番長「SOS団?」 【前半】back

番長「SOS団?」 【前半】


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3:
>うっ……。
???「おや、お目覚めですか」
>どうやら長机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。
>見知らぬ部屋だ……ここは。それに、あなたは。
???「起き抜けに質問ですか。僕としてはこちらから質問をしたかったのですが」
>見知らぬ制服を着た学生風の男に問いかけられた。
>部屋には彼と自分しかいないようだ。
???「僕が来たときにはあなた一人で突っ伏して寝ておられましたよ」
>……。
???「困惑していらっしゃるようですし、いいでしょう。質問にお答えします」
???「そうですね、場所は県立北高です。さらに言うなれば旧校舎文芸部部室」
>北高……? 文芸部……?
5:
古泉「……それと僕の名前でしたね。名前は古泉一樹と申します。所属は1年9組」
>どうやら、とある高校と、その生徒のようだ。
古泉「こちらからもいくつかお聞きしてもいいでしょうか」
>なんだろうか。
古泉「まずお名前を教えていただいてよろしいですか」
>自分の名前を伝えた。
古泉「ふむ、聞き覚えはないですね。
 仲間内からもこの部内でもあなたの名前が出たことはありません」
古泉「もう一つよろしいでしょうか。あなたは、北高の生徒ですか?」
>八十神高校の2年生であることを伝えた。
古泉「ヤソガミ高校……あなたの着ている制服から北高の生徒ではないことは察せましたが、
 聞いたことのない高校ですね。少なくともこの学区内ではないようだ」
>聞いたことがない……? ここは八十稲羽市ではないのだろうか。
6:
古泉「ヤソイナバシ、それも聞いたことがありません」
古泉「どうやらあらゆる意味で僕とあなたは初対面のようだ。
 もし昔の知り合いで忘れていたのなら失礼でしたから、よかったです」
>如才のない笑みを浮かべ、ふうとため息をついている。
古泉「しかし、それはそれで困りましたね」
古泉「僕の知る限り、ヤソイナバシはこの日本には存在していない」
>……!?
古泉「しかし……おそらく、あなたの言っていることは本当なのでしょう。
 なにか犯罪的な目的でここに忍び込んでいたとしても、全く存在しない架空の地名を言う意味がない。
 逆に怪しい人物として疑われるだけですからね」
>犯罪者に見えるのだろうか……。
古泉「いえ、そのようなことは。むしろ話した限りでは正反対の印象です。
 この北高文芸部に不法侵入している一点を除けばですけどね」
古泉「詐欺師なのだとしたら、才能がおありだと思いますよ」
>あまり嬉しくない褒め言葉だ。
7:
古泉「ふふ、冗談です」
古泉「あとは、そうですね。架空の地名を言って相手を困惑させる趣味がおありですか?」
>そんなものはないと伝えた。
>逆に、自分が騙されているのではないだろうか不安になってきた。
古泉「そうですね……あなたのおっしゃるヤソイナバシが
 存在しないことを証明することはできるかと思います」
>どうやって?
古泉「簡単ですよ、そこのパソコンから検索すればいいのです。
 幸いインターネットにも繋がっていますしね」
>借りてよいだろうか。
古泉「ええ、どうぞ。現在のこの部屋の管理者として許可しますよ」
>パソコンのある席に座り、インターネットブラウザを立ち上げ検索エンジンへアクセスした。
古泉「使い方は、わかるようですね」
>古泉一樹と名乗った生徒は後ろからパソコン画面をのぞきこんでいる。
古泉「僕のことは気にせず、どうぞ」
8:
>……。"八十稲羽市"と、検索窓に入力し検索ボタンをクリックする。
古泉「なるほど、八十稲羽市と書くのですか」
>検索結果は、なんとゼロ件だ。
古泉「ゼロ件ですか」
>続いて、"八十神高校"と入力し検索を掛けた。
>……!!
古泉「やはり、ゼロ件ですね」
>こんなバカなことがあるのだろうか。
古泉「いえ、これはこれで有益な情報でしょう」
>どういうことだろう?
古泉「それはですね――」
ガチャ
???「よお……ん? なんだ、来客か?」
>同じように制服を身にまとった男子が現れた。
9:
古泉「ああ、あなたですか」
???「俺じゃ不満のような口ぶりだな」
古泉「いえいえ、そんなことはないですよ」
???「ところで、こちらはどちらさんだ。
 学ラン姿から察するに北高の生徒じゃないみたいだが」
>自分の出身高校と名前を告げた。
???「わざわざ丁寧にどうも。俺は――」
古泉「彼はここのメンバーから『キョン』と呼ばれていますので、あなたもそう呼んであげてください」
>ああ、わかった。
キョン「おい、勝手に俺の呼称を決めるな」
古泉「いいではないですか。この方だけ別の呼称では混乱してしまいますよ」
キョン「ったく……この方だけって他の団員が来るまで、この人はいるつもりなのか?
 ってことは古泉、お前の客じゃないのか」
古泉「ご明察です。僕を目当てのお客様ではありません」
キョン「俺の後にくる人物の客っていうと、朝比奈さんか長門か」
古泉「おや、涼宮さんの名前は挙げないのですね」
11:
キョン「アイツに会いたい奇特なやつがそう何人もいてたまるか。
 それにハルヒが、この見るからに普遍的な他校の男子生徒に興味を持つとは思えん」
キョン「まあ、学ランの前全開は少しロックだけどな」
古泉「少し、番長、的な雰囲気が漂っていますね」
キョン「よし、なら今から呼び名は番長ってことで。
 俺も勝手に呼び名を決められたんだ、文句は言わせないからな」
>それで構わないと伝えた。
キョン「おう、よろしくな。で、どっちだ」
>どっち、というと?
キョン「朝比奈さんと長門をどっちを待っているんだって話だ。
 ちなみに色恋沙汰を目的にしているな両方とも諦めたほうがいいぞ」
>誰のことを言っているのだろう……だがなぜか敵意を感じる……。
古泉「それは、僕からお話しますよ。推察の域を出ない話ですがね」
キョン「……はぁ? なんで古泉が話すんだ」
古泉「涼宮さんが来ないうちに話してしまいたいのですよ」
12:
キョン「ハルヒ? あいつなら今日は来ないぞ。
 用事があるとかで終業のベルと同時に矢の如く教室を飛び出していったからな」
古泉「それは好都合です。いえ、必然なのかもしれませんね」
キョン「……? 何を言ってるんだお前は」
ガチャ
???「こんにちはぁ」
???「……」
>女性が2人が入室してきた。
古泉「これはグッドタイミングですね」
キョン「朝比奈さん、こんにちは」
???「あ、キョンくんこんにちはぁ」
古泉「彼女が朝比奈みくるさん、もう片方が長門有希さんです」
>耳打ちをしてきた。
>長門有希と紹介された寡黙な女子生徒は無言のまま部屋の隅の椅子に着席し、読書を始めてしまった。
13:
キョン「……長門は、ちがうのか」
キョン「ってことは朝比奈さんのお客さんですか?」
みくる「お客さん?」
キョン「彼ですよ」
>敵意のない視線を向けられる。
みくる「はじめ、まして? ですよね? 朝比奈みくるです」
>ペコリとお辞儀をされた。
>初対面であることを伝え、自分も自己紹介をした。
キョン「朝比奈さんの知り合いでもないんですか?」
みくる「う、うん……」
みくる「あ、そうだ。お客様でしたらお茶をご用意しますね」
>なにやら、いそいそと準備を始めたようだ。
古泉「せっかくですし、長門さんも自己紹介なさってはいかがですか?」
>読書に向かっていた視線がこちらに向けられる。
14:
長門「長門有希」
>それだけ言うと、そのままこちらを見つめてきた。
>自分も自己紹介をした。
長門「そう」
>……もう読書に戻ってしまったようだ。
キョン「おい、古泉、どういうことだ」
古泉「それを今から話そうというのですよ、メンバーもそろったことですしね」
みくる「あれ、涼宮さんは?」
古泉「涼宮さんは用事があってこられないそうです」
みくる「あ、そうなんですかぁ。あ、お茶です。熱いので気を付けてくださいね」
>ありがとう。
15:
古泉「さて、これから番長氏についてお話しようと思います」
みくる「番長……?」
キョン「あだ名ですよ、学ランをロックに着こなしてるんで」
みくる「あ、キョンくんみたいな」
キョン「……そうですね」
古泉「……いいでしょうか。
 番長氏、お手数ですがもう一度出身と高校を教えていただいてよろしいですか」
>"八十稲羽市"の出身で"八十神高校"の2年生であることを伝えた。
キョン「って、上級生だったのか……ですか」
>溢れる寛容力で今まで通りでよいと伝えた。
キョン「そ、そうか。なんかスンマセンでした」
>どこか完二のようだ……。
16:
古泉「番長氏が上級生であることはポイントではありません。
 みなさんは、この地名と高校名ご存知ですか?」
キョン「知らないな、少なくとも近所じゃないことは確かだ」
みくる「ごめんなさい、私も知らないです」
キョン「長門はどうだ?」
長門「……知らない」
古泉「ちなみに、僕も全く知りません」
キョン「お前はどこで、番長に会ったんだ」
古泉「もちろんこの部室ですよ、あなたが来る30分ほど前でしょうかね。
 時間さえ違えば僕よりあなたが先に会っていたかもしれません」
キョン「ってことは、まさか不審者なのか……?」
みくる「えっ、えっ……?」
>困惑した視線が刺さる。
17:
古泉「そこもポイントではありません。
 それと話した印象である程度彼の人柄は分かると思うのですが」
キョン「まあ、な」
古泉「では、話を戻しますよ。このパソコンの画面を見てください」
>長門有希以外がディスプレイを見つめた。
>"八十稲羽市"の検索結果 0件
>"八十神高校"の検索結果 0件
みくる「これは……?」
古泉「つまり、このような地名と高校はこの日本に存在しないのです」
キョン「じゃあ番長がウソを吐いてるってことか?」
古泉「このようなすぐバレてしまうウソを吐く意味はありません。
 またここまで具体的な地名や高校名はとっさの嘘では出てきづらいと考えます」
キョン「ってことは……どういうことだ?」
古泉「彼は、本当のことを言っているのでしょう」
18:
キョン「何を馬鹿な」
古泉「確かに馬鹿なことです。事実、この日本には八十稲羽市も八十神高校も存在していない。
 ですが、この状況にすっきりと説明がつく、とある説があります」
キョン「もったいぶらずにその説とやらを披露しろ」
古泉「みなさんもわかるのではないでしょうか。
 何よりこの場所に突如現れたことを考えれば察することができるはずです」
キョン「まさか……」
古泉「そのまさかです。彼は異世界人である可能性が非常に高い」
>……!
みくる「異世界人……ですかぁ」
長門「……」
古泉「涼宮さんが望む、そしてまだ唯一埋まっていないパーソナルが異世界人です」
古泉「僕は、番長氏はいわゆるパラレルワールドの住人ではないかと考えます」
>ここが、パラレルワールド……!?
古泉「番長氏からすれば、なぜこのような突飛な発想になったのか疑問に思われるかもしれませんね。
 ですが、僕たちからすればこれはほぼ当然の帰結なんですよ」
19:
みくる「かもしれませんね」
キョン「あ、ああ……」
>どういう意味だろうか?
古泉「……お話してもよいのですが、もう少し確証がほしいのです」
キョン「長門」
長門「なに」
キョン「番長のこと、なにかわかるか?」
>なぜ彼女に聞くのだろうか……。
>長門有希はこちらをじっと見つめている。
キョン「どうだ?」
長門「わからない」
古泉「わからないというのは……?」
長門「彼のパーソナルデータを読み込むことは不可能」
>長門有希は立ち上がり、握手を求めるように手を突き出してきた。
長門「触れて」
20:
>言われるがまま手を取って握手をした。
長門「端末である私自身がこのように彼と直接接触すれば、ある程度は読み込める。
 人体を構成する物質はあなた達人間と同じもの。心拍、脳内物質の増減、代謝、全て正常値。
 しかしそれ以上の情報を得ることは不可能」
長門「彼に対しては、情報操作も情報結合も情報連結もすべて不可能。
 情報統合思念体が私たち端末を介さず直接彼にアプローチを試みたが失敗に終わった」
長門「私自身も彼の中に不明なパーソナルデータを複数確認、解析を試みたが失敗。解析は不可能と断定」
長門「情報統合思念体はあらゆる手段を用いて解析を試みたが検出結果から有意性は認められない。
 確かに彼はここに存在している。しかし彼は存在自体の位相がすべての次元から外れている」
長門「そのため私たち端末以外から情報統合思念体が干渉することも不可能と断定」
長門「よって、わからない」
>手を解き、また読書に戻っていってしまった。
キョン「そうか……」
古泉「これは決定的といっていいでしょうね」
長門「……彼から敵性は検知できない。安心していい」
キョン「ありがとよ、長門。お前がそういうなら、そうなんだろう」
>何を言っているのかさっぱりわからない……。
21:
古泉「なるほど、パラレルワールドというより
 完全な別世界からやってきたと考えたほうがいいようですね」
みくる「別世界の可能性は、かなり早い段階から指摘されていました。
 ですけど、結局観測はできないままでした。まさか、こんなところで……」
古泉「こちらに街単位で存在しないのです。僕らも彼の世界では存在していないのでしょう」
古泉「微細にずれた世界なのではなく、まるっきり構造が違うと判断することが賢明でしょうね」
みくる「なるほど……だから観測できなかったのかな」
>確かに、この高校名は聞いたことがない。
キョン「高校名はあまり当てにならんがな」
古泉「確かに、地名ならともかく高校名ではどうしようもないですね」
>あたり一帯の地名を聞いた。
>しかし、心当たりはない……。
古泉「ふむ、やはりですか」
>異世界と聞いて真っ先に浮かぶのはマヨナカテレビだ。
>しかし、霧もない。メガネも掛けていない。どうやらテレビの中の世界ではないようだ。
22:
古泉「さて、長門さんのお墨付きも出たところで、
 なぜ僕があなたを異世界人であると推察した経緯を説明しましょう」
古泉「順を追って説明させていただきますので、
 できれば込み入った質問などはすべて後回しにしていただけるとありがたいです」
>わかった。
古泉「ありがとうございます。
 この部屋は先ほど文芸部部室と説明しましたが、実はもう一つの団体の部室でもあります」
キョン「SOS団、なんてふざけた名前のな」
>SOS団?
キョン「世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、だそうだ」
>涼宮ハルヒ……? 誰だろうか。
古泉「そのSOS団は、僕たち4人と現在この場にいませんが、
 先ほど彼が述べた涼宮さんを中心とした5人の団体なのです」
古泉「何をしている団体なのかは、この際後回しにさせていただきます。
 重要なのはこの団を構成しているメンバーです」
古泉「この団体の中心人物である涼宮さんは少々特殊な力を持っていましてね。
 自らの願望を無意識のうちに叶えてしまう力を持っているのです」
24:
>……!?
キョン「ハルヒの奴は、宇宙人やら未来人やら超能力者みたいな、
 未知の人種に会うことを強く望んでいる節があってな」
キョン「そのことについては俺のクラスのやつらに言質をとってもらえれば十分確認できる。
 初日にぶちかましやがったからな。忘れようもねぇよ」
キョン「で、そんときに言ったのが
 『この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』だ」
古泉「そして、文字通り集まったのですよ、この学校にね。
 具体的なエピソードは割愛させていただきますが、僕たちは間違いなくそれぞれの属性を宿しています」
古泉「先ほどあなたと握手をした長門有希さんは、情報統合思念体を母体とするいわゆる宇宙人です」
>……!?
キョン「もっとも本人たちは、宇宙人だなんて呼び方はしていないけどな」
長門「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
キョン「……だ、そうだ」
古泉「そして、お茶を淹れてくださった朝比奈みくるさんは未来人です」
みくる「あっ、は、はい……未来から来ましたぁ」
キョン「俺が何度か一緒にタイムリープは経験してる、それも間違いない」
26:
古泉「そして、僕がいわゆる超能力者です。かなり限定的ではあるんですがね」
キョン「最初に言っておくがスプーン曲げとかよく言われる一般的な超能力は期待するだけ損だぞ。
 今のこいつは俺とさして変わらん」
古泉「ふふ、そうですね」
キョン「そんで、俺は一般人だ、掛け値なしのな」
>順当に行けば彼が異世界人では?
古泉「僕もそれを疑って調査をしましたが、間違いなく一般人ですよ」
キョン「当たり前だ、俺にへんな属性を付与するな」
古泉「……と、いうわけで異世界人の席だけぽっかり空いてしまっていたのです」
古泉「そして、そこに長門さんですら解析ができないあなたが来た」
古泉「これはほぼ確定的とみなしていいと思います」
キョン「突然こんなこと言われてもわからないと思うがな」
>たしかに、にわかには信じられないことばかりだ。
27:
古泉「僕も、そこが引っ掛かっていました」
キョン「何がだ」
古泉「いいですか。基本的に僕たちは自らの意思を持ってこの学校へ来ました。
 人間ではない長門さんですら、正確には情報統合思念体ですが長門さんを送り込んできたわけです」
古泉「しかし番長氏は、全くこの世界のことを理解していない。
 それどころか現在の状況すらつかめていないのです」
古泉「現在の状況を理解していないまま来ることがあり得ないのは
 朝比奈さんを見ていればわかります。彼女もちゃんと調査をしたうえでこちらに来ている」
みくる「そ、それはそうですけど……」
古泉「それはつまり、彼は自らの意思でここにきているわけではないことを示しています」
キョン「それがなんだというんだ」
古泉「いえ……いえ。これは大きな違いですよ。
 僕たちは涼宮さんを目的にしています。しかし番長氏はその涼宮さんすら知らないようだ」
古泉「これでは、まるで迷子ではないですか」
キョン「ってことはなんだ、番長はハルヒのはた迷惑な力に巻き込まれただけっていうのか」
古泉「そう考えるのが妥当でしょうね」
28:
キョン「長門ですらわからない存在を、ハルヒがねぇ……」
みくる「あ、あのぉ……いいですか?」
キョン「朝比奈さん、どうしたんですか?」
みくる「あのね、説明したのはいいんだけど……理解してもらえたのかなぁって」
古泉「たしかに、言葉だけでは信じてもらえないかもしれないですね」
>……。
キョン「俺だって初めて言われたときは信じられなかったんだ。
 無理もないさ」
キョン「長門に頼めば一発で証明できるだろうけど……今すぐ雨を降らせるとかでな。
 ただ……」
>!? そんなことが可能なのだろうか。
長門「可能」
キョン「あー、だけどな」
29:
長門「現在よりこの地域一帯に1時間程度降雨させた場合、237年後に自然界へ影響が出ると予測される」
キョン「ってことだ。長門を頼るのは無しだな」
古泉「そうですか、朝比奈さんは」
みくる「ごめんなさい、わたし以外がTPDDを使用する場合許可がいるんですけど……」
古泉「……下りそうにないですね」
古泉「仕方ありません、僕が証明しましょう」
キョン「……連れて行くのか?」
古泉「ええ、幸か不幸か近くに極小の閉鎖空間ができています。
 僕一人でも対応ができそうですからね」
キョン「……随分、番長にご執心だな」
>何やらキョンと一樹は顔を近づけて話をしているようだ。
30:
古泉「いいですか、彼は何かしらの力を持っている可能性が高い」
キョン「チカラ?」
古泉「異世界人、そう聞けば聞こえはいいですが、
 同じような世界から一般人が紛れ込んだからといって涼宮さんが喜ぶでしょうか」
キョン「……喜ばんだろうな。異世界人とはいえ、ただの一般人なら隣の県やら海外に住んでいる奴と変わらん。
 そんな土産話を聞いてもハルヒは喜ばんだろうよ」
古泉「その通りです。能動的にこちらに来たのならともかく、
 涼宮さんの力に巻き込まれたのなら特殊な力を少なからず持っていると思います」
古泉「そのため、彼の力を見せてもらうために、ある程度こちらも譲歩して
 力を見せなければ信用を得ることはできないでしょう」
古泉「もし敵だとしても、僕の能力ならある程度公開してもデメリットにはなりません」
キョン「敵って、まだ信用していなかったのか」
古泉「誰であろうと、手放しで信用するのは危険だと思いますよ? たとえ長門さんでも朝比奈さんでも」
キョン「やれやれ……なら、最初から自分で手をあげればよかっただろう。
 どうしてわざわざ長門や朝比奈さんに振ったんだ」
古泉「いきなり僕が見せると言ったら、変に勘ぐられるかもしれませんからね。
 仕方なしに見せるという演出がほしかった、それだけです」
キョン「やれやれ……」
31:
>何を話しているかは聞き取れなかったが、どうやら話は終わったようだ。
>何か特別な関係かも知れない。
>そっとしておこう……。
古泉「では、僕の力をお見せしますよ。校門までご足労願ってよろしいでしょうか」
>古泉一樹についていくことにした。
――北高校門前
>外に出てみたが、やはり見覚えのない景色だ。
古泉「こちらです」
>突然、一樹に手を取られた。
古泉「少し、目をつぶっていただいてよろしいですか?」
>どういうことだろうか。
古泉「大丈夫です、すぐ終わりますから」
>なぜか悪寒がする……。
>しかし溢れる勇気と寛容さで目を閉じた。
古泉「僕がいいというまで眼を閉じていてくださいね」
32:
古泉「では、行きますよ」
>手を取った一樹はゆっくりと歩いているようだ。
>どこへ連れて行かれるのだろう……。
古泉「もう、目を開けていただいて大丈夫ですよ」
>目を開けると、すべてが灰色の世界が広がっていた。
古泉「先ほども自己紹介したように、僕は超能力者です。
 この世界限定のですけどね」
>一樹が赤い光に包まれ、赤い球体へと変貌した。
古泉「これが僕の能力です、そして――」
ドォン――
>何か大きなものが崩れる音がした。
>!? 何か青白く光っている巨大なものが現れた。
古泉「では、番長氏。しばしお待ちを。少し仕事をしてきますので」
>一樹は、球体のまま青白い物体へ飛んで行ってしまった。
>しかし、この雰囲気は、似てる。
>マヨナカテレビ……。
33:
>遠目だが、青白く光っている物体の周りを一樹が飛び回っているようだ。
>よく見ると巨大な人型のようだ。青白い巨人……。
>あれは、シャドウの一種なのだろうか。
>しばらくすると、霧散するように青白い巨人は消えてしまった。
>赤い球体がこちらへ戻ってきた。
古泉「お待たせしました」
>赤い球体から、古泉一樹の姿に戻っていく。
古泉「先ほどの、巨人は『神人』といいましてね」
古泉「また少し説明しても?」
>かまわないことを伝えた。
古泉「涼宮さんが、無意識化に願望をかなえたいと思っているということは
 先ほど説明したとおりですが……」
古泉「彼女は、突飛な発言や未知への願望を強く持っていますが極めて常識的な人なのです」
古泉「こんな世界であってほしい、でもあるはずがない。
 そのせめぎ合いの中で発生するストレス、それがこの空間を形成しているのです」
34:
古泉「要するにこの空間は彼女のストレス発散場所なんですよ」
>では好きに暴れさせたらよいのでは?
古泉「僕もそれで済むのでしたら苦労はないのですがね。
 放っておくと、この世界と現実世界が反転してしまうのです」
>……!
古泉「しかし、一度も反転したことはないので確実なことは言えません。
 根拠はありませんがわかってしまうのです。
 これは超能力者だからわかってしまう、ということで納得していただけるとありがたいですね」
>……わかった。
古泉「そろそろですね、空をご覧ください」
>……! 空がひび割れ、砕け散っていく。
古泉「これにて、任務完了です」
>いつの間にか先ほどの校門前に戻ってきている。
35:
古泉「では戻りましょうか」
>風景にも色が戻っている……不思議な世界だったが……やはり似ている。
>一樹の後に続いて文芸部室へ戻っていった。
――文芸部室
古泉「ただいま戻りました」
キョン「毎度お勤めご苦労なこったな」
古泉「いえ、これで世界の平和が保てるのであれば安いものですよ」
古泉「これで僕たちが――正確には僕だけかもしれませんが、
 言っていたことが嘘ではないことをわかっていただけたかと思います」
>いや、みんなのことも信じるよ。
古泉「おや、ずいぶんあっさりと信じるのですね」
>自分を騙してもメリットはないだろう?
古泉「……聡明な方で感謝しますよ、ええ本当に」
36:
古泉「もう少し詳しくお話しましょう」
古泉「閉鎖空間が彼女のストレスによって形成されることはお話しましたね」
>ああ。
古泉「彼女の精神状態に寄るのですから
 もちろんあの空間は均一なものではありません」
古泉「今回のものは極小のものでしたから僕一人で対応が可能でしたが
 もっと多くの神人や巨大な空間になった場合は難しいですね」
>となると、他に仲間が?
古泉「本当に察しがいい方ですね、その通りです。
 僕たちは"機関"と呼ばれる組織に所属し、彼女の精神状態の監視を行っています」
>あの空間についてもっと詳しく教えてほしい。
古泉「……ずいぶん興味を持たれたようですね?」
>それは……。なんと伝えればよいだろう。
古泉「気になるのですか? 閉鎖空間が」
>実は似たような空間に入ったことがある。
古泉「! 似たような空間…ですか」
キョン「おいおい、番長の世界にもハルヒがいるっていうのかよ……」
37:
>いや、その女性のことは知らない。
キョン「そ、そうか」
古泉「詳しく教えていただいてよろしいでしょうか」
>マヨナカテレビと中の世界について説明した。
古泉「……!」
キョン「またオカルトじみた話だな……」
みくる「雨の日の深夜0時にテレビを見ると人影が写る……ですかぁ」
キョン「ハルヒが聞いたら喜んで試しそうだ」
>こちらではやはりマヨナカテレビの噂はないようだ。
キョン「でも確かに閉鎖空間と似てるかもな、精神面が映し出されるところとか」
古泉「僕はどちらかというとシャドウ、と呼ばれる存在が気になりますね」
古泉「そのシャドウという存在。人の抑圧された精神が暴走する――
 まさに涼宮さんと神人の関係と酷似しているではありませんか」
キョン「ひとつ聞いていいか?」
>なんだろうか。
キョン「そのテレビの中ってどうやって入るんだ?」
38:
>画面に触れれば入ることができると伝えた。
キョン「テレビの画面に触るだけ……」
キョン「パソコンじゃだめなのか?」
>画面に触れてみたがどうやらダメみたいだ。
キョン「そうか、残念だな」
古泉「そもそもこの世界でも入れるかは不明ですけどね」
キョン「ああ、そうか、それもそうだな」
古泉「ですが、僕自身も試してみたい、という気もしています」
みくる「あの……」
キョン「どうしましたか?」
みくる「視聴覚室か音楽室なら大きなテレビあるんじゃないかなーって」
古泉「ナイスアイディアです」
キョン「音楽室は吹奏楽部が使っているでしょうから視聴覚室に行きましょう」
>全員で視聴覚室へ向かった。
39:
――視聴覚室前。
>どうやら鍵がかかっているようだ。
キョン「まあ、こういうときの長門だな」
キョン「頼んだぞ」
>脱力に近い様子で有希は扉の前に立った。
長門「……」
>口元が高で動いているが何を言っているかは聞き取れない。
長門「開錠した」
キョン「ありがとよ」
ガラッ
>なんと扉が開いた……!
古泉「……図らずとも長門さんの力の一端を見せることができてよかったですよ」
>この女子生徒には確かに不思議な力が備わっているらしい。
キョン「長門ならこれくらいはな」
古泉「それより今はテレビです、部屋へ入りましょう」
40:
――視聴覚室。
>大きなテレビが置かれている。これなら人も入れそうだ。
キョン「基本は、ここで映像なんか見る場合、スクリーンで見るから少し心配だったがちゃんとあるな。
 ほとんど無用の長物になっているが」
古泉「番長氏が入れるかどうかは、ともかくとしてまずは普通のテレビであるかどうか試してみましょう」
>自分と長門有希以外がテレビの画面に触れている。
キョン「……まあ、アホらしいほど入れないな」
古泉「ええ、いたって普通のテレビのモニターです」
みくる「そもそも、薄いテレビじゃ突き抜けちゃうんじゃ……?」
キョン「いや、そういうことを言ってるんじゃないと思いますよ……」
みくる「え、えっ?」
古泉「……長門さん、このテレビに異変はありませんか?」
長門「ない。普遍的なもの」
古泉「では、番長氏試してみていただいて構いませんか?」
41:
>テレビの画面に右手で触れる。
>……! いつもと同じように右腕がテレビ画面に吸い込まれた!
キョン・みくる・古泉「「「!」」」
みくる「わっ、わっ、わっ! う、腕が突き刺さっています!」
キョン「こ、これは……手品とかじゃねぇよな?」
古泉「ではないでしょうね。一瞬ですが画面が液体のように波打って見えました。
 普段ではありえない光景です」
>しかし、この世界にもマヨナカテレビが存在していたのだろうか……。
>中がどうなっているか気になる……。頭を突っ込んでみることにした。
>しかし中に空間が広がっていることが分かっただけだ。
みくる「あ、頭が、刺さってます!! 刺さってますよ!」
キョン「こりゃあ……本物だな」
古泉「ええ……力を見せたかいがあるというものですよ」
>テレビの中から頭を出した。
キョン「ど、どうなってるんだ」 コンコン
キョン「画面はやっぱり堅いぞ……」
42:
古泉「画面がやわらかくなった、というわけではなさそうですね」 コンコン
みくる「ど、どうなってるんですかぁ……?」 ツンツン
キョン「長門、やっぱりテレビは普通なのか?」
長門「今は普遍的なもの」
キョン「今は……?」
長門「彼が触れたときにのみ異空間への接続を確認した」
長門「そのときのみは普遍的とは言えない。異空間への入り口として機能している」
古泉「なるほど……
 では彼が触れている間であれば我々もテレビの中へ入れるということですか」
キョン「そうなのか? 長門」
長門「肯定する」
古泉「番長氏はどう思われますか?」
>以前テレビに入る力を持たない人と一緒に入ったことがあると伝えた。
古泉「ふむ……」
キョン「……一応何を考えているか聞いておいてやる」
43:
古泉「何を考えている、とは?」
キョン「まさか中に入ろうとかいうんじゃないだろうな」
古泉「おや、なぜそう思うのです?」
キョン「お前のその顔はろくでもないことを考えているときくらいなもんだ」
古泉「それは、すみません。極力顔に出さないようにしているつもりなのですが」
キョン「このSOS団で過ごしてりゃそれくらいわかるようになる。
 それとそれは、俺の言ったことはあっていると受け取っていいんだな」
古泉「ええ、そうですね。確かに興味はあります」
>やはりただならぬ関係性をうかがえる……。
>そっとしておこう……。
キョン「大体なんでそんなもんに興味を持つんだ。
 平穏安寧を求めて凪のように穏やかな生活を送りたいんじゃなかったのか。
 シャドウなんてやばそうなもんがいる世界に踏み込みたいだと? とうとう血迷ったか」
古泉「先ほども言った通り、単純に興味があるだけです。
 ふふ、いつもあなたばかりが不思議な体験をしているので、その嫉妬もあるのかもしれませんね」
キョン「……ふん、そんなもの。できれば変わってやりたいくらいさ」
>どうやら深い関係のようだ……。
44:
みくる「は、はいるんですかぁ?」
>みくるは怯えているようだ。
古泉「いえいえ、少なくともみなさんを巻き込もうなんて考えていませんよ」
古泉「何度も言っている通り、僕が個人的に興味があるだけです。
 万が一行くことになっても僕だけで十分ですよ」
キョン「……そうかい」
古泉「それに番長氏が許可しない限り、僕にテレビの中へ入る権限はありませんからね」
>残念ながら安全は保障できないことを伝えた。
古泉「とのことです、残念ですが諦めますよ。
 自らの身を危険に晒すのは、閉鎖空間だけで十分ですから」
>そもそも、自分も入ったら出られないことを伝えた。
古泉「どういうことですか?」
>中にとある協力者がいなければこちらに戻る道を作れない。
キョン「番長はムリなのか?」
>できない。
45:
古泉「そうですか……それは、非常に残念です」
>露骨に残念そうだ。
キョン「だ、そうだ。諦めることだな」
長門「できる」
キョン「な、長門?」
古泉「何ができるでしょうか?」
長門「先ほどの空間接合時に解析は終了している。
 彼自身に情報操作は不可能だが、先ほどの異空間には可能。
 一度解析を完了したため、こちらから空間接合も情報連結の解除も可能」
古泉「さすがとしか言いようがありませんね」
キョン「ってことはなんだ。出口も入口も作れるってことか」
長門「そう受け取ってもらって構わない」
>本当だろうか……。
長門「情報連結および空間連結を開始する」
>先ほどと同じように高で口元が動いている……。
長門「情報の連結を確認。空間の接合の完了した」
46:
古泉「では、失礼して」
>一樹がテレビの画面に右手を当てた。
>なんと一樹の右腕がテレビに突き刺さっている!
古泉「これは、凄いですね。単調な感想しか言えないほど感動していますよ」
キョン「その右腕は、な、なんともないのか?」
古泉「ええ、何ともありません。ただ空間が広がっているだけですよ。
 生物の気配もありません」
>一樹はテレビから右腕を引き抜いた。
古泉「この通り、何もなっていません」
キョン「でも中にはシャドウってやつがいるんだろ?」
長門「異空間内部に敵性の検知はできない」
>この世界ではシャドウがいないのだろうか……?
古泉「さて、これで二つの危険性がクリアされてしまったわけです」
キョン「なんだそのもったいぶった言い回しは」
>一樹は嬉しそうだ。
47:
古泉「危険性が排除されたのであれば、僕の興味を遮る理由はありません」
キョン「ってことは入るのか?」
古泉「ええ」
>入るのであればついていこう。
キョン「番長まで……」
古泉「それは心強いです。
 向こうの世界に慣れた番長氏が来てくださるなら百人力です」
>万が一シャドウが現れては、一樹では対応することはできないだろう。
古泉「護衛を買ってくださるとは光栄です」
古泉「ですが、長門さんが敵性はないと判断したのでしたら大丈夫だと思いますけどね」
古泉「(……しかし妙なものいいですね。まるで、そう。自分ならばどうにかできるような)」
 
古泉「(テレビの中に入ることだけが力というわけではないみたいですね)」
古泉「では、行ってまいります」
キョン「…………待て。俺も行く」
古泉「おや、どういう風の吹き回しですか?」
キョン「……気が変わった、それだけだ」
48:
キョン「(何か嫌な予感がする……
  無能力者の俺の最大にして唯一の武器、勘ってやつだ)」
キョン「俺がついていって何ができるとも限らねぇけどな」
古泉「僕も最初から何かする気はありませんよ。ただの観察ですから」
>よし行こう。
長門「……」
キョン「って長門。どうした」
長門「私もついていく。
 情報統合思念体は異空間の精緻な調査を望んでいる」
古泉「これは、なおさら安心ですね。危険な要素が見当たらない」
みくる「あのっ、えっと、えっと」
キョン「朝比奈さんは待っていてください。
 もし俺たちがあまりにも長時間戻らなかったら
 未来あたりに助け舟を出していただけるとありがたいです」
みくる「え、あっ、う、うん……わかりました」
>みくるは心配そうだ。
みくる「い、いってらっしゃい」
49:
古泉「では、行きましょうか」
>一樹、キョンの頭がテレビに突き刺さる。
>落ちるから気をつけろよ。
キョン「落ちるってどういう――うおっ!」
古泉「これは――」
>……! 2人はテレビに飲み込まれるように落ちていった。
>伝えるのが少し遅かったようだ。
>溢れる寛容さで自分を許した。
長門「……」
>有希は無言で入っていってしまった。
>そろそろ自分もいこう。
50:
………
……

――テレビ内部。
>無事に到着できたようだ。
キョン「いっつつつつ……番長、落ちるってことはもう少し早めに言ってくれ」
古泉「思い切り落ちましたね」
キョン「尻を強打したぞ……」
>すまない。
古泉「長門さんは華麗に着地してましたけどね」
キョン「逆に言えば長門くらいなもんだろう……」
古泉「しかし、なんでしょう。ここは」
>霧に覆われてはいないもののどこかどんよりとした淀んだ空気が漂っている。
古泉「……似ていますね。閉鎖空間に」
キョン「似ているって、ここはあの味気ない灰色の世界と違って色があるだろう」
古泉「ええ、外見はあまり似ているとは言えませんが、雰囲気といいましょうか。
 閉鎖空間に入ったときの空気と酷似しているのです」
51:
古泉「もしかしたら、番長氏も同じことを考えたのではないでしょうか」
>その通りであると伝えた。
古泉「やはり、同じ精神世界を映す世界として似ているのでしょう」
キョン「そういうものなのか。俺も一度入ったことあるが……わからん」
>しかし、ここはなんだろう。
キョン「なんつーか……ただのだだっ広い部屋だな」
古泉「そうですね、床はフローリングですし。
 よく分からないですが、子供が遊ぶようなおもちゃが転がっていますね。
 100メートル、150メートルほどでしょうか、コンクリートの打ちっぱなしの壁が見えます」
長門「現在位置から前方の壁までの距離は137.82メートル」
キョン「天井は、結構高いな……10メートルくらいか」
長門「8.59メートル」
古泉「……だ、そうです」
>いくつか窓も見受けられるが、夜なのだろうか、窓から光は差し込んでいない。
キョン「番長、テレビの中って大体こんな感じなのか?」
>自分たちの世界のテレビの中は、入ったものの心に呼応して形成される。
52:
キョン「ってことは、俺らの誰かがこの風景を作り出しているってことか?」
>ということだと思うが……。
古泉「ふむ……」
長門「この光景は涼宮ハルヒの深層心理に酷似している」
キョン「ハルヒの?」
長門「完全な同一性は見出せない。しかしかなりの適合率で合致している」
古泉「つまりこれは、涼宮さんの心象風景ということなのでしょうか」
>一樹とキョンは何か考え事をしている。
>あたりを見回してみたが、出口は前方に見える扉だけのようだ。
キョン「とりあえずこの部屋から出てみるか?」
古泉「ええ、推察はここをでてからでいいでしょう」
キョン「……そうだ長門。もう一度確認しておくが出口は作れるんだよな?」
長門「問題ない。この空間と外界の接合は容易」
キョン「よかった。安心したよ」
古泉「では、張り切って行ってみましょうか」
54:
長門「――止まって」
キョン「どうした? 長門」
長門「敵性を感知。正体不明、警戒を必要とする」
キョン「警戒だと……!?」
>やはり、シャドウか……!
長門「外界の物質のすべてと不適合。未知の物質で構成されている。
 質量、分子構造、構成物質、すべて不明」
長門「こちらに、来る――」
シュウウゥゥウゥウ―――
???「くすっ」
>これは……まさか。
キョン「な、長門!?」
古泉「長門、さん……?」
長門「否定。私ではない」
>有希ではない。
>だが……有希の、影。
56:
>有希の影は怪しく笑っている。
キョン「ば、番長。ど、どうなってる」
>これは――。
有希の影「いい、説明しなくて。分かってるはず」
>!
キョン「声まで一緒かよ……」
有希の影「当然、わたしは彼女、彼女はわたし」
長門「否定。情報統合思念体が地球に送り込んだ対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、
 パーソナルネーム『長門有希』はわたししか存在しない」
長門「よってあなたは『長門有希』ではありえない」
有希の影「くすっ、そう思いたいのなら思えばいい」
古泉「……」
長門「また情報統合思念体全域にあなたは存在していない」
キョン「長門の恰好をした偽物さんよ、何の目的でこんなことをする」
有希の影「くすっ、キョンくん、会えてうれしい。でも何の目的、と聞かれたら困るかな」
キョン「!? な、なんでお前が俺のあだ名をを知っている!?」
57:
有希の影「何で知ってる、ってわたしが長門有希だからに決まっているでしょう?」
キョン「ふざけるなッ!」
有希の影「ふざけてなんかいない。本当のことを言っているだけ」
古泉「どうやら、困ったことになったようですね」
長門「あなたの言動は整合性に欠けている。理解不能」
有希の影「そんなことはないわ、情報の伝達に齟齬が生じることはありえない」
有希の影「わたしはあなたのことなら何でも知っている。
  涼宮ハルヒの観察の為にここに来たことも、急進派と対立したことも、
  永遠とも思える特定期間を延々と繰り返したことも、自らを改変し世界をも改変してしまったことも」
有希の影「みんなみんな知ってる。なんならこの地球に潜伏している端末の数も知っている」
有希の影「異時間同位体でもない、まったく完全にわたしはあなた」
長門「……」
キョン「なんなんだ、こいつは……!」
長門「相互理解は不可能と断定。同じく対象の敵性の上昇を確認。レベルを警戒から戦闘態勢へ。
 ターミネートモードへ移行。情報操作を開始する」
>有希の口元が高で動く。
>……! しかし有希の影も同じように動いている。
58:
>2人とも見つめあったまま、動かなくなってしまった。
キョン「な、長門?」
長門「…………情報操作により対象の無力化を試みたが失敗した。
 情報妨害因子を構成し、こちらの情報操作を無効化したと考えられる」
有希の影「ふふふ、無駄、無駄よ、そんなこと。
  あなたにできることは私もできるのだから」
キョン「……いい加減にしろ」
有希の影「ふふ、どうしたのキョンくん」
キョン「やめろ、その名前で呼ぶな。本物の長門にだって呼ばれたことないんだ。
 それをお前が軽々しく呼ぶんじゃねぇっ!」
長門「……」
有希の影「ふふふ」
キョン「その笑いもやめろ!
 いいか、長門の表情っていうのはな、長門検定1級の俺じゃなければわからんような微細な変化だ。
 それにお前みたいに長門は笑顔を安売りしない!!」
キョン「長門と同じ顔をしてやがるくせに、長門が到底しないような事ばかりしやがって。
 顔と声だけ似せても、全くに長門に似てねぇんだよモノマネ野郎!」
有希の影「ふふふ、傷つくなぁ、傷ついちゃうなぁ」
59:
キョン「やめろっつってんだろ!!」
長門「……」
>キョンは激昂している。
古泉「確かに、長門さんを模倣するにしては外見以外の完成度が低すぎますね」
古泉「番長氏は、どういうことかわかっているのではないですか?」
>……あれは、有希の影。彼女の中に存在する一面が具現化しているものだ。
>つまり……文字通り、もう一人の有希といっても過言ではない。
キョン「ん、なっ!?」
有希の影「ふふふ、だから言っているでしょう?」
古泉「つまりそれは……」
有希の影「わたしはこんな風に人間みたいに笑いたいってこと。もっと人間らしくいたいってこと」
長門「否定する」
有希の影「あなたは否定しても、キョンくんなら心当たりがあるんじゃない?」
キョン「……! それは、世界を改変したときの長門のことを言っているのか?」
有希の影「ふふ、せいかーいっ」
60:
古泉「どういうことですか……?」
キョン「前に、俺が世界の改変に巻き込まれたことは話したよな」
古泉「ええ」
キョン「そのときの長門は、その、なんだ。宇宙人じゃなく人間になっていた。
 感情も豊かとはいえないまでも、今の長門からは考えられないくらい表情を変化させていた」
有希の影「つまり、そういうこと」
キョン「ぐっ、ぐっ……!」
長門「あれはエラーの集積が起因している。わたしの意思ではない」
有希の影「ふふふ、嘘ね。長門有希は、わたしは思った通りに感情を発したい」
長門「否定する」
有希の影「もっと濃密に人間とコミュニケートしたい」
有希の影「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなんかではなく
  人間のように、人間として彼と接したい」
長門「否定する」
有希の影「彼のことを、キョンくんと呼びたい」
長門「……強く否定する」
61:
有希の影「キョンくんと一緒にいたい。2人きりでいたい。
  そのためには涼宮ハルヒは邪魔。朝比奈みくるは邪魔。古泉一樹は邪魔。
  今の無感情なわたしは邪魔!」
キョン「長門……」
古泉「……」
長門「……やはり言語による相互理解は不可能」
有希の影「ふふふ」
長門「わたしはあなたのすべてを否定する」
有希の影「ふふふ、あはっ、あはは、アハハハハハハハハハハハッ!!」
>これは、マズイ!
>有希の影から力が溢れだしている……!
長門「う……」
>有希がひざからくずおれた。
>倒れる直前に受け止めることができたようだ。
シャドウ有希「我は影、真なる我……今わたしが本物になるから……待っててねキョンくん!
  その前には、邪魔な3人を……消す」
>殺気がこちらに向けられている。
62:
古泉「これは、マズイですね。ダメ元で試してみますが、能力が使えるかどうかは……
 よしんば使えたとしても通用するかどうか」
古泉「長門さんは完全に気絶してしまったようですし」
キョン「長門が……そんな」
古泉「それだけならまだしも、敵自体があの長門さんです。
 ……これほど絶望的な状況が、今まであったでしょうか」
古泉「これは、無抵抗のまま殺されてしまうかもしれませんね」
キョン「何を諦観していやがるっ」
古泉「そうは言いましても……残念ながら打開策は思い浮かびません」
キョン「くっ……」
>キョン、有希を頼む。有希の身体をキョンに預けた。
キョン「あ、ああ……番長、どうするつもりだ?」
>何とかしてみせる。
古泉「(やはり、彼の力はこれだけでなかったようですね……!)」
シャドウ有希「あなたに何ができるのかしらァ……?」
>行くぞ、ペルソナッ!!
63:
古泉「(ペル……ソナ?)」
キョン「古泉、アイツの邪魔にならないように離れるぞ!」
古泉「え、ええ」
>イザナギ――ッ!
シャドウ有希「アハハッ! そんな人形で何するつもりかしらッ!」
>こうするっ! ジオダインッ!
――ピシャァンッ!
キョン「い、イカズチ!?」
古泉「彼もこの空間限定で能力を行使できるということでしょうか……?」
シャドウ有希「うぐっ……ふふ、なるほど。
  あなたの中にあった正体不明のパーソナルデータはそれね」
シャドウ有希「複数確認できたということは、つまり、それだけじゃないわね。フフフフ、いいわ。面白い。
  いえ、ここはユニークといった方がいいかしらね、アハハハッ!」
>イザナギ、もう一度ジオダインッ!
シャドウ有希「もう効かない。対象を確定及び崩壊因子を構成、実行――」
>!! ジオダインが霧散してしまった……!
64:
シャドウ有希「確かにあなたに対して情報操作はできない……
  だけど、受けた攻撃なら、あなたの攻撃の位相が確定する瞬間を狙って
  演算を行い崩壊因子を組み込めば攻撃を無効化することは容易にできる、ふふふふ」
>ならば、ルシフェル! アギダインッ!
シャドウ有希「ぐうっ!! でも……ありがとう。その攻撃を覚えさせてくれて」
>くっ……大したダメージはないようだ。
シャドウ有希「今度は私が披露する。ターミネートモードへ移行。
  でも、情報操作は無効化されてしまう」
>なにかが、くる!
シャドウ有希「あなたに通用する攻撃――それはッ」
ヒュン
>はやっ――
シャドウ有希「あなたの追えないスピードで、普通に殴るッ!!」
ドォンッ!!
キョン「ば、番長!」
古泉「10メートルは飛びましたね……」
キョン「そんな悠長なこと言ってる場合か!」
65:
シャドウ有希「あなたに触れることができるのは、すでに実証済み。
  そして、今ので終わり」
>……まだだ。
シャドウ有希「……なぜ? 常人なら間違いなく死ぬ攻撃」
>――ヨシツネ、何とか間に合った。
シャドウ有希「よくわからないけれど、物理攻撃も無効化する……厄介」
シャドウ有希「ならば、物理攻撃でもない、情報操作でもないもの、お前にとって未知の攻撃する」
>……どうするつもりだ?
シャドウ有希「こうするつもり」
一樹の影「……」
キョン「!!」
古泉「参りましたね……今度は僕ですか」
67:
シャドウ有希「この影は既に私の情報統制下に置かれている」
シャドウ有希「そして古泉一樹の影とここ存在するシャドウたちを、吸収するっ!」
>!!
>どこからともなく現れたシャドウたちが有希の影に取り込まれていく!
シャドウ有希「アハハハハハあハあははハハはははアはハハハはッ!!」
>形状が大きく変わっていく。巨大化し、青白く発光を始めた。
シャドウ有希「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ヴァアアヲオオオオ!!」
>完全に自我が崩壊している。
>これは……!
キョン「お、おいおい。これじゃあ、まるで」
古泉「神人ではないですか……!」
シャドウ有希「ヲオオオヲオオヲヲヲ!!!」
ギィン――
>有希の影の手のひらに赤く光る球体が形成されていく。
古泉「あれは、まさか……」
68:
古泉「避けてください!」
>!!
ギィン!!
>先ほどまで自分がいた場所の床が消滅している。
古泉「困りましたね……我々の力を持つ神人、ですか」
シャドウ有希「オオオオオオヲヲオオオオ……」
>先ほどと同じ、赤い球体を連続で放ってきた。
>しかし、すべて容易に避けられる。
>自我がなくなったことで命中精度が著しく落ちているようだ。
シャドウ有希「ヲオオオ……」
>しかし、射出される数が多すぎるため避けることで精いっぱいだ。
キョン「古泉! どうにかならないのか!」
古泉「長門さんの影が僕の能力行使してるのですから……やってみます」 キィン
キョン「……それはいつぞやのカマドウマのバケモノを退治したときに使った?」
古泉「今の僕では、この手のひらサイズの大きさを形成することが限界のようです」
69:
古泉「おおよそ神人であれば、人でいう心臓部か頭部を破壊すれば消滅します」
キョン「じゃあ、そいつで、打ち抜けば……」
古泉「……無理です。能力が全開で使えるならともかく、
 この程度では長門さんの影のさを追い切ることはできず急所に当てることはできないでしょう」
キョン「なら、番長に動きを止めてもらってその隙に、ってのはダメか?」
古泉「ええ。それしか、ないでしょうね。彼に止められる技があることに期待しましょう」
古泉「神人狩りなら僕の方がプロフェッショナルですから、やりますよ。意地があります」
古泉「番長氏!」
>! どうしたのだろう。
古泉「避けながら聞いてください! 一瞬で構いません!
 あの神人の、長門さんの影の動きを止められますか?」
>一瞬でいいのか?
古泉「かまいません、確実に仕留めてみせます!」
>……ああ! わかった! 全力で止めよう!
>ヨシツネ! ヒートライザ!
古泉「なんと……閉鎖空間時の我々と同等、いやそれ以上の度かもしれません」
70:
シャドウ有希「ヲオオオオオオオオオ……」
>――ルシフェル! 足元を狙う! メギドラオン!!
ドォオオォンッ!!
シャドウ有希「ヴォオオオオヲオオオヲ……!!」
キョン「体勢を崩した……!?」
古泉「(――今!)」
古泉「ふッッ!!」
>……! 一樹の投擲した赤い球体が、有希の影の心臓部を貫いた! 
シャドウ有希「ヴォオオオヲォオオオオッ……!」
>……! 有希の影はまだ暴れている!
シャドウ有希「ヲヲヲヲヲオオオオォオおおおおお……」
シャドウ有希「おおおおおぉおおぉぅわあぁああぁああ……」
シャドウ有希「あああああ……崩れる……身体が崩れていく……私の身体が……」
>青白い身体が、溶ける様に朽ちていく。有希の影がむき出しとなった。
キョン「結構グロいもんだな……」
71:
シャドウ有希「キョン……く…ん……また……一緒に……」
キョン「長門……」
シュウウゥウウ――……
有希の影「……」
キョン「急に、大人しくなった……?」
古泉「暴走を止めたので、一時的に大人しくなっているのでしょう」
>あとは、有希次第だ。
キョン「どういう意味だ?」
>有希はこれから、向き合わなければならない。抑圧していた自分、見て見ないふりをしていた自分と。
キョン「だが、当の長門は否定していたぞ。あいつがたとえ影だったとしてもウソを吐くとは思えないが」
古泉「無意識下、というものは誰にでもあるということでしょう。それがたとえTFEI端末であっても。
 特に長門さんの場合は、我々の想像以上に無意識下の抑圧が大きかったのではないでしょうか」
キョン「……ああ。そうかもしれないな」
>TFEI端末?
古泉「ああ、長門さんたちヒューマノイド・インターフェースのことです。一々こう呼ぶのも面倒ですからね」
長門「ん……」
72:
キョン「気づいたか、長門」
長門「……問題ない」
キョン「そのなりで問題ないわけないだろう」
長門「今は目の前の問題の解決を優先すべき」
>ふらふらとした足取りで、影によっていく。
有希の影「……」
長門「……あなたは、わたしのエラーの集積」
長門「しかし、エラーの中にわたしの願望が混在していることを完全に否定することはできない」
長門「この惑星の有機生命体、特に人類とより円滑にコミュニケートできるように願っていることも事実」
長門「さらに特定人物の動向に興味があることも事実。しかしその周囲の環境を障害であるとは思わない」
長門「それらもすべて含めて興味の対象、それはあなたも理解できるはず」
長門「あなたは、わたし」
有希の影「(コクッ)」
――自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる…
>有希の影は有希の中へ戻っていったようだ。
73:
長門「う……」
>また倒れそうになっていたが、今度はキョンが支えたようだ。
キョン「やっぱり大丈夫じゃねぇよな」
長門「……平時のパフォーマンスを現在行うことは困難」
キョン「当たり前だ、少し休んでろ」
長門「……了解した」
キョン「さて、そうだな……これは一度戻るべきだろうな」
古泉「ええ、この状態の長門さんを連れまわすわけにはいきませんからね」
長門「その前に……まだやるべきことがある」
一樹の影「……」
古泉「え、ええ」
キョン「そういえばいたな……」
長門「あなたも、向き合うべき」
古泉「……わかりました。ですが、少し離れていていていただけるとありがたいです。
 相当自分の深いところを他人に聞かれるのは恥ずかしいですからね……」
キョン「ああ、分かったよ」
74:
>一樹と一樹の影から離れた。
キョン「古泉のやつも難儀だな」
>しかし、向き合わなければ暴走してしまう。
キョン「わかってるよ……長門の影でさえ暴走したんだ。
 俺たち人間が向き合わなかったら、間違いなく暴走するだろうよ」
>随分、有希を信頼しているようだ。
キョン「それは、当たり前だ。俺は長門に何度も助けられているし、
 一切の誇張虚飾なく額面通りの命の恩人だからだ」
>命の恩人?
キョン「ああ。だからこそ、俺は長門に絶対的信頼を置いているのさ」
>キョンと有希の間には、確かな絆が芽生えているようだ。
……――ハッハッハッハッハッハ!!
>一樹と一樹の影のいる方向から謎の高笑いが聞えてきた。
キョン「遠目だからわからんが、古泉のやつえらく困惑してるように見えるな……」
>自分の負の部分と向き合うのはそれだけ大変だということだ。
キョン「そういうものか……そうだよな」
75:
長門「……」
キョン「……なあ、もしかして長門はあいつらの会話聞き取れるのか?」
長門「可能」
キョン「……ちょっと教えてもらうっていうのは、もちろんダメだよな?」
長門「古泉一樹は、あなたに知られることを望んでいない。よって私の独断で話すことは推奨しない」
キョン「……そうだよな。ちょっとした冗談だ。聞かなかったことにしてくれ」
長門「そう」
>……!
>どうやら、一樹の影は一樹の中へ戻っていったようだ。一樹がこちらへ向かってくる。
キョン「よう、満身創痍だな」
古泉「よ、ようやく終わりました。想像以上に大変なことなのですね、自分と向き合うことは」
古泉「自分が必死で目を逸らしていたものを突きつけられる気分は最悪でした。
 長門さんの一件を見ていなければ、間違いなく僕も否定していたでしょうね……」
>誰も、そういうものだ。
古泉「それに、ただ、『はいはい』言っているだけではダメでした。本当に認めて、受け入れなければ自分は納得しない。
 正直いい経験とは言えませんが、自らを見つめ直すいいきっかけではありました」
76:
キョン「じゃあ、戻るか。長門もこんなだしな」
古泉「それならよかったのですがね、残念ながらそうはいかないみたいですよ」
>どういうことだ……?
古泉「お客様がもう1名いらっしゃったようですから」
キョン「どういうこ……!?」
キョンの影「……」
キョン「あー、これって」
古泉「そういうことになりますね」
古泉「我々は離れたところで待っていますから。思う存分ぶちまけてきてください。
 手早く、とはいかないと思いますが、できる限り早く戻ってきてくれることを僕は望んでいます」
古泉「それと、くれぐれも暴走させないでくださいね。もう僕に戦う力は残っていませんから」
>自分の体力も厳しい事を伝えた。
キョン「なあ、番長、これを拒否する方法って――」
>いってらっしゃい!
キョン「……わーったよ! 行ってくるよ! いい笑顔で送りだすんじゃねぇ!
 いってくればいいんだろ! チクショウ!」
長門「待っている」
77:
……

キョン「……よう」
古泉「気分はいかがですか?」
キョン「あんなモン突きつけられて不愉快にならんやつがいたらみてみたいね……」
古泉「でしょうね」
キョン「少しでも古泉の影との会話を聞こうと思った俺が馬鹿だったよ。
 あんなもの聞かれたら俺は間違いなく悶え死ぬ」
古泉「……この際、前半部分は聞かなかったことにします。今は向こう側に戻りましょうか」
キョン「ああ」
キョン「長門、疲れているところ悪いが出口を作ってもらっていいか?」
長門「問題ない」
>また何か高で口元が動いた。
長門「空間の接合に成功」
>……! 視聴覚室にあるテレビと同じようなモノが出てきた。
キョン「行きも帰りもテレビの中に入っていくのな……」
78:
――視聴覚室。
>どうやら無事に戻ってこられたようだ。
みくる「よ、よかったぁ……戻ってきたぁ…うぇぇぇえぐっ、ひっく、えっぐ……」
>いきなりみくるはボロボロと泣き出してしまった。
キョン「あ、朝比奈さん? どうなさったのですか?」
古泉「それほど時間がたっていましたかね」
長門「わたしたちが異空間に侵入してから、およそ1時間47分経過している」
キョン「す、すみません。お待たせしてしまったようですね」
みくる「違うんです、違うんですぅ…」
>どうしたんだろうか。
みくる「だって、だってぇ……キョンくんたちが入ってしばらくしてから
 テレビの画面触ってみたんですけど、は、入れなくなってて……」
>おそらく中で有希の影が暴走したときだろう。
みくる「もしかしたらキョンくんたちが中で何かあったと思ったら、いてもたってもいられなくなって……」
79:
みくる「なにがあったのかこの時代のこの時期に何があったのか調べても、
 機密扱いでなにも調べることできないし……緊急案件として出しても静観しろって言われちゃうし」
みくる「禁則事項してみなさんを止めようと思っても禁則事項にふれて禁則事項になっちゃうし……」
>きんそく……? なんだ?
キョン「あー、あとで説明してやるから気にするな」
みくる「わたし、何もできなくて、わたし…わたし、うぇぇぇぇぇぇ……」
古泉「大丈夫ですよ、朝比奈さん。事実僕たちはこうして無事に戻ってきている」
キョン「そうですよ。未来でもいわゆる規定事項じゃなかったんですか?」
みくる「しんっ、心配っ、心配しましたぁ……」
>みくるは心の底から団員達を心配しているようだ。
>みくると、団員たちの間に絆を感じる。
古泉「朝比奈さんにご心配していただけるとは、光栄の極みです」
古泉「しかし、今は休ませていただいてよろしいですか? 少々、疲れました」
みくる「え、あ、う、うん! じゃ、じゃあどうすれば……」
古泉「彼と長門さんを送って行ってあげてください。僕は番長氏とゆっくり帰りますから」
80:
みくる「わ、わかりました。って、え! な、長門さんをですか」
キョン「一番疲労困憊なのが長門ですから。朝比奈さん、よろしくお願いします」
長門「お願いする」
みくる「は、はい! ……中で一体何が? あ、じゃあ、部室から2人の荷物とって来るね」
古泉「部室のカギは僕が締めておきますから、そのまま帰っていただいて構いません」
キョン「ああ、頼んだぜ。ほら、お前らもでろ、長門が施錠できねぇだろ」
>視聴覚室を後にした。
>キョンと長門とみくるは、部室へ向かっていった。
古泉「さて、僕たちはゆっくり向かうとしましょう。
 いろいろ話したいこともありますし」
>身体は大丈夫なのか?
古泉「……精神的には疲れましたけどね。
 元より閉鎖空間で力を行使する人間ですから一般人である彼よりは疲労度も少ないはずです」
古泉「それに、実際に戦ったのはあなたですから。それには比べるべくもありません」
古泉「校門が閉まるまではまだ時間があります。ゆっくりお話ししましょう」
>のんびりと部室へと向かっていった。
81:
――文芸部部室。
古泉「これで、ようやく一息つけます」
>文芸部室には、自分と一樹の荷物以外なくなっていた。
>話したいこととはなんだろうか。
古泉「そうでしたね。あのテレビの中のお話は、長門さんや他の方々がいるときでよろしいでしょうか」
>構わないと伝えた。
古泉「まずひとつお聞きしたいことは、あなたの能力についてです。
 たしか、ペルソナ、と記憶していますが。
 あの力はテレビの中の限定で行使できると考えてよいのでしょうか」
>その通りだ。
古泉「あの力は一体……? 差支えのない範囲でよいので教えていただけますか」
>ペルソナについて自分の知っていることを教えた。
古泉「自らと向き合い自らのシャドウを制御することで人格の鎧、ペルソナとなる、ですか」
古泉「というと、我々も使えるようになっているのでしょうか」
>そういえば、シャドウががペルソナに転生した様子はなかった。
古泉「……ふむ。おそらくですが、この世界のテレビの中と
 あなたの世界のテレビの中では多少性質が異なるのでしょうね」
82:
>確かに、一樹も能力を使っていた。
古泉「ええ、そこです。そこからある推察につながるのですが、それはまたあとにしましょう」
古泉「それと、ペルソナが特別な人物でなければ使えないというのでしたら別ですが、
 お話を聞く限りそういうことでもないようですし」
古泉「ペルソナを行使できないことは残念ですが、仕方ありませんね」
>他に聞きたいことは?
古泉「では、もう1つ。あなたは本当に涼宮さんをご存じないのですね?」
>ああ、知らない人物だ。
古泉「では、あなたがご自分の世界へ戻る方法はご存知ですか?」
>……! そういえば、どうすれば戻れるのだろうか。
古泉「やはり、あなたは迷子のようだ」
>困ったことになった。今すぐに戻れない限りここで生活する必要が。衣食住の確保しなければ……。
古泉「よろしければ全面協力させていただきますよ」
>……!
古泉「事態を解決していただいた恩もありますし、
 老婆心ながらマンションと食費、あと数点の衣服でしたらご用意させていただきます」
83:
>よいのだろうか。
古泉「僕が機関という組織に所属していることは依然述べたとおりですが、
 その機関に決して潤沢とは言えないですが、活動資金があります」
古泉「経費として落としますよ」
>助かる。
古泉「それと、よろしければ北高への転入手続きもしますが。
 異世界とはいえ、何か明確な身分を持っていることに不便はないと思いますよ」
>いたれりつくせりで、申し訳なってくる。
古泉「いえ、僕としてもあなたに興味は尽きませんからね」
古泉「もちろん、僕のマンションにご一緒に泊まってもよいですが」
>そっと遠慮しておこう……。
古泉「ふふっ、そうですか」
古泉「では、少々手続きをしてまいりますのでお待ちください」
>一樹は携帯電話を取り出しながら部室から出ていった。
>そういえば、こちらの世界で自分の電話を使えるのだろうか。
>……圏外だ。電話は使えないようだ。
92:
……

古泉「お待たせいたしました。マンションの手続きも終わりました。
 家具も備え付きのタイプの部屋ですので、今からでも寝泊りができます」
古泉「それと、北高への転入ですが3日後になりそうです」
>ありがたい。
古泉「言い方は悪いですが転校生としての手続きと必要書類の偽造もなかなか手間がかかるものでして」
古泉「それと、3日後に北高に来たときにはおそらく涼宮さんから
 何かしらのアプローチがあると思います」
>この団体の中心にいる女性か。
古泉「ええ。かなり突飛な人物なので、はじめは面食らうと思いますが、番長氏なら大丈夫でしょう」
>覚悟しておこう。
古泉「ええ。それでは今日は帰りましょうか。
 あなたの泊まるマンションにご案内しながら、この街をご案内しますよ」
古泉「ちなみに僕も同じマンションに住んでいますから住んでいますから、
 困ったことがおありでしたらいつでもご相談に乗らせていただきますよ」
>古泉一樹との間に絆の芽生えを感じる……。
>文芸部室を後にし、街を案内してもらいつつ帰路についた。
93:
――翌日、北高、放課後。
キーンコーカーンコーン……
ハルヒ「ちょっとキョンッ!」
キョン「なんだ、耳元で大声を出すな。鼓膜がイカれちまう」
ハルヒ「人体がそんな簡単に壊れるわけないでしょ。
  それに今日1日いつにもましてだれてるからカツを入れてあげたのよ」
ハルヒ「ってキョンのことなんてどうでもいいのよ!
  そんなことより有希よ、有希!」
キョン「長門がどうかしたのか」
ハルヒ「どうかしたから言ってんの! 休んでるのよ今日!」
キョン「ああ、そのことか」
ハルヒ「ああ、そのことか、って何よそのリアクション」
キョン「……昨日部室にいったときに長門にあってな、どうやら風邪をひいてたみたいだ」
ハルヒ「有希が、風邪?」
キョン「ああ、確かに微熱程度だったし本人も大丈夫と言っていたんだがな。
 長門は、無理をし過ぎて危なっかしい節があるだろ。だから俺が明日は1日休んどけと言ったんだ」
ハルヒ「ふぅん……」
94:
ハルヒ「ま、キョンにしてはいい心遣いじゃない。
  確かに有希は顔に出さないものね」
キョン「だろ。でも大したことないと言っていたから、今頃元気にしてるかもな」
ハルヒ「ダメよ、風は治りかけが一番危ないの!
 そうね、今日は有希の家にお見舞いに行くわ!」
キョン「おい、大勢で行ったら逆に迷惑じゃないか?」
ハルヒ「誰が大勢で行くなんていったのよ。行くのはあたしとみくるちゃんだけでいいわ」
キョン「俺と古泉は?」
ハルヒ「特に何もしなくていいわよ。だから今日のSOS団の活動はお休み」
ハルヒ「そもそも1人暮らしの女の子の部屋に野郎が上がろうって考えがダメなのよ。
  風邪で弱ってる有希を狙うつもりなら諦めなさい。もしそのつもりならあたしが鉄拳で制裁してあげるわ」
キョン「安心しろ。そんなこと宇宙を飛来してるニュートリノほども持ち合わせちゃいない」
ハルヒ「そう、ならよかったわ。SOS団から犯罪者が出るのは忍びないからね」
キョン「やれやれ……きまったなら早く行ってやれ。長門も喜ぶだろうよ」
ハルヒ「じゃ、キョンは古泉くんに今日の活動はなしって伝えといてあげて」
キョン「確かに承ったよ、団長様」
95:
――文芸部部室
キョン「……ってことだ。そういうわけで今日もSOS団の活動はなしだそうだ」
古泉「そうですか。それにしてもあなたも嘘がうまくなりましたね」
キョン「ふん、長門の体調が思わしくないことも事実だし
 俺が休んでおけと助言をしたことも本当だ」
キョン「俺は長門の体調の悪さを風邪と言っただけで、
 それ以外の嘘は何もついていないさ」
古泉「ふふ。ええ、その通りです」
キョン「正直俺もかなりだるいんだがな。
 古泉、お前も休む可能性があったし、その上俺まで休んだら団長様が暴走しかねん」
古泉「おや、僕のことを気遣ってくれたのでしょうか?」
キョン「そんなわけあるか。俺は自分の平和を守りたかっただけだ」
古泉「ふふ、そういうことにしておきましょう」
キョン「……それより、番長はどうしたんだ。もしかしてもう元の世界に帰ったのか?」
古泉「いえ、機関の用意したマンションにご案内して寝泊まりしていただいています。
 まだ、戻る手立ては見つかっていませんね」
キョン「番長も、面倒なことに巻き込まれたもんだな。同情するぜ」
96:
古泉「それと、彼のここにいる間の身分として北高の生徒になっていただきました。
 明後日には、彼は北高の2年生ですよ」
キョン「それも、機関の力ってわけか」
古泉「僕もあなたが先ほど言ったように僕自身の平和を守るためでしたら尽力しますよ」
古泉「番長氏が現れたということは、涼宮さんは何かしらの刺激を求めているのでしょう。
 そう望んでいるにもかかわらず、何も起こらなかったらどう思います?」
キョン「……さあ、想像したくないね」
古泉「ストレスから閉鎖空間がいくつも生まれることが容易に想像がつきます。それも特大の」
古泉「僕が過労死しないためにも番長氏は必要なのですよ」
キョン「相変わらず迷惑を惜しげもなく振るうのか、ハルヒのやつは」
古泉「いえ、そんなことはありませんよ。極めて寛容といってもいい」
古泉「ほんの些細な刺激でいいのです、それこそ転校生が来るといった程度のね」
古泉「それで満足していただけるのでしたら、大変ありがたいことです」
キョン「……お前がそれでいいならいいさ」
古泉「ええ。僕はこの現状を掛け替えのない平穏そのものだと認識していますよ」
97:
キョン「で、どうする?」
古泉「どうするとは?」
キョン「ハルヒ、朝比奈さん、長門が不在。番長もいない。
 やることもないだろうから、今日はもう解散でいいか?」
古泉「そうですね……では、一局どうです?」
キョン「あー将棋か?」
古泉「ええ。久しぶりだと思うのですが」
キョン「……最初にいっておくぞ。昨日の今日でだるさも抜けていない。
 俺は頭が回らん。負けてもハンデ戦だったってことだ」
古泉「ええ、そういうことにしておきましょう。それで構いませんよ」
キョン「……気が変わった。全力で潰してやろう」
古泉「お手柔らかに」
……

――番長、自室。
>何もすることがない。暇だ。
98:
――マンション前
>何もすることがないため外に出てきた。
>今日の食事の買い物に出かけよう。
――スーパー。
>今日は、魚介類とダイコンが特売しているようだ。
>ブリ大根の材料をカゴに入れていく。
???「みくるちゃんは、病食って何がいいと思う?」
みくる「えっ、えっとぉ……」
???「病食って言っても寝込んでいるわけじゃないからおかゆは無しよね」
みくる「お、お野菜の栄養がとれるのもがいいんじゃないでしょうか」
???「野菜……野菜ね」
>聞き覚えがある声がする……
99:
>朝比奈みくると……見覚えのない顔だ。制服から察するに北高の生徒なのだろう。
>しかし、無駄な接触は避けるべきだろうか……。
>見なかったことにして買い物を続けた。
みくる「あっ、あれ?」
???「なに、みくるちゃんの知り合い?」
>見つかってはなぜか厄介な事になりそうな気がする。
みくる「……? きのせい、かな?」
???「いい、みくるちゃん。今は無駄なことをしている時間はないの。
  今は有希のお見舞いに行くことを最優先すべきなのよ!」
みくる「は、はいぃ?」
>どうやら見つからずに済んだようだ。
>あまり、ふらふら出歩くのはやめよう……。
>早々に購入して帰宅した。
100:
――マンション前
古泉「おや、どこかへお出かけでしたか」
>今日の買い出しへ行っていたと伝えた。
古泉「自炊できるのですね」
>それなりにではあるが。
古泉「なにか、トラブルはありませんでしたか?」
>特にないと伝えた。
古泉「それでしたらよかったです。あなたにはできる限りこちらで
 快適に過ごしていただきたいですから」
>そういえば、朝比奈みくるをスーパーで見かけた。
古泉「朝比奈さんですか……もしかしたら誰かがそばにいたのでは?」
>見覚えのない女子生徒と一緒だった。
古泉「おそらく……涼宮さんでしょうね。
 もしやとは思いますが、接触は……?」
>余計な接触は避けるようにした。
古泉「ふう、本当にあなたが聡い人で助かります。
 あなたと涼宮さんは、偶発的なものではなく涼宮さんが会いに行く、という必要がありますからね」
101:
古泉「助かります」
>特に何もしていない。
古泉「いえ、これは僕の本心ですよ。
 僕はあまり嘘が得意ではないですから、また何かもっともらしい嘘を
 用意しなければならないのかとひやひやしました」
>苦労しているんだな。
古泉「そんなことはありません。これでも僕は高校生活を満喫していますからね」
古泉「ところで、本日は何を作る予定なのでしょうか」
>ブリ大根を作る予定だ。
古泉「いいですね。僕も好きですよ」
>よければ一緒に食べるか?
古泉「本当ですか? お相伴にお預かりできるのでしたら大変喜ばしいですね」
>ああ、1人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいからな。
古泉「ではお言葉に甘えさせていただきますよ」
>一樹と一緒に食事をとることにした。
102:
>さて、今日はブリ大根を作ろう。
>コメをといだ水で大根を下ゆでし、ブリに振り塩をしてから湯霜を作り……
>――あとは落し蓋をして煮込むだけだ。
古泉「素晴らしい手際です。僕が見ても惚れ惚れしますよ」
>褒めても特に味は変わらない。
古泉「最近は、ずっとレトルトでしたからね。非常に楽しみです」
>一樹は1人暮らしなのだろうか……。
>てりつやブリ大根ができた。
古泉「それでは、いただきます」
古泉「素晴らしいです。これほどおいしい料理は久々です」
>満足してもらえたようだ。
古泉「涼宮さんではないですが、僕もあなたに出会えてうれしく思いますよ」
>一樹との間に純粋な友情を感じる。
古泉「ふふ」
>……たぶん。
103:
古泉「そろそろ、僕は自室に戻りますよ。
 大変おいしかったです」
>そうだ。ひとつお願いがある。
古泉「何でしょう?」
>外に出るわけにもいかず、あまりにも退屈なので何か暇つぶしの道具がほしい。
古泉「ああ、すみません。そこまで気が回りませんでした」
古泉「何か希望がございましたら、そちらをご用意いたしますが」
>娯楽用品でなくとも本や勉強道具、内職のような仕事でも構わないと伝えた。
古泉「そうですね……勉強道具、教科書が届くのは明日ですのでお待ちください」
古泉「でしたら、僕の趣味のテーブルゲームのルールを憶えていただいてもよろしいでしょうか?」
>テーブルゲーム?
古泉「ええ、なかなか一緒にプレイしてくださる方は少ないのですよ。
 あなたが覚えてくだされば、非常に嬉しいのですが」
>ああ。それで構わない。
古泉「では各ゲームの戦術本もお付けしますよ。
 しばしお待ちください」
>……! 一樹から大量のテーブルゲームのルールブックと戦術本を受け取った!
104:
――翌日。
>他のみんなは学校へ向かっている。
>今日は教科書などが届くらしい。その荷物を受け取ること以外予定はない。
>そういえば、一樹から大量のゲームのルールブックを受け取っていた。
>手当たり次第読んでみよう。
………
……

>チェス、囲碁、軍人将棋、変わったところでは象棋などのルールを覚えた。
>また人生ゲーム、モノポリーなどパーティゲームなどのルールブックもあった。
>一樹は、よほどボードゲームが好きなんだろう……。
ピンポーン……
>インターフォンで確認する限りどうやら宅配のようだ。
>荷物を受け取った。中は、北高で使う教材一式のようだ。
>体操服、ジャージ……しかし制服がない。
>どうやら八十神高校の制服で登校しなければならないようだ。
105:
>明日の登校の準備をした。
>……やることがなくなってしまった。
>今度は戦術本を読んでみよう。
………
……

>外がすっかり暗くなるまで読みふけってしまった。
ピンポーン……
>今度は誰だろうか。インターフォンで確認をする。
古泉『こんにちは。開けていただいても?』
>一樹だ。鍵を開け部屋へ入れた。
古泉「今日はいかがでした?」
>部屋からでずに、本を読んでいたと告げた。
古泉「それは結構です。これでこの半軟禁生活も終わりですから、
 我慢していただいてありがとうございます」
>特に不便な生活ではなかったと告げた。
古泉「そう言っていただくと僕も幾分か心が軽くなりますよ」
106:
>そういえば、北高の制服がなかったと告げた。
古泉「ええ、それに関してはわざとですよ」
>わざと?
古泉「あなたのキャラクターづけのためですよ。
 転校生という属性だけでは、既に僕が使用してしまっていて弱いですからね。
 ここは学ランをロックに着こなしていただいて、番長のあだ名を不動のものにしていただきたいですね」
>そういうことならまかせろ!
古泉「ええ、お任せします」
古泉「一応あなたはご両親の都合で、こちらへ来た転校生ということになっています。
 さらに急の決定だったので、制服を用意する時間がなかったという設定です」
>随分細かい設定だ。
古泉「できる限りぼろを出さないようにするためですよ」
古泉「できれば、聞かれたときにそれらしい嘘をご用意しておくことをお勧めします」
古泉「あとは、以前の高校のことを聞かれたら
 あなたの高校のことを話していただいて構いませんから」
>わかった。
古泉「ええ、それでは僕から言うことはこれ以上ありません」
107:
>ありがとう。
古泉「ところで、夕食はもうお召しになられましたか?」
>そういえば、本に耽っていたせいで全く用意していなかった。
古泉「それは僥倖です。実はここに豚の生姜焼きの材料を買ってきておりましてね」
>一樹がスーパーの袋を掲げた。
古泉「ですが、僕はあなたのように手際よく作ることもおいしく作ることもできません」
古泉「よろしければ作っていただけると嬉しいのですが」
>買い出しにいけていなかったからむしろありがたい。
古泉「では、お願いしてもよろしいですか?」
>問題ないと告げた。
古泉「僕は幸運ですね。役得というべきでしょうか」
>一樹から純粋な友情を感じる。
>一樹と一緒に夕飯時を過ごした。
古泉「ふふ、こちらも大変おいしかったです」
108:
古泉「では、僕はそろそろお暇しますよ。また明日学校でお会いしましょう」
>ああ、ありがとう。
古泉「学校でのボードゲームも楽しみにしておりますよ」
>一樹はでていった。
>今日は明日に備えて早めに寝よう。
………
……

109:
――翌日、マンション前。
古泉「おや、昨夜は学校で言いましたがこんなところでもう会ってしまいましたね」
>……自分も随分早く出たつもりだが、一樹はもっと早いようだ。
古泉「これでも僕は真面目な転校生のキャラクターを守っているんですよ。
 間違っても遅刻なんてしないような予防線ですね」
古泉「そういうあなたも随分早いですね」
>道がイマイチわかっていなからな。迷った時の保険だと伝えた。
古泉「なるほど、ずいぶん真面目なようだ。
 ご一緒に行けば迷うことも遅刻することもないと思いますがいかがです?」
>……初日から転校生と仲が良いのは不自然ではないだろうか。
古泉「それは、『登校途中であなたに道を聞かれ、そのまま一緒に登校した』というのはいかがでしょう」
>一樹は、本当は嘘が得意なのではないだろうか……。
古泉「とんでもないですよ。買いかぶりです」
古泉「さて、あとは道すがらにしましょう。遅刻しては無意味ですからね」
111:
――校門前。
古泉「では、僕はこれで。職員室はあちらですので」
>一樹は足早に校舎へ消えていってしまった。
>学校はまだ早いせいか生徒の数はまばらだが視線を感じる。
>やはり学ランは目立ちすぎるのかもしれない。
>職員室に急ごう……。
………
……
――2年某教室。
鶴屋「やっほーやっほー、おっはよーみっくるー!」
みくる「あ、おはようございます」
鶴屋「堅い、堅いよみくるー。転校生くんもそんな表情してたら緊張しちゃうよー」
みくる「転校生……?」
鶴屋「そーそー! ちょろーっと職員室までみてきたんだけどねっ!
 学ランをバッチっと決め込んで、かなりハイカラさんだったんさ!」
みくる「あっ……それって」
113:
鶴屋「なになにっ! もしかしてみくるの知り合いっ?」
みくる「う、ううん。北高と違った制服の人がいるなって」
鶴屋「学ランさんならその人っさ!
 それもそれも! なんとこのクラスの転入生!
 こーんなへんな時期に転入なんて、楽しい予感しかしないっ!」
みくる「そ、そうだね」
鶴屋「だーかーらー、硬いよーみくるー」
みくる「あ、あはは……」
ガラッ
鶴屋「おーっとっとぉ。先生来ちゃったねぇ! また後でねっ」
教師「ほら、せきつけー。君も入ってきなさい」
>ざわついた教室に足を踏み入れる。
>……! なんと見知っている顔がいた。
教師「えーこのような変な時期ではあるが、
 親御さんの関係でこちらの学校へ転入してくることとなった。
 自己紹介を」
>簡潔に自己紹介をした。
114:
教師「突然決まったことらしく、このように制服も以前の学校のままのものだそうだ」
教師「目につくかもしれないが、皆と同じように接してやってほしい。君の席はそこだ」
>言われた席についた。
教師「ではホームルームを始める」
>また新しい学校生活が始まる。
……

>ホームルームが終わった。
>自分が学ランだからだろうか。好奇の視線に晒されれているようだ。
鶴屋「こんちはっ! 転入生くんっ!」
みくる「こんにちはぁ」
>みくるとその友人らしき人物に声を掛けられた。
みくる「え、えーと、はじめ、まして? 朝比奈みくるです。こちらは、友人の鶴屋さんです」
>みくるはどのように接していいかわからず困惑しているようだ。
鶴屋「気さくに鶴屋さんって読んでくれて構わないっさ!」
>呼び方は全く気さくではないがそっとしておこう……。
115:
>改めて自己紹介をした。
鶴屋「ねねっ、その学ランの着方はポリシーかなんかなのかなっ?
 転校初日にいい子ぶる様子もなく、前全開!
 いいねっ! そういうアグレッシブな精神はあたしも大好きだっ!」
みくる「つ、鶴屋さん。
 番長くんもいきなりそんなこと言われたら困っちゃいますよぉ……」
鶴屋「番長くん……?」
みくる「えっ! えーっとぉ、あ、あの、えっと」
>みくるはどうやら、どこか天然なところがあるようだ……。
鶴屋「番長……番長か!
 あははっ! いいね、そのあだ名っ! 学ランにそのアグレッシブな精神っ!
 まさしく番長だよっ! 番長くんっ! 転入生くんのあだ名は番長くんにケッテイっ!」
みくる「つ、鶴屋さん?……」
みくる「ご、ごめんね、番長くん」
>別にかまわないと伝えた。
鶴屋「みんなー! 今度から転入生くんは番長くんって呼んだげてー!」
>どうやら、番長のあだ名が定着してしまったようだ……。
鶴屋「じゃー、この学校初心者の番長くんにあたしたちが案内をしてあげるっさ!」
117:
みくる「あ、はい。しますよ」
みくる「番長くん、わからないことがあったら何でも聞いてね」
>みくるは朗らかに笑っている。
>みくるとの間に絆の芽生えを感じた。
鶴屋「ささ、人間に与えられた時は有限っ! 差し迫るは次の授業っ!
 ってことで、めぼしいところだけさっくり紹介するからねっ!」
>圧倒的な行動力で鶴屋さんに引っ張られるように連れまわされた。
………
……

――1年5組。
ハルヒ「ねっ、キョン。聞いた?」
キョン「何をだ」
ハルヒ「転入生よ転入生。2年生に転入生が来たらしいわ」
キョン「そうかい。俺ら1年坊には何も関係がないことだな」
ハルヒ「何言ってるのよ! こんな時期に転入なんて古泉くんの時以上の不思議転入生よ!」
ハルヒ「それに1人だけ違う制服を許されてるみたいなのよっ! これは由々しき事態だわ!」
118:
ハルヒ「いくわよ、キョン! そんな逸材を他の誰かに取られてたまりますか!」
キョン「おいおい、上級生をSOS団に引き込むつもりか?」
ハルヒ「何言ってるの、みくるちゃんがもういるじゃない」
キョン「朝比奈さんはちょっと特殊だろうよ……」
ハルヒ「あーもう! 御託は並べなくていいわ!」
キョン「うおっネクタイを引っ張るな! って今から行くのかよ!」
ハルヒ「当ッたり前じゃない! 時間は待ってくれないのよ。今やらなくていつやるの!」
キョン「わかったよ、自分で歩くからネクタイを放してくれ」
ハルヒ「わかればいいのよ。その転入生のナリによってはあたしも制服改造してやるんだから」
キョン「やれやれ……」
キョン「(古泉……お前の思惑は大当たりみたいだぞ)」
ハルヒ「ボサっとしないできりきり歩くっ!」
キョン「へーへー」
119:
ハルヒ「でもいい? 手放しで迎えるのは無しだからね!」
ハルヒ「ちゃんと見極めるの。不思議の匂いを持っていそうならいれる、
  持ってなさそうなら見切る」
キョン「俺はもう個人的にSOS団は飽和状態だと思っているがな」
ハルヒ「何を言ってるの。どんな組織にも刺激は必要不可欠よ!
 それはSOS団でも例外じゃないわっ」
ハルヒ「停滞は淀みを生み組織を腐敗させるわ! そんなこと絶対許さないんだからね!
悪貨は良貨を駆逐するし、腐った枝葉は大木をも腐らせるの!」
キョン「そうかい」
ハルヒ「あたしの目が黒い内は、枝葉の一本一葉たりとも腐ることは許さないのよ!」
キョン「わかったわかった。俺もせいぜい腐らないように頑張るさ」
ハルヒ「わかったならよろしい。そういえば、その転入生って2年の何組なのかしらね」
キョン「おいおい、そこの調査もしてないのかよ」
ハルヒ「ま、みくるちゃんに訊けば分かるでしょ」
120:
――2年某組。
ガラッ!!
ハルヒ「みくるちゃーん!」
キョン「おい、ちょっと自重しろ。上級生の眼が点だ」
ハルヒ「あれ? ちょっとキョン! みくるちゃんいないじゃない!」
キョン「しらん、俺に訊くな」
ハルヒ「あたしが必要なときにいないなんて団員失格よ! 失格!」
キョン「お前の気分に常に付き合える方が奇特な存在だ」
……

鶴屋「どうかなっ、簡単だけど今紹介したところが主なところっ」
>ありがとう。
鶴屋「うんうんっ、いいねいいねっ! 見た目に反して素直で素敵だよっ」
>なんと思われているのだろう……。
みくる「あれ? あの教室の前にいるのって涼宮さんとキョンくん?」
鶴屋「およ。ハルにゃんもキョンくんも何かうちのクラスに用があるのかなっ?」
121:
>見覚えのある後姿だ。片方はキョンだろう。
鶴屋「やーやー、ハルにゃんっ! こんなところでどうしたのっ!」
みくる「涼宮さん、何かあったんですか?」
ハルヒ「って、みくるちゃん! どこに――」
>眼の前の女子生徒から強烈な視線を感じる……。
ハルヒ「でかしたわ! みくるちゃん! さすがよっ!
  あたしの行動を予見して先立って確保するなんて団員の鏡よっ!」
キョン「なーにが鏡だ。さっきまで失格とか言ってたくせに」
ハルヒ「そんな昔のことを引きずるのはこの先何の利益にもならないわ」
鶴屋「あー、そうそうっ! ハルにゃんたちにも紹介しておくよっ!
 この学ラン全開が似合う転校生が番長くんっ!」
ハルヒ「番長……?」
鶴屋「そっ! 学ランさんをこんな風にバシッとハイカラさんに着こなしてるからねっ!」
キョン「ハイカラときますか、俺はロックだと思うんですがね」
鶴屋「うーんっ! ロックかぁ、それもいいねっ!
 実はこのあだ名の名付け親はみくるなんだよっ!」
キョン「あ、朝比奈さん……ですか」
123:
みくる「う、うん……」
>キョンとみくるは何やらアイコンタクトをしていたようだ。
ハルヒ「番長……うん! 番長! いいわね! みくるちゃん、ナイスアイディアよ」
みくる「あ、ありがとうございます」
キョン「やれやれ」
ハルヒ「まず自己紹介しておくわね、あたしは涼宮ハルヒ」
ハルヒ「番長くん! あなた異世界人?」
>……! いきなり核心をつく質問をしてきた。
キョン「……おいハルヒ、上級生なんだ。その言葉遣いはないだろう」
ハルヒ「今重要なのは上級生かどうかじゃないの!」
>涼宮ハルヒと名乗った女子生徒はこちらを睨みつけるように見つめている。
>負けじと見つめ返しはっきり違うと告げた。
ハルヒ「ん! よし! 合格!」
>……いったい何なのだろうか。
キョン「……一応聞いといてやる、何が合格なんだ」
124:
ハルヒ「彼よ、彼に決まってるじゃない」
キョン「……異世界人じゃないと言っていたのにか」
ハルヒ「あたしだって、そんな簡単に異世界人に会えるとは思っていないわ」
キョン「じゃあ、なんで聞いた」
ハルヒ「あたしが見たのは気概よ気概。
  ここでふざけて『はい異世界人です』なんて言うようなら即不合格よ」
ハルヒ「それに、少しでも言いよどんでてもダメ。狼狽えてもダメ。
  そんな精神的軟弱者はSOS団にはいらないわ!」
ハルヒ「でも彼は一切目を逸らさず力強くこちらの質問に答えてくれるたわ。
  それは精神的な強さの裏付け、つまりSOS団でやっていける資質よ!
  あたしくらいになると今の質問だけでわかるの!」
キョン「……そうかい」
ハルヒ「番長くん、ありがたく思いなさい! SOS団に入る権利をあげるわ。
  この権利は、全宇宙を見渡しても最上級に名誉あることなのよ!」
>ありがとう。
鶴屋「やー、すっごいねぇ、番長くん」
キョン「一応言っておくが、拒否する権利もあるからな」
>せっかくのお誘いだ。入れてもらうことにしよう。
125:
ハルヒ「みくるちゃん!」
みくる「は、はいぃ。なんでしょうか……?」
ハルヒ「もちろんSOS団の説明は番長くんにしておいてあるわよね?」
みくる「あの、その、しないですぅ……」
ハルヒ「みぃ?くぅ?るぅ?ちゃぁ?ん!」
みくる「ひゃぁぁっ! ごめんなさいぃ!」
>みくるは身体をまさぐられている。どうやらみくるは彼女のおもちゃのようだ……。
>キョンが顔を近づけてきた。
キョン「本当に良いのか。ろくでもない団体だぞ」
>楽しそうでいいじゃないかと伝えた。
キョン「番長がそういうならこれ以上はいわねぇさ」
キョン「ふう……おい、ハルヒ、そろそろやめておけ」
ハルヒ「なによ、まだお仕置きが終わっていないわ」
キョン「朝比奈さんは番長を確保しておいてくれたからいいじゃないか。
 許してやろうぜ。それにほら」
キーンコーンカーンコーン……
126:
>予鈴がなっている。
みくる「ひゃぁぅぅぅ!!」
キョン「な、終了の合図だ」
ハルヒ「仕方ないわね……これくらいにしておいてあげるわ。
  キョンの言うことも0.1理くらいはあるからね」
キョン「それでいいから、離してやれ」
みくる「ううう……」
ハルヒ「いい、みくるちゃん、今日は部室に絶対集合だからね! 番長くんもつれてきなさいよ!」
みくる「わ、わかりましたぁ……」
>そういうとハルヒはずんずん廊下を進んでいってしまった。
キョン「すみません、朝比奈さん」
みくる「う、ううん、いいの。大丈夫だから」
鶴屋「みくるのことはあとはあたしにお任せ侍っさ!」
キョン「ええ、お願いします」
ハルヒ「こらー! バカキョン! 早く行くわよ!」
キョン「わかったよ。じゃあ、また部室でな、番長。朝比奈さんも」
128:
――2年某教室。
>今日1日の授業が終わった。
鶴屋「やー! 終わったねぇ! どうだい? はじめての北高の感想は」
>悪くないと、伝えた。
鶴屋「うーん、いつか番長くんに『よかった』ってい言わせてみたいっ!」
>高校の授業を受けていると八十神高校のことが思い浮かぶ。
>まだ元の世界に帰る方法も見つかっていない。
みくる「じゃあ、そろそろ行きますか? 番長くん」
鶴屋「そっかそっか! 番長くんもお呼ばれしてるんだったねっ。
 頑張ってくるっさ。あたしはここらで消えるとするよ、ばいばいっ、みくる、番長くん」
>鶴屋さんは、教室から出ていってしまった。
みくる「いきましょう」
>ああ。
129:
>2人で文芸部の部室に向かって歩いていく。
>質問してもいいだろうか。
みくる「うん、どうぞ?」
>鶴屋さんは、未来人なのだろうか?
みくる「ううん、ちがう。でもこっちに来てからであった掛け替えのない友人」
>みくるはどうやら鶴屋さんを信頼しているようだ。
>他に未来人はこの学校にいるのだろうか。
みくる「それは、ごめんなさい、禁則事項なんです」
>言えないということだろうか。
みくる「はい……」
>みくるは申し訳なさそうな顔をしている。気にしなくていいと伝えた。
みくる「ありがとう……ふふっ、キョンくんと一緒ですね」
>何がだだろうか。
みくる「ううん。なんでもない」
>会話をしているうちに、文芸部部室まで到着した。
130:
みくる「番長くんは今日が初めてのSOS団なのよね」
>ああ。
みくる「いろいろ、ビックリすると思うけど……頑張ってね」
>そう言って、文芸部室のドアを開けた。
長門「……」
みくる「あ、長門さんこんにちはぁ」
>有希だ。すでに部屋の隅で読書をしていたようだ。
>体調はもういいのだろうか……。
長門「平気」
>ならばよかった。
みくる「あ、あのね。番長くん。ちょっと着替えるから外に出ていてほしいな」
>着替え……? なにかユニフォームでもあるのだろうか。
みくる「う、ううん。そうじゃないんだけど……」
>とにかく外に出よう。
131:
>廊下に出て扉の前で待っているが、他の団員が来る様子はない。
>かなり早く来てしまったのだろうか。
みくる『あ、番長くん、ありがとう。もう大丈夫』
>扉の向こうから入室許可がされたようだ。
>……! なんとエプロンドレスだ。
みくる「ごめんね、締め出して。今お茶入れますから座って待っててね」
>みくる、似合ってる。
みくる「えっ、えぇっ! ど、どうしたんですかぁ?」
>感想を述べただけだと伝えた。
みくる「こ、ここまではっきりストレートに男性に言われたのは
 初めてだったからちょ、ちょっと照れちゃいましたぁ」
>しかしみくるはまんざらでもないようだ。
みくる「あ、これお茶です」
>給仕する姿が板についている。ずっとしてきたのだろうか……。
みくる「これ、長門さんのお茶です。ここに置いておきますね」
132:
>有希は一瞥をくれただけでまた読書に戻ってしまったようだ。
みくる「ふふふっ、ちょっと新鮮」
>何がだろうか。
みくる「ううん、いつもは長門さんと2人きりで
 特にキョンくんや涼宮さんが来るまで話したりすることもないから」
>……この二人は仲が悪いのだろうか。
みくる「そ、そんなことないですよぉ。
 ただ、長門さんはああやって読書してますし、その邪魔をするのも悪いし」
みくる「あ、でも別に寂しいってわけじゃないんですよ!
 こうやって待ってる時間もお茶の本読んだりしてて、あとお掃除とかも」
>みくるは、楽しそうに話している。
>みくると他愛無い会話を楽しんだ。
みくる「でもこうやって、お話して待っているのも悪くないかなって。
 番長くんと話をしていて思いました、ふふっ」
>みくると少し仲良くなれたようだ。
133:
みくる「そろそろ、皆さんも来ると思うのでお茶の準備しなくちゃ」
>みくるはお茶の準備を始めたようだ。
ガチャ
キョン「うぃっす。……って本当に来たのか」
みくる「あ、キョンくんこんにちは。これお茶です」
キョン「朝比奈さん、ありがとうございます」
>キョンの声色が自分や一樹と話しているときと違う。
キョン「なにが哀しくて野郎に、そんな声色使わないといかんのだ」
キョン「それより番長。ハルヒのヤツな、えらく張り切ってたから覚悟しておいた方がいいぞ」
>確かに今朝は驚いた。
キョン「あれで驚いてたら、これから先思いやられるぜ。
 ま、お前さんがいつまでこの世界にいるかわからんがな」
みくる「あ、そういえば、どうやって戻るんでしょうねぇ」
>そろそろ真剣に考えなければいけない問題だ。
134:
キョン「なんでそんな落ち付いていられるんだ
 ……俺が別の世界にいったときは恥ずかしい話、発狂モンだったぞ」
>何かヒントがあるかもしれない。詳しく教えてほしい。
キョン「そんときは長門と朝比奈さんに助けてもらっただけで
 俺は何もやってないんだがな。帰還のヒントになるんならその2人に聞いてくれ」
>何か心当たりがあるだろうか。
みくる「あたしができるのは、ごめんなさい。特にないんです。
 前にも言ったように、この期間は機密扱いで何も教えてもらえませんし……
 TPDDの使用にも制限がかかっていて」
キョン「……朝比奈さん方面はダメみたいだな」
>有希は何か心当たりはないだろうか。
長門「今言えることはない」
>今?
長門「以前もいった様に彼自身の解析ができない。
 そのためこれ以上の進展は大きく望めないと予測される」
キョン「長門でもわからんなら俺は完全にお手上げだ。それは古泉もいっしょだろうよ」
135:
>手がかりをつかむのはまだ先のようだ。
バンッ!
>! 大きな音を立てて突然ドアが開いた。
ハルヒ「みんな、ちゃんと来てるかしら!」
古泉「こんにちは」
>一樹は何やら大きな紙の束を持っているようだ。
ハルヒ「さっそく今日の活動を始めるわよ!」
キョン「おい、ハルヒ、番長の自己紹介も無しか」
ハルヒ「2年に転入してきた番長くんよ! 今日からSOS団に入ることになったわっ、以上!」
キョン「それは自己紹介じゃなく他者紹介だ」
ハルヒ「今日はまず新団員の番長くんにSOS団の活動を知ってもらって
 それでもってSOS団の知名度を世に知らしめる一石百鳥くらいのことをするの!」
ハルヒ「古泉くん! 例のアレくばって!」
古泉「了解しました」
キョン「お前は例のアレと言いたいだけじゃなかろうか」
>なにやら原色をふんだんに使った眼が痛くなりそうなチラシが配られた。
137:
ハルヒ「さ、ざっとでいいから目を通してちょうだい」
キョン「ああ? 『SOS団活動の軌跡』?」
>手書きのチラシには、みくるのバニーガール姿などの写真と共に紹介されていた。
キョン「お前授業中何かしてると思ったら、こんなもん作ってやがったのか」
ハルヒ「いいかしら? 目を通した?」
>どうやら先ほどといいキョン発言は流される傾向が強いようだ。
キョン「それに、カラー印刷って金はどこから?」
ハルヒ「タダよタダ。SOS団の活動資金なんてスズメの涙なんだから
  節約できるところは節約しないとね」
古泉「実をいうと、生徒会室に忍び込んで勝手に印刷をしていたみたいで」
ハルヒ「生意気よね、あたしたちと同じ生徒なのにカラーコピー機なんて入れて。
 同じように学費払ってるんだから、使って当然よ」
キョン「……それ以上は聞くまいよ。頭が痛くなりそうだ」
>大丈夫なのだろうか……。
143:
キョン「で、古泉はなんでその悪事の片棒を担いでるんだ」
古泉「生徒会長に少々用がありましてね。
 ですが生徒会長は不在で涼宮さんがいらっしゃったわけです」
ハルヒ「クラス委員の仕事だったそうよ。ドアが開いたときちょっとドキッとしちゃったわ」
キョン「どうせ、開けたのが古泉じゃなかったとしても
 お前はそのまま印刷を続けたと思うがな」
ハルヒ「当然じゃない。何言ってるの」
キョン「それで、この目に悪い原色だらけのチラシはなんだ」
ハルヒ「チラシってわかってるなら、それ以上聞く必要があるの?」
>ざっと300枚はありそうだ。
ハルヒ「いい? チラシは記憶に残らなきゃ意味がないの。
  いくら枚数を刷って、いくら配っても目を引いてもらわなきゃ広告なんて呼べないわ。
  逆にいえば記憶に残ってもらえれば枚数はこれくらい少なくてもいいの」
>どうやら彼女の感性からすると少ないらしい。
キョン「記憶に残ってもらう前に、手に取ってもらわなきゃ意味ないぞ」
ハルヒ「だからこれからみんなで配るんじゃない」
キョン「これを今からか……?」
144:
ハルヒ「何度もいってるでしょキョン。時間は待ってくれないの。
  こうしてる一分一秒だってあたしたちの寿命は削れているのよ」
キョン「寿命ときたか」
>チラシをざっと眺めてみると、SOS団誕生のきっかけや七夕に宇宙にメッセージを飛ばしたなどのことが書かれている。
ハルヒ「番長くん! そこに書かれてあることは頭に叩き込んでおいて。
  いくらSOS団としてブランクあるからと言って、甘えたことは許されないわ!」
>すぐにでも覚えられるように努力しよう。
ハルヒ「よろしい! さすがあたしが見込んだ人材だわ!」
キョン「おい、番長。あまりこいつをのせるな」
ハルヒ「何言ってんのよキョン。それにだいたいね、なんでアンタが番長くんを呼び捨てなのよ。
  転入生とはいえ先輩よ先輩。失礼と思わないの?」
キョン「お前だってくんづけで呼んでるだろうが」
ハルヒ「あたしは番長くんの上司なんだから当然でしょ。
 アンタと番長くんは同じ平団員なんだから、その場合の区別は学年でするしかないでしょう」
ハルヒ「ううん、それだけじゃないわ。あだ名とはいえ"番長"と"雑用"じゃ格が違うわよ、格が」
キョン「それを比べるなら"番長"と"キョン"だろう」
ハルヒ「そんなのどっちだって一緒よ。"番長"と"キョン"じゃ勝負にならないわ」
145:
キョン「……それにな、番長がこれでいいといったんだ」
ハルヒ「本当?」
>確かに自分がそれで構わないといった。
キョン「な、言っただろ。それなら番長の意思を尊重してやるべきじゃないのかね」
ハルヒ「ふぅん。番長くんがいいならいいのだけど。
 番長くんはそのあだ名に名前負けしない寛容さを持っているのね」
>何やら腕を組んでうんうんと頷いている。
ハルヒ「ところで、いつそんなこと話していたのよ」
キョン「……ハルヒがここに来る前だよ」
ハルヒ「あたしがここに来るまで?
  同じクラスなんだからキョンが部室について長くて30分がいい所じゃない。
  そんな短い間でそんなところまで仲良くなったってわけ?」
>自分の誰かに話しかける勇気、話を弾ませる伝達力、相手を受け入れる寛容さがあれば何の問題もないと伝えた。
ハルヒ「番長くんはコミュニケーションに自信があるわけね」
>ああ。
ハルヒ「それもそうよね。古泉くんみたいなとっつきやすい人ならともかく
 こんな面白みのない仏頂面とこの短時間で仲良くなれるなんて才能といってもいいわ」
キョン「おい、さらっと俺を貶すな」
147:
古泉「僕の名前が出たところで、少しよろしいでしょうか」
ハルヒ「何かしら」
古泉「お話が盛り上がっているところ悪いのですが、
 終業のチャイムがなってから、そろそろ1時間が経とうとしております」
ハルヒ「それがどうかした?」
古泉「ええ。そろそろ部活に所属しているものは部活に精を出すころで話を聞いていただけないでしょうし、
 部活に所属していないものは帰宅の途に就いていることでしょう」
古泉「現時点で校舎にどれほどの人数が残っているかわかりませんが
 先ほど涼宮さんが、ここに来る前に僕に仰っていたノルマ1人50枚の達成は困難でしょう。
 おそらくほぼ全員が罰ゲームになってしまうと予想できます」
ハルヒ「確かにそうね。いけないわ。あたしがそんな初歩的かつ致命的なミスを犯すなんて。
 こんなだらだら喋っている時間はないわね、今すぐ行くわよ!」
古泉「もちろん、チラシ配りを敢行するのであれば我々はついていきますが、
 番長氏はSOS団初日のみならず北高が初日です」
古泉「確かに、見た目上彼からは疲労の色は感じませんが、少なからず緊張で疲労しているでしょう。
 ですがその上罰ゲーム必至の活動では少々酷なものではないかと」
ハルヒ「……いいわ。続けて」
古泉「ありがとうございます。
 そこで提案なのですが、今日は軽いレクリエーションですませ、
 番長氏に北高に馴染んでいただくことに重点を置くというのはいかがでしょう」
古泉「SOS団で改めて校内の不思議スポットがないかを探索をする。
 これでしたら、校内の不思議探索もでき、SOS団の活動も知っていただける。
 さらに且つ番長氏に北高を案内できると思うのですが」
148:
ハルヒ「なるほどね。みんなはどう思う?」
みくる「あ、あたしは古泉くんの意見に賛成ですぅ……」
ハルヒ「どうしてかしら」
みくる「え、えっとですね。
 番長くんに鶴屋さんと案内した場所はトイレの場所とか
 移動教室の場所とか今日中に必要な場所くらいで全然案内しきれませんから案内してあげたいなって……」
ハルヒ「キョンはどう思う?」
キョン「俺か? 俺も古泉の意見に賛成だ。
 不思議探索云々は別にして、今日は番長を休ませてやるべきだと思うね。
 それに俺も罰ゲームは嫌だしな」
ハルヒ「有希は?」
長門「わたしはどちらでも構わない」
ハルヒ「そ」
ハルヒ「一応訊いておくけど、番長くんは? って、え?」
>チラシを配りに行くんじゃないのか?
>50枚ずつ分けておいたのでいつでも行けると伝えた。
キョン「話してるあいだ静かだと思ったらそんなことしてやがったのか。
 お前を労わってやろうとみんながハルヒと交渉してたのになんで当のお前が、そんなにやる気満々なんだよ……」
149:
>それにチラシを配りながら校内を練り歩けば、
 ノルマは達成できないだろうが案内もしてもらえるし不思議探索もできる。
キョン「いいのか、それで……」
>みんなでやれば罰ゲームも楽しいものになるかもしれないだろう?
キョン「お前な……」
ハルヒ「ぷっ、あははっ! 最高だわ、番長くん!」
>何がだろうか。
ハルヒ「たしかに古泉くんの言うとおり番長くんのコンディションを気遣うのは当然よね。
  それにみくるちゃんの言った通り案内してあげないで、放りだしたら地の利がないまま番長くんは不利になるし」
ハルヒ「確かにそこを終着点としてもよかったわ。でもね、番長くんはその上を行ったのよ!」
ハルヒ「団長としてのあたしの意見は当然取り入れつつ、その上団員の意見までまとめた案を出した」
ハルヒ「これ以上ない最高の提案だわ!」
>では、チラシを配りながら学校を回るという形だろうか。
ハルヒ「ええ、そうね。でも古泉くんの言うことももっともだわ。
  こんな時間になっちゃ用事のない生徒はさっさと帰ってるだろうしね」
ハルヒ「だから持って行く量は10枚程度でいいわ。目ぼしい人がいたら渡しましょ。
 大荷物で行って、ほとんど捌けないなんて非効率的なことこの上ないことだから」
169:
ハルヒ「キョン! チラシはアンタが持って行きなさい」
キョン「何で俺なんだよ。10枚程度ならお前が持っていればいいだろ」
ハルヒ「罰ゲームを嫌がった罰に決まってるじゃない。
 他の誰も罰ゲームは嫌なんて言ってないのにアンタだけ嫌がってたでしょ」
キョン「……お前ら小ずるいぞ」
古泉「はて、なんのことでしょう」
>キョンは何を言ってるのだろうか。
キョン「番長はともかく古泉は分かってやがったな……」
ハルヒ「それに雑用がこんなときに働かないでいつ働くってのよ」
キョン「はあ、わかりましたよ団長様。それくらいなら自分の職務を全うさせていただくさ」
ハルヒ「当然! じゃあ不思議探索兼、SOS団広報活動兼、番長くんに学校案内をするわよ!」
>ハルヒは先陣を切って部室から出ていき、それについていくように一樹も出ていった。
キョン「ほら、長門。いくぞ。これ以上ダラダラしてたら今度こそハルヒのやつの怒りに触れるからな」
長門「わかった」
>有希とキョンもそれに倣うように部室を出ていった。
>みくるも、いこう。
170:
みくる「あ、はい。そうですね」
みくる「……それにしても番長くんって、すごいんですね」
>突然どうしたんだろう。お世辞を言っても何も出ないことを伝えた。
みくる「ううん。そうじゃないの。本当にすごいなぁって。
 あんなに楽しそうにしてる涼宮さんをみるのって久しぶりなんです」
>ただ自分が物珍しいだけだろう。
みくる「確かに、それもあるのかもしれませんけど……
 もちろん、涼宮さんがいつも不満気というわけではないんですよ」
みくる「ただああやって、楽しいって全身で表現をすることはなかなかないんです」
みくる「それに、その、なんていうのかな。
 そういうときって大体涼宮さんの提案で、何かやりたくてたまらないってときくらいで」
みくる「だから、誰かの提案を受けてあんなに楽しそうな涼宮さんって本当に珍しいんです」
みくる「番長くんは、やっぱり来るべくしてここに来る存在だったのかもしれません」
>そんなたいそうなものじゃない。ただの迷子だ。
みくる「でもあたしにはそうやって涼宮さんを楽しませることができないから。
 ちょっと嫉妬しちゃうかな」
みくる「でも、それ以上に尊敬してる。本当ですよ、ふふっ」
>みくるは朗らかに笑っている。
>みくるから仲間としての好意を感じる。少しみくると仲良くなれたようだ。
171:
みくる「そろそろいきましょう」
>ところで。
みくる「なんですか?」
>そのエプロンドレスのまま外を回るのだろうか。
みくる「あっ、そうですよね。着替えなくちゃ――」
>……! なんとみくるはいきなり脱ぎだした!
>急いで部室を出て、みんなと合流した。
ハルヒ「あれ? みくるちゃんは?」
>制服に着替えていると伝えた。
キョン「……まさかとは思うが、覗いたりしてないだろうな」
>キョンが覗きたかったのか?
キョン「なっ……! あ、朝比奈さんにそんなことするわけ、」
ハルヒ「何露骨に狼狽えてるのよ、このエロキョンが!」
キョン「いてぇっ! ローキックやめろ! 脛は伝説の英雄だって痛がった場所なんだぞ!」
>いいコンビだ。
172:
みくる「お待たせしましたぁ」
ハルヒ「よし、揃ったわね」
ハルヒ「といっても、あたしたちはもう目ぼしいところの探索は終わっているわ。
  同じところを掘り返してたらでる宝もでないってものよ」
キョン「じゃあ、どうするんだ」
ハルヒ「そこでよ。番長くんの学校の七不思議の場所をこの学校で探索してみるの!」
>八十神高校の七不思議……?
ハルヒ「7じゃなくてもいいわ。何か学校で流行ってた不思議な噂話のひとつやふたつあるでしょ!」
古泉「これはこれは」
キョン「相変わらずの恐ろしい勘だな……」
長門「……」
みくる「す、すごいですねぇ」
>自分が知っている不思議な話といえばやはりあれだろう。
174:
ハルヒ「で、番長くんなにかない?」
>自分の学校にある不思議といえばマヨナカテレビだ。
ハルヒ「マヨナカテレビ?」
>雨の日の深夜0時に1人で何も映っていないテレビを見ると運命の人が写る、だそうだ。
ハルヒ「いいわね、いいわね! いいネタもってるじゃない!」
キョン「いいネタだとしても、今すぐ試せるもんじゃないだろう」
ハルヒ「ま、確かにそうね。雨も降ってないし」
キョン「雨が降ってりゃいいってもんじゃない」
ハルヒ「うーん、そうねぇ。ネタとしてはすっごく面白いんだけど」
ハルヒ「あ、こんなのどうかしら。
 今日みんなで学校に忍び込んで試してみるっていうのは」
キョン「却下だ。こんなボロイ高校だとしても
 校内のセキュリティに引っ掛かれば警備が即すっ飛んでくるぞ」
古泉「たしかに、せいぜい忍び込めて校庭まででしょうね」
ハルヒ「ま、それは後で考えましょ! まずはテレビのあるところってどこかしら。
 視聴覚室あたりに行けばあるかしらね」
ハルヒ「視聴覚室なんてマイナーでしょうから行ってないでしょ? うん、そこに決定!」
176:
>視聴覚室……。そういえばあのテレビはまだ繋がっているのだろうか。
キョン「長門」
長門「なに」
キョン「あのテレビって、もう異空間とつながってないよな?」
長門「異空間の調査を行うため現在も接合されている」
キョン「……なら悪いが、今すぐ閉じてもらうことってできるか」
長門「調査の中止の要請?」
キョン「いや、中断はしなくていい。
 今から視聴覚室に行って、俺達が出ていくまでの間だけ閉じてもらうだけでいいんだ」
長門「問題ない」
>有希の口元が高で動いている。
長門「空間接合の一時停止は完了した」
キョン「ありがとよ」
>キョンと有希は何か相談していたようだ。
キョン「いや、間違ってハルヒのやつが落ちないようにな。
 まだあのテレビ、異空間につながってたみたいだ」
>なるほど。
177:
古泉「では、僕が鍵を借りてきましょう。施錠されていると思いますからね」
ハルヒ「うん、古泉くんよろしく」
>一樹は職員室へ向かったようだ。
ハルヒ「じゃあ、視聴覚室の前で待ってましょ」
>ハルヒはすたすたと歩きだしていってしまった。
キョン「すまん、古泉。お前がここに戻ってくるころには誰もいないだろう……」
みくる「古泉くん、ごめんね」
長門「……」
>残る3人も後を追うようについていってしまった。
>一樹、すまない。
>その場に言霊を残して自分もついていった。
178:
――視聴覚室前。
ハルヒ「古泉くんを待ってるまで暇ね」
ハルヒ「番長くん。他に面白い話ってない?」
>他の不思議な出来事だろうか。
ハルヒ「そそ、そういう系の話。あったらバシバシ話ちゃって。
 もったいぶってても、どうせいつか話すことになるんだから今でも構わないでしょ」
>不思議なことといえば……。
キョン「おいおい、そんな無茶振りするもんじゃないぜ。
 番長、無ければ無いって言っていいからな」
>カレーのような外見だが、一口でも口に入れたなら失神させる物体X、
>人語を理解しているような節のあるキツネが住み着く神社、
>とある町の旅館の一室から聞こえる女のすすり泣く声、
>街で一番大きいスーパーに出没する謎のクマの着ぐるみ。
>ぱっと思いつくのはこれくらいしかない……。
キョン「いや、どう考えても思いつきすぎだ」
みくる「番長くんが以前住んでたとこってホント不思議なところなんですね」
182:
ハルヒ「すごいわ番長くん! 番長くんは見た目が違うだけじゃないのよ」
ハルヒ「それとやっぱりあたしは慧眼だったってわけ。
  すぐさま番長くんに目を付けたんだから」
古泉「皆さんお待たせいたしました。
 急にいなくなってらっしゃったので驚きましたよ」
ハルヒ「ありがと、古泉くん」
>どうやら開錠されたようだ。
ハルヒ「さ、見てみましょ」
――視聴覚室
ハルヒ「えーと、テレビだったかしら」
>ハルヒが、以前異空間につながっていたテレビに触れる……。
キョン「……」
ハルヒ「これくらいの大きさならみんなで見られそうね」 コンコン
>どうやら異空間への入り口はなくなっているようだ。
>一樹が顔を寄せてきた。
古泉「わかっていらっしゃると思いますが、間違っても画面に触れないでくださいね」
>大丈夫だ。
184:
ハルヒ「ま、テレビはこれでいいとして……問題は侵入方法よね」
ハルヒ「校門は乗り越えればいいけど、校内の侵入は骨が折れそう」
古泉「涼宮さん、それは雨が降った日のSOS団の会議懸案にしてはいかがでしょう」
ハルヒ「そうね。何も今日やることじゃなかったわ」
ハルヒ「みんな、いい?
 次の雨の日までに校内のセキュリティを突破する方法を考えておくこと!
 これはSOS団全体の宿題だからね!」
キョン「わかったわかった……それなら、さっさと他の場所に移動しようぜ。
 こんなところで溜まってても何も起こらんだろうよ」
ハルヒ「わかってるわよ。でも、ここも一応不思議スポット候補に記しておく必要がありそうね」
キョン「なんだそれは……」
ハルヒ「ま、いいわ。次に行きましょ!」
ハルヒ「番長くん、学校関係の不思議って他に何かあったかしら?」
>学校関係の不思議……。
>学校の不思議といわれて思い浮かぶのは個性的な教師の面々だ。
みくる「先生が不思議なんですかぁ……?」
>手にマペット人形を付けて授業する教師や、
 クレオパトラのようなメイクと装いで授業する教師がいたことを伝えた。
188:
キョン「……変な学校だな」
>自分もそう思う。
ハルヒ「面白すぎじゃない、その学校。機会があったら行ってみたいわ」
古泉「……!」
ハルヒ「ね、学校のことじゃなくていいわ。何かほかに面白いことってないのかしら」
>本物の武具防具をアートと称して販売している店や
 雨の日だけ動くガチャガチャなど八十稲羽市のことを話しながら校内を回った。
……

――文芸部部室。
ハルヒ「ん、今日はこれくらいで終わりにしましょ」
>学校を一通り案内してもらった。
ハルヒ「それなりに収穫もあったし、番長くんの話は楽しかったし。
  言うことがあるそすれば、結局1枚も捌けなかったことかしら」
ハルヒ「ちょっとはやる気を見せなさい、キョン」
キョン「俺のせいじゃないだろうよ、ほとんど生徒なんていなかっただろ」
189:
ハルヒ「今日はチラシ配りがメインじゃなかったからね。許してあげるわ。
  あとは言ったようにみんな校内のセキュリティの突破方法を考えておくこと!」
キョン「やっぱり諦めてなかったのか……」
ハルヒ「何で諦めなくちゃいけないのよ」
キョン「逆に何で諦めないんだ」
ハルヒ「そんなの、みんなでやった方が楽しいからに決まってるじゃない」
キョン「……まあ、言い分は分かるが――」
ハルヒ「とにかく。考えておくこと、いいわね」
キョン「……わかったよ、団長様」
ハルヒ「じゃあ、あたしはこれで帰るわ。やらなくちゃいけないこともあるしね。
  古泉くん、あとの鍵はお願いね」
古泉「確かに承りました」
ハルヒ「みくるちゃんはクラスでちゃんと番長くんをフォローしてあげること!
  番長くんも明日も来るのよ? 他の部に行くことなんて許さないんだからね!」
みくる「は、はぁい」
>ああ、わかった。
ハルヒ「有希も番長くんのフォローしてあげてちょうだい。
  SOS団では有希のほうが先輩なんだから」
長門「了解した」
ハルヒ「うん。それじゃね」
>風のように部室のドアからとびだし、見えなくなってしまった。
190:
キョン「やれやれ……」
古泉「番長氏はいかがでしたか? 初めてのSOS団は」
>なかなか尖った部活動だ。
キョン「残念ながら、部活じゃないんだ。学校非公認の同好会以下のシロモノだからな」
>そうだったのか。
キョン「一応文芸部員は長門がそうなんだが、ご厚意で間借りさせてもらってるわけだ」
>間借り……。
キョン「……すまん。少々いいように言い過ぎた。言い直そう、これは占領だな」
長門「わたしは構わない」 パタン
>有希は本を閉じて帰り支度を始めたようだ。
古泉「みなさん、少々お時間よろしいですか?」
キョン「なんだ、もう解散命令が出ているぞ」
古泉「番長氏が帰還できる可能性、と言いましょうか。
 あくまで僕の推論ですが、その可能性を見出すことができそうでしたのでお話しておこうかと」
>……! 本当だろうか。
192:
キョン「本当か」
古泉「ええ。先ほどの探索で涼宮さんがおっしゃったことを覚えてらっしゃいますか?」
>なにか、重要なことあっただろうか……。
キョン「アイツは別にいつもの調子だっただろう」
古泉「他の皆さんは覚えてらっしゃいませんか?」
みくる「え、えぇっと……」
長門「……」
キョン「そういうもったいぶった溜めはいらん」
古泉「わかりました。涼宮さんはこうおっしゃったんですよ。
 『機会があったら行ってみたいわ』と」
キョン「それがどうした。ハルヒにしては至極真っ当な感想だろう」
古泉「では、なぜ涼宮さんは具体的な場所をお聞きにならなかったのでしょう」
キョン「それは……何か意味があるのか?」
古泉「ええ。もちろん僕の推論なので外れている可能性も大いにありますが」
キョン「いいから話せ」
>推論で構わない、聞かせてほしい。
193:
古泉「では。以前もお話したと思いますが、
 涼宮さんは『こうあってほしい、でもそんなはずがない』という狭間で揺れています」
>ああ、そう言っていたことは覚えている。
キョン「それが関係あるのか?」
古泉「もちろん。ですからそれはここにいる僕たちにも当てはまります」
古泉「朝比奈さんが未来人だったら、長門さんが宇宙人だったら、僕が超能力者だったら。
 ですが、彼女は常識的な人です。そんなはずはないと思っている」
キョン「たしかにまあ……前にそんなことも言っていた気がするが」
古泉「そして、それはもちろん番長氏にも該当します。
 『もし異世界人だったら、でもそんなはずはない』と。該当しないのはあなたくらいですよ」
キョン「そんなことはいい。続けろ。
 どうしてそのことが場所を聞かないことにつながるんだ」
古泉「聞いてしまえば、番長氏が異世界人でないことが確定してしまうからですよ」
キョン「……? どういうことだ」
古泉「先ほども述べたとおり、彼女は常識的な方です。
 番長氏がここへ転入してくる前の地域を聞けば、この日本にあるどこかの地名が当然返ってくると思っているのです」
古泉「そして涼宮さんはおそらくこう思っているのでしょう。
 『異世界人ならば、見たことも聞いたことも無いような場所からきているに違いない』とね」
>なるほど……。
194:
キョン「それで? そのハルヒが番長を異世界人だと思いたいってことはわかった。
 だけどどうしてそれが、番長が帰還できる可能性とやらになるんだ」
古泉「簡単な話ですよ。涼宮さんには願望を実現させる能力があります。
 そして、涼宮さんがどうしても番長氏の以前いた地域に行ってみたいと願ったらどうなるでしょう」
>……! そういうことか!
古泉「番長氏は、察してくださったようですね。そうです。
 その願望により、この世界と番長氏の世界を繋ぐゲートのようなものができる可能性があります」
キョン「なるほどな……」
みくる「あたしも、いいアイディアだと思います」
キョン「だけど……ひとついいか」
古泉「なんでしょう」
キョン「もし。もしだぞ。あいつがこの街が丸ごと変わって、
 番長のいた町のようになってしまえばいい、と願う可能性があるんじゃないのか」
古泉「その可能性ももちろんないとは言えません。
 しかし現時点でかなりその可能性は低いと思われます」
キョン「どうしてだ」
古泉「それも簡単な話です。涼宮さんは『行ってみたい』とおっしゃってました。
 現状に完全な満足はしてないでしょうけど、絶望もしていない。
 むしろ楽しいと思っている割合の方が高いはずです」
古泉「もし、この世界に絶望しているのであれば『変わってしまえばいいのに』、そう言うはずですからね」
195:
キョン「さすがハルヒの精神鑑定師だな」
古泉「いえ、そんなことありません。あなたには負けますよ」
古泉「……それともう1つ、これは僕自身が話しがながら気づいたことなのですが、
 一応もう一つの帰還の可能性についてお話ししておきましょうか?」
>なんだろうか。
古泉「徹底的に涼宮さんに嫌われる、という方法です。
 それこそ、この世界からいなくなってしまえばいいと思われるほどにね」
古泉「ですがこれは、異世界に帰るのではなく完全に消滅してしまう可能性があります」
>それは困る。
古泉「ええ、もちろんです。ですから、嫌われないように努めてください、お願いします」
>ああ。
キョン「で、具体的にはどうするんだ」
古泉「申し訳ありませんがそこまで考えておりませんでした」
キョン「まあ、仕方がねぇか」
みくる「でも、これで一歩前身ですね、番長くん」
>ああ、ありがとう。
196:
みくる「とりあえず、涼宮さんと仲良くなるってことでいいのかな……?」
古泉「ええ、そうですね。
 まずは親密な関係を築くところから始めなければならないでしょう」
古泉「幸い番長氏はコミュニケーション能力に秀でているようですし。
 努力していただければ涼宮さんと仲良くなることも時間の問題かと思われます」
>努力しよう。
キョン「覚悟しておいた方がいいぞ。近づいた分だけ振り回される幅がどんどん広がっていくからな」
古泉「……と、現状涼宮さんと一番近しい方がおっしゃっていますので、
 心に留めておいて損はないと思いますよ」
キョン「うるさいぞ古泉」
>ああ、貴重なアドバイスをありがとう。
キョン「……ま、頑張れと言っておくさ」
みくる「じゃあ、今日はこれで終わりなのかな?」
長門「わたしも報告したいことがある」
古泉「長門さんもですか?」
>なんだろうか。
長門「あの異空間の調査報告」
197:
古泉「確かにそれは聞いておきたいですね」
キーンコーンカーンコーン……
――下校時刻になりました。校内に残っている生徒はやかに下校してください。繰り返します……
みくる「どうしましょう……?」
古泉「ふむ。後回しにするべき案件でもありませんしね」
>みんながよければだが、場所を変えて食事をしながらでも話さないだろうか。
みくる「たしかにお腹すきましたね……」
古泉「僕はそれで結構ですよ」
キョン「残念だが、俺は週末のSOS団の活動で、大概の出費をさせられてるんでな。
 あいにく外食をするような余裕は持ち合わせていない」
>それならば自分が作ろう。
キョン「番長が?」
古泉「彼の料理の腕は確かですよ。
 2度ほどご相伴にあずからせていただきましたがどちらも非常に美味でした」
キョン「……そうか。一緒のマンションに住んでるんだったな」
古泉「ええ」
みくる「ってことは、番長くんのお家に行くってことになるよね……?」
古泉「必然的にそうなりますね」
みくる「男の子のお家かぁ……」
長門「わたしは構わない」
200:
キョン「おい、番長……まさかわかって言ってるんじゃないだろうな」
>安心しろ。料理ならそこそこ自信がある。誰が来ても問題ない。
>少なくとも普通にまずかったり、不毛な味だったり、理不尽な激辛料理になることはないだろう。
キョン「いや、そうじゃなくてだな……」
古泉「ふふっ、こういうのを誤用なしの確信犯と言うんでしょう」
古泉「ですが確かに、番長氏の自室でしたら安心して話ができますね。
 ファミレスで異空間がどうとか異世界がどうだとか。
 そんなことを真面目に議論していたら傍目には完全に頭のおかしい集団でしょうし」
古泉「僕はそれでも構いませんけどね」
キョン「……席外すぞ。親に飯は今日いらないことを連絡しておく」
古泉「ええ、どうぞ」
>キョンは部室の外で電話をしているようだ。
>みくるは大丈夫か?
みくる「は、はい! ちょっと男の子の家に行くっていうのが緊張するだけだから……」
みくる「うん。古泉くんもおいしいっていってた、お料理楽しみにしておくね」
ガチャ
キョン「連絡しておいた。
 ……番長、退路を断ったんだ。これでマズイ飯が出てきたら恨むからな」
>ああ、任せろ!
204:
………
……

――自室。
>みんなと買い物に行き、自室へ戻ってきた。
>そちらの部屋でくつろいでいてくれ。
古泉「では、お言葉に甘えさせていただきます」
キョン「ほお、かなり整理整頓が行き届いてるが……生活感もほとんどないな」
>まだ4日目だから仕方がない。
キョン「ああ、それもそうか……ってなんだ、このテーブルゲームの説明書の山は」
古泉「ああ、それは僕がお貸ししたんですよ」
>それよりジロジロとみられると恥ずかしい。
キョン「やかましい。番長の私物なんてその制服くらいなのもだろう」
>言ってみたかっただけだ。
キョン「……勝手にくつろがせてもらうぞ」
>構わない。
長門「……」
>有希はキョンについていくように部屋へ入っていった。
みくる「お、おじゃましまぁす」
>みくるもそちらで休んでいて構わない。
205:
みくる「あ、ううん! お手伝いします」
>料理はできるのだろうか?
みくる「一応こちらの時代の調理器具の使い方の一式は学んできたんですよ。
 自炊なら経費の節約にもなると思って」
>……そこはかとなく不安だが、料理の手伝いをしてもらうことにした。
みくる「うん、お願いしますね」
>今日は、みんなで楽しめるようにいくつかの中華料理が作れるだけの具材を買ってきた。
>ホイコーロー、チンジャオロース、麻婆豆腐、餃子、中華スープの5品を作ることにした。
>……よく食べるやつがいる、と聞いて大量の材料を買ってきたが大丈夫だろうか。
みくる「何からはじめましょう?」
>とりあえず野菜の下ごしらえから始めよう。
みくる「はぁい。じゃあ、私がお野菜切りますね」
>……! 軽快なリズムで野菜を切っていく。包丁もかなり使いこなしている。
>みくるは想像以上に料理ができるようだ。
みくる「そ、そんなにじっと見られると、ちょ、ちょっとはずかしい、ですぅ……・」
>……すまない。自分も他のものの下ごしらえをしよう。
206:
>順調に調理は進んでいく。
キョン「……」
古泉「おや、どうなさいました? さきほどからキッチンを睨んでいますが」
キョン「……別になんでもないさ」
古泉「それにしてもお二人はいいコンビですね。
 よどみなく調理が進んでいく様子が僕にもわかりますよ」
キョン「古泉……その分かってて言うクセどうにかしたらどうだ」
古泉「ふふ、お気づきでしたか」
キョン「当たり前だ。分からん方がどうかしてる」
古泉「僕の言い方はともかくとして、事実調理に関しては
 あの2人は名コンビだと思いますよ」
古泉「なによりお2人とも、楽しそうですしね」
キョン「……ま、料理のできない凡夫は大人しく待たせてもらうさ。
 朝比奈さん手ずからの料理が食べられるんだからな」
古泉「手ずから作るのは番長氏ですけどね」
キョン「やかましい、夢くらいみさせろ」
古泉「ふふ、それは失礼いたしました」
207:
……

>特にトラブルが起こることもなく、調理ももう終盤だ。
みくる「ふうっ。あとは最初に作っておいた中華スープを温め直して、
 同時に餃子を蒸せば終わり、かな」
>手伝ってくれてありがとう。予定よりずいぶん早くできた。
みくる「う、ううん! 番長くんの手際がいいからこれだけ早くできたんです」
みくる「包丁使いも餃子のつつみ方も、とってもお上手でした」
みくる「今度、お料理教えてもらいたいな、ふふっ」
>みくるから仲間としての好意を厚く感じる。
>みくると少し仲良くなれたようだ。
みくる「あ、ホイコーローとチンジャオロースと麻婆豆腐は先に出しておくね」
>ああ、頼んだ。
みくる「でも、5人分とはいえスゴイ量になっちゃいましたね……」
>本当に食べきれるだろうか……。
>……そろそろ中華スープも温まる頃合いだ。みんなの分のご飯をよそっておこう。
208:
みくる「お待たせしましたぁ」
古泉「これはまた、インパクトのある量ですね……
 テーブルの上が埋まってしまいましたよ」
みくる「あ、あはは……さ、冷めないうちに頂きましょう?」
古泉「そうですね」
>一樹と2人で食事をとったときには広いと思ったテーブルも5人では手狭だ。
古泉「仕方ありません、5人で食事とることは想定してませんでしたから」
>配膳は済ませた。あとは食べるだけだ。
古泉「では、いただきましょう」
みくる「いただきまぁす」
>いただきます。
>みんな思い思いの品を小皿に取っていく。
キョン「番長の料理の腕か。どんなもんかね」 パクッ
キョン「……!!」
>口にあうだろうか。
みくる「どう……ですか?」
古泉「ええ、相変わらず素晴らしい腕前ですよ。
 とてもおいしいです。食が進むというものです」
みくる「ほっ、よかった」
>ひとまずマズイということはなさそうだ。
209:
>キョンはどうだろうか。
キョン「あー、そのなんだ。朝比奈さんが手伝っていたということもあるかもしれんが、
 俺のお袋より、その、味は上だ、と思う」
>そんな大層なものではない。母の味に勝るものはない。
キョン「う……そんな真面目に返すな」
みくる「ふふっ、キョンくん素直じゃないですね」
キョン「わかりました、わかりましたよ! うまいですよ、コイツは! 間違いなくうまい!」
>掻っ込むように食べている。
>口に合ったようなら安心した。
長門「……」
>有希は黙々と食べている。
>どうだろうか……?
みくる「長門さん……どうですか?」
長門「おいしい」
>それならよかった。
>有希はそれだけ言うとまた黙々と食べだした。……どことなくシュールな光景だ。
210:
みくる「じゃあ、あたしたちも頂きましょう?」
>ああ。
>しばらくの間5人でたのしく食卓を囲んだ。
長門「……」
>……? 有希が空の茶碗を見つめている。
>おかわりがほしいのだろうか?
長門「(コクッ)」
>小柄で細身に似合わずよく食べるようだ。
>おかわりをもってきた。
長門「感謝する」
>また黙々と食べだした。食べるペースは全く落ちていない。
みくる「お腹いっぱいです。おいしかったです、番長くん」
>みくるは小食のようだ。一番最後に食べ始めて最初に切り上げている。
古泉「僕もこれで十分堪能させていただきました。本当においしかったですよ」
キョン「俺ももう腹は満たされたな」
>自分もそろそろ満腹になってきた……しかしおかずも炊いた白米もまだ残っている。
キョン「あー安心しろ、長門が結構喰うからな」
>有希に目を移すと、また空の茶碗を見つめている。
長門「……」
>じっとこちらを見てくる。おかわりがほしいのだろうか……。
211:
長門「(コクッ)」
>おかわりの量は……?
長門「先ほどと同じで構わない」
>!! 有希がこの中で一番食べるということなのだろうか。
キョン「ああ、そうだな」
意外だ……。
……

>結局有希は残ったおかずをすべて食べきった。
>有希なら雨の日スペシャル肉丼も軽く完食できそうだ。
>楽しい食事の時間と共に有希のすごさの一端を垣間見た気がした……。
古泉「さて、みなさんのお腹も満たされたことですし、本題に進みましょう。
 長門さん、異空間の調査が終わったとのことですが」
長門「完了した」
古泉「説明していただいてよろしいですか?」
213:
長門「あの空間は、やはり涼宮ハルヒの深層心理を強く映し出している」
古泉「涼宮さんの、深層心理ですか……」
長門「閉鎖空間を一時の衝動による表層心理とするならば、
 あの空間の状態は深層心理と表現をすることが妥当」
キョン「じゃあ、あの空間はハルヒが作っているのか?」
長門「肯定でもあり、否定でもある」
>どういうことだ……?
長門「涼宮ハルヒがいなければ、あの空間が生まれなかったという点では肯定することができる。
 しかし閉鎖空間のように不確定に発生消滅を繰り返すものではなく、涼宮ハルヒが存在する限り発生し続ける空間であると推定される。
 この点を考慮すると、作っているという表現はふさわしくない」
長門「故に、その質問には肯定でもあり否定でもあると言わざるをえない」
古泉「ふむ……なるほど……
 他に何か、発見はあったのでしょうか」
長門「あの空間にあった窓、ドアは共にいかなる手段を用いても開錠は不可能だった。
 理由は不明。空間の限界値であるためか、他の何かに起因するのかは読み取ることができなかった」
古泉「ドアの鍵……ですか」
長門「なお、涼宮ハルヒの深層心理に影響を及ぼす可能性を完全に排除できないため破壊行為は行っていない。
 そのため、ドアおよび窓を破壊できるかどうかは不明」
古泉「他にはありますか?」
長門「調査で判明したことはそれだけ」
228:
キョン「ハルヒに関係があるってことは分かった。
 だけど番長の帰還に関する手がかりになりそうなことはないな……」
古泉「そういえば、シャドウに関しては何かわかったことはありますか?」
長門「シャドウの出現は認められないかったため調査はできていない。
 でも調査中、終始敵性の検知はできなかった」
古泉「そういえば、シャドウが集まってきていた時は長門さんは気絶しておられましたね」
長門「……不覚」
キョン「俺としては嬉しい面もあるんだがな。長門の新しい一面もみられて」
長門「忘れて」
キョン「わすれられねぇさ、それに――」
長門「忘れて」
>相変わらずの淡々とした口調だが、どこか鬼気迫るものがある……。
キョン「お、おう……あれは俺の心にとどめておくよ」
みくる「あの、いいですか? そのドアとか窓とかシャドウってなんなんですかぁ……?」
キョン「ああ、そうか。朝比奈さんは全く見ていなかったんですものね」
>みくるに一通りの説明をした。
229:
みくる「へぇ……」
キョン「……とまあ、散々な目にあってきたわけです」
みくる「それで、そこが涼宮さんの部屋だったってわけですかぁ」
キョン「ハルヒの部屋って、まあ、そうなるんですかね」
古泉「涼宮さんの部屋……そうか」
>一樹は1人で何やら考え事をしているようだ。
キョン「古泉、なにか言いたいことがあるなら言った方がいいぞ」
古泉「ええ、そうですね。せっかく皆さんもいらっしゃることですし。
 いえ、それほど重要なこととは思えないのですが、
 なぜ番長氏の能力で涼宮さんの深層心理空間につながったのか考えていたのです」
キョン「うん? それがどうしたんだ」
古泉「番長氏の世界のテレビの中というのは、複数の人々の内面を映しているわけです。
 言い換えてしまえば、その世界の内面と言ってもいい。複数の人々の抑圧がシャドウとなって現れるわけですから」
>確かにそう言えるかもしれない。
古泉「この世界の根幹を涼宮さんが形成している、と考えるのが妥当なのかとも思いましたが……」
キョン「またお得意のハルヒが神説か?」
古泉「いえ、そういうわけではないのですけれどね。ただ何故なのだろうという話ですよ」
230:
長門「涼宮ハルヒが情報フレアを引き起こしたを考慮すれば、妥当」
古泉「ああ、それはそうかもしれません」
長門「そう」
キョン「おい、2人で納得していないで説明してくれ」
古泉「単純な話です。涼宮さんはこの世界における誰よりも内在する情報量が大きいのです。
 ですから内面で形成される世界も大きくなり、どこからアクセスしても涼宮さんの世界へたどり着く可能性が高くなる。
 特に北高周辺ではね」
キョン「……なるほどな」
>自分の世界では、テレビの中に落ちないと空間は形成されないと伝えた。
古泉「涼宮さんなら何もせずとも形成していても不思議ではありませんよ。
 ただやはり、これも番長氏の帰還には関係することがないでしょうから、脇に置いておきましょう」
キョン「結局何もわからずじまいか」
>完全に行き詰ってしまったようだ……。
>あの空間から帰ることを少し期待していたのだが。
長門「涼宮ハルヒの深層心理空間からは異世界の入り口は発見できなかった」
>ダメだったようだ……。
キョン「テレビといえば、この部屋テレビないな」
古泉「ええ、急に用意した部屋ですので、そこまで間に合いませんでした」
231:
キョン「こんな部屋に1人って、寂しくないのか?」
>特に困ったことはないと伝えた。
キョン「番長も大概に変わりもんだな」
みくる「寂しいと言えば、その涼宮さんのお部屋? でいいのかな。寂しい印象ですね」
>寂しい?
みくる「何にもない広い部屋で、鍵も開かないようなところ。
 それに、外も真っ暗だったみたいだから……」
みくる「あたしならそんな部屋に住んでいたら寂しいなぁって」
>たしかに、目ぼしいものがほとんどなかった。せいぜい子供用のおもちゃがあるだけだった。
古泉「それはおそらく……涼宮さんが寂しいと思っているからでしょうね。
 朝比奈さんのその印象は当たっていると思いますよ」
キョン「あいつにそんな感情があるもんかね。
 いつも嵐みたいに他人様まで巻き込んで、果てはそれを何とも思っていないようなやつだぞ」
古泉「表面的な人格と深層心理は別ですよ。それはあなたも自分の影を見てわかっているでしょう?」
キョン「う……ぐ。それは、そうだが――」
古泉「涼宮さんはこう思っているのでしょう。
 『窓の外の世界にはきっと見たこともない世界が広がっている』」
古泉「そしてこうも思っているのではないでしょうか。
 『いつかきっと、あのドアを開けて私をどこかへ連れ出してくれる』と。
 
古泉「文字通り、待っているのですよ。キーパーソンをね」
キョン「……そんな受動的なやつだとは思わんがな」
>一樹が熱いまなざしでキョンを見つめている……。
234:
>よく見れば有希もみくるもキョンを見つめている。
キョン「俺のことは今はいい! 番長のこと考えましょうよ」
みくる「う、うん。そうですね」
古泉「と言っても、他に何かあるわけではないんですがね」
キョン「まあ、そうだが」
みくる「番長くんは、ここに来る前のことって覚えていないんですか?」
>ここに来る前のこと……?
古泉「そうですね、ここに飛ばされる直前のことでなにかありませんでしたか?」
>ここに来る前のこと……。
>なぜだろう。とても大事なことをしていた気がするが、全く思い出せない。
みくる「思い出せない……?」
キョン「記憶喪失ってことはないよな、あれだけ学校のことや町のことを話していたからな」
古泉「直前の記憶だけ抜けていると考えるのが妥当でしょうか」
>……やはり思い出せない。おじさんや菜々子、仲間たちや町のことなどは思い出せる。
>しかし、自分が何をしていたのか、全く思い出せない……。
235:
古泉「何か手がかりになればと思ったのですが、残念です」
キョン「ま、おいおい思い出していけばいいさ」
みくる「でも、記憶がないって辛いですね……」
キョン「そう、ですね」
>……妙な沈黙が漂っている。
>大丈夫だ。特に生活に支障はない。
みくる「そう、なんですか?」
古泉「……では、他に報告や疑問がないのでしたら解散にしましょうか」
キョン「そうだな」
長門「……」
みくる「は、はぁい」
>みな思い思い、帰宅の準備を始めた。
キョン「じゃあな、番長。確かにうまかったよ、ごっそさん」
古泉「番長氏、それではまた明日学校でお会いしましょう」
長門「また、呼んでほしい」
キョン「……長門がそんなこと言うなんて珍しいな」
長門「そう」
キョン「いや、なんでもねぇさ。よかったな番長、料理の腕は宇宙級らしいぞ」
>光栄だ。
みくる「番長くん、またね」
バタン――……
>みんな帰宅していった。先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かだ。
236:
>片づけをせねば。
ピーンポーン――
>誰だろう? インターホンで確認をすると……みくるだ。
>何か忘れ物をしたのだろうか……?
ガチャ
みくる「あ、あのぅ……」
>どうしたのだろう。
みくる「すっかりお片付けのことを忘れてて」
>わざわざ手伝うために戻ってきてくれたのだろうか。
みくる「えっと、食べてそのままっていうのは悪いから」
みくる「め、迷惑ですか……?」
>いや、ありがとう。
みくる「……! うん、早く終わらせよっか」
>みくると食事の後片付けをした。
みくる「あ、あのね。言いそびれてたけど、番長くんのご飯とってもおいしかったです」
みくる「長門さんじゃないですけど、またみんなでこうやって食事できればいいなぁって思います」
みくる「あ、もちろん次は涼宮さんもいっしょに」
>みくるから、仲間としての好意を強く感じる……。また少しみくると仲良くなれたようだ。
>みくるは片づけを終えて帰っていった。
239:
――翌日、マンション前。
古泉「おはようございます。土曜日の半日授業は高校生でも嬉しいものですね。
 高校生だからこそでしょうか」
>……一樹は男を待つ趣味でも持っているのだろうか。
古泉「そんなことはありません。
 ただ昨日僕の考えていた推論を話す機会がなかったものでもやもやとしていただけです」
>そういえば、初日の有希の影と戦った後の部室で推論があると言っていたな。
古泉「ええ。僕もあの空間は涼宮さんの心理と関係があるのではないかと思っていたのですが。
 完全に長門さんが解説してしまいましたからね」
古泉「せっかく考えていた推論を披露することなく終わってしまったので、
 不完全燃焼気味なのですよ」
>自分でいいなら聞こう。
古泉「ふふ、あなたならそう言ってくれると思っていましたよ。遅れるといけませんから歩きながら話しましょう。
 あの部屋にあったドアと窓、それにおもちゃを覚えておいでですか?」
>確か、窓とドアは一樹が解説していたな。
古泉「ええ、まずそれが関係があるのではと疑った一因です」
古泉「そして、おもちゃを具体的に覚えておいでですか?」
>……? いや、おもちゃがあったことしか覚えていない。
240:
古泉「具体的には人形と積みあがった積木です」
>それがどうかしたのか?
古泉「人形の数は5体でした。この数は涼宮さんを除く僕たちの現在の数と合致しています」
>……ハルヒは自分たちのことをおもちゃだと思っているのだろうか。
古泉「反対ですよ。僕たちのことを仲間と思っているのです。
 子供にとっておもちゃは、大切な友達に等しいですからね」
>それは……ハルヒが子供だということなのだろうか。
古泉「ええ。ですが、もちろんそれが涼宮さんのすべてではありません。
 何度も言っているように『こうあってほしい、でもそんなはずがない』と涼宮さんは思っているのです。
 こうあってほしい、と願う子供の部分、でもそんなわけはないと思う大人の部分」
古泉「それを両方持ち合わせているのです。
 ですがこれは、ほとんどの人が持っていると僕は考えますけどね」
>確かに、そういう部分は誰もが持っているかもしれないな。
古泉「そして積みあがった積木……彼女は危惧しているのですよ。
 この今がいとも容易く崩れてしまうのではないかとね」
>そんなわけがないだろう。自分が見ている限りでは仲の良いグループだ。
古泉「ええ、もちろん。現在の僕たちは容易く崩れたりしないでしょう。
 ですが、物理的に抵抗が不可能なこともあります。
 たとえば、朝比奈さんは確実に僕たちより先に北高を去りますからね」
>なるほど……。
243:
古泉「その危うい現状を、押せば崩れてしまう積み木なのではないかと、
 涼宮さんは考えているわけです」
古泉「……と、ここまで長々と説明しましたが、
 結局は長門さんの言う深層心理ということで決着がついてしまいました」
古泉「ですがこうして話すことができてよかったですよ、もう意味はありませんけどね。
 ただの雑談として流してくださって結構です」
>そんなことはない。さらに確信が強くなったじゃないか。
古泉「そう言ってもらえると僕の推論もうかばれるというものです」
>それなら聞いてよかった。
>一樹と他愛無い会話をしながら学校へ登校した。
――校門前。
古泉「さて、ではまた部室でお会いしましょう」
>ああ。
古泉「……これはあまり言わないでおこうと思ったのですが」
>なんだろうか。
古泉「いえ、大したことではありません。
 ただ、僕はあなたの来訪を嬉しく思っているということです」
>……。
244:
古泉「ふふ。そういう意味ではありません。
 ご安心ください、ちゃんと僕は異性に興味がありますよ」 
古泉「純粋に嬉しいのですよ。
 僕のSOS団の立場として解説をすることはあっても、
 僕のこのような他愛無い雑談を要している人は少ないのです」
>そうなのか?
古泉「ええ。涼宮さんには基本提案ですし、長門さんや朝比奈さんとは業務的なやり取りが多い」
古泉「唯一僕の話をそれなり聞いてくださる方は、彼なのですが――」
古泉「このような話をすると、あまり良い顔をなされませんので」
>確かに、少し硬い話かもしれないな。
古泉「ええ。それは僕も十分承知したうえで話していますし、
 よい顔をしないと言いましたが、それでも聞いてくださる彼にももちろん感謝しています。
 さえぎられることはありますけどね」
古泉「ですがあなたは、嫌な顔をせず、最後まで聞いてくださいましたから。
 つい、話しすぎてしまうのです」
>ただ、聞いているだけだ。
古泉「それが嬉しいのですよ。僕の心もそれだけで随分和らぎますから」
古泉「やはりあなたは、来るべくしてここに来たのかもしれませんね」
245:
古泉「それでは、失礼します」
>一樹は1年の校舎へ消えていった。
>自分も教室へ急ごう。
――2年某教室。
鶴屋「おーっはよっ! 番長くんっ! 昨日の団活はなにしてたのっかなっ!」
>鶴屋さんが話しかけてきた。
>昨日は詳しく学校案内をしてもらったと伝えた。
鶴屋「なるほどなるほどっ。あれじゃ学校案内は全然足りてなかったもんね」
>そんなことはない。とても助かった。
鶴屋「やー、番長くんのお役にたったならよかったよっ!」
みくる「あ、鶴屋さん、番長くんおはようございます」
>おはよう。
鶴屋「やーやーみくるー、ちゃんと番長くんの案内できたかなっ?」
みくる「あ、うん。みんなも一緒だったし、ちゃんとできたと思うけど……
 で、できましたよね?」
>ああ、大体の場所を覚えることができた。
みくる「ほっ、よかったぁ」
鶴屋「ねね、何かおもしろ事件とか起こらなかったのっ!」
みくる「う、うーん。事件は特になかったと思う」
鶴屋「ほー、そうなんだっ。ハルにゃんがいるから
 てっきりおもしろ事件のひとつやふたつ起こったかと思ったんだけどさっ」
みくる「ふふ、基本は学校案内しながら、番長くんの話を聞いてただけだったから」
鶴屋「お、なになに! 番長くん面白い話のネタを持ってるんだっ!
 ぜひ聞きたいねっ!」
……

>鶴屋さんに、せがまれて自分の住んでいた町と学校のことを話しながら過ごした。
246:
――放課後、文芸部部室。
長門「……」
>有希がいる。相変わらず黙々と本を読んでいるようだ。
>……みくるは日直の仕事があるので、部室には2人きりだ。
長門「……」パタン
>有希が突然本を閉じてこちらを見つめいている。
>何かあっただろうか。
長門「以前の涼宮ハルヒの深層心理空間での件について、感謝する」
>……? 今更どうしたのだろう?
長門「感謝の意を伝えていなかった」
>シャドウの対応は慣れているから問題ないと伝えた。
>それに影の暴走は有希のせいじゃない。
長門「エラーの集積に起因するとはいえ、わたしが起こしたことに変わりはない。
 迷惑を掛けたことを謝罪する」
>迷惑じゃない。それに困ったときはお互い様だ。
長門「そう」
>キョンも言っていたが、人間味にあふれた有希もいいと思うと伝えた。
長門「そう」
>ああ。
長門「でも、忘れて」
>……やはり、何かを有希は気にしているようだ。
248:
>何か気になることでもあったのだろうか。
長門「平時ではありえない言動、
 さらにわたしの、長門有希という端末におけるいくつかの個別秘匿データの漏洩」
長門「あれは、統合情報思念体も知らなかったこと」
>それがどうかしたのか……?
長門「……あなた達の言葉でいうなら『恥ずかしい』、が該当する」
長門「だから、忘れてほしい」
>……! 思わず顔が綻んでしまった。
長門「何かおかしなこと、あった?」
>いや、おかしなことは何もないと伝えた。
長門「そう」
>ただ、ひとつ訂正したいことがある。
長門「なに」
>有希は既に十分人間味にあふれていると思う。
長門「…………そう」
249:
有希「それと、昨晩の食事についても改めて感謝する」
>いい食べっぷりだった。みていて気持ちがよい。
有希「そう」
>また食事会をしよう。
有希「待ってる」
>有希との間に絆の芽生えを感じる……。
>有希と少し仲良くなれたようだ。
長門「……」
>有希は読書に戻ってしまったようだ。
ガチャッ
みくる「こんにちはぁ……あれ? まだ番長くんと長門さんだけですか?」
>ああ。
みくる「よかったです、あ、今着替えてお茶を用意しますね」
>また警戒心なく脱ごうとしている……また部室から出ていた方がよさそうだ。
>部室から出て着替えが終わるのを待つことにした。
251:
――文芸部部室前。
古泉「朝比奈さんが着替えていらっしゃるのでしょうか?」
>その通りだと伝えた。
古泉「では僕もここで待っていた方が良さそうですね」
キョン「よ。とうとうSOS団男子のたまり場は部室外になったか」
>キョンも合流してきた。
古泉「朝比奈さんが中で着替えてらっしゃるそうですよ」
キョン「ああ、なるほどな」
古泉「涼宮さんはどうなさったのです?」
キョン「俺に先に行ってるように言ってどこかに消えちまった」
>何をしにいったのだろう。
キョン「さあな、俺はハルヒの保護者じゃないし、俺が与り知るところでもないからな。
 それにハルヒのやることなんざ予想したところでその斜め上を行きやがる。予想しても無駄ってもんだ」
>そうなのか。
キョン「あいつの奇行は全校生徒の知るところだ。それこそ1年から3年まで全部ひっくるめてな。
 知らないのは、転校してきた番長くらいだぜ。ハルヒの奇行は北高の常識と言ってもいいくらいだからな」
266:
>奇行ときたか。
キョン「ああ、奇行だ奇行。異口同音で誰に聞いても答えてくれるだろうよ。
 その奇行に振り回されるのがこのSOS団なんでね。心身ともに絶賛摩耗中だ」
古泉「彼は少々心にもないことを言うクセがありましてね」
>ああ、わかってる。
キョン「お前らな……」
みくる『お待たせしましたぁ』
>どうやら着替えが終わったようだ。
ガチャ
みくる「あ、キョンくん古泉くんもきてたんですね、こんにちはぁ。
 今お茶入れますね」
キョン「こんにちは、朝比奈さん。毎度すみません」
古泉「ありがとうございます」
みくる「キョンくん、涼宮さんは……?」
キョン「ああ、あいつですか。何か企んでるみたいだったので……
 朝比奈さんも覚悟しておいた方がいいかもしれませんね」
みくる「ひ、ひぇっ」
267:
>何故みくるが怯えるのだろう……。
キョン「往々にして朝比奈さんは被害の爆心地にいることが多いんでね。
 バニーガール然り映画の主演しかりな」
>バニーガールはチラシで見たものだろうか。
キョン「ああ、それだ」
>それと……映画?
キョン「ああ、ついこの間の文化祭でお披露目したんだよ。
 かろうじて映像作品の体裁を整えただけのろくでもない映画だ」
>すこし、見てみたい。
キョン「やめておけ。多大なる時間の無駄だし、なにより……」
みくる「あうう……」
>顔面から火が出そうなほど顔が赤くなっている。
キョン「まあ、そういうことだ。
 古泉の歯の浮くほど、きざったらしいセリフを聞きたいなら
 これ以上ないくらいのお勧め作品だけどな」
古泉「ふふ、一応僕もあれで恥ずかしかったのですよ」
キョン「どうだか」
268:
バンッ――!
>ドアが勢いよく開かれた。
ハルヒ「おっ待たせみんなー!」
ハルヒ「うんうん、団長よりみんなちゃんと早く集合しているわね」
>ハルヒは満足そうだ。
キョン「で、今日は何をするって?」
ハルヒ「待ちなさい。物事には順番があるのよ」
キョン「散々、急かしていた奴がよく言う……」
>ハルヒはホワイトボードを引っ張り出してきた。
ハルヒ「さ、今日やることを説明するわよ。ミーティングね」
キョン「ミーティングって……このチラシの山はどうするんだ」
ハルヒ「それ? あとで考えれば事が済むでしょ」
>ハルヒはどうやら結果よりプロセスを大事にするタイプのようだ。
キョン「冷静に分析しなくていい」
ハルヒ「いい、今からは私語厳禁だから」
ハルヒ「今日の議題は明日の不思議探索についてよ」
キョン「なんだ、そんなことか。いつものように駅前に集まってくじ引きだろ?
 そんで解散、また戻ってくると……」
ハルヒ「それよ、その無計画さが今までいけなかったの!」
キョン「何をいまさら……」
ハルヒ「でも今日からは違うわ。事前調査よ事前調査。
  今から不思議スポットがありそうなところを調査しておくの」
ハルヒ「行き当たりばったりじゃ見つかるものも見つからないわ。
  みくるちゃん、書記っ」
みくる「はぁい」
>みくるのまるい文字で事前調査とホワイトボードに書かれた。
269:
>まずそもそも不思議探索とはなんなのだろうか……。
ハルヒ「そうね、番長くんにもわかってもらうためのミーティングだから安心して」
ハルヒ「不思議探索は読んで字の如く、不思議を探索するの」
>またみくるのまるい文字で不思議探索と書かれた。
ハルヒ「ただその規模は、学校内なんてチンケなものじゃないわ!
  対象は街全部よ!」
>みくるは街全部と、発言を細かに書き取っている。
ハルヒ「いつもは昼前に駅前に集まって、
 軽くミーティングして班分けして探しに行くんだけどね」
キョン「喫茶店でだべっての間違いだろう……」
ハルヒ「キョン、うっさい! 罰として明日の支払いはあんただからね」
キョン「いっ!」
>キョンの財布が軽くなることが現時点で確定したようだ。
ハルヒ「ま、どうせいつものことだから構わないでしょ」
キョン「そのいつもだから困ってるんだ……」
古泉「口は災いの元、とはよく言ったものですね」
キョン「うるさいぞ古泉」
270:
キョン「当てを付けるにしてもどうするんだ」
ハルヒ「そこで、これの出番よ!」
>どうやら近隣の地図のようだ。
キョン「……どうしたんだそれ」
ハルヒ「社会科準備室の地学の棚から借りてきたの」
キョン「教室を飛び出していった理由はそれか」
ハルヒ「職員室から鍵借りるのも一苦労よ、頭堅いんだから」
キョン「また、無理やり持ってきたんじゃないんだろうな」
ハルヒ「しないわよそんなこと」
キョン「そりゃよかったよ、またなにか――」
ハルヒ「はい、これ。この地図のコピーね。古泉くん配って」
古泉「はい」
キョン「おい、これって」
ハルヒ「生徒会室にあったものまた使わせてもらったわ」
キョン「……やれやれ、生徒会室のセキュリティはどうなってるのかね」
古泉「進言しておきましょうか?」
キョン「いや、しなくていい。これでハルヒの機嫌が悪くなったら敵わんからな。
 悪いが生徒会にはこのまま被害を被ってもらうことにしておくよ」
古泉「そうですか」
>あの2人は顔を近づけて話す趣味でもあるのだろうか……。
272:
ハルヒ「ま、つまりこの間の学校探訪の拡大版だと思ってちょうだい」
>ああ。
ハルヒ「それに今回は番長くんもいるんだから3班に分けられるわ」
>番長くんがいるから3班に分ける、と書かなくてもいいことまで書き取っている。
ハルヒ「班分けは当日にしましょ、ランダム要素も残しておかないとつまらないしね」
ハルヒ「今日やるべきことは、この地図上から不思議の匂いをかぎ取ることよ!」
キョン「そんなもの誰ができるんだ……」
ハルヒ「番長くんの町には、あんなに不思議なことが多いのよ!
 この街にも一個くらい何かあるに決まっているわ。
 いい、明日は最低限人語を理解できる猫くらい連れてきなさいよね」
キョン「……」
古泉「人語を理解できる猫ですか」
みくる「人語を理解できる、猫……と」
長門「……」
>なんだろう、この妙な雰囲気は……。
274:
ハルヒ「ま、とにかくはじめてちょうだい。
 番長くんには、そうね、みくるちゃん、この街のこと説明してあげて」
みくる「はぁい」
キョン「……何で朝比奈さんなんだ。お前が説明してやればいいだろうに」
ハルヒ「同じ2年生だから話しやすいでしょ」
キョン「……そうかい」
ハルヒ「いい、ちゃんとやるのよ! はじめ!」
>そう言うと、パソコンの置いてある席に座り、地図に書き込み始めた。
>各々地図を見始めたようだ。
みくる「じゃあ、お願いしますね」
>みくるが横に座ってきた。
キョン「……近くないですか?」
みくる「え、こうしないと2人で地図は見づらいかなって」
ハルヒ「キョン! 番長くんはいいの! あんたも自分のことやる!」
キョン「わかった、わかりましたよっと」
>……キョンはどうやら少なからずみくるに好意をもっているようだ。
275:
みくる「ここが図書館で、ここが公園で――」
>みくるは一つ一つ丁寧に解説をしてくれた。
みくる「とりあえず一通りはこんなところかな」
>ありがとう。
みくる「……あのね」
>急に声を落として、自分以外に聞こえないような声で話し始めた。
みくる「涼宮さんがこれをやろうって言い出したのは、
 きっと番長くんに街の案内してあげたいからだと思うの」
みくる「こうやって地図を渡したのも、番長くんを効率よく案内して
 面白いところ連れて行ってあげようってことなんじゃないかな」
>そうなのか?
みくる「うん。基本的に涼宮さんは面倒見のいい人だから」
>ハルヒに目を移すと、口と鼻の間にペンを挟んで難しい顔をしていた。
みくる「きっと涼宮さんは、そう言っても違うっていうと思いますけどね、ふふっ」
>みくるも、よくハルヒを観察しているようだった。
みくる「明日、同じ班になったらよろしくね。
 あたしも面白そうなところ探しておきますから」
>そう言ってウィンクをされた。
>……キョンが好意を寄せるのもわかる気がする。
278:
ハルヒ「みんなどう? 終わったかしら?」
キョン「終わったも何も、不思議スポットなんて皆目見当つかないな」
ハルヒ「でしょうね、最初からキョンには期待してないわ」
キョン「なら、やらせるな」
古泉「僕は、そうですね。街の大通りが怪しいかと思います。
 番長氏の町でも商店街に不思議が多くあったようですしね。
 見落としている可能性は大いにあると思います」
ハルヒ「さすが古泉くん。確かに1回や2回で全部を調査するのはムリだからね」
ハルヒ「有希は何かある?」
長門「図書館」
キョン「……」
ハルヒ「なるほどね。
 番長くんなら発禁になって封印された魔術本でも見つけてくれるかもしれないわ」
キョン「どこのファンタジー世界だそりゃ……」
ハルヒ「みくるちゃんは?」
みくる「あ、あたしは、そうですね……古泉くんと同じようにお店も多いし大通りと……
 あとは、空気がきれいな公園とか、案内してあげたいですね」
ハルヒ「みくるちゃん、これは遊びじゃないのよ?」
みくる「あっ、あ、そうでした。ごめんなさい……」
>……やはり、みくるは少し天然系のようだ。
ハルヒ「ま、いいわ。何も考えてないキョンよりよっぽどましだから」
キョン「……悪かったな」
279:
ハルヒ「番長くんは……まあ、いいわ。
 地図の上からじゃ流石に不思議の匂いなんて嗅ぎ取れないだろうからね。
 明日の実際の探索に期待するわ」
>できる限りのことはしよう。
ハルヒ「ん! その心意気やよし!」
キョン「そういうお前はどこなんだ」
ハルヒ「極秘事項に決まってるじゃない。明日あたしと同じ班になった人だけに教えるわ」
キョン「……あーそうかい」
ハルヒ「ん、じゃあ、今日のミーティングは終わりね。明日ちゃんと地図を持ってくること」
ハルヒ「集合は10時に駅前。午前の部と午後の部で2回探索するからね」
ハルヒ「遅刻は厳禁! 遅刻したら罰金! 誰が遅刻しても遅刻分の罰金はキョンにツケるから!」
キョン「みんな頼むから明日だけは遅刻しないでくれ」
>かなり切実なようだ……遅刻だけはしないようにしよう。
ハルヒ「じゃ、今日は終わりね」
>その言葉を合図に皆一様に帰宅の準備を始めた。
280:
ハルヒ「キョンはちょっと今からあたしと来なさい!」
キョン「どこへだ」
ハルヒ「明日の下見に決まってるじゃない。
 アンタだけ今日何もしてないんだから、これくらい付き合いなさいよ。団長命令だからね」
キョン「極秘事項はどこへ行ったんだ」
古泉「いいではないですか。涼宮さんの極秘事項を先だって教えてもらえるのですから。
 羨ましい限りです」
キョン「……ふん」
ハルヒ「ほら、行くわよ。みんなまたね」
>ハルヒは部室から出ていってしまった。
キョン「やれやれ、じゃあ行ってくるよ。先に帰っててくれ」
古泉「ええ、そうさせていただきます。頑張ってください」
>キョンもそれに続くように出ていってしまった。
古泉「……さて、僕もお先に帰らせていただきますよ。
 どうやら閉鎖空間が生まれているようなので」
>……なにか、不機嫌になるようなことがあっただろうか。
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