八幡「やはり俺の三学期はまちがっている」back

八幡「やはり俺の三学期はまちがっている」


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1:
自分の中の正義と社会の正義、どちらに従うべきかという話がある。
前者に従えば他人に迷惑をかけてしまうかもしれないし、周りから
白い目で見られる可能性が高い。
よって、多くの人は後者に従う。理不尽だと思うことに対しても、
それが社会の常識だと言われれば納得してしまう、いや、納得するふりをする。
自分の中の正義を押し殺して、他人に合わせる。もう自分の正義など持っていないという
人もいるかもしれない。
皆他人に対して、自分に対して嘘をつきながら生きていく。
中には自分の正義を貫いて「偉人」とよばれるまでになった人もいるが、そんなのはごくまれに起こる例外だ。
すなわち、社会の中で生きるということは、嘘の中に生きるということと同義なのである。
しかし、これがぼっちの場合になるとすべてが逆転する。
自分の中の正義に従ったってそもそも他人に関わらないので迷惑もかけない。
周囲に白い目で見られるどころか眼中に入りさえもしない。何それ悲しい。
とにかく、ぼっちというのは、自分の正義に従って生きることのできる、
自由かつ誠実な生き物で、その生き方は偉人と呼ばれる人たちのそれと同じだ。
つまり、ぼっち=偉人という方程式ができあがってしまうのだ。
そうとなると、ぼっちのなかのぼっちたる俺は、偉人の中の偉人ということになる。
なんだ、おれ最強じゃん。こんな100年に1人の逸材の俺には、過度の罵倒や、
暴力行使をやめるべきである。やめてくれないかなぁ。
2:
3学期が始まって2週間が経過した。
テレビではどこかの町の積雪量が過去最高などと騒いだりしているが、
教室のなかは暖房が効いていて、ぽかぽかお昼寝日和といったところだ。
今の授業科目は数学なので、寝たふりをしながらまたどうでもいい考え事をしていたが、
暖かさに負けてそのまま寝てしまった。
しばらく寝ていると、「・・ちまん、八幡!」と俺を呼ぶ声がする。
俺のことを下の名前で呼ぶやつは俺の知る限りでは2人しかいない。
ルミルミと愛しの戸塚だけである。(材木座?ナニソレハチマンヨクワカンナイ)
となれば教室にいるのは戸塚だけなので、必然的にこの声の主は戸塚ということになる。
しかし、それにしては声が高い。戸塚も男子の割にはこえが高いが、そのさらに一段上という感じがする。
疑問に思いながらも顔を上げてみると、そこには由比ヶ浜がいた。
「ヒッキーやっと起きた!もう、何回も呼んでるんだからさっさと起きてよね!」
「おう。悪い、それより戸塚に呼ばれた気がしたんだが。」
「へ?、さいちゃんならいま教室にはいないけど。お手洗いじゃないかな」
「……もしやとは思うが、さっき俺の名前を呼んだのはお前か?」
「う、うん……」
言いながら、頬を赤く染める由比ヶ浜。おい、自分からやったんならそんなに恥ずかしがるなよ。こっちまで恥ずかしくなってくるだろうが。
「男の名前を気安く呼ぶなよ、このビッチが!」
「な!ビッチってなんだし!だってヒッキーって呼んでもたまに反応してくれないんだもん!さいちゃんが名前呼んだら絶対反応するからそれの真似しただけだし…」
最初は威勢よくつっこんだ由比ヶ浜であるが、だんだんと尻すぼみになっていく。
どうでもいいけどつっこみはもっと穏やかにしてくれませんかね。さっきからふたつの夢の塊がたゆんたゆんゆれてるんですが…
4:
「とにかく、これからは、下の名前で呼ぶのはやめろ。さもないとまたビッチよばわりするぞ。」
「だからビッチ言うなし!…ヒッキーはさ、あたしに名前で呼ばれるの、いや?」
由比ヶ浜が目を若干潤ませながら聞いてくる。やめろその目、おれのわずかにある良心が痛んじゃうだろうが。
「ああ、戸塚専用だからな。戸塚以外が呼ぶことは許さん。」
「どんだけさいちゃんのこと好きなんだし…じゃあヒッキーって呼んでも絶対反応してよね!」
「…善処する」
「絶対だからね!」
そう言って足早に自分の席に戻っていく。
こんな風に、由比ヶ浜と長時間教室の中で話すというのは、3学期に入ってからはもう珍しくなくなってしまった。
最初に話しかけてきたときには、向こうも緊張していたのか、話す言葉もぎこちなかったが、
今では部室にいるときと同じような感覚で話している。
俺は、最初の3日ぐらいは由比ヶ浜に俺と教室で話すリスクをしつこく説明していたのだが、由比ヶ浜は気にしないの1点張りだった。なのでもう俺も諦めてしまった。
いや、本当は諦めるべきではないのだろうが、今のこの状況を心地いいと感じてしまっている以上、やる気もこれ以上起きなかった。
ま、いざとなったら俺が由比ヶ浜を脅していることにすればいいし、由比ヶ浜も三浦がトイレに行ったり寝てたり葉山と話し込んでいるときだけ来ているようだし、
このままとりあえずは現状維持ということで様子を見ている。
幸い三浦達は俺と由比ヶ浜がはなすことについては反対していないようだ。
俺はあれこれ考えながら次の授業の準備をする。
次の授業は平塚先生の現代文だ。そのことをわかってて由比ヶ浜も起こしに来てくれたのだろう。
そして、今日の昼休み、考えもしなかった出来事が起きた。
17:
昼休み、流石に冬場にベストプレイスでの食事は嫌だったので、
いやいやながらも教室で飯を食うことにしていた。
周りの騒音はイヤホンから流れる音楽でシャットアウト。
そして、少し俯きながらあらかじめ買っておいたパンとMAXコーヒーを
貪る。これで完成、ぼっち流昼飯の型。なんじゃそら。
そうしているといきなりイヤホンが片耳抜き取られた。何事かと思い顔をあげると、
泣き黒子がトレードマークの見知った女子がいた。
名前はたしか…川なんとか…川なんとかさーちゃんみたいな感じだったと思う。
「ねぇちょっと…隣いい?」
「は?」
「隣で一緒に食べていいかって聞いてんの」
「いや何でだよ」
マジで意味が分からなかった。というか女子から学校で昼飯一緒に食べていいかとか
聞かれたの俺史上初めてなんですけど。
しかし、ここで勘違いする俺ではない。並のぼっちならば両手を上げて喜ぶような
シチュエーションだが、俺はここで冷静に理由を聞き出す。
「理由言ったら一緒に食べてくれんの?」
「まぁ、内容によるな」
まともな理由なら食ってやらんこともない。だから一緒に食べるとか何回も言うな。
恥ずかしいだろうが。
「なんか一人で食べてると姫菜のやつが誘ってくんだよね、昼飯。」
「いいことじゃねーか。お前文化祭のとき海老名さんと仲良くなったんじゃなかったのかよ。」
「うん、それは全然構わないっていうか嬉しいんだけど、姫菜と一緒に食うと三浦たちと
一緒に食うことになるんだよね。それにちょっと慣れなくて。」
「で、その海老名さんよけが何で俺なんだよ。」
「そ、それは…あんたが一番気ぃ遣わなくて済むし、楽だからだよ。」
18:
なるほど、まぁ俺相手とか気遣いする価値もないもんな。
「はぁ…まぁ勝手にしていいぞ、さーちゃん。」
ちょっと名前が思い出せないので、からかい半分にこいつの妹が使っていた
愛称で呼んでやる。
すると川崎は怒ったのか顔を真っ赤にして睨みつけてくる。
ふぇぇ…怖いよぅ。
「さ・・さ・・馬鹿じゃないの?…普通に呼んで」
「あー悪い。上のなまえは…川…川…山…」
「川崎だっつの。いい加減覚えろ。」
ああ、そうだ川崎だった。ていうか俺さっき思い出してたじゃん。
というか覚えてたけど。
「ていうか、ほんとに隣いいの?」
「むしろ俺がいいの?って感じだわ。女子と二人で昼飯なんて長年夢見てきたからな。
嬉しすぎてお外走ってきたいぐらいだわ。」
「そ、そう…」
川崎は若干引いていた。
そのまま特に会話も無いまま食事の時間が過ぎる。
…なんていうか、こいつとの沈黙も心地いいものがあるな。
言葉などなくても、場が持つというか…雪ノ下との沈黙に似たものがある。
と、ここで川崎が席を立とうとする、俺のほうはもう食い終わっていたので、
二人のランチタイムは終了だ。
「今日はありがとね。」
「気にすんな。俺も悪い気分じゃなかったし。」
「その… 明日からも、いい?」
「構わねえよ。」
19:
「うん。…本当にありがとね、色々。」
「だから構わねえって言ってるだろ。」
「この際だから言っとくけど、あたし、ほんとうにあんたには感謝してんの。
あんたがいなかったら、あたしの家族、めちゃくちゃになってたかもしれないし。」
「いや、その礼は前にもらったから今更気にすることじゃねーよ。
俺の方こそお前には2回助けてもらってるんだ。むしろ俺のほうが感謝してる。1回分な。」
「へぇ、あんたが人に感謝するとか、珍しいこともあるもんだね。」
「あぁ、俺も誰かに感謝するなんてまっぴらごめんだ。…だから、1回限りならお前の頼み事ただで聞いてやる。できる範囲でな。」
「じゃあ、早頼んでいい?」
「おう、べつにいいぞ。お前に感謝する時間はなるべく減らしたいからな。早いほうがいい。」
「じゃ、じゃあ今週の土曜日家に来て。」
「は、はああああ!?」
びっくりした。超びっくりした。多分今年に入って一番びっくりした。
今年まだ1ヶ月もたってないけど。
しかしこんなこと言われて勘違いしない男子多分俺しかいないよ?
ていうかもしかして勘違いじゃない?いや、クールになれ比企谷八幡。
こいつは今頼み事を俺にしてるんだ。なにか用事があってそれを手伝うとか
そんな感じだろう。そうじゃなかったらなんかもういろいろとやばい。
「違う!違うから!…ただけーちゃ、妹の京華がまたあんたに会って遊びたいって!」
「分かった、分かったから。その妹と遊びにつきあえばいいんだろ。」
「そ、そう!別にあたしが来てほしいとかそんなんじゃ絶対ないから!」
と、川崎は真っ赤になってまくし立ててくる。なんかちょっとかわいいとか思ってしまった。
でも絶対とか言われると八幡ちょっと傷ついちゃう。
20:
「じゃ。じゃあ、携帯出して。連絡先交換しとかないとだめでしょ。」
「お、おう…ほい、これ携帯」
俺はいまだに顔を真っ赤にしている川崎に携帯を渡した
「そこに入ってる連絡先をかって登録しといてくれ」
「あんた、雑すぎでしょ。普通他人に携帯ごと渡せないよ。」
「べつに見られて困るようなもんないからな。」
「ふぅん、はい、そっちにも登録しといたから。」
「おう、サンキュ。」
「じゃ、また明日の昼休み。」
「ああ」
そしてようやく独りに戻る。
正直むちゃくちゃ恥ずかしかった。
クラスのほとんどはぼっち同士の昼飯など気にも留めていなかったが、
葉山、海老名さんあたりからの視線をビンビン感じていた。
おい、お前らなんでそんな見てんだよ。俺は見られて喜ぶ変態じゃねえぞ。
海老名さんに関しては普通に雪ノ下と飯食いに行ってる由比ヶ浜にチクリそうだ。
べつにそれがどうしたと言うべき事なのだが、由比ヶ浜にばれるといろいろとめんどくさそうだということを直感が俺に告げている。はぁ、めんどくせぇ。
21:
そして翌日の放課後、俺は今部室でいつものように読書をしている。
昨日から川崎と昼飯を食っていることについて由比ヶ浜にいろいろ聞かれると
思っていたが、いっこうにそのことについての話題はない。
どうやら海老名さんは報告をしていないらしい。海老名さんマジ感謝です。
部活も残り僅かになろうかというとき、突如部室の扉が開かれた。
「せんぱ?い」
来やがった。
「帰れ、今すぐ帰れ。生徒会でなんとかできないことはここでも何ともならん。」
「ちょ、まだなんにも言ってないじゃないですかー。」
そう言って一色は俺の服の袖を軽く摘む。あざといやっちゃなー。
「一色さん、誠に遺憾ながら、その男の言うとおり、奉仕部は生徒会の委任機関ではないの。
クリスマスイベントのあれは例外なのよ。」
「そ、そうだよいろはちゃん!だからヒッキーの袖から手、放して!」
雪ノ下サン?援護射撃するならしっかりやってくれません?弾こっちにもあたってるから。
むしろこっちにしか当たってないから。
あとガハマさん、そうだよとか言ってるけど雪ノ下の言ってること半分も理解してないよね?
「もー、違いますよ。今日は生徒会長としてではなく、高校1年生一色いろはとして相談があるんです。」
顔をぷくーっと膨らませながら答える一色。ほんとあざとさしか感じない。
「ということで先輩借りてっていいですか?」
どういうことだおい。俺は物じゃねえぞ
物より存在感無い自信あるけど。
「一色さん、あなた奉仕部に相談があるのよね?ならその備品だけを貸すわけにはいかないわ。」
「だから、奉仕部に依頼してるんですよ、先輩を貸してくださいって。」
「いや、そもそも俺嫌なんだけど。あとちょっとで帰宅できるのにわざわざ用事増やすとかありえないし。」
すると一色は俺だけに聞こえるような声で呟いた。
「はぁ、葉山先輩とのことなんだけどなぁ。先輩責任取ってくれるって言ってたのに。」
「いや言ってねえよ。」
22:
「今日お話しするために生徒会も頑張って早く終わらせたのに…。」
「それ頼りにしてるとか言って男子に仕事押し付けただけだろ。」
「先輩にそう言われると思って自分で仕事やってきたのに…。」
「なん…だと」
驚いた。てっきりまた男どもを手玉にとってたと思ってたのに。
まぁこの発言自体が嘘の可能性もあるがそんなすぐばれるような嘘はつかないだろう。
しかし、一色がそこまでやるということはよほど本気なのだろう。
それに一色のこの状況は俺が原因らしいし、断るのは少し気が引ける。
「雪ノ下、今日はもう部活終わりにして俺がこいつの相談を個人的に受けるってのはどうだ?」
「…あなたが良いというのならそうしましょう。今日の活動は終わりにします。」
雪ノ下は不承不承といった感じで告げる。
「ぅぅぅう」
由比ヶ浜はなにか悔しそうに唸っている。何?お前も一色から相談うけたいの?
以前の俺なら、どんなことも一人で抱え込もうとしていただろう。
いや、今の俺でもそれは変わらない。「誰か」に頼ることはいままでも、これからも
ないはずだ。
だが、「こいつら」には頼ってもいいんだと思っている自分がいる。
こいつらからまぁ、なんというか、信頼みたいなもんをされていることは
俺ももうわかっている。だからこれから言うことは、そんな二人への、
せめてもの、そして身勝手な返答だ。
「まぁ個人的な悩みらしいからそんな無理は言われないはずだ。
…それに無理そうだったらお前らと一緒に解決することも考えとく。」
「比企谷くん…」
「ヒッキー…うん!遠慮せずに頼って!むしろ一人で行けそうでもじゃんじゃん頼って!」
「…考えとく。」
ほんと、俺も人間強度が下がったもんだ。
「おい一色、もう落ち込んだふりするのやめろ。うざいから。」
「あは、ばれてました?じゃあとりあえず生徒会室まで行きましょう!」
俺は二人に軽く別れの挨拶をすると、一色に引きずられながら生徒会室へ向かった。
37:
ということで俺は今一色と二人で生徒会室にいる。
別に学校に関する用事という訳でもないらしいのに、暖房はガンガンに効かせまくりである。
職権濫用しまくりじゃねーか。俺としてもそっちのほうがいいから何も言わないけど。
「で、なんだ話って。」
「まぁまぁそんなに急がなくってもいいじゃないですか。ゆっくりしていってくださいよう。」
「いや、俺はさっさと家に帰りたいんだ。さっさとしてくれ。」
「ちぇー。」
といいながらも二人分の茶を用意する一色。おい、人の話聞いてた?
長居させる気満々じゃねーか。
「で、話っていうのはですね…実は私、葉山先輩と今度の日曜日デートすることになったんですよ!」
いや、なにが「実は」なのか全くわからん。
「よかったじゃねーか。ていうか何? “私の恋愛うまくいってますよ”自慢を俺にしたいだけ?恋愛事上手く行ったことの無い俺へのあてつけかよ。」
告白しても振られた思い出しかないし。やっと本気で好きになれそうだと思った子は男だし。ほんと碌な思いしてねーな。
「違いますよー。私、そこで絶対に葉山先輩を落としたいいんです!
でも、具体的な案が中々出てこなくて…。そこで先輩にアドバイスをいただけたらなーって。」
「アホか。俺は他人の恋を終わらせるための助言ならできるが、成就させる助言なんてできないぞ。そんなもん知ってたら真っ先に俺が実践するわ。」
38:
「えー、そんなことないと思いますけどねー。先輩結構あざといし。」
は?俺のどこら辺にあざとさがあるってんだ。あざとい俺とか気持ち悪すぎんだろ。
材木座に匹敵するわ。
「まぁとにかく、何かアドバイスを下さい。参考になるかもしれないじゃないですか。」
一色が急かしてくるので、こたえてやることにする。まぁ俺としてもさっさと帰りたいしな。
「前にも言ったと思うが、あいつの前ではあんまり猫被んない方がいいと思うぞ。
俺とか葉山みたいにある程度地頭がいいやつらにはそっちの方がいい感じだ。」
「っ…!そ、そうですかね?。」
「ああ、それに、周りには猫被ってんのに自分にだけ素を見せてくれるっていうのも、男子的にはポイント高い。」
俺は葉山の趣味趣向などはこれっぽっちも知らないが、猫被り続けた今まででだめだったんだ。やり方を変えてみるのもありだろう。
「自分にだけ素を見せてくれる…は!先輩口説いてるんですか!先輩が私が素を見せてることに対して嬉しいと思ってくれてるのは私も普通に嬉しいですけど付き合うとかはまだちょっと無理ですごめんなさい。」
「俺は何回お前にふられりゃいいんだよ…」
「あは、あははー…。」
一色が何故か気まずそうに笑う。おい、お前が勝手にふったんだろうが。
39:
「で、でもー、葉山先輩に素を見せるっていきなり出来そうにはないんですよねー。
今までずっといい子演じてきましたし。」
「まぁそこは頑張るしかないだろ。とにかく、俺はできる限りの助言はした。
帰らせてもらうぞ。」
「ちょっとまってくださいよー!…あ、そうだ!先輩、デートについてきてくださいよ!」
「はぁ!?」
いやいやなんでそうなる?。まったく、わけがわからないよ。
「いやー先輩が隣に居てくれればー、私、葉山先輩の前でも素でいれそうなんですよねー。」
「まて、意味が分からん。何度でも言うぞ。意味が分からん。」
「だからー、先輩が居たら、私もリラックス出来て先輩に接する態度で葉山先輩とも話せるとおもうんですよねー。」
なるほど、とは思わない。しかしこいつなりに考えた結果なのだろう。だが…
「いや、そうだとしても、日曜は予定があるんだ。悪いな。」
「先輩に予定?何ですか言ってください。」
おい、なんでちょっと早口になってんの?おこなの?
「プリキュア見て仮面ライダー見て寝る。」
「それ予定ないっていうんですよ!」
「いやでも土曜日にマジで予定あんだよ。お前の方にまで行ったら週末休めなくなるだろうが。そんなん考えられへん。」
「なんで最後関西弁なんですか…。どうしてもだめですか?」
上目遣いで言ってくる一色。くそ、その目でこられると俺弱いんだよ。絶対こいつわざとやってるんだろーけど。
それに、ある程度は責任とると決めた以上、これぐらいの事はしなきゃならんのだろう。まったく、嫌になっちゃうね。
しかし行きたくないものは行きたくないので、最後の抵抗を試みる
40:
「そもそも葉山の奴はどうなんだ。デートで他の男と一緒なんて嫌なもんじゃないのか?」
「あ、それは大丈夫です。葉山先輩心広いんで。」
「あ、そう…」
抵抗なんてさせてもらえませんでしたとさ。めでたしめでたし。いやなんもめでたくねーよ。
「…それなら仕方ない。付き合ってやるよ。」
「ほんとですか!先輩やっりー!」
「うぜえ…」
ほんとにうぜえ…
「…でも、やっぱり先輩ってあざといですね。」
「お前はさっきから何を言ってるんだ?」
やめろ、俺を材木座にするな。頼むから。
「いやー先輩って普段は自分で自分のこと最低だとか嘘つきだって言ってるじゃないですか。それなのに今だって私の頼みを最終的には引き受けてくれましたよね。
土曜日に入ってる予定を日曜日にあるって言えば断ることもできたのに、こういうときには正直になるなんて…ほんとに先輩はずるいですね。」
そう言って一色はにこっと微笑む。それは完全に素の笑顔のように思えた。
やめろ、そういう顔すんなよ。惚れちゃいそうになるだろうが。
「…ちげーよ。そんなんじゃない。いま何でその嘘が思いつかなかったのかと後悔してるとこだ。」
「ふふ、嘘ばっかり。では先輩今日はありがとうございました。また日曜日に!」
そう言って一色はそそくさと荷物を持ち生徒会を出ていく。あいつ、俺に後片付け全部任せる気だな…、くそ。
41:
しかし。改めて考えてみると、葉山が一色のデートの誘いを断らなかったのは正直意外ではある。
相手は一度ふった女だ。誰にでも優しく、誰にも踏み込ませない葉山が、そんな相手とデートに行くだろうか。そんな希望を持たせるような事などするだろうか。
あいつは相手に対して絶望しか用意できないというのに。
いや、もしかしたらこんかいのデートはその希望を完全に失くさせるためのものかもしれない。一色に女としての興味を全く示さないことによって、相手にわからせることが目的かもしれない。
だとしたら、それを一色に伝えて早々にあきらめさせたほうがいいかもしれないと思ったが、すぐにその考えは頭から消えた。
あいつはあんなにも、前に進もうとしている。大きな挫折を味わっても必死で前に歩いている。
だったらその足をとめるようなことはするべきではない。
例えその先にまっているのがバッドエンドだったとしても、いま諦めさせるよりは後悔は小さくて済むだろう。
そしてあいつが挫折の雨に打たれる結末を迎えてしまったなら、傘代わりになるくらいのことはしてやろう。
それが、あいつをそういう結末に向かわせた俺の果たすべき責任なのだから。
45:
土曜の朝、少し早く起きてしまった俺は、特にすることもないので撮り溜めてあったアニメを見て時間を潰していた。川崎とは昨日連絡を交わしており、12時にマックで集合となっている。
小町は朝早くから友達とどっかに遊んで行ってしまった。なので俺は今、一人で家にいるわけだが、一人でいる家ってなんかいいよね。
こうやってリビングでアニメ見てても誰からも文句言われないし。
はぁー、ほんとにるるもちゃんはかあいいなー。
るるもちゃんに邪な想いをはせていると、もうそろそろ出掛けなければいけない時間になった。
最後にあいまいみーを1本だけ見て、準備を終わらせそそくさと家を飛び出す。
マックには15分前ぐらいに着いた。早く来過ぎたかと思ったが、もうすでに川崎が到着していた。
「よう」
短く声をかけると、川崎はこちらに気づいてなかったらしく、
「ひゃう!」
と、可愛らしい声で驚いたように返事をした。
「おい、そんなに驚かなくてもいいだろ」
「いや、だってびっくりしたから・・・後ろから声掛けないでよ」
「悪い、でもそろそろ集合時間だし来ること分かってただろ。」
「・・・こんなに早く来てくれるとは思わなかったし。」
「いや、早いっていうならお前の方が早いじゃねーか。なんでこんな早く来てんだよ。」
「べ、別になんだっていいでしょ。それより女子待たせといてなんの言葉もないの?」
「別に遅れたわけじゃねーしな。それで謝るとかありえねー。自分が何か悪いことしてもなるべく謝りたくねーってのに。」
「まぁあんたはそういうやつだしね。」
ばっさりといつも通りに言い捨てる川崎。
しかし、今日の川崎の身に纏う雰囲気はいつもとは違う。
46:
服装は清楚な感じの白いワンピースで、ポニーテールの結び目もいつもより低めで留められている。
俺の持っていた川崎のイメージ=黒のショーツだったので、いろいろと覆された気分だ。
俺の川崎へのイメージ酷過ぎだろ。
「にしても今日はずいぶんと感じが違うな。」
「・・・変?」
「いや。ただ一瞬お前のねーちゃんかなんかだと思っちまったってだけだ。」
「・・・それってどういうこと?」
「ん?いや言葉通りの・・」
「ちゃんと言って」
「・・・大人っぽくてよろしいと思いまする。」
「宜しい。ったく、最初からそう言えばいいのに。」
「そんな爽やかイケメンみたいなことさらっとはできねーよ。俺に何求めてんだ。」
「・・それもそーだね。」
そう言って川崎が歩き出したので、その後ろを付いていくように俺も歩き出す。
その間は全くの無言であるが、当然のことながら気まずさは感じない。
ただぼーっと歩いていると、川崎が不意に立ち止まる。するとある家の玄関の中へ入っていった。どうやらここが川崎ん家らしい。
「上がって。」
「おじゃまします。」
「そう言えばあんた、お昼食べてないでしょうね?」
「ああ、そう言われたからな、食べてきてないぞ。」
「…そう。ならリビングで待ってて。いまご飯作ってくるから。」
「あいよ。」
そう言ってリビングへ向かうと、そこには川崎の妹が居た。
47:
「あ!はーちゃんだー!」
俺の姿を見つけるやいなや、けーちゃんは俺の胸に飛び込んでくる。
え?なんでこんなになつかれてんの?ハチマンヨクワカンナイ。
「おう、元気にしてたか?」
「うん!」
「そうかそうかー」
そう言って頭を撫でてやる。ちなみにこの光景が外で繰り広げられようもんなら一発で通報物である。
「けーちゃんもまだご飯たべてないのか?」
「うん、まだ京華ご飯食べてない!これからさーちゃんがすっごいおいしいごはん作ってくれるんだよ。はーちゃんもたべる?」
「おう。八幡も一緒に食べるぞ。」
「ほんと?やったー!」
けーちゃんはそう言って抱きしめる力を強める。
ほんと、なんでこう小さい子供って無条件にかわいいんでしょうね?
しばらくけーちゃんの相手をしていると、川崎が飯を持ってきた。
どうやら昼飯はチャーハンのようだ。
「おおー!きょうはチャーハンだ!はーちゃん、さーちゃんの作るチャーハンとってもおいしいんだよ!」
「そうか、それは楽しみだな。」
「まぁそんなに期待しないで食べてよ。」
そう言う川崎の方を見ると、先ほどの私服の上にエプロンを着ている。
なんかこう…すげー色っぽいな。いかにも出来る奥さんって感じだ。
そんなこと恥ずかしくて言えねーが。
48:
「じゃ、いただきます。」
俺が言うと二人もそれに続く。
「いただきます。」
「いただきまーす!」
そしてチャーハンを勢いよく頬張る。うむ、中々にうまい。
「ど、どう?」
川崎が何か心配そうに聞いてくる。どうとは料理の味のことだろう。
「普通に旨い。最高に旨いとは言えねーのかも知れねーがこういう味の方が
温かみがあって俺は好きだ。小町と同じランクをつけてやってもいいぞ。」
「…このシスコン」
「うっせ、ブラシスコン。」
「ファザマザコンでもあるよ。私は。」
「それもうファミコンじゃねーか!」
もうスーパーサキサキブラザーズとか発売しちゃってもいいレベル。
しかし、こんな冗談も言い合いながらも、川崎は顔を真っ赤にしている。
おい、ちょっと料理褒められたぐらいでなんでそんな照れてんだよ。
こっちまで恥ずかしくなっちゃうだろうが。
「まぁ俺の小町びいき心がなかったら小町の王座も危なかったな。」
ふ…やはり俺のシスコン道は何があっても揺るがないのである。シスコンマジ最強。
「そ、それって…ま、まぁあんたが喜んでくれるならそれでよかったよ。」
「なんかはーちゃんとさーちゃん恋人みたーい。」
ファッ!!いきなり何言っちゃってくれてんのこの子。
いやいや俺と川崎が恋人とか…あれ?なんか容易に想像できるぞ!?
ぼっち気質で家族愛が強いという共通点があるから話も合うことが多いし、
おそらく相手を身内と認めたらお互いに強い愛情注ぎそうだし。
こんなことを思ってしまうのはこの一週間一緒に昼飯を食ってるからだろうか。
全く、自分の中学時代からの成長してなさ具合には嫌になる。
いや、こういう自分を諌めるために勘違いするべからずという教訓を持って過ごしてるんだ。
感情は生まれてしまうのだから仕方ない。誰かさんに「化け物」と言われた理性で、
それを制御するのだ
よし、心の整理完了。
49:
しかし。お隣にいるこいつはそんな余裕はなかったようで、
「け、けーちゃん!そんなこと言わない!私がこいつとこ、恋人とかありえないから!」
「なんで?、さーちゃん、はーちゃん嫌い?」
「いや、きらいとかじゃなくてその」
「やっぱりー!さーちゃんいっつもはーちゃんのいいところ京華にいってるもんね!」
「こら!京華!それは言っちゃダメなやつでしょ!」
え、なにそれ、聞いてないんですけど俺の今さっき稼働したばかりの理性が剥がれかかってんですけど。
つーかなんだよ、俺のいいところって。あって2,3個だろ。いっつもってありえないだろ。
「それ…本当なのか?」
「うん!それで京華、あのとき会ったお兄ちゃんがそんなにかっこよくて優しいって分かったから、京華もはーちゃんのこと大好きだよ!」
「ちょ!こら京華!」
川崎史上おそらく最高の慌てぶりでけーちゃんを抑えようとする。
ていうか「も」ってなんだよ「も」って。
まるで川崎も俺の事大好きみたいじゃねーか。
もう俺の理性は崩壊寸前である。
「はーちゃんはさーちゃんのこと好き?」
純粋な眼差しで聞いてくるけーちゃん。く、これじゃ誤魔化すことも叶わなそうだ。
「あー、まぁいいんじゃないか。料理上手いし、優しいところもあるしな。将来いいお嫁さんになると思う。」
「な、なあああああああ!」
「だが俺の目標は専業主夫だ。おれはいい奥さんじゃなくて働いてくれる奥さんが必要なんだ。」
「……」
そう言って何とか茶化す。こうでも言わないとほんとに川崎ルートに入ってしまいそうだ。
「うーん。京華難しいことよく分かんない!好きか嫌いかで言って!」
茶化せませんでしたとさ。くそ、ちょっと恥ずかしいが思ってることを言うしかない。
「好きか嫌いかでいえば…好き…かな?」
「っ?????!!!」
川崎はとうとう顔から湯気が出るほどに顔を真っ赤にして顔を机に突っ伏した。
リアルに「かぁぁぁぁぁ///////」みたいな効果音が聞こえてきそうである。
多分俺も今そんな感じだろう。
50:
「じゃあさーちゃんとはーちゃんは“かっぷる”だね!」
「…おい川崎」
俺はけーちゃんに聞こえないくらいの声で川崎に囁く。
「…なに」
川崎は突っ伏したまま応える。
「けーちゃんの前では、もうカップルってことで通さないか?
それの方が傷が浅くて済む気がする。」
「分かった。」
川崎は渋々といった感じで了承する。
「ああ、そうだぞけーちゃん、俺たちはカップルなんだよ。」
「そっかー!はーちゃんがお兄ちゃんとか京華嬉しいなー!」
く、眩しい、眩しすぎる。こんないたいけな子供を騙してるなんておれはなんて・・・
なんて…というか考えるまでもなく屑だった。そうだ。おれって屑じゃん何をいまさら
落ち込むことがある。
そんなことを考えてる自分に落ち込んでいると
「とにかく、さっさとご飯食べるよ。そうじゃないと私たち別れちゃうから。」
「えー!それはやだー。」
「じゃあさっさと食べる。」
そう言ってけーちゃんにご飯を食べさせる川崎。オカンスキル高いなー。
51:
飯を食った後はけーちゃんと川崎と一緒にプリキュアの映画を見たり、
おままごとをして遊んだりした。
時折高い高いをねだってくるので、やってあげたりもした。
その度にけーちゃんは大手を振って喜んでいた。
俺はというと、その三人でなにかをしていると、まるで、家族みたいだなーとか思ってしまい、その思いが胸をよぎる度、頭の芯が熱くなるような感覚に襲われた。
だ、だって川崎が悪いんだ!何かある度に顔を赤くし目線を逸らそうとするんだもん!
そんなことされたら理性はもう限界なんですよぅ。
そんなこんなしている内にもう帰宅の時間となった。
はぁ、長かったような短かったような、何とも言えない時間だった。
ただただ恥ずかしかった。
俺が玄関まで出ていくと二人が見送ってきてくれた
「今日はありがとね。いろいろと。」
「気にすんな。そもそも俺は借りを返しただけだ。」
「そう言ってくれると助かる。」
「ああ、じゃあな。」
「じゃあね。」
「はーちゃん、さーちゃんとさよならのキスしないの?」
「な、何言ってんの京華!」
慌てふためく川崎
しかし俺はこうなることは予想していた。
小さい子と言えば恋愛=キスだからだ。
むしろいつ言われるかと身構えてたまである。
だから俺は用意していた文句をさらっと言う
「あのなけーちゃん、キスっていうのは結婚してからしかしちゃいけないんだ。
だからまだ俺たちはキスできないんだ。」
「へー、そうなんだー!初めて知った!」
「ああ、だからまたこんどな。バイバイ、けーちゃん。」
「うん!バイバイ!」
そう言って俺は足早に川崎家をあとにする。
帰り際に川崎が「まだ…まだ…」
とつぶやいてるのが聞こえたので今日は眠れぬ夜確定である。
くっそー、明日も予定あるのにどうしてくれるんだ川崎の奴。
66:
「葉山先輩!これなんてどうですかね?」
「ああ、いいと思うよ。いろはは何を着ても似合うと思うし。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
時は某日曜日、普段ならアニメでも見ながら惰眠を貪っているところだが、
いまはららぽーとにある俺一人なら絶対に来ないような服屋にいる。
一色と葉山のデート(笑)になぜか付き合うことになったためである。
因みに昨日はほとんど眠れなかった。
川崎との一日のことをいろいろ思い出してしまい、蒲団の中で悶々としてしまったからである。
夜中に奇声を上げながらベットの上をゴロゴロしていると
「お兄ちゃんほんとにうるさい!」と小町に言われたときは泣きそうになった。
しかし出掛ける時には
「お兄ちゃんが休日におでかけなんて…小町的にポイント高いよ!」
とかわいい笑顔で見送ってくれたのでその悲しみも無くなったがな。
あれ?でもそれって俺は家に要らないとかそういうこと?なんか死にたくなったんですけど。
何はともあれ俺は一色が俺が居た方が葉山に対して素を出せるということで付いてきたのだが…
「でもー私的にはー、葉山先輩が一番似合うと思ったものを選んでもらいたいっていうかー。」
全く素なんて出してないですね。どういうことあれ?俺いる意味ある?
「じゃあこれなんてどうかな?」
しかし、今日の葉山の態度には大きな違和感を感じる。
今だって服を選ぶのに全く悩む素振りを見せなかった。
葉山のような、相手に何をしてやればその相手が喜ぶか理解してるやつなら、
あそこは店中の服をある程度見渡してから服を選ぶはずである。
もちろんそれが本当に似合っているかは問題ではなく、
「葉山先輩が私の事で真剣に悩んでくれた!」という事実が必要なのであり、
もしいつもの葉山なら、相手がどんなにどうでもいい相手でも、そういうふりだけでもするはずである。
だが今の葉山は0.1秒も迷うそぶりも見せず、なんなら選んだ服さえ見ずに一色に服を手渡した。
それはもう、あからさまに。
一色に対して、「君には一片の欠片ほどの興味もない」とでも言うように。
67:
一色だって馬鹿ではない。むしろそういうメッセージは敏感に察知してしまうタイプだ。
しかし一色は痛々しいほど顔を引き攣らせながらも
「あは、あははー。いやー葉山先輩が選んでくれるなんて私嬉しいです。
でちょっとお金がなー。」
と笑顔で気丈に応える。
ほんとお前ってすげーやつだな。
「ごめん、実は俺もお金あんまり持ってきてないんだ。なにせ小遣い前でね。
金があったらかってあげたんだけど。」
「いえいえ!そんなおごってもらおうとか思ってなかったんで結構ですよー。
でもお気持ちはありがとうございます!」
これも嘘だ。もし本当に金を持ってないのなら、葉山はこんなデートには来ない。
相手への、特に女性への気遣いを忘れない葉山なら、どんな女性にもある程度の出費を見越してデートの誘いに乗るはずである。
これもまた、「君に出す金はない。」というメッセージであり、
またお金をあまり持っていないダサい自分を演じて一色を遠ざけたいのだろう。
…はぁ、やっぱり俺の危惧していた通りになってしまった。少し胸が苦しい。
別に一色なんてどうでもいいやつなんだが、一応俺の知っている後輩の中では
一番関わっている後輩である。というか知ってる後輩とかこいつだけだけど。
知っている女の子の思いが踏みにじられていく様子を見るのは、どうも気分が悪い。
68:
しかし一概に葉山の事を悪いとも言えない。
一色にこれ以上希望を持たせないようにするというのが、葉山なりの優しさなのだろう。
以前の葉山ならこんなことはできなかっただろう。
自分から一色を捨て、一色から自分を捨てさせる。
他人との関わりを適度に保ってきたこいつからは、考えられないことである。
…いや、違うか。葉山が変わったんじゃない。
俺の知らない葉山の一面が出ているだけだ。
おれはこいつのことなんてほとんど知らない。
今日の葉山は俺の知らなかった葉山だというだけだ。何そのフレーズ、海老名さんが喜びそう。
「じゃあ先輩!先輩は何が似合うと思います?」
「はぁ?」
「いいじゃないかヒキタニ君、選んであげたらどうだ?」
「こいつ…」
どの面下げて言ってるんだこいつ…店の中じゃなかったらぶっ飛ばしてとこだ。
「先輩早くしてください。」
今までの甘ったるい声から一転、やや冷たくも聞こえる声で俺に催促をする一色。
ぷよぷよで言ったら二トリ並の催促である。ふぇぇ、そんなの対応できないよぅ。
ていうかそれを葉山にやれよとも思うが、もう手遅れか。
「わーったよ」
俺は仕方なく服を選ぶ。
と言っても女の子の服の良しあしなんてこれっぽっちも分からない。
そう言えば川崎は昨日清楚系だったな。意外だったが、あれはあれで良かった。
一色も清楚系というわけでもないが、そういう服装というのもギャップ萌えでいいかもしれない。
結局、上は水色、下は黒のシフォンワンピースを選んだ(服の種類は書いてあった)。
「ありがとうございます、先輩!じゃあ早奢ってください!」
「え?なんで俺は奢らなきゃいけないの?」
「つべこべ言わない!はい先輩。」
そういって服を渡される。くそ、なんでこんなことに。
…まぁ小町に女の子には服の一着ぐらい奢れって言われてるしな。仕方ないか。
69:
しかし、ここで俺はある違和感に襲われる。
何で俺は今一色の服装について真剣に考えた?こんなやつの服装なんてどうでもいいはずである。
高2になってから、何人かが俺のATフィールドを侵してきたが、どうやら一色もその中の一人になっていたらしい。まったく癪に障る。
会計を済ませた後、俺は八つ当たり気味に乱暴に一色に服の入った紙袋を渡す
「ありがとうございます!先輩!えへへー」
なんかにやけてるこいつをみてると、さっきまでの怒りも引いてきた。
ったく、これだから女の笑顔は卑怯だ。
「やっぱりそれ返せ。妹への土産にする。」
「えーそりゃないですよ先輩!」
「うるさい。まぁ今日のお前の俺への態度次第で返してやる。」
そう言って紙袋をひょいと取り上げる
「あ!…あーそういうことですか、全く、先輩は素直じゃないですねー。」
「…うっせ」
目論見があっさり看破されてしまい、少し気恥ずかしくなる。
「葉山せんぱ?い、お腹すきました。おやつにしません?」
「いいね、どこにする?」
俺がぼーとしていると、どんどんと予定は進んでいく。なんかもう俺の存在意義がやばい。
あ、それは元々か。
「あ、あそこにミスドがありますよ!」
「じゃああそこにしようか。」
どうやら3時のおやつはミスドに決まったらしい。
あんたら昼飯食ってきたんじゃないの?ほんとにリア充というのはよく物を食う。
その分ぼっちというのは何分カロリー消費が少ないため、あまりご飯を食わなくても大丈夫だ。つまりぼっちというのは食糧不足問題の解決に一役買っているのである。
もうぼっち全体でノーベル平和賞とかもらってもいいレヴェル。それはないか。ないな。
もう少しでミスドに到着というところで、俺たちは最悪の人物に出くわした。
「あれ?比企谷くんに隼人じゃなーい。それともう一人…お名前なんて言うのかな?」
「陽乃さん…」
最悪だ、最悪過ぎる。考えられる限りで最悪の人物に遭ってしまった。
俺たちはこの後、この人にめちゃくちゃにされるかもしれない。
そんな俺のほぼ百発百中とも言える悪い予感を胸に、俺たちは店の中に入っていった。
82:
笑顔に囲まれている状況という言葉を聞いたとき、あなたならどんなイメージを持つだろうか。
字面だけ見ればまるで何か大きな物語がハッピーエンドを迎えたときのような、まるで天国に居るかのような幸福感を味わうことができるだろう

今、わたくしこと比企谷八幡の周りにも三つの笑顔が存在している。
ひとつは、愛想笑い。
想い人とのデートのはずが、見ず知らずのお姉さんと何故か相席してしまうことになったが、そのお姉さんがやけにニコニコしているのでとりあえず笑っている、そんな笑顔。
ひとつは、苦笑い。
後輩とのデートに付き合っていただけのはずが、なぜかとんでもない人との出会いを果たしてしまい、もう笑うしかないといった感じで笑っている、そんな笑顔。
最後に、黒笑い。
そんな言葉ねーよと言う人もいるだろうが、実物を見てみればそうとしか言い表せないであろう、これからこいつらをどう料理してやろうかという、そんな笑顔。
地獄である。幸せな要素など何一つ無い。いったいなんの修羅場なんだと誰かに答えを求めたい。あっ、まじで胃が痛くなってきた。
「へ?、いろはちゃんっていうんだ?。なんか水の名前みたいだね!」
「え、ええ。よく言われます。」
「もう、そんなに固くならなくていいよ?。でも今日はなんで隼人と一緒にいたの?
まさか彼女とか?隼人も隅におけないねー。」
「いや…そんなんじゃないよ、陽乃さん。ただの部活のマネージャーさ。」
「そっかーそれもそうだねー。そうじゃないと比企谷くんが居る意味がよく分からないもんねー。」
「どっちにしても俺のいる意味あんま自分でもよく分かってないっすけどね。
なんなら自分の生きてる意味がわからないまであります。」
「うわー相変わらず卑屈だねー。、…もしかして比企谷くんの彼女?」
「そ、そんな訳ないですよ!私が先輩とつ、付き合ってるとかありえないです。」
俺が否定するより先に一色が顔を赤くして否定する。雪ノ下さんに怒れるとかすげーなこいつ。いや、ただ単にまだ雪ノ下さんの強化外骨格に惑
わされているだけか。
「そっかー!よかったよかった。もし比企谷くんの彼女だったらどうしちゃおうかと思ったよ?。」
完璧な笑顔で雪ノ下さんが言う。ていうか「しちゃう」ってなんだよ、怖すぎんだろ。
「ひっ!」
83:
一色が小さく悲鳴を上げ隣に居る俺を涙目で見つめている。
俺に助けを求めんな。正面にいる葉山にそういう顔をしろ。
大体泣きたいのはこっちだ。雪ノ下さんと向かい合わせだぞ。
ストレスで禿げそう。
「陽乃さん…あんまり怖がらせないでやってくれ、」
「えー、別に怖がらせるつもりは無かったんだけどなー。ごめんね?いろはちゃん。」
「い、いえー、気にしなくてけっこうですよ?。」
一色も即座に猫を被りなおすが、その声根は震えている。いやー気持ちはわかるわ。
すると、急に何か洋楽っぽい音楽が鳴り出した。どうやら陽乃さんの携帯がなっているらしい。
「あ、ごめーん。ちょっと席外すね。」
そう言って席を立つ雪ノ下さん。ふぅ?。ひとまず解放だ。
「先輩、あの人って雪ノ下先輩のお姉さんですよね。」
一色が囁くように耳打ちしてくる。
「ああ。よく分かったな。」
「そりゃ苗字が同じであの風貌だったら分かりますよ。
でも雪ノ下先輩と全然フインキちがいますね。」
「まぁな」
「雪ノ下先輩もあれはあれで怖いんですけど、
なんか違う感じのこわさがありますね。
最初はなんかいい人っぽかったのに。びっくりしました。」
「だろうな。まぁあの人はおまえなんか可愛く見えてくるほどの面の皮持ってるからな。
多分お前が勝ってるところなんて一つもないぞ。」
「先輩ひどい!って言いたいとこですけど確かにあのひとにはいろいろ勝てそうにないです。」
ほう、自分以外の女を全てゴミ同然と思ってそうなこいつにそんなこと言わせるなんて、やっぱ雪ノ下さんパネェ。
「まぁでも勝負しなければ負けませんから。それに味方にしたら心強そうな人ですし。
利用できそうだったら利用しましょうかねー。」
うわぁ?。こいつも変な所で負けずぎらいだなー。
でも雪ノ下さんを利用するとか少なくとも劣化版雪ノ下さんのこいつには絶対無理。
逆に気づかないうちに利用されてるパターンまである。
84:
「でも、姉の下さんと葉山先輩ってどういう関係なんですか?
ほら、名前で呼び合ったりしてるし。」
「あぁ、俺もよくは知らんがなんか親同士が昔から仕事上の付き合いがあるらしい。
その関係でよく雪ノ下と3人で居たそうだ。」
「はー、所謂幼馴染とかいうやつですね。あんな美人がライバルとか自信無くなってきちゃいましたよー。」
「いや、安心しろ。雪ノ下さんは葉山に全く気は無いみたいだぞ。」
葉山が雪ノ下さんの事好きな可能性はあるが。
「そうなんですか?よかったー。」
「いや、あくまでも俺の主観だぞ。」
「大丈夫ですよー。私先輩の人を見る目は信用してますから。」
「あぁ、俺もそこは信用してるわ。」
「あ!そうやってまた調子に乗るー。」
「あほか。俺が調子に乗った事なんて無いぞ。ぼっちが調子に乗ったら殺されるからな。
社会に。」
俺が一色と話していると、葉山が話に参加してきた。
「仲良いんだな、君たち。」
「どこをどう見たらそうなるんだよ…」
「え!?私たちそこそこ仲良くないですか?」
「なになにー。面白そうなお話してるねー。お姉さんも混ぜてよ!」
電話が終わったのか、雪ノ下さんまで話に割り込んできた。
「いや、いろはと比企谷の仲が良いって話をしてたんだよ。」
「えー、それほんと?ほんとならちょっと考えなきゃなー。」
「真に受けないでください。俺と仲良い人間なんて居るわけないですよ。」
「私とは仲良くないつもりだったの?お姉さん悲しいなー。」
「心にもないこと言わないでもいいですよ。」
「でも仲良くしたいのはほんとだよ?比企谷くん面白いし。」
「あのーもしかして陽乃先輩って先輩のこと狙ってるんですか?」
おおーこいつも陽乃さん相手に大胆な事聞くな。
「いやー私じゃなくて妹の方がねー。あ、知ってるでしょ?雪乃ちゃん。」
「知ってますよ。うーん、やっぱり雪ノ下先輩もかー。」
「いや違うから、あいつが俺のこと男として好きになるとかありえないから。
ていうか雪ノ下さんも変なこと言わないで下さい。」
「へー、じゃあ男としてじゃなかったら好かれるとは思ってるんだね?」
85:
俺はその言葉を受けて考えてしまった。
なぜ俺は“男として”などという限定条件をつけたのだろう。
別に俺はあいつに好かれたいとかこれっぽっちしか思ってないが、
その…まあ半年だけど俺からしちゃあ長い付き合いだし、何度も崩壊の危機を乗り越えてきた。
だから好かれる部分も無くは無い…みたいな?
ていうかこれっぽっちは好きになって欲しいのかよ、俺。
それを正直に言う義理は無いのだが、どうせ嘘を言っても見破られるだけだし、
ここは一つ、調子とやらに乗ってみますかね。
「ええ、興味ぐらいは持たれてると思いますよ。
じゃなきゃあんなに長い間同じ部活出来てません。」
「…へぇ、逃げなくなったんだね、比企谷くん。」
「別にそういうわけじゃないです。逃げられなくなっただけですよ。」
「まぁ私としては雪乃ちゃんとそこまで近づいたってのが分かっただけで満足かなー。」
「はいはい…もう突っ込む気力もありませんよ。」
ほんとに、この人に限らず何で皆俺の話だけ聞いてくれないの?
みんな俺の前だと難聴系主人公になるの?
でもそうだとすると俺がヒロインだということになってしまう。
月刊少女ヒキタニ君とかどこに需要あんだよそれ。
86:
「まぁ何はともあれ、いろはすちゃんは比企谷くんには気が無いんだね?」
「は、はい!せ、先輩とか便利だなーって思ってるだけで、私はむしろそのー…」
「あ、もしかして隼人―?」
「…は、はい」
少し顔を赤く染めて答える一色。
「陽乃さん、そういうことはやめてく」
「でもー隼人はやめといたほうが良いと思うなー。」
「え…?」
一色の一言を聞いた雪ノ下さんは、更に笑顔に黒さを含ませ、
まるで相手が積み上げた積木を粉々に叩きつぶすかのように話し始めた。
「だってねー、隼人ったら、たった一人の女の子も守れなかったんだよー?」
その言葉を聞いて、まるでトラウマでも思い出したかのように青ざめる葉山。
いや、実際思い出しているのだろう。
「昔ね、皆からはぶられてる子がいてねー、隼人はそれをどうにかしたかったみたい。
でもねー、結局はなんにもできなかったし、それどころか火に油を注ぐようなことしちゃってねー。そのせいで私が卒業まで守ってあげなくちゃ駄目だったんだから。」
「それって…」
「…そうだ、俺は雪乃を守れなかった…。雪乃のためになにも捨てられなかった…。」
「葉山先輩…」
「そうそう、そういう博愛主義みたいなところがあってねー。
まぁ小学生にそれを分かれっていうのもかわいそうだけどね。
でもなにかを大事にするっていうのは、それ以外を大事にしないってことだからねー。」
葉山は唇に血を滲ませる勢いで歯を食いしばっている。
そりゃそうだろう、憧れの人に…下手をすれば想い人に自分のトラウマを掘り起こされ、
非難され、糾弾されているのだ。ましてやその人の妹のことで。
まあ、正直ざまぁみろとしか思えない。リア充がとうとう爆発したのだ。
すがすがしい気分である。
「でも、高校に入ったらそれに拍車がかかっちゃってね、全てを大事にする。
全てを捨てないみたいなこと考えてるの、静ちゃんに千葉村のこと聞いたときはあちゃーって思ったもん。」
恐らく平塚先生は葉山のことを一言も悪くは言ってないだろう。
あの人は生徒の陰口など叩く人ではないし、何か文句があるなら本人に直接言うはずだ。
雪ノ下さんは事の顛末を聞いただけで、全て理解してしまったのだろう。
87:
「でもそれって、全てを大事にしない、全てを捨ててるのといっしょなのよね
―。
ねぇいろはちゃん、悪いことは言わない、隼人はやめといたほうがいいよー。
だって付き合っても“みんなと同じ”ぐらいにしか大事にしてくれないよ?
なにかあったら絶対“皆”の方を取るよ?」
おうおう好き勝手言いなさる。
だがこれは葉山だけではなく、むしろ一色に対しての攻撃だ。
恋愛とは相手に理想を求めることだとどこかで見たことがあるが、いままさに一色の理想という幻想をイマジンブレイクしているところなのだ。そんな主人公が主役のラノベとか絶対読みたくない。
俺はこの情景をみてほくそ笑む…つもりだったのだが、なにか引っかかる。
この状況を素直に喜べない。
一色が悲しむからかとか考えてみたが、どうもしっくりこない。
なんだ…別に見逃してもいいことかもしれないが、気になった以上は考えてしまう。
そして俺の頭には、一つの答えが浮かんだ。
88:
…そうだ、雪ノ下さん…もう面倒だから陽乃さんでいいや。
陽乃さんが雪ノ下のことに関して、だれかを詰めている、これが問題なんだ。
確かに過去の雪ノ下を苦しめたのは、葉山かもしれない。
だが、今の雪ノ下を追い詰めているのは、陽乃さんだ。
俺は雪ノ下家と葉山家の過去については、ほとんど何も知らない。
だが、葉山が雪ノ下とのことで、後悔してきたことぐらいはわかる。
そしてどういう思考回路の果てかは理解できないが、
その後悔がもたらしたものが、さらなる博愛主義だ。
俺だって、後悔や黒歴史を経て、今の自分になった。
そして、それを自分の魅力だと捉え、自分の事を好きだと言えるようになった。
だったら俺はそれを否定できない。
そしてそれは陽乃さんも同じはずだ。
俺にはよく分からない家庭の事情というものがあるのだろう。
その結果雪ノ下を強く鍛える必要があった。
葉山なんかに、ほかの人間に頼らなくてもいいように。
それが姉なりの愛の形だと言われれば、理解はできないが納得はできる。
だが、雪ノ下の強さは少なくとも由比ヶ浜と出会うまでは偽物だった。
外からの攻撃には強いかもしれないが、内側から突かれればいとも簡単にくずれてしまう。
そんな強さを陽乃さんは雪ノ下に植え付けてきた。
そう、陽乃さんだってまちがえてきたのだ。
全てが正しくないとは言わないが、全てが正しいとは言わせない。
陽乃さんだってまちがえる。そんなの当り前のことだ。
それ自体は、人間として当り前のことで、何も悪いことじゃない。
しかし陽乃さんのやり方は今の雪ノ下には必要ない。
由比ヶ浜や…烏滸がましいのを承知で言えば俺の存在によって、
あいつは本当に強くなった。
だったら、今の雪ノ下に必要なのは、強大な敵役ではなく、癒しのはずだ。
89:
もちろん由比ヶ浜がその役割を担っているのもあるが、やはり雪ノ下だって人の妹。
潜在意識では、姉に甘えたいと思ってるかもしれない。
だったら陽乃さんのするべきことは、自分は敵ではなく味方だと示すことだ。
それには彼女のプライドが傷つけられるようなこともしなければならないかもしれない。
だが千葉のシスコンを名乗る以上、その程度の辱めは甘んじて受けるべきであろう。
だが、彼女は完璧すぎるが故に、反省はしない、やり方を変えることが出来ない。
そんな人間が、雪ノ下のことですら頭を悩ませていない人間が、
雪ノ下のことで頭を悩ませている人間に言う非難の言葉は無い。
…もちろんこんなことは詭弁だ。
外側しか雪ノ下家のことを見ていない俺の言うことが、
陽乃さんより正しいなんてありえない。
だが、いままでの理論を全てとっぱらっても、自分の中に何かは残る。
…それは、平塚先生が大事なものだと言っていたものだ。
その中に答えはあると、それが感情と呼ぶべきものだと。
俺は今、葉山が陽乃さんに詰められる。このことが許せない。
何故かと言われればさっきの詭弁を持ち出すしかない。
そんなめちゃくちゃな感情が俺の中に確かにある。
90:
―――だからどうした。俺は今から、葉山をかばうのか?
そんなことをしてなんになる。
おそらくなんにもならないだろう。
それとも、泣きかけている後輩のために動くのか?
それもダメだ。
いままで、自分の気持ちを誤魔化して、行動の理由を他人に求めて、その結果どうなった?
少なくとも、俺の一番嫌いなもの…欺瞞しか生まれなかったはずだ。
そんなものが満ちた部室の中にいるはめになったはずだ。
そうだ、俺は今まで、自分のためにやってきたことだけが、結果をもたらしてきたはずだ。
遊戯部のときも、千葉村のときも、文化祭のときも、クリスマスイベントのときも。
自分の弱さの理由や行動の動機を他人に求めた結果、多くの物を失いかけたはずだ。
由比ヶ浜の誕生日のときも、夏休み明けのときも、聖地会選挙のときも。
――――だったら今だって動くべきだ。
俺は今、この状況はまちがっていると感じている、動機はそれだけで十分だ。
陽乃さんの方が正しいとかそんなのは関係ない。
俺は俺の正義に従って生きる。
例え敵に回すのが陽乃さんでも…
悪意を躱させるのが嫌いな奴でも…
そうじゃないと、一生本物なんて手に入らない。
状況によって信条を曲げるなんて、そんなのは偽物だ。
91:
「隼人はね、ほんとにつまん」
「もうそれくらいにしたらどうっすかね、雪ノ下さん。」
「…なに、何か言いたいことでもあるの?比企谷くん。」
作り笑いさえせずに俺の方をみる陽乃さん。やっぱ怖ぇ。
「そりゃもうたくさんありますよ。」
「へぇ。言ってみてよ。」
分かってる。いまから俺のすることは問題の解消にもならない。
陽乃さんの葉山に対する悪意は無くなるわけでは無いし、
葉山が俺なんかの言葉で救われるわけでもない。
問題の引き伸ばしにすらなっていないだろう。
しかし、それでもいい。
俺が、陽乃さんが葉山に悪意をぶつけているのを今ここで見たくないだけなのだから。
とにかく、今ある陽乃さんの悪意を一色と葉山から何かに逸らせればいい。
ただそれだけだ。
そして陽乃さんに言う言葉はなるべく本音だ。
そうでないとこちらに悪意を向ける事さえ不可能だ。
そして、本音に悪意を混ぜれば、いくら陽乃さんでもこちらに悪意を向けざるを得まい。
なんせあの雪ノ下の姉。プライドは高いはずだ。
92:
「あなたが葉山を責める権利なんてないんですよ。
葉山は雪ノ下のことで後悔をしてきた。何があったのかは知らない俺でもそのくらいの事は分かります。」
一色が何かおどろいた顔でこちらを見ている。
そりゃ普段陰口ばっかの俺が本人に直接悪口を言ってるんだから当り前だろう。
「でもあなたは、雪ノ下のことで何も頭を悩ませていない。
心配しているとは口ばかりで雪ノ下に対する自分の態度だって改めようともしない。
あなただって本当は分かっているはずだ。今の自分の雪ノ下に対するやり方はまちがっていると。
そんなあなたが葉山を責める資格はないですよ。」
「雪乃ちゃんの事で頭を悩ませてないなんて心外だなー。
私もいろいろ考えてるんだよ?
それに妹を苦しめた男をそしるのは姉として当り前のことじゃない?
実際隼人はつまんない男だし、長い間見てきた私が言うんだよ?」
「確かに葉山は俺からみても嫌な奴だ。
その博愛主義的な所も気に食わない。
でも、俺なんかからの評価はこの際どうでもいいです。
俺は知ってます。葉山がどんな奴から本当に好かれているかを。
そいつは目標のためになら、どれだけ周りに嫌われようと、
普通の人ならそこで折れてしまうような挫折を味わってでもなお、
その目標のために一生懸命頑張れる。
そんなすげーやつに慕われてるんです。
俺や雪ノ下さんがどれだけ葉山の事が嫌いでも、
そんな奴に慕われている人間がつまらない訳がない。」
「っ!…」
何か一色がいきなり机に突っ伏しだしたが今はそんなことどうでもいい。
「でもあなたはどうです。
例えあなたの事を慕う人間が居たとしても、恐らくそれはあなたの自分でも剥がせなくなった仮面を慕っているだけに過ぎない。
ほんとうのあなたを好きな人なんて多分いない。
あなたの方が、実はつまらない人間じゃないっすかね。
それを隠すために仮面つけてるとか?」
ここまで言われれば、流石に俺の方へ悪意を向けるはずだ。
93:
本当は自分に悪意を向けさせるのではなく、悪意を失くすことが出来ればベストなのだろうが、あいにく陽乃さん相手にそんな策は出てこなかった。
しかし、ここで何もしないのは絶対に嫌だった。
だから、俺はこの方法を取った。
まだ、自分はこのやり方しか知らないから。
あいつらにばれたら、また自分を大切にしろとかなんとか言われるんだろうな。
自分のために動いてるだけだっつーのに。
まぁでもあいつらに理解してもらおうなんて思わない。
…だからもしばれたときは、その時はこの安い頭を下げ倒すしかないな。
許してもらえるまで下げ続けよう。
そんなことを考えていると、陽乃さんの口角が上がるのが見えた。
「うーん、60点。」
「は?」
「比企谷くん、惜しかったねー。私の敵になろうとしてたんでしょ?」
「な、何を言って」
「挑発に本音を混ぜたまでは良かったんだけどねー。
でも本当に相手を怒らせたいなら、図星をつかなきゃー。
ほとんど的外れだったからさー。面白くて面白くて!」
どうやら俺は、この人相手には負けることもできないらしい。
でもどうする?俺に策はもう…
「まあでも未来の弟の頑張りに免じて、今日はこれで退散してあげます!
私的には比企谷くんが予想以上の男の子だったっていうだけで、十分収穫だし。
少なくとももう可愛いおもちゃとは見れないなー。」
そんな脅しともつかない台詞を吐いて店をあとにする。
マジで台風みたいな人だ。
94:
…ふう、緊張した。
あっこまで露骨に悪口言ったのは相模の時以来だ。
相手は今回は歯牙にもかけなかったが。
とりあえず、もうデートという感じではないので、
何故か耳まで真っ赤にして突っ伏している一色を葉山が爽やかに外に連れ出す。
ていうか会計全部陽乃さんがやってくれてたみたいだ。
あー、あの人に借りが出来ちまった。怖えー。
未だに何か俯いてぶつぶつと言っている一色をよそに、葉山が話しかけてきた。
「今回はありがとう。…君のおかげで、多少救われた。」
「いや今回は俺は何もできてない、ただ無様を晒しただけだ。
それにお前のためにやった事じゃない。
ただちょっと気に食わないから文句言っただけだ。」
「…それでもだよ。それでも俺は救われたんだ。今の自分を、認めても良い気がしてきた。
まぁ根拠の方はかなり的外れな気がしないでもないけど。それでも君に感謝ぐらいさせてくれ。」
「…勝手にしろ。」
「ああ、勝手にするよ。」
やめろ、こんな青春みたいなこと。この絵面海老名さん以外誰も喜ばないぞ。
「じゃあさよなら比企谷。いろはの事は頼んだ。
多分あの子一人で帰れる状況じゃないみたいだ。」
確かにあの一色が一人で帰るのは危険そうだ。
「いや、そう思うならお前が送れよ。俺はただの付き添いだ。」
「まぁそういうなよ。俺だって今は一人になりたいんだ。頼んだ。」
そう言って葉山は足早にこの場を去る。
ったく、俺の周りには勝手な奴ばっかだな。
「おい一色、デートは中止だ。帰るぞ。」
「ひゃい!」
「何びっくりしてんだ。さっさと来い。」
「来いって…送るつもりですか?それってもしかして口説いてるんですか?今そんなことされたらいろいろとダメなんでやめてくださいごめんなさい。」
「何くだらないこと言ってんだ、お前今なんか変だしこのまま帰すわけにはいかねーんだよ。」
「もう!…今は優しくしないでくださいよぅ…」
95:
そう言いながらも付いてくる一色、
しかしずっと俯いたままで、目すら合わそうとしない。
その状況が電車の中に入っても続いた。
流石にこの状況はやばすぎるので、一色の家まで付いていくことにした。
「なんでそんなに優しくするんですかぁ…」
一色がかすれるような声で何か呟いたが、その意味を考えないようにするのが吉だと思い、
頭の中から全力で追い出した。
家についたときに、服の入った紙袋を渡したときはもうなんかトランス状態に入ってる感じで
「えへ…、……ぱいか………レゼ…トだぁ。」
みたいな声が聞こえてきた。別に難聴という訳でもない。しかし意味はなんとなく分かってしまう。
俺が羞恥心を必死に抑えてる間に、一色はいつのまにか家に入ったようだ。
さて、俺も家に帰るとしよう。
103:
月曜日、恐らく全ての社畜にとって最も憂鬱な曜日であろう。
休日という天国から一転、労働という地獄へと叩き落される。
またこれから六日間、働かねばならないのか。疲労が取れきっていない体に
更に鞭を打つのか。またあの嫌いな上司と顔を突き合わさねばならないのか。
そんな思いを胸に、電車の中で人ごみに揉まれながら出勤をする。
うわ、想像するだけで嫌気がさしてきた。
しかし俺が今学校に行くのが嫌な理由は、憂鬱ではなく羞恥によるものであろう。
たしかに土日に両方予定が入ってしまい、疲れがあるのは事実だが、
今はそんなことに気が回らない。
とにかく今は今日の昼休みの事が気になって仕方がない。
川崎とあんなことがあった後だ、どう顔を合わしていいか皆目見当もつかない。
くそっ、考えたらまた顔が熱くなってきやがった。
よし、もうなにも気にしてない感じで平静を装おう。
大体向こうは何も気にしてねぇかもしれねえじゃねぇか。
あいつは家族のことが関わらなかったら結構クールだ。
もし何も気にしてない感じだったら、俺も冷静になれるだろう。
行ける、行けるぞ比企谷八幡。
なんとか気持ちを落ち着けた俺は教室の中に入る。
なるべくだれとも目を合わせずに机につく。
そして寝たふりの開始。よし何もおかしなところは無いな!
104:
そしてとうとう昼休み、内心すんげードキドキしながら川崎がくるのを待つ。
頼むからいつもどうりの感じできてくれと今まで一度も信じたことのない神に祈っていたが、やはりそんな奴に神の御加護はなかった。
「…ひきゃぎゃ、う、うん。比企谷。」
そこで噛んだらだめでしょー。
川崎もいつもどうりのクールな感じで行こうとしていたようだが、噛んだことで全てのプランが崩れ去ったらしい。
まるでリンゴのように頬を赤く染め、照れる川崎。
なにこれ、超お持ち帰りしたいんですけど。
もちろんそんなことは怖くて言えない。
何が怖いかってOKされそうなところが怖い。いつも通り勘違いであることを願うばかりだ。
「…一昨日はありがとね。京華もすごく喜んでたし…その…あたしも嬉しかったし…」
話していくにつれ、声が小さくなっていくが、難聴じゃない俺はきっちり聞き取れてしまう。
ソッカーウレシカッタノカーソレハヨカッタナー。
「まぁ…その…俺も楽しかったこともないこともないし…喜んでくれたならそれは良かった。」
「う、うん」
なんでそんなにしおらしくなんの?もう恥ずかしすぎて目を合わせられないんですけど。
105:
そんなこんなで食事は進んでいく。
いつも通りの沈黙が流れていくが、今日に限ってはそれが妙にこそばゆい。
もう食べもんの味なんか何もわからない。
そして、二人ともが食べ終わりかけたとき、
「優美子ー、今日ゆきのん平塚先生に呼ばれて早く帰ってきちゃったから久しぶりに一緒に…って何でヒッキーとサキサキが一緒にご飯食べてんの!?」
「あ!結衣ー。あーしたちもまだ食べ始めたばっかだし一緒に」
「ごめん優美子!それはまたあとで。」
「結衣?」
あっさりといなされてちょっとしょぼんとしているあーしさんまじかわいいです。
「ヒッキーどういうこと?一人で食べるのが好きって言ってたから今まで誘うの遠慮してきたのにサキサキと一緒にお昼してるとかどういうことだし!」
「い、いや?なんかいつのまにかこうなってたというかなんというか…」
「あたしが誘ったんだよ。」
「え!?サキサキが?ってそれもそうか。ヒッキーから女の子誘うとかありえないもんね。」
「当たり前だろ。のみよりも小さい心臓を持つ俺にそんなことできるか。」
「でもそういうお誘いOKするのはヒッキーらしくないというか…」
「それはあたしが適当な理由話したらOKしてくれた。
それにこいつ頼まれたら結局断れない性格してるし。」
え?あの理由って適当だったの?ていうか俺の性格かってに決めつけんなよ。
頼まれても断らないのは小町の時だけだぞ。
あれ?でもそれって小町経由されたら誰の頼みでも断れないじゃん。
「あー確かにヒッキーってそんな感じかも。
あたしやゆきのんが甘えても全然許してくれるし。」
「は?お前らが俺に甘えたことあったか?」
「あ!い、今のなし!ていうかヒッキーがあたしたちのことあまやかしてくるんじゃん!」
「甘やかした覚えないんだが。」
「由比ヶ浜。こいつは天然だから。そんなこと言っても無駄だと思うよ。」
「そっかー、そうだよね。そんなんだからヒッキーの周りに女の子いっぱいいるんだよ。」
「天然ってなんだよ。ていうか俺の周りの女の数なんて葉山とかに比べたらたかが知れてるだろ。」
「たしかに隼人君よりは少ないかもしれないけど…でも大岡君とかよりは全然多いでしょ?」
107:
由比ヶ浜がその言葉を発した瞬間、だれかが椅子から転げ落ちた。
どうやらこっちの話にこっそり聞き耳を立てていた大岡のようだ。
由比ヶ浜からの唐突すぎる流れ弾に撃沈してしまったらしい。南無三。
「まぁそうかもしれんが…でもそんなことお前には何の関係もないだろ。」
「むぅー。もうそろそろ関係あるってわからせるべきなのかなー?」
おいおいわからせるとか怖すぎだろやんきーかよ。
「いや、こいつは分かって無い振りしてるだけでしょ。多分分かろうとするのが怖いとかそんな感じで。」
ぐはっ、中々痛いところを付いてくるなこいつ。
そんな感じで話していると、予鈴が鳴る。よしお前ら、さっさと席につけ。
「じゃあ比企谷、また明日」
「また明日!?これって毎日やってるの?」
「ま、まぁ先週からな」
「むー、とりあえずゆきのんには黙っといてあげるけど、次なんか隠し事してたらゆきのんにばらすから!」
「あいよ。」
「あ、それと比企谷、明日からあんたの分の弁当あちゃし、あたしが作るから。
昼飯は持ってこなくていいよ。」
おそらくさらっと言うつもりだったのだろうが、顔を赤らめながら言っているので、
噛むまでもなく動揺しているのはバレバレである。
よし、あともう一回こんな感じの事があったらお持ち帰りしよう。
「え!?サキサキずるい!あたしもお弁当…」
「お前はやめろ。」
「うわーん、ヒッキー酷過ぎ!」
108:
所変わって奉仕部部室。いつも通り時間が進み、いつも通りに雪ノ下が終了の合図を告げる。
真っ先に部室を出ようとする俺に、由比ヶ浜が声をかける。
どうやら今日は校門まで一緒に行くことになるらしい。
職員室から帰ってきた雪ノ下と合流し、校門前まで三人で歩く。
少し前なら考えられなかったようなことだが、今ではもう当たり前のこととなってしまった。
もう少しで校門から出ようかというとき、
「せんぱーい!」
一色が飛びついてきた。
「いきなりなんだよ。てか手ぇ放せ。」
なんか二人がすごい目で見てくるんですけど。一色さんさっさと放してくれませんかね?
「むー分かりましたよ。ほんと先輩ってケチですよね。」
「待て、俺ほど寛容なやつもそうそういないぞ。」
「それはあなたが反抗する度胸がないだけでしょう?」
「いや、反抗したってどうせ勝てないからな。無駄な労力を省いているだけだ。」
「そんなにしたり顔で言うことじゃないでしょうに…」
雪ノ下がこめかみを抑えながら言う。お前ほんとそのポーズ好きだな。
「で、何しに来たんだよ。」
「あ、それはですねー、昨日のお礼を」
その瞬間俺は昼休みに由比ヶ浜に言われたことを思い出す。
そう言えば隠し事はするなって…まずいぞこれは。
「おい一色、昨日の事はこいつらの前では…」
俺が耳打ちすると、
「ひゃあ!!」
と一色がのけぞった。なんだ?前はこんな風にはならなかったのに。
「先輩、くすぐったいですよぅ。」
この台詞だけみればあざとさMAXなのだが、いまのこいつはこれを素で言っているように感じる。
こいつは陽乃さんほど面の皮は厚くないので、素かそうでないかぐらいは分かるようになってしまった。
ていうか、素じゃないんだとしたら…ちょっとどきっとするな。
「おまえなぁ、そういう反応は葉山にしろよ。
多分あいつでもイチコロだぞ」
109:
「へ?それって…」
みるみるうちに頬を紅潮させる一色
「そ、そんなこと急に言わないでください先輩がいくらひねくれた物言いしても私わかりますからそれにそんなこと言って口説いてももう今更すぎますごめんなさい。」
「わかった、分かったからもっとゆっくり喋れ、な?」
俺は一色を落ち着かせる多めに肩に手を置いた。あれ?なんか普通に触っちまったわ。
こりゃどんな言葉を浴びせられるか…
「ふわ!?だ、だからそういうのをやめてくださいってば!歯止めがきかなくなります!」
「す、すまん。」
「…それに、葉山先輩のことはもうどうでもいいですしねー。」
「なんだ、あきらめちまったのか?それとも雪ノ下さんが言ってたことが原因か?
あんなもん気にすることねーぞ。」
「い、いやーそうじゃなくてですねー、理由は先輩には絶対言えないですけど。」
「?。まぁおまえがいいってんならいいけどよ。」
「そういうことです!先輩!ではまた!」
そう言って立ち去る一色。
すると由比ヶ浜が俺の肩をグワングワン揺らしてくる。ちょっと近いって!
たまに胸とか当たってるって。
「ちょっとヒッキーどういうこと!?なんであんなにいろはちゃんといちゃいちゃしてるの?やっぱり年下がいいの?あたしも年下になればいいの?」
「お、落ち着け由比ヶ浜。別に俺に年下趣味は無い。」
「そう言えばさっき一色さんが昨日何かあったような事言ってたわね。
姉さんのこともあなた言っていたし。そう言えば昨日いきなり変な電話をしてきたわね、姉さん。」
「は?」
「もう比企谷君に手を出すなとかなんとか…今までは私と比企谷君の仲を応援…ではなく取り持つように動いてきたのに、ここにきていきなりそんなことを言い出すものだから少し驚いていたのだけれど…。」
「そりゃあれだろ。もう俺に対する興味が失せたんだろ。
昨日たまたま会ってちょっと悪口を言った。そしたらもう玩具とは見ないって脅されてな。」
「いえ、あの姉はそんなことで誰かを嫌いになる人ではないわ。むしろ…。
それにその現場を一色さんもみていたと推測できるし…それにあなたは誰かになんの意味もなく悪口なんて言わない…比企谷君、あなた女とみれば本当に節操がないのね、見直したわ。」
「見直すのかよ…」
110:
「とにかく、今日は洗いざらい私の家で吐いてもらいます。由比ヶ浜さんも来れる?」
「うん!もちろん!ヒッキ―、サキサキのことも詳しく聞くからね!?」
「えー…」
どうやら俺には、平穏な生活など訪れてはくれないらしい。
まぁ、でもいいか。そんな生活にも、それなりに楽しいことはある。
いろんなことを間違えながら、俺はこの学校生活を進んでいくだろうが、正解しかない人生は、多分とてもつまらないものだろうから、俺は堂々とこの言葉を宣言することができる。
―――やはり俺の三学期はまちがっている、と―――
11

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