松永涼「ようじょたくみん」back

松永涼「ようじょたくみん」


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2:
――――――――――――一時間前、事務所
拓海「これか……Pの野郎が言ってた荷物は?」
向井拓海(18)
涼「そうだね。さすがに一人じゃ無理だからな。二人でさっさと運んで終わらせようぜ」
松永涼(18)
拓海「よっと……意外に重いな。おい、涼! しっかり気合入れて持てよ!」
涼「わかってるって。うっさいなあ」
拓海「重てえなあ……何が入ってんだ?」
涼「前のイベントで使った小道具やら衣装とかだな」
拓海「これ、どこに運べばいいんだ?」
涼「アンタ、何も聞いてねえな……地下の倉庫だよ」
拓海「へえ、この事務所、地下に倉庫なんかあんのか」
涼「おしゃべりはいいから、しっかり持てって! 早く終わらせたいんだからさ」
拓海「何焦ってんだよ?」
涼「この後、亜里沙さんの手伝いしなきゃなんないんだよ」
拓海「また、チビどもの面倒見かよ。お前子供の扱い慣れてるよな」
涼「そうでもないよ。結構大変なんだぞ」
拓海「経験者みたいな口ぶりだな。お前……まさか、もう産んでんじゃねえの?」
涼「そんなワケあるかッ!!」
拓海「冗談だよ、マジになんなって」
3:
――――――――――――地下倉庫
涼「このへんでいいかな?……ゆっくり下ろせよ」
拓海「わーってるよっと……ふぅ」
涼「よし、戻るか」
拓海「なあ?」
涼「なに?」
拓海「この扉は何だ?」
涼「ああ、それはラボへの入り口だ」
拓海「ラボ?」
涼「晶葉が使ってる研究所みたいなもんだ」
拓海「研究所ねえ……つーことは今、ここに晶葉がいんのか?」
涼「あー、多分いるだろう。昨日、なんかやってしまわなきゃいけない発明があるとかで」
拓海「お勉強できる奴の考えることはわかんねえな……なあ」
涼「なんだよ? 早く戻ろうぜ、まだ荷物あんだし」
拓海「ちょっと、覗いてみねえか?」
涼「はあ? やめときなよ。勝手に入るとさすがのアイツも怒るぞ」
拓海「いいじゃねえか。それにアイツだけ手伝わねえのもおかしいだろ?」
涼「そう言ってサボりたいだけだろ?」
拓海「カタイこと言うなって。見学だよ、見学」
涼「ったく……」
4:
――――――――――――研究室
こんこん
涼「おーい。晶葉ー? いないのかー?」
拓海「邪魔するぜ」
涼「あ、おい! 無断で入るなよ」
拓海「気にすんなって。ここも事務所の一部みたいなもんだろ?」
涼「あとで文句言われても知らねーからな」
拓海「おわー……なんだか訳の分かんねー機械ばっかだな」
涼「勝手に触んないほうがいいよ。あの子、そういうのは厳しいからね」
拓海「わーってるって」
涼「でも、晶葉どこだろ? 奥で寝てるのかな? アタシちょっと見てくるわ」
拓海「おう」
ことっ
拓海「ん? 何だこりゃ? 飴玉??」
5:
涼「ダメだねー、いないみたいだね」
拓海「そっか」モゴモゴ
涼「ん? アンタ、何食ってんの?」
拓海「ああ、飴玉。そこにあったんでな」
涼「勝手に食うなよ。晶葉にキレられても知らねえぞ」
拓海「ははは、そんな飴玉一つで大げさな」
がしゃん
涼「ん?」
6:
晶葉「…………」フルフル
池袋晶葉(14)
拓海「いよっ! 晶葉、邪魔してるぜ」
晶葉「拓海……君は……一体何を……食べて……」
涼「あ、晶葉……こ、これはな……」
晶葉「拓海! 今すぐ吐き出せっ!!」
拓海「あ?」
晶葉「ちっ! 涼、首の後を叩くんだ!」
涼「へ? あ、ああ」
ずびしっ
拓海「おうっ!!」
ぽろっ
涼「飴玉吐き出したぞ」
7:
晶葉「間に合ってくれたか……拓海はこの飴をどれぐらい舐めていた?」
涼「うーん……2,3分位だと思うけど」
晶葉「そうか……だとしたら、5000日弱といったところか?」
涼「?? どういう意味だ?」
晶葉「……拓海を見てみるといい」
涼「?……あれ? 拓海どこ行った?」
晶葉「……君の足元だ」
涼「えっ?」
拓海「……」
涼「拓海が……小さくなってる!!」
8:
涼「お、おいっ! 大丈夫か?」
拓海「……」
晶葉「大丈夫だ。気を失っているだけだろう」
涼「そ、そうか……」
晶葉「それよりも服が合わなくなっている。悪いが倉庫から服を取ってきてくれないか? 千佳の使っていない私服があったはずだ」
涼「わかった……晶葉は?」
晶葉「私は今のうちに拓海の脳波を調べてみる。万が一がないとも言えん」
9:
涼「取ってきたぞ。これでいいかな?」
晶葉「ありがとう。サイズ的にはおそらく問題無いだろう。着せてやってくれ」
涼「それで……拓海は大丈夫なのか?」
晶葉「もちろん。命には別状はない……ただ」
涼「ただ……なんだよ? 脳波に異常があったのか?」
晶葉「いや、異常はない。むしろ、”異常がなかったこと”が異常といえる」
涼「どういう意味だよ、それ?」
拓海「ててて……あたまいてー」
涼「拓海。気がついたか!」
10:
拓海「りょうか……どうなってんだ? これ」
晶葉「見ての通り、姿形以外は向井拓海のままだ」
涼「それがヤバいんだけどな」
晶葉「ただ、脳の働きを調べた結果、記憶の働きをする海馬や大脳新皮質はそのままであるが、感情を司る前頭前野と扁桃体は5?6歳前後のそれと同じであることがわかった」
涼「??? さっぱりわかんねえよ?」
晶葉「簡潔に言うなら現在の18歳までの記憶を有した、小学校入学前の感性の向井拓海に戻ったのだ」
涼「……いまいちピンとこねえな」
11:
晶葉「つまり……」
拓海「りょう」グイグイ
涼「なんだよ? 今、大事な話してんだよ」
拓海「といれいきたい」
涼「ああ、さっさと行ってきな」
拓海「ついてきて」
涼「は? 何バカなこと言ってんだよ。ガキじゃあるまい…………まさか!!」
晶葉「そういうことだ」
涼「マジかよ……」
12:
拓海「といれー」
涼「はいはい。わかったっつうの」
晶葉「とりあえず、あとでまた寄ってくれ。元に戻す方法について調べておこう」
涼「頼んだぞ」
晶葉「あと、このことは他者には内密に頼む。余計な混乱を招きたくはない」
涼「どうせ、言ったって誰も信じてくんないよ」
晶葉「それもそうか」
13:
――――――――――――廊下(地下)
涼(それにしても面倒なことになっちまったな)
涼(幸か不幸か今はPがいないんだけど)
拓海「りょーうー……」
涼(どうすんだよ?……これから)
拓海「りょうー」
涼「なんだよ? 今考え事してるんだよ」
拓海「はやいー。もっとゆっくりあるけー」
涼「は?」
涼(あ、そっか。こいつちびっ子の体だったな)
涼「わかったわかった。横に並んでやるから」
14:
涼「そこ、階段だぞ。気をつけろよ」
拓海「わかってる……よいしょ」
涼(普段なら二段飛ばしでスイスイ登っていくのに、今じゃ手すりを掴んで両足で一段づつか)
涼「ほら、手を貸してやる」
拓海「おう」
涼「せえの……ほら」
拓海「おおお、らくちんだぞ!」
涼(やれやれ……気楽なもんだな)
15:
――――――――――――廊下
涼「ちゃんと手、洗ったか?」
拓海「あらった!」
涼「それならよかった」
涼(さて、このあとどうすっかな……)
亜里沙「あら、涼ちゃん」
持田亜里沙(21)
涼「亜里沙せんせい」
亜里沙「ちょうどよかった。探してたのよ」
涼「あっ! やべえ、ごめん! 忘れてたよ」
亜里沙「いいのよ……あら? その子は?」
涼(うげ! こいつがいるの忘れてた!)
亜里沙「こんにちわ?。どうしたのかな??」
拓海「ありさせんせい!」
涼「バカ! 余計なこと言うな!」
亜里沙「あら? 私の名前知ってるの?」
涼「え、えと、ほら! 亜里沙さん、よく子供番組出てるからさ!」
16:
亜里沙「あら、うれしい。見ててくれてたのね。お名前はなんていうのかな?」
拓海「たk」ムゴッ
涼(本名ばらしてどうすんだよ! 静かにしてろ!)
亜里沙「どうしたの? お名前は?」
涼「え、えと!! た、た、たく……」
亜里沙「たくちゃんって言うの? かわいいお名前ね」
涼「そ、そうそう! 『たく』ね。あははは」
亜里沙「涼ちゃんの親戚の子なの?」
涼「え? あ、うん! そうそう! ちょ、ちょっと頼まれちゃってさ! あはは」
亜里沙「たくちゃん、今時間あるかしら?」
涼「え? う、うん」
17:
亜里沙「じゃあ、ちょうどよかった。ありさせんせいとおうたの練習しましょう?」
拓海「おうた……」
涼(あー、こいつボイストレーニング苦手だもんな)
亜里沙「ウサコちゃんもいっしょだよー」
ウサコ『よろしくウサー』
拓海「うさぎ!」
亜里沙「一緒にやる?」
拓海「やる!」
涼(うさぎはいいのかよ……って、感性は子供だったな)
18:
――――――――――――レッスン室
涼(とりあえず、今は亜里沙せんせいに任せるか)
亜里沙「はーい。それじゃあ、せんせいがオルガンを弾きまーす」
亜里沙「おうた歌うのでついてきてくださいねー」
拓海「せんせー」
亜里沙「はい、なにかなー?」
拓海「あたし、うたにがて」
亜里沙「あらら、そうなの?……じゃあ、これを使ってね」
拓海「これ、かすたねっと?」
亜里沙「せんせいのお歌に合わせて叩いてみて?」
拓海「わかった」
19:
亜里沙「じゃあ、いきまーす」
♪ブンガ ブンガ
亜里沙「きーらーきーらー♪」
拓海「……」ぺち
亜里沙「ひーかーるー♪」
拓海「……」ぺち
亜里沙「おーそーらーのー♪」
拓海「…!」ぺち
亜里沙「ほーしーよー♪」
拓海「!!」ぺち
21:
拓海「おお……りょう! りょう!」
涼「なんだよ?」
拓海「これたのしい!」
涼「そうか。よかったな」
亜里沙「ふふふ」
涼(…そうだ。晶葉のところに行かなきゃならねーんだった)
22:
涼「亜里沙せんせい、悪いんだけどアタシ用があるんだ。ちょっとの間だけ、たくm……たくを見ててくれない?」
亜里沙「いいわよ?。たくちゃん、おりこうだもんねー」
涼「大人しくしてるんだぞ」
拓海「おー、いってこい」
涼(あいつ、こっち向かずにカスタネット叩いてやがる)
23:
――――――――――――研究室
涼「どうだ? 何かわかった?」
晶葉「おお、ちょうどよかった。今、検証結果をまとめたところだ」
涼「それで? どうなんだ?」
晶葉「まあ、そう急かすな。まずは、この薬はあくまで試薬だ。効果が永続するものではない。体内の細胞活動を一時的に……」
涼「待った。小難しいことはわかんねーけど、要はしばらくしたら元に戻るってことだな」
晶葉「いかにも」
涼「それはどれぐらいかかるんだ?」
晶葉「拓海が舐めていた時間や、脳波の示す数値からおそらく7?8時間ほどだろう」
涼「つまり、明日の朝には戻ってるってことか」
晶葉「そういうことになる」
24:
涼「それを聞いて安心したよ。でも、なんだってこんな物騒なもの作ったんだよ?」
晶葉「科学者として生命の神秘に挑む事は永遠のテーマだ」
涼「そんなもんなのか」
晶葉「今回、私が挑んだのはある謎を解明したいからだ」
涼「謎?」
晶葉「今回の結果で、幸か不幸か確実に若返ることが実証された。もし、これを君が舐めていたらどうなった?」
涼「そりゃ、アタシが5,6才になってただろうな」
晶葉「そうだ。では、菜々が拓海と同じ分量を舐めたらどうなる?」
涼「そりゃあ……4,5才くらいに……」
晶葉「果たして、本当にそう言い切れるか?」
涼「……」
晶葉「私は思うのだ。もし、これで菜々の姿がいつもと変わらければ……」
涼「おいやめろ」
晶葉「ウサミン星人は実在する重要な証となる!」
涼「」
25:
晶葉「おそらくウサミン星人は姿形こそ、我々と似通っているが内部の組織構造は異なるはず」
晶葉「我らの常識が通用しなければ、それは異星人と言っても過言ではなかろう」
涼「……」
涼(死ぬほどくだらねえ……拓海もとことんツイてねえな)
26:
――――――――――――レッスン室
涼「おーっす。たくm……じゃねえや。たくー、戻ったぞ」
亜里沙「しーっ」
涼「ん?」
亜里沙「ほら、あそこ」
拓海「……すーっ……すーっ……」
涼「眠ってやがるのか。気楽なもんだな」
亜里沙「ウサコちゃんと寝てるのよ。カワイイわね」
涼「やれやれ……」
27:
――――――――――――30分後
拓海「……ん……うーん」
涼「よう。目ェ、覚めたか?」
拓海「おう……ふわぁ……」
涼「とりあえず、ここにアンタの荷物まとめといた」
拓海「うん」
涼「今は、この場を離れよう。時間も時間だし、ここに残ってると下手なボロがでそうだ」
拓海「だなー」
28:
――――――――――――駐輪場
涼「これからどうすんだ?」
拓海「かえる」
涼「どうやって?」
拓海「このばいくでにきまってんだろー」
涼「誰が?」
拓海「うるせー!……よいしょ……あれ?」
涼「……」
拓海「りょう! あたしをばいくにのせてくれー」
涼「無理に決まってんだろ。足も届いてないのに」
拓海「むー」
涼「それに途中で捕まるだろ」
拓海「めんきょしょうはもってる」
涼「それで警察がOKするわけねえだろ」
拓海「うー」
29:
???「よう、涼じゃん? 何やってんだ?」
涼「げっ! 夏樹!」
夏樹「何驚いてんだよ? あれ? その子は?」
木村夏樹(18)
涼「こ、これは……」
拓海「なつき!」
夏樹「お、ちびっ子? あたしの名前知ってんのか?」
拓海「だってあたしh…」ムゴ
涼(何度言ったらわかるんだよ! バラしてどうすんだ!?)
拓海「……」コクコク
夏樹「ん? どうした?」
涼「いや……こいつさ、親戚の子なんだけどちょっと預かっててさ……あはは」
夏樹「でも、あたしのこと知ってるみたいだぞ?」
涼「ほ、ほら! 前に一緒にイベントやった時、見てたんだよ!! あたしを見るついでにさ」
夏樹「へー、なんか嬉しいな。あんがとな」
拓海「おう!」
夏樹「でも、そのバイクからは降りたほうがいいぞ。すんげえ、怖い奴のだから」
拓海「だいじょうぶ! あたしのだから!」
夏樹「あはは。怖いもの知らずだな。大きくなったら乗ってみるといいさ」
30:
夏樹「あ、そうだ! 涼」
涼「な、なんだ?」
夏樹「今度のライブの打ち合わせ、明日やるからな」
涼「あ、そのことか。OK。わかった」
夏樹「あと、拓海にもそのこと伝えたいんだけどいねえんだよ」
涼「そ、そうなのか……もう帰ったんじゃね?」
夏樹「バイク置いてか?」
涼「うっ」
夏樹「とりあえず、今、携帯に連絡してみるか……」
涼(ヤバい! あいつの携帯は今、ここにあるんだった!)
涼「ま、待て!」
夏樹「ん?」
涼「あ、アタシ後で連絡するから、その時言っておくわ!」
夏樹「そっか。頼んどくわ。じゃあな、ちびっ子」
拓海「またなー」
涼(つ、疲れる……)
31:
涼「なんとか夏樹はしのいだか……」
拓海「……かえる」
涼「だから、どうやって?」
拓海「でんしゃで」
涼「チビが夕方のラッシュアワーで帰れるわけないじゃん。第一、いつもバイクだから電車で帰り方知らないだろ?」
拓海「じゃあ……とまる」
涼「どこに?」
拓海「ねっとかふぇ」
涼「子供を泊めるわけないって」
拓海「……うぅ……あるいてかえる!」
涼「余計無謀だろ」
32:
拓海「……ううぅ……いけるし!」グスッ
涼「……はぁ……泣くなよ」
拓海「ないてない!!」
涼「わかったわかった……うちに来なよ」
拓海「うち?」
涼「アタシん家。ここからそんなに遠くねえし、一人よりマシだろ?」
拓海「いいのか?!」
涼「そのかわり、騒いだりすんなよ?」
拓海「わかった!!」
涼(やれやれ……)
33:
――――――――――――繁華街
拓海「りょう、どこいくんだー?」
涼「買い物だよ。アンタの替えの下着も買わなきゃなんねーし。あとは晩飯だな」
拓海「かいものかー! めしはなににするんだ?」
涼「パスタでもするか」
拓海「ぱすた?」
涼「スパゲッティだよ。ナポリタンにすっかな」
拓海「おー。うまくつくれよ」
涼「このやろー、何で上からなんだよ?」
34:
――――――――――――デパート
涼「えっと、まずは下着、次にパジャマと……歯ブラシもいるな」
涼「まあ、今日一日だけだし、こんなもんだろ?」
涼「これでいいよな、たくm……あれ?」
涼「あいつどこに……って、いた」
35:
拓海「……」
涼「おい、何やってんだ? 勝手に離れるなよ」
拓海「りょう、あれ」
涼「ん? ウサギのぬいぐるみか?」
拓海「ほしい!」
涼「は? そんな無駄遣いしてらんないよ。いくぞ」
拓海「やだ! かってくれー!」
涼「お前なあ、どうせ今日一日だろ? 何にも使い道ねえじゃん?」
拓海「やだやだやだ! かえかえかえ!!」
涼「わがまま言うなって!」
拓海「かってかってかって! わーん!」
36:
主婦A「あら、子供が泣いてるじゃない」ヒソヒソ
主婦B「ヤンママってのかしら? 子供に厳しすぎない?」ヒソヒソ
涼(えええー!? 待ってくれよ……)
涼「わかったわかった! 買うから静かにしろって!」
拓海「ほんとか!?」
涼「そのかわり、この料金は後で請求するからな!」
拓海「あっ、そのしろいのじゃなくて、ピンクのウサギな!」
涼「話を聞けよ!」
37:
拓海「うさぎー♪ うさぎー♪」
涼「ちくしょー……余計な出費だった」
拓海「はやくいこうぜー」
涼「にゃろう……はしゃぎやがって」
38:
――――――――――――涼の部屋
涼「ついたぞ。ここだ」
拓海「おおおおお」
たたたたた
拓海「べっどだ! わーい」
涼「こら! まずは手を洗ってうがいだろ?」
拓海「おお、そうだった」
涼「ちゃんと洗うんだぞ?」
拓海「わかったー」
涼「やれやれ……さて、アタシも準備するか」
39:
拓海「りょう、なにやってんだ?」
涼「んー? 今はメシの準備だな。もうちょっと待ってな」
拓海「あたしもやるぞ」
涼「別にいいよ。包丁も使ってるし、お湯も沸かしてるからチビが来るには危ねえよ」
拓海「やだ! なにかてつだいさせろ!!」
涼「あー、わかったわかった。じゃあな、風呂掃除してくれるか?」
拓海「おう、まかせろ!」
涼(一応、役には立ちたいと思ってるんだな)
40:
――――――――――――10分後
拓海「りょうー! おわったぞー」
涼「おう、サンキュー……ってなんだそりゃ!!」
拓海「ん?」
涼「泡まみれじゃねーか! こっちきな、拭いてやるから」
拓海「へへー」
涼「ったく……何をやったらそんなに……ってまさか!?」
がらっ
涼「」
涼(風呂場が見渡す限り泡だらけだな……)
拓海「きれいになったぞ」
涼「……おう、あんがとな」ナデナデ
拓海「へへへっ」
涼(悪気はないんだよな…)
41:
拓海「つぎは? つぎだつぎ!」
涼「うーん……おっ! そうだ!」
拓海「?」
涼「拓海、お前には特別任務を与えよう」
拓海「とくべつ……にんむ?」
涼「そうだ。やれるか?」
拓海「まかせろ!」
42:
涼「お前にはな、今日あった出来事を絵に描く仕事をやろう」
拓海「えをかくのか?」
涼「おう、そこに五線譜があるだろ? その裏が白いからそこ描いてくれ」
拓海「たのしそうだな!」
涼「ペンは自由に使っていいからな」
拓海「おうっ!」
涼(この間に一気に終わらせるか)
43:
――――――――――――30分後
涼(ふう……あらかた終わったかな?)
涼「よーし、メシできたぞー」
拓海「……」
涼「おーい、拓海ー!」
拓海「……」
涼(一生懸命、絵を描いてるな……もうちょっと待ってやるか)
44:
――――――――――――10分後
拓海「できたー!」
涼「ん? できたのか。どれどれ……」
拓海「ほら!」
涼「これは?」
拓海「あたし!」
涼「これは?」
拓海「りょう!」
涼「……これはなんだ? ネコ?」
拓海「ちがう! うさぎ!」
涼「ああ、さっき買ったやつか。すると周りにいる小さいのは誰だ?」
拓海「えと……あきはと、ありさせんせいと……なつき!!」
涼「随分ちっちゃいな」
拓海「さきに、あたしとりょう、かいたらたりなくなった」
涼「ははは。そっか」
拓海「にんむできたか?」
涼「おう、よくやったぞ」ナデナデ
拓海「えへへ」
涼「じゃあ、メシにしようか」
拓海「めしー!」
45:
涼「じゃあ、食おうぜ」
拓海「うまそー」
涼「あ、ちょっと待て。拓海」
拓海「ん?」
涼「ソースが服についちまう。ほら、前掛けな」
拓海「こどもみたいだー」
涼「子供だろ」
46:
涼「じゃあ、手を合わせて」
拓海「いただきまーす」
涼「はい、どうぞ」
拓海「……」パク
涼「……どうだ?」
拓海「うまい!」
涼「そっか、そりゃよかった」
拓海「うまいうまい」
涼「あ、口にソースついてるぞ。ちょっと待ちな。取ってやるから」
拓海「んー」
涼「よし、取れた」
拓海「あんがとー」
涼「あいよ」
47:
拓海「くったー」
涼「うまかったか?」
拓海「うまかった。ごちそうさまでした」
涼「お、よく言えたな」
拓海「よいしょ……」カチャカチャ
涼「ん? 何やってんだ?」
拓海「はこぶ、しょっき」
涼「おー、意外にお利口なんだな」
涼(そういや、こいつ、こういうとこは礼儀正しかったよな)
48:
涼「よし、風呂の準備できたぞ」
拓海「おー。ふろーふろー」
涼「だー! ここで脱ぐなよ! ほらほら、脱衣場行くぞ」
拓海「りょうははいらないのかー?」
涼「アタシは後でいいや」
拓海「いっしょにはいろうぜー」グイグイ
涼「わかったわかった! 引っ張るなって!」
49:
――――――――――――浴場
拓海「ふろー!」
涼「ああ、待ちなって。体洗うから。ほら座って」
拓海「おう」
涼「しっかり洗わないとな」ゴシゴシ
拓海「くすぐったい」
涼「がまんしなって……お湯かけるぞ」
ざばー
拓海「きもちいい!」
涼「次は頭だな。目をつぶってなよ」
拓海「うん」
ざばー
拓海「ぺっぺっ……くちにはいった」
涼「あー、わりーわりー。ゆっくりかけるからな」
50:
かぽーん
涼「ふう……やっと湯船につかれる」
拓海「……」ジー
涼「ん? どうした?」
拓海「りょう、おっぱいおおきい」
涼「嫌味かよ……まあ、今はな」
拓海「ほんとうは、あたしのほうがおおきいのにー」ペチペチ
涼「いたいいたい! 叩くなって!」
51:
――――――――――――リビング
拓海「わーい」
涼「こらっ! 裸で走るなっ!」ギュ
拓海「つかまった」
涼「つかまえた。ちゃんと拭かなきゃダメだろ?」
拓海「そうだなー」
涼「本当にわかってんのかよ……下着はひとりで着れるか?」
拓海「だいじょうぶ!」
涼「下着つけてパジャマに着替えたら、そこで待ってなよ。髪乾かしてやるから」
拓海「おう!」
52:
ぶおー
拓海「?♪」
涼「お前さ」
拓海「ん??」
涼「意外に髪キレイだよな?」
拓海「そうかー?」
涼「こんないいもん持ってんだから、もっと大事にしてやんなよ」
拓海「りょうのかみも、さらさらだぞ」
涼「ははっ。あんがとな」
53:
拓海「ふわぁ……」
涼「眠くなったか?」
拓海「うん……」
涼「寝る前には歯を磨かなきゃな。ほら、歯ブラシ」
拓海「うん……」
涼「一人で大丈夫か?」
拓海「……だいじょうぶ……ふわぁ」
涼(半分寝てるじゃねーか)
54:
涼「ちゃんと磨いたか?」
拓海「みがいたー……」
涼「見せてみな」
拓海「いー」
涼「よし、合格」
拓海「うさぎはー?」
涼「ほら、ここ。抱っこして寝るのか?」
拓海「うん。りょうはまだねないの?」
涼「アタシは明日の準備しとかないとな。ライブに必要な機材とか、セットリストの確認とか」
拓海「そっか……」
涼「アンタもしなきゃいけないんだけど……無理だもんな」
拓海「ねるー」
涼「はいはい。おやすみ」
拓海「おやすみー」
55:
――――――――――――一時間後
涼「ふうぅ……こんなもんかな?」
拓海「りょう……」
涼「ん? 起きたのか? うるさかったか?」
拓海「ちがう……といれ」
涼「一人でいけるか?」
拓海「……」
涼「わかったよ。ほら、行こうぜ」
拓海「うん」
56:
じゃー
拓海「ふわぁ……」
涼「どうだ? 眠れそうか?」
拓海「りょうはねないのか?」
涼「うーん、ホラー映画見ようかなと思ってるけど」
拓海「……」
涼「……わかったよ。寝るよ」
拓海「うん」
57:
涼「ほら、これでいいか?」
拓海「もうちょい、こっち」
涼「はいはい」
拓海「て、にぎってて」
涼「わかったよ」
拓海「…………すぅ……すぅ」
涼「寝たのか……」
涼(こうやって寝顔見てるぶんにはかわいいんだけどな……)
涼(今日はいろいろあって疲れた……)
涼(アタシも寝るかな……おやすみ)
58:
――――――――――――翌朝
涼「うーん……むにゃ……」
ふにょん
涼「ん……なんだ……この感触?」
拓海「……ぐーっ……ぐーっ」
涼「おっ! おおっ!! 拓海! 起きろ!!」
拓海「んー……何だよ?……もう少し寝かせろ……ぐぅ」
涼「寝てる場合じゃねえよ! お前、元に戻ってるぞ!!」
拓海「……!!」ガバッ
59:
拓海「おおおおっ!! もどった!! ん? ここどこだ?」
涼「アタシん家だよ」
拓海「おお、そうか。あれ? バイクは?」
涼「事務所においてるぞ」
拓海「マジか! 取りに行ってくる!!」
涼「あっ! おい、バカ!!」
だだだだだ
がちゃん
<ギャー!
<ワー!
だだだだだだ
がちゃん
拓海「なんだよ! この格好!! なんでこんなピチピチのパジャマなんだよ!?」
涼「すぐ気づけよ……」
60:
――――――――――――事務所
涼「すると、昨日のことは覚えてないのか?」
拓海「んー……晶葉のとこで飴食って、そこからよく覚えてねえ」
涼「呆れた奴だな。あの後すげえ大変だったんだぞ?」
拓海「マジか。そりゃ世話かけたな」
涼「まあ、別にいいや。アタシも新鮮だったし」
拓海「なんのことだ?」
涼「なんでもないよ」
61:
拓海「ふーん……」モグモグ
涼「あれ? アンタ何食ってんの?」
拓海「ん? そこに団子あったんでな」
がしゃん
あやめ「拓海殿……その団子……」
浜口あやめ(15)
拓海「ん? これがどうした?」
あやめ「それは代々、浜口家に伝わる若返りの秘薬で……」
涼「いい加減にしろッ!!」
おわり
6

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