に追いやりなさい!」
初春 「あんな衝撃的な趣味を見せられて忘れろっていうほうが無茶だと……」
上条 「あれ? 見つけたの君だよね!? 君が原因だよね!?」
初春 「あ、名乗り遅れましたね。私、初春飾利と言って……」
上条 「あ、どうもご丁寧に」
初春 「風紀委員です。青少年保護条例違反でしょっ引きます」
上条 「えっ」
初春 「冗談です」
上条 「……なにこの子、怖い」
姫神 「ちゅー」
小萌 「ひ、姫神ちゃん! 先生は食べてもおいしくないのですよー!」
上条 「……アレは自業自得だから放っとこう」
271:
上条 「いかん……このままではぐだぐだなまま十四日が終わってしまう」
上条 「一方通行が万が一にも十個以上のチョコをもらえるとは思えないが……」
上条 「……って、もう五時か。途中報告の時間だな……」
上条 「メールチェックっと……」
上条 「……」
上条 「は……」
上条 「……十九個?」
上条 「…………待て待て待て」
上条 (学校の知り合い全員で十五個、御坂妹から一つで十六個)
上条 (ここにいるのは禁書目録、小萌先生、姫神に、舞夏、御坂、白井、初春さんと佐天さん)
上条 「……ぜってえズルだろ! 絶対なんか卑怯なことしてるだろアイツ! チクショウ……このままじゃマズい!」
上条 「……ん? メールの下の方に内訳が……」
上条 「……学園都市料理教室の生徒十人、同受付一人、同講師一人、計十二個……」
上条 「……学園都市パソコン教室生徒二人、同講師二人、同受付二人……計六個」
上条 「……黄泉川愛穂……現状合計……十九個?」
上条 「アイツまさか……」
272:
 ◆街
一方 「……クククッ……」
一方 「まさかテメエの相手をするのに、俺が何の用意もしてなかったとは思ってないよなァ、三下ァ……」
一方 「一万人以上の女とフラグを建てるような怪人相手にマトモな勝負するはずねえだろ……」
一方 「あはぎゃはっ! 次は打ち止めのチョコでも受け取りにいくかァ……!」
 ◆上条の部屋
上条 「あの野郎……」
上条 「駅前留学で一人だけ若い奴がいると年上の人からやたらかわいがられるノリで愛嬌振りまいて……」
上条 「……二月十四日にチョコをもらうためにわざわざこういう教室に……?」
上条 「そんなバカな……っていうか料理教室とかめちゃくちゃ似合わねえ……パソコン教室とか絶対必要ない……」
上条 「してやられた……! 保険をかけるのはアイツの方が上手だった!」
上条 「つーか受付からもってどういうことだよ! どんだけかわいがられてるんだよ!」
上条 「まだ俺は十五個なのにあっちは十八個だと……? しかも打ち止めが入ってない……!?」
上条 「まずい……このままだと……今一緒にいるのは八人……プラス二人男子。強引な手に出ても合計十個」
上条 「ただでさえこっちはチョコを受け取れる空気じゃなくなってるのにこのままじゃ……敗色濃厚……!」
上条 「くそ……なんとかしなきゃ……でも一応メールは返信しとこう。十六個……内訳……学校の知り合い、御坂妹、と」
上条 「余裕があるからどうにでもなると思ったが……このままではマズい」
上条 「なんとしてもここにいる全員から……今日の内にチョコを受け取らなければ……!!」
土御門「カミやん? カミやーん? 集合かけといて何ブツブツいっとるんだぜい?」
273:
青髪 「カミやん? どうかしたん? なんでもないならスマブラ再開したいんやけど」
上条 「あ、悪い。でもスマブラはやめろ。あとほら座れ。着席!」
初春 「隣、いいですか?」
上条 「あ、どうぞどうぞ」
佐天 「じ、じゃあ私は左隣に」
上条 「あ、はいどうぞどうぞ」
御坂 「……むう。じゃあ私は正面に」
上条 「……何を基準に正面?」
小萌 「先生の席は上条ちゃんの膝なのですよ?」
禁書 「それはだめなんだよ小萌。マナー的に」
姫神 「……めぼしいところは。すべてとられてしまった」
白井 「なんですの、この光景」
青髪 「……なんやのんこれ。何この状況」
上条 「……ん? なんで取り囲まれてるんだ?」
舞夏 「ぴっかーあ!」
上条 「あーほら、コントローラー離せ」
274:
御坂 「それで、なに?」
上条 「なに? じゃない。開始早々好き勝手やってたら集まった意味がないでしょう」
上条 「あと潤んだ目でこっちを見ないで御坂さん。ほっぺたも赤いです。目逸らすな。っつうか泣き出したいのはこっちだ」
御坂 「……あ、あんなのを見ちゃったら……その」
上条 「いいからそういうのホントに。分かった分かった。で、はい。紙コップが空の人並べて」
佐天 「あ、冷蔵庫から飲み物とってきますね」
上条 「さすが新妻。こら姫神、隙をついて場所を変えようとするのをやめろ」
姫神 「……けち」
上条 「……なんか俺が悪いような気がしてきた」
佐天 「ダメですよ? ダメですからねっ? あと新妻ではないです」
上条 「はい、好きなの注いで」
上条 「……行き渡ったな? それじゃあひとまず。乾杯!」
全員 「かんぱーい!」
275:
上条 「いやぁなんとか始めることが出来た。何の意味もないけどひとまず安心だ」
佐天 「かんぱーい」
上条 「おー、かんぱーい」
御坂 「かんぱい」
上条 「おーっす」
上条 「さて食うか……」
青髪 「え、乾杯のためだけに集めたん?」
上条 「ためだけにってなんだ。重要だろ、乾杯」
土御門「形から入るタイプだにゃー」
276:
初春 「上条さん」
上条 「はい?」
初春 「結婚しましょう」
上条 「……紙コップの中身は?」
初春 「やだなぁ、ちょっと甘いだけの水ですよ?」
上条 「……小萌先生……」
初春 「今夜は無礼講ですよ、上条さん」
上条 「は、はぁ……」
初春 「というわけで膝枕してください」
上条 「は?」
初春 「なんだかポーッとしてきちゃって……」
上条 「早すぎだろ酒回るの……!」
277:
初春 「してくれないんですか?」
上条 「当たり前ですよ……第一何が嬉しいんだ、膝枕」
初春 「とても幸せな気持ちになれると思います。ほら、早く椅子降りて。床に、何ならベッドでも」
上条 「ベッドは個人的にまずいので、せめて床でお願いします。ていうかダメだって」
初春 「いいじゃないですか。猫が丸くなってるものだと思ってください。さ、あぐら掻いて」
上条 「あ、あぐらですか……」
禁書 「…………」ジーッ
御坂 「…………」ジーッ
佐天 「あ、もうウーロン茶なくなっちゃいましたね。追加の出しておきます」
上条 「……甲斐甲斐しいな、新妻」
初春 「嫁にするなら断然、せわしないより穏やかな方ですよね」
上条 「君、酔ってるね」
初春 「ほら、ぺったんしてください」
上条 「やめろ、幼児語で着座要求すんな!」
初春 「こういうのも好きなんですか? さっき似たようなDVDが……赤ちゃんプレイ?」
上条 「忘れようそのことは」
278:
初春 「よいしょっと……」
上条 (……ホントに膝枕してるし)
初春 「はー……いい気持ちです。寝てもいいですか?」
上条 「いきなりかよ……君まだ何もしてないじゃん……」
佐天 「……」
御坂 「……」
白井 「……」
上条 (別に膝枕自体はいいんだけど……すごく褪めた目で見られてる気がする……)
舞夏 「あ、そうだ。上条当麻ー!」
上条 「はい?」
舞夏 「パース!」
上条 「えっ、うわっ!」
上条 「……なにこれ」
舞夏 「チョコ」
土御門「……」
御坂 「……」
上条 (……すごく怖い目で見られてる気がする)
279:
舞夏 「私の愛情がたっぷり入ってるから、ちゃんと一人で全部食べるんだぞー」
土御門「……」
上条 「ああ……でも、その発言はどっちかっていうと唐辛子が入っているフラグでは……」
舞夏 「……」チッ
上条 「まじかよ」
舞夏 「じょーだん」
上条 「……ありがとな」
舞夏 「お、おお」
舞夏 「へへ。よきにはからえー」
上条 「……それはいろいろ、間違ってないか?」
土御門「舞夏! スマブラやろうぜい!」
舞夏 「お、おぉ? う、うん」
上条 (……今、土御門と目が合った瞬間……悪寒が、悪寒が……)
280:
初春 「あ、そうだ。上条さん上条さん」
上条 「なに? 膝の上で喋られると落ち着かないんだけど」
初春 「はいこれ。私からもチョコです。喜べ喜べ。ていてい」
上条 「角で叩くな、角で叩くな! いやでもありがとう。でも何で?」
初春 「いやだなぁ、命の恩人さんですよ、上条さんは」
上条 「は?」
初春 「以前、虚空爆破事件のときに私を助けてくれた方ですよね? 御坂さんから聞いてたんです」
初春 「それ以来、ずっと感謝してたんですけど、お会いする機会がなかったので……」
初春 「嬉しかったんです。助かりました。本当にありがとうございます」
上条 「……うん。なんか言ってることは分かるんだけど、ごめん。膝の上からだとシリアスな感じが薄れるね」
初春 「私はこんなに真剣に話をしてるのに!?」
上条 「え、なんで驚くの? 普通、真面目な話をするときに相手の膝に頭を乗せないよね?」
初春 「私なりの照れ隠しですよ!」
上条 「え、えええ。なにそれ」
初春 「……ふんっ。もういいです。上条さんのばーか。ばーかばーか」
上条 「あ、あれ……? なんでこの子、ほとんど初対面の相手に対してナチュラルにこういう態度とれるの……?」
上条 「でも、ありがとうな」
初春 「……つーん」
上条 「……拗ねてるし」
281:
小萌 「上条ちゃん、上条ちゃん。私からもはい。チョコ」
上条 「え、チロルチョコですか……いや、それ俺があげた奴じゃないですか!」
小萌 「間違えました。こっちです」
上条 「先生、それスルメ。ていうか、酒のつまみ持ってきてたんですか。最初から飲む気だったんですね」
小萌 「あれー? えっと、どこに置いたんでしたっけ……」
小萌 「はい、これ」
上条 「あ、ありがとうございます」
上条 「……あれ? 今までの流れだと何かツッコミどころがあるはずなんだけど」
小萌 「別に用意してませんよ、ツッコミどころは」
青髪 (……結局、カミやんにチョコを渡さんといてーって頼んでも、聞き入れてもらえんかったなぁ」
姫神 「はい。私からも。これ」
上条 「あ、えっと……ありがとう」
姫神 「うれしい?」
上条 「あ……ああ」
姫神 「そっか。なら。ちゅう」
上条 「誰か、姫神を介抱してあげて」
282:
上条 (しかし……なんだ、このチョコの大盤振る舞い)
上条 (……罠? 罠か? これは誰かが俺にかけた罠だな……)
上条 (考えられるのはひとつ……)
上条 (青髪ピアスと土御門の罠……!)
上条 (女子と結託して上条さんにドッキリを仕掛けようという腹に違いない……)
上条 「……」
土御門「……」ニヤッ
上条 「……!!」
上条 (間違いない……土御門の策略……! これは……まさか)
上条 (最悪の場合……全員からチョコを渡されたあげく、大成功ー!のプラカードを目の当たりにするはめに……)
上条 (……だが、一方通行との勝負に勝つ為には都合がいい)
上条 (舞夏、初春さん、先生、姫神……四つ。二十個に到達……。ひとまずは一方通行を追い抜いた計算になるが)
上条 (……打ち止めを計算にいれるとようやく互角。もし奴が他にも何か策を準備するとすれば……)
上条 (……禁書目録、御坂、佐天さん、白井の四人からもなんとかしてチョコを受けとらなければ……負ける……!)
上条 (……いいぜ、土御門。乗ってやるよ、おまえの策にな……!)
上条 (すべては、そう……一方通行に勝って、命令権をひとつ手に入れ……)
上条 (打ち止めのチョコを少しだけ分けてもらうため……!)
上条 (打ち止めの奴、一方通行に夢中で俺にチョコくれないっぽいし。そもそも面識ないんだけど)
上条 (俺も打ち止めからのチョコ欲しい! あの野郎、今に見てろよ……!)
上条 (絶対打ち止めのチョコを手に入れてやる……!)
283:
上条 「ジュース、足りなくなったな。ペース早すぎだろ」
青髪 「ボクが買ってくる?」
上条 「いいよ、スマブラしてて。俺が行って来るから」
佐天 「私、ついていきましょうか?」
上条 「あ、お願い」
青髪 「……カミやん、男女で態度違わない?」
上条 「そ、そんなことねえよ」
上条 (……がっつきすぎたか?)
佐天 「あ、それじゃ行きましょうか」
上条 「あ、ああ。うん」
上条 「……あのさ、佐天さん」
佐天 「はい、なんですか?」
上条 「……エプロン、つけたままだけどいいの?」
佐天 「あ、ああ、忘れてたっ!」
284:
佐天 「……」
上条 「……」
上条 (……会話がない)
上条 (……何で佐天さん、ついてきたんだろう)
佐天 「あ、あの……」
上条 「はい?」
佐天 「その……忘れちゃってるのも知れないですけど……」
佐天 「以前……助けてくれた方ですよね?」
上条 「……え?」
佐天 「私が……柄の悪い人たちに絡まれてるときに……」
佐天 「……ですよね?」
上条 「……えっと」
上条 (……そんなことあったっけ?)
285:
佐天 「それで、その……ずっとお礼を言いたかったんですけど……」
佐天 「……あの……」
佐天 「……チョコを……」カァァァ
上条 (あ、土御門の作戦か)
佐天 「……あ、あの……」
上条 「え、あ……ああ」
佐天 「……あの。なんかまずかったでしょーか」
上条 「いや……」
上条 「……なんだろうね……」
佐天 「こ、これを……。あの、まずかったら捨てていいですから! ほんとに!」
上条 「…………」
上条 (……もう騙されててもいいや。かわいいから)
上条 「あ、えっと……ありがとう」
佐天 「い、いえ……」
上条 (……耳までまっかだ)
上条 (…………なんでだろうね? 胸が痛くなってきたぞー)
286:
 ◆上条の部屋
佐天 「ただいまー」
上条 「土御門ー! ちょっとこい!」
土御門「……ん?」
上条 「ちょっと外出てくるわ」
佐天 「あ、はい。いってらっしゃい」
上条 (……なにこの新妻)
土御門「なんだっていうんだにゃー」
 ◆とある学生寮・通路
上条 「おまえ、何か仕組んだな?」
土御門「なんのことだかさっぱり……」
上条 「……」
土御門「……にゃー」
土御門「……白状すると、ちょっぴりな」
上条 「ちょっぴり?」
土御門「常盤台グループに、カミやんにチョコを渡すようにいったんだぜい」
上条 「……やっぱりか」
土御門「ちょっとドッキリでも仕組もうと思ってにゃー」
上条 「……いや、もう十分すぎるくらいの演出だったよ」
土御門「……ん?」
上条 「え?」
土御門「……確かに仕組もうとしたけど、結局断られたんだぜい?」
上条 「えっ」
白井 「すみません、ちょっとお話があるんですけれど」
上条 「……!」
土御門「俺、先に戻るぜい?」
上条 「おいおい……ちょ、待てよ土御門」
土御門「さぁって、スマブラスマブラ」
上条 (お、おい……)
白井 「あ、いらっしゃいましたわね」
287:
上条 「なんだ? 白井」
白井 「……なんだもなにも……なんでそんなに後退っているんですの?」
上条 「気にしないでくれ」
白井 「……まぁ、いいですの。はい、これ。受け取ってくださいまし」
上条 「……まさかと思うが、チョコか?」
白井 「……まさかと思わなくてもチョコですの。わたくしからのチョコはいらないとでも?」
上条 「あ、いや……すごく嬉しいことは嬉しいんだが……」
上条 「……ドッキリ、とかではないよな?」
白井 「……わたくしだからいいですけど、他の方にそんなことを仰るのはやめてくださいますわよね?」
上条 「あ、ええと……」
白井 「……一応、わたくしも感謝してるんですの。お姉様のこと、助けてくれたのは、結局貴方ですから」
上条 「……」
白井 「だからといって? お姉様と貴方の交際を認めるかと聞かれれば? まぁそれとこれとは話が別なのですけれどね?」
上条 「……交際?」
白井 「……まぁ、いいですの」
白井 「あんまり外に長居すると寒いですわよ。わたくし、先に戻りますの」
288:
上条 「……」
上条 「……あー」
上条 (……どうしてこうなった)
上条 (……整理をしよう)
上条 (俺と一方通行はバレンタインの今日、どちらがより多くのチョコレートをもらえるかを競い合うことになっていた)
上条 (ちなみに喧嘩をふっかけたのは俺。目的は打ち止めのチョコレート。小さい子ってかわいいし。性的な意味とは別に)
上条 (その為、青髪ピアスに何気なくバレンタインの話題を振り、彼が何かイベントを提案するのを待った)
上条 (結果的に小規模のパーティーに誘導することが出来……なんとかチョコレートを入手するアテを作った)
上条 (学校では十五個、御坂妹から一個、現段階ではパーティー中にもらったチョコレートが六個の合計二十二個)
上条 (パーティー中のチョコはあまりの都合の良さに土御門の策略かと思ったが……実はそうではなく……)
上条 (……つまり、初春さんの「虚空爆破のとき助けてもらった」も……)
上条 (「柄の悪い連中から助けてもらった」という佐天さんの言葉も……)
上条 (ついでに「一応感謝している」という白井の言葉もドッキリではなく……)
御坂 「ねえ、いつまで外にいるのよ?」
上条 (……マジで?)
289:
上条 (今日という日は何かおかしい……)
上条 (吹寄からチョコをもらうし……小萌先生が生徒に酒を飲ませるし……)
上条 (初対面同然の佐天さんが新妻で、御坂がエロ本を漁って、初春さんが膝枕。舞夏がピカチュウで、姫神が酔っぱらい)
上条 (……何かの前触れ? やはりドッキリではないように見せかけたドッキリ?)
御坂 「ねえ、おい。ちょっとー? 聞いてるー?」
上条 「え、あ、ああ」
御坂 「聞いてなかったでしょ」
上条 「……あ、ごめん」
御坂 「あ、いや、別にいいんだけどさ……」
上条 「……」
御坂 「……」
御坂 「あのさ」
上条 「……ん?」
御坂 「はい、これ」
上条 「……あ」
290:
御坂 「一応、ね。……じゃないや。えっと……」
御坂 「……別に特別な意味なんて……」
御坂 「ないことはないんだけど……そういうアレじゃなくて……」
御坂 「なんていえばいいかな……」
上条 「……これ、チョコ?」
御坂 「……そう。見りゃわかんでしょ」
上条 「いや、包装されてたらわかんないよ」
御坂 「……察しなさいよ」
上条 「……すまん」
御坂 「あのさ、私さ……結構、感謝してるのよ、アンタに。だからほら」
御坂 「……こういう機会でもないと、上手く伝えられる気がしなかったから」
御坂 「……えっと……こういう機会でも、しっかりは伝えられないんだけど……」
御坂 「その、さ」
上条 「……うん」
御坂 「……ありがと」
上条 「……あ、いや。こっちこそ」
御坂 「……」
上条 「……そうだ、チロルチョコいる?」
御坂 「……なにそれ」
上条 「ハッピーバレンタイン」
御坂 「……ハッピーバレンタイン」
291:
上条 (禁書目録以外の女性からは、チョコレートを受け取った)
上条 (……やっぱり都合良すぎない?)
上条 「……ん? メールか?」
上条 (気付けば既に七時半……時間経つの早すぎだろ……まだ何もしてないのに)
上条 「……一方通行から……」
上条 (……先ほどの十九プラス……芳川桔梗、……結標淡希?)
上条 (……打ち止めを計算に含めると二十二……こっちの方が多くなるな)
上条 (一方通行にチョコをもらうアテが他にあるとは考えにくい……俺の勝ち、か)
上条 (……アイツ、チョコくれるかなぁ……)
上条 「……そろそろ戻るか」
292:
上条 「……」
土御門「カミやん。このプレートなーんだ?」
上条 「大成功……?」
土御門「にゃー」
上条 「……ふう」
土御門「ごめんにゃー、カミやん。どうしてもやらずにはいられなかったんだぜい」
上条 「土御門、振り返ってみろよ」
土御門「……にゃー?」
上条 「……そう、舞夏が持ってるプレート。なんて書いてある?」
土御門「……大成功」
上条 「仕掛け人ドッキリって、定番だよな」
土御門「……マジかよ」
上条 「……でも、つまりどういうこと? そのプレート」
舞夏 「つまり……」
舞夏 「兄貴の協力者たちはドッキリだなんて考えてなかったってことだなー」
上条 (……え、ガチってこと?)
佐天 「……えへへ」
初春 「なんか眠くなってきました……」
白井 「飲み過ぎですの。横になりなさいな」
上条 (でも告白されたわけじゃあるまいし、義理だからガチもなにもないな)
293:
上条 「……宴もたけなわ、だな」
上条 「……ホントに何もしてないけど」
禁書 「とうまー」
上条 「ん?」
禁書 「はい、これ」
上条 「……」
禁書 「チョコだよ! 一応手作り! 自信作なんだよ。あとで一緒に食べさせてね!」
禁書 「結構大変だったんだよ、それ作るの! ラッピングまで自分でやったんだからね」
禁書 「褒めて褒めて!」
上条 「……」
禁書 「とうま?」
上条 「……よしよし」
禁書 「……どうして頭を撫でるのかな?」
上条 「だめ?」
禁書 「……ダメではないけど」
上条 (……なんかもう、幸せだからいいや)
禁書 「…………」
禁書 「いつもありがとね、とうま」
上条 「……いや」
上条 「こっちこそ、ありがとな」
294:
上条 「よし、もう一回乾杯するか!」
初春 「やりましょう!」
白井 「初春、貴女、急に身体をあげたら具合悪くなりますわよ……!」
御坂 「私! 炭酸!」
姫神 「……頭痛い」
禁書 「とうま、とうまー。ピザもう一枚ないの?」
舞夏 「そういえば、料理に全然手つけてなかったな……」
上条 「そういや、ビンゴカードある。ビンゴする?」
土御門「この人数でかにゃー?」
小萌 「青春ですねえ……」
上条 「景品は青髪のエロDVDな」
佐天 「だ、誰が喜ぶんですか、それ……」
上条 「よし、ハッピーバレンタイン!」
全員 「ハッピーバレンタイン!」
青髪 「……で、バレンタインって何?」
295:
 ◆その後
上条 (……どうなることかと思ったけど……)
上条 (……結局どうにもならなかったな、男共は終始スマブラしてたし、監督は酒盛り、女たちは部屋漁り……)
上条 「……メール、するか。こっちの勝ちだろうけど」
上条 (何はともあれ……打ち止めのチョコが食える)
上条 (……なんとかなったな。二十四個、か……。知り合いからもらえるのも結構嬉しいもんだ)
上条 「……メール来た」
上条 「……は」
上条 「……二十五個?」
上条 「どういうことだ……?」
上条 「……内訳」
上条 「打ち止め……妹達三人。……妹達三人?」
上条 「……ど、どういう……ことだ……?」
296:
 ◆翌日・公園
一方 「実はなァ、打ち止めからチョコをもらえるように、ボソッと誘導してたわけなンだが……」
一方 「手作りチョコがいいって言っといたら、あのクソガキ、自分だけで作るとか言い出して……」
上条 (……子供に「手作りチョコがいい」ってワガママを言う第一位って……)
一方 「黄泉川と芳川も頼らずにいたンだが……さすがにあのナリだろ、一人じゃ無理だわ」
一方 「しょうがねえからって学園都市にいる妹達に世話頼んだンだわ。頭下げて」
一方 「そしたらなンかもらった」
上条 「……まじかよ」
一方 「マジですよォ、二十四個の上条くゥン?」
上条 「……くそ……一個差で負けるなんて……しかも翌日になってからいろんなとこからチョコが届くし……」
一方 「ッハ……。喚いてろ三下ァ。どう言っても俺の勝ちだがなァ」
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