古泉「涼宮ハルヒは厨二病です」back

古泉「涼宮ハルヒは厨二病です」


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1:
学区内の県立高校へと無難に進学した俺はそこである美少女と出会った。
入学式の後の初顔合わせの自己紹介で、
「東中学出身、涼宮ハルヒ。
ただの人間には興味ありません。
この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
と突拍子もない挨拶をした少女だ。
そりゃ、中学生くらいの時まではそんなのが居たら面白そうだとか思ったものだ。
しかし高校生にもなって、まして自己紹介でそれを言ってしまうか?
それがいかにも邪気眼に目覚めたと自称しそうな男子生徒が言えばまだしも、
飛び切りの美少女が言うのだからその衝撃たるや箪笥の角に小指をぶつけたのを遥かにしのぐ。
2:
数日後、自己紹介では完全に痛い子だった涼宮ハルヒに声をかけた。
これで十人並の容姿だったのなら、わざわざ地雷を踏みに行くことはなかったが、なにせ涼宮ハルヒはえらい美人だ。
美少女高校生の真ん前の席という地の利を生かしてみたくなってとしても誰が俺を責められようか。
完全に空振りだった自己紹介の話題を振ってみた。黒歴史に触れられたように恥ずかしがれば通常人だ。
ところがハルヒは、
「あんた、宇宙人なの?」
と大まじめな顔で訊きやがる。
俺が否定すると、
「だったら話かけないで。時間の無駄だから」
と冷たい視線を寄越してくる始末だ。
3:
後に知ったのだが、涼宮ハルヒはコミュニケーション能力に問題があった。
一部の女生徒がハルヒを気遣って調和の輪の中に入れようとテレビの話題等で話しかけても
「うるさい」
とイライラしながら追い返してしまう。
ハルヒと同じ中学出身者の谷口によれば、
「校庭にデカデカとけったいな絵文字を書きやがったことがある。しかも夜中に学校に忍び込んで」
他にも様座な奇行をしており有名らしい。
それでもモテるらしい。そりゃあの容姿でモテなかったら嘘だ。しかも成績優秀、スポーツ万能らしい。
そこまでいくと高嶺の花で告白するチャレンジャーは少なそうだが、
奇行癖があるお蔭チャレンジしやすいのだろうか?
かなりの人数と付き合ったらしい。告白してきた相手とは一応は全部付き合ったという話だ。
そして短期間で別れるらしい。あのコミュニケーション能力を見てれば当然の結果だが。
ただ、それでも美少女である事には違いない。俺も一度チャレンジしてみるかな?
4:
そんな下心もあって、俺は度々ハルヒに話しかけた。
酷い時は無視されたが、曜日ごとに髪型を変えていることを指摘したら話に乗ってきた。
なんでも宇宙人に注目して欲しかったらしい。
額面通りに受け取るとかなりの手遅れだ。
だが俺はそうは思わなかった。
宇宙人でもない俺がそこに注目して指摘するだけで乗ってくるのだから、
単なに構って欲しいだけなのかもしれない。
……そう思っていたら、翌日長かった麗しい黒髪をばっさり切って登場した。
まことに遺憾ながら前言を撤回しないといけなかった。
腰にまで届こうかと伸ばしていた髪が肩の辺りで切りそろえられていて、
それはそれでめちゃくちゃ似合っていたんだが、
やっぱりよく解らない女生徒だ。
5:
それ以来、朝のホームルーム前にハルヒと話すのが日課となった。
全部の部活に入ったけど平凡でつまらない。
宇宙人と付き合いたい。
そんなことばかり言い、それを実際に行動に移すハルヒを変わり者と思うか、幼いだけと思うかは人次第だろう。
そんなある日の授業中ハルヒは叫んだ。
「ないんだったら自分で作ればいいのよ!」
「何を」
「部活よ!」
教師の質問に悪びれる事もなく答えるハルヒは幼い変わり者なのかもしれない。
6:
何故かハルヒの部活作りに付き合わされることになった。
まぁ、美少女とお近づきになれるチャンスと思い手伝う。
クラス委員でもありこれまた美人----谷口によればAAランクプラス----の朝倉涼子も
「涼宮さん、いつまでもクラスで孤立したままじゃ困るもんね。
涼宮さんの友達は大変だろうけど頑張って、手伝えることがあったら協力するから」
と言ってくれた。評判が良いことは大事だ。頑張ろう。
7:
翌日、終業のチャイムが鳴るや否やルヒは拉致同然に俺を教室から引きずり出してたったかと早足で歩き出した。
鞄を教室に置き去りにしないようにするのが精一杯だった。
「どこ行くんだよ」
俺の当然の疑問に、
「部室っ」
前方をのたりのたり歩いている生徒たちを蹴散らす勢いで歩みを進めつつハルヒは短く答え、後は沈黙を守り通した。
薄暗い廊下の半ばでハルヒは止まり俺も立ち止まった。
目の前にある一枚のドア。
文芸部。
そのように書かれたプレートが斜めに傾いで貼り付けられている。
「ここ」
ノックもせずにハルヒはドアを引き、遠慮も何もなく入っていった。無論俺も。
意外に広い。長テーブルとパイプ椅子、それにスチール製の本棚くらいしかないせいだろうか。
天井や壁には年代を思わせるヒビ割れが二、三本走っており建物自体の老朽化を如実に物語っている。
8:
そしてこの部屋のオマケのように、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいた。
「これからこの部室が我々の部室よ!」
両手を広げてハルヒが重々しく宣言した。
その顔は神々しいまでの笑みに彩られていて、
俺はそういう表情を教室でもずっと見せていればいいのにとか思ったが言わずにおいた。
「ちょっと待て。どこなんだよ、ここは」
「特別教室を持たないクラブや同好会の部室が集まっている部室棟。通称旧館。この部室は文芸部」
「じゃあ、文芸部なんだろ」
「でも今年の春に三年生が卒業して部員ゼロ、新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのよ。
で、このコが一年生の新入部員」
「てことは休部になってないじゃないか」
「似たようなもんよ。一人しかいないんだから」
呆れた野郎だ。こいつは部室を乗っ取る気だぞ。
9:
俺は折りたたみテーブルに本を開いて下を向いている文芸部一年生らしきその女の子に視線を振った。
眼鏡をかけた髪の短い少女である。
これだけハルヒが大騒ぎしているのに顔を上げようともしない。
微動だにせず、俺たちの存在を完璧に無視してのけている。
これはこれで変な女だった。
俺は声をひそめてハルヒに囁いた。
「あの娘はどうするんだよ」
「別にいいって言ってたわよ」
「本当かそりゃ?」
「昼休みに会ったときに。部室貸してっていったら、どうぞって。
本さえ読めればいいらしいわ。変わっていると言えば変わっているわね」
お前が言うな。
10:
俺はあらためてその変わり者の文芸部員を観察した。
白い肌に感情の欠落した顔、機械のように動く指。ボブカットをさらに短くしたような髪がそれなりに整った顔を覆っている。出来れば眼鏡を外
したところも見たみたい感じだ。どこか人形めいた雰囲気が存在感を希薄なものにしていた。身も蓋もない言い方をすれば、早い話がいわゆる神
秘的な無表情系ってやつ。
しげしげと眺める俺の視線をどう思ったのか、その少女は予備動作なしで面を上げて眼鏡のツルを指で押さえた。
レンズの置くから闇色の瞳が俺を見つめる。その目にも、唇にも、まったく何の表情も浮かんでいない。
無表情レベル、マックスだ。ハルヒのものとは違って、最初から何の感情も持たないようなデフォルトの無表情である。
「助けて」
と彼女は言った。聞いた三秒後には忘れてしまいそうな平坦で耳に残らない声だった。
彼女は瞬きを二回するあいだぶんくらい俺を注視すると、諦めたようにまた読書をしてるかのように下を向いた。
12:
ハルヒが声を弾ませる。
「これから放課後、この部室に集合ね。絶対来なさいよ。来なかったら死刑だから」
桜満開の笑みで続ける。
「部員は最低後二人はいるわね」
同好会となる為には五人必要と知っていたようだ。
俺がそう思っているとハルヒは満足げに出ていった。
13:
ハルヒが居なくなった文芸部の部室で俺は文芸部員に話しかけた。
「名前はなんていうんだ」
その文芸部員は下を向いたまま答える。
「長門有希」
「長門さんとやら」俺は言った。
「あいつはこの部室を何だか解らん部の部室にしようとしてんだぞ、それでもいいのか?」
「だめ」
長門有希は視線を上げずに答える。
14:
「さっきのハルヒの話は?」
「嘘。その様な了解は与えていない」
「おいおい」
俺が呆れていると長門有希が本を濡らしていた。一滴、また一滴と涙が本に落ちていたのだ。
「悔しい」
「そんな泣くほどじゃ……」
「文芸部……パパとママも在籍してたのに乗っ取られた」
「それだけ思い入れがあるならハッキリ言った方がいいぞ」
長門有希はぽろぽろと涙を流しながら答えた。
「怖い」
15:
「そんなに大事なら守った方がいいぞ。なんなら俺が言おうか?」
「だめ。報復がありそう」
「報復って……そんなのあるかよ」
「彼女の奇行は有名。高校でもその行動に変化がない」
「まぁ、そのようだな」
「あの様子なら遠からず、良くて停学。退学もあり得る」
確かに義務教育ではないしな。
「そうなったら恨みを感じたものに報復する可能性がある」
ハルヒがハルヒなだけにないとは言い切れないのが悲しい。
16:
「また、彼女は可哀想な人。追い出したり、学校に報告したりして追い詰めたくない」
「そんなことでめげるような殊勝な奴とは思えんがな」
長門有希はいつの間にか泣き止んでいた。
「……逃げ場も大事。人助けに部室を貸すのは良いこと」
「いや、しかし、多分ものすごく迷惑をかけると思うぞ」
「それでも貸した方がパパやママや歴代の部員も喜ぶと思う」
「パパやママなら聞けばいいだろ」
長門有希は涙を浮かべながら答えた。
「パパとママはもういない」
17:
「わ、悪い。知らなかったんだ。でもそんなに思い入れのある部なら……」
「大丈夫。さっき言ったようにその方が喜ぶ。そんなパパとママだった」
「悔しいって言うのがお前の本音じゃないのか?」
「悔しい。でも試練だと感じてる。それにこの方が人として正しい」
ハルヒは人として間違えてる気がするがな。
「話を聞いてくれて感謝する。あなたはいい人」
長門は漸く顔をあげて俺と目を合わせた。
「いや。長門の方が優しくて、俺が心配になるほどのお人よしだと思うぞ」
長門有希は視線を本に移しペラペラと本をめくり始めた。
今度は本を読んでいるようだ。或は照れ隠しだったのか。
18:
次の日、一緒に帰ろうぜと言う谷口と国木田に断りを入れて俺は、しょうがない、部室へと足を運んだ。
ハルヒは「先にいってて!」と叫ぶや陸上部が是非我が部にと勧誘したのも解るスタートダッシュで教室を飛び出した。
足首にブースターでも付いているのかと思いたくなる勢いだ。おそらく新しい部員を確保しに行ったのだろう。
部室にはすでに長門有希がいた。
俺が入ってきたらビクッっとした。
昨日は動じてないのかと思ったが、極端に気が小さいのかもしれない。
「……本当にいいのか?」
長門は本から目を離さずに首をコクリと縦に振った。
「……」
沈黙。
突然、蹴飛ばされたようにドアが開いた。
長門がビクッと大きく体を動かす。
19:
「やあごめんごめん! 遅れちゃった! 捕まえるのに手間取っちゃって!」
片手を頭の上でかざしてハルヒが登場した。
後ろに回されたもう一方の手が別の人間の腕をつかんでいた。
ハルヒが連れてきたのはすごい美少女だった。
「あの?なんですか?」
美少女が口を開いた。
「なんでわたしを連れてきたんですか?」
「紹介するわ。朝比奈みくるちゃんよ」
それだけ言ったきり、ハルヒは黙り込んだ。もう紹介終わりかよ。
20:
「えっと……わたしへの用はなんでしょう?」
朝比奈みくると紹介された美少女はもう一度ハルヒに質問した。
「みくるちゃんは今日からこのSOS団の団員よ!マスコット役!いいでしょ!」
いつの間にか部の名前が決まっていた。
朝比奈さんは一瞬呆然とした後に口を開いた。
「あの?…部活の勧誘ですか?わたし、書道部に入ってるんでごめんなさい」
朝比奈さんはそれだけ言うと軽く会釈をして文芸部の部室から出ていった。
一瞬の間が空いて、ハルヒが元気な声を出した。
「団員は後一人ね!」
……まさかあれで朝比奈さんは部員扱いなのか?
28:
「コンピュータも欲しいところね」
SOS団の設立を宣言して以来、長テーブルとパイプ椅子それに本棚くらいしかなかった文芸部の部室にはやたらと物が増え始めた。
どこから持ってきたのか、移動式のハンガーラックが部室の片隅に設置され、給湯ポットと急須、人数分の湯飲みも常備、今どきMDも付いていないCDラジカセに一層しかない冷蔵庫、カセットコンロ、土鍋、ヤカン、数々の食器は何だろうか、ここで暮らすつもりなんだろうか。
今、ハルヒはどっかの教室からガメてきた勉強机の上であぐらをかいて腕を組んでいた。
その机にはあろうことか「団長」とマジックで書かれた三角錐まで立っている。
長門は、『朝日顔に 釣瓶とられて 貰い水』とでも歌いたい気分だろう。
朝顔に配慮しているつもりの長門には悪いが、ハルヒは朝顔などでは無い。特定外来生物だ。
長門、知ってるか?特定外来生物は取扱いによっては罰則があるんだぜ?
その特定外来生物が口を開く。
「この情報化時代にパソコンの一つもないなんて、許し難いことだわ」
誰を許さないつもりなのか。
ハルヒは机から飛び降りると、俺に向かって実にいやぁな感じのする笑いを投げかけた。
「と言うわけで、調達に行くわよ」
俺を引き連れてハルヒが向かった先は、二軒隣のコンピューター研究部だった。
無理だろ。
29:
ハルヒはコンピュータ研究部のドアをノックもなしに開いた。
「こんちわー! パソコン一式、いただきに来ましたー!」
一人が立ち上がって答えた。
「何の用?」
「用ならさっき言ったでしょ。一台でいいから、パソコンちょうだい」
「何言ってんだ、こいつ」という表情で首を振った。
「ダメダメ。ここのパソコンはね、予算だけじゃ足りないから部員の私費を積み立ててようやく買ったものばかりなんだ。
くれと言われてあげるほどウチは機材に恵まれていない」
「いいじゃないの一個くらい。こんなにあるんだし」
「あのねえ……ところでキミたち誰?」
「SOS団団長、涼宮ハルヒ。とその部下」
言うにことかいて部下はないだろう。
「SOS団の名において命じます。四の五の言わずに一台よこせ」
「キミたちが何者かは解らないけど、ダメなもんはダメ。自分たちで買えばいいだろ」
と、言うわけで当然パソコンは手に入らなかった。
もしかして部室にある数々の物もこうやって手に入れたのかもしれない。
長門の言う通り、退学も近いかも知れない。
部室に帰ったハルヒは癇癪を起していた。
30:
後日、部室にはパソコンがあった『Apple IIc』と刻印されてるパソコンを前にハルヒが自慢げな顔をしていた。
これでwebサイトを立ち上げろと要求された。
三十年前のパソコンじゃ無理です。商用インターネットがなかった時代のパソコンです。
ハルヒの退学を心配したが、廃品回収扱いをされているようで一安心した。
34:
ある日のこと転校生がやってきたらしい。
朝からハルヒが「謎の転校生よ!謎の!」と大はしゃぎしていた。
その日の放課後、例によって長門と沈黙の時間の過ごしていると遅れてハルヒがやってきた。
「へい、お待ち!」
一人の男子生徒の袖をガッチリとキープした涼宮ハルヒが的はずれな挨拶をよこした。
「一年九組に本日やってきた即戦力の転校生、その名も、」
言葉を句切り、顔で後は自分で言えとうながす。虜囚となっていたその少年は、薄く微笑んで俺たち三人のほうを向き
「古泉一樹です。……よろしく」
さわやかなスポーツ少年のような雰囲気を持つ細身の男だった。
如才のない笑み、柔和な目。適当なポーズをとらせてスーパーのチラシにモデルとして採用したらコアなファンが付きそうなルックス。
これで性格がいいならけっこうな人気者になれるだろう。
35:
「ところでここは何をする部活なんですか?」
古泉が当然の疑問をぶつける。
「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ!」
得意満面の笑みを浮かべてハルヒが答えた。
古泉一樹が、
「さすがは涼宮さんですね」
意味不明な感想を言って、
「いいでしょう。入ります。今後とも、どうぞよろしく」
白い歯を見せて微笑んだ。
「そういうわけで五人揃ったことだし、これで学校としても文句はないわよねえ」
ハルヒが何か言っている。朝比奈さんには断られたし、長門も入部してないぞ。
36:
翌日の放課後。
掃除当番だったため、俺が遅れて部室へ行くと、
ハルヒがフロッピーディスドライブにDVDを入れようと奮闘していた。
「おかしいわね!何で入らないのよ!」
フロッピーディスクドライブにガチャガチャDVDをぶつけた後に、DVDと睨めっこ。
「あら、キョン!丁度良い所にきたわね!」
部室に入りかけた俺を見て声をかけるハルヒだった。
ちなみに何時頃からかハルヒは俺のことをキョンと呼ぶようになっていた。イメージらしい。
こいつの交友関係が乏しい所為で一切広がってないあだ名なのは不幸中の幸いだ。
37:
「……規格があってないんじゃないか?」
俺はそれだけ言うと席に着いた。
「そう……」
ハルヒ納得してない面持ちでDVDの裏面をしげしげと眺める。
DVDのラベルには『涼宮ハヒルの憂鬱』と書いてあり、女子高生風の女がポーズをとっている。
「なんだそれは?映画か何かか?」
「知らない。拾ったの」
拾ったDVDをパソコンに入れようとしていたらしい。
42:
部室には長門がきていた。
相変わらず本を開いてみている。
読んでいるのかいないのかは解らない。
俺が長門を観察していると、
「キョン!入ったわよ!」
ハルヒが嬉しそうな声をあげた。
「なに!?」
俺が驚くと本を開いていた長門がこちらを向いて説明してくれた。
「そのパソコンのフロッピーディスクドライブは5.25インチ。厚ささえクリアーできれば入る計算」
「よく知ってるな」
驚く俺に長門が一言だけ言った。
「それパパの」
それだけ言うと泣きそうな顔になって再び本に顔を向けた。
43:
なんでそんな大事なものを部室においたんだ。俺の疑問にハルヒが解答を与えてくれた。
「ほら!前にあたしがパソコンが手に入らなくて悔しがったでしょ?そしたら有希が用意してくれたの」
長門に目をやると「……これでいい。これでいいはず」と呟きながら本を涙で濡らしてた。
部室の微妙な空気は突如開いたドアによって払われた。
「すみません。遅れました」
古泉だ。救世主に見えた。
古泉の着席を確認するとハルヒは一方的に宣言した。
「明日!土曜日に市内を探索して不思議探しをするから、朝九時に北口駅前に集合ね!」
この日の活動はこれでお終い。
44:
休みの日に朝九時集合だと、ふざけんな。
俺はそう思いながら、市内の中心に位置する私鉄のターミナルジャンクションである北口駅に向かった。
時刻は九時五分前。すでにハルヒと古泉が雁首が着ていた。要するに全員だ。
「遅い。罰金」
顔をあわせるやハルヒは言った。
「九時には間に合ってるだろ」
「たとえ遅れなくとも一番最後に来た奴は罰金なの。それがわたしたちのルール」
「朝比奈さんと長門が着てないだろ?」
来るはずがない二人の名前を出す。
ハルヒはプイと顔を背けて、
「二人はこないわよ!」
振り返り、裾がやたらに長いロゴTシャツとニー丈デニムスカートのハルヒはどこか浮かない表情で、
「だから全員にお茶おごること」
うやむやのうちに俺はうなずかされてしまい、
とりあえず今日の行動予定を決めましょうというハルヒの言葉に従って喫茶店へと向かった。
古泉はピンクのワイシャツにブラウンのジャケットスーツ、
えんじ色のネクタイまでしめているというカッチリしたスタイルでハルヒの横に並んでいる。
うっとうしいことだが様になっている。俺より背が高いし。
ロータリーに面した喫茶店の奥まった席に腰を下ろす男二人に女が一人。
昔よくあったバンドの編成の様である。
45:
ハルヒの提案はこうだった。
これから二手に分かれて市内をうろつく。
不思議な現状を発見したら携帯電話で連絡。
のちに落ち合って反省点と今後に向けての展望を語り合う。
以上。
「じゃあ私は古泉君と一緒に行くから、キョンは一人ね」
どうしてそうなる?
「キョン、解ってる?これデートじゃないのよ。真面目にやるのよ。いい?」
お前がそれをいうか?
要するに宇宙人とか未来人とか超能力者本人や、
彼らが地上に残した痕跡などを探さなければいいけないらしい。
……一人で。
古泉の顔は愉快げだった。
そりゃそうだろう。
「ではそろそろ出発しましょ」
勘定書を俺に握らせ、ハルヒは大またで店を出て行った。
で殺すわよ、と言い残してハルヒは古泉と立ち去った。
駅を中心にしてハルヒチームは東、俺が西を探索することになっていた。何が探索だ。
50:
俺は近くを流れている川の河川敷を意味もなく北上しながら歩いていた。
一ヶ月前ならまだ花も残っていただろう桜並木は、今はただしょぼくれた川縁の道でしかない。
散策にうってつけの川沿いなので、家族連れやカップルとところどころですれ違う。
そんななか意味もなく一人で歩く俺。なにしてんだろうね、本当。
護岸工事された浅い川のせせらぎを眺めながら時間を潰す。
水面を流れる木の葉の数でも数える。
飽きたので、桜の下のベンチに俺は一人座る。
休日に呼び出されて、喫茶店で奢らされただけでボーっとベンチに座り時間を過ごす。
そんな青春の一ページ。
流石に不毛だったので、街の中をブラついて過ごした。
ゲーセンなどで時間を浪費しているとハルヒから電話がかかってきた。
『十二時にいったん集合。さっきの駅前のとこ』
切れた。腕時計を見ると十一時五十分。間に合うわけがねえ。
51:
十分ほど遅れて行くと開口一番、ハルヒは不機嫌な面で
「何かあった?」
「何も」
「昼ご飯にして、それから午後の部ね。勿論遅刻したキョンの奢りで」
どこから突っ込むべきなんだろうか。
ハンバーガーショップで昼飯を食っている最中にハルヒはまたグループ分けをしようと言い出した。
「じゃあ私は古泉君と一緒に行くから、キョンは一人ね」
デジャブ?
なぜか不機嫌な顔で、ハルヒはシェイクをチュゴゴゴと飲み干した。
何がしたい?
「四時に駅前で落ち合いましょう。今度こそ何かを見つけてきてよね」
今度は北と南に別れることになり、俺は南担当。
52:
何故か散々に奢らされて財布が寂しかったので、俺は金のかからない図書館で時間を潰した。
空いたソファがあったから座って休んだ。
休日を潰して奢らされて、一人無駄に時間を潰す。
完全に時間と金の無駄使いだな。俺はそう思いながらいつの間にか寝ていた。
尻ポケットが震動した。
「おわ?」
飛び起きる。周囲の客が迷惑そうに俺を見て俺はここが図書館であることを思い出した。
ヨダレをぬぐいつつ俺は館外に小走りで出た。
バイブレータ機能をいかんなく発揮していた携帯電話を耳に当てる。
『何やってんのこのバカ!』
金切り声が鼓膜をつんざいた。おかげで頭がはっきりする。
『今何時だと思ってんのよ!』
「すまん、今起きたとこなんだ」
腕時計を見ると四時半を回っている。四時集合だったけ。
『とっとと戻りなさいよ! 三十秒以内にね!』
無茶言うな。
駅前に戻ってきた俺を、ハルヒはタバスコを一気飲みしたような顔で、
「遅刻。罰金」
と出迎えた。
結局のところ、家で寝ている方が百倍以上マシという、時間と金を無駄にしただけの日だった。
53:
週明け、珍しく始業の鐘ギリギリにハルヒが入ってきた。
声をかけるのを迷うほど不機嫌だったので、放置しておいた。
さわらぬ神にたたりなしだ。
昼休み。ハルヒの奇行を目撃した。
鞄からティッシュ箱を取り出し、しょうゆをつけて食べだしたのだ。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
俺の視線に気が付いたのか、ハルヒはジロリと睨んで、
「……なによ?」
と言ってきた。
「いや、別に」
と言って前を向き考える。
金がないのか?その割にはあれ鼻セレブとかいう高級ティッシュだよな?
ともあれ、なんとなく教室に居づらいので弁当を持って教室を後にした。
56:
混んでいる食堂に弁当を持ち込んで場所を占拠するわけにもいかない。
ハルヒと違い常識のある俺は、仕方なしに文芸部の部室で食べることにした。
文芸部の部室のある旧館で思わぬ人から声をかけられた。
「あら!?確かあなたは……」
ハルヒが強引に連れてきた朝比奈さんだ。
「なに?みくるの知り合いにょろか?」
朝比奈さんの横には、これまた美人な八重歯が目立つ女生徒がいた。
「え……別に知り合いって訳じゃないけど………」
朝比奈さんが説明に困ってる朝比奈さんに対して、ハルヒのことを謝っておくことにした。
「この前はハルヒがご迷惑すみませんでした」
これを聞いて、
「もしかして、みくるは服を剥かれてバニーガールの恰好でもさせられたのっ?」
もう一方の女生徒がからかい、そんなことあるわけないじゃのと応じてじゃれ付いている。
57:
朝比奈さんはじゃれ合いを中止して俺の方に向き直して、
「書道部もこの旧館にあるし別いいですよ」
と、全く気にしていない感じで笑顔で答え、
「ところであの子はどうしてるの?」
と、聞いてきた。
「今は教室でティッシュに醤油をつけて食べてます。
俺は居た堪れなくなって部室で弁当を食べようと思いここまできたんです。」
朝比奈さんの笑顔が凍り付いた。凍り付いた笑顔のまま、
「そう。私たちも気分を変えて部室でお弁当を食べようと思ってたの。
その子のことも気になるし、良かったら一緒に食べませんか?」
と言ってきた。
美少女二人と一緒に食事ができるチャンスなので、勿論俺は二つ返事でOKした。
もう一人の美少女は、
「やれやれ、みくるはめがっさお節介にょろね。もっとも、それがみくるのいいところでもあるっさ」
などと呆れていた。
62:
ハルヒがどこからか調達してきたお蔭でお茶くらいは出せる文芸部で食べることとなった。
文芸部のドアを開けるといつもと何ら変わりのない景色であった。
そう、長門が居たのだ。
長門は誰もこないと思っていたのだろう。
俺がドアを開けるとビクッっとした後に、恐る恐る顔を上げた。
「お、長門も居たのか。ここで朝比奈さん達と昼飯を食べていいか?」
俺の問いかけに長門は、
「どうぞ」
と即答して本に視線を戻した。
63:
朝比奈さん達と昼食を食べた。
一緒にいた喋り方が特徴的な生徒は鶴屋さんというらしい。
二人とも二年生だった。
俺はこれまでのハルヒのことや土曜日のこと、ティッシュのことなどを二人に話した。
話終わる頃には粗方食べ終わっていた。
弁当を片付けた鶴屋さんはお茶をすすりながら、
「ティッシュの件は少年をからかっただけさっ」
と結論づけた。
朝比奈さんも続く、
「私もそう思います。構って欲しいタイプみたいだから、何か言って欲しかったんじゃないかと……」
「でも醤油もつけてましたよ?」
との俺の問いに、
「でも、食べたところは見てないでしょ?」
と、反論ができないことを言われてしまった。
64:
朝比奈さんは歯切れが悪く言う。
「……土曜日の話は……そんな事をする子には見えなかったんだけど…」
本を読んでる風にしながら、話を聞いていた長門が口を挟んだ。
「涼宮ハルヒを観察した結果の分析は幼い人。悪意に基づく行動はしない」
長門は続ける。
「ティッシュの件は二人に同意。あなたに構って欲しかっただけ」
「あなたはそれをスルーした。早急に教室帰りフォローする必要がある」
「土曜日の話は謎。あなたの話を聞く限り悪意による行動。それも不本意な」
「あなたがするべきは涼宮ハルヒの本意を調べること」
鶴屋さんは、
「あたしはその子のことを知らないけど、きっと悪い子じゃないさっ」
と無責任なことを言っていた。
65:
朝比奈さんも弁当を片付け終わり、
「私もそちらの子と同じ感想です。」
湯呑を持って立ち上がる。洗いに行く気だろう。
「あ、こちらで洗っておきますので置いといていいですよ」
「え……でも………」
と、遠慮がちな朝比奈さん。ハルヒに爪の垢でも飲ませたい。
「話を聞いてもらったのは俺ですし、今日はありがとうございました」
「そう?じゃあ、申し訳ないけどお願いしますね。それでは、先に教室に帰ります。」
そう言って空になった弁当を片手に部室を出ていった。
鶴屋さんも続いてドアに向かった。去り際に、
「お茶ありがと。ごちそうになったよっ。少年っ、お姉さんたちが使った湯呑で悪戯しちゃダメだよっ」
と、ニヒヒと笑って出ていった。
そんな手もあったかと湯呑を暫し眺めてから洗おうと立ち上がった。
66:
そんな俺に長門が声をかけてきた。
「湯呑は私が洗っておく。あなたがするべきは涼宮ハルヒへのフォロー」
「……そうか、悪いな。お言葉に甘えるよ」
長門の助言に従って、弁当を片手にドアに手をかけた。
「土曜日の九時ちょうど。北口駅に私が着いた時には三人は居なかった」
驚いて長門の方を見ると、珍しく本から目線を離し俺をマジマジと見ていた。
長門も着ていたらしい。九時五分前に喫茶店に向かったから会わなかったのだろう。
「着てたのか!……悪い。ハルヒが長門はこないって言ってたもんだからな」
俺も来ないと思っていたが、責任を全部ハルヒに押し付けた。
長門は、
「そう」
とだけ言って再び本に視線を戻した。
70:
俺は一年五組の教室へ向かい、開けっ放しの戸口から三歩歩いたところでまた立ち止まった。
窓際、一番後ろの席に、ハルヒが既に座っていた。
若干目が腫れている気がする。
それから、例のハルヒのお弁当でもある高級ティッシュを一枚つまみ鼻をかむ。
大変よくできました。
席に着き、後ろを向いて声をかける。
「ハルヒ」
「なに?」
俺は言ってやった。
「ティッシュが似合ってるぞ」
ハルヒは面白くなさそうに口をへの字に曲げて窓を見た。
フォローはこんなもんで十分だろう。
「………そういえば土曜日の件だが……」
「言いたくない」
その後は何を言っても無視された。
71:
ハルヒに聞いても解らないので古泉に聞いてみることにした。
放課後、文芸部の部室に行くと一足先に古泉と長門が着ていた。
「古泉、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
部室に入って早々に俺は古泉に話しかけた。
どう切り出そうか迷っていると古泉から切り出した。
「涼宮さんのことですか?」
何かを察していたようだ。話が早い。
「ああ、涼宮のことでちょっとな」
古泉は、本に顔を埋めている長門を一瞥する。
「場所を変えましょう。人には聞かれたくありませんから」
72:
古泉が俺を伴って訪れた先は食堂の屋外テーブルだった。
途中で自販機のコーヒーを買って手渡し、丸いテーブルに男二人でつくのもアレだけども、この際仕方がない。
「どこまでご存じですか?」
「どこまでというか、土曜日からハルヒが変ってくらいだな」
「それなら話は簡単です。僕の所為です。
土曜日はあなたにとばっちりが行くとは思っていませんでした。申し訳ありません。」
これは何かの冗談なのか?
「どういうことか聞こうか」
言い方がきつかったから軽く冗談で場の空気をほぐすことにした。
「実はハルヒに迫りまして、などと言うんじゃないだろうな」
「先に言わないで欲しいな」
古泉は紙コップをゆるゆると振って、
「ちょっと違う気もするんですが、そうですね、迫ったというのが一番近いかな」
「お、おい……それって…」
「ええ、お察しの通り体目当てですよ」
74:
俺が固まっているのを知ってか知らずか古泉は続ける。
「涼宮ハルヒは厨二病です」
古泉はいまさらなことを言う。
「それも邪気眼とかと言うような、自分を特別な人間であると思いたいタイプです」
解り切ったことを再び言っている。
「そういったタイプは現状に不満があり、また構って欲しい人です
僕の経験で申し訳ありませんが、やさしく構ってあげると結構簡単に転びます」
さわやかな笑顔で語る古泉を見ていると実体験な感じがする。
「ただ、あのタイプはストーカー的な執着・嫉妬深さを発揮することがあるので付き合う気になれません」
もしかして、こいつが転校してきた理由もそのあたりなのかもしれない。
「ただ、涼宮さんを据え膳で食わないのは非常に勿体無いです」
ハルヒを食い物の様に言うな。
「そこで----結果としてはあなたに多大なご迷惑をおかけすることとなったのですが、土曜日に試してみたのですよ」
ついに本題だ。すでそれ以上のことを聞かされた気もするが……
75:
「あなたが待ち合わせ場所に来る前に涼宮さんに言ってみたんですよ」
「何をだ?」
「今日は一日涼宮さんと二人で行動したいですね。とか、
行動できないと僕はつまらなくてSOS団を辞めてしまうかもしれません。とか、
お財布が寂しいのでお昼を払わされたら今後は不思議探索パトロールに参加できませんね、と」
俺が休日を棒に振ったのはこいつの所為だったようだ。
「まさか、そのしわ寄せが全部あなたに行くとは思ってませんでした」
古泉は笑顔のままで語る。
「涼宮さんは僕が思っていた以上にSOS団を大事にしているようですね。全部したがってくれました。
探索中も映画を見たいと言えば映画代は彼女が払ってくれましたし、髪の毛を弄っても睨むだけでしたよ」
俺がゲーセンで時間を潰したり、図書館で居眠りしている間にこいつは有意義な時間を過ごしてたようだ。
「あ!実は僕ってポニーテール萌えなんです。彼女にリクエストしておきました。
返事はありませんでしたが、彼女ならきっとしてくれると思います。
なにせ大事なSOS団の命運がかかってますから。楽しみだなぁ、涼宮さんのポニーテール」
俺は既に見ているぞなどと優越感に浸っている場合ではなさそうだ。
77:
「話がそれてしまいましたね。流石にキスとかはさせてくれる雰囲気ではなかったのですが、
本当はあなたと探索に行きたかったでしょうによく付き合ってくれました。」
ずっと笑顔だった古泉が突如真剣な顔になった。
「彼女のお気に入りはあなたです」
真剣になって言うことではないだろう?
「今日だってあなたの前でティッシュを食べようとしてたでしょう?」
「ああ、良く知ってるな」
「土曜日に相談されたんです。『今日のことでキョンに嫌われないかしら?』と」
「まさか、そこで目の前でティッシュを食べればいいとでも言ったのか?」
「ええ、そのまさかです。嫌われていない証拠に、
目の前でティッシュを食べる振りをすればライフラインであるあなたが突っ込んで止めてくれる。
そう言ったのですよ。実行に移すとは僕も思ってませんでしたがね」
おおよそ全部こいつの所為だったらしい。
「ところがあなたは無視して立ち去った。彼女はその後、僕の教室にきて泣きじゃくってたんですよ」
目が腫れてたのは気のせいじゃなかったようだ。
78:
「あなたも涼宮さんの事を憎からず思っているはずです。少なくとも女性としては魅力を感じていると思います。
断言できます。あの容姿を前に感じていないならホモの類でしょう。」
熟女好きで三十五歳以上じゃないと反応しない奴かもしれないじゃないか。俺は断じて違うが。
「そこであなたに提案です。一緒に涼宮さんを弄びませんか?」
「なに?」
「僕と一緒にあなたも退団をちらつかせれば、体を許すと思いますよ。涼宮さんはそう言う人ですから」
こいつはポルノの世界からやってきたのか?
79:
「断る」
俺は古泉にそう断言した。
「そうですか?悪い話ではないと思いますが……」
古泉は意外そうな顔をした後、何時もの笑顔に戻っていた。
「ああ!もしかして、あなたは付き合いたいのですか。
それなら僕も協力しますよ。
たまに涼宮さんを貸してもらえば僕としては満足です。
あるいは、気が向いた時に二人と御同衾させてもらう形でもいいですよ
こう見えて僕は男性の扱いも結構上手いなんです」
俺の感情が表情に出ていたのか、古泉はやれやれと言った仕草をした。
制服の内ポケットをまさぐりながら古泉は俺に再び聞いてきた。
「もう一度聞きますよ。涼宮さんと付き合うことが出来るとしても、
活動に協力するのは無理と言うことですね」
「何度も言わせるな。無理に決まってるだろう。吐き気がする」
古泉は、そうですか残念ですと言いながら席を立った。。
旧館の方に歩いて行ったが、途中で立ち止まり振り返りって、
「そうそう、今のあなたの表情はかなり怖いですよ。
その顔で部室に行くと涼宮さんや長門さんが怖がります。
このまま帰るか、頭を冷やしてから部室にくることをお勧めします」
それだけ言うと、いつもの笑顔で去っていった。
80:
古泉の言う通りにするのも癪だが、今の俺の顔はかなりひどい。
自分でも解る。道行く生徒が俺をチラリと見て足早に立ち去ることからも知ることができる。
頭を冷やしながら、暫く考える。
古泉をこのまま放置するわけにはいかないが、さりとて何か上策がある訳でもない。
殴る?意味が無い。
教師に相談するか?今の段階でなんて言うんだ?証拠もないぞ?だが何かあったからでは遅い。
待て、そもそもそういう対処をハルヒは望んでいるのか?
十回程度の堂々巡りをしたが答えは出ない。
手伝うと言っていた朝倉にでも相談するか、そう思ってコーヒーに口をつける。
コーヒーは冷め切っていた。
その冷たさに冷静さを取り戻す。
あいつは俺に部室にくるな、または遅れてこいと言っていた。
碌でも無い事を企んでいるに違いない。
俺は急いで文芸部の部室に向かった。
81:
息を切らしながら部室の前にまでくると、古泉の陽気な声が聞こえたきた。
「ハイハイ♪ハイハイ♪涼宮さんのちょっといいトコみてみたい♪」
そう言いながら手拍子を打っているようだ。
なんやかんや言って仲良くやっているのか?そう思いながらドアを開けた俺は固まった。
古泉はいつもの席に座っている。ハルヒは団長席ではなく、机越しに古泉の向いに立っていた。
だが問題はそこじゃない。笑顔の古泉の前でハルヒが制服の上を脱ぎ、乳バンドを晒していた。
さらに、手はスカートにかかっており、今にも脱ごうとしていた。
82:
「す、涼宮!なにをしてるんだよ」
俺は裏返った声で驚愕を表していた。
ハルヒの代わりに古泉が笑顔で答える。
「おや?あなたも涼宮さんが僕の為にやってくれている余興の見学ですか?」
ハルヒは泣きながら俺の顔を見て、
「……なんで…あんたが部室にくるのよ」
と言った。
古泉は笑顔のままで、
「朝比奈さんや長門さんが団員でないこと、あなたも活動に吐き気がしていること、
僕もつまらないので団を抜けたいと言ったら余興で僕を楽しませてくれる流れになったんですよ」
「お、おい!俺はそんなことは言ってないぞ!」
俺の反論を聞くと古泉はICレコーダーを再生させた。
『もう一度聞きますよ。涼宮さんと付き合うことが出来るとしても、
活動に協力するのは無理と言うことですね』
『何度も言わせるな。無理に決まってるだろう。吐き気がする』
さっきの会話だ。
俺が説明しようとしたら、ハルヒが泣きじゃくりながら叫んだ。
「なんで皆解ってくれないのよ!あたしはただ、不思議探し名目でみんなと遊びたいだけなのに!」
ハルヒは鼻をすすりながら、一息おいて続ける。
「そりゃ、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊べれば最高だけど……」
ハルヒは悔しそうに下唇をかんでいる。
83:
古泉は深い溜息を一つついて、
「別に涼宮さんの遊びに付き合わないとは言ってませんよ。
僕はそれには全く興味がないので、付き合う代わりに涼宮さんに僕を楽しませて欲しい。
ただそう言っただけですよ」
俺が殴ろうかと思ったその瞬間後ろから「きゃあ!」と声がした。
そういえば、唖然としてドアを開けたままだった。
ドアの前で立ちふさがっていた俺を押しのけ、その声を発した人物はハルヒに駆け寄る。
朝比奈さんだった。
朝比奈さんはハルヒが脱いだ制服を拾い上げハルヒの胸を隠した。
「何をしてるんですか!」
朝比奈さんが怒りの声をあげる。
古泉がいつもの笑顔を崩さずに答える。
「彼女が僕を楽しませるためにストリップをしてくれてるんですよ」
平然と答える古泉に朝比奈さんが近づく。
古泉の前にきたかと思ったら、朝比奈さんは古泉の頬を思いっきり平手打ちした。
「そんな言い訳が通るはずないでしょ!彼女泣いてるじゃない!」
84:
古泉は朝比奈さんに叩かれた頬をさすりながら立ち上がる。
朝比奈さんに何かをするつもりだろうか?
俺が古泉を抑えようと思ったら再び突き飛ばされた。
今度の人物は長い髪の持ち主だ。
髪が舞う様にその人物を追ってると思った次の瞬間、古泉が宙を舞っていた。
その人物に投げ飛ばされたのだ。
「今、みくるに何をしようと思ったにょろか?」
顔は見えないが話し方で解る。鶴屋さんだ。
「くんくん。こいつはくさいねっ!ゲロ以下のにおいがプンプンするっさ!!」
鶴屋さんは投げた後の古泉に関節を決めて、押さえつけながらそう評価した。
「い、痛いです。やめてください。いったい僕が何をしたっていうんですか!」
古泉はこの期に及んで何かを言っている。
85:
「強要罪。古泉一樹は越えてはならない一線を超えた」
そう言ったのは長門だった。っていうか、居たのか。
「な、何を証拠にそんなこと言うんですか?名誉棄損で訴えますよ?」
古泉があがく。
「これ」
長門がスマホの動画を再生する。
そこには古泉がハルヒにストリップを要求する一部始終が映し出されていた。
「古泉一樹を観察し、学校に報告すること。それが私がここにいた理由。あなたを警察にまで言える理由」
スマホを見せる手は震えている。長門はかなり怖かったのだろう。それでもここに留まって撮影をしていたのだ。
92:
古泉は観念したのか泣き叫んだった。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」
「こ゛ん゛な゛の゛お゛か゛し゛い゛だ゛ろ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」
お前の頭がな俺がそう思っているとハルヒが古泉の近くしゃがみこんだ。
残念ながら制服を着てしまっているハルヒは古泉にやさしく声をかけた。
「死刑」
96:
まぁ当然の宣告を受けた古泉の顔は真っ青だった。
社会的に死ぬからまさに死刑。
ハルヒ指で拳銃の形を作り、その指先で古泉のこめかみを小突いた。
満足したのか立ち上がり、何時もの様に声高に言いつけた。
「これであんたは一回死んだんだから次はまっとうになりなさいよ!」
もしかしてあれで許す気なんだろうか?
97:
長門が発言した。
「それはお勧めしない。古泉一樹は再び犯罪を犯す可能性がある」
「有希!可能性だけで見限っちゃだめよ!あたしはそう簡単に団員を見捨てないわ!」
ハルヒは鶴屋さんによって床に押さえつけられてる古泉を見下しながら、
「古泉君もいいわね!次は流石のあたしでも見捨てちゃうんだから!」
古泉は泣きながら、
「は……はい、ありがとうございます」
とだけ言った。
98:
長門が、
「せめてこの動画のデータを全員で所持することを勧める」
「あたしはいいわ!古泉君を信頼することにしたから」
お前が良くても長門だけが持ってると長門が危ないんだよ。
「ハルにゃんのストリップ動画だねっ。あたしは貰うよっ。その前に見せてっ!」
と、鶴屋さんは古泉を解放して長門に向かう。何時のまにかハルヒの名前を知っていたようだ。
俺も見たいと思っていたら、
「キョンは見ちゃダメだからね」
ハルヒに止められた。ストリップは見られないらしい。
99:
突然、ハルヒは語り始めた。
「小学生の、六年生の時。あたしは変わる事にしたの。それまでのあたしはすごくいい子だった。自分で言うのもなんだけど本当にいい子。周りの大人たち、特に親の言うことには文句ひとつ言うことなく従っていたわ。周りの大人たちも私が文句ひとつ言わずに従ってるととても褒めてくれた。ハルヒちゃんはいい子ねって。幼稚園に入る前から色々な習い事をやったわ。そこでも大人たちの言う通りすごく頑張った。少なくともあたしにとってはなんだけど。それでね、塾とかだと大体一番を取っていたの。他の習い事でも大体一番くらい。もちろんこれは自慢話じゃないわ。むしろ笑い話よ。なんのことはなかったわ。あたしは周りの大人たちの言うままそれしかやってこなかったし、大人たちが提示しないもの意外は全く気が付いてなかったの。信じられる?他の子供たちが子供らしくしているとき、例えばセミを捕まえて興奮したり、てふてふを無心で追いかけている時、例えばシャッポを被って野球を見てそれに憧れている時、例えばさしすせそが砂糖と醤油とすと醤油とソイソースとしって驚いている時、例えば土管のある空き地で野球をやっている時、例えばダンボールで秘密基地を作って友達とお菓子を食べている時、例えば猫を電子レンジ乾かしちゃいけないと実体験をもって知っている時、例えばポケットの中にハムスターを入れて遊んでたら小石に躓いた時、こんな風に目にするもの全てが新しくて新鮮な時期にあたしはひたすら周囲の大人たちの顔色を窺っていたの。小学六年生の時に、それに気が付いた。その時には周りはもう新鮮さに驚かなくなっていたわ。仕方がないから自分一人で新鮮なものを探しに行ったわ。でももう小学六年生。セミの抜け殻をみても興奮しなかったわ。もちろん初めてだし、少しは嬉しかった。でもね、先にセミの幼虫が脱皮したものって知ってたから、図鑑で見てたし、教科書にも載っていた。あたしはその幼虫がクマゼミの抜け殻だって喜ぶよりも先に思っちゃったの。セミの抜け殻だって無邪気な子供の様に探さないでセミの幼虫が居そうな木のを目安に探してたくらいだもの。本当の意味での新鮮さなんて全くなかったわ。STAP細胞みたいなのを私が一から発見しないと子供が得られた新鮮さはないと思う。でもそんな能力はない。だから宇宙人とかを探すことにした。気が付けば中学生になってたわ。それからずっと探し続けた。それでも見つからない。見つけることじたいが問題じゃないかったら、新鮮なら良かった。でも、結局は何もなし。そうやって、あたしはいつの間にか高校生になってた。でも最近気が付いた。友達と一緒に探さないと子供が真の新鮮な体験はできないし確認もできないって」
まるで弁論大会の出場者みたいにハルヒは一気にまくしたてた。
ところどころ妙なことを言っていた気がするが気のせいだ。うん、きっと。
102:
鶴屋さんがハルヒを抱きしめた。
擬音で表すなら、ガバッっとしてガシッだ。まさにそんな勢いだった。
「ハルにゃん苦労してたんだねっ。
長くてなにを言ってるか解んなかったけどっ。
どうせ大したことを言ってないのは最後の一行で解るけどさっ」
鶴屋さんはそう言いながらハルヒの頭をなでなでした。
「でも、これからは大丈夫だよっ。お姉さんが応援してあげるさっ」
なんだかさらっと酷いことを言ってた気がする。ここからはハルヒの顔はうかがえない。
どこからか拍手の音が聞こえる。
「良かったですね。これで全て解決のようです。僕は酷い目にあいましたが」
古泉が何時もの笑顔に戻りながら手を叩いていた。
さっきまで手拍子を打って何をしてたのかもう忘れたのか?
部室は白けた雰囲気になった。
白けた部室で俺はある衝撃的な事実に気が付いた。
この修羅場で俺何にもしてねぇ。……ドアを開けっぱなしが俺の仕事か。
104:
それからのSOS団について少しだけ話をしよう。
ハルヒは相変わらず傍若無人である。唯一変わった点と言えば、朝比奈さんにとても懐いたことだ。
朝比奈さんが居る時は暇さえあれば抱きついている。
朝比奈さんに助けられてレズにでも目覚めたか?
もっともこいつの場合は、まだ友情と恋愛の区別がついてなさそうだが。
ちなみに、鶴屋さんが意味不明と突っ込んでいた弁論は、
『友達と一緒に探さないと子供が真の新鮮な体験はできないし確認もできないって』
ではなく、『友達と一緒に探さないと子供が体験するような真の新鮮さはないし確認もできないって』
って話だったのではと評判だ。
本人はむくれた振りをして、恥ずかしがって教えないから真相は藪の中だ。
105:
長門はSOS団の団員ではなかったはずだが、今となっては完全に馴染んでいる。
ハルヒの我がままのとばっちりを一番受けている気もする。
一度「これでいいのか?」と聞いてみたが、「ユニーク」とのお言葉をいただけた。
これはこれでいいのだろう。
106:
朝比奈さんと鶴屋さんは、あれ以来度々部室に顔を出すようになった。
始めは古泉の監視だったのだろうが、結構ハルヒのことを気に入ったようだ。
鶴屋さんはハルヒに「みくるは渡さないよっ。あはははは」等と言ってからかっている。
最近では土曜の不思議探索パトロールに参加することもある。
107:
俺はというと、朝倉に愚痴をこぼしているうちに仲良くなった。
普段はゲス泉とハルヒと長門しかいない部室。
この空間の居づらさは想像できるだろ?
朝比奈さんと鶴屋さんがきた日の部室は明るいものの右も左も美少女だらけ。
たまに視界に入るのはゲス泉。
な?愚痴りたくもなるだろ?
そんな事を愚痴っているうちに仲良くなったのだ。
ハルヒが意外と良い子なことや長門が健気で可愛らしいことなどを話してたら、
SOS団にも顔を出すようになった。
そんなある日、朝倉から呼び出された。
「やらなくて後悔するよりも、やって後悔するほうがいいって言うよね。」
「たとえ話なんだけど、
現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるんだけど、
どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき。
あなたならどうする?」
「でね、当の本人が周りの気持ちに鈍感で気が付いてないの。
でも周りはいつまでもそうしていられない。
手をつかねていたらどんどん気持ちが偏っていきそうだから。
だったらもう抜け駆けしちゃってもいいわよね?」
「ステキな女性だらけのあなたの環境に、あたしはもうやきもきしてるのね。だから……」
「あなたに告白してみる」
「だって、わたしは本当にあなたが好きなんだもの」
そんな流れで告白された。
俺の返事は言うまでも無いだろう?
それ以来、朝倉は毎日文芸部の部室にくるようになった。
鶴屋さんは「ふーんっ、へーっ」と言いながら、「めがっさ意外だったさっ」と、
俺の背中を一発叩き「少年っ、泣かすようなことをしちゃだめにょろよっ」と笑いながら言っていた。
付き合ったことは言っていないのに気が付かれたらしい。
目下の問題点は二点。
その一、部室の美少女比率が上昇してしまったこと。
その二、朝倉もキョンくんと言い始めた所為で急にキョンと言う呼び名が広がっていることだ。
108:
古泉改め、ゲス泉はというと、雑用兼財布の扱いを受けている。
自業自得とはいえ、時たま不憫になる。
もっとも本人はそうではないらしい。
ハルヒのストリップから朝比奈さんのビンタ、
鶴屋さんに投げられて、胸を付けた状態で押さえつけられて、
最後に自分の恥ずかしい行動を長門に動画で撮られてた。
その後のハルヒは放免を宣告してる間、パンツがずっと見えてたという。
そんな体験をした影響で変な性癖に目覚めたらしい。
まぁ、飛び切りの美少女達にあんな目にあわされたら、
新たな性癖の一個や二個が目覚めてもおかしくないな。
嬉々として雑用をしたり、怒鳴られたりしている。
109:
そんなゲス泉がある日、笑顔で俺に言った。
「涼宮さんには願望を実現する能力があるんですよ」
「ですから、この前の僕は涼宮さんの所為であんな事をしたんです」
「そこで、もう一度三人で同衾にチャレンジしませんか?」
「もしOKされたら、それは彼女の望んだ事なんですし」
やっぱりゲスなままだった。俺が朝倉と付き合っているというと、
「朝倉さんですか?これは意外です。」
「彼女も美人ですから僕としては全然OKですよ」
「なんの話かって?やだなぁ。もちろん同衾の話ですよ」
「ちょっと!どこに行くんですか!
勿論そうなったら、それは涼宮さんが望んでたって事ですよ!」
後ろで叫んでいるゲスを無視した。
朝倉にゲス泉のことを注意するのを忘れてた。おかげで思い出したよ。
こうして俺はいつもの部室に向かって行く。
続きは、『逆襲のゲス泉?子宮落としに挑戦?』。
・・・・・・続かない。
チラ裏SS オチマイ
付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。
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