ブラックジャック「ハンカチ王子?」back

ブラックジャック「ハンカチ王子?」


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1:
某ホテルにて
斉藤「はい。僕は嫌ですが、一時期そう呼ばれていました。
僕をご存知ですか?」
BJ「覚えているさ。つまり君は…斎藤佑樹だな?」
BJは斉藤の顔を指差した。
斉藤「はい。日本ハムファイターズの斉藤です。」
なぜか彼はドヤ顔をしている。
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3:
BJは興味なさげに窓から外を見た。
BJ「そんな王子様が私に何の用かな?」
斉藤「先生…今、僕がどんな状態かご存知ですか?」
BJ「知らんね。プロ野球はあんまり見ないんだ。」
斉藤「あれほど球界で注目を浴びた僕は、今や2軍で飼い殺し
されているんです!」
彼は声を荒げた。
4:
BJ「それは、実力が無いからだろう?」
斉藤「違います!怪我のせいです。」
BJ「怪我ねえ…」
BJはニタニタ笑っている。
斉藤「自己管理が甘かったことは認めます。だから僕は
地道にリハビリを重ねて、怪我はほぼ完治しました。」
6:
斉藤「問題は、怪我が治っても1軍に定着させてもらえない
ことです!僕には自信があるのに!」
斉藤は拳を握りしめた。
BJ「2軍での成績は良いのかね?」
斉藤「あんな酷い所で、真剣に投げられるはずがないでしょう!?
みんな下手でエラーだらけだ!」
7:
BJ「それは君も同じだろう?」
斉藤「なんですって?」
BJ「君は投手として役に立たない、だから2軍に残っている。
違うかね?」
BJは伸びをしながら言い放った。
斉藤「それは違う!僕には才能がある!まだ調子がよくない
だけなんだ!」
BJ「あきれたものだな…」
9:
斉藤「それに、何回か1軍でも投げています。この前は2年ぶりに
勝利投手にもなりました。監督も目を覚ましたはずです。」
しかし彼は浮かない顔をしている。
BJ「結構なことじゃないか。なおさら私に会う理由はない。」
斉藤「その後すぐ…肘のじん帯が断裂したんです。」
10:
BJ「じん帯か…。選手生命が危ういわけだ。」
斉藤「そうです…。だから、先生に手術を頼みに来たんです。」
BJ「肘が治れば、君は活躍できると?」
斉藤「もちろんです。時間がかかってもいい。肘さえ治れば…」
彼は、シーズン25勝を達成する自分を想像した。
斉藤「フハハハハハ!」
12:
BJ「…まあいい。私は医者だ。金さえあれば、手術はする。」
斉藤「僕はプロ野球選手ですよ?お金ならあります。」
BJ「じゃあ、今度私の家に来てくれ。住所は教える。」
斉藤「はい。よろしくお願いします。」
斉藤はホテルをあとにした。
13:
一週間後…
BJ「連絡があったよ、今日、ここに来るそうだ。」
ピノコ「うわーい!はんかち王子見たかったのよのさ!」
BJ「何が王子だい。彼はもう26だぞ。」
ピノコ「べー!」
コンコン
扉をノックする音がした。
14:
ピノコ「ぴやっ!来たのよのさ!ピノコはずかちい!」
ピノコは奥の部屋に飛び込んだ。
BJ「なんで隠れるんだ…まったく。」
ガチャ
斉藤「先生、今日はよろしくお願いします。」
BJ「まあ、入りたまえ。」
彼は斉藤を椅子に座らせた。
15:
斉藤「2000万円はここにあります。」
斉藤は持っていたブリーフケースを開けた。
たくさんの札束が入っている。
BJ「いいだろう。すぐに始めよう。ただし…」
16:
彼は念を押した。
BJ「私は君の肘を治す。完璧に。だが、その後活躍できる
という保証はしない。それは君の責任だ。」
斉藤「分かっています。」
BJ「じゃあ、入りたまえ。」
彼は斉藤を手術室へ招き入れた。
17:
準備は整った。
BJ「では、これから右腕の側副靱帯再建手術、いわゆる
トミー・ジョン手術を開始する。」
BJ「私なりの方法でな。メス!」
ピノコ「あい」
18:
2時間後…
BJ「縫合終わり。これでよし。」
ピノコ「先生、はんかち王子かちゅやくできゆかな?」
BJ「どうだろうな、それは彼次第だ。」
BJ(今のままでは難しいだろうな…)
19:
翌日
BJ「知っているとは思うが、この手術には長期間のリハビリ
を伴う。復帰は手術から12?16ヶ月先だと言われている。」
斉藤「ええ…覚悟はできています。」
斉藤はベッドの上で険しい表情を浮かべている。
BJ「ところがどっこい、だ。私は無駄に長いリハビリが
気の毒でね。少し工夫させてもらった。」
20:
斉藤「はい?」
BJは近くのカバンから、妙なシートを取り出した。
斉藤「何ですか?それ。」
BJ「これは特殊な、ちょうど人間の腱のような繊維性の
素材でできている。」
BJ「これを、君の肘の骨に直接埋め込んだ。」
斉藤「う、埋め込んだ?」
21:
BJ「通常は反対側の腕などから正常な腱を移植する。しかし
これだと腱が定着するのを待たなくてはならない。」
BJ「だがこの素材は、その腱が位置するべき骨に、腱の代わりとして
埋め込むことができる。そして人間のどの腱よりもはるかに切れにくい。
慣れるだけでいい。」
斉藤「じゃあ…リハビリ期間は?」
22:
BJ「2ヶ月だ。」
斉藤「そんな…信じられない!」
BJ「本当だ。試しに動かしてみろ。」
斉藤は右腕を挙げてみた。
すると、肘から先も動かせるではないか!
23:
斉藤「う、動く!痛みも無い!すごい!フハハ!」
BJ「すぐにボールを投げられるようになる。」
BJはカバンに謎の素材をしまった。
斉藤「こんなに簡単に済むのに…なぜその素材は
使われないんですか?」
BJ「これはアメリカで作られたばかりの素材だ。
まだ実用性は研究中。だから発表はされていない。」
BJ「それを、ちょっぴりいただいたワケだ。」
24:
斉藤「そんな物…人間に埋め込んで大丈夫なんですか?」
BJ「君が実験台だな。だが人体に害が無いことは
すでに解明されている。心配するな。」
BJは部屋を出て行った。
斉藤(2ヶ月!シーズンには間に合わないけど、春期キャンプ、
オープン戦なら大丈夫だ!やったぞ!)
25:
斉藤は術後の経過を見るために1週間、BJの家にいたが、
問題は無いので帰ることになった。
斉藤「先生…ありがとうございました。感謝しきれません。」
彼はBJの手をかたく握った。
BJ「リハビリは最後まで続けるんだな。」
斉藤「ご心配なく、2ヶ月なら軽いもんです。」
26:
ピノコ「ねーえー、サインちて。」
斉藤「え、いいよ。」
斉藤は右腕を使ってすらっと色紙を書いた。
BJ「さっきも言ったように、半年後に必ず来てくれ。
日時はまた連絡する。」
斉藤「もちろんです。では先生、ありがとうございました。」
斉藤は嬉しそうにスキップしながら去って行った。
27:
そして半年が経った。 2月である。
BJ「寒さは続くな…ピノコ!ストーブ
つけてくれ!」
BJ(おっと、あいつは出かけてるんだったな。)
コンコン
BJがドアを開けると、斎藤佑樹が立っていた。
30:
BJ「おいでなすったな。だが、まだ午前8時だぞ。」
斉藤「一刻も早く…お会いしたかったんです。」
彼の表情は暗い。
BJ「中も寒いが、入りたまえ。」
斉藤は中に入ってきた。
BJ「それで…どうだ?あれから…」
32:
斉藤は吐き出すように言った。
斉藤「どうもこうもない!全然ダメです!」
斉藤「試合をやっても相変わらず打たれる!チームメイトも、
監督も、僕を邪魔者のように扱う!何も変わらない!」
彼は拳を振り回した。
34:
斉藤「肘が治っても変わらないんです!」
BJ「そうだと思ったよ。」
BJは不適な笑みを浮かべた。
斉藤「な、なんですって?」
BJ「肘が完治しても、君が選手として活躍できるとは
思っていなかったってことだ。」
斉藤「じゃあ、なぜ…!?」
36:
BJ「君と初めて会った後、ちょっと調べたんだ。君の
成績と、言動とかをね。」
BJ「そして、君の不振には大きな精神的原因があると
分かった。しかし私は精神科医ではない。」
BJ「私にできる治療は、この程度だ。効果はてきめん
だと思うがね。」
BJが合図をすると、奥の部屋から誰かが出てきた。
斉藤はその人物を見て、驚いて飛び跳ねた。
斉藤「た…田中!?」
37:
そこに立っていたのはかつてのライバル、田中将大だった。
田中「よお、久しぶり。」
田中は照れ笑いを浮かべている。
斉藤「むこうから…帰って来たのか?」
田中「ああ、おとといだ。ブラックジャック先生から
連絡があってな、急いで来たんだ。」
斉藤「でも…なぜ?」
38:
田中は真剣な顔つきになった。
田中「斉藤、俺がなぜ24勝を達成できたか、ヤンキース
に行けたか…分かるか?」
斉藤「それは…お前にすごい才能があるから…だろ?」
田中は首を振った。
田中「それは違う。俺にたいした才能は無い。」
39:
田中「決勝でお前に負けた時…本当に悔しかった。俺は
ずっと…天才だ、天才だと言われ続けていたんだ。」
田中「決勝までは、メディアも俺をこぞって賞賛した。
だが全部お前が持って行ってしまった。」
斉藤は黙って話を聴いている。
田中「その後楽天に入っても、俺は自分の才能を信じて、
練習をおろそかにした。チームメイトにも偉そうな態度を
とっていた。」
田中「でも…シーズンで初登板した時、俺は打たれまくった。
全然ダメだったんだ…みじめだったよ。」
41:
斉藤「…」
田中「2回すら投げられなかった。ベンチへ戻ったとき、
涙が止まらなかった。あの日、俺は変わったよ。」
田中「自分が…ただ自惚れているだけだと気づいたんだ。
俺の才能なんて、プロでは役に立たなかったんだ。」
田中「それから、俺は勝つことだけを考えるようにした。
勝つために練習する。全ては勝つために。自分に念じた。」
42:
田中「俺も、去年肘を怪我した。期待されていた分、辛かった。
でも落ち着いて、しっかり治すことだけを考えた。勝つために。」
彼は斉藤に駆け寄り、肩に手を置いた。
田中「斉藤。お前は、俺よりもずっと才能がある。お前は甲子園で
一番輝いていた。でも、今のお前は腐っている。」
田中「才能は伸ばすものだ。ただそれに甘んじていただけでは、
何の意味も無いんだ!お前もそれに気付いたんだろ!?なぜ
変えないんだ!その考えを!」
田中の手に力が入る。
田中「俺はもう一度、お前と戦いたい!あの時と同じ、強い
お前と!…俺は向こうで待ってる。だから、お前は…自分を
取り戻してくれ!!」
43:
斉藤はしばらく黙っていたが、やがて椅子に
座り込んだ。
斉藤「先生…僕の成績、調べたんですよね。」
BJ「ああ、しっかり頭に入ってるよ。カルテとしてね。」
斉藤「僕の一年目の成績…教えてくれませんか。」
BJ「6勝6敗だ。」
斉藤「そうかあ…一番良かった年で、その程度かあ…。」
44:
斉藤「すごい記録を作ってやろう、って思ってたのに…
その程度で満足してたのかあ…。ははは…」
BJ「…」
斉藤「田中…僕は…間違えていたのかな…」
田中「斉藤、キャッチボールをするぞ。」
斉藤「え…?」
田中「肘、治ったんだろ。ボールも、グラブもあるぞ。」
田中「投げながら話そう。色々なことを。」
斉藤「そうだな…」
46:
2人は外に出て、キャッチボールを始めた。
それは昼過ぎまで続いた。
部屋に戻った時、斉藤の顔は晴れ晴れとしていた。
BJ「どうだ?目が覚めたか?」
斉藤「ええ…僕はバカでした。もう仲間にも、監督にも
迷惑はかけたくない…僕は練習します!」
BJ「そりゃあ、よかった。」
斉藤「よおおおし!やるぞおお!」
彼は再び部屋を出て、いきなり腕立て伏せを始めた。
47:
BJ「変な奴だ。」
田中「ええ…。そういえば先生、ご存知ですか?」
BJ「何を?」
田中「人間の腱に代わる、新しい医療器具が開発された
んです。それを使えば、じん帯の手術に驚くべき革新を
もたらすらしいですよ。」
BJ「それはもしかして、『ファイバー・テンドン』とか
いう素材のことかい?」
田中「ええ。すでに、MLBの選手のトミー・ジョン手術
にも使われるらしいです。術式の名前自体、変わるかも
しれませんが。」
48:
BJ「そうか…フフフ…それは良かった。」
田中「どうしたんですか?」
BJ「何でもないさ…。ただ、その使用方法が発表されなか
ったら、誰かが困っていたと思ってね…フフフ」
外の寒さは薄れ、春の風が吹き始めた。
49:
2016年 7月21日 デトロイト、コメリカ・パーク
デトロイト・タイガースのベンチ横にて
男「それでは、斉藤選手のインタビューです。」
男「斉藤選手、よろしくお願いします。」
斉藤「お願いします。」
男「まずは今日の完封勝利、おめでとうございます。」
斉藤「ありがとうございます。」
50:
男「この試合を含め、13勝2敗。防御率も1.89と新人賞
まっしぐらですが、この成績をどう見ますか?」
斉藤「そうですね…僕は、チームが勝利するために投げて
いるんです。僕の登板が、よりタイガースを優勝に近づける
ことができれば、僕は満足です。」
男「では、同じく13勝をマークしているヤンキースの田中選手
について、どう思われますか?やはり、ライバル意識はあり
ますか?」
斉藤「ライバル?そんなの、昔の話です。」
斉藤は笑い、ハンカチを出して汗を拭いた。
51:
斉藤「彼は…僕のあこがれです。彼の存在が、僕を救って
くれた。ぼくはこのメジャーという舞台で活躍することで
彼に恩返しをしたいんです。」
その時、ベンチの中からにこやかな大男が現れた
カブレラ「オーウ、サイトーウ、サイトーウ。」
カブレラは斉藤に抱きついた。
斉藤「フハハハ!ノー!ノー!」
他のチームメイトもベンチから現れ、
斉藤は彼らと談笑しながら、ベンチの奥へと消えていった。

54:

ええ話やった
57:
乙、いいSSだった
何よりもブラックオチじゃなくて安心したww
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