絵里「やっぱり、私って面倒な子ね」back

絵里「やっぱり、私って面倒な子ね」


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1:
「行っちゃった、か」
私が希のことを少し話しただけで、真姫は自分の力で歩き出した。
生徒会室のドアを蹴破るような度で走る彼女を、まだ授業があるなんて言って引き止めるのは野暮だ。
それに、もう私の手助けは必要ないだろうし―――――――いや、もともといらなかった。
恋に憧れているだけの私が、こんな風に恋愛を語るなんて馬鹿げている。
「そうよね……」
生徒会室の窓から見える景色はあまりにも綺麗で、今の私には目に余る。
なんて考えてしまったのは真姫の出ていくところを見たくなかっただけだろう。
本当に、私って面倒な性格してる。
《前スレ 真姫「意外。私って尽くすタイプだったのね」》
《→http://ssflash.net/archives/1858310.html》
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406024422
2:
結局は私は言い訳を付けて逃げてばかりなのだ。
あんな風に素直に恋愛をできる自信はない。
私はカーテンを閉め、窓から漏れる陽射しを遮断してしまう。
眩しすぎる。
私のくらい部分が浮き彫りになるような錯覚を覚えてしまうから。
でもこんなことをしていると――――――――
「あ、絵里。探しましたよ?」
ほら、この子はまた現れた。
海未は私の弱っているときにばかり顔を見せるのだ。
3:
「どうしたの? お昼はまだでしょう?」
「フフ、たまにはあなたと食べたい時だってありますよ」
「穂乃果やことりは?」
「もちろん許可をもらいました。2人とも応援してくれるそうです」
私の問いかけに優雅な微笑を浮かべる彼女は、いつだってどこかに余裕を持っている。
私とは大違いだ。
なのに。
「私はあなたのことが好きですから。それはみんな知っているからこそ許してくれるんです」
毎度毎度これだ。
私は海未のこの積極的な姿勢に悩まされているのだ。
何でかって?
私も好きだって言えないからよ。
4:
「……いつもありがとう」
「いいえ。私はあなたにこの気持ちを知ってもらえるだけで十分ですよ」
海未はとても控えめだ。
そのくせ気持ちは前面に押し出してくる。
大和撫子、とはこういう子のことを言うのだろうか。
「ねぇ、何で私なの?」
お弁当の包みを広げ始めた海未に、何度目かわからない問いを投げかける。
すると彼女は決まってこう言うのだ。
「人を好きになるのに、理由が必要ですか?」
慣れない。
ええ、理由なんていらないわ。
私だってあなたを好きになった理由がわからないもの。
――――――――だからこそ、この気持ちは伝えられない。
5:
「絵里も食べましょう?」
「ええ、そうね」
私だって好きな人に甘えたり、甘い言葉を囁かれたりしたいものだ。
でもそれは、きっと海未の思い描く私の姿ではない。
彼女が私に「好き」と言い始めたのは合宿が始まった頃。
心に余裕ができて、前とは違う私になり始めていた頃だ。
だからそこに付け入られてしまったのだろう。
その時、なぜかはわからないが私は海未に心を奪われてしまった。
「絵里のお弁当はカラフルで素敵ですね」
「ありがとう。1つ食べる?」
「ではお言葉に甘えて……私のも1つ差し上げますよ」
そんなごく普通の高校生の会話は、あまり心が落ち着くものではなかった。
知られたくない。
自分のこんな、クールではない裏面を。
6:
「どうしました? 悩み事ですか?」
「ん、いや。なんでもないのよ」
原因はあなたが4割くらいよ。
残り6割は私のこと。聞きたい?
なんて、そんな風に言えるのが海未の求める私なのかしら。
好きな人に格好の良いところだけを見せたい。
それは誰だって思うはずだわ。
ね? そうでしょう?
「そういえば希が休んでいましたね。皆でお見舞いに行きますか?」
「ううん、あの子は大丈夫よ。もう支えてくれる人がいるもの」
なんてそれっぽく言ってから、私は少し考えた。
私もそんな人が欲しいわね。
できれば海未であってほしいわ。
――――――――この罪悪感がなければ、それもすんなり言えてしまうのかしら。
7:
「……で、私たちにそれを相談したい、と」
「なーんや。えりちもお年頃やなぁ」
「2人には言われたくない」
静かな病室で語り合う3人の姿。
でもその立場は真逆だった。
真姫と希が病院に運び込まれたと聞いて、焦って皆で駆け付けたら、それはもう大変な事件が起こっていた。
カーテン越しに唇を重ね合う2人のシルエットがくっきりと浮かび上がっていたんだもの。
残念ながら何も隠せてない。
それを散々からかわれた挙句、今に至る。
私は結局人を頼ることにしたのだ。
こんな弱い部分、海未にはとても見せられない。
8:
「つまりえりちは、海未ちゃんが求めてるのがクールな自分やと思ってるんやね?」
「だから付き合うことになったら自分の裏面が見られて嫌だ、って?」
「そういうことよ」
2人は私の意見を聞き、お互い見つめ合ってから1つの結論を出した。
「「それはずるい」」
「ええっ!?」
声を揃えて聞こえてきた台詞に驚いてしまう。
ずるい?
どういうこと?
また私、海未に見せられないようなことしてたの?
9:
「あんまりそういうの気にしてると、いつまで経っても恋ができないわよ」
真姫は横になった希の髪を優しく撫でながら語り始める。
その動作が自然になったのが、少しだけ笑えてしまった。
希がそれを見て、「笑ってる場合じゃないよー」なんて怒るのだ。
この2人の作り出す空気はとても居心地がよかった。
「絵里は少し勘違いをしてる」
「勘違い?」
真姫は再び、私の落ち着いた様子を見てから話を続けた。
「愛とか恋とか自体がそもそも綺麗じゃないわ」
「え……」
格言めいたその言葉は、私の心を大きく揺らした。
10:
「私も希とこうして一緒にいられるのは、自分の欲を満たそうとしたおかげよ」
真姫はそう言って、希を連れて無理やりキスした経緯を告げる。
聞いていた希は顔を真っ赤にしてベッドにもぐりこんでいた。
「だから、利己的にならないと相手を振り向かせるなんて到底無理ってわけ」
「……なるほどね」
確かにその理論は間違っていない。
恋愛と言うのは一種の駆け引きだ。
自分が相手を手に入れたいから行動を起こす。
それこそ、人が欲を満たすように。
考えてみればそうよね。
でも、やっぱり海未はそんな私が好きなのかどうかわからない。
「相手に合わせてばかりじゃダメってことよ」
真姫はまた1つ、アドバイスをくれた。
本当に立場が逆転してる。
前まで希の相談役をして、さっきまで答えを与えていたのは私だったのに。
なんだか不思議な気分だった。
13:
「で、絵里は海未にどうしたいの?」
「どうしたい、って?」
「海未ちゃんをゲットするために、どういう行動をしたらいいかってこと」
ベッドから這い出した希がフォローを入れる。
顔はまだ赤いままだった。
私がしたいこと――――――――考えたことなかったかも。
2人でどこかへ出かけたり、おしゃべりしたり。
そんな風なことを私もしてみたい。
でもどうしても、失望されてしまうんじゃないかという影が付きまとってくる。
今の、安定して「好き」をもらえる状況を維持したいと思ってしまうのだ。
14:
海未を信じていないわけじゃない。
もちろん大好きな人のことだ。
ちゃんとそれくらいわかってる。
だけど怖い。
海未が求めている自分が自分ではなかったら、どうしていいかわからない。
「絵里、あなた好意を向けられることに慣れてないのね」
そこへ真姫の鋭い指摘の言葉が刺さった。
慣れてない。
それは私を端的に表すにはちょうどいい言葉だったのかもしれない。
「そっか、えりちはラブレターとかもらうことはあっても、それを断ることしかしてないもんなぁ」
希も同調するように声をあげた。
15:
「そっか……」
その答えは案外、私の心にすっぽりと収まった。
今まで私は「クールな生徒会長」として好かれた自分のことしか知らない。
逆に言えば、自分はその状態でしか好かれないと思っているのかもしれない。
それが本当の私じゃないのに。
誰も、わかってくれないんだから。
「もういっそのこと、海未ちゃんにどっちが好きか聞いてしまえばいいんと違う?」
「それができたら苦労しないわよ」
私の代わりに真姫が告げる。
そう。
聞くことすらも関係を壊してしまいかねないと思ってしまう。
臆病よね、私。
本当に面倒な性格してる。
17:
「クールなえりちか、今の素直なえりち、海未ちゃんならどっちも好きって言うと思うけどなぁ」
「うん、そう思ってるんだけど……」
万が一を恐れてしまう。
杞憂に過ぎないのは十分承知の上だ。
「……ねぇ絵里。希に恋人役の話を出したのって、あなた?」
「ええ、そうだけど……」
私の首肯に真姫が半眼を作る。
「それ、海未とやってみたら?」
ハラショー。
斬新な発想だった。
18:
「今度は3日も猶予がとれるはわからないけど、少しずつ甘えてみるレベルを増やしていくの。そうすれば……」
「海未ちゃんがどこまでえりちのことを許してくれるかわかる、ってことやね」
綿密な作戦まで建てられている。
気付くと2人はなんだか積極的になっていた。
誰のせいかしら。
たぶん私のせいもあると思うけど。
でも試してみる自信がない。
臆病な私は、2人のように自分の殻を破ることはできないのだ。
「絵里、ちょっと来て」
「え?」
「いいから。希は待ってて、すぐ戻るから」
「はーい」
真姫は突然私の顔を見て、外についてくるよう促した。
何?
何が始まるの?
21:
「知ってる? ここの公園、誰も通らないのよ」
「……」
私は何と言っていいかわからない。
希にキスした公園って絶対ここじゃない!
叫びたくなった。
「考えてることが正解よ」
真姫は私の反応を見て満足げに頷く。
私は変わってしまった彼女の姿を見ながら、私のせいなのかという罪悪感に苛まれた。
「こっちよ」
真姫はベンチに腰掛けると私を手招きする。
「私の話を聞きなさい」
講師のように呟く真姫は、まるで大人のようだった。
22:
「希に気持ちを伝えてから、私は変わったと思う?」
「うん、変わったと思うわ」
「残念、私は何も変わってないわ。悩みがなくなっただけ」
真姫はそう言いながら私に笑いかけた。
悩みがなくなった。
なるほど、わかりやすいたとえだった。
しかし変わっていないとはどういうことだろう。
「聞きたい?」
顔に書いてあったらしい。
私は無言のまま首を縦に振ると、真姫が話し始めるのを待った。
23:
「私はね、相手が幸せならそれでいいの。私を選んでくれなくてもね」
真姫は驚くべきことを口にした。
自分じゃなくてもいい?
私には考えられない台詞だった。
「それは……寂しくないの?」
「ええ。もちろんよ」
何の屈託もない表情に、思わずこちらが驚いてしまう。
それと裏腹に、どこか納得できている自分もいた。
あのすれ違いが生まれた原因を少し理解できた気がしたからだ。
「万が一、希が浮気して私を捨てたとしても、私は愛してると言えるもの」
「……すごいわね」
「私の中ではこれが普通なの。自分を卑下してるわけじゃなくて、相手が最も幸せな存在でいてほしいから」
自己犠牲を超えた愛の形。
きっぱりと言い切った彼女は、本当に素敵な女性だと思えた。
24:
「なんて言ってる私も、結局は自分の私利私欲のために希を捕まえたわ」
落ち着いた声音で続ける真姫。
「でもその行動がなければ、私も希も幸せにはなれなかったわ」
彼女は立ち上がって私の前に立った。
ここでキスをしたのよ、と言わんばかりにシーソーの前の土を踏む真姫。
その表情はやはり、いい笑顔だ。
「それでもやっぱり、恋愛は綺麗なままでいた方がいいかしら?」
――――――――最後に告げられた言葉は、私の心を大きく揺らした。
25:
★ ★
今日、私は海未の気持ちに応えるためにある行動を起こそうと思う。
それは綺麗なままでいたい私から脱却するため。
そして真姫と希のような関係に憧れたから。
背中を押した2人が、いつの間にか私の手を引いてくれていた。
ここで断ったりなんかしたら、私が私を許せないもの。
私は昨日と同じ時間、生徒会室で窓を眺めながら彼女がここを訪れるのを待った。
「絵里、話とはなんですか?」
来た。
ここが人生最初の大一番。
ずるい自分はもうおしまい。
26:
「ねぇ海未、私と――――――――
好きな人がいる、なんてまどろっこしいことは言わない。
自分の汚い部分を見せないだけでは、本当の恋は始まらない。
海未を信じなきゃ。
――――――――試しに2日、付き合ってくれない?」
試しに2日。
そこは許してほしい。
27:
「では放課後、部室の前で待っていますね」
「う、うん」
海未は今まで見た中で一番美しい笑顔を浮かべて了承してくれた。
実らないとわかっていた恋が実った。
そんな風に喜んでくれた。
そうよね、海未は好きだということはあっても、きちんとした告白として想いを伝えてくれたことはなかったもの。
「……はぁ、どうしよ」
私は思わずため息を吐く。
希が倒れたせいで、今日と明日の練習は中止になってしまった。
そのせいで放課後時間ができてしまった。
しまった。
28:
じゃない。
何弱気になってるのよ。
チャンスじゃない。
距離を縮めるチャンス。
それは、実際は永遠に関係が途切れるリスクを伴っていて――――――――
「うわあああああ……」
臆病な私には、このギャンブルは少々荷が重すぎた。
29:
「えりち、本当に自分のことになると弱いなぁ」
「そうね。希の言う通りだわ」
「……いつから見てたの」
さりげなく背後に現れた2人組は、私の手を引っ張って谷底に突き落とした張本人だった。
これ見よがしに希は真姫にくっついてるし、真姫はどこか幸せそうだ。
むかつく。
「でもまさか本当に付き合ってもらうことにするとはね」
「うん、そういう後先考えてないとこ、えりちらしいなぁ」
慰めに来たと思ったら傷をえぐりに来たらしい。
骨を拾いに来たとも言える。
30:
「で、何か約束したみたいやけど……」
「ああ、それね……そう」
勢いだけで約束をし終えてしまった自分の流されやすさについ苦笑する。
だってあんなに海未が積極的だと思わないもの。
あの嬉しそうな顔を崩すなんてこと、絶対にできない。
「何を約束したの?」
真姫が催促するように訊ねてくる。
「……デート。放課後デートよ」
2人は世界の終わりを見たかのような顔をしていた。
たぶん私もそれと一緒。
甘え方の分からない、距離の測り方がわからない私にとって、こういうイベントは非常にやりづらく――――――――
「……どうしたらいいの」
緊張を隠せないのだ。
全然クールじゃない。
31:
「では行きましょうか」
「は、はい」
落ち着いた雰囲気の海未とは対照的に、私は冷や汗を流しながらのデートとなった。
右手と右足が同時に出た。
あれ、私ってどうやって歩いてたかしら。
「絵里?」
「はい」
「どうしました? 歩くの、少し早かったですか?」
「い、いいえ、そんなことないわ」
海未に気を遣わせているのが痛いほどよくわかる。
どうやら、私は思った以上に海未に嫌われたくないらしい。
32:
「海未はこういう服を着るの?」
「ええ、最近興味を持ち初めまして」
こんな風に自然に会話ができるようになったのは、歩き始めて10分ほど経ったところだった。
慣れたわけではなかった。
これをデートだと思わないことで、その緊張を無理やりなくしたのだ。
――――――――やっぱり、こうして意識しない方がいい関係を保てる。
相手の特別になりたい、なんて高望みしなければ、こうやって幸せな2人でいられることができる。
でもそれは、海未を騙しているようで嫌だった。
33:
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
そんな風に海未の言葉を聞いたのが最後となり、私はその日1日を無駄にしてしまった。
海未への罪悪感を感じて自然と距離をとってしまう。
それを意識して距離を詰めようとする。
でもやっぱり自分を許せない。
「うん、私も楽しかったわ」
何てこんな風に、また海未を上辺だけの言葉で騙すのだ。
自分が嫌になった。
34:
「ひどい顔」
後ろからそんな声が聞こえた。
見てないのに。
見てないからこそ分かるのかもしれない。
だからこそ、真姫はきっぱりと言い切ったのだ。
「あはは……本当にそうよね」
今日、こうして関係を変えて海未と一緒にいることで、自分がどれほどひどいことをしているかがわかった。
相手には本当の気持ちを強要して、自分はそれを別の場所で眺めている。
あまりにも残酷で、あまりにも醜いことのように見えた。
35:
「いつから見てたの?」
「最初から最後まで、全部よ」
曲がり角から姿を見せる真姫と希は、2人とも心配そうな表情を浮かべていた。
「えりちはやっぱり、海未ちゃんに理想を見せてたいん?」
「ええ、そうね。そういうことみたい」
希の問いに答えて理解する。
そう言うと体がよく聞こえる、と。
「私って最低だわ」
「そう思うなら変わりなさい。あなたにはできるはずよ」
真姫はまたも鋭く、私を激励した。
36:
嫌われたくない。
その一心で私は海未の望む「絢瀬絵里」を演じた。
本当の絢瀬絵里はここにいるのに。
「絢瀬絵里」はクールで何でもできる生徒会長だった。
私は今、まるで別人のように変わってしまったのだ。
だからそれを変えてまで、海未に好かれようとするのは無理なんじゃないか――――――――
「えりち、正直に言って」
希はいつになく真剣な表情で私を見つめていた。
瞳に吸い込まれそうになる。
「……何を?」
次に希の口から出た言葉は、情けない私の心にクリーンヒットした。
「海未ちゃんに嫌われても、好きって言える覚悟があるかどうか」
42:

覚悟を問われた翌日。
私は何の答えも出せずにその日を迎えた。
「嫌われても好きと言えるか……ね」
真姫や希はきっと「言える」人間だ。
相手を尊重し、誰よりも先に相手の幸福を考える。
普通じゃ考えられないその強さは、はっきり言って私にはなかった。
つまり私は「言えない」人間。
そこが恋愛を知らない私と彼女らの決定的な差だろう。
「なんでもできたはずなんだけどなぁ……」
クールなはずの生徒会長は、本当にただのハリボテに過ぎなかったらしい。
ちょっと悲しいかも。
43:
「行ってきます」
玄関のドアを閉め、きちんと鍵をかける。
私もハートに鍵をかけられたらいいのに。
――――――――それなら絶対に、海未の望む自分でいられる。
なんて考えていたのもつかの間、見知った髪の少女が姿を現した。
「おはようございます、絵里。奇遇ですね」
早朝、家の出発を出迎えてくれたのは海未だった。
奇遇ですね、なんて言う彼女の表情はとても晴れやかだった。
私はその表情を見て、心がずきずきと痛むのを感じた。
またここでハリボテを立てて、その後ろで彼女と話すのだ。
ひどく痛む。
心が。
44:
「そうね、奇遇だわ。一緒に行きましょうか」
「はい」
私はこうしてクールに返す。
これがきっとハリボテの私の最高の返事。
本当は待っていてくれたのだろう。
気を遣わせないために、わざわざメールも寄越さずに。
嬉しかった。
でもそれを喜んで、手をとって海未に感謝することは望まれた答えだろうか。
私は海未へ感謝を示す方法が、演じ続けることしか残されていないと気付いた。
あなたの理想を崩したくない。
やっと手に入れた居場所は、私が居ていい場所ではないのだ、と。
好きだから嫌われたくない。
ええ、あなたが大好きよ。
私の愛は歪み始めていた。
理想のハリボテに自分を投影し、海未からの好意を受け取る。
本質的な愛というものを、私はわからなくなり始めていたのかもしれない。
45:
「ではまた、お昼休みに会いましょう」
「ええ、わかったわ」
学校について、約束してから海未は去っていく。
何度も名残惜しそうに、寂しそうに私の方を振り向く彼女は愛らしかった。
それを直接伝えるのは変だろう。
求める姿からは逸脱しているように思えてしまう。
「……行こ」
はっきりと自覚した。
ハリボテ越しには、物理的にも精神的にも自分の手で触れることはできない。
騙し続けた罰なのか、私はそれを自然と受け入れてしまっていた。
好きよ。
海未、好きなの。
こんなに近い距離なのに、想いを伝えられないのはとても苦しかった。
理想の私って何なんだろう。
全部私のエゴなのかしら。
46:
授業中も、私の頭に浮かぶのは海未のことばっかり。
そして空想でも彼女の隣にいるのはハリボテの私。
やっぱりこれが一番適切な状態なのだろうか。
「……はぁ」
誰にも聞こえないような声で私は溜め息を吐く。
好きだというただ漠然とした想いが日に日に強くなっていく。
何をしたいか、何をしてもらいたいか。
そんなことはいつしか後回しに考えるようになっていた。
どうすれば海未に嫌われないか。
そればかりを考える私は、どこからどう見ても臆病な人間だった。
だって嫌われたら終わりじゃない。
理屈ばかりこねて、私はハリボテの裏という最高のスポットから抜け出せなくなっていたのだろう。
47:
「絵里」
「えりち、海未ちゃん来てるよ」
「あ、うん」
希の言葉で私はようやく海未の存在に気付いた。
今まで何考えてたんだっけ。
時計を見るとお昼ちょうど。
私は一体何をしていたのだろうか。
「お昼ね。行きましょうか」
「はい」
海未の嬉しそうな顔を見るたび、私もうれしくなってくる。
でもそれは裏の私。
表の私はいたって冷静に、海未の前を歩くのだ。
48:
「今日も何かおかず、交換する?」
「ええ、そうしましょう」
たまにはこちらから提案してみるのも悪くないだろう。
私はそう言って海未に話しかけてみた。
案外うまくいったので、これからはもう少し会話してみようかしら。
その余裕はどこから来るのか。
私にはそれがわからなかった。
でも、それはわからないふりをしているだけ。
ハリボテの裏で様子を伺うのがうまくなっているだけ。
でもわかってしまっては困る。
自然と自分で抑圧してしまったのだろう。
楽な方へ、楽な方へと。
希のくれたあの言葉から逃げるように。
52:
「では、私は次の時間小テストがありますので、ここでお先に失礼します」
「ええ、わかったわ」
海未のことだから、ちゃんと予習復習は欠かしていないだろう。
きっと穂乃果やことりに教えるために早く教室に戻るのだ。
そういうところが素敵だと思う。
「ではまた放課後に」
「ここで待ってればいいわよね?」
「はい、お願いします」
傍から見たら普通の恋人同士に見えるこの会話は、実は互いに気持ちの一方通行でしかない。
海未が愛をくれるのは私ではなくハリボテ。
海未に愛をあげるのもハリボテではなく私。
やっぱり、自己をハリボテに投影することはとても簡単なのだ。
「はぁ……」
溜め息1つ、愛が零れた。
また伝えられなかった「好き」が、心の奥底に埋もれていく。
53:
「えりち」
「あ、希。どうしたの?」
昼休みが終わり、授業もすべて終わり、残すは放課後のみとなった。
先生が帰りに小さな報告をして終わり。
その、先生の来る間に希は話しかけてきたのだ。
時間がない時にはあまり話しかけようとはしない希が来た。
それは考えずとも、どういう内容かは手に取るようにわかる。
「昨日の言葉のこと、でしょ?」
「うん。わかってくれてるならいいけど……」
希の見立ては正しい。
私は今、その言葉の居心地の悪さに目をそらしていたのだから。
でもそれは希に、真姫に対しても失礼なことだ。
「……頑張ってみるわ」
「うん。応援してる」
自分の口から出た言葉は嘘ではなかった。
達成できるかどうかは、本当にわからないけど。
54:
「あ、海未。ごめん、待たせちゃったかしら」
「いいえ。今来たばかりです」
そんな常套句を交わす私たち。
海未の口から笑い声が漏れる。
ああ、幸せだわ。
でも、希たちの言葉を無視したままでは進めない。
今を自分自身で変えるのだ。
海未に嫌われないように、嫌われても好きと言えるように。
「……どうしたらいいんだろう」
その矛盾はいつまでたっても覆されそうにないけれど。
55:
「今日はどこにも寄らず、まっすぐ帰りましょうか」
「え? 今日はいいの?」
「はい。私はあなたと一緒にいられて満足です」
その言葉を聞いて思った。
海未はきっと「言える」人。
私は違う。
私にとって好きな人に嫌われてしまうのは、世界の終わりのように悲しくて嫌なこと。
もしかして――――――――海未が好いてくれているのは私自身であって、甘えてみてもいいのではないか。
甘い考えが脳裏をよぎる。
それはおそらく、海未と同じ「言える」人になりたかったからかもしれない。
騙す自分の後ろめたさから解放されたいがため、勝手に思い突いた誘惑の思いなのだろう。
「……ねぇ海未」
だから私は――――――――
「手を繋いでもいい?」
漏らしてはいけない本心を出してしまった。
56:
私は口を手で塞いだ。
でももう遅い。
私は後ろめたさを隠して、傲慢にも彼女に要求をした。
「――――――――え?」
海未が示したのは戸惑いの色だった。
理想とのズレのせいか。
それとも――――――――単なる拒絶の現れなのか。
「ご、ごめん。私が言いたかったのはそういうことじゃなくて……」
そういうことなのに。
自分の思ったことを捻じ曲げて考えてしまう。
私はそうやって、ほころびが出ないように自分の体裁を取り繕った。
でも。
「はい、構いませんよ」
海未の肯定の言葉に、罪悪感が堰を切ったように溢れ出して止まらなくなってしまった。
57:
私は海未に嫌われても、好きとは言えない。
だから臆病に、隠れて逃げて欺いて、こうしてのうのうと彼女の隣に立っている。
それだけでも私は自分が情けなくて、悔しくてたまらなかったのに――――――――
「手、繋ぎましょうか」
彼女の優しさを享受できるほど、私はいい子じゃないのだと理解したから。
自分の身に余る幸福を、私だけが受け取っていいはずはなくて。
「ごめんなさい……ごめんなさい海未」
あなたの期待に応えられないのを隠して、こうやってあなたの優しさに縋る自分が――――――――
「ごめんなさい……!」
嫌で嫌でたまらなくなって。
私は海未をその場に残し、走って逃げた。
自分が嫌い。
自分だけ好いてもらおうとする自分が憎い。
私なんか最初から、海未とは釣り合わなかったのだ。
58:
「ま、待ってください!」
捕まった。
そうよね、海未は運動神経がいいんだもの。
だけどどうしても、合わせる顔がないように思えて。
「どうしたんですか急に、私が何かしたでしょうか」
どうしてそんなに優しいの。
私はこんなにも自分勝手なのに。
やだ。
やだやだやだやだやだやだ。
心の中のハリボテが倒れる。
もう、こんな自分は見せられない。
「離して!」
私はその繋がれていた手を振り払った。
関係を断ち切るように。
さよなら。
私はあなたに、もうハリボテを見せることはできない。
無我夢中で走る私の頭の中は、後悔で埋め尽くされていた。
59:
「……ほんとだ。全然、人が来ない」
結局、真姫たちがキスをしたというこの公園まで戻ってきた。
夕陽ももう顔を引っ込めようとしている。
役目を月に引き継ぐみたいに舞台を下りる夕陽は、見ていて飽きなかった。
「もう戻れないわよね……はは」
乾いた笑いとともに諦めの言葉が紡がれた。
海未はあれ以上追いかけてこなかったもの。
そうよ。
私はこれで1人ぼっち。
「……でも、その方が楽ね」
自分を取り繕って、もがけばもがくたびに泥にはまっていた私は、ついにもがくのをやめて諦めたのだ。
後は泥に飲まれるだけ。
誰にも触れられないようなどこか静かな場所へ埋まってしまえば楽なのだ。
「ひどい顔」
聞こえてきたのは昨日と同じ、淡泊で静かな声だった。
60:
「真姫……」
「絵里、今自分がどうなってるかわかってないでしょ」
「え? ひどい顔なんでしょ?」
真姫は憐みの視線を投げかけた。
「重症よ。泣いてるのもわかってないなんて」
「……うそ」
頬に手をあてると濡れた。
気付かなかった。
本当に、普段通り穏やかでいると思っていたのに。
「ねぇ、何で1人で全部背負い込んだのよ」
真姫は私の言葉を待たずに続けた。
「最初に相談したみたいに、どうして私たちに何も言ってくれなかったの?」
まただ。
また、海未と同じような優しさが、私の心に突き刺さった。
61:
そんな風に優しくされる資格なんてない。
私は海未を傷つけてしまったどうしようもない人間だもの。
「関係ないでしょ」
そそくさと立ち上がり、その場から逃げる準備を整えた。
また私は傷つける。
それが嫌だ。
「戻る気?」
真姫は私が立ちあがったのを見て、一言だけ呟いた。
戻る。
何に?
私の考えを察したのか、真姫は今度こそ最後だという風に告げた。
「誰にも頼れずに孤独でいる振りをし続けた、過去の生徒会長みたいに」
62:
過去の生徒会長。
それは私のことに違いない。
誰にも頼らないで、誰もに牙をむいていたあの頃。
「それもいいかもしれないわ」
そうよ。
それに戻れば、きっと私は海未に何の気兼ねもなく接することができるだろう。
取り繕う必要はないし、何より自然に演じることができるからだ。
もっとも、私がそういう関係を持つことは2度とないだろうけれど――――――――
「海未、泣いてたわよ」
心がナイフで刺されたようにすうっと熱を引いて、ひどく痛んだ。
好きな人に嫌われた。
これはもう確定だろう。
「……そう」
私はなんとなく、この破綻の未来がわかっていたのかもしれない。
驚きはなかった。
こらえようのない痛みだけが、私の胸を張り裂けそうになるまで蝕んだけれど。
63:
「それだけ? 何か思うことはないの?」
「いいのよ、もう。おしまいだから」
それは紛れもない、私の数少ない誰かに伝えた本音だった。
嫌われてしまったことがこうもつらいことだとは思わなかったけれど、私はどう会いに行けばいいのかがわからない。
自分の罪悪感から解放されたいという思いも、少なからずあったのだろう。
なんて最低なんだろう、私は。
血がにじむくらいに唇をかみしめた。
私は結局、海未を傷つけただけだった。
理想なんて抱かせるからこんな風になってしまった。
もっと上手に理想の私を見せられたら、こんなことにはならなかった。
なんて思って、また後悔を積み重ねるのだ。
「絵里、あなた勘違いしてる」
すると突然、真姫は私にそう言った。
何を言うつもりだろうか。
ようやく合点がいった、という風なジェスチャーを見せてから、彼女は小さく息を吸い込んでから告げた。
「海未がいつ、クールな生徒会長としてのあなたが好きだって言った?」
66:
「……そんなの決まってるわよ。海未が私に明確な好意を寄せてくれたのは合宿のだったもの」
私はそう言って返した。
合宿の時、海未が私に好意を告げた。
好きだった、と。
目を離せなくなった、と。
今ではもう過去のことだけど、合宿の時に言ってもらったことだ。
それなら普通、私を過去から見てのことについてに決まっている。
「じゃあ聞くわ」
そう口にした真姫はいつになく強気で。
私に何か、大切なことを伝えようとしているように見えた。
「過去のあなたしか見ていない海未が、今のあなたにも好意を寄せる理由はどこにあるの?」
嘘でしょ?
それは私がそういう自分を演じていたからであって。
自分の考えが一瞬揺らぐ。
一番望んでいた答えを、私は自然と選択肢から消していたのかもしれない。
――――――――なんて、希望的観測に頼ろうとするなんて本当にバカみたいじゃない。
そうやってそれ以外の逃げ道を潰してきたのは、いつだって臆病な自分自身だったのに気が付いた。
74:
「海未は今の私が好きだって言うの……?」
有り得ない。
そんな自分はあまりにも美しくない。
だからこそ、そんな風に美しくない自分が好かれるなんて思いもしなかった。
しかし真姫はごく普通に、当たり前のことを言うように呟いたのだ。
「知ってる? 恋って盲目なのよ。それも――――――――」
息を吐くように当たり前だと言わんばかりに、真姫はそっと告げた。
「ちょっとやそっとじゃ治らないくらいに」
経験談はとても心に沁みた。
自分の未熟さに痛いほど。
その言葉の美しさに痺れるほど。
75:
だって私はこんな自分、とても嫌いだもの。
嫌われるのを怖がって嘘を吐く。
最低じゃない。
それなのにどうして、どうして私なんか――――――――
「絵里」
真姫は最後に、私の背中を押す一言を付け足した。
「あなたが好きになった園田海未って女の子は、そんなに器の小さい子なの?」
そんなわけがない。
私は拒絶するように頭を横に振る。
彼女はとても素敵な女性だ。
76:
嫌われるのが怖い。
恐れていては関係が進展しないだけではなかった。
互いに傷つけ合い、関係が後退していくのだ。
「ほら、いい顔になった」
真姫は最後をそう締めくくると、さっと指で空を切った。
「海未は希が連れて行ったわ。神社、わかるでしょ?」
「ええ、わかるわ」
私は謝らなければならないのだ。
理想を見せられなかった海未へ向けて。
本音を言い出せなかった自分自身の弱さに向けて。
77:
気付かないことは罪じゃない。
気付いていて知らないふりをするのは罪だ。
だから私は罪を償わねばならない。
私は拳をぎゅっとにぎり、自分自身を奮い立たせるとこう締めくくった。
「ありがとう。また会いましょう」
相手の気持ちがわかったうえでの勝ち戦。
それではとてもずるいから、私は今から嫌われに行くのだ。
相手に自分の弱さを見せて、嫌われても今なら好きだと「言える」気がした。
78:
「はぁ……はぁ……」
息が上がった。
それは当たり前だった。
何度も上がり下がりを繰り返していても、ここに来るまで走りっぱなしだとさすがに苦しい。
でもその苦しさは悪いものではなかった。
「恋する人は、想いを伝えに行くとき絶対に走らないといけない決まりでもあるん?」
「希……」
希は珍しく制服姿で立っていた。
初めからここに私が来るのがわかっていたかのように。
ああ、希はいつもそうやって周りのことを理解していた。
自分が一番理解してほしいくせに。
そこに真姫が惹かれたんだろうけどね。
79:
「ええ、きっと熱い思いが体を動かすのよ」
恋の炎と言うけれど、あれは実在するのかもしれない。
でも、だって、そんな言葉をやめて、自分に素直になろうと誓ったから。
「フフ、えりち輝いてるよ」
「ありがとう、でもそんなこと言うと真姫が嫉妬しちゃうわよ?」
私がからかったことに対し、希は何の躊躇いもなく返した。
「心配しなくてもラブラブです」
真姫に嫌われたって私に泣きついたのは誰だったかしら。
まあそれは今だけ忘れていてあげるわ。
80:
「海未は?」
「奥の木のとこ。すごく落ち込んでたよ?」
「あー……」
返す言葉もございません。
ひどいことしたんだから当然よね。
「……行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
私は何も話さなかった。
希は何も聞かなかった。
しかし1つだけ――――――――
「帰って来る時、こっちを通らなくてもいいからね」
「うるさい」
余計な気遣いを残した。
81:
神社の裏手、少しだけ木の茂ったところ。
彼女はそこに1人、佇んでいた。
「……絵里」
「ええ、私よ」
痛々しいほどくっきりと涙の痕を残して。
私のせいだ。
そう思う度に胸が締め付けられるように痛んだ。
でも海未は、私なんかよりもっと苦しいはずだ。
「海未、伝えたいことがあるの」
「私も、伝えたいことがあります」
言葉がほぼ同時に重なった。
82:
海未は言いたいことがたくさんあるだろう。
特に私に対しての文句、とか。
その類の言葉はなるべく聞きたくなかったが、私は受け止める義務がある。
それに興味がある。
私のどこが嫌いなのかは。
恐がりのくせに生意気よね。
「海未から言って」
「はい」
彼女は目尻を手で乱雑に擦ると、真っ赤に腫らした目を私に向けた。
「私はあなたに嫌われて――――――――合わせる顔がありません」
「え……?」
思わず言葉を失った。
そのまま流れるように、海未は言葉を紡いだ。
「さようなら」
彼女はそんな言葉を残して、どこかへ駆け出そうとした。
83:
私はそれがわかっていたのかもしれない。
「待って」
「っ!」
海未が走り出す前に、私は止めた。
だってその行動は――――――――私がしたことと同じだったから。
「離してください……私はあなたを傷つけました」
海未の口から出る言葉の数々に、私は戸惑った。
だってそれは、私が思っていたことだから。
「私はあなたの前にいない方がいいんです、だから――――――――」
私は上手な愛の伝え方がわからない。
海未を止める方法も思いつかない。
だけど、好きだと言葉を伝えることと、海未を止めることを同時にできる方法があるのは知っていた。
「好きよ、海未」
「え……んっ」
私はその口を、自分の口で塞いでやった。
やっぱりキスって偉大だわ。
84:
「おはよう海未」
「おはようございます」
今日はお試し恋人期間が終わって、最初の1日目になる。
「手、繋ぐ?」
「はい、喜んで」
私からの誘いかけを、海未は嫌な顔一つせず承諾してくれた。
手と手を合わせるだけでこんなにも幸せを感じられるなんて、想像以上だった。
「ねぇ、昨日のもう1回言ってほしいなぁ」
「えぇ!? そ、それは……」
「はーやーく」
私が催促すると、海未は頬を赤らめながらぽつりと呟いた。
「……あなたの恋人になることができて幸せです」
昨日の一件で、どうやら私たちの立場は逆転したらしい。
積極的に私は好意を伝えられるようになり、海未は羞恥心に苛まれることとなった。
そんなところが可愛いんだけどね。
85:
「私も幸せよ」
「え? ……ひゃあっ!?」
そう言って頬に軽くキスをすると、海未はオーバーにリアクションした。
やっぱり、私と一緒にいるとあのキスを思い出してしまうらしい。
唇を離した後の海未の惚けるような表情は今でもしっかり頭に焼き付いている。
「もう……やるならちゃんとしてください」
「海未はキスが好きなのね」
「ち、違います! そういった意味では……!」
途端に爆発したように真っ赤になって否定し始める彼女は、見ていて飽きなかった。
結局のところ、彼女と私は同じことを考えていたのだ。
相手に嫌われたくない。
恐い、と。
実質私が好意をきちんと受け止めなかったことは、海未にとっても好都合だった。
否定されない、嫌われる心配のないまま伝え続けることのできる想いは、愛を伝えているという行為だけで満たされる。
海未はそこから抜け出せなくなっていた。
本当に、私と同じような思考回路を持っていたのだ。
88:
滑稽な話だった。
自分が嫌われたくないと思うのは当たり前で、誰しも持っている感情だということを失念していたのだ。
「希や真姫に毒されてたのね」
あの2人はある種、いい意味で一般人と一線を画している。
異常で素敵なお似合いの2人。
「海未、私たちは平凡なカップルでいましょうね」
「平凡?」
海未はそう言って小首をかしげる。
かわいい。
私の中の理性が外れる。
今は人が少ない。
だって生徒会の仕事をするために、朝練がない日も私は早めに家を出るから。
それに海未が合わせてくれるおかげで、こうして一緒に登校できるのだ。
その状況を利用する手はないだろう
登校中、私はまた海未にキスをした。
89:
「……もうキスは禁止です」
そう言われたのはお昼休み、いつものように生徒会室で昼食をとっている最中だった。
「えー!? 海未あんなにキス好きなのに」
「な、何を言うんですか!?」
海未が見る見るうちに赤くなる。
今お箸で持ち上げているトマトのように赤い顔。
またキスをしたくなった。
でも怒られるからやめておく。
90:
「真姫ちゃん、ちょっと暑くない?」
「そうね。あの2人が熱いもの」
なんて後ろから声をかけてくるのは真姫と希。
2人は私たちを熱いなんて言うけれど、真姫に膝枕されている希を見ると少し笑えてくる。
「暑いとはなんですか」
「そうよ、これからもっと熱くなるんだから」
「え、絵里!?」
海未はまたこうして、私を注意する。
嫌われたくなくて何も言えなかった私とは違うのだ。
91:
「あら、じゃあ私たちも負けられないわね」
「うん。ウチらも頑張ろ」
「私たちも負けないわよ、ね? 海未」
「えぇ!? どういう意味ですか!」
それを聞くのが海未らしい。
安心する。
あなたの隣に、私は居てもいいのよね?
「海未、好きよ」
私の言葉にまたも海未は赤くなる――――――――かと思ったが、そんなことはなかった。
しっかりと私を見てこう告げたのだ。
「私もあなたのことが好きですよ」
「……ありがと」
決めるところはきちんと決める。
そんな海未が、私はとても好きだということを思い知らされた。
92:
「あら、キスはしないの?」
「えっ」
突然の真姫の発言に、海未は戸惑いの色を見せる。
まさか。
「……見てた?」
あの告白を。
あのキスを。
すると私の声に怯えるように、希は委縮した。
「だ、だって出て来るの遅いから……心配になって」
「結局私が神社に来るまで出てこなかったらしいから、私が付き添って見に行ったのよ」
真姫は少し照れくさそうに頬を掻いて言う。
「……まさかあの後ずーっとキスし続けてるとは思わないわよ」
うん。
私もびっくりした。
海未を引きとめたのが夕方で、気付けば夜になってたんだもの。
93:
「あああああ……もう禁止と言ったら禁止です!」
「えー」
「絵里は生徒会長でしょう!」
見本となれ、ということだろうか。
海未が捲し立てるように告げるので、私も少し反撃してみようかしら。
「あなたの前では生徒会長じゃなくて――――――――あなたの恋人なんだけど」
海未はその後、両手で顔を覆ってうずくまってしまった。
これ、昨日も見たわね。
海未は本当に恥ずかしい時、こうして顔を隠すのだ。
94:
「海未ちゃんどうしたん?」
「何のポーズ?」
「私は負けました、ってポーズよ」
訊ねてくる希と真姫にそう返し、私はうずくまる海未の耳元でこう囁いた。
「また今日の放課後、ね」
放課後の生徒会室は、意外と人目につかないのよ?
どうしてこんなに大胆になったのかしら。
答えは自ずと閃いた。
嫌われることへの覚悟ができた私は、前よりもっと強くなっているから。
私はこれからも海未に好きと言い続けられる。
   おわり
95:

素晴らしかったからもっと書いてくれ
97:

次も期待してます
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