あかり「あかり、もうごらく部から出て行くもん!」back

あかり「あかり、もうごらく部から出て行くもん!」


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1:
?ごらく部?
あかり「ねえねえ、京子ちゃん?あかりちょっとお話が……」クイクイ
京子「んー、今漫画読んでるからちょっと話しかけないで」モクモク
あかり「ご、ごめん……あ、ちなつちゃん、あのね、あかりね」
ちなつ「結衣先輩っ、結衣先輩っ、ハァハァ」
結衣「ちょ、ちなつちゃんくっつきすぎっ」グイグイ
あかり「あはは……あ、あの結衣ちゃん?あのね、あかりの話をね」
結衣「え、あ、ごめん、ちょっと今手が離せないから」
あかり「そ、そうなんだ……」
京子「……」モクモク
ちなつ「……」ハァハァ
結衣「ちょ、だからちなつちゃんっ」グイグイ
あかり「……」
あかり「も……」
あかり「もう!あかりごらく部から出て行くもん!」
2:
京子「あー、うん、そだね、その方がいいかも」モクモク
あかり「え……」
ちなつ「え?何の話です?」
京子「なんか、あかりがごらく部から出て行くんだって」
ちなつ「あー……なるほど、それは確かにありかもしれませんね」
あかり「ち、ちなつちゃん?」
結衣「ごらく部から出て何処に行くの?」
ちなつ「生徒会とかじゃないですか?」
京子「いいね、綾乃達なら優しく迎え入れてくれそうだし」
あかり「……」
5:
あかり「京子ちゃん達は……あかりがごらく部から出て行っても平気なの?」
京子「うーん、正直言うと……ね?ちなつちゃん」
ちなつ「……はい、正直あかりちゃんに居られると、その」
あかり「……迷惑、なのかな」
京子「……」
ちなつ「……」
結衣「……まあ、別にごらく部から出ても縁が無くなる訳じゃないしね」
京子「そうそう」
ちなつ「ですね」
あかり「そ、そうなんだぁ……」
7:
あかり「じゃ、じゃあ、あかり、生徒会に行くね……」
京子「おう!元気でね?!」
ちなつ「また明日、クラスで会おうね、あかりちゃん」
結衣「ばいばい」
あかり「あ、あはは……ばいばい……」
あかり「……」トボトボ
「あー、よかった」
「ちょっと、あかりちゃんに聞こえますって」
「けどホントに……」
8:
あかり「あはは……あかり、あかり本当にいらない子だったんだ……」
あかり「ちょっと無視されても、それはいじられてるだけだと思ってたのに……」
あかり「ほんとはみんな、あかりの事を好きでいてくれてると思ってたのに……」
あかり「あかりがホントに嫌がったら、ちゃんと話を聞いていじるのを止めてくれると思ってたのに……」
あかり「……ううっ」グスッ
櫻子「どったの?あかりちゃん」
あかり「あ、さ、櫻子ちゃんっ」ゴシゴシ
11:
櫻子「目にゴミでも入った?ちょっと見せてみて?」グイ
あかり「あ、ち、違うの櫻子ちゃん」
櫻子「んー」ジー
あかり(あ……櫻子ちゃん、あかりの事を見てくれてる)
あかり(心配して、一生懸命見てくれてる……)
櫻子「特にゴミとか見えないなあ……涙で流れちゃったのかな?」
あかり「う、うん、そうかも……」グスッ
櫻子「いやー、私もね、走ってる時とかに時々目に入るの!ゴミが!」
あかり「あはは、そ、そうなんだ……」
櫻子「まあ、こすったら取れるけどね」
あかり「だ、駄目だよぉ、こすったら目に良くないよ?」
櫻子「そなの?」
あかり「う、うん、目が赤くなっちゃうし、雑菌とか入ると思う」
櫻子「むー、あかりちゃんが言うならそうなんだね、じゃあ今度からはこすらないようにしよーっと!」
あかり「……うん」
あかり(櫻子ちゃん、優しいなあ……)
あかり(さっき京子ちゃん達に言われた通り……生徒会、行っちゃおうかな……)
12:
櫻子「おっと、そう言えば資料室に行かなくちゃならないんだった!」
あかり「!」
櫻子「じゃあ、あかりちゃん、まったね?」タタタッ
あかり「あ、さ、櫻子ちゃん!」
櫻子「ん??」ピタッ
あかり「あ、あの……」
櫻子「なになに?」テコテコ
あかり(……うん、やっぱり櫻子ちゃんはあかりの言う事をちゃんと真正面から聞いてくれる)
あかり(だから……)
あかり「……生徒会のおしごと、手伝ってもいいかなっ!」
13:
?生徒会?
綾乃「ふー、なんとかこっちの作業が一段落ついたわね、あとは大室さんに行って貰った資料室の整理だけかしら」
千歳「そうやねえ」
向日葵「櫻子1人であそこの整理するのは無理でしょうし……少し手伝ってきますね」
綾乃「ああ、それなら私達も……」
ガラガラッ
櫻子「たっだいま?♪」
向日葵「あら、櫻子、何か忘れものですの?」
14:
櫻子「いや、資料室の整理終わったから戻って来たんだけど」
向日葵「は?」
綾乃「もう終わったの?」
櫻子「うん」
向日葵「……櫻子、そういう冗談は」
櫻子「いや、ほんとだって!」
千歳「凄いやん大室さん、頑張ったなあ」
櫻子「えへへ、まあ1人でやったんじゃないんですけどね」
向日葵「1人じゃない……?」
櫻子「うん!あかりちゃんに助けてもらった!」
綾乃「赤座さんに?」
櫻子「ほらー、扉の陰に隠れてないで入っておいでってば」グイッ
16:
あかり「あ、あはは、赤座あかりです……」
千歳「赤座さんやん」
あかり「はい」
向日葵「もう、櫻子ったら赤座さんに迷惑かけて、しょうがないですわね……」
あかり「あ、ち、違うの向日葵ちゃん、あかりが手伝わせてほしいって言ったの」
櫻子「そうだそうだ!」
綾乃「どちらにしても生徒会の仕事を手伝ってくれたのね、ありがとう、赤座さん」
あかり「あ、はい……」
向日葵「赤座さん、助かりましたわ」
千歳「ありがとなあ、赤座さん、お茶でも飲んでいく?」
あかり「……」
櫻子「池田先輩の淹れるお茶美味しいんだよ?!飲んで行ってねあかりちゃん!」
あかり「……うん!」
17:
あかり(えへへ、みんな優しいなあ)
あかり(こんなに優しいなら、あかりの事を無視しないでいてくれるよね)
あかり(楽しくおしゃべりしてくれるよね)
綾乃「そ、そういえば赤座さん、歳納京子は一緒じゃないの?」
あかり「……!」
向日葵「そういえば、吉川さんもご一緒じゃないみたいですわね」
あかり「……」
千歳「船見さんの姿もないみたいやなあ」
あかり「……あ、あの、それは」
櫻子「まあたまにはそういう事もあるんじゃない?」
櫻子「あかりちゃんも子供じゃないんだから、1人でガンガン行動する事もあるって!」
あかり「あ……」
向日葵「それもそうですわね」
20:
あかり「あの!」
櫻子「ん?どったのあかりちゃん」
あかり「あの、ね、櫻子ちゃん」
櫻子「うん」
あかり「それに……杉浦先輩、池田先輩、向日葵ちゃん」
りせ「……」
あかり「か、会長さんも……」
あかり「お願いがあります!」
24:
このあと、あかりは一杯お願いした
生徒会の仕事を手伝わせてくださいって
最初は不思議がっていた皆だったけど、最後にはあかりを受け入れてくれた
何も聞かずに、あかりが生徒会に入るのを認めてくれた
それが凄く嬉しかった
そして数週間が過ぎた
26:
綾乃「はい、本日の作業終了!」
千歳「みんな、お疲れ様やったねえ」
向日葵「ふう、最近は作業が凄くはかどりますわね」
綾乃「ふふふ、赤座さんが来てくれたお陰かしらね」
千歳「せやなあ」
あかり「えへへ」
櫻子「ふっふっふー、油断してるとあかりちゃんに追い抜かれるぞ向日葵??」
向日葵「その発言、そっくりそのまま貴方にお返ししますわ」
櫻子「なにおう!」
千歳「まあまあ、いまお茶入れるし、それ飲んで落ち着こな?」
さくひま「「はーい」」
あかり「……」ボー
向日葵「赤座さん?」
28:
あかり「あ、な、なあに?向日葵ちゃん」
向日葵「いえ、何か上の空だったようですので……」
櫻子「うんうん、あかりちゃんって凄く良く働いてくれるけどたまーに変な方向いてボーっとしてる事あるよね」
あかり「そ、そうかなあ……」
櫻子「そうだよ?、それさえなきゃ向日葵追い抜けると思うよ?」
向日葵「またその話を蒸し返すんですの?そもそもこのメンバーの中で一番作業効率が悪いのは櫻子なんですのよ?」
櫻子「そんなこと言いながら、書類の入ったダンボール1人で運べなかったのは誰だっけ?」
向日葵「ぐぐ……」
あかり「あはは、櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも、あかりが知らない事をいっぱい知ってるし、あかりなんてまだまだだよぉ」
29:
綾乃「話が盛り上がってる所申し訳ないけど、ちょっといいかしら」
向日葵「あ、はい、なんでしょう」
綾乃「去年の体育祭の書類って何処に整理したかしら」
向日葵「ああ、それならさっき話題に出てたダンボールの中に入ってましたわね」
綾乃「うーん、そのダンボールが見当たらないみたいなの」
櫻子「あー、ひょっとしてその書類、必要でした?」
綾乃「ええ、今年の体育祭の結果と照らし合わせる必要があるから、必要ね」
櫻子「あー……」
向日葵「櫻子?」
30:
櫻子「……すみません、多分そこです」
綾乃「そこ?」
櫻子「そこの……コピー機の横の……」
向日葵「櫻子?」
あかり「あ……」
綾乃「え……」
櫻子「……」
向日葵「……シュレッダーにかけたんですの!?」
36:
櫻子「う、うん……」
綾乃「……」
向日葵「……」
あかり「え、えっと……」
綾乃「ま、まあ、そういう事も……あるわよね」
櫻子「すみません……」
綾乃「だ、大丈夫よ、きっと先生達も書類残してくれてると思うし、それをコピーさせてもらえば……」
向日葵「……私が悪いんです」
綾乃「え?」
向日葵「私が整理するはずだった書類のダンボールを重くて運べないからという理由で櫻子にお願いしてしまったんです……」
向日葵「あの時、櫻子に頼まず自分でやっていれば……」
櫻子「……違うって、私が悪いの」
向日葵「いいえ、私ですわ」
櫻子「私だよ」
向日葵「私ですわ」
41:
綾乃「ま、まあまあ、2人とも落ち着いて……大丈夫だから、ね?」
向日葵「もう!聞きわけが無いですわね櫻子は!」
櫻子「向日葵こそ!」
向日葵「人には得手不得手という物があるんですから!頭を使う仕事は私の分担ですわよ!」
櫻子「……!」
向日葵「ですから今回は私の責任で……」
櫻子「……」プクー
あかり「えっとね、あの時の書類……」ゴソゴソ
向日葵「赤座さん?」
あかり「あ、やっぱりまだあると思う」
綾乃「え?」
あかり「あのね、あかりね、一杯物事覚えてられないからメモに取っておく事にしてるの」
あかり「あの時あかりは櫻子ちゃんを手伝ってダンボール運んだから、その時のメモを見れば……」
44:
向日葵「あ、ありましたわ」
綾乃「よ、良かった……何とか先生に頭を下げずに済みそうね」
向日葵「ふう、一時はどうなるかと思いましたが……赤座さん助かりましたわ」
綾乃「ファインプレーね」
向日葵「やっぱりメモとか取っておく事は大事ですわよね」
あかり「えへへ」
向日葵「というか、一緒に作業した櫻子がどうしてこの事を知らなかったのかが不思議で……」
あかり「う、うん、櫻子ちゃんはそのあとすぐに走って行っちゃったから……」
櫻子「……」
綾乃「まあいいじゃないの、こうして一件落着したんだし」
ヤンヤヤンヤ
櫻子「……ううっ」
向日葵「櫻子も赤座さんを見習って……」
櫻子「うわあああああ!私なんていらない子なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ダッ
あかり「ああっ!櫻子ちゃん!?」
47:
?ごらく部?
櫻子「……という事があってですね」
京子「ほー」
櫻子「ダンボールを運ぶという同じミッションをこなしたのに何故あかりちゃんと私とで結果が違うのか」
櫻子「どーして私は失敗してあかりちゃんは成功したのか……そういう事を考えてると何か良く判らなくなって」
櫻子「私って生徒会に必要ないんじゃないのかーみたいな気持になって飛び出してきちゃったんです」
ちなつ「そんな事無いと思うよ?生徒会のツンデレコンビは見てて癒されるし」
結衣「うんうん」
櫻子「そ、そうですか?」テレッ
49:
櫻子「いやあ、そう言って貰えるとなんだか気分が落ち着きます……あ、ちなつちゃんお茶おかわり欲しい?」
ちなつ「はいはい」
結衣「それにしても、あかりは生徒会でも上手くやってるみたいだね」
櫻子「もう凄く助かってます」
京子「あかりは何気に細かい事に気が回る良い子だしねえ」
櫻子「……えーと、歳納先輩?」
京子「んー?」
櫻子「あかりちゃんには何か聞きづらかったんですけど……どうして、あかりちゃんは生徒会に来るようになったんです?」
櫻子「あかりちゃんはごらく部に顔とか出してないんですよね?」
ちなつ「……」
京子「……」
結衣「……」
50:
京子「うーん……そうだねえ……櫻子ちゃん達も、まあ無関係って言う訳じゃないから」
ちなつ「京子先輩?話すんですかあの事」
結衣「……まあ、今の所は何の問題も起こってないみたいだし」
ちなつ「た、確かにあれっきり特に問題は起こってないですけど……」
櫻子「え?え?何です?ひょっとして何か重要な秘密が?」
京子「……その前に、ちょっと櫻子ちゃんに質問があるんだけど」
櫻子「はい」
京子「……あかりの様子、何か変じゃなかった?」
51:
?生徒会室?
あかり「……」ボー
向日葵「赤座さん?」
あかり「ひゃっ!」ビクッ
向日葵「どうかしたんですの?ぼーっとして」
あかり「あ、ご、ごめんね、向日葵ちゃん」
向日葵「……櫻子の事、気にしてますの?」
あかり「え?」
向日葵「櫻子が癇癪起こすのは何時もの事ですし、気にしなくてもいいと思いますわよ」
あかり「う、うん……」
向日葵「明日にはケロっと忘れて顔を出しますわよ」
あかり「……そうだねぇ」
52:
向日葵「さて、先輩方も帰られましたし、戸締りも終わりましたし……そろそろ帰りましょうか、赤座さん」
あかり「……」ボー
向日葵「赤座さん?」
あかり「ねえ、向日葵ちゃん」
向日葵「はい?」
あかり「向日葵ちゃんは……あかりの話を、ちゃんと聞いてくれるよね?」
向日葵「勿論ですわ」
あかり「……じゃあね、あのね」
53:
?ごらく部?
京子「あれは、2週間ほど前だったかなあ……あかりがね、変な事を言うようになったの」
櫻子「変な事?」
京子「うん」
ちなつ「……」
結衣「ちなつちゃん、大丈夫だから、ね?」
ちなつ「は、はい」
櫻子「何て言いだしたんです?」
京子「……押し入れの中に、誰か居るって」
54:
「京子ちゃん、押し入れの中に誰かいるよ」
「んー?誰がいるの?」
「判んないよぉ」
「押し入れのふすまの隙間からね、じっとこっちを見てるよ」
「確かにちょっと隙間はあいてるけど……別に誰もいないじゃん」
「居るよお……」
「ちょっとあかりちゃん止めてよね、そういうの」
「だって、居るもん」
「居ないってば……ほら」ガラッ
56:
櫻子「ふ、襖開けてみたんですか?」
京子「うん」
櫻子「で、中には誰が?」
京子「だから、誰もいないんだって」
櫻子「へ?」
京子「あかりにしか、見えないみたいなんだ」
櫻子「……」
ちなつ「……」
結衣「……」
櫻子「……ええ??ホントですか?」
58:
ちなつ「……それからね、毎日あかりちゃんは言うようになったの」
ちなつ「押し入れに誰かがいるって」
ちなつ「隙間から手を伸ばしてるって」
櫻子「うっ……」ゾクッ
京子「やっぱ、そういうの怖いよね?」
櫻子「は、はあ……けど、それってやっぱりあかりちゃんの冗談なんじゃ……」
京子「私もそう思った、だからさ、冗談には冗談で返したんだよ」
京子「その日は粘土を持ってきてたからさ、手のひらサイズの兎さんを作ってね」
59:
「ほら、あかり、兎さんだぞ?」
「わあ、可愛いねえ」
「これをね、押し入れの前に置いてみる」
「え?どうしてそんなことするの?」
「押し入れの中の人も、1人じゃ寂しいだろうし、友達が欲しいんだと思うんだよ」
「だからね、ここにこうやって兎さんを置いておいてあげるんだ」
「わあ、京子ちゃんやさしい」
「だろー?」フフン
「あはは、こうしておけば、押し入れの中の人も兎さんとお話しできるし、寂しくないよね」
60:
京子「それで解決したと思ったんだけどなあ……」
櫻子「中々面白い返しですよね、あかりちゃんの冗談に乗る感じで」
京子「うん」
櫻子「それでもあかりちゃんの冗談は続いたんですか?」
ちなつ「……」
結衣「……」
京子「いやあ、冗談ごとじゃなくなっちゃってさ」
櫻子「え?」
京子「兎さんを押し入れの前に置いた後ね、4人でトランプ遊びしてたんだけど……」
京子「しばらくして、あかりがね」
61:
「あ」
「ん?どったのあかり、ババでも引いた?」
「押し入れの中の人が、兎さんを引きずりこんじゃった」
「は?」
「……京子先輩、兎さん、無くなってるんですけど……」
「さっきまでありましたよね……押し入れの前にありましたよね」
「押し入れの中にね、持って行かれちゃったよお」
「……」
63:
京子「それでね、あかりが『もう誰もいないよ、押し入れの中にはもういないよ』って言うから」
京子「覗いてみたら……兎さんの粘土、あったんだ」
櫻子「それは……不思議な話ですねえ……」
京子「……」
結衣「……」
ちなつ「……うさぎさん」
櫻子「え?」
ちなつ「うさぎさんのね、顔が、顔が」
櫻子「か、顔が?」
ちなつ「何かに、噛みちぎられてたの」
櫻子「か、噛み?」
ちなつ「歯形がね、人間の歯形が、兎さんの顔の部分に残ってたの」
京子「ははは……」
ちなつ「だ、誰か噛むの?悪戯にしても、誰が噛むの?粘土の兎だよ?」
結衣「ちなつちゃん、落ち着いて……」
ちなつ「絶対おかしい、絶対おかしいよそんなの、おかしい……」
64:
京子「それでさ、流石に怖いからあかりに言ったんだ」
京子「今度、押し入れの中の人が見えても、何にも言わずに無視しててって」
結衣「……あかりにしか見えないからね」
ちなつ「そ、そうだよ、そんな話、無かった事にしちゃえばいいんだよ……」
京子「それで、押し入れの襖にガムテープ張って開かない様にしてたんだけどね」
京子「……あかりは、その人の事を無視できないみたいでさ」
65:
「ねえ、京子ちゃん、押し入れの中からひっかく音が聞こえるよ」
「襖を誰かがひっかいてるよ」
「ねえ、聞いてよ京子ちゃん」
「……やめてよ、あかりちゃん」
「ちなつちゃんも聞いて?耳を澄ませて?そうすればあかりの話が事が本当だって判るから」
「ね?聞えるでしょ?ひっかいてるよ、やっぱり中に居るよ」
「ねえ、京子ちゃん、結衣ちゃん、ちなつちゃん」
「あかりの話を聞いて?」
66:
京子「確かに私達も怖かった……けどそれ以上に」
結衣「……そんなモノが見えてしまうあかりが不憫でね……」
ちなつ「そうだよ、あかりちゃんにしか見えないんだから、あかりちゃんがごらく部にいなければいいんだよ」
ちなつ「そうすればあかりちゃんも私達も皆がしあわせ、ふ、ふふふ……」ハァハァ
結衣「ちなつちゃん……」ナデナデ
京子「それでね、櫻子ちゃん」
櫻子「は、はい」
京子「もう一度聞くよ?」
京子「生徒会でのあかりの様子は、どうだった?」
68:
?生徒会室?
あかり「あのね、向日葵ちゃん、あかりずっと気になってたの」
向日葵「はい?」
あかり「生徒会室の……あの一番上の棚あるよね?」
向日葵「ああ、あそこはちょっと扉がズレてしまっていて、ちょっとしか開かなくなってるんです」
あかり「……あそこの隙間からね、誰かがこっちを見てるんだけど」
あかり「あれ、誰かなあ?」
向日葵「は?」
69:
あかり「あのね、あかりね、ずっと気になってたの」
あかり「生徒会のお仕事手伝ってる最中も、ずーっとあそこが気になってたの」
あかり「あそこにいる人、誰だろうって」
あかり「時々ね、隙間から手を伸ばしてくるから、ちょっとビクッてなっちゃったりもしてたの」
あかり「ごらく部の襖の中に居た人と、同じなのかなあ」
あかり「ついてきちゃったのかなあ……」
向日葵「あ、あの……赤座さん?」
あかり「あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ」
70:
向日葵「な、なんですの!?」ビクッ
あかり「ご、ごめん向日葵ちゃん!あかり、お家の用事忘れてた!」
向日葵「え?」
あかり「あかりすぐ帰らないと!」
向日葵「は、はあ」
あかり「ご、ごめんね、戸締りだけお願いしていいかな!いいよね!」
向日葵「は、はい」
あかり「ごめんね、向日葵ちゃんごめんね!」タッタッタッ
向日葵「……」ポカーン
71:
向日葵「……はあ、なんだったのでしょう」
向日葵「アレは赤座さんの冗談?」
向日葵「それにしては、何だか普段と様子が違っていて……」
向日葵「……」
向日葵「だ、駄目ですわね、友達の事を気味が悪いとか考えてしまっては……」
向日葵「さ、さて、戸締りをして帰りましょう!」
向日葵「きっと明日になれば櫻子も帰ってくるでしょうし」
向日葵「そうすれば、また皆で生徒会を……」
「生徒会室の……あの一番上の棚あるよね」
「……あそこの隙間からね、誰かがこっちを見てるんだけど」
向日葵「……ちょっと気になりますし、一応、あそこだけ確認しましょうか」
73:
?ごらく部?
櫻子「あかりちゃんの様子ですか?別に普段と同じでしたけど……けど……」
京子「けど?」
櫻子「けど、時々、作業の最中にボーっと何処かを眺めてる事がありましたね」
櫻子「上の空、って感じで」
櫻子「何か悩みごとがあるのかなーと思ってたんですけど……」
結衣「……」
ちなつ「……」
京子「……あかりもね、良くボーっと眺めてたよ」
京子「押し入れの方を」
櫻子「け、けど、その『中の人』は押し入れの中に居るんですよね?」
京子「……私もそう思ってたんだけど」
74:
「もしかしたら、その『中の人』はあかりと一緒に生徒会に行っちゃったのかもしれない」
「だからね、一応警告しておくよ」
「あかりがボーっと眺めてる方にある『隙間』に気を付けて」
「たとえ見えなくても」
「もしかしたら、そこには何かが居るのかもしれないから」
「粘土の兎の頭を噛みちぎった『ナニカ』が」
75:
櫻子「うー、何か怖い話聞いちゃったなあ……」
櫻子「けど、本当にそんな事あったのかな……」
櫻子「……もしかしてこの話自体が京子先輩達の冗談の可能性も?」
櫻子「ううー、判んないや……」
櫻子「……あ、悩んでたら生徒会室の前まで来ちゃった」
櫻子「……どうしよ」
櫻子「さっきの事もあるし、何か戻りにくい……」
櫻子「けど、鞄とかもこの中にあるし……」
櫻子「……」
櫻子「……」
櫻子「あー、もういいや!入っちゃえ!」グッ
櫻子「あ、あれ?」ガチャガチャ
76:
櫻子「鍵が閉まってる?」
櫻子「もうみんな帰っちゃったのかな……」
櫻子「いや、けど中の照明はついてるみたいだし……」
櫻子「お、おーい!だれかー!」ドンドン
櫻子「誰か残ってますか?!」ドンドン
「……さく、らこですの」
櫻子「お、向日葵?ちょっと開けてよ、私の鞄、まだ中にあるし」
77:
「……だめ、です」
櫻子「は?」
「あけられ、ません」
櫻子「はあ?何言ってんの早く開けてって!」
「む、むりですわ」
櫻子「……さっきの事は謝るからさ」
櫻子「だから開けてってば」
「ち、ちがうん、ですの、わ、私」
「私、こ、こんなことに、なるなんて、だめ」
「もう、もう、もうひとまえには」
櫻子「……向日葵?」
78:
「もう、でられません、の」
「あんな、あんなことに」
「なる、なんて、あんなトコロに」
櫻子「向日葵、大丈夫なの?なんか変だよ?」
「だ、だめ、き、きらわれる」
櫻子「え?」
「きらわれ、る、わたし、そんなの、たえられませんわ」
櫻子「……嫌いになったりしないからさ」
「……」
櫻子「だからさ、開けてよ、なんか心配だよ、向日葵」
「……ほんとう?」
櫻子「うん」
79:
「じゃ、じゃあ、あけ、ますわ」
「ちょっと、だけ」
「はんぶん、だけ」
カチャッ
櫻子「向日葵?」
向日葵「……」
櫻子(よ、良かった、普段通りの向日葵じゃん)
80:
扉の隙間から見えた向日葵は確かに何時も通りだった。
普段よりも少しだけ顔色は悪かったけど、確かに向日葵だった。
「もう、向日葵もっとちゃんと開けてよ、これじゃあ向日葵の顔半分しか見えないじゃん」
「……さくら、こ」
「向日葵?」
「あのね、私ね」
「う、うん」
「あかざ、さんが、言ってた、棚の、とびらを、あけてみたん、ですの」
「あかりちゃんが?」
「こんな事に、なるとはおもって、なかったんですの」
「……な、何かあったの?」
「……」
顔色の悪い向日葵は、扉を全部開けてくれた。
最初に見えたのは、向日葵の歯だった。
82:
歯が見えてた。
向日葵は口を閉じているのに、向日葵の歯が見えてた。
いつも綺麗に歯磨きしていた向日葵の歯が。
向日葵の顔の右頬にぽっかりと空いた『隙間』から。
向日葵の歯が、歯茎が、骨が見えていた。
それを見た私はちなつちゃんの言葉を思い出していた。
『顔が、顔が』
『何かに、噛みちぎられてたの』
見なければよかったと思った。
けど、本当に見てはならなかったのは、別の物だった。
ああ、けど私はそれを見ちゃった。
見ちゃったんだよ。
『それ』を。
86:
「さくら、こ、たすけて」
そう呟いた向日葵の歯と歯の間に。
向日葵の顔にポッカリと開いた「隙間」の中に。
どうして、そんなものが見えたのか判らない。
というか、大きさ的にそんな物が向日葵の口の中にあるはずがないのに。
居るはずが無いのに。
なのに見ちゃったんだ。
向日葵の口に『中の人』が居るのを。
87:
櫻子「……うわっ」ガバッ
櫻子「……」ハァハァ
花子「……櫻子?どうしたんだし」
櫻子「あー……花子かー……はぁー……」
花子「ため息とか失礼だし」
櫻子「いやあ、なんかすっごい嫌な夢見ちゃってさ」
花子「……そう」
櫻子「んー、けど内容思い出せないや」
花子「……あんな事があったんだから、仕方ないし」
櫻子「あんな事?」
花子「……いいから、もう一回寝たほうがいいし」
櫻子「えー、けど学校が……あれ?ここ何処?」
花子「……病院」
櫻子「え?何でこんな所に?」
花子「……櫻子は、学校で倒れたんだし」
櫻子「え?」
89:
櫻子「倒れたって……なんで?」
花子「……それは」
櫻子「えーと、待って待って、私確か……」
櫻子「確か……歳納先輩たちと別れて、それで生徒会室に……」
花子「……」
櫻子「んー、思い出せないや!」
花子「……」
櫻子「どしたの?花子、泣いてるの?」
花子「……別に、泣いて何かないし……」
櫻子「そっか」
花子「……じゃあ、看護師さん呼んでくるし」
櫻子「あーい」
花子「……櫻子だけでも無事で、良かったし」
91:
櫻子(あー、また眠くなってきたや……)
櫻子(また夢見るのかなあ、怖い夢、いやだなあ……)
櫻子(そういえば、夢の中に誰か出てきたよね)
櫻子(あれ、誰だっけ……)
櫻子(大切な人だった気がするんだけど……)
櫻子(あの子、何処行っちゃったっけ……)
櫻子(何処、行っちゃったっけ……)
櫻子「……」zzz
92:
綾乃「大室さん、具合はどう?」
櫻子「あ、はい、もうめちゃくちゃ健康体なんですけど、何かまだ退院出来ないらしいです」
綾乃「そう……」
櫻子「困っちゃいますよねえ、生徒会の仕事もたまってるのに」
綾乃「気にしなくてもいいのよ」
櫻子「そうですか?」
綾乃「ええ……大切な人がいなくなったんですもの、そんな時くらいゆっくり休んでもバチは当たらないはずよ」
櫻子「大切な人?」
綾乃「あ……」
櫻子「何か、時々花子とかもそういう事言うんですけど……そんな人、居ましたっけ」
綾乃「……ごめんなさい」
櫻子「先輩?」
綾乃「……本当に、ごめんなさい」
櫻子「どうして謝るんです?」
93:
そんな日が何日も続いた。
色んな人がお見舞いに来てくれるんだけど、最後は何故か悲しそうな顔をして病室から出て行った。
何か私、変な事でも言ったのかなあ……。
そうだ、それともう一つ気になる事がある。
今度、花子に聞かないと。
95:
「ねえねえ、花子」
「どうしたんだし」
「あのね、話聞いてくれる?」
「……何でも聞くし、どうせ暇なんだし」
「そっか、良かった」
「何かね、ベッドと床の隙間に、誰かいるみたいなんだけど」
「これ、だれなのかなあ」
98:
?2週間前?
「あかり、お姉ちゃんね、町で交通事故を見たの」
「母と赤ん坊が車に衝突されたんだけど、母親の死体しかなかったのよ」
「赤ん坊は何処に行ったんだと思う?」
「あのね、衝突の時にね、お母さんの身体にめり込んで圧縮される形で一塊りになっちゃったの」
「酷い有様だったわ」
「それを見てからね、お姉ちゃん何かおかしいの」
「自分が、その事件と同じ目に会うような気がしてきたの」
「だからね、狭い所に入りたいの」
「狭い所に居れば、多分誰かと一塊りになるのは避けられるわよね」
「広い所は怖いわ」
「ごめんなさいね、あかり、ご飯まで用意して貰って」
「けど私はもう怖くて広い所には出られないから」
「ああ、けど私には予感があるの」
「誰かと一塊りになって死んでしまう予感が」
「ああ、狭い所に入らないと」
「もっと狭い所に」
「隙間に」
「入らないと」
101:
「物置き、タンス、机の下、ベッドの下、本棚、天井」
「色んな隙間に入るうちに、お姉ちゃんの身体はどんどん細くなっていった」
「その為に、ご飯も食べられない様になった」
「可哀想だったけど、お姉ちゃんの望む事だったから、仕方ないと思った」
「今も、きっとお部屋の隙間の何処かに居ると思う」
「隙間からじっとこちらを見つめているのだと思う」
「けど、あかりにはもう見つける事が出来ない」
「きっと、お姉ちゃんが死んでしまっても、死体を見つける事が出来ない」
「それくらい、お姉ちゃんの身体は細く薄くなってしまったから」
「けど、こんな現実ってあるのかな」
「人間が本当にそんな隙間に入る事が出来るのかな」
「もしかしたら、あかりは夢を見ているのかもしれない」
「お姉ちゃんがいたというのも、夢なのかもしれない」
「ああ、きっとそうだ、だって、だって」
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