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女「隣同士ですね」


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男…26歳 ゲーム開発会社勤務(グラフィック担当)
女…25歳 大型書店勤務(洋書担当)
始まり始まり
2: 以下、
■3月某日 土曜日(朝)/西駒伊町のとあるマンション 男の部屋
男 (朝っぱらから何か隣りの部屋がうるさいなぁ)
男 (通路にもバタバタと音が… 寝られん 早いけどもう起きるか…)
男 (…あ、ひょっとして隣りに入居者か)
■夕方/男の部屋
男 (隣り、まだガタガタやってるなあ) 
男 (まあ入居初日なんてこんなもんか)
男 (今まで意識しなかったけど、このマンション、壁薄めなのか?)
元スレ
女「隣同士ですね」
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4: 以下、
■日曜日(昼)/男の部屋
 ピンポーン
男 (うお呼び鈴だ、珍しいな NHKかな? 面倒だな、居留守だ)
???「ごめんくださーい」
男 (女の声!)
 (て思わず反応しちゃったけど女性でもNHKは勘弁 居留守だ)
???「すみませーん、隣りに越してきた者ですがー」
男 (何ィ! ダッシュだ)
 ガッ! ガチャ
男 「はーい」(焦って突き指した…)
女 「あ、私、女っていいます。あ、始めまして、隣に越してきたので
 今日はご挨拶にと思って」
男 「あー、はい、よろしく。俺男っていいます」
女 「はい、よろしくお願いします。お部屋にいらっしゃるみたい
 だったから、大声出しちゃってごめんなさい」
6: 以下、
男 「あー、いえ、よくわかりましたね」
女 「あ、えっと、おふとん干してたみたいだったので、すみません」
男 「あー、なるほど」
女 「あ、これ、お近づきのしるしに、引越しそば代わりで」
男 「これはー? あ、パスタですね どうもご丁寧に
 ありがとうございます」
女 「いえ、じゃあ私、これでし、失礼します」
男 「はいどうもー」
 ガチャ
男 (ちょっと可愛かったな… 隣りの部屋が女性なんて初めてだ
 なんか浮かれる)
 (…ちょっと色々、音モレ関係気をつけた方がいいな…)
 (指痛ぇ…)
8: 以下、
■月曜日(朝)/男の部屋の前
男 (さて今週も頑張って仕事ですよと)
男 (隣りに越してきた、あー確か女さんって人、なにやってる人なんだろ)
男 (出掛かりにバッタリ会いでもすれば、ちょっと話とか出来るかもだが)
男 (しかしまぁ、朝でも隣近所の人と会う事なんて無いしなぁ
 こんなもんか)
■同じ日(夜)/男のマンションの前
男 (ふー帰宅だ 帰りはいつも遅いから、
 朝以上に人と会う可能性は無い訳だが...)
 (あれ、駐輪場に見慣れないスクーターが停めてあるな)
 (女さんの奴だったりして)
9: 以下、
■水曜日(朝)/男の部屋の前
男 (ヤバイ、電車に乗り遅れる ダッシュだ!)
 (今日も女さんとは会いませんよと)
 (とか考えてる場合じゃない!全だ!)
■同じ日(夜)/男の部屋の前
男 (今日は比較的早い帰宅だぜ)
 (しかしあれだ、ちょっと冷静によく考えるとな)
 (俺が今の部屋に来た時だって、隣り近所の誰かと
 特に交流が出来た訳じゃなかったし、まああれだ)
 (これで普通だな なんか浮かれモードだったな俺)
 (…頂いたパスタ、食わないとな)
11: 以下、
■翌週 木曜日(昼過ぎ)/薫葉バニラタワー東塔13F
 ゲーム開発会社「?ソマリスタジオ」第2開発室
男 (今回の仕事は手持ちや画像検索だけだと資料が足りないな...)
男 「上司さん、ちょっと資料見に出てきて良いですか?拾九堂書店まで」
上司 「あーOK、寄り道すんなよ」
同僚A「あ、男さーん。外行くならついでにマボロシ電気寄って
 5mのLANケーブル買って来て〜」
同僚B「じゃあ僕もついでにコンビニでモーニングと何かオヤツをお願いします」
男 「了解、LANケーブル5mとモーニングとオヤツ、じゃ行って来ます」
同僚A「うぃ〜」
同僚B「よろしくです」
後輩女「あ、男先輩、私も行った方がいいですか?」
男 「んー、今日はいいや 何買うか決めてないし
 適当に作業進めてて下さい」
後輩女「解りました いってらっしゃい」
男 「行ってきます」
12: 以下、
■薫葉駅南口 拾九堂書店
男 (今日の所はこんなもんか 建築系はまた今度にしよう 重いし)
 (…後輩女さんにも来てもらった方が良かったかな)
 (会計は、と)
レジ係「こちらどうぞ お預かりします」
男 「領収書お願いします 宛名は...」
レジ係「あ」
男 「え、あ、女さん?」
レジ係「あ、男さん!どうしたんですか?」
男 「いやちょっと、仕事の資料探しに 会社がすぐそばで」
15: 以下、
ベタな展開がいい
16: 以下、
女 「そうなんですかー あ、9,680円になります」
男 「はい あ、領収書の宛名、?ソマリスタジオでお願いします」
女 「はい、かしこまりました 1万円お預かりします」
 320円のお返しになります こちら商品と、領収書になります
 ありがとうございました」
女 「じゃあ、また」ヒラヒラ
男 「ええ、それじゃ」
 (あー、びっくりした)
 (ニッコリで手ヒラヒラ、か)
17: 以下、
■薫葉バニラタワー東塔13F ソマリスタジオ第2開発室
男 「只今戻りましたー」
同僚A「おかえりー LANケーブルはー?」
同僚B「オヤツは?」
男 「あ、忘れました すんません」
同僚A「何ー、使えねえー」
同僚B「何しに行ったんですか」
男 (ニッコリヒラヒラを反芻してて完全に忘れてたな...)
同僚A「無能め、クビだ! そんで隣の席の後輩女ちゃんを昇格だ」
男 「え〜〜」
後輩女「イヤ、そんな」
19: 以下、
■その日の夜/西駒伊町 男のマンションの前
男 (ハイ帰宅ですよ、と 日が変わる直前だが)
男 「あれ」
女 「あ」
男 「こんばんは 昼間はどうも」
女 「こんばんはー お仕事ですか?」
男 「ええ、遅くなっちゃって」
女 「え、ほんとにお仕事だったんですか
 あ、昼間の本って、お仕事、何されてるんですか?」
男 「ああ、ゲーム開発です 俺は絵ー描いてます」
女 「えー、すごい」
21: 以下、
男 「いや、すごくは… 女さんは拾九堂の人なんですね
 よく使いますよ、あそこ お世話になってます」
女 「あ、そうなんですか よろしくお願いしますね
 あ、私、ゴミ出しに来たんでこれで」
男 「あ、じゃあ、おやすみなさい」
女 「おやすみなさい お疲れ様です!」
男 (お疲れ様です、か)
 (ニッヘッヘ)
 (…ばかかおれは)
22: 以下、
■土曜日(昼過ぎ)/西駒伊町 男のマンションの前
男 (今週は予定も無いし、バイクの整備でもすっか)
 (チェーンルブ切れかけだな 後で買いに行かんと...)
女 「あ」
 「男さーん?」
男 (うお 誰どこ?) キョロキョロ
女 「上です こんにちわー」
男 (女さん?上?あ、ベランダか)
 「こんにちわー」
女 「バイク乗られるんですね 洗車ですかー?」
男 「ええ、整備とか」(声でかいなあ)
女 「あー」
男 「?」
女 「すみません、ちょっと待ってて下さい」
24: 以下、
男 (あ、引っ込んだ なんだ?)
 (…)
 (まあ、続きやるか)
女 「こ、こんにちわ」
男 「あれ、降りて来たんですか?」
女 「え、ええ なんか 話し辛いし 半端なので」
男 「走ってきたんですか?」
女 「え、は、はい」
男 「あはは…」
女 「はー、」
男 「…」
女 「…」
男 「まあ、整備してたわけです」
女 「はい、はー。 私はおふとん干してたんですよ
 そうしたら男さんが見えて」
25: 以下、
男 「4階から良くわかりましたね 目ー良いですね」
女 「ええ 意外とそうですね」
男 (意外と?)「そういえば、そこのスクーターって」
女 「あ、はい、私のです」
男 「スクーター通勤なんですか?」
女 「はい、そうなんです。 男さんもバイク通勤なんですか?」
男 「イヤ、ウチの会社、バイク通勤禁止なんですよ
 なんで俺はトボトボと電車で」
女 「そうなんですか 会社って、ウチの店の近所なんですよね」
29: 以下、
男 「ええ、バニラタワーてわかります?」
女 「あ、あのおっきい所ですよね? えー、すごいな」
男 「いや、ウチの会社は1フロアの半分だけですよ ちっこい会社だし
 拾九堂の方がでっかいですよ」
女 「そう言われれば、ウチは結構広いですからね」
男 「資料になる洋書が多いんで重宝してます」
女 「ありがとうございます あ、そろそろお店に行く準備しないと」
男 「あ、土曜日仕事なんですね」
女 「ええ、午後過ぎから それじゃ、また」
男 「ええ、また」
女 (ぺこり)
男 (走ってった… エレベータとか使わないのか?)
 (…続きをするかね)
31: 以下、
女 「それじゃ、行ってきます」
男 「あ、行ってらっしゃい」
女 (ぺこり) キュルル ブルルン プスン キュルルル キュルルルル
女 「あれ」 キュルル キュルルルル 「あれれ」
男 (なんか不調か?)「平気ですか?」
女 「あ、はい、なんかちょっと、エンジン掛かんなくなっちゃったみたいで…」
男 (うーん…)「ちょっと見てみましょうか?」
女 「え、わかりますか?」
男 「いや、解るかどうか、見てみる位なら」
女 「…えー、じゃあすみません、お願いします…」
男 「はい、ちょっとキー借りますね」
男 (この型はまだキャブ時代の奴だから、なんとかなるかも…
 何気に結構古いよな)
男 (とは言え、原チャリようわからんな どこが開くんだ…ここか
 プラグは〜、と これか あ、そうだ)
女 「…」
33: 以下、
男 「女さん、これから出勤ですよね 時間はどうです?」
女 「あ、はい、ちょっと寄り道しようと思ってたんで、30分位余裕あります」
男 「じゃあちょっと、補修を試みてみます 最悪、待たせた揚句
 動かないまま、てのも有り得るんで、そん時はごめんなさい」
女 「はい、そしたら電車で行きます どうもすみません…」
男 「じゃあ…」(プラグ外すか…って、外しづれーなーこれは)
男 「んんん、よっと 外れた…うわ真っ黒だ 燃調狂ってんのかな」
男 「取り敢えず磨くか… ブラシは、っと」 ガシガシガシ
 (このまま取り付けてもまた被るかも知れんなぁ どっかに混合気の
 調節スクリューとか無いかな? あるだろ、どこだ)
女 「…」
男 (…これかな? どっち回しでどうなんだこりゃ とりあえず適当で)
 (プラグ付けてと、試しにエンジン始動)
 キュルル ブルルン トットットットッ ヴィーン ヴィンヴィーーーーーン
女 「あ、かかった」
男 「ん、すんません もうちょっと待って下さい」
女 「あ、すみません…」
34: 以下、
 ヴィーーーーーン ヴィンヴィンヴィンヴィン
男 (排気がちょい黒いかな…)
 (もう一回プラグを外す…と…よっと、取れた うん、この時点では
 悪くないが…)
女 「…バイク、詳しいんですね」
男 「んー、俺はそんなには 自分じゃ軽く整備する程度で… んーと」
 (も、ちょい調整… そんでまた取り付けて再始動…)
 キュルルブルルン ヴィーン ヴィンヴィンヴィンヴィーーーーーン
男 (うん動く でも多分、またカブるよなあこれ ジェットかなぁ
 エアクリもかもなあ そこらへん見る時間は…ちょっともう無いか…)
女 「…」
男 「取り敢えず動く様にはなりましたが…」 
女 「え、すごい ありがとうございます!」
男 「いや、でもこれ、このまま乗ってたら多分また止まる様になっちゃうと
 思います 早いとこバイク屋に行ってちゃんと見てもらわないと多分
 ヤバイですよ」
女 「はい、解りました 今日の帰りにでも寄ってみます」
37: 以下、
男 「時間、まだ大丈夫ですか?」
女 「あ、ハイ まだ大丈夫です ありがとうございました!
 ホントに助かりました…邪魔しちゃって、ごめんなさい」
男 「いいですよ、今日はヒマなんです」
女 「そうですか? …あ、じゃあ私出勤するんですみません
 ホントにどうもありがとうございます!」
男 「はい、いってらっしゃい〜」
 キュルル ブルルン トットットットットッ
女 (ぺこり)
 ヴィーーーーン
男 (行った... 取り敢えずだけど、なんとかなってまぁ良かった)
男 (NONOのメットだったな マニアックな でも似合うかもな)
男 (何か、アレコレ話したなぁ)
男 (自分の続きでもするかな〜)
39: 以下、
■4月初旬 水曜日(夜)/薫葉バニラタワー東塔13F 
 ソマリスタジオ第2開発室
男 (ふう… 今日の作業はこんな所かな)
 肩チョンチョン
男 (お、ボリュームでかすぎて聞こえなかった)
 「何?」
後輩女「あ、男先輩、すみません ちょっと見てもらっていいですか?」
男 「ん、何を?」
後輩女「これが実機に上手く出力されないんですけど…」
男 「どこで上手くいってないの?」
後輩女「モデルの変換でエラーが出るんです」
男 「このエラーは…、そのタイプのオブジェで使えないシェーダーが
 設定されてない?」
後輩女「ちょっと確かめます… あ、そうでした」
男 「確か前も同じ間違いしてたよね」
後輩女「はい… すみません」
40: 以下、
男 「見せる前に、自分で一通り見直さないといかんよ」
後輩女「はい、わかりました」
男 「それと、言ってくる時も『上手く行きません』じゃわからないから、
 変換が通らないのか、実機での表示がおかしいのか、
 そこらへんちゃんと言える様にしてね
 後、エラーコードも段々で良いから覚えていこう」
後輩女「はい、わかりました 了解です」
男 「んじゃ、俺は今日はもう帰るけど、他何かある?大丈夫?」
後輩女「いえ、大丈夫です ありがとうごさいます お疲れ様でした」
男 「はい、お先〜 お先失礼します」
上司 「あいオツカレー」
後輩女「はぁ〜」
 ガチャッ バタン
男 (…出際にスゴイため息つかれたな まあ、頑張ってくれ
 今が踏ん張り時だな)
43: 以下、
■翌週 月曜日(夜)/西駒伊町 男のマンションの近く
男 (疲れたな 自分の仕事してるだけなら平気なんだがなぁ)
女 「あの、男さん?」
男 「ん、あ、女さん こんばんは」
女 「こんばんは 今帰りですか?」
男 「ええ、まあ 女さんも?」
女 「私は、ちょっとそこのアラスカマートまで」
男 「そですかー」(まあ、遅いしな)
女 「あの、あ…何か、お疲れって感じですね」
男 「え、そう見えますか」
女 「なんか、肩を落とした感じで」
男 「元々猫背なんです いやでも、結構疲れますよ」
女 「どういうお仕事、ていうか、内容なんですか?
 ゲームのお仕事って、ちょっと想像つきづらくて」
47: 以下、
男 「作業内容つうか… うーん、後輩の指導みたいなもんですね」
女 「あーあー、なるほどー 叱ったりとか、そういうのですか?」
男 「ええ、言うべき事は言わなきゃいけないんだけど
 相手が堪えてるのがわかっちゃうと俺の方も、と」
女 「そうですね 先輩はつらいですね」
男 「…俺、愚痴言ってましたね?」
女 「あ、そうかもですね」
男 「やめましょう」
女 「アハハ、もう、着きますしね」
男 (郵便受け覗いて、と なんも無いか)
女 (…)
男 (自然に待っててくれるのな)「すみません」
女 「いえ」
48: 以下、
男 「本屋の仕事の方は、どうです?
 レジ以外、あんまし想像付かなくて」
女 「色々ですよ 例えばー」
男 「ん」
女 「あ、着いちゃいましたね」
男 「そうですね 最後まで聞けなくて」
女 「え、アハハ、いえ、別に …じゃあ、お疲れ様でした」
男 「ええ、おやすみなさい」
女 「おやすみなさい」 バタン
男 (…)
 (なんか気分がスッキリしたな)
 (ははっ)
50: 以下、
■火曜日(昼過ぎ)/ソマリスタジオ第2開発室
男 (来週末締めだから… ちょっとペース上げるか?)
後輩女「男先輩、すみません これ、チェックお願いします」
男 「ん、ちょい待って」
 「どれ、 …ここ見て、ここちょっと回してみるとホラ、ずれてるでしょ」
後輩女「あ、 あー…」
男 「これはちゃんと全体を見直してれば、直ぐに見つかる筈だよね 
 自己チェックが甘いのは仕事してる内に入らない、て前に言ったでしょ」
後輩女「はい、すみません」
男 「後、ちょっとmap020に入って、そん中の適当な所に
 そのオブジェを適当に配置してみて」
後輩女「はい …出ました」
男 「どう?」
後輩女「…はい」
男 「タッチに違和感あるよね」
後輩女「…はい」
53: 以下、
男 「それじゃいかんでしょ」
後輩女「はい、直します」
男 「見直しもちゃんとね」
後輩女「はい、ありがとうございます …ちょっと休憩入ります」
男 「ハイ了解」
 ガチャッ バタン
男 (う〜〜〜〜〜〜〜〜〜む、頼むよ もうちょいじゃんか)
同僚A「キッツイなあ〜 男君」
男 「え、普通じゃないですか?」
同僚A「あんなん言われたらヘコむわ〜」
男 「いやだって、あの出来は通せないでしょう?」
同僚A「通せないけどね〜」
56: 以下、
男 「じゃあ仕方無いじゃないですか 言い方だって普通ですよ」
同僚A「言い方は普通やけどさ〜」
同僚B「男さん、話してる最中、顔が怖いですよ」
男 「え」
同僚A「ああ、怖い怖い」
男 「ええー、俺が?顔怖い?」(こんな弱そうなのに?)
上司 「怖いって言うかね、男君、後輩女君と話してる時、
 ズゴイ無表情になるよね」
同僚A「あんなんで淡々と迫られたら怖いわ
 そんなん隣りの席におられたら胃も痛くなるわ」
男 「真面目な話だし、真面目な表情のつもりだったんですよ
 ヘラヘラしたツラで小言言われると、ムカつきませんか?」
同僚B「程度の問題じゃないですかね
 そんなに徹底しなくても良いと思いますよ」
男 「そんな徹底とかしてるつもりも無いんですよ」
58: 以下、
上司 「あんまプレッシャー与え過ぎて、辞めさせちゃわない様にね
 最近の子はやわいから」
男 「それは困るので、気をつけます むずいなあー」
 (俺って顔が怖かったのか…)
同僚A「週末んなったら、おつかれ言って飲みでも奢ったればいいんよ
 男君のセクション、ウチのラインだと男君と後輩女だけなんだから
 適当にケアしたれ」
男 「怖がってるんだったらキツイんじゃないですかねー、2人だと
 断られると怖がられ確定の様で、俺がショックなんですが」
同僚B「飲んで色々ぶっちゃければ、お互い気軽になるんじゃないですか」
同僚A「そうだー誘えー」
男 「うーん」
上司 「手は出さん様にね」
同僚A「出すなーなんもするなー」
男 「どっちなんですか」
男 (うーん、どっかで一度、何かフォローしとくべきか)
男 (苦手なんだよなあ 正直面倒だ)
60: 以下、
■夜遅く
男 (さて、いいキリかな)
男 (そこそこ捗ったな 平均してこのペースなら行けそうか)
男 「後輩女さん」
後輩女「え!? はい!」
男 (すげえビビられてるな)「俺もう帰るけど、何かある?」
後輩女「いえ、今は大丈夫です 
 あ、でも帰る前に一応、ここ見てみて下さい」
男 「んー、このまま仕上げまで行ければ、悪くないよ 大丈夫」
後輩女「わかりました ありがとうございます あ、お疲れ様でした 
 引っ張っちゃってすみません」
男 「イヤ、いいよ そんじゃお先」
後輩女「お疲れ様でした」
男 (微妙に採点甘くしちまった クソッ 馬鹿が)
男 (いかんなあ、俺も 下手くそが)
62: 以下、
■同じ日(夜遅く)/西駒伊町 男のマンション
男 (ふ〜〜〜〜帰宅)
男 (女さんは居ないね あ〜あ)
男 (イヤイヤ、へたれてるぞ、俺
 こん位で筋合いも無い他人をアテにしてどうするよ)
男 (とっとと風呂入って寝よう)
 
 ピー ピー ピー ユハリガ オワリマシタ
男 (お、風呂沸いたね 入るかね)
 ♪〜 ♪〜 ♪♪〜 ♪〜
男 (なんか歌声が…)
64: 以下、
 ♪〜 ♪〜
男 (隣りか!女さんか!)
男 (やっぱここ壁薄い、ていうかこれ、結構大声じゃないか?)
 ♪〜! ♪〜! ♪♪♪♪♪♪っ♪♪♪〜!!
男 (熱唱してんなあ〜)「ハハハッ」
男 (おっと、声出して笑っちった)
男 (…)
男 (歌、止まったな… あちゃ〜、聞こえちゃったか)
男 (ククッ ゴメン女さん ははは)
66: 以下、
■水曜日(朝)/ソマリスタジオ第2開発室
男 「だぁれも居っないっがおっはようございます〜ぃ」
後輩女「あ、おはようございます」
男 「うぉ! あれ、おはよう、早いね」
 (変な歌を聴かれた ハズイ!)
後輩女「いえ、ええ、ちょっと、捗ってないんで」
男 (…)「ひょっとして泊まった?」
後輩女「えー、はい…」
男 (しまった 適当な所で帰れって言っとくんだった)
 「そんなんして、今日一日捗る?」
後輩女「はい、頑張ります」
男 「適当な所で切りつけて、今日は定時で帰んなよ
 今からそんなんじゃ、開発末期まで持たないよ」
後輩女「はい、わかりました」
70: 以下、
■夕方
男 (定時か… 後輩女さんは、と)
後輩女(…)
男 (超集中してんな〜 暫くほっとくか)
■夜
男 (そろそろかね)「後輩女さん?」
後輩女「あ、はい、なんでしょう?」
男 「そろそろキリの良い所で帰っときなよ」
後輩女「はい、もうちょっとで今やってるのが終わるんで
 あ、その後、昨日今日の分を見てもらってもいいですか?」
男 「いいよ じゃあもうちょいね」
後輩女「はい!」
男 (後輩女さんが静かだったから、今日は俺も進んだなあー
 今週中に今やってる所がまとまれば、後は普通ペースで来週末の
 締めまで行けるな)
71: 以下、
■深夜
男 (結局終電が近い訳だが)「後輩女さん」
後輩女「あ、はい」
男 「今日は泊まりは駄目だからね」
後輩女「え、あ、うそ もうこんな時間」
男 「終わらなそう?」
後輩女「いえ、今変換してるのが実機に出て確認取れたら終わりです
 遅くなっちゃってすみません」
男 「いんや、それはいいよ 出来の方が問題」
後輩女「はい… あ、出ました チェックお願いします」
男 「じゃあちょっと見せてね…」
74: 以下、
男 「…」
後輩女「…」
男 「これで全部ね よし全部OK 頑張ったなー いい出来」
後輩女「わ、やった ありがとうございます」
男 「あ、ただ、これとこのオブジェは、この背景が後で変わるかも
 知れんから、そこだけ気をつけて普段から追っかけといて見といて
 変更があったら、それに合わせて修正入るから」
後輩女「わかりました じゃあ今日はここまでにしますね」
男 「お疲れ様 俺も帰るよ〜」
77: 以下、
■薫葉バニラタワー前 あひる広場
男 (電車的にヤバイ気がしてきた…)「後輩女さんは電車大丈夫?」
後輩女「あ、私、自転車なんで大丈夫です」
男 「あ、家近いんだ …ん、何だ だったら無駄に泊まらんで
 家に帰れよ!」
後輩女「なんかノってきちゃって すみません」
男 「俺は終電ヤバイんでダッシュで帰るよ んじゃお疲れ」
後輩女「あ、お疲れ様です ありがとうございました」
男 (こりゃマジで走らんと間に合わん!)
 ズダダダダダダダ
■同じ日(深夜)/西駒伊町 男のマンションの前
男 (帰宅だ… 疲れたな 明日は普通時間の出勤にしよ…)
男 (女さんちは明り消えてるな… まあそりゃそうか)
男 (あれ、俺ちょっとストーカーぽいか?今のだけ聞くと)
男 (やべー、気を付けよう 隣なんで仕方無くもあるけど、
 気を付けようという意識は持っとこう…)
78: 以下、
支援等へ感謝
■金曜日(朝)/西駒伊町 男のマンションから駒伊吉墨駅への道中
男 (さて気合入れて出勤 バシっと終わらせて週末は休むかね)
 ウ〜ウ〜ウ〜ウ〜
男 (なんかパトが多いな 交差点で事故か?)
 (よく見るとそこかしこにガラスとかウインカーの破片ぽいのが
 散らばってるな… まだ事後処理中か ん、んん?)
 ドキリ
男 (…あのスクーター、女さんのと同じじゃないか?)
 (あ、ああ、あの転がってるの、NONOのメット!ああー確定か!?) 
男 (連絡つうか確認! ああ方法が無い メアドとか何も知らんよ)
 (あああどうすりゃ 救急車とかは居ない様だけど あああもう)
■10分後
男 (…なんも出来んわ ばかか俺はばかなのか)
男 (出社するしか無いか ああ、遅刻か?俺 あ〜)
81: 以下、
■同じ日(朝)/ソマリスタジオ第2開発室
男 「おはようございます すんません遅れました」
上司 「おはよう」
同僚A「おはよう罰金さん」
同僚B「罰金おはようございます」
男 「…すんません」
後輩女「おはようございます」
男 「おはようございます スマン遅れて 何かある?」
後輩女「いえ、大丈夫です 珍しいですね、遅刻なんて いつもは早いのに」
男 「そうね…」
83: 以下、
後輩女「罰金なんですか?」
男 「ああ、うん チーム内ルールで遅刻したら10分毎に罰金100エン
 そこのクマさん貯金箱にね」
貯金箱「クマー」
同僚B「適当なタイミングで、そのカネで皆で焼肉でも、
 という話になってるんですよ」
同僚A「焼肉〜肉〜」
後輩女「…はあ そんなに貯まるものなんですか?」
男 「うん、主に同僚Aさんのお陰で」
同僚A「肉の為だ しゃあない」
上司 「しゃあない、じゃねーよ」
男 (う〜〜〜〜ん、来る時の事故が頭から離れん)
85: 以下、
■昼過ぎ
男 (女さん大丈夫だろか そもそも女さんだよな、あの事故)
男 (NONOのメットなんて珍しいし、それとSUZUHAのVernoのエンジ色の 
 ヤツの組み合わせなんてそんな無いだろうしな)
男 (怪我したかな 色々置きっぱなしだったから、既に救急車で
 どっか行ったか)
後輩女「…」
男 (怪我かァーーーーー!? 路面に血とかは無かった、気がするが…)
男 (怪我で済んでるだろうな ああああ)
男 (…仕事が手に付いてねえ!)
後輩女「…」
89: 以下、
■夜
男 (全然作業が進まんかった…
 何やってんだ俺は 一人相撲で全黒星って感じだなこりゃ)
男 (もう帰ろう今日は 駄目だ こりゃ休出しといた方が良いな)
 「お先に失礼します」
後輩女「あ、お疲れ様でした…」
男 (あーもう、ああ)
後輩女(…)
同僚B「お疲れ様です」
同僚A「乙かれィ」
92: 以下、
■同じ日(夜)/西駒伊町 男のマンションの前
男 (女さんちは、電気点いて無いな… どうしよう、気になり過ぎるな)
■女の部屋の前
男 (…)
男 (駄目だ、もう行ったれ 俺の精神安定の為に)
 メモメモ カキカキ
 『隣の部屋の男です 突然すみません
 今朝、駅近くの交差点の事故現場でエンジ色ののVernoと
 NONOのメットを見ました
 不躾ですが、どうにも安否が気になるので、良かったら連絡を下さい
 LCVT800cc@xx.xxxx.ne.jp』
男 (これを郵便受けに …入れてしまった)
97: 以下、
■男の部屋
男 (うおァっはぁー入れてしまった! 特殊な技を使わない限りもう取り出せん!
 すげェキモくないか俺!?)
男 (単に隣に住んでて超たまにアイサツとかするだけじゃん!ヌハァ)
男 (いやもう無事かどうかが確認出来ればいいやそれで)
男 (…無事だよな? わからねえーーーうあー)
 バタバタ
男 (何なの俺のこの取り乱し様は 寝ろよもう馬鹿野郎が くぅぅっそォ)
 ジタバタ
男 「…人はこの様にしてストーカーになるのかも知れんね…」
98: 以下、
■月曜日(朝)/ソマリスタジオ第2開発室
男 (結局、土日もあんまし作業進まなかったな…
 やばいなこれは ちょっと気合いを入れ直そう)
 パラララッパッパッパー
男 (おっとメールだ!) パカッ
メール『これはスゴイ!出会いの黄金郷 1ヶ月で5人とヤれた 今すぐ登録』
男 「氏ね!!!!! 消去! くそ〜」
男 (女さんからの連絡は無いし、今はもうその事は脇へ置いとこう
 仕事に集中しよう)
男 バシバシッ「よし、やるぞ!」
後輩女「…」
99: 以下、
■昼過ぎ
後輩女「男先輩、少しいいですか?」
男 バリバリシゴト「ん、何?」
後輩女「未チェック分の作業が溜まったんで、一度見てもらえますか?」
男 「お、了解 今のこれがキリ着いたら見とくよ」シゴトバリバリ
後輩女「はい、すいません、よろしくお願いします」
男 「あ、今、どこまで手着けてる?」
後輩女「あ、はい、ちょうど優先Aが全部チェック待ちになった所です」
男 「悪くないペースだね じゃあ引き続きBからよろしく
 こっちで修正項目が挙がったら、そっち優先で」
後輩女「了解です …あの、先輩」
男 「ん、何?」
102: 以下、
後輩女「身体の具合悪くしてたりとか、します?」
男 「ん、いや、大丈夫」
後輩女「ホントにですか? 先週とか、スゴイ調子悪そうだった
 じゃないですか」
男 (しまった…)
 「いや、ちょっと私事で心配事があっただけなんだ ゴメン、もう平気」
後輩女「そですか、良かった」
男 「すまんね」
 (新人に気ー回させるとか、どんだけふぬけてたんだ俺は)
105: 以下、
■夜
男 (段々作業度がノってきたな こうでないといかんね)
後輩女「男先輩、私そろそろあがりますね」
男 「ん、了解 出来た所まで見とくから、進捗表更新しといて」
後輩女「はい、出来てます」
男 「オッケー んじゃおつかれさま」
後輩女「お先に失礼します」
同僚A「おつーっす」
同僚B「お疲れ様です」
男 (よし、一人になった所で更にペースアップだ)
109: 以下、
■深夜
男 「ふ〜、一息」
男 (中々捗ったな… つうかもう誰も居ないじゃん)
男 (ん、あれ!? もう終電無いじゃんか! まだ11時前位だと思ってた…)
男 (何だよ〜誰か声かけろよ〜 …かけられた様な気もするな
 そんで俺、返事した様な記憶があるような)
男 (もういいか 泊まろう)
■火曜日(明け方)
男 (空が白んで来たか? キリ良いし、ちょっと寝とくかなぁ)
男 (今何時だ? …携帯携帯 ん、メールきてら)
男 (なんだ?このアドレス…)
 『こんばんは、405号室の女です 玄関の郵便受けのメモを見ました…』
男 「!!」
 『…メモを見ました 見付けるのが遅くなってしまって申し訳ないです
 男さんの見た事故は私が遭ったもので間違い無いと思います
 御心配をおかけしてしまった様で本当にすみません…』
110: 以下、
男 「おいおい…」
 『…タクシーと当たってしまって、直ぐに救急車で病院に行ってました
 右足首の捻挫だけで済んだので、次の日にはもう家に戻って
 来られました 他は軽い打ち身や擦り傷程度ですし…』
男 「は〜、そうか…」
 『…ですし、事後処理ももう済みましたので、どうか心配なさらないで
 下さい お騒がせしてしまってごめんなさい もしご迷惑でなければ、
 この間のスクーターの修理のお礼も含めて、一度挨拶に伺いたいと
 思います』
男 「ん?」
 『すみませんが、どこかの週末の都合のいい時間にでも
 メールを頂けたらと思います それでは、また 女』
男 「おおっと、そう来たか どうしよう」
男 「でも致命的にヤバイ事態になってなくて良かった! 
 は〜、まじで良かった」
男 「取り敢えず、気持ちが軽くなった所で寝るか!
 …応接室のソファ使っちまおう」
男 「お休み〜俺〜…」
111: 以下、
■応接室
後輩女「先輩、男先輩」
男 「んん〜」
後輩女「先輩、起きて下さい 始業時間です」チョンチョン
男 「んん、ううう?」
後輩女「男先輩ってば」ユサユサ
男 「んん、ん? お!? 後輩女さん!今何時!?」
後輩女「もう10時回ってます 皆さん来てますよ」
男 「やばっ、寝過ぎた あ、わざわざゴメン」
後輩女「いえ、あ、じゃあ私、戻ってますね」
男 「おう、あんがとね」
男 (う〜ん、なんかスゲーよく寝た気分だな つうか寝過ぎたか)
113: 以下、
■火曜日(朝)/第二開発室
男 「おはようございます すんません寝過ぎました」
上司 「おはよう」
同僚A「おはよう罰金さん」
同僚B「罰金おはようございます」
男 「…すんません」
同僚B「また焼肉が近づきましたね」
同僚A「わざわざ10時過ぎてから後輩女ちゃんに起こしに行かせた
 甲斐があったってもんだ」
男 「なんすかそれ!きたねえ!」
後輩女「…すみません」
116: 以下、
同僚A「とっととクマちゃんにごはんをあげたまえ」
男 「くっそ〜」 チャリチャリン クマー
後輩女「ほんとすみません…」
男 「いや、いいよ…」
男 (おっと、女さんに返信メール出しとくか)
 『おはようございます
 不躾なメッセージにわざわざの返事をありがとうございます
 事故は災難ですが、致命的な怪我じゃなくて本当に良かった
 週末の都合については、仕事の様子を見てまた連絡します ではまた』
男 (送信、と)
男 (よし、心配事は取り敢えず消えた!)
男 (さて、仕事頑張るかー)
119: 以下、
■午後
男 「後輩女さん、ちょっと」
後輩女「はい、なんですか?」
男 「昨日の優先Aの修正だけど…」
後輩女「ハイ、何処を直しましょう?」
男 「いや、今の段階では大枠は無かった 良く出来てる
 後半の方でまたブラッシュアップが入ると思うけど、次の締めまでって
 感じだとフィルタとの相性だけ気になる所がいくつかあった位だな
 共有の俺のフォルダにxlsで挙げておいたんで、後で見といて」
後輩女「はい すぐやります」
男 「あ、修正はこまいのばっかなんで、優先Bの後に回しといて」
後輩女「解りました」
男 「大分作業が安定してきたね この調子で頑張ってね」
後輩女「ハイ!ありがとうございます」
男 (ニコニコしちゃってまあ 嬉しいのはこっちもだっての)
男 (自分の作業もビシっと決めないとな)
123: 以下、
■夜
男 (ふ〜、いいキリかな 休出分と合わせてそれなりに取り戻せたし
 今日は帰っとくか)
男 「後輩女さん、俺はそろそろ上がるけど、何かある?」
後輩女「いえ、大丈夫です あ、私もそろそろ上がります」
男 「じゃあ出ようか お先ーす」
後輩女「お先に失礼します」
同僚A「乙かれィ」
同僚B「お疲れ様です」
124: 以下、
■薫葉バニラタワー前 あひる広場
後輩女「男先輩、調子戻ったみたいですね」
男 「んー、そうなあ スマン、気を回させて」
後輩女「あ、いえ、でも、安心しました」
男 「うん、もう平気かな ありがとね じゃあ、俺は駅だから」
後輩女「はい それでは、お疲れ様でした!」
男 「お疲れ様」
男 (作業集中度高い割に、結構周りも見てるな 覚えだって悪くは無い)
男 (一本上げて修羅場をくぐれば、ガっと伸びるかもな 頑張ってくれ…)
男 (ん、メール来てら …女さんからか!)
 『はい、では週末のメールを待ってます お仕事頑張って下さい 女』
男 (…ご挨拶ってわかってても、嬉しいね)
男 (アレやコレやに一喜一憂し過ぎだなぁ、俺
 どうです、いい年こいてこの不安定さは 誰に言ってるんだ俺は)
126: 以下、
■金曜日(昼)/ソマリスタジオ第2開発室
同僚B「そろそろデータを締めます 待ってくれって人、います?」
男 「オーケーです ふー、まあ間に合ったね」
後輩女「結局、先輩に少し作業返す羽目になっちゃって、すみません」
男 「いや、俺らは結果的に2人で成果を出せればオーケーだよ
 代わりに今度、何か適当に助けてよ」
後輩女「そんな、無理ですよ」
男 「無理とか言ってんなよ〜 じゃあ俺ちょっと寝ていい?
 チェック始まる手前で起こして下さい」
後輩女「了解です お疲れ様です」
男 (無事に締まったし、週末は休めるな 女さんにメール出しとこう)
 『こんばんは 上手い事仕事が片付きそうなので、
 次の土日は空きそうです 女さんの都合はどうですか?』
男 (送信…と あー、疲れた…)
129: 以下、
■夕方
同僚B「ん、通しチェックOKです」
上司 「おし、今回はここまでにしとこうか お疲れ様
 取り敢えず皆休んで下さい 週明けに反省会と今後の作戦会議ね」
同僚A「乙かれィ〜」
同僚B「お疲れ様でした」
男 (さて…)「後輩女さん、帰りにオゴリで飲みにでも行かない?」
後輩女「え、いきなりどうしたんですか?」
男 「いや、単に労いの意味で 後輩女さんは締めっぽい締めは
 初めてだったし、疲れたでしょ」
後輩女「あ、解りました じゃあ御馳走になります」
131: 以下、
同僚A「いいなあ ワシにも奢ってよセンパ〜イ」
男 「皆も一緒に行きます? オゴリませんけど
 むしろカネ出して下さいよ先輩」
同僚A「いや、ワシははよ帰って嫁さんの機嫌とらにゃあ」
同僚B「僕も今日は急ぎの用事があるんです すみません
 また次の機会にでも」
男 「そすかー」
後輩女「…」
上司 「ラインの飲みは近々改めて適当にやるから、
 今日は取り敢えず行ってきなよ」
男 「解りました …じゃあ後輩女さん、行っとこうか」
後輩女「あ、はい」
134: 以下、
■薫葉駅外れ(夜)/鶏料理と呑み処『唐つむじ』
男 「じゃあ取り敢えず、締めお疲れさんでした」
後輩女「お疲れ様でしたー」
 ガチーン グイー プハー
男 「食い物とか、適当に頼んでね …後輩女さんは飲む方?」
後輩女「お酒ですか かなり好きですね」
男 「そーか 俺はそんなでもないんで、お手柔らかに」
後輩女「…で、今日は…」
男 「ん?」
後輩女「いえ、何か話があるのかな、って」
男 「え、いや、特に無いよ 単純にお疲れってカンジで」
後輩女「え、そうなんですか 私てっきり、何かあるもんだと」
男 「仕事でなんか話あったら、会社で言うって
 締めでお疲れ飲み、とか割とよくあるよ」
136: 以下、
後輩女「なんだー、私考えすぎてました 安心しました」
男 「何を考えすぎてたんだよ」
後輩女「いろいろと…」
男 「何か強張ってるなぁ そんなに緊張する?」
後輩女「します 怖いです」
男 「そうすかー…」
男 (何の慰労にもならないなこりゃ 早めに終わっとくか…)
男 (…そんなに顔怖いのか、俺)
139: 以下、
支援等に感謝
男 「後輩女さんてさ、学生時代なんか部活やってた?」
後輩女「急にどうしたんですか?」
男 「どうも何か、うっすらと体育会系のノリを感じるんだよな」
後輩女「高校の時にバドやってましたけど、
 大学行ってからは何もしてないですよ」
男 「バドってバドミントン? 部活でやるイメージがあんまり無いな」
後輩女「バドをなめてると痛い目に遭いますよ
 コーチのシャトルをおなかに食らうと吐けます」
男 「まじか」
141: 以下、
■1時間後/薫葉駅前
後輩女「どうもご馳走様でした!」
男 「イヤイヤ、そんじゃー週末はゆっくり休んでね」
後輩女「ハイ、それじゃ、お疲れ様でした 失礼します」
男 「はいお疲れ〜」(とか言いつつ)
男 (俺は軽く休出しといた方が良さそうだ
 来週以降の作業を見積もっとかんとな…)
男 (今何時だ? …あれ、女さんから返信来てら)
 『お仕事おつかれさまです で、大変申し訳無いんですが、
 私の部屋がまだ引越し荷物が全然片付いてないので、
 そちらに少しお邪魔してもいいですか? 何なら玄関先でも』
男 (…越して来たのって、そこそこ前の様な… 結構ズボラなんかな
 まあいっか 今ならちょっと埃掃えば呼んでも平気か …ん、まてよ)
 『足怪我してるんじゃなかったですか?
 俺が動いた方が良くないですか?』
男 「返〜信」
143: 以下、
■薫葉駅/都営薫葉線絹澤町方面行きホーム
 パラララッパッパー
男 「お、メール 女さんから」
 『お隣さんですし、玄関まで移動するのも男さんの部屋まで行くのも
 同じですし なんか私の都合で我侭言う様で、すみません』
男 「うーん、まあそうか」
 『ならウチでOKですよ 土日のいつにします?』
男 「送信!」
 パラララッパッパー
女メ『では、土曜日のお昼前くらいにお邪魔してもいいですか?
 出勤前に寄らせて頂ければ、と思います』
男メ『わかりました お待ちしてます』
男 「送信、と うーん、今夜のうちにちょろっと片しとくか」
147: 以下、
■深夜/西駒伊町 男のマンションの前
男 (女さんは …もう寝てるっぽいね)
男 (隣の部屋の人とメールでやりとり、って、妙な感覚だなぁ)
男 (あー、つかれた 部屋片付けるのめんどいな
 明日起きてからでいいか、もう)
男 (今日はとっとと寝よう… 酒入ると眠いわ)
■土曜日(昼前)/男の部屋
 ヌルポポッ ヌルポポッ ヌルポポッ ヌルポポッ …ガッ
男 (くっそぉ〜うるせえなこの目覚まし野郎が!)
男 (あ〜、もう起きる時間か 体がまだ睡眠を欲している)
男 (ああ、女さんが来るんだった ちょっと片しとかないとなあ〜 
 あー、休出めんどいな 止めちまおっかな〜)
149: 以下、
■昼
 パラララッパッパッパー
男 「お、メールメール」
女メ 『おはようございます そろそろ伺ってもいいですか?』
男 (ここで『いいですよー』とそこそこの音量で言えば良いだけ、
 て気もするが、一応…)
男メ 『OKです どうぞ』(送信)
男 (さて、変なもん出しっぱにしてないよな…)
 ピンポーン
男 (来たか)「はーい!」
 カチン ガチャッ
女 「どうも、こんにちわ」 ヒョコヒョコ
153: 以下、
男 (捻挫とか言って、思ったよりも重そうだな)
 「こんにちわ 大丈夫ですか?」
女 「はい… ちょっと歩き辛くて、ごめんなさい」
男 「いや、それはいいんですが あ、どうぞ 手、貸します?」
 (あれ、眼鏡か 今までって、コンタクトだったのか?)
女 「あ、大丈夫です」
男 「じゃあ、そこらへんの座布団に適当に座ってて下さい
 お茶入れてきます」
女 「あ、わざわざすみません」
男 「はい、どうぞ」 コトリ
女 「ありがとうございます」
男 「…」
女 「…」
男 「で、」
女 「あ、はい、えーと」
156: 以下、
男 「なんか、反応が硬くないですか」
女 「ちょっとあの恐縮っていうか緊張みたいな」
男 (なんでだ また顔が怖いとかだと嫌だな)
 「でも、車と当たったって割には捻挫位で済んで良かったですよ」
女 「はい、本当に それで男さんには要らない気遣いを
 させちゃったみたいで、本当に申し訳無かったです」
男 「いや!それは、俺が勝手に心配し過ぎちゃっただけ、
 というか事故を見ちゃったもんで」
女 「はい」
男 「あんな妙なメモ書き残しちゃって、
 いきなり不躾な感じでどうかとも思ったんですが」
女 「いえ、なんか心配おかけしちゃったんだなぁ、て」
男 「いや、あれは我ながら…」
女 「はい…」
男 「…なんかストーカーじみてるな、とか…」
女 「…ああ…」
男 (何で俺はこんな事をわざわざ口にしてるんだ馬鹿なのかヒィィ)
158: 以下、
女 「いや、でも、申し訳無かったりちょっと嬉しかったりしただけで
 そんな変な印象は無かったですよ…」
男 「そうすかー」
女 「いやー、でも、そうですね 考えてみたら、そういうとらえ方って
 ありますよね」
男 「ああ〜、申し訳ない ヘンなつもりは」
女 「いえ!男さんには全くそんな! ていうか、私今日、お詫びとお礼の
 つもりで来たのに何で男さん謝ってるんですか!」
男 「解りました!了解、オッケーです!もう気にしないどきます」
女 「はい… でも、そういうのって、受け止め方ひとつなんだな、
 って思うと難しいですね」
男 「つくづく感じましたよ、それは」
159: 以下、
女 「あ、それから! この間のスクーターの時も、ありがとうございました!」
男 「ああ、そういえばスクーター、どうなりました?」
女 「いや、廃車になってしまって…」
男 「ああー、もったいない」
女 「本当に… 同じのもう、売ってないんですよね」
男 「あれは、中古でも良いタマは無さそうですね〜」
女 「はい… メットもお気にだったんですよ」
男 「ああアレ、NONOの奴、ちょっと値が張るやつですね」
女 「さすが詳しいですね そうなんです 初めて見た時にかわいい!
 コレだ〜!って思っちゃって、ちょっと無理して買っちゃったんです」
男 「メットもボロボロでしたね…」
女 「そうなんですよ…」
男 「ん、保険とかって、どんな感じになったんですか?聞いて良ければ」
女 「あ、はい、相手がタクシー会社のタクシーだったんですけど、
 事故の内容もあって、全部向こうの保険で払って貰える事には
 なりました」
162: 以下、
男 「そりゃまあ、良かったですね」
女 「でも暫くは、新しいスクーターを探しにも行けないですけどね」
男 「その間に、色々調べたりして欲しい奴の
 アタリを付けとくのが良いですよ」
女 「そうですね!」
男 「ん、午後から仕事でしたっけ? 時間平気ですか?」
女 「あ、そうだ、いけない すいません、私このへんで…」
男 「ハイハイ わざわざありがとうございました」
女 「いや、そんな…」
男 「…はい」
女 「はい?」
男 「いや、立つのに手を貸そうかなと」
女 「あっ、 あ、ありがとうございます…」
男 「いえいえ よいしょっと …これから駅まで歩きですか」
女 「よっ そうなんです もう面倒で」
163: 以下、
男 (うーん…)「今日、俺がバイクで送りましょうか」
女 「ええ!? そんな、悪いですよ!」
男 「いや、ちょっと今日仕事しとこうと思ってたんですよ
 休出なんでバイクで行っちまえ、て思ってたんですけど、
 このまま足の怪我してる人を送り出すのもなあ、って」
女 「流石にそれはなんか申し訳無さすぎですって!」
男 「いや、いつもは無理っつうかしませんよ、そりゃ 今日はこの
 タイミングだし、会社近いしどうせついでだし、嫌じゃなければ」
女 「え〜、じゃあ、あの…、お願い、しちゃっても…」
男 「ええ、行きます?」
女 「はい、じゃあ、お願いします」
男 「よし、じゃあ駐輪場のところで」
女 「はい、準備してきますね」
166: 以下、
■昼/男のマンションの前
 ドルルルルルル…
女 「お待たせしました」
男 「今暖気してるんで、ちょっと待ってて下さい」
女 「はい… …男さん、仕事は一区切りついて
 土日休みとか言ってませんでした?」
男 「いや、週明けからとっとと動ける様に、
 ちょっと作戦練っとこうかなって思って」
女 「大変なんですね」
男 「いや、今日は大変にはしないですよ ゆとりある休出ってやつです 
 …さて、暖気オッケー」
女 「やっぱり大きいですね、これ」
男 「いや、これはコンパクトな方ですよ …ところで、後ろの乗り方ですが
 女さん、バイクの後ろに乗った事あります?」
女 「無いですね」
170: 以下、
男 「そっすか よくマンガとかであるじゃないですか
 しっかりつかまってろよ! ていうあれ」
女 「ありますね」
男 「あれは無しでお願いします あれされると、
 俺が身体動かせなくて怖いんですよ」
女 「え、そうなんですか てっきり…
 じゃあ、どこに捕まってればいいんですか?」
男 「基本、両腿で俺の腰を挟む様にして下半身で体を支えて下さい
 上半身はリラックスして、肩に手を添える位で良いですよ」
女 「わかりました」
男 「車があればいいんですけどね、こういう時は」
女 「そんな〜」
男 「じゃあ行きますか はいメット 超安全運転で行きますよ」
女 「お世話になります」 ペコリ
174: 以下、
■昼過ぎ/拾九堂書店薫葉南口店前
女 「どうもありがとうございました このお礼はまた」
男 「なんか永遠に繰り返しちゃうじゃないですか、それ」
女 「うーん、でも」
男 「まあ、そこらへんの話はまた今度で 俺も仕事に行きますよ」
女 「あ、ハイ 頑張って下さいね」
男 「はい、女さんも それじゃーまた」
女 「行ってらっしゃい」  ヒラヒラ
男 「ペコリ」 ドルン ドルルル…
男 (…)
男 (ニッヘッヘッヘッへ〜)
男 (さて、働くと言った手前働くかね 良い口実が出来たよ全く)
176: 以下、
■昼過ぎ/ソマリスタジオ第2開発室
男 「さて、さすがに誰もいませんね、と」
後輩女「あ、お疲れ様です」
男 「うお!ビックリした! 何だ後輩女さんか 何でいるの」
後輩女「ちょっと、締めた所までを改めて眺めてみたくなって」
男 「そうか… いや、いいんだけど、休めよ…」
後輩女「先輩は今日はどうしたんですか?」
男 「いやちょっと、のんびり休日気分で、
 ザックリとした工数出しでもやろうかと」
後輩女「仕事じゃないですか」
男 「まぁついでもあったし つうか俺の事はいいじゃない 早目に帰んなよ」
後輩女「解りました」 カチカチ
男 (真面目な奴…)
178: 以下、
■夕方
後輩女「…」 カチカチ
男 (後輩女さんにUIのデザイン任せるのはどうかなぁ フル参加の開発
 は初めてだし、FX/UI両方の補助に回して、基本俺がやるかなぁ
 でも振り方間違えると、俺が地獄だよな)
男 (それに、あのデザインセンスは生かしたいな
 思い切ってUIデザイン振ってみるか…微妙だなぁ
 やるにしても上手くサポートしないとな …それにしても)
後輩女「…」 カチカチ
男 (土日全部休み計算だと微妙に収まらなくなってきたな…
 今からそんな計算で動くの嫌だなぁ その上でトラブると地獄だしな
 くそう、どうすっかな)
男 (あーなんか面倒になってきちゃったな〜
 こんな困った表は破棄して、もう帰っちまおうかな)
179: 以下、
後輩女「どうしたんですか?」
男 「ん、何が?」
後輩女「何か唸ってたじゃないですか、今」
男 「え、声出してたか スマン、何でもない」
後輩女「何でもないって…」
男 「いや、ちょっと疲れたな、って」
後輩女「そりゃそうですよ 先輩、締め前に連泊してたじゃないですか」
男 「まあなあ うん、今日はもうヤメ! 帰って休もう
 後輩女さんも、もう上がんなよ 戸締まりして出よう」
後輩女「解りました ちょっと片付けますね」
183: 以下、
■夕方/薫葉バニラタワー前 あひる広場
後輩女「あれ、ヘルメット バイクなんですか?」
男 「うん、休出だし あんまし言い触らさないどいて」
後輩女「うふ 解りました」
男 「じゃあ俺は駐車場なんで お疲れさん」
後輩女「お疲れ様でした」
 ドルルルル…(暖気中)
男 (どうすっかなぁ 後輩女さんにはあんまし狂った仕事の積み方
 したくないけど アイツ俺が無理してるとすぐ察知するしな〜)
男 (席が隣だから隠し様も無いし… せめてもっとニブければな
 いや、むしろ俺が丸出し過ぎるのか)
男 (これからはポーカーフェイスだ!クールに)
男 (…俺には無理)
185: 以下、
■日曜日(昼過ぎ)/男の部屋
男 (うーん、のんびりすんのも久々だな〜ほんとに
 休日は休むから休日っつーんだってばよこんちくしょー)
男 (取り敢えず、部屋の掃除でも…)
 ドカッ ズダダダダ ドタタタッ
男 (なんだ!? すげー音がしたな 床に響いたぞ
 女さんの部屋…の方か部屋の外か、ようわからんかったな)
男 (ちょっと出てみっか)
 ガチャ
187: 以下、
■4階共有廊下
男 (女さんの部屋は…うわなんだこりゃ)
男 (廊下にシートが敷かれて、その上に本の山 エライ数だな
 新書サイズのこれは…小説か?)
男 (扉も開けっ放しだ… さっきの音も気になるな
 ちょっとだけ覗いて見ちゃうか)
 ソロ〜ッ
男 (!! 何だここ… ほぼ本で埋まり切ってる 異様な量だ
 尋常じゃねえ 奥はのれんで見えないが…)
男 「こんちは〜… 女さん?」
男 (返事が無い…?)
女 「すみません… ちょっと…」
男 「ん、女さん?」
女 「ちょっと、助けて下さい…」
男 「女さん?どこですか?」
女 「こっちです…」
190: 以下、
男 (見えない人からこっちとか言われてもな… 
 おれの頭脳が「こっち」をトイレと解釈してしまったらどうするんだ
 …つうか、声がくぐもってて出所がようわからないな)
男 「入りますよ… 入っちゃいますよ? …お邪魔します」
男 (返事無いな… 取り敢えずのれんの奥だけど、
 既に足の踏み場が無いな)
 のれんピラリ
男 「うお!」(本の山が崩落したのか なんだこの量…)
女 「あの…」
男 「この下!?」
 ドサッ ドカドカッ ドサー
男 (本当に居た…)「大丈夫ですか?」
女 「あああ、平気です、痛たたたた!
 ていうか、そんなに乱暴に崩さないで下さい!」
男 「え? あ? すんません」
191: 以下、
女 「あ… ごめんなさい ありがとうございます いや、つい…」
男 「どうしたんですか? この有様は」
男 (改めて見ると、なんだこの部屋
 床って床が本の山で埋まりきってるな)
女 「本を… あ痛たたたた」
男 「おっと、大丈夫ですか? 座る所とか…無さそうですかねこりゃ」
女 「済みません、ちょっと本を整理してたんです …引っ越してきて、
 未整理だったので あたたた」
男 「んー、 ちょっとウチ来ます? なんか解らんですけど、一休みとか」
女 「えーとー」 キョロキョロ
男 「ちょっと話も聞きたいですし」
女 「じゃあ、済みません、お邪魔します…」
192: 以下、
■男の部屋
男 「ちょっと飲みモン出すんで、座ってて下さい」
女 「済みません…」
 コトリ
男 「はいどうぞ ウーロン茶です」 
女 「有難うございます…」
男 「ふ〜」
女 「…」
男 「で…」
女 「…」
男 「部屋、すごい有様ですね〜」
女 「あの… ごめんなさい 色々うるさかったですよね しかもあんな
 汚い部屋を見せちゃって、助けてもらった上に本の崩し方がどうとか
 文句付けるとか…」
男 「まあ、ちょっとびっくりしましたよ 何であんなに量があるんですか?
 店の預かりモンとかですか?」
女 「いえ、私のです 単に、たくさん持ってるんです」
195: 以下、
男 「え、え〜? 尋常じゃない量じゃないですか」
女 「段々と増えてしまって… 手放せないんですよ」
男 「ああ、俺も結構そういうのあるし、気持ちはわかりますが… 
 暮らせなさそうじゃないですか、あの量は」
女 「寝る場所と読む場所があればいいんです!」
男 「う、そうすか」
女 「あ、すみません…」
男 (うーん)
女 「あ、そろそろ、私帰りますね 続きもあるし」
男 「うーん、ちょっといいですか?」
女 「なんですか?」
男 「ちょっと俺、手伝ってもいいですか?」
女 「ええ? そんな、何で、私の部屋」
男 「女さん、足痛がってるのにあんな運び仕事とか、
 まともに出来ないでしょう?」
女 「大丈夫ですよ ゆっくりやれば」
196: 以下、
男 「廊下にもあんなに溢れさせちゃって」
女 「…」
男 「あれ、雨降ってきたりしたらヤバイですよ」
女 「晴れてるじゃないですか」
男 「夕方から降水確率上がってますよ」
女 「え、うーん」
女 「男さん、なんか親切過ぎじゃないですか? いろいろ
 私が悪いんですけど なんかしてもらってばかりで、流石にちょっと」
男 「つうかですね、あの本の崩落ぶりを見ちゃうと、落ち着かないんですよ
 隣の部屋で足引きずりながら重いもん運んでるって考えるのも」
女 「…」 
男 「取り敢えず、廊下の山を引っ込める所まで
 ガーっとやっちゃいませんか?」
女 「…それじゃあ、お願いします…」
男 「じゃあ、始めちゃいますか」
女 「なんか、いつも色々させてしまって…」
男 「そこらへんはまあ、気にしないどいて下さいよ」
198: 以下、
■女の部屋
男 (改めて見ると、この有様は… 思ったより難物かも
 安請け合いしたかも …取り敢えず、足の踏み場を作ろう)
女 「…あんまり、じっくり見ないで下さい」
男 「はあ…」
男 (んな事言われても、生活観全然無いよな、ここ いわゆる女の人が
 見られて恥ずかしい的な物が何も無い 未整理の倉庫だ そういや、
 ここって1LDKだったな…広い筈なのに、全然そう見えないな)
女 「ちょっと」
男 「ここらへんのこれ、こっちに積んじゃっていいですか?」
女 「あ、はい…」
男 「じゃあ早」
 ドサドサ ドタドタ バサバサ
女 「ああもう! もっと丁寧に扱って下さいよ!」
男 「ああ、すみません ここらへん開いたんで、座って下さい」
女 「あ、ハイ…」
200: 以下、
男 「どうします? 本棚結構空いてますけど、入れられるだけ
 入れちゃいます?」
女 「そうですね、じゃあ…」
男 「あ、取り敢えず座ってて下さい、まだ狭いし
 最初は俺がサっとやっちゃいますから」
女 「…じゃあ、ここらへんの物からそっちの棚に、お願いします」
男 「ハイハイ、さて」
女 「あ!」
男 「はいはい、丁寧に」
女 「…はい」
201: 以下、
男 「ふー、本棚は満杯ですね なんとなく床面が見えてきたなぁ」
女 「はい…」
男 「そっちの部屋って、隙間無いんですか?」
女 「全然無いんですよ それに、寝室なので、今はちょっと…」
男 「ん、そーか じゃあ床の、当面とうしましょ」
女 「んー、こっちの隅から、積んじゃいましょう 私もやりますよ」
男 「了解です 足、無理しないで下さいよ」
 バタバタ ドサドサ…
男 「なんとなく床が広くなってきましたね つうかここ、ソファあったのか」
女 「はい… あ、ああああ! 外! 雨! 雨外!」
男 「んん、あー」
女 「本!廊下の本!早く中に入れて下さい!」
男 「おっとそうか 急げ!」
 ドタドタドタ ドタドタドタ ドサドサドサ バタバタバタ…
203: 以下、
男 「ふー、ギリギリ濡らさないで済みましたね」
女 「はー、はー、ありがとうございます あーもう良かった…」
男 「取り敢えず、ひとまとまりかな?」
女 「あ、はい もう、ほんと御免なさい 迷惑かけたり手伝ってもらったりで
 もう、困るんですよ」
男 「え?、ああ、そうか」
女 「え、あ、いや、スゴイ助かりました 今日はもうこの位で、
 というか、しときます で、その」
男 「ああ、長々お邪魔しちゃって、すみません」
女 「はい… いや…」
男 「それじゃ、また」
女 「あ、はい、それじゃ」
 バタン
207: 以下、
■夜/男の部屋
男 「…」
男 (う ざ が ら れ た ァァァァア!)
男 (何故止まらんのだ俺はっハァー!)
209: 以下、
■月曜日(朝)/ソマリスタジオ第2開発室
男 (ん〜〜〜〜……)イスギシギシ
後輩女「あのー…」
男 (うーん、俺は暴走したんだろうか いやまぁしだんだろうけど)イスクルクル
後輩女「先輩、今日からの仕事ですが…」
男 「お、そうね んーとだ、前の締めまでは、開発初期で俺らのセクション
 的にはあんましする事が無いってのもあって、キャラ班の手伝いをしてきた
 後輩女さんに仕事慣れしてもらう、てのもあったけど」
後輩女「はい」
男 「んで、一応今日から俺らFX/UI班の作業が本格始動、て事になる」
後輩女「はい で、私は何を」
男 「後輩女さんには、ちょっと思い切って今回のUIのデザイン部分を
 任そうと思う システム面は俺も関わるし、最初の方はデータも
 組むけど、そこらへんも段々覚えて行こう」
後輩女「解りました」
212: 以下、
男 「あと、UI周りの担当PGは、メインと兼任で同僚Bさんになるから
 色々話を聞いておくと良いよ」
同僚B「よろしくお願いします」
後輩女「あ、え、はい、よろしくお願いします!
 …で、先輩、取り敢えずどう手を付ければいいんでしょう?」
男 「暫くは企画と仕様面での会議会議だね
 最初は聞いてるだけでいいけど」
後輩女「わかりました」
男 「会議1発目までは、デザインイメージのネタ繰りでもしといて下さい」
後輩女「はい 効果は、男先輩が全部やるんですか?」
男 「そうだね UIとはデータ的に咬む部分もあるから、
 そこらへんは上手くやろう」
後輩女「はい、色々質問すると思いますが、よろしくお願いします」
男 「ほい」
男 (…う〜ん)
後輩女「…」
男 (…ああ、もう仕事に集中しよう くよくよしても仕方無い)
214: 以下、
■昼過ぎ
男 「どう? ネタ的に」
後輩女「ん〜、すみません、まだなんとも」
男 「イヤ、最初はじっくり考えていいや 機能面から攻めるって手も
 あるから、そっちを最初に組んでいくのもありだけど、
 今の後輩女さんには向かないかもな」
後輩女「そうですね… まだそこらへん、よくわからなくて」
男 「まあそこは、あとで思い切り苦労してもらおう んー、そうだなぁ
 ちょっと出かけようか?」
後輩女「はい?」
男 「でかい本屋に資料探しに行こう Web上でリンク辿るだけじゃ、
 そんなに広がらないでしょ そういう時はでかくて品揃えのいい本屋を
 眺めてみるのが良い、つうか、俺はそうしてる
 俺も今、ちょっと探したい物あるし」
216: 以下、
後輩女「あ、良いですね ていうか、良いんですか? 仕事中に」
男 「これだって仕事だって 成果はしっかり求められるし、
 その為に必要だと思ったら、やる、て感じで」
後輩女「解りました 今、行きます?」
男 「そうだね 定時までに帰れる位で行ってこよう
 上司さん、いいすか?」
上司 「あいよー」
男 「じゃあ、ちょっと2人で出てきます」
同僚A「あ、男さーん。外行くならついでにマボロシ電気寄ってUSBハブ
 買って来て〜 6ポート以上ついてるヤツを適当に〜」
同僚B「じゃあ僕もついでにコンビニでスピリッツと何かオヤツをお願いします」
男 「了解、USBハブ6Pとスピリッツとオヤツ、じゃ行って来ます」
同僚A「うぃ〜」
同僚B「よろしくです」
後輩女「行ってきます」
218: 以下、
■拾九堂書店薫葉南口店
後輩女「ここ、大きいですね〜 駅のこっち側って来た事無かったから、
 知りませんでした」
男 「うん、ここは品揃えが良いし広くて雰囲気良いから、時々来るんだ」
男 (女さんが居るかも知れないんだよな、そういや 気まずいなぁ)
後輩女「じゃあ、私デザインの方見に行ってきます」
男 「俺は上のフロアに居るから、用事済んだらメール下さい」
後輩女「了解です それじゃ、いってきます」
男 「ほい」
男 (よし、今日は建築本見よう ついでに児童書コーナーにも寄っちゃえ)
222: 以下、
■1時間後/美術・デザイン関連フロア
男 (こんなもんかなぁ 児童書コーナーは不発…いつもの事か
 後輩女さんの方はどうかな?)
男 (お、いたいた ええ、女さんと一緒か!?)
後輩女「あ、先輩、お疲れ様です」
男 「おつかれさん どしたの?」
女 「あ! 男さん…」
男 「…女さん、こんにちわ」
後輩女「あ、知ってる方なんですか?」
男 「うん、近所の人なんだ 女さん、こちら、会社の同僚で後輩女さん」
後輩女「改めて、はじめまして 後輩女といいます」
女 「あ、私、女です こんにちわ じゃなくて、はじめまして」
男 「2人一緒とは思わなかったよ」
後輩女「このダイアグラム作例集の第1集が無いか聞いてたんです」
女 「あ、話の途中でした その作例集は再販されてなくて、今当店では
 品を切らしているんです 申し訳ありません」
223: 以下、
後輩女「あ、そうなんですか…」
女 「系列店舗の在庫の確認でしたらすぐに出来ますけど、それで無ければ
 問屋への問い合わせとなって少々お時間かかってしまいます…」
後輩女「じゃあ、それでお願いします」
女 「はい、では少々お待ち下さい」 ペコリ
 スタタタタ
男 「2人一緒だったんで、びっくりしたよ」
後輩女「私だって、先輩の知ってる人だとは思わなかったです」
男 「そりゃそうだよな」
後輩女「あ、戻ってきた」
 スタタタ
女 「お待たせ致しました 系列の店舗の在庫を確認しました所、
 やはり欠品という事で 大変申し訳ありません」
後輩女「あー、そうですかー」
224: 以下、
女 「なので、問屋の方に品が無いか確認してみます 結果が出るまで
 暫くかかってしまうので、後日連絡という形になりますが」
後輩女「あ、わかりました 連絡って、メールでもいいですか?」
女 「はい、大丈夫です」
後輩女「じゃあ、この名刺のアドレスにお願いします」
女 「はい、承りました ではまた後日」 ペコリ
後輩女「よろしくお願いします」
女 (チラリ)
男 (ん) ペコリ
女 (ペコリ) スタタ
男 (んー…)
後輩女「先輩、私の方の用事は済みました」
男 「ん、俺も済んだし、帰るとしますか」
後輩女「はい」
226: 以下、
■夕方/薫葉バニラタワーへの帰り道
男 「成果はあった?」
後輩女「はい、とっかかりにはなりそうなカンジです 先輩はどうですか?」
男 「そこそこかな 暫く会社の本棚に登録しないで、
 俺らの部屋の方に置いとこう」
後輩女「はい …さっきの店員さん、お友達なんですか?」
男 「んー、友達っつーかなぁ 知り合いか、なんかなぁ」
後輩女「彼女さん、とか…」
男 「イヤ、全然 つうか、何でさ」
後輩女「すみません… なんかちょっと、微妙な雰囲気だったじゃないですか」
男 「まぁ、色々あるんだよ…」
後輩女「すみません…」
男 (やっぱ女はこういう話が好きなのかね?)
227: 以下、
後輩女「先輩、その…」
男 「いや、もういいよ」
後輩女「そうじゃなくて、USBハブとスピリッツとか、忘れてないですか」
男 「あ、そうだった また完全に忘れてた ゴメン
 あー、俺、ダッシュでマボロシ電気に行ってくるから、
 後輩女さんはコンビニ寄って同僚Bさんのおつかいを頼める?」
後輩女「わかりました」
男 「ごめん、あんがと じゃ、また後で
 あ、Bさんがオヤツって言ったら、甘いもんの事だからね
 そうだ、ついでに自分のオヤツも一緒に買ってBさんに払わすといい」
後輩女「あはは、わかりました」
228: 以下、
■ソマリスタジオ第2開発室
男 「ただいま〜」
同僚B「お帰りなさい」
男 「はいAさん、ハブ買ってきましたよ」
同僚A「ああそれ、棚を引っ掻き回したら出て来たんで、もういらん」
男 「なんすかそれ! カネは払って下さいよ」
同僚A「しゃあないな〜」
男 「じゃあないじゃねーよ!」
 パラララッパッパッパー
男 (おっとメール…女さんからか! …なんか長文だな 休憩中に見よう)
230: 以下、
■夜/薫葉バニラタワー前 あひる広場
あひる「グァッ グァッ」
男 「うーむ」
女メ 『お仕事中、いきなりのメール失礼します
 昨日の事ですけど、うるさくしたり、埋もれてる所を助けてもらったり
 した上であんまりな態度を取っちゃって、本当にごめんなさい』
男 「うーん」
女メ 『後から本当に恥ずかしくなって、どうお詫びしようか迷ってた所に
 今日いきなり目にしたから、また微妙な態度になってしまって…』
男 「そうだったか? まあそうだった様なカンジも」
男 「取り敢えず、軽く返信…」
男メ 『諸々了解です 俺の方こそ、ずかずか押し入って半ば強引に
 親切の押し売りになっちゃったかも、て気になってました
 そんな感じなので全然気にしないでOKですよ』
男 (送信! ふ〜)
233: 以下、
後輩女「先輩、お疲れ様です」
男 「お、お疲れさん 帰り?」
後輩女「はい ちょっとお話、いいですか?」
男 「何?」
後輩女「今朝の、これからの仕事の話なんですけど、インターフェイス周り
 のビジュアルデザイン全般を私が、て話でしたよね」
男 「そうだね」
後輩女「いいんでしょうか?」
男 「いいんでしょうか、って、俺がお願いしてるんだし、
 上司さんの方にも了承得てるよ」
後輩女「そうじゃなくて、私みたいなぺーぺーが、
 いきなりデザインひとまとまり渡されて1人で、なんて…」
236: 以下、
男 「不安?」
後輩女「そりゃ不安ですよ さっきは流しちゃったんですけど、
 考えれば考える程無理なんじゃないか、って」
男 「後輩女さんが本格的にUIデザインするのは初めてだ、てのは俺も
 承知してる 実際、イメージデザインしたものを、Web用ならともかく
 ゲーム機用のインターフェイスに落とし込んで行くのは一人ではまだ
 無理だと思う 」
後輩女「はい」
男 「そこは俺がバッチリサポートするから、心配しなくてOKです
 今回の起用は、単純にグラフィックデザインの腕を買っての事だから
 まずは好きにイメージを膨らませちゃって結構
 その後の事は、また一緒に勉強しよう …これで良い?」
後輩女「んー、不安です…」
男 「そりゃまあ そんな事言ったら、俺だって自分の持ち分に不安が
 無いかって言ったら、ある 超ある」
後輩女「えー」
男 「そもそもだ、物事、不安が一切無くなってからスタート、なんて
 状況は有り得ない ある程度は受け入れるっきゃ無いよ」
後輩女「そうですね…」
238: 以下、
男がやってるのはゲームのデザインなのかゲームグラフィックのデザインなのか…
それともどっちもやってるのか
242: 以下、
>>238
男は現在、FX(効果/エフェクト)とUI(ユーザーインターフェース)
の専門だが、グラフィック系の経験はそれなりに広い
開発規模によってFX/UIのどちらか片方での選任になる事もある
UIについては、デザインだけでなく仕様も切る
という設定
240: 以下、
男 「大丈夫だって 後ろは持つから
 後輩女さんは思う存分センスを発揮して下さい 
 俺はそれを見ながら適当にチャチャを入れさせてもらいます」
後輩女「…はい、よろしくお願いします それじゃ、お先に失礼します」
男 「はい、お疲れ様」
男 「あ、メール 返信かな」
女メ 『気にしないなんて無理です 今度会った時にでも、ちゃんと
 お礼とお詫びをさせて下さい』
男 「うーん…」
男 「…」
 カチカチカチカチ
男メ 『友達相手に遠慮し過ぎるのは良くない』
男 「…」
男 「…送信!」
あひる「グァ〜」バサバサ
男 「そう言うなよ 悪かないと思うぞ」
243: 以下、
男 「大丈夫だって 後ろは持つから
 後輩女さんは思う存分センスを発揮して下さい 
 俺はそれを見ながら適当にチャチャを入れさせてもらいます」
後輩女「…はい、よろしくお願いします それじゃ、お先に失礼します」
男 「はい、お疲れ様」
男 「あ、メール 返信かな」
女メ 『気にしないなんて無理です 今度会った時にでも、ちゃんと
 お礼とお詫びをさせて下さい』
男 「うーん…」
男 「…」
 カチカチカチカチ
男メ 『友達相手に遠慮し過ぎるのは良くない』
男 「…」
男 「…送信!」
あひる「グァ〜」バサバサ
男 「そう言うなよ 悪かないと思うぞ」
245: 以下、
■夜/男のマンション 4階共有廊下
男 (は〜、定時で帰れるなんてのも今の内だけだな)
女 「こんばんは」
男 「うお! っと、女さん、こんばんは 驚いた」
女 「すいません、帰ってきたっぽかたので、ちょっと出てきちゃいました」
男 「どうかしたんですか?」
女 「いえ、あの、ほら、メールで…」
男 「ああ、ああ、別にいいのに」
女 「ちょっと、ウチで話せませんか?」
男 「え、もう大丈夫なんですか?部屋」
女 「イスとテーブルが出せる位にはなりました もし、良かったら、ですけど」
男 「んー、いいっすよ 早めの帰宅だし」
247: 以下、
■女の部屋
男 (やっぱものすげーな、この部屋… この倉庫感)
女 「はい、どうぞ コーヒーですが」
男 「どうもです」
女 「…」
男 「…」 ズズズ
女 「…」
男 「で、」
女 「はい、あの、この前は、本当にごめんなさい
 メールにも書きましたけど」
男 「解りました もういいですって」
女 「とにかくあの時は、こんな部屋を見られたのとあんな醜態を見せ
 ちゃった恥ずかしさでわけわかんなくなっちゃって…」
男 「ああ…」
248: 以下、
女 「それにあの時、崩した本の傷の方が気になって」
男 「ああ…、崩れたの、大事な本なんですか?」
女 「全部大事です!」
男 「…」
女 「あ…ごめんなさい、私また」
男 「本、好きなんですね〜」
女 「はい、宝です あ、いや、だから男さんに
 失礼な態度をとっていいという事には」
男 「うーん、まあ」
女 「とにかく、嫌な態度取っちゃってごめんなさい!」ペコリ
男 「うん、はい、OK! 謝り過ぎは良くない」
女 「…はい」
250: 以下、
男 「それにしても、改めて見てもズゴイ部屋ですね」
女 「やっぱり、引きますか」
男 「引くっつーか、たじろぎます 同じか? 嫌とかじゃないんですが
 やっぱ、びっくりしますよ 量に」
女 「ですよね〜… 皆引くんですよ 今まで散々変人扱いですよ
 だから私、ちょっとそこらへんでいじけてて ごめんなさい」
男 「でも別に、自分ちだし、いいんじゃないですか?
 ゲーム会社とかにいると、もっと訳解らん人も割と見ますからね」
女 「どんな人が居るんですか?」
男 「今だと、同じ開発チームにAさんて人が居てですね
 その人、自分の隣の席が空いてるのを良い事に」
女 「ええ」
男 「通販で会社に届けさせたでかい棚をデスクの上に置いて、
 そこにガンダムとかのプラモやら何やらを並べるんですよ」
女 「は〜」
男 「そんで、触ったりすると怒る訳です『何さらすんや〜』とか言って
 家だと奥さんに粉々に破壊されるから会社に並べてるんです」
251: 以下、
女 「それは〜、私が言うのも何ですが〜」
男 「いやもう、言っちゃって下さい 人によっては、置くだけでお前それは
 セクハラだろう、みたいな美少女フィギュアとかを置こうとする奴も
 居ます」
女 「男さんは、何か置いてないんですか?」
男 「俺は〜、バイクミニカーを色々と…」
女 「あはははは」
男 「仕事中にたまに眺めて、和むんですよ」
女 「みんな色々置いてるんですね」
男 「こないだ女さんとこの本屋で一緒だった子がいるじゃないですか
 後輩なんですけど」
女 「ああ、はい、確か後輩女さん」
男 「そう あいつもデスクにサボテン置いて、
 時々トゲを指でチクチクやったりしてますよ」
女 「あはははは、何かかわいいですね それ」
253: 以下、
男 「だから家が本で溢れ返ってる位じゃ、そこまで引かないです
 せいぜい『うおーものすげー多いな』とかですね」
女 「わかりました ふふふ」
男 「そもそも、グラフィック系の人間は資料本や趣味本を溜め込む
 性質がありますからね 抑制してないとすぐに溢れますよ
 俺も、会社に置いてある資料本を全部持ち帰ったら、本棚溢れます」
女 「そういうものですか」
男 「そういうもんです 女さんの本は、小説が多いですね?」キョロキョロ
女 「そうですね… 画集や写真集も好きなんですけど、大きくて重いし、
 高いですからね 小説が多いですね 良いのを読んでると幸せです」
男 「俺は時々文庫だけだなぁ」
女 「文庫にならないのも多いじゃないですか それに、普通の書籍の
 方が丁装が凝ってたりして綺麗なのが多かったりしますよ」
男 「そういうのも見るのか〜」
女 「で、文庫版が出ると読む用にまた買っちゃったりするんですよ」
男 「ハハハ、女さんマニアックだなぁ わかるけど」
女 「マニアックですか… うふふ、そうですね」
258: 以下、
男 「それで、この部屋ですか」
女 「ええ…まあ」
男 「背の高い棚で壁を全部覆っても足りなさそうですね、これは」
女 「どうしたものか、て思ってるんですが」
男 「うーん、もっと棚を買って図書室みたいに並べるか…
 そうじゃなきゃ、広いとこに住むっきゃないですね」 キョロキョロ
女 「でも広くなったらなったで、どうせまたキャパオーバーまで
 溜めちゃうんですよ、私」
男 「はっはっは、性分ですね もう直らないんでしょうね」
 (よく見ると、児童書や絵本もあるのか… まてよ、これだけあれば)
女 「…男さんて」
男 「はい?」
女 「いえ、男さん相手だと楽ですよ 今まで恥ずかしいって思ってたり
 ちょっといらいらしてた様な話でも、笑って出来ちゃうから」
男 「会社でオタク慣れしてますからね 俺もですが」
女 「あははっ」
259: 以下、
男 「…ちょっと、聞きたい事あるんですけど、良いですか?」
女 「何です?」
男 「『消えた2ページ』ていう本知ってます?児童書なんですけど」
女 「知ってますよ」
男 「ええ!? 即答ですか」
女 「『消えた2ページ』作:寺村輝夫 児童文学だと有名な作家です
 私、持ってますよ」
男 「ええ!? おおおー、それ、見せて貰っても良いですか?」
女 「良いですよ ちょっと捜すんで、待ってて下さい」
 ガサゴソ
女 「…その本、探してたんですか?」
男 「いや、ちゃんと探してた訳じゃないんです 子供ん時に読んで、
 スゴイ強印象だったんで、いつかもう1回見たいな、って漠然と
 思ってたんですけど」
女 「なるほど〜」 ガサゴソ
男 「ここの本の山見てたら、いきなり思い出したんですよ」
264: 以下、
女 「あ、ありました …これですね」
男 「おお、ん、あれ」
女 「あれ、違うのでした?」
男 「いや、なんか… でもタイトルは同じだし…」 パラパラ
男 「…中身も同じみたいだ 俺が昔見たやつは、もっとでかいサイズで
 ハードカバーのやつなんです 表紙が、もっと濃いタッチのイラストで」
女 「それって、背表紙のここんところが赤いのじゃないですか?」
男 「あ!そうだ!それです」
女 「それは『理論社名作の愛蔵版』ですね 私のそれは『フォア文庫』
 です 確か後になってから出版された方ですよ」
男 「ああーそうかー、表紙とか挿絵も印象強かったから、また見たかった
 んですよ」 パラパラ
女 「残念 お役に立てなくて…」
男 「いやそんな 別の版がパッっと出て来るだけで凄いですよ」
女 「それ、貸しますよ 持って行って読んで下さい」ニコリ
男 「え、いいんですか やった ありがとうございます
 古い方も、探してみようかな」
265: 以下、
女 「…多分、簡単には見つからないと思います 今出てくるのは、
 それと同じのですよ、きっと」
男 「え、そうなんですか」
女 「ええ、以前、店のお客さんの頼みで男さんの言った方を
 探した事があったんです 今は書店筋じゃ手に入りませんね
 ネットでも全然目にしませんでした…」
男 「あら〜、残念だ」
女 「…もし、見つかったら、欲しいですか?」
男 「そうですね〜、買いたいかな」
女 「古書でもいいですよね」
男 「全然、構いませんよ」
女 「ちょっと、私の方のルートで探して見ますよ」
男 「本当ですか! 嬉しいな」
女 「見つかるかどうか、わかんないですよ?」
男 「ええ、ちょっと期待しておきます あ、これ、古い方が見つかったら
 そっちで読みたいから、取り敢えずお返ししときます ありがとう」
女 「はい、じゃあ、見つからなかったら改めてお貸しますね」
267: 以下、
男 「いやー、楽しみが出来たな」
女 「ふふふ、私もお礼が出来そうで嬉しいですよ」
男 「あ、ちょうど良いかもですね」
女 「…あの、メールで、」
男 「はい?」
女 「…メールで『友達相手に遠慮は』なんてかいてあったじゃないですか」
男 「ああ…」
女 「あれは嬉しいですよ ぐっと来ます」
男 「そりゃ良かったです」
女 「…」
男 「ああ、そろそろ時間遅いですね 長々お邪魔しちゃって」
女 「え、あー、そうですね お仕事の話も聞いてみたかったんですけど」
男 「あ、そういや前、本屋の仕事話も聞けず終いでしたよ」
女 「そうですねー 今度また、是非」
男 「ええ、じゃあ、お邪魔しました また」
269: 以下、
女 「じゃ、おやすみなさい」
男 「おやすみなさい それじゃ…」
女 「あ、男さん」
男 「はい?」
女 「…色々、ありがとう」
■男の部屋
男 (友達か…)
男 (うん、悪くないよな 悪くない)
271: 以下、
■金曜日(昼過ぎ)/ソマリスタジオ第2開発室
男 (よし、このループアニメは上出来だ…
 メインの素材としてガンガン使えるな ナイス俺)
後輩女「先輩、ちょっと良いですか?」
男 「お、なんすか」
後輩女「このレイアウトどうでしょう?ちょっと見てもらえますか…」
男 「んー これの前の画面の仮レイアウトあったでしょ確か それ見せて」
後輩女「はい… これです」
男 「ああ、これは良くない 前の画面のレイアウトがこうで、さっきのが
 こうだと画面の移行で意味も無く視線があっち行ったりこっち行ったり
 しちゃうっしょ それじゃ駄目です」
274: 以下、
後輩女「ああ… なるほど わかりました、
 ちょっと前のと合わせて考え直してみます」
男 「全画面で視線が動かなきゃ良いってもんじゃないよ
 視線の動きもデザインするつもりでやってみる様に」
後輩女「はい」
男 「そうだな〜、頭ん中で完成した画面を自分で操作してる所を
 想像しながらレイアウトすると良いかも
 最初は実際にコントローラを持ちながら想像する位でいい」
後輩女「難しいですね…解りました
 …先輩、今日は何か機嫌良いですか?」
男 「んん? んー、あー、そうかもなぁ」
後輩女「今日はそんなに怖い感じじゃなくなってます」
男 「そうか いやまてよ、俺いつも機嫌悪いって思われてたのか」
後輩女「そう見えるんですよ…」
275: 以下、
■夜/薫葉駅前
男 (後輩女さんは、案の定レイアウトで詰まってるなぁ
 予定の内ではあるが なんとか予定内で収まって欲しい所だな)
男 (さて、どうしたもんかな… ん、あ! 女さんじゃないか、あれ
 なんか読みながら歩いてるな あぶねーな)
男 「女さん」
女 (…)
男 「女さん こんばんは」
女 (…)
男 (聞こえないんか ヘッドホンしてる訳でもなさそうなのに)
279: 以下、
諸々への感謝
男 「女さんってば」 トントン
女 「ひっ、あれ あ、男さん? お疲れ様です 仕事帰りですか?」
男 「ええ、女さんもですよね」
女 「はい そうかー、電車使うと、会う事もあるんですね」
男 「…一緒に帰ります?」
女 「歩くの遅くなっちゃいますけど、いいですか?」
男 「ええ」
女 「すみません、じゃあ一緒に行きましょうか」
280: 以下、
■都営薫葉線車中
男 「スゴイ集中して読んでましたね」
女 「ごめんなさい 読んでると色々鈍くなっちゃって」
男 「危ないですよ… 何読んでたんですか?」
女 「ネビル・シュートの『渚にて』です 新訳版が出たんで
 買っちゃったんです 男さん、知ってますか?」
男 「いや、知らないです どんなのですか?」
女 「核戦争後の世界で、人類滅亡までの人々の生き方を描く、
 みたいな小説なんです」
男 「ふーん」
女 「世界規模で放射能汚染が広がってて、滅亡はもう時間の問題
 なんですけど、何かまったりしてて、ちょっと独特の雰囲気なんですよ」
男 「変わった話ですね」
女 「私、読み終わったら、どうですか?男さん」
男 「あ、是非 通勤中結構暇なんですよ」
281: 以下、
男 「捻挫でしたっけ、前より良くなって来ました?」
女 「はい そろそろリハビリなんです
 出来るだけ歩きたいんですけど、なかなか機会が無くて」
男 「ん、じゃあ上香坂で降りて、ちょっと歩きません?」
女 「え、そんなわざわざ 付き合わなくっても」
男 「俺、時々そこらへんで降りてブラブラ歩いて帰るんですよ
 あそこで降りると彩川が近いんです 河川敷を歩くと
 気持ちいいですよ ストレス解消になります」
女 「ん、じゃあ、ていうか、一緒でいいんですか?」
男 「そこは女さん次第だけど 2駅分で、俺がちんたら歩いて30分
 て所ですけど、大丈夫ですか?」
女 「んー、丁度いいかな それじゃあ、ご一緒させて下さい…」
男 「そんなにかしこまらなくても 俺から言い出したんだし」
女 「ふふ、そうですね」
284: 以下、
■彩川河川敷
女 「暗いですねーここ いつもここ通るんですか?」
男 「ああそうか 男1人だと気にならないんですよ 良くなかったですか?」
女 「いえ、今は1人じゃないから平気です いつもは1人なんですか?」
男 「ええ、大抵音楽聴きながらヘロヘロ歩ってます
 誰も居ないと、ちょっと歌ったり」
女 「アハハ、わかりますわかります」
男 「あ、歌っつったら、いつか」
女 「あ」
男 「女さん風呂場で」
女 「止めて下さいアー! 恥ずかしい!」
男 「わはははは ごめんなさい」
女 「スゴイ恥かしかったんですよ、あの時」
男 「ははは、俺もちょっと、しまったなあって 折角の歌を歌止めちゃって」
女 「もうー」
285: 以下、
男 「ははは、あの時あれ、歌ってたのってGRAPEVINEの?」
女 「あ、多分そうです『Glare』です ああ、恥かしい」
男 「俺も好きですよ、その曲 だからつい反応しちゃったっていうか」
女 「そうなんですかー 凄〜っく好きなんです私、あの曲」
男 「『散らばっ〜てーいた〜 光は〜』ですよね」
女 「そうそう『瞬〜きーでは〜消ーえなかった〜
 継ぎ足〜さーれた〜明日は〜』」
男 (上手いな…)
 「『眩し〜さーなど〜通ーり過〜ぎて〜』…次、何でしたっけ?」
女 「『青になって〜手をかざして〜』」
男 「そうだ、『見〜上ーげたら〜もう行くのかい〜』」
 『たかが満ち足りた世界で 胸がいっぱいになって
  見たろ 光を 走り出したくなって 正解だ』
287: 以下、
女 「あー、誰かに聞かれたら恥かしいですね」
男 「俺、たまにジョギングしてる人とかに聞かれます」
女 「あはははは」
男 「でも、声出すとスッキリしますよ」
女 「つられてつい歌っちゃったけど、かなり恥かしいです
 …男さんて、結構高い声出るんですね」
男 「高くて嫌なんですよ、自分の声」
女 「そんな、歌えていいじゃないですか でも私も自分の声嫌いなんです 
 低くて、かわいくないじゃないですか?」
男 「ん、嫌いじゃないですよ、俺は」
女 「また〜」
男 「いや、俺、単にカン高い声がニガテなんですよ
 耳にキンキン響いて辛くって 女さんのはそうじゃない、という話です」
女 「凄いマジっぽいですね」
男 「信じてくれましたか」
女 「ふふ、それはもう」
男 (…俺は真の馬鹿なんじゃないだろうか)
289: 以下、
■西伊駒町/男のマンションの近く
女 「普段通らない所を通ってくると、なんか新鮮ですね
 私、まだここらへんの事あまり知らないし」
男 「そういやそうですね」
女 「男さんは、こっちは長いんですか?」
男 「んー、住んで2年てところだけど、バイクで通ったりしてたんで
 割と知ってるんです」
女 「私はまだ全然ですよ」
男 「適当にぷらぷらしてれば、その内覚えるんじゃないですかね」
290: 以下、
■男のマンションの前
女 「着いたー」
男 「足、どうですか?」
女 「平気です この位の距離って、ちょうどいいかも」
男 「そりゃ良かった」
女 「えー、また」
男 「はい?」
女 「それじゃあまた おやすみなさい
 今日は付き合って頂いちゃって、ありがとうございます」
男 「いえ、いつもと同じです あ、それじゃ、おやすみなさい」
女 「おやすみなさい」 ペコリ
 バタン
男 (うーん…『じゃあまた一緒に』が出せないな俺は)
男 (…歌はやばかった 手を繋ぎたかったな)
292: 以下、
■日曜日(昼前)/男の部屋
 ピンポーン 
男 「ううう、呼び鈴め 俺の睡眠を」
 ピンポーン
女 「こ、こんにちわー、女ですー」
男 「何ィ! ダッシュだ!」 ガタッ ダダダダ ガチャッ
女 「おはようございます」
男 「おはようぎざいます どしたんですか?」
女 「はい、こないだ、男さんに本探しを頼まれたじゃないですか?」
男 「ええ」
女 「知人に見つけてくれそうな人がいるんですよ 私、今日これから
 その人の所を訪ねるんですけど、もしお暇なら男さんも、と思って」
295: 以下、
男 「どんな人なんですか? その人って」
女 「元古書店経営者のおじいさんなんです もう引退してるんですけど、
 すごく顔の広い方で、御自身の蔵書も多いんですよ
 今までにも色々見つけて頂いてるんです 家も近いんですよ」
男 「面白そうだな… 俺が一緒でも良いなら、是非
 ちょっと10分位準備してもいいですか?」
女 「はい 気さくな方なんで、大丈夫だと思いますよ
 男さん準備してる間に一応電話入れておきますよ」
男 「すみません」
女 「じゃあ、ちょっと電話かけて来ますね」
男 「はーい」ゴソゴソ
298: 以下、
男 「お待たせしました」
女 「はい、電話入れときました 待ってるそうです」
男 「良かった 家が近いって、どの辺なんです?」
女 「吉墨2丁目だから、歩いて15分位? 歩きでいいですか?」
男 「いいすね、天気良いし」
女 「はい じゃあ、行きましょうか」
男 (いきなり2人でお出かけする事になるとは、超不意打ちだな)
■昼過ぎ/東伊駒町 路上
男 「そういや女さん、前、眼鏡掛けてた事無かったでしたっけ?」
女 「あれ? 男さんの前で掛けてた事ってありましたか?」
男 「いつだったかなぁ 見ましたよ ウチに来た時だったかな」
女 「そうでしたか? ウチで本読む時だけかけてるんです」
男 「いつもはコンタクトなんですか?」
女 「コンタクトは怖いですよ、目の中に入れるなんて」
300: 以下、
■吉墨町 元古書店主の家の前
女 「ここの家です」
男 (短いおでかけだったな)
 「なんというか、あんまり沢山の蔵書がありそうな家に見えないですね」
女 「ここは、お孫さんと住んでるお宅ですよ 本は、他所に色々借りて
 保管してあるみたいですよ」
男 「ふーん」(女さんちのパワーアップ版みたいな家かと思ってた…)
女 「御免下さーい 女です」
古 「…はいはい、ちょっと待っててな」
 ガラガラ
女 「ご無沙汰してます、先生
 今日はお時間作って頂いて、ありがとうございます」
古 「お久しぶりですね、女さん 元気そうだね そちらの方は、初めまして」
男 「初めまして 男といいます」
古 「まー、取り敢えず上がって下さい」
女 「はい 失礼します」
男 「お邪魔します」
301: 以下、
■元古書店主の家 茶の間
女 「これ、つまらないものですが、お孫さんとどうぞ」
古 「ご丁寧にどうも、お茶を出させましょう
 …おーい!孫!お客さんにお茶をお出ししなさい」
孫 「ちょっと待って〜 すぐ行くよ〜」
古 「…失礼 そう言えば、この前来たのは、いつでしたっけ?」
女 「確か『蝉の女王』とかの時だったと思います」
古 「そうだった 安い出物がなかなかなかったね、あの時は
 今日も何かまた探し物かな?」
女 「はい いつもお願いばかりですが」
古 「ははは、まぁ商売でもあるしね じゃあリストをお預かりします」
女 「これです よろしくお願いします」
古 「拝見… 相変わらずの趣味ですね 女さんは」 ニヤリ
 ガラガラッ
孫 「どうもこんにちわ! ハイどうぞ、粗茶ですが」 コトリ
女 「ありがとうごさいます」ペコリ
303: 以下、
孫 「こちらの方、はじめてですね どうぞ」 コトリ
男 「初めまして 頂きます」ペコリ
 ガラガラ パタン
女 「…今日はもうひとつ、お願いがあるんですよ」
古 「お願いですか 何ですかね」
女 「…こちら、私の友人なんですが、彼の探し物をお願いしたいんです」
古 「…ほう 失礼ですが、男さんでしたか ご職業の方は何を?」
女 「…」
男 「え、職業ですか …ゲーム開発をしています
 自分は、グラフィックを主に担当しています ええっと、これ、名刺です」
古 「なるほど わかりました、お話伺います 探し物の本のタイトルは?」
男 「理論社名作の愛蔵版『消えた2ページ』寺村輝夫 です」
古 「私の手持ちにあるかも知れないな 書庫を巡る時に見てみますか
 遅いと1ヶ月位かかってしまいますが、宜しいですか?」
男 「はい、急ぎません」
305: 以下、
古 「手持ちに無かった時は、ツテを探る事になります モノがあれば
 取り敢えず入手しますが、実際に買う買わないや金額の話は、また
 その後に、という事に、ここではなってます それで結構ですかな?」
男 「はい、わかりました よろしくお願いします」 ペコリ
古 「今日はこんな所ですかね?」
女 「はい よろしくお願いします」
古 「承知致しました …経過の連絡はまた、いつも通りメールで
 彼の分は、どうしましょうかね 別口にしときますかね?」
女 「私のリストもあるので、取り敢えず私の方にお願いします
 男さん、それで良いですか?」
男 「あ、はい、お願いします」
女 「では、その様にお願いします よろしくお願いします」
男 「よろしくお願いします」
古 「承知しました」
女 「それじゃ、今日はこれで失礼しますね」
古 「また是非、いらして下さいよ」
女 「はい、ありがとうございます では、また」 ペコリ
308: 以下、
■帰り道
男 「ん〜 なんか変わったカンジだったなぁ」
女 「ですよね でも良い方なんですよ」
男 「それはわかります あの、職業聞いたのって、何なんですか?」
女 「あれは… あのおじいさん、結構趣味人で偏屈な所があるんですよ」
男 「偏屈っつーと…」
女 「あの人が『下らない商売』だと思ってる事をしている人とは、取引き
 しないんです」
男 「下らない、てのは?」
女 「土地ころがしとか、株ころがしとか、そういう、何か作ったり、
 便利にしたり役に立ったりするんじゃない、何かと何かの間でお金だけ
 取り去る系のやつとかですよ 私が知ってるのは、その位です」
男 「ふうん」
女 「そういうので稼いだお金は『下らない金』なんだそうですよ
 下らない金でお孫さんを養うのは、嫌なんだそうです」
男 「俺の仕事は平気だったのか〜」
311: 以下、
女 「男さんの仕事がOKなのは解ってました 先生、ゲーム大好き
 なんですよ 取引き終わってから会ったら、多分色々聞かれますよ」
男 「ええ!意外」
女 「ですよね でもあの部屋、テレビもいいやつだし、
 ゲーム機いろいろ置いてあるんですよ」
男 「俺とした事が、緊張して見てなかった…」
女 「アハハ、他にもいろいろ拘ってて、PCとかメールとか普通に
 使える人なのに、取引きの最初は顔を合わせないと駄目なんです
 100円の取引きでも、関係無くそうなんですよ」
男 「ふ〜ん」
女 「私の取引きにしちゃっても良かったんですけど、
 今日はせっかくだから、男さんも、と思って」
男 「いや、なんか面白い体験しましたよ …でも実際の取引きは、
 モノが見つかってから、って、いいのかなぁ」
女 「成立しなかったらしなかったで、あの人の蔵書になるだけなんですよ
 それに、変にふっかけたりしないから、大抵成立するんです
 予想外に値が張りそうなら、ちゃんと途中で連絡下さるから
 大丈夫ですよ」
312: 以下、
男 「変わった人だなぁ でも面白いな どこで知り合ったんですか?」
女 「大学です 一時期、英文学の非常勤講師だったんです
 私は可愛がって頂いて、色々教えてもらったんです
 私の本も、かなり先生の筋からのものが多いんですよ」
男 「あ、それで『先生』なのか なるほどなぁ」
女 「古書店関係者の間だと『吉墨の翁』って呼ばれてて、
 結構有名らしいんです」
男 「なんか、かっこいいな」
女 「アハハ、そうですね」
男 「今日はもう、帰るだけですか?」
女 「そうですね… あ、あの、男さん、おひ、お昼ご飯、済んでますか?」
男 「まだです 起きたばっかだったんですよ どっかで食べて帰りましょうか」
女 「そうしますか …どこがいいですかね〜」
男 (イイ休日だ… やっぱ休日は休まないとな)
313: 以下、
■翌週 木曜日(昼過ぎ)/ソマリスタジオ 第2開発室
後輩女「なんでこのデザインじゃ駄目なんですか?」
男 「単純に解りづらい この画面に入ってきた時、どう操作して良いか
 解らずに悩む事になる率は大きいと思う」
後輩女「でも、そうなると全画面でレイアウトが似ちゃうじゃないですか
 それだとここの…」
男 「そこらへんは聞いた デザイン的な意図もわかる アイデアも良い
 でも、そこはまず必要な要素を満たしてからの話だよ
 その順番が逆転するのは、UIデザインに於いては有り得ない」
後輩女「そこまで解りづらいですか?
 1度見れば2度目から迷う事は無い筈です」
男 「うん でも最初から解り易くないと駄目 まず何の為の画面なのか、
 考える様にしないと 『自分のデザインを見せる』以前に
 考えるべき事がある筈だよ」
後輩女「…」
男 「気持ちは解る でも、標準レウアウトに戻すか、そうじゃなければ
 見易さと君のアイデアが両立する様な新しいネタを考えるしか無い」
後輩女「…解りました ちょっと休憩入りますね」
男 「了解」
314: 以下、
 ガチャン バタン
同僚A「センパ〜イ、怖いですセンパ〜イ スウェ〜んプワ〜ィ」
男 「うざーい!! つうか、いちいちネタにしないで下さいよ」
同僚B「いや、本当に怖いですよ」
男 「まじですか」
同僚A「ワシだってマジ言っとるよ」
男 「うーん」
同僚A「真顔が悪い 笑え」
男 「わはははははは!うひー」
同僚B「男さん」
男 「すんません でも真顔が悪い言われてもなぁ どーもそこらへんは」
同僚B「何にしろ、男さん以外がちょっとフォローしといた方が良さそうですね」
316: 以下、
同僚A「お、いいな 突撃だ」
男 「ああ!ちょい! 下手な事しないで下さいよ!」
同僚B「上手くやっておきますよ」
男 「すんません、お願いします」
 ガチャッ バタン ヘーイ
男 「うーん」
上司 「まあ、あれよ」
男 「はい?」
上司 「強引に笑顔とか、返ってキモイ結果になるから、無理はすんなよ」
男 「そーですねー」
上司 「微妙に気遣いは入れとく様に その位は出来る様になっとけよ」
男 「了解です」
男 (とか言いつつ、ニガ手もいいところ いつもながら困ったな)
男 (取り敢えず、俺も新ネタのセンでちょっと考えてみるか…
 後輩女さんは結構アクロバティックなデザインかますから
 ネタ繰りし難いけど、味は殺さん様にしねーとな…)
317: 以下、
同僚B「戻りました」
同僚A「うぃ〜っす」
男 「お帰りっす」
後輩女「ただいまです」
男 「お帰り」
後輩女「さっきのデザイン、もう少しネタ出しに時間つかっても良いですか?」
男 「良いけど、遅らせた分の時間は取り戻さんといかんよ」
後輩女「了解です ありがとうございます」
男 「じゃあ、週明け辺りにでも、もうちょい詰めた話をしよう」
後輩女「解りました」
男 (頑張ってくれよ)
男 (と、ここでこういうのを常にサっと口に出せないのがダメなのか、俺は)
男 (とは言えまぁ、タイミングは逸したな)
318: 以下、
■夜
後輩女「それじゃ、私お先に失礼します」
男 「はい、お疲れさん」
同僚B「お疲れ様でした」
同僚A「うぃ〜っす」
男 (ふ〜〜っ)
 パララララッパッパッパー
男 (メール …女さん)
321: 以下、
 女メ『こんばんは もし時間が合えばですけど、今日この後また一緒に
 帰りませんか? ちょっと歩きたいんですけど、あの場所だと
 一人じゃ歩きづらいので もし良かったらですが』
男 (…)
男 (じわっと来たな タイミングだなこれは)
男 (もう帰るか… いや)
 男メ『あと1時間位で仕事が切れるんですけど、その後で良いですか?』
男 (送信… もうちょいキリのいい所までやっとかにゃな)
 パララララッパッパッパー
 女メ『解りました じゃあご飯済ませてから駅に向かいます
 またメールします』
 男メ『了解です 俺もキリついたらメールします ではまた後で』
男 「この1時間をフル活用して、後輩支援のネタ繰りだ、やるぜー」
322: 以下、
■薫葉駅 都営薫葉線絹澤町方面行きホーム
女 「こんばんは 男さん、お待たせしました」
男 「あ、こんばんは ちょうど電車も来ましたよ」
女 「急行乗っちゃって、平気なんですか?」
男 「上香坂には停まるんですよ 伊駒墨吉にも、停まってくれない
 もんですかね」
女 「そうですよねー」
■都営薫葉線車中
女 「直前でいきなり声掛けたりしたら悪いかな、とも思ったんですけど」
男 「んー、」
女 「友達だし、いいですよね 気軽に声掛けても」
男 「ええ 無理なら無理って言いますし、無理でも気悪くしたり
 しないですよね」
女 「そうですね でも残念とは思いますよ」
男 「まー、そりゃ仕方無いですよね」
325: 以下、
■彩川河川敷
女 「お仕事でお疲れってカンジですね」
男 「また顔に出てますか」
女 「なんとなく 話し方とか…」
男 「締まらんなぁ、俺は」
女 「ここは話してスッキリしましょうよ」
男 「話ですか〜? 俺の仕事の話だし、それより愚痴っぽくなったらイヤ
 じゃないですか」
女 「聞きますよ、私 それ位いいじゃないですか 色々してもらって
 るんですし それに、話すだけで楽になったりとか、しないですか?」
男 「うーん、まあ、よくある話です 業務上の要件と自分のアイデアが
 ぶつかっちゃって、みたいな」
女 「ああ〜 色々ありそうですね… やっぱり、皆でアイデア出し合ったり
 とかするんですか?」
男 「そうですね あ、俺じゃなくて、後輩の方の話なんですよ」
女 「あ、この間の…」
326: 以下、
男 「ええ んー、アイデア出し合いもしますけど、
 基本は各担当のデザイナが頑張るって所です
 今回、ちょっと大きめの塊を投げてみたんですよ その後輩に」
女 「へ〜、デキる後輩なんですか」
男 「有望ですよ 大抵誰もが通る道なんですけど、
 今が最初の踏ん張り所なんですよ」
女 「センパイも大変ですね 時々優しくしてあげると良いですよ」
男 「苦手なんだよなぁ〜」
女 「そうですか?」
男 「仕事だとどうにも」
女 「またまたぁ」
男 「本当なんですよこれが…」
女 「男さんって」
男 「はい?」
女 「こんな風に付き合ってくれるのは嬉しいけど、
 彼女さんとか居ないんですか?」
男 「居ませんよ、仕事ばっかです 女さんはどうです?」
328: 以下、
女 「仕事場じゃ、全然そんな感じにはなりませんね」
男 「ええ、そうなんですか?」
女 「私なんか、上手くいきませんよ」
男 (何だ?)
女 「男さんの方こそ、職場に女の人とかって さっきの後輩さんとかは?」
男 「イヤ〜あいつはなぁ まず仕事の問題があるし イザとなったら
 相手の気分は一時置いてモノを言わなきゃならない間柄ですよ?」
女 「あはは、そうですね でも」
男 「はい?」
女 「失敗したのを責めすぎたらだめですよ」 
男 「う〜ん、そうですね…」
女 「そうですよ」
男 「ああ、それとあれだ」
女 「なんですか?」
男 「俺、顔が怖いって言われるんですよ そいつに」
女 「ええ?」
331: 以下、
■西伊駒町/男のマンションの近く
男 「俺って普段から顔怖いですか?」
女 「そんな事無いですけど… どっちかって言ったらニコニコしてますよ」
男 「うーん、職場だと言われまくるんですよ」
女 「…男さんマジメですね」
男 「全然、んな事無いですよ」
女 「なんか結構趣味的なのに根がマジメ、ていうか」
男 「それ、全然関係無いですよ」
女 「そうだ、ちょっと仕事話してみて下さいよ 怖くなるかテスト」
男 「え、女さんに?」
女 「そうです いつもと顔が変わるかどうか」
男 「仕事の話っつっても、脈絡無いからなぁ 難しいですよ」
女 「どうぞ」クルリ
男 (面と向かわれてもなぁ)
334: 以下、
女 「…」
男 「…」
女 「…プッ」
男 「ぶっ」
女 「あはは、なんで笑うんですか」
男 「はははは、女さんの方が先でしょ」
女 「あはははは、やっぱり全然怖くないです あはは」
男 「くくく」
女 「あははは、あ〜」
男 「…」
女 「…?」
男 「好きです」
337: 以下、
■西伊駒町/男のマンションの前
女 「え」
男 「ん、あれ」
女 「…」
男 「俺、なんか言いましたね」
女 「言いました」
男 (ブっはァァァァァアアア!!!!)
女 「…」
男 (何故言う俺! 物事の脈絡はどこへ!)
341: 以下、
女 「あの…」
男 「はい…」(ヒィィィ)
女 「やっぱり、早めに言った方が良いですよ」
男 「ん?」
女 「そういうのは、本人に」
男 「はい?」
女 「あはは、それじゃあ、おやすみなさい!」 スタタタ
男 「あ、おやすみです…」
男 (んー…)
男 (あれええええええええええ?????!!!!)
345: 以下、
■男の部屋
男 (…女さんを後輩女さんに見立てて『こわい顔テスト』をしていた)
男 (それに向かってイキナリ『好きです』と発言)
男 (それに女さんは『そういう事は本人に』と返す)
男 (つまり女さん相手に後輩女さんに告る練習をした、と取られた)
男 (俺の言った事のハズさ、誤解の内容、それを素で受けられた事)
男 (…)
男 (…) 
男 (…ムッ)
男 (ッッッはあああぁぁぁあああぁぁあぁあああぁああぁあァァアッァ!!!!)
 ドッタンバッタン ジタバタ ブンブン ズシャー ギャアアアン
男 (これはだめだァーだめだこれは、酒の力を借りて今すぐ寝よう
 耐えられん)
 グイーーーー
349: 以下、
■5月初旬 水曜日(午後)/薫葉バニラタワー前 あひる広場
あひる「ガーガー」
男 「呑気だなあ、こいつらは」
男 「いやでも、こいつらにはこいつらなりの様々な問題が…」
後輩女「先輩、お疲れ様です」
男 「あれ、お疲れ」
後輩女「この子達、名前あるんですか?」
男 「アフラッ太君とアフラッ子ちゃんだよ」
後輩女「え、本当ですか」
男 「今考えた」
後輩女「…休憩、いつもここなんですね」
男 「吸わないしね あと、こいつら見てると和むんだ」
後輩女「ちょっと微妙なお話があるんですが、いいですか?」
男 「なんすか微妙って 戻ってからじゃ駄目?」
後輩女「はい…ちょっと、すみません」
351: 以下、
男 「長くなったりする?」
後輩女「なるかも知れません」
男 「んー、じゃあ今よりも、仕事引けてからの方が良さそうかな
 どっかでメシ呑みしながらとかで良い?」
後輩女「はい、わざわざすみません」
男 「ん、じゃあ今日は7時辺りで仕事切ろうか」
後輩女「はい」
男 (何の話なんだかなぁ)
男 (女さんの誤解は厄介だな… つうか、俺が後輩女さんをなぁ…)
男 (かわいい奴ではあるんだけど、仕事の後輩だしな)
男 (何より向こうにその気があるってのが有り得ん)
353: 以下、
■夜/薫葉駅近く 飲み屋『呑々房』
男 (とは言え、ああ言われると何かちょっと意識しちゃうよなぁ)
男 「俺は腹が減ったよ いきなりメシっぽいの頼んで良い?」
後輩女「あ、私も」
男 「じゃあ、ここの店おでんがウマイからおでん食おう」
後輩女「おでん、いいですね」
男 「まずは大根だな …何が好き?」
後輩女「しらたきですかね」
男 「しけたもんが好きだなぁ 俺はあと、たまごとじゃがいもを」
後輩女「私あと、ちくわぶと昆布巻きを」
男 「なんだと ちくわぶは敵だ」
後輩女「何ですかそれ じゃがいもなんて、おでんの具じゃないです」
男 (ひたすらネタの嗜好が合わないな…)
355: 以下、
後輩女「本当においしいですね、ここ」 ハフハフ
男 「つうか、何か話があったんでは」 バクバク
後輩女「…そうです えー、」
男 「言いづらい話?」
後輩女「まあ、そこそこに」
男 「仕事関連ではあるの?」
後輩女「えーと、間接的に…」
男 「間接〜? 歯切れ悪いな ズバっと言っちゃいなよ」
後輩女「実は…実は、私…」
男 (まさか…)
後輩女「その、なんと言うか、ですね」
男 「…」
後輩女「す…好き」
男 (ギクリ)
後輩女「同僚Bさんの事が好きになってしまいまして!!」
359: 以下、
 ヒュ〜〜〜〜 ヒュルリラ〜〜〜〜
客 「おいちゃーん、ここスキマ風が来るんだけど」
オヤジ「ああ、そこ、窓の立て付けが狂ってて すみませんね〜」
男 「…」
後輩女「…あの…」
男 「続きをどうぞ」
後輩女「いやその、先程も申し上げた通り…」
男 「うん」
後輩女「ど、どう、同僚Bさんが…、あれで…」
男 「うん、わかった そんで?」
後輩女「はい、それで、こんな事言うのはあれなんですが、
 思いっ切り仕事に差し障ってるんです 常に考えちゃって」
男 「駄目じゃん、それじゃ」
後輩女「はい、解ってます 解ってるんですが、もうどうにもならなくて
 頭がぐるぐるしちゃって…」
後輩女「あーーーーもーーーー」
362: 以下、
男 「おい、落ち着けよ」
後輩女「すみません、こんななんです どうしたら良いですか、私」
男 「ええ!? どうしたら、って 何だそりゃ
 『助けて下さい』系のスレの>>1かよ君は」
後輩女「スレ?」
男 「いや、まあ、それは置いといて、
 俺の立場からじゃ『仕事に影響を出すな』意外言えんよ」
後輩女「ああー」
男 「何を言って貰いたいんだ まさか俺に仲を取り持て、
 とかは言わないだろうけど」
後輩女「まだ全然頭の中が定まって無いんです でも仕事には実際
 悪影響が出ちゃう寸前なんです だからここはもう、先輩に
 相談するだけしちゃおう、て事なんです すみません…」
男 「…お前は〜」
後輩女「申し訳ないです…」
男 「う〜〜ん」
男 (…今ここでそれなりの肩透かし感を味わっている俺が
 堪らなく恥ずかしい)
363: 以下、
男 「そもそも、後輩女さんはどうしたいのさ」 トクトク
後輩女「うー」
男 「配置転換して欲しいとか、他のラインに」 グビッ
後輩女「それは困ります!こんな半端な仕事しか出来てないのに」
男 「仲を取り持つ、でもないし、上司さんに報告する、も違うよな」
後輩女「…」
男 「後は〜、『やめとけ』とか言って欲しい、なんて訳はないよな」
後輩女「はい…」
男 「いや、実際『やめとけ』言ってもいい立場、
 つうか言うべきなのかも知れないんだけど」
後輩女「…」
男 「…まあ当面それも無しとして 取り敢えず言ってあげられる
 有意義な事がなんも思い付かない」
364: 以下、
後輩女「先輩に」
男 「ん?」
後輩女「先輩に聞いて貰えれば、それで良かったのかも知れないです」
男 「なんだそれは」
後輩女「そうすれば、私がダレても叱ってくれるじゃないですか」
男 「なんだその甘ったれ つうか、それ知らなくてもダレてたら怒るから」
後輩女「そうですけど、もう言わずにはいられなかったんです…」
男 「うーん、本人に言うとかはどうなの?」
後輩女「そんな、絶対困らせちゃいます」
男 「オレオレ、俺も超困ってるよ、今」
後輩女「すみません…」
男 「まあ君が困らせるなら俺の方がまだマシかぁ」
後輩女「…」
男 「取り敢えず、聞いた 聞いて現状了解した それでいいの?」
後輩女「はい、聞いて頂いて、ありがとうございました…」
366: 以下、
男 「そもそも、同僚Bさんのどこにグっときたのさ」 グビッ
後輩女「えー、優しそう、とか言うと馬鹿みたいなんですけど、話してると
 リラックス出来るし、幸せなんです それでいて頼りがいのある感じが」
男 「それはなんとなく解るが… でも、あの人言葉は柔らかいけど、
 極限状態で厳しい人だよ 絶対ペース乱さないから隙が無いし」
後輩女「カッコイイじゃないですか クールで」
男 「そうすかー そうねー」
後輩女「男さんだって尊敬してます 緊張するけど」
男 「そりゃどうも」
後輩女「また煮詰まったら、相談してもいいですか?」
男 「…いいけど、俺からもちょっと頼みがあるんだが」
後輩女「なんですか?」
男 「やたらと怖がらないでくんない?」
後輩女「そんなの無理ですよ」
男 (コイツ…)
367: 以下、
支援その他へ感謝
男 「何を相談するつもりにしてもさぁ」
後輩女「はい」
男 「自分が何をしたいか位、自分で決めときなよ そんなんだと
 何も言い様が無い なんか適当に考えといてくれよ」
後輩女「そうですね …そうですよね〜」
男 「そうだよなぁ まあ飲んどきなよ」
後輩女「はい、頂きます」
 グイーーーーーーー
男 (その種の問題関連の俺のキャパはもう完全にオーバーだ…)
368: 以下、
■薫葉駅近く
後輩女「どーもごちとーさまでしたー」 ペコリ
男 「喋りが覚束無いな 大丈夫かよ」
後輩女「へーきですぅ」 スタスタ
男 (足取りは確かだが…)
後輩女「家はこっからすぐなので、たいじょうぶなんです!
 自転車さんは置いてくんですよー」
男 「まあそれが良いな 1人で平気?」
後輩女「へーきですぅ」
男 (送ってくかどうかは微妙だが…)
後輩女「そでじゃーおつかれさまでした」
男 (帰ろう)「ハイお疲れ 気をつけて帰れよ」
後輩女「ろうかいですん」
男 (…やっぱヤバイな)「やっぱ送るわ 家どっち?」
後輩女「こっちなんですけど〜」
371: 以下、
■後輩女のアパートの前
後輩女「ここでしたー」
男 「本当に近いな 15分とかからずに着いた」
後輩女「ふ〜」
男 「じゃー俺は帰るよ とっとと自分の部屋に入れよ
 そんじゃーお疲れ様」
後輩女「ほつかれさまでした」ペコリ
男 「ふ〜〜〜」
男 (…世話かかりすぎ)
男 (こんなん付き合うのも、新人の間だけだと思っとけよ)
男 (…などと本人の前で口に出したりは、今はしない)
 女『話すだけで楽になったりとか、しないですか?』
男 (ああ、そういう事なのかもな 狭量にならん様にしないとなぁ)
男 (帰るベー ふぁぁ …もう終電が近いでやんの)
男 (寝よう 逃避的に)
373: 以下、
■木曜日(朝)/ソマリスタジオ第2開発室
男 (酒によって得た眠りは、充分になる手前で途切れてしまう)
男 (…今日は流石に俺が一番乗りだろ 後輩女さんはあんなだったしな)
後輩女「おはようございます」
男 「うお!おはようございます よく起きられたなぁ」
後輩女「はい、というか、夕べは見苦しい所と見せてしまって
 すみませんでした」ペコリ
男 「いやいいよ 自分で歩いたし、吐いたりしなかったし」
後輩女「はい 色々馬鹿言ってすみませんでした 仕事気合入れます」
男 「了解」
374: 以下、
■業務開始時間前
男 (今ある素材だと限界あるな… 持って来所をどうするか…)
後輩女「あの…」
男 「ん、何?」
後輩女「先輩は、どうやっていつも精神安定させてるんですか?」
男 「どうって… いや、してねーよ 後輩女さんだって見たでしょ
 俺が崩れてた所」
後輩女「すぐに回復して、すごい集中力だったじゃないですか」
男 (今の俺の心中の不安定さをコイツに教えてやりたいが…)
男 (ここで同じラインに降りて行くのは何かちょっと違うと思うので、強がる)
男 (どうせ怖い顔だとか思われてるんだ わからんだろ)
男 「…どうやら後輩女さんは、仕事に対する責任感と本気度が
 足らん様だね」
後輩女「はい?」
375: 以下、
男 「本当に仕事が重要なら、仕事場でそれを目の前にすれば、
 本気で集中出来る筈だ」
後輩女「そうですか…」
男 「その為に、まずはトップメニューとメインのアイテム選択画面の
 デザイン1項を、実レイアウト込みで今週中に上げてもらう事にする」
後輩女「えええ!?」
男 「文句あるのか」
後輩女「え、そん… ああ、いえ、ありません 頑張ります」
男 「よし 集中しなよ 思考がループしてるなと思ったら質問する様に」
後輩女「はい、解りました」
男 (こんな所か… 元々やる気はあるヤツだし、まぁ平気だろ)
377: 以下、
■夜/ソマリスタジオ第2開発室
男 「そろそろ上がります」
後輩女「あ、私も」
男 「進みはどう?」
後輩女「そこそこでしょうか? 明日、ちょっとまとめて見てもらえますか」
男 「お? 了解 自分でも見直しといてな」
後輩女「解りました」
379: 以下、
■エレベーター内
後輩女「男先輩って、彼女とかいないんですか?」
男 「居ないなあ」(この人達ときたら…)
後輩女「私もあんな言っちゃったんだから、先輩もぶっちゃけて下さいよ」
男 (勝手な…)「居ねーっての 気になる人はいるんだが」
後輩女「本屋の人ですか?」
男 「…何で解るの 君達はそういうの」
後輩女「なんとなくです ウチが近所なんでしたっけ?」
男 「部屋が隣なんだよ」
後輩女「良いじゃないですか〜」
男 「まぁなぁ」
380: 以下、
■薫葉バニラタワー前 あひる広場
後輩女「それじゃ、お疲れ様でした」 ペコリ
男 「はいお疲れ様」
男 (最近、女さんと帰りに一緒になってないなぁ)
男 (あんな話になった後、どっちが誘いづらいかと言えば…)
男 (…むしろ向こうかもな いい時間だし、メールしてみようかな)
 『こんばんは これから帰宅なんですけど、時間が合いそうなら
 また一緒に帰りませんか?』
男 (送信)
男 (ふ〜〜〜〜)
あひる「zzz…」
男 (くそ… 平和だなこいつら)
381: 以下、
 パラララッパッパッパー
男 (お、もう返信か)
女メ 『お疲れ様です ちょうど帰りで駅に向かってる所です
 男さんさえ良かったら是非 また川沿いを歩きたいですね』
男メ 『じゃあ、ホームの1番手前辺りで待ってて下さい すぐ着きます』
男 「送信…ふ〜OK」
男 (よく考えると『この前のアレは誤解です』とか言っちゃうと『じゃあ
 どういう意味だったんですか』て事にすぐなるんだよな)
 別に言いたくない系の話しじゃ全然無いんだが)
男 (俺は女さんが好きなんだろうか?)
男 (そりゃ好きなんだけど、本気か?真剣なのか?)
男 (この前、思わず自分の口から出てしまったのは、自分でも意外だった
 自分に不意を突かれた感じだ…)
男 (…自分一人で考えてても解らんわ 会って話そう 成り行きに任そう
 会ったり話したりが出来る事そのものを幸いと考えよう)
384: 以下、
■薫葉駅 都営薫葉線絹澤町方面行きホーム
男 (いた、女さん ベンチで…また何か本読んでら はははっ)
男 「女さん」
女 「あ、男さん こんばんは、お疲れ様です」
男 「お疲れ様です ちょっと久しぶりですね」
女 「そうですね 隣に住んでるのに、変ですよね」
男 「ですねえ あ、これに乗っちゃいましょう」
386: 以下、
■都営薫葉線車中
男 「さっきの本、何読んでたんですか?」
女 「ポール・オースターの『ミスター・ヴァーティゴ』ていう小説です
 知ってますか?」
男 「いや、例によって知らないです すんません」
女 「アメリカの作家なんですけど、評価高いですよ 私も好きなんです
 前に読んだ『ムーン・パレス』ていう作品が、凄く良かったんですよ」
男 「今読んでるのって、どんな話なんですか?」
女 「まだ途中なんですけど… 不思議な奇術師の老人の下で修行する
 少年の奇妙な青春話、みたいな感じです て言うと割とありがちぽい
 ですけど、ちょっと不思議な感じなんですよ」
男 「ふーん 読み終わって、お勧めだなと思ったら貸してくれますか?」
女 「良いですよ! 読んだら感想聞かせて下さいね」
男 「もちろん」
387: 以下、
■彩川河川敷
女 「うーん、やっぱり気持ちいいですね、ここ
 男さんは一人で来れていいなぁ」
男 「昼間なら人も多いですよ 明るいと、結構遠くも見えていい感じです
 犬の散歩の人とかも、結構いますよ」
女 「いいですね〜 午後勤の出勤の時とか、来てみようかな」
男 「足、平気ですか?」
女 「あ、はい 歩くさ、これ位なら 遅くないですか?」
男 「話しながらなら調度良いですよ」
女 「はい」
男 「…」
女 「…」
男 (どーすっかな…)
389: 以下、
女 「あの…」
男 「ん、はい」
女 「ちょっと余計なお世話っぽいんですけど、どうですか?
 例の、後輩さん」
男 「ああ… 」
女 「ごめんなさい、立ち入った話しちゃって
 そういうの、どうも気になっちゃうんです、私」
男 「いや、それはいいんです んー、実は」
女 「はい」
男 「この前、俺、言っちゃったじゃないですか」
女 「えーと」
男 「好きだとか」
女 「あ、はい」
男 「あれ、その後輩の事じゃないんです」
女 「ええ!?」
392: 以下、
男 「それ所か、ソイツから社内恋愛相談を受けちゃったりしてですね」
女 「えええ!?」
男 「最近の困り所って言ったら、そんな所ですね」
女 「あら〜、どうするんですか? 問題無いんですか?」
男 「そういや、その相手って独身なのは知ってるけど、
 彼女のあるナシとか知らないなぁ」
女 「それは、アドバイスに困りますね」
男 「うーん、でも、なんか取り敢えずは吐き出せればそれで良し、
 てカンジだったかも」
女 「…やさしく慰めてあげれば良いですよ」
男 「そういうの苦手なんですよ、俺は」
女 「そうですか?」
男 「仕事が絡むと、本当に苦手です」
女 「あー、そうですね そうですよね〜」
393: 以下、
男 「直接仕事の内容の話なら、ちょっとケンカになってこじれる位
 何でも無いんですけどね…」
女 「そうなんですか?」
男 「モノ作ってれば主張がぶつかって喧嘩になるとか、よくありますよ
 でも、お互いがお互いの立場からモノを言ってる、ってお互いが
 解ってるんで、その話が終われば結構サッパリ出来るんです
 新人の内は、難しいかも知れないですけど」
女 「なんかいいですね、そういうの」
男 「そうですか? それなりのストレスにはなりますよ」
女 「私のみたいな職場って、結構淡々としてますから ちょっと妬ける
 んですよ、そういうの 男も女も関係無くぶつかるの、とか」
男 「うーん、まったり和やかが好きな人には、お勧め出来ないです
 女さん所では、恋愛沙汰とかその手の話とか出ないんですか?」
女 「んー、結構皆、それぞれで動き回りますからね じっくり話する
 機会ってあまり無いんです」
男 「ん、でも働いてる姿を見てて惚れる、とかありそうじゃないですか」
女 「あ、そうか、あるかも知れないですね 私が話さないとダメな
 タイプなんで、あまり思いつかなかったです」
395: 以下、
男 「一目惚れとかって、無いんですか?」
女 「…あまり解らないですね〜」
男 「そんなもんですか」
女 「そもそも自分の恋愛話って、苦手なんです 上手く行きませんって」
男 「それ、前も言ってましたよね『上手く行かない』って なんで?」
女 「…」
男 「…」
女 「単にやなやつなんですよ、私 すごい狭量なんです 男さんに本を
 片付けてもらった時に、嫌な態度取っちゃったじゃないですか?」
男 「あんなのは別に…」
女 「あんなのじゃないんです すごいセーブしてあれなんです 大体
 自分のものの事ばっかり考えちゃうんです 何かキッカケがあれば
 いくらでも嫌な部分が出ますよ」
男 「…そんな卑屈にならなくてもいいんじゃないですか?」
女 「誇張じゃないんです 実際、それで失敗してたりするんですよ
 こんな嫌な話になっちゃって、ごめんなさい」
男 (参ったな)
396: 以下、
男 「女さんはあれだね、俺を見る目の無い奴だと言ってますね」
女 「え、いや、そんな」
男 「前の時、女さん、俺が後輩女に好きとか言ったって思ったじゃ
 ないですか あれは女さんに言ったんです」
女 「…」
男 「言った、ていうか思わず口から出ちゃったんですが」
女 「…さっきも」
男 「はい?」
女 「言ったじゃないですか、上手く行かない、って 無理なんですよ、私」
男 「狭量で嫌な奴だから、て話?」
女 「…そうですよ」
男 「全然そうは見えないけどな 結構楽しく話せたり、色々付き合って
 くれたりしてたじゃないですか 少なくとも、女さんが自分で言う程じゃ
 無いでしょう」
女 「それは、まだそこまでだからです 引っ越して来たら、お隣りがちょっと
 感じの良い人だったんで、少しはしゃいじゃっただけですよ」
398: 以下、
男 「…」
女 「…」
男 「…そもそも、自分で自分の性格がどうこう、とかその手の
 自意識が信用出来る、って本気で思ってるんですか?
 自分で思ってるほど良い奴じゃない、なんてのはよくある話じゃ
 ないですか 悪い方に考えたからって、そんなのは同じだよ」
女 「じゃあ、どうだって言うんですか! 私が私のことについて言うのが
 みんな間違いだ、て言うんなら、私は何なんですか!?」
男 「そうじゃなくて! その人が『周りの人にとってどうなのか』は、
 本人じゃなくて周りの人が決めるんです この場合は、俺です」
女 「でもどうせ、後で私の言った通りだったって解る事になるんですよ!」
男 「そん時は、ほれ見たことか、とでも何とでも言えばいい!
 そんな、来てもいない事の話なんか、どうでもいいんですよ」
女 「ああもう」
男 「今まで結構楽しくやって来れたじゃないですか
 それが続けばいいだけなんですよ 何でこうなるんです?」
女 「…」
男 「泣かないで下さいよ」
女 「ご、ごめんなさい…」
399: 以下、
男 「何で、そんなに悲観的なんですか?」
女 「話したくないです」
男 「…じゃあ、それはいいです これからもずっとそのままなんですか?」
女 「…」
男 「…」
女 「今もう、こんなになっちゃってるのに それでも私とその、
 つ、付き合ったりしたいって、思うんですか?」
男 「今はそういう話はひとまずどうでもいいんです
 女さんの考えに納得がいかないんですよ」
女 「…そんな、勝手な話」
男 「いや、それはちょっとどうなの、て思ったら、それくらいは言わせて
 貰いますよ 友達でしょ、少なくとも」
女 「そんな意見、要りません」
男 「そうやってハネられ続けて、俺がもう女さんには話しても意味ねーな、
 て思っちゃったら俺も話し掛けなくなりますよ その前に、女さんが
 俺の事をウザがって会ってくれなくなるかも知れないけど
 どっちになっても、その時点で友達ですらなくなっちゃいますよね」
女 「…」
400: 以下、
男 「泣かせたかった訳じゃないんです ごめんなさい」
女 「…」フルフル
男 「女さんが、何をどうして嫌がってるのかわからないんです」
女 「…」
男 「今日はもういいか こんな話ばっかしてたら、疲れちゃいますよね」
女 「…ごめんなさい…」
男 「いや、何か、俺もムキになって突っ込み過ぎました」
女 「…」
 スタスタ
402: 以下、
■男の部屋
男 (そのままなんとなく話がフェードアウトして、家に着いちゃったが)
男 (『後輩女さんが好き』は間違いだってのは言えたけど、
 あんな展開になっちまうとは…)
 女『そもそも自分の恋愛話って、苦手なんです 上手く行きませんって』
 女『そんな意見、要りません』
男 (流れ上出てきて言葉とは言え、シャットアウトかな)
男 (くそ)
男 (…)
男 (ああ、やっぱり俺は女さんが好きだな 面倒な人だって解っても)
男 (メールが来たり姿が目に入ったりするとじんわり来る 顔が緩む
 幸せだ それで身の回りに色々な事が許せる)
男 (自覚した所で、殊更どうなるって話でもないが)
男 (…なら、どうしよう どうしたもんかね)
403: 以下、
■翌週 火曜日(昼過ぎ)/薫葉バニラタワー前 あひる広場
あひる「グワッ グワッ」
男 「俺の安らぎはお前らだけだよ、あひる…」
あひる「グワ〜」
後輩女「何やってるんですか、先輩」
男 「後輩女さんか… お疲れさん」
後輩女「お疲れ様です 同僚Aさんが探してましたよ 先輩の事」
男 「ああ、了解 ありがとね サボりすぎた、戻ろう」
後輩女「はい」
407: 以下、
■エレベーターホール
男 「調子どう?」
後輩女「調子ですか? ん〜、普通ですかね」
男 「普通なら良いか」
後輩女「ひょとして、その、同僚Bさんの事ですか?」
男 「まあ、そういうのも込み込みで」
後輩女「仕事には響かせません 先輩、そういうの許さないですよね」
男 「俺はそんな事人に言えねーよ〜 見てるだろ〜色々」
後輩女「…でも、最後にはなんとかしますよね」
男 「なんとかするよ」
後輩女「ですよね」
男 「なんか、俺が励まされてるみたいだな?」
後輩女「そうですか?」
男 「ありがとね」
後輩女「はい」
410: 以下、
■エレベーター内
後輩女「先輩…あの」
男 「何?」
後輩女「私、同僚Bさんに、言ってみようと思うんです」
男 「…好きだとか、そういう話?」
後輩女「はい」
男 「付き合ってくれとか?」
後輩女「はい」
男 「自分が、この話でどれくらい調子崩したかは自覚してるよね」
後輩女「はい」
男 「相手の調子も崩すかも知れない、てのも考えた?」
後輩女「はい」
男 「俺がやめろって言ったらやめる?」
後輩女「やめます そう思って先輩に聞きました」
男 「そういうの、人に投げるなよ」
412: 以下、
後輩女「…」
男 「んー、まあ、好きにすると良いよ」
後輩女「はい、ありが…いえ、はい」
男 「あ、ひとつ」
後輩女「何ですか?」
男 「この話がキッカケで、最後に仕事辞めちゃったりとか、
 そういうのは無しでね」
後輩女「辞めません」
男 「そこは頼むよ」
後輩女「…はい」
男 「でも、言っちゃうからには、いい結果を願ってるよ」
後輩女「はい …ありがとうございます」
 チーン ジュウサンカイデス
男 「よし仕事だ ちょっと先1週間位を睨んでの
 軽い作戦会議やっとこうか」 
後輩女「了解です」
414: 以下、
■昼過ぎ/ソマリスタジオ第2開発室
上司 「お前ら注目ー ちょっと聞いてくれ」
同僚A「今忙しい 仕事で」
上司 「うるせえ聞け …いきなりですまんけど、今日全社ミーティングが
 あります 15時に大会議室 社員は全員参加必須で よろしくー」
同僚B「どういった内容で?」
上司 「セクションリーダー連中は知ってると思うけど、新規開発ラインの
 立ち上げとそれに伴う人員移動について ミーティングっていうか、
 説明会だな 遅れんなよ 遅れたらクマだからな」
同僚A「ははは、ワシが遅れるなんてそんなワハハ」
後輩女「…新規ライン そんな話があったんですか」
男 「うん、前々から アレコレ調整してたんだよ」
後輩女「まさか、先輩が移動になったりはしませんよね」
男 「んー、まーそこらへんも発表される筈だから、取り敢えず聞いてみてよ」
416: 以下、
■夕方/薫葉バニラタワー前 あひる広場
後輩女「なんですか!あの話って!」
男 「何怒ってんの?」
後輩女「何で私がいきなり新規ラインのセクションリーダーなんですか」
男 「ああ、それは俺が推したから」
後輩女「な!何でですか!?」
男 「何でって、出来ると思ったからだよそりゃ リーダーつったって、単に
 ラインの規模的にUI担当者が1人ってだけだよ FX担当は別に就くし
 だから便宜上リーダーとは言うけど、部下が付く訳じゃない」
後輩女「私、無理ですよ1人なんて まだ全然素人じゃないですか 
 わかんない事ばっかりです
 知識だって男先輩と比べて全然足りないじゃないですか
男 「まあ、そうだけど」
後輩女「解ってるなら、何で出来るとか言うんですか、そんな適当」
男 「適当じゃねーって!確かに経験も知識技術もこれからだけどさ
 足りない時にどう出るか、て所では結構信用出来ると思うよ
 それに、大枠はこのラインで俺が出来るだけ仕込むし」
後輩女「…」
418: 以下、
男 「大丈夫だって 俺がセクション持たされた時なんてもっとヘロヘロ
 だったって ウチ位の規模の開発だったら、よくある話だよ」
後輩女「先輩がヘロヘロなんて、想像付きません」
男 「そりゃまあ、昔の俺は見てないからね
 イヤ俺は今でもヘロヘロだろ 見ただろいろいろ」
後輩女「そういう細かい話じゃないんです」
男 (細かいって…)
 「でもね、俺はどっちかってーと小器用さで何とかするタイプだけど、
 後輩女さんにはデザイナとしての基礎からの底力がある、と思う」
後輩女「そうなんですか?」
男 「うん、俺は絵の勉強をまともにやった事って無いからね
 もちろん後輩に遅れを取るつもりなんか無いけど、追いつかれ
 そうになるのなんてそんな先の話じゃないと思うんだよな」
後輩女「先の話なんて… 新しいラインの立ち上げって
 そんなに先じゃないんじゃないですか?
男 「俺らが今やってるこれを上げて、ちょっと休んで、その後だね」
後輩女「そんなの… 先輩、さっきから無関係者みたいな顔して
 適当な事ばっかり」
420: 以下、
男 「ちょっと、落ち着いて まあ聞いてよ」
後輩女「…」
男 「ちょっと言い方を変えるよ 新規ラインの立ち上げは、
 色んな意味で今の俺達にとって必須だ ここはOK?」
後輩女「…ハイ」
男 「社内を見わたせば解ると思うけど、俺らのFX/UI班は人が少ない
 それになり手も少ない でも俺らは現状でやりくりする意外無い」
後輩女「だからって…」
男 「まぁまぁ、俺だって後輩女さんを地獄へ落とそうとしてる訳じゃない
 さっきも言ったけど、出来ると踏んでの話だよ」
後輩女「やった事も無いのに、出来るなんて」
男 「そこだ 出来るって言ったのは、後輩女さんが1人で充分動ける
 と思ってるから、という訳じゃない」
後輩女「どういう事ですか?」
男 「新ラインの編成表見たけど、いいメンバー揃ってるよ 技術的にも
 そうだけど、セクションに関係無く、へぼいと思ったら口を出さずには
 いられない人らが揃ってる 加えて、UI担当のPGはベテランだ」
後輩女「…」
421: 以下、
男 「きっと、後輩女さんに何かヌケがあったら、超ストレートに突っ込んで
 くれるよ そんで、その上でなら、後輩女さんは出来ると思ってる
 それは今回の仕事で見た」
後輩女「…」
男 「今のラインは作業に関してはクールな人が多いから、
 全然雰囲気変わると思うけどね まぁ慣れるでしょそこは
 それに、あんまし変なクセ付けない内に、色んなラインで色んな
 動き方を見た方がいい 絶対糧になるって」
後輩女「…」
男 「小規模ラインの割りに、比較的スケジュールに余裕があるから、
 後輩女さんの飛躍的成長の良いチャンスなんだ …まだ納得行かない?」
後輩女「先輩に」
男 「ん」
後輩女「男先輩に、色々聞きに来てもいいですよね」
男 「技術的な助言はする でも、デザインや方向性の問題なら、
 新しいラインのメンバーにまず意見を仰ぐべきだよ
 あと、自分が意見を出すのもね」
422: 以下、
後輩女「先輩、冷たいですよ」
男 「仕事だからなー」
後輩女「心細いんですけど」
男 「会社を移る時よりは心細くないよ」
後輩女「先輩って、どうして前の会社辞めたんですか?」
男 「そこはまあ、いつか機会があったら話すよ」
後輩女「けちですね」
男 「新規ラインで一本上げたら話す」
後輩女「それは大変ですよ」
男 「うん、それは間違い無い まあ、酒の席でなら愚痴くらいは聞くよ
 いつかまた行こう 先輩だから奢るし」
後輩女「…はい」
424: 以下、
男 「そんじゃ、頑張んな 取り敢えずは今のタイトルだね」
後輩女「はい それじゃ、今日はお先に失礼します」
男 「はいおつかれー」
 ガチャッ バタン
男 (ふ〜)
男 (ホレ、見なって、女さん こんなんじゃ会社の女性と
 イイ雰囲気なんて無理だって)
男 (ああ〜いろいろ疲れた 俺も帰ろう)
425: 以下、
■翌週 水曜日(夜)/彩川河川敷
男 (ここ暫くは平和だな 仕事も進んでるし、後輩女さんの動きも良い
 女さんとも会えてない)
男 (そういや、1人で音楽聴きながらここ歩くのも、久しぶりだなぁ)
男 (月がでっけーな、今日は)
 パラララッパッパッパー
男 (メールか… 何となく開き難いカンジが)
男 (暗い道で、着信ランプだけが明るい…妙な感覚だな)パカッ
男 (後輩女さんか… 珍しいな)ピッ
 後輩女メ『ふられちまいました』
男 「そうか…」
男 (どう返信したもんかな)
男 (…)カチカチカチ
 男メ『元気出せ』(送信)
427: 以下、
 パラララッパッパッパー
男 (早い返信だな)パカッ
 女メ『はい 色々ありがとうございます』
男 「…」
男 (返信は…)
男 (ラインへの悪影響が無い様に配慮しとくべきだけど
 …今はどうでもいいか)
男 (もっと励ませる様な、何か言葉があれば良いんだが)
男 (…そんな都合の良い言葉は俺には捻り出せない そっとしとこう)
 パラララッパッパッパー
男 (あれ、またメール まだなんかあるんか)パカッ
男 「!」 ピタリ
男 「女さん」
428: 以下、
 女メ『男さんから頼まれてた『理論社名作の愛蔵版 消えた2ページ』
 が見付かって、今日届きました
 直接手渡したいんですが、今どこに居ますか?』
男 「そういや、そんなのもあったな」
男 「…」カチカチカチ
 男メ『こんばんは 今会社からの帰りで、河川敷なんです
  後で俺の方から取りに行きますよ』(送信…)
 パラララッパッパッパー
 女メ『ちょっと歩きたいし、話もしたいのでそっちに行きます
  今どこらへんですか?』
 男メ『道のり半分て所かな?』(送信、と)
 パラララッパッパッパー
 女メ『わかりました、歩いてて下さい』
男 「…ふーっ 暗い道、1人で平気かな」
 スタスタ
430: 以下、
 パラララッパッパッパー
男 (着信音変えるかな そんなにレベルアップばっかしても困る)パカッ
 女メ『河川敷に出ました』
男 (ん? …あれか 携帯の光が見える)
男 (暗い土手道で、向こうと俺の携帯だけが明るいのは、
 なんか妙な感覚だ)
男 (近付いてくる …向こうばっか歩かせるのも何だな 俺も行くか)
 スタスタ
男 「こんばんは」
女 「こんばんは」
男 「2週間ぶり位ですか?」
女 「そうですね、確か」
431: 以下、
女 「あ、これ、先生から届きました」ゴソゴソ
男 「『消えた2ページ』… 懐かしいな 手に入るもんですね〜」
女 「結局、先生の蔵書の中にあったそうですよ」
男 「ありがとう 怖い話なんですよね、これ 常に不安感があって」
女 「そうですね 不気味な演出抜きにしても、
 児童書の域を越えて厳しい話だと思います
 だから、男さんもずっと忘れなかったんじゃないですか?」
男 「そうか〜 読み返すのが楽しみだな」
女 「私も、自分のを読み返してみたんですよ
 今再読出来て良かったと思います いい機会でした ありがとう」
男 「そんな あ、お金は?」
女 「私、先生から一山いくらで買ったから… そうですね、500円で良いです」
男 「え、そんなんでいいんですか?」
女 「一山の金額からすると、大体そんな感じです」
男 「わかりました」 ゴソゴソ 「はい」
女 「はい、確かに」
433: 以下、
男 「…」
女 「…」
男 「女さん、」
女 「あの、この前は」
男 「ん」
女 「この間は、ごめんなさい」
男 「ん〜」
女 「男さん、全然変な事言ってなかった なのに私、おかしな事
 ばっかり言って 謝ったそばからまた崩れて酷いこと言って
 また謝って、馬鹿みたい」
男 「んー、いや、俺もズカズカ踏み込んで行くのがクセなんですよ
 こないだのもそうです 気を悪くさせちゃって、ごめん」
女 「ううん、 どう考えても、おかしいのは私の方
 今日はそれを謝りたくって もう呆れてるかも知れないけど」
男 「うん、はい 了解です 前の時の事は、もういいですよ」
女 「…」
436: 以下、
諸々に感謝
男 「それで…」
女 「はい?」
男 「改めて話しても良いですか? この前半端だったいろいろ」
女 「え?」
男 「いつもは、女さんが俺の愚痴を聞いてくれてたじゃないですか 
 女さんも少しぶっちゃけちゃいましょうよ 前に言ってたじゃないですか
 『話すだけで楽になったりするんです』とか」
女 「…」
男 「どうです? こないだは話してくれませんでしたけど」
女 「そうですね… それじゃあ…」
437: 以下、
女 「私の部屋、見ましたよね 普通はあそこにあるあれ、全部読んだり
 する時間で外に行ったり友達と会ったりしてるんですよ」
男 「んー、どうですかね」
女 「子供の頃からそうだったんです それで、人と話すのが物凄く苦手
 上手く行かない様な気がして、怖いんです」
男 「そうは見えなかったけどなぁ」
女 「前にも言ったけど、新しい環境で舞い上がってたんです それで、
 普段なら絶対自分からは声掛けない様な状況で、どんどん
 話掛けちゃったりして」
男 「うーん…」
女 「男さんと楽しく出来て私が一番驚いてるんです こんな風で
 いいのかな、って まぐれなんです だからいつも不安でした」
男 「んー、 職場では、どうなんです?
 話せないじゃ済まない事って多くないですか?」
女 「やる事しっかり覚えてちゃんとこなしてれば、結構どうにかなって
 しまうんです 必要最低限口に出来れば、支障は無いですし」
438: 以下、
男 「あの古本の先生とは? あれ見て、女さんて交友関係広いのかなぁ、
 とか思ってたんですよ」
女 「先生は、私が大学でずっと1人だった時に、声を掛けて来て
 下さったんです 図書館で良く見かけてた、ていうのもあって」
男 「そうか〜」
女 「その時も随分迷惑かけて…
 でも先生は何故か、いつも話し掛けてくれたんですよ」
男 「ふーん」
女 「元々、1人が好きなんです だからすぐに引っ込んじゃうんですよ」
男 「ああ、俺もだ」
女 「え、ウソ」
男 「本当ですよ ひとりメシとか昔から平気なんです
 フラフラ歩いたりとかも 今日なんかもそうですね」
女 「意外ですよ」
男 「全然そんな事は無いんだけどな バイク乗るのって、基本1人だし」
女 「あー…、そうですね」
440: 以下、
男 「あら、もう家の近所か」
女 「え、あ、そうですね …どうします?」
男 「うーん… 今日はちょっとこの先まで行ってみません?
 いい場所があるんです」
女 「いいですよ ついて行きます」
男 「こっちです あそこの階段」
女 「そこ、登るんですか?」
男 「ちょっと暗いから気を付けて…」
441: 以下、
■彩川伊駒水門塔
女 「こんな所、登れる様になってるんですね」
男 「いいでしょー ホレあっち、薫葉のビル街まで見渡せるんですよ
 あそこ、拾九堂の入ってるビルですよ」
女 「本当… 結構遠いんですね」
男 「そっすねー、うーーーーん」ノビー
女 「気持ちいい場所ですね…」
男 「聞いてもいいですか?」
女 「あ、はい どうぞ…」
男 「何で『絶対に上手く行く筈無い』みたいに言うんですか?
 それまで、凄く気さくに接してくれてたのがそこで急変した様に見えて
 ちょっと訳わかんなかったんですよ」
女 「…最初、楽しく出来てたのは、さっきも言ったけど、舞い上がって
 はしゃいでたのと、たまたままぐれで上手く話せてたからです
 まぐれっていうか、…多分、男さんのおかげです」
男 「そうかなあ」
442: 以下、
女 「部屋を片付けて貰いながら色々話した時、
 私ちょっとおかしかったですよね」
男 「ん〜、まあ ちょっと神経質なカンジだったか?」
女 「本来、ああいう人間なんです それが、男さんに、その、あれですよ
 す、好きだとか言われて、物凄く怖くなったんです」
男 「怖く? 何でですか?」
女 「せっかく、せっかく友達になれそうなのに 今、思いも寄らず楽しく
 出来てるのに こんなに幸せなのに、結局駄目になっちゃうなんて
 耐えられない」
男 「そこ! 何で駄目になるのが決定済みになってるんです?」
女 「…相手にするのが身近なら身近な程、相手の細かい所が
 気になったり、相手に何かを求める度合いが高くなりますよね?」
男 「まあ…そうですね」
女 「求めるのが私からにしろ相手からにしろ、そんなのに私が
 耐えられる筈無いです 前だってあんな事言っちゃって…
 …今だってギリギリなんです」
男 「それって前に言った、狭量で嫌な性格だから、て話?」
女 「そうです…」
男 「うーん…」
444: 以下、
女 「…」
男 「どうも、女さんが言うほど嫌な奴には思えないんだよな
 自信だけがとにかく無い、て感じで」
女 「それは、まだ見てない部分が多いからですよ
 他人の目が気になるクセに、他人を嫌いになるのはすぐなんです」
男 「そんなの、最初から全部見れる訳無いですよ それにそれこそ
 お互い様って奴で、俺にだって当然ながら嫌な部分はあります」
女 「…前に…」
男 「前に?」
女 「…前に一度、男の人と失敗してるんです
 酷い終わり方だったんです…」
男 「ああ…」
女 「その時だって、私が悪かったって、自分で思えるんです だから…」
男 「…」
女 「…」
445: 以下、
男 「『失敗したのを責めすぎたら駄目ですよ』…前に女さんが
 言ったんです 実際、そう思んですよ
 そんな事してたら、出来る事がどんどん減るだけです」
女 「私のそういう言葉なんて、みんなどこかの本に書いてある事を
 言っただけなんです 自分で実践した事なんか、無いんですよ
 そういう言葉を喋る、本の登場人物に憧れてるだけなんです」
男 「女さんの場合、引用元はハンパ無く多そうだよなぁ」
女 「その上で妄想ばっかりなんです 私がこうならいいのに、とか
 そうやって思って真似するだけだから、すぐに崩れるんです」
男 「妄想なら負けん 妄想の具現化でメシを食ってる我々ですよ」
女 「…ふふっ、そうですね…」
446: 以下、
女 「…」
男 (こんなにお互い食い違っていたとは)
男 (始めは、人当たりの良い明るい人が越して来た、と思ってた)
男 (俺みたいな仕事してるだけの冴えないヤツがこんな人と仲良くなれて、とか)
男 (…まさか、女さんがこんなだったとはなぁ)
男 (俺の方が人馴れして無いつもりだったんだが…
 でも、馴染みの思考って気がするのは、昔は俺もそうだったからか)
男 (学生の頃とか、暗いガキだったなー 女さん程に没頭する物を作って
 自分を深める事も、その時は出来なかった
 今の仕事に向かい始めて、いつの間にかマシになった感じか
男 (でもなぁ、女さん 俺だって、この状況で一瞬上から目線で立場の
 優位性を意識してしまう位には嫌な奴なんです どうです、この腐れ具合)
男 (それに、俺の他人が苦手な性格だって、まだ全然残ったままだってのにな
 でも、だったらそんなのは)
男 「…どうとでもなるっつーの」
女 「え?」
男 「前も言ったけど、これまでの事は置いといて、
 これから先もずっとそのままの超ネガティブ思考でいいんですか?」
449: 以下、
女 「…」
男 「…」
女 「…よくないですよ」
男 「じゃあ、適当に変えて行きましょうよ 俺も手伝いますから
 女さんが、俺を嫌いじゃなければ」
女 「…」
男 「…」
女 「ふーっ… …もう、私ばっかり、お世話になりっぱなしじゃないですか
 嫌なんです、そういうのが」
男 「そんな事無いのに それに、いくらでも返してもらう機会はありますよ」
女 「そう、なんですかね…」
男 「何だかんだと、すぐ愚痴っぽくなりますからね、俺は」
女 「…、そうですね ふふふ」
男 「ははっ」
女 「…じゃあ男さんの番 何か愚痴ってみて下さい
 最近は、仕事で何か無かったんですか?」
男 「ああ〜、最近て言ったらですね…」
451: 以下、
女 「…じゃあ、後輩さんとは仕事場が離れちゃうんですか?」
男 「そですね ちょっと先ですけど それも隣の部屋ってだけですけど、
 基本部屋に篭る仕事なんであまり顔は合わせなくなるでしょうね」
女 「愛弟子と離れちゃうのって、寂しくないですか?」
男 「割とよくある話ですよ」
女 「あの子かわいいじゃないですか 残念だったんじゃないですか?」
男 「そういうのにはなり得ない、って、今日再確認しましたよ」
女 「なんとなく想像つく気がします」
男 「そうですか? 俺だって、下心が出る時だってありますよ」
女 「下心が全然無い人なんて、きっといませんよ 私だってそうです」
454: 以下、
女 「だから男さんだって普通にそうだろうって思うし、後こんな事言うのも
 何ですけど、私も途中までは嫌われてはいないだろうな、
 とは思えてたんですけど」
男 「うーん」
女 「でも男さん、下心がヘタッピなんですよ」
男 「はい?」
女 「男さん、もっとイイ事言えそうな時でも、そうならないじゃないですか
 私にもそんな感じがするんですけど、どうやってもつい素で返しちゃう、
 みたいな 後輩さんにだって、そうだったんじゃないですか?」
男 「ああ、うん、そうかもなぁ」
女 「そこがすごくかわいいんですよ、男さん 大好きですよ」
458: 以下、
男 (ドキリ)
女 「…お、男さん?」
男 「…」
女 「ああー、黙らないで下さいよ〜!」
男 「ビックリしてるんです」
女 「そんなに意外ですか?」
男 「女さん、ちゃんとした返答引っ張ってたくせに唐突だから」
女 「どうやって言おうか考えちゃうんです 本当に言えるなんて
 思ってたなかったくせに 100通りも考えましたよ」
男 「そんなに」
女 「でも、本人目の前にすると全部忘れちゃって、
 流れに任せてその場の勢いで言っちゃうんです」
男 「…嬉しいですよ、凄く」
女 「解ります 男さん、みんな顔に出てるんです
 それで、私もこんなに嬉しくなっちゃうんですよ」
461: 以下、
男 「そういうグっと来る台詞も、どっかの本の奴なんですか?」
女 「…うーん、思い出せないですね」
男 「ははは、本当に本のセリフなんですかね?」
女 「もうわかりません フフフ」
男 「…」
女 「…」
男 「そろそろ、帰りましょうか」
女 「そうですね、結構時間経ちましたね」
463: 以下、
■西伊駒町/男のマンションの近く
女 「あの、男さん、私の何を見て、良いとか思えたんですか?」
男 「隣にかわいい女性が引っ越して来て嬉しいなぁ、とか、
 そんで仲良くなれたらラッキーだなぁ、とか」
女 「え?」
男 「そんなのが最初なんだけど、まあ、話してる内にですよ 楽しいんです」
女 「いちいち正直過ぎじゃないですか? きっかけとか、そういうの」
男 「改めて聞かれると照れるんですよ 勘弁して下さい
 女さん、結構セリフセリフした事喋るの、平気ですよね」
女 「そうですか? やっぱり変ですかね」
男 「きっかけかー… 会ってすぐの頃、女さんがコンビニ帰りの時に
 バッタリ会った事があったじゃないですか?」
女 「ありましたね」
男 「あの時、俺が郵便受けでガサガサやってるのを女さんが待っててくれて
 ああ、自然と待っててくれるんだな、て思った辺りからなんとなく
 とかかなぁ」
女 「それって、全然普通じゃないですか?」
男 「…そうなんですけど、そんなもんですよ たぶん」
465: 以下、
男 「女さんこそ、どうなんです、そこらへん」
女 「んー、前に付き合ってる相手がいるいないみたいな話をした時に、私
 『私なんか、上手くいきませんよ』みたいな話したじゃないですか」
男 「うん」
女 「その時、男さんちょっとムっとしてたじゃないですか?」
男 「そうでしたっけ?」
女 「そうでしたよ そういう所で怒ってくれる人だから、気になったんです
 でもその後、あんなに突っ込んだ話されるとは思いませんでした」
男 「そんだけ? そんなもんですか?」
女 「そんなもんですよ …やっぱり、話してて幸せなんです 同じですよ」
男 「…うん、そうだなあ」
女 「…あ、家についちゃいましたね」
男 「ですね…」
466: 以下、
■6月初旬 月曜日(早朝)/ソマリスタジオ第2開発室
男 「後輩女さん、相変わらず朝早いな」
後輩女「先輩こそ 私より全然家遠いのに」
男 「俺は元々、早出勤早退勤派なの 朝は静かでいいんだ」
後輩女「…先輩、お隣の方とは最近どうですか?」
男 「あー、うん、あー、付き合う事になった」
後輩女「ええ?」
男 「…」
後輩女「…いいなあー羨ましい」
男 「うん、まあ、当面は、仕事しとこうよ」
後輩女「うーん、そうですね」
男 (なんかサッパリしてるな 強がりか? 次があったら、上手くいって
 欲しいんだがな いい奴なんだし、こいつ)
男 (女さんが居なかったら、好きになってたんだろうか? わからんな)
男 (…どっちにしろ、目は無いか 怖がられてるからなぁ)
468: 以下、
■昼過ぎ
上司 「作業ストーップ、お前ら聞けー おい、A!黙れ、ちゃんと聞けよ」
同僚A「なんも言っとらんよ〜」
上司 「はい、えー、連日のパブリッシャとのイヤになる程の会議の末、秋の
 ゲームコンベンションに向けての出展内容が概ね決まってきました」
同僚B「そう言えば、もうそんな時期ですか」
上司 「我々ラインのタイトルも、未発表タイトルとして出展されます
 プレイアブル出展だ 超忙しくなるぞ」
同僚A「嫌やなぁ」
上司 「15時半からソレ関連のラインミーティングやるんで
 リーダー連中は第二会議室に集合 以上、作業に戻ってよし」
同僚A「う〜い」
後輩女「…Aさんが嫌がるなんて、そんなに大変なんですか?」
男 「そうだな〜 何故かショウ版って、期間は短いんだけど瞬間最大の
 ツラさはマスターアップ前を上回る、てパターンが多かったな」
後輩女「ちょっとまだ想像つきません」
473: 以下、
男 「君んところは大変だぞ プレイアブルの為には、メニューの頭から
 数画面は外せない て事は、全体的なデザインイメージはそこまでに
 完全に固めてなくちゃダメで、それ以降後戻りは出来ない
 もちろんデータレベルでもしっかり作り上げなくちゃならん」
後輩女「ああ〜〜〜」
男 「ははは、苦しめ」
後輩女「データ関連は色々教えてくれるんですよね?」
男 「そうだったっけ?」
後輩女「先輩!!」
男 「ははは、まずはデザインだね ネタも纏まって来たし、
 なんとかなるんじゃない?」
後輩女「他人事…」
男 「そんな事無いって この開発の終わりまでに、後輩女さんを
 ひとかどの開発者にしないといけないんだし」
後輩女「うううー」
男 「まあ、がんばろう」
後輩女「…はい、よろしくお願いします これからも」
475: 以下、
■夜/男の部屋
男 「…そういった訳で、これからどんどん忙しくなっちまうんですよ」
女 「大変ですね〜 そんなに厳しいんですか?」
男 「段々帰りが遅くなってきて、毎日終電帰りになって、平行して
 休日出勤が増えてきます それが暫く続くんです 泊まりもありです」
女 「あらら」
男 「そういう生活してると、色々な事が億劫になっちゃって そうやって
 他人を蔑ろにしている内に、思わず振られてしまったりする訳です」
女 「そういう事があったんですか?」
男 「うーん、ええまあ… 以前に」
476: 以下、
女 「ん〜、でも」
男 「ん」
女 「それは多分、大丈夫ですよ」
男 「そうですか?」
女 「だって私達、隣同士じゃないですか いつでも会えるんです」
男 「…そうですね」
女 「そうですよ」
 『ただ笑って そっと寄り添って そう 誰もがわかり合う 前提として』
おわり
477: 以下、

478: 以下、
>>1
乙!
481: 以下、
乙!面白かった!
さて、今日もがんばるかー
484: 以下、
>>1乙!超乙!
睡眠よりも有意義な時間だったぜ!
489: 以下、

本当に物語みたいな終わりかただ
490: 以下、
乙ー!こういうスレに最後まで付き合ったの初めてだ。
面白かったよさっぱり読めた。
さて、バリバリベンキョウだ!
504: 以下、
乙!楽しかった!!
511: 以下、
読み返してて思ったけど
古と孫って、「年齢が倍」の祖と女なんだな
522: 以下、
面白かったよ、乙
525: 劇団ふたなり 2009/07/05(日) 08:47:19.88 ID:Tx7qtDHT0
かなり読みやすかったです
>>1さん乙でした
527: 以下、
素晴らしかったぜ
久しぶりにいい話だった
570: 以下、
いちおつ
素晴らしい時間をありがとう
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- コメント( 37 )
コメント一覧

- 1.ああ
- 2009年07月13日 00:35
- いいなぁこういうの…
最近エロに走らないできっちり締めてくれるSSが多くて嬉しい
別にエロを全面否定するわけじゃないけどなんか綺麗な気がする
- 2.
- 2009年07月13日 00:48
- 「年齢が倍?」と同じ人の作かな
ちょっとしたキャプションと自然な会話文から情景が浮かぶ辺り、良いなぁ
恋愛物意外だと、どんなの書くんだろう、この人
- 3.☆
- 2009年07月14日 22:07
- 面白い、一気に読めました。
- 4.
- 2009年07月15日 22:00
- ※2
たぶんそうでしょう
ゲーマーなおじいさんで孫と同居とか
- 5.
- 2009年07月18日 01:52
- おもろい! 内容がつまってる!
これと「年齢が倍」以外に、何か書いてないのかな
あれば見てみたい
- 6.
- 2009年08月10日 21:22
- これはもうレベルがちがうな
- 7.
- 2009年08月11日 00:38
- これはもうレベルが違うな(キリッ だっておwwwwwwww
- 8.このSSの感想をお願いします!!
- 2009年09月11日 19:20
- なるほど
『勇者「目的は、【魔王】討伐だよ」』とはノリは違うけど
すごく良かったよ
- 9.
- 2009年10月28日 22:47
- 淡々とした感じがいいな
フラグに頼りすぎてないのもいい、乙!
- 10.暇つぶしにきた
- 2009年11月28日 22:48
- パンツ履くの忘れるほど熱中しちまったぜ
11.暇つぶしにきた

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