天国に一番近い勇者〜heaven cannot wait〜【前半】back

天国に一番近い勇者〜heaven cannot wait〜【前半】


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1:
天国に一番近い勇者?heaven cannot wait?
第一話 「お前は今日死ぬ!」
第二話 「セックスしないと死ぬ!」
第三話 「褒められないと死ぬ!」
第四話 「約束破ると死ぬ!」
第五話 「優しくしないと死ぬ!」
第六話 「大切にしないと死ぬ!」
勇者「天国に一番近い勇者」
3:
ーー私の名前は天童世死見。ダメ人間の勇者を救うべくやって来た、イケメンでナイスガ?イの天使であるっ!
女僧侶「あっ、ほらっ! 勇者さん! 今、あそこで魚が跳ねましたよ!?」
勇者「……魚っすか」
ーー彼は天界から与えられた10個の命題をクリアしないと死んでしまうのであるっ!
女僧侶「あの……勇者さん……? 大丈夫ですか……?」
勇者「ヤバイかも……船って……揺れるねぇ……? 気持ち悪いねぇ……?」
ーーまぁ正直、すぐ死んじまうと思ったけどよぉ? こいつは底力見せてよぉ? ここまで6つの命題をクリアしたってワケだ!
女僧侶「あの……勇者さん……」アセアセ
勇者「ダメ……吐いちゃう……」
女僧侶「!」
4:
ーー最初にクリアした命題は「引き篭もりをやめなければ即・死亡!」
勇者「……オエェェェェッ」
女僧侶「き、きゃあっ……!」
ーーそして次にクリアした命題は……
勇者「……ゲボオォォォォッ」
女僧侶「勇者さんっ……! 吐くなら、海に吐いて下さいっ……! 海にっ……!」アセアセ
勇者「あっ……う、うん……オエエェェェェッ……」
天童「おめぇはよぉ!? 人が話してる間、ゲボゲボうるせぇんだよっ!?」
勇者「あっ……ごめん……俺の事は気にしないで……ウップ……」
天童「うおっ……! こっち向くんじゃねぇよっ! 吐くなら海に吐けっ! 海によぉっ!」
5:
ーーーーー
天童「よしっ! ついに魔王城のある大陸に到着したなっ!」
女僧侶「魔王城がある危険な大陸だっていうのに、私達と同じように、船で大陸渡ってくる冒険者さん達が、結構いるもんなんですねぇ?」キョロキョロ
天童「まっ、それだけ危険な大陸なんだかよぉ? 一山当てるつもりの連中が多いんだろうね?」
女僧侶「ふふ、私達も負けてられませんね……」クスクス
天童「まぁ、俺達もよぉ、先越されねぇように、とっととこんな船からおさらばして、街に行って酒でも飲みましょうっ!」
女僧侶「あっ……お酒はダメですよ……? 私達、お金もう少ないんですから……」
天童「まぁまぁ! 勇者君が活躍してくれるからさぁ? なっ、勇者……んっ……?」
勇者「……」グッタリ
6:
天童「……おい、勇者?」
勇者「……」
天童「おいっ! 聞いてんのかおいっ!」
勇者「……俺、もう今日駄目だ」
天童「おめぇ、何言ってんだよっ! 他の冒険者は皆、街に向かってるぞ? こんな所で出遅れてどうすんだよ!」
勇者「あっ、天童……大声出さないで……まだ、船酔いで気持ち悪いからさ……?」
天童「何、言ってやがるこのダメ人間がっ! ほれっ、とっとと起きろっ!」グイグイ
勇者「バカっ……! 動かす……ウエエェェェェッ……」
天童「うおっ……! 汚ぇなぁっ……! 何やってんだ、おめぇっ!」
勇者「ごめ……ウエエェェェェッ……」
女僧侶「まぁまぁ、天童さん……勇者さんの酔いが醒めるまで、しばらく待ちましょう」
7:
一時間後ーー
「よ?しっ、ストップっ! じゃあ、積荷降ろすぞ?? 準備いいか??
「う?っす!」「う?っす!」
天童「……おい、勇者? 他の冒険者は皆、行っちまったぞ?」
勇者「ごめん……でも、だいぶマシになってきたから……」
「ちょっと?! 気をつけて扱ってよ?! その物資、高価なヤツなんだから!」
「う?っす!」「う?っす!」
女僧侶「……あれは、こっちの大陸への支援物資か何かでしょうかね?」
天童「う?ん……そうじゃないかな? やっぱり、こっちの大陸は物資が不足してるからねぇ?」
男武道家「全く……何で皆、僕ばかりに支援要請するんだ……東の街の次は大陸の街ってか……こっちは慈善事業じゃないんだよ……」ブツブツ
天童「あれ……? あの人って……?」
勇者「……ん?」
8:
女僧侶「……お二人はあの方とお知り合いなのですか?」
天童「あぁ、東の街復興の時に、ちょっとね……おぉ?いっ! 男武道家さぁ?んっ!」
男武道家「んっ……? あっ! 天童さんに、勇者君じゃないかぁ!」
勇者「あの、以前は……お世話になりました……」
男武道家「あぁ、気にしないでよ! それよりさ……? あの時の支援物資の食糧良かったでしょ?」
勇者「はい、街の皆さん、凄く喜んでましたよ!」
男武道家「なぁ?んたって、僕のこだわりは凄いからねぇ? 実はね、あれから凄くいい食糧手に入れたんだ? ねぇねぇ、その話聞きたい聞きたい?」ウキウキ
勇者「あっ……! いやっ、それは……またの機会に……」
男武道家「え?っ!? つれないなぁ、君?! そんな事、言わずに聞いてよ??」ウキウキ
勇者(やべぇ……おいっ、天童っ! 話題変えろっ!)
10:
天童「あの?? 男武道家さんは、どうしてこちらの大陸へ……?」
男武道家「……あぁ、それね? なぁ?んか、こっちの大陸にさぁ? 物資が足りてないから、支援して来いって」
天童「じゃあ、今、船から降ろしてる積荷……アレ、全部男武道家さんの物で……?」
男武道家「信じられる? アレ、個人の物だよ? 何で、僕がさぁ? 個人でこんなに荷物運ばないといけないんだよ!?」
天童「まぁ、でも、ほら? 男武道家さんお金持ちだから……」
男武道家「だったら、社長がやればいいでしょ! 社長がっ! 僕は課長なんだよ!? なんで、課長の僕がさぁ!?」
天童「……武闘家さん、転職考えた方がいいんじゃないですかね?」
男武道家「うん……これ、終わったらさ? 武道家協会抜けて、遊び人にでもなるよ」
11:
男武道家「まぁ、でもちょうど良かったや! ねぇねぇ、君達あの荷物運ぶの手伝ってよ?」
勇者「……えっ?」
天童「……えっ?」
男武道家「あっ! 勿論、ただとは言わないよ!? ちゃんと時給も出すからさ?」
勇者「あっ、お金出してくれるんですか?」
天童「それなら、手伝いますばいっ!」
男武道家「そうだなぁ?? 一時間、一人2Gでどうかな?」
勇者「……えっ?」
天童「……安いぞ」
男武道家「あれっ? どうしたの、その顔? ほらほら、給料出てるんだから、とっとと働いてよ! 時給引いちゃうよ?」
勇者(2Gって……薬草も買えやしねぇぞ……)
天童(武道家協会が腐ってんのは、こいつが原因じゃないだろうなぁ……?)
12:
女僧侶「まぁまぁ、お二人共……お金の問題じゃないじゃないですか」
勇者「……ん?」
女僧侶「男武道家さんは、こっちの大陸に支援物資を運ぼうとしているんですから、私達も協力しましょうよ」
男武道家「おっ? 君、いい事言うねぇ?」
女僧侶「この物資で、困ってる人達が救われるんだから、私達も是非協力するべきですよ」
勇者「まぁ……そうだね……」
女僧侶「じゃあ、私達も手伝いますね? 男武道家さん?」
男武道家「いやぁ?、君、女の子なのに、頑張るねぇ? でもさぁ……?」
女僧侶「?」
13:
男武道家「今……『お金の問題じゃない』って、言ったよね……?」
女僧侶「えっ……? はい……」
男武道家「そうだよね……そうだよね……こういうのはお金の問題じゃないよねぇ……」
女僧侶「は、はぁ……」
男武道家「よしっ! じゃあ、君は無給だっ!」
女僧侶「……えっ!?」
男武道家「何、驚いてるのさ? だって君、さっき『お金の問題じゃない』って言ったよね? 言っただろ? 言ったはずだよ?」
女僧侶「あっ……いやっ……」アセアセ
男武道家「だから、無給で頑張ってね? じゃあ、よろしくね?」
女僧侶「……」
天童「……」
勇者「……カァ?、俺より金に意地汚ぇ奴が現れやがったっ! たまらぁ?ん、もう、たまらぁ?んっ!」
天童「……そんな事、思ってねぇよっ! それに、俺は別に金に意地汚くねぇよっ!」アセアセ
18:
ーーーーー
天童「しかし……荷物の量、多いなぁ……」
勇者「これ全部、支援物資なんでしょ? あの人、いい人なのか悪い人なのか、よくわかんないよね……」ポロッ
天童「……おい、勇者? 何か落ちたぞ、そこ」
勇者「あれ、なんだろう……封筒みたいだけど……あっ……!」
天童「おっ! 封筒って事は来やがったな!」
勇者「……なんで、命題がさ? こんな支援物資の中に紛れてんだよ?」
天童「……そういうのは神様に聞いてくれよ。まっ、早見てみようぜ?」
勇者「も?う……え?っと……今回の命題は……っと……」ガサゴソ
19:
勇者
X月X日 午後1時までに
他人の決断に任せないと即・死亡!
20:
天童「ふ?む……『他人の決断に任せないと即・死亡!』か……」
勇者「えっ……?」
天童「今、午前11時だから明日の1時まで、後26時間……だな……?」
勇者「いやいやっ! 長いよっ! 今回、長いよっ!」
天童「まぁ、来ちまったもんはしょうがねぇなっ!」
勇者「も?う……」
天童「とにかくよぉ? 後26時間……他人の決断に任せるんだな!」
勇者「なぁ、天童……ちょっと、それよくわかんないんだけど、どういう事?」
天童「……ん?」
21:
天童「……おめぇはよぉ? こんな簡単な事もわかんねぇのかよ?」
勇者「いやいや、違うよ、違う違う! だから、今回の命題は後26時間、決断を女僧侶ちゃんやお前に任せればいいって事だよね?」
天童「そうだよ、わかってんじゃねぇか」
勇者「……でもさぁ? それっておかしくない?」
天童「……あぁ? 何がおかしいんだよ?」
勇者「……だって、命題っていうのは、ダメ人間の俺を成長させる為に来てるんでしょ?」
天童「そうだよ。おめぇは命題をクリアしながら、真人間に近づいていくんだよ」
勇者「でもさぁ? 他人に決断を任せる……ってのは、ちょっと違うんじゃないの? 自分で決断しろってのなら、ともかくさぁ?」
22:
天童「……ん? そういや、そうだな」
勇者「なっ? 何か、今回は命題、おかしくねぇか?」
天童「う?ん……いや、でも『他人の決断に任せないと即・死亡』って、ちゃ?んと書いてあるしなぁ……?」マジマジ
勇者「これ、今回は一回休み……って、事でいいのかな?」
天童「いや……そういう事じゃねぇだろ……? なぁ?んか、意味があると思うんだよ……」
勇者「う?ん……そういう事なのかなぁ……」
天童「まぁよぉ? 安易に決断するなって事じゃねぇのか? とにかくよぉ、後26時間……気をつけろよ!」
勇者「う?ん……わかった……」
23:
天童「じゃあ、とりあえず、荷物運んじまうか!」
勇者「そうだね。あんまり考えてもしょうがないしね……」
天童「じゃあ、僕はこっちの軽い荷物運ぶから、勇者君はそっちの思い荷物、よろしくね!」
勇者「……はぁ? 何、言ってんだお前!?」
天童「勇者君こそ、何言ってるんだよ! これは僕の決断だよ!? ホラ、僕に任せないとさぁ?」
勇者「おめぇはよぉ? そうやって、すぐ楽しようとしやがるなぁ? いいから、おめぇもこっちの重い荷物運べっ!」
天童「あっ……! おめぇ、俺の決断に任せねぇと死ぬぞ!? 死んじまうんだぞ!?」
勇者「うるせっ! そう何度も騙せれてたまるかよっ! いいから、そっちの荷物よこせっ!」グイグイ
天童「ダメだって、こっちの荷物運んだら、おめぇ死ぬぞ!? 死んじまうぞ!?」グイグイ
男武道家「ちょ、ちょっとっ……! 君達、何してるのっ!?」アセアセ
勇者「……ん?」
天童「……ん?」
24:
男武道家「そんな危険物で遊んじゃ、危ないでしょ!? 何、考えてるの!?」アセアセ
勇者「……えっ? これ、何入ってるんですか?」
男武道家「それには、爆薬が入ってるんだよ!? 下手に落っことしたら、爆発するよっ!?」
天童「えっ……? これ、爆弾……?
男武道家「もうっ! 慎重に扱ってもらわないと困るよっ! 時給減らすからね、もうっ!」
勇者「な、なんで……こんな危険な物……持ち運んでいるんですかね……?」アセアセ
男武道家「魔物のいる洞窟を破壊するのに、使うんだってさ! とにかく、天童さんはそれを慎重に運んで……勇者君は、残り全部の荷物、運んじゃってっ!」
勇者「!」
天童「!」
25:
天童「勇者君、変わって……? 僕、そっちの重い荷物、全部持つからさぁ……?」アセアセ
勇者「ダメ……男武道家さんの決断だから……俺、こっちの重い荷物運ばなきゃ……」アセアセ
天童「……」
勇者「……」
天童「なぁ、勇者……頼むよ……変わってくれよ……俺、こんな危険な物、運びたくねぇよ……」
勇者「ダメだって……俺が運んだら……それこそ、死んじまうんだからさぁ……?」
天童「……」
勇者「……」
天童「お、おい……勇者……? この命題……思った以上にやべぇぞ……?」
勇者「う、うん……もう、自分で決断とかしない……」
26:
ーーーーー
女僧侶「あの……勇者さん……? 天童さん、どうしてあんなに離れて歩いてるんですかね……?」テクテク
勇者「あぁ……聞かない方がいいよ……?」テクテク
女僧侶「?」
勇者「まぁ、街までもう少しだからさ……? 頑張って、支援物資運ぼうよ?」
女僧侶「……勇者さんの荷物、重そうですね? 私も手伝いましょうか?」
勇者「あっ、本当? だったらさぁ……手伝ってもらえ……」
男武道家「あ?、こらこら! 女僧侶ちゃん、余計な事を言わないの!」
女僧侶「……えっ?」
勇者「……んっ?」
27:
男武道家「勇者君はさぁ? 女僧侶ちゃんと違って、給料出てるんだから、その分働いてもらわないと困るよっ!」
勇者「給料って……さっき、時給減らされて、たった1Gでしょうが……」
男武道家「1Gでも立派なお金です。 ほら、お金出てるんだから、文句言わないのっ!」
勇者「なんで、そんなにお金にシビアなんですか……ちょっとぐらい、手伝ってもらってもいいじゃないですか……」
男武道家「ダ?メっ! お金を貰ってる人はその分、働かないといけないの! これが僕の決断ですっ!」
勇者「!」
28:
女僧侶「勇者さん……男武道家さんは、ああ言ってますが……やっぱり、私手伝いますよ?」
勇者「えっ……!?」
女僧侶「荷物貸して下さい。 私も半分持ちます」ニコッ
勇者「あっ……! いやっ……! あのっ……! そのっ……!」
女僧侶「どうしたんですか?」
勇者「あっ……いやっ……! 大丈夫だよ、大丈夫っ! ここは男武道家さんの決断に任せよう!」
女僧侶「そんなに重そうなのに……どうしてですか……?」
勇者「いやぁ……やっぱり、お金貰ってるんだから、ちゃんと働かないとさ! ねっ?」アセアセ
女僧侶「……たった1Gなのに?」
「あ?っ! ちくしょうっ! こんな街に来たのは、失敗だったぜ!」
女僧侶「……ん?」
勇者「……ん?」
29:
「ふざけんじゃねぇよっ! あの糞野郎っ! 足元見やがってっ!」
「こんな所で一山当てようとした俺達が失敗だったぜ!」
「とっとと船で、あっちの大陸へ戻ろうぜっ!」
ゾロゾロ……
勇者「どうしたんだろ……? 冒険者達が、船の方に戻ってるけど……?」
女僧侶「街で何かあったんですかねぇ?」
男武道家「君達、何してるの?? そんなにもたもたしてたら、また時給引いちゃうよぉ?!」
勇者「別に、減らされてもいいけどね……1Gだし……」
女僧侶「すいませ?んっ! 今、行きますっ!」
30:
街ーーー
男武道家「12時半……って、ところだね……ようやく、街ついたか」
女僧侶「もうお昼ですね……昼食でもとりませんか?」
勇者「あっ、いいねぇ? 俺、船酔いで全部出しちゃったからさぁ……? お腹ペコペコなんだよ……」
男武道家「う?ん……じゃあ、お昼ご飯は商談が終わってからにしようか?」
女僧侶「……えっ?」
勇者「いやっ……皆、お腹空いてますから、先にご飯にしません?」アセアセ
男武道家「あっ……君、バイトの分際で、僕の決断に逆らうの? 時給引いちゃうよ?」
勇者「!」
31:
男武道家「あれっ……? 君、急に黙りこんで、どうしたの?」
勇者「あっ……いやっ……先に商談でいいです……はい……」
男武道家「あれ? 急にしおらしくなったねぇ、君?」
勇者「いや、やっぱり……支援物資をこの街の方達に届けませんとね……」
男武道家「じゃあ……どうしようかな……? 商談の方に天童さん、貸してくれるかな? あの人も、腕いいからさぁ?」
勇者「……僕達はどうしたらいいですか?」
32:
男武道家「君達は道具屋とか武器屋を回ってさぁ? レアな物がないかチェックしておいてくれない?」
勇者「男武道家さんって、アイテムコレクターですもんね」
男武道家「それが終わったらさぁ? 皆でご飯食べに行こうよ?」
勇者「……一時間ぐらいかかるんですかねぇ?」
男武道家「まぁ、商談で纏まったお金も入ると思うしさぁ? 奢ってあげるから、一時間ぐらい我慢してよ?」
勇者「えっ!?」
男武道家「……何だよ、そんなに驚いた顔をして?」
勇者「武道家さんが奢ってくれるんですか?」
男武道家「君は人を守銭奴みたいに言うんだね? 君は失礼な人だ」
33:
ーーーーー
女僧侶「天童さんと男武道家さん、商談の方に行きましたね。上手くいくといいですね」
勇者「……あいつ、爆弾持ったままだけど、大丈夫かねぇ?」
女僧侶「……爆弾?」
勇者「いやっ……まぁ、あんまり気にしない方がいいよ……」
女僧侶「?」
勇者「まっ、俺達も道具屋とか回って、商談が終わるのを待とうか!」
女僧侶「そうですね。薬草や回復薬の補充もしませんとね」
34:
道具屋ーー
道具屋の主人「……いらっしゃい」
勇者「あら、品揃えが豊富ですね」
女僧侶「そうですね。薬草に、回復薬……魔力回復薬なんかまであります」
主人「薬草は……500G……」
勇者「……えっ?」
主人「回復薬は……1000G……」
女僧侶「……えっ?」
主人「魔力回復薬は……1500G……」
勇者「!」
女僧侶「!」
37:
主人「……どうした?」
勇者「い、いやっ……あのっ……」アセアセ
女僧侶「これ……ちょっと、高くありませんか……? 薬草って、5Gぐらいじゃないんですかね……?」
主人「お前ら、向こうの大陸から来た冒険者だろ? なぁ?」
勇者「あっ……はい……」
女僧侶「その通りです……」
主人「あのなぁ? 向こうの大陸と、こっちの大陸じゃ相場が違うのは当たり前じゃねぇかっ!? なんで、あっちの大陸の人間は文句ばかり言うんだよ!?」
勇者「いやぁ……でも、ですねぇ……? 100倍って……やりすぎじゃないですかねぇ……?」
38:
主人「それはお前らがよぉ、平和な大陸で、平々凡々と暮らしてるから、そう思うだけだろが!」
女僧侶「……えっ?」
主人「こっちの大陸見てみろよ! 魔王城が近くにあるせいでよぉ? 魔物が溢れて、薬草一つ採るのにどんだけ苦労してると思ってるんだよっ!?」
女僧侶「そんなに……こちらの大陸は荒れているんですね……」
主人「さっきも、おめぇと同じ事言って、他の冒険者は帰っちまったよ! どうすんだよ!? 俺、家族養えねぇよっ!」
女僧侶「……」
主人「まぁよぉ……? おめぇらは人が良さそうだから、まけてやってもいいかね……?」
女僧侶「えっ、 本当ですか!?」
39:
主人「そうだな……2割引き……って、ところでどうだ?」
女僧侶「えっ、2割引きって事は……100Gもまけていただけるんですかっ!?」
勇者「……いやいや」
主人「そうだよ、得だろ!? すっげぇ、お得だろ!? だからよぉ、俺と家族の為にも、何か買って行ってくれねぇかな?」
女僧侶「そういう事なら……買いましょうかねぇ……?」
勇者「いやいや……女僧侶ちゃん……よく考えなよ……?」
主人「……」
女僧侶「……えっ?」
勇者「……これさぁ? 2割引きした所で400Gだよ? 元値の何倍の値段だと思ってるの?」
主人「うるせぇなっ! おめぇは人の好意に余計な事言うんじゃねぇよっ!」
41:
勇者「いや……でも、ですねぇ……?」アセアセ
主人「買おうとしてるのはこの姉ちゃんだろうがっ! おめぇは余計な茶々入れるんじゃねぇよっ!」
勇者「そうは言ってもですねぇ……」
主人「俺はおめぇと商談なんてしてねぇよっ! 俺はこの姉ちゃんと商談してんだよ!」
勇者「いやっ……でも、僕仲間ですから……」アセアセ
主人「うるせぇよっ! おめぇみたいな相場のわからねぇ奴は黙ってろよっ! おめぇは黙ってこの姉ちゃんの決断に乗っておけってのっ!」
勇者「!」
主人「ったく、これだから相場のわからねぇガキの相手は嫌なんだよ……で、どうする? 姉ちゃん、買ってくれるかな……?」
女僧侶「う?ん……そうですねぇ……」
42:
主人「なぁ?、 頼むよ?? 頼むよ、姉ちゃん??」
女僧侶「?」
主人「姉ちゃんにさぁ? 何か買ってもらわねぇとさぁ? 俺の家族、皆首くくる事になっちまうんだよぉ?」シクシク
女僧侶「そ、そんなっ……!」アセアセ
主人「他の冒険者達が、何も買わずに帰ったせいでよぉ……? 今日は大赤字なんだよ……なぁ、頼むよぉ??」
女僧侶「で、でも……私達、そんなにお金持ってませんし……」
主人「あるだけでいいかよぉ?? 何でもいいからよぉ?? とにかく、何か買ってくれよぉ??」
女僧侶「勇者さん……? この方、困ってるみたいですが、どうしましょう……?」アセアセ
勇者「……」
43:
女僧侶「……勇者さん?」
勇者「……女僧侶ちゃんの決断に任せるよ」
女僧侶「……えっ?」
勇者「値段は確かに高いけどさぁ……? この人も困ってるみたいだし……女僧侶ちゃんの決断に任せる……」
女僧侶「え?? じゃあ、どうしましょうか……?」
勇者(……買うなよっ! 絶対にっ! 買うなよっ!)
主人「なぁ? 頼むよ、姉ちゃん??」シクシク
女僧侶「そ、それじゃあ……」
勇者「……」
主人「……」
女僧侶「薬草を一つ、いただきます」ニコッ
44:
勇者(何で、買うんだよっ! 俺『買うなよっ! 絶対に買うなよっ!』って言ったじゃんっ!)
主人「へいっ! 薬草一つで400Gだっ!」
女僧侶「ふふ、家族の皆さんよろしくお願いしますね?」
勇者(この薬草一つで、何個薬草が買えるんだよっ! 返品しなさいっ! 絶対に返品しなさいっ!)
主人「あぁっ! また買い物してくれよっ!」
女僧侶「そうですね。 また、纏まったお金が入ったら、こちらに来たいと思います」ニコッ
勇者(あ?っ! 言いたいっ! 凄くいいたいっ! その決断は間違ってるって、凄く言いたいっ!)
45:
女僧侶「それじゃあ、勇者さん? そろそろ、男武道家さん達と合流しましょうか?」
勇者「……」
女僧侶「お腹も減りましたし、ね……?」
勇者「……そうだね」
女僧侶「あ、あれっ……? もしかして……勇者さん、怒ってます……?」アセアセ
勇者「……えっ?」
女僧侶「あの……私が高い薬草買ってしまった事……怒ってます?」
勇者「……」
女僧侶「だって……あの人、家族を養っていらっしゃるのに……困っていたみたいでしたから……つい……」
勇者「……『つい』って」
46:
女僧侶「確かに……薬草は高かったですが……」
勇者「……」
女僧侶「それで、あの方と家族が救われる事を考えてら、安い買い物だと思うんですよね……?」アセアセ
勇者「……えっ?」
女僧侶「……私達だけが、お金を沢山蓄えて幸せになってもしょうがないじゃないですか?」
勇者「……」
女僧侶「私は……幸せは全ての方に平等に与えられる物だと思うんですよね……」
勇者「一応、高い事はわかってたんだね……? それで、そういう理由で買ったって、ワケか……」
47:
女僧侶「でもっ……! 勇者さんが納得できないのであれば、返品してきますが、どうしましょうか……?」
勇者「……」
女僧侶「勇者さん……怒ってますよねぇ……?」アセアセ
勇者「……いや、怒ってないよ」
女僧侶「……えっ?」
勇者「俺はさぁ? 目先の損得しか考えてなかったけど、女僧侶ちゃんはそういう事も考えてたんだね?」
女僧侶「……」
勇者「そういう考えで出した決断だったら、いいんじゃない? 俺にはそういう考え方はできなかったからさ?」
女僧侶「勇者さん……ありがとうございます……」
勇者「……今回の命題の意味って、こういう事なのかな?」
女僧侶「……命題?」
勇者「あっ……! いやっ……! なんでもないナンデモナイ……! それよりさ、早く男武道家さんと合流して、ご飯食べに行こうか!」アセアセ
48:
ーーーーー
男武道家「……勇者君、遅かったねぇ? 待ちくたびれたよ」イライラ
勇者「あっ、ごめんなさい……って、何でまだ荷物がここにあるんですか? 商談はどうしたんですか……?」
天童「商談……決裂……って、ヤツだ……」
勇者「うおっ! おめぇも何で、まだ爆弾持ってるんだよ!? そんな、危ねえ物、早く売っちまえよっ!」
男武道家「……2Gだって。その爆弾の買取価格」
勇者「……えっ?」
男武道家「こっちの武器は各3G……こっちの食糧は各1Gだって……買取価格……」
勇者「はぁ!?」
男武道家「全部売っても、1000Gにもならないよ……こいつら、弱者って事を利用して、舐めてるよね?」
勇者「これだけの支援物資あるのにですか!?」
天童「おいっ、勇者っ! 俺の商才が通じねぇんだよっ! 何を言っても『物価が違う』の一点張りだっ!」
49:
男武道家「……こんな街に支援物資を渡す価値なんてないよ。僕も船に乗って、あっちの大陸に帰る」
勇者「いやいやっ……! 男武道家さん、ちょっと待って下さいよっ!」アセアセ
男武道家「何だよ、勇者君? 止めても無駄だよ? 僕はボランティアでやってるわけじゃないんだから……」
勇者「いやいや、そうじゃなくてですね……」
男武道家「……何? どうしたの?」
勇者「あの……飯、奢ってもらうって約束……どうなりました……?」
男武道家「あれは、商談で纏まったお金が入ったらって、言ったでしょ!?」
勇者「いや?、あの……実は僕達、お金がないんですよ……」アセアセ
50:
天童「おい、勇者? まだ、500Gぐらいは残ってただろ?」
勇者「ごめん天童……使っちゃった……」
天童「はぁ!? おめぇ、500Gも何に使ったんだよ!?」
勇者「……薬草」
天童「おめぇ、何個薬草買ったんだ!? そんなに、薬草買ってどうすんだよ! おめぇは虫か! 主食は草かっ!」
勇者「あはは……数は聞かない方がいいと思うよ……? お前、多分暴れる事になるから……」
天童「……お前、何か騙されたりしてねぇだろな!?」
勇者「う?ん……でも、命題だったからさぁ……?」
天童「……何か、決断を任せる場面があったのか?」
勇者「……うん」
天童「……」
51:
勇者「と、いうワケで男武道家さん……ご飯だけでもご馳走してくれませんかねぇ……?」
男武道家「……」
勇者「僕達、お金なくて困ってるんですよ……ねっ……?」
男武道家「……」
勇者「ねっ、お願いしますよ? ここまで支援物資を運ぶの手伝ったじゃないですか?」
男武道家「もう……しょうがないなぁ……」
勇者「ありがとうございますっ……!」
男武道家「その変わり……この物資、持って帰るから、船まで運んで積み込むの手伝ってね?」
勇者「……えっ?」
男武道家「何だよ、君? ただで奢ってもらえるとでも思ってるの? ダメだよ、これが条件!」
勇者「うぅ……わかりました……」
男武道家「じゃあ、皆で酒場にでも行って、食事にしようか? あまり、高い物は頼んじゃダメだよ? 一人、一品のみね!」
勇者「……」
54:
酒場ーーー
酒場の主人「……いらっしゃい」
天童「生、頼みたいけどなぁ……まぁ、我慢すっかっ! おい、皆は何注文するんだ?」
勇者「え?っと……じゃあ、俺はA定食で……」
女僧侶「私も、同じものにします」
男武道家「じゃあ、僕はB定食にしようかな? 天童さんはどうします?」
天童「酢豚か……堅焼きそばだなぁ……」
勇者「……おめぇは、昼から酢豚を食うのか? 堅焼きそばを食うのか?」
天童「もう、昼って時間でもねぇだろが? 決めたっ! 俺は堅焼きそばねっ!」
主人「A定食二人前と、B定食と、堅焼きそばだな? すぐ、作るよ」
55:
主人「ちなみに……うちは前金制だ……」
勇者「あっ、そうなんですか? じゃあ、男武道家さん……お願いします……」
男武道家「もう……後で、しっかり働いてもらうからね? それで……いくらなの?」
主人「……27'000Gだ」
勇者「……えっ?」
男武道家「はぁ!?」
主人「……何、驚いてんだよ? 早く、27'000G払いやがれ」
勇者「ちょっと……! 高くないですかねぇ!?」
男武道家「おい、お前? 舐めてんだろ? なぁ、僕達を舐めてるんだろ!?」
主人「A定食は、6'000G……B定食は、5'000G……堅焼きそばは……10'000Gだ……」
56:
勇者「おいっ、 天童っ! おめぇ、何高いもん、頼んでんだコラっ!」
天童「いやっ、待てっ! 勇者、待てっ!」
勇者「おめぇもB定食にしろっ! おめぇの頼んだ、堅焼きそばは倍の値段してんじゃねぇかよっ!」
天童「待てっ! 勇者っ! とりあえず、落ち着けっ!」
勇者「……あぁ?」
天童「堅焼きそばの値段はよぉ? 確かに高ぇけど、他のメニューの値段、よく見てみろよ、おいっ!」
勇者「……ん?」
天童「A定食が6'000G……B定食が5'000Gだぞ? 俺だけじゃなくて、おめぇらも、おかしいもん注文してんだよっ!」
勇者「そ、そうだっ……問題点は堅焼きそばの値段じゃないよな……」アセアセ
58:
男武道家「なぁ……? お前、舐めてんだろ?」
主人「……何がだよ?」
男武道家「この料金でさぁ、四人家族が何ヶ月食べていけると思ってるんだよ?」
主人「……それは、お前らがいた平和な大陸での話だろ?」
男武道家「……はぁ?」
主人「こっちの大陸はなぁ? お前らのいた大陸とは違って、物資が不足してんだよ。物価が上がるのは当然じゃねぇか?」
男武道家「需要と供給のバランスってわかるかな? あっ、わからないから、こんな方外な値段ふっかけてるんだよね? 君、頭悪そうだし」
主人「……文句ばっかり言うんだったら、とっとと帰りやがれっ!」
男武道家「ああっ! そのつもりだよっ! こんな店にいられるかっ! この野郎っ!」ガタッ
59:
男武道家「勇者君っ! 帰るよっ!」
勇者「えっ……? いや、ご飯は……?」アセアセ
男武道家「こんなバカみたいな料金のお店で食べれるワケないでしょ! ほらっ、荷物持って、とっとと出るよ!」
勇者「いやっ……でも、ですねぇ……?」
男武道家「……君ねぇ? 人のお金だからと言って、無茶苦茶言うんじゃないよ! 誰がお金払うと思ってるんだよ! 誰が!」
勇者「でも、物価が違うんだったら……しょうがないんじゃないんですかね……?」アセアセ
男武道家「勇者君っ! 君は毒されているっ! この街に毒されているぞっ!?」
勇者「……えっ?」
男武道家「天童さんと、女僧侶ちゃんはどう思うの? まさか、勇者君みたいにバカな事、言い出したりしないよねぇ?」
60:
女僧侶「私は……」
男武道家「……」
女僧侶「やはり、代金を支払うのは男武道家さんですし……男武道家さん一人に、負担させるのは気が重いです……」
男武道家「ほら、よかったっ! 女僧侶ちゃんはまともだった! じゃあ、天童さんは?」
天童「俺はよぉ?」
男武道家「……」
天童「まぁ、確かに腹は減ってるけどよぉ? 27'000Gも使うんだったら、やっぱり腹いっぱい食いたいね」
男武道家「ほらっ!? 皆、ここでは食べないって決断じゃない!? 勇者君だけだよ? そんな事言ってるの!」
勇者「……」
61:
天童「……なぁ、勇者?」
勇者「?」
天童「ここは……『皆の決断』に従おうぜ?」
勇者「……えっ?」
天童「こっちの大陸はよぉ……? 何か事情があるのかもしれねぇけどさぁ?」
勇者「……うん」
天童「……やっぱり、高ぇよ」
勇者「……」
天童「多数決で決まった事じゃねぇか? おめぇ一人でゴネて、男武道家さんに迷惑かけちゃいけねぇよ?」
勇者「俺は……ゴネてたわけじゃないよ……」アセアセ
天童「まぁ、話はゆっくり、後でするとして……とりあえず、店から出ようぜ? なっ?」
勇者「うん……」
62:
ーーーーー
勇者「……」テクテク
天童「……おい」テクテク
勇者「……」
天童「おいっ! 勇者ァっ! 聞いてんのかっ!?」
勇者「!」ビクッ
天童「何、チンタラ歩いてんだよ!? 船着場まで、もう少しだぞ!?」
勇者「あっ……ごめん……」
天童「……」
勇者「……おめぇ、爆弾持ってんだから、もうちょっと離れて歩けよ? 危ねぇよ」
天童「……」
勇者「……はぁ」
63:
天童「……なぁ、勇者?」
勇者「……ん?」
天童「おめぇ、何でさぁ? さっきの酒場でゴネてたんだよ?」
勇者「えっ……? いや、ゴネてたつもりはないけどさぁ……」アセアセ
天童「おめぇよぉ? 今回の命題は『他人の決断に任せないと即・死亡』だろ?」
勇者「うん……」
天童「男武道家さんは、あの店では食わないって決断したじゃねぇか? だったら、それに従えばいいじゃねぇか?」
勇者「……」
天童「俺は慌ててフォローしたけどよぉ? おめぇ、余計な事言うと、死ぬんだぞ? わかってんのか!?」
勇者「わかってるよ……わかってるけど、さぁ……?」
天童「……」
64:
勇者「なぁ、天童……今回の命題って……どういう事なんだろ……?」
天童「……あぁ?」
勇者「これ……楽な命題だと思ってたけど……難しいよ……」
天童「……」
勇者「俺の考えがさぁ? ことごとく、死んでいくんだよっ!? 命題のせいでさぁ!?」
天童「……」
勇者「本当に薬草は買ってよかったのかな……? 酒場の人だってさぁ? 何か理由があったのかもしれないじゃん!?」
天童「……」
勇者「だけど、そういう事を考える前に、決断が出ちゃうんだよ!」
天童「……」
勇者「自分で決断するんだったらともかくさぁ……? こうやって、流されてるだけって……なんか、やりにくいよ、俺……」
65:
天童「……まぁ、ちっとは成長してるみたいだね?」
勇者「……えっ?」
天童「おめぇ、命題に真剣に取り組むようになったじゃねぇか? なぁ?」
勇者「……うん」
天童「でもよぉ? 今までの命題やってきたらわかるだろ?」
勇者「……えっ?」
天童「意味のねぇ事なんて、ねぇんだよ……無意味だと思う事にも……ちゃんと意味があったりするんだよ」
勇者「……う、うん」
天童「俺も、神様が何を考えてるのかは、わかんねぇけどよぉ? やっぱり、今回の命題にもちゃんと意味があると思うんだよ」
勇者「……」
天童「おめぇはよぉ!? 一人で背負い込みすぎなんだよ! 女僧侶ちゃんも、男武道家さんも、そんな簡単に間違った決断をする人間か!?」
勇者「いや、女僧侶ちゃんは……そうじゃない……男武道家さんは……まだ、ちょっとよくわかんないけど……」
天童「不安なのはわかるけどよ? もうちょっと、周りの事を信用してみようぜ?」
勇者「う、うん……」
66:
男武道家「おいおいっ! ふざけんなよっ! どういう事だよっ!?」
勇者「……ん?」
天童「あれっ……? 男武道家さん、どうしたのかね?」
男武道家「船が出港しただって!? ふざけんじゃないよっ! 僕達、どうすればいいんだよっ!?」
「次に定期便来るのは……三日後です……それまではこちらの大陸でお待ちになって下さい……」
男武道家「ふざけんじゃないよっ! あんな、街になんか、一秒たりともいたくないよっ!」
「そ、そうは言われましても……」
男武道家「ちくしょうっ! なんで、こんな街に俺は来ちまったんだっ! くそぉっ! 俺はとばされたのかっ!」
67:
勇者「あの?? 男武道家さん……?」
男武道家「終わった……船が……行ってしまった……」ガックリ
勇者「いやいや……そんなに落胆しないでもいいでしょう……?」
男武道家「ふざけるなぁっ! 落胆もするよっ! 落胆もっ!」
勇者「!」ビクッ
男武道家「こんな、魔物が溢れる大陸に一人だぞ!? どうしろって言うんだよっ!」
勇者「いやいや……まぁまぁ……」
男武道家「それに、敵は魔物だけではないんだぞっ! 街には銭ゲバの亡者が溢れかえってるときたもんだっ!」
勇者「銭ゲバって……まぁ、男武道家さんも似たようなもんじゃないですか……」アセアセ
男武道家「この大陸に人間はいないのかっ! まともな人間はっ! 僕は次の出港までの三日間、どうすればいいんだっ!」
68:
勇者「まぁ、でも……あの街で、大人しく三日間、待てばいいんじゃないですかね?」
男武道家「勇者君、勇者君……その考えは正しい……非常に正しい……」
勇者「……でしょ?」
男武道家「ただし、それは『普通の街』の話だ……」
勇者「……えっ?」
男武道家「あそこの連中、見ただろ? 銭ゲバの集まりだよ? きっと、宿屋だって法外な料金、ふんだくられるに決まってるよっ!」
勇者「いやぁ?、流石に、それはないでしょ……」アセアセ
男武道家「いやっ……僕の予想では、一泊8'000Gぐらいだね? だって、あいつら金の亡者だもんっ!」
勇者「いやいや……流石にそれは……」
天童「おい、勇者……おい、勇者……」ヒソヒソ
勇者「……ん?」
69:
天童「俺も……男武道家さんと同じ考えな気がするぜ……」
勇者「……えっ? 何で?」
天童「そりゃ、天使の勘ってヤツだよ」
勇者「……天使の勘は、人間の勘と比べてどうなの? 当たるもんなの?」
天童「そりゃ、あんまり変わんねぇよ……」
勇者「だったら、わざわざ天使の勘とか言うなってのっ! このダメ天使っ!」
天童「だから、ダメ天使って言うなよ、おめぇ!……でもよぉ? あの街、なぁ?んかきな臭いと思わねぇか?」
勇者「えっ……? 何が……?」
天童「だってよぉ? あれだけ、物価が高いんだぜ?」
勇者「それは……この大陸が危険で、物資が取れないからでしょ?」
70:
天童「物資が足りなくて……物価が上がる、と……」
勇者「うん」
天童「じゃあ、その結果、どうなるよ?」
勇者「……えっ?」
天童「物価が上がったら……どうなるよ……? 今日、起きた事を言ってみろよ?」
勇者「今日起きた事って……何だよ……?」
天童「……」
勇者「……」
天童「……冒険者が大陸捨てて、帰るんだよ」
勇者「!」
71:
天童「冒険者が帰ったら、どうなるよ?」
勇者「え?っと……魔物が……増えるっ……!」
天童「そうだっ! 一度、整理するぞ?」
勇者「う、うん……」
天童「物資がなくて……物価が上がる……物価が上がって……冒険者は帰る……」
勇者「冒険者が帰って……魔物が増える……魔物が増えて……物価がとれなくなる……」
天童「……なっ?」
勇者「な、なんか……見事な負のスパイラルだねぇ……?」アセアセ
天童「……なぁ、勇者? いくら、なんでもこりゃ、出来過ぎじゃねぇか?」
勇者「えっ……?」
天童「ただの負のスパイラルだったらよぉ……まだ、いいかもしれねぇけどよぉ?」
勇者「……」
天童「誰か、黒幕みたいなヤツがいるとしたら……こいつは、厄介な問題だぜ?」
勇者「……」
72:
天童「それと、勇者……もう一つ、問題がある……」
勇者「……問題?」
天童「今、午後4時だろ……?」
勇者「うん。タイムリミットまで、後21時間だね?」
天童「それもあるけどよぉ? 今晩の話だよ、今晩の話」
勇者「……えっ?」
天童「今夜、宿はどうすんだ? まさか、こんな危険な大陸で野宿ってワケじゃねぇだろな?」
勇者「あっ……! ど、どうしようっ……! もし、宿屋が高かったら……!」アセアセ
天童「男武道家さんは、支援物資売っぱらってなんとかなるかもしんねぇけどよ? 俺達はそうもいかねぇぞ?」
勇者「ど、どうしよう……とりあえず、皆で……」
天童「バカっ! おめぇは決断するんじゃねぇよっ! 死にてぇのかバカっ!」
勇者「!」
75:
勇者「あの……男武道家さん……?」
男武道家「……ん?」
勇者「これから、どうします? 船が来るまでの三日間……」
男武道家「う?ん……どうしようかな? 困ったなぁ?」
勇者「宿屋とか……それに……食糧とか……」
男武道家「……」
勇者「で、でも……やっぱり、街に行くしかないのかなぁ??」アセアセ
男武道家「……」
勇者「あっ、コレ、『決断』じゃなくて『提案』ですからね!? でも、街に行くしかないんじゃないですかねぇ……」アセアセ
男武道家「……気は進まないけど、そうしかないね?」
76:
勇者「それでですねぇ……? 男武道家さん? 一つご相談があるんですが……」
男武道家「……相談?」
勇者「いやっ……あのですねぇ……僕達、お金がですねぇ……ないんですよ……」アセアセ
男武道家「うん、聞いた。 ソレ、さっき聞いたよ」
勇者「もし……よろしければ……今夜の宿の方の面倒を見ていただけると……ありがたいんですが……」アセアセ
男武道家「ふふふ、君……面白い事、言うねぇ?」
勇者「あっ……これも『提案』ですから『決断』するのは男武道家さんが……」
男武道家「ふざけんじゃないよっ!」
勇者「!」ビクッ
77:
男武道家「あの街の物価の高さをみただろ!? 君達の面倒を見てる余裕なんてないよっ!」
勇者「いやっ……そこをなんとか……」
男武道家「あのね? 君は現状を理解していないようだから言っておくけどねぇ?」
勇者「……は、はい」
男武道家「いくら、僕が君達よりお金持ってるからって、あの街の物価の高さじゃ、僕だって手も足も出ないんだよ」
勇者「……支援物資売ったりするのはなしですかね?」アセアセ
男武道家「たった、1000Gで何が出来る! あの街では堅焼きそばも食えやしないんだぞっ!?」
勇者「そ、そうですよねぇ……? どうしよう……今晩、どうしようかな……」
78:
勇者「あっ! そういや、俺魔法使えたんだ!」
女僧侶「……魔法?」
勇者「いや、ワープして街に戻る魔法があるんだよ! それ使えば、あっちの大陸に戻れるんじゃね?」
男武道家「……」ピクッ
女僧侶「でも……私達はこっちの大陸に救う為に来たんですよ? わざわざ、今更戻るなんて……」
勇者「……あっ、決断されちゃった。まぁ、女僧侶ちゃんの言ってる通りだけどさぁ?」
男武道家(何……彼らは、街に戻る魔法が使えるだと……?)
天童「まぁ、女僧侶ちゃんの言う通りだな。わざわざ、船に乗って来たってのに、戻る事はねぇよ」
勇者「そうだよね……戻ったとしても、やっぱりいつかはこっちの大陸にこなくちゃいけないもんね……」
男武道家(これはっ……! 街に帰る、大チャンスっ……!)
79:
男武道家「コホン……あ?、勇者君……勇者……」
勇者「……ん? どうしたんですか?」
男武道家「君、そんな魔法使えるんだ!? うわぁ、凄いなぁ!」
勇者「いや、でも使わないって決断になりましたよ? 僕達はこっちの大陸に用があるんだし……死にたくないし……」
男武道家「う?ん……でも、今晩の宿屋はどうするつもりなんだい?」
勇者「えっ……? それは……」
男武道家「うんうん……」
勇者「いや……結論は出てませんけど……」
男武道家「あっ、じゃあさ? その魔法で帰るしか方法はないんじゃないの?」ニコニコ
勇者「何で、そんなに嬉しそうなんですよ……僕達は帰りませんって……」
男武道家(……チッ)
勇者「?」
80:
男武道家「じゃあさっ! こうしようっ! 僕が君達の宿の面倒みてあげるっ!」
勇者「えっ!?」
天童「えぇっ!?」
男武道家「何だよ、君達……何を驚く事があるのよ……?」
勇者「ドケチの男武道家さんが!?

天童「銭ゲバの男武道家さんが!?」
男武道家「……君達は本当に失礼。本当にっ!」
勇者「あ、あはは……」
天童「すんましぇ?ん」
男武道家「でもさぁ? 法外な値段ふっかけられたら、宿屋には泊まらないよ?」
勇者「えっ?」
81:
男武道家「もし、法外な値段をふっかけられて、三日間滞在できなさそうなら、その勇者君の魔法使おうよ?」
勇者「……えっ?」
男武道家「それで……皆で大陸に帰る……これでいいじゃない?」
勇者「う?ん……」
男武道家「まぁさ? 宿屋が安かったら、問題はないんだからさ? いい条件じゃない?」
勇者「う?ん……現状では、この決断がベストなのかな……?」
男武道家「そうだよっ! この決断がベストだよっ! ねっ、だから、早く宿屋で料金聞いて、とっととこんな大陸からおさらばしようっ!」
勇者「……えっ?」
男武道家「あっ、違う違うっ! 宿屋が安いといいよねっ! さっ、ほら、勇者君荷物運ぶの手伝ってよ」
勇者「あっ……はい……」
82:
宿屋ーーー
宿屋の主人「一人、一泊16'000Gだ。オラ、とっとと金払え」
男武道家「あらっ! こりゃ、高いっ! 困ったなぁ?、僕には手も足も出ないや」ニコニコ
勇者「……なんで、そんなに嬉しそうなんですよ? あの、もうちょっと、安くなりませんかねぇ?」
主人「文句があるなら、とっとと帰りな」
男武道家「はいっ! 帰りますっ! 僕達、帰りますっ! さぁさぁ、勇者君? とっとと、こんな街から帰ろうよ」
勇者「あの……ちょっと、いいですか……?」
主人「……あぁ?」
男武道家「……あれ? 勇者君、どうしたの?」
83:
勇者「こんなに、料金が高いと……冒険者はいなくなってしまうと思うんですよ……」
主人「……」
勇者「冒険者いなくなったら……魔物も増えて……」
主人「……」
勇者「魔物が増えると……物資も、とれなくなって……」
主人「……」
勇者「物資が取れなくなるから……こうやって、物資も上がって……負のスパイラルだと思うんですよねぇ?」
主人「……」
勇者「一つ、変えるだけで……凄く物事がスムーズになって……いい流れが来ると思うんですけど……」
主人「うるせぇっ! 何だ、てめぇはっ! 一々うるせぇよっ!」
勇者「!」ビクッ
90:
主人「金が払えねぇなら、とっとと帰れよっ!」
勇者「……何か、事情があったりするんですかね?」
主人「あぁ? 事情? なんだそりゃっ!?」
勇者「……病気の家族の方がいるとか」
主人「いねぇよ、そんなもんっ! 何、言ってるんだてめぇ!」
勇者「……じゃあ、どうしてこんなに高い料金なんですかね?」
主人「こっちの大陸は、こういう相場なんだよ! おめぇらは何も知らねぇんだな!」
勇者「……でも」
主人「うるせぇっ! 文句があるなら、とっとと帰りやがれっ! てめぇらみたいな客、こっちから願い下げだバカ野郎っ!」
男武道家「あっ、そうですね。じゃあ、僕達帰ります。 ほらっ、勇者君、帰ろ帰ろ」ニコニコ
勇者「……」
91:
ーーーーー
天童「……なぁ、勇者?」
勇者「……」
天童「だから、何でおめぇは俺の言う事聞かずに、ゴネるんだよぉ?」
勇者「……」
天童「おめぇ、死んじまうんだぞ? 今回はおめぇに決定権はねぇんだよ?」
勇者「そう……俺に、決定権はない……」
天童「わかってんならよぉ……」
勇者「……だから、天童?」
天童「……ん?」
勇者「お前に判断してもらいたいんだ……それと、女僧侶ちゃんにも……」
女僧侶「……えっ?」
92:
勇者「宿屋の人と、俺の会話を見て……どう、思った……?」
天童「……あぁ?」
女僧侶「どういう……事ですか……?」
勇者「二人の素直な感想が聞きたいんだ……」
天童「……何、言ってんだお前?」
女僧侶「あの……私は……」アセアセ
勇者「うん、女僧侶ちゃんも……聞かせて……?」
93:
女僧侶「あの……上手くはいえないんですけど……」
勇者「うん……」
女僧侶「……この街に、何かが起こってるような気がします」
勇者「……」
女僧侶「やっぱり、勇者さんの言う通り、物価の高さで、冒険者が減って、また物価が上がって……」
勇者「うん……」
女僧侶「上手くは言えませんが……二人が話しているのを見ていると、何かおかしな物を感じました」
勇者「……うん」
女僧侶「私は今、この街から去るのは反対です。この街には何かが起こってるような気がします」
94:
勇者「……天童は?」
天童「まぁ、俺もよぉ?」
勇者「……」
天童「この街には、きな臭い何かがあるような気がするね!」
勇者「うん」
天童「病気の家族もいねぇなら、どうしてあんなに金が必要なんだよ?」
勇者「……うん」
天童「宿屋なんて、せいぜい布団貸すぐらいだろ? あんなに料金取る意味がわかんねぇよ!」
勇者「……そうだね」
天童「いくらなんでも、この街の連中はおかしいっ! 物価が上がるったって、限度ってもんがあるぜ」
勇者「……うん」
天童「俺も……この街から去るのには反対だね。 何かが起きてるような気がするよ」
95:
勇者「……やっぱり、二人もそう思う?」
天童「……あぁ?」
女僧侶「……勇者さんも、そう思うんですか?」
勇者「やっぱり……俺、一人だけだったら、思いすごしかもしれないからさぁ? 二人の意見も聞いてみたかったんだ」
天童「なるほどねぇ……命題を上手い事利用したじゃねぇか……」
女僧侶「だから……あんな風に主人さんに色々言ってたんですね……」
勇者「俺も……この街から去るべきじゃないと思う」
天童「……これは、おめぇの決断じゃなくて、皆の決断だから、決定だなっ!」
女僧侶「はいっ! そうですねっ!」
男武道家「いやいや……ちょっと待ってよ、勇者君??」アセアセ
勇者「……ん?」
96:
男武道家「僕、言ったよねぇ? 宿屋の料金が高かったら、勇者君の魔法で帰るって!」
勇者「いや、でも……この街は……」
男武道家「『でも』じゃないよっ! 僕の意思は!? 君達がこの街に残るんだったら、僕どうやって帰ればいいんだよ!?」
勇者「う?ん……それは……」アセアセ
天童「……男武道家さん」
女僧侶「男武道家さん……」ニコニコ
男武道家「……ん?」
97:
天童「こりゃ、あんたも腹くくらんといかんばいね?」
男武道家「えっ……?」
女僧侶「私達に、協力していたただけますか?」ニコニコ
男武道家「えっ……なぁ?んで、僕が……君達に協力する義理なんてないよ……」アセアセ
天童「カァ?! なぁ?に、言っとばいっ! 人をあんなはした金でこき使っておいて! 今度はあんたに、働いてもらわなきゃいかんばいっ!」
男武道家「いやいやいやいや……! お金、払ったんだからいいでしょ! 払ったんだからっ!」
女僧侶「私は無給でしたので……では、その分という事で……」ニコニコ
男武道家「あれはさぁ……? 違うでしょ? 女僧侶ちゃん、自分から『無給で働きたいっ!』なんて言い出したじゃん?」
天童「……あれっ? 女僧侶ちゃんそうだったっけ?」
男武道家「ねっ、ねっ? そうだよね? 女僧侶ちゃん、そう言ったよね?」
女僧侶「ふふ、存じ上げませんわ」
男武道家「!」
勇者(うわぁ……天童はともかく、女僧侶ちゃんって、あんなのだったっけ? やっぱり、無給の事怒ってたのかな?)
98:
ーーーーー
天童「ハイ?、いいですかァ?? 皆さん、よく聞いて下さいィ??」
勇者「おっ……久しぶりの金八ネタだな……」
天童「今からァ?? 我々四人でぇ?、このおかしな街を調査しまぁ?すぅ」
女僧侶「はい」
天童「文句のあるバカちんはいませんかァ?? そんな子はァ?、先生のハンガーヌンチャクでぇ?、お仕置きしますから注意して下さいィ?」
男武道家「くそっ……僕はまだ納得してないぞ……僕はまだ……」ブツブツ
天童「はい、そこォ?! 文句を言わない、バカちんがァ?!」
99:
勇者「でもよ、天童? 調査って、何すんだ?」
天童「まぁ、情報収集が基本だね」
勇者「情報収集って……何、すんの……?」
天童「例えばよぉ? 物価が上がるにしても、いきなりドーンって値上るわけじゃねぇだろ?」
勇者「あぁ……確かに……いきなり100倍ぐらいに値上ったりしたら、大変だもんね?」
天童「だから、そこをよぉ? どういったタイミングで値上っていったか……冒険者達の反応はどうだったか……」
勇者「うん」
天童「そういう事を調べてみようぜ?」
勇者「……こんな物価の高い街に人はいるのかなぁ? あの人達だけじゃないの?」
天童「まぁ、やってみねぇとわかんねぇだろ! 今、午後5時だから……まぁ、日が堕ちる前になんとかしようぜ!」
勇者「そうだね。 今夜の宿の事も考えないといけないしね」
100:
PM7:00
ーータイムリミットまで後、18時間
101:
勇者「なぁ、天童? 街人誰もいねぇじゃねぇか?」
天童「う?ん……一人ぐらいいてもいいんじゃねぇかなぁ……?」
勇者「でもよぉ? ここ、一食5'000Gもするんだぜ? こんな街に住めるかねぇ?」
天童「やっぱり、皆大陸渡っちまったのかねぇ?」
勇者「俺はそんな気がするよ……? だって、こんな街じゃ住めねぇじゃん……」
天童「って事は……この街にいるのは、街長さんと……道具屋の主人と……酒場の主人と……宿屋の主人だけか……」
ポツ……ポツ……
勇者「……ん?」
天童「あっ、雨かっ! くそっ、宿も決まってねぇのに、ついてねぇなっ!」
102:
勇者「……なぁ、天童?」
天童「ん、どうした? 何か閃いたのか?」
勇者「いやいや、そうじゃないけど……」
天童「じゃあ、どうしたんだよ?」
勇者「いや、お前の持ってる爆弾さぁ……?」
天童「……ん? これがどうした?」
勇者「それ、濡らして大丈夫なの? 使い物にならなくなるんじゃねぇの?」
天童「……」
勇者「……」
天童「……あっ!」
勇者「『あっ!』じゃねぇよ、バカっ! 男武道家さん、うるせぇぞっ!?」
103:
ザー……ザー……
勇者「おいおいっ……! 本降りになって来たぞっ……!」
天童「こりゃ、何処かで雨宿りできる場所探さねぇといけねぇなオイっ!」
勇者「どうする? 宿屋にでも行く?」
天童「バカっ! あそこ、いくらすると思ってるんだ! そんな金ねぇよっ!」
勇者「じゃあ……ど、どうしよう……」アセアセ
天童「とにかく一度、女僧侶ちゃんと男武道家さんと合流しようっ! 勇者っ! 戻るぞっ!」
勇者「う、うん……」
104:
ーーーーー
女僧侶「あっ! 勇者さんっ、天童さんっ!」
勇者「あっ、女僧侶ちゃん……酷い雨だねぇ?」
天童「水も滴るいい男……なんて、言ってる場合じゃねぇな、コレ」
女僧侶「あの……? 街の方って、誰かいました……?」
勇者「いやっ……こっちは誰も……」
天童「女僧侶ちゃんの方は……?」
女僧侶「あの……私の方も見つからなくて……」
勇者「あ?、やっぱり……」
天童「やっぱり、あんな物価の高い街じゃ暮らせねぇからねぇ……」
女僧侶「あの……それで、私……道具屋の方へ、行ってみたんですよ?」
勇者「……道具屋?」
天童「……なんでまた?」
女僧侶「ほらっ! 家族の方がいるって言ってたじゃないですか!」
勇者「あ?、そういや、言ってたねぇ?」
105:
女僧侶「それで、家族の方にお話を聞こうと思ったんですが……」
勇者「どうだった? 何か、情報はあった?」
女僧侶「いえ……それが、いなかったんですよ……」
勇者「……えっ?」
女僧侶「家族の方が何処にも……いなかったんです……」
勇者「……」
女僧侶「あの人、家族の為って言ってたのに……どうしてでしょう……?」
勇者「これは、ますます怪しくなってきたね……?」
女僧侶「……えぇ」
天童「おいっ! 推理もいいけどよぉ? 雨、どうするよ! 雨をよぉ!?」
「あ?! や?っぱり、爆弾濡れちゃってるや! どうするの!? もう使い物にならないよソレっ!」
天童「……おっ、男武道家さんも戻ってきたか」
106:
男武道家「もうっ! 君達は本当に使い物にならないなっ!」
勇者「あっ……すいません……」アセアセ
男武道家「それで? 何か情報は掴んだの? どうせ、何も仕入れてないんでしょ?」
勇者「あっ……うっ……」
男武道家「ほらっ! あんな物価の高い街に人がいるわけないじゃんっ! 本当にバカだな、君達は!」
勇者「男武道家さんは……何か情報仕入れてきたんですか……?」
男武道家「あぁ、僕は君達と違って、頭がいいからね! 情報ぐらい仕入れてきたよ!」
勇者「えっ……? 何処でですか?」
男武道家「船着場だよ、船着場! こういうのは、ああいった街より、少し離れた場所の方がいいの」
勇者「あ?、なるほど……じゃあ、聞かせてもらっていいですかね……?」
男武道家「それよりさぁ!? 爆弾どうすんのよ! 爆弾っ! それ、使い物にならないじゃないかっ!」
勇者「あっ……すいませんっ……」アセアセ
男武道家「それに、この雨っ! 何処か、雨宿りできる場所見つけてよ! 君、リーダーなんでしょ?」
勇者「え、えぇっ……?」
107:
男武道家「ほらほらっ! 早く雨宿りできる場所言ってよ、勇者君っ!」
勇者「え?っと……じゃあ、宿屋とかどうですかね……?」
男武道家「あんな、高い料金の場所!? 君がお金払うの!? それだったらいいよ!」
勇者「うぅ……どうしよう……困ったな……」
男武道家「爆弾ダメにしたんだから、それぐらいは考えなよっ! ほらっ、何処でこの雨凌ぐのっ!?」
勇者「え?っと……う?んっと……ど、どうしよう……?」
男武道家「……思いつくまで、耳元で嫌味言い続けてやる」
勇者「……ん?」
男武道家「爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ
勇者「や、やめて下さいよっ……! 耳元で爆弾爆弾って……色んな意味でおっかないですよ……」アセアセ
男武道家「うるさい……爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ
勇者「も?う……」
女僧侶「あっ!」
108:
勇者「ん……? どうしたの、女僧侶ちゃん?」
女僧侶「勇者さん? その爆弾を使うはずだった洞窟とかどうですか?」
勇者「あっ……!」
女僧侶「ほら、洞窟ならこの雨も凌げそうですし……」
勇者「いいね、うん。よしっ! 女僧侶ちゃん、その決断採用!」
男武道家「でもさぁ? 洞窟って、魔物とかいるんじゃないの?」
勇者「でも……ここで、ずぶ濡れのままよりかはいいでしょ? 風邪ひきますよ?」
男武道家「……そうだね。勇者君達はバカだから、ひかないけど、僕はひいちゃうしね」
勇者「も?う……そんなに嫌味言わなくてもいいでしょ……」
男武道家「うるさい……爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ
勇者「2Gぐらい、後で払いますから……ほら、洞窟行きましょう……」
110:
PM8:00
ーータイムリミットまで後、17時間
111:
天童「よしっ、洞窟到着だなっ! まぁ、これで雨風は凌そうじゃねぇか!」
勇者「そうだね。今日は、ここに泊まる? ここだったら、雨も凌そうだし」
天童「でもよぉ? この洞窟には魔物がいるんだろ? それをなんとかしねぇとよぉ……?」
勇者「あっ、そっか……魔物もいるのか……」
「きゃぁっ!」
天童「……ん?」
勇者「……人の声!?」
113:
娘「あのっ……! 冒険者の方ですかっ……! 助けて下さいっ!」
天童「おうおう、姉ちゃん! こんな洞窟でどうしたんだ?」
勇者「何かあったんですか?」
娘「あのっ……魔物に襲われてっ……!」アセアセ
天童「何ィ!? やっぱり、魔物がいるのか!?」
勇者「それで……魔物は何処に……?」
娘「私の……私の後ろにっ……きゃあっ……!」
ザクッ
天童「……えっ?」
勇者「……えっ?」
娘「……ググッ」バタッ
114:
天童「お、おいっ……! 勇者ァ! おめぇが、もたもたしてるせいでやられちまったぞ、あの姉ちゃん!?」アセアセ
勇者「えっ……? 俺のせい……? いや、でも今のはさぁ……?」アセアセ
娘「あれっ……? 冒険者の方ですか? こんな場所に、珍しいですね?」
天童「……ん?」
勇者「あ、あれっ……?」
娘「どうしたんですか? そんなに驚いた顔をして?」
天童「あ、あんたっ……! さっき、斬られてやられたんじゃ……」
勇者「な、なんで、そんなにピンピンしてるんですか!?」
娘「……あぁ、それはですね。 その倒れてる奴、よく見て下さいよ?」
天童「……ん?」
勇者「……ん?」
魔物「ガ、ガガッ……!」ピクピク
115:
勇者「あれっ……? やられてたのはこの女の人だったのに、いつの間にか魔物になってるっ!?」
天童「手品か!? あんたに、手品師か!?」
娘「いやいや……手品師じゃありません……」
勇者「じゃあ、何で……」
天童「鳩を出せっ! 口からトランプを出せっ! バニーちゃんに変身してみて下さい、お願いしますっ!」
娘「……」
勇者「……おまぇは、ちっと黙ってろよ」
天童「あっ、すんましぇ?ん……」
娘「え?っと……いいですか? この魔物は人間に変身する能力を持っているんですよ」
116:
娘「ある日、この魔物が四匹、私達の街にやってきました」
勇者「……四匹?」
娘「この魔物は人に変身する能力を使い、街人になりすまして、我々の街を乗っ取ろうとしています」
勇者「!」
娘「……私の父も、この魔物に殺されてしまいました」
勇者「……えっ? じゃあ、君?」
娘「……私の父は道具屋を経営していました」
勇者「!」
娘「私と母は街を追い出され……この洞窟へと追いやられてしまいました」
勇者「……」
娘「まぁ、彼らにとっての誤算は、私達の力が予想以上に強かった事ですね」
勇者「……えっ?」
117:
娘「おそらく、彼らはこの洞窟で、私達があっさりと、力尽きると思ったのでしょう」
勇者「……」
娘「こうやって、私達が魔物を倒して、街へこれ以上侵略される事を防いでいます」
勇者「……なるほど」
娘「……しかし」
勇者「……ん?」
娘「それそろ、後発部隊の届かない彼らも苛立ってくる頃でしょう……何か、仕掛けてくるような気がします……」
勇者「……あっ!」
娘「あなた達は街から来たのですか? 今、街はどうなっているんですか!?」
勇者「あ?、いやぁ?、それは……」アセアセ
118:
男武道家「はっきり言おうか? 状況は最悪だよ?」
娘「……えっ?」
勇者「ちょ、ちょっと……! 男武道家さんっ……!」アセアセ
男武道家「いいじゃないか、勇者君? どうせ、言わなくちゃいけないし」
娘「……」
勇者「いや、でも……」
男武道家「まずね、君達……君達は爆弾で殺されようとしてたよ? 魔物が何か仕掛けてくるって予想……正解」
娘「!」
勇者「ちょっと……! 男武道家さんっ……!」
男武道家「まっ、間一髪だったね? でも、こんな所で戦ってないで、街の魔物を始末した方がよかったんじゃない?」
119:
娘「街の魔物は……この洞窟の魔物と違い……強い力を持っているので……私達では手の出しようがないのです……」
男武道家「……ふ?ん」
娘「でもっ……! 冒険者の方が倒してくれればっ……!」
男武道家「……どうなるの?」
娘「街に平和が戻って……この洞窟へも援軍が来て……また、いつものような生活に……」
男武道家「まっ、お父さんはもういないけどね?」
娘「!」
勇者「ちょ、ちょっとっ……! 男武道家さんっ……!」
男武道家「いいじゃない? 彼女には現実を教えてあげないとさ? ねぇ、この洞窟へいつまで立っても援軍が来ないって、おかしいと思わない?」
娘「……えっ?」
120:
男武道家「街へ行った四匹の魔物は、街長……酒場の主人……宿屋の主人……そして、君のお父さん、道具屋の主人に、なりすましてるんだね?」
娘「……はい」
男武道家「それだけ、重要な役職を全て乗っ取られたのなら、もう壊滅だよ、君の街は」
娘「!」
男武道家「僕が船着場で聞いた情報によると、ある日突然、全ての物価が100倍に上がったらしい。 魔物に成り代わった時だろうね」
娘「そ、そんなっ……」
男武道家「店の主人だけならともかく、街長まで抑えられてるんじゃ、しょうがないよね? 街人や、冒険者は泣く泣く大陸を渡ったらしいよ」
娘「……」
男武道家「援軍が来ない時点でおかしいと思わなかった? こんな場所にいるより、お父さんの敵討ちに行った方がいいんじゃないの?」
娘「しかし……ここの魔物は繁殖能力が高く……この洞窟を放置したとすれば……」
121:
天童「まぁ、状況は確かに不味いけどよぉ? 全ての謎がこうやって解けたのは一つの光明じゃねぇか! なぁ?」
勇者「……ん?」
天童「今からよぉ? 街に戻って魔物をぶっ倒せば、あの街に救えるんだろ?」
勇者「そうだね」
天童「まぁ、今回はこの決断で決定だなっ!」
女僧侶「天童さん……? 先にこの洞窟の安全を確保した方がいいんじゃないですか?」
勇者「……ん?」
女僧侶「この洞窟の魔物が力をつけたら、また大きな問題になりまあえんかね? 私は今のうちに、この洞窟を制圧するべきだと思います」
勇者「……えっ? えぇっ?」
女僧侶「この洞窟を制圧するなら、戦力もあり、万全の体制の今ですよ」
122:
男武道家「……僕はもう、勇者君の魔法で帰りたいんだけど?」
勇者「えっ……? えっ……?」
男武道家「わざわざ、僕達首突っ込む話じゃないでしょ? お金ももらえないんだし」
勇者「い、いやぁ……」
男武道家「勇者君、もう帰ろうよ?? それで爆弾の事はチャラにしてあげるからさぁ??」
勇者「う、うわぁ……皆、バラバラの決断だよ……? ど、どうしよう……?」アセアセ
女僧侶「私は……勇者さんの決断に任せます……」
男武道家「僕も! 魔法を使えるのは、勇者君なんだし、勇者の『帰る』の一言待ちだよ?」
勇者「え?っと……え?っと……ど、どうしよ……」アセアセ
123:
勇者「え?っと……」
女僧侶「……」
男武道家「……」
勇者「えっ……これ、俺の決断待ち……?」アセアセ
女僧侶「……はい」
勇者「え?、でも……」
男武道家「……」
勇者「でも、俺……決断したら、死んじゃうし……な、なぁ? 天童、どうしよう……?」アセアセ
天童「……なぁ? 勇者?」
勇者「……ん?」
124:
天童「皆……お前に任せるって言ってんだ」
勇者「……えっ?」
天童「それぞれが、意見を出し合って、お前に希望を言ってるんだ」
勇者「う、うん……」
天童「お前は、皆の意見を尊重する決断を出すんだ……皆もその決断を待ってるんだ……」
勇者「……えっ?」
女僧侶「……」
男武道家「……」
天童「……これは、お前一人の意見じゃねぇ。皆の決断だ」
勇者「う、うん……」
天童「おめぇはよぉ、何もねぇ所からよぉ? 意見を出すんじゃねぇだろ? 皆で力を合わせて、一つの意見を出すんだよ!」
勇者「……」
天童「さぁ、勇者っ……! 命題になんてビビってねぇで、決断してみろやっ!」
125:
勇者「じゃ、じゃあ……」
女僧侶「……」
男武道家「……」
勇者「まずは、この洞窟を制圧しようっ!」
女僧侶「はいっ!」
男武道家「街の魔物はその後……って事かな……?」
勇者「そうです。この洞窟の制圧後の皆の状態を見て、そのまま街に行くか……ここで一旦休むか、決めましょう」
女僧侶「わかりました」
男武道家「ここなら、雨風凌そうだし……ね……?」
勇者「それで……全てが終わったら、男武道家さんを僕の魔法で向こうの大陸へと送り届けます」
女僧侶「ですって? よろしいですか、男武道家さん?」
男武道家「あれ? 冗談で言ったつもりだったのに、本気で考えてくれてたんだ?」
勇者「……えっ?」
女僧侶「……えっ?」
男武道家「いいよいいよ、どうせなら、僕も最後までやるよっ! 僕だけ仲間外れなんて、さみしいじゃないか! 君達っ!」
126:
天童「よしっ! じゃあ、洞窟制圧大作戦! 始めましょうかっ!」
勇者「よしっ! じゃあ、皆離れちゃいけないよ!」
娘「待って下さいっ……!」アセアセ
天童「……ん?」
勇者「どうしたの……?」
娘「この洞窟では、固まって行動していけませんっ! 個人行動して下さいっ!」
天童「……なんで、また?」
勇者「……何か、理由でもあるの?」
娘「魔物は変身能力を持っているんです! 同士討ちの危険性がありますっ!」
天童「あ?、なるほどね……」
勇者「個人行動かぁ……これはキツそうだなぁ……」
天童「まぁ、愚痴っても、しょうがねぇだろ! それに、これも他人決断だっ!」
勇者「……そうだね。じゃあ、行こうか?」
127:
AM2:00
ーータイムリミットまで後、11時間
132:
女僧侶「はぁ……はぁ……やっぱり、個人行動となると……疲れますね……?」
男武道家「あ?! 僕、もう動けないっ! ねぇねぇ、女僧侶ちゃんは何匹倒したの?」
女僧侶「私は8匹です」
男武道家「なんだよ!? 僕の半分じゃないか! 僕、16匹も倒したんだよ?」
女僧侶「えっ……! 男武道家さん、そんなに倒したんですか!?」
男武道家「まぁ、女僧侶ちゃんは戦闘向きじゃないからね。 8匹でも十分だよ。十分」
女僧侶「ありがとうございます」
男武道家「それで……? 勇者君は何匹倒したの? 女僧侶ちゃんより少なかったら、承知しないよ、僕?」
勇者「えっ……? 俺……? 俺は……ちょっと……わかりません……」
133:
男武道家「なんだよ、勇者君っ! 君がそんなのでどうすんのよ!? このパーティー、纏めてるんでしょ?」
勇者「あっ……いや、そうじゃなくて……」アセアセ
男武道家「……ん?」
勇者「いや……25ぐらいまでは数えてたんですけどね……? そこから先はもう覚えてなくて……」
男武道家「……あら? 君、そんなに倒したの?」
勇者「いやぁ……ありがとうございます……」
男武道家「くそっ……ちょっと、面白くないな。僕が一番だと思ったのに……じゃあ、天童さんは?」
134:
天童「俺はよぉ? 世・死・見の、43匹だよ。まっ、俺が一番活躍したな」
男武道家「世死見だったら、443匹じゃない……足りないよ? 後、400匹倒してきなさい」
勇者「……おめぇ、本当にそんなに倒したのか?」
天童「いやぁ?、個人行動だったからよぉ?? 俺の活躍を皆に見せれないのが残念だったぜ!」
男武道家「本当はそんなに倒してないでしょ? 本当の事、言いなさい。 怒らないから、絶対に怒らないから」
勇者「おめぇ……もしかして、女僧侶ちゃん以下って事はねぇだろなぁ?」
天童「バ、バカ?ンっ! ちゃんと、43匹倒したよぉ? 何でそんなに疑うんだよ!? 君達は失礼だなぁ?」アセアセ
男武道家「……なぁ?んか、天童さん怪しいね?」
勇者「……ねっ?」
天童(く、くそっ……言えないっ……! 俺が7匹で最下位だなんて、言えないっ……!)アセアセ
136:
天童「まぁ、でもよぉ? これで、この洞窟は制圧したな!」
勇者「そうだね」
天童「後は、街にいる四匹の親玉だけだな……」
勇者「う、うん……」
天童「……で、勇者? どうするんだ?」
勇者「……えっ?」
天童「今から、ぶっ倒しに行くのか……? それとも、一度、休むのか……」
勇者「……」
天童「おめぇの決断待ちだよ? どうすんだ? 確認しておくけど、一人で決めるんじゃねぇぞ?」
勇者「う、うん……」
137:
勇者「……女僧侶ちゃんはどう?」
女僧侶「……えっ?」
勇者「今から、強い魔物と戦えるだけの力はまだ残ってる?」
女僧侶「あ、あのっ……! 勇者さん……!」アセアセ
勇者「どうしたの?」
女僧侶「あの……私、個人行動は始めてで……その……魔力も使い果たしてしまって……」
勇者「……うん」
女僧侶「今、街に向かっても……皆さんに迷惑をかけるだけのような気がするんですよ……」アセアセ
勇者「……うん」
女僧侶「出来る事なら……少し、魔力回復の為の時間を頂きたいです……」
勇者「わかった。……男武道家さんは?」
138:
男武道家「まぁ、僕は今から行ってもいいんだけどね……勇者君と、天童さんは強いみたいだし」
勇者「いやぁ……天童の事は信用しちゃいけませんよ……?」
男武道家「まっ、僕としては一度休みたいかな? わざわざ、こんな雨の中行きたくないし」
勇者「……そういう理由なんですか?」
男武道家「あっ! 君、何か勘違いしてるな!? あのねぇ、武道家ってのは、己の肉体が武器なの? 君達みたいに、武器に頼ってないの?」
勇者「はぁ……」
男武道家「僕はねぇ? 君達より、ずっと頑張ってるし、ずっと疲れてるんだよ? そこの所の気持ちを汲み取って欲しいなぁ、僕は!」
勇者「じゃあ、武道家さんも一度、休憩を挟みたいと……」
男武道家「まっ、そういう事だね」
139:
勇者「それじゃあ……皆の体力の事も考えて……今日は、この洞窟で休んで行きましょうか?」
女僧侶「ありがとうございます」
男武道家「まっ、それが賢明な判断だね?」
勇者「皆が休んでる間、誰かが見張り番をしないといけないんですが……その順番は……」
天童「ねぇねぇ、勇者君? 勇者君?」
勇者「……ん? どうしたの、天童?」
天童「ねぇ、僕の意見は? どうして僕の意見は聞いてくれないの? 勇者君、死んじゃうよ?」
勇者「いやいや、皆、休みたいって言ってるじゃん? どうせ、おめぇも同じ意見だろ?」
天童「わかっててもよぉ!? 聞いてくれてもいいじゃねぇか!? 俺、疎外感、感じてるぜ? 寂しいよ、勇者君っ!」ギャーギャー
勇者「わかったよ、わかったよ、うるせぇなぁ……じゃあ、天童はどう思うの?」
140:
天童「勇者君……僕の意見はこうだ……」キリッ
勇者「……あぁ?」
天童「先ず、この洞窟での戦闘で皆、疲れている……だから、今日は一度休もう……」
勇者「……言ったよ。それ、言ったって」
天童「この洞窟なら、雨風も凌げるからね。 そして、それなら皆が休んでいる間の見張り番を決めるべきだと思う」
勇者「……決めようとしてたよ。それも、今から決めようとしてた」
天童「順番は……そうだな……勇者君、男武道家さん、女僧侶ちゃん……そして、最後に私……この順でどうかな?」
勇者「おめぇが最後なのは、ちょっと気に食わねぇけどな? でもまぁ、それでいいんじゃね?」
天童「そして、皆の体力が回復したら、街へ向かうのだが……その前に、一つやる事があると思わないかね?」
勇者「……はぁ? なんだよ?」
天童「食糧の確保だよ? 食糧の確保だよ、勇者君?」
勇者「……あっ?」
141:
天童「皆、今日は何も食ってねぇぜ? こんな状態で魔物と戦って、勝てるのか?」
勇者「う、うん……じゃあ、今から探しに行く……?」
天童「こんな、体力も使って、雨も降ってて、暗闇の中か?」
勇者「あっ……そうか……」
天童「とにかく、今は大人しく、この洞窟で我慢した方がいいと思うんだよ? 食糧は明日の朝でもいいんじゃねぇか?」
勇者「……そうだね」
天童「……とまぁ! これが私の意見だ! どうだい? 参考になったかね? 勇者君?」
勇者「……なんかさぁ? 上手い事、美味しい所だけ取られたような気がするのは気のせいかな?」
天童「バカ?ンっ! おめぇはよぉ? 他人の決断に任せねぇといけねぇから、俺がこうやって、ベストな意見を出してやってんじゃねぇか!」
勇者「……本当かねぇ?」
142:
勇者「じゃあ……まぁ、天童の意見を参考にして……」
女僧侶「はい」
勇者「今日はこの洞窟で、皆で休む事にしよう」
男武道家「勇者君、テント貸してね?」
勇者「見張り番は……俺、男武道家さん、女僧侶ちゃん、天童の順で……一人、一時間ずつ」
天童「よっしゃっ!」
勇者「二巡ぐらいしたら、皆の体力も回復するかな? そしたら、次は食糧の確保に行こう」
女僧侶「……この大陸に食糧はあるんですかね?」
勇者「それは……やってみないとわからない……とにかく、今は体力の回復をしよう!」
男武道家「街の魔物と戦うのは昼ぐらいになりそうだね?」
勇者「そうですね……皆さん、明日はどうぞ、よろしくお願いしますっ!」ペコッ
天童「おめぇはよぉ? 何、他人行儀になってやがるんだ? それに、日付跨いでんだから、明日じゃなくて、今日の話だバ?カっ!」
勇者「あはは……やっぱり、慣れない事はするもんじゃないね……? まぁ、最初の見張りは俺だから、皆は休んでよ?」
143:
AM6:00
ーータイムリミットまで後、7時間
144:
勇者「……Zzz」
天童「……おい、勇者? 交代だ」
勇者「……ん、あれ? もう、三時間経って、二巡目回ってきたんだ?」
天童「……体調はどうだ? 回復したか?」
勇者「う?ん……やっぱり、中途半端に起こされるのと……ここ、寝心地悪いからさぁ……?」
天童「……」
勇者「やっぱり、全快……って、ワケにはいかないね? もう少し、休みたい……」
天童「女僧侶ちゃんも、交代の時同じ事、言ってたよ……まだ、魔力が回復してねぇみたいだ……」
勇者「……そうなんだ」
天童「……あぁ」
145:
勇者「……あれ、天童? 今、何時だ?」
天童「今は、6時だな……それがどうした?」
勇者「うわっ! もう、6時か! 朝じゃんっ!」
天童「……」
勇者「うわぁ……洞窟の中は暗くてよくわかんないけど、もう日が昇ってるんだよね?」
天童「……まっ、そうだね?」
勇者「なぁ、天童? これ、休憩はもうやめた方がいいかな? もう、行動した方がいいんじゃねぇか?」
天童「……あぁ?」
勇者「だってさぁ? もう、朝だよ? 二巡目待ってたらさぁ……? 10時になっちゃうじゃん?」アセアセ
146:
天童「……」
勇者「なぁ? 天童、どうしよう……?」アセアセ
天童「……まっ、おめぇの決断次第だね?」
勇者「……えっ?」
天童「このまま、二巡目待つか……今から、行動するかは……おめぇの決断に、皆乗っかってくれるだろうね」
勇者「でもさぁ……? 俺、決断したら、死んじゃうんだよ……?」
天童「おめぇは、命題来てから、何度も決断したじゃねぇか?」
勇者「!」
天童「でもよぉ? まだ、おめぇ死んでねぇよな? 何でか、わかるか?」
勇者「えっ……それは……わかんない……」アセアセ
147:
天童「それはよぉ? おめぇが、皆の期待に答えてるからだよ!?」
勇者「……期待?」
天童「おめぇはよぉ? 一人で決断してるように見えて、そうじゃねぇんだよ! 皆の意思を汲み取ってるんだよ!」
勇者「……」
天童「皆はおめぇなら、きっとうまく纏めてくれると思ってるから、おめぇに色々な意見をぶつけるんだよ!」
勇者「う、うん……」
天童「他人の決断に乗っかるってのは、流されるって事じゃねぇんだよ! こういう事なんだよ!」
勇者「う、うんっ……!」
天童「勇者ァ! ここが大きなポイントだぞっ!」
勇者「……えっ?」
148:
天童「もう、6時で朝だけどよぉ? 皆は二巡目を待ちたいか……それとも、今から行動したいか……どっちだと思うんだ!?」
勇者「……えっ?」
天童「言葉は届かないけどよぉ……? 皆はどっちを望んでいると思うんだ!?」
勇者「……」
天童「今からおめぇは、その『見えない他人の決断』に乗っからねぇといけねぇんだっ!」
勇者「!」
天童「ここを、間違えたら……おめぇ、死んじまうぞっ! さぁ、どっちだ!? おめぇが選ぶんだっ! 勇者ァ!」
勇者「う、うぅ……」
天童「自分の感情を捨てろっ! 冷静になって、周りの意思を尊重するんだっ! 他人の決断に任せるってのは、そういう事だっ……!」
勇者「……」
154:
AM10:00
ーータイムリミットまで後、3時間
155:
天童「朝だ、朝だよ?っとっ! ほれっ、皆、起きた起きたっ!」
女僧侶「うぅ、天童さん……おはようございます……」
天童「はいっ! おはようっ! 今日も一日、元気に頑張りましょうっ!」
男武道家「……」ボーッ
天童「はいっ、男武道家さんもおはようございますっ! どうしました? 朝は元気良く、挨拶をせねばいかんばいっ!」
男武道家「……僕は、低血圧なんだよ。ちょっと、天童さんうるさいよ?」
天童「はいっ! 勇者君もおはようっ! 勇者君、よく眠れたかい?」
勇者「う?ん……微妙……」
天童「さて、皆さん? 体調の方はどうですか? 体力は回復しましたか?」
156:
女僧侶「う?ん……やっぱり……昨日疲れが抜けてないんですかねぇ……?」
男武道家「……あっ、女僧侶ちゃんも? 僕も、筋肉痛でさ……? もう、歳なのかな? 嫌だな……」
勇者「えっ……? 二人共、まだ回復しきってないんですか……?」アセアセ
女僧侶「全快とは、言えませんけど……八割型は回復しましたね」
男武道家「……まっ、僕もそんな感じだね。勇者君は?」
勇者「そうですね……俺も全快とは言い辛いですが……でも、大丈夫ですっ!」
157:
男武道家「……今、何時?」
勇者「え?っと……今は、10時ですね……?」
男武道家「うわぁ……殆ど、丸一日、何も食べてないのか……」
勇者「そ、そうですね……」
男武道家「じゃあ、とりあえず、皆で食糧調達でも始めようか?」
勇者「……ん?」
男武道家「あれっ……? 勇者君、どうしたの?」
勇者「あの……男武道家さんって、そんな建設的な意見、出してくれる人でしたっけ……?」
男武道家「あのね? 君は失礼っ! 本当に、失礼っ!」
158:
男武道家「今日は街の魔物を倒しに行くんだろ? 昨日、君言ってたんじゃないの!?」
勇者「は、はい……」アセアセ
男武道家「それなのに、こ?んなお腹ペコペコの状態じゃ勝てるもんも勝てないよっ!」
勇者「そ、そうですね……」
男武道家「こういうのを、諺で何て言うか知ってる? ハイッ、天童さんっ!」
天童「腹が減っては戦は出来ぬっ!」
男武道家「そうっ! その通りっ! 僕は勝てる為を少しでも、上げる為に提案してるんだよ!」
天童「まっ、『武士は食わねど高楊枝』……なぁ?んて、諺もあるけどね?」
男武道家「天童さんは余計な事を言わないっ!」
159:
男武道家「それで、どうする? 勇者君? やっぱり、食糧調達は必要でしょ?」
勇者「そうですね」
男武道家「でも、あまり時間を掛けすぎるのもよくないだろ? 皆で、手分けして、ちゃちゃっと探そうよ?」
勇者「そうですね……じゃあ、一時間ぐらいにしましょうか……?」
男武道家「……一時間後に、またここで合流だね?」
勇者「はい」
女僧侶「あまり、無理のある行動は控えましょう。私達はこの後、街の魔物と戦わなくてはいけませんから」
勇者「そうだね。じゃあ、皆! 無理しないように、一時間、食糧調達をしようっ!」
160:
AM11:00
ーータイムリミットまで後、2時間
161:
天童「よっしゃっ! どうだっ! 木の実採って来たぜおいっ!」
女僧侶「私は、山菜を採ってきました」
男武道家「君達、頑張るねぇ? 肉体派だねぇ? 僕はそんなに無理はしないよ」
天童「あんた、武道家だから、肉体派でしょう?」
女僧侶「男武道家さんは……何をとってきたんですか?」
男武道家「僕はねぇ、一時間釣りをしてたよ。 いやぁ、休憩も出来るし、楽な仕事だったよ」
天童「……しまったっ! その手があったかっ!」
女僧侶「……何か、釣れましたか?」
男武道家「人数分はちゃんと釣ってきたよ? ほら、魚四匹?」
天童「あらっ? こりゃ、結構でかいね!?」
女僧侶「勇者さんは、何を採ってきたんですか?」
162:
勇者「……あ、あのっ」アセアセ
女僧侶「?」
勇者「ご、ごめんっ……! 俺、何もとってこれなかった……」
女僧侶「……そうですか」
勇者「あのっ……! 皆、頑張ったのに……俺だけ……」
女僧侶「……」
勇者「……本当にごめんっ!」
男武道家「まぁ……物資が少ない大陸だから、君みたいな、頭の悪い子にはしょうがないよね?」
勇者「す、すいません……」
男武道家「まぁ、料理当番したら、許してあげるよっ! ほらっ、さっさと、皆がとってきた食材、料理しなさいっ!」
勇者「は、はい……」
女僧侶「……」
163:
男武道家「……ねぇねぇ、女僧侶ちゃん、女僧侶ちゃん?」
女僧侶「……どうしたんですか?」
男武道家「勇者君ってさぁ……? 不器用だよね?」
女僧侶「……どういう事ですか?」
男武道家「あれ? 気づいてないの?」
女僧侶「……えっ?」
男武道家「勇者君さぁ? 個人行動してる、僕達の様子、ちょくちょく見にきてたでしょ?」
女僧侶「……えっ?」
164:
男武道家「僕達がさぁ? 食糧調達してる間に、魔物に襲われたら危ないじゃない?」
女僧侶「は、はい……」
男武道家「だから、皆の所を見回ってたんだと、思うんだけど……女僧侶ちゃんは気づかなかった?」
女僧侶「あ、あの……私、山菜採るのに夢中で……男武道家さんは、知ってたんですか?」
男武道家「まぁ、僕はずっと、休憩しながら、釣りしてたからね? そんなに、必死にやってないもん。そりゃ、気づくよ」
女僧侶「……」
男武道家「そういや、途中で魔物に襲われた時の事なんて、すっかり忘れてたよ。 いやぁ、なかなか、やる子だね、彼?」
女僧侶「はい! 勇者さんは変わりましたからっ!」
勇者「お?いっ! 魚、焼けたよ?っ!」
166:
天童「これ、食ったら、街へ向かうんだな?」モグモグ
勇者「そうだね……なんか……長い一日だったよ……」
娘「……」
天童「おい、まだ終わってねぇんだぞ? 気ィ、抜いてんじゃねぇよ」
勇者「あっ……ごめんごめん……」
娘「……」グゥー
天童「……ん?」
勇者「……あれ?」
娘「あっ……! いや、なんでもありませんっ……! ごめんなさいっ……!」
天童「……」
勇者「……」
娘「……」グゥー
167:
男武道家「うるせぇっ! 女っ! さっきから、グーグー腹鳴らしやがってよぉっ!」
娘「あっ……ご、ごめんなさいっ……」アセアセ
男武道家「ほらっ! 僕の半分あげるからさぁ! その、うるさい腹をなんとかしなよっ!」
娘「……えっ?」
男武道家「いいか? その代わり、君達は僕の事を英雄として讃えるんだ? 食糧を奢って、街を救った英雄としてね?」
女僧侶「男武道家さん? それ、順番逆じゃありませんかね? ……あっ、私のも半分どうぞ? 家族の方に差し上げて下さい」ニコニコ
娘「!」
168:
天童「だったら、俺もよぉ! 半分やるよ! 半分っ!」
勇者「あっ……じゃあ、俺も……半分……」
天童「バ?カっ! この流れだったら、おめぇは全部やる流れだろ! おめぇは空気読めねぇなぁっ!」
勇者「そ、それは……勘弁してくれよ……俺だって、腹減ってるんだから……」
娘「……」ボロボロ
勇者「……ん?」
娘「ありがとう……ございますっ……ありがとうございますっ……!」ボロボロ
勇者「……困った時はお互い様だよ」
娘「どうか……どうか……父の敵を討って……そして、街に平和を取り戻して下さいっ……!」ボロボロ
勇者「……」
娘「お願い……しますっ……!」
勇者「……うん。約束するよ」
169:
PM0:00
ーータイムリミットまで後、1時間
170:
街長「……どうした?」
勇者「……」
街長「金に困ったのか? その支援物資、買い取ってもらいたいんじゃな?」
女僧侶「……」
街長「まぁ、相場は日々変わるからな……それ、全部で500Gって所でどうだ?」
男武道家「……」
街長「なんじゃ、その顔は? 気に食わんなら、とっとと帰るがいい」
天童「……臭ぇ芝居は、もうやめにしようぜ? なぁっ! もうバレてんだよ! おっさんっ!」
勇者「おめぇが決めんのかよっ! 俺に言わせろよっ!」
171:
街長「……な、なんの事だっ!」
勇者「もう、わかってるんですよ……この街を、乗っ取ろうとしてる事をね……」
街長「な、何を言っておるのか……」アセアセ
勇者「洞窟にいる、道具屋の娘さんから、全てを聞きましたよ……」
街長「クッ……あのガキ……まだ、生きてやがったのかっ……!」
勇者「あなたを倒して……この街に平和を取り戻します……!」
街長「ええいっ! バレたのでは仕方ないっ! こんな醜い姿をしている必要も、あるまいなっ!」ボワンッ
勇者「!」
魔物「お前達っ! 集まれっ! こいつらを始末するぞっ!」
172:
魔物「よぉ、姉ちゃん? 買い物ありがとな?」
女僧侶「……くっ!」
魔物「なぁ?んで、宿屋泊まってくれなかったんだよぉ? 寂しいじゃねぇか?」
男武道家「……バカにしてんじゃないよ?」
魔物「おめぇ、堅焼きそば頼んだ奴だよな? 昼から、堅焼きそばって……おめぇ、センスねぇんじゃねぇか?」
天童「なんでだよっ! 堅焼きそば、美味いじゃねぇかよっ!」
魔物「これで……四対四だな……」
勇者「……くっ!」
魔物「いくぞっ! お前達っ! こいつらさえ始末すれば、以前変わりなく、この街は我々のものだっ!」
173:
ーーーーー
魔物「オラオラっ! どうしたっ! そんもんか? おいっ!」ガスガス
女僧侶「……ぐっ! うっ!」
魔物「おめぇ、あまり戦闘向きじゃねぇみてぇだな? オラオラっ! どうしたっ!」ガスガス
女僧侶「……くっ! 勇者さんっ!」
魔物「……あぁ?」
勇者「おらぁっ!」ガスッ
魔物「ぐっ……! てめぇ……! 割り込んでくるんじゃねぇよっ!」
勇者「……よそ見はあまり、よくないですよ?」
魔物「……あぁ?」
174:
男武道家「せいっ!」ガスッ
魔物「……ぐっ! くそっ! こっちにもいやがったかっ!」
天童「後ろにもいるばいっ!」
魔物「……何ィ!?」
天童「そ?れっ! どっこいしょ?っ!」ガスッ
魔物「……ガッ!」
女僧侶「皆さんっ……! ありがとうございますっ……!」
魔物「くっそぉ……こいつらちょこまか、ちょこまかしやがって……」
魔物長「なぁ?にをやっとるっ! 元、道具屋っ! お前はちょっと下がれっ!」
175:
魔物「長……申し訳ありません……こいつら、予想以上のコンビネーションで……」
魔物長「……だったら、そのコンビネーションを防げばいい話ではないか」
勇者「……んっ?」
魔物「……なるほど」
魔物長「奴らの連携攻撃を使えないように撹乱させてやればいい……」
勇者「……お前ら、何する気だ?」
魔物「ふふ……こうするんだよっ……!」
魔物長「はぁっ! 変化の術っ!」ボワンッ
勇者「!」
176:
偽勇者「よしっ、皆っ! この姿で戦うよっ!」
勇者「……なっ!」
偽僧侶「はいっ! これで、あの方達は、先程の連係攻撃は使えませんねっ!」
女僧侶「私達の……姿にっ……!」
偽天童「よっしゃっ! この姿で、あいつらを始末するばいっ!」
天童「おいおい……口調もそっくりで、見分けがつかねぇぞ、こりゃ……」
偽武道家「乱戦に持ち込んだら、奴らに見分ける術はないからねっ! 突っ込むよっ!」
男武道家「う、うわっ……! 来たよっ……! どうするのっ! どうするの勇者君!?」
177:
偽僧侶「……たぁっ!」バキッ
勇者「ぐっ……! くそっ……こいつは偽者かっ……?」
偽僧侶「あ、あれっ……? もしかして、本物の勇者さんですか……?」アセアセ
勇者「あ、あれっ……? もしかして、本物の女僧侶ちゃん……?」
偽僧侶「ご、ごめんなさい勇者さんっ……! 私、偽者と間違えてっ……!」アセアセ
勇者「あぁ、次からは気をつけてね……? 偽者の勇者はあっちだから……」
女僧侶「はいっ! わかりましたっ! 偽者は貴方ですね? えいっ! えいっ!」ガスッ
勇者「ぐあっ……! お、おめぇ……偽者だろ!? 騙しやがったな!」
偽僧侶「ふふ」
178:
天童「おいっ! 勇者っ! おめぇ、何やってんだよぉっ!」
勇者「違うよ……どれが本物で、どれが偽者かわかんないんだよ……」アセアセ
天童「言い訳してんじゃねぇよっ! このダメ人間っ!」バキッ
勇者「あっ!? おめぇも偽者だな! この野郎っ!」
天童「待てっ! 俺は本物だよっ……! 俺は本物っ!」
勇者「くそぉ……このやろっ……!」バキッ
天童「いてぇな、この野郎っ! おめぇ、天使にそんな事したら、罰当たるからなっ!」
勇者「あれっ……? 反撃してこないな……? こいつは、本物かな……?」アセアセ
182:
女僧侶「勇者さんっ! 私はこの自分の偽者の相手をしますっ!」
偽僧侶「……失礼なっ! 偽者は貴方でしょうっ!」
勇者「……ん?」
男武道家「だったら、僕はこいつと戦うよっ! 僕になりすますなんて、ムカつく奴だねっ!」
偽武道家「ムカついてるのはこっちの方だよっ! 君が偽者の癖に、よくそんな事が言えるねぇ!?」
勇者「……そうかっ!」
天童「勇者ァっ! 下手に味方に手を出しちまったらよぉ! 大変な事になるから、こいつは俺に任せて、おめぇは自分の偽者と戦いやがれっ!」
偽天童「 偽者の癖に、恰好いい事言うじゃねぇかっ! やっぱり俺だねっ! カァ?! 恰好よかぁ?!」
勇者「わかったっ……! 皆の決断に従うよ! 皆、頑張ってねっ!」
女僧侶「はいっ!」
男武道家「おうっ!」
天童「任せときんしゃいっ!」
183:
偽勇者「各自が、自分の偽者と戦うってワケだね……なかなかいい作戦じゃない……」
勇者「これでお前達の錯乱戦法は通じないぞっ……!」
偽勇者「だけど、連携攻撃も使えないよね……?」
勇者「……」
偽勇者「ほら? 戦ってる皆を見てみなよ? どっちが優勢なんだろうね? 君の仲間はピンチなんじゃないのかな?」ニヤニヤ
勇者「皆、そんな簡単に負けるような仲間じゃないさっ! 俺は仲間を信じるっ!」
偽勇者「……ふ?ん」ニヤニヤ
184:
PM0:40
ーータイムリミットまで後、20分
185:
偽僧侶「たぁっ! はぁっ!」ガシッ
女僧侶「……くっ!」
偽僧侶「はぁっ! たぁっ!」
女僧侶「くっ……! 回復魔法っ……!」ピカーッ
偽僧侶「どうしました? 先程から、回復魔法ばかりじゃないですか?」
女僧侶「くっ……! もう……魔力が……」
偽僧侶「あなたは戦闘向きではないようですね……そうやって、回復するので精一杯じゃないですか……」
女僧侶「はぁ……はぁ……」
偽僧侶「魔力の尽きたあなたなど……もう、恐れる事などありません……」
女僧侶「くっ……! やはり、完全には回復出来てはなかったようですね……」
偽僧侶「さぁっ! これで、とどめですっ! いきますよっ!」
女僧侶「!」
186:
偽僧侶「はぁっ!」ガシッ
女僧侶「!」
偽僧侶「……まず、一人!」
女僧侶「……」
偽僧侶「さて……長は押されているようですので……私は、長のサポートをしましょうか……」
女僧侶「……勇者さんは、優勢なんですね? よかったです」
偽僧侶「……貴方、何故、生きているのです? 魔力は尽きたはずでしょう?」
女僧侶「……高い、買い物でした」
偽僧侶「?」
女僧侶「あなたから、売って頂いた薬草のおかげですよ……なんとか、回復が間に合いました……」
偽僧侶「売るんじゃありませんでしたね……あんな物……」
女僧侶「はぁっ……はぁっ……」
偽僧侶「しかし、もう魔力の残っていないその身体で何が出来るんですっ! 寿命が少し伸びただけにすぎませんっ!」
女僧侶「……くっ!」
偽僧侶「さぁっ! これでとどめですっ! いきますよっ!」
女僧侶「!」
187:
男武道家「……ぐっ!」
偽武道家「いいねぇ、いいねぇっ! この身体っ! 武道家っていいじゃないかっ!」
男武道家「……くそっ!」
偽武道家「ほらほら! 回し蹴りだよっ!」バキッ
男武道家「……ぐっ!」
男武道家「次は、ローキックっ! ほらほらっ!」バキッ
男武道家「ぐっ……! くそっ……!」
偽武道家「いやぁ?! 武道家って面白いねぇ! ほら、次はハイキックだよ?!」
男武道家「……くっ! やばいっ! 防がないとっ!」
偽武道家「なぁ?んちゃって……ハイキック……か?ら?の?」
男武道家「……んっ?」
偽武道家「……フェイントでミドルキック! ほらほら、ボディががら空きだよ?」バキッ
男武道家「ガッ……!」
偽武道家「いや?、いいねぇ! 武道家って色んな技があって、面白いねぇ! とどめはどの技がいい? リクエストぐらいは聞いてあげるよ?」
男武道家「く、くそっ……こいつ……やるじゃないか……!」
188:
偽天童「おめぇの身体はよぉ? なぁ?んにも特技がねぇんだな! なんだ、この身体っ!」
天童「……君に、天使である私の身体は使いこなせないよ」
偽天童「……あぁ?」
天童「天使である私の身体は……君みたいな愚かな魔物には使えない……と、言っているんだ」
偽天童「……」
天童「……」
偽天童「……うるせぇよ! おめぇはよぉ!」バキッ
天童「痛っ……! 殴る事はねぇでしょ、あんた……!」アセアセ
偽天童「うるせっ! この身体、何も使えねぇんだから、こうするしかねぇじゃねぇかっ!」ガスガス
天童「痛い痛いっ……! ちょっとタイムっ……! ねぇねぇ! タイムタイムっ!」
偽天童「うるせぇよっ! 昔の二枚目っ! これでとどめばいっ! オラッ!」
天童「昔ってなんだよ! 昔って! ……って、やべぇっ!」
189:
勇者「はっ! やぁっ! たぁっ!」
偽勇者「……くっ! このままじゃ、全滅しちゃうよっ!」
勇者「たぁっ! てやっ!」
偽勇者「あっ! それとも、全滅するのは君達の方かな?」
勇者「……何?」
偽勇者「ほら、見てみなよ? 今、勝ってるのは……僕の仲間か……君の仲間か……どっちだと思う?」
勇者「……」
偽勇者「もし……君の仲間がやられたら……ふふ、四対一だね?」
勇者「皆……勝ってるはずだ……俺は皆の決断を信じるっ……!」
偽勇者「……本当にそうかな? 皆、君に助けを求めてるんじゃないかな?」
勇者「くっ……ど、どっちなんだっ……!」
偽勇者「……隙ありっ!」バキッ
勇者「……ぐあっ!」
191:
女僧侶「勇者さんっ……!」
男武道家「勇者君っ……!」
天童「くそっ……! 勇者ァっ!」
偽勇者「……今、助けを求めてるのは、君の仲間か、僕の仲間か、どっちなんだろうね?」ニヤニヤ
勇者「……」
偽勇者「助けに行く? でも、ひょっとしたら、自分の手で……仲間を殺しちゃうかもしれないね……?」
勇者「くっ……! どうしたらいいんだっ……!」
偽勇者「決断するのは君だ……仲間を助けに行くのか……ここで僕と戦うのか……リスクのある決断だね?」
勇者(多分……命題があるから……俺が助けると決断したら、皆を殺してしまう事になるだろう……)
偽勇者「さぁ、どうするんだい? 本物の勇者君?」
勇者(だから……きっと、皆は勝っているハズだっ……! きっとそうだっ!)
偽勇者「戦闘中に……あまり考えるのはよくないんじゃない……?」
勇者(だけど……! 本当にそうなのか? 皆は本当は助けを求めてるんじゃないのか!?)
偽勇者「バカがっ! 隙だらけだぞっ! 今のお前はっ! おらぁっ!」
勇者(個人で戦うという決断を尊称しつつ……! 皆を助ける方法っ……! 何か……何かあるはずだ、きっとっ!)
192:
偽僧侶「これで……! とどめですっ……!」
女僧侶「!」
勇者「えっと……ええっと……ヤクルト? ……スクーター……ああっ! 違う違うっ……」
偽武道家「これでとどめだっ!」
男武道家「!」
勇者「クルトン……? スク水幼女……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ……!」
偽天童「これでとどめばいっ!」
天童「やべぇっ! 勇者ァっ!」
偽勇者「隙だらけだぞっ! これでお前も終わりだぁっ!」
勇者「『スクルト』?」ピカーッ
193:
偽僧侶「はぁっ!」
偽武道家「たあっ!」
偽天童「どっこいしょっ!」
偽勇者「おらぁっ!」
スカッ
偽僧侶「……何?」
男武道家「避けた……だと……?」
偽天童「あいつらには、体力は残ってなかったってのによぉ!? なんで、避けれるんだよぉ!?」
偽勇者「……小僧、貴様何をした?」
195:
女僧侶「こ、これは……?」
男武道家「何だ……? 身体から、力が溢れてくる感じだ……」
天童「おい、勇者ァ! おめぇ、何かしたのか!?」
勇者「皆、俺にはどれが本物でどれが偽者か区別がつかないっ!」
女僧侶「……」
勇者「だけど、この魔法で皆の力が上がったはずだっ!」
男武道家「……」
勇者「最初の決断通りに、皆は自分の姿の魔物と戦ってくれっ!」
天童「……」
勇者「苦しいけど、後少しなんだっ! 頑張ろうっ!」
女僧侶「はいっ!」
男武道家「よしっ! これならいけそうだっ!」
天童「勇者ァ! 今、12時55分だから、後5分だっ! おめぇも踏ん張れよっ!」
197:
女僧侶「これならっ……! いけそうですっ……! たぁっ!」
偽僧侶「な、何ですか……!? さっきより、いっ……! ぐっ……!」
女僧侶「はぁっ! やあっ!」
偽僧侶「ぐっ……! くっ……!」
男武道家「よしっ! 本物の回し蹴りってのが何かをわからしてやるよっ! たあっ!」
偽武道家「……ぐっ!」
天童「これが天使の底力ばいっ! 覚悟するがいいよっ! おらぁっ!」
偽天童「痛ぇっ! おめぇの力じゃなくてよぉ? それはあのガキの力だろうがっ! 偉そうにしてんじゃねぇよっ!」
198:
勇者「これで……形勢逆転だな……?」
偽勇者「……ふふふ」
勇者「……何がおかしい?」
偽勇者「参ったよ……参った……降参だ……」
勇者「……」
偽勇者「いくら欲しい? 5000Gか? 10000Gか?」
勇者「……何?」
偽勇者「共に我々と、この街を支配しようではないかっ! その力と我々の変身能力があれば、容易い事ではないかっ!」
勇者「……」
偽勇者「私の決断に乗るんだ、勇者よっ! 力とは支配する為にある物だっ!」
199:
勇者「……その決断には乗れません」
偽勇者「何故だ? 今さら、こんな壊滅した街を救って何になるというのだっ!」
勇者「……道具屋の娘さんの、心を救う事出来ます」
偽勇者「……何?」
勇者「僕が乗る決断は……彼女の言った……父の敵を討ち……この街を救という決断ですっ……!」
偽勇者「愚かなっ……! そんなちんけな物の為にっ……!」
勇者「僕の仲間もきっと、同じ事を思っていてくれているはずですっ! たああぁっ!」
偽勇者「!」
ザクッ
200:
ーーーーー
天童「よっしゃっ! 1時ジャストだなっ!」
女僧侶「皆さん、偽者じゃありませんよね?」
男武道家「魔物の死体が、ひー、ふー、みー、よー……うんっ! 大丈夫みたいだね?」
勇者「皆、大丈夫だった?」
天童「おうっ! 俺はピンピンしてるよ! まっ、俺の実力は凄ぇからね!」
女僧侶「私も、勇者さんの魔法に助けられました。ありがとうございます」
男武道家「勇者君、あんな魔法使えるんだね? でも、できればもっと早く使ってほしかったなぁ……まぁ、おかげで助かったけど」
201:
天童「……勇者?」
勇者「……ん?」
天童「おめぇ、皆が心の底で『助けてほしい』って思ってたの……感じたんだな?」
勇者「下手に動いて……皆に攻撃しちゃうのは、皆望んでなかったと思うからさぁ……?」
天童「だから、ああいった形で、個人で戦う決断と、助けてほしいって決断を両立させたってわけか……」
勇者「う、うん……」
天童「おめぇ、今回はよぉ! やるじゃねぇか! おめぇも成長してきてるねぇ!」
勇者「そ、そうかな……」
天童「まっ、そもそも、おめぇみてぇなダメ人間がこのパーティーを纏めてるのが、そもそもの問題だったわけだけどね!」
勇者「おめぇは、褒めるか貶すか、どっちかにしろよっ!」
天童「『リーダーシップ』……クリア、だな……」メモメモ
202:
翌日ーーー
娘「皆さん、本当にありがとうございましたっ……!」ペコッ
勇者「お母さんと二人で、この街の復興をするんだよね? 大丈夫?」
娘「不安もありますが……やはり、私の生まれ育った街ですし……」
勇者「……うん」
娘「ここには、父との思いでもありますから……必ず、復興させてみせますっ!」
勇者「うん……頑張ってね?」
男武道家「勇者君、大丈夫だよっ! 僕手伝うから、僕もっ!」
勇者「……えっ? 男武道家さんが? うわ、何か心配だ」
男武道家「あのね、君は失礼っ! 本当に失礼っ!」
勇者「だって、男武道家さん、ドケチじゃないですか……」
203:
男武道家「いいかい、勇者君? 僕の計画を教えてあげる」
勇者「……ん?」
男武道家「明日から、この街は全ての品を95%OFFで販売するんだっ!」
勇者「えっ……! ドケチの男武道家さんが!? そんなにまけて大丈夫なんですか?」
男武道家「ふふふ……勇者君、そこがね……この話のキモなんだよ……」
勇者「?」
男武道家「いいかい? この街は、全ての品が100倍の価格売られてただろ? それを95%OFFにしたら、どうなると思う?」
勇者「え?っと……どうなるんですか……?」
男武道家「元値より、ちょっとだけ高い価格で販売できるワケだよ! 良心的な価格の範疇でね!」
勇者「……うわ」
男武道家「こんな美味しい話が転がってる街なんてないよっ! いや?、支援物資沢山持って来てよかったなぁ?!」
勇者「……あんた、やっぱり銭ゲバだな」
204:
男武道家「まぁ、それで冒険者はこっちの大陸にも渡ってくるようになると思うからさぁ?」
勇者「そうですね」
男武道家「やっぱり、この街を抑えられてたのは痛いよ。 なんとか復興させて、冒険者をこっちの大陸に連れてこなきゃ」
勇者「そうですね。男武道家さん、頑張って下さいっ!」
男武道家「君達も頑張りなよ? これから……魔王城の方に旅立つんだろ?」
勇者「はいっ!」
男武道家「あっ……そうだそうだ……勇者君に餞別あげるよ、餞別……」ガサゴソ
勇者「……餞別?」
男武道家「ほら? この剣あげる! 勇者の剣、もうボロボロじゃん?」
勇者「えっ……? こんな物、頂けるんですか!?」
男武道家「物はいいけどねぇ……安値の剣だからねぇ……まぁ、『けるべろ』の事もあるし、持っていってよ?」
勇者「な?んか、怪しいなぁ……これ、呪われたり、してないですよね?」
男武道家「あのね、 勇者君? これは先行投資だよ、先行投資!」
勇者「?」
205:
男武道家「君がその剣を使って、魔王を倒すとするじゃん?」
勇者「……はぁ」
男武道家「すると、どうなる!? その剣の価値は、魔王討伐モデルとして、何十倍にもなるではないかっ!」
勇者「……うわぁ」
男武道家「なんで、そんなに嫌な顔するんだよ……それ、物はいいんだからね!? 価値が低いだけで!」
勇者「……あんた、そんな事言って、この剣ばら撒きまくってんだろ?」
男武道家「あはは、まぁまぁ……とにかく、美味しい話があったら、すぐ連絡してよ? 僕もすぐかけつけるからさ?」
勇者「はいはい……」
男武道家「そうだな……魔王を後、一撃で倒せるっ……! そんな状況になったら、絶対連絡してね? 約束だよ、約束?」
勇者「……あんたは最後まで、銭ゲバなんだな」
男武道家「うるさい、これが僕の生き方だ! 文句あっか!?」
206:
ーーーーー
天童「おっ? いい剣、持ってんじゃねぇか? どうしたんだ?」
勇者「あぁ、男武道家さんに貰ったんだ」
天童「へぇ?、あのドケチな男武道家さんがねぇ……こりゃ、明日は雪だな!」
勇者「いや、雪は降らないよ……しっかり、下心があったから……」
天童「……で、これから、どうすんだ?」
勇者「まぁ、魔王城に向かうしかないでしょ? ここまで来たんだしさ」
天童「そうだな、早い所、平和な世界にしないとなっ!」
勇者「……ちょっと、信じられないなぁ」
天童「……ん? 何がだよ?」
207:
勇者「いや、自分がさ……? こうやって、世界を変えてるなんて……」
天童「……」
勇者「お前が来る前……ずっと引き篭もってた時の俺だったら、考えられなかったよ、こんな事……」
天童「……まっ、それだけ、おめぇが成長したって事じゃねぇか?」
勇者「はは、俺ももう一人前かな?」
天童「バ、バカ?ンっ! バッバッバカ?ン! 後、命題は3つもあるんだよ!? それクリアしねぇと、おめぇは一人前じゃねぇよ!」
勇者「ははは、じゃあ後3つ……頑張らないとね?」
天童「……ん?」
勇者「よしっ! じゃあ、そろそろ出発しようか! 天童、女僧侶ちゃんっ! 行くよっ!」
天童「お、おうっ……!」
天童「あいつ、文句も言わなくなったなぁ……うん、明日は雪だ。絶対に雪だ」
208:
第七話 「決断したら死ぬ!」
ーー完
215:
ーー俺の名は勇者。俺は今、魔王を倒して世界に平和を取り戻す為、魔王城のある危険な大陸を旅している
勇者「あ?、野宿ってゆっくり休めないもんだね?」
天童「どうしても、見張り役が一人はいるからな? 2時間起きに起こされるってのも、辛いもんだな」
ーーこいつの名は天童。自称天使の……ただの怪しいおっさんである
勇者「この前さ……? 俺が寝て、5分ぐらいしたら、魔物に襲われたでしょ? なんで、あんなタイミングで襲ってくるかねぇ?」
天童「バカ野郎……いいタイミングじゃねぇか? 俺が寝てる時に襲ってこなかったんだからよぉ?」
ーーだが……こいつの言う通り、俺は神様から与えられた十個の命題をクリアしないと死んでしまうらしい
勇者「……おめぇはよぉ?」
天童「まっ、そろそろ次の街に着くからよぉ? 今日ぐらいはゆっくり安眠しようぜ?」
ーーなんとか七個の命題をクリアして、残る命題は後三個……
勇者「そうだね。今日ぐらいはゆっくり休みたいね」
天童「おっ、勇者! 街が見えたぞ!?」
ーー果たして、俺は無事にクリアする事ができるのだろうか……
216:
勇者「危険な大陸だってのに、結構、人の多い街だね?」
天童「こっちの大陸にも、皆で協力して毎日を全力で生き抜いている人達がいるんだな。おめぇも見習わねぇとなぁ!?」
勇者「……うるせぇな」
ザワザワ……ザワザワ……
勇者「……ん?」
天童「……ん?」
217:
「おい、聞いたか? どうやら、あの伝説の勇者様の子供がこの街に向かって来てくれてるらしいぞ?」
「……本当か? でも、子供なんだろ? いくら、伝説の勇者様の子供だからって、この街を救えるのかな?」
勇者「……なんか、この街も困ってるのかな?」
「それがよぉ? 勇者様の子供は、10メートル近い化物を一人で倒したり、不思議な能力を持った魔物を一人で倒した人らしいぜ!?」
「マジかよ!? そんなに強いのかよ!? それだったら、きっとこの街も救ってくれるはずだよなっ!?」
天童「……おめぇも随分よぉ? 名前が売れてきたみてぇだな?」
「それだけ強いんだから、きっと、この街を救ってくれるはずだぜっ!」
「あぁっ! 勇者様の到着が待ち遠しいなっ!」
勇者「……」
218:
天童「……なんかよぉ? この街も問題抱えてるみたいだな?」
勇者「そうだね……今日もゆっくりできそうにないね……?」
天童「……ん?」
勇者「この街に問題があるんだったらさぁ……俺達が解決してあげなきゃ?」
天童「……おぉ」
勇者「……なんか、期待されちゃってるみたいだしさぁ?」
天童「いいねぇ! おめぇ、成長してるじゃねぇか! でもよぉ? 一つだけ訂正しておくぞ?」
勇者「……天童、わかってるって」
天童「……ん?」
219:
勇者「おめぇ一人でよぉ? 全部解決したわけじゃねぇだろうがよぉ!?」
天童「!」
勇者「周りに支えてくれる人がいたからよぉ? おめぇも魔物を倒す事が出来たんだろうがよぉ!?」
天童「!」
勇者「そこの所、勘違いしてんじゃねぇよ! おめぇみてぇなダメ人間、一人じゃなぁ?んも解決できねぇよ! ……だろ?」
天童「……お、おぉ」
勇者「まっ、あの人達……何か勘違いしてるみたいだけどさ……? やっぱり、俺にはお前や女僧侶ちゃんの助けが必要だからさ……?」
天童「……おめぇ、わかってんじゃねぇかよぉ」ニヤニヤ
勇者「今日も、一日よろしくね?」
天童「なぁ?に、他人行儀になってんだっ! わかってんならいいよっ! まっ、おめぇのフォローは俺に任せときんしゃいっ!」
勇者「じゃあ、とりあえず、あの人達に話を聞いてくるね?」
220:
勇者「あの?? すみません……」
街人「……ん?」
勇者「あの……この街、何か問題抱えてるんですかね?」
街人「お前、冒険者か? 誰だ、お前?」
勇者「あっ……僕、勇者です……」
街人「……はぁ?」
勇者「いや、だから……さっき、貴方達が話していた……伝説の勇者の子供の……勇者ですよ?」
街人「……」
勇者「んっ、どうしたんですか?」
街人「嘘ついてんじゃねぇよっ! このガキっ! おめぇは狼少年かっ!」
勇者「……えっ?」
221:
街人「出たよ出たよ! こうやって、勇者様の名前借りてさ? 大金毟り取っていく、泥棒みてぇな冒険者がよっ!」
勇者「いやいやっ……! 僕は勇者ですよっ……! 本当ですっ、本当ですって……!」アセアセ
街人「勉強不足だな、坊主!? そんな事じゃ、金取れねぇぞ!?」
勇者「いやっ……勉強不足って……どういう事ですか……?」
街人「あのね……? 伝説の勇者様の子供は女性なの? おめぇ、男じゃねぇか!」
勇者「……えっ?」
街人「勇者様の子供は女の子一人だけって、知らねぇのか? そんな事も知らねぇなんてよ……おめぇ、ただの引き篭もりじゃねぇの?」
勇者「!」
街人「おらっ、邪魔だよっ! こっちは勇者様を迎え入れる準備があるんだからよぉ! おめぇみたいな奴はとっとと消えろやっ!」
222:
天童「お、おいっ……! 勇者……どういう事だ……?」アセアセ
勇者「……」
天童「また、おめぇの偽者が現れたって事か? この大陸に、勇者の名を語る偽者がいるって事か?」
勇者「……いや、違う」
天童「……あぁ?」
勇者「姉ちゃんだ……姉ちゃんが、この付近にいるんだ……」
天童「あぁ……そういや、おめぇ姉ちゃんいたな?」
勇者「……うん」
223:
天童「……でもよぉ? 勇者の子供が一人ってのはどういう事だ? おめぇだって、子供だろ?」
勇者「……」
天童「……あっ! もしかして、おめぇ、母親の不倫相手の隠し子とかか!?」
勇者「……」
天童「その事に気づいたおめぇの父さんはよぉ? 不倫相手と決闘しに行って、命を堕としたってワケか!?」
勇者「……」
天童「ん、待てよ……? そうなると、おめぇは魔王との子供って事になるなぁ……」
勇者「……」
天童「いやぁ?んっ! バカ?んっ! まるで昼ドラみたい?! おじさん、そんな話、あまり好きじゃないなぁ?!」
勇者「姉ちゃんさぁ……? 俺の事、隠したがってたから……」
天童「……ん?」
224:
勇者「……ほら? 俺、ずっと引き篭もってたじゃん?」
天童「……」
勇者「伝説の勇者様の息子が引き篭もりなんて、周りに知られたらさ……? 俺だけじゃなくて、姉ちゃんや母さん……それに、父さんまでバカにされるじゃん?」
天童「……」
勇者「……だからさぁ? 姉ちゃん、俺の事はなかった事してるんだよ」
天童「……ん?」
勇者「金は仕送ってやるから……父さんや私の名前を汚す事はしないでくれって……」
天童「……」
勇者「俺の住んでた街の近くの人には、バレてたんだけど……姉ちゃんは俺の事をなかった事にして、ずっと旅を続けてたんだろうね……」
225:
天童「……でもよぉ? おめぇは、あの時と違って、もう成長してんだろ?」
勇者「……えっ?」
天童「おめぇはよぉ! ここまで旅してきて、色々学んできただろがっ!」
勇者「……うん」
天童「言ってやればいいじゃねぇか! 僕も勇者の子供なんです、この街を救いますよ! ってよぉ!?」
勇者「いや……でも……」
天童「なぁ?に、ウジウジしてんだよ! おめぇ、そういう所がよぉ! おめぇのダメ人間な所なんだよっ!」
勇者「……」
天童「なんだよ、なんだよ……5分前のテンションどうしたんだよぉ! 勇者君よぉ!?」
勇者「……」
天童「……ったく、面倒臭ぇ奴だな。ところでよぉ? ホレ、来たぞ?」
勇者「……ん?」
天童「命題だよ、命題」
勇者「!」
226:
勇者「えっ……? これ、いつ来たの……?」アセアセ
天童「さっき、おめぇが街の人話してる間によ? 神様がコソッと来てな?」
勇者「……コソッと?」
天童「おめぇにバレエねぇように、俺にスッってな?」
勇者「……スッ?」
天童「それで、サッっと帰って行ったよ」
勇者「……コソ泥か? 神様、コソ泥みてぇな真似してんのか!?」
天童「おめぇは、いつか絶対、神様に罰当てられるぞ!? もう、いいから早く何が書いてあるか見てみろよっ!」
勇者「わかったよ……え?っと……」ガサゴソ
230:
勇者
X月X日 午後9時までに
姉に勝てなかったら即・死亡!
231:
天童「ふ?む……『姉に勝てなかったら即・死亡』か……」
勇者「……えぇ?」
天童「今、午前8時だから後13時間……だな……?」
勇者「ダメだよ……それだけは無理だよ……」
天童「おめぇが姉貴に対してウジウジしてっから、そこん所神様がズドーンって命題を討ってきたんだよぉ」
勇者「だってさぁ……? 姉ちゃんは俺と違って、ずっと世界平和の為に旅してたんだしさぁ……?」
天童「いいか? これはチャンスだぞ!」
勇者「……えっ?」
天童「おめぇがここで姉貴に対するコンプレックス吹っ切れば、未来が見えてくる……ここが正念場だぞっ!」
勇者「……簡単にいうけどさぁ? だって、小さい頃からずっと、俺、姉ちゃんに勝った事ないんだぞ?」
天童「まぁ、出来る姉の存在ってのは、おめぇにとって相当なトラウマみてぇになってんだろな?」
勇者「……」
天童「おめぇが引き篭もってる間もよぉ? ずっと、姉貴と比べられてたんだろ? 世界平和の為に戦う姉と……その弟の引き篭もりってよ?」
勇者「……うん」
232:
天童「でもよぉ!?」
勇者「?」
天童「これを乗り越えなきゃ、何を乗り越えたって崩れちまうんだっ!」
勇者「……」
天童「おめぇも、ここまで命題クリアしたり、旅してきたりして、成長してんだろが!」
勇者「……うん」
天童「そんなモジモジモジモジよぉ、ビビってねぇで勝負挑んでみろやっ!」
勇者「……勝てるわけねぇよ」
天童「おめぇ、勝負なんてよぉ? 色んな方法あるだろが! おめぇが得意な分野で勝負挑めばいいんじゃねぇか!」
勇者「……例えば?」
233:
天童「例えばよぉ? にらめっこ対決……とか、どうだ?」
勇者「……はぁ?」
天童「おめぇの、そのしみったれた間抜け面だったら、楽勝だろ!? 今日はよぉ、鼻毛も一本飛び出してるし、なにもしなくても勝てるぜおいっ!」
勇者「えっ……? 俺、鼻毛出てる……? うわっ、何で教えてくれなかったんだよっ! 恥ずかしいじゃねぇか!」プチッ
天童「あっ! おめぇ、何で抜くんだよ!? せっかくのいい武器だったのによぉ!?」
勇者「うるせぇっ! これじゃあ、試合に勝って、勝負に負けたみてぇなもんだろがっ!」
天童「……それだよ。その目だよ!」
勇者「……ん?」
234:
天童「おめぇのその、俺に対する強気を姉貴に向けりゃいいんだよっ!」
勇者「……でも」
天童「……『でも』じゃねぇよ」
勇者「……」
天童「……」
勇者「……だって」
天童「……『だって』じゃねぇよ! この間抜けっ!」
勇者「……」
天童「……」
勇者「どうせ、俺はさぁ……?」
天童「ヨッ! 治ったと、思ったけど、久々に出たな!」
勇者「……」
236:
天童「よっ! どうせ国国王っ! どうせホームラン王っ!」
勇者「……うるせぇよ」
天童「おめぇはよぉ? ちょっと、姉貴の名前が出てきたら、ま?たネガティブ人間に戻るんだな!?」
勇者「……」
天童「おめぇだって、ここまでやってきたんだろが! おめぇも成長してんだろがよぉ!?」
勇者「でも、俺が成長してる間にさぁ……? 姉ちゃんだって、色々やって成長してるだろうしさぁ……」アセアセ
天童「じゃあ、死ぬのか? ここで、もう諦めて死ぬのか!?」
勇者「いや……それはさぁ……? 違うけど……」
天童「だったら、戦えよっ! もっと、前向きになれよっ! 最後の最後まで諦めんなよっ!」
勇者「……う、うん」
237:
ーーーーー
女僧侶「……勇者さん、街の方と何を話してたんですか?」
勇者「あっ……いやぁ、まぁ、ちょっとね……?」
女僧侶「?」
勇者「あっ……あのさぁ……? 女僧侶ちゃん、相談があるんだけど……?」モジモジ
女僧侶「相談……? 何か、問題でも起きたんですか? 私に出来る事なら、なんでもしますよ?」
勇者「あっ……! するのは俺だからさぁ……? そんなに、真剣に聞いてくれなくても、いいんだけどね……?」アセアセ
女僧侶「?」
勇者「あっ、そうだっ! なぞなぞしよう! 今からさぁ、なぞなぞ出すから、答えてみてよ?」
女僧侶「なぞなぞ……ですか……? 私、結構得意ですよ」
238:
勇者「じゃあ、問題っ!」
女僧侶「はい」
勇者「え?っと……男君には、何をやっても勝つ事の出来ない兄弟がいました!」
女僧侶「……ふむふむ」
勇者「しかし……男君は、なんとかして、その兄弟に勝たなくてはいけませんっ!」
女僧侶「……ふむ」
勇者「では、ここで問題ですっ! 男君はいったい、何で勝負を挑んだでしょうか!?」
女僧侶「なるほど……勇者さん、わかりましたよ?」ニコッ
勇者「えっ、マジで!? そんなに簡単にわかるものなの? 答え何よ? 俺、何で勝負挑めばいいの!?」ワクワク
239:
女僧侶「……答えは」
勇者「うんっ! うんうん!」
女僧侶「『負けの数』……ですね……?」
勇者「……えっ?」
女僧侶「あれっ……? 答え、違います……?」
勇者「あっ、いや……ま、まぁ……正解だね……」
女僧侶「ほら、ねっ? 私、なぞなぞ得意でしょ?」ニコニコ
勇者「う?ん……『負けの数』で姉ちゃんに勝負挑めばいいのかぁ……? いや、違うだろなぁ……」
女僧侶「じゃあ、次は私が勇者さんに問題出していいですか?」
勇者「……えっ?」
女僧侶「ふふ、なんだかこういう遊びするのって、小さい時以来ですね? じゃあ、いきますよ? 問題ですっ!」
勇者「あっ、はい……」アセアセ
241:
「おいっ、来たぞっ! ついに勇者様が来たぞっ!」
「街長の家に案内しろっ! 食事の用意もするんだっ!」
勇者「……えっ?」
女僧侶「……ん?」
「オラオラ、勇者様の到着だっ! お前ら、道を開けろっ!」
「勇者様は旅で疲れてるんだからよぉ! 失礼な事してんじゃねぇぞ!」
勇者「……」
女僧侶「勇者さんはここにいるのに……どうしたんですかね……?」
「さぁ、勇者様っ! 私が街長の家まで、案内します。 さぁさぁ、こちらへ!」
女勇者「……どうも」
勇者「!」
女僧侶「あっ! あれ、勇者さんのお姉さんじゃないですか?」
242:
女勇者「……ここは、汚い街ですね?」キョロキョロ
街長「あっ……! 申し訳ございませんっ……! やはり、魔物の襲撃で……」
女勇者「……だから、私に依頼したというわけですか」
街長「お願いしますっ……! この街の復興には勇者様の力が必要なのですっ……! どうか、お願いしますっ……!」
女勇者「……私は、報酬さえ頂ければそれで構いません」
街人「……はっ!」
女勇者「このような街に……20000Gも支払う能力はあるんですか?」
街人「その事に関しては、街長と話して下さい……」
女勇者「わかりました……では、案内して下さい……」
街人「はいっ……! 勇者様、こちらですっ……!」
245:
女勇者「……しかし、本当に汚い街ですね?」
街人「申し訳ありませんっ……!」
女勇者「私……こんな場所で、今晩過ごすんですか……?」
街人「いえっ……! 勇者様には、宿屋の最高級の部屋を用意しておりますっ……!」
女勇者「こんな街の宿屋なんて……たかがしれている物でしょう……」
街人「も、申し訳ありませんっ……!」
女勇者「汚い宿屋に……汚い酒場……汚い道具屋……」キョロキョロ
勇者「……」
女勇者「!」
街人「あれっ……? どうしました? 勇者様?」
246:
女勇者「……街が薄汚いと、薄汚い冒険者まで集まるようですね」
街人「……はぁ?」
女勇者「早く、案内して下さい。 見たくない物を見てしまったような気がします」
街人「……はぁ?」
女勇者(なんで、あんたみたいなクズがここにいるのよっ……! 父さんの名前を汚すだけの金食い虫のあんたがっ……!)ワナワナ
街人「それでは、街長の家に案内いたしますね? こちらです」
女勇者「はい、よろしくお願いします」
勇者「……」
女僧侶「へぇ?、勇者さんのお姉さんもこっちの大陸へ来てたんですね?」
勇者「……うん」
女僧侶「……私の事、覚えてらっしゃいますかね?」
247:
天童「……おい、勇者?」
勇者「……ん?」
天童「なぁ?んで、勝負挑まなかったんだよぉ? 今、チャンスだったじゃねぇか?」
勇者「い、いやっ……まだ、何で勝負するか決めてないし、さ……?」アセアセ
天童「……ビビってるだけじゃねぇのか、おめぇ?」
勇者「そ、そんな事ないよ……」
天童「ふ?ん……まっ、いいや! ところで、勇者君よぉ?」
勇者「……ん、どうしたの?」
天童「今日一日、どうすんだよ? 計画を話し合おうぜ?」
勇者「だから、今日はさぁ……? 命題をクリアしなきゃいけないから……」
天童「バ?カっ! おめぇの計画じゃねぇよっ! 俺達の計画だよぉ? 俺達の!」
勇者「……えっ?」
248:
天童「やっと、街に着いたんだからよぉ? 俺達の計画も話し合おうぜ?」
勇者「計画って……? 何……?」
天童「女僧侶ちゃん? 今、道具はどれくらい残ってるの?」
女僧侶「う?ん……薬草が不足してますかねぇ……? 少し、道具屋で補充しておきたいです……」
天童「俺はよぉ? 酒場で一杯、飲みてぇなっ!」
勇者「あっ……天童、酒場はダメだぞ?」
天童「うん、そうだよな? なんか、この街、困ってるみたいだし、酒場なんかで飲んでる場合じゃないよなっ!」
249:
女僧侶「天童さん、困ってる事って……何ですか……?」
天童「いや、それがよぉ? 俺も街人の話を盗み聞いただけだから、詳しい事はわかんねぇんだよなぁ」
女僧侶「あら、そうですか……」
天童「でも、街の人にさ? 話を聞いてみたら、わかるんじゃね?」
女僧侶「そうですね、困ってる事があったら、私達も手助けしましょう」
天童「じゃあ、とりあえず街長さんにでも、話を聞いてみっか! 街の長って書くぐらいだから、何か情報は持ってるだろっ!」
女僧侶「じゃあ、そうしましょうか?」
天童「よしっ! 勇者っ! じゃあ、俺達も、街長さん家に行くかっ!」
勇者「!」
250:
天童「おいおい、何固まってんだよ、おめぇ?」
勇者「いやっ……あのさっ……? もうちょっと後にしない……? もうちょっと、後!」アセアセ
天童「……何でだよ? 問題は早いうちに解決しねぇといけねぇだろが」
勇者「わかってるよ……わかってるけど、さぁ……?」
天童「……」
勇者「なっ、なっ……? 頼むよ、天童……」
天童「……なぁ、勇者?」
251:
天童「……おめぇ、そんなに会いたくないのか?」
勇者「……」
天童「……いつものお前ならよぉ?」
勇者「?」
天童「間違いなく、ここで街長の家に行ってるだろうが! この街、救う為によぉ? 行動するんじゃねぇのか?」
勇者「……うん」
天童「おめぇよぉ? ここまで、自分に出来る事を一生懸命やってきて、ここまで成長したんじゃねぇか? なぁ、そうだろ?」
勇者「……う、うん」
天童「そこによぉ? 『姉』って存在が入ってきただけで、何でそんな風になっちまうんだよ!? おめぇ、またダメ人間に戻ってんぞ!?」
勇者「……」
252:
天童「あのな、勇者……?」
勇者「……んっ?」
天童「おめぇが引き篭もってる間によ? 周りの人間や、あの姉ちゃんに何言われたかは、わかんねぇよ?」
勇者「……うん」
天童「でもよぉ? おめぇはちゃんと成長してるじゃねぇか! 言えねぇか? 今なら、今なら言えるんじゃねぇか?」
勇者「……えっ?」
天童「自分は伝説の勇者の息子で……今、世界を救う為に毎日毎日、精一杯旅してますって、言えねぇか!?」
勇者「……」
天童「昔のお前とはもう、違うだろ!? 今なら、姉貴とだって戦えるよっ!」
勇者「……ありがとう」
天童「だからよぉ? そんなに、モジモジしてねぇで、行動してみろやっ!」
253:
女僧侶「……勇者さん」
勇者「あっ、ごめんね? 女僧侶ちゃん……そんなに心配しないでいいよ?」
女僧侶「……」
勇者「いや……あのさぁ……? 俺、ずっと引き篭もってたじゃん……?」
女僧侶「……はい」
勇者「だからさ……? ちょっと、姉ちゃんに、こういった形で会うのが気まずくてさぁ……? 二の足踏んでたや……」
女僧侶「……」
勇者「でも……そうだよ、大丈夫だよ。俺……天童や女僧侶ちゃんのおかげで変わったからさぁ……?」
女僧侶「……えぇ」ニコッ
勇者「この街……何か、困ってる事、あるみたいだし……俺達も街長さんの家に話を聞きに行こうかっ!」
女僧侶「安心しました。いつもの勇者さんで」
勇者「……えっ?」
女僧侶「私……勇者さんは変わったんじゃなくて、戻ったんだと思いますよ?」
勇者「うん、そうだね……ちょっと、姉ちゃんにビビりすぎてたや……うん、これが本当の俺っ!」
女僧侶「いえいえ……そういう事ではなくて……」
勇者「?」
女僧侶「まぁ、私達も街長さんの家に向かいましょうか」ニコッ
259:
街長家ーーー
女勇者「……どういう事ですか? 話が違うではありませんか?」
街長「この……10000Gで許してくれ……」
女勇者「報酬は20000Gのはずでしたが? 後、10000Gはどうしたんですか?」
街長「ワシらの街にも……生活じゃあるんじゃ……この10000Gだって……街人達に無理を言って、集めた金じゃよ……」
女勇者「あなた方の生活なんて知りませんよ。 私にだって、生活があるんですよ? 約束が違うのなら、この話はお受けできません」
街長「そんなに金を集めてどうするんじゃ? この10000Gで十分じゃろ?」
女勇者「今は戦いにも、お金がかかる時代なんですよ」
街長「……」
260:
女勇者「私の父は魔王に破れ、命を堕としました……誰にも、負けない力を持っていたはずなのに」
街長「……あぁ」
女勇者「……何故だかわかりますか?」
街長「……」
女勇者「それは……良い武器や、防具がなかったからです」
街長「……」
女勇者「力だけで、世界を変える事ができるなんて……もう、過去の話なんですよ?」
街長「……」
女勇者「良い武器を使い、良い防具を使い……そして、腕のいい傭兵を雇う……」
街長「……そうじゃな」
女勇者「今の時代、世を変えるには、どうしてもお金の力が必要なんですよ。 力や正義感だけではどうにもなりません」
街長「……」
女勇者「高い報酬金が頂けると聞いて、私はこの街を救う為にやって来たのに……これじゃあ、話が違いますよ?」
261:
街長「しかし……」
女勇者「……どうしました?」
街長「この10000Gでも……いい装備を買ったり、腕のいい傭兵を雇ったりは出来るじゃろう?」
女勇者「論点をすり替えないで下さい。 お話は20000Gのはずでしたよ?」
街長「傭兵なんて、4000Gもあれば、雇えるじゃろうに?」
女勇者「それだけじゃ、足りませんよ。 戦いは数です」
街長「装備品だって……残りの金額なら、この街の最高級の品が買えるぞ?」
女勇者「この街の武器や防具で、魔王と戦えるんですか? それは、あなた方が世界を知らないだけじゃないんですか?」
街長「……」
女勇者「世界には、もっと高価で、性能のいい武器や防具がありますよ?」
街長「……」
262:
天童「うぉ?いっ! 街長さん、いるかい? 邪魔するよっ!」ガラッ
街長「……なんじゃ、あんたらは?」
天童「へへぇ?ん……聞いて驚くなよ? 俺達は伝説の勇者の息子と、その仲間御一行だぜっ!」
街長「勇者の……息子……?」
天童「いやぁ、なんか街人がこの街、問題抱えてるって言ってからよぉ? 俺達も話を聞きに来たんだよな?」
街長「女勇者さん……? 勇者様の子供は……あんただけじゃなかったのか……?」
女勇者「……」ギロリ
勇者「や、やぁ……姉ちゃん、久しぶりだね……?」
天童「よぉよぉ、街長よぉ! 俺達にも、話を聞かせてくれよ! あんた、ついてるなぁ? 勇者が二人も揃うなんて、滅多にねぇぞ、おいっ!」
街長「女勇者さん……これは、どういう事じゃ……?」
263:
女勇者「……実は」
街長「あ、あぁ……」
女勇者「この子は、私の最大の隠し玉なのです……」
街長「……隠し玉?」
女勇者「えぇ……勇者とは、その名声だけで、多くの魔物に狙われる存在です。 魔王軍も、こちらの動向を注意深く観察してるでしょう」
街長「……そうじゃな」
女勇者「だから、私は……この子の存在を隠しているのです」
街長「魔王軍に気づかれないようにか……」
女勇者「はい……この子の存在が知られたら、彼等もそれなりの対策をしてくるでしょう」
街長「……なるほどな」
女勇者「ですから、街長……この事は、どうか内密にお願いしますっ……!」
天童「おいっ! おめぇ、隠し玉だってよ? なんか、格好いいじゃねぇか、おいっ!」
勇者「……」
264:
女勇者「ちなみに、お金が必要なのも、そういった理由からです」
街長「……ほぅ」
女勇者「私の装備だけではなく……この子や、仲間達の装備も必要でしょう?」
街長「……なるほどな」
女勇者「とても、10000Gなんかじゃ、足りませんよ?」
街長「確かに……四人分の最高級な装備を整えるのは……20000Gでも、少ないかもしれんな……」
女勇者「えぇ……報酬金が20000Gでも、破格の条件なんですよ? この街を救うなら、それくらいは出していただかないと……」
街長「……う?む」
265:
天童「……おい、勇者?」ヒソヒソ
勇者「んっ……? どうした、天童?」ヒソヒソ
天童「おめぇの姉ちゃんも、銭ゲバなんだな?」
勇者「お、おいっ……! やめろよっ! 怒られんぞ、お前っ!?」
天童「……おめぇよぉ? 男武道家さんに貰った剣があるから、別に武器なんて、いらねぇよな?」
勇者「あぁ……この剣さぁ……? 凄ぇ、使いやすいんだよ……」
天童「だったらよぉ? 街長さん、困ってるみてぇだし、姉貴と戦ってこいよ?」
勇者「……えっ? どういう事?」
天童「だからよぉ? 『お金なんて、いりませんよっ! 僕達、無償で街を救いますっ!』とか、言ってこいやっ!」
勇者「えっ……? で、でも、姉ちゃん交渉中だよ……?」
天童「いいから、ほれっ! 行ってこいっ! 姉貴に勝たねぇと、死んじまうんだぞ、おめぇ!」
266:
街長「う?む……そういう事なら……」
女勇者「その報酬金は必ず、私達の力になります……私達を信じて頂けませんか?」
街長「……」
勇者「あ、あのさぁ……?」
女勇者「……」
勇者「あの……姉ちゃん、姉ちゃん……?」
女勇者「……どうしたの? 勇者君?」ニコッ
勇者「ちょっと……街長さん、困ってるんじゃないかなぁ……?」アセアセ
女勇者「勇者君? 交渉はお姉ちゃんに任せておきなさい」
勇者「いや、でもさぁ……?」
女勇者「……勇者君っ!」
勇者「!」ビクッ
女勇者「交渉はお姉ちゃんがするからさぁ……邪魔しないでくれるかな?」ギロリ
勇者「あっ……! は、はいっ……!」
天童(バカっ! おめぇ、何やってんだよっ! リングにすら、立ててねぇじゃねぇか!)
267:
街長「……わかった、苦しい条件じゃが、あんたらにも事情があるんだから、仕方ないな」
女勇者「……20000Gで納得して頂けたんですね?」
街長「あぁ、全ての問題を解決してくれたら……20000Gを渡すと約束しよう……」
女勇者「わかりました、では、この街の抱えている問題を聞かせて下さい」
街長「……南の洞窟に、魔物が拠点を作り始めておる」
女勇者「……それの、討伐ですね?」
街長「あぁ……奴らが本格的に、この大陸を支配するつもりなら、真っ先に狙われるのは、この街じゃからな」
女勇者「……なるほど」
街長「魔王軍の精鋭部隊じゃから、厳しい戦いになるかもしらんが……どうか、よろしく頼むよ」
268:
女勇者「ちなみに……傭兵部隊の方達が見当たらないのですが……何処にいるんですかね……?」
街長「……傭兵部隊?」
女勇者「えぇ、私が……その部隊の指揮をとればいいんでしょ?」
街長「ちょっと待ってくれ……! この街の傭兵部隊は……皆、やられてしまったよっ……!」
女勇者「……はぁ?」
街長「だから、ワシらはあんたらに、大金を支払って、依頼したんじゃないか!」
女勇者「では、私、一人で魔王軍の精鋭部隊と戦えと……?」
街長「だから、あんたもその隠し玉連れてきてくれたんだろ? なっ?」
女勇者「……」
269:
天童「まっ、人数が四人ってのは、厳しいけどよぉ? 俺達に任せておきなよ、おっさんっ!」
女僧侶「えぇ、私達がこの街を必ず救ってみせますよ?」ニコッ
街長「おぉっ! ありがとうっ……! 頼むっ……! この街を救ってくれっ……!」
女勇者「……勝手に話、進めるんじゃないわよ」
勇者「……」
天童「まぁよぉ? 見事、討伐成功したら、酒でも奢ってくれよな! おっさんっ!」
女僧侶「も?う……天童さんはお酒ばっかりですねぇ……」クスクス
街長「わかったよ、報酬に酒も追加しようじゃないか。 だから、頑張ってくれよっ!」
女勇者「……あんたの仲間、何考えてるの? ねぇ?」ギロリ
勇者「うっ……ご、ごめん……」アセアセ
270:
ーーーーー
天童「よっしゃっ! じゃあ、改めて自己紹介でもしますかっ! 俺は、天使(商人)の天童ねっ!」
女勇者「……」
天童「あの、格好書きで天使忘れないでね? 格好書きで、て・ん・し!」
女僧侶「私は、女僧侶と申します。よろしくお願いします」ペコッ
女勇者「……」
女僧侶「あ、あの?? お姉さん、私の事、覚えてらっしゃいますかね……?」
女勇者「……あ?っ! 最悪っ! やっぱり、あんたみたいなクズといると、調子狂うわっ!」イライラ
勇者「!」ビクッ
271:
女勇者「ねぇ、あんた? あんた、私の交渉の邪魔したでしょ? どうして、そういう事するの?」
勇者「あっ……あれは……」
女勇者「ねぇ? あんた、どうしていつも邪魔ばかりするの? どうして、父さんの名前、汚すような事するの?」
勇者「いや……でも……」
女勇者「母さんへの仕送りと、あんたが生活できるように仕送りしてるの誰だと思ってるの?」
勇者「ご、ごめん……」
女勇者「あんたが、働かないから、私一人で家計支えてるのよ? 余計な事、言わないで頂戴よ」
勇者「あっ……! 俺の分の仕送りはもう、いいからさ……?」アセアセ
女勇者「それに、あんたの仲間っ! やっぱり、クズの周りにはクズが集まるのね!」
勇者「……いや、二人はクズなんかじゃないよ」モゴモゴ
女勇者「言いたい事があるなら、はっきり言うっ!」
勇者「あっ……! ご、ごめんっ……!」
272:
女勇者「傭兵の交渉、勝手に中断して、話進めるなんておかしいでしょ?」
勇者「いや……でも、それは……この四人でなんとかなると思ったからさぁ……?」アセアセ
女勇者「商人と……僧侶と……引き篭もりのクズ……! 前衛は、何処にいるのよ、前衛はっ!」
勇者「あっ……そ、それはっ……」
女勇者「傭兵がいないんだったら、街人にでも、前衛やらせればいいでしょ? どうせ、使い捨ての駒なんだから!」
勇者「ご、ごめん……」
女勇者「あんたの仲間が死ぬのは勝手だけれど、私にまで迷惑かけないでよっ!」
勇者「うぅ……ご、ごめんっ……」
273:
天童「お姉さん、お姉さん……」
女勇者「……何よ?」
天童「どうですかね? 腕相撲でもしませんかね?」
女勇者「……はぁ? 何、言ってんの、あんた?」
天童「いや、あなたの弟の勇者君も、ここまでの旅で成長したんですよ? だからね……? ちょっと、腕っ節見てあげて下さいよ?」
女勇者「……こんな奴が、あたしに勝てるワケないじゃない?」
天童「いやいやっ……! 勇者君の成長見たら、驚きますよ? さぁさぁっ! 勝負しましょうよっ! 勝負っ!」
女勇者「……」
天童「よっしゃっ! 勇者ァっ! ここで、おめぇの成長を見せて……同時に命題クリアだっ!」ニヤニヤ
勇者「お、おうっ……」
274:
ーーーーー
女勇者「……」ググッ
勇者「……」ググッ
天童「はいはい、構えましたか……? 見合って、見合って……」
女勇者「……」
勇者「……」
天童(……おい、勇者?)ヒソヒソ
勇者(……ん?)
天童(いくら、威張っててもよ……? 相手は女だから、ガツーンとやっちまえっ!)
勇者(う、うんっ……!)
天童(ここで、勝ってよぉ? 命題クリアと同時に、主導権取り戻しちまえよっ! おめぇ、今日はらしくねぇよっ!)
勇者(う、うんっ……わかったっ……!)
天童「よっしゃっ! それじゃあ! レディ……ゴーっ!」
275:
女勇者「……ふんっ」グッ
勇者「……ガッ! うおっ! 痛っ!」
天童「おいおい、勇者ァ! おめぇ、瞬殺すぎるぞっ! 何、やってんだよっ!」
女勇者「ほら……引き篭もりのあんたみたいなクズが勝てるわけないじゃない……」
勇者「痛っ……痛ぇよぉ……そんなに叩きつけないでいいじゃん……」
天童「カァ?! 情けなかぁ?! たまらぁ?ん! もう、たまらぁ?んっ!」
女勇者「そんな調子で魔物討伐なんて出来るの!? あんたみたいな奴でも、死んだら私と父さんの名前、汚れるんだからね!?」
勇者「うぅ……ご、ごめん……」
276:
女勇者「あんたのバカな仲間が勝手に決めちゃったから……もう、このパーティー行くしかないけど……」
勇者「……うぅ」
女勇者「ほらっ! 4000G渡すから、これで装備買ってきなさいよっ!」
勇者「……えっ?」
女勇者「あんたみたいな奴でも、死んだら困るの! 街長さんに変な噂流されたらどうするの? 評判落ちるのは私なのよ?」
勇者「ご、ごめん……」
女勇者「本当、お金のかかる子ねっ! 嫌になるわっ!」
勇者「うぅ……ごめん……」
女勇者「私、先に宿屋に行ってるから……準備が整ったら、合流しなさいっ! もう、本当最悪っ!」
勇者「わ、わかった……」
277:
天童「……なぁ? 勇者?」
勇者「……ん?」
天童「言っちゃぁ、悪ィけどよ……? 俺、おめぇの姉ちゃん、嫌いだわ」
勇者「……」
天童「高飛車で威張り腐ってよぉ? それに、おめぇは確かにクズだけど、俺の事までバカしなくてもいいじゃねぇか!」
勇者「ご、ごめん……」
天童「それに……せっかくダメ人間から、成長してるおめぇを、そうやってダメ人間に戻そうとしてる所も嫌いだな!」
勇者「……ご、ごめん」
天童「おめぇよぉ? いつもの調子、取り戻せよ? これから、魔王軍の精鋭部隊戦うんだぜ?」
勇者「ごめん……あのっ……女僧侶ちゃんも……俺のせいでごめんね……?」アセアセ
278:
女僧侶「……しょうがないですよ」
勇者「……」
女僧侶「お姉さん時間の時間は……多分、勇者さんが足踏みしてた時で止まってるんだと思います」
勇者「……うん」
女僧侶「でも、私……勇者の事、ずっと見てきたからわかるんですが……」
勇者「……ん?」
女僧侶「勇者さん、天童さんの言う通り……成長してると思いますよ?」
勇者「……う?ん」
女僧侶「私だって……負けてられないなって、思う時いっぱいありますもん」
勇者「……本当?」
女僧侶「本当ですよ! 自身持って下さいっ! 勇者さんっ!」
勇者「……うん」
279:
女僧侶「四人で、討伐に向かう件は……確かに軽々に決めてしまった、私達にも責任はありますよ」
勇者「……」
女僧侶「でも、やっぱり……傭兵の人達がいないなら、この四人で……」
勇者「……四人で?」
女僧侶「……」
勇者「……ん?」
女僧侶「?」
勇者「……えっ? 何?」アセアセ
女僧侶「……」
勇者「え?っと……この四人で……やるしかないよね……」
女僧侶「はいっ! そうですっ! ほら、やっぱり勇者さん、成長してるじゃないですか!」ニコニコ
勇者「う、うんっ……」
280:
女僧侶「ねっ? だから、今から装備を買いに行って……魔物討伐でお姉さんにいい所を見せましょうよ?」
勇者「う、うん……」
女僧侶「そしたら、きっとお姉さんも勇者さんの事、認めてくれますよ!」
勇者「そうかな……?」
女僧侶「自身持って下さいよ? 今日の勇者さん、いつもの勇者さんらしくありませんよ?」
勇者「……ご、ごめん」
女僧侶「も?う……そんなに謝ってばかりだったら、嫌いになっちゃいますよ?」
勇者「いやいやいやっ……! そりゃ、困るっ……! そいつは困りますっ……!」アセアセ
女僧侶「じゃあ、早く……装備、買いに行きましょうよ? ねっ? 私は前向きな勇者さんの方が好きですよ?」クスクス
勇者「わ、わかったっ……!」
287:
道具屋ーー
天童「おい、勇者?」
勇者「……ん、どうしたの?」
天童「装備買うのもいいけどよぉ? 薬草もきれてるんだから、ちゃ?んと補充しておけよ?」
勇者「あぁ、大丈夫大丈夫……わかってるよ」
天童「……ほぅ」
勇者「俺にはさぁ? 男武道家さんに貰った武器があるし、姉ちゃんから貰った4000Gは、女僧侶ちゃんの装備と、アイテムに使おうよ」
天童「……おめぇさぁ?」
勇者「……ん?」
天童「姉貴の姿が見えなくなったら、元気になるんだな?」
勇者「……えっ?」
天童「おめぇ、姉貴の前では完全にダメ人間に戻ってるじゃねぇか!? こんな所だけで仕切ってても真人間にはなれねぇぞ!?」
勇者「わ、わかってるよ……でもさぁ……?」
288:
天童「おめぇはよぉ!? 姉貴の方が間違った事を言っててもゴメンゴメンって、謝るんだな!?」
勇者「姉ちゃんは……間違ってなんかないよ……俺より長い事旅してるんだし……経験も豊富だしさ……?」
天童「何だ何だ? おめぇにとって、姉貴は神様なのか!? えぇ!?」
勇者「……そうだよ。神様みてぇなもんだよ」
天童「……あぁ?」
勇者「父さんや姉貴みたいな、凄い人達は他にはいないんだから……」
天童「……」
勇者「……」
天童「……じゃあ、何? 今回は本当に無理って事なの?」
勇者「……えっ?」
289:
天童「勇者君、命題どうするの? あの姉貴に勝たないと死んじゃうんだよ?」
勇者「でも……さっきから、勝負挑んだけどさぁ……? 全部……俺、負けてるしさぁ……」アセアセ
天童「バカ?んっ! 何、言ってやがるっ! 本当、バカ?んっ!」
勇者「……ん?」
天童「おめぇはよぉ? 今の所、全部不戦敗じゃねぇか!? リングにすら、上がってねぇじゃねぇか!」
勇者「……」
天童「ちょっと、言い返されそうになったらよぉ? ビビって、すぐゴメンゴメンって、謝ってよぉ?」
勇者「う、うん……」
天童「何で戦ったっていうんだよ? おめぇ、なぁ?んにもしてねぇじゃねぇか!?」
勇者「ご、ごめん……」
290:
天童「腕相撲の時だってよぉ!?」
勇者「……」
天童「どうせ『勝てないんだろうなぁ?」とか……『負けちゃうんだろなぁ?』とか、思ってたんだろ?」
勇者「……」
天童「おめぇ、普段、戦ってる時、あんな腑抜けた顔してたのか!? えぇっ!?」
勇者「ご、ごめん……」
天童「だから、そうやってすぐ謝ってんじゃねぇよっ! おめぇ、俺に対する強気すら、なくなっちまったのか!」
勇者「……」
天童「……いいか、勇者?」
勇者「?」
291:
天童「おめぇはよぉ? 先ず、ビビらず、ちゃんとリングに立つ事から、始めてみようぜ?」
勇者「……えっ?」
天童「ここまで、おめぇが学んできた事をぶつけてみれば、何か一つおめぇの中で変化が起きるかもしれねぇじゃねぇか?」
勇者「……う、うん」
天童「命題には『負けたら即・死亡』とは書いてねぇんだから……なっ? ビビってねぇで、自分の成長を見せてやれよ!」
勇者「わ、わかったっ……!」
天童「装備買ったら……魔物討伐の計画話し合う事になるんだろ? そん時はよぉ、なんとしてもおめぇが主導権握れよ!?」
勇者「……う、うん」
天童「俺や女僧侶ちゃんは、誰を信じて行動してると思ってんだ? おめぇの姉ちゃんなんじゃなくて、おめぇなんだからよ!」
292:
宿屋ーーー
女勇者「……装備買うのに、どれだけ時間かかってるのよ。 もう12時じゃない? やっぱり、あんたはクズねぇ」
天童「……勇者? 謝るんじゃねぇぞ?」
勇者「……う、うん」
女勇者「それで……? あんた、何買ったの? 装備、何も変わってないじゃない?」
天童「……言ってやれ、言ってやれ」
勇者「あぁ、俺に装備は必要なさそうだったからさぁ……? あの、お金は女僧侶ちゃんの装備に使ったんだ」
女勇者「……なんで、私が赤の他人にお金出さないといけないのよ?」
天童「……おいっ、 勇者! 言ってやれっ!」
勇者「いやぁ……女僧侶ちゃんはさぁ……? やっぱり回復魔法も使えるしさぁ……?」アセアセ
女勇者「そうね……なぁ?んにも、できないあんたよりかはマシか……じゃあ、今回の計画を話すわよ?」
293:
天童「ちょっと待って下さい、お姉さんっ!」
女勇者「……何なのよ?」
天童「今回の指揮は……勇者君に任せるってのは、いかがでしょうか!?」
女勇者「……はぁ? こいつ、頭も悪いのよ? こんな奴に指揮がとれるワケないじゃない」
天童「いえいえっ……! お姉さんはわからないかもしれませんが……勇者君は、ここまでの旅で成長してるんですよ?」
女勇者「クズが成長しても……人並み以下なの?」
天童「いやいやっ……! そんな事ありませんよっ! 勇者君は成長してますからっ! なっ!?」
勇者「う、うんっ……!」
天童「よし、勇者っ! じゃあ、おめぇの頭のいい所を見せてやれやれっ! 成長した所を見せてやるんだっ!」
勇者「えっ……でも……? 頭のいい所って……どうやって、見せればいいんだよ……?」アセアセ
女僧侶「……あ、あの?」オドオド
勇者「……ん?」
294:
女僧侶「私……なぞなぞ、出しましょうか……?」
勇者「あっ! それいいねっ! そうしようっ!」
女勇者「……何言ってんの? 子供の遊びじゃないんだから?」
女僧侶「あっ……! 大丈夫ですっ! あの……知識の豊富さとかじゃなくて、頭の回転が必要な問題ですからっ!」
天童「頭の回転はよぉ!? 部隊を指揮するにあたって、重要な事だよなぁ!? いいんじゃねぇか、ソレ! なっ?」
勇者「う、うんっ……! いいと思うっ……!」
女勇者「本当……バカの周りには……バカが集まるのね……」
天童「まぁまぁ、そう言わずっ! お姉さん、勝負してみましょうよっ! それで……この問題に答えれた方が指揮をとるという事で!」
295:
天童「よしっ、じゃあ、女僧侶ちゃんっ! 早問題を出してくれっ!」
女僧侶「はいっ……! あの、勇者さん……? 頑張って下さいね……?」
勇者「う、うんっ……!」
女僧侶「では、問題です!」
女勇者「……」
女僧侶「男君と……友君と……妹ちゃんと……姉さんと……犬のポチで、隠れんぼをしました!」
勇者「……うんうん」
女僧侶「妹ちゃんは、木の影で……友君は……すべり台の下で見つかりました……」
女勇者「……」
女僧侶「では、問題ですっ! 今、隠れているのは何人でしょうっ!」
天童「よっしゃっ! 勇者ァ! 先に答えちまえっ!」
296:
勇者「え?っと……二人、見つかったから……残りは三人だっ!」
女僧侶「……えっ?」
女勇者「……あんた、バカね? 鬼を忘れてるじゃない。 答えは二人でしょ?」
女僧侶「あっ……その答えも違います……」アセアセ
女勇者「うん、知ってる……これ、卑怯な問題よね? だって、犬のポチは『一人』じゃなくて、『一匹』なんだから?」
女僧侶「……あっ」
女勇者「……あたしが、『二人』って答えたら、この問題の正解は『一人と一匹』が正解で」
女僧侶「……」
女勇者「あたしが『一人と一匹』って答えたら、ポチは鬼役になって『二人』が正解になるんでしょ?」
女僧侶「……せ、正解です」
女勇者「……あんた、人のお金で自分だけの装備買うだけあって、卑怯な子ね?」
女僧侶「……す、すいません」
297:
女勇者「残念だったわね? このバカ勝たせる為に、色々工夫したみたいだけど?」
女僧侶「……」
女勇者「でも、わかったでしょ? こいつは、一番最初のひっかけもわからないような、頭の悪い子なの?」
女僧侶「……」
女勇者「こんなバカと仲間だなんて……やっぱり、バカの周りにはバカが集まるのね?」
女僧侶「……そ、そんな事」
女勇者「頭の回転を試す為になぞなぞ……何よ、その発想? 三歳児じゃないんだから」
女僧侶「いや……あのっ……」
女勇者「まぁ……4000Gもネコババしていく、意地汚い三歳児はいないか? 三歳児の方が、まだマシよ」
女僧侶「……す、すいません」アセアセ
298:
勇者「……」
天童「……何で黙ってんだよぉ?」
勇者「……えっ?」
天童「……いくら姉貴だからって、あんな言い方はないだろ、女僧侶ちゃんに?」
勇者「……仕方ないよ。 俺、答えられなかったんだし」
天童「何で、ビビんのかな? こんな、人でなしによぉ!?」
女勇者「……あんた、聞こえてるわよ?」
天童「何が、いけねぇんだよぉ!? こんなの、卑怯でもなんでもねぇじゃねぇか!?」
女勇者「……はぁ?」
300:
天童「意地悪な問題出したのだって、こいつの事を勝たせてやりたいって想いからじゃねぇかっ!」
女勇者「……それが、卑怯っていうのよ」
天童「女僧侶ちゃんだけが装備品買ったのだって、勇者が女僧侶ちゃんを大切にしてやりたいって、想いからじゃねぇか!」
女勇者「……まぁ、人のお金だって事を忘れてるけどね?」
天童「この二人の関係見てよぉ? あんたは何にも思わねぇのかよっ!? 二人の信頼関係わかんねぇのかよ!?」
女勇者「クズとクズが仲良くして……どうなるっていうのよ? お互い、足を引っ張り合うだけでしょ?」
天童「なんで、そういう風な事を言うかねぇっ! お互いがよぉ! 足りない所を助けあって……人間ってにはよぉ……!」
女勇者「勇者……あんたの仲間のバカを止めなさい……付き合ってられないわ……」
301:
勇者「天童、天童……もう、いいからっ……」アセアセ
天童「おいっ、ふざけんなっ! なんで止めるんだよ! おめぇは奴隷かっ! こいつの奴隷かっ!」
女勇者「……こんなメンバーで、魔物討伐なんて、出来るワケないじゃない。 もう、あんた達はいらないわ」
勇者「……えっ?」
天童「うるせぇっ! おめぇなんかよぉ! こっちから、願い下げだ馬鹿野郎っ!」
女勇者「……他の街から傭兵を援軍を願います。 無駄な出費だけど、あんた達よりかは、遥かに役に立つわ」
勇者「いやいや……でも……」アセアセ
天童「あんたは、こいつの成長を何も見てねぇ癖に、よくそんな事ばっかり言えるなぁ! おいっ!」
女勇者「……あんた達は勝手に行動しないでよっ!? あんたみたいなクズでも、死んだら街長さんにどんな噂流されるか、わからないんだからねっ!」バタンッ
308:
女僧侶「あ、あのっ……! 勇者さん、ごめんなさいっ……!」アセアセ
勇者「……えっ?」
女僧侶「私のせいで……私が、変な問題出したせいで、お姉さん怒って、行ってしまいました……」
勇者「……いや」
女僧侶「勇者さん……ごめんなさいっ……! 私、お姉さんに謝ってきますっ……!」
勇者「……」
天童「おいおい! なんで、女僧侶ちゃんが謝らねぇといけねぇんだよっ! もう、あんな奴放っておこうぜ?」
女僧侶「……えっ?」
309:
天童「俺もよぉ? 色んなダメ人間担当してきたけど、あそこまで人の話を聞かねぇ奴は、なかなかいねぇぞ?」
勇者「……」
天童「あいつはよぉ? 別に更生しねぇでも死なねぇんだから、もうどうでもいいじゃねぇか! なっ、勇者?」
勇者「……えっ?」
天童「もう、おめぇがよぉ? あの姉貴に怯えてネガティブ人間に戻ってんの見るの飽きたよ!」
勇者「……ごめん」
天童「もう、この三人だけで魔物討伐に行けばいいじゃねぇか? なっ?」
勇者「……でも」
天童「俺はよぉ? おめぇはもう、姉貴に勝ってると、思うぜ? だって、俺はあの姉貴は嫌いだもんっ!」
勇者「……」
310:
女僧侶「でも、天童さん……? 相手は精鋭部隊なんですよ……?」
天童「そんなもんよぉ!? こいつ、一人に任せておけばいいじゃねぇか!? こいつだって成長してるんだからよぉ!?」
勇者「……」
女僧侶「そうですが……」
天童「なっ、勇者? おめぇ、一人で出来るよな? なっ、なっ?」
勇者「……」
女僧侶「勇者さん……? 私達も一生懸命、サポートしますから……?」
天童「おめぇがよぉ? 魔物の精鋭部隊を倒したら、あの糞姉貴もおめぇの力を認めざるを得ないだろ? なっ?」
勇者「……うぅ」
女僧侶「勇者さんは……変わりました……ねっ……?」
天童「魔物討伐して、いい所見せて、姉貴に認められたら命題にもクリアになってるだろ!? そうだろ、おいっ!」
勇者「……くそっ!」ダッ
311:
女僧侶「勇者さん……!?」
天童「おいっ、勇者ァ! おめぇ、何処に行くんだよっ!?」
バタンッ
女僧侶「あっ……勇者さん……」アセアセ
天童「くそっ……! あの野郎っ……! 何してやがるっ! これじゃあ、一番最初の魔物討伐から逃げた時と同じじゃねぇか!」
女僧侶「そ、そんな事ありませんよっ…… ! だって、だって……勇者さんは……」
天童「わかってるよ、そんな事! 俺だってよぉ! あいつは、あの時とはもう違うよ……立派に成長してるんだからよぉ!」
女僧侶「と、とにかく……! 天童さん! 勇者さんを追いかけましょうっ!」
天童「あぁっ! わかってるよ、女僧侶ちゃんっ!」
312:
PM2:00
タイムリミットまで後、7時間
313:
勇者「うぅ……」
勇者「……くそっ! くそっ!」
勇者「……」
勇者「なんでだよっ……! なんで出来ないんだ、俺はっ……!」
勇者「ここまでやってきたんじゃねぇかっ……! いつもみたいにやれば、いいだけじゃねぇかっ……!」
勇者「……」
勇者「うぅ……くそっ……! くそぉっ!」
「……勇者さん、こんな所にいたんですね?」
勇者「……えっ?」
女僧侶「はぁっ……はぁっ……探しましたよ、勇者さん……?」ニコッ
勇者「……」
314:
女僧侶「勇者さん……? ちょっと、遅いけど、お昼ご飯にしませんか……?」
勇者「……」
女僧侶「私……走り回って、ちょっと疲れちゃいました……だから、ねっ?」ニコッ
勇者「……」
女僧侶「天童さんも、待ってますよ? 天童さん、お腹空くと機嫌悪くなりますかね?」
勇者「……」
女僧侶「……ねっ? 皆で、ご飯食べに行きましょうよ?」
勇者「……」
女僧侶「皆……勇者さんの事、待ってますから……?」
勇者「……うぅ」
315:
女僧侶「……ねっ、戻りましょうよ? 皆、待ってますから」
勇者「……くそっ」
女僧侶「戻って……魔物討伐に行きましょう? 勇者さんと一緒なら、きっと大丈夫ですから」
勇者「……やめて」
女僧侶「だって、勇者さんは……あの時と違って……もう……」
勇者「……やめてくれよっ!」
女僧侶「!」ビクッ
勇者「女僧侶ちゃん……?」
女僧侶「……」
勇者「お願いだから……やめてくれ……お願い……」ボロボロ
女僧侶「……えっ?」
316:
勇者「俺さぁ……? ずっと、引き篭もってたじゃん……?」ボロボロ
女僧侶「……はい」
勇者「姉ちゃんや……周りの人達に……色々言われたよ……」
女僧侶「……」
勇者「クズ……出来損ない……恥さらし……社会不適応者……」
女僧侶「……」
勇者「確かに、その通りだよ……その通りだったよ……」
女僧侶「……」
勇者「あの時はさぁ……? 俺、何も考えてなかったけど……やっぱり、今思い出すと、自分がダメだった事を改めて思い知らされるよ……」
女僧侶「……」
勇者「……でもさぁ!? 俺は、変わったんだよっ! 変わったはずなんだよっ!」
女僧侶「……はい」
317:
勇者「ここまで、旅をしてきて……色々な事を学んで……俺は、変わってるはずなんだっ……!」
女僧侶「……はい」
勇者「だけどさぁ……? やっぱり、姉ちゃんを目の前にするとさぁ……? 自分がダメだった時の事、思い出してさぁ……」
女僧侶「……」
勇者「自分はまだ、ダメ人間なんじゃないかって思って……身体が震えて……いつも見たいに行動できなくなってさ……?」ブルブル
女僧侶「……」
勇者「あの時と同じように、何も行動出来ない自分になってるのがわかってさぁ……?」
女僧侶「……」
勇者「俺、変わってるんじゃなくて……自分の無駄にしてきた時間のツケを、支払ってるだけだと思うんだよっ!」
女僧侶「……そんな事ないですよ。勇者さんは、もう立派に成長してますよ」
318:
勇者「女僧侶や、天童は……そうやって、俺の背中押してくれるじゃん……?」
女僧侶「……はい」
勇者「だけどさぁ……!? 俺、その気持ちに何も応えられてないじゃん!?」
女僧侶「……えっ?」
勇者「皆が後押ししてくれるのに……俺、何もできなくて……皆の期待を裏切っちゃって……」ブルブル
女僧侶「勇者……さん……?」
勇者「そんな自分が、凄く嫌になるんだよっ! あの時の自分を思い出してしまうからさぁ!」
女僧侶「……」
勇者「くそっ……! くそっ……! なんで出来ないんだよっ! 俺は変わってるはずなのによぉ!」ブルブル
女僧侶「勇者さんっ……! 落ち着いて下さいっ……!」アセアセ
勇者「くそっ! くそぉっ!」
女僧侶「勇者さんっ!」
ギュッ
勇者「……えっ?」
319:
女僧侶「お願いです…… ! お願いですから、そんなに自分を責めないで下さいっ……!」ボロボロ
勇者「……あっ、女僧侶ちゃん?」
女僧侶「ごめんなさいっ……私達の行動で、そんなに勇者さんが追い詰められているなんて……」
勇者「……く、苦しいよ。女僧侶ちゃん?」アセアセ
女僧侶「もう、いいですからっ……! お姉さんの事は忘れましょう! だから、いつもの勇者さんに、戻って下さいっ!」
勇者「……えっ?」
女僧侶「無理に人と比べなくていいじゃないですか……! 勇者さんは……勇者さんのままでいいじゃないですっ……!」
勇者「女僧侶ちゃん……」
女僧侶「私は、いつもの勇者さんが好きですっ……! だから……だから、もうお姉さんと戦わなくていいじゃないですかっ……!」
勇者「……ありがとう」
天童「……やぁ?っと、見つけたと思ったら、あの二人抱き合ってらぁ? こりゃ、俺の出番はねぇなぁ」
320:
ーーーーー
勇者「……ごめんね? 女僧侶ちゃんのおかげで、落ち着いたよ」
女僧侶「いえ、私の方こそ……申し訳ありません……」
勇者「いや、いいんだよ……あ?、でも結局、姉ちゃんには勝てなかったなぁ……」
女僧侶「勇者さん? それは、もういいじゃないですか?」
勇者「う?ん……でもなぁ……命題、どうすっかねぇ……」
女僧侶「勇者さんは、お姉さんに、もう勝ってるじゃないですか?」
勇者「俺、今日……負けっぱなしだったんだよ……?」
女僧侶「う?ん……じゃあ、問題出しますね?」
勇者「……えっ?」
女僧侶「第一問! メロンとみかん……高級な果物はどちらでしょう!?」
勇者「何、その問題……? また、なぞなぞ……?」
女僧侶「はい、なぞなぞです」クスクス
321:
勇者「メロンとみかんなら……メロンでしょ? 値段も倍以上違うじゃん?」
女僧侶「はい、正解です! じゃあ、第二問出しますね?」
勇者「うわっ……ひっかけもねぇのかよ、この問題……」
女僧侶「第二問! メロンとみかん……大きさが大きいのはどちらでしょう!?」
勇者「だから……それも、メロンでしょ? メロンみたいな、高級な物にみかんなんかが勝てるわけないよ?」
女僧侶「じゃあ、第三問! ビタミンCが豊富なのはどちらでしょう!?」
勇者「ん……? ビタミンC……?」
女僧侶「はい、ビタミンCです」
勇者「ビタミンCだったら……みかんじゃないの?」
女僧侶「じゃあ、冬にこたつで食べたら、美味しいのはどちらですか?」
勇者「おっ……? なんだなんだ……みかんが逆転してきたぞ……?」
女僧侶「……ねっ?」
勇者「……んっ?」
322:
女僧侶「形の違うものを比べる方法なんて、いくらでもありますよ?」
勇者「……」
女僧侶「勇者さんがお姉さんに勝っている所なんて……数えきれない程ありますよ」
勇者「……あるのかねぇ?」
女僧侶「勇者さんだったら……一生懸命な所とか……優しい所とか……」
勇者「……」
女僧侶「自分が苦しい時でも……周りの人を気遣ってあげれる所とか……」
勇者「何か……面と向かって言われると、恥ずかしいもんだね? 女僧侶ちゃん、俺の事、よく見てるんだね?」
女僧侶「はい! 見てますよ!」クスクス
323:
勇者「……まっ、それだったら、もう姉ちゃんと張り合うのはいいかな?」
女僧侶「そうですよ」
勇者「え?っと……うわっ! もう三時か!? 天童、怒ってんだろなぁ……」
女僧侶「そうですね? 天童さん、お腹が空くと機嫌悪くなりますから」
勇者「よしっ! んっ……んっ……!」
女僧侶「勇者さん、何してるんですか……?」
勇者「いや……もう姉ちゃんと戦う必要もなさそうだし……ネガティブモードから、切り替えておこうかなって、思ってね?」
女僧侶「そうですね」
勇者「それに、魔物討伐にも行くんだし……こんな腑抜けた顔してたら、またあいつにうるさく言われそうだしさ?」
女僧侶「ふふ」
勇者「カァ?! おめぇ、そんな腑抜けた顔で魔物倒せんのかよ! おめぇのケツ拭くのは、誰だと思ってるんだよぉ!」
女僧侶「あっ、凄い。そっくりです」クスクス
勇者「じゃあ……そろそろ戻ろうか? 迷惑かけてごめんね?」
女僧侶「迷惑なんて、かかってませんよ」
324:
ーーーーー
天童「……おめぇはよぉ!? 遅ぇんだよっ! このバカっ!」グゥー
勇者「……はは、悪ぃ悪ぃ」
天童「ランチタイムはとっくに終了してるぜ? どうすんだ? パフェ食うのか? 昼飯はパフェか?」
勇者「……パフェじゃ、腹は膨れんだろ」
天童「じゃあ、どうすんだ!? ティラミスか? それとも、モンブランか?」
勇者「……な、なぁ? 天童?」
天童「……あぁ、どうした? こっちは腹減ってイライラしてんだよ?」
勇者「姉ちゃんと……戦うのは……もう、やめにしねぇ……?」
天童「……命題はどうすんだよ?」
325:
勇者「俺にだってさ……? もう、姉ちゃんに勝ってる部分は何処かであると思うんだよ……」
天童「……」
勇者「それを証明する為に、今から戦い挑むよりかはさ……? 今、自分に出来る事をするべきだと思うんだよ」
天童「……」
勇者「おめぇの命題でさ……? 俺、成長してるはずだからさ……? 姉ちゃんにも、もう負けてないはずだからさ……?」
天童「……」
勇者「……今は、この街救う為に、魔物討伐に行くべきでしょ?」
326:
天童「……まっ、それだけわかってるんだったら、いいだろ」
勇者「……うん」
天童「もう、ネガティブ人間のおめぇ見るの嫌だからよぉ……? おめぇの信じた道を突き進めや」
勇者「天童……ありがとう……」
天童「でもよ……? 勇者……忘れんなよ……?」
勇者「……えっ?」
天童「例え、おめぇにもう勝ってる部分があるとしても……こうやって、命題が来たって事は、何か意味があるんだよ?」
勇者「……うん」
天童「姉貴との直接対決はもういいよ。違った事で、姉貴を認めさせればいいんだからな?」
勇者「……うん」
天童「だからよぉ? この魔物討伐……おめぇ、気合入れろよ!? 相手は精鋭部隊らしいからよ!?」
勇者「大丈夫……! 俺が今まで学んできた事を……精一杯やってみるよ!」
天童「その顔だったら大丈夫だっ! よしっ、じゃあ飯だっ! とりあえず、飯食いに行くぞっ!」
334:
PM4:00
タイムリミットまで後、5時間
335:
天童「ふ?う……食った食った……満腹だぁ……」
勇者「……なぁ? なんで、おめぇさぁ? 鍋焼きうどんとか食うの?」
天童「ランチタイムは終わってたんだから、仕方ねぇじゃねぇか!」
勇者「これから、魔物討伐に行くのにさ? チョイス、おかしくね? なんで、鍋焼きうどんなの?」
天童「そりゃ、俺だってよぉ! バシっと味噌カツ定食で決めたかったよっ! でも、胃もたれが怖かったからよぉ? 鍋焼きうどんにしたんだよっ!」
勇者「まだ、昼じゃねぇかっ! なんで、おめぇはいつもそうやってガッツリ食うんだよっ!」ギャーギャー
天童「食いたいもん食って何が悪ぃんだよ! それに、もう昼じゃねぇよっ!」ギャーギャー
女僧侶「ふふ、いつもの勇者さんに戻ったみたいですね」クスクス
336:
天童「まっ……じゃあ、そろそろ行きましょうかっ!」
女僧侶「はいっ!」
勇者「……よしっ!」
天童「南の洞窟の入り口は、ここから一時間か、二時間ぐらい歩いた所にあるらしいです。 少し、距離がありますが、頑張りましょうっ!」
女僧侶「一時間か……二時間……?」
勇者「おめぇ、ちょっとよぉ? 曖昧すぎねぇか? 距離感が全く、わかんねぇんだけど……?」
天童「ノンノンノ?ン、勇者君……この天童様の情報網を甘く見てはいけませぇ?ん……」
女僧侶「?」
勇者「……どういう事?」
337:
天童「洞窟までは一時間ぐらいで着くよ? だけどよぉ? 相手は精鋭部隊だろ?」
勇者「うん」
天童「そんな所によぉ? 正面から飛び込むなんて、危ねぇだろ? だから、なんかいい作戦はねぇかって、考えてみたんだよ」
勇者「ほぅほぅ……」
天童「それでよぉ? 街の人達に情報を聞いて回ったら、そこからさらに一時間ぐらい歩いた所によぉ?」
勇者「うんうん……」
天童「一部の地元民ぐらいしかわからねぇような、洞窟に繋がってる抜け穴みたいなのがあるんだってよ?」
勇者「……抜け穴?」
天童「あぁ……裏口みてぇなもんだな? そこから、行けばよぉ? 奇襲ぐらいは出来るんじゃねぇか?」
勇者「なるほど……奇襲か……」
338:
天童「まっ、俺もおめぇらのわからねぇ所で、色々動いてたんだよ! ちょっとぐらい褒めてくれよな? なっ?」
勇者「お、おう……いい情報を聞いたよ……」
天童「まっ、どうするかは、近くまで行ってから考えてみようぜ?」
勇者「そうだね、洞窟の様子見てから決めようか?」
天童「……よしっ! じゃあ、勇者君、出発の号令を!」
勇者「……はぁ?」
天童「何、マヌケ面してんだよ? おめぇが指揮をとるんだろがっ! ビシッと決めやがれっ! バカっ!」
勇者「え?っと……じゃあ、今から魔物討伐に向かいますっ! 皆さん、準備はいいですか!? ……って、感じ?」
女僧侶「はいっ! 準備オッケーですっ!」
天童「……まっ、ギリギリ合格点って所だなっ! 俺も準備オッケーだっ!」
勇者「よしっ! じゃあ、出発するよ!」
339:
PM5:00
タイムリミットまで、後4時間
340:
勇者「洞窟の前までついたけどさぁ……これ……」コソコソ
女僧侶「……沢山いますね。精鋭部隊」コソコソ
天童「27……28……おい、何人いるんだよ、アレ! ウォーリーを探せしてるんじゃねぇんだぞ! こっちはよぉ!」
魔物「……ん? 何か、声がしたような?」
勇者「……バカっ! 大声出すなよ! おめぇっ!」
天童「す、すまんっ……!」
女僧侶「にゃ?ごぉ……にゃぁ?ごぉ……」
魔物「……猫かな?」
341:
天童「おい、勇者……? これ、正面突破はいくらなんでも無茶だぜ? 時間はかかっちまうけど、抜け穴使おうぜ?」ヒソヒソ
勇者「いや……天童、でもさぁ……?」ヒソヒソ
天童「……なんだよ、おめぇ? ま?た、ネガティブ発言か?」
勇者「いやいや、違う違う……! 抜け穴使ってもさぁ? 結局、あいつらが戻ってきたら、袋の鼠じゃん?」
天童「まぁ、そうだけどよぉ……? 奇襲ぐらいはできるんじゃねぇか……?」
勇者「だからさ……? おめぇと女僧侶ちゃんで、抜け穴使って、奇襲かけてくれよ?」
天童「……おめぇはどうすんだよ?」
勇者「……俺は正面突破してみるよ」
天童「……」
勇者「俺が正面突破して、あいつらが慌ててる時に、天童達が奇襲をかけたら、あいつらは更に混乱するだろ?」
天童「……そんな危ねぇ事、おめぇに出来るのかよ」
勇者「俺は、偉大な父さんの息子の勇者なんだから……一番危険な事をしなきゃダメだよ?」
342:
天童「……おめぇは、知らねぇ間に無茶するようになったんだな?」
勇者「……俺も成長したかな?」
天童「成長はしてるけどよぉ……? おめぇ、まだ姉貴と張り合ってんのか?」
勇者「はは……姉ちゃんとは、もう張り合ってなんかないよ? まぁ、一応作戦もあるしね?」
天童「……作戦?」
勇者「今日一日でわかったんだよ……ダメ人間にはダメ人間なりのやり方があるってね……?」
天童「……はぁ?」
勇者「まっ、見ててよ? 一人でなんとかやってみるからさ?」
天童「……お、おいっ!」
343:
魔物「……ん? 何だあいつ?」
魔物「……どうした?」
勇者「う、うわっ……! 魔物だっ!」アセアセ
魔物「……ガキじゃねぇか?」
魔物「……どうする? 殺すか?」
勇者「逃げなきゃ……殺される……う、うわああぁぁっ!」
魔物「ハハっ! なんだ、あいつ?」
魔物「あっ、こけやがったぞ?」
勇者「うわああぁぁぁ……! くるなくるなっ……!」
魔物「惨めなガキだねぇ? 何だアイツ?」ゲラゲラ
魔物「おいっ! 俺にやらせてくれよ? 俺、あんなガキ追い回すの好きなんだよ!?」
34

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